JPWO2014136757A1 - ランダム構造gicの製造方法、薄片化黒鉛分散液の製造方法、薄片化黒鉛分散液及び薄片化黒鉛 - Google Patents

ランダム構造gicの製造方法、薄片化黒鉛分散液の製造方法、薄片化黒鉛分散液及び薄片化黒鉛 Download PDF

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Abstract

剥離処理によりグラフェン積層状態の規則性が少なく、積層数が少ない薄片化黒鉛を容易に得ることを可能とするランダム構造GICの製造方法を提供する。アルカリ金属がグラフェン層間にインターカレートされているアルカリ金属−GICを用意する工程と、上記アルカリ金属−GICに非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒を接触させる工程とを備える。

Description

本発明は、黒鉛由来の規則性が少ない、ランダム構造を有するGIC(graphite intercalation compound)の製造方法に関する。また、本発明は、上記ランダム構造を有するGICを用いた薄片化黒鉛分散液の製造方法、薄片化黒鉛分散液及び薄片化黒鉛に関する。
近年、グラフェン積層数が少ない、薄片化黒鉛が注目されている。薄片化黒鉛の製造方法として、GICを用いた製造方法が知られている。この方法では、黒鉛のグラフェン層間にアルカリ金属をインターカレートする。しかる後、超音波処理や加熱処理などにより黒鉛を剥離する。
下記の非特許文献1には、アルカリ金属としてKなどをグラフェン層間にインターカレートしてなるアルカリ金属−GICの反応性が述べられている。非特許文献1では、アルカリ金属蒸気に黒鉛を接触させてアルカリ金属−GICを得た後に、空気に接触させると、アルカリ金属−GICの構造が変化することが記載されている。すなわち、KC8で表わされるステージ1の構造のピークの他、KC24で示されるステージ2のピークやステージ3のピークがXRDスペクトル上に現れることが示されている。
他方、下記の特許文献1には、グラフェンライク炭素材料の加工を容易とするグラフェン溶液の製造方法が開示されている。このグラフェン溶液の製造方法では、まず、Kなどのアルカリ金属によりグラファイトを還元し、かつ該アルカリ金属をグラフェン層間にインターカレートする。次に、極性非プロトン溶媒にGICを接触させる。それによって、極性非プロトン溶媒にGICが溶解されたグラフェン溶液を得る。
特開2010−535690号公報
阿久沢昇「アルカリ金属黒鉛層間化合物の互換性」(炭素、2011[No248]96−101)
非特許文献1では、Kがインターカレートされて、KC8すなわちステージ1のアルカリ金属−GICをさらに空気と接触させることにより、ステージ2やステージ3の構造が表れることが示されている。しかしながら、ステージ1の構造によるピークだけでなく、ステージ2及びステージ3の構造によるピークがXRDスペクトル上に現れるが、規則性は解消されていない。従って、このようなアルカリ金属−GICを剥離処理したとしても、積層数が少ない薄片化黒鉛を安定に得ることができなかった。
また、非特許文献1では、アルカリ金属−GICがTHFなどの極性非プロトン性溶媒に溶解されているが、これだけでは、グラファイトを十分に剥離し、積層数が少ない薄片化黒鉛を得ることは困難であった。
本発明の目的は、剥離処理によりグラフェン積層状態の規則性が少なく、積層数も少ない薄片化黒鉛を得ることを可能とするランダム構造GICの製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、上記ランダム構造GICを用いた薄片化黒鉛分散液の製造方法、薄片化黒鉛分散液及び薄片化黒鉛を提供することにある。
本発明に係るランダム構造GICの製造方法は、アルカリ金属がグラフェン層間にインターカレートされているアルカリ金属−GICを用意する工程と、上記アルカリ金属−GICに非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒を接触させる工程とを備える。なお、本明細書において「ランダム構造」とは、後述するように、黒鉛由来のグラフェン積層状態の規則性が低減された構造を有する。
本発明に係るランダム構造GICの製造方法のある特定の局面では、上記非酸化性雰囲気下が不活性ガス雰囲気下である。この場合は、確実に酸素を遮断して極性プロトン性溶媒をアルカリ金属−GICに接触させることができる。
本発明に係るランダム構造GICの製造方法の他の特定の局面では、上記非酸化性雰囲気下で上記極性プロトン性溶媒を接触させる工程の後に、上記アルカリ金属−GICを酸素含有雰囲気下に曝す工程がさらに備えられている。
