JPWO2013008428A1 - 蓄電デバイス - Google Patents
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Abstract
本開示の蓄電デバイスは、第1電極(正極20)、第2電極(負極21)及び非水電解液を備えている。第1電極は、キノン骨格を有する有機化合物を活物質として含む。第2電極は、第1電極と反対の極性を有する。非水電解液は、リチウム塩と下記式(1)で表される溶媒とを含む。R−O(CH2CH2O)n−R’・・・(1)[式(1)中、R及びR’は、それぞれ独立して、炭素数1〜5の飽和炭化水素であり、nは2〜6の整数である。]
Description
本発明は、蓄電デバイスに関する。
近年、電子技術の進歩に伴い、携帯電話、携帯型パーソナルコンピュータ、携帯情報端末(PDA、Personal Data Assistance)、携帯型ゲーム機などの携帯型電子機器が急速に普及している。それに伴い、携帯型電子機器の電源として、二次電池などの蓄電デバイスの需要が増大している。中でも、リチウムイオン二次電池は、高い起電力及びエネルギー密度を有し、小型化への対応が比較的容易なことから、携帯型電子機器の電源として広範囲に用いられている。
携帯型電子機器の汎用化のため、携帯型電子機器に対しては、軽量化、小型化、多機能化などの性能向上が要求されている。携帯型電子機器の電源として用いられる電池に対しては、例えば、高エネルギー密度化が要望されている。電池の高エネルギー密度化には、エネルギー密度の高い電極活物質を用いる手法が有力である。従って、正極活物質及び負極活物質の両方に対して、エネルギー密度の高い新規な材料の研究開発が積極的に行われている。
例えば、酸化還元反応を可逆的に起こすことが可能な有機化合物を電極活物質に利用することが検討されている。有機化合物の比重は1g/cm3程度であり、従来から電極活物質として用いられているコバルト酸リチウムなどの無機酸化物よりも軽量である。従って、電極活物質として有機化合物を用いることにより、重量エネルギー密度の高い蓄電デバイスが得られる。また、電極活物質として重金属を含まない有機化合物を使用すれば、希少金属資源の枯渇、資源価格の変動、重金属の漏出による環境汚染などのリスクを軽減することも可能である。
具体的な試みとしては、非水電解質を含むコイン型二次電池において、9,10−フェナントレンキノンを正極活物質として用い、対イオンとしてリチウムイオンを用いることが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の電池において、正極は、9,10−フェナントレンキノンとカーボンなどの導電剤とを含んでいる。正極の対極は金属リチウムからなる。電解質は、1mol/リットルの濃度で過塩素酸リチウムが溶解したプロピレンカーボネート溶液からなる。
しかし、9,10−フェナントレンキノンは電解質(液状電解質)に溶解しやすい。その溶解性は、電解質の成分及び量、並びに電池の構成に大きく依存する。特許文献1には、正極活物質の電解質への溶解については記載されていないが、充放電サイクルに伴って放電容量が低下していることから、正極活物質の電解質への溶解は十分に抑制されていないと考えられる。9,10−フェナントレンキノンを電極活物質として実用化するためには、電解質への溶解を抑制することが不可欠である。
フェナントレンキノン化合物の電解質への溶解を抑制する目的で、フェナントレンキノン骨格を主鎖上に有する高分子化合物を電極活物質に用いることが提案されている(特許文献2及び3参照)。特許文献2は、2,7位で9,10−フェナントレンキノンを重合させた高分子化合物を開示している。特許文献3は、フェニル基、チオフェン基などの芳香族化合物がリンカーとして9,10−フェナントレンキノンの2,7位又は3,6位と結合した高分子化合物を開示している。特許文献2及び3に開示された高分子化合物を電極活物質に用いることで、9,10−フェナントレンキノンの電気化学特性を損なうことなく電解質への溶解を抑制できる可能性がある。
しかし、フェナントレンキノン化合物などのキノン化合物を電極活物質として使用した蓄電デバイスの実用化には、更なる繰り返し特性の改善が必要である。特に、電解液への溶解性が抑制されたキノン化合物を電極活物質に用いる場合、電解質塩と電解質溶媒との適切な組み合わせに関する知見は十分に得られていない。本発明の目的は、キノン骨格を有する有機化合物を電極活物質として用い、高いエネルギー密度と優れた充放電繰り返し特性とを有する蓄電デバイスを提供することにある。
すなわち、本開示は、
キノン骨格を有する有機化合物を活物質として含む第1電極と、
前記第1電極と反対の極性を有する第2電極と、
リチウム塩と下記式(1)で表される溶媒とを含む非水電解液と、
を備えた、蓄電デバイスを提供する。
R−O(CH2CH2O)n−R’・・・(1)
[式(1)中、R及びR’は、それぞれ独立して、炭素数1〜5の飽和炭化水素であり、
nは2〜6の整数である。]
キノン骨格を有する有機化合物を活物質として含む第1電極と、
前記第1電極と反対の極性を有する第2電極と、
リチウム塩と下記式(1)で表される溶媒とを含む非水電解液と、
を備えた、蓄電デバイスを提供する。
R−O(CH2CH2O)n−R’・・・(1)
[式(1)中、R及びR’は、それぞれ独立して、炭素数1〜5の飽和炭化水素であり、
nは2〜6の整数である。]
上記の蓄電デバイスによれば、キノン骨格を有する有機化合物を活物質として第1電極で使用する。これにより、高いエネルギー密度を達成できる。また、リチウム塩と式(1)で表される溶媒とを含む非水電解液を用いることにより、優れた繰り返し特性を達成できる。さらに、キノン骨格を有する有機化合物を活物質として使用することにより、重金属の使用量を減らすことができる又は重金属を使用せずに済む。これにより、希少金属資源の枯渇による資源価格の変動リスク及び重金属の漏洩などの環境リスクを低減することができる。
本発明者らは、キノン化合物を活物質として用いた蓄電デバイスの研究過程で、キノン化合物の充放電反応機構について鋭意検討を行った。その結果、充放電に伴うキノン化合物の容量劣化メカニズムを解明した。具体的には、本発明者らは、キノン骨格を含む分子構造と電解質の組成との組み合わせが蓄電デバイスの繰り返し特性に深く関係していることを見出した。
本開示の第1態様は、
キノン骨格を有する有機化合物を活物質として含む第1電極と、
前記第1電極と反対の極性を有する第2電極と、
リチウム塩と下記式(1)で表される溶媒とを含む非水電解液と、
を備えた、蓄電デバイスを提供する。
R−O(CH2CH2O)n−R’・・・(1)
[式(1)中、R及びR’は、それぞれ独立して、炭素数1〜5の飽和炭化水素であり、
nは2〜6の整数である。]
キノン骨格を有する有機化合物を活物質として含む第1電極と、
前記第1電極と反対の極性を有する第2電極と、
リチウム塩と下記式(1)で表される溶媒とを含む非水電解液と、
を備えた、蓄電デバイスを提供する。
R−O(CH2CH2O)n−R’・・・(1)
[式(1)中、R及びR’は、それぞれ独立して、炭素数1〜5の飽和炭化水素であり、
nは2〜6の整数である。]
第2態様は、第1態様に加え、前記非水電解液が、さらに、鎖状炭酸エステルを含んでいてもよい、蓄電デバイスを提供する。鎖状炭酸エステルを含む非水電解液を用いた蓄電デバイスは、室温及び低温での充放電性能に優れている。非水電解液が耐酸化性に優れているので、4V級の高電圧を発揮できる活物質を用いたとしても、高い信頼性が発揮される。
第3態様は、第1又は第2態様に加え、前記式(1)において、nが3又は4であってもよい、蓄電デバイスを提供する。n=3又は4のとき、式(1)で表されるグリコールジエーテルは、適度な流動性を有するので、溶媒として有利に使用できる。
第4態様は、第1〜第3態様のいずれか1つに加え、1molの前記リチウム塩に対し、前記式(1)で表される溶媒が0.8〜1.5molの範囲で前記非水電解液に含まれていてもよい、蓄電デバイスを提供する。リチウム塩と式(1)で表される溶媒とがこのような割合で非水電解液に含まれていると、リチウム塩の表面電荷密度を下げる効果を十分に得ることができる。
第5態様は、第1〜第4態様のいずれか1つに加え、前記リチウム塩は、イミド塩であってもよい、蓄電デバイスを提供する。イミド塩は、電位に対する安定性及びイオン伝導性の観点で望ましい。
第6態様は、第2態様に加え、1molの前記リチウム塩に対し、前記鎖状炭酸エステルが1〜10molの範囲で前記非水電解液に含まれていてもよい、蓄電デバイスを提供する。
第7態様は、第2態様に加え、1molの前記リチウム塩に対し、前記鎖状炭酸エステルが3〜10molの範囲で前記非水電解液に含まれていてもよい、蓄電デバイスを提供する。
