本発明は、光照射によって半導体基体内で発生させた光誘起キャリアの実効ライフタイムを測定する光誘起キャリアライフタイム測定方法、およびこの測定方法を行うための光誘起キャリアライフタイム測定装置に関する。また本発明は、実効ライフタイムから半導体基体の光入射効率を得るための光入射効率測定方法、およびこの測定方法を行うための光入射効率測定装置に関する。
半導体基体の内部欠陥を評価する指標の1つとして、光誘起キャリアライフタイムが用いられている。光誘起キャリアライフタイムとは、光照射によって半導体基体中に発生させた光誘起キャリア(少数キャリア)のライフタイムである。
光誘起キャリアライフタイムを測定するための方法および装置の第1例として、μ−PCD(microwave photoconductive decay)法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この方法では、マイクロ波を半導体基体に照射した状態で、レーザ光のパルス照射を極めて短時間行う。このとき、半導体基体に照射しているマイクロ波の反射率が、光パルスによって誘起されたキャリア密度によって変化する。このため、この反射率の時間変化を測定することにより、半導体基体における光誘起キャリアの実効的なライフタイム(以下、実効ライフタイムと記す)が得られる。
また、半導体基体の光誘起キャリアライフタイムを測定する方法および装置の第2例として、QSSPC(quasi steady state photoconductivity)法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。この方法では、半導体基体にインダクタンスコイルを直面して配置し、RF周波を印加する。そして、半導体基体にレーザ光のパルス照射を極めて短時間行う。このとき、光パルスによって誘起されたキャリアによって、RF周波数の電磁波が反射される。この反射波の時間変化を、コイルに流れる電流の変化として測定することにより、半導体基体における光誘起キャリアの実効ライフタイムが得られる。
また、半導体基体の光誘起キャリアライフタイムを測定する方法および装置の第3例として、マイクロ波光干渉吸収法が知られている(例えば、非特許文献3参照)。この方法では、導波管で形成したマイクロ波干渉計に半導体基体を挿入し、この半導体基体に対してマイクロ波を照射した状態で連続光を照射する。この際、連続光の照射によって誘起されたキャリアによって、マイクロ波が吸収されるため、マイクロ波の透過率の減少を測定することによって光誘起キャリアの実効ライフタイムが得られる。
J. M. Borrego, R. J. Gutmann, N. Jensen, and O. Paz: Solid-Sate Electron. 30 (1987) 195.
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T. SAMESHIMA, H. HAYASAKA, and T. HABA, Jpn. J.Appl. Phys. 48 (2009) 021204-1-6.
上述の第1例で示したμ−PCD法および第2例で示したQSSPC法は、強い光パルスを半導体基体に照射して、半導体基体中に電子およびホールなどの光誘起キャリアを発生させ、この発生した光誘起キャリアの時間減衰率を測定する方法である。この方法は、簡便であるため広く使用されている。
しかしながらこれらの方法は、1回の光パルスで発生させた光誘起キャリアの減衰を、マイクロ波または電磁波の反射率の時間変化として測定する方法であるため、測定の精度を保つには高密度に光誘起キャリアを生成する必要がある。したがって、光誘起キャリアが低密度である場合においての実効ライフタイムを得ることが困難であった。
また以上の方法を実施するために開発されている測定システムでは、マイクロ波またはRF電場の試料への入射率の特定、および試料中で発生したキャリアによるマイクロ波の吸収やRF電場の吸収を解析することができない。このため、測定で得られた信号からキャリア密度を算出することができなかった。したがって、精度の高い実効ライフタイムを得ることができなかった。
一方、第3例として上述したマイクロ波光干渉吸収法では、半導体基体に連続光を照射して発生させた光誘起キャリアによるマイクロ波の透過率の変化を測定する方法であって、マイクロ波の透過率はキャリア密度に依存している。このため、1×1011cm-2程度の低密度の光誘起キャリアの検出が可能である。
つまり、測定されたマイクロ波の透過率から得られた光誘起キャリアのキャリア密度をnとするとき、実効ライフタイムτeffは、入射光強度I、光子エネルギーhv、試料表面反射率rを用いて下記式(1)で与えられる。
τeff=nhv/(1−r)I・・・(1)
式(1)からも明らかなように、精密なキャリア密度の測定は、精度良い実効ライフタイムの測定を可能にする。したがって、マイクロ波光干渉吸収法を用いることにより、2μsの小さい実効ライフタイムを得ることが可能である。
しかしながら、上記式(1)からもわかるように、上述したマイクロ波光干渉吸収法では、半導体基体の表面の試料表面反射率rが予め求められていなければならない。このため、例えばテクスチャ構造を有するソーラーセルのような半導体基板の場合、試料表面反射率rを決定することはできない。また入射光強度Iも、検出器の信号−光強度変換特性の任意性が残る。
そこで本発明は、試料となる半導体基体の表面状態によらずに、当該半導体基体の光誘起キャリアの実効ライフタイムを高精度に得ることが可能な光誘起キャリアライフタイム測定方法を提供することを目的とする。また本発明は、この測定方法を実現するための光誘起キャリアライフタイム測定装置を提供することを目的としている。さらに本発明は、この測定方法によって得られた実効ライフタイムから試料に対する光入射効率を得ることが可能な光入射効率測定方法を提供すること、およびこの方法を行う測定装置を提供することを目的としている。
このような目的を達成するための本発明の光誘起キャリアライフタイム測定方法は、次の手順で行うことを特徴としている。先ず、半導体基体に対して周期的に誘起光をパルス照射すると共に、当該半導体基体にマイクロ波を照射する。この状態で、半導体基体を透過するかまたは当該半導体基体で反射した前記マイクロ波を検出する。次いで、誘起光のパルス照射に際しての照射時間T1および非照射時間T2と、検出によって得られたマイクロ波強度の積分値とに基づいて、誘起光によって半導体基体に発生した光誘起キャリアの実効ライフタイムを得る。
また本発明の光入射効率測定方法は、以上のようにして得られた実効ライフタイムを用いて、下記式(2)から光入射効率(1−r)を求めることを特徴としている。
ただし式(2)中、rは表面反射率、nは光誘起キャリア密度、Gは光強度(フォトン1個のエネルギー)である。
このような本発明の光誘起キャリアライフタイム測定方法および光入射効率測定方法によれば、半導体基体に対して誘起光を周期的にパルス照射した状態で、この半導体基体を透過するかまたは半導体基体で反射したマイクロ波を検出している。このため、誘起光の照射によって半導体基体内に発生した光誘起キャリアが低密度であっても、周期的な複数回のパルス照射毎に検出したマイクロ波強度の積分値を得ることにより、感度の高い測定結果を得ることができる。したがって、微弱な誘起光の照射であっても、感度の高い測定結果を得ることができる。さらに、照射時間T1および非照射時間T2を変化させて、誘起光を複数回にわたって周期的にパルス照射することで、T1,T2の変化に対するマイクロ波検出強度の積分値の変化が得られ、この変化からもキャリア減衰率を知ることができる。このため、測定対象である半導体基体の表面反射率等の情報を必要とすることなく、光誘起キャリアの実効ライフタイムが得られる。
また本発明は、上述した本発明の光誘起キャリアライフタイム測定方法を行うための光誘起キャリアライフタイム測定装置でもある。この光誘起キャリアライフタイム測定装置は、光照射光源、マイクロ波発生源、検出部、および演算部を備えている。光照射光源は、試料に光誘起キャリア発生させるための誘起光を照射する。マイクロ波発生源は、試料に照射するマイクロ波を発生する。検出部は、試料を透過するかまたは当該試料で反射したマイクロ波を検出する。演算部は、検出部で検出したマイクロ波の強度に基づいて光誘起キャリアの実効ライフタイムを算出する。このうち光照射光源は、誘起光を周期的にパルス照射するものであることが特徴的である。
さらに本発明は、上述した本発明の光入射効率測定方法を行うための光入射効率測定装置でもある。この光入射効率測定装置は、上述した光誘起キャリアライフタイム測定装置における演算部が、算出した実効ライフタイムに基づいて、さらに光入射効率を算出するものであることを特徴としている。
以上説明したように本発明によれば、試料の表面反射率などの情報を必要とすることなく、微弱な誘起光の照射であっても感度の高いマイクロ波の検出結果に基づいて実効ライフタイムを得ることが可能である。この結果、例えばテクスチャ構造を有するソーラーセルのような半導体基体であっても、高精度に光誘起キャリアの実効ライフタイムを得ることが可能になる。
本発明の第1実施形態の光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率の測定装置の概略構成図である。
本発明の第2実施形態の光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率の測定装置の概略構成図である。
本発明の第3実施形態を説明する図であり、Aは、光照射光源からの周期的な光照射の例を示す図である。Bは、マイクロ波発生源からの周期的なマイクロ波入射の例を示す図である。Cは、周期的に光照射を行った場合のキャリア密度の時間変化の例を示す図である。
式(5)を用いて実効ライフタイムτeff毎に算出したキャリア密度の比<n>/n0とT1との関係を示す図である。
実施例1における、<n>/n0とT1との関係を示す図である。
本発明の第4実施形態を説明するためのフローチャートである。
本発明の第4実施形態を説明する図であり、Aは、光照射光源からの周期的な光照射の例を示す図である。Bは、マイクロ波発生源からのマイクロ波入射の例を示す図である。Cは、周期的に光照射を行った場合のキャリア密度の時間変化の例を示す図である。
シリコン基板の少数キャリアがホールである場合の、時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を示す図である。
シリコン基板の少数キャリアが電子である場合の、時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を示す図である。
式(9)を用いて算出した実効ライフタイムτeffと、式(10)から得られる連続光照射におけるライフタイムの理論値との関係を示す図である。
半導体基体の各領域について算出した実効ライフタイムτeffの分布図である。
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて、次に示す順に実施の形態を説明する。
1.第1実施形態「誘起キャリアライフタイム測定装置の構成例」
2.第2実施形態「光誘起キャリアライフタイム測定装置の構成の変形例」
3.第3実施形態「光誘起キャリアライフタイム測定方法の第1例」
4.第4実施形態「光誘起キャリアライフタイム測定方法の第2例」
5.第5実施形態「光誘起キャリアライフタイム測定方法の第3例」
尚、各実施形態において同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
≪1.第1実施形態≫
図1に、光誘起キャリアライフタイム測定装置および光入射効率測定装置(以下、光誘起キャリアライフタイム測定装置と記す)の概略構成を示す。この図に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置は、以降の実施形態で説明する光誘起キャリアライフタイム測定方法および光入射効率測定方法に用いるための装置であり、次のように構成されている。
光誘起キャリアライフタイム測定装置は、試料となる半導体基体10Aおよび参照用の半導体基体10Bに入射させるマイクロ波を発生するマイクロ波発生源11と、半導体基体10Aにキャリアを発生させるための誘起光を照射する光照射光源12とを備える。また、半導体基体10A,10Bを透過したマイクロ波強度を検出する検出部13Aおよび検出部13Bと、これらの検出部13A,13Bで検出したマイクロ波強度に基づいて光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率を算出する演算部14とを備える。
光誘起キャリアライフタイム測定装置は、マイクロ波発生源11と検出器13A,13Bとの間に、マイクロ波干渉計を構成する導波管15を設けている。この導波管15は、マイクロ波発生源11と検出器13A,13Bとの間の中間部分で、対称な2つの導波管15A,15Bに分岐している。分岐した一方の導波管15Aには、試料となる半導体基体10Aが挿入される間隙16Aが設けられている。また分岐した他方の導波管15Bには、参照用の半導体基体10Bが挿入される間隙16Bが設けられている。間隙16A,16Bには、導波管15A,15Bの延設方向に対して略垂直に半導体基体10A,10Bが挿入される。これらの間隙16A,16Bは、導波管15A,15Bにおいて対称な位置に配置されている。
分岐した導波管15A,15Bは、マイクロ波発生源11から見た間隙16A、16Bの後方で結合している。そして、結合した導波管15が再び2つに分岐され、分岐した先がそれぞれ検出部13Aと検出部13Bとに接続されている。
これにより図1に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置では、マイクロ波発生源11から発生したマイクロ波が、導波管15内を通り、導波管15A,15Bの間隙16A、16Bに挿入された半導体基体10A,10Bに照射される構成となっている。また、導体基体10A,10Bを透過したマイクロ波が、導波管15A,15Bを通り、検出器13A,13Bのそれぞれに導かれる構成となっている。
