JPWO2010016485A1 - 金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体とその製造方法 - Google Patents

金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体とその製造方法 Download PDF

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Abstract

金属合金と脂肪族ポリアミド樹脂の成形品を強固に接合した複合体とその製造方法を提供する。金属合金の表面に、(1)輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を生じさせ、(2)且つ、その粗度を有する面内に、5〜500nm周期の超微細凹凸を形成し、(3)且つ、表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とする。この金属合金を射出成形金型にインサートして、その表面に、樹脂分中にPA66を56質量%、PA610を44質量%含み、ガラス繊維を充填したポリアミド樹脂組成物を射出する。射出されたポリアミド樹脂組成物は超微細凹凸に侵入した後に固化することによって金属合金とポリアミド樹脂組成物の成形品が強固に接合される。

Description

本発明は、電子機器の筐体、家電機器の筐体、機械部品等に用いられ、特に各種金属合金とポリアミド樹脂組成物が強く接合した複合体とその製造方法に関する。更に詳しくは、金属合金を表面処理し、当該表面にポリアミド樹脂を主な樹脂分として含む熱可塑性樹脂組成物を射出成形することにより得られる金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体と、その製造方法に関する。
本発明者等は、予め射出成形金型内にインサートしていた金属部品に、溶融したエンジニアリング樹脂を射出して樹脂部分を成形すると同時に、その成形品と金属部品とを接合する方法(以下、略称して「射出接合」という。)を開発した。特許文献1には、アルミニウム合金に対し、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT」という。)を射出接合させる技術、特許文献2には、アルミニウム合金に対し、ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、「PPS」という。)を射出接合させる技術を開示している。、特許文献1及び特許文献2における射出接合の原理を簡単に説明すると以下のとおりである。アルミニウム合金を水溶性アミン系化合物の希薄水溶液に浸漬させ、アルミニウム合金を水溶液の弱い塩基性によって微細にエッチングさせるとともに、アルミニウム合金表面へのアミン系化合物分子の吸着を同時に起こさせる。この処理がなされたアルミニウム合金を射出成形金型にインサートし、溶融した熱可塑性樹脂を高圧で射出する。
このとき、熱可塑性樹脂と、アルミニウム合金表面に吸着していたアミン系化合物分子が遭遇することで発熱する。この発熱とほぼ同時に、この熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂の溶融温度より低温の金型温度に保たれたアルミニウム合金に接して急冷される。このとき、結晶化しつつ固化しようとする樹脂は、発熱により溶融状態を維持して固化が遅れて上記エッチングにより形成されたアルミニウム合金面上の超微細な凹部にも潜り込むことになる。このことにより、冷却後の樹脂はアルミニウム合金表面の凹部にはまり込み固化するので、樹脂がアルミニウム合金表面から剥がれにくく、アルミニウム合金と熱可塑性樹脂は強固に接合する。即ち、発熱反応が生じることで樹脂が凹部へ侵入し、結果として強固な射出接合が可能となる。実際、アミン系化合物と発熱反応できるPBTやPPSがアルミニウム合金と強固に射出接合することを確認している。
金属と樹脂を接合させる技術として、上記の他、アルミニウム材の陽極酸化皮膜に大きめの穴を設け、この穴に合成樹脂体を食い込ませ接着させる接合技術も開示されている(例えば、特許文献3を参照)。又、予め金属部品の表面をケミカルエッチングし、次に金属部品を射出成形機の金型にインサートして熱可塑性樹脂材料を用いて射出成形する技術もよく知られている(例えば、特許文献4を参照)。この特許文献4の技術と本発明者らによる特許文献1及び2に係る発明の相違点については後述する。
さて、前述の特許文献1及び2で示した原理は、アルミニウム合金等においては非常に大きな効果を示すが、アルミニウム合金以外の金属への射出接合に対しては効果がない。本発明者らはアルミニウム合金への硬質樹脂の射出接合に関して開発改良を進める過程で新技術を開発した。即ち、アミン系化合物の金属表面への化学吸着なしに、要するに特段の発熱反応や何らかの特異な化学反応の助力を得ることなしに、射出接合が可能な条件を確立した。
上記射出接合を可能にするための樹脂側の条件は、硬い高結晶性樹脂を使用すること、即ちPPS、PBT及び芳香族ポリアミド樹脂を使用することである。しかもこれらを射出接合に合わせて改良した樹脂組成物にすることである。一方、金属合金側の条件は、金型にインサートする金属部品の表面が、樹脂が侵入可能な超微細凹凸形状となっており、且つ表層が硬いことである。
例えば、金属合金として、マグネシウム合金を使用する場合、自然酸化層で覆われたままのマグネシウム合金では耐食性が低いので、これを化成処理や電解酸化処理をして表層を金属酸化物、金属炭酸化物、又は金属リン酸化物にすることで、高硬度のセラミックス質の表層とすることができる。これらの処理を行った表層を有するマグネシウム合金は、前記金属合金側の条件に合致する表面硬度となっている。このように表面処理されたマグネシウム合金を射出成形金型にインサートした場合には以下のようになる。
金型及びインサートしたマグネシウム合金は射出する樹脂の融点より百数十℃以上低い温度に保たれているので、射出された樹脂は金型内の流路に入った途端に急冷されマグネシウム合金に接近した時点で樹脂融点以下になっている可能性が高い。どのような結晶性樹脂でも溶融状態から急速に冷却されて融点以下になった場合、ゼロ時間で結晶化、固化するわけでなく、僅かな時間ではあるが融点以下の溶融状態、即ち、過冷却状態の時間がある。金属合金の表面に形成された凹部の径が数百nm程度であり、比較的大きい場合、過冷却から微結晶が生じる限られた時間内に樹脂が凹部に侵入することが可能である。言い換えると、生じた高分子微結晶群の数密度がまだ小さい段階では、数百nm径の大きな凹部なら樹脂は侵入することができるといえる。不規則に運動していた分子鎖から分子鎖に何らかの整列状態が生じたときの形を有する微結晶の大きさは、分子モデルから推定すると数nm〜10nmの大きさとみられるからである。
