以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は一例であり、本発明は以下の実施の形態に限定されない。また、以下の実施の形態では、同一部材に同一の符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1の光電気化学セルの構成について、図1〜図4を用いて説明する。図1は、本実施の形態の光電気化学セルの構成を示す概略図である。図2は、本実施の形態の光電気化学セルを構成する半導体電極について、その構成をより詳しく示すための、一部断面を含む模式図である。図3は、本実施の形態の光電気化学セルにおいて、半導体電極を構成する導電体、第1のn型半導体層及び第2のn型半導体層の接合前のバンド構造を示す模式図である。図4は、本実施の形態の光電気化学セルにおいて、半導体電極を構成する導電体、第1のn型半導体層及び第2のn型半導体層の接合後のバンド構造を示す模式図である。図3及び4において、縦軸は、真空準位を基準とするエネルギー準位(単位:eV)を示す。
図1に示すように、本実施の形態の光電気化学セル100は、半導体電極120と、半導体電極120と対をなす電極である対極130と、水を含む電解液140と、半導体電極120、対極130及び電解液140を収容する、開口部を有する容器110と、を備えている。
容器110内において、半導体電極120及び対極130は、その表面が電解液140と接触するように配置されている。半導体電極120は、導電体121と、導電体121上に配置された第1のn型半導体層122と、第1のn型半導体層122上に配置された第2のn型半導体層123と、を備えている。容器110のうち、容器110内に配置された半導体電極120の第2のn型半導体層123と対向する部分(以下、光入射部110aと略称する)は、太陽光等の光を透過させる材料で構成されている。
半導体電極120における導電体121と、対極130とは、導線150により電気的に接続されている。なお、ここでの対極とは、半導体電極との間で電解液を介さずに電子の授受を行う電極のことを意味する。したがって、本実施の形態における対極130は、半導体電極120を構成している導電体121と電気的に接続されていればよく、半導体電極120との位置関係等は特に限定されない。なお、本実施の形態では半導体電極120にn型半導体が用いられているので、対極130は半導体電極120から電解液140を介さずに電子を受け取る電極となる。
図2に示すように、半導体電極120では、導電体121上にナノチューブアレイ構造を有する第1のn型半導体層122が設けられている。ナノチューブアレイ構造とは、複数のナノチューブ1221が、基板(ここでは導電体121)表面に対してほぼ垂直な方向に延びるように配向することによって形成された構造である。第1のn型半導体層122上に配置される第2のn型半導体層123は、各ナノチューブ1221の表面上に設けられた膜として形成されている。なお、図2に示された第2のn型半導体層123は、ナノチューブ1221の表面全体を被覆しているが、これに限定されず、ナノチューブ1221の表面に第2のn型半導体層123で被覆されていない部分が存在していてもよい。
このようなナノチューブアレイ構造を有する第1のn型半導体層122と、第2のn型半導体層123との作製方法については、後述する。
次に、図1〜図4を参照しながら、本実施の形態に係る光電気化学セル100の動作について説明する。
光電気化学セル100における容器110の光入射部110aから、容器110内に配置された半導体電極120の第2のn型半導体層123に太陽光が照射されると、第2のn型半導体層123において伝導帯に電子が、価電子帯にホールが生じる。このとき生じたホールは、第2のn型半導体層123の表面側に移動する。これにより、第2のn型半導体層123の表面で、下記反応式(1)により水が分解されて酸素が発生する。一方、電子は、第2のn型半導体層123と第1のn型半導体層122との界面、並びに第1のn型半導体層122と導電体121との界面における伝導帯のバンドエッジの曲がりに沿って、導電体121まで移動する。導電体121に移動した電子は、導線150を介して、半導体電極120と電気的に接続された対極130側に移動する。これにより、対極130の表面で、下記反応式(2)により水素が発生する。
4h++2H2O → O2↑+4H+ (1)
4e-+4H+ → 2H2↑ (2)
詳細は後述するが、第1のn型半導体層122と第2のn型半導体層123との接合面にはショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなく第2のn型半導体層123から第1のn型半導体層122に移動できる。さらに、第1のn型半導体層122と導電体121との接合面にもショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなく第1のn型半導体層122から導電体121まで移動できる。したがって、光励起により第2のn型半導体層123内で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなる。これにより、本実施の形態の光電気化学セル100によれば、光の照射による水素生成反応の量子効率を向上させることができる。
また、本発明の光電気化学セルでは、第1のn型半導体層122はナノチューブアレイ構造を有しているので、その表面積が大きい。したがって、第1のn型半導体層122の表面に形成される第2のn型半導体層123の表面積も大きくなる。これにより、第2のn型半導体層123に照射された太陽光を効率良く利用して、電子とホールとを生じさせることができる。さらに、第1のn型半導体層122を構成する各ナノチューブ1221は、縦方向(ここでは、導電体121の表面に対してほぼ垂直な方向)に高い結晶性を有している。そのため、第1のn型半導体層122内では、ナノチューブ1221の縦方向への電子の移動速度が向上すると考えられる。これにより、第2のn型半導体層123から第1のn型半導体層122に移動した電子は、第1のn型半導体層122を一つの膜として形成する場合よりも、よりスムーズにナノチューブ1221内を移動して、導電体121に到達できる。これらの理由により、本発明の光電気化学セルは、第1のn型半導体層122を一つの膜として形成する場合と比較して、高い量子効率が得られる。
次に、半導体電極120における導電体121、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123のバンド構造について、詳しく説明する。なお、ここで説明するバンド構造のエネルギー準位は、真空準位を基準としたものである。以下、本明細書において説明する半導体及び導電体のバンド構造のエネルギー準位も、同様に、真空準位を基準としたものである。
図3に示すように、第2のn型半導体層123の伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が、それぞれ、第1のn型半導体層122の伝導帯のバンドエッジ準位EC1及び価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも大きい。
また、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1が、第2のn型半導体層123のフェルミ準位EF2よりも大きく、導電体121のフェルミ準位EFcが、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1よりも大きい。
次に、導電体121、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123を互いに接合させると、図4に示すように、第1のn型半導体層122と第2のn型半導体層123との接合面において、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、バンドエッジの曲がりが生じる。このとき、第2のn型半導体層123の伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が、それぞれ、第1のn型半導体層122における伝導帯のバンドエッジ準位EC1及び価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも大きく、かつ、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1が、第2のn型半導体層123のフェルミ準位EF2よりも大きいことから、第1のn型半導体層122と第2のn型半導体層123との接合面には、ショットキー障壁は生じない。
また、導電体121と第1のn型半導体層122との接合面においても、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、接合面付近におけるバンドエッジに曲がりが生じる。このとき、導電体121のフェルミ準位EFcが、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1よりも大きいことから、導電体121と第1のn型半導体層122との接合はオーミック接触となる。
上記のような半導体電極120を電解液140と接触させると、第2のn型半導体層123と電解液140との界面において、第2のn型半導体層123の表面付近における伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が持ち上げられる。これにより、第2のn型半導体層123の表面付近では、伝導帯のバンドエッジ及び価電子帯のバンドエッジに曲がりが生じる。すなわち、第2のn型半導体層123の表面付近に空間電荷層が生じる。
比較の形態として、第2のn型半導体層における伝導帯のバンドエッジ準位が第1のn型半導体層における伝導帯のバンドエッジ準位よりも小さい形態を想定する。この場合、第2のn型半導体層の表面付近における伝導帯のバンドエッジの曲がりと、第1のn型半導体層−第2のn型半導体層間の伝導帯のバンドエッジ準位の差とにより、第2のn型半導体層内部における伝導帯のバンドエッジ準位に井戸型ポテンシャルが生じることになる。この井戸型ポテンシャルにより、第2のn型半導体層の内部に電子が溜まってしまい、光励起により生成した電子とホールとが再結合する確率が高くなってしまう。
これに対し、本実施の形態の光電気化学セル100では、第2のn型半導体層123における伝導帯のバンドエッジ準位EC2が第1のn型半導体層122における伝導帯のバンドエッジ準位EC1よりも大きくなるように設定されているので、第2のn型半導体層123内部における伝導帯のバンドエッジ準位に、上記のような井戸型ポテンシャルが生じない。そのため、電子は第2のn型半導体層123の内部に溜まることなく第1のn型半導体層122側へ移動し、電荷分離の効率が格段に向上する。
また、別の比較の形態として、第2のn型半導体層における価電子帯のバンドエッジ準位が、第1のn型半導体層122における価電子帯のバンドエッジ準位よりも小さい形態を想定する。この場合、第2のn型半導体層の表面付近における価電子帯のバンドエッジの曲がりと、第1のn型半導体層−第2のn型半導体層間の価電子帯のバンドエッジ準位の差とにより、第2のn型半導体層内部における価電子帯のバンドエッジ準位に井戸型ポテンシャルが生じることになる。光励起により第2のn型半導体層内部において生成したホールは、この井戸型ポテンシャルにより、電解液との界面方向と第1のn型半導体層との界面方向とに分かれて移動してしまう。
これに対し、本実施の形態の光電気化学セル100においては、第2のn型半導体層123における価電子帯のバンドエッジ準位EV2が第1のn型半導体層122における価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも大きくなるように設定されているので、第2のn型半導体層123内部における価電子帯のバンドエッジ準位EV2に、上記のような井戸型ポテンシャルが生じない。そのため、ホールは第2のn型半導体層123内部に溜まることなく電解液140との界面方向に移動するので、電荷分離の効率が格段に向上する。
さらに、本実施の形態の光電気化学セル100においては、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1が第2のn型半導体層123のフェルミ準位EF2よりも大きくなるように設定されている。この構成により、第1のn型半導体層122と第2のn型半導体層123との界面においてバンドの曲がりが生じ、かつ、ショットキー障壁が生じない。その結果、第2のn型半導体層123内部で光励起により生成した電子とホールのうち、電子は第1のn型半導体層122の伝導帯に移動し、ホールは価電子帯を電解液140との界面方向に移動するので、電子及びホールがショットキー障壁により妨げられることなく効率的に電荷分離される。これにより、光励起により第2のn型半導体層123内部で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなるので、光の照射による水素生成反応の量子効率が向上する。
また、本実施の形態の光電気化学セル100においては、導電体121のフェルミ準位が、第1のn型半導体層122のフェルミ準位よりも大きくなるように設定されている。この構成により、導電体121と第1のn型半導体層122との接合面においてもショットキー障壁が生じない。そのため、第1のn型半導体層122から導電体121への電子の移動がショットキー障壁により妨げられることがない。これにより、光励起により第2のn型半導体層123内部で生成した電子とホールとが再結合する確率がさらに低くなり、光の照射による水素生成反応の量子効率がさらに向上する。
電解液140のpH値が0で、温度が25℃の場合、本実施の形態では、この電解液140と接触した状態の半導体電極120において、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1が−4.44eV以上であり、かつ、第2のn型半導体層123における価電子帯のバンドエッジ準位EV2が−5.67eV以下である。半導体電極120がこのようなエネルギー準位を満たすことによって、第1のn型半導体層122と接触している導電体121のフェルミ準位EFcが水素の酸化還元電位である−4.44eV以上となる。これにより、導電体121と電気的に接続されている対極130の表面において効率良く水素イオンが還元されるので、水素を効率良く発生させることができる。
また、第2のn型半導体層123における価電子帯のバンドエッジ準位EV2が、水の酸化還元電位である−5.67eV以下となる。これにより、第2のn型半導体層123の表面において効率良く水が酸化されるので、酸素を効率良く発生させることができる。
以上のように、pH値が0で温度が25℃の電解液140と接触した状態の半導体電極120において、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1を−4.44eV以上とし、かつ、第2のn型半導体層123における価電子帯のバンドエッジ準位EV2を−5.67eV以下とすることによって、効率良く水を分解できる。
なお、本実施の形態では上記のようなエネルギー準位を満たす半導体電極120が示されているが、例えば第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1が−4.44eV未満であってもよく、第2のn型半導体層123における価電子帯のバンドエッジ準位EV2が−5.67eVを超えていてもよい。このような場合でも、水素及び酸素を発生させることが可能である。
ここで、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123のフェルミ準位及び伝導帯下端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、フラットバンドポテンシャル及びキャリア濃度を用いて求めることができる。半導体のフラットバンドポテンシャル及びキャリア濃度は、測定対象である半導体を電極として用いて測定されたMott−Schottkyプロットから求められる。
