JP5213362B2 - 固有複屈折を制御した繊維強化複合材料 - Google Patents

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本発明は、固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩の添加によって、固有複屈折を制御されたセルロースからなる不織布と、セルロース以外の樹脂を含浸させていることを特徴とする繊維強化複合材料に関する。
一般に、液晶表示素子や有機EL表示素子用の表示素子基板(特にアクティブマトリックスタイプ)、カラーフィルター基板、太陽電池用基板等としては、ガラス板が広く用いられている。
しかしながら、ガラス板は、薄肉化が困難であることや、割れ易い、曲げられない、比重が大きく軽量化に不向きなどの理由から、近年、その代替としてプラスチック素材が広く検討されている。
例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂、酸無水物系硬化剤及び硬化触媒を含むエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物からなる液晶表示素子用透明樹脂基板が記載され、特許文献2には、熱可塑性樹脂フィルムが2層以上であり、各熱可塑性樹脂フィルム間に接着剤層を有する液晶表示素子用透明樹脂基板が記載されている。
また、特許文献3には、特定のビス(メタ)アクリレートを含む組成物を活性エネルギー線等により硬化成形した透明基板を用いた液晶表示素子が記載されている。また、ディスプレイ前面板に使用されているガラス板もプラスチック板への変更が検討されている。例えば、特許文献4、5、6には、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等を用いたディスプレイ用前面フィルタが示されている。
しかしながら、これら従来のガラス代替用プラスチック材料は、ガラス板に比べ線膨張率が大きく、特に、アクティブマトリックス表示素子基板に用いるとその製造工程や使用環境下において反りや蒸着膜の割れ、アルミ配線の断線などの問題が生じ易く、これら用途への使用は困難である。したがって、表示素子基板、特にアクティブマトリックス表示素子用基板に要求される、透明性、耐熱性等を満足しつつ線膨張率の小さなプラスチック素材が求められている。
一方、昨今の全世界的なナノテクノロジーへの技術注力に見られるように、材料開発の一つの方向性として、より小さな構造単位の制御、着眼を挙げることができる。本発明者らは、そうした技術動向の中で、特許文献7や非特許文献1に開示されている1μm以下の繊維径を有するパルプ等天然セルロースを原料として得られる微小繊維状セルロース(以下、マイクロフィブリレーテッドセルロース、「MFC」と略す。)や特許文献10に開示されている酢酸菌の作る、太さが約数nmから200nmの範囲にある微小かつ高結晶性のセルロースナノファイバー(以下、バクテリアセルロース、「BC」と略す。)の製膜技術を検討してきた。このようなセルロースナノファイバーから成る膜は、特許文献8や特許文献9に開示されているように、極めて低い線膨張率を有することが知られており、更に、その隙間を樹脂で埋めてハイブリッド化した材料も低線膨張率を示すことが記載されている。また、このようなセルロースナノファイバーは、光の波長よりも繊維径が小さく、Mie散乱の割合が減少するため、全光線透過率が高いことが知られている。
また最近、矢野らは、非特許文献2に開示されるように、静置培養によって得られたBCゲルを圧搾後、乾燥させて得たBC膜にエポキシ系樹脂やアクリル系樹脂をハイブリッド化させたハイブリッドフィルムは、低線膨張率であると同時に高透明性を有するため、光学フィルムとして有効であることを報告している。
しかしながら、例えば矢野らの報告によると、静置培養で得られたBC膜は非常に緻密な構造をもつ膜であるため、65%のセルロース繊維を含有する複合体作成の際に樹脂モノマーを含浸させるのに極めて長時間および減圧下での浸漬が必要(減圧下で12時間浸漬後、常圧20℃下で4日間浸漬)であり、工業的生産という観点では極めて不利であった。また、該技術において、低線膨張率発現の主体をなすセルロースは、元来、吸湿性の材料であって、吸湿に伴い、物性変動が起こり易いという特徴を有する。したがって、ハイブリッドフィルムにおいてはBCまたはセルロースの分率はできるだけ低減したいという要望もあった。
また、特許文献10には特定の形状を有するバクテリアセルロースを用いた際に、上述したハイブリッド材料を得られるという事実が開示されているが、工業的に該材料を生産するためには、セルロース原料や膜に求められる条件の汎用性が必要である一方、低線膨張率を達成するためのセルロース膜に要求される構造的制約等についても明らかにされる必要があった。
さらに、該ハイブリッドフィルムの原材料となり得るBCまたは微細なセルロースから成る膜はバッチ式の静置培養法ではなく工業的生産可能な連続生産プロセスによって供給されることが望ましい。その場合、セルロースをいったん水などの分散媒体中に分散させた後に抄紙法やキャスト製膜法により製膜することが容易に考えられるものの、静置培養膜に匹敵する膜質均一性を得るためには、分散の方法や製膜の条件等に種々の工夫が必要となる。膜質均一性を著しく高めたセルロース膜を使用してハイブリッド膜を製膜することにより初めて、光学フィルムのような精密材料として適用できるようになる。
また、一般にセルロースには分子中の結晶に由来する物質固有の複屈折があり、そのため光学異方性がある。その結果、セルロースのナノファイバーから成る膜とセルロース以外の樹脂をハイブリッド化したフィルムを液晶パネルの基板として使用した場合、偏光板により直線偏光とされた入射光がフィルムの光学異方性により楕円偏光になり、コントラストの低下や表示ムラさらには色ズレ等の不具合を発生する。そのため、近年、技術要求が際立って高くなった液晶用途においては既存のセルロースハイブリッドは使用が困難である。
これまでに、光学異方性の低減を目的として、複屈折性の符号が互いに異なる高分子樹脂とアスペクト比の大きい無機微粒子とを用いた非複屈折光学樹脂材料が提案されている(特許文献11参照)。この非複屈折光学樹脂材料は、結晶ドープ法とよばれる手法により得られ、例えば、連続層となる高分子樹脂中にアスペクト比の大きい固有複屈折を有する微細な多数の無機粒子をランダム分散させ、プレ成形体とし、その後延伸などの成形力を外部から作用させ、高分子樹脂の結合鎖と多数の無機微粒子を概ね平行に配向させ、その結果、外力による高分子樹脂の結合鎖の配向によって生ずる複屈折性は、外力により同時に配向した符号の異なる無機粒子の固有複屈折性で減殺されるというものである。即ち、結晶ドープ法は成形時に発生する高分子鎖配向由来の複屈折を減じる方法である。
また、ガラスクロスに樹脂を含浸させた時に生じる正の配向複屈折を、負の複屈折を有する分子集合体のドープ、又は平均粒子径が5nm以上、100nm以下でありアスペクト比が2〜20のロッドライク状無機充填剤の配合によって、キャンセルさせる方法が提案されている(特許文献12、13参照)。この方法も、成形収縮時もしくは樹脂の硬化収縮時に発生するガラス界面と樹脂分子間で生じる樹脂分子の配向複屈折を減じる方法である。
しかしながらセルロースの場合、上記で述べたとおり、外力の有無によらない物質固有の複屈折が原因であること、また、低線膨張性を発現させるために連続的なフィラーとしてセルロースナノファイバーが使用されるハイブリッドフィルムでは高度な延伸が不可能
なため、外力による無機微粒子の配向が元々困難であった。そのため従来の結晶ドープ法は適応できなかった。
即ち、セルロースのナノファイバーから成る膜とポリマー樹脂をハイブリッド化することによる低線膨張率で光学異方性が制御された透明フィルムの提供において、該技術を工業的に提供可能とするためには、上述したいくつかの問題を解決する必要があった。
特開平6−337408号公報 特開平7−120740号公報 国際公開番号WO2002/074532号公報 特開2003−295778号公報 特開2003−5659号公報 特開平10−90667号公報 特開昭56−100801公報 特公平6−43443公報 国際公開第2003/040189号パンフレット 特開2004−270064公報 国際公開第01/25364号パンフレット 特開2005−133028号公報 特開2005−239802号公報 J.Appl.Polym.Sci.,Appl.Polym.Symp.,37, 797-813(1983) セルロース学会第11回年次大会講演要旨集、p1−p2
本発明の目的は、耐熱性を満足しつつ、透明性に優れかつ線膨張率が小さく、光学異方性を制御した樹脂材料を提供することにある。
即ち、本発明は、以下の通りである。
1.少なくとも、有複屈折を有する金属炭酸塩と、繊維径10nm以上、100nm以下である繊維を数分率で0.7以上有し、固有複屈折を有するセルロース不織布と、透明樹脂とを含有することを特徴とする繊維強化複合材料。
2.該固有複屈折を有する金属炭酸塩がセルロース不織布に対し、1質量%以上、200質量%以下の組成であることを特徴とする上記1.に記載の繊維強化複合材料。
3.水もしくは水と有機溶剤の混合液、またはイオン性化合物を溶解させた前記混合液からなる分散溶媒に、微細セルロース繊維を分散させ、更に、長径の平均値が10nm以上、500nm以下である固有複屈折を有する金属炭酸塩を添加し、分散混合して抄紙用分散液を製造する工程と、引き続き上記抄紙用分散液を抄紙法を用いて分散溶媒を含む湿紙とし、さらに、湿紙の固形分率が6質量%以上、30質量%以下の範囲の下で湿紙内に残留した分散溶媒を有機溶媒で置換する湿紙中の溶媒を置換する工程と、更に、上記工程で得られた溶媒で置換された湿紙を乾燥する湿紙の乾燥工程とを経て固有複屈折を有するセルロース不織布を得る工程、そして、得られたセルロース不織布に透明樹脂を含浸する工程とを、上記記載の順を経て製造されることを特徴とする上記1.に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
本発明の繊維強化複合材料は、ディスプレー用途光学材料、特に液晶用途材料において必要とされている光学異方性が制御されたものである。また、その他必要な耐熱性を満足しつつ、透明性に優れ、線膨張率も小さいことから産業上有用である。特にこうした特性
を生かした各種ディスプレイ用透明基板材料として有用である。
次に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の繊維強化複合材料は、固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩と、固有複屈折を制御されたセルロース不織布と、セルロース以外の樹脂とを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなるものである。
本発明における固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩としては、結晶の軸方向で異なる屈折率の値(異方性)を有する観点から、炭酸塩粒子(以下、「炭酸塩結晶」若しくは「炭酸塩結晶粒子」ともいう。)であることが好ましい。前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明における固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩が炭酸塩粒子である場合には、金属イオン源と、炭酸源とを液中で反応させて得られる。
金属イオンとしては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンなどが挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、アルカリ土類金属イオンであるSr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオンが特に好ましい。前記炭酸源と反応して、カラサイト、アラゴナイト、バテライト、及びアモルファスのいずれかの形態を有する炭酸塩を形成するものが好ましく、アラゴナイト型の結晶構造を有する炭酸塩を形成するものが特に好ましい。
前記アラゴナイト型の結晶構造は、CO3 2- ユニットで表され、該CO3 2- ユニットが積層されて針状及び棒状のいずれかの形状を有する炭酸塩結晶を形成する。従って、結晶構造の異方性が生じ、結晶軸方向で屈折率が異なり、2軸性の負の光学結晶となる。