それ故、微結晶は20〜30nm径の超微細凹部に対し簡単に侵入できるとは言えないが、数百nm径程度の凹部なら侵入できると判断される。但し、微結晶は同時発生的に無数に生じる。そして、射出樹脂の先端や金型金属面に接している箇所では温度低下があるので樹脂流の粘度が急上昇する。従って、100nm径程度の凹部の場合、凹部奥底まで侵入できないこともあるが、かなり内部まで侵入してから結晶化が進み固化するので、それ相当の接合力が生じることになる。このとき、マグネシウム合金の表面が、金属酸化物等のセラミックス質の微結晶群やアモルファス層等の硬い丈夫な表層であり、前述したようにnmオーダー(好ましくは100nm以上)径の超微細凹凸形状となっていれば、凹部内での樹脂の引っかかりが強くなり、固化した樹脂は凹部から抜けにくく、接合力は向上することになる。
本発明では前記した樹脂側の条件、即ち射出する樹脂組成物を硬い高結晶性樹脂とする改良が非常に重要な要素である。樹脂組成物は射出成形されたとき、溶融状態から融点以下の温度に急冷されて結晶化し固化せんとするが、結晶化する速度を遅くさせた樹脂組成物であれば、凹部の奥まで侵入しやすいので、より強力な接合力を生むことができるのである。
本発明者らは、上記理論に基づき、前述のようにマグネシウム合金を化学エッチングし、さらに化成処理等の表面処理によって表層をセラミックス質化することで、これに硬質の結晶性樹脂を射出接合させる技術を提案している(特許文献5)。このことは、アミン系化合物の化学吸着がなくとも、即ち、熱可塑性樹脂とアミン系化合物分子の遭遇による発熱が生じない場合でも射出接合が可能なことを実証したことになる。即ち、各種金属合金について同様な表面形状、表面の物性とすることで、射出接合用に改良したPBTやPPSを使用して射出接合できることを示すものである。
ここで上記特許文献4に記載された技術について説明する。この技術は、化学エッチングした銅線を射出成形金型にインサートしてPPS等を射出し、PPS製円盤状物の中心部を銅線数本が突き抜けた形状のリード線付き電池蓋を作成する方法について記載している。化学エッチングによる銅線の表面凹凸(粗度)により、リード線と樹脂の界面における気密性が確保され、電池内圧が上がってもガスがリード線の周囲から漏れないということが特徴として記載されている。
この特許文献4に記載された技術は本発明者らが主張する射出接合技術ではなく、通常の射出成形の延長線上の技術であり、単に金属の線膨張率と樹脂の成形収縮率の関係を利用した技術である。金属製棒状物の周囲部に樹脂を射出成形した場合、成形品を金型から離型し放冷すると金属製棒状物は樹脂成形品部から締め付けられる。これは、以下の理由による。金属の線膨張率は大きくても1.7〜2.5×10−5−1であり(アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金等)、金型から取り出されて室温まで冷えたとしても線膨張率×100℃程度であって、その縮み具合は0.2〜0.3%に過ぎない。しかし一方の樹脂類は成形収縮率がPPSで1%程度、硝子繊維入りPPSで0.5%もあり、フィラーを増やした樹脂であっても、射出成形後は金属と比較して、より縮むのである。
従って、中心部に金属部品があって、その周囲を樹脂部で覆っている形状品、即ち金属部品が樹脂部を突き抜けている形状品を射出成形で製作すれば、樹脂部の成形収縮による締め付け効果で金属部品が樹脂部から抜け難い一体化品を製造することができる。このような締め付け型の金属と樹脂の一体化品の製造方法は従来から知られている方法であり、類似成形品として石油ストーブの取手がある。この取手は、φ2mm程度の鉄製の太い針金を射出成形金型にインサートし、これに耐熱性樹脂等を射出して製造されている。針金にはギザギザのキズ(例えば、ローレット加工)を入れて樹脂が移動しないようにしている。
特許文献4は、金属表面の凹凸加工を従来の物理的加工法から化学的加工法に代え、且つ凹凸具合をやや微細にしたこと、及び樹脂側に硬質でしかも結晶性のある樹脂を多用してグリップする効果を上げたのが特徴である。これに対し、本発明者らが開示した一連の射出接合に関する技術では樹脂の抱き付き効果は全く必要としない。平板形状の金属合金及び熱可塑性樹脂組成物が接合した形状品において、破壊に要する力は数十MPaであり、非常に強固な接合力を示した。
本発明者等は、マグネシウム合金に熱可塑性樹脂組成物を射出接合し、その複合体が数十MPaのせん断破断力、引っ張り破断力を示すための条件を明らかにした(特許文献5)。さらに、その条件を、銅合金(特許文献6)、チタン合金(特許文献7)、及びステンレス鋼(特許文献8)に対しても適用し、その有効性を実証した。
これらの発明は全て本発明者らによる。本発明者らは、アルミニウム合金に関する接合理論を「NMT」理論と称し、金属合金全般の射出接合に関しては「新NMT」理論と称している。より広く使用できる「新NMT」の理論を以下詳細に述べる。即ち、極めて強い接合力を発揮する射出接合を行うために、金属合金側と射出樹脂側の双方に各々条件があり、まず金属合金側については以下に示す3条件が必要である。
[新NMT理論での金属合金側の条件]
第1の条件は、金属合金表面が、化学エッチング手法によって1〜10μm周期の凹凸で、その凹凸高低差がその周期の半分程度まで、即ち0.5〜5μmまでの粗い粗面になっていることである。ただし、実際には、前記粗面で正確に全表面を覆うことはバラツキがあり、一定しない化学反応では難しく、具体的には、粗度計で見た場合に0.2〜20μm範囲の不定期な周期の凹凸で、且つその最大高低差が0.2〜5μmの範囲である粗度曲線が描けることを要する。また、最新型のダイナミックモード型の走査型プローブ顕微鏡で金属合金表面を走査したときには、RSmが0.8〜10μmであり、Rzが0.2〜5μmである粗度面であれば前述した粗度条件を実質的に満たしたものとしている。ここでRSmは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される輪郭曲線要素の平均長さであり、Rzは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される最大高さである。本発明者等は、理想とする粗面の凹凸周期が前述したように、ほぼ1〜10μmであるので、分かり易い言葉として「ミクロンオーダーの粗度を有する表面」と称した。