また、pH値0、温度25℃の電解液140と接触した状態における第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123のフェルミ準位は、測定対象である半導体を電極として用い、pH値0、温度25℃の電解液と半導体電極とが接触した状態において、Mott−Schottkyプロットを測定することにより求めることができる。
第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123の価電子帯上端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、バンドギャップと、上記の方法により求めた第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123の伝導帯下端のポテンシャルとを用いて求めることができる。ここで、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123のバンドギャップは、測定対象である半導体の光吸収スペクトル測定において観察される光吸収端から求められる。
導電体121のフェルミ準位は、例えば、光電子分光法により測定できる。
次に、本実施の形態の光電気化学セル100に設けられた各構成部材の材料について、それぞれ説明する。
第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123に用いられる半導体としては、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛又はカドミウム等を構成元素として含む酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、窒化物、酸窒化物及びリン化物等が挙げられる。
第1のn型半導体層122として、チタン、ジルコニウム、ニオブ又は亜鉛を構成元素として含む酸化物を用いることが好ましい。このような酸化物を用いると、pH値0で温度25℃の電解液140と接触した状態において、真空準位を基準として、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1を−4.44eV以上に設定することができる。第1のn型半導体層122は、上記酸化物の単体であってもよいし、上記酸化物を含む複合化合物であってもよい。また、上記酸化物にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属等が添加されたものであってもよい。これらの半導体材料を用いたナノチューブアレイは、例えば陽極酸化法によって作製することが可能であり、選択した半導体材料に応じて適宜最適な作製条件を選択すればよい。
上記半導体材料の中でも特に、第1のn型半導体層122として、酸化チタンを用いることが好ましい。酸化チタンからなるナノチューブアレイは、チタン金属を陽極酸化することで得られ、上記半導体材料の中で最も容易にナノチューブアレイを作製できるからである。具体的には、チタン金属板を電解液に浸して陽極とし、例えば白金線を陰極として、電圧を印加して陽極酸化処理を行うことによって、チタン金属板上に酸化チタンナノチューブを成長させることができる。
第1のn型半導体層122の厚さ、すなわちナノチューブ1221の長さは、特に限定されないが、100〜1000nmであることが好ましい。100nm以上とすることによって、より多くの光吸収量を確保でき、1000nm以下とすることによって、抵抗値が高くなりすぎることを抑制できる。
第2のn型半導体層123のキャリア濃度は、第1のn型半導体層122のキャリア濃度よりも低いことが好ましい。第2のn型半導体層123は、酸化物、窒化物及び酸窒化物からなる群から選択される1つであることが好ましい。このようにすると、半導体電極120が電解液140と接している状態において、第2のn型半導体層123に光が照射されても、第2のn型半導体層123が電解液140中に溶解することがないので、光電気化学セルを安定に動作させることができる。第2のn型半導体層123は、導電体121上に形成されたナノチューブ1221の表面に、例えば化学析出法、蒸着法、スパッタ法、CVD法等の方法を用いて半導体材料の被膜を形成することによって、作製できる。
第1のn型半導体層122として酸化チタンを用いる場合、第2のn型半導体層123として、例えば、窒化タンタル、酸窒化タンタル又は硫化カドミウムを用いることができ、その中でも窒化タンタル又は酸窒化タンタルを用いることが好ましい。このようにすると、半導体電極120が電解液140と接している状態において、第2のn型半導体層123に光が照射されても、第2のn型半導体層123が電解液中に溶解することがないので、光電気化学セルを安定に動作させることができる。
本実施の形態において、半導体電極120の導電体121は、第1のn型半導体層122との接合がオーミック接触となる。したがって、導電体121としては、例えば、Ti、Ni、Ta、Nb、Al及びAg等の金属、又は、ITO(Indium Tin Oxide)及びFTO(Fluorine doped Tin Oxide)等の導電性材料を用いることができる。
導電体121の表面うち、第1のn型半導体層122に被覆されない領域は、例えば樹脂等の絶縁体によって被覆されることが好ましい。このような構成によれば、導電体121が電解液140内に溶解するのを防ぐことができる。
対極130には、過電圧の小さい材料を用いることが好ましい。本実施の形態では、半導体電極120にn型半導体を用いているので、対極130において水素が発生する。そこで、対極130として、例えばPt、Au、Ag又はFe等を用いることが好ましい。
電解液140は、水を含む電解液であればよい。水を含む電解液は、酸性であってもよいし、アルカリ性であってもよい。半導体電極120と対極130との間に固体電解質を配置する場合は、半導体電極120の第2のn型半導体層123と対極130の表面に接触する電解液140を、電解用水としての純水に置き換えることも可能である。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2の光電気化学セルの構成について、図5〜図7を用いて説明する。図5は、本実施の形態の光電気化学セルの構成を示す概略図である。図6は、本実施の形態の光電気化学セルにおいて、半導体電極を構成する導電体、第1のp型半導体層及び第2のp型半導体層の接合前のバンド構造を示す模式図である。図7は、本実施の形態の光電気化学セルにおいて、半導体電極を構成する導電体、第1のp型半導体層及び第2のp型半導体層の接合後のバンド構造を示す模式図である。
図5に示すように、本実施の形態の光電気化学セル200では、半導体電極220の構成が実施の形態1の半導体電極120とは異なるものの、それ以外は実施の形態1の光電気化学セル100と同じである。したがって、本実施の形態では、半導体電極220についてのみ説明し、実施の形態1の光電気化学セル100と同じ構成については同じ符号を用いて、説明を省略する。
半導体電極220は、実施の形態1の場合と同様に、その表面が電解液140と接触するように配置されている。半導体電極220は、導電体221と、導電体221上に配置されたナノチューブアレイ構造を有する第1のp型半導体層222と、第1のp型半導体層222上に配置された第2のp型半導体層223と、を備えている。第2のp型半導体層223は、容器110の光入射部110aと対向している。
本実施の形態における第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223は、実施の形態1で図2を参照しながら説明した第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123と、それぞれ同様の構成を有している。
半導体電極220における導電体221は、導線150により対極130と電気的に接続されている。
次に、図5〜図7を参照しながら、本実施の形態の光電気化学セル200の動作について説明する。
光電気化学セル200における容器110の光入射部110aから、容器110内に配置された半導体電極220の第2のp型半導体層223に太陽光が照射されると、第2のp型半導体層223において伝導帯に電子が、価電子帯にホールが生じる。このとき生じたホールは、第2のp型半導体層223と第1のp型半導体層222との界面、並びに第1のp型半導体層222と導電体221との界面における価電子帯のバンドエッジの曲がりに沿って、導電体221まで移動する。導電体221に移動したホールは、導線150を介して、半導体電極220と電気的に接続された対極130側に移動する。これにより、対極130の表面で、上記反応式(1)により水が分解されて酸素が発生する。一方、電子は、第2のp型半導体層223の表面側(電解液140との界面側)に移動する。これにより、第2のp型半導体層223の表面において、上記反応式(2)により水素が発生する。
詳細は後述するが、第1のp型半導体層222と第2のp型半導体層223との接合面にはショットキー障壁が生じないので、ホールは妨げられることなく第2のp型半導体層223から第1のp型半導体層222に移動できる。また、導電体221と第1のp型半導体層222との接合面にもショットキー障壁が生じないので、ホールは妨げられることなく第1のp型半導体層222から導電体221まで移動できる。したがって、光励起により第2のp型半導体層223内で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなる。これにより、本実施の形態の光電気化学セル200によれば、光の照射による水素生成反応の量子効率を向上させることができる。
また、本実施の形態の光電気化学セル200では、第1のp型半導体層222はナノチューブアレイ構造を有している。したがって、実施の形態1の場合と同様に、第1のp型半導体層222の表面に形成される第2のp型半導体層223の表面積も大きくなる。これにより、第2のp型半導体層223に照射された太陽光を効率良く利用して、電子とホールとを生じさせることができる。さらに、第1のp型半導体層222を構成する各ナノチューブは、実施の形態1の場合と同様に、縦方向に高い結晶性を有している。そのため、第1のp型半導体層222内では、ナノチューブの縦方向へのホールの移動速度が向上すると考えられる。これにより、第2のp型半導体層223から第1のp型半導体層223に移動したホールは、第1のp型半導体層222を一つの膜として形成する場合よりも、よりスムーズにナノチューブ内を移動し、導電体221に到達できる。これらの理由により、本実施の形態の光電気化学セル200は、第1のp型半導体層222を一つの膜として形成する場合と比較して、高い量子効率が得られる。
次に、半導体電極220における導電体221、第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223のバンド構造について、詳しく説明する。
図6に示すように、第2のp型半導体層223の伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が、それぞれ、第1のp型半導体層222の伝導帯のバンドエッジ準位EC1及び価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも小さい。
また、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1は、第2のp型半導体層223のフェルミ準位EF2よりも小さく、導電体221のフェルミ準位EFcは、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1よりも小さい。
次に、導電体221、第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223を互いに接合させると、図7に示すように、第1のp型半導体層222と第2のp型半導体層223との接合面において、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、バンドエッジの曲がりが生じる。第2のp型半導体層223の伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が、それぞれ、第1のp型半導体層222の伝導帯のバンドエッジ準位EC1及び価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも小さく、かつ、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1が第2のp型半導体層223のフェルミ準位EF2よりも小さいことから、第1のp型半導体層222と第2のp型半導体層223との接合面にショットキー障壁が生じない。
また、第1のp型半導体層222と導電体221との接合面では、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、第1のp型半導体層222の接合面付近におけるバンドエッジに曲がりが生じる。導電体221のフェルミ準位EFcが、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1よりも小さいことから、導電体221と第1のp型半導体層222との接合はオーミック接触となる。
上記のような半導体電極220を電解液140と接触させると、第2のp型半導体層223と電解液140との界面において、第2のp型半導体層223の表面付近における伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が引き下げられる。これにより、第2のp型半導体層223の表面付近では、伝導帯のバンドエッジ及び価電子帯のバンドエッジに曲がりが生じる。すなわち、第2のp型半導体層223の表面付近に空間電荷層が生じる。
比較の形態として、第2のp型半導体層における伝導帯のバンドエッジ準位が第1のp型半導体層における伝導帯のバンドエッジ準位よりも大きい形態を想定する。この場合、第2のp型半導体層の表面付近における伝導帯のバンドエッジの曲がりと、第1のp型半導体層−第2のp型半導体層間の伝導帯のバンドエッジ準位の差とにより、第2のp型半導体層内部における伝導帯のバンドエッジ準位に井戸型ポテンシャルが生じることになる。光励起により第2のp型半導体層内部において生成した電子は、この井戸型ポテンシャルにより、電解液との界面方向と第1のp型半導体層との界面方向とに分かれて移動してしまう。
これに対し、本実施の形態の光電気化学セル200では、第2のp型半導体層223における伝導帯のバンドエッジ準位EC2が第1のp型半導体層222における伝導帯のバンドエッジ準位EC1よりも小さくなるように設定されているので、第2のp型半導体層223内部における伝導帯のバンドエッジ準位に、上記のような井戸型ポテンシャルが生じない。そのため、第2のp型半導体層223内部の電子は電解液140との界面方向に移動するので、電荷分離の効率が格段に向上する。
また、別の比較の形態として、第2のp型半導体層における価電子帯のバンドエッジ準位が第1のp型半導体層における価電子帯のバンドエッジ準位よりも大きい形態を想定する。この場合、第2のp型半導体層の表面付近における価電子帯のバンドエッジの曲がりと、第1のp型半導体層−第2のp型半導体層間の価電子帯のバンドエッジ準位の差とにより、第2のp型半導体層内部における価電子帯のバンドエッジ準位に井戸型ポテンシャルが生じることになる。この井戸型ポテンシャルにより、光励起により第2のp型半導体層内部において生成したホールは、第2のp型半導体層内部に溜まってしまう。
