JPWO2011118022A1 - メタ型全芳香族ポリアミド繊維 - Google Patents
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Abstract
Description
かかる全芳香族ポリアミドのなかでも、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(以下「メタアラミド」と略称することがある)繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用である。このような、メタアラミド繊維の製法としては、主に次の(a)、(b)の2つの方法が採用されている。さらに、これ以外のメタアラミド繊維の製造法として、(c)〜(e)のような方法も提案されている。
(b)メタフェニレンジアミン塩とイソフタル酸クロライドとを含む生成ポリアミドの良溶媒ではない有機溶媒系(例えばテトラヒドロフラン)と無機の酸受容剤ならびに可溶性中性塩を含む水溶液系とを接触させることによって、ポリメタフェニレンイソフタルアミド重合体の粉末を単離し(特許文献2:特公昭47−10863号公報)、この重合体粉末をアミド系溶媒に再溶解した後、無機塩含有水性凝固浴中に湿式紡糸する方法(特許文献3:特公昭48−17551号公報)。
(d)アミド系溶媒中で溶液重合し、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどで中和して生成した塩化カルシウムと水とを含むメタアラミド重合体溶液を、オリフィスから気体中に押し出して、気体中を通過させた後、水性凝固浴に導入し、次いで、塩化カルシウムなどの無機塩水溶液中を通過させて繊維状物に成形する方法(特許文献5:特開昭56−31009号公報)。
(e)アミド系溶媒中で溶液重合し、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどで中和して生成した塩化カルシウムと水とを含むメタアラミド重合体溶液を、オリフィスから、塩化カルシウムを高濃度に含む水性凝固浴中に紡出させて繊維状物に成形する方法(特許文献6:特開平8−074121号公報、特許文献7:特開平10−88421号公報など)。
一方で、上記(b)〜(e)の方法は、湿式紡糸であるため、紡糸段階での溶媒の揮発は生じない。しかしながら、繊維状になったポリマーを水性凝固浴あるいは高濃度の無機塩を含有する水性凝固浴に導入した際に、繊維状ポリマーの表面近傍から水性凝固浴内へ溶媒が脱離すると同時に、凝固した繊維状物の表面近傍から凝固浴液に含まれる水が繊維状物の内部へ浸入し、強固なスキン層が生じていた。このため、乾式紡糸法による繊維と同様に、繊維中に残存する溶媒を十分に除去することは困難であり、残存溶媒に起因した高温雰囲気下での着色または変色(特に黄変)は避けられなかった。したがって、(b)〜(e)の方法で得られる繊維についても、高温での熱処理を避ける必要があり、繊維の高強度化が難しいという問題がいまだ残されていた。
特許文献8に記載された方法によれば、メタアラミド溶液を凝固により繊維状物とした段階では、実質的に表面にはスキン層を有しない多孔質な繊維状物となっている。しかしながら、可塑液を含んだ該多孔質繊維状物を加熱すると、その後に溶媒を除去することが非常に困難となり、その結果、該方法により得られた繊維も、残存溶媒に起因した高温雰囲気下での着色または変色(特に黄変)は避けられなかった。したがって、特許文献8に記載された方法で得られる繊維についても、高温での熱処理を避ける必要があり、繊維の高強度化が難しいという問題がいまだ残されていた。
すなわち、本発明は、実質的に層状粘土鉱物を含まないメタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、繊維中に残存する溶媒量が繊維全体に対して1.0質量%以下であり、かつ、繊維の破断強度が4.5〜6.0cN/dtexであるメタ型全芳香族ポリアミド繊維である。
ここで、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、300℃乾熱収縮率が好ましくは5.0%以下である。
また、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、初期弾性率が好ましくは800〜1,500cN/mm2である。
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、以下の特定の物性を備える。本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性、構成、および、製造方法等について以下に説明する。
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、破断強度が一定の範囲にあり、かつ、繊維中に残存する溶媒の量が非常に少ないものである。具体的には、実質的に層状粘土鉱物を含まないメタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、繊維中に残存する溶媒量が1.0質量%以下であって、かつ、繊維の破断強度が4.5〜6.0cN/dtexである。このため、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、高温下での加工および使用にあっても、繊維または製品の着色または変色を抑制することができる。
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、通常、ポリマーをアミド系溶媒に溶解した紡糸原液から製造されるため、必然的に該繊維に溶媒が残存する。しかしながら、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維中に残存する溶媒の量が、繊維質量に対して1.0質量%以下である。1.0質量%以下であることが必須であり、0.5質量%以下であることがより好ましい。特に好ましくは、0.01〜0.1質量%である。
繊維質量に対して1.0質量%を超えて溶媒が繊維中に残存している場合には、200℃を超えるような高温雰囲気下での加工や使用の際に、黄変しやすくなり、また、著しく強度が低下したりするため好ましくない。
