本発明は、電極であるワイヤと溶接対象物(母材)との間にアークを発生させる消耗電極式アーク溶接において、溶接対象物に対応した溶接条件を決定する溶接条件決定方法および溶接装置に関するものである。
溶接対象物が決まり、アーク溶接が行われる場合、従来は、次のように溶接装置の溶接条件が決定されていた。溶接対象物に対し、これまで行った溶接施工の経験又は勘に基づき、作業者が溶接対象物に対する溶接電流、溶接電圧、溶接速度等の溶接条件を溶接装置に設定していた。そして、この溶接装置を用いて溶接を行っていた。そして、作業者は、溶接結果を検証しながら再度溶接条件を変更し、これを何度か繰り返すことで溶接対象物に適した溶接条件を決定していた。
なお、作業者がこれら溶接条件等を設定するため、通常ジョグダイヤルと呼ばれるエンコーダとLED(Light Emitting Diode)表示装置を備えた溶接機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
溶接条件の設定に関し、経験と勘という点で、熟練作業者は比較的短時間で溶接条件を設定できる可能性がある。しかしながら、最近では溶接施工の経験が少ない作業者も多い。このように経験が少ない作業者が、適正な溶接条件を設定するまでには多くの時間を費やしてしまう課題がある。また、繰り返し溶接を行って溶接条件等を設定する場合、多くの溶接対象物を消費してしまうといった課題がある。
本願発明は、溶接条件を容易に求めることがきる溶接条件設定方法および溶接装置を実現する。
上記課題を解決するために、本発明の溶接条件設定方法は、溶接対象物に関する情報である溶接対象物情報を入力する第1ステップと、アーク溶接法に関する情報である溶接法情報を入力する第2ステップと、溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて電極であるワイヤと溶接対象物との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量を決定する第3ステップと、溶接対象物情報と溶接法情報とアーク熱量に基づいてワイヤ送給速度の推奨値と脚長の推奨値と溶接速度の推奨値と溶接電流の推奨値と溶接電圧の推奨値を決定する第4ステップと、第4ステップの後に溶接条件として表示される脚長又は溶接速度の少なくとも一方が、第4ステップで決定した推奨値とは異なる値に変更されると、変更後の値から脚長の2乗に比例し溶接速度に比例する関係にあるワイヤ送給速度を算出するためのワイヤ送給速度算出式に基づいて、ワイヤ送給速度を求める送給速度算出ステップと、ワイヤ送給速度の増加にあわせて増加する関係にある溶接電流を算出するための溶接電流算出式又はワイヤ送給速度と溶接電流の関係を表す表に基づいて、送給速度算出ステップで算出されたワイヤ送給速度から溶接電流を求める電流値算出ステップと、電流値算出ステップで求めた溶接電流から溶接電圧を求める電圧値算出ステップと、を備え、電流値算出ステップで求めた溶接電流及び電圧値算出ステップで求めた溶接電圧を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する構成である。
この構成により、作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定することで、それに適した溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、溶接速度及び脚長といった溶接条件の推奨値を決定して表示することができ、さらに、作業者が推奨値から値を変更した場合でも、その変更後の値に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
故に、溶接条件を決定するまでの試行錯誤を行う時間と労力を低減することができ、溶接条件設定に関する作業者の負担を軽減することができる。また、溶接条件を決定するまでに繰り返し行われる溶接に用いられ廃棄される溶接対象物の量も低減することができる。
また、本発明の溶接条件決定方法は、溶接対象物に関する情報である溶接対象物情報を入力する第1ステップと、アーク溶接法に関する情報である溶接法情報を入力する第2ステップと、溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて電極であるワイヤと溶接対象物との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量を決定する第3ステップと、溶接対象物情報と溶接法情報とアーク熱量に基づいて、ワイヤ送給速度の推奨値と脚長の推奨値と溶接速度の推奨値と溶接電流の推奨値と溶接電圧の推奨値を決定する第4ステップと、第4ステップの後に溶接条件として表示される溶接速度が、溶接速度の推奨値とは異なる値に変更されると、溶接電流と溶接電圧に比例し溶接速度に反比例する関係にあるアーク熱量を算出するためのアーク熱量算出式を基に、既に決定されたアーク熱量と表示される溶接速度の変更後の値から、溶接電流と溶接電圧の積算値を算出し、溶接電流と溶接電圧との関係を示す関係式または関係表を基に、積算値より溶接電流及び溶接電圧を求める電流値及び電圧値算出ステップを備え、表示される溶接速度が変更されると、電流値及び電圧値算出ステップで求めた溶接電流及び溶接電圧を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する構成である。
この構成により、作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定することで、それに適した溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、溶接速度及び脚長といった溶接条件の推奨値を決定して表示することができ、さらに、作業者が推奨値から値を変更した場合でも、その変更後の値に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
故に、溶接条件を決定するまでの試行錯誤を行う時間と労力を低減することができ、溶接条件設定に関する作業者の負担を軽減することができる。また、溶接条件を決定するまでに繰り返し行われる溶接に用いられ廃棄される溶接対象物の量も低減することができる。
図1は、本発明の実施の形態1における溶接装置の概略構成を示す図である。
図2は、本発明の実施の形態1における溶接対象物の一例を示す図である。
図3は、本発明の実施の形態1における溶接条件の推奨値を決定する手順を示すフローチャートである。
図4は、本発明の実施の形態1における板厚と溶接に必要なアーク熱量の関係を示す図である。
図5は、本発明の実施の形態1における設定器の表示画面の表示例を示す図である。
図6は、本発明の実施の形態1における板厚と溶接必要なアーク熱量の関係とアーク熱量の適正範囲を示す図である。
図7は、本発明の実施の形態1における継手毎の板厚と溶接に必要なアーク熱量の関係を示す図である。
図8は、本発明の実施の形態2における溶接条件の推奨値を決定する手順を示すフローチャートである。
図9は、本発明の実施の形態2における溶接電流I×溶接電圧Vとワイヤ送給速度WFの関係を示す図である。
図10は、本発明の実施の形態2における溶接条件の推奨値を決定する別の手順を示すフローチャートである。
図11は、本発明の実施の形態2における板厚と溶接速度の関係を示す図である。
図12Aは、本発明の実施の形態3における溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第1のフローチャートである。
図12Bは、本発明の実施の形態3における溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第2のフローチャートである。
図13Aは、本発明の実施の形態3における別の溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第1のフローチャートである。
図13Bは、本発明の実施の形態3における別の溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第2のフローチャートである。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における溶接装置の概略構成を示す図である。
本実施の形態1の溶接装置はアーク溶接装置であり、図1に示すように、マニピュレータ3と、マニピュレータ3の動作を制御するロボット制御装置4と、設定器5を備える。マニピュレータ3は、電極であるワイヤ1を保持する溶接トーチ2を移動させる。設定器5は、ロボット制御装置4との間で通信を行い、且つこの通信によってロボット制御装置4に対して情報の設定等を行う。
ロボット制御装置4は、溶接電源装置7と、制御部8と、演算部9と、記憶部10を備える。溶接電源装置7は、ワイヤ1と溶接対象物6との間に溶接を行うための電力を供給する。制御部8は、マニピュレータ3と溶接電源装置7の動作を制御する。演算部9は、溶接条件等に関する演算を行う。記憶部10は、制御部8がマニピュレータ3の動作を制御するための動作プログラムと、演算部9が演算する際に用いる数式や表(テーブル)と、演算結果等を記憶する。なお、図1では、溶接電源装置7をロボット制御装置4の内部に設けた例を示している。しかし、溶接電源装置7をロボット制御装置4の外部に設けるようにしても良い。
また、設定器5は、詳細を後述するが、溶接対象物6に関する情報を入力するための溶接対象物情報入力部11と、溶接法に関する情報を入力するための溶接法情報入力部12と、を備える。さらに、溶接対象物6を溶接する際の脚長を設定する、あるいは変更するための脚長設定部13と、溶接速度を設定あるいは変更するための溶接速度設定部14と、各種情報を表示するための表示部15を備えている。
次に、本実施の形態1の溶接条件決定方法について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1における溶接対象物6の一例を示す図である。図3は、本発明の実施の形態1における溶接条件の推奨値を決定する手順を示すフローチャートである。
図2に示すように、上板16と下板17とからなるT継手に関して溶接を行う場合を例にして説明する。
なお、本実施の形態1では、先ず、設定器5を用いて溶接対象物情報と溶接法情報が溶接装置に入力される。この入力された情報に対する溶接速度vの推奨値と、溶接電流Iの推奨値と、溶接電圧Vの推奨値と、ワイヤ送給速度WFの推奨値と、脚長Sの推奨値を求める溶接条件決定方法について説明する。これらの推奨値は設定器5の表示部15に表示され、作業者に対して溶接条件の情報として提供される。その次に、表示された脚長の推奨値を作業者が変更した際に、新たに、溶接速度vの推奨値と、溶接電流Iの推奨値と、溶接電圧Vの推奨値と、ワイヤ送給速度WFの推奨値を決定する溶接条件決定方法について説明する。これらの新たな推奨値は、表示部15に表示される。新たな推奨値は、作業者に対して溶接条件として提供される。
では、まず、溶接対象物情報と溶接法情報を入力することにより溶接電流等の推奨値を決定する溶接条件決定方法について説明する。
図3に示すように、第1ステップS1として、設定器5の溶接対象物情報入力部11を用いて、溶接対象物6に関する情報である溶接対象物情報が溶接装置に入力される。なお、この第1ステップS1では、溶接対象物情報として、上板16及び下板17の材質と、上板16の板厚と、下板17の板厚と、溶接対象物6の継手形状が設定される。
次に、図3に示すように、第2ステップS2として、設定器5の溶接法情報入力部12を用いて、アーク溶接法に関する情報である溶接法情報が溶接装置に入力される。なお、この第2ステップS2では、溶接情報として、アーク溶接を行う際にパルス溶接を行うか否かのパルス溶接の可否情報と、パルスモードの種類と、シールドガスの種類と、溶接ワイヤ突出長設定と、ワイヤ送給制御方法の選択と、ワイヤ1の材質と、ワイヤ1の直径の情報であるワイヤ径が溶接装置に入力される。
以下、溶接速度の推奨値vrと、ワイヤ送給速度の推奨値WFrと、溶接電流の推奨値Irと、溶接電圧の推奨値Vrと、脚長の推奨値Srを求める手順について順に説明する。
先ず、溶接速度の推奨値vrを求める手順について説明する。
溶接対象物情報および溶接法情報に対応付けられた溶接速度vに関する情報が、計算式やテーブル等として記憶部10に予め複数記憶されている。
そして、設定器5を用いて入力された溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて、演算部9が記憶部10から1つの溶接速度vを選択し、これを溶接速度の推奨値vrとする。
次に、ワイヤ送給速度の推奨値WFrを求める手順について説明する。
図4は、本発明の実施の形態1における板厚と溶接に必要なアーク熱量の関係を示す図である。
記憶部10には、溶接対象物情報および溶接法情報に対応付けられた図4に示すような特性が予め複数記憶されている。図4は、溶接対象物6である上板16の板厚T1と下板17の板厚T2の平均値である板厚Tと、ワイヤ1と溶接対象物6との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量Qとの適切な溶接を行うことができる関係を示す図である。板厚Tが溶接対象物情報に対応し、アーク熱量Qが溶接法情報に対応する。ここで、適切な溶接とは、適度な強度を有すること、ビード形状に不具合が無いこと、溶け落ちが無いこと等を意味する。
そして、設定器5を用いて入力された溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて、演算部9が記憶部10から図4に示す1つの特性を選択する。また、演算部9は、設定器5を用いて入力された上板16の板厚T1と下板17の板厚T2から、2つの板厚の平均値である板厚Tを算出する。さらに、演算部9は、選択した図4に示す特性と板厚Tとからワイヤ1と溶接対象物6との間に発生させるに必要なアーク熱量Qnを求める。これが図3に示す第3ステップS3である。
ここで、アーク熱量Qとワイヤ送給速度WFとの関係は、アーク熱量Qが増加するとワイヤ送給速度WFも増加するといった関係にある。そして、溶接法情報に基づいて、アーク熱量Qとワイヤ送給速度WFの関係は一意的に決まる。そこで、溶接法情報に対応付けられたアーク熱量Qとワイヤ送給速度WFの関係(数式またはテーブル)の情報が複数、予め記憶部10に記憶されている。
演算部9は、第2ステップS2で入力された溶接法情報と、記憶部10に記憶されているアーク熱量Qとワイヤ送給速度WFとの関係の情報と、上記で求めたアーク熱量Qnから、ワイヤ送給速度WFを求め、これをワイヤ送給速度の推奨値WFrとする。
次に、溶接電流Iの推奨値を求める手順について説明する。
ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は、ワイヤ送給速度WFが増加すると溶接電流Iも増加するといった関係にある。そのために、溶接法情報に基づいて、ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は一意的に決まる。溶接法情報に対応付けられたワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報(数式あるいはテーブル)が複数、予め記憶部10に記憶されている。
演算部9は、記憶部10に記憶されているワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報と、第2ステップS2で入力された溶接法情報と、上記で求めたワイヤ送給速度の推奨値WFrに基づいて溶接電流Iを求める。演算部9は、ここで求められた値を、溶接電流の推奨値Irとする。
次に、溶接電圧Vの推奨値Vrを求める手順について説明する。
アーク熱量Qと溶接電流Iと溶接電圧Vと溶接速度vとは(数1)に示す関係にあり、この(数1)は記憶部10に記憶されている。
Q=(I×V×60)/v (数1)
そして、演算部9は、記憶部10に記憶されている(数1)と、上記で求めた溶接速度の推奨値vrと、上記で算出したアーク熱量Qnから、溶接電流I×溶接電圧Vを算出する。
さらに、演算部9は、この溶接電流I×溶接電圧Vと、上記で求めた溶接電流の推奨値Irとから溶接電圧Vを求め、これを溶接電圧の推奨値Vrとする。
次に、脚長Sの推奨値Srを求める手順について説明する。
脚長Sとワイヤ径dとワイヤ送給速度WFと溶接速度vとは(数2)に示す関係にあり、この(数2)は記憶部10に記憶されている。
S=d√((π×WF)/(2×v)) (数2)
そして、演算部9は、記憶部10に記憶されている(数2)と、第2ステップS2で入力されたワイヤ径dと、上記で求めたワイヤ送給速度の推奨値WFrと、上記で求めた溶接速度の推奨値vrとから脚長Sを求め、これを脚長の推奨値Srとする。
なお、演算部9で求められた溶接速度の推奨値vrと、ワイヤ送給速度の推奨値WFrと、溶接電流の推奨値Irと、溶接電圧の推奨値Vrと、脚長の推奨値Srは、設定器5の表示部15に表示される。
図5は、本発明の実施の形態1における設定器の表示画面の表示例を示す図である。
図5に、設定器5の表示部15の表示の一例を示す。図5では、溶接対象物情報として、T継手、上板の板厚1.6mm、下板1.6mmが入力され、推奨値として、溶接速度vが0.8m/min、溶接電流Iが120A、溶接電圧Vが16.8V、脚長Sが3.5mmと表示された例を示している。
なお、この図5においては、ワイヤ送給速度の推奨値WFrは表示していない。その理由は、溶接電流Iとワイヤ送給速度WFとは比例の関係にあり、溶接条件としては、溶接電流Iまたはワイヤ送給速度WFの一方を設定すればよい。しかし、溶接電流Iを設定することが一般的であるので、溶接電流Iを表示しており、ワイヤ送給速度WFrは表示していない。
以上のようにして、溶接対象物情報や溶接法情報に基づいて溶接電流I等の推奨値を決定することができる。これが図3に示す第4ステップS4である。
次に、上記のように算出されて表示された脚長の推奨値Srの値を、作業者が変更した際に、新たに、溶接速度vの推奨値と、溶接電流Iの推奨値と、溶接電圧Vの推奨値と、ワイヤ送給速度WFの推奨値と、を決定して表示する溶接条件決定方法について説明する。
脚長Sは、溶接継手強度を支配する重要な要素であり、溶接を行う際の図面の中で指示される場合もある。そこで、任意の脚長Sを直接変更入力可能とするため、本実施の形態1の溶接装置では、設定器5に、脚長Sの値の変更を行うための脚長設定部13を設けている。
以下、脚長の推奨値Srが設定器5の表示部15に表示されている状態で、作業者が設定器5の脚長設定部13を用いて脚長Sの値を推奨値Srから脚長S1に変更した際に、新たに、溶接電流I等の溶接条件の推奨値を決定する手順について説明する。
先ず、新たな溶接速度vの推奨値を求める手順について説明する。
上記のように、溶接速度の推奨値vrは、設定器5を用いて入力された溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて、演算部9が記憶部10から1つの溶接速度vを選択し、これを溶接速度の推奨値vrとするものである。ここで、脚長の推奨値Srが変更されても、溶接対象物情報と溶接法情報は変えていないので、溶接速度の推奨値vrは変わらない。
次に、新たなワイヤ送給速度WFの推奨値を求める手順について説明する。
演算部9は、記憶部10に記憶されている脚長Sを求める算出式である(数2)からワイヤ送給速度算出式(数3)を導出する。
WF=(2×S2×v)/(π×d2) (数3)
そして、演算部9は、(数3)と変更後の脚長の値S1と上記溶接速度の推奨値vrと溶接法情報として入力されたワイヤ1の直径であるワイヤ径dの値から、ワイヤ送給速度WFの新たな推奨値であるワイヤ送給速度WF1を求める。これが図3に示す送給速度算出ステップS5である。
次に、溶接電流Iの新たな推奨値を求める手順について説明する。
ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は、ワイヤ送給速度WFが増加すると溶接電流Iも増加するといった関係にある。そして、溶接法情報に基づいて、ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は一意的に決まる。そこで、溶接法情報に対応付けられたワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報(数式あるいはテーブル)が複数、予め記憶部10に記憶されている。
演算部9は、記憶部10に記憶されているワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報と、第2ステップS2で入力された溶接法情報と、上記で求めた新たなワイヤ送給速度WFの推奨値とから、溶接電流I1を求め、これを新たな溶接電流Iの推奨値とする。これが図3に示す電流値算出ステップS6である。
次に、新たな溶接電圧Vの推奨値を求める手順について説明する。
溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係は、溶接電流Iが増加すると溶接電圧Vも増加するといった関係にある。そして、溶接法情報に基づいて、溶接電流Iと溶接電圧Vの関係は一意的に決まる。そこで、溶接法情報に対応付けられた溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係の情報(数式あるいはテーブル)が複数、予め記憶部10に記憶されている。
演算部9は、記憶部10に記憶されている溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係の情報と、上記で求めた溶接電流I1(新たな推奨値)に基づいて、溶接電圧V1を求め、これを新たな溶接電圧Vの推奨値とする。これが図3に示す電圧値算出ステップS7である。
以上により、脚長Sが脚長の推奨値Srから脚長S1に変更された場合、溶接装置は、溶接速度の推奨値vr(変更無し)と、新たな溶接電流Iの推奨値と、新たな溶接電圧Vの推奨値と、新たなワイヤ送給速度WFの推奨値を決定することができる。そして、これらを設定器5の表示部15に表示することで、作業者に対して情報として提供することができる。
但し、溶接装置は、推奨値から変更された脚長S1の値が適正な値でなければ、溶接電流I1等の新たな推奨値に関する情報を作業者に提供することができない。そこで、アーク熱量Qに着目し、求めた新たな推奨値を表示部15に表示するか否かを判定する例について、以下に説明する。
(数1)と、新たな溶接電圧Vの推奨値と新たな溶接電流Iの推奨値と溶接速度の推奨値vrとにより、変更後の脚長S1におけるアーク熱量Q1が求まる。ここで、ワイヤ1と溶接対象物6との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量Q1は、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報に対し一意的に決定されるものではない。
図6は、本発明の実施の形態1における板厚と溶接に必要なアーク熱量の関係とアーク熱量の適正範囲を示す図である。
実際は、図6に示すように、板厚と溶接必要なアーク熱量の関係は、溶接に必要なアーク熱量に上限と下限を備えた条件裕度が存在し、この条件裕度は、板厚Tが厚くなるほど広くなる傾向となることが発明者らによる実験により確認されている。
従って、推奨値とは異なる脚長S1が作業者により設定された場合、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流の値、電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧の値および溶接速度の推奨値vrから、演算部9でアーク熱量Q1が求められる。これが図3に示す熱量決定ステップS8である。この求められたアーク熱量Q1が、予め決められており記憶部10に記憶されているアーク熱量Qの上限を超える、又は、下限を下回る場合、作業者により設定された脚長S1は、適正範囲外であると判断される。
そして、判断結果が適正範囲外である場合、溶接装置は、設定された脚長S1が適正範囲外であることを設定器5の表示部15に表示する。また、脚長S1が適正範囲外の場合には、新たな推奨値として演算した溶接電流I1と溶接電圧V1等の値を表示部15に表示しない。このようにして、新たに演算された推奨値を溶接条件として設定できないようにする。また、表示部15に脚長S1を再度入力することを促す旨のメッセージを表示する。
なお、設定された脚長S1が適正範囲内である場合には、新たな推奨値として、演算した溶接電流I1や溶接電圧V1等の値を表示部15には表示する。そして、新たに演算された推奨値を溶接条件として設定できるようにする。
以上のように、本実施の形態1の溶接装置および溶接条件決定方法によれば、作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定する。このことで、それに適した溶接電流Iと溶接電圧Vとワイヤ送給速度WFと溶接速度vと脚長Sといった溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。さらに、作業者が脚長Sの推奨値から値を変更した場合でも、その変更後の脚長S1に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
従って、本実施の形態1の溶接装置および溶接条件決定方法は、溶接条件を決定するまでの試行錯誤を行う時間と労力と、溶接設定トライ用として廃棄する溶接対象物を最大限低減することが可能となる。
また、溶接装置は、溶接対象物6に対し必要となるアーク熱量Qを用いて演算するため、いかなる板厚の組み合わせに対しても、また、いかなる継手形状に対しても、溶接条件を提示することが可能である。
図7は、本発明の実施の形態1における継手毎の板厚と溶接に必要なアーク熱量の関係を示す図である。
図4と図7に示すようなアーク熱量Qと板厚Tとの関係を表す特性の情報(計算式やテーブル)を継手毎に、溶接装置は、記憶部10に記憶しており、入力された溶接対象物情報に基づいてアーク熱量Qを求める。そして、溶接装置は、このアーク熱量Qを用いて溶接条件の推奨値を求めるようにしている。なお、図4と図7における板厚Tは、上板16の板厚と下板17の板厚の平均値である。従って、上板16の板厚と下板17の板厚がどのような板厚であっても、溶接装置は、平均値であるTを算出することができる。そして、このTに基づいてアーク熱量Qを決定し、このアーク熱量Qを用いて溶接条件の推奨値を求めることができる。すなわち、溶接装置は、いかなる板厚の組み合わせにも対応することができる。
また、溶接装置は、脚長Sに関し、作業者により推奨値から異なる値に変更することを可能としている。しかし、適正範囲外の脚長Sが設定された場合には、適正範囲外であることを表示する機能も備えているので、非常に利便性の高いものとなっている。
なお、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報に対し、適正な溶接ねらい位置および溶接トーチ角度は異なる。そこで、それぞれを第1ステップS1で設定された溶接対象物情報である上板16と下板17の平均板厚である板厚Tに対する適正条件と、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報の上板16と下板17の板厚差を考慮した適正条件とを合算して出力する方式も具備している。
そして、図5に示すように、溶接装置は、トーチ角度とねらい位置を設定器5の表示部15に表示して作業者に情報として提供可能としている。
すなわち、本発明の溶接条件決定方法は、第1ステップS1と、第2ステップS2と、第3ステップS3と、第4ステップS4と、送給速度算出ステップS5と、電流値算出ステップS6と、電圧値算出ステップS7とを備える方法である。第1ステップS1は溶接対象物に関する情報である溶接対象物情報を入力する。第2ステップS2はアーク溶接法に関する情報である溶接法情報を入力する。第3ステップS3は溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて電極であるワイヤと溶接対象物との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量Qを決定する。第4ステップS4は、溶接対象物情報と溶接法情報とアーク熱量Qに基づいて、ワイヤ送給速度の推奨値WFrと脚長の推奨値Srと溶接速度の推奨値vrと溶接電流の推奨値Irと溶接電圧の推奨値Vrを決定する。送給速度算出ステップS5は、第4ステップS4の後に溶接条件として表示される脚長S又は溶接速度vの少なくとも一方が、第4ステップで決定した推奨値とは異なる値に変更されると、変更後の値から脚長Sの2乗に比例し溶接速度vに比例する関係にあるワイヤ送給速度WFを算出するためのワイヤ送給速度算出式に基づいて、ワイヤ送給速度WFを求める。電流値算出ステップS6は、ワイヤ送給速度WFの増加にあわせて増加する関係にある溶接電流Iを算出するための溶接電流算出式又はワイヤ送給速度WFと溶接電流Iの関係を表す表に基づいて、送給速度算出ステップS5で算出されたワイヤ送給速度WF1から溶接電流Iを求める。電圧値算出ステップS7は、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流Iから溶接電圧Vを求める。そして、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I及び電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧Vを、新たな溶接電流Iの推奨値及び新たな溶接電圧Vの推奨値として決定する方法である。