これに対し、本実施の形態の光電気化学セル200においては、第2のp型半導体層223における価電子帯のバンドエッジ準位EV2が第1のp型半導体層222おける価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも小さくなるように設定されているので、第2のp型半導体層223内部における価電子帯のバンドエッジ準位に、上記のような井戸型ポテンシャルが生じない。そのため、ホールは第2のp型半導体層223内部に溜まることなく第1のp型半導体層222との界面方向に移動するので、電荷分離の効率が格段に向上する。
また、本実施の形態の光電気化学セル200においては、第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223の伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位が上記のように設定されていることに加えて、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1が第2のp型半導体層223のフェルミ準位EF2よりも小さくなるように設定されている。この構成により、第1のp型半導体層222と第2のp型半導体層223との界面においてバンドの曲がりが生じ、かつ、ショットキー障壁が生じない。その結果、第2のp型半導体層223内部で光励起により生成した電子とホールのうち、電子は伝導帯を電解液140との界面方向に移動し、ホールは第1のp型半導体層222の価電子帯に移動する。すなわち、電子及びホールがショットキー障壁により妨げられることなく、効率的に電荷分離される。これにより、光励起により第2のp型半導体層223内部で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなるので、光の照射による水素生成反応の量子効率が向上する。
また、本実施の形態の光電気化学セル200においては、導電体221のフェルミ準位EFcが、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1よりも小さくなるように設定されている。この構成により、導電体221と第1のp型半導体層222との接合面においてもショットキー障壁が生じない。そのため、第1のp型半導体層222から導電体221へのホールの移動がショットキー障壁により妨げられることがないので、光励起により第2のp型半導体層223内部で生成した電子とホールとが再結合する確率がさらに低くなり、光の照射による水素生成反応の量子効率がさらに向上する。
また、電解液140のpH値が0で、温度が25℃の場合、本実施の形態では、この電解液140と接触した状態の半導体電極220において、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1が−5.67eV以下であり、かつ、第2のp型半導体層223における伝導帯のバンドエッジ準位EC2が−4.44eV以上である。半導体電極220がこのようなエネルギー準位を満たすことによって、第1のp型半導体層222と接触している導電体221のフェルミ準位EFcが、水の酸化還元電位である−5.67eV以下となる。したがって、導電体221と電気的に接続されている対極130の表面において効率良く水が酸化されるので、酸素を効率良く発生させることができる。
また、第2のp型半導体層223における伝導帯のバンドエッジ準位EC2が、水素の酸化還元電位である−4.44eV以上となる。したがって、第2のp型半導体層223の表面において効率良く水素イオンが還元されるので、水素を効率良く発生させることができる。
以上のように、pH値が0で温度が25℃の電解液140と接触した状態の半導体電極220において、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1を−5.67eV以下とし、かつ、第2のp型半導体層223における伝導帯のバンドエッジ準位EC2を−4.44eV以上とすることによって、効率良く水を分解できる。
なお、本実施の形態では上記のようなエネルギー準位を満たす半導体電極220が示されているが、例えば第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1が−5.67eVを超えていてもよく、第2のp型半導体層223における伝導帯のバンドエッジ準位EC2が−4.44eV未満であってもよい。このような場合でも、水素及び酸素を発生させることが可能である。
ここで、第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223のフェルミ準位及び価電子帯上端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、フラットバンドポテンシャル及びキャリア濃度を用いて求めることができる。半導体のフラットバンドポテンシャル及びキャリア濃度は、測定対象である半導体を電極として用いて測定されたMott−Schottkyプロットから求められる。
また、pH値0、温度25℃の電解液140と接触した状態における第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223のフェルミ準位は、測定対象である半導体を電極として用い、pH値0、温度25℃の電解液と半導体電極とが接触した状態において、Mott−Schottkyプロットを測定することにより求めることができる。
第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223の伝導帯下端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、バンドギャップと、上記の方法により求めた第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223の価電子帯上端のポテンシャル(バンドエッジ準位)とを用いて求めることができる。ここで、第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223のバンドギャップは、測定対象である半導体の光吸収スペクトル測定において観察される光吸収端から求められる。
導電体221のフェルミ準位は、実施の形態1と同様の方法で測定できる。
次に、本実施の形態における第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223の材料について、それぞれ説明する。
第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223には、銅、銀、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫又はアンチモン等を構成元素として含む酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、窒化物、酸窒化物及びリン化物等を用いることができる。
第1のp型半導体層222としては、銅の酸化物を用いることが好ましい。このようにすると、pH値0、温度25℃の電解液と接触した状態において、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1を−5.67eV以下に設定することができる。第1のp型半導体層222は、銅の酸化物の単体であっても、銅の酸化物を含む複合化合物であってもよい。また、以上の化合物に、銅以外の金属イオンが添加されたものであってもよい。銅の酸化物からなるナノチューブアレイは、例えば陽極酸化法で作製できる。
第2のp型半導体層223のキャリア濃度は、第1のp型半導体層222のキャリア濃度よりも低いことが好ましい。第2のp型半導体層223は、酸化物、窒化物及び酸窒化物からなる群から選択される1つであることが好ましい。このようにすると、半導体電極220が電解液140と接している状態において、半導体電極220の第2のp型半導体層223に光が照射されても、第2のp型半導体層223が電解液中に溶解することがない。したがって、光電気化学セルを安定に動作させることができる。
第1のp型半導体層222として酸化銅を用いる場合、第2のp型半導体層223として、例えば、硫化銅インジウムを用いることができる。
導電体221には、例えば、Ti、Ni、Ta、Nb、Al及びAg等の金属、又は、ITO及びFTO等の導電性材料を用いることができる。これらの中から、第1のp型半導体層222との接合がオーミック接触となるものを適宜選択すればよい。
導電体221の表面うち、第1のp型半導体層222に被覆されない領域は、例えば樹脂等の絶縁体によって被覆されることが好ましい。このような構成によれば、導電体221が電解液140内に溶解するのを防ぐことができる。
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3の光電気化学セルの構成について、図8を用いて説明する。図8は、本実施の形態の光電気化学セルの構成を示す概略図である。
本実施の形態の光電気化学セル300において、半導体電極320は、導電体321、導電体321上に配置された第1のn型半導体層322及び第1のn型半導体層322上に配置された第2のn型半導体層323を備えている。さらに、半導体電極320には、導電体321において第1のn型半導体層322が配置されている面と反対側の面に、絶縁層324が配置されている。導電体321、第1のn型半導体層322及び第2のn型半導体層323の構成は、それぞれ、実施の形態1における導電体121、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123と同じである。絶縁層324は、例えば樹脂やガラスによって形成されている。このような絶縁層324によれば、導電体321が電解液140に溶解することを防ぐことができる。なお、本実施の形態では、実施の形態1で示したような2層のn型半導体層を備えた半導体電極に、上記のような絶縁層をさらに設けた構成を適用したが、このような絶縁層は、実施の形態2に示したような半導体電極にもそれぞれ適用可能である。
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4の光電気化学セルの構成について、図9を用いて説明する。図9は、本実施の形態の光電気化学セルの構成を示す概略図である。
本実施の形態の光電気化学セル400では、半導体電極420が、導電体421、導電体421上に配置された第1のn型半導体層422及び第1のn型半導体層422上に配置された第2のn型半導体層423を備えている。一方、対極430は、導電体421上(導電体421において第1のn型半導体層422が配置されている面と反対側の面上)に配置されている。なお、導電体421、第1のn型半導体層422及び第2のn型半導体層423の構成は、それぞれ、実施の形態1における導電体121、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123と同じである。
本実施の形態のように、対極430を導電体421上に配置する構成によれば、半導体電極420と対極430とを電気的に接続するための導線が不要となる。これにより、導線に起因する抵抗損がなくなるので、光の照射による水素生成反応の量子効率をさらに向上させることができる。また、このような構成によれば、簡易な工程により半導体電極420と対極430とを電気的に接続することができる。なお、本実施の形態では、対極430が導電体421の第1のn型半導体層422が配置されている面と反対側の面上に配置されている構成を示したが、第1のn型半導体層422の配置されている面と同じ面上に配置することも可能である。なお、本実施の形態では、実施の形態1で示したような2層のn型半導体層を備えた光電気化学セルに、対極を導電体上に配置する上記構成を適用したが、このような構成は、実施の形態2に示したような光電気化学セルにもそれぞれ適用可能である。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5の光電気化学セルの構成について、図10を用いて説明する。図10は、本実施の形態の光電気化学セルの構成を示す概略図である。
図10に示すように、本実施の形態の光電気化学セル500は、筐体(容器)510と、半導体電極520と、対極530と、セパレータ560とを備えている。筐体510の内部は、セパレータ560によって第1室570及び第2室580の2室に分離されている。第1室570及び第2室580には、水を含む電解液540がそれぞれ収容されている。
第1室570内には、電解液540と接触する位置に半導体電極520が配置されている。半導体電極520は、導電体521と、導電体521上に配置された第1のn型半導体層522と、第1のn型半導体層522上に配置された第2のn型半導体層523とを備えている。また、第1室570は、第1室570内で発生した酸素を排気するための第1の排気口571と、第1室570内に水を供給するための給水口572とを備えている。筐体510のうち、第1室570内に配置された半導体電極520の第2のn型半導体層523と対向する部分(以下、光入射部510aと略称する)は、太陽光等の光を透過させる材料で構成されている。
一方、第2室580内には、電解液540と接触する位置に対極530が配置されている。また、第2室580は、第2室580内で発生した水素を排気するための第2の排気口581を備えている。
半導体電極520における導電体521と対極530とは、導線550により電気的に接続されている。
本実施の形態における半導体電極520の導電体521、第1のn型半導体層522及び第2のn型半導体層523は、実施の形態1における半導体電極120の導電体121、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123と、それぞれ同じ構成を有する。したがって、半導体電極520は、実施の形態1の半導体電極120と同様の作用効果を奏する。また、対極530及び電解液540は、それぞれ、実施の形態1における対極130及び電解液140と同じである。
セパレータ560は、電解液540を透過させ、第1室570及び第2室580内で発生した各ガスを遮断する機能を有する材料で形成されている。セパレータ560の材料としては、例えば高分子固体電解質等の固体電解質が挙げられる。高分子固体電解質としては、例えばナフィオン(登録商標)等のイオン交換膜が挙げられる。このようなセパレータを用いて容器の内部空間を2つの領域に分けて、一方の領域で電解液と半導体電極の表面(半導体層)とを接触させ、他方の領域で電解液と対極の表面とを接触させるような構成とすることにより、容器の内部で発生した酸素と水素とを容易に分離できる。
なお、本実施の形態では、実施の形態1における半導体電極120と同じ構成を有する半導体電極520を用いた光電気化学セル500を説明したが、半導体電極520の代わりに、実施の形態2における半導体電極220を用いることも可能である。
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6のエネルギーシステムの構成について、図11を参照しながら説明する。図11は、本実施の形態のエネルギーシステムの構成を示す概略図である。
図11に示すように、本実施の形態のエネルギーシステム600は、光電気化学セル500と、水素貯蔵器610と、燃料電池620と、蓄電池630とを備えている。
光電気化学セル500は、実施の形態5で説明した光電気化学セルであり、その具体的構成は図10に示すとおりである。そのため、ここでは詳細な説明を省略する。
水素貯蔵器610は、第1の配管641によって、光電気化学セル500の第2室580(図10参照)と接続されている。水素貯蔵器610としては、例えば、光電気化学セル500において生成された水素を圧縮するコンプレッサーと、コンプレッサーにより圧縮された水素を貯蔵する高圧水素ボンベと、から構成できる。
燃料電池620は、発電部621と、発電部621を制御するための燃料電池制御部622とを備えている。燃料電池620は、第2の配管642によって、水素貯蔵器610と接続されている。第2の配管642には、遮断弁643が設けられている。燃料電池620としては、例えば、高分子固体電解質型燃料電池を用いることができる。
