以下、本発明の複合体組成物および複合体について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<複合体組成物>
本発明の複合体組成物は、繊維状フィラーおよび樹脂材料を含み、例えば所定の形状に成形することにより成形体(複合体)を製造し得るものである。
繊維状フィラーを含む複合体組成物は、成形され、成形体(複合体)とされたとき、繊維状フィラー同士が絡み合うとともに樹脂材料中に分散して、成形体の機械的特性を高める。このため、得られた成形体は、機械的強度が高く、湿度膨張係数が低いものとなる。
本発明に用いられる繊維状フィラーには、多糖類材料で構成されたものが用いられる。
一方、本発明に用いられる樹脂材料には、繊維状フィラーを、平均繊維径が100μm以下になるよう分散可能なものであり、かつ、水素結合を形成可能な水素原子の含有量が0.01mol/g未満であることを特徴とするものが用いられる。
このような繊維状フィラーおよび樹脂材料を含む複合体組成物は、負の熱膨張係数を有するものとなる。このため、本発明の複合体組成物を他の組成物と混合することにより、所望の熱膨張係数、例えばゼロに近い熱膨張係数を有する複合体を容易に実現することができる。なお、本明細書では、熱線膨張係数のことを「熱膨張係数」ともいう。
以下、繊維状フィラーおよび樹脂材料について詳述する。
(繊維状フィラー)
本発明の複合体組成物に含まれる繊維状フィラーには、前述したように、多糖類材料で構成されたものが用いられる。
多糖類材料としては、例えば、セルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。これらの多糖類材料は、水に不溶であり、比較的水に分散し易いものであるため、このような多糖類材料で構成された繊維状フィラー(以下、「多糖類繊維」ともいう。)を用いることにより、機械的特性が高く、熱膨張係数の低い複合体組成物が得られる。
多糖類繊維のうち、セルロースで構成された繊維(セルロース繊維)としては、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維が挙げられる。
このうち、天然セルロース繊維としては、針葉樹や広葉樹から得られる精製パルプ、コットンリンターやコットンリントより得られるセルロース繊維、バロニアやシオグサなどの海草より得られるセルロース繊維、ホヤより得られるセルロース繊維、バクテリアの生産するセルロース繊維等が挙げられる。一方、再生セルロース繊維としては、天然セルロース繊維をいったん溶解した後、セルロースの組成のままで繊維状に再生したものが挙げられる。
また、本発明では、高結晶性のセルロース繊維が好ましく用いられる。このようなセルロース繊維は、特に線膨張係数が小さく、機械的強度が高いため、繊維状フィラーとして好適に用いられる。なお、かかる観点から、本発明に用いられるセルロース繊維としては、再生セルロース繊維よりも天然セルロース繊維が好ましい。
また、セルロース繊維の結晶化度は、特に限定されないものの、50〜95%であるのが好ましく、70〜90%であるのがより好ましい。このような結晶化度のセルロース繊維は、繊維自体の機械的特性が特に高くなり、複合体の機械的特性を特に高めることができる。
一方、多糖類繊維のうち、セルロース繊維以外の繊維としては、特にキチン繊維が好ましく用いられる。キチン繊維は、例えばキチンをアルカリ溶液に溶解し、これをビスコースレーヨン法により繊維化することによって製造される。
多糖類繊維の平均繊維径は、1〜1000nmであるのが好ましく、2〜300nmであるのがより好ましく、4〜200nmであるのがさらに好ましい。多糖類繊維の平均繊維径が前記範囲内であれば、最終的に得られる複合体において、繊維状フィラーが光の透過の阻害要因となることが防止される。このため、透明性を有する樹脂材料を用いることにより、透明性の高い複合体が得られる。
なお、本発明に用いられるセルロース繊維は、このような多糖類繊維単体であってもよいが、複数の多糖類繊維の集合体であってもよい。多糖類繊維の集合体である場合、集合体の平均繊維径は、複合体組成物中において100μm以下になっている。
ここで、多糖類繊維の平均繊維径の測定は、以下のようにして行うことができる。
まず、固形分率で0.05〜0.1重量%の多糖類繊維の分散体を調製し、該分散体を、カーボン膜被覆グリッド上にキャストして透過型電子顕微鏡(TEM)観察用試料とする。また、大きな繊維径の多糖類繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察してもよい。
顕微鏡観察時には、多糖類繊維の繊維径に応じて、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像を取得する。この際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定した場合に、少なくとも軸に対し、20本以上の多糖類繊維が交差するように、試料条件および観察条件(倍率等)を設定する。
そして、この条件を満足する観察画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、各軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。なお、試料表面について、互いに重複しないように撮影位置をずらしつつ、最低3枚の観察画像を電子顕微鏡で取得し、各画像についてそれぞれ上記のようにして繊維径を読み取る。これにより、最低20本×2×3=120本の多糖類繊維について繊維径の情報が得られる。このようにして得られた繊維径のデータに基づき、平均繊維径を算出する。
一方、多糖類繊維(繊維状フィラー)の平均長さは、特に限定されないが、100nm以上であるのが好ましく、200nm以上であるのがより好ましい。これにより、繊維状フィラーの補強効果がより顕著なものとなり、複合体において、機械的強度のさらなる向上と、湿度膨張係数のさらなる低下が図られる。
(繊維状フィラーの作製方法)
次に、繊維状フィラーの作製方法について説明するが、ここでは、一例としてセルロース繊維の作製方法について説明する。
本発明に用いられるセルロース繊維としては、公知のいかなる方法で得られたものでもよく、その製法は特に限定されないが、一例として、セルロース原料(天然セルロースまたは再生セルロース)を、媒体撹拌ミル処理装置、振動ミル処理装置、高圧ホモジナイザー処理装置、超高圧ホモジナイザー処理装置等の各種微細化装置により機械的に微細化したものが用いられる。また、別の方法として、エレクトロスピニング法、スチームジェット法、APEX(登録商標)技術(Polymer Group.Inc)法などにより得られたセルロース繊維を用いることもできる。しかしながら、エネルギー効率等を考慮すると、セルロース原料としては、以下に示す化学的な処理を伴う方法により得られたセルロース繊維が最も好ましい。
以下で説明するセルロース繊維の作製方法は、セルロース原料に化学的処理を施した後、機械的処理に供することで分散媒中に分散させ、セルロース繊維(ナノセルロースファイバー)を作製する方法である。
具体的には、[1]天然セルロースを原料とし、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程と、[2]不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程と、[3]水を含浸させた反応物繊維を分散媒に分散させる分散工程とを有する。以下に各工程について詳細に説明する。