前記金属イオン源としては、Sr2+イオン、Ca2+イオン、Ba2+イオン、Zn2+イオン、及びPb2+イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンを含む限り、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Sr、Ca、Ba、Zn、及びPbから選択される少なくとも1種の硝酸塩、塩素化物、水酸化物などが挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、水酸化物、塩素化物が特に好ましい。
前記金属イオン源としては、NO3 - 、Cl- 、及びOH- の少なくともいずれかを含むのが好ましく、このような具体例としては、Sr(NO3 2 、Ca(NO3 2 、Ba(NO3 2 、Zn(NO3 2 、Pb(NO3 2 、SrCl2 、CaCl2 、BaCl2 、ZnCl2 、PbCl2 、Sr(OH)2 、Ca(OH)2 、Ba(OH)2 、Zn(OH)2 、Pb(OH)2 、これらの水和物などが好適に挙げられる。
前記炭酸源としては、CO3 2- イオンを生ずるものである限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭酸ナトリウム[Na2CO3 ]、炭酸アンモニウム[(NH4 2 CO3 ]、炭酸水素ナトリウム[Na HCO3 ]、炭酸ガス、尿素[(NH2 2 CO]、炭酸カリウム[K2 CO3 ]、炭酸水素カリウム[KHCO3 ]、炭酸リチウム[Li2CO3 ]などが好適に挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸ガスが特に好ましい。
本発明における固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩のアスペクト比は、1.5以上、20以下であることが好ましく、3以上、15以下がより好ましく、3以上、8以下が特に好ましい。前記アスペクト比が1.5以上であると、前記固有複屈折を有する金属炭酸塩は針状になり、前記セルロース不織布製造時の抄紙工程中でセルロース繊維の配向面に沿った粒子配向の発現確率が大きくなり、その結果、本発明の効果が十分に得られる。一方、アスペクト比が20以下であれば、セルロース不織布製造に使用する抄紙原液作成時の分散工程で前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩が粉砕破壊されず、結果的に高い配向確立が得られ、本発明の効果が十分に得られる。
本発明における固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩の大きさを示すと、結晶の長軸方向の径で10nm以上、500nm以下である。この範囲であれば必要十分な全光線透過率が発現される。より好ましくは10nm以上、300nm以下、特に好ましくは10nm以上、200nm以下であり、この範囲であれば粒子によるMie散乱の割合が減少し、前記繊維強化複合材料の全光透過率は固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩添加前後でほぼ変化しない。
本発明における固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩の含有量は、前記セルロース不織布に対し、1質量%以上、200質量%以下である。この範囲であれば、必要な透明性を維持しつつ、目的の固有複屈折制御効果が発現する。更に好ましくは3質量%以上、150質量%、特に好ましくは5質量%以上、150質量%である。
前記全光線透過率は、前記繊維強化複合材料において、60%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。前記全光透過率が60%以上であれば、本発明の繊維強化複合材料の使用用途であるディスプレー材料において必要十分な透明度であると認められる。
本発明におけるセルロース不織布とは、セルロースから成る繊維を織ったり編んだりすることなく、繊維同士を化学的方法、機械的方法、またはそれらの組み合わせにより、結合や組み合わせを行った構造物である。
本発明における固有複屈折を制御されたセルロース不織布は、前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩によってセルロースの固有複屈折が制御されていることが好ましく、前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩がセルロース不織布製造時に添加され、セルロース不織布の固有複屈折が制御されていることがより好ましい(製造方法については後述する)。前記固有複屈折を制御されたセルロース不織布は、繊維径分布、平均繊維径、前記固有複屈折を有する金属炭酸塩の添加量が所定範囲にあることが好ましい。
次に、本発明のセルロース不織布においては、10nm以上、100nm以下の繊維径の繊維が全体の繊維に占める数分率として0.7以上であることが好ましい。
本発明において、「数分率」とは、10nm以上、100nm以下の繊維径の繊維が全体の繊維に占める割合であって、重量割合をいう。
100nm以下の繊維径の繊維が全体の繊維に占める数分率として、より好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.9以上である。100nm以下の繊維径の繊維の占める数分率が0.7以上であれば、本発明で必要とする線膨張率を確保できるようになり、本発明の効果が十分に得られる。また該数分率が最大値である1.0の場合にも、当然好適に本発明のセルロース不織布となる。
さらに本発明のセルロース不織布を構成する繊維の平均繊維径は2nm以上、150nm以下の範囲であることが好ましい。この範囲であれば、必要な透明性を維持することができる。より好ましくは平均繊維径が3nm以上100nm以下、さらに好ましくは5nm以上70nm以下である。ここで、該微細セルロース繊維の表面は化学修飾されていても構わない。例えば、微細セルロース繊維の表面に存在する一部あるいは大部分の水酸基が酢酸エステル化を含むエステル化されたもの、メチルエーテル、カルボキシエチルエーテル、シアノエチルエーテルを含むエーテル化されたもの、6位の水酸基が酸化され、カルボキシル基(酸型、塩型を含む)となったもの等を挙げることができる。本発明において平均繊維径とは、本発明における不織布を構成する繊維に対して実測した繊維径の平均値のことであり、後で詳細に述べる。
本発明の不織布は上述したように極めて微細な繊維径の繊維から構成されるため、大きな表面積を有する。窒素吸着によるBET法での比表面積として、好ましくは80m2 /g以上、より好ましくは100m2 /g以上、さらに好適な場合には140m2 /gの値を保有している。
本発明における、セルロース不織布を構成する繊維は、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプのうちの少なくとも一種を微細化することにより得られた微細セルロース繊維であることが特に好ましい。麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプは、各々、麻系のアバカ(例えばエクアドル産またはフィリピン産のものが多い。)、ザイサルや、バガス、ケナフ、竹等の原料を蒸解処理による脱リグニン等の精製工程を経て得られる精製パルプを意味する。これらは、いずれも元々極めて細い100nm以下の繊維径のミクロフィブリルを有すると同時に、ミクロフィブリル間に介在する水素結合やヘミセルロースの状態が、水含浸下で極めて分散され易い状態として存在していると考えられ、そのことに起因して、後述する叩解や高圧ホモジナイザー処理のような微細化処理により比較的容易に上述した条件を満たす微細セルロース繊維となり易いため、原料としての使用が極めて有効である。言うまでもなく、上述した精製パルプ以外でも本発明で規定する微細セルロース繊維を産する原料であれば好適に使用することができる。さらに、複数種のセルロース繊維、例えば、微細化程度の異なる、あるいは原料の異なるセルロース繊維、が混在していても構わない。
さらに、本発明のセルロース不織布は、枚葉品として提供することは当然可能だが、ロール状に10m以上の長さに巻き取った長尺状のセルロース不織布として提供することがさらに好ましい。長尺状のセルロース不織布として提供することは、すなわち該セルロース不織布が連続的に製膜されたものであることを意味し、好ましくは100m以上、さらに好ましくは200m以上であると工業上の種々のニーズに対応でき、より広い用途に適用することが可能となる。また、長尺状のセルロース不織布の幅に関しては、製品としての取り扱いの観点から、30mm以上、2000mm以下の範囲にあることが特に好ましい。不織布の幅は、いったん広い幅の不織布をロール状に巻き取ってからスリット加工することにより所定の幅としてもよい。上述した連続製膜を可能とするための製造法上の要件については後述する。
上述した特徴を有するセルロース不織布は、後述するように、置換溶媒である有機溶剤の組成やカレンダー処理の条件を選ぶことにより、広範囲の厚み、好ましくは3μm以上50μm以下の厚み、に設計することが可能である。また、不織布が極めて微細な繊維から構成されているため、極めて大きな比表面積を有する。
次に本発明のセルロース不織布の製造方法について説明する。
本発明のセルロース不織布は、水もしくは水と有機溶剤の混合液、またはイオン性化合物を溶解させた前記混合液からなる分散溶媒に、10nm以上、100nm以下の繊維径を有する繊維が全繊維に占める数分率が0.7以上であるセルロース繊維を、0.05質量%以上0.5質量%以下の濃度で分散させ、更に前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩を前記微細セルロース繊維に対し、1質量%以上、200質量%以下の濃度で添加、十分に分散混合することで得られた抄紙原液を使用し、抄紙法にて製膜することが好ましい。該分散液を用いてキャスト法により製膜することは本質的に可能であるが、キャスト法で製膜するためには該分散液の溶媒中に疎水性の有機溶媒を含有させる必要があり、その組成が大き過ぎると溶媒が乾燥する際に形成される繊維間の接触点(交絡点)の強度が十分でなくなるため、結果として本発明で規定する強度の不織布が得られ難くなり、製膜条件を絞り込むことが難しい。
ここで、分散液中の10nm以上、100nm以下の繊維径を有する繊維が全繊維に占める数分率が0.7以上の繊維であるかどうかは、上述した方法によって、製膜して得た不織布の表面を撮影したのSEM画像を解析することで確認することができる。このような極めて微細なセルロース繊維を特に抄紙法で製膜する場合には、その添加量に応じて、セルロース繊維を凝集させる能力を持つイオン性化合物を添加することにより高い生産性で、かつほぼ歩留まり100%で抄紙できる条件を見出すことができる。
次に該分散液中における微細セルロース繊維の濃度は、0.05質量%以上0.5質量%以上、好ましくは0.1質量%以上0.4質量%以下、さらに好ましくは0.15質量%以上0.35質量%以下の範囲であり、この範囲であると地合い(膜質均一性)に優れた本発明のセルロース不織布を製膜することができる。分散液中の微細セルロース繊維の濃度が0.05質量%より高ければ、微細セルロース繊維自身が有する分散安定効果が発現し、地合いに優れた不織布が得られるため好ましい。また、該濃度が0.5質量%よりも低いと、製膜の際、分散液の均一なフィード(送り出し)が行い易く、膜厚の均一性に優れた不織布が得られるため、好ましい。
抄紙方法は、バッチ式の抄紙機は勿論のこと、工業的に利用可能なすべての連続抄紙機を用いて実施することができる。特に、傾斜ワイヤー型抄紙機、長網式抄紙機、丸網式抄紙機によって好適に本発明の不織布を製造することができる。特に、後述する多層化抄紙の場合には、例えば、下地層抄紙は傾斜ワイヤー型抄紙機、上地層抄紙では丸網式抄紙機を用いる等の複数の異なる抄紙機を組み合わせるのも有効である。抄紙の際の好ましい詳細な条件については後述する。
また、抄紙の後、得られた湿紙は固形分率が6質量%以上30質量%以下の範囲に調整した後に有機溶媒あるいは水と有機溶媒の混合溶液と置換し、乾燥させることにより本発明のセルロース不織布を好適に得ることができる。ここで好ましくは、湿紙の固形分率が10質量%以上25質量%以下の範囲であると生産性と物性(特に通気抵抗度の制御)のバランスの面でより好適に本発明のセルロース不織布を製造することができる。湿紙の固形分率が6質量%よりも高いと湿紙としての自立性が発現し好ましい。また、湿紙の固形分率が30質量%以下であれば、溶剤置換工程終了後の不織布において空孔率が前記所定の範囲となるので好ましい。
ここで、湿紙の固形分率が6質量%以上30質量%以下の範囲に制御するには、例えば、抄紙の際のウェットサクションやドライサクション等のサクション圧力を適度にコントロールし、さらに抄紙後に湿紙に対し、プレスロール処理(プレス圧力で絞りの程度をコントロール)を行えばよい。
