JPWO2012108512A1 - 金属コーティング材 - Google Patents

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Abstract

種子をコーティングする際の酸化に伴う発熱をできるだけ抑制でき、放熱時の作業性に優れ、かつ種子に対して付着強度が優れた金属コーティング材を提供する。鉄を主成分とし、少なくとも粒状微粒子11Aおよび板状微粒子11Bを含有する金属粉体11を種子20に付着させて当該種子20をコーティングする金属コーティング材10であって、JIS試験用篩を用いて測定した金属粉体11の粒度分布における63〜150μmの粒子の割合が23重量%以上である。

Description

本発明は、鉄を主成分とし、少なくとも粒状微粒子および板状微粒子を含有する金属粉体をイネ種子に付着させて当該イネ種子をコーティングする金属コーティング材に関する。
米の直播栽培は、育苗および田植え作業を省くことができるため、大幅な労力の軽減、利用資材の縮小を実現でき、米栽培の低コスト化を達成できることが期待されている。
当該直播栽培では、イネ種子を鉄コーティングすることが公知である。鉄コーティング種子は、その比重が大きくなるため点播で播種した状態が雨水や入水によって乱れにくくなり、また、鉄コーティングの硬い殻が形成されるために鳥害に強い特性を持つ。また、土壌表面に播種するため、種子の出芽が良好となる。当該鉄コーティング種子は長期間保存できるため、イネ種子を鉄コーティングする作業は農閑期などに実施しておき、播種までの期間は鉄コーティングした状態で保存できる。
鉄コーティング種子は、以下の条件を満たす必要がある。即ち、播かれた種子は水に接触するので、鉄コーティングが水に触れる環境で崩壊してはならない。イネ種子は播種機などの機械を用いて播種されるため、機械的衝撃によって崩壊しない程度の強度特性が必要である。播種された後は、積算温度および鉄コーティングより浸入した水分の影響によって催芽状態になったイネ種子が鉄コーティングを割り、その後、土中の水の働きによって当該鉄コーティングが剥がれる必要がある。さらに、コーティング処理中はイネ種子に傷害を与えないようにするため、コーティングが温和な条件かつ短時間で簡便に行うことが望ましく、コーティング資材のpHが中性に近いことも必要である。
鉄コーティング種子は、通常、鉄粉と焼石膏を混ぜ、水を噴霧しながら種子のコーティングを行なう。
例えば特許文献1には、イネ種子に、鉄粉と、鉄粉に対する質量比で0.5〜2%の硫酸塩・塩化物または0.5〜35%の硫酸カルシウム・その水和物と、水と、を添加して造粒し、水と酸素を供給して金属鉄粉の酸化反応によって生成した錆により鉄粉をイネ種子に付着・固化させた後、乾燥させる鉄粉被覆イネ種子の製造法が記載してある。
当該鉄粉としては、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、ショットブラスト工程などから産業廃棄物として産出される鉄粉などが開示され、特に粒度の小さい鉄粉がイネ種子に付着しやすいことが記載してある。この方法では、鉄粉の酸化反応を促進させるために酸化促進剤として硫酸塩・塩化物を使用している。
鉄粉の酸化反応は、水と酸素があれば進行する。特許文献1に記載の方法では、表面の湿ったイネ種子に鉄粉および硫酸塩・塩化物を混合し、さらに水を噴霧して効率よく鉄粉を酸化反応させている。乾燥などにより水が無くなると、酸化反応は完了する。
鉄粉の酸化反応を利用して作製されたコーティング層は、イネ種子表面に錆びた鉄粉が粘着し、この粘着作用によってコーティング強度が向上するため、大きな破片になってイネ種子から剥離し難くなるとされている。
特許第4441645号公報
一般に、イネ種子は、高湿度条件下で50〜60℃程度の温度に10分程度曝されると熱障害を受け、直播栽培において発芽の安定性に欠ける虞がある。