第6及び第7態様のように、リチウム塩と鎖状炭酸エステルとの混合比が適切に調整されていると、非水電解液の粘度を十分に低下させることができる。また、リチウムの濃度が適切に調整されるので、イオン伝導率が低下しにくい。その結果、優れたイオン伝導性を備えた非水電解液を提供できる。
第8態様は、第1態様に加え、溶媒成分として、実質的に、前記式(1)で表される溶媒のみが前記非水電解液に含まれていてもよい、蓄電デバイスを提供する。これにより、リチウムの表面電荷密度を下げる効果を十分に得ることができる。
第9態様は、第1〜第9態様のいずれか1つに加え、前記有機化合物は、高分子化合物であってもよい、蓄電デバイスを提供する。これにより、有機化合物が電解質に溶解することを抑制できる。
第10態様は、第1〜第9態様のいずれか1つに加え、前記キノン骨格がオルトキノン骨格であってもよい、蓄電デバイスを提供する。オルトキノン化合物の反応の可逆性は、パラキノン化合物の反応の可逆性よりも高い。従って、キノン骨格を有する有機化合物において、キノン骨格はオルトキノン骨格であることが望ましい。
第11態様は、第1〜第10態様のいずれか1つに加え、前記有機化合物が、9,10−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン誘導体及び9,10−フェナントレンキノン骨格を主鎖又は側鎖に有する高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい、蓄電デバイスを提供する。これらの化合物を使用すれば、良好な繰り返し特性を有する蓄電デバイスが得られる。
第12態様は、第1〜第10態様のいずれか1つに加え、前記有機化合物が、4,5,9,10−ピレンテトラオン、4,5,9,10−ピレンテトラオン誘導体及び4,5,9,10−ピレンテトラオン骨格を主鎖又は側鎖に有する高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい、蓄電デバイスを提供する。これらの化合物を使用すれば、良好な繰り返し特性を有する蓄電デバイスが得られる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
まず、オルトキノン化合物を電極活物質として用いた場合の反応機構について、下記式(2A)及び(2B)に基づいて説明する。オルトキノン化合物とリチウムイオンとの酸化還元反応は、下記式(2A)及び(2B)に示す2段階反応である。
オルトキノン化合物では、2つのケトン基が互いに隣接して存在し、パラキノン化合物に比べてケトン基の有するマイナスの電荷分布がやや非局在化する。このため、還元反応時に、ケトン基とリチウムイオンとで形成される結合の強さは、パラキノン化合物の共有結合的な非常に強固な結合の場合と比べて小さい。局在化した電荷分布を有するパラキノン化合物では、常に1つのケトン基と1つのリチウムイオンとが1対1で結合する。これに対して、オルトキノン化合物の場合、式(2A)に示す1段階目(1電子)の反応において、2つのケトン基と1つのリチウムイオンとが結合し、式(2B)に示す2段階目(2電子)の反応において、2つのケトン基にリチウムイオンが1つずつ結合する。
すなわち、ケトン基とリチウムイオンとの結合は、マイナス電荷の局在化したケトン基とリチウムイオンとの1対1の結合ではなく、マイナス電荷の非局在化したケトン基2個と2つのリチウムイオンとの2対2の結合となる。その結果、ケトン基とリチウムイオンとの結合力が緩和される。このように、オルトキノン化合物では、パラキノン化合物と比較して、リチウムイオンとケトン基との結合力が緩和され、それにより反応可逆性が向上する。
オルトキノン化合物を電極活物質に用いた蓄電デバイスの充放電試験を行うと、数サイクル程度では顕著な繰り返し特性の劣化は観察されない。しかし、電解液の組成、蓄電デバイスの構成などによっては、50サイクル程度以上の充放電反応を行なうと、繰り返し特性が劣化する場合がある。その劣化メカニズムを解析したところ、特に、2段階目の反応(2B)において充放電反応の可逆性が低下し、その結果、繰り返し特性が劣化する場合があることが判明した。
本発明者らは、繰り返し特性の劣化メカニズムを以下のように推察している。上述したように、1段階目の反応(2A)では、負の極性を有するケトン基と正の電荷を有するリチウムイオンとが2対1で結合を形成する。これに対し、2段階目の反応(2B)では、負の極性を有するケトン基と正の電荷を有するリチウムイオンとが1対1で結合を形成し、1段階目の反応(2A)と比較して強いクーロン力で結合を形成すると考えられる。充放電を行うと、ケトン部位へのリチウムイオンの配位及びケトン部位からのリチウムイオンの脱離が可逆的に繰り返される。しかし、電解液の組成、蓄電デバイスの構成などによっては、充放電を繰り返すことによって徐々にリチウムイオンがケトン部位から外れにくくなる場合がある。その結果、ケトン部位に配位したリチウムイオンが蓄積し、放電容量が低下する。
この結果から、2段階目の反応(2B)で形成されたケトン基とリチウムの1対1の結合を緩和する電解液を用いることで、繰り返し特性に優れた蓄電デバイスを構築できると考えられる。
具体的には、リチウム塩と下記式(1)で表される溶媒とを含む非水電解液を用いることで、1段階目の反応だけでなく、2段階目の反応の可逆性を向上させることができる。式(1)で表される溶媒は、グリコールジエーテル又はグライムと呼ばれる化合物に属する。グリコールジエーテルは、対称又は非対称の低分子エーテルでありうる。
R−O(CH2CH2O)n−R’ (1)
式(1)中、R及びR’は、それぞれ独立して、炭素数1〜5の飽和炭化水素であり、nは2〜6の整数である。
グリコールジエーテル溶媒とその溶媒に溶解したリチウム塩とを含む非水電解液を用いることで優れた繰り返し特性が得られるメカニズムに関して説明する。2段階目の反応(2B)において、オルトキノン化合物は、リチウムとケトン基とが1対1で結合を形成する。そのため、1段階目の反応(2A)と比較して、Li−O結合がより強固で安定なものとなり、その後の充電においてLi−OからC=O基への酸化反応が進行しにくい。これが長期の繰り返し充放電時における容量劣化の要因となっている。そこで、リチウムイオンに対して強い配位能を有するグリコールジエーテル溶媒を含む電解液を用い、リチウムイオンの表面電荷密度を見かけ上低減し、表面電荷密度が低減した状態のリチウムとケトン基とで放電反応によって結合を形成させる。その結果、リチウムとケトンとの1対1の結合状態と比べて容易に解離可能な結合が形成され、繰り返し充放電における可逆性が向上する。
下記式(3A)は、n=4のグリコールジエーテルがリチウムイオンに配位した状態を示している。下記式(3B)は、n=3のグリコールジエーテルがリチウムイオンに配位した状態を示している。
長期の繰り返し特性を改善するには、リチウムの表面電荷密度を下げることが重要である。リチウムの表面電荷密度を下げるためには、リチウムに対して何らかの分子が配位し、配位状態のイオン半径をある程度大きくすることが必要となる。しかし、イオン半径が大きすぎると電解液中でのリチウムの移動度が遅くなり、実用に耐えうる充放電特性を実現できなくなる。実用に耐えうる充放電特性を実現できる溶媒を用いた場合であっても、溶媒によって溶媒和されたリチウムがキノンと円滑に反応できる状態でなければならない。例えば、複数の溶媒分子がリチウムに配位している場合には、ケトン部位とリチウムとの結合形成と、リチウムの脱溶媒和との競争反応が起きる。例えば、エチレンカーボネートは、5分子で1つのリチウムに配位することが知られている。1分子でも脱溶媒和されるとリチウムの表面電荷密度が大きく変化する、すなわち、リチウムの表面電荷密度は増大する。リチウムは、表面電荷密度の大きい状態ではケトン部位に強固に結合し、結果として、優れた繰り返し特性を期待できない。
他方、グリコールジエーテルは、1つの分子内に複数のエーテル結合を有する。そのため、1分子でありながら複数の酸素原子がリチウムに配位することができる。従って、電解液中にリチウムが存在する場合には、1分子のグリコールジエーテルの複数の酸素原子がリチウムに配位する。還元反応時には、このグリコールジエーテルによって配位されたリチウムとケトン部位とが結合を形成する。このとき、複数分子で配位されたリチウムと異なり、グリコールジエーテルによって配位されたリチウムは、その表面電荷密度を大きく変化させることなくケトン部位に配位することができる。この理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。
すなわち、リチウムがケトン部位と結合を形成した放電状態にあっても、グリコールジエーテルが非常に弱い状態でリチウムに配位している、又はグリコールジエーテルの一部の酸素がリチウムに配位していると考えられる。これによって、リチウムの表面電荷密度が見かけ上小さくなった状態(解離しやすい状態)でリチウムがケトン部位に結合する。充電反応時には、ケトン部位の近傍にグリコールジエーテルが存在しており、充電反応によってケトン部位が酸化された場合には、リチウムは瞬時にグリコールジエーテルによって配位される。従って、充電反応時においても、ケトンと結合を形成していたリチウムは、表面電荷密度の大きな変化を伴うことなく、グリコールジエーテルに配位される。