以上のような構成において、試料となる半導体基体10Aが挿入される間隙16Aには、光照射光源12からの光を半導体基体10Aに入射するための導光板18が挿入されている。この導光板18は、間隙16Aに挿入される半導体基体10Aと接するように、半導体基体10Aが挿入される箇所よりも検出器13A,13B側(またはマイクロ波発生源11側)に配置される。このような導光板18は、光ファイバ17により光照射光源12と接続されている。尚、導光板18は、半導体基体10Aが挿入される箇所の検出器13A,13B側、およびマイクロ波発生源11側の両方に配置されていても良い。
ここで、マイクロ波発生源11は、次に説明する光照射光源12からの光照射に同期してマイクロ波を発生させる。
光照射光源12は、試料となる半導体基体10Aに対して、周期的に光をパルス照射して半導体基体にキャリアを発生させる光源からなる。このような光照射光源12は、例えば、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ光源からなる。また、YAGレーザ以外にも、発光ダイオード(LED)、キセノンランプ、ハロゲンランプ等の半導体基体に吸収される波長の光(誘起光)を発する光源、特に250nm以上2500nm以下の波長の光を発する光源であれば限定することなく光源として使用することができる。またこの光照射光源12は、光のパルス照射の周期を、例えば照射時間T1=非照射時間T2とした異なる任意の各周期に変更可能である。例えば、照射時間T1および非照射時間T2は、0.01ms〜0.1sの範囲で任意に変更される。
検出部13Aは、試料となる半導体基体10Aからのマイクロ波透過強度JAと、参照用の半導体基体10Bからのマイクロ波透過強度JBとの差IA-Bを検出する。また、検出部13Bは、試料となる半導体基体10Aからのマイクロ波透過強度JAと、参照用の半導体基体10Bからのマイクロ波透過強度JBとの和JA+Bを検出する。図1に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置では、マイクロ波透過強度JAとJBとの差JA-Bおよび和JA+Bを検出することより検波増幅し、マイクロ波の検出感度を向上させることができる。
演算部14は、検出部13A,13Bで検出されたマイクロ波透過強度と、および光照射光源12で照射する誘起光の周期とに基づいて、間隙16Aに挿入された半導体基体10Aにおける光誘起キャリアのライフタイムおよび光入射効率を算出する。この演算部14においては、例えば先ず、上述の非特許文献3に記載された方法等を用いることで、周期的な光照射により半導体基体10Aに発生する光誘起キャリアのキャリア密度を求める。そして、求めたキャリア密度から、光誘起キャリアの実効ライフタイムおよび実効光入射効率を求める。演算部14においての実効ライフタイムおよび実効光入射効率の算出手順は、以降の光誘起キャリアライフタイム測定方法で詳細に説明する。
尚、上述の図1に示す測定装置には、演算部14で算出した結果に基づいて、マイクロ波発生源11におけるマイクロ波の照射および光照射光源12における誘起光の照射を制御する制御部19を設けても良い。
さらにここでの図示は省略したが、上述の図1に示す測定装置には、マイクロ波発生源から発生したマイクロ波を、試料となる半導体基体10Aの一主面を領域分けした各領域に対して選択的に照射するための位置合わせ手段を設けても良い。このような位置あわせ手段としては、例えば、間隙16Aに挿入した半導体基体10Aを、マイクロ波の入射方向に対して垂直方向に自在に移動させることが可能な可動ステージが用いられる。また、このような可動ステージに換えて、間隙16Aに挿入した半導体基体10Aに対して、マイクロ波の入射位置を自在に移動させることが可能なマイクロ波走査手段が用いられる。
以上のような図1に示す測定装置は、光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率測定装置の一例であり、上述の構成以外でも光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率測定装置を構成することができる。
例えば、図1に示す測定装置は、導波管15を2つに分岐して、試料となる半導体基体10Aと参照用の半導体基体10Bとの透過率の和および差を利用して高精度にマイクロ波の透過率を求めている構成である。しかしながら、光誘起キャリアライフタイム測定装置は、導波管15B、および検出部13Bを除いた構成であっても良い。
この場合の光誘起キャリアライフタイム測定装置は、マイクロ波を発生するマイクロ波発生源11と、半導体基体10にキャリアを発生させる光を照射する光照射光源12と、検出部13Aと、演算部14と、分岐を持たない導波管15とにより構成される。導波管15には、試料となる半導体基体10Aが挿入される間隙が設けられ、この間隙に、光ファイバ17によって光照射光源12に接続された導光板18が挿入されている。このような測定装置において、マイクロ波発生源11と光照射光源12とは、先に説明した第1実施形態の測定装置と同様の構成である。検出部13Aは、試料となる半導体基体10Aからのマイクロ波透過強度JAを検出する。演算部14は、検出部13Aで検出されたマイクロ波透過強度JAから、半導体基体10Aにおける、光誘起のキャリア密度、実効ライフタイム、および実効光入射効率を算出する。
以上のような第1実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定装置によれば、以降に説明する光誘起キャリアライフタイム測定方法および光入射効率測定方法に用いることが可能である。
≪2.第2実施形態≫
図2に、光誘起キャリアライフタイム測定方法および光入射効率測定装置(以下、光誘起キャリアライフタイム測定装置と記す)の変形例の概略構成を示す。この図に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置が、図1で示した第1実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定装置と異なるところは、図1で示されている導光板18に換えて、反射拡散板18’を設けた構成にあり、他の構成は同様である。
すなわち図2の光誘起キャリアライフタイム測定装置は、導波管15Aの側壁に、小さな穴を備えている。この穴には、光照射光源12に接続された光ファイバ17の端部が取り付けられ、光照射光源12からの光が光ファイバ17を介して導波管15Aに導入される構成となっている。この導波管15Aの内部には、反射拡散板18’が配置されている。この反射拡散板18’は、光ファイバ17からの光を、半導体基体10Aが挿入される間隙16A側に向けて拡散させながら反射する。また反射拡散板18’は、マイクロ波発生源11で発生したマイクロ波を透過する。このような反射拡散板18’は、例えばフッ素樹脂からなる。
以上の反射拡散板18’およびこれに接続された光ファイバ17は、導波管15Aにおいて、試料となる半導体基体10Aが挿入される間隙16Aのマイクロ波発生源11側および検出器13A,13B側の少なくとも一方に設けられている。
上述の図2に示した第2実施形態の測定装置であっても、図1に示した第1実施形態の測定装置と同様に、間隙16Aに挿入した半導体基体10Aを、マイクロ波の入射方向に対して垂直方向に自在に移動させることが可能な可動ステージを備えていても良い。また、このような可動ステージに換えて、間隙16Aに挿入した半導体基体10Aに対して、マイクロ波の入射位置を自在に移動させることが可能なマイクロ波走査手段を備えていても良い。
さらに、第2実施形態の測定装置であっても、図1に示した第1実施形態の測定装置と同様に、導波管15Bおよび検出部13Bを除いた構成とすることができる。
以上のような第2実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定装置であっても、第1実施形態の測定装置と同様に、以降に説明する光誘起キャリアライフタイム測定方法および光入射効率測定方法に用いることが可能である。
≪3.第3実施形態≫
次に、光誘起キャリアライフタイム測定方法の第1例を説明する。以下の説明では、図1または図2に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置を用いて光誘起キャリアの実効ライフタイムを測定する方法、および実効光入射効率を測定する方法を説明する。
<光誘起キャリアライフタイム測定方法>
先ず予め、光誘起キャリアライフタイム測定方法に用いるデータテーブルを、次のようにして作成する。
先ず、試料となる半導体基体10Aにキャリアを発生させるための誘起光の照射条件を設定する。ここでは、例えば図3Aに示すように、光照射光源12から光強度I0の誘起光を、所定周期を持って間歇的にパルス照射させることとする。このような誘起光の周期的なパルス照射において、誘起光の照射時間(パルス幅)を照射時間T1、誘起光の非照射時間(パルス間隔)を非照射時間T2とする。照射時間T1および非照射時間T2は、半導体における光誘起キャリア(少数キャリア)の実効ライフタイムの値をカバーする時間範囲で設定するのが好適である。一般にシリコン薄膜およびシリコン基板における上記の実効ライフタイムは、1μs〜0.01sの範囲である。このため、照射時間T1および非照射時間T2の時間範囲は1μs〜0.01s範囲とすることが好ましい。またここでは、照射時間T1=非照射時間T2とを同じ時間(T1=T2)として設定する。
また、測定光となるマイクロ波の発生条件を設定する。ここでは、例えば図3Bに示すように、マイクロ波発生源11から、誘起光のパルス照射に同期させて、周期的にマイクロ波を強度J0で入射させることとする。このとき、誘起光の照射時間T1と、マイクロ波の照射時間とが重ならないようにする。つまり、誘起光の照射時間T1においてはマイクロ波を照射せず、誘起光の非照射時間T2においてマイクロ波を照射する。
以上のように設定された誘起光のパルス照射においては、誘起光の照射によって半導体基体10Aに光誘起キャリアが生成され、光照射が終わると誘起された光誘起キャリアのキャリア密度nがライフタイムτeffにしたがって減衰する。この減衰は以下の式(3)で表すことができる。
上記式(3)中のn0は、誘起光の照射を連続的にしたとき、つまり光照射光源12からの誘起光の照射を図3Aに示すような周期的なパルス照射とせず、誘起光を連続照射した場合に半導体基体10Aに発生する光誘起キャリアのキャリア密度である。
ここで、半導体基体10Aに周期的に誘起光をパルス照射した場合のキャリア密度の時間変化の例を図3Cに示す。この図に示すように、半導体基体10Aでは、誘起光の照射時間T1の間、キャリア密度が増加する。また、誘起光の照射を停止する非照射時間T2の間、キャリア密度が低下する。先に設定したマイクロ波の発生条件では、このようにキャリア密度が低下するときに半導体基体10Aに対してマイクロ波が入射される。
入射したマイクロ波のうち半導体基体10Aを透過したマイクロ波を検出し、検出したマイクロ波強度に基づいて算出したマイクロ波透過率を積分する。この積分によって得られた積分値は、非照射時間T2においてのキャリア密度nの平均値に対応した値となる。非照射時間T2においてのキャリア密度の平均値は、下記式(4)で表される。
上記式(4)より、キャリア密度nの積分平均値(積分値)は、照射時間T1、非照射時間T2、光誘起キャリアの実効ライフタイムτeff、および連続光照射時のキャリア密度n0に依存することがわかる。
ここで、上記式(4)において、照射時間T1=非照射時間T2とを同じ時間(T1=T2)とした場合、キャリア密度nの平均値は、以下の式(5)で表される。
そこで上記式(5)を用いてデータテーブルを作成する。ここでは幾つかの異なる実効ライフタイムτeffを設定し、上記式(5)を用いて、照射時間T1(=非照射時間T2)の変化による、キャリア密度の平均値<n>の変化を計算する。そして、実効ライフタイムτeff毎に、連続光照射時のキャリア密度n0との比<n>/n0を求めて照射時間T1に対してプロットする。これにより、図4のようなデータテーブルが得られる。
すなわち、図4のデータテーブルは、光誘起キャリアの実効ライフタイムτeff毎の、照射時間T1(=非照射時間T2)に対する<n>/n0の関係を示している。縦軸は、非照射時間T2において検出したマイクロ波透過強度に基づくキャリア密度<n>と、連続光照射時のキャリア密度n0との比<n>/n0である。横軸は、照射時間T1(ms)(=非照射時間T2)を示す。図4では、実効ライフタイムτeffを5×10−4(s)から2.0×10−3(s)まで、0.5×10−4(s)毎に設定した。また各実効ライフタイムτeff毎に、照射時間T1(=非照射時間T2)を、0から3msまで変化させて上記式(5)を用いてキャリア密度n0との比<n>/n0を算出し、グラフ化している。
図4に示すように、<n>/n0の最大値は、連続光照射時のキャリア密度n0の0.5倍である。また、<n>/n0は、ライフタイムτeffとT1に対して規則的な曲線を描く。
次に、図4のデータテーブルを用いることにより、光誘起キャリアの実効ライフタイムが未知の試料において、<n>/n0とT1との関係を求め、図4に示す各実効ライフタイムτeffの曲線と比較することにより、実効ライフタイムを求める。
具体的には、先ず、図1または図2に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置の導波管15Aの間隙16Aに、試料となる半導体基体10Aを挿入する。この際、半導体基体10Aにおける誘起光の照射面に接するように導光板18を配置するか、または半導体基体10Aにおける誘起光の照射面を反射拡散板18’側に向けて配置する。また、半導体基板10A,10Bは、マイクロ波発生源11に対して同じ向きにして配置する。
次に、光照射光源12から半導体基体10Aに、誘起光を周期的にパルス照射する。誘起光の照射条件は先に設定した条件であり、例えば図3Aに示すように、照射時間T1=非照射時間T2である。
また誘起光のパルス照射と同期させて、マイクロ波発生源11から半導体気体10A,10Bにマイクロ波を照射する。マイクロ波の照射条件は、先に設定した条件であり、例えば図3Bに示すように、誘起光のパルス照射に対して逆相とし、誘起光の照射時間T1においてはマイクロ波を照射せず、誘起光の非照射時間T2においてマイクロ波を照射する。
この状態で、半導体基体10A,10Bを透過したマイクロ波を、検出器13A,13Bで検出する。演算部14では、検出器13A,13Bで検出されたマイクロ波透過強度を足し合わせて増幅する。
