本発明は、逆極性と正極性を交互に繰り返してアーク溶接を行う交流アーク溶接方法および交流アーク溶接装置に関する。
近年、環境への配慮から、軽量かつリサイクル性に優れたアルミニウム材やマグネシウム材が建造物や車両等の生産に多く利用されており、その接合には交流アーク溶接が多く用いられている。アルミニウム材に対して交流アーク溶接を行う場合、正極性(電極がマイナスとなる。)と逆極性(電極がプラスとなる。)との極性反転の際に、アーク切れが発生することがある。
アーク切れが発生すると作業性が悪化する。また、溶融プールが冷えるため、溶接欠陥が発生する恐れがあり問題となる。そのため、従来から、アーク切れが発生した際に高周波の高電圧を電極と母材との間に印加し、アーク再生を実現する対策が実施されていた。
図9と図10を用いて、従来の交流アーク溶接装置におけるアーク切れ発生時の動作について説明する。図9は、従来の交流アーク溶接装置の概略構成を示す図であり、図10は、従来の交流アーク溶接制御のアーク切れ発生時の溶接制御信号の時間変化を示す図である。
図9のように構成された交流アーク溶接装置について、図10を用いてその動作を説明する。なお、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う非消耗電極式の交流アーク溶接装置を例にして説明する。
図9において、交流アーク溶接装置1は、溶接出力を行う溶接出力部2と、交流周波数の制御を行う交流周波数制御部3と、溶接電流の検出を行う電流検出部4と、電流検出部4の検出結果に基づいてアーク切れの検出を行うアーク切れ検出部6と、電極9と母材12との間に高電圧を印加する高電圧発生装置16を有している。なお、電極9は溶接トーチ10に設けられており、溶接出力部2により電極9と母材12との間に溶接出力を供給する。これにより、アーク11が発生して溶接を行う。
図10において、時点E1はアークが消弧した時点を示しており、時点E2はアークが再点弧した時点を示している。
図9において、交流アーク溶接装置1の溶接出力部2は、交流アーク溶接装置1の外部から給電される商用電力(例えば、3相200V等)を入力とし、交流周波数制御部3からの出力に基づき1次インバータ動作及び2次インバータ動作を行う。これにより、正極性と逆極性とを適正に切り替えられて、溶接に適した溶接電圧や溶接電流が出力される。
ここで、逆極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、母材12から電極9へ向かう方向であって、電極9がプラスであり、母材12がマイナスの場合をいう。また、正極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、電極9から母材12へ向かう方向であって、電極9がマイナスであり、母材12がプラスの場合をいう。
CT(Current Transformer)等で構成される電流検出部4は、溶接電流を検出し、アーク切れ発生の際は、アーク切れ信号をハイとし、アーク発生中はアーク切れ信号をローとする。
CPU等で構成されるアーク切れ検出部6は、電流検出部4からの電流検出信号を入力とし、アーク切れを判定する。
CPU等で構成される交流周波数制御部3は、予め設定される交流周波数で溶接出力を制御し、交流周波数に基づき設定される正極性制御信号と逆極性制御信号を溶接出力部2に出力する。
溶接出力部2は、正極性制御信号と逆極性制御信号に基づき、IGBT等のスイッチ動作により、正極性制御信号がハイのときは正極性期間として動作し、電極9から母材12へ電子が移動する方向に出力極性を切り替える。一方、逆極性制御信号がハイのときは逆極性期間として動作し、母材12から電極9へ電子が移動する方向に出力極性を切り替える。
溶接出力部2が出力する溶接電流や溶接電圧は、溶接トーチ10に給電され、電極9の先端と母材12との間にアーク11を発生し、交流アーク溶接が行われる。
高電圧発生装置16は、アーク切れ検出部6からのアーク切れ信号に基づき、アーク切れ信号がハイの時に高周波の高電圧(通常、12kV)を電極9と母材12との間に印加する。アーク切れ信号がローの時には、高周波の高電圧の印加を停止する。
図10に示すように、通常溶接中に、アークが消弧した時点E1で、アーク切れ信号はハイとなり、高電圧発生装置16は、電極9と母材12との間にアーク再生電圧である高周波の高電圧(例えば、12kV)を印加する。
高周波の高電圧が電極9と母材12との間に印加されることで、電極9と母材12との間の絶縁が破壊され、アークが再生する。そして、アークが再生した時点E2において、高電圧発生装置16は、高周波の高電圧の印加を停止する。
アーク切れ期間中およびアーク中において、交流周波数制御部3は、通常の溶接中の交流周波数で動作している。
上述のように、従来の、交流アーク溶接装置1を用いた交流アーク溶接方法は、アーク切れ発生時に高周波の高電圧を印加することで、アークを再生していた(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、従来の交流アーク溶接方法は、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のために高周波の高電圧を印加するため、溶接ビード表面が損傷する、または、高周波の高電圧に起因する通信障害が発生するといった課題を有していた。
本発明は、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる交流アーク溶接方法および交流アーク溶接装置を提供する。
本発明の交流アーク溶接方法は、第1の交流周波数で逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う交流アーク溶接方法である。そして、本発明の交流アーク溶接方法は、溶接中にアーク切れを検出する検出ステップと、上記検出ステップにより上記アーク切れを検出すると、上記第1の交流周波数に対応した第1の周期よりも短い期間に、正極性制御信号または逆極性制御信号をハイレベルに出力してアークを再点弧する制御ステップと、を備えた方法からなる。
この方法により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。これにより、溶接ビード表面の損傷を防ぎ、高周波の高電圧による通信障害が発生するといった問題を発生させることなく作業を行うことができる。
また、本発明の交流アーク溶接装置は、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う交流アーク溶接装置であって、第1の交流周波数設定部と、出力検出部と、アーク切れ検出部と、交流周波数制御部と、を備えている。ここで、第1の交流周波数設定部は、定常溶接時の交流周波数である第1の交流周波数を設定する。出力検出部は、溶接電流または溶接電圧を検出する。アーク切れ検出部は、出力検出部の検出結果に基づいて、アーク切れを検出する。交流周波数制御部は、アーク切れ検出部の検出結果に基づいて、交流周波数を制御する。そして、本発明の交流アーク溶接装置は、アーク切れを検出すると、第1の交流周波数に対応した第1の周期よりも短い期間に、正極性制御信号または逆極性制御信号をハイレベルに出力してアークを再点弧する構成からなる。
この構成により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。これにより、溶接ビード表面の損傷を防ぎ、高周波の高電圧による通信障害が発生するといった問題を発生させることなく作業を行うことができる。
図1は、本発明の実施の形態1における交流アーク溶接装置の概略構成を示す図である。
図2は、本発明の実施の形態1における交流アーク溶接の制御信号の交流周波数の時間変化を示す図である。
図3は、本発明の実施の形態2における交流アーク溶接装置の概略構成を示す図である。
図4は、本発明の実施の形態2における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間および逆極性期間の時間変化を示す図である。
図5は、本発明の実施の形態3における交流アーク溶接装置の概略構成を示す図である。
図6は、本発明の実施の形態3における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間および逆極性期間の時間変化を示す図である。
図7は、本発明の実施の形態4における交流アーク溶接装置の概略構成を示す図である。
図8は、本発明の実施の形態4における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間および逆極性期間の時間変化を示す図である。
図9は、従来の交流アーク溶接装置の概略構成を示す図である。