グリコールジエーテルとしては、そのリチウムへの配位性を考慮すると、分子内にエーテル結合を4つ又は5つ有していることが望ましい。すなわち、先の式(1)において、nが3又は4であることが望ましい。n=3又は4のとき、式(1)で表されるグリコールジエーテルは、適度な流動性を有するので、溶媒として有利に使用できる。
式(1)においてn=3のとき、式(1)の物質は「トリグライム」と呼ばれる。式(1)においてn=4のとき、式(1)の物質は「テトラグライム」と呼ばれる。トリグライム及びテトラグライムから選択される少なくとも1つのグライム溶媒が、リチウムに配位することによって錯体を形成する。これにより、グライム溶媒が本来有している耐酸化性を向上させることができる。式(3A)は、テトラグライムがリチウムイオンに配位した状態を示しており、式(3B)は、トリグライムがリチウムイオンに配位した状態を示している。
非水電解液は、グライム溶媒及びリチウム塩に加え、第三成分として鎖状炭酸エステルを含んでいてもよい。これにより電解液の耐酸化性とイオン伝導性とを高度に両立することができる。鎖状炭酸エステルの誘電率が2〜3程度であり、グライム溶媒の誘電率(10程度)に比して大幅に低い。そのため、鎖状炭酸エステルがグライム溶媒とリチウムイオンとの錯体構造を壊さず、錯体構造が安定化する。これにより、電解液の耐酸化性が向上する。また、鎖状炭酸エステルの粘度が低いため、鎖状炭酸エステルを非水電解液に加えることで、非水電解液の粘度を低下させることができる。これにより、グライム溶媒とリチウムイオンとの錯体が拡散しやすくなり、電解液のイオン伝導性が向上する。特に、室温及び0℃以下の低温でイオン伝導性の向上が顕著である。
一方、第三成分として環状炭酸エステルを使用すると、イオン伝導性は向上するものの耐酸化性が低下する可能性がある。代表的な環状炭酸エステルであるプロピレンカーボネート(PC)及びエチレンカーボネート(EC)の誘電率は、それぞれ60、90程度であり、グライム溶媒の10程度の誘電率に比して格段に高い。そのため、環状炭酸エステルがリチウムイオンに対して優先的に配位し、グライム溶媒とリチウムイオンとの錯体構造の形成が妨げられる。つまり、非水電解液中にフリーなグライム溶媒が生成してしまうため、グライム溶媒が酸化しやすくなり耐酸化性が低下する。従って、第三成分としては、鎖状炭酸エステルが望ましい。
非水電解液に含まれるリチウム塩としては、6フッ化リン酸塩(PF6-)、4フッ化ほう酸塩(BF4-)などの含フッ素化合物塩、過塩素酸塩(ClO4-)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド(N(SO2CF3)2-)、ビスパーフルオロエチルスルホニルイミド(N(SO2C2F5)2-)、ビスフルオロメチルスルホニルイミド(N(SO2F)2-)などのイミド塩が挙げられる。電位に対する安定性及びイオン伝導性の観点から、イミド塩を用いることが好ましい。
リチウム塩とグライム溶媒との混合比は、リチウム塩に対するグライム溶媒の配位数を考慮して決定することができる。例えば、1molのリチウム塩に対し、グライム溶媒が0.8〜1.5molの範囲で非水電解液に含まれている。好ましくは、1molのリチウム塩に対し、グライム溶媒が0.85〜1.25molの範囲で非水電解液に含まれることである。リチウム塩とグライム溶媒との混合比が適切に調整されていると、リチウム塩を十分に乖離させることができる。また、リチウムに配位しないフリーなグライム溶媒の生成が妨げられる。その結果、優れたイオン伝導性及び耐酸化性を備えた非水電解液を提供できる。
リチウム塩と鎖状炭酸エステルとの混合比は特に限定されない。1molのリチウム塩に対し、鎖状炭酸エステルが1〜10molの範囲で非水電解液に含まれることが好ましく、鎖状炭酸エステルが3〜10molの範囲で非水電解液に含まれることがより好ましく、さらに好ましくは鎖状炭酸エステルが3〜5molの範囲で非水電解液に含まれることである。リチウム塩と鎖状炭酸エステルとの混合比が適切に調整されていると、非水電解液の粘度を十分に低下させることができる。また、リチウムの濃度が適切に調整されるので、イオン伝導率が低下しにくい。その結果、優れたイオン伝導性を備えた非水電解液を提供できる。
非水電解液の粘性を効率的に低下させるという観点から、鎖状炭酸エステルとして、直鎖状炭酸エステルを用いることが好ましい。ここで、「直鎖状」とは、炭素原子及び酸素原子からなる主骨格が枝分かれせずに直線状に連なっているものを意味する。また、鎖状炭酸エステルを構成する炭素数は、10以下であることが好ましい。10以下の炭素数の鎖状炭酸エステルは、分子量が小さいため分子間力も小さく、非水電解液の粘性を低下させやすいからである。このような鎖状炭酸エステルとしては、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、又はこれらのアルキル基の一部がハロゲンで置換されたものを用いることができる。
次に、本実施形態の蓄電デバイスに好適に使用できる電極活物質について説明する。
リチウムの表面電荷密度を下げることによって反応の可逆性を向上させる効果は、オルトキノン化合物に限らず、パラキノン化合物においても得ることができる。従って、本発明の蓄電デバイスの電極活物質としてパラキノン化合物を使用することも可能である。ただし、パラキノン化合物では、2つのケトン基が離れた状態で存在する。そのため、パラキノン化合物における1段階目の反応の電位(リチウム基準)は2〜3Vと高いが、2段階目の反応の電位は、約1.0V程度と低い。そのため、パラキノン化合物を使用した蓄電デバイスにおいて、電圧が大きく低下することから、2段階目の反応を使用することは用途によっては困難である。また、パラキノン化合物では、2つのケトン基が離れて存在し、電荷分布が局在化する。そのため、パラキノン化合物の反応の可逆性は、オルトキノン化合物の反応の可逆性に比べて低い。従って、キノン骨格を含む電極活物質としては、オルトキノン化合物が好適である。すなわち、キノン骨格を有する有機化合物において、キノン骨格はオルトキノン骨格であることが好ましい。
本明細書において、オルトキノン化合物とは、分子内で互いに隣り合う2つの炭素によって形成された2つのケトン基を含むキノン化合物を意味する。オルトキノン化合物として、下記式(4)で表される化合物を使用できる。
式(4)中、R1〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子などのハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R1〜R8で示される各基は、置換基として、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子及び珪素原子からなる群より選択される少なくとも1つの原子を含む基を有していてもよい。
式(4)で表される化合物は、9,10−フェナントレンキノン又はその誘導体である。R1〜R8が充放電反応に大きな影響を与えない限りにおいて、9,10−フェナントレンキノンの基本骨格(9,10−フェナントレンキノン骨格)を分子内に含む有機化合物を電極活物質として好適に使用できる。また、式(4)で表される化合物は、重合体を構成していてもよい。この場合、R1〜R8のうち、任意の1つ又は2つは隣接する分子、例えば、隣接するキノン骨格又は適切なリンカーと結合を形成することができる。このように、キノン骨格を有する有機化合物としては、9,10−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン誘導体及び9,10−フェナントレンキノン骨格を主鎖又は側鎖に有する高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを好適に使用できる。
また、互いに隣接した3つのケトン基を分子内に有するオルトキノン化合物として、下記式(5)で表される化合物(いわゆるトリケトン化合物)を使用できる。
式(5)中、R11〜R14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4の炭化水素基を示す。ハロゲン原子としては、分子量の観点でフッ素が好ましい。複素環基としては、例えば、異種原子として硫黄を含む5員又は6員の複素環化合物の残基が挙げられる。式(5)で表される化合物も重合体を構成しうる。この場合、R11〜R14のうち、任意の1つ又は2つは隣接する分子、例えば、隣接するキノン骨格又は適切なリンカーと結合を形成することができる。