鉄粉でコーティングしたイネ種子は酸化反応に伴い発熱するので、当該イネ種子に対する熱障害を避ける必要がある。鉄コーティング種子に水分が残っていると酸化反応に伴う発熱を継続し続ける。仮に、コーティング作業中に鉄粉の酸化反応が完全に完了していない場合に、例えば袋詰めやバケツなどの容器に入れて鉄コーティング種子を塊状にして放置すると、酸化反応に伴って発生した熱が蓄積し、イネ種子に熱障害を与える虞がある。
そのため、特許文献1に記載の方法では、鉄粉でコーティングした種子の熱障害を避けるため、造粒機から取り出した後は、各鉄コーティング種子が効率よく放熱できるように、例えば塊状とせずに底の広い箱の中に薄く広げるなどして放熱させる必要があった。このように特許文献1の方法では、イネ種子の熱障害を回避するための煩雑な作業を要するため、手間がかかっていた。
従って、本発明の目的は、種子をコーティングする際の酸化に伴う発熱をできるだけ抑制でき、放熱時の作業性に優れ、かつ種子に対して付着強度が優れた金属コーティング材を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明に係る金属コーティング材は、鉄を主成分とし、少なくとも粒状微粒子および板状微粒子を含有する金属粉体を種子に付着させて当該種子をコーティングする金属コーティング材であって、その第一特徴構成は、JIS試験用篩を用いて測定した前記金属粉体の粒度分布における63〜150μmの粒子の割合を23重量%以上とした点にある。
「鉄を主成分とする」とは、金属コーティング材に金属鉄が50%以上含まれることをいう。金属コーティング材が鉄を主成分とすることで、当該金属コーティング材を種子に付着させたときに、種子に含まれる水分あるいは外部から供された水分などによって当該鉄の酸化反応が進行する。酸化反応によって錆が生成し、この錆により鉄粉をイネ種子に付着・固化させて、当該種子を金属コーティング材によってコーティングすることができる。
板状微粒子はその薄片状あるいは扁平状の形状を呈するため、当該板状微粒子の扁平面側は種子の表面に添って付着し易くなる。また、板状微粒子の扁平な面には他の微粒子が接触し易くなるため、例えば当該板状微粒子の横方向および上下方向に他の微粒子が連なり易くなって、板状微粒子が他の微粒子とのブリッジの役目を果たすようになり、種子の全体を覆って当該種子を確実にコーティングし易くなる。
このように、金属コーティング材が粒状微粒子および板状微粒子を含有することで、特に、種子の表面にエッジ部分や凹凸部分が存在する場合、板状微粒子がブリッジ状に他の微粒子を繋げることで、コーティングし難いエッジ部分や凹凸部分であっても種子を確実にコーティングすることができる。
本発明の金属コーティング材の金属粉体は、63〜150μmの粒子の割合が23重量%以上となるような粒度分布となっている。このような粒度分布を呈する本発明の金属コーティング材の昇温の程度は、後述の実施例2で示したように、従来の鉄粉(還元鉄粉・アトマイズ鉄粉)の昇温の程度より抑制されるものと認められる。また、後述の実施例3で示したように、当該金属コーティング材を種子にコーティングしたコーティング種子の昇温の程度も、従来の鉄粉でコーティングしたコーティング種子の昇温の程度より抑制されるものと認められる。即ち、本発明の金属コーティング材であれば、種子をコーティングしたときの昇温の程度が抑制されるため、当該種子をコーティングした際に発生する熱障害を未然に防止し易くなる。
本発明の金属コーティング材の酸化反応時の昇温の程度が抑制されることにより、種子をコーティングした後にコーティング種子を放熱させる際の作業(放熱作業)が容易になる。例えば酸化時の昇温が速い従来の鉄粉であれば、放熱作業時には、できるだけ迅速に、コーティング種子の堆積厚さが厚くならないように気をつけながら放熱させる必要がある。しかし、本発明の金属コーティング材でコーティングしたコーティング種子であれば昇温の程度を抑制できるため、ある程度の堆積厚さがあったとしても種子の熱障害に達する温度まで昇温し難い。よって、放熱作業時にコーティング種子の堆積厚さが厚くならないようにコーティング種子を広げる必要がなくなるため、放熱時の作業性に優れる。また、放熱作業に必要なスペースも縮小することができる。