また演算部14では、誘起光の各非照射期間T2において検出されるマイクロ波透過強度と、1つ前の非照射期間T2において検出されたマイクロ波透過強度とを比較する。そして、比較したマイクロ波透過強度の差が所定値以下となったところで、先の図3Cに示したように、周期的な誘起光のパルス照射間においてのキャリア密度の時間変化が安定したと判断する。
キャリア密度が安定したと判断された後、演算部14では、増幅されたマイクロ波強度に基づいて、マイクロ波透過率を算出してさらに積分値を得る。この積分値は、上述した式(5)で表され、所定の照射時間T1=非照射時間T2においてのキャリア密度の平均値<n>となる。尚、マイクロ波透過率の算出には、例えば参照用の半導体基体10Bのマイクロ波透過率を用いれば良く、この値は予め求めておくこととする。
また演算部14では、以上のようにして得られた所定の照射時間T1=非照射時間T2においてのキャリア密度の平均値<n>と、予めの測定によって算出しておいた連続光照射時のキャリア密度n0とから、<n>/n0とT1の関係を得る。尚、連続光照射時のキャリア密度n0は、上述の図1に示す測定装置を用いてマイクロ波透過強度を検出し、検出したマイクロ波透過強度の減衰率を解析することによって決定することができる。
ここでは、制御部19によって、図4のデータテーブルを作成した際に設定した範囲で照射時間T1=非照射時間T2を変更する。
そして変更した照射時間T1=非照射時間T2毎に<n>/n0を算出し、未知の試料に関して算出された<n>/n0とT1の関係を、図4のデータテーブルに示されているデータにフィティングさせる。これにより、未知の試料の実効ライフタイムτeffを求める。
以上説明したように、本第3実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法では、光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffを求めるためのパラメータとして、試料となる半導体基体の表面反射率rが含まれていない。従来のマイクロ波光干渉吸収法では、半導体基体の表面反射率rが予め求められていなければならない。これに対して、本第3実施形態の光誘起キャリアライフタイムの測定方法では半導体基体の表面反射率を用いることなく、試料となる半導体基体10Aにおける光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffを測定することができる。
また、試料となる半導体基体に対して、誘起光を周期的にパルス照射しているため、周期的な複数回のパルス照射毎に検出したマイクロ波強度の積分値を得ることにより、感度の高い測定結果を得ることができる。
したがって、半導体基体の表面の反射率は測定が困難な場合、特に、事実上反射率を決定することができないテクスチャを有するソーラーセル構造においても、光誘起キャリアの実効ライフタイムを高感度に求めることが可能である。また、微弱な誘起光の照射であっても感度の高いマイクロ波の検出結果に基づいて実効ライフタイムを得ることが可能である。
<光入射効率測定方法>
次に、上述の方法で求められた光誘起キャリアの実効ライフタイムから、半導体基体の実効光入射効率を求める光入射効率測定方法を説明する。
先ず、半導体基体中に定常的に存在する光誘起キャリアのキャリア密度nは、前述した下記式(2)で示すことができる。式(2)において、rは実効表面反射率、Gは連続的に照射されている光の光強度(フォトン1個のエネルギー)、τeffは実効ライフタイムである。ここで実効表面反射率rとは、試料となる半導体基体の表面においての光散乱などをも考慮した実際の反射率であり、例えばテクスチャ構造を有する半導体基体の表面においての反射率である。
上記式(2)において、キャリア密度nは連続光照射時の値(つまりn0)であり、上述の図1に示す測定装置を用いてマイクロ波透過強度を検出し、検出したマイクロ波透過強度の減衰率を解析することによって決定することができる。また、フォトンフラックスGは、光照射強度を精密に測定することにより決定することができる。さらに、実効ライフタイムτeffは、上述の実施の形態の光誘起キャリアライフタイムの測定方法により求めることができる。
したがって、上述した光誘起キャリアライフタイム測定方法によって得られた実効ライフタイムτeffに基づいて、上記式(2)を用いて、試料となる半導体基体10Aにおいての実効光入射効率(1−r)を求めることができる。
また、周期的な誘起光の照射の場合において光誘起キャリアのキャリア密度<n>は、上記式(2)におけるフォトンフラックスGの平均強度を、照射時間T1及び非照射時間T2に応じて下記式(6)のように変更することによって求めることができる。
したがって、上記式(6)を用いることにより、上述した光誘起キャリアライフタイム測定方法によって得られた実効ライフタイムτeffに基づいて、試料となる半導体基体10Aにおいての実効光入射効率(1−r)を求めることができる。
一般的に、半導体基体等の光反射率は、分光器を用いて光学的に決めることができる。しかし、半導体表面に酸化膜のような透明な異種薄膜が形成されている場合、反射率は光入射角度により大きく変化する。このため従来、実効光反射率を測定するには、光照射光源の試料に対する光入射角度分布を知る必要があった。また、半導体基体表面に凹凸がある場合には、光は乱反射され、反射された光の一部は再び半導体基体に入射する可能性がある。ここのため、表面に凹凸がある半導体基体では、実効反射率の分光的決定はさらに困難であった。
これに対して以上説明した本実施形態の方法によれば、光誘起キャリアのキャリア密度と、上述の本実施の形態の測定方法により得た光誘起キャリアの実効ライフタイムとを用いることにより、容易に半導体基体の実効光入射効率を決定できる。したがって、本発明の光入射効率測定方法は、複雑な凹凸のテクスチャ構造や複雑な光干渉を有することで表面の光反射率を測定が困難なソーラーセル構造においても、高精度に実効光入射効率を求めることが可能にある。しかも、上述した実効入射効率の測定には、周期的な複数回のパルス照射毎に検出したマイクロ波強度が用いられる。このため、感度の高い測定結果を得ることができる。
<実施例1>
[光誘起キャリアライフタイムの測定]
上述の光誘起キャリアライフタイム測定装置を用い、本第3実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法を適用して、半導体基体における光誘起キャリアの実効ライフタイムを求めた。
本実施例1では、試料となる半導体基体として、100nmの熱酸化膜がコーティングされた525μm厚のn型シリコン基板を用いた。このシリコン基板に、波長532nmの誘起光を、強度20mW/cm2で連続照射し、光誘起キャリアのキャリア密度n0を求めた。また、同じシリコン基板に、532nmの誘起光を、強度20mW/cm2で周期的にパルス照射し、照射時間T1(=非照射時間T2)を変化させたときの、シリコン基板のキャリア密度<n>をそれぞれ求めた。
図5に、本実施例1で求めたキャリア密度の比<n>/n0と光の照射時間T1との関係を◆で示す。図5は、図4に示した<n>/n0とT1の計算値のデータテーブルに、本実施例1で求めた<n>/n0とT1との関係を重ねて示した図である。
図4に示す<n>/n0とT1の計算値と、図5に示す本実施例の<n>/n0とT1の関係との比較により、本実施例1で試料として用いたシリコン基板における光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffは、約2.2×10-4(s)であることがわかった。
<実施例2>
[光誘起キャリアライフタイムの測定および光入射効率の測定]
上述の光誘起キャリアライフタイム測定装置を用い、本第3実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法を適用して、半導体基体における実効ライフタイムを求め、さらに得られた実効ライフタイムから半導体基体における実効光入射効率を求めた。
本実施例2では、試料となる半導体基体として、100nmの熱酸化膜をコーティングされた525μm厚のn型シリコン基板を用いた。このシリコン基板の表面は鏡面研磨されており、裏面は研磨なしのラフ面であり、両面に熱酸化膜がコーティングされている。
このシリコン基板の鏡面表面と裏面ラフ面に、グリーン光面光源からの波長532nmの誘起光を、強度1.8mW/cm2で連続照射し、鏡面表面および裏面ラフ面それぞれのキャリア密度n0を求めた。鏡面表面に対する連続光照射時のキャリア密度n0=1.32×1012cm-2、裏面ラフ面に対する連続光照射時のキャリア密度n0=1.68×1012cm-2であった。
また、同じシリコン基板の鏡面表面と裏面ラフ面に、グリーン光面光源からの波長532nmの誘起光を、強度1.8mW/cm2で周期的にパルス照射し、照射時間T1(=非照射時間T2)を変化させたときの、シリコン基板のキャリア密度<n>をそれぞれ求めた。
図4に示したデータテーブルに、本実施例2で求めたキャリア密度の比<n>/n0と、光の照射周期T1との関係を重ねて比較し、半導体基体における鏡面表面および裏面ラフ面それぞれに光照射した場合の光誘電キャリアの実効ライフタイムτeffを求めた。鏡面表面及び裏面ラフ面のいずれの場合も、実効ライフタイムτeffは約4.0×10-4(s)であった。
次に、先に算出した鏡面表面に対する連続光照射時のキャリア密度n0(=1.32×1012cm-2)と、測定によって得られたフォトンフラックスG=4.82×1015cm-2s-2と、先に得られた実効ライフタイムτeff(=約4.0×10-4(s))と、上記式(6)から、実効入射効率(1−r)を算出した。この結果、鏡面表面に対する実効光入射効率(1−r)=0.68であり、実効的反射率r=0.32であった。
さらに、先に算出した裏面ラフ面に対する連続光照射時のキャリア密度n0(=1.68×1012cm-2)と、測定によって得られたフォトンフラックスG=4.82×1015cm-2s-2と、先に得られた実効ライフタイムτeff(=約4.0×10-4(s))と、上記式(6)から、実効入射効率(1−r)を算出した。この結果、裏面ラフ面に対する実効光入射効率(1−r)=0.87であり、実効的反射率r=0.13であった。
尚、上述の第3実施形態では、マイクロ波透過強度の積分値に対応して得られる非照射時間T2(=照射時間T1)においてのキャリア密度の平均値<n>を規格化するために、連続光照射時のキャリア密度n0に対するキャリア密度の平均値<n>の値<n>/n0を用いた。しかしながら、キャリア密度の平均値<n>は、規格化せずにそのまま用いても良い。また非照射時間T2(=照射時間T1)においてのキャリア密度の平均値<n>を、照射時間T1においてのキャリア密度の平均値に対する値として規格化しても良い。この場合、照射時間T1においてもマイクロ波透過強度の測定を行うこととする。
≪4.第4実施形態≫
次に、光誘起キャリアライフタイム測定方法の第2例を説明する。以下の説明では、図1または図2に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置を用いて光誘起キャリアの実効ライフタイムを測定する方法、および光入射効率を測定する方法を、図6のフローチャートを用いて説明する。
先ず、図1または図2に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置における導波管15Aの間隙16Aに、試料となる半導体基体10Aを挿入する。この際、半導体基体10Aにおける誘起光の照射面に接するように導光板18を配置するか、または半導体基体10Aにおける誘起光の照射面を反射拡散板18’側に向けて配置する。また、導波管15Bの間隙16Bに、参照用の半導体基体10Bを挿入する。半導体基板10A,10Bは、マイクロ波発生源11に対して同じ向きにして配置することが好ましい。
この状態においてステップS1では、試料となる半導体基体10Aに対して、光照射光源12から誘起光を周期的にパルス照射する。また同時に、試料となる半導体基体10Aおよび参照用の半導体基体10Bに対して、マイクロ波発生源11から測定用のマイクロ波を照射する。
誘起光のパルス照射は、図7Aに示すように、光強度I0で、かつ照射時間T1/非照射時間T2の周期で行う。この際、照射時間T1=非照射時間T2=時間Tとなる所定の時間Tに設定した誘起光のパルス照射を行なる。照射時間T1および非照射時間T2としては、第3実施形態と同様に0.01ms〜0.1sの範囲とすることができ、特に0.01ms〜10msの範囲とすることが好ましい。
マイクロ波の照射は、図7Bに示すように、強度J0で、かつ誘起光の照射時間T1および非照射時間T2を通して連続して行われる。ここでは、例えば9.35GHzのマイクロ波を用いることとする。
次のステップS2では、先のステップS1で半導体基体10A,10Bに照射され、さらにこれらの半導体基体10A,10Bを透過したマイクロ波を、検出器13A,13Bで検出する。ここでは、先に説明したように検出器13A,13Bでのマイクロ波の検出により、検波増幅されたマイクロ波透過強度Jが得られる。
次に、ステップS3では、演算部14において、先のステップS2で得られたマイクロ波透過強度Jと、設定された照射時間T1=非照射時間T2=時間Tとに基づいて、下記式(7)に示すように光誘起キャリアのキャリア密度の比P(T)を算出する。ここで算出するキャリア密度の比P(T)は、照射時間T1(0→T)においての平均キャリア密度Nonに対しての、非照射時間T2(T→2T)においての平均キャリア密度Noffの比である。
式(7)において、Trはマイクロ波の透過率であり、Tr0は誘起光をパルス照射するより以前の暗状態においてのマイクロ波の透過率である。これらのマイクロ波透過率Tr,Tr0の算出には、例えば予め求められている参照用の半導体基体10Bのマイクロ波透過率を用いれば良い。また、暗状態におけるマイクロ波透過率Tr0は、ステップS1からの測定開始前に予め算出されていることとする。
尚、演算部14では、以上のような式(7)を用いたキャリア密度の比P(T)の算出に先立ち、以下のような判断を行うこととする。すなわち、ステップS2で得られるマイクロ波透強度を、誘起光のパルス照射における連続した2つの周期間で比較する。そして、比較したマイクロ波透過強度の差が所定値以下となったところで、先の図7Cに示したように、周期的な誘起光のパルス照射間においてのキャリア密度の時間変化が安定したと判断する。その後上記ステップS3の算出を行う。