また、4つのケトン基を分子内に有するオルトキノン化合物として、下記式(6)で表される化合物を使用できる。
式(6)中、R21〜R26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4の炭化水素基を示す。ハロゲン原子としては、分子量の観点でフッ素が好ましい。複素環基としては、例えば、異種原子として硫黄を含む5員又は6員の複素環化合物の残基が挙げられる。式(6)で表される化合物も重合体を構成しうる。
式(6)で表される化合物は、4,5,9,10−ピレンテトラオン又はその誘導体である。R21〜R26が充放電反応に大きな影響を与えない限りにおいて、4,5,9,10−ピレンテトラオンの基本骨格(4,5,9,10−ピレンテトラオン骨格)を分子内に含む有機化合物を電極活物質として好適に使用できる。また、式(6)で表される化合物は、重合体を構成していてもよい。この場合、R21〜R26のうち、任意の1つ又は2つは隣接する分子、例えば、隣接するキノン骨格又は適切なリンカーと結合を形成することができる。このように、キノン骨格を有する有機化合物としては、4,5,9,10−ピレンテトラオン、4,5,9,10−ピレンテトラオン誘導体及び4,5,9,10−ピレンテトラオン骨格を主鎖又は側鎖に有する高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを好適に使用できる。
電極活物質としてのキノン化合物は、高分子化合物であることが好ましい。これにより、電極活物質の電解質への溶解を抑制することができる。電解液にグライム溶媒が含まれている場合、リチウムイオンにグライム溶媒が配位して錯体構造が形成される。この場合、カチオンのサイズが見かけ上大きくなり、それによって電解液への有機化合物の溶解が助長される可能性がある。従って、電解液に溶けにくい高分子化合物を電極活物質として使用することが推奨される。
特に、キノン骨格を含む反応部位と酸化還元反応に寄与しないリンカーとによって形成された高分子化合物を電極活物質として好適に使用できる。リンカーは、反応部位と反応部位との間に配置されうる。リンカーの存在により、複数の反応部位同士の電子的な反発による反応電子数の低下が抑制される。これにより、蓄電デバイスのエネルギー密度を高めることができる。
電極活物質として用いられる高分子化合物の分子量は、例えば、重量平均分子量で500〜100000程度である。重量平均分子量が1500程度以上であれば、電解質への溶解を抑制する効果を十分に得ることができる。
繰り返し単位の中に2つのケトン基が含まれたオルトキノン化合物としては、下記式(7)〜(10)で表される高分子化合物が挙げられる。式(7)〜(10)において、n、mは、それぞれ、繰り返し単位の数を表す整数である。式(10)において、記号*は、ある繰り返し単位と他の繰り返し単位との結合を表す。
式(7)〜(10)に示すように、キノン骨格は、高分子化合物の主鎖を構成していてもよいし、高分子化合物の側鎖を構成していてもよい。
繰り返し単位の中に4つのケトン基が含まれたテトラケトン化合物としては、下記式(11)で表される高分子化合物が挙げられる。n、mは、それぞれ、繰り返し単位の数を表す整数である。式(11)において、記号*は、ある繰り返し単位と他の繰り返し単位との結合を表す。
キノン骨格を含む繰り返し単位と、キノン骨格を含まない繰り返し単位(リンカー)とを有する高分子化合物は、ブロック共重合体、交互共重合体及びランダム共重合体のいずれであってもよい。
キノン骨格を含む繰り返し単位を有する電極活物質の合成は、例えば、次のようにして行われる。まず、反応部位となるキノン化合物のケトン部位に保護基を導入する。保護基としては、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、tert−ブチルジメチルシリル(TBS又はTBDMS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、tert−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)などが挙げられる。さらに、保護基を導入した後のキノン化合物にボロン酸基を導入する。詳細には、リンカーと結合させる部位にボロン酸基を導入する。
一方、リンカーとなる化合物にもヨウ素などのハロゲンを導入する。詳細には、キノン化合物と結合させる部位にハロゲンを導入する。そして、キノン化合物とリンカーとなる化合物とをパラジウム触媒の存在下でカップリングさせる。その後、保護基を脱離させる。これにより、キノン骨格を含む繰り返し単位を有する電極活物質が得られる。
また、キノン骨格を含む繰り返し単位を有する電極活物質を合成する別の方法もある。まず、リンカーとなる化合物のパラ位をヨウ素で置換してヨウ化化合物を得る。次に、反応部位となるキノン化合物の一部をボロン酸基などで置換して有機ホウ素化合物を得る。ボロン酸基を有する有機ホウ素化合物は、反応部位となるキノン化合物であって、置換基としてヨウ素を有するキノン化合物にtert−ブチルリチウム、2−イソプロピル−4,4,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキソボランなどを反応させることにより得られる。
さらに、ヨウ化化合物と有機ホウ素化合物とをクロスカップリングさせる。これにより、キノン骨格を含む繰り返し単位を有する電極活物質が得られる。クロスカップリングは、例えば、鈴木−宮浦クロスカップリングに従って、パラジウム触媒の存在下で実施される。
合成工程数が少ないこと、合成が容易であること、合成物として高純度の化合物が得られることを考慮すれば、電極活物質を合成する方法としては後者の方法が望ましい。
なお、合成反応は、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気又は非酸化性雰囲気中にて行われる。また、各工程で得られた目的物に対し、ろ過、遠心分離、抽出、クロマトグラフィー、濃縮、再結晶、洗浄などの一般的な単離操作又は精製操作を行うことにより、最終的に得られる反応混合物中から電極活物質を容易に単離できる。
また、合成法によっては繰り返し数nが互いに異なる複数の重合体の混合物が得られることがある。このような混合物については、各繰り返し数の重合体の含有割合に応じて平均繰り返し数、すなわち、平均重合度が求められる。平均繰り返し数は、従来から知られている重合体の混合物と同様に、整数ではなく、小数になることがある。
次に、本発明の蓄電デバイスの構造の一例を説明する。図1は、蓄電デバイスの一実施形態であるコイン型電池を示す模式的な断面図である。
図1に示すように、コイン型電池10は、正極20(第1電極又は第2電極)、負極21(第2電極又は第1電極)、正極20と負極21との間に配置されたセパレータ14、及び非水電解質(非水電解液)を含む。電池10は、さらに、ケース11、封口板15及びガスケット18を備えている。正極20、負極21及びセパレータ14によって構成された電極群は、ケース11の中に収められている。ガスケット18及び封口板15でケース11が閉じられている。
正極20及び負極21の一方に電極活物質としてのキノン化合物が含まれている。キノン化合物を正極20及び負極21の一方に用いる場合、他方には、蓄電デバイスの電極活物質として従来から使用されている材料を使用できる。
正極20は、正極集電体12及び正極集電体12の上に形成された正極活物質層13とで構成されている。正極活物質層13はセパレータ14に接している。
正極集電体12としては、アルミニウム、ステンレス鋼、アルミニウム合金などの金属材料で作られた多孔質又は無孔のシート又はフィルムを使用できる。シート又はフィルムとして、金属箔、メッシュなどが用いられる。抵抗値の低減、触媒効果の付与、正極活物質層13と正極集電体12とを化学的又は物理的に結合させることによる正極活物質層13と正極集電体12との結合強化のため、正極集電体12の表面にカーボンなどの炭素材料を塗布してもよい。
正極活物質層13は、正極集電体12の少なくとも一方の表面に設けられている。正極活物質層13は、正極活物質を含み、必要に応じて、電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、結着剤などを含んでいてもよい。
正極活物質層13は、正極集電体12の表面に正極合剤スラリーを塗布し、その後、塗膜を乾燥及び圧延することによって形成されうる。正極合剤スラリーは、正極活物質を含み、必要に応じて電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、結着剤、増粘剤などを有機溶媒に溶解又は分散させることにより調製できる。
