以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図面において同様な構成および機能を有する部分については同一符号が付されている。また、図面は模式的に示されたものであり、装置等は簡略化して図示されている。また、各図における各種構造のサイズおよび位置関係等は適宜変更され得る。また、図1、図2および図4から図18には、シリコンインゴットの製造装置の上方向(図1の図面視上方向)を+Z方向とする右手系のXYZ座標系が付されている。図2、図6から図8および図13から図16では、冷却板123の動きが黒塗りの矢印で示されており、熱の移動が白抜きの矢印で示されており、加熱による熱の付与が斜線のハッチングが付された矢印で示されている。図7および図9では、シリコン融液MS1の液滴が落下する方向が太線の矢印で示されている。図9から図12および図16では、シリコン融液MS1の凝固が進行する様子が太い破線の矢印で示されている。図2、図4から図8、図13から図16においては、図1に示されたヒーター等の外形の一部をあらわす破線が省略されている。
<(1)実施形態1>
<(1−1)シリコンインゴットの製造装置>
図1に示すように、シリコンインゴットを製造する製造装置100は、上部ユニット110、下部ユニット120および制御部130を備えている。
上部ユニット110は、坩堝111、坩堝上部ヒーターH1uおよび側部ヒーターH1sを備えている。下部ユニット120は、鋳型121、鋳型保持部122、冷却板123、回転軸124、鋳型上部ヒーターH2u、下部ヒーターH2lおよび測温部CH1,CH2を備えている。坩堝111および鋳型121の素材は、シリコンの融点以上の温度において、溶融、変形および分解等が生じ難く、さらにシリコンとの反応が生じ難く、不純物が低減されたものであればよい。
坩堝111は、本体部111b、上部開口部111uo、内部空間111iおよび下部開口部111boを備えている。本体部111bは、全体が有底の略円筒形状のものである。なお、坩堝111の素材は、例えば石英硝子等であればよい。坩堝上部ヒーターH1uは、上部開口部111uoの真上において平面視で円環状に配されている。側部ヒーターH1sは、本体部111bを側方から囲むように平面視で円環状に配されている。
ここで、シリコンインゴットの製造時には、坩堝111の内部空間111iに、例えば、上部開口部111uoからシリコンインゴットの原料である固体状態の複数のシリコンの塊(以下、原料シリコン)が充填される。なお、この原料シリコンは粉末状態のものを含んでいてもよい。この内部空間111iに充填された原料シリコンは、坩堝上部ヒーターH1u,H2uおよび側部ヒーターH1sによる加熱によって溶融される。そして、例えば、内部空間111i内の溶融したシリコン(シリコン融液)が、下部開口部111boを介して下部ユニット120の鋳型121に向けて供給される。なお、坩堝111に下部開口部111boが設けられず、坩堝111が傾斜されることで、坩堝111内からシリコン融液が鋳型121に向けて注がれる構成が採用されてもよい。
鋳型121は、全体が有底の筒形状のものである。具体的には、鋳型121は、底部121b、側壁部121s、内部空間121iおよび鋳型121の上部に配されている上部開口部121oを備えている。底部121bおよび上部開口部121oは、例えば略正方形状であればよい。そして、底部121bおよび上部開口部121oの一辺は、例えば、300mm以上で且つ800mm以下程度であればよい。上部開口部121oは、坩堝111から内部空間121i内へのシリコン融液の供給を受け付ける。ここで、側壁部121sおよび底部121bの素材としては、例えば、シリカまたはカーボン等が採用され得る。側壁部121sは、さらに、例えば、炭素繊維強化炭素複合材料等、および断熱材としてのフェルト等と組み合わされることで形成されてもよい。
また、図1に示すように、鋳型上部ヒーターH2uは、鋳型121の上部開口部121oの真上において円環状に配されている。下部ヒーターH2lは、鋳型121の側壁部121sの+Z方向における下部から上部にかけた部分を側方から囲むように円環状に配されている。下部ヒーターH2lは、複数の領域に分割されて、各領域の温度が独立して制御される構成を有していてもよい。
鋳型保持部122は、鋳型121を下方から保持するものであり、鋳型121の下面と密着している。鋳型保持部122の素材は、例えば、グラファイト等の伝熱性の高い材料であればよく、さらに鋳型121の側壁部121sとの間に断熱部(不図示)を備えていてもよい。この場合、側壁部121sよりも底部121bから冷却板123に優先的に熱が伝えられ得る。断熱部の素材は、例えばフェルト等であればよい。
冷却板123は、図2に示すように、回転軸124の回転によって上昇し、鋳型保持部122の下面に接触する。冷却板123としては、例えば、中空の金属板等の内部に水あるいはガスが循環する構造のものであればよい。シリコンインゴットの製造時には、内部空間121iにシリコン融液MS1が充填された状態で、冷却板123が鋳型保持部122の下面に接触することで、シリコン融液MS1から鋳型保持部122を介して冷却板123に熱が伝えられる抜熱が行われる。つまり、シリコン融液MS1が冷却板123によって底部121b側から冷却される。
測温部CH1,CH2は、温度を計測するための部分である。測温部CH1,CH2は、例えば、アルミナ製の細い管で被覆された熱電対等によって温度に係る測定が可能であり、図示を省略する温度検知部において、各測温部CH1,CH2において生じる電圧に応じた温度が検出される。
ここで、測温部CH1は、下部ヒーターH2lの近傍に配されている。測温部CH2は、鋳型121の底部121bの中央部の下面付近に配されている。
制御部130は、製造装置100の全体を制御する部分である。制御部130は、例えば、プロセッサおよび記憶部等を有し、記憶部内に格納されているプログラムが、プロセッサによって実行されることで、各種制御が行われるものであればよい。例えば、制御部130によって、坩堝上部ヒーターH1u,H2u、側部ヒーターH1sおよび下部ヒーターH2lの出力が制御される。なお、制御部130では、例えば、各測温部CH1,CH2によって得られる温度および時間の経過のうちの少なくとも一方に応じて、各ヒーターH1s,H1u,H2l,H2uの出力が制御される。
<(1−2)シリコンインゴットの製造方法>
次に、製造装置100が用いられたシリコンインゴットの製造方法について説明する。図3に示すように、本実施形態に係るシリコンインゴットの製造方法では、第1〜3工程としてのステップSp1〜Sp3が順に行われることで、欠陥が少なく結晶性に優れた領域を有するシリコンインゴットIg1が製造される。
本実施形態では、ステップSp1の第1工程では、ステップSp11,Sp12の2工程が順に行われる。また、ステップSp2の第2工程では、ステップSp21〜Sp24の4工程もしくはステップSp21〜Sp25の5工程が順に行われる。さらに、ステップSp3の第3工程では、ステップSp31〜Sp33の3工程が順に行われる。図4から図16では、各工程における鋳型121の状態、鋳型121および坩堝111の双方の状態、もしくはシリコン融液MS1が凝固する態様が模式的に示されている。
<(1−2−1)第1工程>
ステップSp1では、例えば、図4および図5に示すように、鋳型121および坩堝111の準備が行われる。ここで、第1工程において順に行われるステップSp11,Sp12の2工程について説明する。
ステップSp11では、鋳型121の準備が行われる。例えば、図4に示すように、鋳型121の内壁面に離型材が塗布されることで離型材層Mr1が形成される。この離型材層Mr1の存在によって、シリコン融液MS1が凝固する過程における鋳型121の内壁へのシリコンインゴットIg1の融着が低減される。離型材層Mr1の材質としては、例えば、窒化珪素、炭化珪素および酸化珪素のうちの何れか1つまたは2種類以上が混合されたものが採用され得る。離型材層Mr1は、例えば、窒化珪素、炭化珪素および酸化珪素の1種類以上を含むスラリーが、鋳型121の内壁に塗布もしくはスプレー等によってコーティングされることで形成され得る。ここで、スラリーは、例えば、窒化珪素、炭化珪素および酸化珪素のうちの何れか1つまたは2以上の混合物の粉末が、PVA(ポリビニルアルコール)等の有機バインダと溶剤とを主に含む溶液中に混合されたものが攪拌されることで形成され得る。
ステップSp12では、坩堝111の準備が行われる。例えば、図5に示すように、坩堝111の内部空間111iに原料シリコンPS1が導入される。このとき、例えば、坩堝111内の下部の領域から上部の領域に向けて原料シリコンPS1が充填されればよい。また、例えば、シリコンインゴットにおいてドーパントとなる元素が原料シリコンPS1に含有されていればよい。ここで、原料シリコンPS1は、例えば、シリコンインゴットの原料としてのポリシリコンの塊であればよい。このポリシリコンの塊は、例えば、比較的細かいブロック状のシリコンの塊であればよい。なお、p型のシリコンインゴットが製造される場合、ドーパントとなる元素は、例えば、ホウ素およびガリウム等であればよい。n型のシリコンインゴットが製造される場合、ドーパントとなる元素は、例えば、リン等であればよい。
なお、第2工程が開始される前に、鋳型保持部122の下面に冷却板123が当接していない状態に設定される。
<(1−2−2)第2工程>
ステップSp2では、図6から図8に示すように、鋳型121内に第1シリコン融液であるシリコン融液MS1が供給され、このシリコン融液MS1が鋳型121内の底部121b上において凝固される。これにより、初期凝固層(第1凝固層)PS2が形成される。ここで、第2工程において順に行われるステップSp21〜Sp24の4工程について説明する。
ステップSp21では、鋳型121の予熱が開始される。例えば、図6に示すように、鋳型121の上方および側方に配置された鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lによって、シリコンの融点に近い温度まで鋳型121が予熱されればよい。
ステップSp22では、坩堝111内の原料シリコンPS1に対する加熱が開始される。例えば、図6に示すように、坩堝111の上方および側方に配置された坩堝上部ヒーターH1uおよび側部ヒーターH1sによって加熱される。これにより、原料シリコンPS1が、融点を超える1414℃以上で且つ1550℃以下程度の温度域まで加熱され、徐々に溶融する。このとき、坩堝111内の原料シリコンPS1のうちの下部開口部111boの近傍に配されている部分については、鋳型121の上方に配置された鋳型上部ヒーターH2uによっても加熱される。このため、下部開口部111boの近傍に配されている原料シリコンPS1は、溶融され易い。
なお、ここでは、鋳型121の予熱が開始された後に、坩堝111内の原料シリコンPS1に対する加熱が開始されたが、これに限られない。例えば、鋳型121の予熱と、坩堝111内の原料シリコンPS1に対する加熱とが、同時に開始されてもよいし、坩堝111内の原料シリコンPS1に対する加熱が開始された後に、鋳型121の予熱が開始されてもよい。
ステップSp23では、坩堝111から鋳型121内へシリコン融液MS1が供給される。このとき、シリコン融液MS1が、鋳型121内の底部121b上を覆っている状態が実現されればよい。このような状態は、例えば、坩堝111内の一部の原料シリコンPS1が溶融されて、坩堝111から鋳型121内にシリコン融液MS1が供給されることで実現され得る。ここでは、坩堝111から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給は、連続的なものであってもよいし、断続的なものであってもよい。但し、坩堝111から鋳型121内へシリコン融液MS1が断続的に供給されれば、ステップSp12で坩堝111内に充填された原料シリコンPS1の一部に対応するシリコン融液MS1が、鋳型121の底部121bを覆っている状態が容易に実現され得る。これにより、後述する初期凝固層PS2が容易に形成され得る。
なお、シリコン融液MS1の連続的な供給とは、シリコン融液MS1の供給が殆ど途切れることなく生じることを意味している。また、シリコン融液MS1の断続的な供給とは、不規則なタイミングで、シリコン融液MS1の供給の実施と中断とが生じることを意味している。
シリコン融液MS1の断続的な供給は、例えば、図7に示すように、坩堝111内において原料シリコンPS1が溶融されるたびに、シリコン融液MS1が下部開口部111boを介して鋳型121内に供給されることで実現され得る。ここでは、例えば、坩堝111内において下部開口部111boの近傍に配されている原料シリコンPS1が、坩堝上部ヒーターH1uおよび側部ヒーターH1sに加えて、鋳型121の上方に配されている鋳型上部ヒーターH2uによっても加熱される。これにより、例えば、坩堝111内において下部開口部111boの近傍に配されている原料シリコンPS1が溶融されるたびに、シリコン融液MS1が、下部開口部111boを介して鋳型121内に供給され得る。