本発明において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維中の残存溶媒量を1.0質量%以下にするためには、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸条件を適正化する。
なお、本発明における「繊維中に残存する溶媒量」とは、以下の方法で得られる値をいう。
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定する。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出する。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2時間乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定する。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求める。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出する。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、破断強度が4.5〜6.0cN/dtexの範囲である。4.5〜6.0cN/dtexの範囲であることが必須であり、5.5〜6.0cN/dtexの範囲であることが好ましい。さらに、5.7〜6.0cN/dtex、5.8〜6.0cN/dtexの範囲であることが好ましい。破断強度が4.5cN/dtex未満である場合には、得られる製品の強度が低いために、製品用途の使用に耐えられないため好ましくない。一方、6.0cN/dtexを超える場合には、伸度が大幅に低下し、製品の取り扱いが困難になる等の問題が発生する。
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維において、「破断強度」を上記範囲内にするためには、スキンコアを有さず緻密な凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節し、特定倍率の範囲内で可塑延伸を行い、さらに、その後の熱延伸条件を適正化する。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、破断伸度が15%以上であることが好ましく、18%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることが特に好ましい。破断伸度が15%未満である場合には、紡績等の後加工工程における工程通過性が低下するため好ましくない。
本発明において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断伸度」は、後記する製造方法における凝固工程において、スキンコアを有さず緻密な凝固形態とすることにより制御することができる。15%以上とするためには、凝固液をアミド系溶媒、例えばNMP(N−メチル−2−ピロリドン)の濃度を45〜60質量%の水溶液とし、浴液の温度を10〜50℃とすればよい。
なお、ここでいう「破断伸度」とは、JIS L 1015に基づき、上記した「破断強度」の測定条件で測定して得られる値をいう。
さらに、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、300℃乾熱収縮率が5.0%以下であることが好ましく、1.0〜4.0%の範囲であることがさらに好ましい。300℃乾熱収縮率が大きい場合には、形成した繊維構造体が高温に曝されると繊維の収縮が起こるため、繊維構造体の設計が困難となる。上記乾熱収縮率は、特に好ましくは0.1〜3%程度である。
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維において、上記300℃乾熱収縮率を5.0%以下にするには、後記する製造方法において、熱延伸工程における熱処理温度を、310〜335℃の範囲とすればよい。310℃未満では乾熱収縮率が大きくなり、335℃より高いとポリマーの熱劣化による強度低下と着色が生じる。
なお、本発明における「300℃乾熱収縮率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定する。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とする。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
さらに、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、初期弾性率が800〜1,500cN/mm2であることが好ましく、900〜1,500cN/mm2の範囲であることがさらに好ましい。初期弾性率が800〜1,500cN/mm2の範囲にあれば、形成した繊維構造体が外力により変形しにくくなることから、不織布の基布などに用いる場合に寸法精度を確保しやすくなる。
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維において、上記初期弾性率を800〜1,500cN/mm2にするには、後記する製造方法の可塑延伸工程において、3.5〜10.0倍の範囲で可塑延伸を実施すればよい。延伸倍率が3.5倍未満の場合には初期弾性率が未達となり、一方で、10.0倍より高倍率とした場合には糸切れが多発し、工程調子が悪化する。
なお、ここでいう「初期弾性率」とは、JIS L 1015に基づき、上記した「破断強度」の測定条件で測定して得られる値をいう。
なお、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の断面形状は、円形、楕円形、その他任意の形状であってよく、また、単繊維の繊度(単糸繊度)は、一般に0.5〜10.0dtexの範囲であることが好ましい。