第2の条件は、上記ミクロンオーダーの粗度を有する金属合金表面に、さらに5nm周期以上の超微細凹凸が形成されていることである。言い換えると、ミクロの目で見てザラザラ面であることを要する。当該条件を具備するために、上記金属合金表面に、微細エッチングを行い、前述のミクロンオーダーの粗度をなす凹部内壁面に5〜500nm、好ましくは10〜300nm、より好ましくは30〜100nm(最適値は50〜70nm)周期の超微細凹凸を形成する。
この超微細凹凸について述べると、その凹凸周期が10nm以下の周期であると樹脂分の進入が明らかに難しくなる。また、この場合には通常、凹凸高低差も小さくなるので、樹脂側から見て円滑面となる。その結果、スパイクの役目を為さなくなる。又、周期が300〜500nm程度又はこれよりよりも大きな周期なら(その場合、ミクロンオーダーの粗度をなす凹部の直径や周期は10μm近くになると推定される)、ミクロンオーダーの凹部内でのスパイクの数が激減するので効果が効き難くなる。よって、原則としては、超微細凹凸の周期が10〜300nmの範囲であることを要する。しかしながら、超微細凹凸の形状によっては、5nm〜10nm周期のものでも、樹脂がその間に侵入する場合がある。例えば、5〜10nm直径の棒状結晶が錯綜している場合等がこれに該当する。また、300nm〜500nm周期のものでも、超微細凹凸の形状がアンカー効果を生じやすい場合がある。例えば、高さ及び奥行きが数百〜500nmで、幅が数百〜数千nmの階段が無限に連続したパーライト構造のような形状がこれに該当する。このような場合も含め、要求される超微細凹凸の周期を5nm〜500nmと規定した。
ここで、従来は上記第1の条件に関して、RSmの範囲を1〜10μm、Rzの範囲を0.5〜5μmと規定していたが、RSmが0.8〜1μm、Rzが0.2〜0.5μmの範囲であっても、超微細凹凸の凹凸周期が、特に好ましい範囲(概ね30〜100nm)に有れば、接合力が高く維持できる。それ故に、RSmの範囲を小さい方にやや広げることとした。即ち、RSmが0.8〜10μm、Rzが0.2〜5μmの範囲とした。
さらに、第3の条件は、上記金属合金の表層がセラミック質であることである。具体的には、元来耐食性のある金属合金種に関しては、その表層が自然酸化層レベルかそれ以上の厚さの金属酸化物層であることを要し、耐食性が比較的低い金属合金種(例えばマグネシウム合金や一般鋼材等)では、その表層が化成処理等によって生成した金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であることが第3の条件となる。
但し、アルミニウム合金を対象としたNMT理論においては、上記第1の条件〜第3の条件を具備するものに限られない。これら第1の条件〜第3の条件に代えて、アルミニウム合金表面が20〜80nm周期の超微細凹凸で覆われたものであり、且つ、その表面にアミン系化合物が化学吸着しているというの条件を満たしたものでもよい。
[樹脂側の条件]
一方、前記表面処理を施した各種金属合金の表面に強い力で射出接合できる樹脂組成物は、前述のようにPBT、PPSに各々異種の高分子をコンパウンドして改良した樹脂組成物と、芳香族ポリアミドを含むポリアミド樹脂混合物の樹脂組成物である(特許文献5〜8)。又、金属合金と熱可塑性樹脂の接合状態を長期間安定的に維持するには両者の線膨張率が近いことが必要である。熱可塑性樹脂組成物の線膨張率はガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維を、即ち充填剤を大量に含有させることでかなり低くすることができ、その限界は(2〜3)×10−5−1である。常温付近でこの数値に近い金属はアルミニウム、マグネシウム、銅、銀であり、鋼材やチタン合金等は更に線膨張率が小さい。それでも樹脂側の線膨張率を小さくすることは両者間の線膨張率の差異を小さくして接合力の長期維持に効果的であるから、充填材の添加は重要である。
WO03/064150 A1(PBT) WO2004/041532 A1(PPS) WO2004−055248 A1 特開2001−225352号公報 WO2008/069252 A1(Mg) WO2008/047811 A1(Cu) WO2008/078714 A1(Ti) WO2008/081933 A1(SUS)
本発明者らは金属合金との射出接合に使用可能な樹脂として、前述のようにPBT及びPPSと、芳香族ポリアミドを含むポリアミド樹脂混合物の系を既に開示している。しかしながら、金属合金との射出接合に使用する樹脂としては、必ずしもポリアミド樹脂自体は適したものとはいえない。エンジニアリングプラスチックとして扱いやすい脂肪族ポリアミド樹脂(いわゆるナイロン樹脂)のポリアミド6(以下「PA6」と呼ぶ)、ポリアミド66(以下「PA66」と呼ぶ)等の安価で汎用性のあるポリアミド樹脂は、前記したアルミニウム合金に一応射出接合するが、その接合力は弱いものであったからである。エンジニアリングプラスチックとして適している脂肪族ポリアミド樹脂を金属合金に射出成形して得られる複合体が強力な接合力を示し、かつその接合力が維持できるのであれば、上記脂肪族ポリアミド樹脂の汎用性、コスト性により広範な技術分野に応用することができる。
本発明は以上のような技術背景もとになされたものであり、次の目的を達成する。本発明の目的は、脂肪族ポリアミド樹脂を主な樹脂分として含むポリアミド樹脂組成物と金属合金とが射出成形によって強固に一体化した複合体、及びその製造技術を提供することにある。
また、電子機器メーカーでは、環境問題の先取りとして電子機器の内部部品等に、耐熱性があって且つハロゲンフリーの樹脂を使用したいとの要望がある。しかし、最も接合力が高く、かつ安定しているPPSは、元々ジクロルベンゼンから合成されるので、完全なハロゲンフリーとすることは非常に困難である。それに加えて、PPS等の従来の射出接合用樹脂は、線膨張率を金属並みに近づけるためにガラス繊維等のフィラーを30〜50%含めたものにする必要があった。それ故、例えば射出接合で電子機器のシャーシーを作成し、樹脂組成物の成形品を機器内部側のネジ止めボスとした場合、大量の無機フィラーを含む硬いネジ止めボスとなる故に、特殊ネジの使用が必要となった。通常の木ネジ型のネジを締め込むとボスが割れるからである。
