JPWO2011070923A1 - 微細繊維状セルロースシートの製造方法および前記微細繊維状セルロースシートに樹脂含浸した複合体 - Google Patents

微細繊維状セルロースシートの製造方法および前記微細繊維状セルロースシートに樹脂含浸した複合体 Download PDF

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Abstract

本発明は、微細繊維状セルロースを水に分散する分散工程、前記分散工程で得られた分散液を多孔性の基材上でろ過により脱水し、水分を含んだシートを形成する抄紙工程、前記水分を含んだシートに有機溶媒を塗布し水分と有機溶媒を含んだシートを形成する有機溶媒処理工程、前記水分と有機溶媒を含んだシートを乾燥する乾燥工程を備え、沸点120〜260℃で、かつ水溶性である有機溶媒を前記処理工程で用いる微細繊維状セルロースシートの製造方法である。また、前記製造方法で得られた微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸して得た微細繊維状セルロースの複合体に関する。本発明によれば、微細繊維状セルロースを効率よく多孔性シートにする微細繊維状セルロースシートの製造方法および前記製造方法で得られた微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸することにより微細繊維状セルロースの複合体を提供することができる。

Description

本発明は、微細繊維状セルロースを効率よく多孔性のシートにする微細繊維状セルロースシートの製造方法および前記製造方法で得られた多孔性微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸することにより得られる複合体を提供することを目的とする。
本願は、2009年12月10日に、日本に出願された特願2009−280209号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
近年、物質をナノメートルサイズの大きさにすることによりバルクや分子レベルとは異なる物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。一方で、石油資源の代替および環境意識の高まりから再生産可能な天然繊維の応用にも注目が集まっている。
天然繊維の中でもセルロース繊維、とりわけ木材由来のセルロース繊維(パルプ)は主に紙製品として幅広く使用されている。紙に使用されるセルロース繊維の幅は10〜50μmのものがほとんどである。このようなセルロース繊維から得られる紙(シート)は不透明であり、不透明であるが故に印刷用紙として幅広く利用されている。一方、セルロース繊維をレファイナーやニーダー、サンドグラインダーなどで処理(叩解、粉砕)し、セルロース繊維を微細化(ミクロフィブリル化)すると透明紙(グラシン紙)が得られる。しかし、この透明紙の透明性は半透明レベルであり、光の透過性は高分子フィルムに比べると低く、曇り度合い(ヘーズ値)も大きい。
また、セルロース繊維は弾性率が高く、熱膨張率の低いセルロース結晶の集合体であり、セルロース繊維を樹脂と複合化することによって耐熱寸法安定性が高まるため、積層板などに利用されている。ただし、通常のセルロース繊維は結晶の集合体であり、筒状の空隙のある繊維のため寸法安定性には限界がある。
セルロース繊維を機械的に粉砕し、その繊維幅を50nm以下とした微細繊維状セルロースの水分散液は透明である。他方、微細繊維状セルロースシートは空隙を含むため白く乱反射し、不透明性が高くなるが、微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸すると空隙が埋まるため、透明なシートが得られる。さらに、微細繊維状セルロースシートの繊維はセルロース結晶の集合体で、非常に剛直であり、また、繊維幅が小さいため、通常のセルロースシート(紙)に比べると同質量において繊維の本数が飛躍的に多くなる。そのため、樹脂と複合化すると樹脂中で細い繊維がより均一かつ緻密に分散し、耐熱寸法安定性が飛躍的に高まる。また、繊維が細いため透明性が高い。このような特性を有する微細繊維状セルロースの複合体は、有機ELや液晶ディスプレイ用のフレキシブル透明基板(曲げたり折ったりすることのできる透明基板)として非常に大きな期待が寄せられている。
しかし、微細繊維状セルロースの水性分散液は濃度1質量%で粘度が500〜10000mPa・秒程度であり、前記分散液を脱水してシート化しようとすると、前記分散液の濾水性が極めて悪いため、抄紙スピードが極めて遅くなり、巻取り(連続シート)での工業的な生産は困難である。抄紙時の生産スピードが極めて遅い理由は、微細繊維状セルロースの濾水性(脱水速度)が極めて低いためである。
微細繊維状セルロースに関する微細化技術、樹脂との複合化技術については数多く開示されているが、工業的な生産性を維持しつつ、微細繊維状セルロースを多孔性のシートにする技術についてはほとんど開示されていないのが現状である。
具体的には特許文献1〜3には、セルロース繊維を微細繊維化する技術が開示されているが、微細繊維化されたセルロースをシート化する際の濾水性を向上させる技術については開示も示唆もない。
特許文献4〜10には、高分子樹脂に微細繊維状セルロースを複合化させることによって力学強度等の物性を向上させる技術等が開示されているが、複合化を易化させる技術(例えば、セルロースに樹脂を含浸しやすくする技術)についてはほとんど開示されていない。
また、特許文献10〜20には、微細繊維状セルロースをシート化する技術が開示されているが、工業的なレベルの生産性を確保するまでには至っておらず、微細繊維状セルロースを多孔性のシートにする簡便な方法の提供が望まれている。
特許文献21には、微細繊維状セルロースのスラリーを固形分が6質量%以上かつ30質量%以下の範囲に入るように調整したシートを有機溶媒あるいは水と有機溶媒の混合溶液で置換した後に乾燥する技術が開示されているが、前記方法であっても生産性は低いレベルである。
特開昭56−100801号公報 特開2008−169497号公報 特許第3036354号公報 特許第3641690号公報 特表平9−509694号公報 特開2006−316253号公報 特開平9−216952号公報 特開平11−209401号公報 特開2008−106152号公報 特開2005−060680号公報 特開平8−188981号公報 特開2006−193858号公報 特開2008−127693号公報 特開平5−148387号公報 特開2001−279016号公報 特開2004−270064号公報 特開平8−188980号公報 特開2007−23218号公報 特開2007−23219号公報 特開平10−248872号公報 特開平2008−308547号公報
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、微細繊維状セルロースを効率よく多孔性のシートにする微細繊維状セルロースシートの製造方法および前記製造方法で得られた微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸することにより得られる複合体を提供するものである。
本発明者らは、微細繊維状セルロースの水性分散体をろ過、脱水したシートに有機溶媒を塗布または含浸し、水分と有機溶媒を含んだシートを乾燥することによって、得られたシートに微細な空隙が発生し、樹脂が含浸しやすくなることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させた。
本発明は、以下の各発明を包含する。
(1)微細繊維状セルロースシートの製造方法において、微細繊維状セルロースを水に分散する分散工程、前記分散工程で得られた分散液を多孔性の基材上でろ過により脱水し、水分を含んだシートを形成する抄紙工程、前記水分を含んだシートに有機溶媒を塗布し、水分と有機溶媒を含んだシートを形成する有機溶媒処理工程、前記水分と有機溶媒を含有するシートを乾燥する乾燥工程を備え、有機溶媒処理工程で用いる有機溶媒が沸点120〜260℃であり、かつ水溶性である微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(2)前記分散工程において、分散液にセルロース凝結剤を配合する(1)に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(3)前記セルロース凝結剤が無機塩類、またはカチオン性官能基を含む有機化合物から選択される少なくとも一種である(2)に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(4)前記セルロース凝結剤が炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アルミニウム、ポリアミド系微カチオン樹脂から選択される少なくとも一種である(2)または(3)に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