引き続いて、上記固形分率の範囲に制御された湿紙を有機溶媒あるいは水と有機溶媒の混合溶液と置換して乾燥させることにより本発明の不織布を得ることができる。乾燥は、通常ドラムドライヤーや乾燥室での大気圧下での乾燥を行うが、場合によっては加圧下あるいは真空下での乾燥を実施しても構わない。この際、物性の均一性を確保し、規定値範囲の通気抵抗度を実現させる目的から、湿紙状態の不織布は定長で乾燥させることがより好ましい。こうした置換工程を経ないで分散媒体が水の湿紙から乾燥して得た不織布は極めて通気抵抗度の高い膜となる。ここで有機溶媒や水と有機溶媒の混合溶液における組成の条件等の詳細については後述する。
次に、本発明におけるセルロース不織布製造に関し、その各工程についてより詳細な条件を説明する。まず本発明では、100nm以下の繊維径を有する繊維が全体の繊維に占める数分率として0.7以上である微細セルロース繊維を使用するのが好ましい。該微細セルロース繊維は、原料繊維を水または水と有機溶媒の混合溶媒に分散させた後、叩解処理を行って得られたものであるか、叩解処理を行った後に、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、グラインダー型微細化装置の内の少なくとも一つを用いて、さらに微細化されたものであることが好ましい。より具体的に説明すると、叩解処理工程においては、原料繊維を0.5質量%以上4質量%以下、好ましくは0.8質量%以上3質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上2.5質量%以下の固形分濃度となるように水または水と有機溶剤の混合溶液に分散させ、まずビーターやディスクリファイナー(ダブルディスクリファイナー)のような叩解装置でフィブリル化を促進させる。使用する分散溶媒
は、安全性の観点から水であることがより好ましいがエチレングリコールやグリセリンのようなセルロースへの親和性の高い多価アルコール系の有機溶媒か、場合によってはより疎水性の水に可溶な有機溶媒(例えば、エタノール、iso−ブタノール、tert−ブタノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、アセトン、シクロヘキサノン等)を用いても構わない。叩解処理によりフィブリル化が進行すると同時に、均一なスラリーとなり、以下に記載する微細化処理において詰まりを発生しない状態となる。
ここで、叩解の程度としては、一般的に用いられる指標としてJIS−P−8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法(以下、CSF法という。)のCSF値(単位:ml)が挙げられ、一般的には、CSF値は数100mlのオーダーから、叩解を進めるに従い小さくなっていくことが知られている(一般的な製紙における叩解過程は、CSF値が数100mlからゼロ付近にまで低減していく過程の範囲であることが多い)。しかしながら、本発明で微細化処理の前処理としての叩解処理では、例えば、ディスクリファイナーのディスク間のクリアランスを極めて小さく(0.1mm以下)保って処理を進めていくと、CSF値は小さくなって一旦ゼロ近くまで低下した後に増大していく傾向があることを見出している。本発明では繊維分散体の叩解を進め、CSF値が降下していく過程のCSF値を***↓ml、さらに叩解を進めゼロ付近を通り、CSF値が増大する過程のCSF値を***↑mlというように区別して表記する。本発明では少なくともCSF値が100↓mlよりも叩解を進める、好ましくは0mlよりも叩解を進める、さらに好ましくは50↑mlよりも叩解を進めると、その後の微細化処理がし易く、微細化処理条件との組み合わせによって好適な微細セルロース繊維のスラリーを得ることができる。
さらに、上記叩解処理により得られたスラリーをそのまま微細化処理することにより、より好適な本発明で使用する微細化セルロース繊維のスラリーを得ることができる。ここで、微細化処理として有効なものには、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、グラインダー型微細化装置を挙げることができる。高圧ホモジナイザーとしては、例えば、ニロ・ソアビ社(伊)製のNS型高圧ホモジナイザー、(株)エスエムテー製のラニエタイプ(Rモデル)圧力式ホモジナイザー、三和機械(株)製の高圧式ホモゲナイザーなどを挙げることができ、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、これら以外の装置であっても構わない。
超高圧ホモジナイザーとしては、みづほ工業(株)製のマイクロフルイダイザー、吉田機械興業(株)製のナノマイザー、(株)スギノマシーン製のアルティマイザーなどの高圧衝突型の微細化処理機を挙げることができるが、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、これら以外の装置であっても構わない。
グラインダー型微細化装置としては、(株)栗田機械製作所製のピュアファインミル、増幸産業(株)製のスーパーマスコロイダーに代表される石臼式摩砕型を挙げることができるが、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、これら以外の装置であっても構わない。いずれの場合でもスラリーを複数回数パスさせた条件で処理するのが好ましい。また、上述した微細化装置による微細化処理は複数の異なる装置での処理を組み合わせても構わない。
上述した微細化処理においては、原料繊維は天然系セルロース繊維、再生セルロース繊維のいずれかを用いるが、天然系セルロース繊維を用いた方が容易に微細化が進行する点で好ましい。天然系セルロース繊維とは、セルロースを含む天然原料を蒸解等の精製工程により処理して得られる精製セルロースを意味し、パルプシートとして加工されたものが使い易さの点で好ましい。
天然系セルロース繊維としては、木材(針葉樹及び広葉樹)由来の精製パルプの他に、非木材系セルロース繊維として、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、
竹由来パルプ、コットンリンターやコットンリントなどのコットン由来のセルロース、バロニアやシオグサなどの海草由来のセルロース、ホヤに含有されるセルロース、バクテリアの産生するセルロース等を挙げることができる。これらの中で、特に、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプのうちの少なくとも一種を選択すると、極めて微細化が進行し易く、好適に本発明の微細セルロース繊維を生産することができる。麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプのうちの少なくとも一種を原料として極めて高度に叩解処理を行った場合には、上述した微細化処理を施さなくとも本発明で使用する微細セルロース繊維として使用できる場合もある。
次に、上記工程により得られた微細化セルロース繊維のスラリーを微細セルロース繊維が0.05質量%以上0.5質量%以下の濃度となるように水または水と有機溶剤の混合溶液で希釈し、分散させて抄紙用の分散液を調製する。この際の分散機としては、種々のタイプの攪拌羽根を装着したアジテータ、ディスパー型のミキサー、ディスクレファイナー(ダブルディスクレファイナーを含む)やビーター等の叩解装置などの種々の装置を選択することができるが、通常、乳化に使用する巻き込み型のホモミキサー(例として、特殊機化(株)製のM型攪拌部を装着したT.K.ホモミキサー等)類のように微細繊維を撚糸してしまう効果のあるものは好ましくない。先に得た微細セルロース繊維のスラリー濃度が高いほど、分散の完全性を高めるために、より強固な分散条件(大きな回転数や長い処理時間)を設定する必要がある。
本発明では、抄紙用の分散液中にはイオン性化合物が溶解している必要がある。元々セルロース固体の表面は水中でマイナスに帯電していることが知られており、特に微細セルロース繊維を使用する本発明においては、その分散液中ではセルロースは極めて大きな表面積を有する状態で分散している。分散液中の微細セルロース繊維の表面には電気2重層が形成されていて、その静電的反発力により分散液は安定化している。分散溶媒中にセルロース表面の電気2重層と静電的な相互作用をもつイオンが供給され、その量が電気2重層の表面電荷を中和する量以上となると、微細繊維は反発力を失い、凝集を起こすようになる。すなわち、イオン濃度を徐々に高めていくと、ある閾値濃度以上で凝集が進行するようになり、以降、イオン濃度の増大に伴い凝集の程度は大きくなり、初期には緩やかな会合体が形成(軟凝集)されるが、次第に強い凝集体になり、該凝集体は締まった硬いもの(硬い凝集)となる。
本発明ではイオン性化合物は、本発明で原料として使用する微細セルロース繊維の抄紙用分散液中での微細セルロース繊維の適度な凝集を誘起し、抄紙時の濾水性を向上させるために投入する。本発明で使用する微細セルロース繊維は極めて微細な繊維であるため、イオン性化合物を添加しないと抄紙時の濾水時間が極めて長くなるかあるいはワイヤーや濾布への目詰まりや繊維の抜けを起こし、抄紙が不可能となる。
より具体的に、本発明で使用できるイオン性化合物を挙げると、水溶性の無機塩類、水溶性の有機系イオン性化合物、イオン性界面活性剤の3つのグループに分けることができる。
無機塩類としては、水中で解離し、イオン強度を有する化合物であれば何を用いても構わない。例として、塩酸および塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化アンモニウム、塩化銅(I)、塩化銅(II)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、次亜塩素酸ナ
トリウム、次亜塩素酸カルシウム、二酸化塩素のような塩素系化合物、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムのような水酸化化合物、炭酸水および炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムのような炭酸塩類、硫酸および硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム
、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸銅、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、硫酸アンモニウ
ムのような硫酸塩類、硝酸および硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸カリウム、硝酸銅(II)、硝酸銅(III)、硝酸アンモニウムのような硝酸塩類、リン酸、無水リン酸およ
びポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、かんすい、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三マグネシウム、リン酸アンモニウムのようなリン酸塩類、ホウ酸およびホウ酸ナトリウム(ホウ砂)、ホウ酸リチウム、ホウ酸アンモニウムのようなホウ酸塩類、さらにはチオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸アンモニウムのようなチオシアン酸塩類、生石灰、アンモニア等を挙げることができる。
有機系イオン性化合物としては、低分子化合物と高分子化合物の2種類に分類することができる。低分子化合物としては、有機酸およびその塩類あるいは有機塩基およびその誘導体類を挙げることができるが、より具体的には、酢酸および酢酸ナトリウムのような酢酸塩類、プロピオン酸およびプロピオン酸ナトリウムのようなプロピオン酸塩類、その他、酪酸、クエン酸、乳酸、シュウ酸、リンゴ酸、フマル酸のような各種有機酸とそれらの塩類、メチルアミンおよびジメチルアミン、トリメチルアミンのようなメチルアミン誘導体、エチルアミンおよびジエチルアミン、トリエチルアミンのようなエチルアミン誘導体、n−プロピルアミンおよびその誘導体、iso−プロピルアミンおよびその誘導体、sec−ブチルアミンおよびその誘導体、tert−ブチルアミンおよびその誘導体、アリルアミンおよびその誘導体、テトラメチルエチレンジアミンのような有機塩基およびその誘導体類を挙げることができる。
また、高分子の有機系イオン性化合物としては、アクリル酸モノマー単位およびアクリル酸塩モノマー単位、メタクリル酸モノマー単位およびメタクリル酸塩モノマー単位のようなアニオン性のモノマー単位が分子鎖骨格中に含まれるアニオン系水溶性高分子、アクリル酸の有機アミノ誘導体エステル、メタクリル酸の有機アミノ誘導体エステル、エチレンイミン誘導体のようなカチオン性のモノマー単位が分子鎖骨格中に含まれるカチオン系水溶性高分子、あるいはアニオン性のモノマー単位とカチオン性のモノマー単位との両方が分子鎖骨格中に含まれる両性水溶性高分子を挙げることができる。