次に、ステップS4では、演算部14において、先のステップS3で算出されたキャリア密度の比P(T)として、P(T)=0.859またはP(T)=0.615が得られたか否かを判断する。P(T)=0.859およびP(T)=0.615の両方の結果が得られていない場合にはステップS5に進み、P(T)=0.859およびP(T)=0.615の両方の結果が得られた場合のみにステップS6に進む。
ステップS5では、ステップS1においての誘起光の周期的なパルス照射の時間T(=照射時間T1=非照射時間T2)を変更する。ここでは、演算部14において、ステップS3で算出された結果をフィードバックして、P(T)=0.859またはP(T)=0.615に近づくように時間Tを変更する。
その後、ステップS1では、ステップS5で変更した時間Tの周期で、試料となる半導体基体10Aに誘起光を周期的にパルス照射すると共に、半導体基体10A,10Bに測定用のマイクロ波を照射する。このような誘起光のパルス照射とマイクロ波の照射とは、演算部14において変更された時間Tに基づいて、マイクロ波発生源11と光照射光源12とを制御することによって行う。このようなマイクロ波発生源11および光照射光源12の制御は、演算部14に接続された制御部19によって行われる。
以降は、ステップS4においてP(T)=0.859およびP(T)=0.615の両方の結果が得られたと判断されるまで、ステップS1〜S5を繰り返し行う。
一方、ステップS4においてP(T)=0.859およびP(T)=0.615の両方の結果が得られたと判断された場合、ステップS6では、下記式(8)を用いて、光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffを算出する。ただし、T(P=0.859)は、ステップS3で得られたP(T)=0.859を与える時間Tである。またT(P=0.615)は、ステップS3で得られたP(T)=0.615を与える時間Tである。尚、式(8)については、以降に詳細を説明する。
以上の第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法によって得られる実効ライフタイムτeffは、以下の実施例3で説明するように、理論値に対して整合性良好であることが確認された。
このような第4実施形態の光誘起キャリアライフタイムの測定方法であっても、試料となる半導体基体の表面反射率rをパラメータとして用いることなく、光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffが求められる。また、試料となる半導体基体に対して、誘起光を周期的にパルス照射しているため、周期的な複数回のパルス照射毎に検出したマイクロ波強度の積分値を得ることにより、感度の高い測定結果を得ることができる。
したがって第3実施形態の方法と同様に、半導体基体の表面の反射率は測定が困難な場合、例えば事実上反射率を決定することができないテクスチャを有するソーラーセル構造においても、光誘起キャリアの実効ライフタイムを高感度に求めることが可能である。
尚、上述した第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法では、ステップS2で得られたキャリア密度の比P(T)をフィードバックし、P(T)=0.859またはP(T)=0.615に近づくように、ステップS4において時間Tを変更した。しかしながら、本第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法は、このような手順に限定されることはなく、所定の範囲で時間Tを順次変更しても良い。この場合、順次変更した各時間Tでの誘起光の照射で得られたキャリア密度の比P(T)のなかから、P(T)=0.859およびP(T)=0.615を見つけ出し、これらに対応するT(P=0.859)およびT(P=0.615)を得る。
<式(8)について>
本第4実施形態で用いた式(8)は、以下のようにして導き出した。
半導体基体において、深さx、時間tでのキャリア体積密度n(x、t)とすると、基板厚dの半導体基体における単位面積あたりのキャリア密度N(t)は、下記(9)のように計算される。
また、先の式(7)のように定義した光誘起キャリアのキャリア密度の比P(T)は、上記式(9)の単位面積あたりのキャリア密度N(t)を用いて、下記式(10)のように表される。尚、キャリア密度の比P(T)は、照射時間T1(0→T)においての平均キャリア密度Nonに対しての、非照射時間T2(T→2T)においての平均キャリア密度Noffの比である。
ここで、試料となる半導体基体の欠陥がバルク欠陥のみである場合、誘起光照射側の表面再結合速度Stop=0、および誘起光照射に対する裏面側の表面再結合速度Srear=0である。この場合、照射時間T1(0→T)においてのキャリア密度Non、および非照射時間T2(T→2T)においての平均キャリア密度Noffは、少数キャリアのバルクライフタイムτbを用いて、下記式(11)、(12)のように表される。
式(11)および式(12)に基づいて、式(10)を書き換えると、下記式(13)が与えられる。
上記式(13)においてT=τb、T=2τbとすると、下記式(14)および式(15)となる。
以上の式(14)で表される数値を用い、キャリア密度の比P(T)が0.859のときの照射時間T1(パルス幅)を、下記式(16)で示されるτpulseとした。
また、下記式(17)のようにRを定義した。P(0.615)は、P(T)=0.615のときの照射時間T1である。T=P(0.859)は、P(T)=0.859のときの照射時間T1である。
以上のようにして定義したτpulseとRとを用いて、上記式(8)を表した。
<光入射効率測定方法>
第4実施形態で説明した測定方法で得られた光誘起キャリアの実効ライフタイムから、半導体基体の実効光入射効率を求める光入射効率測定方法は、第3実施形態において説明したと同様に行われる。
<実施例3>
[光誘起キャリアライフタイムの測定]
上述の光誘起キャリアライフタイム測定装置を用い、本第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法を適用して、半導体基体における光誘起キャリアの実効ライフタイムを求めた。
本実施例3では、半導体基体として、欠陥分布が異なる各シリコン基板について、誘起光の照射時間T1=比照射時間T2=時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を、式(7)を用いて計算により算出した。各シリコン基板は、少数キャリア(光誘起キャリア)のバルクライフタイムτb、誘起光照射側の表面再結合速度Stop、および誘起光照射に対する裏面側の表面再結合速度Srearが、それぞれの値に設定されている。これらの値は、半導体基体における各部位(すなわちバルク、誘起光照射側面、およびその裏面)の欠陥の多さを示す値である。
図8には、シリコン基板の少数キャリアがホールである場合の、時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を示した。図9には、シリコン基板の少数キャリアが電子である場合の、時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を示した。
次に、以上の各欠陥分布を有するシリコン基板について、図8,9に示すような時間T−キャリア密度の比P(T)を解析することにより、第4実施形態で示した上記式(8)を用いて実効ライフタイムτeffを算出した。図10には、式(8)を用いて算出した実効ライフタイムτeffと、下記式(18)から得られる光連続照射におけるライフタイムの理論値との関係を示した。
図10に示すように、本第4実施形態の式(8)を用いて算出した実効ライフタイムは、式(18)に示した光連続照射時における光誘起キャリアのライフタイムと一致している。このことから、本第4実施形態で説明した方法により、半導体基体においての光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffが高精度に得られることが確認された。
尚、上述の第4実施形態では、キャリア密度の比P(T)として、照射時間T1(0→T)においての平均キャリア密度Nonに対しての、非照射時間T2(T→2T)においての平均キャリア密度Noffの比を用いた。しかしながら、キャリア密度の比P(T)がこれに限定されることはなく、例えば、連続照射においてのキャリア密度n0に対しての、非照射時間T2(T→2T)においての平均キャリア密度Noffの比であってもよい。この場合、式(8)のRを構成するT(P)は、他の適する値が用いられる。
≪5.第5実施形態≫
次に、光誘起キャリアライフタイム測定方法の第3例を説明する。ここでは、図1または図2に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置を用いて、半導体基体における光誘起キャリアの実効ライフタイムの面分布を測定する方法を説明する。
先ず、試料となる半導体基体10Aのマイクロ波の照射面側を、複数の領域に領域分けする。ここでは例えば、半導体基体10Aのマイクロ波の照射面側を1cm×0.5cmの各領域に分割する。
次に、分割した各領域毎に、上述した第3実施形態または第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法を実施し、各領域における光誘起キャリアの実効ライフタイムを測定する。この場合、光誘起キャリアライフタイム測定装置に設けられた可動ステージによって、半導体基体10Aをマイクロ波の入射方向に対して垂直方向に自在に移動させることで、半導体基体10Aの各領域に対して選択的にマイクロ波を照射させて測定を行う。または、光誘起キャリアライフタイム測定装置に設けられたマイクロ波走査手段によって、マイクロ波の照射位置を移動させることで、半導体基体10Aの各領域に対して選択的にマイクロ波を照射させて測定を行う。
以上のような第5実施形態の光誘起キャリアライフタイムの測定方法により、光誘起キャリアの実効ライフタイムの面分布を得ることが可能である。この面分布の測定には、より高い周波数のマイクロ波を用いることにより、空間分解能の高い測定を行うことが可能である。
<光入射効率測定方法>
第5実施形態で説明した測定方法で得られた光誘起キャリアの実効ライフタイムから、半導体基体の実効光入射効率を求める光入射効率測定方法は、第3実施形態において説明したと同様に行われる。
<実施例4>
[光誘起キャリアライフタイムの測定]
図11には、半導体基体の各領域について算出した実効ライフタイムτeffの分布図を示す。測定には、9.35GHzのマイクロ波を用いた。これにより、空間分解能1cm程度の光誘起キャリアライフタイムの測定が可能であることが確認された。
以上説明した第1実施形態〜第5実施形態においては、半導体基体を透過したマイクロ波を検出する測定装置および測定方法を説明した。しかしながら本発明は、半導体基体で反射したマイクロ波を検出する測定装置および測定方法であっても良い。
この場合、光誘起キャリアライフタイム測定装置であれば、図1および図2を用いて説明した構成において、検出器13A,13Bの位置を、マイクロ波発生源11が設けられている導波管15から分岐させた位置に配置すれば良い。また光誘起キャリアライフタイム測定方法であれば、上述したマイクロ波透過強度を、マイクロ波反射強度に読み替えれば良い。
また、上述の各実施形態および実施例においては、照射時間T1と非照射時間T2とが同じ場合について説明しているが、本発明ではT1=T2に限られず、T1およびT2を、それぞれ適宜設定することができる。
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
10A…半導体基体(試料)、10B…半導体基体(参照用)、11…マイクロ波発生源、12…光照射光源、13A,13B…検出部、14…演算部、15,15A,15B…導波管、16A、16B…間隙、17…光ファイバ、18…導光板、18’…反射拡散板、19…制御部
また本発明は、上述した本発明の光誘起キャリアライフタイム測定方法を行うための光誘起キャリアライフタイム測定装置でもある。この光誘起キャリアライフタイム測定装置は、光照射光源、マイクロ波発生源、検出部、および演算部を備えている。光照射光源は、試料に光誘起キャリア発生させるための誘起光をパルス照射する。マイクロ波発生源は、試料に照射するマイクロ波を発生する。検出部は、試料を透過するかまたは当該試料で反射したマイクロ波を検出する。演算部は、上述した誘起光の周期的な複数回のパルス照射に際しての照射時間T1および非照射時間T2と、検出部で検出したマイクロ波の強度の積分値とに基づいて、当該誘起光のパルス照射によって試料に発生した光誘起キャリアの実効ライフタイムを算出する。
本発明の第1実施形態の光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率の測定装置の概略構成図である。
本発明の第2実施形態の光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率の測定装置の概略構成図である。
本発明の第3実施形態を説明する図であり、Aは、光照射光源からの周期的な光照射の例を示す図である。Bは、マイクロ波発生源からの周期的なマイクロ波入射の例を示す図である。Cは、周期的に光照射を行った場合のキャリア密度の時間変化の例を示す図である。
式(5)を用いて実効ライフタイムτeff毎に算出したキャリア密度の比<n>/n0とT1との関係を示す図である。
実施例1における、<n>/n0とT1との関係を示す図である。
本発明の第4実施形態を説明するためのフローチャートである。
本発明の第4実施形態を説明する図であり、Aは、光照射光源からの周期的な光照射の例を示す図である。Bは、マイクロ波発生源からのマイクロ波入射の例を示す図である。Cは、周期的に光照射を行った場合のキャリア密度の時間変化の例を示す図である。
シリコン基板の少数キャリアがホールである場合の、時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を示す図である。
シリコン基板の少数キャリアが電子である場合の、時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を示す図である。