(5)前記有機溶媒の塗布の方法が、スプレーコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、サイズプレスコーターから選択される少なくとも一つの方法である(1)〜(4)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(6)水分を含んだシートに塗布される有機溶媒が水で希釈されており、有機溶媒と水の質量比が100:1〜100:1000である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(7)前記乾燥工程は、第一乾燥工程において水を蒸発させ、次いで第二乾燥工程において有機溶媒を蒸発させる二段階の乾燥工程を備える(1)〜(6)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(8)前記水分と有機溶媒を含んだシートに含まれる水と有機溶媒の質量割合が100:10〜10:100である(1)〜(7)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(9)前記有機溶媒が、グライム類である(1)〜(8)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(10)前記有機溶媒が、ジエチレングリコールジメチルエーテルである(1)〜(9)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
(11)前記微細繊維状セルロースの繊維幅が2〜1000nmである(1)〜(10)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(12)前記微細繊維状セルロースの分散液中の濃度が0.1〜1質量%である(1)〜(11)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
(13)(1)〜(12)のいずれか1項に記載の製造方法で得られた微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸して得た微細繊維状セルロースの複合体。
本発明によって、微細繊維状セルロースの多孔性シートを非常に効率よく生産できる製造方法および前記製造方法で得られた微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸することにより得られる優れた物性を有する複合体を提供することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における微細繊維状セルロースは通常製紙用途で用いるパルプ繊維よりもはるかに幅の狭いセルロース繊維あるいは棒状粒子である。微細繊維状セルロースは結晶状態のセルロース分子の集合体であり、その結晶構造はI型(平行鎖)である。微細繊維状セルロースの幅は透過型電子顕微鏡で観察して2nm〜1000nmが好ましく、より好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは4nm〜100nmである。繊維の幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しなくなる。1000nmを超えると微細繊維とは言えず、通常のパルプに含まれる繊維にすぎないため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が得られない。また、微細繊維状セルロースの複合体に透明性が求められる用途であると、微細繊維の幅は50nm以下が好ましい。
本発明における微細繊維状セルロースの繊維長(JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.52:2000に準じて測定した長さ加重平均繊維長)は、1〜1000μmが好ましく、10〜600μmがさらに好ましく、50〜300μmが特に好ましい。繊維長を繊維の幅で除した値であるアスペクト比は100〜30000が好ましく、500〜15000がさらに好ましく、1000〜10000が特に好ましい。
長さ加重平均繊維長が1μm未満であると、シートを形成するための強度が著しく低いためシート化ができなくなるため好ましくない。繊維長が10μm以上であると確実にシート形成できるようになり、50μm以上であるとシートがさらに形成しやすくなる上、得られるシートの強度も向上する。長さ加重平均繊維長が1000μmを超え、繊維幅が1μm以下のものを作成しようとすると、なるべく繊維を切らないように(長さ加重平均繊維長が短くならないように)繊維幅を小さくする必要があるが、そのような処理は弱い剪断力で長時間機械的処理をする必要があり、工業的生産が困難である。
アスペクト比が100未満であると、長さ加重平均繊維長が50μm以上の場合、通常のパルプ繊維(アスペクト比が50程度)に比べ得られるシートの物性に大きな差異がなく、また、繊維幅を10nmオーダーまで細くすると繊維長が短くなり、シート形成が困難になったり、強度が著しく低くなってしまう。
ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースの製造方法には特に制限はないが、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーなどの機械的作用を利用する湿式粉砕でセルロース系繊維を細くする方法が好ましい。また、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル)酸化、酵素処理、オゾン処理などの化学処理を施してから微細化してもかまわない。微細化するセルロース系繊維としては、植物由来のセルロース、動物由来のセルロース、バクテリア由来のセルロースなどが挙げられる。より具体的には、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等の木材系製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻や麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられる。これらの中でも木材系製紙用パルプや非木材系パルプが入手のし易さという点で好ましい。
本発明においては、前記微細繊維状セルロースは水に分散して使用される。前記微細繊維状セルロース水系分散液は、容器に水を投入した後、攪拌しながら微細繊維状セルロースを投入して調整する。この分散工程において、セルロース凝結剤を配合することが好ましい実施態様である。
攪拌装置としてアジテータ、ホモミキサ、パイプラインミキサなどの装置を用いてセルロースを均一に分散する。この場合の分散液の濃度としては、0.1〜1質量%であることが好ましく、0.2〜0.8質量%であることがより好ましい。分散液の濃度が0.1質量%未満であると、抄紙効率が低下するおそれがあり、1質量%を超えると粘度が高すぎて取り扱いが困難となるおそれがある。前記分散液の粘度は、25℃におけるB型粘度で100〜5000mPa・秒程度が好適である。
本発明において使用できるセルロース凝結剤としては、水溶性無機塩やカチオン性官能基を含む水溶性有機化合物が挙げられる。水溶性無機塩には塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムリン酸ナトリウム、リン酸アンモニウムなどが挙げられる。
カチオン性官能基を含む水溶性有機化合物としてはポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、尿素樹脂、メラミン樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、第四級アンモニウム塩を含有するモノマーを重合あるいは共重合したポリマーなどが挙げられる。
セルロース凝結剤の配合量は水系分散液がゲル化する量以上に配合する必要がある。具体的には、微細繊維状セルロース100質量部に対して、セルロース凝結剤を0.5〜10質量部配合するのが好ましい。因みに、セルロース凝結剤の配合量が0.5質量部未満であると、水系分散液のゲル化が不充分となり、濾水性向上効果が乏しくなるおそれがある。配合量が10質量部を超えると、ゲル化が進み過ぎ、水系分散液の取扱が困難となるおそれがある。より好ましくは1〜8質量部の範囲である。ここで、本発明によるゲル化とは水系分散液の粘度が急激かつ大幅に上昇し、流動性を失う状態変化である。ただし、ここで得られるゲルはゼリー状であり、攪拌によって容易に破壊される。ゲル化の判断は急激に流動性を失う状態であるので目視で判断可能であるが、本発明のセルロース凝結剤を含む微細繊維状セルロースの水系分散液について濃度0.5質量%、温度25℃でのB型粘度(ロータNo.4、回転数60rpm)で判断する。前記粘度が1000mPa・秒以上であることが好ましく、2000mPa・秒以上であることがより好ましく、3000mPa・秒以上であることが特に好ましい。因みに、B型粘度が1000mPa・秒未満であると水系分散液のゲル化が不充分となり、濾水性向上効果が乏しくなるおそれがある。