従って本発明のように、粒状微粒子および板状微粒子を有するようにすれば、急激な昇温を抑制できるため安全性に優れ、さらに、金属粉体を板状微粒子のみで構成した場合に比べてコストパフォーマンスに優れた金属コーティング材となる。
また、後述の実施例4で示したように、本発明の金属コーティング材のコーティング強度は、従来の鉄粉と同等であると認められる。従って、本発明の金属コーティング材であれば、従来の鉄粉と同様に種子に対して付着強度が優れたものとなる。
本発明に係る金属コーティング材の第二特徴構成は、前記粒状微粒子および前記板状微粒子の混合比率を8:2〜2:8とした点にある。
後述の実施例2で示したように、粒状微粒子および板状微粒子の混合比率を8:2〜2:8とすれば、従来の鉄粉に比べて昇温の程度が抑制されるものと認められる。よって、例えば別異に製造した粒状微粒子および板状微粒子の比率を8:2〜2:8になるように混合すれば、容易に本発明の金属コーティング材を作製することができる。
本発明に係る金属コーティング材の第三特徴構成は、前記粒状微粒子および前記板状微粒子の混合比率を8:2〜7:3とした点にある。
後述の実施例4で示したように、本発明の金属コーティング材のコーティング強度は、粒状微粒子および板状微粒子の混合比率を8:2〜7:3とした場合に、従来の鉄粉と同等であると認められる。従って、本構成の金属コーティング材であれば、種子に対して付着強度が特に優れたものとなる。
本発明に係る金属コーティング材の第四特徴構成は、金属鉄の含有量を50重量%以上とした点にある。
種子を金属コーティング材で覆う際には、鉄の酸化によって生成した錆によって鉄粉を種子に付着させている。
本構成のように金属コーティング材が金属鉄を50重量%以上含有することで、水の存在下で金属鉄の酸化反応を確実に進行させて、金属コーティング材を種子の全体に付着させるのに十分な錆を生成することができる。
本発明に係る金属コーティング材の第五特徴構成は、前記板状微粒子における厚みを30μm以下とし、さらにその長径および厚みの比を1.5〜20とした点にある。
板状微粒子の厚さが30μm以下であり、アスペクト比が1.5以上であれば、板状の形状を呈する微粒子として明確に識別できる。アスペクト比が大きくなるほど板状(扁平)の程度は大きくなる。アスペクト比は20程度までのものであれば、耐衝撃性の優れた扱い易い板状微粒子となる。
本発明に係る金属コーティング材の第六特徴構成は、前記種子をイネ種子とした点にある。
本発明の金属コーティング材によってコーティングされたイネ種子は、直播栽培に用いることができる。当該直播栽培は育苗および田植え作業を省ける栽培方法であるため、当該金属コーティング材をイネ種子にコーティングすることで、労力の低減、利用資材の縮小、低コスト化を実現できる。
本発明の金属コーティング材によってコーティングしたコーティング種子の概略図および金属コーティング材の顕微鏡写真図である。 板状微粒子のアスペクト比の分布を示すグラフである。 本発明の金属コーティング材の酸化反応時の温度を測定した結果を示したグラフである。 本発明の金属コーティング材の酸化反応時の温度を測定した結果を示したグラフである。 本発明の金属コーティング材でコーティングしたコーティング種子の酸化反応時の温度を測定した結果を示したグラフである。 苗箱において本発明の金属コーティング材でコーティングしたコーティング種子の酸化反応時の温度を測定した結果を示したグラフである。 崩壊試験の結果を示したグラフである。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示したように、本発明の金属コーティング材10は、鉄を主成分とし、少なくとも粒状微粒子11Aおよび板状微粒子11Bを含有する金属粉体11を種子20に付着させて当該種子20をコーティングするものである。特に本発明の金属コーティング材10は、JIS試験用篩を用いて測定した金属粉体11の粒度分布における63〜150μmの粒子の割合が23重量%以上となっている。