蓄電池630の正極及び負極は、燃料電池620における発電部621の正極及び負極と、第1の配線644及び第2の配線645によって、それぞれ電気的に接続されている。蓄電池630には、蓄電池630の残存容量を計測するための容量計測部646が設けられている。蓄電池630としては、例えば、リチウムイオン電池を用いることができる。
次に、本実施の形態のエネルギーシステム600の動作について、図10及び図11を参照しながら説明する。
光電気化学セル500の光入射部510aを通して、第1室570内に配置された半導体電極520の第2のn型半導体層523の表面に太陽光が照射されると、第2のn型半導体層523内に電子とホールとが生じる。このとき生じたホールは、第2のn型半導体層523の表面側に移動する。これにより、第2のn型半導体層523の表面において、上記反応式(1)により水が分解されて、酸素が発生する。
一方、電子は、第2のn型半導体層523と第1のn型半導体層522との界面、並びに第1のn型半導体層522と導電体521との界面における伝導帯のバンドエッジの曲がりに沿って、導電体521まで移動する。導電体521に移動した電子は、導線550を介して導電体521と電気的に接続された対極530側に移動する。これにより、対極530の表面において、上記反応式(2)により水素が発生する。
このとき、実施の形態1における半導体電極120と同様に、第2のn型半導体層523と第1のn型半導体層522との接合面でショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなく第2のn型半導体層523から第1のn型半導体層522まで移動できる。さらに、第1のn型半導体層522と導電体521との接合面にもショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなく導電体521まで移動できる。したがって、光励起により第1のn型半導体層523内で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなり、光の照射による水素生成反応の量子効率を向上させることができる。
第1室570内で発生した酸素は、第1の排気口571から光電気化学セル500外に排気される。一方、第2室580内で発生した水素は、第2の排気口581及び第1の配管641を介して水素貯蔵器610内に供給される。
燃料電池620において発電するときには、燃料電池制御部622からの信号により遮断弁643が開かれ、水素貯蔵器610内に貯蔵された水素が、第2の配管642によって燃料電池620の発電部621に供給される。
燃料電池620の発電部621において発電された電気は、第1の配線644及び第2の配線645を介して蓄電池630内に蓄えられる。蓄電池630内に蓄えられた電気は、第3の配線647及び第4の配線648によって、家庭及び企業等に供給される。
本実施の形態における光電気化学セル500によれば、光の照射による水素生成反応の量子効率を向上させることができる。したがって、このような光電気化学セル500を備えている本実施の形態のエネルギーシステム600によれば、効率良く電力を供給できる。
なお、本実施の形態では、実施の形態5で説明した光電気化学セル500を用いたエネルギーシステムの例を示したが、実施の形態1〜4で説明した光電気化学セル100,200,300,400を用いても同様の効果が得られる。
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
(参考例)
まず、第1のn型半導体層と第2のn型半導体層との伝導帯及び価電子帯のバンドエッジ準位の関係が本発明を満たし、かつ、第1のn型半導体層、第2のn型半導体層及び導電体のフェルミ準位の関係も本発明を満たす半導体電極(参考例1−1)と、それらの関係が本発明を満たさない半導体電極(参考例1−2)との効果の差を確認するための参考例について説明する。ただし、ここではバンドエッジ準位やフェルミ準位の関係についての効果を確認するだけであるため、第1のn型半導体層はナノチューブアレイ構造を有しておらず、一つの膜として形成した。
参考例1−1として、図8に示した光電気化学セル300と同様の構成を有する光電気化学セルを作製した。以下、参考例1−1の光電気化学セルについて、図8を参照しながら説明する。
参考例1−1の光電気化学セル300は、上部に開口部を有する角型のガラス容器(容器110)、半導体電極320及び対極130を備えていた。ガラス容器110内には、電解液140として、硫化ナトリウムが0.01mol/L、亜硫酸ナトリウムが0.01mol/Lとなる水溶液が収容されていた。
半導体電極320は、以下の手順により作製した。
絶縁層324としての1cm角のガラス基板上に、導電体321として、まずスパッタ法により膜厚150nmのITO膜(シート抵抗10Ω/□)を形成した。次に、導電体321上に、第1のn型半導体層322として、スパッタ法により膜厚500nmの酸化チタン膜(アナタース多結晶体)を形成した。最後に、第1のn型半導体層322上に、第2のn型半導体層323として、酢酸カドミウム及びチオ尿素を用いた化学析出法により、膜厚1μmの硫化カドミウム膜を形成した。半導体電極320は、第2のn型半導体層323の表面が、ガラス容器110の光入射面110aと対向するように配置されていた。
対極130としては、白金板を用いた。半導体電極320の導電体321の部分と対極130とは、導線150により電気的に接続されていた。半導体電極320−対極130間に流れる電流は、電流計により測定した。
このように作製された参考例1−1の光電気化学セル300について、疑似太陽光照射実験を行った。疑似太陽光照射実験は、擬似太陽光としてセリック社製ソーラーシミュレータを用い、光電気化学セル300の半導体電極320における第2のn型半導体層322表面に対して、光入射部110aを介して強度1kW/m2の光を照射した。対極130の表面において発生したガスを30分間捕集し、ガスクロマトグラフィにより、捕集したガスの成分分析及び生成量の測定を行った。さらに、電流計により半導体電極320−対極130間に流れる光電流を測定した。対極130におけるガスの生成量を用いて、みかけの量子効率を求めた。みかけの量子効率は、以下の計算式を用いた算出した。
みかけの量子効率={(観測された光電流密度[mA/cm2])/(第2のn型半導体層に用いた半導体材料のバンドギャップで吸収され得る太陽光で発生し得る光電流密度[mA/cm2])}×100
参考例1−1の光電気化学セルにおいて捕集したガスを分析した結果、対極上において水素が発生していることを確認した。水素の生成速度は2.3×10-7L/sであった。また、半導体電極−対極間に流れる光電流は1.8mA/cm2であったことから、量論的に水が電気分解されたことを確認した。上記計算式を用いてみかけの量子効率を算出したところ、約28%であった。ここでは、第2のn型半導体層に用いた半導体材料(CdS)のバンドギャップ(2.5eV)で吸収され得る太陽光で発生し得る光電流密度を6.5mA/cm2として算出した。結果は、表1に示すとおりである。また第1及び第2のn型半導体層のフェルミ準位EF、伝導帯のバンドエッジ準位EC及び価電子帯のバンドエッジ準位EVと、導電体のフェルミ準位EFとを、以下の表1に併せて示す。なお、ここに示すフェルミ準位、伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位は、pH値0、温度25℃の電解液と接触した状態において真空準位を基準とする値である。これらの値は、文献から引用したものである。
次に、参考例1−1と比較するための参考例1−2を作製した。
半導体電極において、硫化カドミウム膜の代わりに、膜厚1μmのチタン酸ストロンチウム膜を第2のn型半導体層として第1のn型半導体層上に設けた点以外は、参考例1−1と同様の手順により光電気化学セルを作製し、参考例1−2とした。
このように作製された参考例1−2の光電気化学セルについて、参考例1−1と同様の方法で、疑似太陽光照射実験を行った。参考例1−2の光電気化学セルに対して光を照射したところ、対極の表面においてガスの生成が認められたものの、発生量が少ないため検出することができず、量子効率を算出できなかった。また、参考例1−1と同様に、第1及び第2のn型半導体層のフェルミ準位、伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位と、導電体のフェルミ準位とを、以下の表1に示す。
参考例1−1における半導体電極は、第2のn型半導体層の伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位が、それぞれ、第1のn型半導体層の伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位よりも大きかった。さらに、導電体、第1のn型半導体層及び第2のn型半導体層のフェルミ準位が、第2のn型半導体層、第1のn型半導体層及び導電体の順に大きくなっていた。参考例1−1における半導体電極では、光励起により第2のn型半導体層内で生成した電子とホールとが効率的に電荷分離されることにより、生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなり、その結果、参考例1−2よりもガスの発生量が多く、比較的高いみかけの量子効率が得られた。
これに対し、参考例1−2における半導体電極では、表1に示すように、第1のn型半導体層のフェルミ準位が第2のn型半導体層のフェルミ準位よりも小さかった。このことから、第1のn型半導体層と第2のn型半導体層との接合面においてショットキー障壁が生じるため、光励起により第2のn型半導体層内で生成した電子とホールとが電荷分離されず、生成した電子とホールとが再結合する確率が高くなり、発生するガスの量が非常に少なくなったと考えられる。
なお、参考例での光電気化学セルにおいては、電解質として、硫化ナトリウムを含む亜硫酸ナトリウム水溶液を用いていることから、光を照射したときに、半導体電極においては、上記反応式(1)による酸素発生反応ではなく、下記反応式(3)に示す反応が進行していると考えられる。なお、対極においては、前述の反応式(2)に示した反応が進行していると考えられる。
2h++S2-→S (3)
(実施例)
本発明の光電気化学セルの実施例として、図1に示した光電気化学セル100と同様の構成を有する光電気化学セルを作製した。以下、本実施例の光電気化学セルについて、図1を参照しながら説明する。
本実施例の光電気化学セル100は、上部に開口部を有する角型のガラス容器(容器110)、半導体電極120及び対極130を備えていた。ガラス容器110内には、電解液140として、硫化ナトリウムが0.01mol/L、亜硫酸ナトリウムが0.01mol/Lとなり、全量が200mLとなるように作製された水溶液が収容されていた。ここで、硫化ナトリウムと亜硫酸ナトリウムとの混合溶液を電解液として用いた理由は、第2のn型半導体層123として用いた硫化カドミウムが、水中で光を当てることによって、溶出することを防ぐためである。
半導体電極120は、以下の手順により作製した。
事前に酸洗浄した、10mm×30mmのチタン金属板を、エチレングリコール100g、水2g、フッ化アンモニウム0.3gからなる電解液中に浸して陽極とし、陰極に白金線を用いて、印加電圧60Vにて、3分間陽極酸化を行った。なお、陽極と陰極との電極間距離は30mmに固定し、電解液は氷浴させることで、反応時の電解液の温度を約5℃に保った。これにより、チューブ長さ500〜600nm、外径150nm、内径50nmの酸化チタンナノチューブアレイを作製することができた。次に、この酸化チタンナノチューブアレイの結晶性を高めるために、500℃にて4時間焼成を行った。この焼成により、酸化チタンナノチューブアレイがアナタース型の結晶となることを、XRD(X-ray diffraction)により確認した。このような方法によって、チタン金属からなる導電体121上に、第1のn型半導体層122として酸化チタンナノチューブアレイを作製した。
こうして作製した、酸化チタンナノチューブアレイが表面に設けられたチタン金属からなる導電体121に、第2のn型半導体層123として、硫化カドミウムを化学析出法にて積層した。具体的には、酢酸カドミウム0.001mol/L、アンモニア0.4mol/L、酢酸アンモニウム0.01mol/L、チオ尿素0.005mol/Lの濃度となり、全量が500mLとなるように混合した溶液を準備し、80℃の湯浴中のこの溶液に15分間、酸化チタンナノチューブアレイを設けたチタン金属板を浸漬することで、第2のn型半導体層123となる硫化カドミウム膜を厚さ500nmで形成した。
対極130としては、白金電極を用いた。半導体電極120の導電体121と対極130とを、導線150により電気的に接続した。
このように作製された本実施例の光電気化学セル100について、波長300nm〜600nmの光に対する量子効率を測定した。その結果を図12に示す。量子効率の測定方法は、以下のとおりである。
分光計器を利用し、Xeランプをモノクロメータで分光して発生させた単色光を、あらかじめSiフォトダイオードにて光量測定を実施しておいた後、光電気化学セル100に照射し、各波長照射で発生した電流値を検出した。量子効率は、これらの測定結果を用い、量子効率=(各波長照射で発生した電流値)/(各波長での光子数)から求めた。
なお、本実施例での光電気化学セルにおいては、電解質として、硫化ナトリウムを含む亜硫酸ナトリウム水溶液を用いていることから、光を照射したときに、半導体電極においては、上記反応式(1)による酸素発生反応ではなく、上記反応式(3)に示す反応が進行していると考えられる。なお、対極においては、前述の反応式(2)に示した反応が進行していると考えられる。
(比較例1)
比較例1として、半導体電極の構成のみが実施例と異なる光電気化学セルを作製した。10mm×50mmのITO基板(厚さ150nm)上に、スパッタリング法で酸化チタン膜(アナタース多結晶体)を厚さ150nmで形成し、さらにその上に実施例と同様の方法で硫化カドミウム膜を厚さ500nmで形成した。この方法により、ITOからなる導電体上に、第1のn型半導体層として酸化チタン膜が配置され、さらにその上に第2のn型半導体層として硫化カドミウム膜が配置された、比較例1の半導体電極を作製した。すなわち、比較例1では、第1のn型半導体層がナノチューブアレイ構造を有さない半導体電極とした。
このように作製された比較例1の光電気化学セルについて、実施例と同様の方法で波長300nm〜600nmの光に対する量子効率を測定した。その結果を図12に示す。
(比較例2)
比較例2として、半導体電極の構成のみが実施例と異なる光電気化学セルを作製した。10mm×50mmのITO基板(厚さ150nm)上に、化学析出法で硫化カドミウム膜を厚さ500nmで形成した。この方法により、ITOからなる導電体上に、硫化カドミウム膜が直接配置された半導体電極を作製した。すなわち、比較例2の半導体電極は、ナノチューブアレイ構造を有する第1のn型半導体層が設けられておらず、導電体上に第2のn型半導体層のみが配置された半導体電極であった。
このように作製された比較例2の光電気化学セルについて、実施例と同様の方法で波長300nm〜600nmの光に対する量子効率を測定した。その結果を図12に示す。
図12に示すように、実施例の光電気化学セルでは、硫化カドミウムの吸収端である550nm付近から量子効率が向上し、550nm以下の波長全てにおいて、第1のn型半導体層を用いない場合(比較例2)と比較して約50%、第1のn型半導体層に酸化チタンナノチューブを用いず、平滑な酸化チタン膜を用いた場合(比較例1)と比較して約25%の量子効率の向上が見られた。なお、比較例1と比較例2とを比較すると、酸化チタン膜を用いた比較例1は、比較例2に対して約20%の量子効率の向上が見られた。本実施例の半導体電極は、第1のn型半導体層に酸化チタンナノチューブを用いているので、第1のn型半導体層が高い表面積と高い結晶性を併せ持つため、量子効率が向上したと考えられる。なお、本実施例では、ナノチューブ構造を有する第1のn型半導体層として酸化チタンナノチューブアレイを用いたが、酸化チタンに限られるものではない。また、第2のn型半導体層として硫化カドミウムを用いたが、TaONやTa3N5などの半導体でもよく、硫化カドミウムに限られるものではない。