微細繊維状セルロースシートに透明性が求められる用途にはカチオン性が弱い化合物をセルロース凝結剤として使用することが好ましい。カチオン性が弱い化合物として炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどの炭酸アンモニウム系化合物やギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウムなどの有機カルボン酸アンモニウム系化合物が挙げられる。これらの中でも60℃以上の加熱により、分解、気化してシート中から放出される炭酸アンモニウムや炭酸水素アンモニウムが好ましい。
さらに、ポリアミド化合物、ポリアミドポリ尿素化合物、ポリアミンポリ尿素化合物、ポリアミドアミンポリ尿素化合物及びポリアミドアミン化合物などの微カチオン性の有機高分子も使用できる。
また、前記カチオン性が弱い化合物については、セルロース凝結剤の配合量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、セルロース凝結剤を10〜200質量部配合するのが好ましく、より好ましくは20〜150質量部、さらに好ましくは30〜100質量部の範囲である。カチオン性の弱いセルロース凝結剤の配合量が10質量部未満であると、濾水性が悪化するおそれがある。逆に配合量が200質量部を超えると透明性が悪化するおそれがある。
本発明で使用できるシートの形成方法としては抄紙で通常使用している方法が好ましく、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が挙げられる。また、乾燥方法としては紙の製造で通常用いられている方法が好ましく、例えば、シリンダードライヤーやヤンキードライヤー、熱風乾燥、赤外線ヒーターなどの方法が挙げられる。
なお、脱水時のワイヤーとして使用できる多孔性の基材としては、一般の抄紙に使用するワイヤーが挙げられる。例えば、ステンレス、ブロンズなどの金属製ワイヤーやポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンなどのプラスチック製ワイヤーが挙げられる。また、セルロースアセテート基材などのメンブレンフィルターをワイヤーとして使用してもかまわない。ワイヤーの目開きとしては0.2〜200μmが好ましく、0.4〜100μmがさらに好ましい。目開きが0.2μm未満であると脱水速度が極端に遅くなり好ましくない。200μmを超えて大きいと微細繊維状セルロースの歩留りが低下して好ましくない。なお、本願明細書において「脱水」とは、水分含有量を任意の値まで低下させることをいい、「乾燥」とは、液体を除去し、乾いた状態(水分として15質量%以下、好ましくは10質量%以下)にすることをいう。脱水後の水分含有量はウェットシート100部に対して60〜95部が好ましく、70〜90部がさらに好ましい。水分を60部未満にするためには、脱水ゾーンを非常に長くする必要があるうえ、水分が少なくなるほど脱水が困難になるので好ましくない。水分が95部を超えて大きいと、乾燥工程での時間がかかりすぎたり、ウェットシートの流動性が高すぎて形状を維持できないため好ましくない。
なかでも、例えば特願2009−173136に記載の微細繊維を含む分散液を無端ベルト(ワイヤー)の上面に吐出し、吐出された前記分散液から分散媒を搾水してウェブを生成する搾水工程と、前記ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥工程とを備え、前記搾水工程から前記乾燥工程にかけて前記無端ベルトが配設され、前記搾水工程で生成された前記ウェブが前記無端ベルトに載置されたまま前記乾燥工程に搬送される製造方法等用いるのが好ましい。
本発明においては前記水分を含む微細繊維状セルロースシートに有機溶媒を塗布することが必要であり、その有機溶媒としては、沸点120〜260℃で、水溶性であることが必要である。本発明において有機溶媒を塗布する目的は、微細繊維状セルロースシートに有機溶媒を含浸させ、水および有機溶媒を蒸発(乾燥)させて多孔性のシートを得ることである。
有機溶媒の沸点が120℃より低いと、水を蒸発させる際に有機溶媒が一緒に蒸発する量が増えてしまい、多孔性のシートが得られないという問題が発生する。逆に、沸点が260℃を超えると、有機溶媒を蒸発させるために高温が必要となり微細繊維が黄変したり、繊維強度が低下したりという問題が発生する。また、水に対する溶解性は20℃において10%以上の溶解性が好ましく、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上である。
このような有機溶媒としては、例えば、ジプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテルなどのグライム類;1,2−ブタンジオール、1,6ヘキサンジオールなどの2価アルコール類;ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。これらの有機溶媒は2種以上併用してもかまわない。また、これらの有機溶媒は水を含んでいてもよい。
なかでも、水への溶解性に優れ、沸点と表面張力と分子量のバランスが良いジエチレングリコールジメチルエーテルやジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテルが特に好ましい。
有機溶媒は水で希釈して、これを塗布や含浸することにより、水分を含んだシート中の水と置換しても良い。有機溶媒を水で希釈することで、得られる微細繊維状セルロースシートの多孔性(細孔体積、細孔表面積等)を制御することができる。水の配合比率が小さいと微細繊維状セルロースシートの細孔体積や細孔表面積、細孔径が大きくなる。また。水の配合比率が大きいと微細繊維状セルロースシートの細孔体積や細孔表面積、細孔径が小さくなる。有機溶媒と水の質量比は100:1〜100:1000が好ましく、100:2〜100:750がさらに好ましく、100:5〜100:500が特に好ましい。水の質量比が1未満であると水で希釈した効果がなくなるおそれがある。水の質量比が1000を超えると微細繊維状セルロースシートが多孔化しないおそれがある。また、有機溶媒を水で希釈することによって、使用された有機溶媒および/または水を回収して再利用することもできる。
本発明において前記水分と有機溶媒を含む微細繊維状セルロースシートに含有される水と有機溶媒との質量割合は、100:10〜10:100が好ましく、100:30〜30:100がより好ましく、100:50〜50:100がさらに好ましい。有機溶媒の割合が10未満であると、シートの多孔性が低下するおそれがある。また、有機溶媒の割合が100を超えると、パルプ濃度が低下しすぎて抄紙効率が低下する。また、パルプ濃度を一定のまま有機溶媒の割合が100を超えると粘度が高すぎたり、微細繊維が凝集を起こしたりするおそれがある。
本発明において有機溶媒を塗布する方法としては、スプレーコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、キャップコーター、マイクログラビアコーター、ダイコーター、ロッドコーター、コンマコーター、スクリーンコーター等の方法が挙げられるが、有機溶媒の塗布量(含浸量)を制御しやすく、均一に塗布(含浸)可能という理由からスプレー、カーテン、グラビア、バー、ブレード、サイズプレスから選択される少なくとも一種の方法であることが好ましい。水分を含んだシートは強度的に弱く、コーターヘッドに接触するとシートに筋が入ったり、ムラが発生するおそれがあるため、非接触の塗布方法であるスプレーやカーテンが最も好ましい。
本発明において、乾燥工程は特に限定されないが、二段階の乾燥とするのが好ましい実施態様である。すなわち、第一乾燥工程において水を蒸発させ、次いで第二乾燥工程において水よりも高沸点の有機溶媒を蒸発させるものである。また、乾燥方法としては紙の製造で通常用いられている方法が好ましく、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥(フローティングドライヤー)、赤外線ヒーターなどの方法が挙げられる。この方法によって得られた微細繊維状セルロースシートには微細な空隙が多数形成され、樹脂を含浸させるのが極めて容易となる。前記シートの多孔性の目安としては、JIS P 8117:1998に準じて測定した透気度が50〜3000秒/100cc程度である。
本発明で得られる微細繊維状セルロースシートの坪量は0.1〜1000g/mが好ましく、1〜500g/mがさらに好ましく、5〜100g/mが特に好ましい。坪量が0.1g/m未満になるとシート強度が極端に弱くなり、連続生産ができない。1000g/mより超えると脱水に非常に時間がかかり、生産性が極端に低下して好ましくない。
本発明で得られる微細繊維状セルロースシートの厚さは0.1〜1000μmが好ましく、1〜500μmがさらに好ましく、5〜100μmが特に好ましい。厚さが0.1μm未満になるとシート強度が極端に弱くなり、連続生産ができない。1000μmより超えると脱水に非常に時間がかかり、生産性が極端に低下して好ましくない。