当該種子20は、例えばイネ種子、麦種子などの植物種子を使用する。イネ種子の品種は、ジャポニカ種・インディカ種などが使用できる。種子20に金属コーティングを施したコーティング種子Xは、その比重が大きくなって水中に沈むため播種後には水によって流れ難くなり、また、金属コーティングの硬い殻が形成されるため鳥害に強い特性を持つ。このような特性を所望の種子に付与したい場合、本発明の金属コーティング材は、あらゆる種子に適用することが可能である。以下、本実施形態ではイネ種子を使用した場合について説明する。
金属コーティング材10によってコーティングされた種子20は、直播栽培に用いることができる。金属コーティング材10を種子20にコーティングする時期は、農閑期など、直播などの播種を行なう前であれば特に制限されるものではない。
金属コーティング材10は、鉄を主成分として含有する態様とする。本明細書における「鉄を主成分とする」とは、金属コーティング材10に金属鉄を50%以上、好ましくは70重量%以上含まれることをいう。このように当該金属コーティング材10が鉄を主成分として含有することで、水の存在下で鉄の酸化反応を確実に進行させることができる。
鉄は、鉄粉の態様がよい。当該鉄粉は、粉体状を呈した鉄(Fe)を含有するものであればよく、例えば、金属鉄(純鉄粉)、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉、産業廃棄物として産出される鉄粉などが使用できる。また、金属コーティング材10が鉄を主成分として含有する態様であれば、合金や他の金属粒子・酸化金属粒子を含有してもよい。例えば、アトマイズ鉄粉を合金鋼粉とした場合、完全合金粉や部分合金粉を使用することも可能である。金属コーティング材10は、金属以外に、例えば、酸素、炭素、硫黄、二酸化珪素などを含有してもよい。
金属コーティング材10は、金属粉体11として少なくとも粒状微粒子11Aおよび板状微粒子11Bを含有する。金属コーティング材10は、粒状・板状以外の形状を有するその他の微粒子12として、例えば棒状微粒子などを含んでもよい。
「粒状微粒子11A」とは、概ねの外観が球状及びそれに類似した不定形の粒状の形状を呈する微粒子のことをいう。
一方、「板状微粒子11B」とは、概ねの形状が不定型な薄片であり、扁平な形状を呈する微粒子のことをいう。当該板状微粒子11Bの扁平面側は種子の表面に添って付着し易くなる。また、板状微粒子11Bの扁平面には他の微粒子が接触し易くなる。そのため、例えば当該板状微粒子11Bの横方向および上下方向に他の微粒子が連なり、板状微粒子11Bが他の微粒子とのブリッジの役目を果たすようになる。
このように、金属コーティング材10が粒状微粒子11Aおよび板状微粒子11Bを含有することで、特に、種子20の表面に存在するエッジ部分や凹凸部分に対して、板状微粒子11Bがブリッジ状に他の微粒子を繋げることができる。
本明細書では、微粒子の板状(扁平)の程度を表す指標として、粒子径(長径)および粒子厚みの比より算出されたアスペクト比(粒子径/粒子厚み)を使用する。本発明の金属コーティング材10で使用される板状微粒子11Bは、例えばその厚みが30μm以下、好ましくは20μm以下であり、さらにその長径および厚みより算出したアスペクト比が1.5以上となるようにすればよい。板状微粒子11Bの厚さが30μm以下、好ましくは20μm以下であり、アスペクト比が1.5以上であれば、板状の形状を呈する微粒子として明確に識別できる。アスペクト比が20程度までのもの、好ましくは10までのものであれば、耐衝撃性の優れた板状微粒子11Bとなる。
アスペクト比は、例えば、製造した板状微粒子11Bの試料の形状写真を走査型電子顕微鏡により撮影し、目視で厚さ水準(厚い・中間・薄い)の異なる粒子を無作為に抽出し、撮影した写真から、粒子径(長径)および粒子厚みを測定して算出する。