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は一例であり、本発明は以下の実施の形態に限定されない。また、以下の実施の形態では、同一部材に同一の符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1の光電気化学セルの構成について、図1〜図4を用いて説明する。図1は、本実施の形態の光電気化学セルの構成を示す概略図である。図2は、本実施の形態の光電気化学セルを構成する半導体電極について、その構成をより詳しく示すための、一部断面を含む模式図である。図3は、本実施の形態の光電気化学セルにおいて、半導体電極を構成する導電体、第1のn型半導体層及び第2のn型半導体層の接合前のバンド構造を示す模式図である。図4は、本実施の形態の光電気化学セルにおいて、半導体電極を構成する導電体、第1のn型半導体層及び第2のn型半導体層の接合後のバンド構造を示す模式図である。図3及び4において、縦軸は、真空準位を基準とするエネルギー準位(単位:eV)を示す。
図1に示すように、本実施の形態の光電気化学セル100は、半導体電極120と、半導体電極120と対をなす電極である対極130と、水を含む電解液140と、半導体電極120、対極130及び電解液140を収容する、開口部を有する容器110と、を備えている。
容器110内において、半導体電極120及び対極130は、その表面が電解液140と接触するように配置されている。半導体電極120は、導電体121と、導電体121上に配置された第1のn型半導体層122と、第1のn型半導体層122上に配置された第2のn型半導体層123と、を備えている。容器110のうち、容器110内に配置された半導体電極120の第2のn型半導体層123と対向する部分(以下、光入射部110aと略称する)は、太陽光等の光を透過させる材料で構成されている。
半導体電極120における導電体121と、対極130とは、導線150により電気的に接続されている。なお、ここでの対極とは、半導体電極との間で電解液を介さずに電子の授受を行う電極のことを意味する。したがって、本実施の形態における対極130は、半導体電極120を構成している導電体121と電気的に接続されていればよく、半導体電極120との位置関係等は特に限定されない。なお、本実施の形態では半導体電極120にn型半導体が用いられているので、対極130は半導体電極120から電解液140を介さずに電子を受け取る電極となる。
図2に示すように、半導体電極120では、導電体121上にナノチューブアレイ構造を有する第1のn型半導体層122が設けられている。ナノチューブアレイ構造とは、複数のナノチューブ1221が、基板(ここでは導電体121)表面に対してほぼ垂直な方向に延びるように配向することによって形成された構造である。第1のn型半導体層122上に配置される第2のn型半導体層123は、各ナノチューブ1221の表面上に設けられた膜として形成されている。なお、図2に示された第2のn型半導体層123は、ナノチューブ1221の表面全体を被覆しているが、これに限定されず、ナノチューブ1221の表面に第2のn型半導体層123で被覆されていない部分が存在していてもよい。
このようなナノチューブアレイ構造を有する第1のn型半導体層122と、第2のn型半導体層123との作製方法については、後述する。
次に、図1〜図4を参照しながら、本実施の形態に係る光電気化学セル100の動作について説明する。
光電気化学セル100における容器110の光入射部110aから、容器110内に配置された半導体電極120の第2のn型半導体層123に太陽光が照射されると、第2のn型半導体層123において伝導帯に電子が、価電子帯にホールが生じる。このとき生じたホールは、第2のn型半導体層123の表面側に移動する。これにより、第2のn型半導体層123の表面で、下記反応式(1)により水が分解されて酸素が発生する。一方、電子は、第2のn型半導体層123と第1のn型半導体層122との界面、並びに第1のn型半導体層122と導電体121との界面における伝導帯のバンドエッジの曲がりに沿って、導電体121まで移動する。導電体121に移動した電子は、導線150を介して、半導体電極120と電気的に接続された対極130側に移動する。これにより、対極130の表面で、下記反応式(2)により水素が発生する。
4h++2H2O → O2↑+4H+ (1)
4e-+4H+ → 2H2↑ (2)
詳細は後述するが、第1のn型半導体層122と第2のn型半導体層123との接合面にはショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなく第2のn型半導体層123から第1のn型半導体層122に移動できる。さらに、第1のn型半導体層122と導電体121との接合面にもショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなく第1のn型半導体層122から導電体121まで移動できる。したがって、光励起により第2のn型半導体層123内で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなる。これにより、本実施の形態の光電気化学セル100によれば、光の照射による水素生成反応の量子効率を向上させることができる。
また、本発明の光電気化学セルでは、第1のn型半導体層122はナノチューブアレイ構造を有しているので、その表面積が大きい。したがって、第1のn型半導体層122の表面に形成される第2のn型半導体層123の表面積も大きくなる。これにより、第2のn型半導体層123に照射された太陽光を効率良く利用して、電子とホールとを生じさせることができる。さらに、第1のn型半導体層122を構成する各ナノチューブ1221は、縦方向(ここでは、導電体121の表面に対してほぼ垂直な方向)に高い結晶性を有している。そのため、第1のn型半導体層122内では、ナノチューブ1221の縦方向への電子の移動速度が向上すると考えられる。これにより、第2のn型半導体層123から第1のn型半導体層122に移動した電子は、第1のn型半導体層122を一つの膜として形成する場合よりも、よりスムーズにナノチューブ1221内を移動して、導電体121に到達できる。これらの理由により、本発明の光電気化学セルは、第1のn型半導体層122を一つの膜として形成する場合と比較して、高い量子効率が得られる。
次に、半導体電極120における導電体121、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123のバンド構造について、詳しく説明する。なお、ここで説明するバンド構造のエネルギー準位は、真空準位を基準としたものである。以下、本明細書において説明する半導体及び導電体のバンド構造のエネルギー準位も、同様に、真空準位を基準としたものである。
図3に示すように、第2のn型半導体層123の伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が、それぞれ、第1のn型半導体層122の伝導帯のバンドエッジ準位EC1及び価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも大きい。
また、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1が、第2のn型半導体層123のフェルミ準位EF2よりも大きく、導電体121のフェルミ準位EFcが、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1よりも大きい。
次に、導電体121、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123を互いに接合させると、図4に示すように、第1のn型半導体層122と第2のn型半導体層123との接合面において、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、バンドエッジの曲がりが生じる。このとき、第2のn型半導体層123の伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が、それぞれ、第1のn型半導体層122における伝導帯のバンドエッジ準位EC1及び価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも大きく、かつ、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1が、第2のn型半導体層123のフェルミ準位EF2よりも大きいことから、第1のn型半導体層122と第2のn型半導体層123との接合面には、ショットキー障壁は生じない。
また、導電体121と第1のn型半導体層122との接合面においても、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、接合面付近におけるバンドエッジに曲がりが生じる。このとき、導電体121のフェルミ準位EFcが、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1よりも大きいことから、導電体121と第1のn型半導体層122との接合はオーミック接触となる。
上記のような半導体電極120を電解液140と接触させると、第2のn型半導体層123と電解液140との界面において、第2のn型半導体層123の表面付近における伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が持ち上げられる。これにより、第2のn型半導体層123の表面付近では、伝導帯のバンドエッジ及び価電子帯のバンドエッジに曲がりが生じる。すなわち、第2のn型半導体層123の表面付近に空間電荷層が生じる。
比較の形態として、第2のn型半導体層における伝導帯のバンドエッジ準位が第1のn型半導体層における伝導帯のバンドエッジ準位よりも小さい形態を想定する。この場合、第2のn型半導体層の表面付近における伝導帯のバンドエッジの曲がりと、第1のn型半導体層−第2のn型半導体層間の伝導帯のバンドエッジ準位の差とにより、第2のn型半導体層内部における伝導帯のバンドエッジ準位に井戸型ポテンシャルが生じることになる。この井戸型ポテンシャルにより、第2のn型半導体層の内部に電子が溜まってしまい、光励起により生成した電子とホールとが再結合する確率が高くなってしまう。
これに対し、本実施の形態の光電気化学セル100では、第2のn型半導体層123における伝導帯のバンドエッジ準位EC2が第1のn型半導体層122における伝導帯のバンドエッジ準位EC1よりも大きくなるように設定されているので、第2のn型半導体層123内部における伝導帯のバンドエッジ準位に、上記のような井戸型ポテンシャルが生じない。そのため、電子は第2のn型半導体層123の内部に溜まることなく第1のn型半導体層122側へ移動し、電荷分離の効率が格段に向上する。
また、別の比較の形態として、第2のn型半導体層における価電子帯のバンドエッジ準位が、第1のn型半導体層122における価電子帯のバンドエッジ準位よりも小さい形態を想定する。この場合、第2のn型半導体層の表面付近における価電子帯のバンドエッジの曲がりと、第1のn型半導体層−第2のn型半導体層間の価電子帯のバンドエッジ準位の差とにより、第2のn型半導体層内部における価電子帯のバンドエッジ準位に井戸型ポテンシャルが生じることになる。光励起により第2のn型半導体層内部において生成したホールは、この井戸型ポテンシャルにより、電解液との界面方向と第1のn型半導体層との界面方向とに分かれて移動してしまう。
これに対し、本実施の形態の光電気化学セル100においては、第2のn型半導体層123における価電子帯のバンドエッジ準位EV2が第1のn型半導体層122における価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも大きくなるように設定されているので、第2のn型半導体層123内部における価電子帯のバンドエッジ準位EV2に、上記のような井戸型ポテンシャルが生じない。そのため、ホールは第2のn型半導体層123内部に溜まることなく電解液140との界面方向に移動するので、電荷分離の効率が格段に向上する。
さらに、本実施の形態の光電気化学セル100においては、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1が第2のn型半導体層123のフェルミ準位EF2よりも大きくなるように設定されている。この構成により、第1のn型半導体層122と第2のn型半導体層123との界面においてバンドの曲がりが生じ、かつ、ショットキー障壁が生じない。その結果、第2のn型半導体層123内部で光励起により生成した電子とホールのうち、電子は第1のn型半導体層122の伝導帯に移動し、ホールは価電子帯を電解液140との界面方向に移動するので、電子及びホールがショットキー障壁により妨げられることなく効率的に電荷分離される。これにより、光励起により第2のn型半導体層123内部で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなるので、光の照射による水素生成反応の量子効率が向上する。
また、本実施の形態の光電気化学セル100においては、導電体121のフェルミ準位が、第1のn型半導体層122のフェルミ準位よりも大きくなるように設定されている。この構成により、導電体121と第1のn型半導体層122との接合面においてもショットキー障壁が生じない。そのため、第1のn型半導体層122から導電体121への電子の移動がショットキー障壁により妨げられることがない。これにより、光励起により第2のn型半導体層123内部で生成した電子とホールとが再結合する確率がさらに低くなり、光の照射による水素生成反応の量子効率がさらに向上する。
電解液140のpH値が0で、温度が25℃の場合、本実施の形態では、この電解液140と接触した状態の半導体電極120において、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1が−4.44eV以上であり、かつ、第2のn型半導体層123における価電子帯のバンドエッジ準位EV2が−5.67eV以下である。半導体電極120がこのようなエネルギー準位を満たすことによって、第1のn型半導体層122と接触している導電体121のフェルミ準位EFcが水素の酸化還元電位である−4.44eV以上となる。これにより、導電体121と電気的に接続されている対極130の表面において効率良く水素イオンが還元されるので、水素を効率良く発生させることができる。
また、第2のn型半導体層123における価電子帯のバンドエッジ準位EV2が、水の酸化還元電位である−5.67eV以下となる。これにより、第2のn型半導体層123の表面において効率良く水が酸化されるので、酸素を効率良く発生させることができる。
以上のように、pH値が0で温度が25℃の電解液140と接触した状態の半導体電極120において、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1を−4.44eV以上とし、かつ、第2のn型半導体層123における価電子帯のバンドエッジ準位EV2を−5.67eV以下とすることによって、効率良く水を分解できる。
なお、本実施の形態では上記のようなエネルギー準位を満たす半導体電極120が示されているが、例えば第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1が−4.44eV未満であってもよく、第2のn型半導体層123における価電子帯のバンドエッジ準位EV2が−5.67eVを超えていてもよい。このような場合でも、水素及び酸素を発生させることが可能である。
