本発明は、冷凍冷蔵庫などの冷凍サイクルに用いられる密閉型圧縮機に関する。
圧縮機構にレシプロ式を採用した従来の密閉型圧縮機が、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された密閉型圧縮機は、内径が円筒形の圧縮室を形成するシリンダと、このシリンダ内を往復運動する外径が円筒形のピストンと、このピストンに、ピストンピンを介して、シャフトの偏心軸部を連結するコンロッドとを備えている。さらに、電動機部の回転子の軸心にシャフトを固定し、回転子の回転により圧縮機構を作動させる。
一般に、このような密閉型圧縮機では、シリンダの内径と往復運動するピストンの外径とが摺動するための隙間が必要である。この隙間が大きいものでは圧縮室内で圧縮された高温、高圧の冷媒ガスの漏れが発生して圧縮効率が低下する。逆に、この隙間を小さくすると摺動損失が増加して圧縮効率が低下する。
そこで、特許文献1に開示された密閉型圧縮機は、ピストンが上死点に位置する側から下死点に位置する側に向かって内径寸法が増大するようなテーパ形成されたシリンダを用いた構造を提案している。
図面を参照しながら上記従来技術の密閉型圧縮機について説明する。図12A、図12Bは特許文献1に開示された密閉型圧縮機の圧縮部の縦断面図である。図12Aはピストンが下死点にある状態を示し、図12Bはピストンが上死点にある状態をそれぞれ示している。
図12A、図12Bにおいて、シリンダブロック14に設けた円筒形孔部16内に往復動可能に挿設されたピストン23には、ピストンピン25を介して、コンロッド26が連結されている。シャフト(図示せず)の偏心軸部の偏心運動により、コンロッド26はピストン23を図12Aに示す下死点位置と図12Bに示す上死点位置とで往復するように駆動する。
コンロッド26から見て円筒形孔部16の反対側(図の右側)の端面に図示省略のバルブプレートが装着されている。ピストン23、円筒形孔部16及びバルブプレートにより圧縮室15が形成されている。
円筒形孔部16は、ピストン23が上死点に位置する側から下死点に位置する側に向かって、内径寸法がDtからDb(>Dt)に増加するテーパ部17を持つように形成されている。ピストン23は、全長にわたって外径寸法が同一に形成されている。
このような構成により、ピストン23の外周面が図12Aに示す下死点位置から、冷媒ガスを圧縮する圧縮行程でテーパ部17に沿って上死点側に移行する途中の状態までは、圧縮室15内の圧力はそれほど上昇しない。そのため、隙間は比較的大きくても潤滑油によるシール効果で冷媒ガスの漏れはほとんど発生せず、ピストン23の摺動抵抗も小さい。
さらに圧縮行程が進み、圧縮室15内の冷媒ガスの圧力が次第に上昇してピストン23が図12Bに示す上死点位置に近接する状態では、圧縮室15内の圧力は所定の吐出圧力まで上昇して冷媒ガスの漏れが発生しやすい条件となる。しかし、上死点側では隙間が小さくなることから潤滑油によるシール効果が得られ、冷媒ガスの漏れを低減することができる。
しかしながら、上記従来の構成では、圧縮行程において、ピストン23の圧縮室15側の先端エッジ部30がテーパ部17に接触して、先端エッジ部30を起点に円筒形孔部16の軸心に対するピストン23の傾斜方向が反転する。その結果、反転前にテーパ部17と摺動していなかった側のピストン23の外周面がテーパ部17に接触し、摺動状態が厳しくなったり、反転時の接触が激しい場合には接触音が発生したりする可能性があった。
本発明は、従来の課題を解決するもので、圧縮行程の初期に、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する。これにより、圧縮行程の中期以降にピストンの傾斜方向が反転する時よりも、反転時におけるピストンとテーパ部との接触を緩和するように形成し、騒音を低減した密閉型圧縮機を提供するものである。
本発明は、潤滑油を貯留した密閉容器内に、電動要素と、電動要素によって駆動される圧縮要素とが収容されている。圧縮要素は、電動要素によって回転駆動される主軸部および主軸部と一体運動するように形成された偏心軸部を有するシャフトと、圧縮室を形成する円筒形孔部および主軸部を軸支する軸受部を有するシリンダブロックと、円筒形孔部に往復動可能に挿設されたピストンと、偏心軸部とピストンとを連結する連結機構とを備えている。円筒形孔部は、ピストンが上死点に位置する側から下死点に位置する側に向かって内径寸法が増大するように形成されたテーパ部を有し、ピストンは、圧縮行程の初期に、傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する構成を有する。
かかる構成により、ピストンと円筒形孔部との摺動抵抗を軽減することができる。すなわち、ピストンと円筒形孔部との摺動損失を低く抑えることができる。さらに、これに加えて、圧縮行程の初期では、ピストンの圧縮室側の端面に作用する圧縮荷重が小さいために、反転時にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する荷重を低減することができる。したがって、圧縮行程の中期以降にピストンの傾斜方向が反転する時よりも、ピストンとテーパ部との接触を緩和することができる。これによって、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する際の接触を緩和することができ、低騒音化を達成することができる。
図1は、本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の縦断面図である。
図2は、同実施の形態における密閉型圧縮機の圧縮部の要部縦断面図である。
図3は、同実施の形態における密閉型圧縮機の圧縮部の設計諸元を示す要部縦断面図である。
図4は、同実施の形態における密閉型圧縮機の圧縮部の設計諸元を示す要部横断面図である。
図5Aは、同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図である。
図5Bは、同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図である。
図6Aは、同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図である。
図6Bは、同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図である。
図7Aは、同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図である。
図7Bは、同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図である。
図8Aは、同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図である。
図8Bは、同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図である。
図9は、同実施の形態の密閉型圧縮機における設計諸元の一例によって得られた回転角と騒音の関係を表す特性図である。
図10は、本発明の実施の形態2における密閉型圧縮機の圧縮部の設計諸元を示す要部縦断面図である。
図11は、同実施の形態における密閉型圧縮機の圧縮部の設計諸元を示す要部横断面図である。
図12Aは、従来の密閉型圧縮機の圧縮部の縦断面図である。
図12Bは、従来の密閉型圧縮機の圧縮部の縦断面図である。
以下、本発明による密閉型圧縮機の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の縦断面図である。図2は、同実施の形態における圧縮部の要部縦断面図である。図3は、同実施の形態における圧縮部の設計諸元を示す要部縦断面図である。図4は、同実施の形態における圧縮部の設計諸元を示す要部横断面図である。
図1から図4において、密閉容器103内には、固定子105aおよび回転子105bを備えた電動要素105と、電動要素105によって駆動される圧縮要素107とが収容されている。さらに、密閉容器103内の底部に潤滑油101が貯留されている。シャフト113は、主軸部109と、この主軸部109と一体運動するようにその一端に偏心して形成された偏心軸部111とを有している。主軸部109が回転子105bの軸心に固定されている。
軸受部119は、シャフト113の主軸部109における偏心軸部111側の端部を軸支することによって片持ち軸受を形成している。
主軸部109に対する偏心重量である、偏心軸部111の荷重や偏心軸部111に作用する圧縮室115の冷媒ガスの圧力荷重に対して、回転のバランスをとるために、主軸部109と偏心軸部111との間に、偏心軸部111の偏心方向と反対方向に偏心したバランスウエイト137を設けている。
シリンダブロック121は、互いに一定の位置に固定されるように配置された略円筒形の円筒形孔部117と、軸受部119とを有している。円筒形孔部117内にはピストン123が往復動可能に挿設されている。
連結機構であるコンロッド125の一端は偏心軸部111に連結され、その他端はピストンピン136を介して、ピストン123に連結されている。シャフト113の内部や外周面には給油通路128が設けられている。この給油通路128は、一端(上端)が偏心軸部111の内部に設けられた給油孔128aに連通している。また、主軸部109の偏心軸部111とは反対側の端部、すなわち下端部は、給油通路128が、潤滑油101の所定の深さまで浸入するように延出している。
円筒形孔部117の端面にはバルブプレート139が設けられている。円筒形孔部117は、ピストン123およびバルブプレート139とともに圧縮室115を形成するようにシリンダブロック121に設けられている。円筒形孔部117には、図3に示すように、ピストン123が上死点に位置する側から下死点に位置する側に向かって、内径寸法がD1からD3(>D1)に増加するテーパ部127が形成されている。さらに、上死点に達したピストン123の圧縮室115側の端部に対応する位置に、軸方向長さL1の区間だけ内径寸法が軸方向に一定であるストレート部129が形成されている。ピストン123は全長にわたって同一の外径寸法D2に形成されている。
シリンダブロック121の円筒形孔部117は、図3に示すように、ピストン123が下死点に位置する状態で、このピストン123の反圧縮室115側が密閉容器103内に露出するように形成されている。
さらに、ピストン123の外周面133の圧縮室115側には、略環状(環状も含む)の給油溝131が凹状に設けられている。ピストン123が下死点に位置する状態で、この給油溝131の少なくとも一部が円筒形孔部117から露出して密閉容器103に連通するように、円筒形孔部117の周壁の一部が切り欠かれた切り欠き部120を形成している。