金属粉体11は、原料として、鋼材の製造過程において鋼材の表面に形成される酸化鉄の層であるミルスケールや、鉄鉱石などから製造できる。このような原料をコークスで還元して得られた還元鉄(焼結して塊となったもの)を衝撃式・摩砕式・剪断式などの各種粉砕機により破砕・粉砕し、振動篩によって分級して粒状微粒子11Aが得られる。
この粒状微粒子11Aを原料として、例えば振動ミルで板状化する。当該振動ミルには粒状微粒子11Aと共にメディアを投入し、振動を与える。メディアは、例えばスチールボールなどの耐摩耗性に優れた金属メディアを使用するのがよいが、これらに限るものではない。当該メディアおよびミル容器の壁面などによって粒状微粒子11Aに衝撃力が付与されることで粒状微粒子11Aを板状化することができる。
板状化の条件は、例えば占有率40〜95%、振幅3〜10mm、振動数10〜30Hz、滞留時間75〜150分、とすればよい。振動ミルでの処理を行ったのち、振動篩・気流分散などの手法によって分級して板状微粒子11Bが得られる。
このようにして板状微粒子11Bは粒状微粒子11Aから製造する。本発明の金属コーティング材10に含まれる板状微粒子11Bの割合が少ないほど、金属コーティング材10の製造コストを抑制できる。
本発明の金属コーティング材10で使用される金属粉体11は、63〜150μmの粒子の割合が23重量%以上となるような粒度分布となっている。当該粒度分布は、JIS試験用篩(JIS Z8801−1)を用いて測定したものである。また、当該金属粉体11は、75〜150μmの粒子の割合が9.5重量%以上となっている。
粒状微粒子11Aおよび板状微粒子11Bの混合比率を8:2〜2:8、好ましくは粒状微粒子11Aおよび板状微粒子11Bの混合比率を8:2〜7:3とすれば、種子20にコーティングしたときの昇温の程度が抑制され、かつ種子に対して付着強度が優れたものとなる。
本発明の金属コーティング材10は、例えば以下のようにして種子にコーティングする。
種子はコーティング前に予め水に浸漬する前処理を行なうとよい。この種子に、当該種子の重量に対して0.5倍程度の金属コーティング材10、および、金属コーティング材10の5〜10%程度の焼石膏(酸化促進剤:硫酸カルシウムCaSO4)を混合する。
金属コーティング材10および焼石膏の比率は、これに限られるものではなく適宜変更するとよい。また、酸化促進剤として使用する焼石膏に替えて、硫酸カリウム・硫酸マグネシウム・塩化カリウム・塩化カルシウム・塩化マグネシウムなどを使用してもよい。
造粒機にてこれらを攪拌しながら混合し、適宜、水を噴霧して酸化反応を進行させる。必要に応じて仕上げの焼石膏を金属コーティング材10の5%程度添加してもよい。
金属コーティング材10が鉄を含有することで、当該金属コーティング材10を種子20に接触させたときに水が噴霧などによって供給されると当該鉄の酸化反応が進行する。酸化反応によって生成した錆により鉄粉を種子20に付着・固化させてコーティング層13を形成し、当該種子20を金属コーティング材10によってコーティングすることができる。
造粒したコーティング種子Xを取り出し、当該コーティング種子の放熱に支障をきたさないように、例えば室温で酸化反応を進行させる。本発明の金属コーティング材10でコーティングしたコーティング種子Xは、昇温の程度が抑制されるため、ある程度の堆積厚さがあったとしても種子20の熱障害に達する温度まで昇温し難い。そのため、放熱作業時のコーティング種子Xの堆積厚さが厚くならないようにコーティング種子Xを広げる必要がなくなる。
コーティング種子Xの堆積厚さは、コーティング種子Xの量、季節、外気温によって適宜選択できる。本発明の金属コーティング材10は、酸化反応時の昇温の程度を抑制できるため、ある程度の堆積厚さ(例えば約2cm)があってもかまわない。
コーティング種子Xの水分が無くなれば酸化反応は完了し、本発明の金属コーティング材10によってコーティングを施したコーティング種子Xを製造することができる。