図10は、従来の交流アーク溶接制御のアーク切れ発生時の溶接制御の時間変化を示す図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同じ構成要素については同じ符号を付しているので説明を省略する場合がある。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における交流アーク溶接装置の概略構成を示す図であり、図2は、本発明の実施の形態1における交流アーク溶接の制御信号の交流周波数の時間変化を示す図である。なお、図2は、溶接電流、正極性制御信号、逆極性制御信号およびアーク切れ信号の振幅の時間変化を示している。
図1のように構成された交流アーク溶接装置について、図2を用いてその動作を説明する。以下、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う非消耗電極式の交流アーク溶接装置を例にして説明する。
図1に示すように、交流アーク溶接装置1は、溶接出力部2と、交流周波数制御部3と、電流検出部4と、電圧検出部5と、アーク切れ検出部6と、第1の交流周波数設定部7と、第2の交流周波数設定部8と、を備えている。ここで、溶接出力部2は、溶接出力を出力する。交流周波数制御部3は、交流周波数の制御を行う。電流検出部4は、溶接電流を検出する。電圧検出部5は、溶接電圧を検出する。アーク切れ検出部6は、電流検出部4の出力あるいは電圧検出部5の出力に基づいてアーク切れを検出する。第1の交流周波数設定部7は、第1の交流周波数を設定する。第2の交流周波数設定部8は、第2の交流周波数を設定する。そして、本実施の形態1の交流アーク溶接装置1において、溶接出力部2により、溶接トーチ10に設けられた電極9と母材12との間に溶接出力を印加することにより、アーク11が発生する。
また、図2に示すように、期間P1において、F1は、正極性制御信号および逆極性制御信号の第1の交流周波数を示しており、F2は、正極性制御信号および逆極性制御信号の第2の交流周波数を示している。時点E1はアークが消弧した時点を示しており、時点E2はアークが再点弧した時点を示している。
図1において、交流アーク溶接装置1の溶接出力部2は、外部から給電される商用電力(3相200V等)を入力とし、交流周波数制御部3からの出力に基づき、1次インバータ動作及び2次インバータ動作により正極性と逆極性を適正に切り替え、溶接に適した溶接電圧や溶接電流を出力する。
なお、溶接出力部2を構成する、図示しない1次インバータは、通常、PWM(Pulse Width Modulation)動作やフェーズシフト動作により駆動される。また、1次インバータは、図示しないIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)や、1次整流ダイオードや、平滑用電解コンデンサや、電力変換用変圧器等で構成される。
また、溶接出力部2を構成する、図示しない2次インバータは、通常、図示しないIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)で構成され、溶接電圧や溶接電流の極性を切り替える。
ここで、逆極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、母材12から電極9へ移動する方向であり、電極9がプラス側で母材12がマイナス側の場合をいう。また、正極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、電極9から母材12へ移動する方向であり、電極9がマイナス側で母材12がプラス側の場合をいう。
出力を検出するCT(Current Transformer)等で構成される電流検出部4は、溶接電流を検出する。また、出力を検出する電圧検出部5は、溶接電圧を検出する。
CPU等で構成されるアーク切れ検出部6は、電流検出部4からの電流検出信号を入力とし、アーク切れ中に予め設定される電流の検出レベル(例えば、1A)以下となった場合には、アーク切れと判定し、アーク切れ信号をアーク切れ判定レベル(ハイレベル)とする。また、アーク発生中に予め設定される、電流の検出レベル(例えば、3A)以上に達した場合は、アーク切れ信号をアーク判定レベル(ローレベル)とする。
なお、アーク切れ検出部6は、電圧検出部5からの電圧検出信号を入力とし、アーク切れ時に発生するアーク切れ電圧(例えば、60V)以上となった場合にはアーク切れと判定する。そして、アーク切れ信号をアーク切れ判定レベル(ハイレベル)とする。また、アーク発生中に予め設定される電圧の検出レベル(例えば、50V)以下となった場合は、アークが発生しているとしてアーク切れ信号をアーク判定レベル(ローレベル)としてもよい。
CPU等で構成される第1の交流周波数設定部7は、定常溶接中の交流アーク周波数である第1の交流周波数F1(例えば、70Hz)を出力設定する。CPU等で構成される第2の交流周波数設定部8は、第1の交流周波数よりも高い第2の交流周波数F2(例えば、400Hz)を出力設定する。
CPU等で構成される交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6からのアーク切れ信号と、第1の交流周波数設定部7の出力と、第2の交流周波数設定部8の出力に基づいて溶接出力を制御する。交流周波数制御部3は、交流周波数に基づき設定される正極性制御信号と逆極性制御信号を溶接出力部2に出力する。
正極性期間と逆極性期間との比率は、予め設定される(例えば、逆極性期間は交流周期の30%等)。そして、この比率は、一般的に、クリーニング幅と呼ばれる。
溶接出力部2は、交流周波数制御部3からの正極性制御信号と逆極性制御信号に基づき、IGBT等のスイッチ動作を行う。正極性制御信号がハイレベルのときは、正極性期間となるように出力を行い、出力極性が、電極9から母材12へ電子が移動する方向になるように切り替える。一方、逆極性制御信号がハイレベルのときは、逆極性期間となるように出力を行い、出力極性が母材12から電極9へ電子が移動する方向になるように切り替える。
溶接出力部2が出力する溶接電流や溶接電圧は、溶接トーチ10に給電され、タングステン等で構成される電極9の先端9aとアルミニウム材やマグネシウム材等で構成される被溶接物である母材12との間に印加される。これにより、アーク11が発生し、交流アーク溶接が行われる。
交流アーク溶接において、極性の切り替り時にアーク切れが発生しやすい。特に、正極性期間から逆極性期間へ極性が切り替る時にアーク切れが発生しやすい。そこで、アーク切れを検出すると、図2に示すように、第1の交流周波数F1に対応した第1の周期よりも短い期間に、正極性制御信号および逆極性制御信号のうちの逆極性制御信号をハイレベルに出力する。さらに、正極性制御信号をハイレベルに出力し、正極性制御信号および逆極性制御信号を交互にハイレベルに出力することを繰り返すと、アークが再点弧する。そして、アークが再点弧した後に、正極性制御信号および逆極性制御信号の交流周波数が元の第1の交流周波数F1に戻されて継続して交流アーク溶接が行われる。
すなわち、本発明の交流アーク溶接装置1は、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行うものである。そして、本発明の交流アーク溶接装置1は、第1の交流周波数設定部7と、電流検出部4および電圧検出部5のうちの少なくともいずれかを含む出力検出部と、アーク切れ検出部6と、交流周波数制御部3と、を備えている。ここで、第1の交流周波数設定部7は、定常溶接時の交流周波数である第1の交流周波数F1を設定する。出力検出部は、溶接電流または溶接電圧を検出する。アーク切れ検出部6は、出力検出部の検出結果に基づいて、アーク切れを検出する。交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6の検出結果に基づいて、交流周波数を制御する。そして、交流アーク溶接装置1は、アーク切れを検出すると、第1の交流周波数F1に対応した第1の周期よりも短い期間に、正極性制御信号または逆極性制御信号をハイレベルに出力してアークを再点弧する構成としている。
この構成により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。これにより、溶接ビード表面の損傷を防ぎ、高周波の高電圧による通信障害が発生するといった問題を発生させることなく作業を行うことができる。
次に、図2を用いて、アーク切れが発生した際の動作とアークの再点弧について具体的に説明する。
図2に示すように、通常溶接中に第1の交流周波数F1(例えば、70Hz)で交流溶接を行っている。正極性期間から逆極性期間に極性が切り替る時に、時点E1でアークが消弧すると、アークが消弧した時点E1で、アーク切れ信号はハイレベルとなる。この場合、交流周波数制御部3は、通常溶接中の交流周波数である第1の交流周波数F1(例えば、70Hz)から、第1の交流周波数F1より高い第2の交流周波数F2(例えば、400Hz)へ交流周波数を切り替える指示を溶接出力部2に出力する。これにより、溶接出力部2により第2の交流周波数F2で溶接が行われる。