式(8)を用いて算出した実効ライフタイムτeffと、式(18)から得られる連続光照射における光誘起キャリアのライフタイムとの関係を示す図である。
半導体基体の各領域について算出した実効ライフタイムτeffの分布図である。
≪2.第2実施形態≫
図2に、光誘起キャリアライフタイム測定装置および光入射効率測定装置(以下、光誘起キャリアライフタイム測定装置と記す)の変形例の概略構成を示す。この図に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置が、図1で示した第1実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定装置と異なるところは、図1で示されている導光板18に換えて、反射拡散板18’を設けた構成にあり、他の構成は同様である。
一般的に、半導体基体等の光反射率は、分光器を用いて光学的に決めることができる。しかし、半導体表面に酸化膜のような透明な異種薄膜が形成されている場合、反射率は光入射角度により大きく変化する。このため従来、実効光反射率を測定するには、光照射光源の試料に対する光入射角度分布を知る必要があった。また、半導体基体表面に凹凸がある場合には、光は乱反射され、反射された光の一部は再び半導体基体に入射する可能性がある。このため、表面に凹凸がある半導体基体では、実効反射率の分光的決定はさらに困難であった。
誘起光のパルス照射は、図7Aに示すように、光強度I0で、かつ照射時間T1/非照射時間T2の周期で行う。この際、照射時間T1=非照射時間T2=時間Tとなる所定の時間Tに設定した誘起光のパルス照射を行なう。照射時間T1および非照射時間T2としては、第3実施形態と同様に0.01ms〜0.1sの範囲とすることができ、特に0.01ms〜10msの範囲とすることが好ましい。
以上の第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法によって得られる実効ライフタイムτeffは、以下の実施例3で説明するように、連続光照射における光誘起キャリアのライフタイムに対して整合性良好であることが確認された。
次に、以上の各欠陥分布を有するシリコン基板について、図8,9に示すような時間T−キャリア密度の比P(T)を解析することにより、第4実施形態で示した上記式(8)を用いて実効ライフタイムτeffを算出した。図10には、式(8)を用いて算出した実効ライフタイムτeffと、下記式(18)から得られる連続光照射における光誘起キャリアのライフタイムとの関係を示した。
本発明は、光照射によって半導体基体内で発生させた光誘起キャリアの実効ライフタイムを測定する光誘起キャリアライフタイム測定方法、およびこの測定方法を行うための光誘起キャリアライフタイム測定装置に関する。また本発明は、実効ライフタイムから半導体基体の光入射効率を得るための光入射効率測定方法、およびこの測定方法を行うための光入射効率測定装置に関する。
半導体基体の内部欠陥を評価する指標の1つとして、光誘起キャリアライフタイムが用いられている。光誘起キャリアライフタイムとは、光照射によって半導体基体中に発生させた光誘起キャリア(少数キャリア)のライフタイムである。
光誘起キャリアライフタイムを測定するための方法および装置の第1例として、μ−PCD(microwave photoconductive decay)法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この方法では、マイクロ波を半導体基体に照射した状態で、レーザ光のパルス照射を極めて短時間行う。このとき、半導体基体に照射しているマイクロ波の反射率が、レーザー光パルスによって誘起されたキャリア密度によって変化する。このため、この反射率の時間変化を測定することにより、半導体基体における光誘起キャリアの実効的なライフタイム(以下、実効ライフタイムと記す)が得られる。
また、半導体基体の光誘起キャリアライフタイムを測定する方法および装置の第2例として、QSSPC(quasi steady state photoconductivity)法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。この方法では、半導体基体にインダクタンスコイルを直面して配置し、RF周波を印加する。そして、半導体基体に光のパルス照射を極めて短時間行う。このとき、光パルスによって誘起されたキャリアによって、RF周波数の電磁波が反射される。この反射波の時間変化を、コイルに流れる電流の変化として測定することにより、半導体基体における光誘起キャリアの実効ライフタイムが得られる。
また、半導体基体の光誘起キャリアライフタイムを測定する方法および装置の第3例として、マイクロ波光干渉吸収法が知られている(例えば、非特許文献3参照)。この方法では、導波管で形成したマイクロ波干渉計に半導体基体を挿入し、この半導体基体に対してマイクロ波を照射した状態で連続光を照射する。この際、連続光の照射によって誘起されたキャリアによって、マイクロ波が吸収されるため、マイクロ波の透過率の減少を測定することによって光誘起キャリアの実効ライフタイムが得られる。
J. M. Borrego, R. J. Gutmann, N. Jensen, and O. Paz: Solid-State Electronics, 30 (1987) 195.
G. S. Kousik, Z. G. Ling, and P. K. Ajmera: J. App. Phys. 72 (1992) 141.
T. SAMESHIMA, H. HAYASAKA, and T. HABA, Jpn. J.Appl. Phys. 48 (2009) 021204-1-6.
上述の第1例で示したμ−PCD法および第2例で示したQSSPC法は、強い光パルスを半導体基体に照射して、半導体基体中に電子およびホールなどの光誘起キャリアを発生させ、この発生した光誘起キャリアの時間減衰率を測定する方法である。この方法は、簡便であるため広く使用されている。
しかしながらこれらの方法は、1回の光パルスで発生させた光誘起キャリアの減衰を、マイクロ波または電磁波の反射率の時間変化として測定する方法であるため、測定の精度を保つには高密度に光誘起キャリアを生成する必要がある。したがって、光誘起キャリアが低密度である場合においての実効ライフタイムを得ることが困難であった。
また以上の方法を実施するために開発されている測定システムでは、マイクロ波またはRF電場の試料への入射率の特定、および試料中で発生したキャリアによるマイクロ波の吸収やRF電場の吸収を解析することができない。このため、測定で得られた信号からキャリア密度を算出することができなかった。したがって、精度の高い実効ライフタイムを得ることができなかった。
一方、第3例として上述したマイクロ波光干渉吸収法では、半導体基体に連続光を照射して発生させた光誘起キャリアによるマイクロ波の透過率の変化を測定する方法であって、マイクロ波の透過率はキャリア密度に依存している。このため、1×1011cm-2程度の低密度の光誘起キャリアの検出が可能である。
つまり、測定されたマイクロ波の透過率から得られた光誘起キャリアのキャリア密度をnとするとき、実効ライフタイムτeffは、入射光強度I、光子エネルギーhv、試料表面反射率rを用いて下記式(1)で与えられる。
τeff=nhv/(1−r)I・・・(1)
式(1)からも明らかなように、精密なキャリア密度の測定は、精度良い実効ライフタイムの測定を可能にする。したがって、マイクロ波光干渉吸収法を用いることにより、2μsの小さい実効ライフタイムを得ることが可能である。
しかしながら、上記式(1)からもわかるように、上述したマイクロ波光干渉吸収法では、半導体基体の表面の試料表面反射率rが予め求められていなければならない。このため、例えばテクスチャ構造を有するソーラーセルのような半導体基板の場合、試料表面反射率rを決定することはできない。また入射光強度Iも、検出器の信号−光強度変換特性の任意性が残る。
そこで本発明は、試料となる半導体基体の表面状態によらずに、当該半導体基体の光誘起キャリアの実効ライフタイムを高精度に得ることが可能な光誘起キャリアライフタイム測定方法を提供することを目的とする。また本発明は、この測定方法を実現するための光誘起キャリアライフタイム測定装置を提供することを目的としている。さらに本発明は、この測定方法によって得られた実効ライフタイムから試料に対する光入射効率を得ることが可能な光入射効率測定方法を提供すること、およびこの方法を行う測定装置を提供することを目的としている。
このような目的を達成するための本発明の光誘起キャリアライフタイム測定方法は、次の手順で行うことを特徴としている。先ず、半導体基体に対して周期的に光をパルス照射すると共に、当該半導体基体にマイクロ波を照射する。この状態で、半導体基体を透過するかまたは当該半導体基体で反射した前記マイクロ波を検出する。次いで、光のパルス照射に際しての照射時間T1および非照射時間T2と、検出によって得られたマイクロ波強度の積分値とに基づいて、光によって半導体基体に発生した光誘起キャリアの実効ライフタイムを得る。
また本発明の光入射効率測定方法は、以上のようにして得られた実効ライフタイムを用いて、下記式(2)から光入射効率(1−r)を求めることを特徴としている。
ただし式(2)中、rは表面反射率、nは光誘起キャリア密度、Gは光強度(フォトン1個のエネルギー)である。
このような本発明の光誘起キャリアライフタイム測定方法および光入射効率測定方法によれば、半導体基体に対して光を周期的にパルス照射した状態で、この半導体基体を透過するかまたは半導体基体で反射したマイクロ波を検出している。このため、光の照射によって半導体基体内に発生した光誘起キャリアが低密度であっても、周期的な複数回のパルス照射毎に検出したマイクロ波強度の積分値を得ることにより、感度の高い測定結果を得ることができる。したがって、微弱な光の照射であっても、感度の高い測定結果を得ることができる。さらに、照射時間T1および非照射時間T2を変化させて、光を複数回にわたって周期的にパルス照射することで、T1,T2の変化に対するマイクロ波検出強度の積分値の変化が得られ、この変化からもキャリア減衰率を知ることができる。このため、測定対象である半導体基体の表面反射率等の情報を必要とすることなく、光誘起キャリアの実効ライフタイムが得られる。
また本発明は、上述した本発明の光誘起キャリアライフタイム測定方法を行うための光誘起キャリアライフタイム測定装置でもある。この光誘起キャリアライフタイム測定装置は、光照射光源、マイクロ波発生源、検出部、および演算部を備えている。光照射光源は、試料に光誘起キャリア発生させるための光をパルス照射する。マイクロ波発生源は、試料に照射するマイクロ波を発生する。検出部は、試料を透過するかまたは当該試料で反射したマイクロ波を検出する。演算部は、上述した光の周期的な複数回のパルス照射に際しての照射時間T1および非照射時間T2と、検出部で検出したマイクロ波の強度の積分値とに基づいて、当該光のパルス照射によって試料に発生した光誘起キャリアの実効ライフタイムを算出する。
さらに本発明は、上述した本発明の光入射効率測定方法を行うための光入射効率測定装置でもある。この光入射効率測定装置は、上述した光誘起キャリアライフタイム測定装置における演算部が、算出した実効ライフタイムに基づいて、さらに光入射効率を算出するものであることを特徴としている。
以上説明したように本発明によれば、試料の表面反射率などの情報を必要とすることなく、微弱な光の照射であっても感度の高いマイクロ波の検出結果に基づいて実効ライフタイムを得ることが可能である。この結果、例えばテクスチャ構造を有するソーラーセルのような半導体基体であっても、高精度に光誘起キャリアの実効ライフタイムを得ることが可能になる。
本発明の第1実施形態の光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率の測定装置の概略構成図である。
本発明の第2実施形態の光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率の測定装置の概略構成図である。
本発明の第3実施形態を説明する図であり、Aは、光照射光源からの周期的な光照射の例を示す図である。Bは、マイクロ波発生源からの周期的なマイクロ波入射の例を示す図である。Cは、周期的に光照射を行った場合のキャリア密度の時間変化の例を示す図である。
式(5)を用いて実効ライフタイムτeff毎に算出したキャリア密度の比<n>/n0とT1との関係を示す図である。
実施例1における、<n>/n0とT1との関係を示す図である。
本発明の第4実施形態を説明するためのフローチャートである。
本発明の第4実施形態を説明する図であり、Aは、光照射光源からの周期的な光照射の例を示す図である。Bは、マイクロ波発生源からのマイクロ波入射の例を示す図である。Cは、周期的に光照射を行った場合のキャリア密度の時間変化の例を示す図である。
シリコン基板の少数キャリアがホールである場合の、時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を示す図である。
シリコン基板の少数キャリアが電子である場合の、時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を示す図である。
式(8)を用いて算出した実効ライフタイムτeffと、式(18)から得られる連続光照射における光誘起キャリアのライフタイムとの関係を示す図である。
半導体基体の各領域について算出した実効ライフタイムτeffの分布図である。
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて、次に示す順に実施の形態を説明する。
1.第1実施形態「誘起キャリアライフタイム測定装置の構成例」
2.第2実施形態「光誘起キャリアライフタイム測定装置の構成の変形例」
3.第3実施形態「光誘起キャリアライフタイム測定方法の第1例」
4.第4実施形態「光誘起キャリアライフタイム測定方法の第2例」
5.第5実施形態「光誘起キャリアライフタイム測定方法の第3例」
尚、各実施形態において同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
≪1.第1実施形態≫