ここで、ピストン123の外径寸法をD2とし、主軸部109に対する偏心軸部111の偏心量をeとする。コンロッド125とピストン123との連結中心、すなわちピストンピン136の中心からピストン123の圧縮室側端面134までの距離(以下、主摺動面寸法と称す)をL2とする。ピストン123が上死点に位置する時の主軸部109の回転角度を零(ゼロ)として主軸部109の任意の回転角度をθとする。圧縮室115の軸心とテーパ部127のなす角度をαとする。
上記の円筒形孔部117の内径寸法D1、ピストン123の外径寸法D2、ストレート部129の長さL1、主摺動面寸法L2、偏心量e、回転角度θは、円筒形孔部117内におけるピストン123の挙動をシミュレートする場合において、円筒形孔部117内におけるピストン123の先端位置の端部座標を求めるための設計諸元である。
このように各設計諸元を選択したとき、テーパ部127のなす角度αは、円筒形孔部117の内径寸法D1とピストン123の外径寸法D2の差(D1−D2)の諸元数値3/2を、ピストン123の上死点位置を零としたときの上死点側のピストン先端の座標位置{L1−L2+2e(1−cosθ)}で割った値(以下、諸元値と称す)γに、0.4から2.0の範囲の係数を掛け合わせた範囲内に設定している。
なお、諸元数値3/2は、円筒形孔部117内におけるピストン123の先端位置の端部座標を求める際に前述の設計諸元(値)から導き出された数値である。
換言すると、本実施の形態では、角度αは、始めに上記した設計諸元である円筒形孔部117の内径寸法D1、ピストン123の外径寸法D2、ストレート部129の長さL1、主摺動面寸法L2、偏心量e、回転角度θに基づいた(数1)で表される諸元値γを定義し、この諸元値γを基調とする(数2)で定義される。
その際、主軸部109の回転角度θは、圧縮行程の初期の回転角度として、π〜4π/3(rad)の範囲としている。
γ={3(D1−D2)/2}/{L1−L2+2e(1−cosθ)} (数1)
0.4γ≦tan(α)≦2.0γ、 α>0 (数2)
なお、諸元値γの係数(本実施の形態では0.4と2.0)は、テーパ部127の加工公差などを鑑みて適宜定めた値であり、シリンダブロック121の材質などに応じて設定すればよい。
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下にその動作を説明する。まず、円筒形孔部117のテーパ部127とストレート部129におけるシール効果と摺動抵抗について説明する。
電動要素105の回転子105bはシャフト113を回転させ、偏心軸部111の回転運動が、コンロッド125を介してピストン123に伝えられる。これによって、ピストン123は円筒形孔部117内を往復運動する。ピストン123の往復運動により、図示省略の冷却システムから冷媒ガスが圧縮室115内へ吸入され、圧縮された後、再び冷却システムに吐き出される。
給油通路128の下端部は、シャフト113の回転によりポンプ作用をするようになっている。このポンプ作用により、密閉容器103の底部の潤滑油101は、給油通路128を通って、上方に汲み上げられ、給油孔128aに到達する。その結果、給油孔128aに到達した潤滑油101は、シャフト113の上端より密閉容器103内の全周方向へ水平に飛散し、ピストンピン136やピストン123などに供給されて潤滑を行う。
ピストン123が図3に示す下死点位置から、冷媒ガスを圧縮する圧縮行程で上死点側に移動する途中の状態までは、圧縮室115内の圧力はそれほど上昇しない。したがって、ピストン123の外周面133とテーパ部127との隙間が比較的大きくても潤滑油101によるシール効果で冷媒ガスの漏れはほとんど発生せず、ピストン123の摺動抵抗も小さい。
さらに圧縮行程が進み、圧縮室115内の冷媒ガスの圧力が次第に上昇してピストン123が上死点の近傍位置に達する直前では、圧縮室115内の圧力は急激に上昇する。しかし、上死点側ではピストン123の外周面133とテーパ部127との隙間が小さくなることから冷媒ガスの漏れの発生を低減することができる。このとき、ストレート部129は、所定の吐出圧力まで増大した冷媒ガスの漏れを、このストレート部129をテーパ状にした場合よりも低減するように作用する。
また、ピストン123が下死点に位置する状態で、このピストン123のコンロッド125側がシリンダブロック121から露出するように形成されている。そのため、シャフト113の上端から飛散された潤滑油101がピストン123の外周面133に潤沢に供給されるとともに、保持される。
さらに、ピストン123が下死点に位置する状態で、ピストン123の外周面133の圧縮室115側に凹設された略環状の給油溝131の少なくとも一部が、切り欠き部120を介して円筒形孔部117から露出するように形成されている。そのため、シャフト113の上端から飛散された潤滑油101が給油溝131に潤沢に供給されるとともに、保持される。
これによって、圧縮行程でシリンダブロック121の円筒形孔部117の内周面とピストン123の外周面133との隙間に供給される潤滑油101も多くなる。
また、略環状の給油溝131は円筒形孔部117のストレート部129と対向する位置まで可動するため、摺動抵抗が最も大きくなるストレート部129に対して潤滑油101が運ばれやすくなっている。
以上の結果、シリンダブロック121とピストン123との摺動部により多くの潤滑油101が供給されるとともに、その潤滑油101が良好に保持される。さらに、ピストン123が上死点位置に近接した状態での摺動抵抗を軽減することができ、これによって高効率化を達成することができる。
次に、本実施の形態におけるピストン123の挙動を説明する模式図である図5A、図5B〜図8A、図8Bを参照しながら、圧縮行程におけるピストン123の挙動について説明する。
図5A、図5B〜図8A、図8Bは、圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図である。図5A〜図8Aは圧縮室115の側面を示す模式図である。図5B〜図8Bは、シャフト113の側面を示す模式図である。図5A、図5B〜図7A、図7Bは圧縮行程の初期の状態を示し、図8A、図8Bは圧縮行程の後期の状態をそれぞれ示している。図9は、本実施の形態の密閉型圧縮機において、設計諸元の一例によって得られた回転角と騒音の関係を表す特性図である。
本実施の形態の密閉型圧縮機は、軸受部119がシャフト113の主軸部109における偏心軸部111側の端部を軸支する片持ち軸受を形成している。そのため、シャフト113は主軸部109と軸受部119のクリアランス内で傾く。しかもその方向や傾斜角度は運転条件などによっても変わる複雑な挙動であることが知られている。
これは、特に、圧縮室115内の圧力荷重やピストン123とコンロッド125の慣性力などの複雑な力の影響を受けるためである。従って、図5B〜図8Bに示すシャフト113の傾斜を示した模式図は、出願人が推定して描いたものである。
まず、圧縮行程の初期について説明する。圧縮行程の初期においても、シャフト113がどのように傾斜しているかは明確ではない。しかし、上述した通り、シャフト113の傾斜挙動は複雑であり、それに伴ってピストン123も複雑に挙動すると考えられる。
しかし、ピストン123が下死点近傍にある圧縮行程の初期においては、ピストン123は円筒形孔部117内のテーパ部127の範囲内に位置している。そのため、ピストン123は僅かな力で簡単に傾斜することができるので、通常はテーパ部127のいずれかの内壁面に沿って摺動していると考えられる。
ここでは、ピストン123がほぼシャフト113と同様に傾斜し、円筒形孔部117内の上方のテーパ部127に沿って摺動した場合について説明する。
ピストン123の外周面133のうち上方の外周面133aが円筒形孔部117内の上方のテーパ部127と摺動しながら圧縮室115側に移動すると、図6A,図6Bに示すように、外周面133のうちテーパ部127と摺動していないピストン123の外周面133b側の先端エッジ部135が、外周面133bと対向しているテーパ部127に接触する。
このとき、発明者らの実験では、図7A、図7Bに示すように、ピストン123の傾斜方向が円筒形孔部117の軸心に対して反転し、その結果、それまでテーパ部127と摺動していなかった外周面133b側がテーパ部127と摺動するように挙動することを連想させる結果を得ている。
推察ではあるが、テーパ部127と摺動していないピストン123の外周面133b側の先端エッジ部135がテーパ部127に接触したことを起点に、シャフト113が大きく反圧縮室115側に傾斜し、ピストン123の傾斜方向が円筒形孔部117の軸心に対して反転した可能性もあると考えている。
いずれにしても、さらに圧縮行程が進み、圧縮行程の中期以降では、圧縮室115内の冷媒ガスの圧力が大きくなると、冷媒ガスの圧縮荷重をシャフト113の偏心軸部111に対して片持ち軸受の主軸部109のみで軸支する。そのため、図8A、図8Bに示すように、シャフト113は主軸部109と軸受部119のクリアランス内で傾き、方向を変えながらも大きくは反圧縮室115側に傾斜している。
このとき、ピストン123は、その軸心が円筒形孔部117内のストレート部129の軸心とほぼ一致するように傾斜が修正されてさらに圧縮室115側に移動する。その結果、所定の吐出圧力まで増大した冷媒ガスの漏れを、ストレート部129をテーパ状にした場合よりも低減した圧縮を行う。
以上は、圧縮行程の初期において、ピストン123がほぼシャフト113と同様に傾斜し、円筒形孔部117内の上方のテーパ部127に沿って摺動した場合について説明した。しかし、ピストン123とシャフト113の傾斜が異なった場合でも、少なくともピストン123はテーパ部127のいずれかの部位に沿って傾斜すると考えられる。そのため、同様にピストン123の傾斜方向が反転してそれまでテーパ部127と摺動していなかった外周面133側が異なるテーパ部127と摺動するように挙動すると推察する。
以上が、推測を交えたピストン123の挙動の説明である。また、図5A、図5B〜図8A、図8Bで説明したピストン123の挙動に注目しつつテーパ部127の設計諸元を変えて実験を行った。その結果、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触したことを連想させるタイミング範囲(以下、このタイミングの範囲を回転角度θ1と称する)を圧縮行程の初期としてテーパ部127を設計した方が、上記タイミング範囲を圧縮行程の中期以降としてテーパ部127を設計するよりも、騒音が小さいとの実験結果を得ている。
その原因として、圧縮室115内のガス圧が高く圧縮荷重が大きい圧縮行程の中期以降の場合は、シャフト113の傾斜方向が反転する速度、またはピストン123の傾斜方向の反転する速度が大きいために、ピストン123の外周面133がテーパ部127に接触する際の接触、衝突が厳しくなると推察する。
以上の結果および推察から、圧縮行程の初期に、ピストン123の傾斜方向が円筒形孔部117の軸心に対して反転するように形成されていれば、圧縮行程の中期以降にピストン123の傾斜方向が反転する時よりも、反転時におけるピストン123と円筒形孔部117との接触を緩和することができ、低騒音化につながる。