この方法により、作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定することで、それに適した溶接電流I、溶接電圧V、ワイヤ送給速度WF、溶接速度v及び脚長Sといった溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。さらに、作業者が推奨値から値を変更した場合でも、その変更後の値に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
故に、溶接条件を決定するまでの試行錯誤を行う時間と労力を低減することができ、溶接条件設定に関する作業者の負担を軽減することができる。また、溶接条件を決定するまでに繰り返し行われる溶接に用いられ廃棄される溶接対象物の量も低減することができる。
また、本発明の溶接条件決定方法の送給速度算出ステップS5は、第4ステップS4の後に溶接条件として表示される脚長Sが、第4ステップS4で決定した脚長の推奨値とは異なる値に変更されると、ワイヤ送給速度算出式に基づいて、脚長の変更後の値S1と溶接速度の推奨値vrからワイヤ送給速度WF1を求める。電圧値算出ステップS6は、溶接電流Iの増加にあわせて増加する関係にある溶接電圧Vを算出するための溶接電圧算出式又は溶接電流Iと溶接電圧Vの関係を表す表に基づいて、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流Iから溶接電圧Vを求める。そして、表示される脚長Sが変更されると、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1及び電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧V1を、新たな溶接電流Iの推奨値及び新たな溶接電圧Vの推奨値として決定してもよい。
また、本発明の溶接条件決定方法は、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1と、電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧V1と、溶接速度の推奨値vrとからアーク熱量Qを求める熱量決定ステップS8を備えてもよい。そして、熱量決定ステップS8で求めたアーク熱量Q1が適正範囲内にある場合のみ、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1と電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧V1を、新たな溶接電流Iの推奨値及び新たな溶接電圧Vの推奨値として決定する。
この方法により、適正なアーク熱量Qを発生する溶接電流I及び溶接電圧Vの推奨値を決定することができる。
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2における溶接条件の推奨値を決定する手順を示すフローチャートである。
本実施の形態2の溶接装置と溶接条件設定方法について、主に図8を用いて説明する。なお、本実施の形態2において、実施の形態1と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態1と異なる主な点は、溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて溶接条件の推奨値の決定を行った後の処理である。実施の形態1では、脚長の推奨値Srを変更した際に溶接条件の新たな推奨値を求める例を示した。しかし、本実施の形態2では、脚長ではなく溶接速度に関し、溶接速度の推奨値vrを変更した際に溶接条件の新たな推奨値を求めるようにした点である。
表示された溶接速度の推奨値vrの値を、作業者が変更した際に、新たに、溶接電流Iの推奨値と、溶接電圧Vの推奨値と、ワイヤ送給速度WFの推奨値と、脚長Sの推奨値を決定して表示する溶接条件決定方法について説明する。
図8に示すように、溶接条件決定方法は、溶接対象物情報や溶接法情報に基づいて、溶接速度の推奨値vrと、溶接電流の推奨値Irと、溶接電圧の推奨値Vrと、ワイヤ送給速度の推奨値WFrと、脚長の推奨値Srを求める。第4ステップS4までは、図3と同じである。よって第4ステップS4の説明を省略し、第4ステップS4の後の処理について説明する。
溶接速度vは、タクト時間のバランス等により決定される場合がある。従って、溶接速度の推奨値vrとは異なる値に変更されることもある。そこで、任意の溶接速度vを直接変更入力可能とするため、本実施の形態2の溶接装置では、設定器5に、溶接速度vの値の変更を行うための溶接速度設定部14を設けている。
そして、溶接速度の推奨値vrが設定器5の表示部15に表示されている状態で、作業者が設定器5の溶接速度設定部14を用いて溶接速度vの値を推奨値vrからv2に変更する。この時、溶接装置が、新たに、溶接電流I等の溶接条件の推奨値を決定する手順について説明する。
先ず、溶接電流Iの新たな推奨値と溶接電圧Vの新たな推奨値を求める手順について説明する。
溶接速度vが推奨値vrから新たな値である溶接速度v2に変更されたとしても、溶接対象物情報および溶接法情報は変更されていない。故に、溶接対象物6である上板16の板厚T1と下板17の板厚T2の平均値である板厚Tは変更されない。また、ワイヤ1と溶接対象物6との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量Qnとの適切な溶接を行うことができる関係を示す図4も変更されない。従って、アーク熱量Qnも変更されず、実施の形態1の場合と同じ値である。
そして、演算部9は、このアーク熱量Qnと、変更された溶接速度である溶接速度v2と(数1)により、(数1)内の溶接電流I2×溶接電圧V2を算出する。
ここで、溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係は、溶接電流Iが増加すると溶接電圧Vも増加するといった関係にある。そして、溶接法情報に基づいて、溶接電流Iと溶接電圧Vの関係は一意的に決まる。そこで、溶接法情報に対応付けられた溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係の情報(数式あるいはテーブル)が複数、予め記憶部10に記憶されている。そして、演算部9は、入力された溶接法情報に基づいて溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係の情報の1つを特定する。この特定した情報に基づいて溶接電流I2と溶接電圧V2を算出する。すなわち、溶接電流I2×溶接電圧V2が決まっているので、溶接電流I2と溶接電圧V2の関係を示す特性上で1つの点が決まる。そして、その点の溶接電流Iと溶接電圧Vが求める溶接電流I2と溶接電圧V2になる。これが図8に示す電流値及び電圧値算出ステップS15である。
次に、ワイヤ送給速度WFの新たな推奨値を求める手順について説明する。
ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は、ワイヤ送給速度WFが増加すると溶接電流Iも増加するといった関係にある。そして、溶接法情報に基づいて、ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は一意的に決まる。そこで、溶接法情報に対応付けられたワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報(数式あるいはテーブル)が複数、予め記憶部10に記憶されている。
演算部9は、記憶部10に記憶されているワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報と、第2ステップS2で入力された溶接法情報と、上記で求めた溶接電流Iの新たな推奨値である溶接電流I2に基づいて、ワイヤ送給速度WF2を求める。そして、これをワイヤ送給速度WF2の新たな推奨値とする。これが図8に示す送給速度算出ステップS16である。
次に、脚長Sの新たな推奨値S2を求める手順について説明する。
実施の形態1で説明したように、脚長Sとワイヤ径dとワイヤ送給速度WFと溶接速度vとは(数2)に示す関係にあり、この(数2)は記憶部10に記憶されている。
そして、演算部9は、記憶部10に記憶されている(数2)と、第2ステップS2で入力されたワイヤ径dと、上記で求めたワイヤ送給速度WF2(推奨値)と、推奨値vrから変更された値である溶接速度v2とから脚長Sを求め、これを脚長の推奨値S2とする。これが図8に示す脚長算出取得ステップS17である。
以上のようにして、溶接条件決定方法は、溶接速度vを溶接速度の推奨値vrから変更した際、溶接条件決定方法は溶接条件の推奨値を求めることができる。そして、演算部9で求められたワイヤ送給速度WF2と、溶接電流I2と、溶接電圧V2と、脚長S2は、設定器5の表示部15に新たな推奨値として表示される。
すなわち、溶接条件決定方法は、第4ステップS4の後に、溶接電流及び溶接電圧を求める電流値及び電圧値算出ステップS15を備える。
そして、溶接条件として表示される溶接速度vが、溶接速度の推奨値vrとは異なる値v2に変更されると、電流値及び電圧値算出ステップS15は、アーク熱量算出式を基に、既に決定されたアーク熱量Qnと表示される溶接速度の変更後の値から、溶接電流と溶接電圧の積算値I2×V2を算出する。そのアーク熱量算出式は、溶接電流と溶接電圧に比例し溶接速度に反比例する関係にあるアーク熱量を算出するためのものである。そして、溶接電流と溶接電圧との関係を示す関係式または関係表を基に、積算値I2×V2より溶接電流I2及び溶接電圧V2を求める。
このように、表示される溶接速度vrが変更されると、溶接条件決定方法は、電流値及び電圧値算出ステップS15で求めた溶接電流I2及び溶接電圧V2を、新たな溶接電流の推奨値I2及び新たな溶接電圧の推奨値V2として決定する。
作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定することで、それに適した溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、溶接速度及び脚長といった溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。さらに、作業者が推奨値から値を変更した場合でも、その変更後の値に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
また、溶接条件決定方法は、電流値及び電圧値取得ステップS15の後に、送給速度算出ステップS16と、脚長算出ステップS17と、を備える。送給速度算出ステップS16は、溶接電流とワイヤ送給速度の関係式または関係表を基に、電流値及び電圧値算出ステップS15で求めた溶接電流の値I2より、ワイヤ送給速度WF2を求める。脚長算出ステップS17は、送給速度算出ステップS16で求めたワイヤ送給速度WF2より、脚長S2を求める。
なお、別の仕方でも溶接条件の推奨値を算出することができる。以下に、溶接条件の推奨値の別の算出の仕方について説明する。
図9は、本発明の実施の形態2における溶接電流I×溶接電圧Vとワイヤ送給速度WFの関係を示す図である。図10は、本発明の実施の形態2における溶接条件の推奨値を決定する別の手順を示すフローチャートである。図11は、本発明の実施の形態2における板厚と溶接速度の関係を示す図である。
ここで、溶接電流I×溶接電圧Vと、ワイヤ送給速度WFとの関係は、図9に示すように比例関係を示すことが発明者らの実験により確認された。溶接速度vrから溶接速度v3へα倍変更したとすると、アーク熱量Qを一定に保つ場合、(数1)に従うと、溶接電流I3×溶接電圧V3も、溶接電流Ir×溶接電圧Vrと比較するとα倍とする必要がある。
図9に示すように、ワイヤ送給速度WFは溶接電流I×溶接電圧Vと比例関係にある。そのため、溶接電流I×溶接電圧Vがα倍になると、ワイヤ送給速度WFもα倍となる。すなわち、溶接速度vrが溶接速度v2へα倍に変更されると、ワイヤ送給速度WF2はワイヤ送給速度WFrのα倍となる。よって、(数2)より、溶接速度vが変化してもアーク熱量Qを一定としている限り脚長Sは変化しないこととなる。溶接速度vを変化させた場合、脚長Sを一定となるようにワイヤ送給量WFを設定すると、同じアーク熱量Qでの適正な施工を行うことが可能となる。
前述では、溶接速度の推奨値vrを溶接速度v2に変更した場合、アーク熱量Qが一定となるように演算を行って溶接電流I2と溶接電圧V2を算出する例を示した。しかし、図9の関係を満たす場合、溶接条件決定方法は、別の手順で溶接条件の推奨値を決定してもよい。つまり、演算部9は、脚長Sを一定に保つよう、(数3)を基に、ワイヤ送給速度WF2を算出する。そして、溶接電流I2を、ワイヤ送給速度WFが増加すると溶接電流Iも増加するといった関係(計算式あるいはテーブル)に基づいて算出する。そして、溶接電圧V2を、溶接電流I2が増加すると溶接電圧V2も増加するといった関係(計算式あるいはテーブル)に基づいて算出するようにしても良い。
本実施の形態2の別の溶接条件設定方法について、図10を用いて説明する。
本実施の形態2の別の溶接条件の決定方法は、第4ステップS4の後に、溶接速度の推奨値vrが溶接速度v2に変更されると、送給速度算出ステップS5、電流値算出ステップS6、電圧値算出ステップS27を行なう。そして、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I2及び電圧値算出ステップS27で求めた溶接電圧V2を、新たな溶接電流Iの推奨及び新たな溶接電圧Vの推奨値とする。
詳細には、送給速度算出ステップS5は、第4ステップの後に表示される溶接速度vが、溶接速度の推奨値vrとは異なる値に変更されると、ワイヤ送給速度算出式に基づいて、溶接速度の変更後の値v2と、脚長の推奨値Srからワイヤ送給速度WF2を求める。
電圧値算出ステップS27は、アーク熱量算出式に基づいて、第3ステップS3で決定したアーク熱量Qnと、溶接速度の変更後の値v2と、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I2とから、溶接電圧V2を算出する。そのアーク熱量算出式は、溶接電流と溶接電圧に比例し溶接速度に反比例する関係にあるアーク熱量を算出するためのものである。
表示される溶接速度vrが溶接速度v2に変更されると、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I2及び電圧値算出ステップS27で求めた溶接電圧V2を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する。
このように、作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定することで、それに適した溶接電流I、溶接電圧V、ワイヤ送給速度WF、溶接速度v及び脚長Sといった溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。さらに、作業者が送給速度の推奨値vrから値を変更した場合でも、その変更後の値v2に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