また、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、多数の紡糸孔を有する紡糸口金を用いた湿式紡糸で得られ、例えば1口金あたり100〜30,000ホールで200〜70,000dtex、好ましくは1,000〜20,000ホールで2,000〜45,000dtexのトウとして得られる。
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を構成するメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。
メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モルである。
(メタ型芳香族ジアミン成分)
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、2,6−ジアミノクロロベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
メタ型全芳香族ポリアミドを構成するメタ型芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロロイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドそのもの、または、イソフタル酸クロライドを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸クロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られた芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、乾熱処理工程、熱延伸工程を経て製造される。
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドなどのメタ型全芳香族ポリアミドで、溶媒がNMPなどのアミド系溶媒である場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させる。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が1,000〜30,000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、20〜90℃の範囲が適当である。
ここで、実質的に塩を含まない凝固液としては、実質的にアミド系溶媒と水だけで構成されることが好ましい。しかしながら、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等の無機塩類がポリマー溶液中から抽出されてくるため、実際には、凝固液にはこれらの塩類が少量含まれる。工業的な実施における塩類の好適濃度は、凝固液全体に対して0.3質量%〜10%質量の範囲である。無機塩濃度を0.3質量%未満とするためには、凝固液の回収プロセスにおける精製のための回収コストが著しく高くなるため適切ではない。一方で、無機塩濃度が10質量%を超える場合には、凝固速度が遅くなることから、紡糸口金から吐出された直後の繊維に融着が発生しやすくなり、また、凝固時間が長時間となるため凝固設備を大型化せざるを得なくなり好ましくない。
本発明においては、凝固浴の成分あるいは条件を上記の通りに設定することにより、繊維表面に形成されるスキンを薄くし、繊維内部まで均一な構造にすることができ、さらに、得られる繊維の破断伸度を向上させることができる。
かかる紡糸・凝固工程により、凝固浴中で多孔質のメタ型全芳香族ポリアミドの凝固糸からなる繊維(トウ)が形成され、その後、凝固浴から空気中へ引き出される。
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する。
可塑延伸浴液としては特に限定されるものではなく、従来公知のものを採用することができる。
例えば、アミド系溶媒の水溶液からなり、塩類が実質的に含まれない水溶液を用いることができ、工業的には、上記凝固浴に用いたものと同じ種類の溶媒を用いることが特に好ましい。すなわち、重合体溶液、凝固浴および可塑延伸浴に用いるアミド系溶媒は同種であることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)の単独溶媒、または、NMPを含む2種以上からなる混合溶媒を用いることが特に好ましい。同種のアミド系溶媒を用いることによって、回収工程を統合・簡略化することができ、経済的に有益となる。
可塑延伸浴の温度と組成とはそれぞれ密接な関係にあるが、アミド系溶媒の質量濃度が20〜70質量%、かつ、温度が20〜70℃の範囲であれば、好適に用いることができる。この範囲より低い領域では、多孔質繊維状物の可塑化が十分に進まず、可塑延伸において十分な延伸倍率をとることが困難となる。一方で、これの範囲より高い領域では、多孔質繊維の表面が溶解して融着するため、良好な製糸が困難となる。
本発明の繊維を得るためには、可塑延伸浴中の延伸倍率を、3.5〜10.0倍の範囲とする必要があり、さらに好ましくは4.0〜6.5倍の範囲とする。本発明においては、可塑延伸浴中の延伸を当該倍率の範囲で行い、延伸による分子鎖配向を上げることにより、最終的に得られる繊維の強度を確保することができる。
可塑延伸浴中での延伸倍率が3.5倍未満である場合には、5.0cN/dtex以上の破断強度を有する繊維を得ることが困難となる。一方で、延伸倍率が10.0倍を超える場合には、単糸切れが発生するため、生産安定性が悪くなる。
可塑延伸浴の温度は、20〜90℃の範囲が好ましい。温度が20〜90℃の範囲にある場合には、工程調子が良いため好ましい。上記温度は、さらに好ましくは20〜60℃である。
洗浄工程においては、可塑延伸浴にて延伸された繊維を十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行なうことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば特に限定されるものではないが、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