[1]酸化反応工程
まず、酸化反応工程では、水中にセルロース原料を分散させた分散液を調製する。ここで、用いるセルロース原料には、あらかじめ叩解等の表面積を高める処理を施したものが好ましく用いられる。これにより反応効率を高めることができ、生産性を高めることができるからである。また、セルロース原料としては、単離、精製の後、ネバードライで保存していたものを使用するのが好ましい。これにより、セルロース原料を構成するミクロフィブリルの集束体が膨潤し易い状態になるため、やはり反応効率を高め、微細化処理後の数平均繊維径を小さくすることができる。
なお、本工程におけるセルロース原料の分散媒として水を用いた場合、分散液(反応水溶液)中のセルロース濃度は、試薬の十分な拡散が可能な濃度であれば任意であるが、通常、分散液の重量に対して5重量%以下である。
また、セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物は数多く報告されている。例えば、「Cellulose」Vol.10、2003年、第335〜341ページにおけるI.ShibataおよびA.Isogaiによる「TEMPO誘導体を用いたセルロースの触媒酸化:酸化生成物のHPSEC及びNMR分析」と題する記事に記載された、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、および4−フォスフォノオキシ−TEMPOの各種N−オキシル系化合物触媒は、水中における常温での反応速度において好ましく用いられる。なお、これらのN−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、より好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
また、共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、および過有機酸などが挙げられるが、特に、アルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、具体的には、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウム等が好ましく用いられる。次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合、臭化アルカリ金属、たとえば臭化ナトリウムの存在下で反応を進めることが反応速度において好ましい。この臭化アルカリ金属の添加量は、N−オキシル化合物に対して好ましくは約1〜40倍モル量、より好ましくは約10〜20倍モル量とされる。
また、反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃の範囲において任意であるが、反応は室温で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
共酸化剤によりセルロース分子には水酸基を置換するようにカルボキシル基が導入されるが、本発明に使用する微細セルロース繊維を得るにあたっては、セルロース原料の種類によって必要とされるカルボキシル基量が異なるため、それに応じて共酸化剤の添加量や共酸化剤を作用させる時間を設定すればよい。具体的には、カルボキシル基量が多いほど、最終的に得られるセルロース繊維の最大繊維径および数平均繊維径は小さくなるので、それを考慮して設定すればよい。
例えば、セルロース原料として木材パルプおよび綿系パルプを用いる場合、必要とされるカルボキシル基量はセルロース原料に対して0.2〜2.2mmol/gであり、セルロース原料としてバクテリアセルロース(BC)やホヤからの抽出セルロースを用いる場合、必要とされるカルボキシル基量は0.1〜0.8mmol/gとされる。このようにセルロース原料の種類に応じて、共酸化剤の添加量と反応時間とを制御することにより、各セルロース原料に最適なカルボキシル基量を導入することができる。
なお、以上のようなカルボキシル基の導入量に基づけば、共酸化剤の添加量を導くことができ、一例として、セルロース原料1gに対して約0.5〜8mmolの共酸化剤を添加することが好ましく、反応時間は約5〜120分、長くとも240分以内とするのが好ましい。
なお、本酸化反応工程を経ることにより、セルロース分子にはカルボキシル基が導入されるが、酸化処理の進行度合いによっては、アルデヒド基が導入される場合もある。したがって、本酸化反応工程終了後のセルロース分子の水酸基の一部は、アルデヒド基およびカルボキシル基の少なくとも一方で置換されていることになる。
[2]精製工程
精製工程においては、反応スラリー中に含まれる反応物繊維と水以外の化合物、具体的には、未反応の次亜塩素酸や各種副生成物等のような化合物を系外へ除去することを目的とする。反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までバラバラに分散しているわけではないため、通常の精製法、すなわち水洗とろ過とを繰り返すことで高純度(99重量%以上)化を図ることができる。
本精製工程における精製方法は、遠心脱水を利用する方法のように、上述した目的を達成できる装置(例えば、連続式デカンダー)であればいかなる装置を利用しても構わない。こうして得られる反応物繊維は、絞った状態の固形分(セルロース)濃度として、およそ10〜50重量%の範囲にある。なお、この後の工程で、ナノファイバー単位に分散させることを考慮すると、50重量%よりも高い固形分濃度にすることは、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
[3]分散工程
上述した精製工程においては、水を含浸した反応物繊維(水分散体)が得られるが、これを溶媒中に分散させ、分散処理を施すことにより、本発明に用いられる微細セルロース繊維が、水分散体の状態で得られる。
ここで、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶するアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等であってもよい。また、これらの混合物も好適に使用できる。
また、上述した反応物繊維溶媒によって希釈、分散する際には、少しずつ溶媒を加えて分散していくという段階的な分散を行うことにより、効率的にナノファイバーレベルの繊維の分散体を得ることができる。なお、操作上の問題から、分散工程後には、分散体が粘性のある状態あるいはゲル状となるように分散条件を選ぶとよい。
ここで、分散工程で使用する分散機としては、種々なものを使用することができる。具体例を示せば、反応物繊維における反応の進行度(アルデヒド基やカルボキシル基への変換量)にも依存するが、好適に反応が進行する条件下では、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等の工業生産機としての汎用の分散機で十分に微細セルロース繊維の分散体を得ることができる。
また、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダーのような高速回転下で強力な叩解能力を有する装置を使用することにより、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となる。さらに、これらの装置を使用することにより、アルデヒド基やカルボキシル基の量が比較的小さい場合(例えば、アルデヒド基やカルボキシル基のセルロースに対する量の総和として、0.1〜0.5mmol/g)にも、高度に微細化された微細セルロース繊維の分散体を提供できる。