なお、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報に対し、適正な溶接ねらい位置および溶接トーチ角度は異なる。そこで、それぞれを第1ステップS1で設定された溶接対象物情報である上板16と下板17の平均板厚である板厚Tに対する適正条件と第1ステップS1で設定された溶接対象物情報の上板と下板の板厚差を考慮した適正条件とを合算して出力する方式も具備している。
そして、図5に示すように、トーチ角度とねらい位置を設定器5の表示部15に表示して作業者に情報として提供可能としている。なお、溶接速度vは、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報に対し一意的に決定されるものではない。
実際は、図11に示すように、上限溶接速度が存在する。この上限溶接速度は、板厚Tが厚くなるほど低くなる傾向となることが発明者らによる実験により確認されている。
従って、推奨値とは異なる、作業者により設定された溶接速度v2に関し、記憶部10に記憶されている溶接速度vの上限を超える場合がある。その場合には、作業者により設定された溶接速度v2は、適正範囲外であると判断される。
そして、判断結果が適正範囲外である場合、溶接装置は、設定された溶接速度v2が適正範囲外であることを設定器5の表示部15に表示する。また、設定された溶接速度v2が適正範囲外である場合には、新たな推奨値として演算した溶接電流I2や溶接電圧V2等の値を表示部15には表示しないようにし、溶接条件として設定できないようにする。また、表示部15に溶接速度v2を再度入力することを促す旨のメッセージを表示する。
なお、設定された溶接速度v2が適正範囲内である場合には、新たな推奨値として、演算した溶接電流I2や溶接電圧V2等の値を表示部15には表示し、溶接条件として設定できるようにする。
(実施の形態3)
図12Aは、本発明の実施の形態3における溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第1のフローチャートである。図12Bは、本発明の実施の形態3における溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第2のフローチャートである。
本実施の形態の溶接装置と溶接条件設定方法について、図12A、図12Bを用いて説明する。なお、本実施の形態3において、実施の形態1や実施の形態2と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態1や実施の形態2と異なる主な点は、溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて溶接条件の推奨値の決定を行った後の処理である。実施の形態1では、脚長の推奨値Srを変更した際に溶接条件の新たな推奨値を求める例を示した。実施の形態2では、溶接速度の推奨値vrを変更した際に溶接条件の新たな推奨値を求める例を示した。本実施の形態3では、脚長の推奨値Srと溶接速度の推奨値vrの両方を変更した際に溶接条件の新たな推奨値を求めるようにした点である。
表示された脚長の推奨値Srと、表示された溶接速度の推奨値vrを、作業者が変更して脚長S1と溶接速度v2にすることがある。その場合、新たに、溶接電流Iの推奨値と、溶接電圧Vの推奨値と、ワイヤ送給速度WFの推奨値とを決定して表示する溶接条件決定方法について説明する。
脚長Sと溶接速度vの両方を推奨値から変更することに関し、脚長Sは溶接継手性能を決定する項目となり優先順位が高くなると考えられる。従って、脚長Sの変更による溶接条件算出の処理が行なわれ、その後に、溶接速度vの変更による溶接条件算出の処理が行なわれることとして説明する。
先ずは、脚長の推奨値Srの変更による溶接条件の算出について説明する。但し、脚長の推奨値Srの変更による溶接条件の算出(送給速度算出ステップS5、電流値算出ステップS6、電圧値算出ステップS7、熱量決定ステップS8)は、実施の形態1で説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。なお、本算出に関し、溶接速度vは、変更された溶接速度v2ではない。実施の形態1と同様に、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報に基づいて決定された溶接速度の推奨値vrを用いている。
そして、溶接装置は、この算出による各溶接条件の推奨値を、溶接電流I1、溶接電圧V1の推奨値、ワイヤ送給速度WF1とする。
なお、実施の形態1と同様、変更された脚長S1の値が適正な範囲内であるか否かの判定を行った上で各溶接条件の推奨値を求めている(熱量決定ステップS8)。
次に、溶接速度の推奨値vrの変更による溶接条件の算出について説明する。但し、溶接速度の推奨値vrの変更による条件の算出や溶接速度vが上限を超えるか否かの判定は、実施の形態2で説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。但し、本算出に関し、実施の形態2と同様に、脚長Sとしては、変更された脚長S1を用いている。
そして、溶接装置は、この算出による各溶接条件の推奨値を、溶接電流I12、溶接電圧V12、ワイヤ送給速度WF12とする。
なお、実施の形態2と同様、演算部9は、変更された溶接速度v2の値が適正な範囲内であるか否かの判定を行った上で各溶接条件の推奨値を求めている。
以上のように、脚長を推奨値Srから脚長S1に変更し、かつ、溶接速度を推奨値vrから溶接速度v2に変更した際に、溶接装置は各溶接条件の推奨値として、溶接電流I12、溶接電圧V12、ワイヤ送給速度WF12が算出され、設定器5の表示部15に表示される。なお、脚長Sと溶接速度vに関しては、推奨値からの変更値である脚長S1と溶接速度v2が設定器5の表示部15に表示される。
すなわち、溶接条件設定方法は、第4ステップS4の後に、送給速度算出ステップS5と、電流値算出ステップS6と、熱量決定ステップS7と、熱量算出ステップS8と、電流値及び電圧値算出ステップS16とを備える。
そして、溶接条件として表示される脚長及び溶接速度が、第4ステップS4で決定した推奨値とは異なる値に変更されると、電流値及び電圧値算出ステップS16で求めた溶接電流I12及び溶接電圧V12を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する。
送給速度算出ステップS5は、脚長の2乗に比例し溶接速度に比例する関係にあるワイヤ送給速度を算出するためのワイヤ送給速度算出式に基づいて、脚長の変更後の値S1と溶接速度の推奨値vrからワイヤ送給速度WF1を求める。
電流値算出ステップS6は、ワイヤ送給速度の増加にあわせて増加する関係にある溶接電流を算出するための溶接電流算出式又はワイヤ送給速度と溶接電流の関係を表す表に基づいて、送給速度算出ステップS5で算出したワイヤ送給速度WF1から溶接電流I1を求める。
電圧値算出ステップS7は、溶接電流の増加にあわせて増加する関係にある溶接電圧を算出するための溶接電圧算出式又は溶接電流と溶接電圧の関係を表す表に基づいて、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1から溶接電圧V1を求める。
熱量決定ステップS8は、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1と電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧V1と、溶接速度の推奨値vrとからアーク熱量Q1を決定する。
電流値及び電圧値算出ステップS16は、アーク熱量算出式に基づいて、熱量決定ステップS8で決定したアーク熱量Q1と溶接速度の変更後の値v2から、溶接電流と溶接電圧の積算値を算出する。そして、溶接電流と溶接電圧との関係を示す関係式または関係表を基に、積算値より新たな溶接電流Iの推奨値及び新たな溶接電圧Vの推奨値を求める。
このようにして、溶接条件設定方法は、電流値及び電圧値算出ステップS16で求めた溶接電流I12及び溶接電圧V12を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する。
本実施の形態3の溶接装置および溶接条件決定方法によれば、溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報が設定されることで、溶接装置は、それに適した溶接電流Irと溶接電圧Vrとワイヤ送給速度WFrと溶接速度vrと脚長Srといった溶接条件の推奨値を決定する。そして、この決定した溶接条件の推奨を表示部15に表示することができる。さらに、作業者が脚長の推奨値Srから値を変更し、かつ、溶接速度の推奨値vrから値を変更した場合でも、溶接装置は、その変更後における溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。従って、溶接条件を決定するまでの試行錯誤を行う時間と労力や、試作トライ用として廃棄する溶接対象物を最大限低減することが可能となる。
なお、別の仕方でも溶接条件の推奨値を算出することができる。以下に、溶接条件の推奨値の別の算出の仕方について説明する。
図13Aは、本発明の実施の形態3における別の溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第1のフローチャートである。図13Bは、本発明の実施の形態3における別の溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第2のフローチャートである。
すなわち、溶接条件設定方法は、第4ステップS4の後に、送給速度算出ステップS5と、電流値算出ステップS6と、熱量決定ステップS8と、電圧値算出ステップS27とを備える。
送給速度算出ステップS5は、第4ステップS4の後に表示される脚長及び溶接速度が、いずれも推奨値とは異なる値に変更されると、ワイヤ送給速度算出式に基づいて、脚長の変更後の値S1と溶接速度の推奨値vrからワイヤ送給速度WF1を求める。
電流値算出ステップS6は、ワイヤ送給速度の増加にあわせて増加する関係にある溶接電流を算出するための溶接電流算出式又はワイヤ送給速度と溶接電流の関係を表す表に基づいて、送給速度算出ステップS5で算出したワイヤ送給速度WF1から溶接電流I1を求める。
熱量決定ステップS8は、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1と、溶接電圧算出式又は溶接電流と溶接電圧の関係を表す表に基づいて、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1から求めた溶接電圧V1と、溶接速度の推奨値vrとからアーク熱量Q1を決定する。その溶接電圧算出式は、溶接電流の増加にあわせて増加する関係にある溶接電圧を算出するためのものである。
電圧値算出ステップS27は、アーク熱量算出式に基づいて、熱量決定ステップS8で求めたアーク熱量Q1と、溶接速度の変更後の値v2と、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1とから、溶接電圧V12を求める。そのアーク熱量算出式は、溶接電流と溶接電圧に比例し溶接速度に反比例する関係にあるアーク熱量を算出するためのである。
このように、表示される脚長及び表示される溶接速度が変更されると、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1及び電圧値算出ステップS27で求めた溶接電圧V12を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する。
なお、上記した実施の形態1から実施の形態3において、第1ステップS1として溶接対象物6に関する情報である溶接対象物情報を作業者は溶接装置に入力する。この溶接対象物情報としては、溶接対象物6の材質、溶接対象物6の上板16の板厚、溶接対象物6の下板17の板厚、溶接対象物6の上板16の板厚と溶接対象物6の下板17の板厚の平均板厚T、溶接対象物6の継手形状等が挙げられる。そして、これらの情報の内少なくとも1つを溶接対象物情報として用いるようにすれば良い。
また、継手形状の例としては、T継手、重ね継手、突合継手、角継手、へり継手、フレア継手等が挙げられる。
なお、上記した実施の形態1から実施の形態3において、第2ステップS2としてアーク溶接法に関する情報である溶接法情報を作業者は溶接装置に入力する。この溶接法情報としては、アーク溶接におけるパルス溶接の可否、パルスモードの種類、シールドガスの種類、溶接ワイヤ突出長設定、ワイヤ送給制御方法の選択、ワイヤ材質、ワイヤ径等が挙げられる。これらの情報の内少なくとも1つを溶接法情報として用いるようにすれば良い。
ここで、パルス溶接の可否とは、パルスありもしくはなしの選択である。パルスモードの種類とは、複数あるパルスモードの中からの選択である。シールドガスの種類とは、CO2ガスもしくは80%Ar−20%CO2ガスもしくは98%Ar−2%O2など溶接用に使用されるシールドガスである。ワイヤ突出長設定は、チップと母材間の距離のことをいい、15mmもしくは20mmなどの個別設定である。ワイヤ送給制御方法とは、常時正送、もしくは正送と逆送を繰り返すなどワイヤ送給のモード設定である。ワイヤ材質とは、軟鋼もしくはステンレスなど溶接用ワイヤの材質である。ワイヤ径とは、溶接ワイヤの直径を示しφ0.9mmもしくはφ1.0mmなど使用する溶接用ワイヤの直径をいう。
なお、実施の形態1から3においては、溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて、溶接条件の推奨値として、溶接速度vと、溶接電流Iと、溶接電圧Vと、ワイヤ送給速度WFと、脚長Sが演算されて表示される。
また、実施の形態1において、脚長Sが変更して設定された場合、その溶接条件の推奨値として、溶接速度vと、溶接電流Iと、溶接電圧Vと、ワイヤ送給速度WFが演算されて表示される。
また、実施の形態2において、溶接速度vが変更して設定された場合、その溶接条件の推奨値として、溶接電流Iと、溶接電圧Vと、ワイヤ送給速度WFと、脚長Sが演算されて表示される。
また、実施の形態3において、脚長Sが変更して設定され、かつ、溶接速度vが変更して設定された場合、その溶接条件の推奨値として、溶接電流Iと、溶接電圧Vと、ワイヤ送給速度WFが演算されて表示される。
そして、このように推奨値として演算された値及び、変更されて設定された値に関し、記憶部10に記憶されている動作プログラムに溶接電流や溶接電圧等、演算された値や設定された値と同じ項目がある場合がある。その場合、制御部8は、動作プログラムを演算された値や設定された値に修正する。このようにすることで、適切な溶接条件で溶接を行うことが可能となる。