図1に、光誘起キャリアライフタイム測定装置および光入射効率測定装置(以下、光誘起キャリアライフタイム測定装置と記す)の概略構成を示す。この図に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置は、以降の実施形態で説明する光誘起キャリアライフタイム測定方法および光入射効率測定方法に用いるための装置であり、次のように構成されている。
光誘起キャリアライフタイム測定装置は、試料となる半導体基体10Aおよび参照用の半導体基体10Bに入射させるマイクロ波を発生するマイクロ波発生源11と、半導体基体10Aにキャリアを発生させるための光を照射する光照射光源12とを備える。また、半導体基体10A,10Bを透過したマイクロ波強度を検出する検出部13Aおよび検出部13Bと、これらの検出部13A,13Bで検出したマイクロ波強度に基づいて光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率を算出する演算部14とを備える。
光誘起キャリアライフタイム測定装置は、マイクロ波発生源11と検出部13A,13Bとの間に、マイクロ波干渉計を構成する導波管15を設けている。この導波管15は、マイクロ波発生源11と検出部13A,13Bとの間の中間部分で、対称な2つの導波管15A,15Bに分岐している。分岐した一方の導波管15Aには、試料となる半導体基体10Aが挿入される間隙16Aが設けられている。また分岐した他方の導波管15Bには、参照用の半導体基体10Bが挿入される間隙16Bが設けられている。間隙16A,16Bには、導波管15A,15Bの延設方向に対して略垂直に半導体基体10A,10Bが挿入される。これらの間隙16A,16Bは、導波管15A,15Bにおいて対称な位置に配置されている。
分岐した導波管15A,15Bは、マイクロ波発生源11から見た間隙16A、16Bの後方で結合している。そして、結合した導波管15が再び2つに分岐され、分岐した先がそれぞれ検出部13Aと検出部13Bとに接続されている。
これにより図1に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置では、マイクロ波発生源11から発生したマイクロ波が、導波管15内を通り、導波管15A,15Bの間隙16A、16Bに挿入された半導体基体10A,10Bに照射される構成となっている。また、半導体基体10A,10Bを透過したマイクロ波が、導波管15A,15Bを通り、検出部13A,13Bのそれぞれに導かれる構成となっている。
以上のような構成において、試料となる半導体基体10Aが挿入される間隙16Aには、光照射光源12からの光を半導体基体10Aに入射するための導光板18が挿入されている。この導光板18は、間隙16Aに挿入される半導体基体10Aと接するように、半導体基体10Aが挿入される箇所よりも検出部13A,13B側(またはマイクロ波発生源11側)に配置される。このような導光板18は、光ファイバ17により光照射光源12と接続されている。尚、導光板18は、半導体基体10Aが挿入される箇所の検出部13A,13B側、およびマイクロ波発生源11側の両方に配置されていても良い。
ここで、マイクロ波発生源11は、次に説明する光照射光源12からの光照射に同期してマイクロ波を発生させる。
光照射光源12は、試料となる半導体基体10Aに対して、周期的に光をパルス照射して半導体基体にキャリアを発生させる光源からなる。このような光照射光源12は、例えば、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ光源からなる。また、YAGレーザ以外にも、発光ダイオード(LED)、キセノンランプ、ハロゲンランプ等の半導体基体に吸収される波長の光を発する光源、特に250nm以上2500nm以下の波長の光を発する光源であれば限定することなく光源として使用することができる。またこの光照射光源12は、光のパルス照射の周期を、例えば照射時間T1=非照射時間T2とした異なる任意の各周期に変更可能である。例えば、照射時間T1および非照射時間T2は、0.01ms〜0.1sの範囲で任意に変更される。
検出部13Aは、試料となる半導体基体10Aからのマイクロ波透過強度JAと、参照用の半導体基体10Bからのマイクロ波透過強度JBとの差IA-Bを検出する。また、検出部13Bは、試料となる半導体基体10Aからのマイクロ波透過強度JAと、参照用の半導体基体10Bからのマイクロ波透過強度JBとの和JA+Bを検出する。図1に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置では、マイクロ波透過強度JAとJBとの差JA-Bおよび和JA+Bを検出することよりマイクロ波透過強度を検波増幅し、マイクロ波の検出感度を向上させることができる。
演算部14は、検出部13A,13Bで検出されたマイクロ波透過強度と、および光照射光源12で照射する光の周期とに基づいて、間隙16Aに挿入された半導体基体10Aにおける光誘起キャリアのライフタイムおよび光入射効率を算出する。この演算部14においては、例えば先ず、上述の非特許文献3に記載された方法等を用いることで、周期的な光照射により半導体基体10Aに発生する光誘起キャリアのキャリア密度を求める。そして、求めたキャリア密度から、光誘起キャリアの実効ライフタイムおよび実効光入射効率を求める。演算部14においての実効ライフタイムおよび実効光入射効率の算出手順は、以降の光誘起キャリアライフタイム測定方法で詳細に説明する。
尚、上述の図1に示す測定装置には、演算部14で算出した結果に基づいて、マイクロ波発生源11におけるマイクロ波の照射および光照射光源12における光の照射を制御する制御部19を設けても良い。
さらにここでの図示は省略したが、上述の図1に示す測定装置には、マイクロ波発生源から発生したマイクロ波を、試料となる半導体基体10Aの一主面を領域分けした各領域に対して選択的に照射するための位置合わせ手段を設けても良い。このような位置あわせ手段としては、例えば、間隙16Aに挿入した半導体基体10Aを、マイクロ波の入射方向に対して垂直方向に自在に移動させることが可能な可動ステージが用いられる。また、このような可動ステージに換えて、間隙16Aに挿入した半導体基体10Aに対して、マイクロ波の入射位置を自在に移動させることが可能なマイクロ波走査手段が用いられる。
以上のような図1に示す測定装置は、光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率測定装置の一例であり、上述の構成以外でも光誘起キャリアライフタイムおよび光入射効率測定装置を構成することができる。
例えば、図1に示す測定装置は、導波管15を2つに分岐して、試料となる半導体基体10Aと参照用の半導体基体10Bとの透過率の和および差を利用して高精度にマイクロ波の透過率を求めている構成である。しかしながら、光誘起キャリアライフタイム測定装置は、導波管15B、および検出部13Bを除いた構成であっても良い。
この場合の光誘起キャリアライフタイム測定装置は、マイクロ波を発生するマイクロ波発生源11と、半導体基体10Aにキャリアを発生させる光を照射する光照射光源12と、検出部13Aと、演算部14と、分岐を持たない導波管15とにより構成される。導波管15には、試料となる半導体基体10Aが挿入される間隙が設けられ、この間隙に、光ファイバ17によって光照射光源12に接続された導光板18が挿入されている。このような測定装置において、マイクロ波発生源11と光照射光源12とは、先に説明した第1実施形態の測定装置と同様の構成である。検出部13Aは、試料となる半導体基体10Aからのマイクロ波透過強度JAを検出する。演算部14は、検出部13Aで検出されたマイクロ波透過強度JAから、半導体基体10Aにおける、光誘起のキャリア密度、実効ライフタイム、および実効光入射効率を算出する。
以上のような第1実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定装置によれば、以降に説明する光誘起キャリアライフタイム測定方法および光入射効率測定方法に用いることが可能である。
≪2.第2実施形態≫
図2に、光誘起キャリアライフタイム測定装置および光入射効率測定装置(以下、光誘起キャリアライフタイム測定装置と記す)の変形例の概略構成を示す。この図に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置が、図1で示した第1実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定装置と異なるところは、図1で示されている導光板18に換えて、反射拡散板18’を設けた構成にあり、他の構成は同様である。
すなわち図2の光誘起キャリアライフタイム測定装置は、導波管15Aの側壁に、小さな穴を備えている。この穴には、光照射光源12に接続された光ファイバ17の端部が取り付けられ、光照射光源12からの光が光ファイバ17を介して導波管15Aに導入される構成となっている。この導波管15Aの内部には、反射拡散板18’が配置されている。この反射拡散板18’は、光ファイバ17からの光を、半導体基体10Aが挿入される間隙16A側に向けて拡散させながら反射する。また反射拡散板18’は、マイクロ波発生源11で発生したマイクロ波を透過する。このような反射拡散板18’は、例えばフッ素樹脂からなる。
以上の反射拡散板18’およびこれに接続された光ファイバ17は、導波管15Aにおいて、試料となる半導体基体10Aが挿入される間隙16Aのマイクロ波発生源11側および検出部13A,13B側の少なくとも一方に設けられている。
上述の図2に示した第2実施形態の測定装置であっても、図1に示した第1実施形態の測定装置と同様に、間隙16Aに挿入した半導体基体10Aを、マイクロ波の入射方向に対して垂直方向に自在に移動させることが可能な可動ステージを備えていても良い。また、このような可動ステージに換えて、間隙16Aに挿入した半導体基体10Aに対して、マイクロ波の入射位置を自在に移動させることが可能なマイクロ波走査手段を備えていても良い。
さらに、第2実施形態の測定装置であっても、図1に示した第1実施形態の測定装置と同様に、導波管15Bおよび検出部13Bを除いた構成とすることができる。
以上のような第2実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定装置であっても、第1実施形態の測定装置と同様に、以降に説明する光誘起キャリアライフタイム測定方法および光入射効率測定方法に用いることが可能である。
≪3.第3実施形態≫
次に、光誘起キャリアライフタイム測定方法の第1例を説明する。以下の説明では、図1または図2に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置を用いて光誘起キャリアの実効ライフタイムを測定する方法、および実効光入射効率を測定する方法を説明する。
<光誘起キャリアライフタイム測定方法>
先ず予め、光誘起キャリアライフタイム測定方法に用いるデータテーブルを、次のようにして作成する。
先ず、試料となる半導体基体10Aにキャリアを発生させるための光の照射条件を設定する。ここでは、例えば図3Aに示すように、光照射光源12から光強度I0の光を、所定周期を持って間歇的にパルス照射させることとする。このような光の周期的なパルス照射において、光の照射時間(パルス幅)を照射時間T1、光の非照射時間(パルス間隔)を非照射時間T2とする。照射時間T1および非照射時間T2は、半導体における光誘起キャリア(少数キャリア)の実効ライフタイムの値をカバーする時間範囲で設定するのが好適である。一般にシリコン薄膜およびシリコン基板における上記の実効ライフタイムは、1μs〜0.01sの範囲である。このため、照射時間T1および非照射時間T2の時間範囲は1μs〜0.01s範囲とすることが好ましい。またここでは、照射時間T1=非照射時間T2とを同じ時間(T1=T2)として設定する。
また、測定光となるマイクロ波の発生条件を設定する。ここでは、例えば図3Bに示すように、マイクロ波発生源11から、光のパルス照射に同期させて、周期的にマイクロ波を強度J0で入射させることとする。このとき、光の照射時間T1と、マイクロ波の照射時間とが重ならないようにする。つまり、光の照射時間T1においてはマイクロ波を照射せず、光の非照射時間T2においてマイクロ波を照射する。
以上のように設定された光のパルス照射においては、光の照射によって半導体基体10Aに光誘起キャリアが生成され、光照射が終わると誘起された光誘起キャリアのキャリア密度nがライフタイムτeffにしたがって減衰する。この減衰は以下の式(3)で表すことができる。
上記式(3)中のn0は、光の照射を連続的にしたとき、つまり光照射光源12からの光の照射を図3Aに示すような周期的なパルス照射とせず、光を連続照射した場合に半導体基体10Aに発生する光誘起キャリアのキャリア密度である。
ここで、半導体基体10Aに周期的に光をパルス照射した場合のキャリア密度の時間変化の例を図3Cに示す。この図に示すように、半導体基体10Aでは、光の照射時間T1の間、キャリア密度が増加する。また、光の照射を停止する非照射時間T2の間、キャリア密度が低下する。先に設定したマイクロ波の発生条件では、このようにキャリア密度が低下するときに半導体基体10Aに対してマイクロ波が入射される。
入射したマイクロ波のうち半導体基体10Aを透過したマイクロ波の強度を検出し、検出したマイクロ波強度に基づいてマイクロ波透過率を算出し、算出したマイクロ波透過率を積分する。この積分によって得られた積分値は、非照射時間T2においてのキャリア密度nの平均値に対応した値となる。非照射時間T2においてのキャリア密度の平均値は、下記式(4)で表される。
上記式(4)より、キャリア密度nの積分平均値(積分値)は、照射時間T1、非照射時間T2、光誘起キャリアの実効ライフタイムτeff、および連続光照射時のキャリア密度n0に依存することがわかる。
ここで、上記式(4)において、照射時間T1と非照射時間T2とを同じ時間(T1=T2)とした場合、キャリア密度nの平均値は、以下の式(5)で表される。
そこで上記式(5)を用いてデータテーブルを作成する。ここでは幾つかの異なる実効ライフタイムτeffを設定し、上記式(5)を用いて、照射時間T1(=非照射時間T2)の変化による、キャリア密度の平均値<n>の変化を計算する。そして、実効ライフタイムτeff毎に、キャリア密度の平均値<n>と連続光照射時のキャリア密度n0との比<n>/n0を求めて照射時間T1に対して比<n>/n 0 をプロットする。これにより、図4のようなデータテーブルが得られる。