次に、微細セルロース繊維を分散媒中に分散させた分散体から、微細セルロース繊維を回収する方法について説明する。
具体的には、上述した微細セルロース繊維の分散体を乾燥させることによって微細セルロース繊維を回収することができる。
ここで乾燥には、例えば、分散媒が水である場合には凍結乾燥法、分散媒が水と有機溶媒の混合液である場合には、ドラムドライヤーによる乾燥や場合によってはスプレードライヤーによる噴霧乾燥を好適に使用することができる。
また、上述した微細セルロース繊維の分散体の中には、バインダーとして水溶性高分子(ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、デンプン、天然ガム類等)、糖類(グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、トレハロース等)を添加するようにしてよい。これらのバインダー成分は、極めて沸点が高くしかもセルロースに対して親和性を有するため、これらの成分を分散体中に添加することにより、ドラムドライヤーやスプレードライヤーのような汎用の乾燥法で乾燥させた場合でも、再度分散媒中に分散させたときの凝集が防止され、ナノファイバーとして分散した微細セルロース繊維の分散体を確実に得ることができる。この場合には、分散体中に添加するバインダーの量は、反応物繊維に対して10〜80重量%の範囲にあることが好ましい。
なお、回収した微細セルロース繊維は再び、分散媒(水や有機溶媒あるいはこれらの混合液)中へ混入し、適当な分散力を加える(例えば、上述した分散工程で使用する各種分散機を用いた分散を行う)ことにより微細セルロース繊維の分散体とすることができる。
本発明に使用する微細セルロース繊維は、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基またはアルデヒド基に酸化されている。また、この微細セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有することが好ましい。なお、微細セルロース繊維がI型結晶構造を有することは、天然由来のセルロース固体原料を表面酸化し、微細化した繊維であることを意味する。
また、微細セルロース繊維がI型結晶構造を有することは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と2シータ=22〜23°付近の二つの位置に典型的なピークを持つことに基づいて同定することができる。さらに、微細セルロース繊維のセルロースにアルデヒド基あるいはカルボキシル基が導入されていることは、水分を完全に除去したサンプルについての全反射式赤外分光スペクトル(ATR)において、カルボニル基に起因する吸収(1608cm−1付近)が存在することにより確認することができる。特に、セルロースに酸型のカルボキシル基(−COOH)が導入されている場合には、上記の測定において1730cm−1に吸収が存在する。
微細なセルロース繊維は、上述した理由により、セルロースに存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和が多ければ多いほど、より微小な繊維径として安定に存在し得る。例えば木材パルプや綿パルプの場合、微細なセルロース繊維に存在するカルボキシル基とアルデヒド基の量の総和(以下、省略して「総和量」という。)がセルロース繊維の重量に対し、0.2〜2.2mmol/g、好ましくは0.5〜2.2mmol/g、さらに好ましくは0.8〜2.2mmol/gであれば、ナノファイバーとしての安定性に優れたセルロース繊維が得られる。また、BCやホヤからの抽出セルロースのようなミクロフィブリルの繊維径が比較的太いセルロースの場合(平均繊維径が数10nmのオーダー)には、総和量は0.1〜0.8mmol/g、好ましくは0.2〜0.8mmol/gであれば、ナノファイバーとしての安定性に優れたセルロース繊維が得られる。なお、総和量が前記下限値よりも小さい場合には、従来知られている微細化されたセルロース繊維との物性上の差異(例えば、分散体における分散安定化効果)も小さくなるとともに、微小な繊維径の繊維として得られ難くなるため、好ましくない。
さらに、ノニオン性の置換基であるアルデヒド基に対し、カルボキシル基が導入されることにより、電気的な反発力が生まれる。これにより、ミクロフィブリルが凝集を維持せずにバラバラになろうとする傾向が増大するため、ナノファイバーの分散体としての安定性はより増大する。例えば木材パルプや綿パルプの場合、微細なセルロース繊維に存在するカルボキシル基の量がセルロース繊維の重量に対し、0.2〜2.2mmol/g、好ましくは0.4〜2.2mmol/g、さらに好ましくは0.6〜2.2mmol/gであると、ナノファイバーとしての安定性に極めて優れたセルロース繊維が得られる。また、BCやホヤからの抽出セルロースのようなミクロフィブリルの繊維径が比較的太いセルロースの場合には、カルボキシル基の量は0.1〜0.8mmol/g、好ましくは0.2〜0.8mmol/gであると、ナノファイバーとしての安定性に優れたセルロース繊維が得られる。
ここで、セルロース繊維の重量に対するセルロースのアルデヒド基およびカルボキシル基の量(mmol/g)は、以下の手法により評価する。
乾燥重量を精秤したセルロース試料を用いて濃度が0.5〜1重量%のスラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してスラリーの電気伝導度測定を行う。この測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式を用いて官能基量を算出する。ここで算出された官能基量を「官能基量1」とする。この官能基量1がカルボキシル基の量を示す。
官能基量(mmol/g)=V(ml)×0.05/セルロースの質量(g)
次に、セルロース試料を、酢酸によってpH4〜5に調製した2%亜塩素酸ナトリウム水溶液中でさらに48時間常温で酸化し、上記手法によって再び官能基量を算出する。ここで算出された官能基量を「官能基量2」とする。そして、この酸化によって追加された官能基量(=官能基量2−官能基量1)を算出する。この官能基量がアルデヒド基の量を示す。
以上のようにして、本発明に用いられるセルロース繊維が得られる。
(樹脂材料)
従来、繊維状フィラーを含む複合体組成物に用いられる樹脂材料としては、各種硬化性樹脂材料、各種可塑性樹脂材料等が用いられていた。しかしながら、これらの樹脂材料を用いた場合、複合体組成物の熱膨張係数は正であり、負の熱膨張係数を有する複合体組成物は実現できなかった。
かかる課題に対し、本発明者は、複合体組成物に用いられる樹脂材料について、特に多糖類材料で構成された繊維状フィラーに対する分散性と、水素結合を形成可能な水素原子の含有量とに着目した。そして、これらの因子が、所定の条件を満足するとき、上記課題を解決し得る、すなわち、負の熱膨張係数を有する複合体組成物を実現することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に用いられる樹脂材料としては、前述したように、樹脂材料とともに添加される繊維状フィラーを、平均繊維径が100μm以下となるよう分散可能なものであり、かつ、水素結合を形成可能な水素原子の含有量が0.01mol/g未満であることを特徴とするものである。このような特徴を有する樹脂材料は、繊維状フィラーと混合されることにより、負の熱膨張係数を有する複合体組成物を実現することができる。