ここで、上述したアニオン性のモノマー単位あるいはカチオン性のモノマー単位は、その構造中に水中で解離し、イオンとなる性質をもつ置換基を含んでいればよく、また、高分子鎖におけるイオン性のモノマー単位以外のモノマー単位は、水溶性に寄与する構造であれば何であってもよい。このような条件を満たす高分子は組み合わせ等により多種多様のものが存在するため、具体例として限定することは困難であるが、代表的なものとして例示すれば、以下のような高分子を挙げることができる。
カルボキシメチルセルロース(酸型、塩型の双方を含む)、ポリアクリル酸(酸型、塩型の双方を含む)、ポリメタクリル酸(酸型、塩型の双方を含む)、アルギン酸(酸型、塩型の双方を含む)、アクリルアミド・アクリル酸ソーダ共重合物(ダイヤニトリックス社のアクリパーズP−NS等)、ポリメタクリル酸ジメチルアミノエチル(ダイヤニトリックス社のダイヤフロックKP201等)、アクリルアミド・アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合物(ダイヤニトリックス社のダイヤフロックAP825等)、アクリルアミド・アクリル酸ジメチルアミノエチル・アクリル酸3元共重合体(ダイヤニトリックス社のダイヤフロックKA205等)、ポリビニルアミン(ダイヤニトリックス社のPVAM等)、N−ビニルホルムアミド・アクリロニトリル共重合体変性物(ダイヤニトリックス社のダイヤフロックKP700等)、アミノ変性シリコーン(東レ・ダウコーニング社の
SM8704等)、メチルハイドロジェンポリシロキサン(東レ・ダウコーニング社のSM8707EX等)、部分ケン化ポバール、アクリルエステル・マレイン酸共重合物、スチレン・メタクリル酸共重合物、スチレン・マレイン酸共重合物、カチオン化でんぷん、カゼイン、イオン性基を有する天然多糖類(グアガム等)、ポリアミドポリアミン/エピクロロヒドリン組成物(荒川化学工業社のアラフィックスAF−100)等。
イオン性界面活性剤として具体的には、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩などのアニオン界面活性剤、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウムなどのカチオン界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタインなどの両性界面活性剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
イオン性化合物は上述した条件で製造した抄紙用分散液中に溶解させるが、添加のタイミングは、少なくとも、ワイヤーや濾布上で濾水が起こる直前までに分散液中に溶解、混合されなければならない。より具体的には、パルプ原料を叩解する直前または叩解処理の最中、叩解後微細化処理を行う直前または微細化処理の最中、希釈・分散し抄紙用分散液を調製する直前またはその最中、あるいは抄紙用分散液がワイヤーあるいは濾布上に投入される直前または送液の途中で添加する。添加するイオン性化合物の性状は粉末状であっても、予め水溶液として調製したものを添加しても構わない。
次に、抄紙用分散液中へ添加するイオン性化合物の添加量は、上述したイオン性化合物の作用機構により、微細セルロース繊維の微細性と分散液中の繊維濃度(すなわち繊維の表面積の大きさ)に依存するため系によって異なるが、混合分散液中に含まれるイオン性化合物の濃度範囲として、0.0001質量%以上2質量%以下、好ましくは0.0002質量%以上1.5質量%以下、さらに好ましくは0.0003質量%以上1.0質量%以下の範囲である。分散液中のイオン性化合物の濃度が、0.0001質量%よりも高いとイオン性化合物が、微細セルロース繊維を十分なレベルにまで軟凝集させることができるため、濾水性の改善がなされ、好ましい。
本発明では、抄紙用の分散液中には、本発明の固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩が添加されていることが必要がある。元々セルロースには固有複屈折、つまりは光学異方性がある。例えば、非特許文献3(Polymer Handbook 3rd Ed., John Wiley &Sons, 1989,
V126)によると、麻(hemp)の繊維軸方向の屈折率が1.585から1.591に対し、繊維径方向は1.526から1.530となっており、0.055から0.065の固有複屈折を持っている。このため、セルロースのナノファイバーから成る不織布とセルロース以外の透明物質をハイブリッド化した繊維強化複合材料を液晶パネルの基板に使用した場合、偏光板により直線偏光とされた入射光が繊維強化複合材料の光学異方性により楕円偏光になるため、コントラストの低下や表示ムラさらには色ズレ等の不具合を発生する。セルロースの分散溶媒中に前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩を添加して、抄紙すると、セルロースの配向面に平行に前記固有複屈折を有する金属炭酸塩が自然に並ぶため、固有複屈折を有するセルロース不織布の固有複屈折を制御することが可能となる。
より具体的には、本発明の不織布の固有複屈折を制御するために添加する前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩の量は、前記セルロース不織布に対し、1質量%以上200質量%以下である。この範囲であれば、必要な透明性を維持しつつ、目的の固有複屈折制御効果が発現する。更に好ましくは3質量%以上150質量%、特に好ましくは5質量%以上150質量%の範囲である。
前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩は、上述した条件で製造した抄紙用分散液中に添加させるが、添加のタイミングは、ワイヤーや濾布上で濾水が起こる直前までに分散
液中に溶解、混合されるのが好ましい。より具体的には、パルプ原料を叩解する直前または叩解処理の最中、叩解後微細化処理を行う直前または微細化処理の最中、希釈・分散し抄紙用分散液を調製する直前またはその最中、あるいは抄紙用分散液がワイヤーあるいは濾布上に投入される直前または送液の途中で添加する。また、前記金属イオン源を抄紙用分散液中に添加し、炭酸源と反応させて、前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩を生成させても良い。また、前記金属イオン源を抄紙用分散液中に添加して抄紙し、抄紙した後の湿紙に炭酸源を反応させて、前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩を生成させても良い。
次に、上述した工程により得られる抄紙用分散液を用いて抄紙を行うが、抄紙はワイヤーまたは濾布を用いて分散液中に分散している微細セルロース繊維の軟凝集体を濾過する工程であるため、ワイヤーあるいは濾布の目のサイズが重要である。本発明においては、本質的には、上述した条件により調製した抄紙用分散液を、該分散液中に含まれる繊維の歩留まり割合が70%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは95%以上で抄紙することのできるようなワイヤーあるいは濾布であればどんなものでも使用できる。ただし、微細セルロース繊維の歩留まり割合が70%以上であっても濾水性が高くないと抄紙に時間がかかり、著しく生産効率が悪くなるため、大気圧下25℃でのワイヤーまたは濾布の水透過量が、好ましくは50ml/m2 ・s以上、さらに好ましくは100ml/m2 ・s以上であると、生産性の観点からも好適な抄紙が可能となる。
ここで、大気圧下25℃でのワイヤーまたは濾布の水透過量は次のようにして評価するものとする。
バッチ式抄紙機(例えば、熊谷理機工業社製の自動角型シートマシーン)に評価対象となるワイヤーまたは濾布を設置するにおいて、ワイヤーの場合はそのまま、濾布の場合は、80から120メッシュの金属メッシュ(濾水抵抗がほとんど無いものとして)上に濾布を設置し、抄紙面積がxm2 の抄紙機内に十分な量(ymlとする)の水を注入し、大気圧下で濾水時間を測定する。濾水時間がzs(秒)であった場合の水透過量を、「y/(xz)(mL/m2 ・s)」と定義する。
特に叩解後に微細化処理を施して得られる微細セルロース繊維では、上記の条件を満たすワイヤーや濾布は限定されるが、極めて微細なセルロース繊維に対しても使用できるワイヤーとして、SEFAR社(スイス)製のTETEXMONODLW07−8435−SK010(PET製)、濾布として敷島カンバス社製のNT20(PET/ナイロン混紡)を挙げることができる。
これに対し、叩解処理を行った繊維でまず上記のワイヤーよりも目の粗いワイヤー上で下地層の抄紙を行うことにより、下地層としての湿紙がフィルターの役割を果たし、叩解後に微細化処理を施して得られる微細セルロースを用いても歩留まり割合が70%以上で抄紙を実施することができる。この場合にも、下地層として使用する高度に叩解した繊維は、一般の繊維よりは微細な繊維径、繊維長を有するものであるため、その目のサイズは細かなものが望ましい。具体的には150メッシュ以上、さらに好ましくは200メッシュ以上であると好適に2層化以上の多層抄紙を実施することができる。
さらに、乾燥した低目付の不織布上で抄紙を行う場合には、下地層として用いる該不織布そのものがフィルターの役割を果たすので、該不織布を乗せるワイヤーの目のサイズは該不織布の孔径サイズに応じて選定すればよい。すなわち、該不織布が目の粗いもので、微細セルロース繊維を濾別する能力を持たない場合には、その下に本発明において使用する微細セルロース繊維の歩留まりが70%以上の値で抄紙できる濾別性能を有するワイヤーあるいは濾布が別途、必要となる。本発明で使用する微細セルロース繊維を歩留まり70%以上の値で抄紙できる該不織布を使用する場合には、当然ながらワイヤーは目の粗いもの(150メッシュ以下のもの)であって構わない。
抄紙後、6質量%以上30質量%以下の固形分率範囲に調製した湿紙を有機溶媒あるいは水と有機溶媒の混合溶液に置換し、乾燥させることにより本発明のセルロース不織布を得ることができる。ここで、有機溶媒あるいは水と有機溶媒の混合溶液に置換する際の条件について記載する。
該有機溶媒としては、アルコール、ケトン、エーテル、芳香族化合物、炭化水素、環状炭化水素、環状炭化水素誘導体から選ばれる少なくともいずれか一つであることが好ましい。本発明では、湿紙中で形成されている極めて微細なネットワーク構造から乾燥により水または水を含む媒体が蒸発し、排除されていくが、この際にセルロースに対する表面張力の低い水または水を含む媒体では、水が蒸発する際に、水が満たされている微細セルロースで囲まれた領域で水は一体化されて周囲の繊維全体を引っ張りながら抜けていく。その結果、繊維間距離が縮まることになり、仮に平面方向に膜サイズを保ちつつ乾燥(定長乾燥)としても乾燥後の膜は膜厚方向に収縮し、不織布の空孔率が前記所定の範囲以下となり、本発明においてセルロース以外の樹脂を含浸することができにくくなるため好ましくない。
これに対し、湿紙を有機溶剤または水と有機溶剤の混合溶液で置換するとネットワークを形成する繊維の近傍は水よりも表面張力の小さな溶媒で満たされることとなる。この場合には、溶媒含有率の高い状態ではネットワーク内部に溶媒が満たされているが、溶媒の蒸発と共に、比較的早期に、溶媒のセルロースに対する表面張力が高いために周囲の繊維の一部にばらばらに局在するようになり、以降、繊維表面に局在した溶媒が蒸発して排除されていく。この過程では、ネットワークを形成する微細繊維を収縮させる力は働かないため、元の湿紙中で形成されていたネットワークをそのままかあるいはそれに近い形に維持されて、乾燥が進行することになり、得られる不織布は空孔率の高い、通気性のある不織布となる。
より具体的に、置換溶媒として使用できる有機溶媒を例示すると、アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ベンジルアルコール、フェノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールtert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等の1,2−アルキルジオール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン及びその誘導体類等が挙げられる。