これに対して、紫外線を吸収し易い芳香族ポリアミド樹脂を全く含まない脂肪族ポリアミド樹脂は、難燃剤を使用する場合であってもハロゲンフリーのものが使用でき、その調整が容易である。加えて迅性があってネジ止めボス等に使用し易い脂肪族ポリアミド樹脂の使用は需要側の要請に合っている。また、脂肪族ポリアミド樹脂は柔軟性があるため、ネジ止めボスとした場合、フィラーを多少含んでいても通常の木ネジ型のネジが締め込める。
本発明は以上のような技術背景もとに問題点を解決するために開発されたもので、次の目的を達成する。本発明の目的は、金属合金に対して射出成形されることで強力に接合し、樹脂分が全て脂肪族ポリアミド樹脂であるポリアミド樹脂組成物を提供すると共に、そのポリアミド樹脂組成物と金属合金との複合体、及びその製造技術を提供することにある。
本発明は、脂肪族ポリアミド樹脂としてポリアミド610樹脂(以下「PA610」と呼ぶ。)を選択して、これを樹脂分として含むポリアミド樹脂組成物を射出成形用樹脂として用いた。これにより、金属合金との強固な射出接合が可能となった。PA610を含んだポリアミド樹脂組成物のうち接合力が最大となったのは、PA610を樹脂分の45質量%、PA66又はPA6を55質量%含むものであった。
また、過去に行った実験では、単一の樹脂(即ちPBT樹脂のみ、PPS樹脂のみ、又は芳香族ポリアミド樹脂のみ)のみからなる樹脂組成物を、表面処理したアルミニウム合金に射出成形しても、20MPa以上のせん断破断力を示すことは無かった。しかしながら、本発明においては、PA610のみを樹脂分とする樹脂組成物でも20MPa以上のせん断破断力を示した。PA610を樹脂分の45質量%、PA66を55質量%コンパウンドした樹脂組成物では、25〜30MPaのせん断破断力を示すことが確認されたが、PA610の単純組成(樹脂分の100質量%)としてもこれに近いせん断破断力を示したのである。後述する実験例では、PA610が樹脂分の100質量%を占め、且つ無機充填材を含まぬPA610樹脂そのもの(樹脂組成物の100質量%がPA610)を使用したときに、乾燥条件下で20MPaのせん断破断力を示した。
脂肪族ポリアミド樹脂の中でPA610が金属合金との射出成形に適している理由について推論した結果を示す。PA610は、炭素数6のヘキサメチレンジアミンと炭素数10のセバシン酸の共縮重合反応によって得られる。ペプチド結合の密度は、PA6、PA66に比較して明らかに低いものの、周辺に影響を与える力が強いペプチド結合であるので、平衡時の結晶化率がPA610で大きく低下するということは想定できない。その一方で、PA6がε-カプロラクタム(炭素数6)の重縮合反応、PA66がヘキサメチレンジアミン(炭素数6)+アジピン酸(炭素数6)共縮重合反応によって得られる、即ち単位としての炭素数が同一である。これに対し、PA610は炭素数6のヘキサメチレンジアミンと炭素数10のセバシン酸の共縮重合反応によって得られる。即ち双方の炭素数が大きく異なる。従って、PA610が溶融状態から冷えて整列(結晶化)しようとする時に、PA6、PA66と比較して時間を要するであろうことは予想ができる。
要するに、PA610の急冷時の結晶化速度はPA6、PA66に比較して著しく遅いと推測できるので、射出接合に適した物性を単独でも有しているということになる。これはヘキサメチレンジアミンと炭素数9、11等の末端ジカルボン酸からなるポリアミドを合成したものを射出接合する実験で確認できると考えられる。
更に、本発明の射出接合は本発明者らが今までに行ってきた射出接合と異なる点がある。これは複合体を強い力で破断した場合の破断形式の違いである。即ち、過去の射出接合によって得られた金属合金と樹脂(PBT又はPPS等)の複合体では、強い力で複合体を破断した場合、金属合金表面の凹部に食い込んでいた樹脂部分はその凹部入り口付近で引き千切れており、金属合金表面の凹部に侵入していた樹脂部分は金属合金部に居残ることが多かった。ところがPA610を使用した射出接合によって得られた複合体を破断した場合、破壊後の金属合金表面に残っている樹脂部分は前者よりも明かに少なかった。即ち、樹脂成形品は破断するというよりも変形して金属合金表面の凹部から抜け出る形で金属合金表面から剥がれると考えられる。
PA610は、硬度がPA6、PA66、ナイロン6I(ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の縮合重合物)、及びナイロン6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の縮合重合物)等に比較して低い(柔らかい)。柔軟性の根源が炭素数10のセバシン酸部にあることは明らかであるが、結晶化率が低いからかそれとも十分に結晶化はしているが結晶自体が軟質であるかの追求は今後の課題である。ただし、PA610単独でも比較的高いせん断破断力を示すことから、平衡時の結晶化率は低くはないと想定できる。非晶質の高分子ではどのような操作をしても20MPa近傍のせん断破断力を示さなかった。それ故、本発明者らは、PA610の結晶化率は高く、射出接合を確保するだけの十分な硬度又は迅性を有すると推定した。ただし、それでもその硬度はPPSやPBTの結晶に比較すれば軟質であり、強い力で剥がし方向の力を与えた場合、金属合金表面上の凹部から切断することなく変形して抜け落ちるのではないかと推定した。
この点は、ポリアミド樹脂の吸湿性に基づく複合体での問題点を解決する可能性を予期させた。一般的には、吸湿したポリアミド樹脂は吸湿分だけ膨張するために金属合金とポリアミド樹脂の複合体ではその接合面に強い内部歪を生じせしめて、吸湿量が多いと接合は破断に至るのである。ところが、PA610では吸湿性がPA66に比較して半分程度であり、吸湿速度は半分以下である。その上、前記したように基本的に迅性があってやや軟質である。この迅性が、吸湿時も含めた内部歪の拡大を抑制できる可能性がある。
即ち、前述したPA6及びPA66等の脂肪族ポリアミド樹脂は、射出成形した場合に金属合金との接合力が弱いのみならず、高い吸湿性に起因する膨張収縮により、一旦、金属合金と接合したものであっても現実の環境下で破壊され易いという問題があった。金属合金との接合力は、上記脂肪族ポリアミド樹脂に芳香族ポリアミド樹脂を混合させたポリアミド樹脂同士の混合コンパウンドを用いることで向上が見込めるが、それでも吸湿性、吸水性はPBT、PPSより高くなっていたため、接合力を維持することは困難である。また、あくまで芳香族ポリアミド樹脂との混合を要するという制限があり、工程の簡素化、低コスト化にも反する。これに対して、PA610は他の脂肪族ポリアミド樹脂と比較して吸湿性自体が低く、かつ迅性があってやや軟質であるため、この迅性が、吸湿時も含めた内部歪の拡大を抑制し、金属合金との接合力維持に寄与すると考えられる。