上記のように負の熱膨張係数を有する複合体組成物は、正の熱膨張係数を有する組成物と混ぜ合わせることにより、両者の熱膨張の特性を相殺することが可能である。その結果、混合物およびこの混合物を成形してなる複合体の熱膨張係数をほぼゼロにすることができる。また、両者の混合比を変更することで、混合物の熱膨張係数を適宜変更し、所望の熱膨張係数を有する混合物および複合体を実現することができる。
このようにして得られた複合体は、例えば、他の部材と接着された際に、接着界面への応力集中を抑制可能なものとなる。具体的には、他の部材の熱膨張係数とほぼ等しい熱膨張係数を有する複合体を作製することにより、接着に供される両者の間には熱膨張差に伴う応力はほとんど発生しない。このため、外部温度が変化したとしても、応力集中により生じる界面剥離等の不具合を確実に防止することができる。
また、本発明によれば、ガラス材料等の無機材料よりも熱膨張係数の小さい複合体も実現することができる。すなわち、本発明の複合体は、ガラス材料等の無機材料と同等またはそれより小さい熱膨張係数を有し、かつ、軽量、高強度、および低湿度膨張係数という優れた特徴をも併せ持つため、各種ガラス製部材の代替材として極めて有用である。
本発明の複合体組成物が奏する上述したような効果が発現するメカニズムについては明らかではないが、下記のように推察される。
まず、本発明の複合体組成物は、多糖類繊維を含む繊維状フィラーと、上述したような特徴と有する樹脂材料とを含むものである。
多糖類繊維は、その分子構造中に親水性の官能基を有しており、この親水性の官能基が主に、繊維状フィラー同士の相互作用や、繊維状フィラーと樹脂材料との間の相互作用をもたらす要因になっていると考えられる。一方、樹脂材料は、それ単体の熱膨張係数は正である。
本発明の複合体組成物を加熱すると、樹脂材料のガラス転移温度または融点以下の温度領域では、温度の上昇と共に樹脂が熱膨張するため、複合体組成物全体は、一旦、正の線膨張係数を示す。このとき、複合体組成物中の繊維状フィラーは樹脂材料との間の相互作用によって樹脂の膨張に引っ張られ、繊維状フィラーが形成するネットワークに歪みが生じる。そして、引き続き昇温し、温度が樹脂材料のガラス転移温度または融点を超えると、樹脂の粘性が急激に低下し、繊維状フィラーのネットワークにかかっていた歪みが緩和されて収縮が生じ、複合体組成物として、負の線膨張係数を示すものと考えられる。また、このとき、樹脂材料の水素結合を形成可能な水素原子の含有量の大小によって、樹脂材料と繊維状フィラーの相互作用の強さが異なるため、負の線膨張係数を示す樹脂と示さない樹脂の違いが生じると考えられる。
また、本発明に用いられる樹脂材料は、繊維状フィラーを平均繊維径が100μm以下になるよう分散可能なものであれば、複合体組成物中において繊維状フィラーの著しい凝集が防止されることとなり、凝集に伴って上述したような相互作用が抑制されてしまうのを防止することができる。なお、繊維状フィラーの平均繊維径は、前述した多糖類繊維の平均繊維径と同様にして測定することができる。
さらには、本発明に用いられる樹脂材料において、水素結合を形成可能な水素原子の含有量が0.01mol/g未満、好ましくは0.005mol/g未満であれば、繊維状フィラーに含まれる親水性の官能基と、樹脂材料に含まれる水素結合を形成可能な水素原子との間で、水素結合に基づく強固な引力が生じるのを防止することができる。
以上のようなメカニズムにより、本発明の複合体組成物は、負の熱膨張係数を有すると考えられる。
なお、水素結合を形成可能な水素原子とは、窒素原子、酸素原子およびフッ素原子のいずれかと共有結合している水素原子である。このような水素原子は強固な水素結合を形成可能であるため、複合体組成物の熱膨張係数に大きな影響を与えると考えられる。本発明者は、水素結合を形成可能な水素原子の含有量と、複合体組成物の熱膨張係数との因果関係に着目し、熱膨張係数が負の値になる水素原子の含有量を前述のように見出した。
また、前述したように、本発明に用いられる繊維状フィラーには、セルロース繊維やキチン繊維が好ましく用いられるが、これらの繊維は分子構造中に親水性の官能基を有しており、上記メカニズムにおいて明らかなように、複合体組成物は、負の熱膨張係数を確実に有するものとなる。
ここで、本発明に用いられる樹脂材料としては、例えば、各種硬化性樹脂、各種可塑性樹脂、各種水溶性樹脂(水溶性ポリマー)等が挙げられるが、このうち、水溶性樹脂が好ましく用いられる。樹脂材料として水溶性樹脂を用いることにより、繊維状フィラーと樹脂材料との間の相互作用がより安定化し、繊維状フィラーが安定的に分散する。具体的には、複合体組成物中の繊維状フィラーは、平均繊維径が100μm以下になる程度にまで安定した分散性を呈する。その結果、複合体組成物の熱膨張係数が負の値になる可能性がより高くなる。
特に、本発明に用いられる樹脂材料は、(i)モノマーとしてN−ビニルピロリドンを含むもの、(ii)モノマーとしてアクリル酸エステルを含むもの、および(iii)ポリエチレングリコールを含むもの等が好ましい。このような樹脂材料は、特に、複合体組成物の熱膨張係数を確実に負の値にすることができる。この詳細な理由は明確ではないものの、樹脂材料単体の正の熱膨張係数に対して、繊維状フィラーと樹脂材料との間の相互作用がTg以上の温度域において下回ることにより、複合体組成物の熱膨張係数が負の値になっているものと考えられる。具体的には、その樹脂材料が、繊維状フィラーを特に高度に分散可能であるとともに、水素結合を形成可能な水素原子の含有量が特に少ないということが、本発明の複合体組成物の熱膨張係数が負の値になることの要因になっていると考えられる。
(i)モノマーとしてN−ビニルピロリドンを含む樹脂材料は、水溶性(親水性)の樹脂であり、透明性が比較的高い樹脂材料である。このような樹脂材料としては、具体的には、N−ビニルピロリドン(N−ビニルー2−ピロリドン)の単独重合体、または、N−ビニルピロリドンのモノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
他のモノマーとしては、N−ビニルピロリドンと共重合可能なものであれば、特に限定されないものの、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のアルキルエステル(メチルアクリレート、エチルアクリレート等)、メタクリル酸のアルキルエステル(メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等)、アクリル酸のアミノアルキルエステル(ジエチルアミノエチルアクリレート等)、メタクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリル酸とグリコールとのモノエステル、メタクリル酸とグリコールとのモノエステル(ヒドロキシエチルメタクリレート等)、アクリル酸のアルカリ金属塩、メタクリル酸のアルカリ金属塩、アクリル酸のアンモニウム塩、メタクリル酸のアンモニウム塩、アクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、メタクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、ジエチルアミノエチルアクリレートとメチルサルフェートとの第4級アンモニウム化合物、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸のアンモニウム塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸塩、酢酸ビニル、ビニルステアレート、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルカルバゾール、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、グリコールジアクリレート、グリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリコールジアリルエーテル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせたものが用いられる。