さらに、圧縮行程の初期に、ピストン123の傾斜方向が円筒形孔部117の軸心に対して反転するように形成するためには、ピストン123の外周面133aがテーパ部127に沿って圧縮室115側に移動した際に、テーパ部127と摺動していないピストン123の外周面133bの先端エッジ部135が、外周面133が摺動していないテーパ部127に接触するように、テーパ部127や圧縮要素107を設計すればよい。
なお、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触することなくピストン123の傾斜方向が反転する可能性も有り、その場合でも、圧縮行程の初期であれば同様に低騒音化の効果が得られると考えられる。
そこで、圧縮行程の初期にピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触する設計の一つとして、本実施の形態においては、テーパ部127に隣接してピストン123の圧縮室115側の上端部に対応する円筒形孔部117の部位に、内径寸法方向に一定であるストレート部129を備えている。
このストレート部129を備えるため、所定の吐出圧力まで増大した冷媒ガスの漏れを、ストレート部129をテーパ状にした場合よりも低減することができることは上述した通りである。
詳細に説明すると、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するのは、ピストン123の外径D2寸法と圧縮室115の最小の内径寸法(本実施例ではストレート部129の内径寸法D1)との差が小さくなったタイミングである。したがって、幾何学的に接触する部位は、ストレート部129近傍のテーパ部127ということになる。
そのため、ストレート部129を設けることで、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングが早くなり、圧縮行程の初期とすることができる。
ストレート部129の軸方向長さを長くすれば、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングをより早くすることが可能だが、その分テーパ部127の軸方向長さが短くなり、テーパ部127での摺動抵抗を低減する効果が減ることになる。
そのため、ストレート部129を設け、圧縮室115内の冷媒ガスの漏れを低減しつつ、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングを圧縮行程の初期とする作用と、ストレート部129の軸方向長さを抑制してテーパ部127の軸方向長さを確保し、テーパ部127での摺動抵抗を低減する、この相反する作用を両立させる必要がある。
そこで、圧縮行程の初期にピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングに注目し、圧縮室115の軸心とテーパ部127とのなす角度αや、その他の圧縮要素107の設計諸元について検討を試みた。
その結果、圧縮要素107の設計諸元をパラメータとしかつ主軸部109の回転角度θを圧縮行程の初期であるπ〜4π/3(rad)の範囲として上記(数1)で表される諸元値γと、上記テーパ部127の角度αとが、上記(数2)を満足する関係となるように、テーパ部127の角度αと、圧縮要素107の各設計諸元を決定すれば良いことがわかった。
上記設計諸元の設計範囲内で、ストレート部129の軸方向長さやテーパ部127の角度αなどの設計値を適宜設計することで、より優れた性能を有する密閉型圧縮機とすることができる。
上記設計諸元の一例の実験結果を、図9に示す。図9において、実線91は本発明の設計諸元による騒音のレベルを示し、点線92は従来の設計諸元による騒音のレベルを示している。また、実線93は本発明の設計諸元による回転角度θ1の範囲を示し、点線94は従来の設計諸元による回転角度θ1の範囲を示している。本実験結果は、円筒形孔部117の内径寸法D1を約22.01mm、ピストン123の外径寸法D2を約22mm(D1>D2)、主摺動面寸法L2を約13mm、偏心量eを10mmとし、設計諸元の一つであるストレート部129の長さL1を約4mm、8mm、10mm(回転角度θ約190°、約210°約225°)等に設定し、騒音値を測定した結果である。その結果、本実験における角度αは、0.03°〜0.05°の範囲であった。ただし、この範囲に多少の公差が含まれることはいうまでもない。
この結果から、円筒形孔部117、ピストン123等の設計諸元を設定し、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングを、圧縮作用が始まる約180°(圧縮工程の初期)から圧縮工程の中期の約240°の間として設定することにより、騒音特性の改善が期待できる。
換言すると、図9において、従来は、設計に当たり設計諸元が圧縮工程の中期を越える広範囲に亘っての検討となり、騒音レベルの高い諸元も含まれていたが、本実施の形態においては、上述の(数1)を用いて諸元値γを定義し、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングをπ〜4π/3(rad)に設定する設計諸元とすることで、騒音特性を改善した設計が期待できるため、設計検討を合理的に行うことができ、設計の容易化が期待できる。
さらに、上述の(数1)、(数2)で定義した設計の圧縮機は、ピストン123の傾斜方向が円筒形孔部117の軸心に対して反転して、それまでテーパ部127と摺動していなかった外周面133b側がテーパ部127と摺動するように挙動する際に、テーパ部127に接触するピストン123の外周面133の軸方向長さが短くても、シャフト113の上端より密閉容器103内の全周方向へ水平に飛散された潤滑油101が十分に供給されている構成となる。
そのため、ピストン123の外周面133に十分に供給された潤滑油101がピストン123の外周面133とテーパ部127との接触を緩和することができ、高効率化と低騒音化を実現することができる。
さらに、ピストン123の外周に給油溝131を凹状に設け、その給油溝131が、ピストン123の下死点近傍で密閉容器103内と連通するように、円筒形孔部117の周壁の一部を切り欠き、切り欠き部120を形成した構成としている。
かかる構成により、シャフト113の偏心軸部111に設けた給油孔128aの上端より密閉容器103内の全周方向へ飛散された潤滑油101を給油溝131で保持し、円筒形孔部117内のテーパ部127やストレート部129まで十分に供給することができる。そのため、潤滑油101によるシール効果が得られ、冷媒ガスの漏れを低減することができる。これとともに、ピストン123の外周面133に十分に供給された潤滑油101がピストン123の外周面133とテーパ部127との接触を緩和することができ、高効率化と低騒音化を実現することができる。
なお、本実施の形態において、偏心軸部111とピストン123の連結機構をコンロッド125としたが、ボールジョイント等の可動部を有する連結機構を用いることで本実施例と同様の効果を得ることができる。
(実施の形態2)
本実施の形態は、実施の形態1と比べ、軸受部119と圧縮室115の配置が異なっている。その他の構成は、実施の形態1と同じである。したがって、本実施の形態では、実施の形態1と異なる構成を主体に説明する。
図10は、本実施の形態における圧縮部の設計諸元を示す要部縦断面図である。図11は、同実施の形態における圧縮部の設計諸元を示す要部横断面図である。
図10、図11に示すように、本実施の形態では、軸受部119の軸心を示す第1の中心線141に平行な第3の中心線142と、圧縮室115の軸心を示す第2の中心線143とが互いに交差するように、軸受部119および圧縮室115が配置されている。なお、図11においては、第1の中心線141と第3の中心線142は、図11が横断面図であるので、点で表されている。
すなわち、本実施の形態では、第1の中心線141を通り第2の中心線143と平行なオフセット線144と第2の中心線143との距離(以下、オフセット距離と称す)はsである。したがって、圧縮室115に対して軸受部119がオフセット配置されている。実施の形態1はこのオフセットがない状態である。
図10に示す本実施の形態の場合、シャフト113の回転方向は、図1の上方から見て時計回り方向である。したがって、軸受部119と圧縮室115のオフセット配置は、シリンダブロック121とピストン123との摺動損失の低減する役割を担っている。オフセット距離sは、本実施の形態においては設計諸元の一つであり、実施の形態1の設計諸元に加えられるもので、具体的には、1から4mmの範囲で設計しており、冷蔵庫用の密閉型圧縮機としては2mmとしている。
本実施の形態においても、圧縮室115の軸心とテーパ部127のなす角度αは、実施の形態1で説明した(数2)で定義される。
すなわち、角度αは、円筒形孔部117の内径寸法D1、ピストン123の外径寸法D2、ストレート部129の長さL1、実施の形態1で定義した主摺動面寸法L2、偏心量e、主軸部109の回転角度θ、オフセット距離sを設計諸元として設定される。
さらに詳述すると、円筒形孔部117の内径寸法D1とピストン123の外径寸法D2の差(D1−D2)の諸元数値3/2を、ピストン123の上死点位置を零(ゼロ)としたときの上死点側のピストン先端の座標位置{L1−L2+2A}で割った諸元値γに、0.4から2.0の範囲の係数を掛け合わせた範囲内に設定している。
なお、Aは、軸受部119と圧縮室115のオフセット配置を採用した構成であることに伴い、上述のピストン先端の座標位置に補正を加える必要があることから、計算式の簡略化を目的に用いた代入式である。
具体的には、(数4)に示す如く、偏心量eにオフセット距離sを考慮した計算式となる。
また、諸元数値3/2は、実施の形態1と同様に、円筒形孔部117内におけるピストン123の先端位置の端部座標を求める際に前述の設計諸元(値)から導き出された数値である。
換言すると、本実施の形態では、圧縮室115に対して軸受部119をオフセット配置しているため、角度αは、(数3)で表される諸元値γを基調とする実施の形態1で説明した(数2)で定義される。
γ={3(D1−D2)/2}/{L1−L2+2A} (数3)
A=√{(e2(1−cosθ)2−s2} (数4)
以上のように、本実施の形態では、軸受部119が圧縮室115に対してオフセット配置されている。そのため、実施の形態1の効果に加え、シリンダブロック121とピストン123との摺動損失の低減を図ることができる。
以上説明してきたように、本発明は、潤滑油を貯留した密閉容器内に、電動要素と、電動要素によって駆動される圧縮要素とが収容され、圧縮要素は、電動要素によって回転駆動される主軸部および主軸部と一体運動するように形成された偏心軸部を有するシャフトと、圧縮室を形成する円筒形孔部および主軸部を軸支する軸受部を有するシリンダブロックと、円筒形孔部に往復動可能に挿設されたピストンと、偏心軸部とピストンとを連結する連結機構とを備え、円筒形孔部は、ピストンが上死点に位置する側から下死点に位置する側に向かって内径寸法が増大するように形成されたテーパ部を有し、ピストンは、圧縮行程の初期に、傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する構成を有する。