ステップSp24では、ステップSp23で鋳型121内に供給されたシリコン融液MS1が凝固されることで、鋳型121内の底部121b上に初期凝固層PS2が形成される。ここでは、図8に示すように、鋳型121内の底部121b上を覆うシリコン融液MS1が急速に凝固することで、鋳型121内の底部121b上を覆うように初期凝固層PS2が形成されればよい。
例えば、図9および図10に示すように、シリコン融液MS1の底部121b側の領域(下部領域)MS1bの凝固が十分進行する前に、シリコン融液MS1の上面を成す上面近傍の領域(上面領域)MS1uが急速に凝固されればよい。そして、その後に、図11および図12に示すように、シリコン融液MS1の下部領域MS1bの凝固が進行することで、初期凝固層PS2が形成されればよい。
初期凝固層PS2は、図12に示すように、下部領域MS1bの凝固によって得られる第1領域Ar1と、上面領域MS1uが凝固することで得られ且つ第1領域Ar1上に配されている第2領域Ar2とを有している。
ここで、第2領域Ar2については、シリコン融液MS1の上面領域MS1uの急速な凝固によって、特に欠陥の密度が上昇する。このため、例えば、第2領域Ar2における欠陥の密度は、第1領域Ar1における欠陥の密度よりも大きくなる。つまり、例えば、第1領域Ar1の断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度(第1密度)よりも、第2領域Ar2の断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度(第2密度)が高くなる。この場合、下部領域MS1bが凝固することで、第1領域Ar1が形成される際には、第1領域Ar1で生じる転位および歪みの伝播が、欠陥が高密度に存在している第2領域Ar2で止められる。なお、シリコンインゴットが冷却される際に第1領域Ar1で生じる転位および歪みの伝播も、欠陥が高密度に存在している第2領域Ar2で止められる。
なお、ここでいう欠陥は、第1および第2領域Ar1,Ar2の各断面におけるエッチング処理によって、エッチピットとなり得る転位等の欠陥であればよい。エッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度は、例えば、本製造方法によって製造されるシリコンインゴットIg1の第1および第2領域Ar1,Ar2の各断面について、エッチング処理が施された後に顕微鏡を用いた観察によって確認される。例えば、観察対象領域において計測されるエッチピットの数を観察対象領域の面積で除することで導出されるエッチピットの密度(EPD)が、エッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度とされればよい。エッチング処理は、例えば、シリコンの板(シリコン板)に、鏡面仕上げ用のエッチング(ミラーエッチング)、および結晶欠陥を顕在化させるためのエッチング(選択エッチング)を順に施す処理であればよい。
より具体的には、エッチング処理は、例えば、バンドソーによってシリコンインゴットIg1からXZ平面に沿って薄切りにされて得られるシリコン板に対して、ミラーエッチングおよび選択エッチングが順に行われる処理であればよい。ミラーエッチングは、例えば、シリコン板に対して、フッ硝酸溶液への180秒間の浸漬、水洗、フッ酸水溶液への30秒間の浸漬、水洗および乾燥が順に施される処理であればよい。なお、フッ硝酸溶液は、例えば、70質量%硝酸と50質量%フッ酸とが7:2の割合で混合されることで生成されればよい。フッ酸水溶液は、例えば、純水と50質量%フッ酸とが20:1の割合で混合されることで生成されればよい。また、選択エッチングは、例えば、シリコン板に対して、JIS規格H0609に記載の選択エッチング液への5分間の浸漬、水洗および乾燥が順に施される処理であればよい。JIS規格H0609に記載の選択エッチング液は、例えば、70質量%硝酸と99質量%酢酸と50質量%フッ酸と純水とが、1:12.7:3:3.7の割合で混合された溶液であればよい。
また、本ステップSp24では、上面領域MS1uにおいて炭素および窒素が多く存在していれば、上面領域MS1uが急速に凝固される。このとき、例えば、第1領域Ar1における炭素の原子密度と窒素の原子密度との和よりも、第2領域Ar2における炭素の原子密度と窒素の原子密度との和が大きくなる。そして、この場合、下部領域MS1bが凝固することで第1領域Ar1が形成される際には、第1領域Ar1で生じる転位および歪みの伝播が、炭素および/または窒素の存在によって欠陥の密度が高まっている第2領域Ar2で止められる。なお、シリコンインゴットが冷却される際に第1領域Ar1で生じる転位および歪みの伝播も、欠陥が高密度に存在している第2領域Ar2で止められる。
ここで、上面領域MS1uが凝固する前に、シリコン融液MS1の上面領域MS1uにおいて、炭素および窒素の少なくとも一方の原子密度が高まっていれば、シリコンの温度が凝固点を下回っていても凝固しない現象(いわゆる組成的過冷却)が生じる。このため、離型材層Mr1が、炭素および窒素の少なくとも一方を含有していれば、上記組成的過冷却が生じ易くなる。また、このような組成的過冷却が生じている上面領域MS1uは、例えば、物理的な刺激の付与に応じて急速に凝固する。
なお、炭素および窒素の原子密度は、例えば、第1および第2領域Ar1,Ar2の各断面を対象とした、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)によって計測される。上面領域MS1uに付与される物理的な刺激としては、例えば、坩堝111から上面領域MS1uへのシリコン融液MS1の滴下による衝撃、および上面領域MS1uのうちの鋳型121の側壁部121sに接する部分における凝固等が挙げられる。このため、例えば、ステップSp23における坩堝111から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給が断続的なものであれば、ステップSp24における上面領域MS1uの急速な凝固が容易に実現される。
なお、ステップSp2では、初期凝固層PS2を形成するステップSp24の後に、図13に示すように、鋳型121内の初期凝固層PS2上にシリコン融液MS1の層(シリコン融液層)MS1Lが形成されるステップSp25が実行されてもよい。シリコン融液層MS1Lは、例えば、初期凝固層PS2の上面を覆う溶融状態のシリコン融液MS1の層であればよい。このシリコン融液層MS1Lは、例えば、坩堝111から鋳型121内へシリコン融液MS1が断続的に供給されることで形成される。シリコン融液MS1の断続的な供給は、例えば、図13に示すように、坩堝111内において原料シリコンPS1が溶融されるたびに、シリコン融液MS1が下部開口部111boを介して鋳型121内に供給されることで実現され得る。
<(1−2−3)第3工程>
ステップSp3では、鋳型121内の初期凝固層PS2上に第2シリコン融液であるシリコン融液MS1が供給され、このシリコン融液MS1が初期凝固層PS2から上方に向かって一方向に凝固される。つまり、初期凝固層PS2上において、シリコン融液MS1が、底部121bから上方に向かう一方向への凝固(一方向凝固)を生じる。これにより、初期凝固層PS2上に第3領域Ar3を有する第2凝固層が形成されることで、シリコンインゴットIg1が形成される。ここで、第3工程において順に行われるステップSp31〜Sp33の3工程について説明する。
ステップSp31では、鋳型121内の初期凝固層PS2上にシリコン融液MS1が供給される。これにより、図14に示すように、鋳型121内において、初期凝固層PS2上にシリコン融液MS1が貯留された状態となる。そして、坩堝111から鋳型121へのシリコン融液MS1の供給が終了される。例えば、坩堝111内の殆ど全ての原料シリコンPS1が溶融されて、シリコン融液MS1として、鋳型121内に供給されればよい。
なお、ここでは、坩堝111から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給は、連続的なものであってもよいし、断続的なものであってもよい。但し、坩堝111から鋳型121内へシリコン融液MS1が連続的に供給されれば、シリコン融液MS1が鋳型121内に迅速に供給される。その結果、シリコンインゴットIg1が迅速に製造され得る。なお、この場合、上記ステップSp25が実行されることで、初期凝固層PS2上にシリコン融液層MS1Lが形成されていれば、シリコン融液MS1の供給が連続的なものであっても、初期凝固層PS2が高温のシリコン融液MS1の供給によって急加熱され難い。その結果、初期凝固層PS2の溶解および破壊が生じ難いため、欠陥が少なく結晶性に優れた領域を有するシリコンインゴットIg1が製造され得る。
ステップSp32では、鋳型保持部122の下面に冷却板123を当yさせる。これにより、鋳型121内のシリコン融液MS1から鋳型保持部122を介した冷却板123への抜熱が開始される。ここでは、例えば、図15に示すように、初期凝固層PS2上にシリコン融液MS1が貯留されている状態において、冷却板123による底部121b側からのシリコン融液MS1の冷却が開始される。鋳型保持部122の下面への冷却板123の当接の直前には、例えば、鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lの出力が低減されればよい。なお、鋳型保持部122の下面に冷却板123を当接させるタイミングは、坩堝111内の全ての原料シリコンPS1が溶融されて、シリコン融液MS1として鋳型121内に供給された後のタイミングであればよい。
ステップSp33では、鋳型121内のシリコン融液MS1が、初期凝固層PS2から上方に向かう一方向凝固を生じる。ここでは、例えば、図16に示すように、鋳型121内のシリコン融液MS1が底部121b側から冷却されることで、鋳型121内のシリコン融液MS1の一方向凝固が進行する。これにより、初期凝固層PS2の第2領域Ar2上に、図12で外縁が破線で示される第3領域Ar3が形成される。第3領域Ar3は、シリコンの多結晶であればよい。
ここでは、例えば、製造装置100内の測温部CH1,CH2等によって検出される温度に応じて、鋳型121の上方および側方に配置された鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lの出力が制御される。そして、例えば、鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lの付近の温度が、シリコンの融点の近傍程度に保持されればよい。これにより、鋳型121の側方からのシリコンの結晶成長が生じ難く、上方としての+Z方向へのシリコンの結晶成長が生じ易い。
そして、シリコン融液MS1の一方向凝固がゆっくりと進行することで、鋳型121内においてシリコンインゴットIg1が製造される。
ところで、鋳型121内におけるシリコン融液MS1の凝固の初期段階としての上記ステップSp24において、下部領域MS1bが凝固することで第1領域Ar1が形成される際に、第1領域Ar1で生じる転位および歪みの伝播が、第2領域Ar2で止められる。このため、鋳型121内におけるシリコン融液MS1のうちの底部121bに接している部分で生じ易い各種欠陥および歪みによる影響が、第2領域Ar2の存在によって、第3領域Ar3まで波及し難い。
これにより、本ステップSp33では、初期凝固層PS2の第2領域Ar2上に欠陥が少ない結晶性に優れた第3領域Ar3が形成され得る。具体的には、第3領域Ar3における欠陥の密度が、第1領域Ar1および第2領域Ar2のそれぞれにおける欠陥の密度よりも小さくなる。したがって、欠陥が少なく結晶性に優れた領域を有するシリコンインゴットIg1が簡便に製造され得る。なお、ここでいう欠陥は、第2および第3領域Ar2,Ar3の各断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥であればよい。なお、第3領域Ar3における欠陥の密度(第3密度)は、例えば、上述した第1および第2領域Ar1,Ar2における欠陥の密度と同様な方法によって確認される。
<(1−3)シリコンインゴット>
図17には、上述した本実施形態に係る製造方法によって製造される本実施形態に係るシリコンインゴットIg1を模式的に示す上面図が例示されている。図18には、シリコンインゴットIg1のうちの図17にて一点鎖線XVIII−XVIIIで示した位置におけるXZ断面を模式的に示す断面図が例示されている。