共重合体の場合、N−ビニルピロリドンのモノマーの含有率は、20重量%以上であるのが好ましく、30重量%以上であるのがより好ましい。これにより、N−ビニルピロリドンのモノマーを含む樹脂材料は、負の熱膨張係数を有する複合体組成物を確実に実現することができる。
N−ビニルピロリドンを含む樹脂材料の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは2万〜500万程度とされ、より好ましくは20万〜200万程度とされる。
(ii)モノマーとしてアクリル酸エステルを含む樹脂材料も、水溶性(親水性)の樹脂であり、透明性が比較的高い樹脂材料である。このような樹脂材料としては、具体的には、アクリル酸エステルの単独重合体、または、アクリル酸エステルのモノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸パルミチル、アクリル酸ステアリル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせたものが用いられる。
また、他のモノマーとしては、アクリル酸エステルと共重合可能なものであれば、特に限定されないものの、例えば、(メタ)アクリル酸の他、(メタ)アクリル酸アンモニウム、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸金属のような各種の(メタ)アクリル酸塩、酢酸ビニル等が挙げられる。このうち、好ましくは(メタ)アクリル酸アンモニウムが用いられる。
共重合体の場合、アクリル酸エステルのモノマーの含有率は、80重量%以上であるのが好ましく、90重量%以上であるのがより好ましい。これにより、アクリル酸エステルのモノマーを含む樹脂材料は、負の熱膨張係数を有する複合体組成物を確実に実現することができる。
アクリル酸エステルを含む樹脂材料の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは500〜10万程度とされ、より好ましくは1000〜7万程度とされる。
(iii)ポリエチレングリコールを含む樹脂材料も、水溶性(親水性)の樹脂であり、透明性が比較的高い樹脂材料である。このような樹脂材料としては、特に重量平均分子量が200超のポリエチレングリコールが好ましく用いられ、重量平均分子量が400以上のものがより好ましく用いられ、重量平均分子量が1000以上のものがさらに好ましく用いられる。このような重量平均分子量のポリエチレングリコールであれば、負の熱膨張係数を有する複合体組成物を確実に実現することができる。
なお、ポリエチレングリコールに代えて、エチレングリコールと他のモノマーとの共重合体を用いるようにしてもよい。
他のモノマーとしては、エチレングリコールと共重合可能なものであれば、特に限定されないものの、例えば、乳酸、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シュウ酸、テレフタル酸等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせたものが用いられる。
共重合体の場合、エチレングリコールのモノマーの含有率は、50重量%以上であるのが好ましく、60重量%以上であるのがより好ましい。
また、本発明の複合体組成物には、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤のような各種カップリング剤、各種酸化防止剤、金属酸化物の粒子やシリカの粒子のような各種粒子等を含んでいてもよい。
なお、本発明に用いられる樹脂材料単体の熱膨張係数は、特に限定されないものの、その樹脂材料のガラス転移温度Tg以上の温度領域において、50〜250ppm/℃程度であるのが好ましく、100〜200ppm/℃程度であるのがより好ましい。
また、本発明に用いられる樹脂材料のガラス転移温度Tgは、特に限定されないものの、好ましくは−30〜300℃程度とされ、より好ましくは0〜200℃程度とされる。
(組成物)
上述したような繊維状フィラーおよび樹脂材料を含む複合体組成物においては、繊維状フィラーの配合量の重量分率が0.1〜99.9%であることが好ましく、0.1〜75%であることがさらに好ましい。なお、配合量は特に限定されるものではなく樹脂組成物を成形した際に必要とされる特性に応じて調整される。例えば、繊維状フィラーの特性を反映させたい場合は繊維状フィラーの配合量を増加させ、樹脂材料の特性を反映させたい場合は樹脂の配合量を増加させるようにすればよい。また、複合体組成物中の繊維状フィラーの含有量を適宜変更することにより、負の熱膨張係数の絶対値を調整することができる。
また、本発明の複合体組成物においては、必要に応じて、熱可塑性または熱硬化性のオリゴマーやポリマーを併用することができる。また、本発明の組成物には、必要に応じて、特性を損なわない範囲で、少量の紫外線吸収剤、染顔料、他の無機フィラー等の充填剤等を含んでいてもよい。
このような本発明の複合体組成物は、任意の方法により各成分を混合することにより得ることができる。例えば樹脂材料と繊維状フィラーをそのまま混合するようにしてもよく、必要に応じて加熱しつつ混合するようにしてもよい。また、分散媒を用いて繊維状フィラーの均一分散液を調製し、後に脱分散媒を行う方法を用いると、繊維状フィラーの分散性に優れた組成物を得ることができる。用いる分散媒としては、例えば繊維状フィラーの分散性を維持でき、かつ樹脂材料および/または後述するカップリング剤を溶解し得る溶剤を用いることにより均一に混合することができる。このような溶剤としては、例えば水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルセルソルブ、テトラヒドロフラン、ペンタエリスリトール、ジメチルスルホキサイド、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、これらを単独もしくは2種類以上を混合して用いることもできる。また、元の分散媒の分極率を目的の分散媒の極性へと徐々に変化させ、繊維状フィラーを異なる極性の分散媒に分散することも可能である。
また、本発明の複合体組成物は、所定の形状に成形されることにより、複合体となる。この複合体は、機械的強度が高く、熱膨張係数および湿度膨張係数が低いだけでなく、透明性が高いという特徴を有する。このため、複合体は、機械的特性を活かした用途のみならず、光学分野への応用も期待されている。