すなわち、図4のデータテーブルは、光誘起キャリアの実効ライフタイムτeff毎の、照射時間T1(=非照射時間T2)に対する<n>/n0の関係を示している。縦軸は、非照射時間T2において検出したマイクロ波透過強度に基づくキャリア密度<n>と、連続光照射時のキャリア密度n0との比<n>/n0である。横軸は、照射時間T1(ms)(=非照射時間T2)を示す。図4では、実効ライフタイムτeffを5×10−4(s)から2.0×10−3(s)まで、0.5×10−4(s)毎に設定した。また各実効ライフタイムτeff毎に、照射時間T1(=非照射時間T2)を、0から3msまで変化させて上記式(5)を用いてキャリア密度n0との比<n>/n0を算出し、グラフ化している。
図4に示すように、<n>/n0の最大値は、連続光照射時のキャリア密度n0の0.5倍である。また、<n>/n0は、ライフタイムτeffとT1に対して規則的な曲線を描く。
次に、図4のデータテーブルを用いることにより、光誘起キャリアの実効ライフタイムが未知の試料において、<n>/n0とT1との関係を求め、図4に示す各実効ライフタイムτeffの曲線と比較することにより、実効ライフタイムを求める。
具体的には、先ず、図1または図2に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置の導波管15Aの間隙16Aに、試料となる半導体基体10Aを挿入する。この際、半導体基体10Aにおける光の照射面に接するように導光板18を配置するか、または半導体基体10Aにおける光の照射面を反射拡散板18’側に向けて配置する。また、半導体基体10A,10Bは、マイクロ波発生源11に対して同じ向きにして配置する。
次に、光照射光源12から半導体基体10Aに、光を周期的にパルス照射する。光の照射条件は先に設定した条件であり、例えば図3Aに示すように、照射時間T1=非照射時間T2である。
また光のパルス照射と同期させて、マイクロ波発生源11から半導体基体10A,10Bにマイクロ波を照射する。マイクロ波の照射条件は、先に設定した条件であり、例えば図3Bに示すように、光のパルス照射に対して逆相とし、光の照射時間T1においてはマイクロ波を照射せず、光の非照射時間T2においてマイクロ波を照射する。
この状態で、半導体基体10A,10Bを透過したマイクロ波を、検出部13A,13Bで検出する。演算部14では、検出部13A,13Bで検出されたマイクロ波透過強度を足し合わせて増幅する。
また演算部14では、光の各非照射期間T2において検出されるマイクロ波透過強度と、1つ前の非照射期間T2において検出されたマイクロ波透過強度とを比較する。そして、比較したマイクロ波透過強度の差が所定値以下となったところで、先の図3Cに示したように、周期的な光のパルス照射間においてのキャリア密度の時間変化が安定したと判断する。
キャリア密度が安定したと判断された後、演算部14では、増幅されたマイクロ波強度に基づいて、マイクロ波透過率を算出してさらに積分値を得る。この積分値は、上述した式(5)で表され、所定の照射時間T1(=非照射時間T2)においてのキャリア密度の平均値<n>となる。尚、マイクロ波透過率の算出には、例えば参照用の半導体基体10Bのマイクロ波透過率を用いれば良く、この値は予め求めておくこととする。
また演算部14では、以上のようにして得られた所定の照射時間T1(=非照射時間T2)においてのキャリア密度の平均値<n>と、予めの測定によって算出しておいた連続光照射時のキャリア密度n0とから、<n>/n0とT1の関係を得る。尚、連続光照射時のキャリア密度n0は、上述の図1に示す測定装置を用いてマイクロ波透過強度を検出し、検出したマイクロ波透過強度の減衰率を解析することによって決定することができる。
ここでは、制御部19によって、図4のデータテーブルを作成した際に設定した範囲で照射時間T1(=非照射時間T2)を変更する。
そして変更した照射時間T1(=非照射時間T2)毎に<n>/n0を算出し、未知の試料に関して算出された<n>/n0とT1の関係を、図4のデータテーブルに示されているデータにフィティングさせる。これにより、未知の試料の実効ライフタイムτeffを求める。
以上説明したように、本第3実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法では、光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffを求めるためのパラメータとして、試料となる半導体基体の表面反射率rが含まれていない。従来のマイクロ波光干渉吸収法では、半導体基体の表面反射率rが予め求められていなければならない。これに対して、本第3実施形態の光誘起キャリアライフタイムの測定方法では半導体基体の表面反射率を用いることなく、試料となる半導体基体10Aにおける光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffを測定することができる。
また、試料となる半導体基体に対して、光を周期的にパルス照射しているため、周期的な複数回のパルス照射毎に検出したマイクロ波強度の積分値を得ることにより、感度の高い測定結果を得ることができる。
したがって、半導体基体の表面の反射率は測定が困難な場合、特に、事実上反射率を決定することができないテクスチャを有するソーラーセル構造においても、光誘起キャリアの実効ライフタイムを高感度に求めることが可能である。また、微弱な光の照射であっても感度の高いマイクロ波の検出結果に基づいて実効ライフタイムを得ることが可能である。
<光入射効率測定方法>
次に、上述の方法で求められた光誘起キャリアの実効ライフタイムから、半導体基体の実効光入射効率を求める光入射効率測定方法を説明する。
先ず、半導体基体中に定常的に存在する光誘起キャリアのキャリア密度nは、前述した下記式(2)で示すことができる。式(2)において、rは実効表面反射率、Gは連続的に照射されている光の光強度(フォトン1個のエネルギー)、τeffは実効ライフタイムである。ここで実効表面反射率rとは、試料となる半導体基体の表面においての光散乱などをも考慮した実際の反射率であり、例えばテクスチャ構造を有する半導体基体の表面においての反射率である。
上記式(2)において、キャリア密度nは連続光照射時の値(つまりn0)であり、上述の図1に示す測定装置を用いてマイクロ波透過強度を検出し、検出したマイクロ波透過強度の減衰率を解析することによって決定することができる。また、フォトンフラックスGは、光照射強度を精密に測定することにより決定することができる。さらに、実効ライフタイムτeffは、上述の実施の形態の光誘起キャリアライフタイムの測定方法により求めることができる。
したがって、上述した光誘起キャリアライフタイム測定方法によって得られた実効ライフタイムτeffに基づいて、上記式(2)を用いて、試料となる半導体基体10Aにおいての実効光入射効率(1−r)を求めることができる。
また、周期的な光の照射の場合において光誘起キャリアのキャリア密度<n>は、上記式(2)におけるフォトンフラックスGの平均強度を、照射時間T1及び非照射時間T2に応じて下記式(6)のように変更することによって求めることができる。
したがって、上記式(6)を用いることにより、上述した光誘起キャリアライフタイム測定方法によって得られた実効ライフタイムτeffに基づいて、試料となる半導体基体10Aにおいての実効光入射効率(1−r)を求めることができる。
一般的に、半導体基体等の光反射率は、分光器を用いて光学的に決めることができる。しかし、半導体表面に酸化膜のような透明な異種薄膜が形成されている場合、反射率は光入射角度により大きく変化する。このため従来、実効光反射率を測定するには、光照射光源の試料に対する光入射角度分布を知る必要があった。また、半導体基体表面に凹凸がある場合には、光は乱反射され、反射された光の一部は再び半導体基体に入射する可能性がある。このため、表面に凹凸がある半導体基体では、実効反射率の分光的決定はさらに困難であった。
これに対して以上説明した本実施形態の方法によれば、光誘起キャリアのキャリア密度と、上述の本実施の形態の測定方法により得た光誘起キャリアの実効ライフタイムとを用いることにより、容易に半導体基体の実効光入射効率を決定できる。したがって、本発明の光入射効率測定方法は、複雑な凹凸のテクスチャ構造や複雑な光干渉を有することで表面の光反射率を測定が困難なソーラーセル構造においても、高精度に実効光入射効率を求めることが可能にある。しかも、上述した実効入射効率の測定には、周期的な複数回のパルス照射毎に検出したマイクロ波強度が用いられる。このため、感度の高い測定結果を得ることができる。
<実施例1>
[光誘起キャリアライフタイムの測定]
上述の光誘起キャリアライフタイム測定装置を用い、本第3実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法を適用して、半導体基体における光誘起キャリアの実効ライフタイムを求めた。
本実施例1では、試料となる半導体基体として、100nmの熱酸化膜がコーティングされた525μm厚のn型シリコン基板を用いた。このシリコン基板に、波長532nmの光を、強度20mW/cm2で連続照射し、光誘起キャリアのキャリア密度n0を求めた。また、同じシリコン基板に、532nmの光を、強度20mW/cm2で周期的にパルス照射し、照射時間T1(=非照射時間T2)を変化させたときの、シリコン基板のキャリア密度<n>をそれぞれ求めた。
図5に、本実施例1で求めたキャリア密度の比<n>/n0と光の照射時間T1との関係を◆で示す。図5は、図4に示した<n>/n0とT1の計算値のデータテーブルに、本実施例1で求めた<n>/n0とT1との関係を重ねて示した図である。
図4に示す<n>/n0とT1の計算値と、図5に示す本実施例の<n>/n0とT1の関係との比較により、本実施例1で試料として用いたシリコン基板における光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffは、約2.2×10-4(s)であることがわかった。
<実施例2>
[光誘起キャリアライフタイムの測定および光入射効率の測定]
上述の光誘起キャリアライフタイム測定装置を用い、本第3実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法を適用して、半導体基体における実効ライフタイムを求め、さらに得られた実効ライフタイムから半導体基体における実効光入射効率を求めた。
本実施例2では、試料となる半導体基体として、100nmの熱酸化膜をコーティングされた525μm厚のn型シリコン基板を用いた。このシリコン基板の表面は鏡面研磨されており、裏面は研磨なしのラフ面であり、両面に熱酸化膜がコーティングされている。
このシリコン基板の鏡面表面と裏面ラフ面に、グリーン光面光源からの波長532nmの光を、強度1.8mW/cm2で連続照射し、鏡面表面および裏面ラフ面それぞれのキャリア密度n0を求めた。鏡面表面に対する連続光照射時のキャリア密度n0=1.32×1012cm-2、裏面ラフ面に対する連続光照射時のキャリア密度n0=1.68×1012cm-2であった。
また、同じシリコン基板の鏡面表面と裏面ラフ面に、グリーン光面光源からの波長532nmの光を、強度1.8mW/cm2で周期的にパルス照射し、照射時間T1(=非照射時間T2)を変化させたときの、シリコン基板のキャリア密度<n>をそれぞれ求めた。
図4に示したデータテーブルに、本実施例2で求めたキャリア密度の比<n>/n0と、光の照射周期T1との関係を重ねて比較し、半導体基体における鏡面表面および裏面ラフ面それぞれに光照射した場合の光誘電キャリアの実効ライフタイムτeffを求めた。鏡面表面及び裏面ラフ面のいずれの場合も、実効ライフタイムτeffは約4.0×10-4(s)であった。
次に、先に算出した鏡面表面に対する連続光照射時のキャリア密度n0(=1.32×1012cm-2)と、測定によって得られたフォトンフラックスG(=4.82×1015 cm -2 s -1 )と、先に得られた実効ライフタイムτeff(=約4.0×10-4(s))と、上記式(6)から、実効入射効率(1−r)を算出した。この結果、鏡面表面に対する実効光入射効率(1−r)=0.68であり、実効的反射率r=0.32であった。
さらに、先に算出した裏面ラフ面に対する連続光照射時のキャリア密度n0(=1.68×1012cm-2)と、測定によって得られたフォトンフラックスG(=4.82×1015 cm -2 s -1 )と、先に得られた実効ライフタイムτeff(=約4.0×10-4(s))と、上記式(6)から、実効入射効率(1−r)を算出した。この結果、裏面ラフ面に対する実効光入射効率(1−r)=0.87であり、実効的反射率r=0.13であった。
尚、上述の第3実施形態では、マイクロ波透過強度の積分値に対応して得られる非照射時間T2(=照射時間T1)においてのキャリア密度の平均値<n>を規格化するために、連続光照射時のキャリア密度n0に対するキャリア密度の平均値<n>の値<n>/n0を用いた。しかしながら、キャリア密度の平均値<n>は、規格化せずにそのまま用いても良い。また非照射時間T2(=照射時間T1)においてのキャリア密度の平均値<n>を、照射時間T1においてのキャリア密度の平均値に対する値として規格化しても良い。この場合、照射時間T1においてもマイクロ波透過強度の測定を行うこととする。
≪4.第4実施形態≫
次に、光誘起キャリアライフタイム測定方法の第2例を説明する。以下の説明では、図1または図2に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置を用いて光誘起キャリアの実効ライフタイムを測定する方法、および光入射効率を測定する方法を、図6のフローチャートを用いて説明する。
先ず、図1または図2に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置における導波管15Aの間隙16Aに、試料となる半導体基体10Aを挿入する。この際、半導体基体10Aにおける光の照射面に接するように導光板18を配置するか、または半導体基体10Aにおける光の照射面を反射拡散板18’側に向けて配置する。また、導波管15Bの間隙16Bに、参照用の半導体基体10Bを挿入する。半導体基体板10A,10Bは、マイクロ波発生源11に対して同じ向きにして配置することが好ましい。