本発明で得られる微細繊維状セルロースシートの密度は0.10〜1.5g/cmが好ましく、0.30〜1.20g/cmがさらに好ましく、0.40〜0.80g/cmが特に好ましい。密度が0.10g/cm未満になるとシート強度が弱くなり好ましくない。1.5g/cmを超えると空隙がほとんどない状態になり、樹脂等との複合化の際には好ましくない。ここで、抄紙時の脱水圧力やプレス圧力、シート形成後のカレンダー処理などによって密度の制御が可能である。なお、本発明の密度は坪量を厚さで除した値である。
本発明で微細繊維状セルロースに複合化できる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、樹脂硬化物から選択される少なくとも1種の樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂などが挙げられる。
スチレン系樹脂とは、ビニル芳香族単量体の単独重合体または他の単量体との共重合体を言い、ビニル芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレンなどが挙げられ、中でもスチレンの単独重合体または他の単量体との共重合体が好ましい。単独重合体の場合には、連鎖に立体規則性のあるもの(アイソタクティック、シンジオタクティック)でも、立体規則性のないもの(アタクティック)でも構わない。共重合可能な他の単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イソプレン、ブタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、酢酸ビニルなどが挙げられ、アクリル系単量体とスチレン系単量体とを共重合させることによって得られる樹脂、例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体などは、その共重合比によって樹脂の屈折率を調整することが可能であるので好ましい。例えば、ポリスチレン(屈折率:約1.59)の単量体とポリアクリロニトリル(屈折率:約1.52)の単量体を71:21で共重合すると、屈折率が約1.57の樹脂が得られる。共重合体の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。
アクリル系樹脂とは、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステルより選択される1種以上の単量体を重合したものである。なかでも、メタクリル酸メチルの単独重合体または他の単量体との共重合体が好ましい。メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、他のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸アルキルエステル類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド類;無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類が挙げられる。また、トリシクロデシルメタクリレートなど、脂環式アクリル樹脂も挙げられる。
芳香族ポリカーボネート系樹脂とは、芳香族ジヒドロキシ化合物より誘導される芳香族ポリカーボネートであり、芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテルなどのジヒドロキシアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルスルフィドなどのジヒドロキシアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルスルホキシドなどのジヒドロキシアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルスルホンなどのジヒドロキシアリールスルホン類等を挙げることができる。これらの中で、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称、ビスフェノールA)が特に好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
芳香族ポリエステル系樹脂とは、特に限定されるものではないが、具体例を挙げると、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等である。
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体などが挙げられる。具体的には、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサン酸)、ポリカプロラクトンなどが挙げられ、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体としては、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。
脂肪族ポリオレフィン系樹脂とは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂(エチレン−アクリル酸系ポリマー塩や、スチレン−スルホン酸塩など)、およびそれらの共重合体や、マレイン酸などによる変性体などが挙げられる。
環状オレフィン系樹脂とは、ノルボルネンやシクロヘキサジエンなど、ポリマー鎖中に環状オレフィン骨格を含む重合体もしくはこれらを含む共重合体であり、その製造方法については特に限定されるものではない。環状オレフィン系樹脂とは、例えば、ノルボルネン骨格の繰返し単位、またはノルボルネン骨格とメチレン骨格の共重合体よりなるノルボルネン系樹脂が挙げられ、JSR社製の「アートン」、日本ゼオン社製の「ゼオネックス」および「ゼオノア」、三井化学社製の「アペル」、チコナ社製の「トーパス」などが挙げられる。
ポリアミド系樹脂とは、公知のポリアミド樹脂であれば特に限定されない。例えば、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン4,6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6,10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン6,12)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン1,16)、ポリウンデカラクタム(ナイロン11)、ポリドデカラクタム(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(9T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(6T)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、ポリドデカンテレフタルアミド(ナイロン12T)、およびこれらのうち少なくとも2種の異なったポリアミド形成成分を含むポリアミド共重合体、およびこれらの混合物などである。
ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)などが挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されているような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。
これらの中でも特に好ましいポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、またはこれらの混合物である。また、本発明で使用できるポリフェニレンエーテル系樹脂は、全部又は一部が変性されたポリフェニレンエーテルであっても構わない。ここでいう変性されたポリフェニレンエーテルとは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または、三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテルを指す。ポリフェニレンエーテル系樹脂は耐熱性が高く、電気特性に優れているため、高耐熱用途、また電子部品として好適に使用することができる。
本発明における単量体とは、これら熱可塑性樹脂を構成する単量体のことを言う。これらの熱可塑性樹脂の数平均分子量は一般に1000以上、好ましくは5000以上500万以下、さらに好ましくは1万以上100万以下である。特に前記単量体を含浸させ、重合することにより複合化させる場合には、ジビニルベンゼンのように他の単量体との間に架橋構造を形成する単量体の配合も高温時の可塑性を抑制する観点で極めて有効である。