本発明に係るランダム構造GICの製造方法の他の特定の局面では、上記酸素含有雰囲気が空気中である。この場合には、製造方法の操作の簡略化及びコストの低減を図ることができる。
また、本発明に係るランダム構造GICの製造方法の他の特定の局面では、極性プロトン性溶媒は水またはアルコール、より好ましくは水である。この場合には、コストの低減を図ることができる。
本発明に係るランダム構造GICの製造方法では、好ましくは、上記アルカリ金属として、K、Li、Rb及びCsからなる群から選択された少なくとも1種のアルカリ金属を用いる。
本発明に係るランダム構造GICの製造方法のさらに他の特定の局面では、上記アルカリ金属−GICを用意する工程が、アルカリ金属蒸気を黒鉛に真空下で接触させることにより行われる。この場合には、アルカリ金属−GICを容易に得ることができる。
本発明に係る薄片化黒鉛分散液の製造方法は、本発明のランダム構造GICの製造方法によりランダム構造GICを得る工程と、上記ランダム構造GICを無極性溶媒もしくは極性溶媒に添加する工程と、上記無極性溶媒もしくは極性溶媒に上記ランダム構造GICを添加した後に、上記ランダム構造GICが添加された無極性溶媒もしくは極性溶媒中で、上記ランダム構造GICを剥離処理する工程とを備える。
本発明に係る薄片化黒鉛分散液の製造方法では、好ましくは上記極性溶媒として水もしくは低級アルコールを用いる。あるいは、上記極性溶媒として、界面活性剤を含む溶媒を好ましくは用いる。
上記界面活性剤としては、好ましくは、上記界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウムを用いる。
本発明に係る薄片化黒鉛分散液の製造方法の他の特定の局面では、上記ラウリル硫酸ナトリウムを含む溶媒の濃度が、0.1重量%以上、10重量%以下の範囲にある。
本発明に係る薄片化黒鉛分散液は、本発明の薄片化黒鉛分散液の製造方法により得られたものである。
本発明に係る薄片化黒鉛は、本発明に係る薄片化黒鉛分散液から溶媒を除去することにより得られる。
好ましくは、本発明の薄片化黒鉛は、長さ方向を有し、テープ状の形状を有する。また、本発明の薄片化黒鉛の他の特定の局面では、上記長さ方向を有する複数の上記テープ状の薄片化黒鉛が、その主面同士が重なるようにしてネットワーク状に集合されている。
本発明の薄片化黒鉛のさらに他の特定の局面では、薄片化黒鉛は、六角形状を有し、対向する辺同士の間隔が10μm以上のものを含んでいる。
本発明に係るランダム構造GICの製造方法によれば、アルカリ金属−GICに非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒を接触させるため、グラフェンの積層状態の規則性がほぼ解消され、ランダム構造のGICを提供することが可能となる。従って、超音波処理やせん断処理などの周知の剥離処理を施すことにより、グラフェン間が十分に剥離されて、積層数が少ない薄片化黒鉛やグラフェンを容易に得ることが可能となる。
また、上記のようにして得られたランダム構造のアルカリ金属−GICでは、グラフェンが酸化される過程を経ていないため、剥離処理により導電性や熱伝導性に優れた薄片化黒鉛などのグラフェンライク炭素材料を得ることができる。
本発明に係る薄片化黒鉛分散液の製造方法によれば、上記ランダム構造GICに剥離処理を施すことにより、積層数が少ない薄片化黒鉛を容易に得ることができる。特に、上記無極性溶媒もしくは極性溶媒にランダム構造GICが添加された状態で剥離処理を行うので、長さ方向を有するテープ状の薄片化黒鉛や該テープ状の薄片化黒鉛の主面同士が重なるようにして集合されているネットワーク状の薄片化黒鉛を提供することも可能となる。
図1は、実施例1でカリウムの蒸気に膨張黒鉛を曝して得られた金色の粉末のXRDスペクトルを示す図である。 図2は、実施例1において、気密セル開放前、気密セル開放直後及び気密セル開放22時間後の分散体のXRDスペクトルを示す図である。 図3は、実施例1で得られたランダム構造GICをエタノール中に分散させてなる分散液からエタノールを蒸発させた後得られた粉末のXRDスペクトルを示す図である。 図4は、従来のハマーズ法で得られた酸化グラフェンの分散液から水を蒸発させて得られた酸化グラフェン膜のXRDスペクトルを示す図である。 図5は、実施例2でカリウムの蒸気に天然黒鉛を曝して得られた金色の粉末のXRDスペクトルを示す図である。 図6は、実施例2において、気密セル開放前、気密セル開放直後及び気密セル開放20時間後の分散体のXRDスペクトルを示す図である。 図7は、アルカリ金属がKである場合のステージ1の構造すなわちKC8の構造を有するアルカリ金属−GICの模式図である。 図8は、アルカリ金属がKである場合のステージ2の構造すなわちKC24の構造を有するアルカリ金属−GICの模式図である。 図9は、アルカリ金属がKである場合のステージ3の構造を有するアルカリ金属−GICの模式図である。 図10は、実施例3において得られた薄片化黒鉛の電子顕微鏡写真を示す図である。 図11は、実施例3で得られた薄片化黒鉛のXRDスペクトルを示す図である。 図12は、実施例4において得られた薄片化黒鉛の電子顕微鏡写真を示す図である。 図13は、実施例4で得られた薄片化黒鉛のXRDスペクトルを示す図である。 図14は、実施例5において得られた薄片化黒鉛の電子顕微鏡写真を示す図である。 図15は、実施例5で得られた薄片化黒鉛のXRDスペクトルを示す図である。