また、本発明の複合体組成物は、前述したように負の熱膨張係数を有するものとなる。具体的には、本発明の複合体組成物の熱膨張係数は、好ましくは−50〜0ppm/℃程度となることが期待され、より好ましくは−30〜−1ppm/℃程度となることが期待される。このような複合体組成物は、他の組成物と混合することで、例えばゼロに近い熱膨張係数を有する複合体の製造を可能にする。これにより、例えば他の部材と接着したときに、接着界面の剥離等の不具合を確実に防止し得る複合体が得られる。さらには、本発明の複合体組成物によれば、熱による寸法変化がほとんどなく、信頼性の高い光学部品、構造部品、精密機械部品等を実現することができる。
本発明の複合体組成物との混合に供される他の組成物としては、各種水溶性樹脂、各種可塑性樹脂、各種硬化性樹脂等が挙げられる。両者の混合比は特に限定されず、混合物の線膨張係数が−5〜5ppm、好ましくは−3〜3ppmになるように、任意に混合することができる。
水溶性樹脂としては、水に溶解するものであれば特に限定されないが、好ましくはポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミドのような合成高分子、デンプン類、アルギン酸類のような多糖類、木材の構成成分であるヘミセルロース、ゼラチン、ニカワ、カゼインをはじめとするたんぱく質のような天然高分子等が挙げられる。
また、可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート、ポリエチレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリプロピルラクトン等のポリエステル、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、ポリグルタミン酸、ポリリジン等のポリアミド等が挙げられる。
一方、硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、マレイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。
このうち、アクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレートのようなアルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレートの他、環状のアクリレートまたはメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート等を1種以上含む樹脂が挙げられる。
また、フェノール樹脂は、分子内にフェノール性水酸基を1つ以上有する有機化合物である。例えば、ノボラックやビスフェノール類、ナフトールやナフトールを分子内に有する樹脂、パラキシリレン変性フェノール樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール、メチロール型フェノール等のレゾール樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂をさらにメチロール化させた化合物、フェノール性水酸基を1つ以上含むリグニンやリグニン誘導体、リグニン分解物、さらにリグニンやリグニン誘導体、リグニン分解物を変性したもの、あるいはこれらを石油資源から製造されたフェノール樹脂と混合したものを含む樹脂が挙げられる。
また、エポキシ樹脂は、少なくとも1個のエポキシ基を有する有機化合物である。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型のエポキシ樹脂、これらのビスフェノール型エポキシ樹脂の水添化物、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、カルド骨格を有するエポキシ樹脂、ポリシロキサン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式多官能エポキシ樹脂、水添ビフェニル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA骨格を有する脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
また、樹脂材料として硬化性樹脂を用いた場合、硬化性樹脂の硬化方法は特に限定されないが、組成物中に、酸無水物や脂肪族アミン等の架橋剤、またはカチオン系硬化触媒もしくはアニオン系硬化触媒等の硬化促進剤を添加することが好ましい。
このうち、カチオン系硬化触媒としては、例えば加熱によりカチオン重合を開始させる物質を放出するもの、例えばオニウム塩系カチオン硬化触媒、またはアルミニウムキレート系カチオン硬化触媒)や、活性エネルギー線によってカチオン重合を開始させる物質を放出させるもの(例えばオニウム塩系カチオン系硬化触媒等)が挙げられる。具体的には、芳香族スルホニウム塩としては、三新化学工業製のSI−60L、SI−80L、SI−100L、旭電化工業製のSP−66やSP−77等のヘキサフルオロアンチモネート塩等が挙げられ、アルミニウムキレートとしては、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられ、三フッ化ホウ素アミン錯体としては、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素イミダゾール錯体、三フッ化ホウ素ピペリジン錯体等が挙げられる。
一方、アニオン系硬化促進剤としては、例えば1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン等の三級アミン類、2−エチル−4−メチルイミダゾールや1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のリン化合物、四級アンモニウム塩、有機金属塩類、およびこれらの誘導体等が挙げられ、これらの中でも透明性が優れることからリン化合物や1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類が好ましい。これら硬化促進剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
なお、上述した水溶性樹脂、可塑性樹脂および硬化性樹脂は、それぞれ個別に用いることも、または、2つ以上を組み合わせて用いることもできる。
<複合体>
本発明の複合体組成物は、成形されることにより、所定の形状を有する複合体となる。
例えば、本発明の複合体組成物を板状に成形することにより、太陽電池用基板、有機EL用基板、電子ペーパー用基板、液晶表示素子用プラスチック基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル用基板等に利用可能な各種透明基板(複合体)が得られる。
この場合、本発明の複合体の厚さは10〜2000μm程度であるのが好ましく、20〜200μm程度であるのがより好ましい。これにより、本発明の複合体は、上述したような透明基板として必要かつ十分な機械的強度と光透過性とを兼ね備えたものとなる。また、複合体の厚さが前記範囲内であれば、平坦性に優れ、従来のガラス基板と比較して透明基板の軽量化を図ることができる。
なお、本発明の複合体の厚さが前記範囲内である場合、その全光線透過率は70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、88%以上であるのがさらに好ましい。