エーテルとしては、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール等が挙げられる。ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。炭化水素としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等が挙げられる。環状炭化水素としては、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。環状炭化水素誘導体としては、シクロペンタノール、シクロペンタノン、シクロペンチルメチルエーテル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、シクロヘキサノンジメチルアセタール等が挙げられる。
上述した有機溶媒を水との混合溶液として使用する場合には、混合溶液中に占める有機溶媒の割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であると好適に本発明の不織布を製造することができる。置換溶媒として水と有機溶媒の混合溶液を用いる場合に、混合溶液に占める有機溶媒の割合を40質量%よりも高くすることにより、乾燥後に得られるセルロース不織布の空孔率が前記所定の範囲となり、本発明においてセルロース以外の透明物質を含浸しやすくなるため好ましい。また、混合溶液における有機溶媒は2種以上のものを使用しても構わない。さらに、該有機溶媒は水に溶解していることが好ましいものの、場合によっては、完全に溶解しない有機溶媒を乳化させてエマルジョンとして使用しても構わない。
湿紙を有機溶媒あるいは水と有機溶媒の混合溶媒で置換する方法に関しては、上述した溶剤置換法の基礎原理を損なわない方法であればどのような方法であっても構わない。例えば、抄紙により製膜した湿紙をディップ浴に満たした置換溶剤に浸漬し、一定時間、浴中に浸した後に引き上げて、場合によってはプレスロール等により溶剤含有率をコントロールした後に乾燥工程に渡してもよい。また、ワイヤー上で抄紙し、プレス処理で固形分率をコントロールした後にやはりワイヤー上で有機溶媒あるいは水と有機溶媒の混合溶媒を上部からシャワー状に均一に供給し、置換溶媒を湿紙内部に上から下へ透過させて置換させた後に乾燥工程へ渡すプロセスも有効である。あるいは、丸網式抄紙機を溶剤置換槽として利用するのも有効である。この場合には、溜め槽の内部に置換溶媒を充填し、丸網ドラムのワイヤー上に湿紙を乗せて槽内部の置換溶媒へ浸漬し、ドラム内部への溶媒の物質移動により置換を行う。
上記により得た置換溶媒を含む湿紙を乾燥させることにより本発明のセルロース不織布を得ることができる。ここで、乾燥後の本発明のセルロース不織布に対し、さらにカレンダー装置による平滑化処理を施す工程を経ることにより、上述した薄膜化が可能となり、必要十分な、膜厚/空孔率/強度の組み合わせを有する本発明のセルロース不織布を提供することが可能となる。カレンダー装置としては、単一プレスロールによる通常のカレンダー装置の他に、これらが多段式に設置された構造をもつスーパーカレンダー装置を用いてもよい。これらの装置、およびカレンダー処理時におけるロール両側それぞれの材質(材質硬度)や線圧を目的に応じて選定することにより多種の物性バランスをもつ本発明のセルロース不織布を得ることができる。
置換、乾燥後のセルロース不織布に対するカレンダー処理の作用原理には2通りが考えられる。まず、本発明のセルロース不織布の製造工程では、抄紙用原料として使用する微細セルロース繊維の繊維長に対し、製造時に使用するワイヤーや濾布の表面凹凸のピッチが大幅に長いため、得られる不織布の表面はワイヤーや濾布の凹凸が転写され易い。第一点としては、カレンダー処理は、この凹凸を平坦化させる効果を有する。第二点としては、一定空孔率を有する不織布のネットワーク構造そのものを押し潰す効果である。二番目の効果により不織布の空孔率は低減し、平均孔径も小さくなることになり、結果的に、通気抵抗度は増大し、引張り強度や突刺し強度が増大する。実際には、設定したカレンダーの処理条件に応じて、上記一番目の効果と二番目の効果が混在し(種々の貢献率となって)、得られるセルロース不織布の構造や物性が決まる。また、必要に応じてエンボス加工を表面に施したカレンダー処理用金属ロールを使用して、任意の表面パターンにより凹凸を加えたセルロース不織布も本発明のセルロース不織布として好適に使用することができる。
特に本発明のセルロース不織布を連続的に製膜するためには、上述したような抄紙、プレス処理、溶剤置換、そしてこの後に記載する乾燥や場合によってはカレンダー処理の各工程を連続的に実施する必要がある。この際、製造に使用するワイヤーは、エンドレス仕様のものを用いて全工程を一つのワイヤーで行うことも、あるいは途中で次工程のエンド
レスワイヤーまたはエンドレスのフェルト布等にピックアップして渡すことも、あるいはエンドレスのフェルト布等に転写させて渡すことも可能である。即ち、製膜の全工程または一部の工程として、濾布を使用する一般的なロールからロールへの工程を用いることが可能である。本発明におけるセルロース不織布を製造する連続製膜のプロセスイメージの一例を図1に示す。図1では、傾斜ワイヤー抄紙機で抄紙してワイヤー上で運ばれてくる湿紙を、プレス部1において次のワイヤー(ワイヤー2)上へプレス転写してさらに排気下である防爆エリア内へ運びプレス部2右でプレス処理を施し湿紙の固形分濃度を高める。その後に、ワイヤー上に乗った湿紙の上部から湿紙の性状を壊さない程度に有機溶媒をシャワーで散布し、ワイヤー2の下部で若干の減圧で吸引することにより、湿紙中へ有機溶媒を透過(置換)させつつ、水分を含んだ有機溶媒を回収系へ運ぶ。同時に、プレス部2左でプレス処理を行うことにより、有機溶媒含浸湿紙の固形分率を高めた後、ワイヤー上から有機溶媒含浸湿紙を剥がし、ドラムドライヤーによる定長乾燥工程へ送り出し、乾燥後、ロール状にセルロース不織布を巻き取る。当然のことながら、製膜プロセスはこのものに限定されるものではない。
本発明におけるセルロース以外の透明物質とは、透明な液体、プラスチックなどの透明樹脂、ゲル状物質などであり、可視光線透過率が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上の物質である。
本発明におけるセルロース以外の樹脂とは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、および光硬化性樹脂より選択される少なくとも1種の樹脂である。熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂等が挙げられる。
スチレン系樹脂とは、ビニル芳香族単量体の単独重合体または他の単量体との共重合体を言い、ビニル芳香族単量体としては、スチレン、αメチルスチレン、パラメチルスチレン等が挙げられ、中でもスチレンの単独重合体または他の単量体との共重合体が好ましい。単独重合体の場合には、連鎖に立体規則性のあるもの(アイソトロピック、シンジオタクチック)でも、立体規則性のないもの(アタクチック)でも構わない。共重合可能な他の単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イソプレン、ブタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、酢酸ビニルなどが挙げられ、例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体等は、その共重合比によって樹脂の屈折率を調整することが可能であるので好ましい。
アクリル系樹脂とは、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、より選ばれる1種以上の単量体を重合したものである。なかでも、メタクリル酸メチルの単独重合体または他の単量体との共重合体が好ましい。メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、他のメタリル酸アルキルエステル類、アクリル酸アルキルエステル類、スチレン、ビニルトルエン、αメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類が挙げられる。又、トリシクロデシルメタクリレート等、脂環式アクリル樹脂も挙げられる。
芳香族ポリカーボネート系樹脂とは、芳香族ジヒドロキシ化合物より誘導される芳香族ポリカーボネートであり、芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,1−ビス(
4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルフェニルスルフィド等のジヒドロキシアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルフェニルスルホキシド等のジヒドロキシアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルフェニルスルホン等のジヒドロキシアリールスルホン類、等を挙げることができる。これらの中で、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称、ビスフェノールA)が特に好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
芳香族ポリエステル系樹脂とは、具体例を挙げると、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートまたはポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等である。
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体などが挙げられる。具体的には、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ3−ヒドロキシヘキサン酸またはポリカプロラクトンなどが挙げられ、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体としては、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートまたはポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。
脂肪族ポリオレフィン系樹脂とは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アイオノマー(エチレンアクリル酸系ポリマー塩や、スチレンスルフォン酸塩など)樹脂、およびそれらの共重合体や、マレイン酸などによる変性体などが挙げられる。
環状オレフィン系樹脂とは、ノボルネンやシクロヘキサジエン等、ポリマー鎖中に環状オレフィン骨格を含む重合体もしくはこれらを含む共重合体であり、その製造方法については特に限定されるものではない。環状オレフィン系樹脂とは、例えば、ノルボルネン骨格の繰返し単位、またはノルボルネン骨格とメチレン骨格の共重合体よりなるノルボルネン系樹脂が挙げられ、JSR製の「アートン」、日本ゼオン製の「ゼオネックス」および「ゼオノア」、三井化学製の「アペル」、チコナ製の「トーパス」等が挙げられる。具体例としては、特開昭62−252406号公報、特開昭62−252407号公報、特開平2−133413号公報、特開昭63−145324号公報、特開昭63−264626号公報、特開平1−240517号公報、特公昭57−8815号公報、特開平5−39403号公報、特開平5−43663号公報、特開平5−43834号公報、特開平5−70655号公報、特開平5−279554号公報、特開平6−206985号公報、特開平7−62028号公報、特開平8−176411号公報、特開平9−241484号公報等に記載されている樹脂が挙げられる。
ポリアミド系樹脂とは、例えば、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカラクタム(ナイロン11)、ポリドデカラクタム(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメ
チレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(9T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(6T)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、ポリドデカンテレフタルアミド(ナイロン12T)、およびこれらのうち少なくとも2種の異なったポリアミド形成成分を含むポリアミド共重合体、およびこれらの混合物などである。
ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載されてあるような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。これらの中でも特に好ましいポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、またはこれらの混合物である。また、本発明で使用できるポリフェニレンエーテル系樹脂は、全部又は一部が変性されたポリフェニレンエーテルであっても構わない。ここでいう変性されたポリフェニレンエーテルとは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または、三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテルを指す。ポリフェニレンエーテル系樹脂は耐熱性が高く、電気特性に優れているため、高耐熱用途、また電子部品として好適に使用することができる。
本発明におけるモノマーとは、これら熱可塑性樹脂を構成する単量体のことを言う。これらの熱可塑性樹脂の数平均分子量は、一般に1000以上、好ましくは5000以上500万以下、さらに好ましくは1万以上100万以下である。これらの熱可塑性樹脂は、単独ないし2種以上を混合して用いることができる。2種以上の熱可塑性樹脂を混合して用いる場合、その混合比によって樹脂の屈折率を調整することが可能であるので好ましい。また本発明において用いられる熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂とは、常温では液状、半固形状又は固形状等であって常温下又は加熱下で流動性を示す比較的低分子量の物質を意味する。これらは硬化剤、触媒、熱又は光の作用によって硬化反応や架橋反応を起こして分子量を増大させながら網目状の三次元構造を形成してなる不溶不融性の樹脂となり得る。また、本発明における樹脂硬化物とは、上記熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が硬化してなる樹脂を意味する。
本発明において用いられる熱硬化性樹脂としては、特に制限されるものではないが、具体例を示すと、エポキシ樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等、その他工業的に供されている樹脂及びこれら樹脂2以上を混合して得られる樹脂が挙げられる。なかでも、エポキシ樹脂、アリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂等は透明性を有するため、光学材料として使用する場合に好適である。
上記エポキシ樹脂とは、少なくとも1個のエポキシ基を有する有機化合物をいう。上記
エポキシ樹脂中のエポキシ基の数としては、1分子当たり1個以上7個以下であることが好ましく、1分子当たり2個以上であることがより好ましい。ここで、1分子当たりのエポキシ基の数は、エポキシ樹脂中のエポキシ基の総数をエポキシ樹脂中の分子の総数で除算することにより求められる。上記エポキシ樹脂としては、特に限定されず、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができ、例えば、以下に示したエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらエポキシ樹脂は熱硬化性樹脂先駆体のエポキシ化合物であり、硬化剤を用いることにより、エポキシ樹脂の硬化物である硬化エポキシ樹脂が得られる。
例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタントリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ樹脂及びこれらの水添加物や臭素化物等が挙げられる。また、3,4−エポキシシクロへキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシシクロヘキサノン−メタ−ジオキサン、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル等の脂環族エポキシ樹脂等が挙げられる。
また、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、炭素数が2〜9(好ましくは2〜4)のアルキレン基を含むポリオキシアルキレングリコールやポリテトラメチレンエーテルグリコール等を含む長鎖ポリオールのポリグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。また、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、へキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジル−p−オキシ安息香酸、サリチル酸のグリシジルエーテル−グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂及びこれらの水添化物等が挙げられる。
また、トリグリシジルイソシアヌレート、環状アルキレン尿素のN,N’−ジグリシジル誘導体、p−アミノフェノールのN,N,O−トリグリシジル誘導体、m−アミノフェノールのN,N,O−トリグリシジル誘導体等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂及びこれらの水添化物等が挙げられる。また、グリシジル(メタ)アクリレートと、エチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル等のラジカル重合性モノマーとの共重合体等が挙げられる。なお、本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。また、エポキシ化ポリブタジエン等の共役ジエン化合物を主体とする重合体又はその部分水添物の重合体における不飽和炭素の二重結合をエポキシ化したもの等が挙げられる。
また、エポキシ化SBS等のような、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック又はその部分水添物の重合体ブロックとを同一分子内にもつブロック共重合体における、共役ジエン化合物の不飽和炭素の二重結合をエポキシ化したもの等が挙げられる。また、1分子当たり1個以上、好ましくは2個以上のエポキシ基を有するポリエステル樹脂等が挙げられる。また、上記エポキシ樹脂の構造中にウレタン結合やポリカプロラクトン結合を導入した、ウレタン変成エポキシ樹脂やポリカプロラクトン変成エポキシ樹脂等が挙げられる。上記変成エポキシ樹脂として
は、例えば、上記エポキシ樹脂にNBR、CTBN、ポリブタジエン、アクリルゴム等のゴム成分を含有させたゴム変成エポキシ樹脂等が挙げられる。なお、エポキシ樹脂以外に、少なくとも1つのオキシラン環を有する樹脂又はオリゴマーが添加されてもよい。
また、フルオレン含有エポキシ樹脂、フルオレン含有アクリレート樹脂、フルオレン含有エポキシアクリレート樹脂など、フルオレン基を含有する熱硬化性樹脂および組成物、またはその硬化物も挙げられる。これらフルオレン含有エポキシ樹脂は、フルオレン基を分子内に含有することにより、屈折率が高く、また高耐熱であるため好適に用いられる。上記エポキシ樹脂の硬化反応に用いる硬化剤としては特に限定されず、従来公知のエポキシ樹脂用の硬化剤を用いることができ、例えば、アミン化合物、アミン化合物から合成されるポリアミノアミド化合物等の化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、酸無水物、フェノール化合物、熱潜在性カチオン重合触媒、光潜在性カチオン重合開始剤、ジシアンアミド及びその誘導体等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
また、本発明において用いられる光硬化性樹脂としては、例えば、潜在性光カチオン重合開始剤を含むエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なお、上記光硬化性樹脂を硬化させる場合には、光照射と同時に熱を加えてもよい。また本発明において熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂と併用して用いる硬化剤、硬化触媒は、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂の硬化に用いられるものであれば特に限定されない。硬化剤の具体例としては多官能アミン、ポリアミド、酸無水物、フェノール樹脂が挙げられ、硬化触媒の具体例としてはイミダゾール等が挙げられ、これらは単独又は2種以上の混合物として使用することができる。
本発明におけるポリイミド系樹脂とは、特に限定されるものではないが、その主鎖骨格中にイミド基を含有する樹脂であり、熱可塑性および熱硬化性のポリイミド系樹脂のいずれも使用できる。具体的には、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリシロキサンイミド等が挙げられ、具体例としては、特許第2128568号、特許第2129731号、特許第2738453号、特許第2746555号、特許第2909844号、特許第3034838号、特許第1531563号、特許第1836437号、特許第2597214号、特許第2597215号、特許第2671162号、特許第1954016号、特許第2034676号、特許第2514313号、特許第2587810号、特許第2523682号、特許第2566250号、特許第2566251号等の明細書に記載されているものが挙げられる。
また熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂および樹脂硬化物を2種以上混合して得られる樹脂も使用し得る。
本発明においては、セルロース不織布成分が0.1質量%以上99質量%以下であり、セルロース以外の樹脂成分が1質量%以上99.9質量%以下である。吸水率の観点からセルロース不織布成分99質量%以下、セルロース以外の樹脂成分1質量%以上であることが必要であり、線膨張率および耐熱の観点からセルロース不織布成分が0.1質量%以上、セルロース以外の樹脂成分が99.9質量%以下であることが必要である。好ましい範囲は、セルロース不織布成分が0.2質量%以上80質量%以下であり、セルロース以外の樹脂成分が20質量%以上99.8質量%以下である。さらに好ましい範囲は、セルロース不織布成分が10%以上60質量%未満であり、セルロース以外の樹脂成分が40質量%超90質量%以下である。とりわけ好ましい範囲は、セルロース不織布成分が10質量%超50質量%以下、セルロース以外の樹脂成分が50質量%以上90質量%未満である。樹脂含量は、樹脂含浸前のセルロース不織布の質量と含浸後の複合体の質量より求めることができ、また可溶な溶媒によって樹脂のみを取り除き、残ったセルロース不織布
の質量からも求めることができる。その他の方法としては、樹脂の比重とセルロースの比重から求める方法や、NMRやIRを用いて樹脂やセルロースの官能基を定量し、求める方法が挙げられる。
またセルロース以外の樹脂のガラス転移温度が50℃以上であることが望ましく、さらに望ましくは100℃以上であり、とりわけ望ましくは150℃以上である。複合体の耐熱性の観点から、ガラス転移温度が50℃以上であることが望ましい。
本発明においては、セルロース以外の樹脂は、100μm厚みの成形体とした場合の全光線透過率が60%以上あることが好ましい。70%以上であると複合体の透明性が向上し、好ましい。さらに好ましくは80%以上、とりわけ好ましくは85%である。
本発明においては、セルロース以外の樹脂の屈折率が1.49超1.59未満であることが好ましい。さらに好ましくは1.50以上1.59以下であり、とりわけ好ましくは、1.54以上1.59以下である。この範囲にあると、前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩の添加によって固有複屈折を制御されたセルロースの屈折率との差が小さくなるため、複合体の透明性がより向上し、好ましい。セルロース以外の樹脂の屈折率を、前記固有複屈折を有する微細な金属炭酸塩の添加によって固有複屈折を制御されたセルロースの屈折率に近づけるため、2種類以上の樹脂の単量体を共重合させ、屈折率を調整し使用することや、2種類以上の樹脂をブレンドさせて屈折率を調整し使用することも非常に有効である。