図18に示すように、本実施形態に係るシリコンインゴットIg1は、−Z方向の底部から順に積層されている第1領域Ar1、第2領域Ar2および第3領域Ar3を備えている。第1および第2領域Ar1,Ar2は、上記初期凝固層PS2に相当する。
ここでは、例えば、第2領域Ar2の断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度が、第1および第3領域Ar1,Ar3の各断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度よりも大きければよい。この場合、シリコンインゴットIg1の製造工程において、下部領域MS1bが凝固することで第1領域Ar1が形成される際ならびにシリコンインゴットIg1が冷却される際に、第1領域Ar1で生じる転位および歪みの伝播が、第2領域Ar2で止められる。このため、鋳型121内におけるシリコン融液MS1のうちの底部121bに接している部分で生じ易い各種欠陥および歪みによる影響が、第2領域Ar2の存在によって、第3領域Ar3まで波及し難い。その結果、第2領域Ar2よりも上方の第3領域Ar3が、欠陥が少ない結晶性に優れた領域となり得る。すなわち、欠陥が少なく結晶性に優れた領域を有するシリコンインゴットIg1が簡便に製造され得る。
なお、ここでいうエッチング処理は、上述したエッチング処理と同様な処理であればよい。また、第1〜3領域Ar1〜Ar3におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度は、上述したエッチング処理が施されたシリコン板が対象とされた顕微鏡による観察によって確認される。
また、ここで、第1〜3領域Ar1〜Ar3の各断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度(第1〜3密度)については、第3密度、第1密度および第2密度の順に大きくなる。具体的に言えば、第1領域Ar1の断面における第1密度よりも、第2領域Ar2の断面における第2密度の方が大きく、第1領域Ar1の断面における第1密度よりも、第3領域Ar3の断面における第3密度の方が小さい。つまり、第3領域Ar3が、欠陥が少なく結晶性に優れた領域である。
また、シリコンインゴットIg1では、例えば、第2領域Ar2における炭素の原子密度と窒素の原子密度との和が、第1領域Ar1における炭素の原子密度と窒素の原子密度との和よりも大きければ、第2領域Ar2における欠陥の密度が高まる。ここでは、第2領域Ar2において、シリコンの結晶格子に置換型等の形態で入り込む炭素および窒素の量が多く、欠陥の密度が高まる。この場合にも、シリコンインゴットIg1の製造工程で、下部領域MS1bが凝固することで第1領域Ar1が形成される際ならびにシリコンインゴットIg1が冷却される際に、第1領域Ar1で生じる転位および歪みの伝播が、第2領域Ar2で止められる。このため、鋳型121内におけるシリコン融液MS1のうちの底部121bに接している部分で生じ易い各種欠陥および歪みによる影響が、第2領域Ar2の存在によって、第3領域Ar3まで波及し難い。その結果、第2領域Ar2よりも上方の第3領域Ar3が、欠陥が少ない結晶性に優れた領域となり得る。すなわち、欠陥が少なく結晶性に優れた領域を有するシリコンインゴットIg1が簡便に製造され得る。
なお、第1および第2領域Ar1,Ar2を有する初期凝固層PS2のZ方向における厚さは、例えば、シリコンインゴットIg1のZ方向における高さの数%〜50%程度であればよい。そして、例えば、初期凝固層PS2のZ方向における厚さが、シリコンインゴットIg1のZ方向における高さの2〜20%程度であれば、欠陥が少なく結晶性に優れた第3領域Ar3がシリコンインゴットIg1の広範囲に渡って形成され得る。
<(1−4)シリコンインゴットの具体例>
<(1−4−1)シリコンインゴットの製造>
ここでは、図1に示すシリコンインゴットの製造装置100および図3から図16に示すシリコンインゴットの製造方法を用いて、本実施形態の一具体例に係るシリコンインゴットIg1を製造した。
シリコンインゴットの製造装置100では、坩堝111の素材として、石英硝子を採用した。また、鋳型121は、側壁部121sの内部空間121i側の部分および底部121bを含む第1層を有し、さらに、側壁部121sにおいて、第1層の周囲に第2層および第3層が順に配されているものを採用した。ここで、第1層の素材として、シリカを採用し、第2層の素材として、炭素繊維強化炭素複合材料を採用し、第3層の素材として、断熱材のフェルトを採用した。
まず、図4に示すように、鋳型121の内壁面に離型材を塗布することで、離型材層Mr1を形成した。ここでは、窒化シリコンの粉末、酸化シリコンの粉末、およびバインダ溶液としてのPVA水溶液を混合してスラリー状とした離型材を用いた。
次に、図5に示すように、坩堝111内に総量が約45kgの多数の原料シリコンPS1を投入した。このとき、原料シリコンPS1には、ドーパントとなる元素としてのホウ素を入れた。
次に、図6に示すように、鋳型121の周囲に配された鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lによって、鋳型121に対する予熱を開始した。この予熱によって、シリコンの融点に近い1300℃程度まで鋳型121が加熱された。
また、坩堝111の周囲に配置された坩堝上部ヒーターH1uおよび側部ヒーターH1sによって、坩堝111内に配された原料シリコンPS1の加熱を開始した。これにより、原料シリコンPS1が、融点を超える1414℃以上で且つ1550℃以下程度の温度域まで加熱され、徐々に溶融した。このとき、坩堝111内の原料シリコンPS1のうちの下部開口部111boの近傍に配されている部分については、鋳型121の上方に配置された鋳型上部ヒーターH2uによっても加熱された。
次に、図7に示すように、鋳型121内へのシリコン融液MS1の断続的な供給を開始した。ここでは、坩堝111内において原料シリコンPS1が溶融されるたびに、シリコン融液MS1が、下部開口部111boを介して鋳型121内に供給された。
次に、図8に示すように、鋳型121内の底部121b上に初期凝固層PS2を形成した。ここでは、鋳型121内の底部121b上に貯留されている少量のシリコン融液MS1が凝固して、鋳型121内の底部121b上に初期凝固層PS2が形成された。
次に、図13に示すように、坩堝111内から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給を断続的に行った。ここでは、坩堝111内において原料シリコンPS1が溶融されるたびに、シリコン融液MS1が、下部開口部111boを介して鋳型121内に供給された。これにより、鋳型121内の初期凝固層PS2上にさらに第3シリコン融液であるシリコン融液MS1が断続的に供給された。その結果、初期凝固層PS2の上面が溶融状態のシリコン融液MS1に覆われた状態にした。すなわち、鋳型121内の初期凝固層PS2上にシリコン融液層MS1Lが形成された。
次に、図14に示すように、坩堝111内から鋳型121内へのシリコン融液MS1の連続的な供給を行った。ここでは、坩堝111内において、坩堝111の下部開口部111boを塞いでいた原料としてのシリコン(原料シリコンともいう)が完全に溶融されるようにすることで、シリコン融液MS1が、下部開口部111boを介して鋳型121内に連続的に供給された。このとき、坩堝111内の全ての原料シリコンPS1が溶融されて、シリコン融液MS1として鋳型121内に供給された。なお、ここでは、坩堝111内から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給における開始から終了までに要した時間が、90分程度とされた。
その後、図15に示すように、鋳型保持部122の下面に冷却板123を当接させた。これにより、鋳型121内のシリコン融液MS1が底部121b側から冷却されることで、シリコン融液MS1の底部121b側から上方に向かう一方向凝固が生じた。このとき、鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lの付近の温度が、シリコンの融点の近傍である1413〜1414℃程度に保持された。つまり、シリコン融液MS1が、鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lによって加熱された。これにより、シリコン融液MS1の一方向凝固が行われ、その後の空冷によって、鋳型121内にp型のシリコンインゴットIg1が製造された。
また、一参考例に係るシリコンインゴットを、上記製造装置100と同様な構成を有する製造装置を用いて製造した。具体的には、坩堝111内で原料シリコンPS1の溶解によって得られたシリコン融液MS1を、鋳型121内に短時間で連続的に注入した後に、シリコン融液MS1の一方向凝固が行われることでシリコンインゴットを製造した。ここでは、鋳型121内にシリコン融液MS1を注入する際の鋳型121の温度は、750℃程度とした。また、坩堝111の下部開口部111boが比較的大きな原料シリコンによって塞がれた状態で、坩堝111が加熱されることによって、坩堝111から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給における開始から終了までに要する時間(供給時間という)が短縮化された。この供給時間は、本実施形態の具体例に係るシリコンインゴットIg1が製造される際における供給時間の約1/30とされた。また、坩堝111から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給が終了した後に、冷却板123を鋳型保持部122に当接した。一参考例に係るシリコンインゴットのその他の製造条件については、本実施形態の一具体例に係るシリコンインゴットIg1の製造条件と略同一とした。
<(1−4−2)シリコンインゴットの分析方法ならびに分析結果>
図17に示すように、シリコンインゴットIg1のY方向の一端から他端に至る幅のうちの該一端から距離が約1/4の部分を、バンドソーによってXZ平面に沿って薄切りにしたことで、10mm程度の厚さを有するシリコン板を得た。その後、このシリコン板に対して、鏡面仕上げ用のミラーエッチングを施した。また、ミラーエッチングを施したシリコン板に対して、結晶欠陥を顕在化するための選択エッチングを行った。その後、シリコン板の盤面を撮影して、図18に示すような断面が得られた。
ミラーエッチングでは、シリコン板に対して、フッ硝酸溶液への180秒間の浸漬、水洗、フッ酸水溶液への30秒間の浸漬、水洗および乾燥を順に行った。ここで、フッ硝酸溶液は、70質量%硝酸と50質量%フッ酸とが7:2の割合で混合することで生成された。フッ酸水溶液は、純水と50質量%フッ酸とが20:1の割合で混合することで生成された。また、選択エッチングでは、シリコン板に対して、JIS規格H0609に記載の選択エッチング液、すなわち70質量%硝酸と99質量%酢酸と50質量%フッ酸と純水とが、1:12.7:3:3.7の割合で混合した溶液への5分間の浸漬、水洗および乾燥を順に施した。なお、以下で述べるミラーエッチングおよび選択エッチングについては、全て略同一の条件で行った。
図18に示すように、一具体例に係るシリコンインゴットIg1は、−Z方向の底部から順に積層されている第1領域Ar1、第2領域Ar2および第3領域Ar3を備えていた。また、上述した選択エッチングが施されたシリコン板について、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。その結果、第1領域Ar1と第2領域Ar2との界面および第2領域Ar2と第3領域Ar3との界面に粒界が集中している様子が認められた。また、このSEMによる観察によれば、第3領域Ar3では、主として300μm以上の粒径を有する巨大な結晶粒が認められ、第1および第2領域Ar1,Ar2では、主として300μm未満の粒径を有する小さな結晶粒が認められた。
また、SEMによる観察によれば、第2領域Ar2、第1領域Ar1および第3領域Ar3の順にエッチピットの密度(EPD)が減少している様子が認められた。例えば、第2領域Ar2に係るEPDが、6×105個/cm2程度であり、第1領域Ar1に係るEPDが、1×105個/cm2程度であり、第3領域Ar3に係るEPDが、5×104個/cm2程度であった。なお、第2領域Ar2の厚さが200μm前後であったため、各EPDは、一辺が約100μmの矩形状の領域において計測されるエッチピットの数を、矩形状の領域の面積で除することで得た。