ここで、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123のフェルミ準位及び伝導帯下端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、フラットバンドポテンシャル及びキャリア濃度を用いて求めることができる。半導体のフラットバンドポテンシャル及びキャリア濃度は、測定対象である半導体を電極として用いて測定されたMott−Schottkyプロットから求められる。
また、pH値0、温度25℃の電解液140と接触した状態における第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123のフェルミ準位は、測定対象である半導体を電極として用い、pH値0、温度25℃の電解液と半導体電極とが接触した状態において、Mott−Schottkyプロットを測定することにより求めることができる。
第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123の価電子帯上端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、バンドギャップと、上記の方法により求めた第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123の伝導帯下端のポテンシャルとを用いて求めることができる。ここで、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123のバンドギャップは、測定対象である半導体の光吸収スペクトル測定において観察される光吸収端から求められる。
導電体121のフェルミ準位は、例えば、光電子分光法により測定できる。
次に、本実施の形態の光電気化学セル100に設けられた各構成部材の材料について、それぞれ説明する。
第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123に用いられる半導体としては、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛又はカドミウム等を構成元素として含む酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、窒化物、酸窒化物及びリン化物等が挙げられる。
第1のn型半導体層122として、チタン、ジルコニウム、ニオブ又は亜鉛を構成元素として含む酸化物を用いることが好ましい。このような酸化物を用いると、pH値0で温度25℃の電解液140と接触した状態において、真空準位を基準として、第1のn型半導体層122のフェルミ準位EF1を−4.44eV以上に設定することができる。第1のn型半導体層122は、上記酸化物の単体であってもよいし、上記酸化物を含む複合化合物であってもよい。また、上記酸化物にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属等が添加されたものであってもよい。これらの半導体材料を用いたナノチューブアレイは、例えば陽極酸化法によって作製することが可能であり、選択した半導体材料に応じて適宜最適な作製条件を選択すればよい。
上記半導体材料の中でも特に、第1のn型半導体層122として、酸化チタンを用いることが好ましい。酸化チタンからなるナノチューブアレイは、チタン金属を陽極酸化することで得られ、上記半導体材料の中で最も容易にナノチューブアレイを作製できるからである。具体的には、チタン金属板を電解液に浸して陽極とし、例えば白金線を陰極として、電圧を印加して陽極酸化処理を行うことによって、チタン金属板上に酸化チタンナノチューブを成長させることができる。
第1のn型半導体層122の厚さ、すなわちナノチューブ1221の長さは、特に限定されないが、100〜1000nmであることが好ましい。100nm以上とすることによって、より多くの光吸収量を確保でき、1000nm以下とすることによって、抵抗値が高くなりすぎることを抑制できる。
第2のn型半導体層123のキャリア濃度は、第1のn型半導体層122のキャリア濃度よりも低いことが好ましい。第2のn型半導体層123は、酸化物、窒化物及び酸窒化物からなる群から選択される1つであることが好ましい。このようにすると、半導体電極120が電解液140と接している状態において、第2のn型半導体層123に光が照射されても、第2のn型半導体層123が電解液140中に溶解することがないので、光電気化学セルを安定に動作させることができる。第2のn型半導体層123は、導電体121上に形成されたナノチューブ1221の表面に、例えば化学析出法、蒸着法、スパッタ法、CVD法等の方法を用いて半導体材料の被膜を形成することによって、作製できる。
第1のn型半導体層122として酸化チタンを用いる場合、第2のn型半導体層123として、例えば、窒化タンタル、酸窒化タンタル又は硫化カドミウムを用いることができ、その中でも窒化タンタル又は酸窒化タンタルを用いることが好ましい。このようにすると、半導体電極120が電解液140と接している状態において、第2のn型半導体層123に光が照射されても、第2のn型半導体層123が電解液中に溶解することがないので、光電気化学セルを安定に動作させることができる。
本実施の形態において、半導体電極120の導電体121は、第1のn型半導体層122との接合がオーミック接触となる。したがって、導電体121としては、例えば、Ti、Ni、Ta、Nb、Al及びAg等の金属、又は、ITO(Indium Tin Oxide)及びFTO(Fluorine doped Tin Oxide)等の導電性材料を用いることができる。
導電体121の表面うち、第1のn型半導体層122に被覆されない領域は、例えば樹脂等の絶縁体によって被覆されることが好ましい。このような構成によれば、導電体121が電解液140内に溶解するのを防ぐことができる。
対極130には、過電圧の小さい材料を用いることが好ましい。本実施の形態では、半導体電極120にn型半導体を用いているので、対極130において水素が発生する。そこで、対極130として、例えばPt、Au、Ag又はFe等を用いることが好ましい。
電解液140は、水を含む電解液であればよい。水を含む電解液は、酸性であってもよいし、アルカリ性であってもよい。半導体電極120と対極130との間に固体電解質を配置する場合は、半導体電極120の第2のn型半導体層123と対極130の表面に接触する電解液140を、電解用水としての純水に置き換えることも可能である。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2の光電気化学セルの構成について、図5〜図7を用いて説明する。図5は、本実施の形態の光電気化学セルの構成を示す概略図である。図6は、本実施の形態の光電気化学セルにおいて、半導体電極を構成する導電体、第1のp型半導体層及び第2のp型半導体層の接合前のバンド構造を示す模式図である。図7は、本実施の形態の光電気化学セルにおいて、半導体電極を構成する導電体、第1のp型半導体層及び第2のp型半導体層の接合後のバンド構造を示す模式図である。
図5に示すように、本実施の形態の光電気化学セル200では、半導体電極220の構成が実施の形態1の半導体電極120とは異なるものの、それ以外は実施の形態1の光電気化学セル100と同じである。したがって、本実施の形態では、半導体電極220についてのみ説明し、実施の形態1の光電気化学セル100と同じ構成については同じ符号を用いて、説明を省略する。
半導体電極220は、実施の形態1の場合と同様に、その表面が電解液140と接触するように配置されている。半導体電極220は、導電体221と、導電体221上に配置されたナノチューブアレイ構造を有する第1のp型半導体層222と、第1のp型半導体層222上に配置された第2のp型半導体層223と、を備えている。第2のp型半導体層223は、容器110の光入射部110aと対向している。
本実施の形態における第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223は、実施の形態1で図2を参照しながら説明した第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123と、それぞれ同様の構成を有している。
半導体電極220における導電体221は、導線150により対極130と電気的に接続されている。
次に、図5〜図7を参照しながら、本実施の形態の光電気化学セル200の動作について説明する。
光電気化学セル200における容器110の光入射部110aから、容器110内に配置された半導体電極220の第2のp型半導体層223に太陽光が照射されると、第2のp型半導体層223において伝導帯に電子が、価電子帯にホールが生じる。このとき生じたホールは、第2のp型半導体層223と第1のp型半導体層222との界面、並びに第1のp型半導体層222と導電体221との界面における価電子帯のバンドエッジの曲がりに沿って、導電体221まで移動する。導電体221に移動したホールは、導線150を介して、半導体電極220と電気的に接続された対極130側に移動する。これにより、対極130の表面で、上記反応式(1)により水が分解されて酸素が発生する。一方、電子は、第2のp型半導体層223の表面側(電解液140との界面側)に移動する。これにより、第2のp型半導体層223の表面において、上記反応式(2)により水素が発生する。
詳細は後述するが、第1のp型半導体層222と第2のp型半導体層223との接合面にはショットキー障壁が生じないので、ホールは妨げられることなく第2のp型半導体層223から第1のp型半導体層222に移動できる。また、導電体221と第1のp型半導体層222との接合面にもショットキー障壁が生じないので、ホールは妨げられることなく第1のp型半導体層222から導電体221まで移動できる。したがって、光励起により第2のp型半導体層223内で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなる。これにより、本実施の形態の光電気化学セル200によれば、光の照射による水素生成反応の量子効率を向上させることができる。
また、本実施の形態の光電気化学セル200では、第1のp型半導体層222はナノチューブアレイ構造を有している。したがって、実施の形態1の場合と同様に、第1のp型半導体層222の表面に形成される第2のp型半導体層223の表面積も大きくなる。これにより、第2のp型半導体層223に照射された太陽光を効率良く利用して、電子とホールとを生じさせることができる。さらに、第1のp型半導体層222を構成する各ナノチューブは、実施の形態1の場合と同様に、縦方向に高い結晶性を有している。そのため、第1のp型半導体層222内では、ナノチューブの縦方向へのホールの移動速度が向上すると考えられる。これにより、第2のp型半導体層223から第1のp型半導体層223に移動したホールは、第1のp型半導体層222を一つの膜として形成する場合よりも、よりスムーズにナノチューブ内を移動し、導電体221に到達できる。これらの理由により、本実施の形態の光電気化学セル200は、第1のp型半導体層222を一つの膜として形成する場合と比較して、高い量子効率が得られる。
次に、半導体電極220における導電体221、第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223のバンド構造について、詳しく説明する。
図6に示すように、第2のp型半導体層223の伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が、それぞれ、第1のp型半導体層222の伝導帯のバンドエッジ準位EC1及び価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも小さい。
また、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1は、第2のp型半導体層223のフェルミ準位EF2よりも小さく、導電体221のフェルミ準位EFcは、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1よりも小さい。
次に、導電体221、第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223を互いに接合させると、図7に示すように、第1のp型半導体層222と第2のp型半導体層223との接合面において、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、バンドエッジの曲がりが生じる。第2のp型半導体層223の伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が、それぞれ、第1のp型半導体層222の伝導帯のバンドエッジ準位EC1及び価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも小さく、かつ、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1が第2のp型半導体層223のフェルミ準位EF2よりも小さいことから、第1のp型半導体層222と第2のp型半導体層223との接合面にショットキー障壁が生じない。
また、第1のp型半導体層222と導電体221との接合面では、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、第1のp型半導体層222の接合面付近におけるバンドエッジに曲がりが生じる。導電体221のフェルミ準位EFcが、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1よりも小さいことから、導電体221と第1のp型半導体層222との接合はオーミック接触となる。
上記のような半導体電極220を電解液140と接触させると、第2のp型半導体層223と電解液140との界面において、第2のp型半導体層223の表面付近における伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が引き下げられる。これにより、第2のp型半導体層223の表面付近では、伝導帯のバンドエッジ及び価電子帯のバンドエッジに曲がりが生じる。すなわち、第2のp型半導体層223の表面付近に空間電荷層が生じる。
比較の形態として、第2のp型半導体層における伝導帯のバンドエッジ準位が第1のp型半導体層における伝導帯のバンドエッジ準位よりも大きい形態を想定する。この場合、第2のp型半導体層の表面付近における伝導帯のバンドエッジの曲がりと、第1のp型半導体層−第2のp型半導体層間の伝導帯のバンドエッジ準位の差とにより、第2のp型半導体層内部における伝導帯のバンドエッジ準位に井戸型ポテンシャルが生じることになる。光励起により第2のp型半導体層内部において生成した電子は、この井戸型ポテンシャルにより、電解液との界面方向と第1のp型半導体層との界面方向とに分かれて移動してしまう。
これに対し、本実施の形態の光電気化学セル200では、第2のp型半導体層223における伝導帯のバンドエッジ準位EC2が第1のp型半導体層222における伝導帯のバンドエッジ準位EC1よりも小さくなるように設定されているので、第2のp型半導体層223内部における伝導帯のバンドエッジ準位に、上記のような井戸型ポテンシャルが生じない。そのため、第2のp型半導体層223内部の電子は電解液140との界面方向に移動するので、電荷分離の効率が格段に向上する。
また、別の比較の形態として、第2のp型半導体層における価電子帯のバンドエッジ準位が第1のp型半導体層における価電子帯のバンドエッジ準位よりも大きい形態を想定する。この場合、第2のp型半導体層の表面付近における価電子帯のバンドエッジの曲がりと、第1のp型半導体層−第2のp型半導体層間の価電子帯のバンドエッジ準位の差とにより、第2のp型半導体層内部における価電子帯のバンドエッジ準位に井戸型ポテンシャルが生じることになる。この井戸型ポテンシャルにより、光励起により第2のp型半導体層内部において生成したホールは、第2のp型半導体層内部に溜まってしまう。