以下、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
本発明に係るランダム構造GICの製造方法は、前述したように、アルカリ金属がグラフェン層間にインターカレートされているアルカリ金属−GICを用意する工程と、上記アルカリ金属−GICに非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒を接触させる工程とを備える。
本発明では、アルカリ金属−GICに非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒を接触させる工程により、アルカリ金属と極性プロトン性溶媒の反応によりガスが発生し、そのガス圧によってグラフェン層間が開き、ランダム構造化したアルカリ金属−GICが得られる。このランダム構造化した上記アルカリ金属−GICに更に適宜の溶媒を加えて超音波などによる分散工程を備えることで、ランダム構造化したアルカリ金属−GICから剥離した薄片化黒鉛が適宜の溶媒に分散した薄片化黒鉛分散液が得られる。前述のランダム構造化したアルカリ金属−GICに適宜の溶媒を加える際は酸素含有雰囲気下で添加処理を行っても良い。この場合には極性プロトン性溶媒と未反応のアルカリ金属が酸素により酸化するものの、酸素と接触してもGICのランダム構造は維持されるため、一旦、非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒を接触させて、ランダム構造のGICを作製しておけば、その後にランダム構造のGICを酸素含有雰囲気に暴露させてもよい。すなわち、大気中でその後の工程を実施できるために、作業効率を大幅に向上させることが出来る。
本発明に係るランダム構造GICの製造方法では、まず、アルカリ金属がグラフェン層間にインターカレートされているアルカリ金属−GICを用意する。このアルカリ金属−GICを用意する工程は、従来より知られているアルカリ金属を原料黒鉛のグラフェン層間にインターカレートする適宜の方法を用いることができる。
上記原料黒鉛としては、特に限定されず、天然黒鉛や膨張黒鉛などの適宜の黒鉛を用いることができる。好ましくは天然黒鉛を用いることが望ましい。天然黒鉛を用いた場合、酸処理を施した膨張黒鉛などと比較してより黒鉛を酸化する過程を経ないために酸化度が低く、導電性や熱伝導性にさらに優れたグラフェンライク炭素材料を得ることができる。
なお、膨張黒鉛とは、黒鉛のグラフェン層間が天然黒鉛よりも広げられている黒鉛をいうものとする。このような膨張黒鉛としては、例えば東洋炭素社製、品番:PF8などを挙げることができる。膨張黒鉛を用いた場合、グラフェン層間が広げられているため、天然黒鉛よりも容易にアルカリ金属をグラフェン層間にインターカレートすることができる。
アルカリ金属としては、特に限定されないが、好ましくは、K、Li、Rb及びCsからなる群から選択された少なくとも1種を用いることが望ましい。
上記アルカリ金属がグラフェン層間にインターカレートされているアルカリ金属−GICを用意するにあたっては、従来より周知のアルカリ金属をインターカレートする方法を用いることができる。例えば、アルカリ金属蒸気に原料黒鉛を曝すことにより、アルカリ金属をグラフェン層間にインターカレートすることができる。より具体的には、原料黒鉛と、アルカリ金属とを、減圧下において、アルカリ金属が蒸発し得る温度に加熱し、しかる後冷却する。それによって、原料黒鉛のグラフェン層間にアルカリ金属がインターカレートされ、アルカリ金属−GICを得ることができる。
このようにして得られた、アルカリ金属−GICは、例えば、アルカリ金属がKである場合を例にとると、温度条件によって図7に示すステージ1の構造を有する。すなわち、KC8で表わされるアルカリ金属−GICが得られる。KC8では、隣接するグラフェン層間において、Kがインターカレートされており、1つのKに対し8個のCが配置されていることになる。
次に、アルカリ金属−GICに非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒を接触させる工程を実施する。非酸化性雰囲気としては、酸素を遮断し得る限り特に限定されない。もっとも、Arなどの不活性ガス雰囲気などを用いることが望ましい。それによって酸素を確実に遮断することができる。極性プロトン性溶媒としては水またはアルコールが好ましい。それによってより確実にランダム構造のGICを作製することができる。
