JP4664794B2 - メタ型芳香族ポリアミド繊維の製造法 - Google Patents

メタ型芳香族ポリアミド繊維の製造法 Download PDF

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Description

湿式紡糸によって耐熱性に優れ、かつ力学的特性・熱収縮特性も良好なメタフェニレンイソフタルアミド骨格を主たる成分とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維を、高い生産性の下に製造する方法に関するものである。
芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロリドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性に優れかつ難燃性に優れることは従来周知であり、また、これらの芳香族ポリアミドがアミド系溶媒に可溶であって、これらの重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸等の方法によって繊維となし得ることも良く知られている。
かかる芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミドの繊維(以下「メタアラミド繊維」と略称することがある)は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものであり、かかるメタアラミド繊維は、現在、主に次の(イ)(ロ)の2つの方法によって工業的な生産が行われていると言われており、これら以外にもメタアラミド繊維の製造法として、次の(ハ)〜(ホ)のような方法が提案されている。
(イ)メタフェニレンジアミンとイソフタル酸クロライドとをN,N−ジメチルアセトアミド中で低温溶液重合させることによってポリメタフェニレンイソフタルアミド溶液を調製し、しかる後、該溶液中に副生した塩酸を水酸化カルシウムで中和して得た塩化カルシウムを含む重合体溶液を、乾式紡糸することによりポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造する方法(特公昭35−14399号公報(特許文献1)、米国特許第3360595号明細書(特許文献2)参照。)
(ロ)メタフェニレンジアミン塩とイソフタル酸クロライドとを含む生成ポリアミドの良溶媒ではない有機溶剤系(例えばテトラヒドロフラン)と無機の酸受容剤ならびに可溶性中性塩を含む水溶液系とを接触させることによってポリメタフェニレンイソフタラルアミド重合体の粉末を単離し(特公昭47−10863号公報(特許文献3)参照)、この重合体粉末をアミド系溶媒に再溶解した後、無機塩含有水性凝固浴中に湿式紡糸する方法(特公昭48−17551号公報(特許文献4)参照)。
(ハ)溶液重合法で合成・単離したメタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解した、無機塩を含まないかまたは僅かな量(2〜3%)の塩化リチウムを含む重合体溶液から、湿式成形法によって繊維等の成形物を製造する方法(特開昭50−52167号公報(特許文献5)参照)。
(ニ)アミド系溶媒中で溶液重合し、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等で中和して生成した塩化カルシウムと水とを含むメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液を、紡糸口金から気体中に押し出して、気体中を通過せしめた後、水性凝固浴に導入し、次いで、塩化カルシウム等の無機塩水溶液中を通過せしめて糸条物に成形する方法(特開昭56−31009号公報(特許文献6)参照)。
(ホ)アミド系溶媒中で溶液重合し、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等で中和して生成した塩化カルシウムと水とを含むメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液を、紡糸口金から、塩化カルシウムを高濃度に含む水性凝固浴中に紡出せしめて糸条物に成形する方法(特開平8−074121号公報(特許文献7)、特開平10−88421号公報(特許文献8)等参照)。
上記(イ)の方法は、重合体を単離せずに紡糸用の重合体溶液(紡糸原液)を調製できる利点はあるが、沸点の高いアミド系溶媒を用いる乾式紡糸のため、製造上のエネルギーコストが高く、しかも紡糸口金当たりの孔数を増大すると紡糸安定性が急速に低下する。また、この重合体溶液を水性凝固浴中に湿式紡糸しようとしても失透の多い弱い繊維しか得られないことが多いため、未だに溶液重合によるメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液を水性凝固浴を用いて湿式紡糸する方法は、多くの困難があると考えられており、工業的に実施されていない。
一方、上記(ロ)(ハ)の方法は、上述した乾式紡糸の問題は回避されるが、重合系と紡糸系とで溶媒が異なること、一度単離された重合体を再溶解するための工程を要すること、再溶解して安定な溶液を得るには特別の配慮と細心の工程管理が要求されることが問題となる(特公昭48−4661号公報(特許文献9)参照)。また、上記(ニ)の方法では、紡糸口金から空気中に紡糸する場合、口金当たりの孔数を増大すると紡糸安定性が著しく低下するため、生産性が低く効率的でない。さらに、上記(ホ)の方法は、良好な物性の繊維を与えるものの、紡糸速度を上げることが困難であるため、生産性に問題がある。
このような問題を改善する手段として、特開2001−348726号公報(特許文献10)には、上記(ロ)と同様の方法で得たメタフェニレンイソフタルアミドを主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解してなる重合体溶液を、アミド系溶媒と水とからなる凝固浴中に吐出して多孔質の繊維(線状体)として凝固せしめ、続いて、そのままあるいは可塑液を含浸させた後に空気中で加熱延伸し、次いで一旦乾燥させることなく100〜200℃の低温で加熱処理した後、さらに250〜400℃の高温で熱処理する方法が提案されている。