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。
本発明の金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体を製造するにあたり、金属合金の表面に、(1)走査型プローブ顕微鏡観察で解析したときに、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を生じさせ、(2)且つ、その粗度を有する面内に、10万倍電子顕微鏡で観察した際に5〜500nm周期の超微細凹凸を形成し、(3)且つ、表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とするための表面処理を行う。この表面処理を施した金属合金を射出成形金型にインサートする。そしてインサートされた金属合金の表面に、ポリアミド610を樹脂分の10〜100質量%含むポリアミド樹脂組成物を射出する。射出されたポリアミド樹脂組成物が前記超微細凹凸に侵入した後に固化することによって前記金属合金と当該ポリアミド樹脂組成物の成形品が接合される。ここで使用する金属合金は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鉄鋼材から選択されるが、これらに限定されるものではない。
また、上記ポリアミド樹脂組成物は樹脂分が全て脂肪族ポリアミド樹脂であっても良い。ポリアミド610が樹脂分の20〜70質量%を占め、残分はポリアミド66又はポリアミド6であるポリアミド樹脂を使用したときに強い接合力を発揮した。ポリアミド610が樹脂分の30〜50質量%を占め、残分はポリアミド66又はポリアミド6であるポリアミド樹脂を使用したときに特に強い接合力を発揮した。これらのポリアミド樹脂組成物は、充填材として炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、ガラス粉、及びクレーから選択される1種以上を樹脂組成物全体の30〜50質量%含むことが好ましい。
また、樹脂分が全て脂肪族ポリアミド樹脂であって、ポリアミド610が当該樹脂分の80〜100質量%を占めるポリアミド樹脂組成物も使用することができる。例えば、ポリアミド610が樹脂分の80〜100質量%を占め、残分はポリアミド66又はポリアミド6であるポリアミド樹脂組成物を使用することができる。さらには、ポリアミド610が樹脂分の100質量%を占めるポリアミド樹脂組成物を使用することもできる。これらのポリアミド樹脂組成物は、充填材として炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、ガラス粉、及びクレーから選択される1種以上を樹脂組成物全体の0〜20質量%含むことが好ましい。
以下、本発明を構成する各要素に関して説明する。
[金属合金]
本発明でいう金属合金、即ち前述の「新NMT」に基づく表面構造を具備する金属合金としては、理論上特にその種類に制限はない。しかし、実際に「新NMT」を適用できるのは、硬質で実用的な金属合金である。本発明者等は、実質的に「新NMT」が適用可能な金属合金種として、アルミニウム、マグネシウム、銅、チタン、及び鉄を主成分とする金属合金種を例示している。以下、これらについて説明する。しかし、「新NMT」ではアンカー効果により接着力の向上を図っているので、少なくとも下記した金属合金種に限定されるものではない。特許文献1及び2にアルミニウム合金に関する記載をした。特許文献5にマグネシウム合金に関する記載をした。特許文献6に銅合金に関する記載をした。特許文献7にチタン合金に関する記載をした。特許文献8にステンレス鋼に関する記載をした。これら各種金属合金について詳細に説明する。
(アルミニウム合金)
本発明で使用するアルミニウム合金に制限はない。日本工業規格(JIS)に規定されている展伸用アルミニウム合金であるA1000番台〜7000番台(耐食アルミニウム合金、高力アルミニウム合金、耐熱アルミニウム合金等)は全て使用可能であり、鋳造用アルミニウム合金であるADC1〜12種(ダイカスト用アルミニウム合金)も全て使用可能である。
(マグネシウム合金)
例えば、国際標準機構(ISO)、日本工業規格(JIS)、米国材料試験協会(ASTM)等に規定される展伸用マグネシウム合金(例えばA31B)及び鋳物用マグネシウム合金(例えばAZ91D)が使用できる。
(銅合金)
本発明に使用する銅合金とは、銅、黄銅、りん青銅、洋泊、アルミニウム青銅等を指す。日本工業規格(JIS H 3000系)に規定されるC1020、C1100等の純銅系合金、C2600系の黄銅合金、C5600系の銅白系合金、その他のコネクター用の鉄系の銅合金等、全ての銅合金が対象である。
(チタン合金)
本発明に使用するチタン合金は、国際標準化機構(ISO)、日本工業規格(JIS)等で規定される純チタン系合金、α型チタン合金、β型チタン合金、α−β型チタン合金等、全てのチタン合金が対象である。
(ステンレス鋼)
本発明でいうステンレス鋼とは、鉄にクロム(Cr)を加えたCr系ステンレス鋼、又ニッケル(Ni)をクロム(Cr)と組合せて添加した鋼であるCr−Ni系ステンレス鋼、その他のステンレス鋼と呼称される公知の耐食性鉄合金が対象である。国際標準機構(ISO)、日本工業規格(JIS)、米国材料試験協会(ASTM)等で、規格化されているSUS405、SUS429、SUS403等のCr系ステンレス鋼、SUS301、SUS304、SUS305、SUS316等のCr−Ni系ステンレス鋼が含まれる。
(鉄鋼材)
本発明で用いる鉄鋼材は、一般構造用圧延鋼材等の炭素鋼(所謂一般鋼材)、高張力鋼(ハイテンション鋼)、低温用鋼、及び原子炉用鋼板等の鉄鋼材をいう。具体的には、冷間圧延鋼材(以下、「SPCC」という。)、熱間圧延鋼材(以下、「SPHC」という。)、自動車構造用熱間圧延鋼板材(以下、「SAPH」という。)、自動車加工用熱間圧延高張力鋼板材(以下、「SPFH」という。)、主に機械加工に使用される鋼材(以下「SS材」という。)等の構造用鉄鋼材が含まれる。また、本発明でいう鉄鋼材は、上記鉄鋼材に限らず、日本工業規格(JIS)、国際標準化機構(ISO)等で、規格化されたあらゆる鉄鋼材料が含まれる。