以下に、本発明の金属コーティング材10の実施例について説明する。
〔実施例1〕
本発明の金属コーティング材10を作製した。
まず、鉄鉱石を原料として粒状微粒子11Aを作製した。ミルスケール或いは鉄鉱石を還元して得られた還元鉄塊の適量を、衝撃式・剪断式粉砕機であるハンマーミルに投入し、所定の条件で粉砕した。振動篩(篩網目開き109μm)を使用して分級することにより粒状微粒子11Aを得た。
この粒状微粒子11Aを、スチールボール(1/2インチ)と共に連続振動ボールミル(CH−35:中央化工機株式会社製)に投入し、占有率70%、振幅6mm、振動数20Hz、滞留時間120分の条件で板状化処理を行った。振動篩(篩網目開き109μm)を使用して分級して板状微粒子11Bを得た。
このようにして得られた粒状微粒子11Aおよび板状微粒子11Bの混合割合(粒状微粒子:板状微粒子)を種々変更して複数種類の金属コーティング材10を作製し、表1にそれぞれの粒度分布を示した(本発明例1(90:10)、本発明例2(85:15)、本発明例3(80:20)、本発明例4(75:25)、本発明例5(70:30)、本発明例6(65:35)、本発明例7(60:40)、本発明例8(50:50)、本発明例9(40:60)、本発明例10(20:80))。本発明例3(80:20)については、5種類の試料を作成した(本発明例3−1〜3−5)。
表1には、粒状微粒子11Aのみ(比較例1)、板状微粒子11Bのみ(比較例2)、および、比較例3(現行標準鉄粉DSP317、DOWA IPクリエイション株式会社製)の粒度分布も示した。尚、表1に示す粒度分布では、粒度の大きすぎる粒子は除外してある。図1に、本発明例3(図1(b))および本発明例8(図1(c))の電子顕微鏡写真図を示した。
表1より、本発明例1〜10の粒度分布は、
45μm未満:36.8〜46.7重量%、
45〜63μm未満:30.0〜33.1重量%、
63〜75μm未満:12.7〜18.5重量%、
75〜106μm未満:9.2〜12.7重量%、
106〜150μm未満:0.2〜0.7重量%、であり、150μm以上の粒子は含有されていなかった。
本発明例1〜10および比較例1〜3について、粒度分布63〜150μmおよび75〜150μmの粒子の割合を表2に示した。
表2より、本発明の金属コーティング材10に含まれる金属粉体11の粒度分布における63〜150μm未満の粒子の割合は23.3〜31.7(約23〜32)重量%であり、150μm以上の粒子は含有されていないことを鑑みると、これは63μm以上の粒子の割合となる。また、金属粉体11の粒度分布における75〜150μm未満の粒子の割合(75μm以上の粒子の割合)は9.5〜13.2重量%であった。
本発明の金属コーティング材10において、板状微粒子11Bのアスペクト比(粒子径/粒子厚み)を求め、表3に示した。算出したアスペクト比の分布を図2に示した。
選択した31粒子の粒子径は15〜115μm、粒子厚みは2〜20μmであり、算出されたアスペクト比は1.5〜38.3の範囲であった。
表4に、本発明例のうち三種類の金属コーティング材10の組成(重量%)を示した。
〔実施例2〕
本発明の金属コーティング材10が、酸化反応によってどの程度まで発熱するかを調べた。
本発明例3−1(80:20)、本発明例7(60:40)、本発明例9(40:60)、本発明例10(20:80)の各試料20gに、3%の食塩水2mLを加え、30秒の攪拌後に30mLの紙コップに移し、熱電対によって試料の温度を測定した(室温、23分まで記載)。比較例1〜3についても同様の条件で温度を測定した。結果を図3に示した。
この結果、本発明の金属コーティング材10(本発明例)の温度は、測定開始後10分程度で29〜32℃程度に達し、それ以降はこの温度付近を維持するものと認められた。一方、比較例3(DSP317)では、測定開始後10分以降も昇温を続け、23分以降も昇温するものと認められた。