繊維中に溶媒が残っている場合には、高温下での繊維の着色または変色(特に黄変)を抑制することができず、また、物性低下や収縮、限界酸素指数(LOI)の低下等が生じる。このため、本発明の繊維に含まれる溶媒量は、1.0質量%以下とする必要があり、0.5質量%以下とすることがより好ましい。
本発明の繊維を得るためには、上記洗浄工程を経た繊維に対して、好ましくは、乾熱処理工程を実施する。乾熱処理工程においては、上記洗浄工程により洗浄が実施された繊維を、好ましくは100〜250℃、さらに好ましくは100〜200℃の範囲で、乾燥熱処理する。ここで、乾熱処理は、特に限定されないが、定長下が好ましい。
洗浄工程の後、乾燥熱処理を引き続いて施すと、ポリマーの流動性を適度に向上させ、配向が進む一方で結晶化を抑制し、繊維の緻密化を促進することができる。なお、上記の乾熱処理の温度は、熱板、加熱ローラーなどの繊維加熱手段の設定温度をいう。
本発明においては、上記乾熱処理工程を経た繊維に対して、熱延伸工程を施す。熱延伸工程においては、310〜335℃で熱処理を加えながら、1.1〜1.8倍の延伸を実施する。熱延伸工程における熱処理温度が335℃を超える高温の場合には、糸が着色し、また、激しく劣化して、破断強度が低下するばかりか、場合によっては断糸することがある。一方、310℃を下回る温度では、繊維の十分な結晶化を達成することができず、所望の繊維物性すなわち破断強度等の力学的特性および熱的特性を発現することが困難となる。
熱延伸工程における処理温度と得られる繊維の密度とには、密接な関係がある。特に良好な繊維密度の製品を得るためには、熱延伸工程における熱処理温度を、310〜335℃の範囲とすることが好ましい。また、熱延伸工程における熱処理温度を310〜335℃の範囲とすることにより、300℃乾熱収縮率が5.0%以下の繊維を得ることができる。なお、熱処理は、乾熱処理とすることが特に好ましく、熱延伸工程における熱処理温度は、熱板、加熱ローラーなどの繊維加熱手段の設定温度をいう。
また、熱延伸工程における延伸倍率は、得られる繊維の強度および弾性率の発現に密接な関係がある。本発明の繊維を得るためには、通常、1.1〜1.8倍、好ましくは1.1〜1.5倍の範囲に設定する必要があり、当該範囲とすることで、良好な熱延伸性を保持しつつ、必要となる強度および弾性率を発現させることができる。
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、必要に応じて捲縮加工などが施され、適当な繊維長に切断され、紡績その他の次工程に提供される。
かくして、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、その耐熱性、耐炎性、力学特性を生かした各種の用途に応用することができる。例えば、本発明の繊維単独あるいは他の繊維と組み合わせて織編物にし、消防服、防護服などの耐熱耐炎衣料、耐炎性の寝具、インテリア材料として用いることができる。また、不織布としてフィルターなどの各種工業材料として、あるいは、合成紙、複合材料の原料としても有効に使用することができる。
とりわけ、本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、高温下での加工および使用であっても、高強度を維持し、かつ、製品の着色または変色を抑制できる。したがって、高温に曝される状況で使用される用途、例えば、高温用フェルトの基布、高温ガスのフィルターなどの素材、あるいは、高弾性率であることを生かして、ゴムや樹脂等のマトリックス補強材として、特に有用である。
実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
[固有粘度(IV)]
重合体溶液から芳香族ポリアミドポリマーを単離して乾燥した後、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した。
[単糸繊度]
JIS L 1015に準じ、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛け繊度にて表記した。
引張試験機(インストロン社製、型式:5565)を用いて、JIS L 1015に基づき、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
洗浄工程の出側にて繊維をサンプリングし、該繊維を遠心分離機(回転数5,000rpm)に10分かけ、このときの繊維質量(M1)を測定した。この繊維を、質量M2gのメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド系溶媒および水を抽出した。抽出後の繊維を105℃雰囲気下で2時間乾燥し、乾燥後の繊維質量(P)を測定した。また、抽出液中に含まれるアミド系溶媒の質量濃度(C)を、ガスクロマトグラフにより求めた。
繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、上記のM1、M2、P、およびCを用いて、下記式により算出した。
N=[C/100]×[(M1+M2−P)/P]×100
約3,300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定した。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とした。
300℃乾熱収縮率(%)=[(30−L)/30]×100
得られた繊維、および、250℃の乾燥機中で100時間の熱処理を実施した後の繊維に対して、色相値の測定を行った。具体的には、カラー測色装置(マスベク社製、商品名:マクベスカラーアイ モデルCE−3100)を用いて、以下の測定条件で測定を実施し、色相値(L*−b*)の変化を求めた。色相値(L*−b*)は、数値が小さいほど黄変が著しいことを示す。なお、L*、b*は、JIS Z 8728(10度視野XYZ系による色の表示方法)に規定する三刺激値により求められる。
(測定条件)
視野 :10度
光源 :D65
波長 :360〜740nm
[紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した、固有粘度(IV)が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末 20.0部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)80.0部中に懸濁させ、スラリー状にした。引き続き、懸濁液を60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。
[紡糸工程]
得られたポリマー溶液を紡糸原液として、孔径0.07mm、孔数1,500の紡糸口金から、浴温度40℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/NMP(量比)=45/55であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
[可塑延伸工程]
引き続き、温度40℃の水/NMP(量比)=40/60の組成の可塑延伸浴中にて、5.0倍の延伸倍率で延伸を行った。
[洗浄工程]
延伸後、20℃の水/NMP(量比)=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)、60℃の温水浴(浸漬長5.4m)、さらに、80℃の温水浴(浸漬長3.6m)に、順次、通して、十分に洗浄を行った。
[乾燥熱処理工程]
洗浄後の繊維について、引き続き、表面温度150℃の熱ローラーにて定長下で乾燥熱処理を実施した。
[熱延伸工程]
引き続き、表面温度330℃の熱ローラーにて熱処理を加えながら、1.3倍に延伸する熱延伸工程を実施し、最終的にポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
[測定・評価]
得られた繊維(トウ)に対し、各種の測定評価を実施した。繊度は2.1dtex、破断強度は5.5cN/dtex、破断伸度は24.0%であり、いずれも良好な数値を示した。また、繊維中の残存溶媒量は0.4%、300℃乾熱収縮率は3.9%、初期弾性率は1,250cN/mm2であり、優れた熱収縮安定性を示した。得られた結果を表1に示す。
紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程において、用いる溶媒をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に変更してポリマー溶液を製造し、これを紡糸原液に用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
凝固工程において、凝固液の組成を、水/NMP(量比)=70/30へ変更した以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
熱延伸工程における延伸倍率を1.0倍に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
[紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程]
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のNMP 721.5部を秤量し、このNMP中にメタフェニレンジアミン 97.2部(50.18モル%)を溶解させ、0℃に冷却した。この冷却したNMP溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3部(49.82モル%)を徐々に撹拌しながら添加し、重合反応を行った。なお、粘度変化が止まった後、40分攪拌を継続し、重合反応を完了させた。
次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加えて、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間撹拌し、透明なポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液からポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離してIVを測定したところ、1.25であった。また、ポリマー溶液中のポリマー濃度は、20%であった。
[紡糸工程・可塑延伸工程・多段洗浄工程・乾燥熱処理工程・熱延伸工程]
得られたポリマー溶液を紡糸原液として、紡糸工程における糸速を5m/分とし、可塑延伸工程における可塑延伸浴中の延伸倍率を6.5倍とした以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
紡糸原液(紡糸用ドープ)調製工程において、用いる溶媒をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に変更した以外は、実施例3と同様にしてポリマー溶液を製造し、得られたポリマー溶液を紡糸原液として、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
凝固工程において、凝固液の組成を、水/NMP(量比)=30/70へ変更した以外は、実施例3と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
熱延伸工程における延伸倍率を1.0倍に変更したこと以外は、それぞれ実施例3および実施例4と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。得られた繊維についての各種測定結果を、表1に示す。
Claims (3)
- 実質的に層状粘土鉱物を含まないメタ型全芳香族ポリアミド繊維であって、
繊維中に残存する溶媒量が繊維全体に対して1.0質量%以下であり、かつ、繊維の破断強度が4.5〜6.0cN/dtexであるメタ型全芳香族ポリアミド繊維。 - 300℃乾熱収縮率が5.0%以下である請求項1記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維。
- 初期弾性率が800〜1,500cN/mm2である請求項1または2記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維。
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