このように、アーク切れが継続する間は、交流周波数は、第2の交流周波数F2で行われる。したがって、正極性制御信号および逆極性制御信号は、第2の交流周波数F2で交互にハイレベルとローレベルの信号を出力する。そして、例えば、時点E2でアークが再点弧すると、アークが再点弧した時点E2において、アーク切れ信号はローレベルとなる。この場合、交流周波数制御部3は、第2の交流周波数F2から通常溶接中の交流周波数である第1の交流周波数F1に切り替えるように溶接出力部2に指示する。これにより、第1の交流周波数F1で溶接が行われるようになり、溶接が継続される。
すなわち、本発明の交流アーク溶接装置1は、第1の交流周波数F1よりも高い第2の交流周波数F2を設定するための第2の交流周波数設定部8をさらに備えている。そして、交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6でアーク切れを検出すると、交流周波数を第1の交流周波数F1から第2の交流周波数F2に切り替えて溶接を行う構成としている。この構成により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。
以上のように、溶接中にアーク切れを検出した時点で、通常溶接中の第1の交流周波数(例えば、70Hz)よりも高い第2の交流周波数(例えば、400Hz)に切り替えて溶接を行う。これにより、アークが再点弧する確率が飛躍的に高くなり、溶接を継続することが可能となる。
これは、アーク切れ直後は、電極9と母材12との空間がアーク雰囲気中にあり、通常溶接中に比べて短時間で極性切り替え動作を繰り返すことで、アークが再生しやすい状況になっているためであると考えられる。
そして、アークが再生するのでアーク切れは短時間(数百usec)で終了し、アークの完全な消弧を防ぐことができる。従って、従来技術のように、アーク再生のために、高電圧発生装置から高周波の高電圧(例えば、12kV)を印加する必要がない。故に、高電圧を使う必要がなく、通常溶接中の電圧でアークが再生するので、通信障害が発生することがなく、周辺の電子機器への悪影響も少ない。また、高電圧が母材12に印加されて、母材12の表面に影響を与えることがないので、溶接ビード表面が荒れることもない。
なお、本実施の形態1では、非消耗電極式交流アーク溶接について説明したが、消耗電極式の交流アーク溶接に適用しても同様の効果を実現することができる。
すなわち、本発明の交流アーク溶接方法は、第1の交流周波数F1で逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う交流アーク溶接方法であって、検出ステップと、制御ステップと、を備えている。ここで、検出ステップは、溶接中にアーク切れを検出するステップである。制御ステップは、検出ステップによりアーク切れを検出すると、第1の交流周波数F1に対応した第1の周期よりも短い期間に、正極性制御信号または逆極性制御信号をハイレベルに出力してアークを再点弧するステップである。
この方法により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。これにより、溶接ビード表面の損傷を防ぎ、高周波の高電圧による通信障害が発生するといった問題を発生させることなく作業を行うことができる。
また、制御ステップにおいて、第1の交流周波数F1よりも高い第2の交流周波数F2で溶接を行う方法としてもよい。
この方法により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなく、簡単な回路およびシステムの構成でアークの再点弧を実現できる。
また、第2の交流周波数F2で溶接を行い、アークが発生したことを検出すると、第2の交流周波数F2から第1の交流周波数F1に戻して溶接を行う方法としてもよい。
この方法により、アーク切れが発生しても、元の溶接条件で継続して円滑にアーク溶接を行うことができる。
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2における交流アーク溶接装置21の概略構成を示す図であり、図4は、本発明の実施の形態2における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間および逆極性期間の時間変化を示す図である。図3と図4を用いて、本実施の形態2における非消耗電極式の交流アーク溶接装置21について説明する。
本実施の形態2が実施の形態1と異なる主な点は、アーク切れが生じている時間を計時し、アーク切れが、所定時間だけ継続したら、極性を切り替えるように制御信号を出力するようにした点である。
図3において、交流アーク溶接装置21は、実施の形態1の構成要素をほぼ備えた上に、第1の所定期間設定部13と、時間を計時する計時部15と、を備えている。また、図4において、時点E3は、アーク切れが発生した時点E1から第1の所定時間T1が経過した時点を示している。
図3において、CPU等で構成される第1の所定期間設定部13は、通常溶接中の逆極性期間よりも短い第1の所定期間(例えば、100usec)を設定するためのものである。CPU等で構成される計時部15は、逆極性期間となるように逆極性制御信号を出力している期間において、アーク切れが発生してからの時間を計時する。CPU等で構成される交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6からのアーク切れ信号と、第1の交流周波数設定部7と、第1の所定期間設定部13の出力と、計時部15の出力に基づいて溶接出力部2に制御信号を送る。これにより、溶接出力が制御される。
図4において、第1の交流周波数F1による通常溶接中に正極性期間が完了し、逆極性期間に切り替えた際に、時点E1でアークが消弧すると、時点E1からアーク切れ信号がハイレベルとなる。アーク切れ信号がハイレベルとなると、計時部15は、逆極性期間中のアーク切れが継続する時間を計時する。そして、計時部15が計時した時間が、通常溶接中の逆極性期間よりも短い第1の所定期間T1が経過した時点である時点E3において、交流周波数制御部3は、溶接出力部2に正極性制御信号を出力し、逆極性期間が完了するように制御する。
なお、逆極性期間は、例えば、第1の交流周波数が70Hzであり、逆極性期間の比率が交流周期の30%である場合、4.28msecである。また、第1の所定期間T1は、例えば、100usecとする。
図4は、逆極性期間から正極性期間に極性を切り替えた時点E3においてアークが再点弧した例を示している。そして、アークの再点弧後は、通常溶接時の周波数である第1の交流周波数F1で溶接が継続される。
すなわち、本発明の交流アーク溶接装置21は、逆極性期間よりも短い第1の所定期間を設定する第1の所定期間設定部13とアーク切れの期間を計時する計時部15と、をさらに備えている。そして、交流アーク溶接装置21の交流周波数制御部3は、逆極性期間となる逆極性制御信号を出力している期間において、第1の所定期間の間にアーク切れが継続した場合には、正極性制御信号を出力して正極性期間となるように制御し溶接を行う構成としている。
この構成により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。
また、本発明の交流アーク溶接方法は、逆極性期間となる逆極性制御信号を出力している期間において、逆極性期間よりも短い第1の所定期間の間にアーク切れが継続した場合には、制御ステップにより、正極性制御信号をハイレベルに出力して正極性期間となるように制御する方法としている。
この方法により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。
以上のように、逆極性中にアーク切れが発生し、第1の所定期間T1(例えば、100usec)の間にアーク切れが継続した場合には、正極性に切り替えることで、アークが再点弧する確率が高くなる。その理由は、第1の所定期間T1は短時間であればあるほど、電極9と母材12との間の空間がアーク雰囲気で保たれた状態が維持されている。これにより、アーク再点弧を試みても、アークが再生しやすいと考えらえる。なお、第1の所定の期間T1は、実験的には1msec以内が好ましい値である。
本実施の形態2によれば、アーク切れ発生時にもアーク切れは短時間(例えば、数百usec)で完了し、アークの完全な消弧を防ぐことができる。よって、アーク再生のための高周波の高電圧(例えば、12kV)を印加する必要がなく、通信障害が発生しない。また、周辺の電子機器への悪影響も少なく、溶接ビード表面が荒れることもない。
なお、本実施の形態2では、非消耗電極式の交流アーク溶接について説明したが、消耗電極式の交流アーク溶接に適用しても同様の効果を実現することができる。
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3における交流アーク溶接装置31の概略構成を示す図であり、図6は、本発明の実施の形態3における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間および逆極性期間の時間変化を示す図である。図5と図6を用いて、本実施の形態3における非消耗電極式の交流アーク溶接装置について説明する。