これらの熱可塑性樹脂は、単独ないし2種以上を混合して用いることができる。2種以上の熱可塑性樹脂を混合して用いる場合、その混合比によって樹脂の屈折率を調整することが可能であるので好ましい。アクリル系樹脂とスチレン系樹脂をブレンドすることにより得られる樹脂が好ましく、例えば、ポリメタクリル酸メチル(屈折率約1.49)とアクリロニトリル−スチレン共重合体(アクリロニトリル含量約21%、屈折率約1.57)を50:50で混合すると、屈折率約1.53の樹脂が得られる。
また、本発明において用いられる熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂とは、常温では液状、半固形状又は固形状等であって常温下又は加熱下で流動性を示す比較的低分子量の物質を意味する。これらは硬化剤、触媒、熱又は光の作用によって硬化反応や架橋反応を起こして分子量を増大させながら網目状の三次元構造を形成してなる不溶不融性の樹脂となり得る。また、本発明における樹脂硬化物とは、前記熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が硬化してなる樹脂を意味する。
本発明において用いられる熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、具体例を示すと、エポキシ樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等、その他工業的に供されている樹脂及びこれら樹脂を2種以上混合して得られる樹脂が挙げられる。なかでも、エポキシ樹脂、アリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂などは透明性を有するため、光学材料として使用する場合に好適である。
前記エポキシ樹脂とは、少なくとも1個のエポキシ基を有する有機化合物をいう。前記エポキシ樹脂中のエポキシ基の数としては、1分子当たり1〜7個であることが好ましく、1分子当たり2個以上であることがより好ましい。ここで、1分子当たりのエポキシ基の数は、エポキシ樹脂中のエポキシ基の総数をエポキシ樹脂中の分子の総数で除算することにより求められる。前記エポキシ樹脂としては特に限定されず、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができ、例えば、以下に示したエポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらエポキシ樹脂は熱硬化性樹脂先駆体のエポキシ化合物であり、硬化剤を用いることにより、エポキシ樹脂の硬化物である硬化エポキシ樹脂が得られる。
例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂;トリスフェノールメタントリグリシジルエーテルなどの芳香族エポキシ樹脂及びこれらの水素添加物や臭素化物などが挙げられる。また、3,4−エポキシシクロへキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシシクロヘキサノン−メタジオキサン、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテルなどの脂環族エポキシ樹脂などが挙げられる。
また、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、炭素数が2〜9(好ましくは2〜4)のアルキレン基を含むポリオキシアルキレングリコールやポリテトラメチレンエーテルグリコールなどを含む長鎖ポリオールのポリグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。また、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、へキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジル−p−オキシ安息香酸、サリチル酸のグリシジルエーテル−グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル型エポキシ樹脂及びこれらの水素添化物などが挙げられる。また、トリグリシジルイソシアヌレート、環状アルキレン尿素のN,N’−ジグリシジル誘導体、p−アミノフェノールのN,N,O−トリグリシジル誘導体、m−アミノフェノールのN,N,O−トリグリシジル誘導体などのグリシジルアミン型エポキシ樹脂及びこれらの水素添化物などが挙げられる。また、グリシジル(メタ)アクリレートと、エチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステルなどのラジカル重合性単量体との共重合体などが挙げられる。なお、本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
また、エポキシ化ポリブタジエンなどの共役ジエン化合物を主体とする重合体又はその部分水素添化物の重合体における不飽和炭素の二重結合をエポキシ化したものなどが挙げられる。また、エポキシ化SBS(styrene butadiene styrene)などのようなビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック又はその部分水素添化物の重合体ブロックとを同一分子内にもつブロック共重合体における、共役ジエン化合物の不飽和炭素の二重結合をエポキシ化したものなどが挙げられる。また、1分子当たり1個以上、好ましくは2個以上のエポキシ基を有するポリエステル樹脂などが挙げられる。また、前記エポキシ樹脂の構造中にウレタン結合やポリカプロラクトン結合を導入した、ウレタン変成エポキシ樹脂やポリカプロラクトン変成エポキシ樹脂などが挙げられる。前記変成エポキシ樹脂としては、例えば、前記エポキシ樹脂にNBR(Nitrile butadiene rubber)、CTBN(carboxyl−terminated butadiene−nitrile rubber)、ポリブタジエン、アクリルゴムなどのゴム成分を含有させたゴム変成エポキシ樹脂などが挙げられる。なお、エポキシ樹脂以外に、少なくとも1つのオキシラン環を有する樹脂又はオリゴマーが添加されてもよい。
また、フルオレン含有エポキシ樹脂、フルオレン含有アクリレート樹脂、フルオレン含有エポキシアクリレート樹脂など、フルオレン基を含有する熱硬化性樹脂および組成物、またはその硬化物も挙げられる。これらフルオレン含有エポキシ樹脂は、フルオレン基を分子内に含有することにより、屈折率が高く、また高耐熱であるため好適に用いられる。
前記エポキシ樹脂の硬化反応に用いる硬化剤としては特に限定されず、従来公知のエポキシ樹脂用の硬化剤を用いることができ、例えば、アミン化合物、アミン化合物から合成されるポリアミノアミド化合物などの化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、酸無水物、フェノール化合物、熱潜在性カチオン重合触媒、光潜在性カチオン重合開始剤、ジシアンアミド及びその誘導体などが挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
また、本発明において用いられる光硬化性樹脂としては、例えば、光潜在性カチオン重合開始剤を含むエポキシ樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
なお、前記光硬化性樹脂を硬化させる場合には、光照射と同時に熱を加えてもよい。また、本発明において熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂と併用して用いる硬化剤、硬化触媒は、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂の硬化に用いられるものであれば特に限定されない。硬化剤の具体例としては多官能アミン、ポリアミド、酸無水物、フェノール樹脂が挙げられ、硬化触媒の具体例としてはイミダゾールなどが挙げられ、これらは単独又は2種以上の混合物として使用することができる。
本発明におけるポリイミド系樹脂とは、特に限定されるものではないが、その主鎖骨格中にイミド基を含有する樹脂であり、熱可塑性および熱硬化性のポリイミド系樹脂のいずれも使用できる。具体的には、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリシロキサンイミド等が挙げられる。
また、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂および樹脂硬化物を2種以上混合して得られる樹脂も使用し得る。
本発明においては、微細繊維状セルロースシートに対し、前記樹脂を複合化させる方法として、
(1)単量体を含浸させて重合させる方法、
(2)熱硬化性樹脂前駆体または光硬化性樹脂前駆体を含浸させて硬化させる方法、
(3)前記樹脂の溶液を含浸後乾燥させる方法、
(4)前記樹脂のうち熱可塑性樹脂の溶融体を含浸させ脱泡後冷却する方法、のいずれか一つの方法により複合体を製造する方法を用いることができる。