同様の条件で、3時間にわたって温度測定を行なった。使用した試料は、本発明例3−1、本発明例8、比較例1〜3、比較例4(冶金用還元鉄粉DNC、DOWA IPクリエイション株式会社製)、比較例5(冶金用アトマイズ鉄粉アトメル270M系、株式会社神戸製鋼所製)、比較例6(冶金用還元鉄粉、JFEスチール株式会社)であった。結果を図4に示した。
尚、比較例4〜6については、表5に粒度分布を示した。
表5より、比較例4〜6の粒度分布は、
45μm未満:18.8〜31.9重量%、
45〜63μm未満:13.5〜16.7重量%、
63〜75μm未満:10.1〜15.8重量%、
75〜106μm未満:19.2〜34.1重量%、
106〜150μm未満:11.7〜22.7重量%、
150μm以上:0.8〜11.5重量%であった。
また、比較例4〜6の粒度分布において、63μm以上の粒子の割合、および、75μm以上の粒子の割合を表6に示す。
表6より、比較例4〜6の粒度分布において、63μm以上の粒子の割合は53.6〜67.7重量%、75μm以上の粒子の割合は42.4〜57.6重量%であった。即ち、比較例4〜6の試料は、本発明例1〜10における63μm以上の粒子の割合(23.3〜31.7重量%)、および、75μm以上の粒子の割合(約9.5〜13.2重量%)とは異なるものであった。
温度測定の結果、比較例3,4,5,6は100分までに50℃以上に達していた。一方、本発明例3−1、本発明例8、比較例1,2については40℃に達することは無かった。
この結果より、比較例3,4,5,6の鉄粉を種子にコーティングした場合、酸化反応時の発熱によって当該イネ種子に対して熱障害を引き起こす虞がある温度まで昇温する。そのため、比較例3,4,5,6の鉄粉でイネ種子をコーティングした場合、イネ種子の熱障害を回避するため放熱時にはコーティング種子を厚く堆積させないように気をつける必要がある。
一方、本発明例3−1、本発明例8の金属コーティング材10を種子にコーティングした場合は、酸化反応時の発熱によっては種子に対して熱障害を引き起こす虞は殆どないと考えられた。
〔実施例3〕
本発明の金属コーティング材10を、以下の手法によってイネ種子(コシヒカリ:ジャポニカ種)にコーティングした。
水に浸漬したイネ種子;2kg、本発明例3−1(80:20)の金属コーティング材10;1kg、焼石膏;0.1kgをコーティングマシン(KC−151:株式会社啓文社製作所)に投入し、適量の水を噴霧しながらこれらを混合した。室温で13分の混合を行なった後、仕上げの焼石膏0.05kgを添加し、適量の水を噴霧しながらこれらを2分混合した。水はトータルで0.4kg使用した。
造粒したコーティング種子Xをコーティングマシンより取り出し、厚さ2cm程度となるように広げて室温にて酸化反応を進行させた。コーティング種子Xが室温になるまで放置し、その後、所定の容器に作製したコーティング種子Xを保存した。
比較例3(DSP317)についても同様の手法でイネ種子にコーティングを施した(従来コーティング種子)。
本発明例3−1(80:20)でコーティングしたコーティング種子X、および、比較例3(DSP317)でコーティングした従来コーティング種子について、酸化反応に伴う発熱の温度を測定した(図5,6)。測定は、コーティングマシンより取り出したときから開始した。
図5には、本発明コーティング種子Xおよび従来コーティング種子について、コーティング種子をプラスティック製容器(高さ13×6.75×13cm:1140mL)に50mmの厚さで堆積させて温度測定を行なった結果を示した(室温)。図6には、本発明コーティング種子Xについて、苗箱(高さ28×58×3cm:4827mL)に30mmの厚さで堆積させて温度測定を行なった結果を示した(外気温6〜7℃)。
図5より、従来コーティング種子において、6時間程度(約350分)に温度のピーク(約92℃)が認められた。一方、本発明コーティング種子Xでは、6時間経過までに従来コーティング種子で認められたような高温のピークは認められず、約37℃程度までの昇温に抑制できた。従来コーティング種子では37℃まで昇温するのに要する時間は約4時間であった。即ち、本発明コーティング種子Xにおいて所定温度に到達するまでに要した時間は、従来コーティング種子の1.5倍であった。