[化学エッチング]
本発明における化学エッチングは、金属合金表面にミクロンオーダーの粗度を生じさせることを目的とする。腐食には全面腐食、孔食、疲労腐食など種類があるが、その金属合金に対して全面腐食を生じる薬品種を選んで試行錯誤し、適当なエッチング剤を選ぶことができる。文献記録(例えば「化学工学便覧(化学工学協会編集)」)によれば、アルミニウム合金は塩基性水溶液、マグネシウム合金は酸性水溶液、ステンレス鋼や一般鋼材全般は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、これらの塩、等の水溶液で全面腐食するとの記録がある。又、耐食性の強い銅合金は、強酸性とした過酸化水素などの酸化剤によって全面腐食させられるし、チタン合金は蓚酸や弗化水素酸系の特殊な酸で全面腐食させられることが専門書や特許文献から散見される。実際に市場で販売されている金属合金類は、純銅系銅合金や純チタン系チタン合金のように純度が99.9%以上で合金とは言い難い物もあるが、これらも本発明の金属合金に含まれる。実際に使用されている金属合金の殆どは、特徴的な物性を求めて多種多用な元素が混合されて純金属系の物は少なく、実質的にも合金である。
即ち、金属合金の殆どは、元々の金属物性を低下させることなく耐食性を向上させることを目的として純金属から合金化されたものである。それ故、金属合金によっては、前記酸・塩基類や特定の化学物質を使っても、目標とする化学エッチングができない場合もよくある。実際には使用する酸・塩基水溶液の濃度、液温度、浸漬時間、場合によっては添加物を工夫しつつ試行錯誤して適正な化学エッチングを行うことになる。化学エッチング法については、特許文献1及び2にアルミニウム合金に関する記載、特許文献5にマグネシウム合金に関する記載、特許文献6に銅合金に関する記載、特許文献7にチタン合金に関する記載、特許文献8にステンレス鋼に関する記載をした。
実際に行う作業として全般的に共通する点を説明する。金属合金を所定の形状に形状化した後、当該金属合金用の脱脂剤を溶かした水溶液に浸漬して脱脂し、水洗する。この工程は、金属合金を形状化する工程で付着した機械油や指脂の大部分を除くための処理であり、常に行うことが好ましい。次いで、薄く希釈した酸・塩基水溶液に浸漬して水洗するのが好ましい。これは本発明者等が予備酸洗浄や予備塩基洗浄と称している工程である。一般鋼材のように酸で腐食するような金属合金では、塩基性水溶液に浸漬し水洗する。また、アルミニウム合金のように塩基性水溶液で特に腐食が早い金属合金では、希薄酸水溶液に浸漬し水洗する。これらは、化学エッチングに使用する水溶液と逆性のものを前もって金属合金に付着(吸着)させる工程であり、その後の化学エッチングが誘導期間なしに始まることになって処理の再現性が著しく向上する。それ故にこの予備酸洗浄、予備塩基洗浄工程は本質的なものではないが、実務上、採用することが好ましい。これらの工程の後に化学エッチング工程を行う。
[微細エッチング・表面硬化処理]
本発明における微細エッチングは、金属合金表面に超微細凹凸を形成することを目的とする。また本発明における表面硬化処理は、金属合金の表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とすることを目的とする。金属合金種によっては前記化学エッチングを行っただけで同時にナノオーダーの微細エッチングもなされ、超微細凹凸が形成される場合がある。さらに、金属合金種によっては表面の自然酸化層が元よりも厚くなって表面硬化処理も完了している場合もある。例えば、純チタン系のチタン合金は化学エッチングだけを行うことで、表面がミクロンオーダーの粗度を有し、且つ超微細凹凸も形成される。即ち、化学エッチングと併せて微細エッチングもなされる。しかし、多くは化学エッチングによりミクロンオーダーの大きな凹凸面を作った後で微細エッチングや表面硬化処理を行う必要がある。
この時でも予測できない化学現象に見舞われることが多い。即ち、表面硬化処理や表面安定化処理を目的に化学エッチング後の金属合金に酸化剤等を反応させたり化成処理をしたとき、得られる表面に偶然ながら超微細凹凸が形成される場合がある。マグネシウム合金を過マンガン酸カリ系水溶液で化成処理した場合に生じた酸化マンガンとみられる表面層は10万倍電子顕微鏡でようやく判別つく5〜10nm直径の棒状結晶が錯綜したものである。この試料をXRD(X線回折計)で分析したが、酸化マンガン類由来の回折線は検出できなかったが、表面が酸化マンガンで覆われていることはXPS分析で明らかである。XRDで検出できなかった理由は、結晶が検出限界を超えた薄い層であったからである。要するに、マグネシウム合金では表面硬化処理としての化成処理を施したことで、微細エッチングも併せて完了していたことになった。銅合金でも同様で、塩基性下の酸化で表面を酸化第2銅に変化させる表面硬化処理を行ったところ、純銅系銅合金では、その表面は楕円形の穴開口部で覆われた特有の超微細凹凸面になる。一方、純銅系でない銅合金では凹部型でなく10〜150nm径の粒径物又は不定多角形状物が連なり、一部融け合って積み重なった形の超微細凹凸面になる。この場合でも表面の殆どは酸化第2銅で覆われており、表面の硬化と超微細凹凸の形成が同時に起こる。
一般鋼材に関しては、更なる検証が必要ではあるものの、ミクロンオーダーの粗度を形成するための化学エッチングだけで超微細凹凸も併せて形成されていることが多く、元来表層(自然酸化層)が硬いこともあって、表面硬化処理や微細エッチング処理を改めて行わずとも、「NAT」を適用可能と考えられた。問題は自然酸化層の耐食性が十分でないために、接着工程までに腐食が始まってしまったり、接着後の環境如何では短時間で接着力が低下することであった。これらは化成処理によって防ぐことができる。例を挙げると、化成処理をしていない一般鋼材(SPCC:冷間圧延鋼材)同士を接着剤で接着した接合体に関しては、4週間という短期間で接着力が急激に低下した。一方、化成処理をした一般鋼材(SPCC)同士を接着剤で接着した接合体に関しては、同じ期間では当初の接着力から低下しなかった。