上記EPDの関係から、第2領域Ar2の断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度が、第1および第3領域Ar1,Ar3の各断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度よりも高いことが分かった。また、第1領域Ar1の断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度(第1密度)よりも、第2領域Ar2の断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度(第2密度)の方が高いことが分かった。さらに、第1密度よりも、第3領域Ar3の断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度(第3密度)の方が低いことが分かった。
また、上述した選択エッチングが施されたシリコン板を対象としたラマン分光法による分析結果によれば、第2領域Ar2の近傍において、第1〜3領域Ar1〜Ar3の何れの領域においても結晶性が高く、アモルファス成分の存在は確認されなかった。また、観測されたラマンスペクトルにおけるピークの半値幅の増大によって、第1領域Ar1と第2領域Ar2との界面およびその近傍では、応力変動が生じている傾向が認められ、局所的な応力が生じていることが確認された。このことから、下部領域MS1bが凝固することで第1領域Ar1が形成される際ならびにシリコンインゴットIg1が冷却される際に、第1領域Ar1で生じる転位および歪みの伝播が、第2領域Ar2で止められたものと推定される。
図19には、第1〜3領域Ar1〜Ar3における炭素および窒素の原子密度が示されている。図19には、シリコンインゴットIg1におけるZ方向(高さ方向)における位置と、炭素の原子密度との関係が、黒塗りの丸印で示されており、該Z方向における位置と、窒素の原子密度との関係が、黒塗りの菱形の印で示されている。図19では、横軸が、第2領域Ar2の略中央部が基準とされたZ方向における位置を示し、縦軸が、原子密度を示している。ここでは、上記選択エッチングが施されたシリコン板について、SIMSによって第1〜3領域Ar1〜Ar3における炭素および窒素の原子密度を測定した。SIMSの装置としては、Cameca社製IMS−6Fを用いた。そして、SIMSによる測定は、一次イオン種がCs+であり、一次イオン加速電圧が14.5kVであり、二次イオン極性が負であり、且つ質量分解能が標準である条件下で行われた。また、SIMSによる測定位置(被測定位置)は、Z方向において、第2領域Ar2の略中央部を基準として、±200μmおよび±400μmの部分が加えられた合計5箇所とした。
図19に示すように、炭素の原子密度については、第1および第3領域Ar1,Ar3と比較して、第2領域Ar2で顕著に上昇していることが確認された。また、窒素の原子密度については、第1および第3領域Ar1,Ar3では、SIMSにおける質量分解能の下限値未満であるのに対して、第2領域Ar2では、1×1018atoms/cm3程度であることが確認された。したがって、初期凝固層PS2については、第2領域Ar2における炭素の原子密度と窒素の原子密度との和が、第1領域Ar1における炭素の原子密度と窒素の原子密度との和よりも大きいことが分かった。そして、第2領域Ar2では、第1および第3領域Ar1,Ar3と比較して、炭素および窒素の原子密度が高いことによって、シリコンの結晶格子に置換型等の形態で入り込んでいる炭素および窒素の量が多いため、欠陥の密度が高まっていたものと推定された。
また、ここで、平衡状態においてシリコンに固溶可能な炭素量の上限値(固溶限界)を原子密度で示すと、1×1018atoms/cm3以下であるのに対して、第2領域Ar2における炭素の原子密度は、1×1020atoms/cm3程度と非常に高かった。このような炭素の原子密度の傾向により、第2領域Ar2が形成される際にシリコン融液MS1が急速に凝固したものと推定された。
ここでは、一具体例に係るシリコンインゴットIg1の第2領域Ar2を中心とした第1〜3領域Ar1〜Ar3を含む領域における結晶方位を、電子線後方散乱回折(EBSD)法によって分析した。なお、EBSD装置としては、電界放射型電子銃を装備したSEM(日本電子社製JSM−6500F)に設置されたEBSD装置(TSL社製OIM方位解析装置)を用いた。そして、EBSD装置における分析は、加速電圧が15.0kVであり、照射電流が7.0nAであり、試料傾斜が70度であり、測定領域が1.7mm×2.6mmであり、且つ測定間隔が2μm/stepである条件下で行われた。
一方、一参考例に係るシリコンインゴットについては、ミラーエッチングおよび選択エッチングが施されたXZ断面の目視ならびに光学顕微鏡による観察によって、一具体例のような初期凝固層PS2が形成されていないことを確認した。
図20には、一具体例に係るシリコンインゴットIg1の下面からの位置と規格化した比抵抗(ρb値)との関係が示されている。ここでは、図18で示された断面写真の撮影対象であった上記選択エッチングが施されたシリコン板について、表面と裏面との間における電気抵抗が測定されることで、ドーパントとしてのホウ素の濃度分布に対応する比抵抗の分布が得られた。図20では、シリコンインゴットIg1の下面から上面まで至る距離(高さ)を100(固化率が100%)とした場合に、シリコンインゴットIg1の下面からの距離(高さ)が、6.3、12.5、18.8、・・・、87.5(固化率が6.3%、12.5%、18.8%、・・・、87.5%)である各部分における規格化したρb値が示されている。例えば、一具体例に係るシリコンインゴットIg1についての高さとρb値との関係が、黒塗りの丸印で示されている。図20では、縦軸が規格化したρb値を示し、横軸がシリコンインゴットIg1における高さ方向(Z方向)の位置を示している。なお、図20には、初期凝固層PS2が形成されることなく製造された一参考例に係るシリコンインゴットについての高さとρb値との関係が、黒塗りの菱形印で示されている。ここで固化率とは、インゴットの鋳造に使用したシリコン原料の総質量に対する固化したインゴットの質量の比率を表し、鋳造後のインゴットの下端(鋳型底面に接する最初に凝固する端面)において0%、インゴットの上端(鋳型の開放部側であり最後に凝固する端面)において100%となる。
図20に示すように、一具体例に係るシリコンインゴットIg1については、初期凝固層PS2に対応する第1および第2領域Ar1,Ar2については、ρb値が比較的低いことを確認した。これに対して、第3領域Ar3については、シリコンインゴットIg1の下面からの距離に応じて、ρb値が高い状態から単調に低下していることを確認した。このような結果から、第1および第2領域Ar1,Ar2については、シリコン融液MS1の急速な凝固によって形成されるためにホウ素の濃度が比較的高くなり、ρb値が比較的小さくなったものと推定された。一方、第3領域Ar3については、シリコン融液MS1が極めて低速の一方向凝固によって形成されるため、凝固の初期から凝固の終期にかけて、シリコン融液MS1中における不純物としてのホウ素の濃度が上昇する傾向を示したものと推定された。
一方、一参考例に係るシリコンインゴットについては、シリコンインゴットの下面からの距離に応じて、ρb値が単純に低下することを確認した。このようなρb値の傾向は、シリコン融液MS1が凝固する際に、凝固の初期から凝固の終期にかけて、シリコン融液MS1中における不純物としてのホウ素の濃度が上昇する傾向を示すことと整合するものと考えられる。
また、図21には、一具体例に係るシリコンインゴットIg1について、下面からの距離(高さ)に応じたEPDの変化についての測定結果が示されている。具体的には、図21には、本実施形態の一具体例に係るシリコンインゴットIg1についての高さとEPDとの関係が、黒塗りの丸印で示されている。なお、図21には、初期凝固層PS2が形成されることなく製造された一参考例に係るシリコンインゴットについて、その高さとEPDとの関係が、黒塗りの菱形印で示されている。
ここでは、図17に示すように、シリコンインゴットIg1が、Y方向の略中央部がバンドソーによってX平面に沿って切断されることで2分割され、さらに、Z方向の略中央部がバンドソーによってYZ平面に沿って切断されることで2分割された。つまり、シリコンインゴットIg1から、該シリコンインゴットIg1の4分の1の寸法を有するインゴット片Ig11が切り出された。次に、インゴット片Ig11の下面から上面に至る距離(高さ)を100(固化率が100%)とした場合に、インゴット片Ig11の下面からの距離(高さ)が、8、10、16、20、25、30、40、50および82である(固化率が8%、10%、16%、20%、25%、30%、40%、50%および82%)各部分が、250〜300μmの厚さで薄切りにされた。ここでは、インゴット片Ig11がバンドソーによってXY平面に沿って薄切りにされることで、シリコンインゴットIg1の下面に略平行な9枚のシリコン板が形成された。さらに、これらの9枚のシリコン板に対して、ミラーエッチングおよび選択エッチングが順に施された。その後、各シリコン板について、シリコン板のY方向の略中央部(図17の破線に沿った部分)における略等間隔の15箇所における矩形状の領域がSEMで観察されてエッチピットの数が計測され、観察領域の面積で除されることで、EPDが算出された。矩形状の領域は、一辺が250μmとされた。
図21に示すように、一具体例に係るシリコンインゴットIg1については、第1領域Ar1よりも第2領域Ar2の方が、EPDが若干高く、第1および第2領域Ar1,Ar2よりも第3領域Ar3の方が、EPDが顕著に低くなっていることを確認した。つまり、シリコンインゴットIg1については、下面からの距離に応じて、EPDが一旦上昇した後に顕著に下降していることを確認した。これにより、第1〜3領域Ar1〜Ar3の各断面におけるエッチング処理によってエッチピットとなり得る欠陥の密度(第1〜3密度)については、第3密度、第1密度および第2密度の順に大きくなっていることを確認した。これに対して、一参考例に係るシリコンインゴットについては、下面からの距離に応じて、EPDが単調に上昇する傾向を示していることを確認した。したがって、一具体例に係るシリコンインゴットIg1では、EPDが高い第2領域Ar2の存在によって、第3領域Ar3のEPDが顕著に低くなるものと推定される。そして、第1領域Ar1が形成される際ならびにシリコンインゴットIg1が冷却される際に、第1領域Ar1で生じる転位および歪みの伝播が、第2領域Ar2で止められ、第3領域Ar3が、欠陥が少なく結晶性に優れた領域となるものと推定される。
<(1−5)太陽電池素子>
上述した本実施形態に係るシリコンインゴットIg1から切り出されるシリコン基板は、太陽電池素子10の半導体基板として用いられ得る。
ここで、太陽電池素子10の基本構成について説明する。図22から図24に示すように、太陽電池素子10は、光が入射する受光面(図24における上面)10a、およびこの受光面10aの反対側の面である非受光面(図24における下面)10bを有している。この太陽電池素子10は、半導体基板1を有している。この半導体基板1は一導電型の半導体層である第1半導体層1pと、この第1半導体層1pの受光面10a側に設けられた逆導電型の半導体層である第2半導体層1nとを有している。また、半導体基板1の受光面10a側の第1主面1a上には、反射防止層2が設けられている。また、太陽電池素子10は、半導体基板1の受光面10a側の第1主面1a上に設けられた第1電極4と、半導体基板1の非受光面10b側の第2主面1b上に設けられた第2電極5とを有している。
次に、太陽電池素子10のより具体的な構成例について説明する。まず、半導体基板1として一導電型(例えば、p型)を有するシリコン基板を用意する。シリコン基板としては、本発明に係るシリコンインゴットの製造方法によって製造されたシリコンインゴットIg1が、所望の形状のブロックに切り出された後に、例えばマルチワイヤソー装置等を用いた切断作業によって基板状にされたものが用いられる。半導体基板1の厚さは、例えば、300μm以下であればよく、さらに、200μm以下であれば、資源の有効利用等による太陽電池素子10の製造コストの低減が図られ得る。
シリコンインゴットの導電型をp型にするためのドーパントとなる元素としては、例えばホウ素が用いられる。シリコンインゴットにおけるホウ素の濃度が、1×1016〜1×1017[atoms/cm3]程度であれば、シリコン基板における比抵抗は、0.2〜2Ω・cm程度となる。シリコン基板に対するホウ素のドーピング方法としては、例えば、適量のホウ素元素の単体、あるいはホウ素の含有濃度が既知である適量の原料シリコンが、シリコンインゴットの製造時に混合される方法が採用されればよい。