かかる構成により、ピストンと円筒形孔部との摺動抵抗を軽減することができる。すなわち、ピストンと円筒形孔部との摺動損失を低く抑えることができる。さらに、これに加えて、圧縮行程の初期では、ピストンの圧縮室側の端面に作用する圧縮荷重が小さいために、反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する荷重を低減することができる。したがって、圧縮行程の中期以降にピストンの傾斜方向が反転する時よりも、反転時におけるピストンとテーパ部との接触を緩和することができる。すなわち、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する際の接触を緩和することができる。その結果、摺動損失の抑制をはかることができ、高効率化と低騒音化を達成することができる。
また、本発明は、ピストンは、圧縮室側の先端エッジ部がテーパ部に接触することを起点として、傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する構成を有する。
かかる構成により、ピストンの圧縮室側の先端エッジ部がテーパ部に接触した場合、接触を起点として円筒形孔部の軸心に対する前記ピストンの傾斜方向が反転する可能性が高くなる。しかしながら、その場合においても、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を緩和することができる。したがって、さらに、高効率化と低騒音化を実現することができる。
また、本発明は、円筒形孔部は、ピストンが上死点近傍に位置するとき、テーパ部に隣接してピストンの圧縮室側の上端部に対応する部位に、内径寸法が軸心方向に一定であるストレート部を有する構成を有する。
かかる構成により、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転するタイミングが早くなり、圧縮行程の中期以降ではなく、ピストンの圧縮室側の端面に作用する圧縮荷重が小さい圧縮行程の初期に反転が発生する。そのため、さらに反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する荷重を低減することができる。したがって、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を緩和することができ、さらに、高効率化と低騒音化を実現することができる。さらに、圧縮行程で上死点側に移行する途中の状態までは、冷媒ガスの漏れはほとんど発生せず、ピストンの摺動抵抗も小さくなる。さらに、圧縮行程が進みピストンが上死点位置に近接する状態では、全長にわたってテーパ部を形成する場合よりも、冷媒ガスの圧縮圧力の増大に伴う冷媒ガスの漏れを低減することができる。そのため、さらに、高い冷凍能力を得ることができる。
また、本発明は、ストレート部の軸方向長さをL1とし、圧縮室の最小の内径寸法をD1とし、ピストンの外径寸法をD2とし、主軸部に対する偏心軸部の偏心量をeとし、連結機構とピストンとの連結中心からピストンの圧縮室側端面までの距離をL2とし、ピストンが上死点に位置する時の主軸部の回転角度を零(ゼロ)として主軸部の任意の回転角度をθとし、圧縮室の軸心とテーパ部のなす角度をαとしたときに、角度αは、設計諸元である円筒形孔部の内径寸法D1、ピストンの外径寸法D2、ストレート部の長さL1、主摺動面寸法L2、偏心量e、回転角度θに基づいた(数1)で表される諸元値γを定義し、この諸元値γを基調とする(数2)で定義される。
かかる構成により、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を緩和することができるよう、具体的にピストンの挙動に係わる密閉型圧縮機の設計諸元を決定することができる。したがって、さらに、ピストンの傾斜方向が反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を圧縮行程の中期以降に反転する時よりも緩和することができる。
例えば、ピストンの傾斜方向が反転する主軸部の回転角度θを設定し、円筒形孔部の内径寸法D1、ピストンの外径寸法D2、ストレート部の長さL1、主摺動面寸法L2、偏心量eの設計値を設定することで、圧縮室の軸心とテーパ部のなす角度αを決定するといった具体的な設計をすることができる。
また、本発明は、ピストンが、下死点に位置するとき、少なくともピストンの下端部は円筒形孔部から露出するように形成され、主軸部の回転度θは、π〜4π/3(rad)の範囲である構成を有する。
かかる構成により、ピストンが下死点に戻ったときにその下端部が円筒形孔部から露出するので、多くの潤滑油が供給されるとともに保持され、ピストンと円筒形孔部との摺動損失を低減することができる。したがって、さらに、高効率化を実現することができる。さらに、ピストンの傾斜方向が反転して、反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する際に、テーパ部に接触するピストンの外周面の軸方向長さが短くても十分な潤滑油が供給されている。そのため、潤滑油がピストンの外周面とテーパ部との接触を緩和することができ、さらに、高効率化と低騒音化を実現することができる。
また、本発明は、ピストンは、外周面に給油溝を凹状に設けられ、給油溝はピストンの下死点近傍で前記密閉容器内と連通する構成を有する。
かかる構成により、円筒形孔部内に十分な潤滑油を供給できるので、潤滑油によるシール効果が得られ、冷媒ガスの漏れを低減することができる。これとともに、摺動部を潤滑することができ、さらに、冷凍能力が高く、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することができる。さらに、ピストンの傾斜方向が反転して、反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する際に、テーパ部に接触するピストンの外周面の軸方向長さが短くても十分な潤滑油が供給されている。そのため、潤滑油がピストンの外周面とテーパ部との接触を緩和し、またピストンの外周面とテーパ部とのシール性を確保することから、さらに、高効率化と低騒音化を実現することができる。
また、本発明は、軸受部および圧縮室が、軸受部の軸心を示す第1の中心線に平行な第3の中心線と圧縮室の軸心を示す第2の中心線とが互いに交差するように配置された構成を有する。
かかる構成により、ピストンと円筒形孔部との摺動抵抗を軽減することができる。すなわち、ピストンと円筒形孔部との摺動損失を低く抑えることができる。さらに、これに加えて、圧縮行程の初期では、ピストンの圧縮室側の端面に作用する圧縮荷重が小さいために、反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する荷重を低減することができる。したがって、圧縮行程の中期以降にピストンの傾斜方向が反転する時よりも、反転時におけるピストンとテーパ部との接触を緩和することができる。すなわち、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する際の接触を緩和することができる。これによって、高効率化と低騒音化を達成することができる。さらに、軸受部と圧縮室のオフセット配置により、シリンダブロックとピストンとの摺動損失を低減することができる。
また、本発明は、ストレート部の軸方向長さをL1とし、圧縮室の最小の内径寸法をD1とし、ピストンの外径寸法をD2とし、主軸部に対する偏心軸部の偏心量をeとし、連結機構とピストンとの連結中心からピストンの圧縮室側端面までの距離をL2とし、ピストンが上死点に位置する時の主軸部の回転角度を零(ゼロ)として主軸部の任意の回転角度をθとし、オフセット距離(第1の中心線と第3の中心線の距離)をsとし、圧縮室の軸心とテーパ部のなす角度をαとしたときに、角度αを、設計諸元である円筒形孔部の内径寸法D1、ピストンの外径寸法D2、ストレート部の長さL1、主摺動面寸法L2、偏心量e、回転角度θ、オフセット距離sに基づいた(数3)で表される諸元値γを基調とする(数2)で定義した構成である。
かかる構成により、軸受部と圧縮室がオフセット配置であっても、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を緩和することができるよう、具体的にピストンの挙動に係わる密閉型圧縮機の設計諸元を決定することができる。したがって、さらに、ピストンの傾斜方向が反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を圧縮行程の中期以降に反転する時よりも緩和することができる密閉型圧縮機を具体的に設計することができる。例えば、ピストンの傾斜方向が反転する主軸部の回転角度θを設定し、円筒形孔部の内径寸法D1、ピストンの外径寸法D2、ストレート部の長さL1、主摺動面寸法(ピストンピンの中心からピストンの圧縮室側端面までの距離)L2、偏心量e、オフセット距離sの設計値を設定することで、圧縮室の軸心とテーパ部のなす角度αを決定するといった具体的な設計をすることができる。
また、本発明は、ピストンは、下死点に位置するとき、少なくともピストンの下端部は円筒形孔部から露出するように形成され、主軸部の回転角度θは、π〜4π/3(rad)の範囲である構成を有する。
かかる構成により、軸受部と圧縮室がオフセット配置であっても、ピストンが下死点に戻ったときにその下端部が円筒形孔部から露出するので、多くの潤滑油が供給されるとともに保持され、ピストンと円筒形孔部との摺動損失を低減することができる。したがって、さらに、高効率化を実現することができる。さらに、ピストンの傾斜方向が反転して、反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する際に、テーパ部に接触するピストンの外周面の軸方向長さが短くても十分な潤滑油が供給されている。そのため、潤滑油がピストンの外周面とテーパ部との接触を緩和することができ、さらに、高効率化と低騒音化を実現することができる。
以上のように、本発明の密閉型圧縮機は、ピストンの摺動損失を低減し、入力を下げ、高い効率を得るとともに、衝突を緩和して低騒音とすることができる。したがって、家庭用冷蔵庫および、除湿機やショーケース、自販機等、冷凍サイクルを用いたあらゆる用途にも適用することができる。
101 潤滑油
103 密閉容器
105 電動要素
105a 固定子
105b 回転子
107 圧縮要素
109 主軸部
111 偏心軸部
113 シャフト
115 圧縮室
117 円筒形孔部
119 軸受部
120 切り欠き部
121 シリンダブロック
123 ピストン
125 コンロッド
127 テーパ部
128 給油通路
128a 給油孔
129 ストレート部
131 給油溝
133,133a,133b 外周面
