JP5974536B2 - 稲種子被覆用鉄粉及び稲種子 - Google Patents

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Description

本発明は、稲種子被覆に好適な鉄粉および鉄粉を被覆した種子に関するものである。
農業従事者の高齢化、農産物流通のグローバル化に伴い、農作業の省力化や農産物生産コストの低減が解決すべき課題となっている。これらの課題を解決するために、例えば、水稲栽培においては、育苗と移植の手間を省くことを目的として、種子を圃場に直接播く直播法が普及しつつある。その中でも、種子の比重を高めるために、鉄粉を被覆した種子を用いる手法は、水田における種子の浮遊や流出を防止し、かつ鳥害を防止するというメリットがあることで注目されている。
また、鉄粉被覆により、副次的に殺菌効果が得られることも注目されている。
鉄粉を被覆した種子を用いて直播栽培法を活用するためには、輸送や播種の工程において被覆した鉄粉被膜が剥離しにくいことが求められる。鉄粉被膜が剥離すると、種子の比重が低下して前記のメリットが得られなくなるのみならず、剥離した被膜は輸送や播種の工程において、配管の目詰まりや回転機構部への噛み込みの原因となり、剥離した細かい鉄粉が粉塵を生じる原因にもなるからである。このようなことから、鉄粉被膜の剥離は極力抑制しなくてはならない。
稲種子表面に鉄粉を付着、固化させる技術としては、特許文献1に鉄粉被覆稲種子の製造法として以下のような技術が提案されている。
「稲種子に、鉄粉、並びに鉄粉に対する質量比で0.5〜2%の硫酸塩(但し、硫酸カルシウムは除く)及び/又は塩化物を加え、さらに水を添加して造粒し、水と酸素を供給して金属鉄粉の酸化反応によって生成した錆により、鉄粉を稲種子に付着、固化させた後、乾燥させることを特徴とする鉄粉被覆稲種子の製造法。」(特許文献1の請求項1参照)
特許文献1に記載の発明においては、稲種子が動力散布機や播種機を用いて播種されるため、機械的衝撃によって崩壊しない程度の強度特性が必要であることから、製造されたコーティング稲種子について、コーティングの崩壊程度の測定法(以下、コーティングの崩壊試験という)、すなわち1.3mの高さから厚さ3mmの鋼板に5回落下させ、機械的衝撃を与える方法で測定して、コーティングに実用的な強度が得られていることを確認している。
なお、特許文献1においては、特に鉄粉粒度分布に着目はされていないが、以下の表1に示す粒度分布を有する鉄粉をコーティングに使用した場合には、上記の鉄粉被覆稲種子の崩壊試験において、いずれも実用的な衝撃強度を維持できるとしている。
特許第4441645号公報
鉄粉被膜の付着強度に関し、特許文献1においては、特に播種工程における落下による衝撃に起因した鉄粉被覆の崩壊について検討されている。そのため、強度試験として、1.3mの高さから厚さ3mmの鋼板に5回落下させて機械的衝撃を与えるという崩壊試験が行われている。
しかしながら、稲種子は播種工程のみならず、輸送工程においても機械的な外力を受けることは前述の通りである。そして、輸送工程において稲種子が受ける機械的外力は、落下による衝撃の他、種子間もしくは種子と容器間で生じる滑りや転がりの摩擦力である。
落下による衝撃を受けた場合、鉄粉被覆は割れによって剥離するが、摩擦力を受けた場合には、磨り減りにより徐々に剥離するという形態をとる。
したがって、鉄粉被覆を播種工程のみならず輸送工程での鉄粉被膜の剥離を防止するには、摩擦力に対する強度を有する被覆が必要となる。
しかしながら、種子の滑りや転がり摩擦応力に対して十分な強度で稲種子を被覆できる鉄粉や、鉄粉を被覆した種子を実現する技術はなかった。
また、特許文献1に記載の鉄粉の粒度分布は、表1に示されるように、45μm以下の微粒径の割合が85%と多いか、もしくは、35%未満と少ないもののみが開示されている。
しかし、微粒状の鉄粉を多量に含有する鉄粉を使用した場合には、鉄粉が空気中の酸素と急激に反応し、発熱によって鉄粉を被覆した種子がダメージを受ける可能性や、大量取扱時には火災を引き起こしたりする懸念もある。加えて、微細な鉄粉は粉塵を生じやすいため、清浄な作業環境を維持しにくいという問題もある。