また、用いる2種類以上の樹脂が相溶系であると、透明性が向上するため好ましい。相溶系である樹脂の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、ポリメタクリル酸メチル/スチレンーアクリロニトリル共重合体のブレンド等が挙げられる。またセルロース以外の樹脂成分として、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂と硬化剤および硬化促進剤の組み合わせにより屈折率を制御することも非常に有効である。この場合、2種類以上の樹脂、硬化剤、硬化促進剤を使用することもできる。例えば、特に限定されるものではないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を混合することにより屈折率を調整すること等が有効である。またセルロース以外の樹脂成分として、熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂に、シリカ、チタン、亜鉛などの金属アルコキシドをハイブリッド化させた有機−無機ハイブリッド材料も屈折率の制御に非常に有効である。
本発明においては、セルロース以外の樹脂のアッベ数が30以上70以下であることが好ましく、さらに好ましくはアッベ数が40以上60以下の樹脂である。この範囲にあると、セルロース以外の樹脂の屈折率波長依存性が小さくなるため、複合体の透明性がより向上し好ましい。ここでいうアッベ数(vd )とは、屈折率の波長依存性、すなわち分散の度合いを示すもので、vd =(nD −1)/(nF −nC )で求めることができる。ここで、nD 、nF 、nC はそれぞれフラウンホーファーのD線である589.2nm、フラウンホーファーのF線である486.1nm、フラウンホーファーのC線である656.3nmの光に対する屈折率である。アッベ数が小さい材料は、波長によって屈折率が大きく変化する。
本発明における繊維強化複合材料の厚みは、好ましくは5μm以上5000μm以下であり、5μm以上5000μm以下の前記繊維強化複合材料は強度を保つことができ、耐熱性も高くすることが可能である上、前記繊維強化複合材料を使用したディスプレイ等の薄肉化および軽量化を向上させることができるため好ましい。さらに好ましくは20μm以上1000μm以下であり、特に好ましくは30μm以上400μm以下である。
本発明においては、繊維強化複合材料を複数枚重ねて複合体の積層体を得ることができる。該積層体に加熱プレス処理を施すことにより厚膜化することができ、厚みが10μm
以上5000μm以下である本発明の複合体を得ることができる。そのようにして得られる積層体は、強度が高く好ましく、同じ厚みの単層体と比較し、樹脂が浸透しやすいため、透明性、耐熱性、吸水性、線膨張性に優れ、好ましい。好ましい積層の枚数としては、2枚以上30枚以下であり、さらに好ましくは2枚以上20枚以下である。とりわけ好ましくは2枚以上10枚以下である。30枚以下であると、柔軟性のある複合体を得ることができる。
本発明においては、繊維強化複合材料の線膨張率が0.5ppm/℃以上60ppm/℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは1ppm/℃以上50ppm/℃以下である。(評価方法については実施例にて後述。)この範囲にすることにより、例えば液晶用基板の用途に好ましく用いることができる。液晶用基板の用途において、樹脂に低線膨張率が求められる理由としては、必要な表面処理のプロセス温度から室温に冷却される過程において、表面処理された導電機能やガスバリア機能が破壊されることを防止するためや、使用時に生じる温度差によって反りや変形を防止するために必要である。
本発明においては、繊維強化複合材料の全光線透過率が60%以上であることが好ましく、さらに好ましくは75%以上であり、とりわけ好ましくは85%以上である。全光線透過率が60%以上である前記繊維強化複合材料を得るためには、例えば全光線透過率が60%以上及び屈折率が1.45以上1.65以下であるセルロース以外の樹脂を用い、さらに最大繊維径が1500nm以下であるセルロースを含有する不織布セルロース不織布を使用することにより達成することができる。前記繊維強化複合材料の全光線透過率がこの範囲内にあると、表示ディスプレイ用基板等光学材料として好ましく用いることができ好ましい。
本発明においては、繊維強化複合材料のヘイズ値が80以下であることが好ましく、さらに好ましくはヘイズ値が60以下であり、とりわけ好ましくはヘイズ値が50以下である。本発明においては、繊維強化複合材料のリタデーションが350nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは200nm以下であり、とりわけ好ましくは100nm以下である。この範囲にあると、表示ディスプレイ用基板等の光学材料として好ましく用いることができる。
本発明の繊維強化複合材料の製造においては、セルロース不織布に対し、セルロース以外の樹脂を複合化させる方法として、一般的に用いられる複合化方法の全てが適応可能である。
具体的には、
(1)モノマーを含浸させて重合させる方法、
(2)熱硬化性樹脂先駆体または光硬化性樹脂先駆体を含浸させて硬化させる方法、
(3)熱硬化性樹脂先駆体または光硬化性樹脂先駆体を溶媒に溶解させた溶液を含浸後、乾燥させ、硬化させる方法、
(4)熱可塑性樹脂の溶融体を含浸させ脱泡後冷却する方法、
のいずれか一つの方法により繊維強化複合材料を製造する方法を用いることができる。
(1)モノマーを含浸させ重合させる方法とは、熱可塑性樹脂を構成する単量体であるメタクリル酸メチル等のモノマーを、セルロース不織布に含浸させ、熱処理等により上記モノマーを重合させることにより、セルロース不織布とセルロース以外の樹脂からなる繊維強化複合材料を得る製造方法であり、パーオキサイド等の有機過酸化物、または一般的にモノマーの重合に用いられる重合触媒を重合開始剤として用いることができる。重合触媒が不純物として繊維強化複合材料の性能を損なうことが想定される場合には、キノン類のような重合禁止剤を一切含まない高純度のモノマーを含浸させ、重合開始剤を用いないで熱重合させることも有効である。
また、(2)熱硬化性樹脂先駆体または光硬化性樹脂先駆体を含浸させ硬化させる方法とは、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂先駆体または光硬化性樹脂先駆体と硬化剤の混合物を、セルロース不織布に含浸させ、熱処理または光照射等により上記熱硬化性樹脂先駆体または光硬化性樹脂先駆体を硬化させることにより、セルロース不織布とセルロース以外の樹脂である硬化エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の硬化物または光硬化性樹脂の硬化物からなる繊維強化複合材料を得る製造方法である。エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂先駆体または光硬化性樹脂先駆体が室温で固体であり、セルロースを含有する不織布セルロース不織布に含浸させることが困難な場合は、該先駆体を前もって熱処理し融解させておくことや、該先駆体を可溶な溶媒に溶解させた溶液を含浸させることも可能である。表面の平滑性を高める意味で、ある程度硬化反応が進行した段階で加熱プレス処理下でさらに反応を進行させることも有効である。該加熱処理時にはある程度硬化反応が進行した繊維強化複合材料を数枚積層させて処理することも厚膜化時(上述)には有効である。
また、(3)熱硬化性樹脂先駆体または光硬化性樹脂先駆体を溶媒に溶解させた溶液を含浸後乾燥させる方法とは、セルロース以外の樹脂である熱硬化性樹脂先駆体または光硬化性樹脂先駆体を適切な溶媒に溶解し、セルロース不織布に含浸させ、乾燥させ、溶媒を除去後、加熱または光照射もしくは加熱と光照射の併用により含浸させた先駆体を硬化させることにより、本発明の繊維強化複合材料を得る製造方法である。
また、(4)セルロース以外の樹脂である熱可塑性樹脂の溶融体を含浸させ脱泡後冷却する方法とは、セルロース以外の樹脂である熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上または融点以上で熱処理することにより融解させ、セルロース不織布に含浸させ、脱泡後冷却することにより、セルロース不織布とセルロース以外の樹脂からなる繊維強化複合材料を得る製造方法である。熱処理は加圧下で行うことが望ましく、真空加熱プレス機能を有する設備の使用が有効である。
本発明においては、セルロース不織布として抄造法あるいは塗布法のような人工的製膜法により得られる厚みが5μm以上500μm以下の範囲にある連続不織布を用いることができる。ここで、厚みは不織布強度の観点から5μm以上であり、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μmである。また、生産性や工程管理の面から500μm以下、好ましくは300μm、さらに好ましくは200μm以下である。
本発明においては、上記連続不織布を用いて、さらに連続的にモノマーまたは熱硬化性樹脂先駆体または光硬化性樹脂先駆体、熱可塑性溶融樹脂または樹脂溶液を含浸後、重合、乾燥、硬化、乾燥および硬化させることにより、通常ロール状製品と呼ばれる連続成形体としても製造することができる。
また、連続成形体である本発明の繊維強化複合材料を複数層重ね合わせ、連続的あるいは半連続的に加熱プレス処理することにより、厚みが10μm以上5000μm以下である連続成形体の積層体を得ることができる。
本発明における繊維強化複合材料は、低線膨張率、耐熱性、透明性、低ヘイズ値、低リタデーション等の光学特性に優れ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイおよびタッチパネルや太陽電池の基板や前面板、カラーフィルター基板等に用いることができる。特に、これらディスプレイおよび太陽電池に用いられるガラス用途への本発明の繊維強化複合材料の代替が可能になり、軽量化、柔軟性、割れにくいなどの効果が得られる。本発明の繊維強化複合材料は、例えば、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理、防汚処理等の表面機能化処理、反射防止処理をすることもできる。
例えば、本発明の繊維強化複合材料に導電性金属酸化物を蒸着やスパッタリング等の手法または金属メッシュ配線、金属ペーストなどにより導電処理を施した場合にはプラズマ
ディスプレイ前面電磁波シールドとして用いることができ、シリカを蒸着やスパッタリングやポリシラザンやポリシランの酸化により積層し、ガスバリア処理を施したものは各種ディスプレイ基板に用いることができる。また蒸着やスパッタリングなどの手法により、ITOや導電性酸化亜鉛などの導電性金属酸化物を積層することにより、透明な導電膜が得られ、タッチパネルや各種ディスプレイ基板、太陽電池基板に用いることができる。このような繊維強化複合材料の表面処理の方法として、非特許文献4(A.Asano, T.Kinoshita, SID Digest2002,1196(2002) )記載の方法を用いることができる。この方法によっても本発明の繊維強化複合材料をTFT液晶基板として用いることができる。
本発明の繊維強化複合材料を使用して、タッチパネルや各種ディスプレイ基板、太陽電池基板として用いることができる透明電極用導電性基板は、例えば以下のようにして得ることができる。まず、該透明基板の表面に酸化インジウム、酸化スズ、スズ−インジウム合金、酸化亜鉛−ガリウム、酸化亜鉛−アルミニウムの酸化膜等の半導体膜や、金、銀、パラジウムあるいはそれらの合金等の金属膜、半導体膜と金属膜との組み合わせを、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の物理堆積法により形成する。必要に応じて水蒸気や酸素が該透明基板を透過することによって液晶素子や有機EL素子等に性能劣化が生じることを防ぐため、SiO2 等からなるガスバリア層の蒸着、あるいはポリシラザン/有機溶媒溶液やアルコキシシラン/有機溶媒溶液のような他の塗布系シリカ材料の塗布および加熱による3次元化反応に基づくバリア層形成、塩化ビニリデン系ポリマーやビニルアルコール系ポリマーなど相対的にガスバリア性の高いポリマーの塗布によりガスバリア層を設けることができる。
本発明においては、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。無機充填剤、酸化鉄等の顔料、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤、離型剤、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、着色剤、その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。
なお以下の実施例および比較例において、それぞれの値は次の定義に基づき測定した。
[繊維径100nm以下の繊維が全繊維に占める数分率]