正極活物質(第1活物質)としてキノン化合物を用いる場合、負極活物質(第2活物質)には、例えば、リチウムイオンを吸蔵及び放出しうる材料が用いられる。リチウムイオンを吸蔵及び放出しうる材料としては、炭素、黒鉛化炭素(グラファイト)、非晶質炭素などの炭素材料;リチウム金属;リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物などのリチウム化合物;Si;Si酸化物、Si合金などのSi化合物;Sn;Sn酸化物、Sn合金などのSn化合物などが挙げられる。負極活物質は、これらの材料の混合物であってもよい。
正極活物質としてキノン化合物を用い、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出しうる材料を用い、電解質としてリチウムカチオン及びアニオンからなるリチウム塩とポリエーテル溶媒(グリコールジエーテル溶媒)とを含む非水電解質を用いて蓄電デバイスを構成するのが好ましい。
電子伝導補助剤及びイオン伝導補助剤は、電極抵抗を低減するために用いられる。電子伝導補助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラックなどの炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物が挙げられる。イオン伝導補助剤としては、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸メチルなどのゲル電解質、ポリエチレンオキシドなどの固体電解質が挙げられる。
結着剤は、例えば、電極を構成する材料の結着性を向上するために用いられる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミドなどが挙げられる。
負極21は、負極集電体17及び負極集電体17の上に形成された負極活物質層16で構成されている。負極活物質層16はセパレータ14に接している。
負極集電体17としては、正極集電体12と同じ材料に加えて、銅、ニッケル、銅合金、ニッケル合金などの金属材料で作られた多孔質又は無孔のシート又はフィルムを使用できる。正極20と同じように、抵抗値の低減、触媒効果の付与、負極活物質層16と負極集電体17との結合強化のため、負極集電体17の表面に炭素材料を塗布してもよい。
負極活物質層16は、負極集電体17の少なくとも一方の面に設けられている。負極活物質層16は、負極活物質を含み、必要に応じて、電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤、結着剤などを含んでいてもよい。
キノン化合物を負極活物質として用いる場合、正極活物質には、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4などのリチウム含有金属酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)などの遷移金属のリン酸塩、五酸化バナジウム(V2O5)などの遷移金属酸化物、活性炭、酸化還元可能な有機化合物などが用いられる。酸化還元可能な有機化合物としては、テトラチアフルバレン環に代表される分子内にπ電子共役雲を有する有機化合物、ニトロキシラジカルに代表される分子内に安定ラジカルを有する有機化合物などが挙げられる。負極活物質層16の電子伝導補助剤、イオン伝導補助剤及び結着剤としては、正極活物質層13に含まれたものと同じ材料を使用できる。
セパレータ14には、例えば、所定のイオン透過度、機械的強度、及び絶縁性を有する微多孔性のシート又はフィルムが用いられる。織布又は不織布をセパレータ14として用いることもできる。セパレータ14には、各種樹脂材料が用いられるが、耐久性、シャットダウン機能、及び電池10の安全性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。なお、シャットダウン機能とは、電池の発熱量が大幅に増大した際に貫通孔が閉塞し、それによりイオンの透過が抑制され、電池反応を遮断する機能である。
非水電解液は、正極20、負極21及びセパレータ14に含浸されている。非水電解液として、リチウムイオンとアニオンとの塩(電解質塩)をグリコールジエーテル溶媒に溶かしたものを使用できる。
アニオンとしては、例えば、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、4ホウフッ化物アニオン、トリフルオロリン6フッ化物アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオンなどが挙げられる。アニオンは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。支持塩としては、リチウムイオン及び上記アニオンからなるリチウム塩が好ましい。
溶媒としては、グリコールジエーテルを単独で使用することもできるし、グリコールジエーテルと他の非水溶媒との混合溶媒を使用することもできる。グリコールジエーテルとしては、例えば、ジグライム(一般式(1)においてn=2、ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグライム(一般式(1)においてn=3、トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグライム(一般式(1)においてn=4、テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、これらの誘導体を用いることができる。リチウムイオンへの配位性の観点から、トリグライム、テトラグライムが好ましく、特にテトラグライムが好適に用いられる。
グリコールジエーテルと他の非水溶媒との混合溶媒を使用する場合、他の非水溶媒としては、リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシタに用いられる公知の有機溶媒を使用できる。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどの有機溶媒を他の非水溶媒として使用できる。他の非水溶媒として、上記の有機溶媒を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
電池10の非水電解液には、溶媒成分として、実質的に、式(1)で表される溶媒のみが含まれていてもよい。これにより、リチウムの表面電荷密度を下げる効果を十分に得ることができる。
1molのリチウム塩に対し、式(1)で表される溶媒が、例えば0.8〜1.5mol(好ましくは0.9〜1.2mol)の範囲で非水電解液に含まれている。リチウム塩とグリコールジエーテルとがこのような割合で非水電解液に含まれていると、リチウムの表面電荷密度を下げる効果を十分に得ることができる。後述する実施例では、両者のモル比が1:1である。また、リチウム塩に対するグリコールジエーテルのモル比が1より大きい場合、電解液中においてグリコールジエーテルがリチウムに容易に配位できるものと考えられるので、本発明の効果をより確実に得ることができる可能性がある。
蓄電デバイスの他の例としては、キノン化合物を用いた電極と活性炭を含む対極とを備えたキャパシタが挙げられる。
キノン化合物に代えて又はキノン化合物とともに、電極活物質として、他の有機化合物を使用できる可能性がある。例えば、スルフィドなどの有機硫黄化合物、キノン化合物のキノン部位がC(CN)2もしくはN(CN)で置換されたシアノ基を有するキノン変性化合物、又はポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子化合物、これらの化合物の誘導体などを電極活物質として使用できる。また、複数の有機化合物の組み合わせを正極活物質又は負極活物質として使用してもよい。
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
(実施例1)
正極活物質としてオルトキノン化合物を用い、負極活物質としてリチウム金属を用いたコイン型電池を以下の方法で作製した。
正極活物質としてオルトキノン化合物を用い、負極活物質としてリチウム金属を用いたコイン型電池を以下の方法で作製した。
(1)正極活物質の作製
下記式(12)に従い、3,6−ジブロモ−9,10−フェナントレンキノンとベンゼン−1,4−ジボロン酸とを鈴木−宮浦カップリング反応で反応させることにより、フェナントレンキノン重合体(物質名:ポリ[(9,10−フェナントレンキノン−3,6−ジイル)−co−1,4−フェニレン])を合成した。
下記式(12)に従い、3,6−ジブロモ−9,10−フェナントレンキノンとベンゼン−1,4−ジボロン酸とを鈴木−宮浦カップリング反応で反応させることにより、フェナントレンキノン重合体(物質名:ポリ[(9,10−フェナントレンキノン−3,6−ジイル)−co−1,4−フェニレン])を合成した。