例えばアルカリ金属がKであるアルカリ金属−GICの場合、極性プロトン性溶媒である水と接触すると、水を吸収して、金色であるKC8から、黒色に変化する。
本願発明者らは、前述した課題を達成すべく、鋭意検討した結果、非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒をアルカリ金属−GICに接触させれば、ステージ構造が崩れ、規則性のないランダム構造が表れることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
図7〜図9を参照し、アルカリ金属がKの場合のステージ構造を説明する。
ここで、ステージ構造とは、図7〜図9にそれぞれ模式的に示す構造である。図7に示すステージ1では、アルカリ金属がKの場合を例にとると、KC8で表される。ここでは1層のグラフェン層とKとが交互に積層したインターカレート構造となっている。また、図8に示すステージ2では、アルカリ金属がKの場合を例にとると、KC24で表わされる。ここでは、2層のグラフェン層とKとが交互に積層したインターカレート構造となっている。さらに、図9に示すステージ3では、3層のグラフェン層とKとが交互に積層したインターカレート構造となっている。
そして、アルカリ金属−GICを非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒に接触させ、十分に反応させると、上記の各ステージ構造は崩れてランダム構造のGICが得られる。
上記処理により、ステージ1の構造の各グラフェン層がランダムに積層されることになる。また、上記処理により、ステージ2の構造の2層のグラフェンがランダムに積層されることになる。同様に、上記処理により、高次のステージ構造では、そのステージ数に応じた積層数のグラフェン積層体を1ユニットとして、各ユニット同士がランダムに積層されることになる。すなわち、本発明におけるランダム構造のGICとは、上記ステージ数に応じた積層数のグラフェン積層体を1ユニットとした場合、各ユニット同士が規則性を有しないようにランダムに積層されている構造を有するGICである。従って、XRDスペクトルにおいて、黒鉛やアルカリ金属−GICのステージ1〜3のような構造由来のピークがほとんど表れない。
上記反応時間については特に限定されないが、非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒と接触させると瞬時にステージ構造が崩れる。そして、各ステージ構造に特有の色が失われ、黒色となる。よって、反応時間は瞬時〜1時間程度とすればよい。
後述する実施例1及び実施例2から明らかなように、この極性プロトン性溶媒と接触すると、黒鉛におけるグラフェンの積層の規則性が失われ、各ステージ構造に応じたユニットがランダムに積層したランダム構造のGICが得られる。
また、上記のようにして極性プロトン性溶媒を非酸化性雰囲気下でアルカリ金属−GICに接触させた後に、ランダム構造となったアルカリ金属−GICを酸素含有雰囲気下に曝してもよい。
その結果、例えばアルカリ金属がKの場合、極性プロトン性溶媒と未反応のKと酸素との間で下記の反応が生じ、KOが生成されると考えられる。
4K+O→2K
上記のようにして得られたランダム構造GICでは、Kが酸化されることはあっても、グラフェン自体は酸化されることがない。グラフェンが酸化過程を経ないので最終的に得られたランダム構造のGICは酸化度が低く、疎水性である。よって、疎水性分散媒に分散させ、分散体を容易に得ることができる。上記分散媒としては、非極性の有機溶媒を好適に用いることができる。このような非極性の有機溶媒としては、ヘキサン、トルエン、キシレンなどを挙げることができる。また、界面活性剤を有する親水性の溶媒にランダム構造のGICを分散させ、分散体を容易に得ることもできる。
このような界面活性剤は特に限定されないがアニオン性、カチオン性、ノニオン性の界面活性剤から適宜選択して用い得る。極性の溶媒としては水を含む溶媒が用いられ得る。
本発明ではランダム構造GICが上記分散媒に分散されているランダム構造GIC分散体が提供される。このようなランダム構造GIC分散体は、分散媒にランダム構造GICが分散されている状態であるため、超音波やせん断等の公知の剥離処理に優位に提供することができる。従って、超音波処理やせん断処理による公知の剥離工程を実施することにより、積層数が少ない薄片化黒鉛やグラフェンライク炭素材料が分散した分散液を容易に得ることができる。また、薄片化黒鉛やグラフェンライク炭素材料が分散した分散液から薄片化黒鉛やグラフェンライク炭素材料を抽出するには、ろ過や遠心洗浄、乾燥といった既存の方法を用いることができる。しかも、前述したように、グラフェンが酸化過程を経ないため、導電性や熱伝導性に優れた薄片化黒鉛やグラフェンライク炭素材料を得ることができる。