半導体基板1がp型の導電型を呈するシリコン基板である場合、半導体基板1における第1主面1a側の表層部にリン等の不純物が拡散されることで、第2半導体層1nが形成され得る。そして、第1半導体層1pと第2半導体層1nとはpn接合領域を形成している。
反射防止層2は、受光面10aにおける所望の波長領域の光に対する反射率を低減させて、半導体基板1内に所望の波長領域の光が吸収され易くする役割を果たす。これにより、半導体基板1における光電変換によって生成されるキャリアの量が増大され得る。反射防止層2の素材としては、例えば、窒化シリコン、酸化チタンおよび酸化シリコン等が採用され得る。反射防止層2の素材によって反射防止層2の厚さが適宜設定されることで、反射防止層2の存在によって適当な入射光が殆ど反射しない条件(無反射条件)が実現されればよい。例えば、半導体基板1がシリコン基板である場合、反射防止層2の屈折率は、1.8〜2.3程度であればよく、反射防止層2の厚さは、500〜1200Å程度であればよい。
半導体基板1の第2主面1b側には、BSF(Back-Surface-Field)領域1Hpが設けられている。このBSF領域1Hpは、半導体基板1の第2主面1b側に内部電界を形成し、第2主面1bの近傍におけるキャリアの再結合を低減する役割を有している。これにより、太陽電池素子10における光電変換効率の低下が低減され得る。BSF領域1Hpは、第1半導体層1pと同一の導電型を呈しており、BSF領域1Hpが含有する多数キャリアの濃度は、第1半導体層1pが含有する多数キャリアの濃度よりも高い。なお、半導体基板1がp型を呈する場合、例えば、半導体基板1の第2主面1b側の表層部にホウ素またはアルミニウム等のドーパントとなる元素が拡散されることで、BSF領域1Hpが形成され得る。このとき、BSF領域1Hpにおけるドーパントの濃度は、例えば、1×1018〜5×1021atoms/cm3程度であればよい。
第1電極4は、図22に示すように、第1出力取出電極4aと、複数の線状の第1集電電極4bとを有している。第1出力取出電極4aの少なくとも一部は、第1集電電極4bと交差している。第1出力取出電極4aの線幅は、例えば、1.3〜2.5mm程度であればよい。一方、第1集電電極4bの線幅は、第1出力取出電極4aの線幅よりも狭く、例えば、50〜200μm程度であればよい。また、複数の第1集電電極4bは間隔を有して配されている。この間隔は、1.5〜3mm程度であればよい。また、第1電極4の厚さは、10〜40μm程度であればよい。なお、第1電極4には、複数の第1集電電極4bの一端部同士および他端部同士をそれぞれ繋ぐ線状の補助電極4cが含まれていてもよい。補助電極4cの線幅は、例えば、第1集電電極4bの線幅と同等であればよい。上記構成を有する第1電極4は、例えば、銀ペーストが、半導体基板1の第1主面1a上における所望のパターンの領域に塗布された後に、焼成されることで形成され得る。銀ペーストは、例えば、銀の粉末、ガラスフリットおよび有機ビヒクル等が混合されることで生成されればよい。銀ペーストの塗布方法は、例えば、スクリーン印刷法等であればよい。
第2電極5は、図23に示すように、第2出力取出電極5aと第2集電電極5bとを有している。第2出力取出電極5aの厚さは、例えば、10〜30μm程度であればよい。第2出力取出電極5aの線幅は、1.3〜7mm程度であればよい。この第2出力取出電極5aは、上述の第1電極4と同等の材質および製法で形成され得る。例えば、銀ペーストが、半導体基板1の第2主面1b上における所望のパターンの領域に塗布された後に、焼成されることで形成され得る。また、第2集電電極5bの厚さは、15〜50μm程度であればよい。この第2集電電極5bは、半導体基板1の第2主面1bの第2出力取出電極5aが形成される領域の大部分を除く略全面に形成されている。この第2集電電極5bは、例えば、アルミニウムペーストが、半導体基板1の第2主面1b上における所望のパターンの領域に塗布された後に、焼成されることで形成され得る。アルミニウムペーストは、例えば、アルミニウムの粉末、ガラスフリットおよび有機ビヒクル等が混合されることで生成されればよい。アルミニウムペーストの塗布方法は、例えば、スクリーン印刷法等であればよい。
<(1−6)太陽電池素子の具体例>
以下に、上述した本実施形態に係る太陽電池素子10をさらに具体化した具体例について説明する。
ここでは、上記一具体例に係るシリコンインゴットIg1および上記一参考例に係るシリコンインゴットが、シリコンインゴットの底面に平行な面に沿って薄切りにされることで、半導体基板1に相当するシリコン基板が作製された。そして、ここで得られたシリコン基板を半導体基板1とする太陽電池素子10(図22から図24を参照)が、以下の工程によって作製された。
ここでは、まず、シリコンインゴットからシリコン基板を作製した。このとき、ワイヤソー装置を用いて、厚さが200μmであり且つ一辺が150mmの正方形の盤面を有するシリコン基板を作製した。具体的には、シリコンインゴットの下面から上面まで至る距離を100(固化率が100%)とした場合に、シリコンインゴットの下面からの距離が、6.3、12.5、18.8、・・・、87.5(固化率が6.3%、12.5%、18.8%、・・・、87.5%)である各部分が薄切りにされることで、一具体例および一参考例に係るシリコン基板がそれぞれ8枚ずつ作製された。このとき、各シリコン基板の表層においてシリコンインゴットの切断時に生じたダメージ層が、水酸化ナトリウム溶液によるエッチングによって除去された。
次に、ドライエッチング法によって半導体基板1の第1主面1aに微細な凹凸によるテクスチャ構造を形成した。そして、POCl3を拡散源とした気相熱拡散法によって、第2半導体層1nおよび該第2半導体層1n上の燐ガラスを形成した。このとき、第2半導体層1nのシート抵抗は、70Ω/□であった。さらに、フッ酸溶液を用いたエッチングによる燐ガラスの除去ならびにレーザービームによるpn分離を行った後に、第1主面1a上にPECVD法によって反射防止層2としての窒化シリコン膜を形成した。
その後、半導体基板1の第2主面1bにアルミニウムペーストを略全面に塗布して、このアルミニウムペーストを焼成することで、BSF領域1Hpと第2集電電極5bとを形成した。また、半導体基板1の第1主面1a上および第2主面1b上に銀ペーストを塗布して、この銀ペーストを焼成することで、第1電極4と第2出力取出電極5aとを形成した。以上により、太陽電池素子10を作製した。
そして、上記一具体例に係るシリコンインゴットIg1および上記一参考例に係るシリコンインゴットのそれぞれから得られた半導体基板1を用いた各太陽電池素子10に対して、光電変換効率を測定した。この光電変換効率の測定は、JIS C 8913(1998)に準拠して行った。この測定結果が、図25に示されている。シリコンインゴットの下面から上面まで至る距離を100(固化率:100%)とした場合に、シリコンインゴットの下面からの距離が、6.3、12.5、18.8、・・・、87.5である各部分の半導体基板1を用いた。図25には、これらの半導体基板1を用いた各太陽電池素子10について、規格化した光電変換効率が示されている。ここで、一具体例に係る光電変換効率の測定結果が、黒塗りの丸印で示されており、一参考例に係る光電変換効率の測定結果が、黒塗りの菱形印で示されている。
図25に示すように、一具体例に係る太陽電池素子10の第3領域Ar3のシリコン基板を用いた場合には、一参考例に係る太陽電池素子10におけるシリコン基板を用いた場合よりも、光電変換効率が高くなることを確認した。すなわち、第3領域Ar3が、欠陥が少なく結晶性に優れた領域となっているために、光電変換効率が高くなったものと推定される。
<(1−7)まとめ>
以上のように、一実施形態に係るシリコンインゴットの製造方法では、初期凝固層PS2の形成時ならびにシリコンインゴットIg1の冷却時に、第1領域Ar1からの転位および歪みの伝播が、欠陥が高密度に存在している第2領域Ar2で止められる。このため、初期凝固層PS2上に欠陥が少ない結晶性に優れた第3領域Ar3が形成され得る。したがって、欠陥が少なく結晶性に優れた領域を有するシリコンインゴットが簡便に製造され得る。
また、一実施形態に係るシリコンインゴットの製造方法では、初期凝固層PS2の形成時ならびにシリコンインゴットIg1の冷却時に、第1領域Ar1からの転位および歪みの伝播が、炭素および窒素の少なくとも一方の存在によって、欠陥密度が上昇している第2領域Ar2で止められる。このため、初期凝固層PS2上に欠陥が少ない結晶性に優れた第3領域Ar3が形成され得る。したがって、欠陥が少なく結晶性に優れた領域を有するシリコンインゴットが簡便に製造され得る。
また、一実施形態に係るシリコンインゴットIg1では、シリコンインゴットIg1が製造される際に、第1領域Ar1からの転位および歪みの伝播が、欠陥が高密度に存在している第2領域Ar2で止められる。このため、第2領域Ar2よりも上方の第3領域Ar3が、欠陥が少ない結晶性に優れた領域となり得る。したがって、欠陥が少なく結晶性に優れた領域を有するシリコンインゴットIg1が簡便に製造され得る。
また、一実施形態に係るシリコンインゴットIg1では、シリコンインゴットIg1が製造される際に、第1領域Ar1からの転位および歪みの伝播が、炭素および/または窒素の存在によって欠陥密度が上昇している第2領域Ar2で止められる。このため、第2領域Ar2よりも上方の第3領域Ar3が、欠陥が少ない結晶性に優れた領域となり得る。したがって、欠陥が少なく結晶性に優れた領域を有するシリコンインゴットIg1が簡便に製造され得る。
<(2)実施形態2>
次に、上述した実施形態1とは異なる実施形態2について説明する。
<(2−1)シリコンインゴットの製造装置>
製造装置については実施形態1と同様であるので説明を省略する。
<(2−2)シリコンインゴットの製造方法>
図26に示すように、本実施形態に係るシリコンインゴットの製造方法では、鋳型を準備する工程と、実施形態1で説明した第2工程(ステップSp2)において、第1凝固層を形成する際に、鋳型内にドーパントを含んでいる第4シリコン融液を供給し、固化率の増加とともにドーパント濃度が減少する第1固化領域を前記第1凝固層内に形成する。また、実施形態1で説明した第3工程(ステップSp3)において、鋳型内にドーパントを含んでいる第5シリコン融液を供給し、固化率の増加とともにドーパント濃度が増加して最大のドーパント濃度を有する第2固化領域を第2凝固層内に形成する。
以上工程によって、転位などの欠陥が少なく結晶性に優れた領域を有するシリコンインゴットが製造される。図26では、ステップSq11からステップSq34まで、準備工程(ステップSq1)、第1固化領域形成工程(ステップSq2)および第2固化領域形成工程(ステップSq3)が順に行われる例を示す。
<(2−2−1)準備工程>
準備工程では、例えば、図4および図5に示すように、鋳型121および坩堝111の準備が行われる。ここで、準備工程において順に行われるステップSq11,Sq12の2工程について説明する。
ステップSq11では、鋳型121の準備が行われる。例えば、図4に示すように、鋳型121の内壁面に離型材が塗布されることで離型材層Mr1が形成される。この離型材層Mr1の存在によって、シリコン融液MS1が凝固する過程における鋳型121の内壁へのシリコンインゴットの融着が低減される。離型材層Mr1の材質としては、例えば、窒化珪素、炭化珪素および酸化珪素のうちの何れかあるいは2以上が混合されたものが採用され得る。離型材層Mr1は、例えば、窒化珪素、炭化珪素および酸化珪素の1以上を含むスラリーが、鋳型121の内壁に塗布もしくはスプレー等によってコーティングされることで形成され得る。ここで、スラリーは、例えば、窒化珪素、炭化珪素および酸化珪素のうちの何れか1つまたは2以上の混合物の粉末が、PVA等の有機バインダと溶剤とを主に含む溶液中に混合されたものが攪拌されることで形成され得る。
ステップSq12では、坩堝111の準備が行われる。例えば、図5に示すように、坩堝111の内部空間111iにポリシリコンである原料シリコンPS1が導入される。このとき、例えば、坩堝111内の下部の領域から上部の領域に向けて原料シリコンPS1が充填されればよい。また、例えば、シリコンインゴットにおいてドーパントとなる元素が原料シリコンPS1に含有されていればよい。ここで、原料シリコンPS1は、例えば、シリコンインゴットの原料としてのポリシリコンの塊であればよい。このポリシリコンの塊は、例えば、比較的細かいブロック状のシリコンの塊であればよい。なお、p型のシリコンインゴットが製造される場合、ドーパントとなる元素は、例えば、ホウ素およびガリウム等であればよい。n型のシリコンインゴットが製造される場合、ドーパントとなる元素は、例えば、リン等であればよい。