具体的には、まず、3,6−ジブロモ−9,10−フェナントレンキノン(549mg,1.5mmol)とベンゼン−1,4−ジボロン酸(249mg,1.5mmol)とをジオキサン8.0mlに溶解した。得られた溶液にPd2(dba)3・CHCl3(47mg,0.045mmol)、トリス(o−トリル)ホスフィン28mg(0.090mmol)、炭酸カリウム621mg(4.5mmol)及び水1.0mlを加えた。得られた溶液をアルゴン雰囲気下、80℃で終夜加熱した。反応終了後、室温に戻してから反応液を濾過し、得られた固体を水と酢酸エチルで洗浄し、さらにクロロホルムで洗浄した。真空乾燥後、403mg(収率95%)のフェナントレンキノン重合体がエンジ色の固体として得られた。得られた重合体の重量平均分子量は5700、数平均分子量は2800であった。重量平均分子量から、平均重合度nを算出すると、およそ20であった。赤外吸収分光分析を行い、以下の結果を得た。IR(solid):1669,1594,1395,1312,1295,1235cm-1
(2)正極の作製
式(12)のフェナントレンキノン重合体を用いて、正極を作製した。まず、フェナントレンキノン重合体60mgをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)(和光純薬工業社製)900mgに溶解させた。次に、導電助剤であるアセチレンブラック160mg、結着剤であるポリフッ化ビニリデン40mg、NMP1.1gを溶液に加え、混合ペーストを調製した。次に、混合ペーストを厚さ20μmの正極集電体としてのアルミニウム箔上に塗布した。塗膜を温度80℃で1時間乾燥し、約85μmの電極シートを作製した。この電極シートを直径13.5mmの円盤状に打ち抜き、正極を得た。
式(12)のフェナントレンキノン重合体を用いて、正極を作製した。まず、フェナントレンキノン重合体60mgをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)(和光純薬工業社製)900mgに溶解させた。次に、導電助剤であるアセチレンブラック160mg、結着剤であるポリフッ化ビニリデン40mg、NMP1.1gを溶液に加え、混合ペーストを調製した。次に、混合ペーストを厚さ20μmの正極集電体としてのアルミニウム箔上に塗布した。塗膜を温度80℃で1時間乾燥し、約85μmの電極シートを作製した。この電極シートを直径13.5mmの円盤状に打ち抜き、正極を得た。
(3)蓄電デバイスの作製
上記で作製した正極を用いて、図1に示す構造を有するコイン型電池を作製した。まず、正極集電体がケースの内面に接するように、円盤状の正極をケースの中に配置した。次に、正極の上にセパレータとしての多孔質ポリエチレンシートを配置した。次に、非水電解液をケースの中に注入した。非水電解液としては、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドをトリエチレングリコールジメチルエーテルに溶解させたものを用いた。この非水電解液におけるリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドの濃度は50mol%であり、トリエチレングリコールジメチルエーテルの濃度は50mol%であった。
上記で作製した正極を用いて、図1に示す構造を有するコイン型電池を作製した。まず、正極集電体がケースの内面に接するように、円盤状の正極をケースの中に配置した。次に、正極の上にセパレータとしての多孔質ポリエチレンシートを配置した。次に、非水電解液をケースの中に注入した。非水電解液としては、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドをトリエチレングリコールジメチルエーテルに溶解させたものを用いた。この非水電解液におけるリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドの濃度は50mol%であり、トリエチレングリコールジメチルエーテルの濃度は50mol%であった。
その後、封口板の内面に、負極集電体及び負極活物質層をこの順番で圧着させた。負極活物質層として、厚さ300μmのシート状の金属リチウムを用いた。負極集電体として、厚さ100μmのステンレス箔を用いた。電極の厚みを調整する目的で、必要に応じて、皿型のばねを用いた。負極活物質層がセパレータに接するように、正極が配置されたケースと負極が配置された封口板とをケースの周縁部にガスケットを装着した状態で重ね合わせ、プレス機にてケースをかしめた。このようにして、厚さ1.6mm及び直径20mmのコイン型電池を作製した。
(実施例2)
非水電解液のみ実施例1と異なり、その他の構成は全て実施例1と同じコイン型電池を作製した。実施例2では、非水電解液として、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドをテトラエチレングリコールジメチルエーテルに溶解させたものを用いた。この非水電解液におけるリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドの濃度は50mol%であり、テトラエチレングリコールジメチルエーテルの濃度は50mol%であった。
非水電解液のみ実施例1と異なり、その他の構成は全て実施例1と同じコイン型電池を作製した。実施例2では、非水電解液として、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドをテトラエチレングリコールジメチルエーテルに溶解させたものを用いた。この非水電解液におけるリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドの濃度は50mol%であり、テトラエチレングリコールジメチルエーテルの濃度は50mol%であった。
(比較例1)
非水電解液のみ実施例1と異なり、その他の構成は全て実施例1と同じ蓄電デバイスを構成した。比較例1では、非水電解液として、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドを1mol/Lの濃度でプロピレンカーボネートに溶解させたものを用いた。
非水電解液のみ実施例1と異なり、その他の構成は全て実施例1と同じ蓄電デバイスを構成した。比較例1では、非水電解液として、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドを1mol/Lの濃度でプロピレンカーボネートに溶解させたものを用いた。
(実施例3)
下記式(13)に従い、2−アミノ−4,5,9,10−ピレンテトラオンとポリメタクリル酸クロリドとを反応させることにより、テトラケトン重合体(物質名:ポリ[N−(ピレン−4,5,9,10−テトラオン−2−イル)メタクリル酸アミド−co−メタクリル酸メチル])を合成した。
下記式(13)に従い、2−アミノ−4,5,9,10−ピレンテトラオンとポリメタクリル酸クロリドとを反応させることにより、テトラケトン重合体(物質名:ポリ[N−(ピレン−4,5,9,10−テトラオン−2−イル)メタクリル酸アミド−co−メタクリル酸メチル])を合成した。
具体的には、まず、2−アミノ−ピレン−4,5,9,10−テトラオン(150mg,0.5mmol)、ポリメタクリル酸クロリド(100mg)、4,4’−ジメチルアミノピリジン(6mg,0.05mmol)を乾燥ピリジン(5ml)に加え、60℃で12時間撹拌した後、乾燥メタノール(0.5ml)を加えてさらに50℃で10時間撹拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、反応液をメタノール(200ml)に注ぎ、得られた固体をろ別し、メタノールで洗浄後、減圧乾燥を行った。得られた粉末を適量のN−メチルピロリドンに分散させ、一晩撹拌した。その後、エタノールを貧溶媒に用い、再沈殿を行った。その結果、ポリ[N−(ピレン−4,5,9,10−テトラオン−2−イル)メタクリル酸アミド−co−メタクリル酸メチル](150mg,収率70%)をオレンジ色固体として得た。1H NMR分析、赤外分光分析および元素分析を行い、以下の結果を得た。なお、ピレンテトラオンの導入率は、NMR換算で50%であった。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) ・ 0.6-3.0 (br), 3.56 (bs, OMe), 7.3-8.7 (br, aromatic).
IR (solid): (cm-1) 1682, 1431, 1273, 1188.
元素分析:C 65.93, H 3.83, N 3.40
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) ・ 0.6-3.0 (br), 3.56 (bs, OMe), 7.3-8.7 (br, aromatic).
IR (solid): (cm-1) 1682, 1431, 1273, 1188.