また、近年、特開2003−342832号公報(特許文献11)、特開2003−301326号公報(特許文献12)、特開2004−3049号公報(特許文献13)および特開2005−232598号公報(特許文献14)等に、上記(ロ)と同様の方法で得たメタフェニレンイソフタルアミドを主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解してなる重合体溶液を、アミド系溶媒と水とからなる凝固浴中に吐出して多孔質の繊維(線状体)として凝固せしめ、続いて、これをアミド系溶媒の水性溶液からなる可塑延伸浴中にて延伸し、水洗後、熱処理して緻密なメタアラミド繊維を製造する方法が提案されている。
確かに、これらの方法は、力学特性の優れたメタアラミド繊維を得る方法として優れてはいるものの、繊維中の溶媒残存率によっては熱処理工程で繊維間の密着が発生する場合がある。この問題を解消するために時間をかけて脱溶媒すると、そのための装置が大型化するという新たな問題が発生し、工業的生産としては不十分である。また、紡糸口金のホール数が増加すると力学特性が低下してしまう問題が発生するため、工業的生産方法としては有用ではなかった。紡糸口金のホール数が多くなると十分な繊維物性が得られない原因としては、紡糸原液の溶媒であるアミド系溶媒の吐出部付近の濃度上昇が糸条(トウ)の外周付近に比べ内部(中心部)の方が大きくなることや糸条(トウ)内部の繊維の洗浄が十分に進まないためと考えられ、力学特性の低下や単糸切れが発生し易くなるため工業的な生産も困難となる。
したがって、密着が少なくかつ良好な繊維物性を有するメタアラミド繊維を、実質工業的生産レベルで製造し得る方法が求められている。
特公昭35−14399号公報 米国特許第3360595号明細書 特公昭47−10863号公報 特公昭48−17551号公報 特開昭50−52167号公報 特開昭56−31009号公報 特開平8−74121号公報 特開平10−88421号公報 特公昭48−4661号公報 特開2001−348726号公報 特開2003−342832号公報 特開2003−301326号公報 特開2004−3049号公報 特開2005−232598号公報
本発明は、上記のごとき従来技術の諸問題を解決しようとするもので、その目的は、繊維間の密着がなく、力学的特性に優れ、かつ熱的性質も良好なメタアラミド繊維を、実質工業生産レベルにて有利に生産し得る新規な方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、メタフェニレンイソフタルアミド骨格を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドがアミド系溶媒に溶解しているメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液を湿式紡糸することによりメタアラミド繊維を製造する方法において、上記重合体溶液を凝固させて糸条を形成させた直後に、凝固浴上がりの糸条をアミド系溶媒の水溶液からなる特定条件で2つの調整浴に順次浸漬させ、その後に可塑延伸すれば、繊維間の密着がなくなり、かつ力学的特性に優れたメタアラミド繊維が得られることを見出し、本発明に到達したものである。
かくして、本発明によれば、上記の課題を解決する手段として、下記(1)〜(7)の
工程:
(1)上記重合体溶液を、紡糸口金からアミド系溶媒と水とから実質的になる温度20〜70℃の凝固浴中に吐出して、糸条として凝固せしめる工程、
(2)凝固浴から空気中に引き出した糸条を、10秒以内に、アミド系溶媒の濃度が40〜70重量%であるアミド系溶媒の水性溶液からなる温度−20〜10℃の第1調整浴に浸漬する工程、
(3)第1調整浴で浸漬処理した糸条を、さらに、アミド系溶媒の濃度が40〜70重量%であるアミド系溶媒の水性溶液からなる温度40〜90℃の第2調整浴に浸漬する工程、
(4)第2調整浴で浸漬処理した糸条を、アミド系溶媒の水性溶液からなる可塑延伸浴中にて延伸する工程、
(5)可塑延伸後の糸条を、水またはアミド系溶媒の水性溶液にて洗浄する工程、
(6)洗浄した糸条を、温度100〜250℃で熱処理する工程、
(7)さらに、これを温度270〜400℃で熱処理する工程、
を実施することにより、繊維間密着がなくかつ物性の良好なメタアラミド繊維を製造する本発明の製造方法が提供される。
このような方法において、上記工程(1)の凝固浴を構成するアミド系溶媒の水性溶液は、アミド系溶媒/水の重量比が40/60〜70/30の水性溶液であることが好ましい。
上記工程(1)〜(7)をこの順序で実施する場合は、上記工程(4)において、アミド系溶媒/水の重量比が20/80〜70/30である水性溶液から実質的になり、かつ浴温度が−20〜20℃である可塑延伸浴中で、1.5〜10倍の延伸倍率で延伸し、しかる後、上記工程(5)において、洗浄後の繊維中のポリマー重量率(P)、アミド系溶媒重量率(N)、水重量率(w)が下記式(a)および(b)を同時に満足するように洗浄するのが効果的である。
Figure 0004664794
なお、本発明方法では、上記工程(6)と(7)との間で、さらに、
(8)アミド系溶媒と水の組成が重量比で0/100〜40/60であり温度が20〜100℃である可塑延伸浴中にて1.0〜3倍に再延伸する工程、および、
(9)水またはアミド系溶媒の水性溶液にて洗浄した後に温度100〜250℃で再熱処理する工程、
からなる一連の工程を少なくとも1回行うことも可能である。
この場合は、上記工程(4)において、アミド系溶媒と水の組成が重量比で20/80〜70/30で、温度が−20〜90℃である可塑延伸浴中で1.5〜10倍の延伸倍率で延伸し、次いで、上記工程(5)において、洗浄後の繊維のポリマー重量率(P)、アミド系溶媒重量率(N)、水重量率(w)が下記式(c)および(d)を同時に満足するように洗浄するのがよい。
Figure 0004664794
そして、かかる条件で洗浄した糸条には、上記工程(6)と(7)との間で、上記の工程(8)および(9)からなる一連の工程、すなわち再延伸および再熱処理、が少なくとも1回施された後、上記工程(7)で、温度270〜400℃での熱処理が施される。