図6より、苗箱にて放熱させた場合、本発明コーティング種子Xおよび従来コーティング種子において、約400分までに昇温の程度に差異が認められた(本発明コーティング種子X:約14℃、従来コーティング種子:17.8℃)。
図5,6の結果より、本発明の金属コーティング材10をコーティングしたコーティング種子Xは、従来の鉄粉によってコーティングされたコーティング種子より、昇温の程度が抑制されるものと認められた。
尚、従来コーティング種子では、図5に認められた高い温度のピークは認められなかったが、図6のグラフより温度が上昇する傾向が読み取れるため、400分以降に温度のピークが出現すると予想された。本発明コーティング種子Xについても、従来コーティング種子より昇温の程度は抑制された状態で徐々に昇温するものと考えられるが、従来コーティング種子で認められたような高温まで昇温することはないため、イネ種子に熱障害を引き起こす虞はない。
このように、温度のピークが出る時間は、種子の堆積厚さや外気温によって異なるため、コーティング後に放熱させる時間は処理する種子の量や季節に応じて適宜決定するとよい。
〔実施例4〕
実施例3で作製したコーティング種子Xにおいて、本発明の金属コーティング材10(本発明例1〜6)のコーティング強度を評価した(崩壊試験)。
重量を測定したコーティング種子Xを、試験用篩(直径200mm、篩網目開き1mm)の上に載置した。この状態ではコーティング種子Xは、試験用篩のメッシュを通過できない。
コーティング種子Xを載置した試験用篩を粒度分布測定装置である公知のロータップシェーカーにて10分間振動させた。振動後のコーティング種子Xの重量を測定し、振動前後のコーティング種子Xの重量を比較し、イネ種子の表面における金属コーティング材10の残留率(%)を算出した(表7、図7)。比較例1,3でコーティングした従来コーティング種子についても同様に崩壊試験を行ない、その結果を示した。
この結果、本発明例3〜5(粒状微粒子および板状微粒子の混合比率を8:2〜7:3)の金属コーティング材10の残留率は98.8%以上であり、比較例3(DSP317)と略同等の残留率を示した。特に、本発明例4では比較例3(DSP317)と同じ残留率となっており、本発明の金属コーティング材10の本発明例のなかでは最も強度に優れていた。このように本発明の金属コーティング材10は、種子20に対してコーティングした場合であっても実用的な強度を有していることが判明した。
本発明の金属コーティング材は、種子をコーティングする用途に利用できる。
10 金属コーティング材
11 金属粉体
11A 粒状微粒子
11B 板状微粒子
12 その他の微粒子
20 種子

Claims (6)

  1. 鉄を主成分とし、少なくとも粒状微粒子および板状微粒子を含有する金属粉体を種子に付着させて当該種子をコーティングする金属コーティング材であって、
    JIS試験用篩を用いて測定した前記金属粉体の粒度分布における63〜150μmの粒子の割合が23重量%以上である金属コーティング材。
  2. 前記粒状微粒子および前記板状微粒子の混合比率が8:2〜2:8である請求項1に記載の金属コーティング材。
  3. 前記粒状微粒子および前記板状微粒子の混合比率が8:2〜7:3である請求項1または2に記載の金属コーティング材。
  4. 金属鉄の含有量が50重量%以上である請求項1〜3の何れか一項に記載の金属コーティング材。
  5. 前記板状微粒子における厚みが30μm以下であり、さらにその長径および厚みの比が1.5〜20である請求項1〜4の何れか一項に記載の金属コーティング材。
  6. 前記種子がイネ種子である請求項1〜5の何れか一項に記載の金属コーティング材。
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