本発明は、溶接を行う際の溶接条件の決定を容易に行うことができ、様々な溶接対象物の溶接を行う際の溶接条件設定方法および溶接装置として、産業上有用である。
1 ワイヤ
2 溶接トーチ
3 マニピュレータ
4 ロボット制御装置
5 設定器
6 溶接対象物
7 溶接電源装置
8 制御部
9 演算部
10 記憶部
11 溶接対象物情報入力部
12 溶接法情報入力部
13 脚長設定部
14 溶接速度設定部
15 表示部
16 上板
17 下板
本発明は、電極であるワイヤと溶接対象物(母材)との間にアークを発生させる消耗電極式アーク溶接において、溶接対象物に対応した溶接条件を決定する溶接条件決定方法および溶接装置に関するものである。
溶接対象物が決まり、アーク溶接が行われる場合、従来は、次のように溶接装置の溶接条件が決定されていた。溶接対象物に対し、これまで行った溶接施工の経験又は勘に基づき、作業者が溶接対象物に対する溶接電流、溶接電圧、溶接速度等の溶接条件を溶接装置に設定していた。そして、この溶接装置を用いて溶接を行っていた。そして、作業者は、溶接結果を検証しながら再度溶接条件を変更し、これを何度か繰り返すことで溶接対象物に適した溶接条件を決定していた。
なお、作業者がこれら溶接条件等を設定するため、通常ジョグダイヤルと呼ばれるエンコーダとLED(Light Emitting Diode)表示装置を備えた溶接機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
溶接条件の設定に関し、経験と勘という点で、熟練作業者は比較的短時間で溶接条件を設定できる可能性がある。しかしながら、最近では溶接施工の経験が少ない作業者も多い。このように経験が少ない作業者が、適正な溶接条件を設定するまでには多くの時間を費やしてしまう課題がある。また、繰り返し溶接を行って溶接条件等を設定する場合、多くの溶接対象物を消費してしまうといった課題がある。
本願発明は、溶接条件を容易に求めることがきる溶接条件設定方法および溶接装置を実現する。
上記課題を解決するために、本発明の溶接条件設定方法は、溶接対象物に関する情報である溶接対象物情報を入力する第1ステップと、アーク溶接法に関する情報である溶接法情報を入力する第2ステップと、溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて電極であるワイヤと溶接対象物との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量を決定する第3ステップと、溶接対象物情報と溶接法情報とアーク熱量に基づいてワイヤ送給速度の推奨値と脚長の推奨値と溶接速度の推奨値と溶接電流の推奨値と溶接電圧の推奨値を決定する第4ステップと、
第4ステップの後に溶接条件として表示される脚長又は溶接速度の少なくとも一方が、第4ステップで決定した推奨値とは異なる値に変更されると、変更後の値から脚長の2乗に比例し溶接速度に比例する関係にあるワイヤ送給速度を算出するためのワイヤ送給速度算出式に基づいて、ワイヤ送給速度を求める送給速度算出ステップと、ワイヤ送給速度の増加にあわせて増加する関係にある溶接電流を算出するための溶接電流算出式又はワイヤ送給速度と溶接電流の関係を表す表に基づいて、送給速度算出ステップで算出されたワイヤ送給速度から溶接電流を求める電流値算出ステップと、電流値算出ステップで求めた溶接電流から溶接電圧を求める電圧値算出ステップと、を備え、電流値算出ステップで求めた溶接電流及び電圧値算出ステップで求めた溶接電圧を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する構成である。
この構成により、作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定することで、それに適した溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、溶接速度及び脚長といった溶接条件の推奨値を決定して表示することができ、さらに、作業者が推奨値から値を変更した場合でも、その変更後の値に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
故に、溶接条件を決定するまでの試行錯誤を行う時間と労力を低減することができ、溶接条件設定に関する作業者の負担を軽減することができる。また、溶接条件を決定するまでに繰り返し行われる溶接に用いられ廃棄される溶接対象物の量も低減することができる。
また、本発明の溶接条件決定方法は、溶接対象物に関する情報である溶接対象物情報を入力する第1ステップと、アーク溶接法に関する情報である溶接法情報を入力する第2ステップと、溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて電極であるワイヤと溶接対象物との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量を決定する第3ステップと、溶接対象物情報と溶接法情報とアーク熱量に基づいて、ワイヤ送給速度の推奨値と脚長の推奨値と溶接速度の推奨値と溶接電流の推奨値と溶接電圧の推奨値を決定する第4ステップと、第4ステップの後に溶接条件として表示される溶接速度が、溶接速度の推奨値とは異なる値に変更されると、溶接電流と溶接電圧に比例し溶接速度に反比例する関係にあるアーク熱量を算出するためのアーク熱量算出式を基に、既に決定されたアーク熱量と表示される溶接速度の変更後の値から、溶接電流と溶接電圧の積算値を算出し、溶接電流と溶接電圧との関係を示す関係式または関係表を基に、積算値より溶接電流及び溶接電圧を求める電流値及び電圧値算出ステップを備え、表示される溶接速度が変更されると、電流値及び電圧値算出ステップで求めた溶接電流及び溶接電圧を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する構成である。
この構成により、作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定することで、それに適した溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、溶接速度及び脚長といった溶接条件の推奨値を決定して表示することができ、さらに、作業者が推奨値から値を変更した場合でも、その変更後の値に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
故に、溶接条件を決定するまでの試行錯誤を行う時間と労力を低減することができ、溶接条件設定に関する作業者の負担を軽減することができる。また、溶接条件を決定するまでに繰り返し行われる溶接に用いられ廃棄される溶接対象物の量も低減することができる。
本発明の実施の形態1における溶接装置の概略構成を示す図
本発明の実施の形態1における溶接対象物の一例を示す図
本発明の実施の形態1における溶接条件の推奨値を決定する手順を示すフローチャート
本発明の実施の形態1における板厚と溶接に必要なアーク熱量の関係を示す図
本発明の実施の形態1における設定器の表示画面の表示例を示す図
本発明の実施の形態1における板厚と溶接必要なアーク熱量の関係とアーク熱量の適正範囲を示す図
本発明の実施の形態1における継手毎の板厚と溶接に必要なアーク熱量の関係を示す図
本発明の実施の形態2における溶接条件の推奨値を決定する手順を示すフローチャート
本発明の実施の形態2における溶接電流I×溶接電圧Vとワイヤ送給速度WFの関係を示す図
本発明の実施の形態2における溶接条件の推奨値を決定する別の手順を示すフローチャート
本発明の実施の形態2における板厚と溶接速度の関係を示す図
本発明の実施の形態3における溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第1のフローチャート
本発明の実施の形態3における溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第2のフローチャート
本発明の実施の形態3における別の溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第1のフローチャート
本発明の実施の形態3における別の溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第2のフローチャート
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における溶接装置の概略構成を示す図である。
本実施の形態1の溶接装置はアーク溶接装置であり、図1に示すように、マニピュレータ3と、マニピュレータ3の動作を制御するロボット制御装置4と、設定器5を備える。マニピュレータ3は、電極であるワイヤ1を保持する溶接トーチ2を移動させる。設定器5は、ロボット制御装置4との間で通信を行い、且つこの通信によってロボット制御装置4に対して情報の設定等を行う。
ロボット制御装置4は、溶接電源装置7と、制御部8と、演算部9と、記憶部10を備える。溶接電源装置7は、ワイヤ1と溶接対象物6との間に溶接を行うための電力を供給する。制御部8は、マニピュレータ3と溶接電源装置7の動作を制御する。演算部9は、溶接条件等に関する演算を行う。記憶部10は、制御部8がマニピュレータ3の動作を制御するための動作プログラムと、演算部9が演算する際に用いる数式や表(テーブル)と、演算結果等を記憶する。なお、図1では、溶接電源装置7をロボット制御装置4の内部に設けた例を示している。しかし、溶接電源装置7をロボット制御装置4の外部に設けるようにしても良い。
また、設定器5は、詳細を後述するが、溶接対象物6に関する情報を入力するための溶接対象物情報入力部11と、溶接法に関する情報を入力するための溶接法情報入力部12と、を備える。さらに、溶接対象物6を溶接する際の脚長を設定する、あるいは変更するための脚長設定部13と、溶接速度を設定あるいは変更するための溶接速度設定部14と、各種情報を表示するための表示部15を備えている。
次に、本実施の形態1の溶接条件決定方法について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1における溶接対象物6の一例を示す図である。図3は、本発明の実施の形態1における溶接条件の推奨値を決定する手順を示すフローチャートである。
図2に示すように、上板16と下板17とからなるT継手に関して溶接を行う場合を例にして説明する。
なお、本実施の形態1では、先ず、設定器5を用いて溶接対象物情報と溶接法情報が溶接装置に入力される。この入力された情報に対する溶接速度vの推奨値と、溶接電流Iの推奨値と、溶接電圧Vの推奨値と、ワイヤ送給速度WFの推奨値と、脚長Sの推奨値を求める溶接条件決定方法について説明する。これらの推奨値は設定器5の表示部15に表示され、作業者に対して溶接条件の情報として提供される。その次に、表示された脚長の推奨値を作業者が変更した際に、新たに、溶接速度vの推奨値と、溶接電流Iの推奨値と、溶接電圧Vの推奨値と、ワイヤ送給速度WFの推奨値を決定する溶接条件決定方法について説明する。これらの新たな推奨値は、表示部15に表示される。新たな推奨値は、作業者に対して溶接条件として提供される。
では、まず、溶接対象物情報と溶接法情報を入力することにより溶接電流等の推奨値を決定する溶接条件決定方法について説明する。
図3に示すように、第1ステップS1として、設定器5の溶接対象物情報入力部11を用いて、溶接対象物6に関する情報である溶接対象物情報が溶接装置に入力される。なお、この第1ステップS1では、溶接対象物情報として、上板16及び下板17の材質と、上板16の板厚と、下板17の板厚と、溶接対象物6の継手形状が設定される。
次に、図3に示すように、第2ステップS2として、設定器5の溶接法情報入力部12を用いて、アーク溶接法に関する情報である溶接法情報が溶接装置に入力される。なお、この第2ステップS2では、溶接情報として、アーク溶接を行う際にパルス溶接を行うか否かのパルス溶接の可否情報と、パルスモードの種類と、シールドガスの種類と、溶接ワイヤ突出長設定と、ワイヤ送給制御方法の選択と、ワイヤ1の材質と、ワイヤ1の直径の情報であるワイヤ径が溶接装置に入力される。
以下、溶接速度の推奨値vrと、ワイヤ送給速度の推奨値WFrと、溶接電流の推奨値Irと、溶接電圧の推奨値Vrと、脚長の推奨値Srを求める手順について順に説明する。
先ず、溶接速度の推奨値vrを求める手順について説明する。
溶接対象物情報および溶接法情報に対応付けられた溶接速度vに関する情報が、計算式やテーブル等として記憶部10に予め複数記憶されている。
そして、設定器5を用いて入力された溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて、演算部9が記憶部10から1つの溶接速度vを選択し、これを溶接速度の推奨値vrとする。
次に、ワイヤ送給速度の推奨値WFrを求める手順について説明する。
図4は、本発明の実施の形態1における板厚と溶接に必要なアーク熱量の関係を示す図である。
記憶部10には、溶接対象物情報および溶接法情報に対応付けられた図4に示すような特性が予め複数記憶されている。図4は、溶接対象物6である上板16の板厚T1と下板17の板厚T2の平均値である板厚Tと、ワイヤ1と溶接対象物6との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量Qとの適切な溶接を行うことができる関係を示す図である。板厚Tが溶接対象物情報に対応し、アーク熱量Qが溶接法情報に対応する。ここで、適切な溶接とは、適度な強度を有すること、ビード形状に不具合が無いこと、溶け落ちが無いこと等を意味する。
そして、設定器5を用いて入力された溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて、演算部9が記憶部10から図4に示す1つの特性を選択する。また、演算部9は、設定器5を用いて入力された上板16の板厚T1と下板17の板厚T2から、2つの板厚の平均値である板厚Tを算出する。さらに、演算部9は、選択した図4に示す特性と板厚Tとからワイヤ1と溶接対象物6との間に発生させるに必要なアーク熱量Qnを求める。これが図3に示す第3ステップS3である。
ここで、アーク熱量Qとワイヤ送給速度WFとの関係は、アーク熱量Qが増加するとワイヤ送給速度WFも増加するといった関係にある。そして、溶接法情報に基づいて、アーク熱量Qとワイヤ送給速度WFの関係は一意的に決まる。そこで、溶接法情報に対応付けられたアーク熱量Qとワイヤ送給速度WFの関係(数式またはテーブル)の情報が複数、予め記憶部10に記憶されている。
演算部9は、第2ステップS2で入力された溶接法情報と、記憶部10に記憶されているアーク熱量Qとワイヤ送給速度WFとの関係の情報と、上記で求めたアーク熱量Qnから、ワイヤ送給速度WFを求め、これをワイヤ送給速度の推奨値WFrとする。
次に、溶接電流Iの推奨値を求める手順について説明する。
ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は、ワイヤ送給速度WFが増加すると溶接電流Iも増加するといった関係にある。そのために、溶接法情報に基づいて、ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は一意的に決まる。溶接法情報に対応付けられたワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報(数式あるいはテーブル)が複数、予め記憶部10に記憶されている。
演算部9は、記憶部10に記憶されているワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報と、第2ステップS2で入力された溶接法情報と、上記で求めたワイヤ送給速度の推奨値WFrに基づいて溶接電流Iを求める。演算部9は、ここで求められた値を、溶接電流の推奨値Irとする。
次に、溶接電圧Vの推奨値Vrを求める手順について説明する。
アーク熱量Qと溶接電流Iと溶接電圧Vと溶接速度vとは(数1)に示す関係にあり、この(数1)は記憶部10に記憶されている。
Q=(I×V×60)/v (数1)
そして、演算部9は、記憶部10に記憶されている(数1)と、上記で求めた溶接速度の推奨値vrと、上記で算出したアーク熱量Qnから、溶接電流I×溶接電圧Vを算出する。
さらに、演算部9は、この溶接電流I×溶接電圧Vと、上記で求めた溶接電流の推奨値Irとから溶接電圧Vを求め、これを溶接電圧の推奨値Vrとする。
次に、脚長Sの推奨値Srを求める手順について説明する。
脚長Sとワイヤ径dとワイヤ送給速度WFと溶接速度vとは(数2)に示す関係にあり、この(数2)は記憶部10に記憶されている。
S=d√((π×WF)/(2×v)) (数2)
そして、演算部9は、記憶部10に記憶されている(数2)と、第2ステップS2で入力されたワイヤ径dと、上記で求めたワイヤ送給速度の推奨値WFrと、上記で求めた溶接速度の推奨値vrとから脚長Sを求め、これを脚長の推奨値Srとする。
なお、演算部9で求められた溶接速度の推奨値vrと、ワイヤ送給速度の推奨値WFrと、溶接電流の推奨値Irと、溶接電圧の推奨値Vrと、脚長の推奨値Srは、設定器5の表示部15に表示される。
図5は、本発明の実施の形態1における設定器の表示画面の表示例を示す図である。
図5に、設定器5の表示部15の表示の一例を示す。図5では、溶接対象物情報として、T継手、上板の板厚1.6mm、下板1.6mmが入力され、推奨値として、溶接速度vが0.8m/min、溶接電流Iが120A、溶接電圧Vが16.8V、脚長Sが3.5mmと表示された例を示している。
なお、この図5においては、ワイヤ送給速度の推奨値WFrは表示していない。その理由は、溶接電流Iとワイヤ送給速度WFとは比例の関係にあり、溶接条件としては、溶接電流Iまたはワイヤ送給速度WFの一方を設定すればよい。しかし、溶接電流Iを設定することが一般的であるので、溶接電流Iを表示しており、ワイヤ送給速度WFrは表示していない。
以上のようにして、溶接対象物情報や溶接法情報に基づいて溶接電流I等の推奨値を決定することができる。これが図3に示す第4ステップS4である。
次に、上記のように算出されて表示された脚長の推奨値Srの値を、作業者が変更した際に、新たに、溶接速度vの推奨値と、溶接電流Iの推奨値と、溶接電圧Vの推奨値と、ワイヤ送給速度WFの推奨値と、を決定して表示する溶接条件決定方法について説明する。
脚長Sは、溶接継手強度を支配する重要な要素であり、溶接を行う際の図面の中で指示される場合もある。そこで、任意の脚長Sを直接変更入力可能とするため、本実施の形態1の溶接装置では、設定器5に、脚長Sの値の変更を行うための脚長設定部13を設けている。
以下、脚長の推奨値Srが設定器5の表示部15に表示されている状態で、作業者が設定器5の脚長設定部13を用いて脚長Sの値を推奨値Srから脚長S1に変更した際に、新たに、溶接電流I等の溶接条件の推奨値を決定する手順について説明する。
先ず、新たな溶接速度vの推奨値を求める手順について説明する。
上記のように、溶接速度の推奨値vrは、設定器5を用いて入力された溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて、演算部9が記憶部10から1つの溶接速度vを選択し、これを溶接速度の推奨値vrとするものである。ここで、脚長の推奨値Srが変更されても、溶接対象物情報と溶接法情報は変えていないので、溶接速度の推奨値vrは変わらない。
次に、新たなワイヤ送給速度WFの推奨値を求める手順について説明する。
演算部9は、記憶部10に記憶されている脚長Sを求める算出式である(数2)からワイヤ送給速度算出式(数3)を導出する。
WF=(2×S2×v)/(π×d2) (数3)
そして、演算部9は、(数3)と変更後の脚長の値S1と上記溶接速度の推奨値vrと溶接法情報として入力されたワイヤ1の直径であるワイヤ径dの値から、ワイヤ送給速度WFの新たな推奨値であるワイヤ送給速度WF1を求める。これが図3に示す送給速度算出ステップS5である。
次に、溶接電流Iの新たな推奨値を求める手順について説明する。
ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は、ワイヤ送給速度WFが増加すると溶接電流Iも増加するといった関係にある。そして、溶接法情報に基づいて、ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は一意的に決まる。そこで、溶接法情報に対応付けられたワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報(数式あるいはテーブル)が複数、予め記憶部10に記憶されている。
演算部9は、記憶部10に記憶されているワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報と、第2ステップS2で入力された溶接法情報と、上記で求めた新たなワイヤ送給速度WFの推奨値とから、溶接電流I1を求め、これを新たな溶接電流Iの推奨値とする。これが図3に示す電流値算出ステップS6である。
次に、新たな溶接電圧Vの推奨値を求める手順について説明する。
溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係は、溶接電流Iが増加すると溶接電圧Vも増加するといった関係にある。そして、溶接法情報に基づいて、溶接電流Iと溶接電圧Vの関係は一意的に決まる。そこで、溶接法情報に対応付けられた溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係の情報(数式あるいはテーブル)が複数、予め記憶部10に記憶されている。
演算部9は、記憶部10に記憶されている溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係の情報と、上記で求めた溶接電流I1(新たな推奨値)に基づいて、溶接電圧V1を求め、これを新たな溶接電圧Vの推奨値とする。これが図3に示す電圧値算出ステップS7である。
以上により、脚長Sが脚長の推奨値Srから脚長S1に変更された場合、溶接装置は、溶接速度の推奨値vr(変更無し)と、新たな溶接電流Iの推奨値と、新たな溶接電圧Vの推奨値と、新たなワイヤ送給速度WFの推奨値を決定することができる。そして、これらを設定器5の表示部15に表示することで、作業者に対して情報として提供することができる。
但し、溶接装置は、推奨値から変更された脚長S1の値が適正な値でなければ、溶接電流I1等の新たな推奨値に関する情報を作業者に提供することができない。そこで、アーク熱量Qに着目し、求めた新たな推奨値を表示部15に表示するか否かを判定する例について、以下に説明する。
(数1)と、新たな溶接電圧Vの推奨値と新たな溶接電流Iの推奨値と溶接速度の推奨値vrとにより、変更後の脚長S1におけるアーク熱量Q1が求まる。ここで、ワイヤ1と溶接対象物6との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量Q1は、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報に対し一意的に決定されるものではない。
図6は、本発明の実施の形態1における板厚と溶接に必要なアーク熱量の関係とアーク熱量の適正範囲を示す図である。
実際は、図6に示すように、板厚と溶接必要なアーク熱量の関係は、溶接に必要なアーク熱量に上限と下限を備えた条件裕度が存在し、この条件裕度は、板厚Tが厚くなるほど広くなる傾向となることが発明者らによる実験により確認されている。
従って、推奨値とは異なる脚長S1が作業者により設定された場合、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流の値、電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧の値および溶接速度の推奨値vrから、演算部9でアーク熱量Q1が求められる。これが図3に示す熱量決定ステップS8である。この求められたアーク熱量Q1が、予め決められており記憶部10に記憶されているアーク熱量Qの上限を超える、又は、下限を下回る場合、作業者により設定された脚長S1は、適正範囲外であると判断される。
そして、判断結果が適正範囲外である場合、溶接装置は、設定された脚長S1が適正範囲外であることを設定器5の表示部15に表示する。また、脚長S1が適正範囲外の場合には、新たな推奨値として演算した溶接電流I1と溶接電圧V1等の値を表示部15に表示しない。このようにして、新たに演算された推奨値を溶接条件として設定できないようにする。また、表示部15に脚長S1を再度入力することを促す旨のメッセージを表示する。
なお、設定された脚長S1が適正範囲内である場合には、新たな推奨値として、演算した溶接電流I1や溶接電圧V1等の値を表示部15には表示する。そして、新たに演算された推奨値を溶接条件として設定できるようにする。
以上のように、本実施の形態1の溶接装置および溶接条件決定方法によれば、作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定する。このことで、それに適した溶接電流Iと溶接電圧Vとワイヤ送給速度WFと溶接速度vと脚長Sといった溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。さらに、作業者が脚長Sの推奨値から値を変更した場合でも、その変更後の脚長S1に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
従って、本実施の形態1の溶接装置および溶接条件決定方法は、溶接条件を決定するまでの試行錯誤を行う時間と労力と、溶接設定トライ用として廃棄する溶接対象物を最大限低減することが可能となる。
また、溶接装置は、溶接対象物6に対し必要となるアーク熱量Qを用いて演算するため、いかなる板厚の組み合わせに対しても、また、いかなる継手形状に対しても、溶接条件を提示することが可能である。
図7は、本発明の実施の形態1における継手毎の板厚と溶接に必要なアーク熱量の関係を示す図である。
図4と図7に示すようなアーク熱量Qと板厚Tとの関係を表す特性の情報(計算式やテーブル)を継手毎に、溶接装置は、記憶部10に記憶しており、入力された溶接対象物情報に基づいてアーク熱量Qを求める。そして、溶接装置は、このアーク熱量Qを用いて溶接条件の推奨値を求めるようにしている。なお、図4と図7における板厚Tは、上板16の板厚と下板17の板厚の平均値である。従って、上板16の板厚と下板17の板厚がどのような板厚であっても、溶接装置は、平均値であるTを算出することができる。そして、このTに基づいてアーク熱量Qを決定し、このアーク熱量Qを用いて溶接条件の推奨値を求めることができる。すなわち、溶接装置は、いかなる板厚の組み合わせにも対応することができる。
また、溶接装置は、脚長Sに関し、作業者により推奨値から異なる値に変更することを可能としている。しかし、適正範囲外の脚長Sが設定された場合には、適正範囲外であることを表示する機能も備えているので、非常に利便性の高いものとなっている。
なお、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報に対し、適正な溶接ねらい位置および溶接トーチ角度は異なる。そこで、それぞれを第1ステップS1で設定された溶接対象物情報である上板16と下板17の平均板厚である板厚Tに対する適正条件と、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報の上板16と下板17の板厚差を考慮した適正条件とを合算して出力する方式も具備している。
そして、図5に示すように、溶接装置は、トーチ角度とねらい位置を設定器5の表示部15に表示して作業者に情報として提供可能としている。
すなわち、本発明の溶接条件決定方法は、第1ステップS1と、第2ステップS2と、第3ステップS3と、第4ステップS4と、送給速度算出ステップS5と、電流値算出ステップS6と、電圧値算出ステップS7とを備える方法である。第1ステップS1は溶接対象物に関する情報である溶接対象物情報を入力する。第2ステップS2はアーク溶接法に関する情報である溶接法情報を入力する。第3ステップS3は溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて電極であるワイヤと溶接対象物との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量Qを決定する。第4ステップS4は、溶接対象物情報と溶接法情報とアーク熱量Qに基づいて、ワイヤ送給速度の推奨値WFrと脚長の推奨値Srと溶接速度の推奨値vrと溶接電流の推奨値Irと溶接電圧の推奨値Vrを決定する。送給速度算出ステップS5は、第4ステップS4の後に溶接条件として表示される脚長S又は溶接速度vの少なくとも一方が、第4ステップで決定した推奨値とは異なる値に変更されると、変更後の値から脚長Sの2乗に比例し溶接速度vに比例する関係にあるワイヤ送給速度WFを算出するためのワイヤ送給速度算出式に基づいて、ワイヤ送給速度WFを求める。電流値算出ステップS6は、ワイヤ送給速度WFの増加にあわせて増加する関係にある溶接電流Iを算出するための溶接電流算出式又はワイヤ送給速度WFと溶接電流Iの関係を表す表に基づいて、送給速度算出ステップS5で算出されたワイヤ送給速度WF1から溶接電流Iを求める。電圧値算出ステップS7は、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流Iから溶接電圧Vを求める。そして、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I及び電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧Vを、新たな溶接電流Iの推奨値及び新たな溶接電圧Vの推奨値として決定する方法である。