なお、第1固化領域形成工程が開始される前に、鋳型保持部122の下面に冷却板123が当接されていない状態に設定される。
<(2−2−2)第1固化領域形成工程>
第1固化領域形成工程では、図6から図8に示すように、鋳型121内にシリコン融液MS1が供給され、このシリコン融液MS1が鋳型121内の底部121b上において凝固されることで、第1固化領域が形成される。ここで、第1固化領域形成工程において順に行われるステップSq21〜Sq25の各工程について説明する。
ステップSq21では、鋳型121の予熱が開始される。例えば、図6に示すように、鋳型121の上方および側方に配置された鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lによって、鋳型121が200℃から800℃に予熱されればよい。
ステップSq22では、坩堝111内の原料シリコンPS1に対する加熱が開始される。例えば、図6に示すように、坩堝111の上方および側方に配置された坩堝上部ヒーターH1uおよび側部ヒーターH1sによって原料シリコンPS1が、融点を超える1414℃以上で且つ1550℃以下程度の温度域まで加熱され、徐々に溶融する。このとき、坩堝111内の原料シリコンPS1は、坩堝上部ヒーターH1u、側部ヒーターH1sおよび、鋳型121の上方に配置された鋳型上部ヒーターH2uの近傍に配されている部分から加熱されるため、これらのヒーター近傍に配されている原料シリコンPS1は、溶融され易い。
なお、ここでは、鋳型121の予熱が開始された後に、坩堝111内の原料シリコンPS1に対する加熱が開始されたが、これに限られない。例えば、鋳型121の予熱と、坩堝111内の原料シリコンPS1に対する加熱とが、同時に開始されてもよいし、坩堝111内の原料シリコンPS1に対する加熱が開始された後に、鋳型121の予熱が開始されてもよい。
ステップSq23では、坩堝111から鋳型121内へシリコン融液MS1が供給される。このとき、坩堝111から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給は、連続的なものであってもよいし、断続的なものであってもよい。また、供給は外部からの制御手段によってタイミングを制御されてもよい(制御供給)し、制御されずに溶融したシリコンから順に自然落下によって供給されてもよい(自然供給)。いずれの供給方法によっても、ステップSq21での予熱温度と供給される融液量を適宜設定することによって、凝固速度が鋳型内に供給されたシリコンの上面の上昇速度以上になる状況を作り出すことができる(ステップSq24)。言い換えれば、坩堝111から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給による融液面の上昇速度を凝固速度が上回る。これにより、第1固化領域が容易に形成され得る。
なお、シリコン融液MS1の連続的な供給とは、シリコン融液MS1の供給が殆ど途切れることなく生じることを意味している。また、シリコン融液MS1の断続的な供給とは、不規則なタイミングで、シリコン融液MS1の供給の実施と中断とが生じることを意味している。
シリコン融液MS1の断続的な供給は、例えば、図7に示すように、坩堝111内において原料シリコンPS1が溶融されるたびに、シリコン融液MS1が下部開口部111boを介して鋳型121内に供給されることで実現され得る。ここでは、例えば、坩堝111内において、坩堝上部ヒーターH1u、側部ヒーターH1sおよび、鋳型121の上方に配置された鋳型上部ヒーターH2uのいずれかの近傍に配されている原料シリコンPS1が、最も早く溶融されるため、これらが溶融されるたびに、シリコン融液MS1が、下部開口部111boを介して鋳型121内に供給され得る。
シリコン融液MS1の連続的な供給は、例えば、図14に示すように、供給制御手段(不図示)によって下部開口部111boを閉じた状態で坩堝111内において原料シリコンPS1が溶融した後に、供給制御手段(不図示)によって下部開口部111boを開放して、シリコン融液MS1が下部開口部111boを介して鋳型121内に供給されることで実現され得る。供給制御手段は下部開口部111boに設けたバルブでもよいし、各ヒーターの温度を制御することによって下部開口部111boを塞ぐ原料シリコンPS1が最後に溶けるようにして、下部開口部111boを塞ぐ原料シリコンPS1が溶解すると同時に坩堝111内のシリコン融液MS1が鋳型121内に供給されるようにしてもよい。
ステップSq25では、ステップSq23で鋳型121内に供給されたシリコン融液MS1が凝固されることで、鋳型121内の底部121b上に第1固化領域が形成される。ここでは、図8に示すように、鋳型121内の底部121b上を覆うシリコン融液MS1が急速に凝固することで、鋳型121内の底部121b上を覆うように第1固化領域が形成されればよい。
第1固化領域では固化率の増加とともにドーパント濃度が減少するように固化領域を形成する。ここで、第1固化領域を形成するためには、鋳型121内に供給されたシリコン融液MS1の凝固速度が鋳型121内に供給されたシリコンの上面の上昇速度以上である条件で急速に凝固させればよい。以下、凝固速度とドーパント濃度の関係について説明する。一般的な平衡状態の凝固であれば、シリコン融液MS1中の不純物は一定の偏析係数に応じてシリコンインゴットに取り込まれる。偏析係数は融液から結晶が凝固する際の固液界面における融液中の不純物濃度(Cl)と結晶中の不純物濃度(Cs)との比であり、k0=Cs/Clで表される。例えば、シリコンインゴットにドーパントとして用いられるボロン(B)の偏析係数は0.8、リン(P)の偏析係数は0.35と1より小さい(固液界面において結晶中のドーパント濃度は融液中のドーパント濃度よりも小さい)ので、平衡凝固状態では凝固が進行する(固化率が大きくなる)につれて融液中のボロンやリンの濃度が増加し、シリコンインゴット中のドーパント濃度は凝固が進行する(固化率が大きくなる)につれて増加する。
一方、凝固速度が鋳型内に供給されたシリコンの上面の上昇速度以上であるような場合、偏析係数は1に近づいて、シリコンインゴット中のドーパント濃度はシリコン融液MS1中のドーパント濃度とほぼ等しくなる。凝固速度は例えば、ステップSq21において、鋳型121の底部121bおよび側部121sの温度をヒーターよって制御することによって調整できる。融液面上昇速度は、例えばステップSq23において下部開口部の径を変更するなどの方法で融液の単位時間当たりの供給量を制御することによって調整できる。そして、凝固が進行する(固化率が大きくなる)につれて、凝固速度が小さくなるようにすることで、偏析係数は通常の平衡状態(ボロンは0.8、リンは0.35)に近づくため、固化率の増加とともにドーピング濃度が減少する任意の厚みの第1固化領域が形成できる。また、このようにして作製した第1固化領域においてはドーパントだけでなく、他の偏析係数が1よりも小さい不純物元素、例えば鉄(Fe)、銅(Cu)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)などの濃度も同様に固化率の増加とともに減少する。
第1固化領域を形成する他の手段としては、鋳型121に供給されるシリコン融液MS1中のドーパント濃度を固化が進行するにしたがって小さくする方法がある。例えば、坩堝111内に原料シリコンPS1を充填する際に、比較的早く溶けやすいヒーターに近い領域に高濃度のドーパントを含む原料シリコンPS1を載置し、他の領域にそれよりも低濃度のドーパントを含む原料シリコンPS1を載置した状態で、原料シリコンPS1の溶解を開始して、溶融したシリコンから順に鋳型121に供給するようにすればよい。
このように、凝固初期(すなわちインゴット底部)に第1固化領域を設けることによって、インゴット中の欠陥密度を低減することができる。欠陥密度が低減する理由を以下に列挙する。
まず、底部の ドーパント(ボロン、リンなど)濃度上昇によって機械的強度, 降伏強度増加し、その結果, 熱ショックによる転位発生が抑制される。底部の転位が減少すれば、それを引き継いで成長する上部の転位も減少する。
また、ボロンと鉄はB−Fe結合を形成することが知られており、インゴットの凝固中ボロンが鉄をトラップ(ゲッタリング)することによって、底面および底部側面における離型材からのFe汚染拡散が抑制され、その結果、インゴット内の不純物濃度低減する。また、ボロンによる鉄ゲッタリングの際、転位も移動して消滅、低減することが考えられ、鉄ゲッタリングの最中に転位低減が起こっている可能性もある。
また、第1固化領域の成長速度を大きくすることで、底面に垂直な方向に対し、底面に平行な方向の成長速度は相対的に小さくなり、底面に平行な方向の結晶粒サイズや応力が小さくなり、粒界によるひずみ緩和効果が大きくなって、転位等の欠陥が生じにくくなる。
また、成長速度を大きくするため成長初期の鋳型内の温度が通常に比べて低いため、結晶成長中の潜熱が抜けやすく、成長のストレスが少ないため、転位等の欠陥が生じにくい。
また、高濃度のドーパント濃度を含むシリコンにおいては、シリコン原子とドーパント原子の格子定数差によってミスフィット転位が発生し、ミスフィット転位が熱ショックによって発生する転位の伝播を遮断する。
このように、インゴット 底部の転位を低減することで、インゴット上部を含む全体の転位低減することができるので、転位の少ない高品質なシリコンインゴットを得ることができる。
なお、転位などの結晶欠陥は、シリコンインゴットの各断面におけるエッチング処理によって、エッチピットとして顕微鏡を用いて観察できる。例えば、観察対象領域において計測されるエッチピットの数を観察対象領域の面積で除すことで導出されるエッチピットの密度(EPD)が、欠陥の密度とされればよい。エッチング処理は、例えば、シリコンの板(シリコン板)に、鏡面仕上げ用のエッチング(ミラーエッチング)、および結晶欠陥を顕在化させるためのエッチング(選択エッチング)を順に施す処理であればよい。
より具体的には、エッチング処理は、例えば、バンドソーによってシリコンインゴットからXZ平面に沿って薄切りにされて得られるシリコン板に対して、ミラーエッチングおよび選択エッチングが順に行われる処理であればよい。ミラーエッチングは、例えば、シリコン板に対して、フッ硝酸溶液への180秒間の浸漬、水洗、フッ酸水溶液への30秒間の浸漬、水洗および乾燥が順に施される処理であればよい。なお、フッ硝酸溶液は、例えば、70質量%硝酸と50質量%フッ酸とが7:2の割合で混合されることで生成されればよい。フッ酸水溶液は、例えば、純水と50質量%フッ酸とが20:1の割合で混合されることで生成されればよい。また、選択エッチングは、例えば、シリコン板に対して、JIS規格H0609に記載の選択エッチング液への5分間の浸漬、水洗および乾燥が順に施される処理であればよい。JIS規格H0609に記載の選択エッチング液は、例えば、70質量%硝酸と99質量%酢酸と50質量%フッ酸と純水とが、1:12.7:3:3.7の割合で混合された溶液であればよい。
また、本ステップSq25では、融液中にドーパント原子以外に、炭素および窒素等が多く存在していれば、インゴットに取り込まれた炭素および窒素等が前述のドーパントによる結晶欠陥低減効果と同様の役割を果たしうるのでさらによい。
なお、炭素および窒素の原子密度は、例えば、第1固化領域および第2固化領域の各断面を対象とした、SIMSによって計測される。
<(2−2−3)第2固化領域形成工程>
融液の供給をさらに続けると、インゴットの成長とともに凝固速度が低下し、凝固速度は鋳型内に供給されたシリコンの上面の上昇速度を下回るようになる(ステップSq31)。これにより、図14に示すように、鋳型121内において、第1固化領域上にシリコン融液MS1が貯留された状態となり、第2固化領域が形成される(ステップSq32)。第2固化領域では従来のインゴットと同様に固化率の増加とともにドーパント濃度が増加する。なお、ここでは、坩堝111から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給は、連続的なものであってもよいし、断続的なものであってもよい。但し、坩堝111から鋳型121内へシリコン融液MS1が連続的に供給されれば、シリコン融液MS1が鋳型121内に迅速に供給される。その結果、シリコンインゴットが迅速に製造され得る。
そして、ステップSq33では、坩堝111から鋳型121へのシリコン融液MS1の供給が終了される。