また、本発明方法では、いずれの場合も、上記工程(7)において、0.7〜4倍の延伸下に熱処理するのが好ましい。なお、ここで延伸倍率0.7倍とは、糸条が熱処理によって処理前の原長の30%収縮することを意味し、上記熱処理は一定範囲内の制限収縮熱処理であっても差し支えないことを意味する。
かかる本発明方法を工業的に実施する場合、重合体溶液、凝固浴および可塑延伸浴に含まれるアミド系溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種を使用するのが好適であり、特に上記各工程を通じて共通の溶媒を使用すると、溶媒回収、設備、コスト等の面で有利である。
以上のごとき本発明方法により、繊維間の密着がなく、力学的特性、熱的性質にも優れた緻密なメタアラミド繊維を良好な生産性で製造することができる。すなわち、本発明方法によれば、繊維間の密着がなく力学的特性および熱的性質(特に耐熱収縮性)に優れた緻密なメタアラミド繊維(特にポリメタフェニレンイソフタルアミド系繊維)を実質工業的な生産性で製造することが可能となる。
(ポリマーの製造)
本発明において使用されるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタフェニレンイソフタルアミドを主たる繰返し単位とするものであり、その製造方法は特に限定されない。例えば、メタ型芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸クロライドとを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
かかる原料の一つであるメタ型芳香族ジアミンとしては、主として下記式で示されるジアミンが使用される。
Figure 0004664794
かかるメタ型芳香族ジアミンの具体例としては、メタフェニレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、2,4−ジアミノクロルベンゼン、2,6−ジアミノクロルベンゼン等が挙げられる。その他のメタ型芳香族ジアミンとしては、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
なかでも、メタフェニレンジアミンまたはこれを主体とする混合ジアミンが好ましい。混合ジアミンにおいて、メタフェニレンジアミンと併用する他の芳香族ジアミン(共重合成分)としては、上記のメタ型芳香族ジアミンのほかに、パラフェニレンジアミン、2,5−ジアミノクロルベンゼン、2,5−ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジン等のようなベンゼン誘導体、1,5−ナフチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニケトン、ビス(アミノフェニル)フェニルアミン、ビス(パラアミノフェニル)メタン等が用いられる。
溶媒に対する溶解性の良い重合体(以下「ポリマー」という)が望まれる場合には、このような他の芳香族ジアミンは全体の20モル%程度まで使用可能であるが、高結晶性のポリマーが望まれる場合にはジアミン成分として、メタフェニレンジアミンが90モル%以上、特に95モル%以上含まれることが好ましい。
一方、本発明で使用する芳香族ジカルボン酸クロライドは、イソフタル酸クロライドまたはこれを主体とする芳香族ジカルボン酸クロライドである。イソフタル酸クロライドと併用し得る他の芳香族ジカルボン酸クロライドとしては、テレフタル酸クロライド、1,4−ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸クロライド、5−クロルイソフタル酸クロライド、5−メトキシイソフタル酸クロライド、ビス(クロロカルボニルフェニル)エーテル等が挙げられる。
溶解性の良好なポリマーが望まれる場合は、これらの他の芳香族ジカルボン酸の高率混合(20モル%程度まで)も可能であるが、高結晶性のポリマーが望まれる場合は、イソフタル酸クロライドが90モル%以上、特に95モル%以上含まれることが好ましい。
本発明では、上記のメタ型全芳香族ポリアミドの中でも、全ポリマー繰返し単位の90〜100モル%がメタフェニレンイソフタルアミド単位であるホモポリマーまたはコポリマーが好適に使用される。
上記ポリマーの分子量は、繊維を形成し得る程度であればよいが、一般に、十分な物性の繊維を得るには、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100ml硫酸で30℃において測定した固有粘度(I.V.)が0.8〜3.0、特に1.0〜2.0の範囲のものが適当である。
(紡糸原液の調製)
本発明においては、上記メタ型全芳香族ポリアミドがアミド系溶媒に溶解したポリマー溶液を紡糸原液(紡糸用ドープ)として、後述する湿式紡糸工程に供給する。かかるポリマー溶液は、上記溶液重合等で得られたメタ型全芳香族ポリアミドを含むアミド系溶媒溶液を用いてもよいし、上記溶液重合、界面重合等で得られたメタ型全芳香族ポリアミドを含む溶液から該メタ型全芳香族ポリアミドを単離し、これをアミド系溶媒に溶解したポリマー溶液を用いてもよい。
ここで使用するアミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等を例示することができるが、なかでも、湿式紡糸に至るまでの重合体溶液の安定性等から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
本発明において、紡糸原液として用いるポリマー溶液には、水を含んでいてもよい。このような水は必要に応じて添加することもあるが、溶液調製プロセスで必然的に生成するものであって差し支えない。その濃度は、溶液が安定に存在する範囲であるならばいかなる濃度でもかまわないが、例えば、ポリマー重量に対して0〜60重量%の範囲で水が添加、含有されるのが通常好ましく、特に0〜15重量%であることが好ましい。これを超える濃度では、ポリマー溶液の安定性が損なわれ、ポリマーの析出、ゲル化によって紡糸性が著しく損なわれることがある。紡糸原液におけるポリマーの濃度は、10〜25重量%とすると、良好な紡糸調子を維持するので好ましい。