(薄片化黒鉛分散液の製造方法)
本発明に係る薄片化黒鉛分散液の製造方法では、まず、上記本発明に係るランダム構造GICの製造方法により得られたランダム構造GICを用意する。
次に、上記ランダム構造GICを、無極性溶媒または極性溶媒に添加する。無極性溶媒または極性溶媒は特に限定されないが、極性溶媒としては水またはアルコールが好適に用いられる。また、極性溶媒としては、界面活性剤や水溶性ポリマーを含有した水溶液を用いてもよく、より好ましくは、陰イオン界面活性剤を含有した水溶液が用いられる。極性溶媒として陰イオン界面活性剤を含有した水溶液を用いた場合を例にとると、上記ランダム構造GICを陰イオン界面活性剤水溶液に添加する。次に、陰イオン界面活性剤水溶液にランダム構造GICが添加されている状態で、剥離処理を行う。それによって、薄片化黒鉛を得る。
上記陰イオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリルリン酸カリウム、デカン酸ナトリウムなどを用いることができる。好ましくは、ラウリル硫酸ナトリウムが好適に用いられる。ラウリル硫酸ナトリウム水溶液を用いることにより、後述するように、細長いテープ状の薄片化黒鉛や面積の大きな積層数の少ない薄片化黒鉛を容易に得ることができる。
上記水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアリルアミンなどを用いることができる。
上記ラウリル硫酸ナトリウムを含む溶媒(好ましくはラウリル硫酸ナトリウム水溶液)の濃度は、0.1重量%以上、10重量%以下とすることが望ましい。この範囲内であれば、本発明に従って、薄片化黒鉛をより一層安定に得ることができる。より好ましくは、ラウリル硫酸ナトリウムを含む溶媒の濃度は、2重量%以上、4重量%以下の範囲とされ、この場合には、細長いテープ状の薄片化黒鉛を安定に得ることができる。また、細長い複数のテープ状の薄片化黒鉛の主面同士が重なるようにしてネットワーク状態で集合されている薄片化黒鉛も安定に得ることができる。上記ラウリル硫酸ナトリウムを含む溶媒の濃度は、該溶媒100重量%中のラウリル硫酸ナトリウムの含有量である。
上記剥離処理としては、超音波を加える方法、攪拌、高周波誘導などの方法を用いることができる。より好ましくは、超音波を加える方法が好適に用いられ、その場合には、本発明に従って、積層数の少ない薄片化黒鉛が分散されている薄片化黒鉛分散液を安定に得ることができる。
本発明に係る薄片化黒鉛分散液の製造方法では、上記剥離処理により、積層数が少ない薄片化黒鉛が分散されている薄片化黒鉛分散液を得ることができる。この分散液から薄片化黒鉛を抽出することにより、薄片化黒鉛を得ることができる。抽出方法は特に限定されず、自然乾燥や真空乾燥などの乾燥処理、遠心洗浄やろ過による固液分離などの方法を用いることができる。
なお、界面活性剤を含有した水溶液を用いずに、剥離処理を行った場合は、剥離したグラフェン同士が再スタックすることにより、黒鉛が再度生成されるため、効率よく薄片化黒鉛を製造することができない。本発明で得られた薄片化黒鉛は、酸化されていないため、グラフェンが凝集や再スタックをするからである。
本発明により得られた薄片化黒鉛は、上記ランダム構造GICを原料として剥離処理により得られるものである。従って、薄片化黒鉛を得る工程において、上述したようにグラフェンが酸化されない。従って、熱伝導性や導電性に優れた薄片化黒鉛を得ることができる。
また、本発明により得られた薄片化黒鉛は、好ましくは、長さ方向を有し、細長いテープ状の形状を有する。この場合には、長さ方向にわたり、優れた熱伝導性や導電性が発現される。また、上記複数のテープ状の薄片化黒鉛が、その面同士が重なり合うようにして集合されているネットワーク構造の薄片化黒鉛では、薄片化黒鉛同士の接触面積が大きい。従って、カーボンナノチューブやカーボンファイバーの集合体に比べ、導電性や熱伝導性をより一層高めることができる。
なお、上記細長いテープ状の薄片化黒鉛とは、より具体的には、長さをL、幅をW、厚みをTとしたとき、これらの関係が下記の範囲にあるものをいうものとする。
L>5WかつW>5Tであり、より好ましくはL>10WかつW>5Tである。
上記のようなテープ状の薄片化黒鉛を得るには、例えば、陰イオン界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムを含むラウリル硫酸ナトリウム水溶液の濃度を2〜4重量%とすれば、テープ状の薄片化黒鉛が得られることが確認されている。