一方、微粒状の鉄粉の含有量が過小で、粗粒鉄粉の含有量が過大な場合には、鉄粉表面を被覆するための粒子数が不足し、均一な被膜形成が不可能になり、結果的に被膜強度が低下するおそれがある。
また、特許文献1においては、稲種子を鉄粉で被覆する方法として、「稲種子に、鉄粉、並びに鉄粉に対する質量比で0.5〜2%の硫酸塩(但し、硫酸カルシウムは除く)及び/又は塩化物を加え、さらに水を添加して造粒する」としている。
稲種子の表面を鉄粉で被覆する場合の重要な要素として、稲種子間のばらつきをなくすることが挙げられるが、特許文献1においてはこのことについて何らの開示もない。
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、播種工程のみならず輸送工程においても鉄粉の脱落が少ない被覆が実現できる種子被覆用鉄粉及び該種子被覆用鉄粉を被覆した鉄粉被覆種子を得ることを目的としている。
また、稲種子に対してダメージを与える可能性が少なく、さらには取り扱いも容易な稲種子被覆用鉄粉及び該稲種子被覆用鉄粉を被覆した鉄粉被覆稲種子を得ることを目的としている。
発明者は稲種子の表面を観察して、如何なる鉄粉を用いることが剥離防止に効果的であるかについて検討した。
発明者が着目したのは、稲種子の表面構造である。図1は稲の種籾の走査型電子顕微鏡による二次電子像であり、図1(a)が全体像、図1(b)が一部の拡大写真、図1(c)がさらに拡大した写真を示している。
図1の写真から分かるように、稲の種籾の最外殻である籾殻の表面には、微細な凹凸があり、この凹凸における凹部に鉄粉が入り込んで付着することによって、より強固な被膜を形成することができるのではないかと考えた。
そこで、種子表面の微細な凹部へ入り込んで付着できる鉄粉粒子径について検討したところ45μ以下の粒子径の鉄粉を所定量含むことが好ましいとの知見を得た。
もっとも、微粒径の鉄粉を多量に含むと前述した発熱や作業環境上の問題を生ずることから所定の量以下であることも必要である。
次に、発明者が着目したのは、稲種子の表面の状態である。稲の種籾1の最外殻である籾殻3の表面には、図2に示すように、毛5が生えている。
「お米の微視的構造を見る(目崎孝昌 著)」の21ページにも示されているように、前記の毛5の生え方にも粗密がある。特に、毛5が密集した部位における毛5の間隔は50〜150μmである。
発明者は、種籾1に鉄粉をコーティングする際には、前述した凹部に入り込んで付着する他に毛5の弾性的作用によって毛5と毛5の間に配置された鉄粉が毛5に保持されることを通じて、付着力が高まると考えた。
また、発明者は、稲種子の毛5の保持力による付着の他、毛5をすり抜ける鉄粉で、凹部には入り込まないような粒径の鉄粉は、稲種子表面に貼りつくように直接付着することも知見した。
以上のような種子の表面の状態を検討し、毛5に保持されるもの、あるいは毛5をすり抜けて凹部には入り込まないが種子表面に付着するような鉄粉粒径について検討したところ、63μ以下の鉄粉を所定の量含むことが好ましいとの知見を得た。
そして、稲種子表面の凹部に入り込む鉄粉、凹部には入り込まない稲種子表面に付着する鉄粉、毛5によって保持される鉄粉を含有することで、稲種子の凹部には最も微細な鉄粉が入り込み、その上方には種子表面に鉄粉が付着し、さらにその上方には毛5によって鉄粉が保持され、鉄粉が三重にコーティングされる部位も存在することになり、種子の転がりや滑りに伴う、被覆膜の剥離量を小さくできるとの知見を得た。
また、鉄粉の粒子径が大きすぎると毛5の間隙に入りにくくなるのみならず、粒子に作用する重力が大きく、毛5が鉄粉を保持できなくなるので、付着効果が小さくなると推定される。従って粒子径が150μm以上の鉄粉の割合は所定の量以下にするのが好ましいとの知見も得た。
なお、上記の検討は稲種子を例に挙げて説明したが、種子表面の全体もしくは部分的に凹凸および/または毛を有する種子であれば、同様のことが言える。
さらに、稲種子を鉄粉で被覆する際に、鉄粉の錆びの進行を確実にし、安定した被覆を実現するための手段についても検討した。その結果、鉄粉における金属鉄の含有比率を規定することで、錆びの発生を確実にして安定した被覆が可能になることを知見した。
また、稲種子を鉄粉で被覆する際に、種子間のばらつきを少なく被覆するための要件についても検討したところ、鉄粉の流動度や鉄粉の安息角が重要な要素であるとの知見を得た。