本実施の形態3が実施の形態2と異なる主な点は、正極性となるように正極性制御信号を出力する期間にアーク切れが生じている時間を計時し、アーク切れが所定時間だけ継続したら極性を切り替えるように、制御信号を出力するようにした点である。
図5において、交流アーク溶接装置31は、実施の形態2の構成要素をほぼ備えた上に、第2の所定期間設定部14を備えている。また、図6において、時点E4は、アーク切れが発生した時点E1から第2の所定時間T2が経過した時点を示している。
図5において、CPU等で構成される第2の所定期間設定部14は、通常溶接中の正極性期間よりも短い第2の所定期間T2(例えば、100usec)を設定するためのものである。CPU等で構成される計時部15は、正極性期間となるように正極性制御信号を出力している期間において、アーク切れが発生してからの時間を計時する。CPU等で構成される交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6からのアーク切れ信号と、第1の交流周波数設定部7と、第2の所定期間設定部14の出力と、計時部15の出力に基づいて溶接出力部2に制御信号を送る。これにより、溶接出力が制御される。
図6において、第1の交流周波数F1による通常溶接中に逆極性期間が完了し、正極性期間に切り替えた際に、時点E1でアークが消弧すると、時点E1からアーク切れ信号がハイレベルとなる。アーク切れ信号がハイレベルとなると、計時部15は、正極性期間中のアーク切れが継続する時間を計時する。そして、時点E4において、交流周波数制御部3は、溶接出力部2に逆極性制御信号を出力し、正極性期間が完了するように制御する。ここで、時点E4は、計時部15が計時した時間が、通常溶接中の正極性期間よりも短い第2の所定期間T2が経過した時点である。
なお、正極性期間は、例えば、第1の交流周波数F1が70Hzであり、逆極性期間の比率が交流周期の30%である場合、10msecである。また、第2の所定期間T2は、例えば、100usecとする。
図6は、正極性期間から逆極性期間に極性の切り替えた時点E4においてアークが再点弧した例を示している。そして、アークの再点弧後は、通常溶接時の周波数である第1の交流周波数F1で溶接が継続される。
すなわち、本発明の交流アーク溶接装置31は、正極性期間よりも短い第2の所定期間を設定する第2の所定期間設定部14と、アーク切れの期間を計時する計時部15と、を備えている。そして、交流アーク溶接装置31の交流周波数制御部3は、正極性期間となる正極性制御信号を出力している期間において、第2の所定期間の間にアーク切れが継続した場合には、逆極性制御信号を出力して逆極性期間となるように制御し溶接を行う構成としている。
この構成により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。
また、本発明の交流アーク溶接方法は、正極性期間となる正極性制御信号を出力している期間において、正極性期間よりも短い第2の所定期間の間にアーク切れが継続した場合には、制御ステップにより、逆極性制御信号をハイレベルに出力して逆極性期間となるように制御する方法としている。
この方法により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。
以上のように、正極性中にアーク切れが発生し、第2の所定期間T2(例えば、100usec)の間にアーク切れが継続した場合には、逆極性に切り替えることで、アークが再点弧する確率が高くなる。その理由は、第2の所定期間T2は短時間であればあるほど、電極9と母材12との間の空間がアーク雰囲気で保たれた状態が維持されている。これにより、アーク再点弧を試みても、アークが再生しやすいと考えらえる。なお、第2の所定期間T2は、実験的には1msec以内が好ましい値である。
本実施の形態3によれば、アーク切れ発生時にもアーク切れは短時間(例えば、数百usec)で完了し、アークの完全な消弧を防ぐことができる。よって、アーク再生のための高周波の高電圧(例えば12kV)を印加する必要がなく、通信障害が発生しない。また、周辺の電子機器への悪影響も少なく、溶接ビード表面が荒れることもない。
なお、本実施の形態3では、非消耗電極式の交流アーク溶接について説明したが、消耗電極式の交流アーク溶接に適用しても同様の効果を実現することができる。
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4における交流アーク溶接装置41の概略構成を示す図であり、図8は、本発明の実施の形態4における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間と逆極性期間の時間変化を示す図である。図7と図8を用いて、本実施の形態4における非消耗電極式の交流アーク溶接装置について説明する。
本実施の形態4が実施の形態1から3と異なる主な点は、逆極性となるように逆極性制御信号を出力する期間にアーク切れが生じている時間を計時し、アーク切れが、所定時間だけ継続したら極性を切り替えるように制御信号を出力する。その後、アーク切れが、さらに所定時間だけ継続したら、交流アーク溶接装置41において、再度極性を切り替えるように制御信号を出力し、この極性の切り替えを繰り返すようにした点である。
図8において、時点E5は、時点E3から第2の所定時間T2が経過した時点を示しており、時点E6は、時点E5から第1の所定時間T1が経過した時点を示している。
図7において、CPU等で構成される交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6からのアーク切れ信号と、第1の交流周波数設定部7の出力と、第1の所定期間設定部13の出力と、第2の所定期間設定部14の出力と、計時部15の出力に基づいて溶接出力を制御する。
図8において、第1の交流周波数(例えば、70Hz)で通常溶接中の正極性が完了し、逆極性が開始した際に、アークが消弧した時点E1からアーク切れ信号がハイレベルとなる。
計時部15は、逆極性期間中のアーク切れが継続する時間を計時する。そして、交流周波数制御部3は、計時部15が計時した時間が、第1の所定期間T1(例えば、100usec)を経過した時点E3において、正極性制御信号を出力して逆極性が完了するように制御する。
図8は、このように極性を切り替えても、時点E3ではアークが再点弧しなかった例を示している。この場合、アーク切れは継続しており、計時部15は、正極性制御信号を出力している期間中で、時点E3からアーク切れが継続する時間を計時する。そして、計時部15が計時した時間が第2の所定期間T2(例えば、100usec)経過した時点E5において、交流周波数制御部3は、逆極性制御信号を出力して、正極性が完了するように制御する。
図8は、このように再度極性制御信号を切り替えても、時点E5でアークが再点弧しなかった例を示している。この場合、アーク切れは継続しており、計時部15は、逆極性制御信号を出力している期間中で、時点E5からアーク切れが継続する時間を計時する。そして、計時部15が計時した時間が第1の所定期間T1(例えば、100usec)経過した時点E6において、交流周波数制御部3は、正極性制御信号を出力して、逆極性が完了するように制御する。
図8は、逆極性から正逆極性に極性を切り替えた時点E6において、アークが再点弧した例を示している。そして、アークの再点弧後は、通常溶接時の周波数である第1の交流周波数F1で溶接が継続される。
以上のように、アーク切れが発生した場合に、極性制御信号を短時間で切り替えることで、アークが再点弧する確率が高くなる。
本実施の形態4によれば、アーク切れ発生時にもアーク切れは短時間(例えば、数百usec)で完了し、アークの完全な消弧を防ぐことができる。よって、アーク再生のための高周波の高電圧(例えば、12kV)を印加する必要がなく、通信障害が発生しない。また、周辺の電子機器への悪影響も少なく、溶接ビード表面が荒れることもない。
なお、本実施の形態4では、非消耗電極式の交流アーク溶接について説明したが、消耗電極式の交流アーク溶接に適用しても同様の効果を実現することができる。
以上のように、本発明は、アーク切れが発生したとしても、高周波の高電圧を印加することなく、短時間の間にアーク切れを解消し、アーク再生を実現できる。これにより、高周波の高電圧の印加による通信障害が発生せず、また、高周波の高電圧の印加による溶接ビード表面の損傷がない、良好な溶接結果を得ることができる。したがって、交流アーク溶接施工を行う、例えば自動車業界や建設業界といった特にアルミニウム材やマグネシウム材を用いた生産を行う業界における交流アーク溶接方法および交流アーク溶接装置に本発明を適用すれば、産業上有用である。
1,21,31,41 交流アーク溶接装置
2 溶接出力部
3 交流周波数制御部
4 電流検出部
5 電圧検出部
6 アーク切れ検出部