これに対し、本実施の形態の光電気化学セル200においては、第2のp型半導体層223における価電子帯のバンドエッジ準位EV2が第1のp型半導体層222おける価電子帯のバンドエッジ準位EV1よりも小さくなるように設定されているので、第2のp型半導体層223内部における価電子帯のバンドエッジ準位に、上記のような井戸型ポテンシャルが生じない。そのため、ホールは第2のp型半導体層223内部に溜まることなく第1のp型半導体層222との界面方向に移動するので、電荷分離の効率が格段に向上する。
また、本実施の形態の光電気化学セル200においては、第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223の伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位が上記のように設定されていることに加えて、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1が第2のp型半導体層223のフェルミ準位EF2よりも小さくなるように設定されている。この構成により、第1のp型半導体層222と第2のp型半導体層223との界面においてバンドの曲がりが生じ、かつ、ショットキー障壁が生じない。その結果、第2のp型半導体層223内部で光励起により生成した電子とホールのうち、電子は伝導帯を電解液140との界面方向に移動し、ホールは第1のp型半導体層222の価電子帯に移動する。すなわち、電子及びホールがショットキー障壁により妨げられることなく、効率的に電荷分離される。これにより、光励起により第2のp型半導体層223内部で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなるので、光の照射による水素生成反応の量子効率が向上する。
また、本実施の形態の光電気化学セル200においては、導電体221のフェルミ準位EFcが、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1よりも小さくなるように設定されている。この構成により、導電体221と第1のp型半導体層222との接合面においてもショットキー障壁が生じない。そのため、第1のp型半導体層222から導電体221へのホールの移動がショットキー障壁により妨げられることがないので、光励起により第2のp型半導体層223内部で生成した電子とホールとが再結合する確率がさらに低くなり、光の照射による水素生成反応の量子効率がさらに向上する。
また、電解液140のpH値が0で、温度が25℃の場合、本実施の形態では、この電解液140と接触した状態の半導体電極220において、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1が−5.67eV以下であり、かつ、第2のp型半導体層223における伝導帯のバンドエッジ準位EC2が−4.44eV以上である。半導体電極220がこのようなエネルギー準位を満たすことによって、第1のp型半導体層222と接触している導電体221のフェルミ準位EFcが、水の酸化還元電位である−5.67eV以下となる。したがって、導電体221と電気的に接続されている対極130の表面において効率良く水が酸化されるので、酸素を効率良く発生させることができる。
また、第2のp型半導体層223における伝導帯のバンドエッジ準位EC2が、水素の酸化還元電位である−4.44eV以上となる。したがって、第2のp型半導体層223の表面において効率良く水素イオンが還元されるので、水素を効率良く発生させることができる。
以上のように、pH値が0で温度が25℃の電解液140と接触した状態の半導体電極220において、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1を−5.67eV以下とし、かつ、第2のp型半導体層223における伝導帯のバンドエッジ準位EC2を−4.44eV以上とすることによって、効率良く水を分解できる。
なお、本実施の形態では上記のようなエネルギー準位を満たす半導体電極220が示されているが、例えば第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1が−5.67eVを超えていてもよく、第2のp型半導体層223における伝導帯のバンドエッジ準位EC2が−4.44eV未満であってもよい。このような場合でも、水素及び酸素を発生させることが可能である。
ここで、第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223のフェルミ準位及び価電子帯上端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、フラットバンドポテンシャル及びキャリア濃度を用いて求めることができる。半導体のフラットバンドポテンシャル及びキャリア濃度は、測定対象である半導体を電極として用いて測定されたMott−Schottkyプロットから求められる。
また、pH値0、温度25℃の電解液140と接触した状態における第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223のフェルミ準位は、測定対象である半導体を電極として用い、pH値0、温度25℃の電解液と半導体電極とが接触した状態において、Mott−Schottkyプロットを測定することにより求めることができる。
第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223の伝導帯下端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、バンドギャップと、上記の方法により求めた第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223の価電子帯上端のポテンシャル(バンドエッジ準位)とを用いて求めることができる。ここで、第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223のバンドギャップは、測定対象である半導体の光吸収スペクトル測定において観察される光吸収端から求められる。
導電体221のフェルミ準位は、実施の形態1と同様の方法で測定できる。
次に、本実施の形態における第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223の材料について、それぞれ説明する。
第1のp型半導体層222及び第2のp型半導体層223には、銅、銀、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫又はアンチモン等を構成元素として含む酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、窒化物、酸窒化物及びリン化物等を用いることができる。
第1のp型半導体層222としては、銅の酸化物を用いることが好ましい。このようにすると、pH値0、温度25℃の電解液と接触した状態において、第1のp型半導体層222のフェルミ準位EF1を−5.67eV以下に設定することができる。第1のp型半導体層222は、銅の酸化物の単体であっても、銅の酸化物を含む複合化合物であってもよい。また、以上の化合物に、銅以外の金属イオンが添加されたものであってもよい。銅の酸化物からなるナノチューブアレイは、例えば陽極酸化法で作製できる。
第2のp型半導体層223のキャリア濃度は、第1のp型半導体層222のキャリア濃度よりも低いことが好ましい。第2のp型半導体層223は、酸化物、窒化物及び酸窒化物からなる群から選択される1つであることが好ましい。このようにすると、半導体電極220が電解液140と接している状態において、半導体電極220の第2のp型半導体層223に光が照射されても、第2のp型半導体層223が電解液中に溶解することがない。したがって、光電気化学セルを安定に動作させることができる。
第1のp型半導体層222として酸化銅を用いる場合、第2のp型半導体層223として、例えば、硫化銅インジウムを用いることができる。
導電体221には、例えば、Ti、Ni、Ta、Nb、Al及びAg等の金属、又は、ITO及びFTO等の導電性材料を用いることができる。これらの中から、第1のp型半導体層222との接合がオーミック接触となるものを適宜選択すればよい。
導電体221の表面うち、第1のp型半導体層222に被覆されない領域は、例えば樹脂等の絶縁体によって被覆されることが好ましい。このような構成によれば、導電体221が電解液140内に溶解するのを防ぐことができる。
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3の光電気化学セルの構成について、図8を用いて説明する。図8は、本実施の形態の光電気化学セルの構成を示す概略図である。
本実施の形態の光電気化学セル300において、半導体電極320は、導電体321、導電体321上に配置された第1のn型半導体層322及び第1のn型半導体層322上に配置された第2のn型半導体層323を備えている。さらに、半導体電極320には、導電体321において第1のn型半導体層322が配置されている面と反対側の面に、絶縁層324が配置されている。導電体321、第1のn型半導体層322及び第2のn型半導体層323の構成は、それぞれ、実施の形態1における導電体121、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123と同じである。絶縁層324は、例えば樹脂やガラスによって形成されている。このような絶縁層324によれば、導電体321が電解液140に溶解することを防ぐことができる。なお、本実施の形態では、実施の形態1で示したような2層のn型半導体層を備えた半導体電極に、上記のような絶縁層をさらに設けた構成を適用したが、このような絶縁層は、実施の形態2に示したような半導体電極にもそれぞれ適用可能である。
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4の光電気化学セルの構成について、図9を用いて説明する。図9は、本実施の形態の光電気化学セルの構成を示す概略図である。
本実施の形態の光電気化学セル400では、半導体電極420が、導電体421、導電体421上に配置された第1のn型半導体層422及び第1のn型半導体層422上に配置された第2のn型半導体層423を備えている。一方、対極430は、導電体421上(導電体421において第1のn型半導体層422が配置されている面と反対側の面上)に配置されている。なお、導電体421、第1のn型半導体層422及び第2のn型半導体層423の構成は、それぞれ、実施の形態1における導電体121、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123と同じである。
本実施の形態のように、対極430を導電体421上に配置する構成によれば、半導体電極420と対極430とを電気的に接続するための導線が不要となる。これにより、導線に起因する抵抗損がなくなるので、光の照射による水素生成反応の量子効率をさらに向上させることができる。また、このような構成によれば、簡易な工程により半導体電極420と対極430とを電気的に接続することができる。なお、本実施の形態では、対極430が導電体421の第1のn型半導体層422が配置されている面と反対側の面上に配置されている構成を示したが、第1のn型半導体層422の配置されている面と同じ面上に配置することも可能である。なお、本実施の形態では、実施の形態1で示したような2層のn型半導体層を備えた光電気化学セルに、対極を導電体上に配置する上記構成を適用したが、このような構成は、実施の形態2に示したような光電気化学セルにもそれぞれ適用可能である。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5の光電気化学セルの構成について、図10を用いて説明する。図10は、本実施の形態の光電気化学セルの構成を示す概略図である。
図10に示すように、本実施の形態の光電気化学セル500は、筐体(容器)510と、半導体電極520と、対極530と、セパレータ560とを備えている。筐体510の内部は、セパレータ560によって第1室570及び第2室580の2室に分離されている。第1室570及び第2室580には、水を含む電解液540がそれぞれ収容されている。
第1室570内には、電解液540と接触する位置に半導体電極520が配置されている。半導体電極520は、導電体521と、導電体521上に配置された第1のn型半導体層522と、第1のn型半導体層522上に配置された第2のn型半導体層523とを備えている。また、第1室570は、第1室570内で発生した酸素を排気するための第1の排気口571と、第1室570内に水を供給するための給水口572とを備えている。筐体510のうち、第1室570内に配置された半導体電極520の第2のn型半導体層523と対向する部分(以下、光入射部510aと略称する)は、太陽光等の光を透過させる材料で構成されている。
一方、第2室580内には、電解液540と接触する位置に対極530が配置されている。また、第2室580は、第2室580内で発生した水素を排気するための第2の排気口581を備えている。
半導体電極520における導電体521と対極530とは、導線550により電気的に接続されている。
本実施の形態における半導体電極520の導電体521、第1のn型半導体層522及び第2のn型半導体層523は、実施の形態1における半導体電極120の導電体121、第1のn型半導体層122及び第2のn型半導体層123と、それぞれ同じ構成を有する。したがって、半導体電極520は、実施の形態1の半導体電極120と同様の作用効果を奏する。また、対極530及び電解液540は、それぞれ、実施の形態1における対極130及び電解液140と同じである。
セパレータ560は、電解液540を透過させ、第1室570及び第2室580内で発生した各ガスを遮断する機能を有する材料で形成されている。セパレータ560の材料としては、例えば高分子固体電解質等の固体電解質が挙げられる。高分子固体電解質としては、例えばナフィオン(登録商標)等のイオン交換膜が挙げられる。このようなセパレータを用いて容器の内部空間を2つの領域に分けて、一方の領域で電解液と半導体電極の表面(半導体層)とを接触させ、他方の領域で電解液と対極の表面とを接触させるような構成とすることにより、容器の内部で発生した酸素と水素とを容易に分離できる。
なお、本実施の形態では、実施の形態1における半導体電極120と同じ構成を有する半導体電極520を用いた光電気化学セル500を説明したが、半導体電極520の代わりに、実施の形態2における半導体電極220を用いることも可能である。
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6のエネルギーシステムの構成について、図11を参照しながら説明する。図11は、本実施の形態のエネルギーシステムの構成を示す概略図である。
図11に示すように、本実施の形態のエネルギーシステム600は、光電気化学セル500と、水素貯蔵器610と、燃料電池620と、蓄電池630とを備えている。
光電気化学セル500は、実施の形態5で説明した光電気化学セルであり、その具体的構成は図10に示すとおりである。そのため、ここでは詳細な説明を省略する。
水素貯蔵器610は、第1の配管641によって、光電気化学セル500の第2室580(図10参照)と接続されている。水素貯蔵器610としては、例えば、光電気化学セル500において生成された水素を圧縮するコンプレッサーと、コンプレッサーにより圧縮された水素を貯蔵する高圧水素ボンベと、から構成できる。
燃料電池620は、発電部621と、発電部621を制御するための燃料電池制御部622とを備えている。燃料電池620は、第2の配管642によって、水素貯蔵器610と接続されている。第2の配管642には、遮断弁643が設けられている。燃料電池620としては、例えば、高分子固体電解質型燃料電池を用いることができる。
蓄電池630の正極及び負極は、燃料電池620における発電部621の正極及び負極と、第1の配線644及び第2の配線645によって、それぞれ電気的に接続されている。蓄電池630には、蓄電池630の残存容量を計測するための容量計測部646が設けられている。蓄電池630としては、例えば、リチウムイオン電池を用いることができる。