本発明は上記の知見を基になされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
(1)本発明に係る種子被覆用鉄粉は、種子を被覆するのに用いる鉄粉であって、粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率が35%超、85%未満、かつ粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率が75%超であり、かつ金属鉄の含有比率が30.0質量%以上99.0質量%以下であることを特徴とするものである。
(2)また、種子を被覆するのに用いる鉄粉であって、粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率が35%超、85%未満、かつ粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率が75%超であり、かつ流動度が40(sec/50g)以下であることを特徴とするものである。
(3)また、種子を被覆するのに用いる鉄粉であって、粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率が35%超、85%未満、かつ粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率が75%超であり、安息角が45度以下であることを特徴とするものである。
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、粒子径が150μm超の鉄粉の質量比率が、10%未満であることを特徴とするものである。
(5)また、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、鉄粉が還元法もしくはアトマイズ法で製造されたことを特徴とするものである。
(6)また、本発明に係る種子は、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の種子被覆用鉄粉を被覆してなることを特徴とするものである。
(7)また、上記(6)に記載のものにおいて、種子が稲種子であることを特徴とするものである。
本発明に係る種子被覆用鉄粉は、粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率が35%超、85%未満、かつ粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率が75%超であり、かつ金属鉄の含有比率が30.0質量%以上99.0質量%以下であることから、種子表面に凹凸や毛を有する例えば稲種子のような種子に対して、毛による保持や毛をすり抜けての種子への直接付着、さらには微細な凹凸部の凹部内側への付着が期待でき、強固な被膜の形成が可能となり、また錆びの形成を確実にして安定した被覆を実現でき、播種工程のみならず輸送工程においても鉄粉の脱落が少ない被覆が実現できる。
これによって、農作業の省力化や農産物生産コストの低減が可能となる。
稲種子の表面の二次電子像である。 稲種子の表面の状態を説明する説明図である。
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係る種子被覆用鉄粉は、粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率が35%超、85%未満、かつ、粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率が75%超であり、かつ金属鉄の含有比率が30.0質量%以上99.0質量%以下であることを特徴とするものである。
また、本実施の形態においては、粒子径が150μmを超える鉄粉の質量比率が10%未満としている。
以下、粒度分布と金属鉄の含有比率を上記のように規定した理由を説明する。
<粒度分布>
粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率を35%超としたのは、鉄粉が種子表面の微細な凹凸の凹部に入り込んで付着し、強固な被膜を形成するためである。