本発明に係る薄片化黒鉛は、テープ状の形状に限らず、六角形状を有し、対抗する辺同士の間隔が10μm以上であるものであってもよい。六角形状を有する黒鉛はCVD法でも作製できるが、CVD法で作製できる六角形状のグラフェンは対向する辺同士の間隔が5μm以下であるのに対し、本発明で得られる薄片化黒鉛の辺同士の間隔は、特に限定されないが、10μmより大きい。このような形状の薄片化黒鉛は、例えば陰イオン界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム水溶液を用いる場合、該ラウリル硫酸ナトリウム水溶液の濃度を、後述の実施例5のように5重量%以上とすればよい。
次に、具体的な実施例につき説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
原料黒鉛として膨張黒鉛(東洋炭素社製、品番:PF8)0.1gと、カリウムK1.5gとを気密封止し得るガラスセルに投入した。なお、原料のカリウムとしては、塊状カリウムから必要量切り出し、石油エーテルにより表面洗浄処理したものを用いた。
上記ガラスセルの開口部から真空吸引しつつガラスセルを封止した。このようにしてガラスアンプルを構成した。このガラスアンプルを350℃の温度で48時間、管状炉で加熱した。昇温速度は350℃/1時間とした。しかる後、自然放冷によりガラスアンプルを冷却した。冷却後にガラスアンプルを管状炉から取り出し、内部の粉末の外観を観察した。内部の粉末は、金色を呈していた。グローブボックス内をアルゴンガス雰囲気下とし、グローブボックス内でガラスアンプルを割り、内部の粉末を取り出して、少量を分け取り気密セルを用いてアルゴンガス雰囲気を維持したままXRDスペクトルを測定した。図1に示す結果が得られた。
図1から明らかなように、上記のようにして得られた粉末では、黒鉛由来の26.4度のピークは消失していることがわかる。代わりに、KC8由来の16.6度のピーク、33.5度のピーク及び45.7度のピークが表れていることがわかる。16.6度のピークは、KC8の(001)回折線のピークと考えられる。33.5度のピークは、KC8の(002)回折線のピークと考えられる。45.7度のピークは、KC8の(003)回折線のピークと考えられる。従って、上記のようにして得られた粉末は、ステージ1の構造を有するKC8であることが確認できた。
次に、グローブボックス内に残った上記のようにして得られたKC8の構造を有する粉末0.1gに水を0.2g添加した。その結果、1〜2秒の内に粉末が黒色に変化した。
上記のようにして得られた黒色の粉末を上記グローブボックス内において気密セル内にセットした。そして、アルゴンガス雰囲気を維持したままXRD測定を行った。結果を図2に示す。図2から明らかなように、気密セル開放前の状態では、KC8に由来する16.6度、33.5度及び45.7度のピークが消失していることがわかる。また、黒鉛由来の26.4度のピークも消失していることがわかる。従って、ランダム構造GICが得られていることがわかる。
次に、上記XRD測定後に気密セルを空気に対して開放し、開放直後に再度XRDスペクトルを測定した。加えて、気密セルを開放した後、22時間後に再度XRD測定を行った。
上記気密セルを開放した直後、及び22時間後と時間が経つにつれ、28度付近のピークが大きくなっていることがわかる。この28度付近のピークは、KO(200)の面に基づくピークであると考えられる。すなわち、セルを開放することにより、グラフェン間に残っていた未反応のKが空気中の酸素と接触し、KOが生成したものと考えられる。いずれにしてもグラフェンの積層構造の規則性に基づくピークは確認できず、ランダム構造のGICが得られていることがわかる。
上記のようにして得られたランダム構造GICである粉末0.1gをエタノール20mLに分散させ、超音波処理を施し、分散体としての分散液を得た。この分散液をスライドガラスに塗布し、エタノールを加熱により蒸発させ、乾燥した。得られた膜のXRDスペクトルを図3に示す。
比較のために、従来の酸化グラフェン膜のXRDスペクトルを図4に示す。この従来の酸化グラフェン膜は、周知のハマーズ法で得られた酸化グラフェンの水分散液から水を蒸発させることにより得られたものである。
図3から明らかなように、実施例1で得られたランダム構造GIC分散体からエタノールを蒸発させて得られた膜では、26.4度付近に元の黒鉛由来のピークが表れていることがわかる。すなわち、グラフェンが酸化していないため、グラフェン同士がπ−πスタックを引き起こし、黒鉛由来のピークが復活しているものと考えられる。
他方、図4では、酸化黒鉛由来のピークが表れていることがわかる。
従って、実施例1では、酸化していないグラフェンを含むランダム構造GICが得られていることがわかる。
(実施例2)