また、本発明の複合体は、例えば、光学レンズ、光学シートのような光学素子の他、光導波路、LED封止材等に利用することもできる。
また、本発明の複合体の湿度膨張係数は、好ましくは100ppm/湿度%以下であり、より好ましくは50ppm/湿度%以下であり、さらに好ましくは30ppm/湿度%以下である。湿度膨張係数を前記範囲内とすることにより、本発明の複合体は、製造工程や使用時において吸湿したとしても、その寸法変化は十分に抑制されることとなる。その結果、寸法変化に伴う複合体の反りや複合体上に形成されたアルミ配線の断線等の不具合を確実に防止することができる。
また、本発明の複合体を光学素子に適用する場合、平滑性向上のために両面に樹脂のコート層を設けてもよい。コートする樹脂としては、優れた透明性、耐熱性、耐薬品性を有していることが好ましく、具体的には多官能アクリレートやエポキシ樹脂などが挙げられる。コート層の厚みは0.1〜50μmが好ましく、0.5〜30μmであるのがより好ましい。
さらに、本発明の複合体の表面には、必要に応じて水蒸気や酸素に対するガスバリア層や透明電極層を設けてもよい。
なお、本発明の組成物を用いて、シート状の複合体を得るには、一般的なシート形成方法を用いればよく、その形成方法は特に限定されない。形成方法としては、例えば複合体組成物をそのまま圧延してシート化する方法や、繊維状フィラーの分散媒を流延した後、分散媒を除去し、繊維状フィラーのシートを得、後に樹脂材料を含浸させる方法、または樹脂材料と繊維状フィラーと分散媒とを含む溶液を流延した後、分散媒を除去し、シートを得る方法が挙げられる。
そのようなプロセスにおいて好ましい態様の一つとしては、樹脂材料と繊維状フィラーとをあらかじめ分散媒中に分散して分散液を調製した後、得られた分散液をろ紙、メンブレンフィルターまたは抄網などに流延し、分散媒等のその他成分を濾別および/または乾燥させ、シートを得る方法である。なお、前記濾別乾燥工程においては、作業効率を高めるため減圧下、加圧下で行っても構わない。また、連続的に形成する場合には、製紙業界で使用される抄紙機を用いて薄層シートを連続的に形成する方法も含まれる。
流延してシートを作製する場合、濾別および/または乾燥後に形成されたシートが容易に剥離する基材上に作製されることが好ましい。このような基材としては、金属製または樹脂製のものが挙げられる。金属製基材としてはステンレス製基材、真ちゅう製基材、亜鉛製基材、銅製基材、鉄製基材などが挙げられ、樹脂製基材としてはアクリル製基材、フッ素系基材、ポリエチレンテレフタレート製基材、塩化ビニル製基材、ポリスチレン製基材、ポリ塩化ビニリデン製基材などが例示できる。
以上、本発明の複合体組成物および複合体の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば複合体には、任意の構成物が付加されていてもよい。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[繊維状フィラーの作製]
(作製例1)
まず、主に1000nmを超える繊維径のセルロース繊維からなり、乾燥重量で2g相当分の未乾燥のパルプと、0.025gのTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)と、0.25gの臭化ナトリウムとを、水150mlに分散させ、分散液を調製した。
次いで、この分散液に対して、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように加えて反応を開始した。反応中は分散液中に0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保つようにした。その後、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、0.5Mの塩酸水溶液でpH7に中和し、反応物をガラスフィルターにてろ過し、ろ過物を十分な量の水で水洗するとともに、ろ過を6回繰り返した。これにより、固形分濃度2重量%の反応物繊維を得た。
次に、該反応物繊維に水を加え、0.2重量%とした。この反応物繊維分散液を高圧ホモジナイザー(APV GAULIN LABORATORY製、15MR−8TA型)を用いて圧力20MPaで15回処理し、透明なセルロースナノファイバー分散液(繊維状フィラー分散液)を得た。
次に、分散体を親水処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャスト後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色し、TEM観察した。観察の結果、最大繊維径が10nmであり、数平均繊維径が6nmであった。
また、乾燥させて得られた透明な膜状のセルロース繊維の集合体について、広角X線回折分析を行い、回折像を得た。広角X線回折像からは、この膜状セルロースが、セルロースI型結晶構造を有するセルロース繊維からなることが示された。
また、同じ膜状セルロースについて、全反射式赤外分光分析を行い、ATRスペクトルを得た。ATRスペクトルのパターンからは、カルボニル基の存在が確認され、上述した方法により評価したセルロース繊維中のアルデヒド基の量およびカルボキシル基の量は、0.31mmol/gおよび1.7mmol/gであった。
(作製例2)
高圧ホモジナイザーに代えて、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Digital Sonifier S−450)を用いるようにした以外は、作製例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液(繊維状フィラー分散液)を得た。なお、超音波ホモジナイザーの出力(パワー)は40%、処理時間は30秒とした。
[複合体の作製]
(実施例1)
作製例1で得られた固形分濃度0.2重量%のセルロースナノファイバー分散水溶液とアクリル酸エステル系の共重合体(サイテック社製、Viacryl6286、ガラス転移温度30℃)とを混合し、室温で30分間撹拌した。得られた混合溶液を離型処理したシャーレに注ぎ、温度50℃のオーブンで水分を蒸発させ、さらに120℃の真空オーブン中で乾燥し、セルロースナノファイバーの含有量が25重量%で厚み30μmの透明なフィルム(複合体)を得た。
ところで、セルロースナノファイバー分散水溶液と前記共重合体との混合溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、セルロースナノファイバーが均一に分散していることが認められた。また、各繊維状フィラーの平均繊維径を測定したところ、100μm以下であることが認められた。
(実施例2)
前記共重合体に代えて、アクリル酸アンモニウムとアクリル酸エステルとの共重合体(東亞合成(株)製、ジュリマーAT510、ガラス転移温度27.5℃)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(実施例3)
前記共重合体に代えて、アクリル酸アンモニウムとアクリル酸エステルとの共重合体(東亞合成(株)製、ジュリマーET325、ガラス転移温度28.0℃)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(実施例4)
前記共重合体に代えて、アクリル酸アンモニウムとアクリル酸エステルとの共重合体(東亞合成(株)製、ジュリマーAT613、ガラス転移温度76.0℃)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(実施例5)