また、粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率を85%未満としたのは、微粒径の鉄粉の含有量が増えると、鉄粉が空気中の酸素と急激に反応し、発熱によって鉄粉を被覆した種子がダメージを受ける可能性や、大量取扱時には火災を引き起こしたりする懸念があり、さらに、微細な鉄粉の含有量が多いと、粉塵を生じやすく清浄な作業環境を維持しにくいからである。
粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率を75%超としたのは、粒子径が63μm以下の鉄粉は種子の表面にある毛に保持され、あるいは毛の間をすり抜けて種子の表面に粒子間の付着力によって付着するので、このような粒子径の鉄粉を所定の量を含有することで、前述した三重被覆を実現する趣旨である。
粒子径が150μmを超える鉄粉の質量比率を10%未満とすることが好ましいのは、粒子径が150μmを超える鉄粉は毛による保持及び種子表面への直接の付着共に期待ができないので、この粒子径のものを少なくする趣旨である。
なお、鉄粉の粒度分布は、JIS Z2510−2004に定められた方法を用いてふるい分けすることによって評価できる。
本実施の形態における鉄粉の製造方法としては、ミルスケールを還元して製造する還元法や溶鋼を水アトマイズして製造するアトマイズ法などが例示される。
<金属鉄の含有比率>
本実施の形態に係る種子被覆用鉄粉の金属鉄の含有比率は、30.0質量%以上99.0質量%以下である。
金属鉄の含有比率を30.0質量%以上にしたのは、金属鉄の含有比率が30.0質量%未満では、発生錆び量が少なく、鉄粉による被覆強度が弱くなるからである。31.3質量%以上であることが好ましい。
また、金属鉄の含有比率を99.0質量%以下にしたのは、金属鉄の含有比率が99.0質量%超では、錆び発生時の酸化反応が急激に進行し、その際の発熱量が大きく種子に対してダメージを与え、発芽率が低下するからである。98.9質量%以下であることが好ましい。
種子被覆用鉄粉の金属鉄の含有比率の制御は以下のように行う。
鉄粉のアトマイズ工程における雰囲気中の酸素濃度、還元鉄粉製造工程中の雰囲気酸素濃度、さらには、アトマイズ鉄粉や還元鉄粉を仕上げ熱処理する際の酸素濃度や水素濃度を制御することによって、鉄粉の酸化度を制御し、ひいては鉄粉中の金属鉄の含有比率を制御することができる。
なお、種子被覆用鉄粉で種子被覆する方法についは特に限定されない。
例えば「鉄コーティング湛水直播マニュアル2010(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター 編)」に示されているように、手作業での被覆(コーティング)をはじめ、従来から公知の混合機を用いる方法等いずれを使用してもよい。
混合機としては、例えば、攪拌翼型ミキサー(たとえばヘンシェルミキサー等)や容器回転型ミキサー(たとえばV型ミキサー,ダブルコーンミキサー、傾斜回転型パン型混合機、回転クワ型混合機等)が使用できる。
また、上記の鉄コーティング湛水直播マニュアル2010に示されているように、鉄粉コーティングに際しては焼石膏などのコーティング強化剤を使用することもできる。
本実施の形態の種子被覆用鉄粉によれば、種子表面に凹凸や毛を有する例えば稲種子のような種子に対して、毛による保持や毛をすり抜けての種子への直接付着、さらには微細な凹凸部の凹部内側への付着が期待でき、強固な被膜の形成が可能となり、また錆びの形成を確実にして安定した被覆を実現でき、播種工程のみならず輸送工程においても鉄粉の脱落が少ない被覆が実現できる。
なお、本実施の形態に係る種子被覆用鉄粉の上記効果は後述する実施例1において確認している。
[実施の形態2]
本実施の形態に係る種子被覆用鉄粉は、粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率が35%超、85%未満、かつ粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率が75%超であり、かつ流動度が40(sec/50g)以下であることを特徴とするものである。