原料黒鉛として膨張黒鉛に代えて、天然黒鉛(SECカーボン社製、天然黒鉛粉末、品番:SN100)を用いた以外は、実施例1と同様にして、KC8の構造の粉末を作製した。実施例2においても金色の粉末が得られ、KC8由来のピークがXRDスペクトルにより確認できた。結果を図5に示す。図5から明らかなように天然黒鉛を用いた実施例2においてもKC8に由来する16.6度、33.6度及び45.5度のピークが確認された。また、黒鉛由来の26.4度のピークは消失していた。
次に、得られたKC8の構造の金色の粉末を実施例1と同様にアルゴンガス雰囲気下において水と接触させた。その結果、実施例2においても、色が黒色に変化した。
上記のように黒色に変化した粉末について実施例1と同様にグローブボックス内で気密セルにセットし、アルゴン雰囲気を維持したままXRD測定を行った。しかる後、気密セルを開放し、上記黒色の粉末を空気と接触させ、気密セル開放直後及び気密セル開放から20時間後にXRD測定を行った。結果を図6に示す。
図6から明らかなように、天然黒鉛を用いた実施例2においても、実施例1と同様に、水と接触されることにより、KC8由来のピークが消失しており、ランダム構造のGICが得られていることがわかる。もっとも、図6に示すように、気密セル開放前の状態では、26.4度の黒鉛の(002)面のピークが若干確認されている。従って、実施例1に比べると、グラフェンの剥離度は若干低いと考えられる。これは、第2ステージ構造のKC24が混ざっていたためと考えられる。すなわち、カリウムが存在しないグラフェン層間が存在するため、カリウムと水との反応が十分に進行しなかったためと考えられる。従って、水素ガスが発生しない部分において、グラフェン層間の剥離が起きなかった層が生じ、黒鉛由来の26.4度のピークが若干残っているものと考えられる。
もっとも、図6の気密セル開放前の状態においても、上記26.4度のピークはわずかであり、従って、ほぼランダム構造のGICが得られていることがわかる。
また、図6から明らかなように、気密セルを開放した直後、空気と接触されたため、KO由来の28度付近のピークが大きくなっていることがわかる。そして、開放してから22時間経過後においても、KOのピークの大きさはほとんど変わっていないことがわかる。従って、空気と接触させると、直ちに酸素と反応し、KがKOに変化していることがわかる。
(実施例3)
実施例1で得られた粉末状のランダム構造GIC0.1gを、1重量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム水溶液20mLに添加し、さらに水酸化カリウムpHが10となるように添加した。次に、超音波洗浄機、サンパ W−113、本多電子株式会社製を用い、28kHz100wの超音波を10秒間印加した。このようにして、薄片化黒鉛に分散されている分散液を得た。
上記のようにして得られた分散液を、スライドガラスの表面に塗布し、乾燥した。この乾燥されたサンプルを電子顕微鏡により観察した。図10は、得られたサンプルの500倍の走査型電子顕微鏡写真である。図10から明らかなように、細長いテープ状の薄片化黒鉛や、略六角形状の大きな薄片化黒鉛が混在していることがわかる。また、テープ状の薄片化黒鉛が、主面同士が重なるようにネットワーク状に集合されていることもわかる。
図11は、上記サンプルのXRDスペクトルを示す図である。図11から明らかなように、黒鉛由来の26.4度のピークは認められない。また、KC8由来の16度のピークも認められなかった。また、上記XRDスペクトルから、層間距離が約38Åであると推測することができる。
(実施例4)
実施例1で得られた粉末状のランダム構造GIC0.1gを、3重量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム水溶液20mLに添加し、さらに水酸化カリウムをpHが10となるように添加した。次に、超音波洗浄機、サンパ W−113、本多電子株式会社製を用い、28kHz100wの超音波を10秒間印加した。このようにして、薄片化黒鉛に分散されている分散液を得た。
上記のようにして得られた分散液を、スライドガラスの表面に塗布し、乾燥した。この乾燥されたサンプルを電子顕微鏡により観察した。図12は、得られたサンプルの500倍の走査型電子顕微鏡写真である。図12から明らかなように、実施例4では、細長いテープ状の薄片化黒鉛が多数安定に形成されていることがわかる。また、この多数の細長いテープ状の薄片化黒鉛が、主面同士が重なるようにネットワーク状に集合されていることがわかる。
図13は、上記サンプルのXRDスペクトルを示す図である。図13から明らかなように、黒鉛由来の26度のピークは認められない。また、KC8由来の16.6度のピークなども認められなかった。また、上記XRDスペクトルから、層間距離が約38Åであると推測することができる。
(実施例5)