(1)単量体を含浸させ重合させる方法とは、熱可塑性樹脂を構成する単量体であるメタクリル酸メチルなどの単量体を、微細繊維状セルロースシートに含浸させ、熱処理などにより前記単量体を重合させることにより、微細繊維状セルロースシートと前記樹脂からなる複合体を得る製造方法である。前記製造方法には、パーオキサイドなどの有機過酸化物、または一般的に単量体の重合に用いられる重合触媒を重合開始剤として用いることができる。重合触媒が不純物として複合体の性能を損なうことが想定される場合には、キノン類のような重合禁止剤を一切含まない高純度の単量体を含浸させ、重合開始剤を用いないで熱重合させることも有効である。
(2)熱硬化性樹脂前駆体または光硬化性樹脂前駆体を含浸させ硬化させる方法とは、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂前駆体または光硬化性樹脂前駆体と硬化剤の混合物を、微細繊維状セルロースシートに含浸させ、熱処理または光照射等により前記熱硬化性樹脂前駆体または光硬化性樹脂前駆体を硬化させることにより、微細繊維状セルロースシートと前記樹脂である硬化エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の硬化物または光硬化性樹脂の硬化物からなる複合体を得る製造方法である。エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂前駆体または光硬化性樹脂前駆体が室温で固体であり、微細繊維状セルロースシートに含浸させることが困難な場合は、前記前駆体を前もって熱処理し融解させておくことや、前記前駆体を可溶な溶媒に溶解させた溶液を含浸させることも可能である。表面の平滑性を高める目的で、ある程度硬化反応が進行した段階で加熱プレス処理を施すことによりさらに反応を進行させることも有効である。前記加熱処理時にはある程度硬化反応が進行した複合体を数枚積層させて処理することも厚膜化時には有効である。
(3)前記樹脂の溶液を含浸後乾燥させる方法とは、前記熱可塑性樹脂を溶解可能な溶媒に溶解し、微細繊維状セルロースシートに含浸させ、乾燥させることにより、微細繊維状セルロースシートに熱可塑性樹脂を複合化させる製造方法である。
(4)前記樹脂である熱可塑性樹脂の溶融体を含浸させ脱泡後冷却する方法とは、熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上または融点以上で熱処理することにより可塑化あるいは融解させ、微細繊維状セルロースシートに含浸させ、脱泡後冷却することにより、微細繊維状セルロースシートと熱可塑性樹脂からなる複合体を得る製造方法である。熱処理は加圧下で行うことが望ましく、真空加熱プレス機能を有する設備の使用が有効である。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の部及び%は特に断らない限り、それぞれ質量部及び質量%を示す。
<調整例1:微細繊維状セルロースA>
NBKPパルプ(王子製紙社製 水分50% フリーネス600mLcsf)100質量部に水1150質量部を加えてディスインテグレーターで解繊した後、パルプ濃度を2〜3%に調製してリファイナーで処理した。リファイナーで処理したパルプのフリーネスは300mLcsfであった。リファイナーで処理したパルプにパルプ濃度が0.5〜0.7%の間になるように水を加えて、石臼型分散機(増幸産業社製「スーパーマスコロイダー」、石臼タイプG)を用いて5回処理を行って微細繊維状セルロースのスラリーAを得た。スラリーのパルプ濃度を0.5%に調整した。前記微細繊維状セルロースの幅を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定したところ、繊維の幅は200〜800nmの範囲であった。
<調整例2:微細繊維状セルロースB>
微細繊維状セルロースAを高圧衝突型分散機(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で10回処理して微細繊維状セルロースBのスラリーを得た。前記微細繊維状セルロースの幅を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定したところ、繊維の幅は100〜300nmの範囲であった。
<調整例3:微細繊維状セルロースC>
微細繊維状セルロースAを高圧衝突型分散機(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で20回処理して微細繊維状セルロースCのスラリーを得た。前記微細繊維状セルロースの幅を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して測定したところ、繊維の幅は50〜200nmの範囲であった。
<調整例4:微細繊維状セルロースD>
水150質量部にNBKPパルプ(王子製紙社製 水分50% フリーネス600mLcsf)4質量部と2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)0.025質量部と臭化ナトリウム0.25質量部を順次攪拌しながら添加して作成した水分散液に、次亜塩素酸ナトリウムの13質量%水溶液を、絶乾パルプ1gに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。反応物をろ別して水洗し得られたパルプを濃度1.5%となるように水を加えてパルプ分散液を得た。得られたパルプ分散液をディスインテグレーターで約5分間解繊して微細繊維状セルロースDを得た。スラリーの濃度を0.5%に調製した。前記微細繊維状セルロースの幅を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して測定したところ、繊維の幅は3〜20nmの範囲であった。
<実施例1>
調製例1の微細繊維状セルロースAを500メッシュのポリエステルメッシュ上で減圧しながらウェットシートを作成した。ウェットシートの固形分は10%であった。得られたウェットシート上にジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME)(東邦化学社製、商品名:「ハイソルブMDM」、分子量134、沸点162℃、表面張力28N/m)をウェットシート100部に対して100部をスプレーで均一に塗布した。スプレーは霧吹きタイプを使用した。さらに減圧して水と有機溶媒を含んだウェットシートを形成した。ウェットシートの固形分は10%であった。ウェットシートに含まれる水と有機溶媒の比率は50/50であった。ウェットシートを500メッシュのポリエステルメッシュとともにシリンダーロールで鏡面にウェットシートが接触するように80℃で3分間乾燥し、第一乾燥後のシートを得た。得られた第一乾燥後のシートは半透明であり、湿った状態であった。第一乾燥後のシートを130℃で3分間乾燥して(第2乾燥工程)シートをポリエステルメッシュから剥がし、35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは50μmであった。
<実施例2>
ジエチレングリコールジメチルエーテルを30部配合したこと以外は実施例1と同様にして微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは39μmであった。
<実施例3>
ジエチレングリコールジメチルエーテルを60部配合したこと以外は実施例1と同様にして微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは41μmであった。
<実施例4>
ジエチレングリコールジメチルエーテルを200部配合したこと以外は実施例1と同様にして微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは58μmであった。
<実施例5>
スプレー塗布の代わりにグラビアロール(50メッシュ、格子、正転塗工)を使用してウェットシートの表面に有機溶媒を塗布したこと以外は実施例1と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。有機溶媒の塗布量はウェットシート100部に対して30部であった。得られたシートは白く不透明であり、厚さは37μmであった。
<実施例6>
スプレー塗布の代わりにカーテンコーターを使用してウェットシートの表面に有機溶媒を塗布したこと以外は実施例1と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。有機溶媒の塗布量はウェットシート100部に対して100部であった。得られたシートは白く不透明であり、厚さは51μmであった。
<実施例7>
スプレー塗布の代わりにバーコーターを使用してウェットシートの表面に有機溶媒を塗布したこと以外は実施例1と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。有機溶媒の塗布量はウェットシート100部に対して100部であった。得られたシートは白く不透明であり、厚さは48μmであった。
<実施例8>