粒度分布は実施の形態1と同様であり、粒度分布を規定した理由は実施の形態と同様である。以下においては、流動度を規定した理由について説明する。
<流動度>
本実施の形態に係る種子被覆用鉄粉の流動度は40(sec/50g)以下に設定されている。
流動度は、金属の流動性を評価する方法として、JIS Z2502:2000に規定されたものである。
JIS Z2502:2000によると、流動計は、漏斗、漏斗支持器、支持棒及び支持台から構成され、各寸漏斗の形状、寸法は規定されている。105±5℃で乾燥した金属粉末50gを漏斗に移し、漏斗下部のオリフィスを開いて、オリフィスを開いた瞬間から最後の粉末がオリフィスを離れるまでの時間を測定する。上記の時間が短い程、流動性が良好であると評価する。
流動度の定義は、50gの粉体が上記のオリフィス通過に要した時間(sec)であり単位は(sec/50g)である。
種子被覆用鉄粉の流動度を40(sec/50g)以下に設定した理由は、種子間における種子被覆用鉄粉の被覆のばらつきを少なくするためである。
被覆のばらつきと流動度の関係を以下に説明する。
種子に種子被覆用鉄粉を被覆する方法として、種子被覆用鉄粉と焼石膏(硫酸カルシウム水和物)と種子を回転容器中に投入して、水スプレーしながら種子表面に鉄粉と石膏をコーティングする。このような工程で、種子被覆用鉄粉の流動度が大きいと付着ムラが発生して種子間における種子被覆用鉄粉の被覆のばらつきが大きくなる。逆に種子被覆用鉄粉の流動度が小さいと、付着ムラが生じず、種子間の被覆のばらつきが小さくなる。
種子被覆鉄粉の流動度の制御方法は以下のように行う。
鉄粉の粒度分布や粒子形状は流動度に大きな影響を与える。そのため、例えば、水アトマイズ鉄粉について流動度を制御するには、ノズルから落下させる溶鋼流の流速および直径、噴霧水の流量、流速および噴霧角度によって鉄粉の粒度分布や粒子形状を制御し、その結果として流動度を制御することができる。
また、還元鉄粉については、還元前の原料酸化鉄や還元後の製品の粉砕方法を選択することによって鉄粉の粒度分布や粒子形状を制御することができ、その結果として鉄粉の流動度を制御することができる。
本実施の形態の種子被覆用鉄粉によれば、種子表面に凹凸や毛を有する例えば稲種子のような種子に対して、毛による保持や毛をすり抜けての種子への直接付着、さらには微細な凹凸部の凹部内側への付着が期待でき、強固な被膜の形成が可能となり、また種子間における被覆のばらつきを防止して安定した被覆を実現できる。
なお、本実施の形態に係る種子被覆用鉄粉の上記効果は後述する実施例2において確認している。
[実施の形態3]
本実施の形態に係る種子被覆用鉄粉は、粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率が35%超、85%未満、かつ粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率が75%超であり、安息角が45度以下であることを特徴とするものである。
粒度分布は実施の形態1と同様であり、粒度分布を規定した理由は実施の形態と同様である。以下においては、安息角を規定した理由について説明する。
<安息角>
本実施の形態に係る種子被覆用鉄粉の安息角は45度以下に設定されている。
安息角は、種子被覆用鉄粉を積み上げたときに自発的に崩れることなく安定を保つ斜面の角度であり、流動性が高いほど安息角は小さくなる。
種子被覆用鉄粉の安息角を45度以下に設定した理由は、種子間における種子被覆用鉄粉の被覆のばらつきを少なくするためである。
被覆のばらつきと安息角の関係を以下に説明する。
種子に種子被覆用鉄粉を被覆する方法として、種子被覆用鉄粉と焼石膏(硫酸カルシウム水和物)と種子を回転容器中に投入して、水スプレーしながら種子表面に鉄粉と石膏をコーティングする。このような工程で、種子被覆用鉄粉の安息角が大きく流動性が低いと付着ムラが発生して種子間における種子被覆用鉄粉の被覆のばらつきが大きくなる。逆に種子被覆用鉄粉の安息角が小さく流動性が高いと付着ムラが生じず、種子間の被覆のばらつきが小さくなる。
種子被覆用鉄粉の安息角の制御方法は以下のように行う。