また、紡糸原液には、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等の無機塩類を含んでいてもよい。無機塩類の含有量は、通常、紡糸原液の0〜50重量%が好ましい。本発明方法では、必要に応じ、少量の艶消剤、顔料、紫外線安定剤、フィラー、その他の添加剤を含んでも差し支えない。
(湿式紡糸)
本発明方法において、湿式紡糸により紡糸原液を凝固浴中に吐出する場合、紡糸口金としては多ホールのものを用いることができる。実用上ホール数の上限は約50000ホールであり、好ましくは300〜30000ホール、特に3000〜20000ホールの紡糸口金が使用される。
凝固浴は、アミド系溶媒と水(HO)との2成分から実質的になる水性溶液で構成される。この凝固浴組成において、アミド系溶媒としては上記ポリマーを溶解し、水と良好に混和するものであれば好適に用いることができるが、特に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等を好適に用いることができる。溶媒の回収等を考慮すれば、凝固浴に含むアミド系溶媒として紡糸原液中のアミド系溶媒と同じ種類のものを使用するのが好ましい。
アミド系溶媒と水との最適な混合比は、紡糸原液となるポリマー溶液の条件によっても若干変化するが、凝固浴を構成する凝固液中のアミド系溶媒の濃度は40〜70重量%、特に50〜65重量%の範囲であることが好ましい。アミド系溶媒の濃度がこの範囲を下回る条件では、凝固繊維中に非常に大きなボイドが生じ易くなり、その後の糸切れの原因となり易い。一方、この範囲を上回る条件では、凝固が進まず、繊維同士の密着(溶着、膠着、融着等)が起こり易くなる。
凝固液は、実質的にアミド系溶媒と水だけで構成されることが好ましいが、これ以外に無機塩類が少量含まれていても差し支えない。特に、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等の無機塩類は、ポリマー溶液中に含むことがあり、紡糸時に紡糸原液から凝固浴中に抽出されてくることがあるが、無機塩の存在は多孔凝固に対して何らこれを阻害することはなく、例えば、凝固液に対し10重量%以下、特に5重量%以下の低濃度であれば塩類が含まれていても問題はない。したがって、無機塩類の好適濃度は凝固液に対し0〜10重量%の範囲である。
凝固浴の温度は、凝固液組成と密接な関係があるが、一般に高温の方が生成繊維中にフィンガーとよばれる粗大な気泡上の空孔ができ難いので好ましい。しかし、凝固液のアミド系溶媒濃度が高い場合には、あまり高温にすると繊維同士の密着が生じ易くなるので、凝固浴の好適な温度は20〜90℃であり、より好ましくは30〜80℃の範囲である。
凝固浴中での糸条の浸漬時間は0.1〜30秒が好ましい。浸漬時間が短かすぎると糸条形成が不十分となり紡糸時に断糸が発生するおそれがある。
かかる湿式紡糸により、凝固浴中で多孔質のメタアラミド繊維からなる糸条(トウ)が形成され、凝固浴から空気中へ引き出される。
(調整)
本発明方法では、このように凝固浴中から空気中に引き出された糸条の、空気中の走行時間を10秒以下、好ましくは0.5秒以上5秒以下として、次の調整浴に導入して該浴に浸漬する必要がある。この間の凝固糸条の空気中走行時間を上記範囲に短縮することにより、後述する熱処理工程で生じる繊維間の密着を大幅に低減することができる。ここで走行時間が10秒を超える場合には、凝固糸条の表層の凝固が進み易くなり、その後の洗浄工程での脱溶媒が困難になり、熱処理工程での密着発生の要因となり易い。該空気中走行時間を上記範囲に短縮する方法は任意であるが、凝固浴と調整浴を近接して設置することにより容易に達成できる。
なお、凝固糸条が走行する雰囲気の空気温度は、あまりに高すぎると糸条表層の凝固が進行して洗浄工程での脱溶媒が困難となるので、−20〜50℃、特に−20〜20℃の範囲とするのが好ましい。
第1調整浴の温度は−20℃〜20℃、好ましくは−20〜10℃にすることが必要である。第1調整浴の温度は上記温度範囲を超える場合には、後の洗浄工程で脱溶媒することが困難になり、一方、上記温度範囲より低い場合には、ゴム弾性が高すぎ、後述の工程を通過させても、最終的に得られる繊維の強度や弾性率等の力学的特性が不十分となる。なお、紡糸口金のホール数が増加するほど第1調整浴の温度は低くするのが好ましく、上記温度の範囲内でも、3000ホールでは約20℃以下、5000ホールでは約10℃以下、7500ホール以上では約0℃以下とするのが好適である。
前述のように凝固糸条を−20〜30℃、好適には−20〜20℃、の第1調整浴に浸漬させることにより、紡糸口金のホール数が増加しても力学特性に優れた繊維が得られる理由は未だ完全に解明されていないが、現在のところ、以下の理由が考えられる。
すなわち、紡糸口金から紡出された紡糸原液が凝固して単繊維群を形成する際に、紡糸原液中から凝固液中に流れ出る溶媒によって紡糸口金中心部は、凝固浴槽内壁近辺における凝固液中の溶剤濃度と異なる高い溶剤濃度になる。したがって、凝固浴槽壁面側と中心側とでは、凝固液が含有する溶剤濃度に勾配が生じることとなる。この結果、紡出された単繊維群間においても、その周辺部と中心部とで凝固時間差が生じ、単繊維間の凝固状態にムラが生じるため単繊維切れや品質の低下を引き起こすが、この現象は紡糸口金のホール数が多くなるほど顕著となる。この凝固時間が不足している単繊維は低温でも凝固が進行するため、上記温度の調整浴に浸漬させることによって凝固が進行し、単繊維間の凝固状態のムラが減少する。このため、紡糸口金のホール数が多くなっても単繊維切れの減少や品質向上の効果が生じると考えられる。
このように第1調整浴で調整された糸条は、次いで、40〜90℃の温度に保持された第2調整浴に導入して浸漬させる。第1調整浴から出た糸条を上記温度範囲の第2調整浴に浸漬させることにより、後述の可塑延伸工程での延伸倍率が増加して物性が向上すると共に生産能力が向上する。該温度が上記温度範囲より低い場合にはこの効果が不十分となり、一方、上記温度範囲を超える場合には糸条の表面が溶解して融着し易く、良好な紡糸が困難になることが多い。