スプレー塗布の代わりにブレードコーターを使用してウェットシートの表面に有機溶媒を塗布したこと以外は実施例1と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。有機溶媒の塗布量はウェットシート100部に対して100部であった。得られたシートは白く不透明であり、厚さは47μmであった。
<実施例9>
スプレー塗布の代わりにサイズプレスを使用してウェットシートの表面に有機溶媒を塗布したこと以外は実施例1と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。有機溶媒の塗布量はウェットシート100部に対して100部であった。得られたシートは白く不透明であり、厚さは45μmであった。
<実施例10>
調製例2の微細繊維状セルロースBを用いたこと以外は実施例4と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは49μmであった。
<実施例11>
調製例3の微細繊維状セルロースCを用いたこと以外は実施例4と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは47μmであった。
<実施例12>
調製例4の微細繊維状セルロースDを用いたこと以外は実施例4と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは45μmであった。
<実施例13>
有機溶媒としてジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル(DEGIPME)(東邦化学社製、商品名:ハイソルブIPDM、分子量162、沸点179℃、表面張力24N/m)を用いたこと以外は実施例4と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは51μmであった。
<実施例14>
有機溶媒としてトリエチレングリコールモノメチルエーテル(TEGMME)(東邦化学社製、商品名:ハイモールTM、分子量164、沸点249℃、表面張力36N/m)を用いたこと以外は実施例4と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは50μmであった。
<実施例15>
有機溶媒としてジエチレングリコールモノメチルエーテル(DEGMME)(東邦化学社製、商品名:ハイソルブDM、分子量120、沸点194℃、表面張力34N/m)を用いたこと以外は実施例4と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは52μmであった。
<実施例16>
有機溶媒としてジエチレングリコール(DEG)(和光純薬社製、分子量106、沸点245℃、表面張力45N/m)を用いたこと以外は実施例4と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは51μmであった。
<実施例17>
有機溶媒としてエチレングリコールモノt−ブチルエーテル(EGtBE)(和光純薬社製、分子量118、沸点152℃、表面張力42N/m)を用いたこと以外は実施例4と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは52μmであった。
<実施例18>
微細繊維状セルロースC100部に、セルロース凝結剤として硫酸アルミニウム(化学式:Al(SO、固形分:0.3質量%)1.67質量部を攪拌しながら添加した。得られた水系懸濁液(A)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は600mPa・秒であった。このセルロース凝結剤を添加した微細繊維状セルロースCを用いたこと以外は実施例11と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは47μmであった。実施例11の10倍のろ過速度で製造できた。
<実施例19>
微細繊維状セルロースC100部に、セルロース凝結剤として0.1質量%に水で希釈したカチオンポリマーPCA−02(東邦化学工業株式会社)水溶液15部を攪拌しながら添加した。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は1200mPa・秒であった。このセルロース凝結剤を添加した微細繊維状セルロースCを用いたこと以外は実施例11と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは45μmであった。実施例11の5倍のろ過速度で製造できた。
<実施例20>
微細繊維状セルロースC100部に、セルロース凝結剤として炭酸水素アンモニウム(和光純薬社製)の水溶液(濃度10質量%)10部を攪拌しながら添加した。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は850mPa・秒であった。このセルロース凝結剤を添加した微細繊維状セルロースCを用いたこと以外は実施例11と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは40μmであった。実施例11の10倍のろ過速度で製造できた。
<実施例21>
微細繊維状セルロースC100部に、セルロース凝結剤として微カチオン性樹脂(住友化学社製、商品名:「SPI203」、固形分50%、ポリアミンポリアミド樹脂)を10%に希釈した水溶液5部を攪拌しながら添加した。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は1050mPa・秒であった。このセルロース凝結剤を添加した微細繊維状セルロースCを用いたこと以外は実施例11と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは40μmであった。実施例11の10倍のろ過速度で製造できた。
<実施例22>
実施例1〜21で得た微細繊維状セルロースシートを、熱硬化性エポキシ樹脂に含浸し、130℃で3分間処理して硬化させた。含浸前のセルロースシートは白色のシートであったが、含浸後のシートは透明になり樹脂と熱硬化性エポキシ樹脂が複合化できた。
<実施例23>
調製例1の微細繊維状セルロースAを500メッシュのポリエステルメッシュ上で減圧しながらウェットシートを作成した。ウェットシートの固形分は10%であった。得られたウェットシート上にジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME)(東邦化学社製、商品名:「ハイソルブMDM」、分子量134、沸点162℃、表面張力28N/m)と水を質量比100:5で混合した液をウェットシート100部に対して200部(このうち有機溶媒は190部)をスプレーで均一に塗布した。スプレーは霧吹きタイプを使用した。さらに減圧して水と有機溶媒を含んだウェットシートを形成した。ウェットシートの固形分は10%であった。ウェットシートに含まれる水と有機溶媒の比率は47/53であった。ウェットシートを500メッシュのポリエステルメッシュとともにシリンダーロールで鏡面にウェットシートが接触するように80℃で3分間乾燥し、第一乾燥後のシートを得た。得られた第一乾燥後のシートは半透明であり、湿った状態であった。第一乾燥後のシートを130℃で3分間乾燥して(第2乾燥工程)シートをポリエステルメッシュから剥がし、35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは55μmであった。
<実施例24>
ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME)(東邦化学社製、商品名:「ハイソルブMDM」、分子量134、沸点162℃、表面張力28N/m)と水の質量比を100:100で混合した液をウェットシート100部に対して200部(このうち有機溶媒は100部)をスプレーで均一に塗布したこと以外は実施例23と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは49μmであった。
<実施例25>
ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME)(東邦化学社製、商品名:「ハイソルブMDM」、分子量134、沸点162℃、表面張力28N/m)と水の質量比を100:400で混合した液をウェットシート100部に対して200部(このうち有機溶媒は40部)をスプレーで均一に塗布したこと以外は実施例23と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは白く不透明であり、厚さは37μmであった。
<比較例1>
調製例1の微細繊維状セルロースAを500メッシュのポリエステルメッシュ上で減圧しながらウェットシートを作成した。ウェットシートを500メッシュのポリエステルメッシュとともに80℃で3分間乾燥し第一乾燥後のシートを得た。得られた第一乾燥後のシートは半透明であり、乾いた状態であった。第一乾燥後のシートを130℃で3分間乾燥して(第2乾燥工程)シートをポリエステルメッシュから剥がし、35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。シートは半透明のままであり、厚さは35μmであった。