鉄粉の粒度分布や粒子形状は安息角に大きな影響を与える。そのため、例えば、水アトマイズ鉄粉について安息角を制御するには、ノズルから落下させる溶鋼流の流速および直径、噴霧水の流量、流速および噴霧角度によって鉄粉の粒度分布や粒子形状を制御し、その結果として鉄粉の安息角を制御することができる。
また、還元鉄粉については、還元前の原料酸化鉄や還元後の製品の粉砕方法を選択することによって鉄粉の粒度分布や粒子形状を制御することができ、その結果として鉄粉の安息角を制御することができる。
本実施の形態の種子被覆用鉄粉によれば、種子表面に凹凸や毛を有する例えば稲種子のような種子に対して、毛による保持や毛をすり抜けての種子への直接付着、さらには微細な凹凸部の凹部内側への付着が期待でき、強固な被膜の形成が可能となり、また種子間における被覆のばらつきを防止して安定した被覆を実現できる。
なお、本実施の形態に係る種子被覆用鉄粉の上記効果は後述する実施例3において確認している。
本実施の形態1〜3に示した種子被覆用鉄粉の効果を確認する実験を行ったので、以下の実施例1〜3において説明する。
実施の形態1に係る種子被覆用鉄粉に関し、特に粒度分布の効果を確認する実験を行った。
発明例として種々の粒度分布の鉄粉である発明例1〜6を用いて稲種子の被覆を行った。また、比較例として、本発明の粒度分布の範囲を外れる粒度分布の鉄粉である比較例1〜3を用いて稲種子の被覆を行った。
なお、発明例1〜6及び比較例1〜3の金属鉄含有比率はほぼ一定の87質量%になるように制御した。
鉄粉の被覆(コーティング)は、前述した「鉄コーティング湛水直播マニュアル2010」に記載された方法に準じて行った。具体的には以下の通りである。
はじめに種籾と焼石膏と数種の鉄粉を準備した。次に、傾斜回転型パン型混合機を用いて、適量の水を噴霧しながら種子(種籾)20kgに対して鉄粉10kgと1kgの焼石膏をコーティングし、さらに0.5kgの焼石膏を仕上げにコーティングした。
鉄粉を被覆(コーティング)された種子の転がり摩擦や滑り摩擦に対するコーティング被膜の強度評価方法は確立されていない。
そこで、JPMA P 11−1192 「金属圧粉体のラトラ値測定方法」に記載された試験方法に準じて被膜強度を調査した。なお、本試験方法をラトラ試験と称することとする。
ラトラ試験においては、鉄粉をコーティングした種子20±0.05gをラトラ試験器のかごに封入し、そのかごを回転速度87±10rpmで回転させた。
なお、回転数は上記試験方法に準ずると回転数は1000回となるが、以下に示す理由から回転数は1200回に設定した。
近年では、コーティング種子の生産量、輸送量、貯蔵量が大量になるにつれて種子への負荷が増大する傾向にあり、より高い耐摩耗性が必要となってきた。そこで本発明では、この状況を反映し、より苛酷な条件で試験を実施するために、ラトラ試験におけるかごの回転数を1200回に設定したものである。この方法によれば、かご内で種子が転がりながら流動することによって種子間および種子とかご容器内面との間で、転がりや滑りの摩擦力が負荷される。
したがって、本方法を適用すれば、転がり摩擦力と滑り摩擦力が複合的に負荷された場合の、コーティング被膜の強度を評価することができる。
表2に鉄粉の粒度分布とラトラ試験での重量減少率を示す。なお、重量減少率は以下の計算式から求めた。
重量減少率=(ラトラ試験で剥離した被膜の質量)/(試験前の種子質量)×100(%)
したがって、重量減少率が小さいほど、被膜の強度が高いと判定することができる。
表2に示されるように、発明例1〜6に記載のものは全て、「粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率が35%超、85%未満、かつ、粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率が、75%超」という本発明の粒度分布の範囲内であり、ラトラ試験での重量減少率が3.5%以下となっている。
他方、上記の粒度分布を外れる比較例1〜3では、ラトラ試験での重量減少率が4%以上である。
このことから、鉄粉の粒度分布を本発明の範囲内にすることで重量減少率を大幅に抑制できることが実証された。
なお、表2において比較例1〜4における粒度分布が本発明の範囲を外れる数字には下線を付してある。