134 圧縮側端面
135 先端エッジ部
136 ピストンピン
137 バランスウエイト
139 バルブプレート
141 第1の中心線
142 第3の中心線
143 第2の中心線
144 オフセット線
本発明は、冷凍冷蔵庫などの冷凍サイクルに用いられる密閉型圧縮機に関する。
圧縮機構にレシプロ式を採用した従来の密閉型圧縮機が、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された密閉型圧縮機は、内径が円筒形の圧縮室を形成するシリンダと、このシリンダ内を往復運動する外径が円筒形のピストンと、このピストンに、ピストンピンを介して、シャフトの偏心軸部を連結するコンロッドとを備えている。さらに、電動機部の回転子の軸心にシャフトを固定し、回転子の回転により圧縮機構を作動させる。
一般に、このような密閉型圧縮機では、シリンダの内径と往復運動するピストンの外径とが摺動するための隙間が必要である。この隙間が大きいものでは圧縮室内で圧縮された高温、高圧の冷媒ガスの漏れが発生して圧縮効率が低下する。逆に、この隙間を小さくすると摺動損失が増加して圧縮効率が低下する。
そこで、特許文献1に開示された密閉型圧縮機は、ピストンが上死点に位置する側から下死点に位置する側に向かって内径寸法が増大するようなテーパ形成されたシリンダを用いた構造を提案している。
図面を参照しながら上記従来技術の密閉型圧縮機について説明する。図12A、図12Bは特許文献1に開示された密閉型圧縮機の圧縮部の縦断面図である。図12Aはピストンが下死点にある状態を示し、図12Bはピストンが上死点にある状態をそれぞれ示している。
図12A、図12Bにおいて、シリンダブロック14に設けた円筒形孔部16内に往復動可能に挿設されたピストン23には、ピストンピン25を介して、コンロッド26が連結されている。シャフト(図示せず)の偏心軸部の偏心運動により、コンロッド26はピストン23を図12Aに示す下死点位置と図12Bに示す上死点位置とで往復するように駆動する。
コンロッド26から見て円筒形孔部16の反対側(図の右側)の端面に図示省略のバルブプレートが装着されている。ピストン23、円筒形孔部16及びバルブプレートにより圧縮室15が形成されている。
円筒形孔部16は、ピストン23が上死点に位置する側から下死点に位置する側に向かって、内径寸法がDtからDb(>Dt)に増加するテーパ部17を持つように形成されている。ピストン23は、全長にわたって外径寸法が同一に形成されている。
このような構成により、ピストン23の外周面が図12Aに示す下死点位置から、冷媒ガスを圧縮する圧縮行程でテーパ部17に沿って上死点側に移行する途中の状態までは、圧縮室15内の圧力はそれほど上昇しない。そのため、隙間は比較的大きくても潤滑油によるシール効果で冷媒ガスの漏れはほとんど発生せず、ピストン23の摺動抵抗も小さい。
さらに圧縮行程が進み、圧縮室15内の冷媒ガスの圧力が次第に上昇してピストン23が図12Bに示す上死点位置に近接する状態では、圧縮室15内の圧力は所定の吐出圧力まで上昇して冷媒ガスの漏れが発生しやすい条件となる。しかし、上死点側では隙間が小さくなることから潤滑油によるシール効果が得られ、冷媒ガスの漏れを低減することができる。
しかしながら、上記従来の構成では、圧縮行程において、ピストン23の圧縮室15側の先端エッジ部30がテーパ部17に接触して、先端エッジ部30を起点に円筒形孔部16の軸心に対するピストン23の傾斜方向が反転する。その結果、反転前にテーパ部17と摺動していなかった側のピストン23の外周面がテーパ部17に接触し、摺動状態が厳しくなったり、反転時の接触が激しい場合には接触音が発生したりする可能性があった。
本発明は、従来の課題を解決するもので、圧縮行程の初期に、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する。これにより、圧縮行程の中期以降にピストンの傾斜方向が反転する時よりも、反転時におけるピストンとテーパ部との接触を緩和するように形成し、騒音を低減した密閉型圧縮機を提供するものである。
本発明は、潤滑油を貯留した密閉容器内に、電動要素と、電動要素によって駆動される圧縮要素とが収容されている。圧縮要素は、電動要素によって回転駆動される主軸部および主軸部と一体運動するように形成された偏心軸部を有するシャフトと、圧縮室を形成する円筒形孔部および主軸部を軸支する軸受部を有するシリンダブロックと、円筒形孔部に往復動可能に挿設されたピストンと、偏心軸部とピストンとを連結する連結機構とを備えている。円筒形孔部は、ピストンが上死点に位置する側から下死点に位置する側に向かって内径寸法が増大するように形成されたテーパ部を有し、ピストンは、圧縮行程の初期に、傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する構成を有する。
かかる構成により、ピストンと円筒形孔部との摺動抵抗を軽減することができる。すなわち、ピストンと円筒形孔部との摺動損失を低く抑えることができる。さらに、これに加えて、圧縮行程の初期では、ピストンの圧縮室側の端面に作用する圧縮荷重が小さいために、反転時にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する荷重を低減することができる。したがって、圧縮行程の中期以降にピストンの傾斜方向が反転する時よりも、ピストンとテーパ部との接触を緩和することができる。これによって、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する際の接触を緩和することができ、低騒音化を達成することができる。
本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の縦断面図
同実施の形態における密閉型圧縮機の圧縮部の要部縦断面図
同実施の形態における密閉型圧縮機の圧縮部の設計諸元を示す要部縦断面図
同実施の形態における密閉型圧縮機の圧縮部の設計諸元を示す要部横断面図
同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図
同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図
同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図
同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図
同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図
同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図
同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図
同実施の形態の密閉型圧縮機の圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図
同実施の形態の密閉型圧縮機における設計諸元の一例によって得られた回転角と騒音の関係を表す特性図
本発明の実施の形態2における密閉型圧縮機の圧縮部の設計諸元を示す要部縦断面図
同実施の形態における密閉型圧縮機の圧縮部の設計諸元を示す要部横断面図
従来の密閉型圧縮機の圧縮部の縦断面図
従来の密閉型圧縮機の圧縮部の縦断面図
以下、本発明による密閉型圧縮機の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の縦断面図である。図2は、同実施の形態における圧縮部の要部縦断面図である。図3は、同実施の形態における圧縮部の設計諸元を示す要部縦断面図である。図4は、同実施の形態における圧縮部の設計諸元を示す要部横断面図である。
図1から図4において、密閉容器103内には、固定子105aおよび回転子105bを備えた電動要素105と、電動要素105によって駆動される圧縮要素107とが収容されている。さらに、密閉容器103内の底部に潤滑油101が貯留されている。シャフト113は、主軸部109と、この主軸部109と一体運動するようにその一端に偏心して形成された偏心軸部111とを有している。主軸部109が回転子105bの軸心に固定されている。
軸受部119は、シャフト113の主軸部109における偏心軸部111側の端部を軸支することによって片持ち軸受を形成している。
主軸部109に対する偏心重量である、偏心軸部111の荷重や偏心軸部111に作用する圧縮室115の冷媒ガスの圧力荷重に対して、回転のバランスをとるために、主軸部109と偏心軸部111との間に、偏心軸部111の偏心方向と反対方向に偏心したバランスウエイト137を設けている。
シリンダブロック121は、互いに一定の位置に固定されるように配置された略円筒形の円筒形孔部117と、軸受部119とを有している。円筒形孔部117内にはピストン123が往復動可能に挿設されている。
連結機構であるコンロッド125の一端は偏心軸部111に連結され、その他端はピストンピン136を介して、ピストン123に連結されている。シャフト113の内部や外周面には給油通路128が設けられている。この給油通路128は、一端(上端)が偏心軸部111の内部に設けられた給油孔128aに連通している。また、主軸部109の偏心軸部111とは反対側の端部、すなわち下端部は、給油通路128が、潤滑油101の所定の深さまで浸入するように延出している。
円筒形孔部117の端面にはバルブプレート139が設けられている。円筒形孔部117は、ピストン123およびバルブプレート139とともに圧縮室115を形成するようにシリンダブロック121に設けられている。円筒形孔部117には、図3に示すように、ピストン123が上死点に位置する側から下死点に位置する側に向かって、内径寸法がD1からD3(>D1)に増加するテーパ部127が形成されている。さらに、上死点に達したピストン123の圧縮室115側の端部に対応する位置に、軸方向長さL1の区間だけ内径寸法が軸方向に一定であるストレート部129が形成されている。ピストン123は全長にわたって同一の外径寸法D2に形成されている。
シリンダブロック121の円筒形孔部117は、図3に示すように、ピストン123が下死点に位置する状態で、このピストン123の反圧縮室115側が密閉容器103内に露出するように形成されている。
さらに、ピストン123の外周面133の圧縮室115側には、略環状(環状も含む)の給油溝131が凹状に設けられている。ピストン123が下死点に位置する状態で、この給油溝131の少なくとも一部が円筒形孔部117から露出して密閉容器103に連通するように、円筒形孔部117の周壁の一部が切り欠かれた切り欠き部120を形成している。
ここで、ピストン123の外径寸法をD2とし、主軸部109に対する偏心軸部111の偏心量をeとする。コンロッド125とピストン123との連結中心、すなわちピストンピン136の中心からピストン123の圧縮室側端面134までの距離(以下、主摺動面寸法と称す)をL2とする。ピストン123が上死点に位置する時の主軸部109の回転角度を零(ゼロ)として主軸部109の任意の回転角度をθとする。圧縮室115の軸心とテーパ部127のなす角度をαとする。