7 第1の交流周波数設定部
8 第2の交流周波数設定部
9 電極
10 溶接トーチ
11 アーク
12 母材
13 第1の所定期間設定部
14 第2の所定期間設定部
15 計時部
16 高電圧発生装置
本発明は、逆極性と正極性を交互に繰り返してアーク溶接を行う交流アーク溶接方法および交流アーク溶接装置に関する。
近年、環境への配慮から、軽量かつリサイクル性に優れたアルミニウム材やマグネシウム材が建造物や車両等の生産に多く利用されており、その接合には交流アーク溶接が多く用いられている。アルミニウム材に対して交流アーク溶接を行う場合、正極性(電極がマイナスとなる。)と逆極性(電極がプラスとなる。)との極性反転の際に、アーク切れが発生することがある。
アーク切れが発生すると作業性が悪化する。また、溶融プールが冷えるため、溶接欠陥が発生する恐れがあり問題となる。そのため、従来から、アーク切れが発生した際に高周波の高電圧を電極と母材との間に印加し、アーク再生を実現する対策が実施されていた。
図9と図10を用いて、従来の交流アーク溶接装置におけるアーク切れ発生時の動作について説明する。図9は、従来の交流アーク溶接装置の概略構成を示す図であり、図10は、従来の交流アーク溶接制御のアーク切れ発生時の溶接制御信号の時間変化を示す図である。
図9のように構成された交流アーク溶接装置について、図10を用いてその動作を説明する。なお、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う非消耗電極式の交流アーク溶接装置を例にして説明する。
図9において、交流アーク溶接装置1は、溶接出力を行う溶接出力部2と、交流周波数の制御を行う交流周波数制御部3と、溶接電流の検出を行う電流検出部4と、電流検出部4の検出結果に基づいてアーク切れの検出を行うアーク切れ検出部6と、電極9と母材12との間に高電圧を印加する高電圧発生装置16を有している。なお、電極9は溶接トーチ10に設けられており、溶接出力部2により電極9と母材12との間に溶接出力を供給する。これにより、アーク11が発生して溶接を行う。
図10において、時点E1はアークが消弧した時点を示しており、時点E2はアークが再点弧した時点を示している。
図9において、交流アーク溶接装置1の溶接出力部2は、交流アーク溶接装置1の外部から給電される商用電力(例えば、3相200V等)を入力とし、交流周波数制御部3からの出力に基づき1次インバータ動作及び2次インバータ動作を行う。これにより、正極性と逆極性とを適正に切り替えられて、溶接に適した溶接電圧や溶接電流が出力される。
ここで、逆極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、母材12から電極9へ向かう方向であって、電極9がプラスであり、母材12がマイナスの場合をいう。また、正極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、電極9から母材12へ向かう方向であって、電極9がマイナスであり、母材12がプラスの場合をいう。
CT(Current Transformer)等で構成される電流検出部4は、溶接電流を検出し、アーク切れ発生の際は、アーク切れ信号をハイとし、アーク発生中はアーク切れ信号をローとする。
CPU等で構成されるアーク切れ検出部6は、電流検出部4からの電流検出信号を入力とし、アーク切れを判定する。
CPU等で構成される交流周波数制御部3は、予め設定される交流周波数で溶接出力を制御し、交流周波数に基づき設定される正極性制御信号と逆極性制御信号を溶接出力部2に出力する。
溶接出力部2は、正極性制御信号と逆極性制御信号に基づき、IGBT等のスイッチ動作により、正極性制御信号がハイのときは正極性期間として動作し、電極9から母材12へ電子が移動する方向に出力極性を切り替える。一方、逆極性制御信号がハイのときは逆極性期間として動作し、母材12から電極9へ電子が移動する方向に出力極性を切り替える。
溶接出力部2が出力する溶接電流や溶接電圧は、溶接トーチ10に給電され、電極9の先端と母材12との間にアーク11を発生し、交流アーク溶接が行われる。
高電圧発生装置16は、アーク切れ検出部6からのアーク切れ信号に基づき、アーク切れ信号がハイの時に高周波の高電圧(通常、12kV)を電極9と母材12との間に印加する。アーク切れ信号がローの時には、高周波の高電圧の印加を停止する。
図10に示すように、通常溶接中に、アークが消弧した時点E1で、アーク切れ信号はハイとなり、高電圧発生装置16は、電極9と母材12との間にアーク再生電圧である高周波の高電圧(例えば、12kV)を印加する。
高周波の高電圧が電極9と母材12との間に印加されることで、電極9と母材12との間の絶縁が破壊され、アークが再生する。そして、アークが再生した時点E2において、高電圧発生装置16は、高周波の高電圧の印加を停止する。
アーク切れ期間中およびアーク中において、交流周波数制御部3は、通常の溶接中の交流周波数で動作している。
上述のように、従来の、交流アーク溶接装置1を用いた交流アーク溶接方法は、アーク切れ発生時に高周波の高電圧を印加することで、アークを再生していた(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、従来の交流アーク溶接方法は、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のために高周波の高電圧を印加するため、溶接ビード表面が損傷する、または、高周波の高電圧に起因する通信障害が発生するといった課題を有していた。
本発明は、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる交流アーク溶接方法および交流アーク溶接装置を提供する。
本発明の交流アーク溶接方法は、第1の交流周波数で逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う交流アーク溶接方法である。そして、本発明の交流アーク溶接方法は、溶接中にアーク切れを検出する検出ステップと、上記検出ステップにより上記アーク切れを検出すると、上記第1の交流周波数に対応した第1の周期よりも短い期間に、正極性制御信号または逆極性制御信号をハイレベルに出力してアークを再点弧する制御ステップと、を備えた方法からなる。
この方法により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。これにより、溶接ビード表面の損傷を防ぎ、高周波の高電圧による通信障害が発生するといった問題を発生させることなく作業を行うことができる。
また、本発明の交流アーク溶接装置は、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う交流アーク溶接装置であって、第1の交流周波数設定部と、出力検出部と、アーク切れ検出部と、交流周波数制御部と、を備えている。ここで、第1の交流周波数設定部は、定常溶接時の交流周波数である第1の交流周波数を設定する。出力検出部は、溶接電流または溶接電圧を検出する。アーク切れ検出部は、出力検出部の検出結果に基づいて、アーク切れを検出する。交流周波数制御部は、アーク切れ検出部の検出結果に基づいて、交流周波数を制御する。そして、本発明の交流アーク溶接装置は、アーク切れを検出すると、第1の交流周波数に対応した第1の周期よりも短い期間に、正極性制御信号または逆極性制御信号をハイレベルに出力してアークを再点弧する構成からなる。
この構成により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。これにより、溶接ビード表面の損傷を防ぎ、高周波の高電圧による通信障害が発生するといった問題を発生させることなく作業を行うことができる。
本発明の実施の形態1における交流アーク溶接装置の概略構成を示す図
本発明の実施の形態1における交流アーク溶接の制御信号の交流周波数の時間変化を示す図
本発明の実施の形態2における交流アーク溶接装置の概略構成を示す図
本発明の実施の形態2における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間および逆極性期間の時間変化を示す図
本発明の実施の形態3における交流アーク溶接装置の概略構成を示す図
本発明の実施の形態3における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間および逆極性期間の時間変化を示す図
本発明の実施の形態4における交流アーク溶接装置の概略構成を示す図
本発明の実施の形態4における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間および逆極性期間の時間変化を示す図
従来の交流アーク溶接装置の概略構成を示す図
従来の交流アーク溶接制御のアーク切れ発生時の溶接制御の時間変化を示す図