また、本発明者らは、一般に、化成処理によって金属合金表面に形成された被膜(化成被膜)の膜厚が厚いと、接着力が低下することが多いことを確認している。前記のマグネシウム合金に付着した酸化マンガン薄層のように、XRDで回折線が検出されないような薄層である方が、強い接着力が得られる。化成被膜が厚い金属合金同士を接着剤で接着し、破壊試験した場合、破壊面は殆どが化成皮膜と金属合金層との間となる。本発明者らが行った実験では、厚い化成皮膜と接着剤硬化物との接合力は、その化成皮膜と金属合金との接合力より常に強かった。即ち、一般鋼材でも、化成処理時間を更に長くして化成処理層を厚くすれば、接着力は長期間低下しないと考えられる。しかしながら化成皮膜を厚くすれば、接着力自体が低下する。従って、どの程度でバランスを取るかは、使用目的、用途等にもよる。以下各種金属合金の表面処理方法について詳述する。
[表面処理の具体例]
(アルミニウム合金の表面処理)
アルミニウム合金の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。本発明に特有な脱脂処理は必要なく、市販のアルミニウム合金用脱脂材の水溶液を使用する。即ち、アルミニウム合金で常用されている脱脂処理で良い。脱脂材によって異なるが、一般的な市販品では、濃度5〜10%として液温を50〜80℃とし、これにアルミニウム合金を5〜10分間浸漬する。
これ以降の工程は、アルミニウム合金に珪素が比較的多く含まれる合金と、これらの成分が少ない合金とでは処理方法が異なる。ここでは珪素分が少ないアルミニウム合金の処理方法に関して説明する。即ち、A1050、A1100、A2014、A2024、A3003、A5052、A7075等の展伸用アルミニウム合金では、以下のような処理方法が好ましい。即ち、アルミニウム合金を、酸性水溶液に短時間浸漬して水洗し、アルミニウム合金の表層に酸成分を吸着させるのが、次の化学エッチングを再現性良く進める上で好ましい。この処理を予備酸洗工程といい、使用液は、硝酸、塩酸、硫酸等、安価な鉱酸の1%〜数%濃度の希薄水溶液が使用できる。次いで、強塩基性水溶液に浸漬する化学エッチングを行った後、水洗する。この化学エッチングでは、1%〜数%濃度の苛性ソーダ水溶液を30〜40℃にして、これにアルミニウム合金を数分浸漬するのが好ましい。
この化学エッチングにより、アルミニウム合金表面に残っていた油脂や汚れがアルミニウム合金表層と共に剥がされる。この剥がれと同時に、この表面にはミクロンオーダーの粗度を有するようになる。即ち、RSmが0.8〜10μm、Rzが0.2〜5.0μmの凹凸面となる。次に、再度酸性水溶液に浸漬し、水洗することでナトリウムイオンを除くのが好ましい。本発明者等はこれを中和工程と呼んでいる。この酸性水溶液として数%濃度の硝酸水溶液が特に好ましい。
中和工程を経たアルミニウム合金に最終処理である微細エッチングを行う。微細エッチングでは、アルミニウム合金を、水和ヒドラジン、アンモニア、及び水溶性アミン化合物のいずれか1つ以上を含む水溶液に浸漬する。その後水洗し、70℃以下で乾燥するのが好ましい。これは、中和工程で行う脱ナトリウムイオン処理によって表面がやや変化し、粗度は保たれるがその表面がやや円滑になったことに対する粗面の復活策でもある。水和ヒドラジン水溶液等の弱塩基性水溶液に、短時間浸漬して微細エッチングする。ミクロンオーダーの粗度に係る凹部内壁面に、40〜50nm周期の超微細凹凸を多数形成させることが特に好ましい。
ここで、水洗後の乾燥温度を例えば100℃以上の高温にすると、仮に乾燥機内が密閉的であると、沸騰水とアルミニウム間で水酸化反応が生じ、表面が変化してベーマイト層が形成される。これは丈夫な表層といえないため好ましくない。表面のベーマイト化を防ぐには、90℃以下、好ましくは70℃以下で温風乾燥するのが好ましい。70℃以下で乾燥した場合、XPSによる表面元素分析でアルミニウムのピークからアルミニウム(3価)しか検出できず、市販のA5052、A7075アルミニウム合金板材等のXPS分析では検出できるアルミニウム(0価)は消える。XPS分析は、金属表面から1〜2nm深さまでに存在する元素が検出できるので、この結果から、水和ヒドラジンやアミン系化合物の水溶液に浸漬し、その後水洗して温風乾燥することで、アルミニウム合金が持っていた本来の自然酸化層(1nm厚さ程度の酸化アルミニウム薄層)が微細エッチングでより厚くなったことが確認された。少なくとも自然酸化層と異なって、2nm以上の厚さであることが確認された。
(アルミニウム合金の表面処理(NMT))
上記の処理は「新NMT」における第1の条件〜第3の条件を具備するようにするための処理である。前述したように、アルミニウム合金を対象とした「NMT」においては、第1の条件〜第3の条件に代えて、アルミニウム合金表面が20〜80nm周期の超微細凹凸で覆われたものであり、且つ、その表面にアミン系化合物が化学吸着しているというの条件を満たしたものでもよい。この条件に適合させる場合、上記化学エッチングは必須の処理ではなく、上記微細エッチングのみでも良い。しかしながら、化学エッチングを行うことで熱可塑性樹脂組成物との接合力をさらに向上させる効果がある。特に1000番系アルミニウム合金(純アルミニウム合金系)以外のアルミニウム合金では有効である。
(マグネシウム合金の表面処理)
マグネシウム合金の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。具体的には、市販のマグネシウム合金用脱脂材の水溶液を使用する。一般的な市販品では、濃度5〜10%、液温を50〜80℃とし、これにマグネシウム合金を5〜10分浸漬する。
次に、マグネシウム合金を酸性水溶液に短時間浸漬する化学エッチングを行い、水洗する。脱脂工程で除き切れなかった汚れを含めマグネシウム合金表層が剥がされ、同時にミクロンオーダーの粗度が生じる。即ち、走査型プローブ顕微鏡で走査したときに、RSmが0.8〜10μm、Rzが0.2〜5μmの凹凸が検出される。上記化学エッチング用の水溶液としては、1%〜数%濃度のカルボン酸又は鉱酸の水溶液を使用することができる。特にクエン酸、マロン酸、酢酸、硝酸等の水溶液が好ましい。化学エッチングでは、通常マグネシウム合金に含まれるアルミニウムや亜鉛は、溶解せず黒色のスマットとしてマグネシウム合金表面に付着残存するから、次に弱塩基性水溶液に浸漬してアルミニウムスマットを溶解して除き、次に強塩基水溶液に浸漬して亜鉛スマットを溶解して除くのが好ましい。
このようにしてスマットを溶解排除したマグネシウム合金を化成処理する。即ち、マグネシウムは、イオン化傾向の非常に高い金属であるから空気中の湿気と酸素による酸化速度が他の金属に比べて速い。マグネシウム合金には、自然酸化膜があるが耐食性の点から見て十分強いものではなく、通常の環境下でも容易に酸化腐食が進行する。それ故、一般的には、マグネシウム合金は、クロム酸や重クロム酸カリウム等の水溶液に浸漬して酸化クロムの薄層で全面を覆う(クロメート処理と呼ばれる)か、又はリン酸を含むマンガン塩の水溶液に浸漬して、リン酸マンガン系化合物で全面を覆う処理を行って、腐食防止処置を行う。これらの処置をマグネシウム業界では化成処理と呼んでいる。