上記の円筒形孔部117の内径寸法D1、ピストン123の外径寸法D2、ストレート部129の長さL1、主摺動面寸法L2、偏心量e、回転角度θは、円筒形孔部117内におけるピストン123の挙動をシミュレートする場合において、円筒形孔部117内におけるピストン123の先端位置の端部座標を求めるための設計諸元である。
このように各設計諸元を選択したとき、テーパ部127のなす角度αは、円筒形孔部117の内径寸法D1とピストン123の外径寸法D2の差(D1−D2)の諸元数値3/2を、ピストン123の上死点位置を零としたときの上死点側のピストン先端の座標位置{L1−L2+2e(1−cosθ)}で割った値(以下、諸元値と称す)γに、0.4から2.0の範囲の係数を掛け合わせた範囲内に設定している。
なお、諸元数値3/2は、円筒形孔部117内におけるピストン123の先端位置の端部座標を求める際に前述の設計諸元(値)から導き出された数値である。
換言すると、本実施の形態では、角度αは、始めに上記した設計諸元である円筒形孔部117の内径寸法D1、ピストン123の外径寸法D2、ストレート部129の長さL1、主摺動面寸法L2、偏心量e、回転角度θに基づいた(数1)で表される諸元値γを定義し、この諸元値γを基調とする(数2)で定義される。
その際、主軸部109の回転角度θは、圧縮行程の初期の回転角度として、π〜4π/3(rad)の範囲としている。
γ={3(D1−D2)/2}/{L1−L2+2e(1−cosθ)} (数1)
0.4γ≦tan(α)≦2.0γ、 α>0 (数2)
なお、諸元値γの係数(本実施の形態では0.4と2.0)は、テーパ部127の加工公差などを鑑みて適宜定めた値であり、シリンダブロック121の材質などに応じて設定すればよい。
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下にその動作を説明する。まず、円筒形孔部117のテーパ部127とストレート部129におけるシール効果と摺動抵抗について説明する。
電動要素105の回転子105bはシャフト113を回転させ、偏心軸部111の回転運動が、コンロッド125を介してピストン123に伝えられる。これによって、ピストン123は円筒形孔部117内を往復運動する。ピストン123の往復運動により、図示省略の冷却システムから冷媒ガスが圧縮室115内へ吸入され、圧縮された後、再び冷却システムに吐き出される。
給油通路128の下端部は、シャフト113の回転によりポンプ作用をするようになっている。このポンプ作用により、密閉容器103の底部の潤滑油101は、給油通路128を通って、上方に汲み上げられ、給油孔128aに到達する。その結果、給油孔128aに到達した潤滑油101は、シャフト113の上端より密閉容器103内の全周方向へ水平に飛散し、ピストンピン136やピストン123などに供給されて潤滑を行う。
ピストン123が図3に示す下死点位置から、冷媒ガスを圧縮する圧縮行程で上死点側に移動する途中の状態までは、圧縮室115内の圧力はそれほど上昇しない。したがって、ピストン123の外周面133とテーパ部127との隙間が比較的大きくても潤滑油101によるシール効果で冷媒ガスの漏れはほとんど発生せず、ピストン123の摺動抵抗も小さい。
さらに圧縮行程が進み、圧縮室115内の冷媒ガスの圧力が次第に上昇してピストン123が上死点の近傍位置に達する直前では、圧縮室115内の圧力は急激に上昇する。しかし、上死点側ではピストン123の外周面133とテーパ部127との隙間が小さくなることから冷媒ガスの漏れの発生を低減することができる。このとき、ストレート部129は、所定の吐出圧力まで増大した冷媒ガスの漏れを、このストレート部129をテーパ状にした場合よりも低減するように作用する。
また、ピストン123が下死点に位置する状態で、このピストン123のコンロッド125側がシリンダブロック121から露出するように形成されている。そのため、シャフト113の上端から飛散された潤滑油101がピストン123の外周面133に潤沢に供給されるとともに、保持される。
さらに、ピストン123が下死点に位置する状態で、ピストン123の外周面133の圧縮室115側に凹設された略環状の給油溝131の少なくとも一部が、切り欠き部120を介して円筒形孔部117から露出するように形成されている。そのため、シャフト113の上端から飛散された潤滑油101が給油溝131に潤沢に供給されるとともに、保持される。
これによって、圧縮行程でシリンダブロック121の円筒形孔部117の内周面とピストン123の外周面133との隙間に供給される潤滑油101も多くなる。
また、略環状の給油溝131は円筒形孔部117のストレート部129と対向する位置まで可動するため、摺動抵抗が最も大きくなるストレート部129に対して潤滑油101が運ばれやすくなっている。
以上の結果、シリンダブロック121とピストン123との摺動部により多くの潤滑油101が供給されるとともに、その潤滑油101が良好に保持される。さらに、ピストン123が上死点位置に近接した状態での摺動抵抗を軽減することができ、これによって高効率化を達成することができる。
次に、本実施の形態におけるピストン123の挙動を説明する模式図である図5A、図5B〜図8A、図8Bを参照しながら、圧縮行程におけるピストン123の挙動について説明する。
図5A、図5B〜図8A、図8Bは、圧縮行程におけるピストン123の挙動を順に示す模式図である。図5A〜図8Aは圧縮室115の側面を示す模式図である。図5B〜図8Bは、シャフト113の側面を示す模式図である。図5A、図5B〜図7A、図7Bは圧縮行程の初期の状態を示し、図8A、図8Bは圧縮行程の後期の状態をそれぞれ示している。図9は、本実施の形態の密閉型圧縮機において、設計諸元の一例によって得られた回転角と騒音の関係を表す特性図である。
本実施の形態の密閉型圧縮機は、軸受部119がシャフト113の主軸部109における偏心軸部111側の端部を軸支する片持ち軸受を形成している。そのため、シャフト113は主軸部109と軸受部119のクリアランス内で傾く。しかもその方向や傾斜角度は運転条件などによっても変わる複雑な挙動であることが知られている。
これは、特に、圧縮室115内の圧力荷重やピストン123とコンロッド125の慣性力などの複雑な力の影響を受けるためである。従って、図5B〜図8Bに示すシャフト113の傾斜を示した模式図は、出願人が推定して描いたものである。
まず、圧縮行程の初期について説明する。圧縮行程の初期においても、シャフト113がどのように傾斜しているかは明確ではない。しかし、上述した通り、シャフト113の傾斜挙動は複雑であり、それに伴ってピストン123も複雑に挙動すると考えられる。
しかし、ピストン123が下死点近傍にある圧縮行程の初期においては、ピストン123は円筒形孔部117内のテーパ部127の範囲内に位置している。そのため、ピストン123は僅かな力で簡単に傾斜することができるので、通常はテーパ部127のいずれかの内壁面に沿って摺動していると考えられる。
ここでは、ピストン123がほぼシャフト113と同様に傾斜し、円筒形孔部117内の上方のテーパ部127に沿って摺動した場合について説明する。
ピストン123の外周面133のうち上方の外周面133aが円筒形孔部117内の上方のテーパ部127と摺動しながら圧縮室115側に移動すると、図6A,図6Bに示すように、外周面133のうちテーパ部127と摺動していないピストン123の外周面133b側の先端エッジ部135が、外周面133bと対向しているテーパ部127に接触する。
このとき、発明者らの実験では、図7A、図7Bに示すように、ピストン123の傾斜方向が円筒形孔部117の軸心に対して反転し、その結果、それまでテーパ部127と摺動していなかった外周面133b側がテーパ部127と摺動するように挙動することを連想させる結果を得ている。
推察ではあるが、テーパ部127と摺動していないピストン123の外周面133b側の先端エッジ部135がテーパ部127に接触したことを起点に、シャフト113が大きく反圧縮室115側に傾斜し、ピストン123の傾斜方向が円筒形孔部117の軸心に対して反転した可能性もあると考えている。
いずれにしても、さらに圧縮行程が進み、圧縮行程の中期以降では、圧縮室115内の冷媒ガスの圧力が大きくなると、冷媒ガスの圧縮荷重をシャフト113の偏心軸部111に対して片持ち軸受の主軸部109のみで軸支する。そのため、図8A、図8Bに示すように、シャフト113は主軸部109と軸受部119のクリアランス内で傾き、方向を変えながらも大きくは反圧縮室115側に傾斜している。
このとき、ピストン123は、その軸心が円筒形孔部117内のストレート部129の軸心とほぼ一致するように傾斜が修正されてさらに圧縮室115側に移動する。その結果、所定の吐出圧力まで増大した冷媒ガスの漏れを、ストレート部129をテーパ状にした場合よりも低減した圧縮を行う。
以上は、圧縮行程の初期において、ピストン123がほぼシャフト113と同様に傾斜し、円筒形孔部117内の上方のテーパ部127に沿って摺動した場合について説明した。しかし、ピストン123とシャフト113の傾斜が異なった場合でも、少なくともピストン123はテーパ部127のいずれかの部位に沿って傾斜すると考えられる。そのため、同様にピストン123の傾斜方向が反転してそれまでテーパ部127と摺動していなかった外周面133側が異なるテーパ部127と摺動するように挙動すると推察する。
以上が、推測を交えたピストン123の挙動の説明である。また、図5A、図5B〜図8A、図8Bで説明したピストン123の挙動に注目しつつテーパ部127の設計諸元を変えて実験を行った。その結果、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触したことを連想させるタイミング範囲(以下、このタイミングの範囲を回転角度θ1と称する)を圧縮行程の初期としてテーパ部127を設計した方が、上記タイミング範囲を圧縮行程の中期以降としてテーパ部127を設計するよりも、騒音が小さいとの実験結果を得ている。
その原因として、圧縮室115内のガス圧が高く圧縮荷重が大きい圧縮行程の中期以降の場合は、シャフト113の傾斜方向が反転する速度、またはピストン123の傾斜方向の反転する速度が大きいために、ピストン123の外周面133がテーパ部127に接触する際の接触、衝突が厳しくなると推察する。
以上の結果および推察から、圧縮行程の初期に、ピストン123の傾斜方向が円筒形孔部117の軸心に対して反転するように形成されていれば、圧縮行程の中期以降にピストン123の傾斜方向が反転する時よりも、反転時におけるピストン123と円筒形孔部117との接触を緩和することができ、低騒音化につながる。