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同じ構成要素については同じ符号を付しているので説明を省略する場合がある。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における交流アーク溶接装置の概略構成を示す図であり、図2は、本発明の実施の形態1における交流アーク溶接の制御信号の交流周波数の時間変化を示す図である。なお、図2は、溶接電流、正極性制御信号、逆極性制御信号およびアーク切れ信号の振幅の時間変化を示している。
図1のように構成された交流アーク溶接装置について、図2を用いてその動作を説明する。以下、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う非消耗電極式の交流アーク溶接装置を例にして説明する。
図1に示すように、交流アーク溶接装置1は、溶接出力部2と、交流周波数制御部3と、電流検出部4と、電圧検出部5と、アーク切れ検出部6と、第1の交流周波数設定部7と、第2の交流周波数設定部8と、を備えている。ここで、溶接出力部2は、溶接出力を出力する。交流周波数制御部3は、交流周波数の制御を行う。電流検出部4は、溶接電流を検出する。電圧検出部5は、溶接電圧を検出する。アーク切れ検出部6は、電流検出部4の出力あるいは電圧検出部5の出力に基づいてアーク切れを検出する。第1の交流周波数設定部7は、第1の交流周波数を設定する。第2の交流周波数設定部8は、第2の交流周波数を設定する。そして、本実施の形態1の交流アーク溶接装置1において、溶接出力部2により、溶接トーチ10に設けられた電極9と母材12との間に溶接出力を印加することにより、アーク11が発生する。
また、図2に示すように、期間P1において、F1は、正極性制御信号および逆極性制御信号の第1の交流周波数を示しており、F2は、正極性制御信号および逆極性制御信号の第2の交流周波数を示している。時点E1はアークが消弧した時点を示しており、時点E2はアークが再点弧した時点を示している。
図1において、交流アーク溶接装置1の溶接出力部2は、外部から給電される商用電力(3相200V等)を入力とし、交流周波数制御部3からの出力に基づき、1次インバータ動作及び2次インバータ動作により正極性と逆極性を適正に切り替え、溶接に適した溶接電圧や溶接電流を出力する。
なお、溶接出力部2を構成する、図示しない1次インバータは、通常、PWM(Pulse Width Modulation)動作やフェーズシフト動作により駆動される。また、1次インバータは、図示しないIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)や、1次整流ダイオードや、平滑用電解コンデンサや、電力変換用変圧器等で構成される。
また、溶接出力部2を構成する、図示しない2次インバータは、通常、図示しないIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)で構成され、溶接電圧や溶接電流の極性を切り替える。
ここで、逆極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、母材12から電極9へ移動する方向であり、電極9がプラス側で母材12がマイナス側の場合をいう。また、正極性とは、アークプラズマ中の電子の移動方向が、電極9から母材12へ移動する方向であり、電極9がマイナス側で母材12がプラス側の場合をいう。
出力を検出するCT(Current Transformer)等で構成される電流検出部4は、溶接電流を検出する。また、出力を検出する電圧検出部5は、溶接電圧を検出する。
CPU等で構成されるアーク切れ検出部6は、電流検出部4からの電流検出信号を入力とし、アーク切れ中に予め設定される電流の検出レベル(例えば、1A)以下となった場合には、アーク切れと判定し、アーク切れ信号をアーク切れ判定レベル(ハイレベル)とする。また、アーク発生中に予め設定される、電流の検出レベル(例えば、3A)以上に達した場合は、アーク切れ信号をアーク判定レベル(ローレベル)とする。
なお、アーク切れ検出部6は、電圧検出部5からの電圧検出信号を入力とし、アーク切れ時に発生するアーク切れ電圧(例えば、60V)以上となった場合にはアーク切れと判定する。そして、アーク切れ信号をアーク切れ判定レベル(ハイレベル)とする。また、アーク発生中に予め設定される電圧の検出レベル(例えば、50V)以下となった場合は、アークが発生しているとしてアーク切れ信号をアーク判定レベル(ローレベル)としてもよい。
CPU等で構成される第1の交流周波数設定部7は、定常溶接中の交流アーク周波数である第1の交流周波数F1(例えば、70Hz)を出力設定する。CPU等で構成される第2の交流周波数設定部8は、第1の交流周波数よりも高い第2の交流周波数F2(例えば、400Hz)を出力設定する。
CPU等で構成される交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6からのアーク切れ信号と、第1の交流周波数設定部7の出力と、第2の交流周波数設定部8の出力に基づいて溶接出力を制御する。交流周波数制御部3は、交流周波数に基づき設定される正極性制御信号と逆極性制御信号を溶接出力部2に出力する。
正極性期間と逆極性期間との比率は、予め設定される(例えば、逆極性期間は交流周期の30%等)。そして、この比率は、一般的に、クリーニング幅と呼ばれる。
溶接出力部2は、交流周波数制御部3からの正極性制御信号と逆極性制御信号に基づき、IGBT等のスイッチ動作を行う。正極性制御信号がハイレベルのときは、正極性期間となるように出力を行い、出力極性が、電極9から母材12へ電子が移動する方向になるように切り替える。一方、逆極性制御信号がハイレベルのときは、逆極性期間となるように出力を行い、出力極性が母材12から電極9へ電子が移動する方向になるように切り替える。
溶接出力部2が出力する溶接電流や溶接電圧は、溶接トーチ10に給電され、タングステン等で構成される電極9の先端9aとアルミニウム材やマグネシウム材等で構成される被溶接物である母材12との間に印加される。これにより、アーク11が発生し、交流アーク溶接が行われる。
交流アーク溶接において、極性の切り替り時にアーク切れが発生しやすい。特に、正極性期間から逆極性期間へ極性が切り替る時にアーク切れが発生しやすい。そこで、アーク切れを検出すると、図2に示すように、第1の交流周波数F1に対応した第1の周期よりも短い期間に、正極性制御信号および逆極性制御信号のうちの逆極性制御信号をハイレベルに出力する。さらに、正極性制御信号をハイレベルに出力し、正極性制御信号および逆極性制御信号を交互にハイレベルに出力することを繰り返すと、アークが再点弧する。そして、アークが再点弧した後に、正極性制御信号および逆極性制御信号の交流周波数が元の第1の交流周波数F1に戻されて継続して交流アーク溶接が行われる。
すなわち、本発明の交流アーク溶接装置1は、逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行うものである。そして、本発明の交流アーク溶接装置1は、第1の交流周波数設定部7と、電流検出部4および電圧検出部5のうちの少なくともいずれかを含む出力検出部と、アーク切れ検出部6と、交流周波数制御部3と、を備えている。ここで、第1の交流周波数設定部7は、定常溶接時の交流周波数である第1の交流周波数F1を設定する。出力検出部は、溶接電流または溶接電圧を検出する。アーク切れ検出部6は、出力検出部の検出結果に基づいて、アーク切れを検出する。交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6の検出結果に基づいて、交流周波数を制御する。そして、交流アーク溶接装置1は、アーク切れを検出すると、第1の交流周波数F1に対応した第1の周期よりも短い期間に、正極性制御信号または逆極性制御信号をハイレベルに出力してアークを再点弧する構成としている。
この構成により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。これにより、溶接ビード表面の損傷を防ぎ、高周波の高電圧による通信障害が発生するといった問題を発生させることなく作業を行うことができる。
次に、図2を用いて、アーク切れが発生した際の動作とアークの再点弧について具体的に説明する。
図2に示すように、通常溶接中に第1の交流周波数F1(例えば、70Hz)で交流溶接を行っている。正極性期間から逆極性期間に極性が切り替る時に、時点E1でアークが消弧すると、アークが消弧した時点E1で、アーク切れ信号はハイレベルとなる。この場合、交流周波数制御部3は、通常溶接中の交流周波数である第1の交流周波数F1(例えば、70Hz)から、第1の交流周波数F1より高い第2の交流周波数F2(例えば、400Hz)へ交流周波数を切り替える指示を溶接出力部2に出力する。これにより、溶接出力部2により第2の交流周波数F2で溶接が行われる。