不織布の表面に関して、走査型電子顕微鏡(SEM)により、構成する繊維の繊維径がはっきりと判別できる程度の同じ倍率の画像として、表面の異なる部分につき少なくとも2枚撮影する。次に、撮影した各々の画像の全体に対し、まず縦横方向に直交に交差する2本の直線を無作為に定め、2本の直線に交差する繊維の交差点における繊維径をすべて測定したとき、交差している繊維の数nのうち繊維径が100nm以下である繊維の数n’の割合、n’/nを算出する。同一サンプルの異なる場所について撮影したSEM画像のうち、2枚について算出したn’/nの平均値を、繊維径100nm以下の繊維が全繊維に占める数分率とする。
[平均繊維径]
不織布の表面に関して、無作為に少なくとも2箇所、走査型電子顕微鏡(SEM)により、繊維径がはっきりと認識できる倍率で行う。n’/nの測定の際と同様に、得られたSEM画像(例えば、図2と図3)に対し、画面に対し水平方向と垂直方向にラインを引き(例えば図2と図3の白線)、ラインに交差する繊維の個数と各繊維の繊維径を拡大画像から実測する。こうして2つのラインに交差するすべての繊維について繊維径の測定結
果を用いて平均繊維径を算出する。さらに同じサンプルについて観察した別の同じ倍率のSEM画像についても同じように平均繊維径を算出し、合計2画像分の結果の平均値を対象とする試料の平均繊維径とする。
[膜厚]
膜厚計(Mitutoyo社製、面接触型膜厚計;Code.No.547−401)を用いて、本発明に用いる不織布の厚み、および本発明の繊維強化複合材料の厚みを測定した。異なる5点以上の箇所で計測した測定値の平均値を膜厚とした。
[全光線透過率]
複合材料から任意に30mm四方に裁断したフィルムを評価試料とし、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH;2000)を用いて、JIS−K−7361に準拠して繊維強化複合材料の全光線透過率を測定した。
[線膨張係数]
繊維強化複合材料から任意に幅3mm、長さ18mmに裁断したフィルムを評価資料とし、(株)島津製作所製、TMA60型熱機械分析装置を用いて、窒素雰囲気下、1分間に50℃の割合で温度を30℃から200℃まで上昇させて5分間保持した後、1分間に15℃の割合で温度を30℃まで下降させて、15分間保持した後、1分間に5℃の割合で温度を200℃まで上昇させた時の、40〜200℃の時の値を測定して線膨張係数を求めた。荷重を4gにし、引張モードで測定を行った。
[正面レターデーション値(Re(0°))]
繊維強化複合材料から任意に30mm四方に裁断したフィルムを評価試料とし、位相差複屈折測定装置(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて、繊維強化複合材料の正面レターデーション値(Re(0°))を測定した。具体的には、KOBRA−WRにおいて、波長589.2nmの光を該評価試料の法線方向に入射して測定した。
[膜厚方向のレターデーション値(Rth)]
繊維強化複合材料から任意に30mm四方に裁断したフィルムを評価試料とし、位相差複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、KOBRA−WR)を用いて、繊維強化複合材料の膜厚方向のレターデーション値(Rth)を測定した。具体的には、KOBRA−WRにより判断される遅相軸を傾斜回転軸として、該評価試料の法線方向に対して+40°の傾斜方向から波長589.2nmの光を入射してレターデーション値(Re(40°))を測定し、さらに遅相軸を傾斜回転軸として、該評価試料の法線方向に対して−40°の傾斜方向から波長589.2nmの光を入射してレターデーション値(Re(−40°))を測定する。これらRe(40°)、Re(−40°)、および前述のRe(0°)、前述の複合材料の屈折率、さらに前述の膜厚の測定値をKOBRA−WRの解析ソフトに入力し、Rthを算出した。
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
[実施例1]
セルロース原料としてアバカA’パルプ(東邦特殊パルプ株式会社製)を使用し、該パルプを固形分1.5質量%の水分散体(400l)とし、ディスクリファイナー装置としてラボリファイナー(相川鉄工株式会社製、SDR14型.加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして400lのスラリーに対して、10分間叩解処理を進めた後、引き続いてクリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で叩解処理を続け、経時的にサンプリングを行い、サンプリングスラリーに対して、JIS−P−8121で定義されるパルプのカナダ標準濾水度試験方法(以下、CSF法)のCSF値を評価したところ、CSF値は経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとな
った後、さらに叩解処理を続けると、増大していく傾向が確認された。
クリアランスをゼロ近くとしてから100分間、上記条件で叩解処理を続け、CSF値で555↑mlの叩解スラリーを得た。得られた叩解スラリーを、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製、NS3015H)を用いて操作圧力100MPa下で20回の微細化処理を実施し、微細セルロース繊維の水分散体(固形分濃度:1.5質量%)、M1を得た。次にこのM1を、セルロース濃度が0.25質量%となるように水(イオン交換水)で希釈して500gとし、さらにこの中にセルロースに対して1.0質量%相当量のポリエチレンイミン系のイオン性高分子凝集剤、K409(ダイヤニトリクス社製)と、5.0質量%相当量のアスペクト比1.6、長径の平均値が53nmの炭酸ストロンチウムを添加し、家庭用ミキサーを用いて5分間分散処理を行い、抄紙用分散液を調整した。
該抄紙用分散液に対し微細セルロースを大気圧下25℃における濾過で99%以上濾別する能力を有するPET/ナイロン混紡製の平織物(敷島カンバス社製、NT20、大気下25℃での水透過量:300ml/m2 ・s)を、以下で使用する角型金属製ワイヤーのサイズ(25cm×25cm)に揃えて裁断したものを濾布として、バッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン)を用いて抄紙を行った。同抄紙機に組み込まれている角形金属製ワイヤー(25cm×25cm,80メッシュ)上に上述したPET製織物を設置し、その上から抄紙用分散液400gを抄紙機へ注入し、サクション(減圧装置)大気圧に対する減圧度を4KPaとして抄紙を実施した。
得られた濾布上に乗った湿潤状態の湿紙上にさらに同じ濾布をかぶせたものを、熊谷理機工業社製角型シートマシンプレスを用いて0.5MPaの圧力で1分間プレス処理し、湿紙の固形分が15質量%程度として、濾布/湿紙/濾布の3層の状態のままバット内に1kgのイソブチルアルコールが混入された置換浴中に15分間浸漬(置換処理)し、一旦、上述のシートマシーンプレスで0.5MPaの圧力で1分間プレス処理を行った。さらにもう一度、新たにイソブチルアルコール1kgをバット内に混入した置換浴中に浸漬させ、15分間静置した。次に、置換浴から取り出した濾布/湿紙/濾布の3層体をシートマシンプレスで0.5MPaの圧力で1分間プレス処理した後、3層体をそのまま表面温度が105℃に設定されたドラムドライヤー(熊谷理機工業社製)に貼り付けて約120秒間乾燥させた。得られた3層体からセルロース不織布を剥離させて、白色の地合い良好なセルロース不織布S1を得た。なお、セルロース不織布S1の数分率は0.92、繊維径は48.0nmであった。
S1に以下のようにして高分子樹脂を含浸した。ビスフェノールA型エポキシ(旭化成エポキシ株式会社製、AER−250)49.7質量%、硬化剤として環状脂肪族酸無水物(新日本理化株式会社製、リカシッドMH−700G)48.8質量%、および硬化触媒(サンアプロ株式会社製、U−CAT.18X)1.5質量%を混合して含浸液を調製した。該含浸液を離型処理済PETフィルムの上に置いた不織布S1上に展開し、減圧下で気泡を除去しながら充分含浸させた。含浸処理後の不織布S1の上にもう1枚の離型処理済PETフィルムを載せ、圧縮板(鉄製30cm四方、質量8kg)に挟んで130℃の圧縮成型機(東邦マシナリー株式会社製、油圧成形機;TD−37)に導入し、ほとんど圧力を掛けずに10分間保持した。次いで418Paの圧力を掛けて55分間保持し、熱硬化させることによって繊維強化複合材料A1を得た。A1の各種測定結果をA1の作製条件とともに表1に示した。
[実施例2]
実施例1において、M1に50質量%相当量のアスペクト比1.6、長径の平均値が53nmの炭酸ストロンチウムを添加する以外は、実施例1と同じ原料と機器を用いること
により不織布S2を得た。なお、セルロース不織布S2の数分率は0.90、繊維径は54.1nmであった。
さらに実施例1と同じ原料と機器を用いて繊維強化複合材料A2を得た。A2の各種測定結果をA2の作製条件とともに表1に示した。
[比較例1]
実施例1において、炭酸ストロンチウムを添加しない以外は、実施例1と同じ原料と機器を用いることにより不織布T1を得た。さらに実施例1と同じ原料と機器を用いて繊維強化複合材料B1を得た。B1の各種測定結果をB1の作製条件とともに表1に示した。T1の表面の10000倍のSEM画像を図2に示した。図2を含めたT1の表面に関する2枚のSEM画像の写真の解析により、T1の表面における100nm以下の繊維の占める数分率は、0.92であり、平均繊維径は44.1nmであった。
[実施例3]
実施例1において、M1に140質量%相当量のアスペクト比2.3、長径の平均値が56nmの炭酸ストロンチウムを添加する以外は、実施例1と同じ原料と機器を用いることにより不織布S3を得た。なお、セルロース不織布S3の数分率は0.91、繊維径は51.9nmであった。
S3に以下のようにして高分子樹脂を含浸した。ビスフェノールA型エポキシ(旭化成エポキシ株式会社製、AER−250)100質量%を70℃で融解させ、硬化剤(m−キシリレンジアミン)18質量%を混合して含浸液を調製した。該含浸液を離型処理済PETフィルムの上に置いた不織布S3上に展開し、減圧下で気泡を除去しながら充分含浸させた。含浸処理後の不織布S1の上にもう1枚の離型処理済PETフィルムを載せ、圧縮板(鉄製30cm四方、質量8kg)に挟んで130℃の圧縮成型機(東邦マシナリー株式会社製、油圧成形機;TD−37)に導入し、ほとんど圧力を掛けずに10分間保持した。次いで418Paの圧力を掛けて55分間保持し、熱硬化させて繊維強化複合材料A3を得た。A3の各種測定結果をA3の作製条件とともに表1に示した。
[比較例2]
実施例3において、不織布T1に実施例3と同じ原料と機器を用いて繊維強化複合材料B2を得た。B2の各種測定結果をB2の作製条件とともに表1に示した。
Figure 0005213362
固有複屈折を制御された繊維からなる不織布を高分子樹脂あるいは液体で充填した繊維強化複合材料は、偏光を利用するディスプレイ装置、例えば液晶ディスプレイ装置に使用した際、コントラスト比の改善や制御された視野角特性を持つ基板もしくは位相差フィルムとして使用される。
本発明のセルロース不織布における連続製膜のプロセスイメージ SEM画像 SEM画像

Claims (3)

  1. 少なくとも、有複屈折を有する金属炭酸塩と、繊維径10nm以上、100nm以下である繊維を数分率で0.7以上有し、固有複屈折を有するセルロース不織布と、透明樹脂とを含有することを特徴とする繊維強化複合材料。
  2. 該固有複屈折を有する金属炭酸塩がセルロース不織布に対し、1質量%以上、200質量%以下の組成であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料。
  3. 水もしくは水と有機溶剤の混合液、またはイオン性化合物を溶解させた前記混合液からなる分散溶媒に、微細セルロース繊維を分散させ、更に、長径の平均値が10nm以上、500nm以下である固有複屈折を有する金属炭酸塩を添加し、分散混合して抄紙用分散液を製造する工程と、引き続き上記抄紙用分散液を抄紙法を用いて分散溶媒を含む湿紙とし、さらに、湿紙の固形分率が6質量%以上、30質量%以下の範囲の下で湿紙内に残留した分散溶媒を有機溶媒で置換する湿紙中の溶媒を置換する工程と、更に、上記工程で得られた溶媒で置換された湿紙を乾燥する湿紙の乾燥工程とを経て固有複屈折を有するセルロース不織布を得る工程、そして、得られたセルロース不織布に透明樹脂を含浸する工程とを、上記記載の順を経て製造されることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
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