本発明では、第1調整浴では繊維表面に硬いスキンをなるべく成長させずにトウ全体の凝固を完了させ、高温の第2調整浴で各繊維表面のスキンのTg以上にして繊維を柔らかくし、高倍率で延伸することにより生産性を向上させること(即ち、スキンが成長するよりも先に延伸を行う)ことを意図しており、そのため、第1調整浴と第2調整浴とは、明確な温度差を有する必要があり、第1調整浴は−20〜20℃、第2調整浴は40〜90℃の温度にする必要がある。
上述のごとく第1調整浴で調整された糸条を、さらに、上記第2調整浴に浸漬することによって延伸倍率が向上する理由は、未だ明確ではないが、その理由として以下のようなことが考えられる、即ち、凝固し低温の第1調整浴に浸漬された糸条(トウ)は、その中心付近に比べると外層部の繊維は溶媒濃度が低下していると考えられ、繊維中の溶媒濃度が低下すると延伸されにくくなり延伸倍率が低下するため、延伸倍率は糸条外層部の繊維中の溶媒濃度の影響を受ける。そのため、高温のアミド系溶媒を含んだ第2調整浴に浸漬させることによって、糸条外層部の繊維中の溶媒濃度も増加し、糸条全体が延伸され易くなるものと考えられる。
上記の第1調整浴、第2調整浴とも、凝固浴と同じく、アミド系溶媒と水(HO)との2成分から実質的になる水性溶液で構成される。この調整浴組成において、アミド系溶媒としては、メタ型全芳香族ポリアミドを溶解し、水と良好に混和するものであれば好適に用いることができるが、特に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等を好適に用いることができる。溶媒の回収等を考慮すれば、紡糸原液中のアミド系溶媒および凝固浴と同じ種類のものを使用するのが好ましい。
各調整浴液におけるアミド系溶媒と水との最適な比率は、調整浴液中のアミド系溶媒の濃度が40〜70重量%、特に50〜65重量%の範囲であることが好ましい。アミド系溶媒の濃度がこの範囲を下回る条件では、繊維表面の凝固が進み易くなり、その後の洗浄工程で脱溶媒をすることが困難になる。一方、この範囲を上回る条件では、繊維表面が再溶解して繊維同士の密着(溶着、膠着、融着等)が起こり易くなる。
第1調整浴および第2調整浴を構成する調整浴液も、凝固液と同じく、実質的にアミド系溶媒と水とで構成されることが好ましいが、これ以外に無機塩類が少量含まれていても差し支えない。例えば調整浴液に対し10重量%以下、特に5重量%以下の低濃度であれば塩類が含まれていても問題はない。したがって、塩類の好適濃度は調整浴液に対して0〜10重量%の範囲である。
(可塑延伸)
本発明では、凝固後に上記のごとく2段階で調整された糸条は、引き続き、アミド系溶媒の水性溶液中で可塑延伸される。ここで用いられるアミド系溶媒としては、メタ型全芳香族ポリアミドを膨潤させ、水と良好に混和するものであればよいが、特にN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等は好適に用いることができる。ここでも、凝固浴や調整浴に用いたものと同じ溶媒を用いることが好ましい。凝固浴や調整浴と同種の溶媒を用いれば、回収工程が簡略化され、経済的に有益である。すなわち、ポリマー溶液、凝固浴、調整浴および可塑延伸浴中のアミド系溶媒はすべて同種のものを使用するのが好ましく、かかる溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドを単独で使用するかまたは2種以上を併用することが好都合である。
可塑延伸浴のアミド系溶媒と水との最適な混合比は、凝固条件によっても若干変化するが、可塑延伸浴中のアミド系溶媒の濃度は20〜70重量%、特に30〜65重量%の範囲であることが好ましい。この範囲より低い領域では可塑化が十分に進まず、十分な延伸倍率をとることが困難であり、これを上回る範囲では糸の表面が溶解して糸同士が密着し易く良好な延伸をすることが困難になる場合が多く、また、後述する工程でアミド系溶媒を除去することも困難になる。
一方、可塑延伸浴の温度は−20〜20℃、特に−15〜10℃の範囲が好ましい。該温度が上記温度範囲より低い場合には可塑化が十分に進まず、十分な延伸倍率をとることが困難であり、上記温度範囲より高い場合には延伸性は向上するものの、最終的に得られる繊維の強度、弾性率等の力学的特性が十分なものを得ることが困難になる。なお、紡糸口金のホール数が増加するほど可塑延伸浴の温度は低下させるほうが好ましく、7500ホール以上では約10℃以下とするのが好ましい。
可塑延伸浴の浴液も、凝固液と同じく、実質的にアミド系溶媒と水とで構成するのが好ましいが、これ以外に少量の無機塩類が含まれていても差し支えない。例えば可塑延伸浴液に対し10重量%以下、特に5重量%以下の低濃度であれば無機塩類が含まれていても問題はない。したがって、無機塩類の好適濃度は可塑延伸浴液に対して0〜10重量%の範囲である。
可塑延伸の倍率は、通常1.5〜10倍、好ましくは2〜10倍、特に2.1〜6.0倍の範囲が好ましい。このように高倍率で延伸することにより、得られるメタアラミド繊維の強度、弾性率が向上し良好な物性を示すようになると同時に、多孔構造の孔が引きつぶされ、後述する熱処理により繊維の緻密化が良好に進行するようになる。但し、極端に高倍率に延伸した場合には、工程の調子が悪化して良好な製糸が困難になる。
(洗浄)
上記の可塑延伸工程{上記工程(4)}を経た延伸浴上がりの繊維は、水あるいはアミド系溶媒の水性溶液にて洗浄し、該繊維中の含アミド系溶媒率を調整する。この洗浄工程{上記工程(5)}で洗浄した糸条を100〜250℃の熱処理{上記工程(6)}した後、そのまま後述する高温の熱処理{上記工程(7)}に供する場合には、繊維中の水重量率(含水率)およびアミド系溶媒重量率(含溶媒率)を、下記式(a)および(b)を満足するように調整することが好ましい。
Figure 0004664794
洗浄後の繊維のおける含水率および含溶媒率を上記範囲に調整することにより、引続いて施される熱処理において、繊維間の密着を発生させることなく該熱処理時のポリマーの流動性が適度に向上し、配向は進むが結晶化は抑制されて、繊維の緻密化が促進される。また、適量の水とアミド系溶媒とが共存することにより、これらが共沸して繊維中に残存するアミド系溶媒の蒸発を促進する。