実施例1で得られた粉末状のランダム構造GIC0.1gを、5重量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム水溶液20mLに添加し、さらに水酸化カリウムをpHが10となるように添加した。次に、超音波洗浄機、サンパ W−113、本多電子株式会社製を用い、28kHz100wの超音波を10秒間印加した。このようにして、薄片化黒鉛に分散されている分散液を得た。
上記のようにして得られた分散液を、スライドガラスの表面に塗布し、乾燥した。この乾燥されたサンプルを電子顕微鏡により観察した。図14は、得られたサンプルの500倍の走査型電子顕微鏡写真である。図14から明らかなように、実施例5では、細長いテープ状の薄片化黒鉛が一部見られるものの、多くは、略六角形状の大面積の薄片化黒鉛が得られていることがわかる。
図15は、上記サンプルのXRDスペクトルを示す図である。図15から明らかなように、黒鉛由来の26.4度のピークは認められない。また、KC8由来の16.6度のピークなども認められなかった。また、上記XRDスペクトルから、層間距離が約38Åであると推測することができる。

Claims (18)

  1. アルカリ金属がグラフェン層間にインターカレートされているアルカリ金属−GICを用意する工程と、
    前記アルカリ金属−GICに非酸化性雰囲気下で極性プロトン性溶媒を接触させる工程とを備える、ランダム構造GICの製造方法。
  2. 前記非酸化性雰囲気下が不活性ガス雰囲気下である、請求項1に記載のランダム構造GICの製造方法。
  3. 前記非酸化性雰囲気下で前記極性プロトン性溶媒を接触させる工程の後に、前記アルカリ金属−GICを酸素含有雰囲気下に曝す工程をさらに備える、請求項1または2に記載のランダム構造GICの製造方法。
  4. 前記酸素含有雰囲気が空気中である、請求項3に記載のランダム構造GICの製造方法。
  5. 前記極性プロトン性溶媒が水またはアルコールである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のランダム構造GICの製造方法。
  6. 前記極性プロトン性溶媒が水である、請求項5に記載のランダム構造GICの製造方法。
  7. 前記アルカリ金属として、K、Li、Rb及びCsからなる群から選択された少なくとも1種のアルカリ金属を用いる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のランダム構造GICの製造方法。
  8. 前記アルカリ金属−GICを用意する工程が、アルカリ金属蒸気を黒鉛に真空下で接触させることにより行われる、請求項1〜7のいずれか1項に記載のランダム構造GICの製造方法。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のランダム構造GICの製造方法によりランダム構造GICを得る工程と、
    前記ランダム構造GICに無極性溶媒もしくは極性溶媒を添加する工程と、
    前記無極性溶媒もしくは極性溶媒に前記ランダム構造GICを添加した後に、前記ランダム構造GICが添加された無極性溶媒もしくは極性溶媒中で、前記ランダム構造GICを剥離処理する工程とを備える、薄片化黒鉛分散液の製造方法。
  10. 前記極性溶媒として水もしくは低級アルコールを用いる、請求項9に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法。
  11. 前記極性溶媒が界面活性剤を含む溶媒である、請求項9に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法。
  12. 前記界面活性剤がラウリル硫酸ナトリウムである、請求項11に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法。
  13. 前記ラウリル硫酸ナトリウムを含む溶媒の濃度が0.1重量%以上、10重量%以下の範囲にある、請求項12に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法。
  14. 請求項9〜13のいずれか1項に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法により得られた、薄片化黒鉛分散液。
  15. 請求項14に記載の薄片化黒鉛分散液から溶媒を除去することにより得られた、薄片化黒鉛。
  16. 長さ方向を有し、テープ状の形状を有する、請求項15に記載の薄片化黒鉛。
  17. 前記長さ方向を有する複数の前記テープ状の薄片化黒鉛が、該テープ状の薄片化黒鉛の主面同士が重なるようにしてネットワーク状に集合されている、請求項16に記載の薄片化黒鉛。
  18. 六角形状を有し、対向する辺同士の間隔が10μm以上のものを含む、請求項15に記載の薄片化黒鉛。
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