この状態においてステップS1では、試料となる半導体基体10Aに対して、光照射光源12から光を周期的にパルス照射する。また同時に、試料となる半導体基体10Aおよび参照用の半導体基体10Bに対して、マイクロ波発生源11から測定用のマイクロ波を照射する。
光のパルス照射は、図7Aに示すように、光強度I0で、かつ照射時間T1/非照射時間T2の周期で行う。この際、照射時間T1=非照射時間T2=時間Tとなる所定の時間Tに設定した光のパルス照射を行なう。照射時間T1および非照射時間T2としては、第3実施形態と同様に0.01ms〜0.1sの範囲とすることができ、特に0.01ms〜10msの範囲とすることが好ましい。
マイクロ波の照射は、図7Bに示すように、強度J0で、かつ光の照射時間T1および非照射時間T2を通して連続して行われる。ここでは、例えば9.35GHzのマイクロ波を用いることとする。
次のステップS2では、先のステップS1で半導体基体10A,10Bに照射され、さらにこれらの半導体基体10A,10Bを透過したマイクロ波を、検出部13A,13Bで検出する。ここでは、先に説明したように検出部13A,13Bでのマイクロ波の検出により、検波増幅されたマイクロ波透過強度Jが得られる。
次に、ステップS3では、演算部14において、先のステップS2で得られたマイクロ波透過強度Jと、設定された照射時間T1=非照射時間T2=時間Tとに基づいて、下記式(7)に示すように光誘起キャリアのキャリア密度の比P(T)を算出する。ここで算出するキャリア密度の比P(T)は、照射時間T1(0→T)においての平均キャリア密度Nonに対しての、非照射時間T2(T→2T)においての平均キャリア密度Noffの比である。
式(7)において、Trはマイクロ波の透過率であり、Tr0は光をパルス照射するより以前の暗状態においてのマイクロ波の透過率である。これらのマイクロ波透過率Tr,Tr0の算出には、例えば予め求められている参照用の半導体基体10Bのマイクロ波透過率を用いれば良い。また、暗状態におけるマイクロ波透過率Tr0は、ステップS1からの測定開始前に予め算出されていることとする。
尚、演算部14では、以上のような式(7)を用いたキャリア密度の比P(T)の算出に先立ち、以下のような判断を行うこととする。すなわち、ステップS2で得られるマイクロ波透強度を、光のパルス照射における連続した2つの周期間で比較する。そして、比較したマイクロ波透過強度の差が所定値以下となったところで、先の図7Cに示したように、周期的な光のパルス照射間においてのキャリア密度の時間変化が安定したと判断する。その後上記ステップS3の算出を行う。
次に、ステップS4では、演算部14において、先のステップS3で算出されたキャリア密度の比P(T)として、P(T)=0.859またはP(T)=0.615が得られたか否かを判断する。P(T)=0.859およびP(T)=0.615の両方の結果が得られていない場合にはステップS5に進み、P(T)=0.859およびP(T)=0.615の両方の結果が得られた場合のみにステップS6に進む。
ステップS5では、ステップS1においての光の周期的なパルス照射の時間T(=照射時間T1=非照射時間T2)を変更する。ここでは、演算部14において、ステップS3で算出された結果をフィードバックして、キャリア密度の比P(T)がP(T)=0.859またはP(T)=0.615に近づくように時間Tを変更する。
その後、ステップS1では、ステップS5で変更した時間Tの周期で、試料となる半導体基体10Aに光を周期的にパルス照射すると共に、半導体基体10A,10Bに測定用のマイクロ波を照射する。このような光のパルス照射とマイクロ波の照射とは、演算部14において変更された時間Tに基づいて、マイクロ波発生源11と光照射光源12とを制御することによって行う。このようなマイクロ波発生源11および光照射光源12の制御は、演算部14に接続された制御部19によって行われる。
以降は、ステップS4においてP(T)=0.859およびP(T)=0.615の両方の結果が得られたと判断されるまで、ステップS1〜S5を繰り返し行う。
一方、ステップS4においてP(T)=0.859およびP(T)=0.615の両方の結果が得られたと判断された場合、ステップS6では、下記式(8)を用いて、光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffを算出する。ただし、T(P=0.859)は、ステップS3で得られたP(T)=0.859を与える時間Tである。またT(P=0.615)は、ステップS3で得られたP(T)=0.615を与える時間Tである。尚、式(8)については、以降に詳細を説明する。
以上の第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法によって得られる実効ライフタイムτeffは、以下の実施例3で説明するように、連続光照射における光誘起キャリアのライフタイムに対して整合性良好であることが確認された。
このような第4実施形態の光誘起キャリアライフタイムの測定方法であっても、試料となる半導体基体の表面反射率rをパラメータとして用いることなく、光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffが求められる。また、試料となる半導体基体に対して、光を周期的にパルス照射しているため、周期的な複数回のパルス照射毎に検出したマイクロ波強度の積分値を得ることにより、感度の高い測定結果を得ることができる。
したがって第3実施形態の方法と同様に、半導体基体の表面の反射率は測定が困難な場合、例えば事実上反射率を決定することができないテクスチャを有するソーラーセル構造においても、光誘起キャリアの実効ライフタイムを高感度に求めることが可能である。
尚、上述した第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法では、ステップS2で得られたキャリア密度の比P(T)をフィードバックし、P(T)=0.859またはP(T)=0.615に近づくように、ステップS4において時間Tを変更した。しかしながら、本第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法は、このような手順に限定されることはなく、所定の範囲で時間Tを順次変更しても良い。この場合、順次変更した各時間Tでの光の照射で得られたキャリア密度の比P(T)のなかから、P(T)=0.859およびP(T)=0.615を見つけ出し、これらに対応するT(P=0.859)およびT(P=0.615)を得る。
<式(8)について>
本第4実施形態で用いた式(8)は、以下のようにして導き出した。
半導体基体において、深さx、時間tでのキャリア体積密度n(x、t)とすると、基板厚dの半導体基体における単位面積あたりのキャリア密度N(t)は、下記(9)のように計算される。
また、先の式(7)のように定義した光誘起キャリアのキャリア密度の比P(T)は、上記式(9)の単位面積あたりのキャリア密度N(t)を用いて、下記式(10)のように表される。尚、キャリア密度の比P(T)は、照射時間T1(0→T)においての平均キャリア密度Nonに対しての、非照射時間T2(T→2T)においての平均キャリア密度Noffの比である。
ここで、試料となる半導体基体の欠陥がバルク欠陥のみである場合、光照射側の表面再結合速度Stop=0、および光照射に対する裏面側の表面再結合速度Srear=0である。この場合、照射時間T1(0→T)においてのキャリア密度Non、および非照射時間T2(T→2T)においての平均キャリア密度Noffは、少数キャリアのバルクライフタイムτbを用いて、下記式(11)、(12)のように表される。
式(11)および式(12)に基づいて、式(10)を書き換えると、下記式(13)が与えられる。
上記式(13)においてT=τb、T=2τbとすると、下記式(14)および式(15)となる。
以上の式(14)で表される数値を用い、キャリア密度の比P(T)が0.859のときの照射時間T1(パルス幅)を、下記式(16)で示されるτpulseとした。
また、下記式(17)のようにRを定義した。P(0.615)は、P(T)=0.615のときの照射時間T1である。T=P(0.859)は、P(T)=0.859のときの照射時間T1である。
以上のようにして定義したτpulseとRとを用いて、上記式(8)を表した。
<光入射効率測定方法>
第4実施形態で説明した測定方法で得られた光誘起キャリアの実効ライフタイムから、半導体基体の実効光入射効率を求める光入射効率測定方法は、第3実施形態において説明したと同様に行われる。
<実施例3>
[光誘起キャリアライフタイムの測定]
上述の光誘起キャリアライフタイム測定装置を用い、本第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法を適用して、半導体基体における光誘起キャリアの実効ライフタイムを求めた。
本実施例3では、半導体基体として、欠陥分布が異なる各シリコン基板について、光の照射時間T1=非照射時間T2=時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を、式(7)を用いて計算により算出した。各シリコン基板は、少数キャリア(光誘起キャリア)のバルクライフタイムτb、光照射側の表面再結合速度Stop、および光照射に対する裏面側の表面再結合速度Srearが、それぞれの値に設定されている。これらの値は、半導体基体における各部位(すなわちバルク、光照射側面、およびその裏面)の欠陥の多さを示す値である。
図8には、シリコン基板の少数キャリアがホールである場合の、時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を示した。図9には、シリコン基板の少数キャリアが電子である場合の、時間Tに対するキャリア密度の比P(T)を示した。
次に、以上の各欠陥分布を有するシリコン基板について、図8,9に示すような時間T−キャリア密度の比P(T)を解析することにより、第4実施形態で示した上記式(8)を用いて実効ライフタイムτeffを算出した。図10には、式(8)を用いて算出した実効ライフタイムτeffと、下記式(18)から得られる連続光照射における光誘起キャリアのライフタイムとの関係を示した。
図10に示すように、本第4実施形態の式(8)を用いて算出した実効ライフタイムは、式(18)に示した光連続照射時における光誘起キャリアのライフタイムと一致している。このことから、本第4実施形態で説明した方法により、半導体基体においての光誘起キャリアの実効ライフタイムτeffが高精度に得られることが確認された。
尚、上述の第4実施形態では、キャリア密度の比P(T)として、照射時間T1(0→T)においての平均キャリア密度Nonに対しての、非照射時間T2(T→2T)においての平均キャリア密度Noffの比を用いた。しかしながら、キャリア密度の比P(T)がこれに限定されることはなく、例えば、連続照射においてのキャリア密度n0に対しての、非照射時間T2(T→2T)においての平均キャリア密度Noffの比であってもよい。この場合、式(8)のRを構成するT(P)は、他の適する値が用いられる。
≪5.第5実施形態≫
次に、光誘起キャリアライフタイム測定方法の第3例を説明する。ここでは、図1または図2に示す光誘起キャリアライフタイム測定装置を用いて、半導体基体における光誘起キャリアの実効ライフタイムの面分布を測定する方法を説明する。
先ず、試料となる半導体基体10Aのマイクロ波の照射面側を、複数の領域に領域分けする。ここでは例えば、半導体基体10Aのマイクロ波の照射面側を1cm×0.5cmの各領域に分割する。
次に、分割した各領域毎に、上述した第3実施形態または第4実施形態の光誘起キャリアライフタイム測定方法を実施し、各領域における光誘起キャリアの実効ライフタイムを測定する。この場合、光誘起キャリアライフタイム測定装置に設けられた可動ステージによって、半導体基体10Aをマイクロ波の入射方向に対して垂直方向に自在に移動させることで、半導体基体10Aの各領域に対して選択的にマイクロ波を照射させて測定を行う。または、光誘起キャリアライフタイム測定装置に設けられたマイクロ波走査手段によって、マイクロ波の照射位置を移動させることで、半導体基体10Aの各領域に対して選択的にマイクロ波を照射させて測定を行う。
以上のような第5実施形態の光誘起キャリアライフタイムの測定方法により、光誘起キャリアの実効ライフタイムの面分布を得ることが可能である。この面分布の測定には、より高い周波数のマイクロ波を用いることにより、空間分解能の高い測定を行うことが可能である。
<光入射効率測定方法>
第5実施形態で説明した測定方法で得られた光誘起キャリアの実効ライフタイムから、半導体基体の実効光入射効率を求める光入射効率測定方法は、第3実施形態において説明したと同様に行われる。
<実施例4>
[光誘起キャリアライフタイムの測定]
図11には、半導体基体の各領域について算出した実効ライフタイムτeffの分布図を示す。測定には、9.35GHzのマイクロ波を用いた。これにより、空間分解能1cm程度の光誘起キャリアライフタイムの測定が可能であることが確認された。
以上説明した第1実施形態〜第5実施形態においては、半導体基体を透過したマイクロ波を検出する測定装置および測定方法を説明した。しかしながら本発明は、半導体基体で反射したマイクロ波を検出する測定装置および測定方法であっても良い。
この場合、光誘起キャリアライフタイム測定装置であれば、図1および図2を用いて説明した構成において、検出部13A,13Bの位置を、マイクロ波発生源11が設けられている導波管15から分岐させた位置に配置すれば良い。また光誘起キャリアライフタイム測定方法であれば、上述したマイクロ波透過強度を、マイクロ波反射強度に読み替えれば良い。
また、上述の各実施形態および実施例においては、照射時間T1と非照射時間T2とが同じ場合について説明しているが、本発明ではT1=T2に限られず、T1およびT2を、それぞれ適宜設定することができる。
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
10A…半導体基体(試料)、10B…半導体基体(参照用)、11…マイクロ波発生源、12…光照射光源、13A,13B…検出部、14…演算部、15,15A,15B…導波管、16A、16B…間隙、17…光ファイバ、18…導光板、18’…反射拡散板、19…制御部