<比較例2>
調製例2の微細繊維状セルロースBを500メッシュのポリエステルメッシュ上で減圧しながらウェットシートを作成した。ウェットシートを500メッシュのポリエステルメッシュとともに80℃で3分間乾燥し、第一乾燥後のシートを得た。得られた第一乾燥後のシートは半透明であり、乾いた状態であった。第一乾燥後のシートを130℃で3分間乾燥して(第2乾燥工程)シートをポリエステルメッシュから剥がし、35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。シートは半透明のままであり、厚さは32μmであった。
<比較例3>
調製例3の微細繊維状セルロースCを500メッシュのポリエステルメッシュ上で減圧しながらウェットシートを作成した。ウェットシートを500メッシュのポリエステルメッシュとともに80℃で3分間乾燥し、第一乾燥後のシートを得た。得られた第一乾燥後のシートは半透明であり、乾いた状態であった。第一乾燥後のシートを130℃で3分間乾燥して(第2乾燥工程)シートをポリエステルメッシュから剥がし、35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。シートは半透明のままであり、厚さは29μmであった。
<比較例4>
調製例4の微細繊維状セルロースDを500メッシュのポリエステルメッシュ上で減圧しながらウェットシートを作成した。ウェットシートを500メッシュのポリエステルメッシュとともに80℃で3分間乾燥し、第一乾燥後のシートを得た。得られた第一乾燥後のシートは半透明であり、乾いた状態であった。第一乾燥後のシートを130℃で3分間乾燥して(第2乾燥工程)シートをポリエステルメッシュから剥がし、35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。シートは半透明のままであり、厚さは25μmであった。
<比較例5>
有機溶媒としてエタノール(和光純薬社製、分子量46、沸点78℃、表面張力22N/m)を使用したこと以外は実施例1と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。得られたシートは半透明であり、厚さは34μmであった。
<比較例6>
有機溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)(和光純薬社製、分子量60、沸点82℃、表面張力21N/m)を用いたこと以外は実施例1と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。厚さは35μmであった。
<比較例7>
有機溶媒としてエチレングリコールジメチルエーテル(EGDME)(東邦化学社製、商品名:ハイソルブMMM、分子量90、沸点84〜86℃、表面張力23N/m)を用いたこと以外は実施例1と同様に35g/mの微細繊維状セルロースシートを得た。厚さは35μmであった。
<比較例8>
有機溶媒としてオルトキシレン(和光純薬社製、沸点144℃、分子量106)を用いたこと以外は実施例1と同様にして微細繊維状セルロースシートを得ようとしたが、シートが激しくムラ状になりシートを得ることができなかった。
<比較例9>
比較例1〜7で得られた微細繊維状セルロースシートを熱硬化性樹脂に含浸しようとしたが、熱硬化性樹脂が微細繊維状セルロースシートに含浸されず、複合化シートは得られなかった。
[評価方法]
1.透気度
微細繊維状セルロースシートの透気度をJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2:2000(王研式)に準じて測定した。透気度が低いほど樹脂の含浸性が良好である。
2.細孔体積および細孔表面積
微細繊維状セルロースシートの1μm径以下の細孔体積および細孔表面積を水銀ポロシメーター(島津製作所社製、商品名:「オートポアIV9505」)で測定した。細孔体積および細孔表面積が大きいほど樹脂の含浸性が良好である。細孔体積は0.1以上2mL/g以下が好ましい。細孔体積が0.1mL/g未満になると含浸できなくなる。細孔体積が2ml/gを超えると含浸樹脂に対する微細繊維状セルロースの割合が小さくなり好ましくない。細孔表面積は40m/g以上200m/g以下が好ましい。40m/g未満であると樹脂の含浸性が悪くなり、200m/gを超えるとシートの強度が低下して好ましくない。
Figure 2011070923
Figure 2011070923
表1から明らかなように本発明の微細繊維状セルロースシートの製造方法により得たシートは、透気度が低く、多孔性のシートであり、樹脂を含浸することにより透明性に優れた樹脂複合体が得られる。また、表2から明らかなように有機溶媒と水の配合比率を変更することで多孔性(透気度、細孔体積、細孔表面積)を制御できることがわかる。
本発明の製造方法によれば、微細繊維状セルロースの多孔性シートを簡便に、効率よく製造することができるものである。また、得られた微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸することによりフレキシブル透明基板等に有用な複合基材を得ることができる。

Claims (13)

  1. 微細繊維状セルロースシートの製造方法において、微細繊維状セルロースを水に分散する分散工程、前記分散工程で得られた分散液を多孔性の基材上でろ過により脱水し、水分を含んだシートを形成する抄紙工程、前記水分を含んだシートに有機溶媒を塗布し、水分と有機溶媒を含んだシートを形成する有機溶媒処理工程、前記水分と有機溶媒を含有するシートを乾燥する乾燥工程を備え、有機溶媒処理工程で用いる有機溶媒が沸点120〜260℃であり、かつ水溶性であることを特徴とする微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  2. 前記分散工程において、分散液にセルロース凝結剤を配合することを特徴とする請求項1に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  3. 前記セルロース凝結剤が無機塩類、またはカチオン性官能基を含む有機化合物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  4. 前記セルロース凝結剤が炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アルミニウム、ポリアミド系微カチオン樹脂から選択される少なくとも一種である請求項2または3に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  5. 前記有機溶媒の塗布の方法がスプレーコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、サイズプレスコーターから選択される少なくとも一つの方法であることを特徴する請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  6. 水分を含んだシートに塗布される有機溶媒が水で希釈されており、有機溶媒と水の質量比が100:1〜100:1000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  7. 前記乾燥工程は、第一乾燥工程において水を蒸発させ、次いで第二乾燥工程において有機溶媒を蒸発させる二段階の乾燥工程を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  8. 前記水分と有機溶媒を含んだシートに含まれる水と有機溶媒の質量割合が100:10〜10:100であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  9. 前記有機溶媒が、グライム類であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  10. 前記有機溶媒が、ジエチレングリコールジメチルエーテルであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
  11. 前記微細繊維状セルロースの繊維幅が2〜1000nmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  12. 前記微細繊維状セルロースの分散液中の濃度が0.1〜1質量%であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
  13. 請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法で得られた微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸して得たことを特徴とする微細繊維状セルロースの複合体。
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