また、発明例1,2,3,4、6では、粒子径が150μmを超える鉄粉の質量比率が10%未満であり、これらのラトラ試験での重量減少率は、3%以下と低くなっている。他方、発明例5では、粒子径が150μmを超える鉄粉の質量比率が11.6%と10%超になっている。このことから、粒子径が150μmを超える鉄粉の質量比率を10%未満に制御することで鉄粉の付着力をより高めることができることが分かる。
次に、実施の形態1に係る種子被覆用鉄粉の金属鉄含有比率を所定値に規定した効果を確認するために、発明例として、粒度分布が本発明範囲内で、かつ金属鉄含有比率が30.0質量%〜99.0質量%である発明例7〜11を用いて稲種子の被覆を行った。
また、比較例として、粒度分布については本発明範囲内であるが、金属鉄含有比率が発明範囲外の20.6質量%の比較例4と、99.7質量%の比較例5を用いて稲種子の被覆を行った。
なお、この実験では金属鉄含有比率に関する効果確認に主眼を置いているため、粒度分布はほぼ同じになるように制御した。
種子被覆用鉄粉の粒度分布、金属鉄含有比率、及びラトラ試験での重量減少率、発芽率を表3に示す。
なお、発芽率は前記の鉄コーティング湛水直播マニュアル2010に記載の「発芽テスト」に準じて評価した。具体的には、直径9cmのシャーレーに、種子をおよそ100粒と、水を20mLとを入れ、25℃で1週間放置後、発芽した種子としなかった種子を数え、発芽率を計算した。
金属鉄比率の高い発明例7、8及び比較例5では、ラトラ試験での重量減少率が2.6%以下であり、このことから金属鉄含有比率を大きくすることで、錆びの発生を確実にでき、被膜の強度を高くできたものと推察される。
他方、比較例4では金属鉄含有比率が20.6質量%と小さく、その結果、ラトラ試験での重量減少率が19.5%と高くなっている。このことから、金属鉄含有比率が発明範囲を外れて低いために錆び発生が不十分となり、被膜強度が低くなったものと推察される。
また、金属鉄含有比率が99.7質量%の比較例5では、ラトラ試験での重量減少率は2.5%と高くはないが、発芽率が60%と低くなっている。これは、錆び発生時の酸化反応が急激に進行し、その際の発熱量が大きく種子に対してダメージを与えたものと推察される。
以上のように、種子被覆用鉄粉の金属鉄含有比率を30.0質量%以上99.0質量%以下にすることで、種子に対するダメージを与えることなく被覆強度の高い被覆を実現できることが確認された。
実施の形態2に係る種子被覆用鉄粉について流動度を発明範囲内とし、粒度分布を実施例1と同様に変化させた場合についての実験を行った。
表4に鉄粉の粒度分布とラトラ試験での重量減少率を示す。
発明例12〜17における粒度分布は、実施例1の発明例1〜6と同様であり、比較例6〜8における粒度分布は、実施例1の比較例1〜3と同様である。
また、流動度に関しては、発明例、比較例共に発明範囲である40(sec/50g)以下に制御し、具体的には29.0(sec/50g)〜39.5(sec/50g)とした。
鉄粉による稲種子被覆方法、ラトラ試験方法等は実施例1で示したものと同様である。
表4に示されるように、重量減少率は実施例1の表2に示した結果と同様であり、重量減少率に関しては、粒度分布の影響が大きいことが確認された。つまり、粒度分布が発明範囲内にあることで、稲種子に対する鉄粉の付着力を高めることができる。
次に、本発明に係る種子被覆用鉄粉の流動度の効果を確認するために、本発明の発明例として、粒度分布が本発明範囲内で、かつ流動度が29.5(sec/50g)、35.0(sec/50g)、40.0(sec/50g)である発明例18〜20を用いて稲種子の被覆を行った。
また、比較例として、粒度分布については本発明範囲内であるが、流動度が極めて大きい比較例9、鉄粉被覆をしないものを比較例10とした。
種子被覆用鉄粉の粒度分布、流動度に対応した、鉄粉被覆種子質量(100粒)の平均質量(mg)及び標準偏差(mg)、さらには発芽率(%)を表5に示す。発芽率の評価方法等は実施例1で示したものと同様である。
表5に示されるように、発明例18〜20に記載のものは鉄粉被覆種子質量(100粒)の標準偏差(mg)が12(mg)より小さくなっている。また、流動度が小さいものほど標準偏差が小さくなっていることが分かる。そして、発明例18〜20のものは発芽率が94%以上でありかなり高くなっている。特に、流動度が35(sec/50g)以下であれば、標準偏差は8.1(mg)以下で発芽率が99%以上である。