元素分析:C 65.93, H 3.83, N 3.40
テトラケトン重合体を電極活物質として用い、実施例1と同様の方法で正極及びそれを用いたコイン型電池を作製した。実施例1で使用した非水電解液を実施例3のコイン型電池の作製に使用した。
(実施例4)
非水電解液のみ実施例3と異なり、その他の構成は全て実施例3と同じコイン型電池を作製した。実施例3では、非水電解液として、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドをテトラエチレングリコールジメチルエーテルに溶解させたものを用いた。この非水電解液におけるリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドの濃度は50mol%であり、テトラエチレングリコールジメチルエーテルの濃度は50mol%であった。
非水電解液のみ実施例3と異なり、その他の構成は全て実施例3と同じコイン型電池を作製した。実施例3では、非水電解液として、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドをテトラエチレングリコールジメチルエーテルに溶解させたものを用いた。この非水電解液におけるリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドの濃度は50mol%であり、テトラエチレングリコールジメチルエーテルの濃度は50mol%であった。
(比較例2)
非水電解液のみ実施例3と異なり、その他の構成は全て実施例3と同じコイン型電池を作製した。比較例2では、非水電解液として、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドを1mol/Lの濃度でプロピレンカーボネートに溶解させたものを用いた。
非水電解液のみ実施例3と異なり、その他の構成は全て実施例3と同じコイン型電池を作製した。比較例2では、非水電解液として、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドを1mol/Lの濃度でプロピレンカーボネートに溶解させたものを用いた。
[充放電試験]
実施例1〜4、比較例1及び比較例2のコイン型電池の充放電試験を以下の条件で行った。具体的には、コイン型電池の理論容量に対して、0.2Cレート(5時間率)となる電流値で充放電を行った。電圧の範囲は、実施例1、実施例2及び比較例1のコイン型電池の試験では2.0V〜4.0Vに設定し、実施例3、実施例4及び比較例2のコイン型電池の試験では1.5V〜4.0Vに設定した。放電から先に開始し、充放電を50回繰り返した。充放電試験は、電池を45℃の恒温槽に入れて行った。放電と充電との間の休止時間及び充電と放電との間の休止時間は、それぞれ5分とした。コイン型電池の初回の放電容量から正極活物質1gあたりの放電容量(mAh/g)を算出した。初回の放電容量に対する50回目の放電容量の比率(容量維持率)を算出した。結果を表1に示す。
実施例1〜4、比較例1及び比較例2のコイン型電池の充放電試験を以下の条件で行った。具体的には、コイン型電池の理論容量に対して、0.2Cレート(5時間率)となる電流値で充放電を行った。電圧の範囲は、実施例1、実施例2及び比較例1のコイン型電池の試験では2.0V〜4.0Vに設定し、実施例3、実施例4及び比較例2のコイン型電池の試験では1.5V〜4.0Vに設定した。放電から先に開始し、充放電を50回繰り返した。充放電試験は、電池を45℃の恒温槽に入れて行った。放電と充電との間の休止時間及び充電と放電との間の休止時間は、それぞれ5分とした。コイン型電池の初回の放電容量から正極活物質1gあたりの放電容量(mAh/g)を算出した。初回の放電容量に対する50回目の放電容量の比率(容量維持率)を算出した。結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1、比較例1及び比較例2の電池は、ほぼ同じ放電容量を示した。実施例3、実施例4及び比較例2の電池は、ほぼ同じ放電容量を示した。加えて、実施例1〜4の電池は、比較例1及び比較例2の電池に比べて、高い容量維持率を示した。すなわち、実施例1〜4の電池は、優れた繰り返し特性を有していた。
実施例1及び2の電池で使用した電解液は、比較例1の電池で使用した電解液と異なる。繰り返し特性の違いは電解液の違いに起因していると考えられる。これらの電池を試験後に充電状態で分解したところ、いずれの電池も電解液中への活物質の溶解は確認されなかった。また、分解して取り出した正極をエチルメチルカーボネートで洗浄し、真空乾燥した後、正極中のリチウムの定量分析を実施した。その結果、比較例1の正極からリチウムが検出された。他方、実施例1及び2の正極からリチウムは検出されなかった。このことから、比較例1の電池の劣化要因は、活物質に結合したリチウムが活物質から外れないことにあると考えられる。実施例1及び2の電池では、活物質に結合したリチウムが活物質からスムーズに離れることができたため、劣化が抑制され、優れた繰り返し特性を示したものと考えられる。
実施例3、実施例4及び比較例2の電池には、高い理論容量(232mAh/g)を有する電極活物質が用いられている。実施例3及び4においても、実施例1及び2と同じ効果が得られた。すなわち、実施例3及び4の電池で使用した電解液は、比較例2の電池で使用した電解液と異なる。これらの電池を試験後に充電状態で分解したところ、いずれの電池も電解液中への活物質の溶解は確認されなかった。また、分解して取り出した正極をエチルメチルカーボネートで洗浄し、真空乾燥した後、正極中のリチウムの定量分析を実施した。その結果、比較例2の正極からリチウムが検出された。他方、実施例3及び4の正極からリチウムは検出されなかった。このことから、比較例2の電池の劣化要因は、活物質に結合したリチウムが活物質から外れないことによるあると考えられる。実施例3及び4の電池では、活物質に結合したリチウムが活物質からスムーズに離れることができたため、劣化が抑制され、優れた繰り返し特性を示したものと考えられる。
次に、グリコールジエーテル(グライム)以外の溶媒を含む非水電解液の例を説明する。
(実施例11〜18、比較例11〜13)
リチウム塩と、グライム溶媒と、鎖状炭酸エステル又は環状炭酸エステルとを、下記の表2及び表3中の括弧内に示すモル比で混合することにより、実施例11〜18及び比較例11〜13の非水電解液を調合した。かかる調合は、露点−50℃以下の乾燥空気中で行った。なお、実施例及び比較例のグライム溶媒として、先の式(1)における両末端のR及びR’がメチル基であるテトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)を用いた。
リチウム塩と、グライム溶媒と、鎖状炭酸エステル又は環状炭酸エステルとを、下記の表2及び表3中の括弧内に示すモル比で混合することにより、実施例11〜18及び比較例11〜13の非水電解液を調合した。かかる調合は、露点−50℃以下の乾燥空気中で行った。なお、実施例及び比較例のグライム溶媒として、先の式(1)における両末端のR及びR’がメチル基であるテトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)を用いた。
[非水電解液の評価]
実施例及び比較例で調合した非水電解液に対し、耐酸化性評価及び導電率評価を行った。耐酸化性評価は、作用極、対極、及び参照電極を各非水電解液に浸漬させた上で、リチウム基準電位3V〜6Vの範囲で、作用極の電位を1mV/secの速度で走査することにより行った。この範囲の電位走査で酸化電流が立ち上がった電位を酸化電位(V)とした。耐酸化性試験は、25℃で露点−50℃以下の乾燥空気中で行った。また、作用極として白金電極を用い、対極及び参照電極としてリチウム金属を用いた。結果を表2及び表3の「酸化電位」の欄に示す。酸化電位が高いほど、非水電解液の耐酸化性が優れている。
実施例及び比較例で調合した非水電解液に対し、耐酸化性評価及び導電率評価を行った。耐酸化性評価は、作用極、対極、及び参照電極を各非水電解液に浸漬させた上で、リチウム基準電位3V〜6Vの範囲で、作用極の電位を1mV/secの速度で走査することにより行った。この範囲の電位走査で酸化電流が立ち上がった電位を酸化電位(V)とした。耐酸化性試験は、25℃で露点−50℃以下の乾燥空気中で行った。また、作用極として白金電極を用い、対極及び参照電極としてリチウム金属を用いた。結果を表2及び表3の「酸化電位」の欄に示す。酸化電位が高いほど、非水電解液の耐酸化性が優れている。
導電率評価は、市販の電気伝導率計(東亜ディーケーケー社製CM−30R)を用いて、露点−50℃以下の乾燥空気中で、25℃及び−20℃における非水電解液の導電率(mS/cm)を測定することにより行った。結果を表2及び表3の「導電率」の欄に示す。
表2に示すように、実施例11〜14の非水電解液の酸化電位はいずれも5.0Vであった。実施例11〜14の非水電解液は、実施例15と同等の酸化電位を示し、実施例16よりも高い酸化電位を示した。実施例11〜14及び実施例15の非水電解液は、リチウム塩と等モル比でテトラグライムを含む。そのため、リチウムイオンに配位しないフリーなテトラグライムがほとんど存在せず、ほぼ全てのテトラグライムがリチウムイオンの錯体形成により安定化し、高い酸化電位を示した。これに対し、実施例16の非水電解液は、リチウム塩に対して4倍のテトラグライムを含む。そのため、リチウムイオンに配位していないテトラグライムが多く存在しており、このフリーなテトラグライムにより酸化電位が低くなったものと考えられる。
また、実施例12〜14の非水電解液の導電率は特に優れていた。−20℃における実施例12〜14の非水電解液の導電率は、実施例15の導電率の15〜20倍であった。実施例11〜14の非水電解液は、25℃での導電率が3〜6mS/cmで、−20℃での導電率が0.3〜2.0mS/cmであった。実施例11〜14の非水電解液は、実施例15の導電率に比して、25℃で1.3〜2.6倍の導電率を示し、−20℃で3〜20倍の導電率を示した。これは、実施例15の非水電解液が鎖状炭酸エステルを含まなかったことによるものと考えられる。