さらに、圧縮行程の初期に、ピストン123の傾斜方向が円筒形孔部117の軸心に対して反転するように形成するためには、ピストン123の外周面133aがテーパ部127に沿って圧縮室115側に移動した際に、テーパ部127と摺動していないピストン123の外周面133bの先端エッジ部135が、外周面133が摺動していないテーパ部127に接触するように、テーパ部127や圧縮要素107を設計すればよい。
なお、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触することなくピストン123の傾斜方向が反転する可能性も有り、その場合でも、圧縮行程の初期であれば同様に低騒音化の効果が得られると考えられる。
そこで、圧縮行程の初期にピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触する設計の一つとして、本実施の形態においては、テーパ部127に隣接してピストン123の圧縮室115側の上端部に対応する円筒形孔部117の部位に、内径寸法方向に一定であるストレート部129を備えている。
このストレート部129を備えるため、所定の吐出圧力まで増大した冷媒ガスの漏れを、ストレート部129をテーパ状にした場合よりも低減することができることは上述した通りである。
詳細に説明すると、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するのは、ピストン123の外径D2寸法と圧縮室115の最小の内径寸法(本実施例ではストレート部129の内径寸法D1)との差が小さくなったタイミングである。したがって、幾何学的に接触する部位は、ストレート部129近傍のテーパ部127ということになる。
そのため、ストレート部129を設けることで、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングが早くなり、圧縮行程の初期とすることができる。
ストレート部129の軸方向長さを長くすれば、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングをより早くすることが可能だが、その分テーパ部127の軸方向長さが短くなり、テーパ部127での摺動抵抗を低減する効果が減ることになる。
そのため、ストレート部129を設け、圧縮室115内の冷媒ガスの漏れを低減しつつ、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングを圧縮行程の初期とする作用と、ストレート部129の軸方向長さを抑制してテーパ部127の軸方向長さを確保し、テーパ部127での摺動抵抗を低減する、この相反する作用を両立させる必要がある。
そこで、圧縮行程の初期にピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングに注目し、圧縮室115の軸心とテーパ部127とのなす角度αや、その他の圧縮要素107の設計諸元について検討を試みた。
その結果、圧縮要素107の設計諸元をパラメータとしかつ主軸部109の回転角度θを圧縮行程の初期であるπ〜4π/3(rad)の範囲として上記(数1)で表される諸元値γと、上記テーパ部127の角度αとが、上記(数2)を満足する関係となるように、テーパ部127の角度αと、圧縮要素107の各設計諸元を決定すれば良いことがわかった。
上記設計諸元の設計範囲内で、ストレート部129の軸方向長さやテーパ部127の角度αなどの設計値を適宜設計することで、より優れた性能を有する密閉型圧縮機とすることができる。
上記設計諸元の一例の実験結果を、図9に示す。図9において、実線91は本発明の設計諸元による騒音のレベルを示し、点線92は従来の設計諸元による騒音のレベルを示している。また、実線93は本発明の設計諸元による回転角度θ1の範囲を示し、点線94は従来の設計諸元による回転角度θ1の範囲を示している。本実験結果は、円筒形孔部117の内径寸法D1を約22.01mm、ピストン123の外径寸法D2を約22mm(D1>D2)、主摺動面寸法L2を約13mm、偏心量eを10mmとし、設計諸元の一つであるストレート部129の長さL1を約4mm、8mm、10mm(回転角度θ約190°、約210°約225°)等に設定し、騒音値を測定した結果である。その結果、本実験における角度αは、0.03°〜0.05°の範囲であった。ただし、この範囲に多少の公差が含まれることはいうまでもない。
この結果から、円筒形孔部117、ピストン123等の設計諸元を設定し、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングを、圧縮作用が始まる約180°(圧縮工程の初期)から圧縮工程の中期の約240°の間として設定することにより、騒音特性の改善が期待できる。
換言すると、図9において、従来は、設計に当たり設計諸元が圧縮工程の中期を越える広範囲に亘っての検討となり、騒音レベルの高い諸元も含まれていたが、本実施の形態においては、上述の(数1)を用いて諸元値γを定義し、ピストン123の先端エッジ部135がテーパ部127に接触するタイミングをπ〜4π/3(rad)に設定する設計諸元とすることで、騒音特性を改善した設計が期待できるため、設計検討を合理的に行うことができ、設計の容易化が期待できる。
さらに、上述の(数1)、(数2)で定義した設計の圧縮機は、ピストン123の傾斜方向が円筒形孔部117の軸心に対して反転して、それまでテーパ部127と摺動していなかった外周面133b側がテーパ部127と摺動するように挙動する際に、テーパ部127に接触するピストン123の外周面133の軸方向長さが短くても、シャフト113の上端より密閉容器103内の全周方向へ水平に飛散された潤滑油101が十分に供給されている構成となる。
そのため、ピストン123の外周面133に十分に供給された潤滑油101がピストン123の外周面133とテーパ部127との接触を緩和することができ、高効率化と低騒音化を実現することができる。
さらに、ピストン123の外周に給油溝131を凹状に設け、その給油溝131が、ピストン123の下死点近傍で密閉容器103内と連通するように、円筒形孔部117の周壁の一部を切り欠き、切り欠き部120を形成した構成としている。
かかる構成により、シャフト113の偏心軸部111に設けた給油孔128aの上端より密閉容器103内の全周方向へ飛散された潤滑油101を給油溝131で保持し、円筒形孔部117内のテーパ部127やストレート部129まで十分に供給することができる。そのため、潤滑油101によるシール効果が得られ、冷媒ガスの漏れを低減することができる。これとともに、ピストン123の外周面133に十分に供給された潤滑油101がピストン123の外周面133とテーパ部127との接触を緩和することができ、高効率化と低騒音化を実現することができる。
なお、本実施の形態において、偏心軸部111とピストン123の連結機構をコンロッド125としたが、ボールジョイント等の可動部を有する連結機構を用いることで本実施例と同様の効果を得ることができる。
(実施の形態2)
本実施の形態は、実施の形態1と比べ、軸受部119と圧縮室115の配置が異なっている。その他の構成は、実施の形態1と同じである。したがって、本実施の形態では、実施の形態1と異なる構成を主体に説明する。
図10は、本実施の形態における圧縮部の設計諸元を示す要部縦断面図である。図11は、同実施の形態における圧縮部の設計諸元を示す要部横断面図である。
図10、図11に示すように、本実施の形態では、軸受部119の軸心を示す第1の中心線141に平行な第3の中心線142と、圧縮室115の軸心を示す第2の中心線143とが互いに交差するように、軸受部119および圧縮室115が配置されている。なお、図11においては、第1の中心線141と第3の中心線142は、図11が横断面図であるので、点で表されている。
すなわち、本実施の形態では、第1の中心線141を通り第2の中心線143と平行なオフセット線144と第2の中心線143との距離(以下、オフセット距離と称す)はsである。したがって、圧縮室115に対して軸受部119がオフセット配置されている。実施の形態1はこのオフセットがない状態である。
図10に示す本実施の形態の場合、シャフト113の回転方向は、図1の上方から見て時計回り方向である。したがって、軸受部119と圧縮室115のオフセット配置は、シリンダブロック121とピストン123との摺動損失の低減する役割を担っている。オフセット距離sは、本実施の形態においては設計諸元の一つであり、実施の形態1の設計諸元に加えられるもので、具体的には、1から4mmの範囲で設計しており、冷蔵庫用の密閉型圧縮機としては2mmとしている。
本実施の形態においても、圧縮室115の軸心とテーパ部127のなす角度αは、実施の形態1で説明した(数2)で定義される。
すなわち、角度αは、円筒形孔部117の内径寸法D1、ピストン123の外径寸法D2、ストレート部129の長さL1、実施の形態1で定義した主摺動面寸法L2、偏心量e、主軸部109の回転角度θ、オフセット距離sを設計諸元として設定される。
さらに詳述すると、円筒形孔部117の内径寸法D1とピストン123の外径寸法D2の差(D1−D2)の諸元数値3/2を、ピストン123の上死点位置を零(ゼロ)としたときの上死点側のピストン先端の座標位置{L1−L2+2A}で割った諸元値γに、0.4から2.0の範囲の係数を掛け合わせた範囲内に設定している。
なお、Aは、軸受部119と圧縮室115のオフセット配置を採用した構成であることに伴い、上述のピストン先端の座標位置に補正を加える必要があることから、計算式の簡略化を目的に用いた代入式である。
具体的には、(数4)に示す如く、偏心量eにオフセット距離sを考慮した計算式となる。
また、諸元数値3/2は、実施の形態1と同様に、円筒形孔部117内におけるピストン123の先端位置の端部座標を求める際に前述の設計諸元(値)から導き出された数値である。
換言すると、本実施の形態では、圧縮室115に対して軸受部119をオフセット配置しているため、角度αは、(数3)で表される諸元値γを基調とする実施の形態1で説明した(数2)で定義される。
γ={3(D1−D2)/2}/{L1−L2+2A} (数3)
A=√{(e2(1−cosθ)2−s2} (数4)
以上のように、本実施の形態では、軸受部119が圧縮室115に対してオフセット配置されている。そのため、実施の形態1の効果に加え、シリンダブロック121とピストン123との摺動損失の低減を図ることができる。
以上説明してきたように、本発明は、潤滑油を貯留した密閉容器内に、電動要素と、電動要素によって駆動される圧縮要素とが収容され、圧縮要素は、電動要素によって回転駆動される主軸部および主軸部と一体運動するように形成された偏心軸部を有するシャフトと、圧縮室を形成する円筒形孔部および主軸部を軸支する軸受部を有するシリンダブロックと、円筒形孔部に往復動可能に挿設されたピストンと、偏心軸部とピストンとを連結する連結機構とを備え、円筒形孔部は、ピストンが上死点に位置する側から下死点に位置する側に向かって内径寸法が増大するように形成されたテーパ部を有し、ピストンは、圧縮行程の初期に、傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する構成を有する。