ここで、N/(P+N)が0.3未満であると、この熱処理時のポリマー流動性向上効果が小さく、良好な繊維物性は得難くなる。一方0.7を超えると、アミド化合物溶媒の蒸発に時間がかかり生産性およびエネルギー的に不利であり、また繊維の着色も起こり易くなる。また、W/(P+W)が0.4未満であると、熱処理時に繊維同士が融着して繊維物性の低下を招く懸念があり、一方0.7を超えると、水の蒸発に時間がかかり生産性およびエネルギー的に不利である。
なお、洗浄後の繊維の含水率および含溶媒率を上記範囲に調整するには、例えば、可塑延伸後に糸条を10〜70℃の水浴あるいは10〜40℃のアミド系溶媒/水の混合浴等の洗浄浴に通し、その際、該浴へ浸漬長を浴中のローラーへの糸掛けターン数により調整する等の方法で容易に達成することができる。
洗浄工程(上記工程(5))にて、以上のごとき含水率および含溶媒率に調整した繊維は、後述する熱処理工程(上記工程(6)、(7))へ供給される。
一方、本発明方法では、上述のごとく、可塑延伸・洗浄された繊維に対し、後述する100〜250℃での熱処理(上記工程(6))の後に、さらに第2段の再可塑延伸(上記工程(8))および再熱処理(上記工程(9))を施しても構わない。その場合は、水あるいはアミド系溶媒の水性溶液にて洗浄後の繊維中の含水率および含溶媒率は、下記式(c)および(d)を満足するように調整することが好ましい。
Figure 0004664794
なお、上記の含水率および含溶媒率を上記範囲に調整するには、第1段目の可塑延伸後に10〜70℃の水浴あるいは10〜40℃のアミド系溶媒/水の混合浴等からなる洗浄浴を通過させ、浸漬長を糸掛けターン数により調整する等の方法で容易に行なうことができる。
洗浄後の繊維の含水率および含溶媒率を上記範囲に調整することにより、引続いて施される100〜250℃での熱処理において、該熱処理時のポリマーの流動性が適度に向上し、配向は進むが結晶化は抑制されて、繊維の緻密化が促進されるという効果が生じる。
ただし、上述のN/(P+N)が0.1未満であると、この熱処理時のポリマー流動性向上への効果が不十分となり、繊維の緻密化が不十分となって良好な繊維物性が得ることが困難になる。一方0.3を超えると、熱処理時の結晶化が進み易くなると同時に繊維の密着も発生し易くなるため、同じく良好な繊維物性を得ることが困難になる。また、W/(P+W)が0.4未満であると、熱処理時にポリマーの流動性が低下して繊維の緻密化が不十分となり、繊維物性の低下を招く懸念がある。一方0.7を超えると、水の蒸発に時間がかかり生産性およびエネルギー的に不利である。
このように繊維中の含水率および含溶媒率が調整された繊維は、加熱ローラー、加熱板、熱風等によって一旦100〜250℃、好ましくは100〜200℃の温度範囲にて熱処理された後に、第2段の可塑延伸{上記工程(8)の再延伸}が施される。
この第2段の可塑延伸浴の組成と温度も、第1段の可塑延伸と同じく、得られる繊維物性と密接に関係するが、アミド系溶媒の濃度は低めの0〜40重量%、温度は20〜100℃の範囲が好適に用いられる。アミド系溶媒の濃度や温度が高くなりすぎると、繊維の配向が不十分となって繊維物性が低下し易い。延伸倍率は、1.0〜3倍、好ましくは1.0〜2倍の範囲が適当であるが、特に1.0〜1.5倍が好ましい。第2段目以後の延伸工程を加える多段延伸とすることにより、メタアラミド繊維の強度、弾性率がさらに向上し良好な物性を示すようになる。
(熱処理)
このように1段または2段以上で可塑延伸された繊維は、必要により、さらに水またはアミド系溶媒の水性溶液で洗浄した後に、加熱ローラー、加熱板、熱風等によって一旦100〜250℃、好ましくは100〜200℃の温度範囲にて、熱処理(上記工程(6))または再熱処理(上記工程(9))が施される。この段階の熱処理は定長または5%以下の制限収縮下での乾熱処理が好ましい。
続いて施される温度270〜400℃下での高温熱処理(上記工程(7))は、その処理温度と繊維密度には密接な関係があり、特に良好な繊維密度の製品を得るには、300〜370℃の温度で処理するのが好ましい。ただし、400℃を超える高温の処理では糸が激しく劣化し、着色し、場合によっては断糸する場合がある。一方、270℃を下回る温度では十分に繊維を緻密化することができず、所望の繊維物性すなわち力学的・熱的特性を発現することが困難となる。この熱処理も乾熱処理が特に好ましい。
この高温熱処理における延伸倍率は、弾性率、強度の発現に密接な関係を有し、必要に応じて任意の倍率をとることができるが、通常、0.7〜3.0倍、特に1.0〜2.7倍の範囲に設定することで、良好な熱延伸性と、強度、弾性率の発現が得られる。既に述べたように、ここで延伸倍率0.7倍とは、糸条が熱処理によって処理前の原長の30%収縮することを意味し、上記延伸倍率での熱処理は、処理時に一定範囲内で制限収縮熱処理する場合も包含するものである。この高温熱処理は乾熱処理が好ましい。なお、上記各熱処理における処理温度は、熱板、加熱ローラー等の糸条加熱手段の設定温度をいう。
各熱処理における延伸倍率は、上述した可塑延伸の倍率を考慮して選定するのが好ましく、繊維の緻密化と物性の発現、安定した製糸性の実現の観点から、可塑延伸および熱延伸を含めた全延伸倍率が2.5〜12倍となるようにすること、さらには3〜6倍となるように設定すること、がより好ましい。本発明方法によるメタアラミド繊維は、延伸性がよく、可塑延伸や熱延伸時に断糸や毛羽の発生をともなうことなく円滑に高倍率まで延伸することができる。
(後加工および用途)
このようにして製造されたメタアラミド繊維は、必要に応じて捲縮加工等が施され、適当な繊維長に切断され、紡績その他の次工程に提供される。
かくして本発明方法によるメタアラミド繊維は、その耐熱性、耐炎性、力学特性を生かした各種の用途に応用することができる。例えば、該繊維単独あるいは他の繊維と組み合わせ、織編物にして消防服、防護服等の耐熱耐炎衣料、耐炎性の寝具、インテリア材料として有用であり、特に不織布としてフィルター等各種工業材料、あるいは合成紙、複合材料の原料として有効に使用することができる。
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例および比較例中、「部」および「%」は特に断らない限りすべて重量に基づくものであり、量比は特に断らない限り重量比を示す。また、実施例および比較例に示す各測定値は、以下の方法により測定された値である。
(1)固有粘度(I.V.):