次に、本実施の形態のエネルギーシステム600の動作について、図10及び図11を参照しながら説明する。
光電気化学セル500の光入射部510aを通して、第1室570内に配置された半導体電極520の第2のn型半導体層523の表面に太陽光が照射されると、第2のn型半導体層523内に電子とホールとが生じる。このとき生じたホールは、第2のn型半導体層523の表面側に移動する。これにより、第2のn型半導体層523の表面において、上記反応式(1)により水が分解されて、酸素が発生する。
一方、電子は、第2のn型半導体層523と第1のn型半導体層522との界面、並びに第1のn型半導体層522と導電体521との界面における伝導帯のバンドエッジの曲がりに沿って、導電体521まで移動する。導電体521に移動した電子は、導線550を介して導電体521と電気的に接続された対極530側に移動する。これにより、対極530の表面において、上記反応式(2)により水素が発生する。
このとき、実施の形態1における半導体電極120と同様に、第2のn型半導体層523と第1のn型半導体層522との接合面でショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなく第2のn型半導体層523から第1のn型半導体層522まで移動できる。さらに、第1のn型半導体層522と導電体521との接合面にもショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなく導電体521まで移動できる。したがって、光励起により第1のn型半導体層523内で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなり、光の照射による水素生成反応の量子効率を向上させることができる。
第1室570内で発生した酸素は、第1の排気口571から光電気化学セル500外に排気される。一方、第2室580内で発生した水素は、第2の排気口581及び第1の配管641を介して水素貯蔵器610内に供給される。
燃料電池620において発電するときには、燃料電池制御部622からの信号により遮断弁643が開かれ、水素貯蔵器610内に貯蔵された水素が、第2の配管642によって燃料電池620の発電部621に供給される。
燃料電池620の発電部621において発電された電気は、第1の配線644及び第2の配線645を介して蓄電池630内に蓄えられる。蓄電池630内に蓄えられた電気は、第3の配線647及び第4の配線648によって、家庭及び企業等に供給される。
本実施の形態における光電気化学セル500によれば、光の照射による水素生成反応の量子効率を向上させることができる。したがって、このような光電気化学セル500を備えている本実施の形態のエネルギーシステム600によれば、効率良く電力を供給できる。
なお、本実施の形態では、実施の形態5で説明した光電気化学セル500を用いたエネルギーシステムの例を示したが、実施の形態1〜4で説明した光電気化学セル100,200,300,400を用いても同様の効果が得られる。
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
(参考例)
まず、第1のn型半導体層と第2のn型半導体層との伝導帯及び価電子帯のバンドエッジ準位の関係が本発明を満たし、かつ、第1のn型半導体層、第2のn型半導体層及び導電体のフェルミ準位の関係も本発明を満たす半導体電極(参考例1−1)と、それらの関係が本発明を満たさない半導体電極(参考例1−2)との効果の差を確認するための参考例について説明する。ただし、ここではバンドエッジ準位やフェルミ準位の関係についての効果を確認するだけであるため、第1のn型半導体層はナノチューブアレイ構造を有しておらず、一つの膜として形成した。
参考例1−1として、図8に示した光電気化学セル300と同様の構成を有する光電気化学セルを作製した。以下、参考例1−1の光電気化学セルについて、図8を参照しながら説明する。
参考例1−1の光電気化学セル300は、上部に開口部を有する角型のガラス容器(容器110)、半導体電極320及び対極130を備えていた。ガラス容器110内には、電解液140として、硫化ナトリウムが0.01mol/L、亜硫酸ナトリウムが0.01mol/Lとなる水溶液が収容されていた。
半導体電極320は、以下の手順により作製した。
絶縁層324としての1cm角のガラス基板上に、導電体321として、まずスパッタ法により膜厚150nmのITO膜(シート抵抗10Ω/□)を形成した。次に、導電体321上に、第1のn型半導体層322として、スパッタ法により膜厚500nmの酸化チタン膜(アナタース多結晶体)を形成した。最後に、第1のn型半導体層322上に、第2のn型半導体層323として、酢酸カドミウム及びチオ尿素を用いた化学析出法により、膜厚1μmの硫化カドミウム膜を形成した。半導体電極320は、第2のn型半導体層323の表面が、ガラス容器110の光入射面110aと対向するように配置されていた。
対極130としては、白金板を用いた。半導体電極320の導電体321の部分と対極130とは、導線150により電気的に接続されていた。半導体電極320−対極130間に流れる電流は、電流計により測定した。
このように作製された参考例1−1の光電気化学セル300について、疑似太陽光照射実験を行った。疑似太陽光照射実験は、擬似太陽光としてセリック社製ソーラーシミュレータを用い、光電気化学セル300の半導体電極320における第2のn型半導体層322表面に対して、光入射部110aを介して強度1kW/m2の光を照射した。対極130の表面において発生したガスを30分間捕集し、ガスクロマトグラフィにより、捕集したガスの成分分析及び生成量の測定を行った。さらに、電流計により半導体電極320−対極130間に流れる光電流を測定した。対極130におけるガスの生成量を用いて、みかけの量子効率を求めた。みかけの量子効率は、以下の計算式を用いた算出した。
みかけの量子効率={(観測された光電流密度[mA/cm2])/(第2のn型半導体層に用いた半導体材料のバンドギャップで吸収され得る太陽光で発生し得る光電流密度[mA/cm2])}×100
参考例1−1の光電気化学セルにおいて捕集したガスを分析した結果、対極上において水素が発生していることを確認した。水素の生成速度は2.3×10-7L/sであった。また、半導体電極−対極間に流れる光電流は1.8mA/cm2であったことから、量論的に水が電気分解されたことを確認した。上記計算式を用いてみかけの量子効率を算出したところ、約28%であった。ここでは、第2のn型半導体層に用いた半導体材料(CdS)のバンドギャップ(2.5eV)で吸収され得る太陽光で発生し得る光電流密度を6.5mA/cm2として算出した。結果は、表1に示すとおりである。また第1及び第2のn型半導体層のフェルミ準位EF、伝導帯のバンドエッジ準位EC及び価電子帯のバンドエッジ準位EVと、導電体のフェルミ準位EFとを、以下の表1に併せて示す。なお、ここに示すフェルミ準位、伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位は、pH値0、温度25℃の電解液と接触した状態において真空準位を基準とする値である。これらの値は、文献から引用したものである。
次に、参考例1−1と比較するための参考例1−2を作製した。
半導体電極において、硫化カドミウム膜の代わりに、膜厚1μmのチタン酸ストロンチウム膜を第2のn型半導体層として第1のn型半導体層上に設けた点以外は、参考例1−1と同様の手順により光電気化学セルを作製し、参考例1−2とした。
このように作製された参考例1−2の光電気化学セルについて、参考例1−1と同様の方法で、疑似太陽光照射実験を行った。参考例1−2の光電気化学セルに対して光を照射したところ、対極の表面においてガスの生成が認められたものの、発生量が少ないため検出することができず、量子効率を算出できなかった。また、参考例1−1と同様に、第1及び第2のn型半導体層のフェルミ準位、伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位と、導電体のフェルミ準位とを、以下の表1に示す。
参考例1−1における半導体電極は、第2のn型半導体層の伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位が、それぞれ、第1のn型半導体層の伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位よりも大きかった。さらに、導電体、第1のn型半導体層及び第2のn型半導体層のフェルミ準位が、第2のn型半導体層、第1のn型半導体層及び導電体の順に大きくなっていた。参考例1−1における半導体電極では、光励起により第2のn型半導体層内で生成した電子とホールとが効率的に電荷分離されることにより、生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなり、その結果、参考例1−2よりもガスの発生量が多く、比較的高いみかけの量子効率が得られた。
これに対し、参考例1−2における半導体電極では、表1に示すように、第1のn型半導体層のフェルミ準位が第2のn型半導体層のフェルミ準位よりも小さかった。このことから、第1のn型半導体層と第2のn型半導体層との接合面においてショットキー障壁が生じるため、光励起により第2のn型半導体層内で生成した電子とホールとが電荷分離されず、生成した電子とホールとが再結合する確率が高くなり、発生するガスの量が非常に少なくなったと考えられる。
なお、参考例での光電気化学セルにおいては、電解質として、硫化ナトリウムを含む亜硫酸ナトリウム水溶液を用いていることから、光を照射したときに、半導体電極においては、上記反応式(1)による酸素発生反応ではなく、下記反応式(3)に示す反応が進行していると考えられる。なお、対極においては、前述の反応式(2)に示した反応が進行していると考えられる。
2h++S2-→S (3)
(実施例)
本発明の光電気化学セルの実施例として、図1に示した光電気化学セル100と同様の構成を有する光電気化学セルを作製した。以下、本実施例の光電気化学セルについて、図1を参照しながら説明する。
本実施例の光電気化学セル100は、上部に開口部を有する角型のガラス容器(容器110)、半導体電極120及び対極130を備えていた。ガラス容器110内には、電解液140として、硫化ナトリウムが0.01mol/L、亜硫酸ナトリウムが0.01mol/Lとなり、全量が200mLとなるように作製された水溶液が収容されていた。ここで、硫化ナトリウムと亜硫酸ナトリウムとの混合溶液を電解液として用いた理由は、第2のn型半導体層123として用いた硫化カドミウムが、水中で光を当てることによって、溶出することを防ぐためである。
半導体電極120は、以下の手順により作製した。
事前に酸洗浄した、10mm×30mmのチタン金属板を、エチレングリコール100g、水2g、フッ化アンモニウム0.3gからなる電解液中に浸して陽極とし、陰極に白金線を用いて、印加電圧60Vにて、3分間陽極酸化を行った。なお、陽極と陰極との電極間距離は30mmに固定し、電解液は氷浴させることで、反応時の電解液の温度を約5℃に保った。これにより、チューブ長さ500〜600nm、外径150nm、内径50nmの酸化チタンナノチューブアレイを作製することができた。次に、この酸化チタンナノチューブアレイの結晶性を高めるために、500℃にて4時間焼成を行った。この焼成により、酸化チタンナノチューブアレイがアナタース型の結晶となることを、XRD(X-ray diffraction)により確認した。このような方法によって、チタン金属からなる導電体121上に、第1のn型半導体層122として酸化チタンナノチューブアレイを作製した。
こうして作製した、酸化チタンナノチューブアレイが表面に設けられたチタン金属からなる導電体121に、第2のn型半導体層123として、硫化カドミウムを化学析出法にて積層した。具体的には、酢酸カドミウム0.001mol/L、アンモニア0.4mol/L、酢酸アンモニウム0.01mol/L、チオ尿素0.005mol/Lの濃度となり、全量が500mLとなるように混合した溶液を準備し、80℃の湯浴中のこの溶液に15分間、酸化チタンナノチューブアレイを設けたチタン金属板を浸漬することで、第2のn型半導体層123となる硫化カドミウム膜を厚さ500nmで形成した。
対極130としては、白金電極を用いた。半導体電極120の導電体121と対極130とを、導線150により電気的に接続した。
このように作製された本実施例の光電気化学セル100について、波長300nm〜600nmの光に対する量子効率を測定した。その結果を図12に示す。量子効率の測定方法は、以下のとおりである。
分光計器を利用し、Xeランプをモノクロメータで分光して発生させた単色光を、あらかじめSiフォトダイオードにて光量測定を実施しておいた後、光電気化学セル100に照射し、各波長照射で発生した電流値を検出した。量子効率は、これらの測定結果を用い、量子効率=(各波長照射で発生した電流値)/(各波長での光子数)から求めた。
なお、本実施例での光電気化学セルにおいては、電解質として、硫化ナトリウムを含む亜硫酸ナトリウム水溶液を用いていることから、光を照射したときに、半導体電極においては、上記反応式(1)による酸素発生反応ではなく、上記反応式(3)に示す反応が進行していると考えられる。なお、対極においては、前述の反応式(2)に示した反応が進行していると考えられる。
(比較例1)
比較例1として、半導体電極の構成のみが実施例と異なる光電気化学セルを作製した。10mm×50mmのITO基板(厚さ150nm)上に、スパッタリング法で酸化チタン膜(アナタース多結晶体)を厚さ150nmで形成し、さらにその上に実施例と同様の方法で硫化カドミウム膜を厚さ500nmで形成した。この方法により、ITOからなる導電体上に、第1のn型半導体層として酸化チタン膜が配置され、さらにその上に第2のn型半導体層として硫化カドミウム膜が配置された、比較例1の半導体電極を作製した。すなわち、比較例1では、第1のn型半導体層がナノチューブアレイ構造を有さない半導体電極とした。
このように作製された比較例1の光電気化学セルについて、実施例と同様の方法で波長300nm〜600nmの光に対する量子効率を測定した。その結果を図12に示す。
(比較例2)
比較例2として、半導体電極の構成のみが実施例と異なる光電気化学セルを作製した。10mm×50mmのITO基板(厚さ150nm)上に、化学析出法で硫化カドミウム膜を厚さ500nmで形成した。この方法により、ITOからなる導電体上に、硫化カドミウム膜が直接配置された半導体電極を作製した。すなわち、比較例2の半導体電極は、ナノチューブアレイ構造を有する第1のn型半導体層が設けられておらず、導電体上に第2のn型半導体層のみが配置された半導体電極であった。
このように作製された比較例2の光電気化学セルについて、実施例と同様の方法で波長300nm〜600nmの光に対する量子効率を測定した。その結果を図12に示す。
図12に示すように、実施例の光電気化学セルでは、硫化カドミウムの吸収端である550nm付近から量子効率が向上し、550nm以下の波長全てにおいて、第1のn型半導体層を用いない場合(比較例2)と比較して約50%、第1のn型半導体層に酸化チタンナノチューブを用いず、平滑な酸化チタン膜を用いた場合(比較例1)と比較して約25%の量子効率の向上が見られた。なお、比較例1と比較例2とを比較すると、酸化チタン膜を用いた比較例1は、比較例2に対して約20%の量子効率の向上が見られた。本実施例の半導体電極は、第1のn型半導体層に酸化チタンナノチューブを用いているので、第1のn型半導体層が高い表面積と高い結晶性を併せ持つため、量子効率が向上したと考えられる。なお、本実施例では、ナノチューブ構造を有する第1のn型半導体層として酸化チタンナノチューブアレイを用いたが、酸化チタンに限られるものではない。また、第2のn型半導体層として硫化カドミウムを用いたが、TaONやTa3N5などの半導体でもよく、硫化カドミウムに限られるものではない。