この方法により、作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定することで、それに適した溶接電流I、溶接電圧V、ワイヤ送給速度WF、溶接速度v及び脚長Sといった溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。さらに、作業者が推奨値から値を変更した場合でも、その変更後の値に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
故に、溶接条件を決定するまでの試行錯誤を行う時間と労力を低減することができ、溶接条件設定に関する作業者の負担を軽減することができる。また、溶接条件を決定するまでに繰り返し行われる溶接に用いられ廃棄される溶接対象物の量も低減することができる。
また、本発明の溶接条件決定方法の送給速度算出ステップS5は、第4ステップS4の後に溶接条件として表示される脚長Sが、第4ステップS4で決定した脚長の推奨値とは異なる値に変更されると、ワイヤ送給速度算出式に基づいて、脚長の変更後の値S1と溶接速度の推奨値vrからワイヤ送給速度WF1を求める。電圧値算出ステップS6は、溶接電流Iの増加にあわせて増加する関係にある溶接電圧Vを算出するための溶接電圧算出式又は溶接電流Iと溶接電圧Vの関係を表す表に基づいて、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流Iから溶接電圧Vを求める。そして、表示される脚長Sが変更されると、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1及び電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧V1を、新たな溶接電流Iの推奨値及び新たな溶接電圧Vの推奨値として決定してもよい。
また、本発明の溶接条件決定方法は、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1と、電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧V1と、溶接速度の推奨値vrとからアーク熱量Qを求める熱量決定ステップS8を備えてもよい。そして、熱量決定ステップS8で求めたアーク熱量Q1が適正範囲内にある場合のみ、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1と電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧V1を、新たな溶接電流Iの推奨値及び新たな溶接電圧Vの推奨値として決定する。
この方法により、適正なアーク熱量Qを発生する溶接電流I及び溶接電圧Vの推奨値を決定することができる。
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2における溶接条件の推奨値を決定する手順を示すフローチャートである。
本実施の形態2の溶接装置と溶接条件設定方法について、主に図8を用いて説明する。なお、本実施の形態2において、実施の形態1と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態1と異なる主な点は、溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて溶接条件の推奨値の決定を行った後の処理である。実施の形態1では、脚長の推奨値Srを変更した際に溶接条件の新たな推奨値を求める例を示した。しかし、本実施の形態2では、脚長ではなく溶接速度に関し、溶接速度の推奨値vrを変更した際に溶接条件の新たな推奨値を求めるようにした点である。
表示された溶接速度の推奨値vrの値を、作業者が変更した際に、新たに、溶接電流Iの推奨値と、溶接電圧Vの推奨値と、ワイヤ送給速度WFの推奨値と、脚長Sの推奨値を決定して表示する溶接条件決定方法について説明する。図8に示すように、溶接条件決定方法は、溶接対象物情報や溶接法情報に基づいて、溶接速度の推奨値vrと、溶接電流の推奨値Irと、溶接電圧の推奨値Vrと、ワイヤ送給速度の推奨値WFrと、脚長の推奨値Srを求める。第4ステップS4までは、図3と同じである。よって第4ステップS4の説明を省略し、第4ステップS4の後の処理について説明する。
溶接速度vは、タクト時間のバランス等により決定される場合がある。従って、溶接速度の推奨値vrとは異なる値に変更されることもある。そこで、任意の溶接速度vを直接変更入力可能とするため、本実施の形態2の溶接装置では、設定器5に、溶接速度vの値の変更を行うための溶接速度設定部14を設けている。
そして、溶接速度の推奨値vrが設定器5の表示部15に表示されている状態で、作業者が設定器5の溶接速度設定部14を用いて溶接速度vの値を推奨値vrからv2に変更する。この時、溶接装置が、新たに、溶接電流I等の溶接条件の推奨値を決定する手順について説明する。
先ず、溶接電流Iの新たな推奨値と溶接電圧Vの新たな推奨値を求める手順について説明する。
溶接速度vが推奨値vrから新たな値である溶接速度v2に変更されたとしても、溶接対象物情報および溶接法情報は変更されていない。故に、溶接対象物6である上板16の板厚T1と下板17の板厚T2の平均値である板厚Tは変更されない。また、ワイヤ1と溶接対象物6との間に発生させるアークの熱量であるアーク熱量Qnとの適切な溶接を行うことができる関係を示す図4も変更されない。従って、アーク熱量Qnも変更されず、実施の形態1の場合と同じ値である。
そして、演算部9は、このアーク熱量Qnと、変更された溶接速度である溶接速度v2と(数1)により、(数1)内の溶接電流I2×溶接電圧V2を算出する。
ここで、溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係は、溶接電流Iが増加すると溶接電圧Vも増加するといった関係にある。そして、溶接法情報に基づいて、溶接電流Iと溶接電圧Vの関係は一意的に決まる。そこで、溶接法情報に対応付けられた溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係の情報(数式あるいはテーブル)が複数、予め記憶部10に記憶されている。そして、演算部9は、入力された溶接法情報に基づいて溶接電流Iと溶接電圧Vとの関係の情報の1つを特定する。この特定した情報に基づいて溶接電流I2と溶接電圧V2を算出する。すなわち、溶接電流I2×溶接電圧V2が決まっているので、溶接電流I2と溶接電圧V2の関係を示す特性上で1つの点が決まる。そして、その点の溶接電流Iと溶接電圧Vが求める溶接電流I2と溶接電圧V2になる。これが図8に示す電流値及び電圧値算出ステップS15である。
次に、ワイヤ送給速度WFの新たな推奨値を求める手順について説明する。
ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は、ワイヤ送給速度WFが増加すると溶接電流Iも増加するといった関係にある。そして、溶接法情報に基づいて、ワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係は一意的に決まる。そこで、溶接法情報に対応付けられたワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報(数式あるいはテーブル)が複数、予め記憶部10に記憶されている。
演算部9は、記憶部10に記憶されているワイヤ送給速度WFと溶接電流Iとの関係の情報と、第2ステップS2で入力された溶接法情報と、上記で求めた溶接電流Iの新たな推奨値である溶接電流I2に基づいて、ワイヤ送給速度WF2を求める。そして、これをワイヤ送給速度WF2の新たな推奨値とする。これが図8に示す送給速度算出ステップS16である。
次に、脚長Sの新たな推奨値S2を求める手順について説明する。
実施の形態1で説明したように、脚長Sとワイヤ径dとワイヤ送給速度WFと溶接速度vとは(数2)に示す関係にあり、この(数2)は記憶部10に記憶されている。
そして、演算部9は、記憶部10に記憶されている(数2)と、第2ステップS2で入力されたワイヤ径dと、上記で求めたワイヤ送給速度WF2(推奨値)と、推奨値vrから変更された値である溶接速度v2とから脚長Sを求め、これを脚長の推奨値S2とする。これが図8に示す脚長算出取得ステップS17である。
以上のようにして、溶接条件決定方法は、溶接速度vを溶接速度の推奨値vrから変更した際、溶接条件決定方法は溶接条件の推奨値を求めることができる。そして、演算部9で求められたワイヤ送給速度WF2と、溶接電流I2と、溶接電圧V2と、脚長S2は、設定器5の表示部15に新たな推奨値として表示される。
すなわち、溶接条件決定方法は、第4ステップS4の後に、溶接電流及び溶接電圧を求める電流値及び電圧値算出ステップS15を備える。
そして、溶接条件として表示される溶接速度vが、溶接速度の推奨値vrとは異なる値v2に変更されると、電流値及び電圧値算出ステップS15は、アーク熱量算出式を基に、既に決定されたアーク熱量Qnと表示される溶接速度の変更後の値から、溶接電流と溶接電圧の積算値I2×V2を算出する。そのアーク熱量算出式は、溶接電流と溶接電圧に比例し溶接速度に反比例する関係にあるアーク熱量を算出するためのものである。そして、溶接電流と溶接電圧との関係を示す関係式または関係表を基に、積算値I2×V2より溶接電流I2及び溶接電圧V2を求める。
このように、表示される溶接速度vrが変更されると、溶接条件決定方法は、電流値及び電圧値算出ステップS15で求めた溶接電流I2及び溶接電圧V2を、新たな溶接電流の推奨値I2及び新たな溶接電圧の推奨値V2として決定する。
作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定することで、それに適した溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給速度、溶接速度及び脚長といった溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。さらに、作業者が推奨値から値を変更した場合でも、その変更後の値に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
また、溶接条件決定方法は、電流値及び電圧値取得ステップS15の後に、送給速度算出ステップS16と、脚長算出ステップS17と、を備える。送給速度算出ステップS16は、溶接電流とワイヤ送給速度の関係式または関係表を基に、電流値及び電圧値算出ステップS15で求めた溶接電流の値I2より、ワイヤ送給速度WF2を求める。脚長算出ステップS17は、送給速度算出ステップS16で求めたワイヤ送給速度WF2より、脚長S2を求める。
なお、別の仕方でも溶接条件の推奨値を算出することができる。以下に、溶接条件の推奨値の別の算出の仕方について説明する。
図9は、本発明の実施の形態2における溶接電流I×溶接電圧Vとワイヤ送給速度WFの関係を示す図である。図10は、本発明の実施の形態2における溶接条件の推奨値を決定する別の手順を示すフローチャートである。図11は、本発明の実施の形態2における板厚と溶接速度の関係を示す図である。
ここで、溶接電流I×溶接電圧Vと、ワイヤ送給速度WFとの関係は、図9に示すように比例関係を示すことが発明者らの実験により確認された。溶接速度vrから溶接速度v3へα倍変更したとすると、アーク熱量Qを一定に保つ場合、(数1)に従うと、溶接電流I3×溶接電圧V3も、溶接電流Ir×溶接電圧Vrと比較するとα倍とする必要がある。
図9に示すように、ワイヤ送給速度WFは溶接電流I×溶接電圧Vと比例関係にある。そのため、溶接電流I×溶接電圧Vがα倍になると、ワイヤ送給速度WFもα倍となる。すなわち、溶接速度vrが溶接速度v2へα倍に変更されると、ワイヤ送給速度WF2はワイヤ送給速度WFrのα倍となる。よって、(数2)より、溶接速度vが変化してもアーク熱量Qを一定としている限り脚長Sは変化しないこととなる。溶接速度vを変化させた場合、脚長Sを一定となるようにワイヤ送給量WFを設定すると、同じアーク熱量Qでの適正な施工を行うことが可能となる。
前述では、溶接速度の推奨値vrを溶接速度v2に変更した場合、アーク熱量Qが一定となるように演算を行って溶接電流I2と溶接電圧V2を算出する例を示した。しかし、図9の関係を満たす場合、溶接条件決定方法は、別の手順で溶接条件の推奨値を決定してもよい。つまり、演算部9は、脚長Sを一定に保つよう、(数3)を基に、ワイヤ送給速度WF2を算出する。そして、溶接電流I2を、ワイヤ送給速度WFが増加すると溶接電流Iも増加するといった関係(計算式あるいはテーブル)に基づいて算出する。そして、溶接電圧V2を、溶接電流I2が増加すると溶接電圧V2も増加するといった関係(計算式あるいはテーブル)に基づいて算出するようにしても良い。
本実施の形態2の別の溶接条件設定方法について、図10を用いて説明する。
本実施の形態2の別の溶接条件の決定方法は、第4ステップS4の後に、溶接速度の推奨値vrが溶接速度v2に変更されると、送給速度算出ステップS5、電流値算出ステップS6、電圧値算出ステップS27を行なう。そして、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I2及び電圧値算出ステップS27で求めた溶接電圧V2を、新たな溶接電流Iの推奨及び新たな溶接電圧Vの推奨値とする。
詳細には、送給速度算出ステップS5は、第4ステップの後に表示される溶接速度vが、溶接速度の推奨値vrとは異なる値に変更されると、ワイヤ送給速度算出式に基づいて、溶接速度の変更後の値v2と、脚長の推奨値Srからワイヤ送給速度WF2を求める。
電圧値算出ステップS27は、アーク熱量算出式に基づいて、第3ステップS3で決定したアーク熱量Qnと、溶接速度の変更後の値v2と、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I2とから、溶接電圧V2を算出する。そのアーク熱量算出式は、溶接電流と溶接電圧に比例し溶接速度に反比例する関係にあるアーク熱量を算出するためのものである。
表示される溶接速度vrが溶接速度v2に変更されると、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I2及び電圧値算出ステップS27で求めた溶接電圧V2を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する。
このように、作業者が溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報を設定することで、それに適した溶接電流I、溶接電圧V、ワイヤ送給速度WF、溶接速度v及び脚長Sといった溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。さらに、作業者が送給速度の推奨値vrから値を変更した場合でも、その変更後の値v2に適した溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。