このように、アーク切れが継続する間は、交流周波数は、第2の交流周波数F2で行われる。したがって、正極性制御信号および逆極性制御信号は、第2の交流周波数F2で交互にハイレベルとローレベルの信号を出力する。そして、例えば、時点E2でアークが再点弧すると、アークが再点弧した時点E2において、アーク切れ信号はローレベルとなる。この場合、交流周波数制御部3は、第2の交流周波数F2から通常溶接中の交流周波数である第1の交流周波数F1に切り替えるように溶接出力部2に指示する。これにより、第1の交流周波数F1で溶接が行われるようになり、溶接が継続される。
すなわち、本発明の交流アーク溶接装置1は、第1の交流周波数F1よりも高い第2の交流周波数F2を設定するための第2の交流周波数設定部8をさらに備えている。そして、交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6でアーク切れを検出すると、交流周波数を第1の交流周波数F1から第2の交流周波数F2に切り替えて溶接を行う構成としている。この構成により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。
以上のように、溶接中にアーク切れを検出した時点で、通常溶接中の第1の交流周波数(例えば、70Hz)よりも高い第2の交流周波数(例えば、400Hz)に切り替えて溶接を行う。これにより、アークが再点弧する確率が飛躍的に高くなり、溶接を継続することが可能となる。
これは、アーク切れ直後は、電極9と母材12との空間がアーク雰囲気中にあり、通常溶接中に比べて短時間で極性切り替え動作を繰り返すことで、アークが再生しやすい状況になっているためであると考えられる。
そして、アークが再生するのでアーク切れは短時間(数百usec)で終了し、アークの完全な消弧を防ぐことができる。従って、従来技術のように、アーク再生のために、高電圧発生装置から高周波の高電圧(例えば、12kV)を印加する必要がない。故に、高電圧を使う必要がなく、通常溶接中の電圧でアークが再生するので、通信障害が発生することがなく、周辺の電子機器への悪影響も少ない。また、高電圧が母材12に印加されて、母材12の表面に影響を与えることがないので、溶接ビード表面が荒れることもない。
なお、本実施の形態1では、非消耗電極式交流アーク溶接について説明したが、消耗電極式の交流アーク溶接に適用しても同様の効果を実現することができる。
すなわち、本発明の交流アーク溶接方法は、第1の交流周波数F1で逆極性期間と正極性期間とを交互に繰り返して溶接を行う交流アーク溶接方法であって、検出ステップと、制御ステップと、を備えている。ここで、検出ステップは、溶接中にアーク切れを検出するステップである。制御ステップは、検出ステップによりアーク切れを検出すると、第1の交流周波数F1に対応した第1の周期よりも短い期間に、正極性制御信号または逆極性制御信号をハイレベルに出力してアークを再点弧するステップである。
この方法により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。これにより、溶接ビード表面の損傷を防ぎ、高周波の高電圧による通信障害が発生するといった問題を発生させることなく作業を行うことができる。
また、制御ステップにおいて、第1の交流周波数F1よりも高い第2の交流周波数F2で溶接を行う方法としてもよい。
この方法により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなく、簡単な回路およびシステムの構成でアークの再点弧を実現できる。
また、第2の交流周波数F2で溶接を行い、アークが発生したことを検出すると、第2の交流周波数F2から第1の交流周波数F1に戻して溶接を行う方法としてもよい。
この方法により、アーク切れが発生しても、元の溶接条件で継続して円滑にアーク溶接を行うことができる。
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2における交流アーク溶接装置21の概略構成を示す図であり、図4は、本発明の実施の形態2における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間および逆極性期間の時間変化を示す図である。図3と図4を用いて、本実施の形態2における非消耗電極式の交流アーク溶接装置21について説明する。
本実施の形態2が実施の形態1と異なる主な点は、アーク切れが生じている時間を計時し、アーク切れが、所定時間だけ継続したら、極性を切り替えるように制御信号を出力するようにした点である。
図3において、交流アーク溶接装置21は、実施の形態1の構成要素をほぼ備えた上に、第1の所定期間設定部13と、時間を計時する計時部15と、を備えている。また、図4において、時点E3は、アーク切れが発生した時点E1から第1の所定時間T1が経過した時点を示している。
図3において、CPU等で構成される第1の所定期間設定部13は、通常溶接中の逆極性期間よりも短い第1の所定期間(例えば、100usec)を設定するためのものである。CPU等で構成される計時部15は、逆極性期間となるように逆極性制御信号を出力している期間において、アーク切れが発生してからの時間を計時する。CPU等で構成される交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6からのアーク切れ信号と、第1の交流周波数設定部7と、第1の所定期間設定部13の出力と、計時部15の出力に基づいて溶接出力部2に制御信号を送る。これにより、溶接出力が制御される。
図4において、第1の交流周波数F1による通常溶接中に正極性期間が完了し、逆極性期間に切り替えた際に、時点E1でアークが消弧すると、時点E1からアーク切れ信号がハイレベルとなる。アーク切れ信号がハイレベルとなると、計時部15は、逆極性期間中のアーク切れが継続する時間を計時する。そして、計時部15が計時した時間が、通常溶接中の逆極性期間よりも短い第1の所定期間T1が経過した時点である時点E3において、交流周波数制御部3は、溶接出力部2に正極性制御信号を出力し、逆極性期間が完了するように制御する。
なお、逆極性期間は、例えば、第1の交流周波数が70Hzであり、逆極性期間の比率が交流周期の30%である場合、4.28msecである。また、第1の所定期間T1は、例えば,100usecとする。
図4は、逆極性期間から正極性期間に極性を切り替えた時点E3においてアークが再点弧した例を示している。そして、アークの再点弧後は、通常溶接時の周波数である第1の交流周波数F1で溶接が継続される。
すなわち、本発明の交流アーク溶接装置21は、逆極性期間よりも短い第1の所定期間を設定する第1の所定期間設定部13とアーク切れの期間を計時する計時部15と、をさらに備えている。そして、交流アーク溶接装置21の交流周波数制御部3は、逆極性期間となる逆極性制御信号を出力している期間において、第1の所定期間の間にアーク切れが継続した場合には、正極性制御信号を出力して正極性期間となるように制御し溶接を行う構成としている。
この構成により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。
また、本発明の交流アーク溶接方法は、逆極性期間となる逆極性制御信号を出力している期間において、逆極性期間よりも短い第1の所定期間の間にアーク切れが継続した場合には、制御ステップにより、正極性制御信号をハイレベルに出力して正極性期間となるように制御する方法としている。
この方法により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。
以上のように、逆極性中にアーク切れが発生し、第1の所定期間T1(例えば、100usec)の間にアーク切れが継続した場合には、正極性に切り替えることで、アークが再点弧する確率が高くなる。その理由は、第1の所定期間T1は短時間であればあるほど、電極9と母材12との間の空間がアーク雰囲気で保たれた状態が維持されている。これにより、アーク再点弧を試みても、アークが再生しやすいと考えらえる。なお、第1の所定の期間T1は、実験的には1msec以内が好ましい値である。
本実施の形態2によれば、アーク切れ発生時にもアーク切れは短時間(例えば、数百usec)で完了し、アークの完全な消弧を防ぐことができる。よって、アーク再生のための高周波の高電圧(例えば、12kV)を印加する必要がなく、通信障害が発生しない。また、周辺の電子機器への悪影響も少なく、溶接ビード表面が荒れることもない。
なお、本実施の形態2では、非消耗電極式の交流アーク溶接について説明したが、消耗電極式の交流アーク溶接に適用しても同様の効果を実現することができる。
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3における交流アーク溶接装置31の概略構成を示す図であり、図6は、本発明の実施の形態3における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間および逆極性期間の時間変化を示す図である。図5と図6を用いて、本実施の形態3における非消耗電極式の交流アーク溶接装置について説明する。