かかる構成により、ピストンと円筒形孔部との摺動抵抗を軽減することができる。すなわち、ピストンと円筒形孔部との摺動損失を低く抑えることができる。さらに、これに加えて、圧縮行程の初期では、ピストンの圧縮室側の端面に作用する圧縮荷重が小さいために、反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する荷重を低減することができる。したがって、圧縮行程の中期以降にピストンの傾斜方向が反転する時よりも、反転時におけるピストンとテーパ部との接触を緩和することができる。すなわち、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する際の接触を緩和することができる。その結果、摺動損失の抑制をはかることができ、高効率化と低騒音化を達成することができる。
また、本発明は、ピストンは、圧縮室側の先端エッジ部がテーパ部に接触することを起点として、傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する構成を有する。
かかる構成により、ピストンの圧縮室側の先端エッジ部がテーパ部に接触した場合、接触を起点として円筒形孔部の軸心に対する前記ピストンの傾斜方向が反転する可能性が高くなる。しかしながら、その場合においても、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を緩和することができる。したがって、さらに、高効率化と低騒音化を実現することができる。
また、本発明は、円筒形孔部は、ピストンが上死点近傍に位置するとき、テーパ部に隣接してピストンの圧縮室側の上端部に対応する部位に、内径寸法が軸心方向に一定であるストレート部を有する構成を有する。
かかる構成により、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転するタイミングが早くなり、圧縮行程の中期以降ではなく、ピストンの圧縮室側の端面に作用する圧縮荷重が小さい圧縮行程の初期に反転が発生する。そのため、さらに反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する荷重を低減することができる。したがって、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を緩和することができ、さらに、高効率化と低騒音化を実現することができる。さらに、圧縮行程で上死点側に移行する途中の状態までは、冷媒ガスの漏れはほとんど発生せず、ピストンの摺動抵抗も小さくなる。さらに、圧縮行程が進みピストンが上死点位置に近接する状態では、全長にわたってテーパ部を形成する場合よりも、冷媒ガスの圧縮圧力の増大に伴う冷媒ガスの漏れを低減することができる。そのため、さらに、高い冷凍能力を得ることができる。
また、本発明は、ストレート部の軸方向長さをL1とし、圧縮室の最小の内径寸法をD1とし、ピストンの外径寸法をD2とし、主軸部に対する偏心軸部の偏心量をeとし、連結機構とピストンとの連結中心からピストンの圧縮室側端面までの距離をL2とし、ピストンが上死点に位置する時の主軸部の回転角度を零(ゼロ)として主軸部の任意の回転角度をθとし、圧縮室の軸心とテーパ部のなす角度をαとしたときに、角度αは、設計諸元である円筒形孔部の内径寸法D1、ピストンの外径寸法D2、ストレート部の長さL1、主摺動面寸法L2、偏心量e、回転角度θに基づいた(数1)で表される諸元値γを定義し、この諸元値γを基調とする(数2)で定義される。
かかる構成により、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を緩和することができるよう、具体的にピストンの挙動に係わる密閉型圧縮機の設計諸元を決定することができる。したがって、さらに、ピストンの傾斜方向が反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を圧縮行程の中期以降に反転する時よりも緩和することができる。
例えば、ピストンの傾斜方向が反転する主軸部の回転角度θを設定し、円筒形孔部の内径寸法D1、ピストンの外径寸法D2、ストレート部の長さL1、主摺動面寸法L2、偏心量eの設計値を設定することで、圧縮室の軸心とテーパ部のなす角度αを決定するといった具体的な設計をすることができる。
また、本発明は、ピストンが、下死点に位置するとき、少なくともピストンの下端部は円筒形孔部から露出するように形成され、主軸部の回転度θは、π〜4π/3(rad)の範囲である構成を有する。
かかる構成により、ピストンが下死点に戻ったときにその下端部が円筒形孔部から露出するので、多くの潤滑油が供給されるとともに保持され、ピストンと円筒形孔部との摺動損失を低減することができる。したがって、さらに、高効率化を実現することができる。さらに、ピストンの傾斜方向が反転して、反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する際に、テーパ部に接触するピストンの外周面の軸方向長さが短くても十分な潤滑油が供給されている。そのため、潤滑油がピストンの外周面とテーパ部との接触を緩和することができ、さらに、高効率化と低騒音化を実現することができる。
また、本発明は、ピストンは、外周面に給油溝を凹状に設けられ、給油溝はピストンの下死点近傍で前記密閉容器内と連通する構成を有する。
かかる構成により、円筒形孔部内に十分な潤滑油を供給できるので、潤滑油によるシール効果が得られ、冷媒ガスの漏れを低減することができる。これとともに、摺動部を潤滑することができ、さらに、冷凍能力が高く、信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することができる。さらに、ピストンの傾斜方向が反転して、反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する際に、テーパ部に接触するピストンの外周面の軸方向長さが短くても十分な潤滑油が供給されている。そのため、潤滑油がピストンの外周面とテーパ部との接触を緩和し、またピストンの外周面とテーパ部とのシール性を確保することから、さらに、高効率化と低騒音化を実現することができる。
また、本発明は、軸受部および圧縮室が、軸受部の軸心を示す第1の中心線に平行な第3の中心線と圧縮室の軸心を示す第2の中心線とが互いに交差するように配置された構成を有する。
かかる構成により、ピストンと円筒形孔部との摺動抵抗を軽減することができる。すなわち、ピストンと円筒形孔部との摺動損失を低く抑えることができる。さらに、これに加えて、圧縮行程の初期では、ピストンの圧縮室側の端面に作用する圧縮荷重が小さいために、反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する荷重を低減することができる。したがって、圧縮行程の中期以降にピストンの傾斜方向が反転する時よりも、反転時におけるピストンとテーパ部との接触を緩和することができる。すなわち、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転する際の接触を緩和することができる。これによって、高効率化と低騒音化を達成することができる。さらに、軸受部と圧縮室のオフセット配置により、シリンダブロックとピストンとの摺動損失を低減することができる。
また、本発明は、ストレート部の軸方向長さをL1とし、圧縮室の最小の内径寸法をD1とし、ピストンの外径寸法をD2とし、主軸部に対する偏心軸部の偏心量をeとし、連結機構とピストンとの連結中心からピストンの圧縮室側端面までの距離をL2とし、ピストンが上死点に位置する時の主軸部の回転角度を零(ゼロ)として主軸部の任意の回転角度をθとし、オフセット距離(第1の中心線と第3の中心線の距離)をsとし、圧縮室の軸心とテーパ部のなす角度をαとしたときに、角度αを、設計諸元である円筒形孔部の内径寸法D1、ピストンの外径寸法D2、ストレート部の長さL1、主摺動面寸法L2、偏心量e、回転角度θ、オフセット距離sに基づいた(数3)で表される諸元値γを基調とする(数2)で定義した構成である。
かかる構成により、軸受部と圧縮室がオフセット配置であっても、ピストンの傾斜方向が円筒形孔部の軸心に対して反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を緩和することができるよう、具体的にピストンの挙動に係わる密閉型圧縮機の設計諸元を決定することができる。したがって、さらに、ピストンの傾斜方向が反転してピストンの外周面がテーパ部に接触する際の接触を圧縮行程の中期以降に反転する時よりも緩和することができる密閉型圧縮機を具体的に設計することができる。例えば、ピストンの傾斜方向が反転する主軸部の回転角度θを設定し、円筒形孔部の内径寸法D1、ピストンの外径寸法D2、ストレート部の長さL1、主摺動面寸法(ピストンピンの中心からピストンの圧縮室側端面までの距離)L2、偏心量e、オフセット距離sの設計値を設定することで、圧縮室の軸心とテーパ部のなす角度αを決定するといった具体的な設計をすることができる。
また、本発明は、ピストンは、下死点に位置するとき、少なくともピストンの下端部は円筒形孔部から露出するように形成され、主軸部の回転角度θは、π〜4π/3(rad)の範囲である構成を有する。
かかる構成により、軸受部と圧縮室がオフセット配置であっても、ピストンが下死点に戻ったときにその下端部が円筒形孔部から露出するので、多くの潤滑油が供給されるとともに保持され、ピストンと円筒形孔部との摺動損失を低減することができる。したがって、さらに、高効率化を実現することができる。さらに、ピストンの傾斜方向が反転して、反転前にテーパ部と摺動していなかった側のピストンの外周面がテーパ部に接触する際に、テーパ部に接触するピストンの外周面の軸方向長さが短くても十分な潤滑油が供給されている。そのため、潤滑油がピストンの外周面とテーパ部との接触を緩和することができ、さらに、高効率化と低騒音化を実現することができる。
以上のように、本発明の密閉型圧縮機は、ピストンの摺動損失を低減し、入力を下げ、高い効率を得るとともに、衝突を緩和して低騒音とすることができる。したがって、家庭用冷蔵庫および、除湿機やショーケース、自販機等、冷凍サイクルを用いたあらゆる用途にも適用することができる。
101 潤滑油
103 密閉容器
105 電動要素
105a 固定子
105b 回転子
107 圧縮要素
109 主軸部
111 偏心軸部
113 シャフト
115 圧縮室
117 円筒形孔部
119 軸受部
120 切り欠き部
121 シリンダブロック
123 ピストン
125 コンロッド
127 テーパ部
128 給油通路
128a 給油孔
129 ストレート部
131 給油溝
133,133a,133b 外周面
134 圧縮側端面
135 先端エッジ部
136 ピストンピン
137 バランスウエイト
139 バルブプレート
141 第1の中心線
142 第3の中心線
143 第2の中心線
144 オフセット線