なお、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報に対し、適正な溶接ねらい位置および溶接トーチ角度は異なる。そこで、それぞれを第1ステップS1で設定された溶接対象物情報である上板16と下板17の平均板厚である板厚Tに対する適正条件と第1ステップS1で設定された溶接対象物情報の上板と下板の板厚差を考慮した適正条件とを合算して出力する方式も具備している。
そして、図5に示すように、トーチ角度とねらい位置を設定器5の表示部15に表示して作業者に情報として提供可能としている。なお、溶接速度vは、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報に対し一意的に決定されるものではない。
実際は、図11に示すように、上限溶接速度が存在する。この上限溶接速度は、板厚Tが厚くなるほど低くなる傾向となることが発明者らによる実験により確認されている。
従って、推奨値とは異なる、作業者により設定された溶接速度v2に関し、記憶部10に記憶されている溶接速度vの上限を超える場合がある。その場合には、作業者により設定された溶接速度v2は、適正範囲外であると判断される。
そして、判断結果が適正範囲外である場合、溶接装置は、設定された溶接速度v2が適正範囲外であることを設定器5の表示部15に表示する。また、設定された溶接速度v2が適正範囲外である場合には、新たな推奨値として演算した溶接電流I2や溶接電圧V2等の値を表示部15には表示しないようにし、溶接条件として設定できないようにする。また、表示部15に溶接速度v2を再度入力することを促す旨のメッセージを表示する。
なお、設定された溶接速度v2が適正範囲内である場合には、新たな推奨値として、演算した溶接電流I2や溶接電圧V2等の値を表示部15には表示し、溶接条件として設定できるようにする。
(実施の形態3)
図12Aは、本発明の実施の形態3における溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第1のフローチャートである。図12Bは、本発明の実施の形態3における溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第2のフローチャートである。
本実施の形態の溶接装置と溶接条件設定方法について、図12A、図12Bを用いて説明する。なお、本実施の形態3において、実施の形態1や実施の形態2と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。実施の形態1や実施の形態2と異なる主な点は、溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて溶接条件の推奨値の決定を行った後の処理である。実施の形態1では、脚長の推奨値Srを変更した際に溶接条件の新たな推奨値を求める例を示した。実施の形態2では、溶接速度の推奨値vrを変更した際に溶接条件の新たな推奨値を求める例を示した。本実施の形態3では、脚長の推奨値Srと溶接速度の推奨値vrの両方を変更した際に溶接条件の新たな推奨値を求めるようにした点である。
表示された脚長の推奨値Srと、表示された溶接速度の推奨値vrを、作業者が変更して脚長S1と溶接速度v2にすることがある。その場合、新たに、溶接電流Iの推奨値と、溶接電圧Vの推奨値と、ワイヤ送給速度WFの推奨値とを決定して表示する溶接条件決定方法について説明する。
脚長Sと溶接速度vの両方を推奨値から変更することに関し、脚長Sは溶接継手性能を決定する項目となり優先順位が高くなると考えられる。従って、脚長Sの変更による溶接条件算出の処理が行なわれ、その後に、溶接速度vの変更による溶接条件算出の処理が行なわれることとして説明する。
先ずは、脚長の推奨値Srの変更による溶接条件の算出について説明する。但し、脚長の推奨値Srの変更による溶接条件の算出(送給速度算出ステップS5、電流値算出ステップS6、電圧値算出ステップS7、熱量決定ステップS8)は、実施の形態1で説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。なお、本算出に関し、溶接速度vは、変更された溶接速度v2ではない。実施の形態1と同様に、第1ステップS1で設定された溶接対象物情報に基づいて決定された溶接速度の推奨値vrを用いている。
そして、溶接装置は、この算出による各溶接条件の推奨値を、溶接電流I1、溶接電圧V1の推奨値、ワイヤ送給速度WF1とする。
なお、実施の形態1と同様、変更された脚長S1の値が適正な範囲内であるか否かの判定を行った上で各溶接条件の推奨値を求めている(熱量決定ステップS8)。
次に、溶接速度の推奨値vrの変更による溶接条件の算出について説明する。但し、溶接速度の推奨値vrの変更による条件の算出や溶接速度vが上限を超えるか否かの判定は、実施の形態2で説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。但し、本算出に関し、実施の形態2と同様に、脚長Sとしては、変更された脚長S1を用いている。
そして、溶接装置は、この算出による各溶接条件の推奨値を、溶接電流I12、溶接電圧V12、ワイヤ送給速度WF12とする。
なお、実施の形態2と同様、演算部9は、変更された溶接速度v2の値が適正な範囲内であるか否かの判定を行った上で各溶接条件の推奨値を求めている。
以上のように、脚長を推奨値Srから脚長S1に変更し、かつ、溶接速度を推奨値vrから溶接速度v2に変更した際に、溶接装置は各溶接条件の推奨値として、溶接電流I12、溶接電圧V12、ワイヤ送給速度WF12が算出され、設定器5の表示部15に表示される。なお、脚長Sと溶接速度vに関しては、推奨値からの変更値である脚長S1と溶接速度v2が設定器5の表示部15に表示される。
すなわち、溶接条件設定方法は、第4ステップS4の後に、送給速度算出ステップS5と、電流値算出ステップS6と、熱量決定ステップS7と、熱量算出ステップS8と、電流値及び電圧値算出ステップS16とを備える。
そして、溶接条件として表示される脚長及び溶接速度が、第4ステップS4で決定した推奨値とは異なる値に変更されると、電流値及び電圧値算出ステップS16で求めた溶接電流I12及び溶接電圧V12を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する。
送給速度算出ステップS5は、脚長の2乗に比例し溶接速度に比例する関係にあるワイヤ送給速度を算出するためのワイヤ送給速度算出式に基づいて、脚長の変更後の値S1と溶接速度の推奨値vrからワイヤ送給速度WF1を求める。
電流値算出ステップS6は、ワイヤ送給速度の増加にあわせて増加する関係にある溶接電流を算出するための溶接電流算出式又はワイヤ送給速度と溶接電流の関係を表す表に基づいて、送給速度算出ステップS5で算出したワイヤ送給速度WF1から溶接電流I1を求める。
電圧値算出ステップS7は、溶接電流の増加にあわせて増加する関係にある溶接電圧を算出するための溶接電圧算出式又は溶接電流と溶接電圧の関係を表す表に基づいて、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1から溶接電圧V1を求める。
熱量決定ステップS8は、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1と電圧値算出ステップS7で求めた溶接電圧V1と、溶接速度の推奨値vrとからアーク熱量Q1を決定する。
電流値及び電圧値算出ステップS16は、アーク熱量算出式に基づいて、熱量決定ステップS8で決定したアーク熱量Q1と溶接速度の変更後の値v2から、溶接電流と溶接電圧の積算値を算出する。そして、溶接電流と溶接電圧との関係を示す関係式または関係表を基に、積算値より新たな溶接電流Iの推奨値及び新たな溶接電圧Vの推奨値を求める。
このようにして、溶接条件設定方法は、電流値及び電圧値算出ステップS16で求めた溶接電流I12及び溶接電圧V12を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する。
本実施の形態3の溶接装置および溶接条件決定方法によれば、溶接対象物に関する情報と溶接法に関する情報が設定されることで、溶接装置は、それに適した溶接電流Irと溶接電圧Vrとワイヤ送給速度WFrと溶接速度vrと脚長Srといった溶接条件の推奨値を決定する。そして、この決定した溶接条件の推奨を表示部15に表示することができる。さらに、作業者が脚長の推奨値Srから値を変更し、かつ、溶接速度の推奨値vrから値を変更した場合でも、溶接装置は、その変更後における溶接条件の推奨値を決定して表示することができる。従って、溶接条件を決定するまでの試行錯誤を行う時間と労力や、試作トライ用として廃棄する溶接対象物を最大限低減することが可能となる。
なお、別の仕方でも溶接条件の推奨値を算出することができる。以下に、溶接条件の推奨値の別の算出の仕方について説明する。
図13Aは、本発明の実施の形態3における別の溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第1のフローチャートである。図13Bは、本発明の実施の形態3における別の溶接条件の推奨値を決定する手順を示す第2のフローチャートである。
すなわち、溶接条件設定方法は、第4ステップS4の後に、送給速度算出ステップS5と、電流値算出ステップS6と、熱量決定ステップS8と、電圧値算出ステップS27とを備える。
送給速度算出ステップS5は、第4ステップS4の後に表示される脚長及び溶接速度が、いずれも推奨値とは異なる値に変更されると、ワイヤ送給速度算出式に基づいて、脚長の変更後の値S1と溶接速度の推奨値vrからワイヤ送給速度WF1を求める。
電流値算出ステップS6は、ワイヤ送給速度の増加にあわせて増加する関係にある溶接電流を算出するための溶接電流算出式又はワイヤ送給速度と溶接電流の関係を表す表に基づいて、送給速度算出ステップS5で算出したワイヤ送給速度WF1から溶接電流I1を求める。
熱量決定ステップS8は、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1と、溶接電圧算出式又は溶接電流と溶接電圧の関係を表す表に基づいて、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1から求めた溶接電圧V1と、溶接速度の推奨値vrとからアーク熱量Q1を決定する。その溶接電圧算出式は、溶接電流の増加にあわせて増加する関係にある溶接電圧を算出するためのものである。
電圧値算出ステップS27は、アーク熱量算出式に基づいて、熱量決定ステップS8で求めたアーク熱量Q1と、溶接速度の変更後の値v2と、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1とから、溶接電圧V12を求める。そのアーク熱量算出式は、溶接電流と溶接電圧に比例し溶接速度に反比例する関係にあるアーク熱量を算出するためのものである。
このように、表示される脚長及び表示される溶接速度が変更されると、電流値算出ステップS6で求めた溶接電流I1及び電圧値算出ステップS27で求めた溶接電圧V12を、新たな溶接電流の推奨値及び新たな溶接電圧の推奨値として決定する。
なお、上記した実施の形態1から実施の形態3において、第1ステップS1として溶接対象物6に関する情報である溶接対象物情報を作業者は溶接装置に入力する。この溶接対象物情報としては、溶接対象物6の材質、溶接対象物6の上板16の板厚、溶接対象物6の下板17の板厚、溶接対象物6の上板16の板厚と溶接対象物6の下板17の板厚の平均板厚T、溶接対象物6の継手形状等が挙げられる。そして、これらの情報の内少なくとも1つを溶接対象物情報として用いるようにすれば良い。
また、継手形状の例としては、T継手、重ね継手、突合継手、角継手、へり継手、フレア継手等が挙げられる。
なお、上記した実施の形態1から実施の形態3において、第2ステップS2としてアーク溶接法に関する情報である溶接法情報を作業者は溶接装置に入力する。この溶接法情報としては、アーク溶接におけるパルス溶接の可否、パルスモードの種類、シールドガスの種類、溶接ワイヤ突出長設定、ワイヤ送給制御方法の選択、ワイヤ材質、ワイヤ径等が挙げられる。これらの情報の内少なくとも1つを溶接法情報として用いるようにすれば良い。
ここで、パルス溶接の可否とは、パルスありもしくはなしの選択である。パルスモードの種類とは、複数あるパルスモードの中からの選択である。シールドガスの種類とは、CO2ガスもしくは80%Ar−20%CO2ガスもしくは98%Ar−2%O2など溶接用に使用されるシールドガスである。ワイヤ突出長設定は、チップと母材間の距離のことをいい、15mmもしくは20mmなどの個別設定である。ワイヤ送給制御方法とは、常時正送、もしくは正送と逆送を繰り返すなどワイヤ送給のモード設定である。ワイヤ材質とは、軟鋼もしくはステンレスなど溶接用ワイヤの材質である。ワイヤ径とは、溶接ワイヤの直径を示しφ0.9mmもしくはφ1.0mmなど使用する溶接用ワイヤの直径をいう。
なお、実施の形態1から3においては、溶接対象物情報と溶接法情報に基づいて、溶接条件の推奨値として、溶接速度vと、溶接電流Iと、溶接電圧Vと、ワイヤ送給速度WFと、脚長Sが演算されて表示される。
また、実施の形態1において、脚長Sが変更して設定された場合、その溶接条件の推奨値として、溶接速度vと、溶接電流Iと、溶接電圧Vと、ワイヤ送給速度WFが演算されて表示される。
また、実施の形態2において、溶接速度vが変更して設定された場合、その溶接条件の推奨値として、溶接電流Iと、溶接電圧Vと、ワイヤ送給速度WFと、脚長Sが演算されて表示される。
また、実施の形態3において、脚長Sが変更して設定され、かつ、溶接速度vが変更して設定された場合、その溶接条件の推奨値として、溶接電流Iと、溶接電圧Vと、ワイヤ送給速度WFが演算されて表示される。
そして、このように推奨値として演算された値及び、変更されて設定された値に関し、記憶部10に記憶されている動作プログラムに溶接電流や溶接電圧等、演算された値や設定された値と同じ項目がある場合がある。その場合、制御部8は、動作プログラムを演算された値や設定された値に修正する。このようにすることで、適切な溶接条件で溶接を行うことが可能となる。
本発明は、溶接を行う際の溶接条件の決定を容易に行うことができ、様々な溶接対象物の溶接を行う際の溶接条件設定方法および溶接装置として、産業上有用である。
1 ワイヤ
2 溶接トーチ
3 マニピュレータ
4 ロボット制御装置
5 設定器
6 溶接対象物
7 溶接電源装置
8 制御部
9 演算部
10 記憶部
11 溶接対象物情報入力部
12 溶接法情報入力部
13 脚長設定部
14 溶接速度設定部
15 表示部
16 上板
17 下板