ポリマー溶液から芳香族ポリアミドポリマーを単離して乾燥した後、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100ml硫酸で30℃において測定した値である。
(2)紡糸に用いるポリマー溶液(紡糸原液)におけるポリマー濃度(PN濃度):
全重量部に対するポリマーの重量%、すなわち
(重合体/(重合体+溶媒+その他))×100(%)である。
(3)凝固により得られた多孔質の線状体の密度:
ASTM D2130にしたがって測定した繊維径と繊度から算出した。
(4)得られた繊維の乾熱収縮率(300℃):
3300dtex(3000デニール)のトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、30cm離れた箇所に印をつけた。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後の印を検知し、これと当初の印との印間長Lを測定した。この測定値から
(30−L)/30×100の値を求め、300℃乾熱収縮率(%)とした。
(5)得られた繊維の繊度:
JIS−L−1015に準じ、測定した。
(6)得られた繊維の力学特性:
JIS−L−1015に準じ、試料長20mm、初荷重1/20g/dtex、伸張速度20mm/分で測定した。
(7)100〜250℃熱処理前の繊維中のポリマー重量率P、アミド系溶媒重量率N、および水分重量率W:
100〜250℃熱処理前の繊維を、10分間遠心分離機(回転数5000rpm)にかけ、このときの繊維重量Mを測定した。この繊維をメタノール中で4時間煮沸し、繊維中のアミド化合物溶媒および水を抽出した。抽出後の繊維と抽出液の全重量Mを測定した。また抽出後の繊維を取出して105℃雰囲気下で乾燥させ、乾燥後の繊維重量を測定し、これをPとした。抽出液中のアミド化合物溶媒重量濃度C(%)を、ガスクロマトグラフにより求めた。これらより、
=(M−P)×C/100および
=M−P−Nを算出し、次いで、次式よりP、N、Wを算出した。
Figure 0004664794
(8)繊維の密着率:
得られた繊維を長さ5cmにカットした繊維を約30gサンプリングし、乾燥後にその重量(W)を精秤し、これを水30リットルと混合して15分間撹拌した後、幅0.15mm、長さ50mmのスリットを400本有する濾過機を通過させた。この時、スリットを通過せずに残った繊維の乾燥後の重量(W)を精秤し、密着率は下記式より算出した。そして、この算出結果に基づき、密着率が0.1%未満を○、0.1%以上1.0%未満を△、1.0%以上を×と表示した。
Figure 0004664794
[実施例1]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造したI.V.=1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末21.5重量部を、−10℃に冷却したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)78.5重量部中に懸濁させ、スラリー状にした後、60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液Aを得た。このポリマー溶液Aのポリマー濃度は21.5%であった。
上記ポリマー溶液Aを紡糸原液として、孔径0.07mm、孔数15000の紡糸口金より浴温度50℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴は、水/DMAc=40/60の組成の浴を用い、浸漬長(有効凝固浴長)10cmにて糸速7m/分で通過させた後、温度20℃の空気中にいったん引き出した。
引き出した凝固糸条を常温下の空気中を4秒間走行させてから水/DMAc=40/60の組成で温度−5℃の第1調整浴中に10秒間浸漬した。次いで、水/DMAc=40/60の組成で温度50℃の第2調整浴中に5秒間浸漬した。
得られた糸条を水/DMAc=40/60の組成(重量比)で温度0℃の可塑延伸浴中にて4.4倍の延伸倍率で延伸を行った後、水/DMAc=70/30の組成で温度20℃の洗浄浴に通し(浸漬長1.0m)、さらに温度20℃の水浴に通して洗浄した(浸漬長1.0m)。このとき、洗浄後の糸条のN/(P+N)は0.38であり、W/(P+W)は0.62であった。
洗浄後の糸条を、表面温度120℃のローラーに巻回して乾熱処理し、引続き表面温度160℃のローラーに巻回して乾熱処理した後、さらに表面温度330℃の熱板で定長にて乾熱処理し、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
得られた繊維の特性は、後掲の表1に示すように、繊度2.2dtex、密度1.36g/cm、強度3.89cN/dtex、伸度36.0%であり、いずれも良好な数値を示した。また、300℃乾熱収縮率は3.3%であり、密着は0.1%未満であった。
[実施例2〜4および比較例1〜4]
凝固糸条の凝固浴から第1調整浴までの走行時間および第1調整浴、第2調整浴の温度、可塑延伸倍率を表1記載のとおり変更した以外は実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を製造した。水洗後の糸条特性および繊維特性に関する評価結果を合わせて表1に示す。
Figure 0004664794
[実施例5]
実施例1と同様に湿式紡糸して得たポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維の糸条を、第1調整浴および第2調整浴を通した後、水/DMAc=40/60の組成で温度0℃の可塑延伸浴中にて4.4倍の延伸倍率で延伸を行い、次いで、水/DMAc=70/30の組成で温度20℃の洗浄浴(浸漬長1.0m)に通し、さらに温度20℃の水浴(浸漬長8.0m)に通して洗浄した。このとき洗浄後の繊維のN/(P+N)は0.17であり、W/(P+W)は0.60であった。
次いで、洗浄後の糸条を、表面温度120℃ローラーに巻回して乾熱処理し、引続き表面温度160℃ローラーに巻回して乾熱処理した後、さらに、水/DMAc=90/10の組成で温度90℃の可塑延伸浴中にて1.2倍に延伸し、次いで、温度90℃の水浴(浸漬長3.6m)に通し洗浄した。