さらに第2固化領域形成工程では、鋳型保持部122の下面に冷却板123を当接する。これにより、鋳型121内のシリコン融液MS1から鋳型保持部122を介した冷却板123への抜熱が開始される。ここでは、例えば、図15に示すように、第1固化領域上にシリコン融液MS1が貯留されている状態において、冷却板123による底部121b側からのシリコン融液MS1の冷却が開始される。なお、鋳型保持部122の下面に冷却板123を当接するタイミングは、坩堝111内の全ての原料シリコンPS1が溶融されて、シリコン融液MS1として鋳型121内に供給された後のタイミングであればよい。
第2固化領域形成工程では、鋳型121内のシリコン融液MS1が、第1固化領域から上方に向かう一方向凝固を生じる。ここでは、例えば、図16に示すように、鋳型121内のシリコン融液MS1が底部121b側から冷却されることで、鋳型121内のシリコン融液MS1の一方向凝固が進行する。これにより、第1固化領域上に、第2固化領域が形成される。第2固化領域中の転位などの結晶欠陥は第1固化領域中の結晶欠陥を引き継いで形成されるので、第1固化領域の結晶欠陥を低減することで、インゴット上部を含む第2固化領域においても結晶欠陥の少ない高品質なシリコンインゴットを得ることができる。
ここでは、例えば、製造装置100内の測温部CH1,CH2等によって検出される温度に応じて、鋳型121の上方および側方に配置された鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lの出力が制御される。そして、例えば、鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lの付近の温度が、シリコンの融点の近傍程度に保持されればよい。これにより、鋳型121の側方からのシリコンの結晶成長が生じ難く、上方としての+Z方向へのシリコンの結晶成長が生じ易い。
そして、シリコン融液MS1の一方向凝固がゆっくりと進行することで、鋳型121内においてシリコンインゴットが製造され、シリコン融液MS1が全て凝固するとシリコンインゴットの形成が終了する(ステップSq34)。
第2固化領域における欠陥の密度は前述の第1固化領域の欠陥密度と同様な方法によって確認される。
これまで、第1固化領域と第2固化領域を有するシリコンインゴットの形成方法を記述したが、本発明の範囲内であれば上記の方法によらず、適宜変更可能である。例えば、冷却板123を当接している状態で第1固化領域の形成を開始してから、冷却板123の当接状態を解除することで、抜熱量を調整して凝固速度を調整してもよい。また、例えば第1固化領域形成工程では融液を断続的に供給することで融液面の上昇速度を小さくし、第2固化領域形成工程では融液を連続的に供給することで融液面の上昇速度を大きくしてもよい。
<(2−3)まとめ>
以上のように、本実施形態では、鋳型を準備する工程と、前記鋳型内にドーパントを含んでいるシリコン融液を供給し、固化率の増加とともにドーパント濃度が減少する第1固化領域を形成する工程と、前記鋳型内にドーパントを含んでいるシリコン融液をさらに供給し、固化率の増加とともにドーパント濃度が増加して最大のドーパント濃度を有する第2固化領域を形成する工程と、を有する。また、前記第1固化領域を形成する工程において、前記鋳型内で前記シリコン融液の凝固速度が前記鋳型内に供給されたシリコンの上面の上昇速度以上になるようにした。また、前記第2固化領域を形成する工程において、前記鋳型内で前記シリコン融液の凝固速度が前記鋳型内に供給されたシリコンの上面の上昇速度よりも小さくなるようにした。さらに、前記鋳型を準備する工程において、前記鋳型の内壁に炭素および窒素の少なくとも一方を含有する離型材層を形成するようにした。
本実施形態によれば、インゴット底面近傍の転位および、底面近傍から上部方向へ伝播する転位を低減することができるので、インゴット全体の転位密度が小さく、変換効率の高い太陽電池素子の作製に適した達結晶シリコンインゴットを提供することができる。
<(2−4)シリコンインゴット>
本実施形態に係る多結晶のシリコンインゴットは、固化率が増加する方向における内部に、固化率の増加とともに比抵抗値が増大して最大となる領域を有しており、底部から順に、固化率の増加とともに比抵抗値が増加する傾向を有する第1部位と、固化率の増加とともに比抵抗値が減少する傾向を有し最小の比抵抗値を有する第2部位と、を備えている。これに対し、従来の多結晶シリコンインゴットは、固化率の増加とともにドーパントの偏析係数に対応して比抵抗値が増加するので、例えば、偏析係数が1より小さいドーパントを使用した場合は底部(固化率0%)において比抵抗が最大になり、偏析係数が1より大きいドーパントを使用した場合は上部(固化率100%)において比抵抗が最大になる。
固化率の増加とともに比抵抗値が増大して最大となる領域を有するのは、凝固初期(すなわちインゴット底部)に高濃度のドーパントを含む領域を形成しているためであり、これにより、前述のようにインゴット中の転位等の結晶欠陥を低減できる。
転位などの結晶欠陥は、シリコンインゴットの各断面における上述したエッチング処理によって、エッチピットとして顕微鏡を用いた観察によって観察できる。
なお、第1固化領域および第2固化領域において比抵抗値が最大となる固化率は0%よりも大きく30%以下であればよく、特に12%以上で24%以下であればさらによい。なぜなら、第1固化領域が薄いと第2固化領域における転位低減効果が不十分となり、第1固化領域が厚いと鉄などの不純物濃度の増加、および、過冷却による転位の増加のために、インゴット全体での素子特性は低下するからである。
インゴットの比抵抗値は例えば0.5Ωcm以上2.1Ω・cm以下であればよい。比抵抗値ρbとキャリアの濃度nの関係式は、ρb=1/(q・μ・n)で表される。ここで、qは電子の電荷で、1.60×10−19C、μは多数キャリア移動度で、室温では、N型基板で約1200cm2/V/s、P型基板で約420cm2/V/s 程度なので、比抵抗値が上記範囲の時、ドーパントとしてボロンを使用すれば、ドーパント濃度は3.2×1016atoms/cm3以上6.5×1015atoms/cm3以下である。比抵抗値が大きく(ドーパント濃度が高く)なりすぎると、少数キャリアの増加による暗電流の増大によって太陽電池素子の開放電圧が低下するなどして、太陽電池素子の変換効率が低下する。また、比抵抗値が小さく(ドーパント濃度が高く)なりすぎると、ドーパント原子によるキャリアの散乱の増加による短絡電流の低下、BSF効果の低下による開放電圧の低下などによって太陽電池素子の変換効率が低下する。
また、上述の通り、第1固化領域において炭素および窒素等が多く存在していれば、つまり、第1固化領域において炭素の原子密度と窒素の原子密度との和が、第2固化領域における炭素の原子密度と窒素の原子密度との和よりも大きければ、インゴットに取り込まれた炭素および窒素等が前述のドーパントによる結晶欠陥低減効果と同様の役割を果たしうるので好適である。
なお、炭素および窒素の原子密度は、前述のとおり、例えば、第1および第2固化領域PS2、PS3の各断面を対象とした、SIMSによって計測される。
<(2−5)太陽電池素子>
上述した本実施形態に係るシリコンインゴットから切り出されるシリコン基板は、太陽電池素子10の半導体基板として用いられ得る。
ここで、太陽電池素子10の基本構成について説明する。図22から図24に示すように、太陽電池素子10は、光が入射する受光面(図24における上面)10a、およびこの受光面10aの反対側の面である非受光面(図24における下面)10bを有している。この太陽電池素子10は、半導体基板1を有している。この半導体基板1は一導電型の半導体層である第1半導体層1pと、この第1半導体層1pの受光面10a側に設けられた逆導電型の半導体層である第2半導体層1nとを有している。また、半導体基板1の受光面10a側の第1主面1a上には、反射防止層2が設けられている。また、太陽電池素子10は、半導体基板1の受光面10a側の第1主面1a上に設けられた第1電極4と、半導体基板1の非受光面10b側の第2主面1b上に設けられた第2電極5とを有している。
次に、太陽電池素子10のより具体的な構成例について説明する。まず、半導体基板1として一導電型(例えば、p型)を有するシリコン基板が用意される。シリコン基板としては、本発明に係るシリコンインゴットの製造方法によって製造されたシリコンインゴットが、所望の形状のブロックに切り出された後に、マルチワイヤソー装置等が用いられて薄切りにされることで基板状にされたものが用いられ得る。半導体基板1の厚さは、例えば、300μm以下であればよく、さらに、200μm以下であれば、資源の有効利用等による太陽電池素子10の製造コストの低減が図られ得る。
シリコンインゴットの導電型がp型とされるためのドーパントとなる元素としては、例えば、ホウ素が用いられる。シリコンインゴットにおけるホウ素の濃度が、1×1016〜1×1017[atoms/cm3]程度であれば、シリコン基板における比抵抗は、0.2〜2Ω・cm程度となる。シリコン基板に対するホウ素のドーピング方法としては、例えば、適量のホウ素元素の単体、あるいはホウ素の含有濃度が既知である適量の原料シリコンが、シリコンインゴットの製造時に混合される方法が採用されればよい。
半導体基板1がp型の導電型を呈するシリコン基板である場合、半導体基板1における第1主面1a側の表層部にリン等の不純物が拡散されることで、第2半導体層1nが形成され得る。そして、第1半導体層1pと第2半導体層1nとはpn接合領域を形成している。
反射防止層2は、受光面10aにおける所望の波長領域の光に対する反射率を低減させて、半導体基板1内に所望の波長領域の光が吸収され易くする役割を果たす。これにより、半導体基板1における光電変換によって生成されるキャリアの量が増大され得る。反射防止層2の素材としては、例えば、窒化シリコン、酸化チタンおよび酸化シリコン等が採用され得る。反射防止層2の素材によって反射防止層2の厚さが適宜設定されることで、反射防止層2の存在によって適当な入射光が殆ど反射しない条件(無反射条件)が実現されればよい。例えば、半導体基板1がシリコン基板である場合、反射防止層2の屈折率は、1.8〜2.3程度であればよく、反射防止層2の厚さは、500〜1200Å程度であればよい。
半導体基板1の第2主面1b側には、BSF(Back-Surface-Field)領域1Hpが設けられている。このBSF領域1Hpは、半導体基板1の第2主面1b側に内部電界を形成し、第2主面1bの近傍におけるキャリアの再結合を低減する役割を有している。これにより、太陽電池素子10における光電変換効率の低下が低減され得る。BSF領域1Hpは、第1半導体層1pと同一の導電型を呈しており、BSF領域1Hpが含有する多数キャリアの濃度は、第1半導体層1pが含有する多数キャリアの濃度よりも高い。なお、半導体基板1がp型を呈する場合、例えば、半導体基板1の第2主面1b側の表層部にホウ素またはアルミニウム等のドーパントとなる元素が拡散されることで、BSF領域1Hpが形成され得る。このとき、BSF領域1Hpにおけるドーパントの濃度は、例えば、1×1018〜5×1021atoms/cm3程度であればよい。
第1電極4は、図22に示すように、第1出力取出電極4aと、複数の線状の第1集電電極4bとを有している。第1出力取出電極4aの少なくとも一部は、第1集電電極4bと交差している。第1出力取出電極4aの線幅は、例えば、1.3〜2.5mm程度であればよい。一方、第1集電電極4bの線幅は、第1出力取出電極4aの線幅よりも狭く、例えば、50〜200μm程度であればよい。また、複数の第1集電電極4bは間隔を有して配されている。この間隔は、1.5〜3mm程度であればよい。また、第1電極4の厚さは、10〜40μm程度であればよい。なお、第1電極4には、複数の第1集電電極4bの一端部同士および他端部同士をそれぞれ繋ぐ線状の補助電極4cが含まれていてもよい。補助電極4cの線幅は、例えば、第1集電電極4bの線幅と同等であればよい。上記構成を有する第1電極4は、例えば、銀ペーストが、半導体基板1の第1主面1a上における所望のパターンの領域に塗布された後に、焼成されることで形成され得る。銀ペーストは、例えば、銀の粉末、ガラスフリットおよび有機ビヒクル等が混合されることで生成されればよい。銀ペーストの塗布方法は、例えば、スクリーン印刷法等であればよい。
第2電極5は、図23に示すように、第2出力取出電極5aと第2集電電極5bとを有している。第2出力取出電極5aの厚さは、例えば、10〜30μm程度であればよい。第2出力取出電極5aの線幅は、1.3〜7mm程度であればよい。この第2出力取出電極5aは、上述の第1電極4と同等の材質および製法で形成され得る。例えば、銀ペーストが、半導体基板1の第2主面1b上における所望のパターンの領域に塗布された後に、焼成されることで形成され得る。また、第2集電電極5bの厚さは、15〜50μm程度であればよい。この第2集電電極5bは、半導体基板1の第2主面1bの第2出力取出電極5aが形成される領域の大部分を除く略全面に形成されている。この第2集電電極5bは、例えば、アルミニウムペーストが、半導体基板1の第2主面1b上における所望のパターンの領域に塗布された後に、焼成されることで形成され得る。アルミニウムペーストは、例えば、アルミニウムの粉末、ガラスフリットおよび有機ビヒクル等が混合されることで生成されればよい。アルミニウムペーストの塗布方法は、例えば、スクリーン印刷法等であればよい。