以上の結果から、実施例11〜14の非水電解液がリチウム塩とグライム溶媒と鎖状炭酸エステルとを含むことにより、高導電率と優れた耐酸化性を両立することが明らかとなった。
(実施例14,実施例17,実施例18及び比較例11〜13)
実施例14,実施例17,実施例18及び比較例11〜13の非水電解液の耐酸化性評価及び導電率評価の結果を表3に示す。なお、実施例14は、表2に記載したものを再掲している。
実施例14,実施例17,実施例18及び比較例11〜13の非水電解液の耐酸化性評価及び導電率評価の結果を表3に示す。なお、実施例14は、表2に記載したものを再掲している。
実施例14と比較例11の非水電解液は、グライム溶媒の有無が異なる他は同一である。実施例14は、グライム溶媒を含むことにより、比較例11に比して酸化電位が若干低下しているが、4V級の電池にとって十分な優れた耐酸化性(5V)を示した。また、実施例14の非水電解液は、グライム溶媒を含まない比較例11の非水電解液に対し、25℃で1.5倍、−20℃で1.3倍の導電率を有していた。この結果から、グライム溶媒を導入することにより、リチウム塩の乖離が促進されて、イオン伝導性が高まると考えられる。
比較例12及び13の非水電解液は、5.8Vの酸化電位を示した。比較例12及び13の非水電解液にグライム溶媒を加えた実施例17及び18の酸化電位は1V以上低下した(4.5〜4.6V程度であった)。このように酸化電位の低下した理由は、グライム溶媒と環状炭酸エステルの相互作用によるものと考えられる。つまり、実施例17及び18の非水電解液に含まれる環状炭酸エステルは、高誘電率を有するため、リチウム塩とグライム溶媒との錯体構造を破壊して、リチウムイオンに配位していないグライム溶媒を生成し、酸化電位が低下したものと考えられる。
一方、実施例14の鎖状炭酸エステルは、実施例17及び18の環状炭酸エステルの誘電率よりも低い誘電率を有するため、リチウム塩とグライム溶媒との錯体構造を破壊せず、酸化電位があまり低下しなかったものと考えられる。なお、実施例17及び18の非水電解液の導電率は、環状炭酸エステルを含むことにより、炭酸エステルを含まない実施例15及び16の非水電解液の導電率よりも大きかった。
以上の結果から、実施例14の非水電解液が、リチウム塩とグライム溶媒と鎖状炭酸エステルとを含むことにより、高導電率と優れた耐酸化性を両立していることが明らかとなった。なお、実施例11〜14においては、鎖状炭酸エステルとして、エチルメチルカーボネートを用いた場合のみを挙げたが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジエチルカーボネートのエチル基の水素の少なくとも1つが、フッ素、塩素、または臭素で置換されたものでも同様の効果が得られる。
(実施例21)
本実施例では、正極活物質としてオルトキノン化合物を用い、負極活物質としてリチウム金属を用いたコイン型電池を以下の方法で作製した。具体的には、オルトキノン化合物として、式(13)の化合物を用いたことを除き、実施例1と同じ方法で正極を作製した。次に、非水電解液として、実施例12の電解液を用いたことを除き、実施例1と同じ方法でコイン型電池を作製した。
本実施例では、正極活物質としてオルトキノン化合物を用い、負極活物質としてリチウム金属を用いたコイン型電池を以下の方法で作製した。具体的には、オルトキノン化合物として、式(13)の化合物を用いたことを除き、実施例1と同じ方法で正極を作製した。次に、非水電解液として、実施例12の電解液を用いたことを除き、実施例1と同じ方法でコイン型電池を作製した。
(実施例22〜26、比較例21及び比較例22)
非水電解液が実施例21と異なる他は、実施例21と同様の方法で実施例22〜26、比較例21及び比較例22のコイン型電池を作製した。下記の表4中の括弧内に示すモル比でリチウム塩と、グライム溶媒と、鎖状炭酸エステル又は環状炭酸エステルとを混合することにより実施例22〜26、比較例21及び比較例22で用いた非水電解液を調合した。グライム溶媒として、先の式(1)における両末端のR及びR’がメチル基であるテトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)を用いた。
非水電解液が実施例21と異なる他は、実施例21と同様の方法で実施例22〜26、比較例21及び比較例22のコイン型電池を作製した。下記の表4中の括弧内に示すモル比でリチウム塩と、グライム溶媒と、鎖状炭酸エステル又は環状炭酸エステルとを混合することにより実施例22〜26、比較例21及び比較例22で用いた非水電解液を調合した。グライム溶媒として、先の式(1)における両末端のR及びR’がメチル基であるテトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)を用いた。
[充放電試験]
実施例21〜26、比較例21及び比較例22のコイン型電池の充放電試験を以下の条件で行った。具体的には、コイン型電池の理論容量に対して、0.2Cレート(5時間率)となる電流値で充放電を行った。電圧の範囲は、1.5V〜4.0Vに電圧の範囲を設定した。放電から先に開始し、充放電を50回繰り返した。充放電試験は、電池を25℃の恒温槽に入れて行った。放電と充電との間の休止時間及び充電と放電の間の休止時間は、それぞれ5分とした。コイン型電池の初回の放電容量から正極活物質1gあたりの放電容量(mAh/g)を算出した。初回の放電容量に対する50回目の放電容量の比率(容量維持率)を算出した。これらの結果を以下の表4に示す。
実施例21〜26、比較例21及び比較例22のコイン型電池の充放電試験を以下の条件で行った。具体的には、コイン型電池の理論容量に対して、0.2Cレート(5時間率)となる電流値で充放電を行った。電圧の範囲は、1.5V〜4.0Vに電圧の範囲を設定した。放電から先に開始し、充放電を50回繰り返した。充放電試験は、電池を25℃の恒温槽に入れて行った。放電と充電との間の休止時間及び充電と放電の間の休止時間は、それぞれ5分とした。コイン型電池の初回の放電容量から正極活物質1gあたりの放電容量(mAh/g)を算出した。初回の放電容量に対する50回目の放電容量の比率(容量維持率)を算出した。これらの結果を以下の表4に示す。
表4に示すように、グライム溶媒に鎖状炭酸エステルを加えた実施例21〜25のコイン型電池は、217mAh/g以上の高い初回放電容量を示し、かつ容量維持率(サイクル特性)も88%以上と高い性能を示した。表4には示していないが、実施例26のコイン型電池を45℃恒温槽に設置して充放電試験を実施すると、初回放電容量218mAh/gが得られた。
実施例23、比較例21及び比較例22のコイン型電池はいずれも、219mAh/gと高い初回放電容量を示した。しかし、実施例23のコイン型電池の容量維持率は、比較例21及び22のそれよりも高かった。この理由は、実施例23では、グライム溶媒がリチウムイオンに配位して錯体を形成することにより、有機化合物の可逆反応性が向上したからであると考えられる。
本発明の非水電解液は、高容量及び高信頼性の蓄電デバイス、キャパシタなどの電気化学素子の性能向上に寄与する。本発明の蓄電デバイスは、輸送機器、電子機器などの電源;火力発電、風力発電、燃料電池発電などの発電設備と組み合わせて使用される電力平準化用の蓄電デバイス;一般家庭及び集合住宅用の非常用蓄電システム、深夜電力蓄電システムなどの電源;無停電電源などに好適に使用できる。
本発明の蓄電デバイスは、特に、電子機器の電源として好適である。そのような電子機器には、携帯用電子機器、電動工具、掃除機、ロボットなどが含まれる。これらの中でも、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ、ゲーム機に代表される携帯用電子機器の電源に本発明の蓄電デバイスを好適に使用できる。
Claims (12)
- キノン骨格を有する有機化合物を活物質として含む第1電極と、
前記第1電極と反対の極性を有する第2電極と、
リチウム塩と下記式(1)で表される溶媒とを含む非水電解液と、
を備えた、蓄電デバイス。
R−O(CH2CH2O)n−R’・・・(1)
[式(1)中、R及びR’は、それぞれ独立して、炭素数1〜5の飽和炭化水素であり、
nは2〜6の整数である。] - 前記非水電解液が、さらに、鎖状炭酸エステルを含む、請求項1に記載の蓄電デバイス。
- 前記式(1)において、nが3又は4である、請求項1に記載の蓄電デバイス。
- 1molの前記リチウム塩に対し、前記式(1)で表される溶媒が0.8〜1.5molの範囲で前記非水電解液に含まれている、請求項1に記載の蓄電デバイス。
- 前記リチウム塩は、イミド塩である、請求項1に記載の蓄電デバイス。
- 1molの前記リチウム塩に対し、前記鎖状炭酸エステルが1〜10molの範囲で前記非水電解液に含まれている、請求項2に記載の蓄電デバイス。
- 1molの前記リチウム塩に対し、前記鎖状炭酸エステルが3〜10molの範囲で前記非水電解液に含まれている、請求項2に記載の蓄電デバイス。
- 溶媒成分として、実質的に、前記式(1)で表される溶媒のみが前記非水電解液に含まれている、請求項1に記載の蓄電デバイス。
- 前記有機化合物は、高分子化合物である、請求項1に記載の蓄電デバイス。
- 前記キノン骨格がオルトキノン骨格である、請求項1に記載の蓄電デバイス。
- 前記有機化合物が、9,10−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン誘導体及び9,10−フェナントレンキノン骨格を主鎖又は側鎖に有する高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の蓄電デバイス。
- 前記有機化合物が、4,5,9,10−ピレンテトラオン、4,5,9,10−ピレンテトラオン誘導体及び4,5,9,10−ピレンテトラオン骨格を主鎖又は側鎖に有する高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の蓄電デバイス。
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