前記共重合体に代えて、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業社製、ポリビニルピロリドン、ガラス転移温度160℃)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(実施例6)
前記共重合体に代えて、ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製、ポリエチレングリコール20,000、重量平均分子量20000、融点56〜63℃)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(実施例7)
前記共重合体に代えて、ポリエチレングリコール(アルドリッチ社製、Poly(ethylene glycol)、重量平均分子量8000、融点60〜63℃)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(実施例8)
前記共重合体に代えて、ポリエチレングリコール(アルドリッチ社製、Poly(ethylene glycol)、重量平均分子量1540、融点43〜46℃)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(実施例9)
前記共重合体に代えて、ポリエチレングリコール(アルドリッチ社製、Poly(ethylene glycol)、重量平均分子量400、融点4〜8℃)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(実施例10)
作製例2で得られた固形分濃度0.2重量%のセルロースナノファイバー分散水溶液を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(比較例1)
前記共重合体に代えて、ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製、ポリエチレングリコール200、重量平均分子量200)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(比較例2)
前記共重合体に代えて、ポリアクリル酸(和光純薬工業社製、ポリアクリル酸25,000)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(比較例3)
前記共重合体に代えて、ポリアクリル酸アンモニウム(和光純薬工業社製、ポリアクリル酸アンモニウム溶液70〜110)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(比較例4)
前記共重合体に代えて、ポリアクリル酸ナトリウム(比較例2で用いたポリアクリル酸の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加え、PH12.4に調製したもの)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(比較例5)
前記共重合体に代えて、ポリビニルアルコール(和光純薬工業社製、ポリビニルアルコール)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(比較例6)
前記共重合体に代えて、ポリエチレンイミン(MP Biomedical社製、POLYETHYLENEIMINE 50%SOLUTION)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(比較例7)
前記共重合体に代えて、ヒドロキシエチルセルロース(和光純薬工業社製、ヒドロキシエチルセルロース)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(比較例8)
前記共重合体に代えて、カルボキシメチルセルロースアンモニウム(和光純薬工業社製、カルボキシメチルセルロースアンモニウム)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(比較例9)
前記共重合体に代えて、カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業社製、 カルボキシメチルセルロースナトリウム)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルム(複合体)を得た。
(比較例10)
繊維状フィラーの添加を省略し、以下のようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルムを得た。
アクリル酸エステル系の共重合体(サイテック社、Viacryl6286、ガラス転移温度30℃)をシャーレに注ぎ、温度50℃のオーブンで水分を蒸発させ、さらに120℃の真空オーブン中で乾燥し、厚み30μmの透明なフィルムを得た。
(比較例11)
樹脂材料の添加を省略し、以下のようにした以外は、実施例1と同様にして透明なフィルムを得た。
作製例1で得られた固形分濃度0.2重量%のセルロースナノファイバー分散水溶液をシャーレに注ぎ、温度50℃のオーブンで水分を蒸発させ、さらに120℃の真空オーブン中で乾燥し、厚み30μmの透明なフィルムを得た。
(比較例12)
作製例2で得られた固形分濃度0.2重量%のセルロースナノファイバー分散水溶液を用いるようにした以外は、比較例11と同様にして透明なフィルムを得た。
[複合体の評価]
各実施例および各比較例で得られたフィルムについて、以下の手順で熱線膨張係数をそれぞれ測定した。
<熱線膨張係数の測定手順>
セイコー電子(株)製TMA/SS120C型熱応力歪測定装置を用いて、窒素雰囲気下、1分間に5℃の割合で温度を所定の温度範囲(表1参照)で変化させた後、一旦0℃まで冷却し、再び1分間に5℃の割合で温度を上昇させて表1に記載の温度範囲の時の値を測定して求めた。そして、荷重を5gにし、引張モードで測定を行った。
上記測定の結果を表1、2に示す。
表1から明らかなように、各実施例で得られたフィルムでは、いずれも、繊維状フィラーの平均繊維径が100μm以下であり、かつ、樹脂材料の水素結合を形成可能な水素原子の含有量が0.01mol/g未満であるが、これらのフィルムでは、熱線膨張係数が負の値を示すことが認められた。
なお、表1中には示していないが、各実施例で得られた複合体組成物と、他の組成物とを、所定の割合で混合してフィルム(複合体)を形成したところ、熱線膨張係数がほぼゼロとなるフィルムが得られた。また、本発明の複合体組成物と他の組成物との混合比を変化させたところ、得られるフィルムの熱線膨張係数を変化させることもできた。
さらには、表1中には示していないが、超音波ホモジナイザーの出力または処理時間を変更することにより、フィルムの熱膨張係数を、実施例10の結果から変化させることができた。具体的には、超音波ホモジナイザーの出力を高めるか、または処理時間を増やすことにより、セルロースナノファイバーの平均繊維径が小さくなり、負の熱膨張係数の絶対値が大きくなる傾向が認められた。
一方、表2から明らかなように、比較例1〜9で得られたフィルムでは、いずれも、繊維状フィラーの平均繊維径が100μm超であった。また、これらのフィルムでは、熱線膨張係数が正の値を示すことが認められた。
また、比較例10〜12で得られたフィルムは、繊維状フィラーと樹脂材料との複合体ではないが、やはり熱線膨張係数は正の値を示した。