<(2−6)シリコンインゴットの具体例>
<(2−6−1)シリコンインゴットの製造>
ここでは、図1で示されたシリコンインゴットの製造装置100および図3から図12で示されたシリコンインゴットの製造方法を用いて、表1に示す条件1〜4によって本実施形態の一具体例に係るシリコンインゴットを製造した。条件1〜4では、シリコン融液MS1の供給速度を調整するために、坩堝111の下部開口部111boの面積を変更した。また、鋳造初期の凝固速度を調整するために、鋳型121の予熱温度を変更した。得られたインゴットの固化率と比抵抗値の関係を図27に、またインゴットにおける固化率とドーパント濃度との関係を図28に示す。また、図27から読み取った、各インゴットの比抵抗値が最大となる固化率(第1固化領域の範囲)を表1に示す。
シリコンインゴットの製造装置100では、坩堝111の素材として、石英硝子を用いた。また、鋳型121は、側壁部121sおよび底部121bからなる炭素繊維強化炭素複合材料(CCM)製鋳型を使用した。鋳型121の底面の1辺は345mmの正方形状とした。
そして、鋳型121の内壁面に離型材が塗布されることで、離型材層Mr1が形成された。ここでは、窒化シリコンの粉末、酸化シリコンの粉末、およびバインダ溶液としてのPVA水溶液が混合されてスラリー状とされた離型材が用いられた。
次に、坩堝111内に総量が約90kgの多数の原料シリコンPS1を投入した。このとき、原料シリコンPS1には、ドーパントとなる元素としてのホウ素を混合した。
次に、鋳型121の周囲に配された鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lによって、鋳型121に対する予熱が開始された。この予熱によって、400℃〜600℃まで鋳型底部121bが加熱された。予熱温度が小さいほど凝固初期の凝固速度が大きくなる。つまり、鋳型底部の予熱温度は、条件1>条件4>条件2>条件3であるので、シリコン融液の供給量が同じであれば凝固初期の凝固速度は、条件1<条件4<条件2<条件3となる。
また、坩堝111の周囲に配置された坩堝上部ヒーターH1uおよび側部ヒーターH1sによって、坩堝111内に配された原料シリコンPS1の加熱が開始された。これにより、原料シリコンPS1が、融点を超える1414℃以上で且つ1550℃以下程度の温度域まで加熱され、徐々に溶融した。このとき、坩堝111内の原料シリコンPS1のうちの下部開口部111boの近傍に配されている部分については、鋳型121の上方に配置された鋳型上部ヒーターH2uによっても加熱された。
次に、坩堝111内の原料シリコンPS1がすべて溶解された後、鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給が開始された。条件1〜3と条件4とは、坩堝111の下部開口部111boの径が異なるため、鋳型121に供給される単位時間当たりの融液供給量が異なる。つまり、条件1〜3では条件4と比べて下部開口部111boの径が小さいため単位時間当たりの融液供給量が小さく、融液面の上昇速度が小さい。
上記製造条件によって、条件1〜3では固化率の増加とともにドーパント濃度が減少する第1固化領域が形成された。第1固化領域の厚みは予熱温度、すなわち凝固初期の凝固速度によって変化し、条件1〜3のそれぞれにおいて、比抵抗値が最大となる固化率はそれぞれ、12%、18%、24%となった。
引き続き坩堝111内から鋳型121内へのシリコン融液MS1の供給と一方向凝固を続けると凝固の進行とともに凝固速度が小さくなり、ついには鋳型内に供給されたシリコンの上面の上昇速度を下回るようになり、凝固中のインゴット上面が融液に完全に覆われると、第2固化領域の形成が始まった。
その後、鋳型121へのシリコン融液MS1の供給を終了するとともに、鋳型保持部122の下面に冷却板123を当接し、鋳型121内のシリコン融液MS1を底部121b側から冷却しながら、シリコンインゴットを製造した。このとき、鋳型上部ヒーターH2uおよび下部ヒーターH2lを用いて加熱した。これにより、シリコン融液MS1の一方向凝固が行われ、その後、空冷によって、鋳型121内にp型のシリコンインゴットが製造された。
<(2−6−2)シリコンインゴットの分析および評価>
得られたシリコンインゴットはバンドソーを用いて端部領域を切断するとともに複数のブロックに切断した。ブロックの一つからはさらにバンドソーを用いて10mm程度の厚さを有する評価用シリコン板が作製された。作製されたシリコン板のうち固化率に応じて下部(固化率15%)、中部(固化率50%)、上部(固化率80%)のシリコン板に対して、鏡面仕上げ用のミラーエッチングと結晶欠陥を顕在化するための選択エッチングとを実施した。
ミラーエッチングでは、シリコン板に対して、フッ硝酸溶液への180秒間の浸漬、水洗、フッ酸水溶液への30秒間の浸漬、水洗および乾燥を順に行った。ここで、フッ硝酸溶液は、70質量%硝酸と50質量%フッ酸とが7:2の割合で混合することで生成された。フッ酸水溶液は、純水と50質量%フッ酸とが20:1の割合で混合することで生成された。また、選択エッチングでは、シリコン板に対して、JIS規格H0609に記載の選択エッチング液、すなわち70質量%硝酸と99質量%酢酸と50質量%フッ酸と純水とが、1:12.7:3:3.7の割合で混合した溶液への5分間の浸漬、水洗および乾燥を順に実施した。なお、以下で述べるミラーエッチングおよび選択エッチングについては、全て略同一の条件で行った。
その後、シリコン板のエッチング面を撮影し、EPD測定を行った。EPD測定は各シリコン板について、シリコン板のY方向の略中央部における略等間隔の15箇所における矩形状の領域をSEMで観察してエッチピットの数を計測して、これを観察領域の面積で除すことで、EPDを算出した。矩形状の領域は、一辺を250μmとした。測定結果(下部、中部、上部のそれぞれ)および各条件の全領域のEPDの平均値を条件4の全領域の平均値を1として規格化した数値を表2に示す。表2より条件1から3に係るインゴットでは全領域において条件4よりもEPDの値が小さくなっていることがわかった。これは上述したように、第1固化領域の成長初期(すなわちインゴット底部)に高濃度のボロンが含まれることによって、インゴット中の転位密度が低減したためと考えられる。
また、表3には、条件1および条件4における鉄、炭素、酸素および窒素の原子濃度が示されている。上記選択エッチングが施されたシリコン板について、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によって鉄の原子濃度を測定して、SIMSによって炭素、酸素および窒素の原子濃度を測定した。測定位置は、Z方向において、インゴット底部から0から約20mmの位置とした(SIMSではZ方向に略等間隔の5箇所測定して平均値を算出した)。なお、表3中の「AE+B」の表記は「A×10+B」を示す。
表3に示すように、鉄の濃度が条件1において高くなっており、ボロン濃度の高い第1固化領域炭素の形成によって、インゴットの形成中にボロンによる鉄のゲッタリングが起こって、Fe−B結合が形成された可能性が考えられる。また、条件1において、窒素濃度も高くなっており、窒素がボロンと同様に転位低減に寄与したものと考えられる。
<(2−6−3)シリコン基板および太陽電池素子の製造>
また、他のブロックはマルチワイヤソー装置を用いて複数のシリコン基板に切断した。このようにして得られたシリコン基板は4探針法によって比抵抗の測定を行い、シリコン基板を用いて太陽電池素子を作製した。
ここでは、上記一具体例に係るシリコンインゴットおよび上記一参考例に係るシリコンインゴットが、シリコンインゴットの底面に平行な面に沿って薄切りにして、半導体基板1に相当するシリコン基板を作製した。そして、得られたシリコン基板を半導体基板1とする太陽電池素子10(図22から図24を参照)が、以下の工程によって作製された。
まず、シリコンインゴットを薄切りにすることで、シリコン基板を作製した。このとき、ワイヤソー装置によって、厚さが約200μmであり且つ一辺が約150mmの正方形の盤面を有するシリコン基板を作製した。
次に、各シリコン基板の表層においてシリコンインゴットの切断時に生じたダメージ層が、水酸化ナトリウム溶液によるエッチングによって除去された。
次に、ドライエッチング法によって半導体基板1の第1主面1aに微細な凹凸によるテクスチャ構造が形成された。そして、POCl3が拡散源した気相熱拡散法によって、第2半導体層1nならびに該第2半導体層1n上の燐ガラスが形成された。このとき、第2半導体層1nのシート抵抗は、70Ω/□であった。さらに、フッ酸溶液のエッチングによる燐ガラスの除去ならびにレーザービームによるpn分離を行った後に、第1主面1a上にPECVD法によって反射防止層2としての窒化シリコン膜が形成された。
その後、半導体基板1の第2主面1bに、アルミニウムペーストを略全面に塗布して、このアルミニウムペーストを焼成することで、BSF領域1Hpと第2集電電極5bとを形成した。また、半導体基板1の第1主面1a上ならびに第2主面1b上に銀ペーストを塗布して、この銀ペーストを焼成することで、第1電極4と第2出力取出電極5aとを形成した。これにより、太陽電池素子10を作製した。
太陽電池素子はJIS C 8913に基づいて、光電変換効率の測定を行った。この測定結果を固化率の大きさに応じて下部(固化率0%〜33%)、中部(固化率33〜67%)、上部(固化率67%〜100%)それぞれの領域ごとに平均し、条件4の全領域の光電変換効率平均値を1として規格化した数値を表2に示す。条件1から条件3に係るインゴットでは全領域において条件4よりも光電変換効率が大きいことがわかった。
図27には、一具体例に係るシリコンインゴットの固化率と規格化した比抵抗(ρb値)との関係が示されている。比抵抗の分布はドーパントとしてのホウ素の濃度分布に対応する。図27に示すように、条件4に係るシリコンインゴットについては、比抵抗値が最大となる領域は固化率0%となる端部に形成され、固化率の増加とともに比抵抗値が単調に低下している。これに対し、条件1から条件3に係るシリコンインゴットについては、比抵抗値が最大となる領域は端部ではなく、インゴットの内部にあるので、固化率の増加とともに比抵抗値が増加する傾向を有する第1固化領域と、固化率の増加とともに比抵抗値が減少する傾向を有し最大の比抵抗値を有する第2固化領域と、を備えていることが分かった。
このような結果から、図28に示すように、第1固化領域の形成初期は、シリコン融液MS1の急速な凝固によって形成されるために偏析係数は1に近づいて、シリコンインゴット中のドーパントであるホウ素の濃度が高くなり、ρb値が小さくなったものと推定される。そして、凝固が進行する(固化率が大きくなる)につれて、凝固速度が小さくなるため、偏析係数は通常の平衡状態(0.8)に近づくため、固化率の増加とともにドーピング濃度が減少し、第1固化領域が形成される。
融液の供給をさらに続けると、インゴットの成長とともに凝固速度が低下し、凝固速度は融液の供給による融液面の上昇速度を下回るようになる(ステップSq31)。これにより、鋳型121内において、第1固化領域上にシリコン融液MS1が貯留された状態となり、第2固化領域の形成が開始される(ステップSq32)。第2固化領域では条件4に関わるインゴット全領域と同様にと同様に固化率の増加とともにドーパント濃度が増加し、比抵抗値が単調に減少することが図13および図14からわかった。
<(3)その他>
なお、本発明は上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
上記一実施形態では、鋳型121の内壁面に離型材が塗布されたが、これに限られない。例えば、鋳型121内でシリコンインゴットが形成される度に鋳型121およびシリコンインゴットの側面近傍の部分が切断されることで、鋳型121内のシリコンインゴットが取り出される場合には、鋳型121の内壁面に離型材が塗布されなくてもよい。但し、炭素および窒素の少なくとも一方を含有する離型材が鋳型121の内壁面に塗布されて離型材層Mr1が形成されれば、シリコン融液MS1における組成的過冷却が生じ易く、欠陥の密度が高い第2領域Ar2を含む初期凝固層PS2が良好に形成され得る。
なお、上記一実施形態およびその他の上記各種態様をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、いうまでもない。