その後、表面温度120℃ローラーに巻回して乾熱処理し、引続き表面温度160℃ローラーに巻回して乾熱処理し、さらに表面温度330℃の熱板で定長にて乾熱処理して、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
得られた繊維の特性は、繊度2.2dtex、密度1.36g/cm、強度4.25cN/dtex、伸度36.0%であり、いすれも良好な数値を示した。また、300℃乾熱収縮率は4.0%であり、優れた熱収縮安定性を示し、密着は0.1%未満と良好であった。
[実施例6〜8および比較例5〜8]
凝固糸条の凝固浴から調整浴までの走行時間および調整浴の温度を表2記載のとおり変更した以外は実施例5と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。水洗後の糸条特性および密着に関する評価結果を合わせて表2に示す。
Figure 0004664794
なお、比較例3及び7では、第2調整浴の温度が20℃と低いため延伸倍率が低下し、物性や生産性が低下してしまうという問題が見られた。
本発明方法によれば、繊維間の密着がなく力学的・熱的特性に優れたメタアラミド繊維(特にポリメタフェニレンイソフタルアミド系繊維)を実質工業的な生産性で製造することができ、得られる繊維は、耐熱性、難燃性等のメタアラミド繊維が本来もつ性質に加えて、優れた力学的・熱的特性を有するので、各種の用途に有効に使用することができるので、繊維産業の分野において特に有用である。

Claims (7)

  1. メタフェニレンイソフタルアミド骨格を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドがアミド系溶媒に溶解しているメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液を湿式紡糸することによりメタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造する方法において、
    (1)上記重合体溶液を、紡糸口金からアミド系溶媒と水とから実質的になる温度20〜70℃の凝固浴中に吐出して、糸条として凝固せしめる工程、
    (2)凝固浴から空気中に引き出した糸条を、10秒以内に、アミド系溶媒の濃度が40〜70重量%であるアミド系溶媒の水性溶液からなる温度−20〜10℃の第1調整浴に浸漬する工程、
    (3)第1調整浴で浸漬処理した糸条を、さらに、アミド系溶媒の濃度が40〜70重量%であるアミド系溶媒の水性溶液からなる温度40〜90℃の第2調整浴に浸漬する工程、
    (4)第2調整浴で浸漬処理した糸条を、アミド系溶媒の水性溶液からなる可塑延伸浴中にて延伸する工程、
    (5)可塑延伸後の糸条を、水またはアミド系溶媒の水性溶液にて洗浄する工程、
    (6)洗浄した糸条を、温度100〜250℃で熱処理する工程、
    (7)さらに、これを温度270〜400℃で熱処理する工程、
    を実施することを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造法。
  2. 上記工程(1)の凝固浴を構成するアミド系溶媒の水性溶液がアミド系溶媒/水の重量比が40/60〜70/30の水性溶液であることを特徴とする請求項1記載のメタ型芳香族ポリアミド繊維の製造法。
  3. 上記工程(4)において、アミド系溶媒/水の重量比が20/80〜70/30である水性溶液から実質的になり、かつ浴温度が−20〜20℃である可塑延伸浴中で、1.5〜10倍の延伸倍率で延伸し、さらに、上記工程(5)において、洗浄後の繊維におけるポリマー重量率(P)、アミド系溶媒重量率(N)、水重量率(W)が、下記式(a)および(b)を同時に満足するように洗浄することを特徴とする請求項1または請求項2記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造法。
    (a)0.3≦N/(P+N)≦0.7
    (b)0.4≦W/(P+W)≦0.7
    [但し、式中のP、N、Wは、それぞれ、繊維中のポリマー重量率(%)、アミド系溶媒重量率(%)、水重量率(%)を表わす。]
  4. 上記工程(6)と(7)との間で、さらに、
    (8)アミド系溶媒と水の組成が重量比で0/100〜40/60であり温度が20〜100℃である可塑延伸浴中にて1.0〜3倍に再延伸する工程、および、
    (9)水またはアミド系溶媒の水性溶液にて洗浄した後に温度100〜250℃で再熱処理する工程、
    からなる一連の工程を少なくとも1回行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造法。
  5. 上記工程(4)において、アミド系溶媒と水の組成が重量比で20/80〜70/30で、温度が−20〜90℃である可塑延伸浴中で1.5〜10倍の延伸倍率で延伸し、次いで、上記工程(5)において、洗浄後の繊維におけるポリマー重量率(P)、アミド系溶媒重量率(N)、水重量率(W)が、下記式(c)および(d)を同時に満足するように洗浄し、
    (c)0.1≦N/(P+N)≦0.3
    (d)0.4≦W/(P+W)≦0.7
    [但し、式中のP、N、Wは、それぞれ、繊維中のポリマー重量率(%)、アミド系溶媒重量率(%)、水重量率(%)を表わす。]
    さらに、上記工程(6)と(7)との間で、上記工程(8)および(9)からなる一連の工程を少なくとも1回行うことを特徴とする請求項4のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造法。
  6. 上記工程(7)において、0.7〜4倍の延伸下に温度270〜400℃で熱処理することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造法。
  7. 重合体溶液、凝固浴および可塑延伸浴に含まれるアミド系溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造法。
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