本実施の形態3が実施の形態2と異なる主な点は、正極性となるように正極性制御信号を出力する期間にアーク切れが生じている時間を計時し、アーク切れが所定時間だけ継続したら極性を切り替えるように、制御信号を出力するようにした点である。
図5において、交流アーク溶接装置31は、実施の形態2の構成要素をほぼ備えた上に、第2の所定期間設定部14を備えている。また、図6において、時点E4は、アーク切れが発生した時点E1から第2の所定時間T2が経過した時点を示している。
図5において、CPU等で構成される第2の所定期間設定部14は、通常溶接中の正極性期間よりも短い第2の所定期間T2(例えば、100usec)を設定するためのものである。CPU等で構成される計時部15は、正極性期間となるように正極性制御信号を出力している期間において、アーク切れが発生してからの時間を計時する。CPU等で構成される交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6からのアーク切れ信号と、第1の交流周波数設定部7と、第2の所定期間設定部14の出力と、計時部15の出力に基づいて溶接出力部2に制御信号を送る。これにより、溶接出力が制御される。
図6において、第1の交流周波数F1による通常溶接中に逆極性期間が完了し、正極性期間に切り替えた際に、時点E1でアークが消弧すると、時点E1からアーク切れ信号がハイレベルとなる。アーク切れ信号がハイレベルとなると、計時部15は、正極性期間中のアーク切れが継続する時間を計時する。そして、時点E4において、交流周波数制御部3は、溶接出力部2に逆極性制御信号を出力し、正極性期間が完了するように制御する。ここで、時点E4は、計時部15が計時した時間が、通常溶接中の正極性期間よりも短い第2の所定期間T2が経過した時点である。
なお、正極性期間は、例えば、第1の交流周波数F1が70Hzであり、逆極性期間の比率が交流周期の30%である場合、10msecである。また、第2の所定期間T2は、例えば、100usecとする。
図6は、正極性期間から逆極性期間に極性の切り替えた時点E4においてアークが再点弧した例を示している。そして、アークの再点弧後は、通常溶接時の周波数である第1の交流周波数F1で溶接が継続される。
すなわち、本発明の交流アーク溶接装置31は、正極性期間よりも短い第2の所定期間を設定する第2の所定期間設定部14と、アーク切れの期間を計時する計時部15と、を備えている。そして、交流アーク溶接装置31の交流周波数制御部3は、正極性期間となる正極性制御信号を出力している期間において、第2の所定期間の間にアーク切れが継続した場合には、逆極性制御信号を出力して逆極性期間となるように制御し溶接を行う構成としている。
この構成により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。
また、本発明の交流アーク溶接方法は、正極性期間となる正極性制御信号を出力している期間において、正極性期間よりも短い第2の所定期間の間にアーク切れが継続した場合には、制御ステップにより、逆極性制御信号をハイレベルに出力して逆極性期間となるように制御する方法としている。
この方法により、アーク切れが発生した際に、アーク再点弧のための高周波の高電圧を印加することなくアークの再点弧を実現できる。
以上のように、正極性中にアーク切れが発生し、第2の所定期間T2(例えば、100usec)の間にアーク切れが継続した場合には、逆極性に切り替えることで、アークが再点弧する確率が高くなる。その理由は、第2の所定期間T2は短時間であればあるほど、電極9と母材12との間の空間がアーク雰囲気で保たれた状態が維持されている。これにより、アーク再点弧を試みても、アークが再生しやすいと考えらえる。なお、第2の所定期間T2は、実験的には1msec以内が好ましい値である。
本実施の形態3によれば、アーク切れ発生時にもアーク切れは短時間(例えば、数百usec)で完了し、アークの完全な消弧を防ぐことができる。よって、アーク再生のための高周波の高電圧(例えば12kV)を印加する必要がなく、通信障害が発生しない。また、周辺の電子機器への悪影響も少なく、溶接ビード表面が荒れることもない。
なお、本実施の形態3では、非消耗電極式の交流アーク溶接について説明したが、消耗電極式の交流アーク溶接に適用しても同様の効果を実現することができる。
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4における交流アーク溶接装置41の概略構成を示す図であり、図8は、本発明の実施の形態4における交流アーク溶接の制御信号の正極性期間と逆極性期間の時間変化を示す図である。図7と図8を用いて、本実施の形態4における非消耗電極式の交流アーク溶接装置について説明する。
本実施の形態4が実施の形態1から3と異なる主な点は、逆極性となるように逆極性制御信号を出力する期間にアーク切れが生じている時間を計時し、アーク切れが、所定時間だけ継続したら極性を切り替えるように制御信号を出力する。その後、アーク切れが、さらに所定時間だけ継続したら、交流アーク溶接装置41において、再度極性を切り替えるように制御信号を出力し、この極性の切り替えを繰り返すようにした点である。
図8において、時点E5は、時点E3から第2の所定時間T2が経過した時点を示しており、時点E6は、時点E5から第1の所定時間T1が経過した時点を示している。
図7において、CPU等で構成される交流周波数制御部3は、アーク切れ検出部6からのアーク切れ信号と、第1の交流周波数設定部7の出力と、第1の所定期間設定部13の出力と、第2の所定期間設定部14の出力と、計時部15の出力に基づいて溶接出力を制御する。
図8において、第1の交流周波数(例えば、70Hz)で通常溶接中の正極性が完了し、逆極性が開始した際に、アークが消弧した時点E1からアーク切れ信号がハイレベルとなる。
計時部15は、逆極性期間中のアーク切れが継続する時間を計時する。そして、交流周波数制御部3は、計時部15が計時した時間が、第1の所定期間T1(例えば、100usec)を経過した時点E3において、正極性制御信号を出力して逆極性が完了するように制御する。
図8は、このように極性を切り替えても、時点E3ではアークが再点弧しなかった例を示している。この場合、アーク切れは継続しており、計時部15は、正極性制御信号を出力している期間中で、時点E3からアーク切れが継続する時間を計時する。そして、計時部15が計時した時間が第2の所定期間T2(例えば、100usec)経過した時点E5において、交流周波数制御部3は、逆極性制御信号を出力して、正極性が完了するように制御する。
図8は、このように再度極性制御信号を切り替えても、時点E5でアークが再点弧しなかった例を示している。この場合、アーク切れは継続しており、計時部15は、逆極性制御信号を出力している期間中で、時点E5からアーク切れが継続する時間を計時する。そして、計時部15が計時した時間が第1の所定期間T1(例えば、100usec)経過した時点E6において、交流周波数制御部3は、正極性制御信号を出力して、逆極性が完了するように制御する。
図8は、逆極性から正逆極性に極性を切り替えた時点E6において、アークが再点弧した例を示している。そして、アークの再点弧後は、通常溶接時の周波数である第1の交流周波数F1で溶接が継続される。
以上のように、アーク切れが発生した場合に、極性制御信号を短時間で切り替えることで、アークが再点弧する確率が高くなる。
本実施の形態4によれば、アーク切れ発生時にもアーク切れは短時間(例えば、数百usec)で完了し、アークの完全な消弧を防ぐことができる。よって、アーク再生のための高周波の高電圧(例えば、12kV)を印加する必要がなく、通信障害が発生しない。また、周辺の電子機器への悪影響も少なく、溶接ビード表面が荒れることもない。
なお、本実施の形態4では、非消耗電極式の交流アーク溶接について説明したが、消耗電極式の交流アーク溶接に適用しても同様の効果を実現することができる。
以上のように、本発明は、アーク切れが発生したとしても、高周波の高電圧を印加することなく、短時間の間にアーク切れを解消し、アーク再生を実現できる。これにより、高周波の高電圧の印加による通信障害が発生せず、また、高周波の高電圧の印加による溶接ビード表面の損傷がない、良好な溶接結果を得ることができる。したがって、交流アーク溶接施工を行う、例えば自動車業界や建設業界といった特にアルミニウム材やマグネシウム材を用いた生産を行う業界における交流アーク溶接方法および交流アーク溶接装置に本発明を適用すれば、産業上有用である。
1,21,31,41 交流アーク溶接装置
2 溶接出力部
3 交流周波数制御部
4 電流検出部
5 電圧検出部
6 アーク切れ検出部
7 第1の交流周波数設定部
8 第2の交流周波数設定部
9 電極
10 溶接トーチ
11 アーク
12 母材
13 第1の所定期間設定部
14 第2の所定期間設定部
15 計時部
16 高電圧発生装置