これに対して、比較例9のものは、標準偏差が16(mg)を超え、発芽率が85%と低くなっている。
以上のことから、種子被覆用鉄粉の流動度を小さくすることで、種子被覆用鉄粉の種子に対する被覆のばらつきが小さくなり、発芽率が高くなることが分かる。
また、流動度が40(sec/50g)以下であれば発芽率が94%以上となるので好ましく、さらには流動度が35(sec/50g)以下であれば発芽率が99%以上となるのでより好ましいことが分かる。
実施の形態3に係る種子被覆用鉄粉について安息角を発明範囲内とし、粒度分布を実施例1と同様に変化させた場合についての実験を行った。
表6に鉄粉の粒度分布とラトラ試験での重量減少率を示す。
発明例21〜26における粒度分布は、実施例1の発明例1〜6と同様であり、比較例11〜13における粒度分布は、実施例1の比較例1〜3と同様である。
また、安息角に関しては、発明例、比較例共に発明範囲である45度以下に制御し、具体的には33〜41度とした。
鉄粉による稲種子被覆方法、ラトラ試験方法等は実施例1で示したものと同様である。
表6に示されるように、重量減少率は実施例1の表2に示した結果と同様であり、重量減少率に関しては、粒度分布の影響が大きいことが確認された。つまり、粒度分布が発明範囲内にあることで、稲種子に対する鉄粉の付着力を高めることができる。
次に、本発明に係る種子被覆用鉄粉の安息角を規定した効果を確認するために、本発明の発明例として、粒度分布が本発明範囲内で、かつ安息角が33度、35度、45度である発明例27〜29を用いて稲種子の被覆を行った。
また、比較例として、粒度分布については本発明範囲内であるが、安息角が48度の比較例14、鉄粉被覆をしないものを比較例15とした。
種子被覆用鉄粉の粒度分布、安息角に対応した、鉄粉被覆種子質量(100粒)の平均質量(mg)及び標準偏差(mg)、さらには発芽率(%)を表7に示す。発芽率の評価方法等は実施例1で示したものと同様である。
表7に示されるように、発明例27〜29に記載のものは鉄粉被覆種子質量(100粒)の標準偏差(mg)が12(mg)より小さくなっている。また、安息角が小さいものほど標準偏差が小さくなっていることが分かる。そして、発明例27〜29のものは発芽率が95%以上でありかなり高くなっている。特に、安息角が35度以下であれば、標準偏差は8.1(mg)以下で発芽率が99%以上である。
これに対して、比較例14のものは、標準偏差が16(mg)を超え、発芽率が85%と低くなっている。
以上のことから、種子被覆用鉄粉の安息角を小さくすることで、種子被覆用鉄粉の種子に対する被覆のばらつきが小さくなり、発芽率が高くなることが分かる。
また、安息角が45度以下であれば発芽率が95%以上となるので好ましく、さらには安息角が35度以下であれば発芽率が99%以上となるのでより好ましいことが分かる。
1 種籾
3 籾殻
5 毛

Claims (4)

  1. 種子を被覆するのに用いる鉄粉であって、
    粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率が35%超、85%未満、かつ粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率が75%超であり、かつ流動度が40(sec/50g)以下であることを特徴とする種子被覆用鉄粉。
  2. 種子を被覆するのに用いる鉄粉であって、
    粒子径が45μm以下の鉄粉の質量比率が35%超、85%未満、かつ粒子径が63μm以下の鉄粉の質量比率が75%超であり、安息角が45度以下であることを特徴とする種子被覆用鉄粉。
  3. 粒子径が150μm超の鉄粉の質量比率が、10%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の種子被覆用鉄粉。
  4. 請求項1乃至3のいずれか一項に記載の種子被覆用鉄粉を被覆してなることを特徴とする種子。
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