要するに、マグネシウム合金に行う化成処理とは、金属塩を含む水溶液にマグネシウム合金を浸漬して、その表面を金属酸化物及び/又は金属リン酸化物の薄層で覆う処置を言う。現在では、6価のクロム化合物を使用するクロメート型の化成処理は環境汚染の観点から忌避されており、ノンクロメート処理と言われるクロム以外の金属塩を使用した化成処理、実際には、前記したリン酸マンガン系化成処理、又は珪素系化成処理が行われる。本発明ではこれらの方法と相違して、弱酸性とした過マンガン酸カリの水溶液を、化成処理用水溶液として使用するのが特に好ましい。この場合、表面を覆う皮膜(化成皮膜という)は、二酸化マンガンとなる。
具体的な処理法としては、上述したようにスマットを除いたマグネシウム合金を非常に希薄な酸性水溶液に短時間浸漬した後、これを水洗し、表層の塩基性成分を除く。その後に化成処理用水溶液に浸漬して水洗し、乾燥する方法が好ましい。前記の希薄な酸性水溶液として、0.1〜0.3%濃度のクエン酸又はマロン酸水溶液を使用する。この水溶液に常温付近で1分程度浸漬するのが好ましい。化成処理用水溶液としては、過マンガン酸カリを1.5〜3%、酢酸を1%前後、及び酢酸ナトリウムを0.5%前後含む水溶液を、温度40〜50℃で使用するのが好ましく、この水溶液では浸漬時間は1分程度が好ましい。これらの操作により、マグネシウム合金はニ酸化マンガンの化成皮膜で覆われたものとなり、その表面は、ミクロンオーダーの粗度を有し、且つナノオーダーの超微細凹凸が形成されたものとなる。
図5は、上記処理を施したマグネシウム合金表面の10万倍の電子顕微鏡写真である。これらの超微細凹凸形状を、文章で表現するのは困難であるが、敢えて言えば、この超微細凹凸形状は、5〜20nm径で10〜30nm長さの棒状又は球状突起が無数に生えた直径80〜120nmの球状物が、不規則に積み重なった形状であるといえる。約10nm径の棒状(針状)物質は、電子顕微鏡観察の結果からは、完全に結晶であるといえるものであるが、X線回折装置(XRD)による分析ではマンガン酸化物で見られる回折線は認められなかった。
X線回折装置(XRD)は、結晶の量が少ないと検出できないので、今のところこれらが結晶であるか否かの判断はできない。少なくとも、これらをアモルファス(非結晶)というには形が整い過ぎているため、アモルファスではないと判断される。なお、XPS分析からは、マンガン(イオンであり0価のマンガンではない)と酸素の大きなピークが認められ、表層はマンガン酸化物であることは間違いない。この表面は、色調が暗色であり、二酸化マンガンが主体のマンガン酸化物である。
(銅合金の表面処理)
銅合金の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。具体的には、市販の銅合金用脱脂材の水溶液を使用する。また、市販の鉄用、ステンレス用、又はアルミニウム合金用の脱脂剤も使用できる。更には工業用又は一般家庭用の中性洗剤を溶解した水溶液も使用できる。通常は、市販の脱脂剤又は中性洗剤を水に溶解して数%〜5%濃度とし、この水溶液の温度を50〜70℃とし、これに銅合金を5〜10分浸漬し、水洗する。
次に、銅合金を40℃前後に保った数%濃度の苛性ソーダ水溶液に浸漬した後に水洗する予備塩基洗浄をするのが好ましい。更に、銅合金を過酸化水素と硫酸を含む水溶液に浸漬する化学エッチングを行い、水洗する。この化学エッチングは、20℃〜常温付近の、硫酸、過酸化水素の両方を共に数%含む水溶液を使用するのが好ましい。このときの浸漬時間は、合金種によって異なるが、数分〜20分である。この化学エッチング工程で、殆どの銅合金でミクロンオーダーの粗度が獲得される。即ち走査型プローブ顕微鏡で解析して、RSmが0.8〜10μm、Rzが0.2〜5μmとなる、
次に、上記化学エッチング工程を経た銅合金の表面を酸化させる表面硬化処理を行う。電子部品業界では黒化処理と呼ばれている方法が知られているが、本発明で実施する表面効果処理は、その目的と酸化程度が黒化処理とは異なるものの、処理の内容自体は同じである。化学的に言えば、銅合金の表面層を強塩基性下で酸化剤によって酸化する。銅原子を酸化剤でイオン化した場合に、周りが強塩基性であると水溶液に溶解せず黒色の酸化第2銅になる。銅合金製部品をヒートシンクや発熱材部品として使用する場合、表面を黒色化して輻射熱の放熱や吸熱での効率を向上させている。この処理を、銅を使用する電子部品業界では黒化処理と呼んでいる。本発明の表面硬化処理にもこの黒化処理が利用できる。但し、本発明における表面硬化処理の目的は、一定の粗さを有する銅合金の表面にナノオーダーの超微細凹凸を形成し 且つ表層を硬質とすることにある(即ち微細エッチング及び表面硬化処理を行うこと)であるから、文字通り黒色化することではない。
本発明においても黒化処理と同様に、市販の黒化剤を、市販メーカーの指示する濃度、温度で使用する。但し、本発明における浸漬時間は、上記電子部品業界における黒化処理と比較して極めて短時間である。浸漬時間を異ならせて表面硬化処理を行い、各表面硬化処理後の銅合金表面を電子顕微鏡観察し、適した浸漬時間を特定した。具体的な条件としては、亜塩素酸ナトリウムを5%前後、苛性ソーダを5〜10%含む水溶液を60〜70℃として使用するのが好ましく、その場合の浸漬時間は0.5〜1.0分程度が好ましい。これらの操作により、銅合金は酸化第2銅の薄層で覆われたものとなる。そして表面を電子顕微鏡で観察すると、ミクロンオーダーの粗度を有し、その表面には直径が10〜150nmの円状の穴及び長径又は短径が10〜150nmの楕円状の穴が形成される。そして、この円状の穴及び楕円状の穴が、30〜300nm周期で全面に存在する超微細凹凸形状となる。要するに、この表面硬化処理を行うと、超微細凹凸と表面硬化層の双方が同時に得られることになる。なお、表面硬化処理において、処理液への浸漬時間を2〜3分にすると却って被着材との接着力が低下した。このことから、表面硬化処理を長時間行うことは、却って接着力を弱くし、好ましくないことが確認された。
ここで、純銅系の銅合金(例えばC1020)では、前述した化学エッチングの結果で得られる粗面は、RSmが10μmを超えることが多い。また、RSmが10μm以下であっても、当該RSmは純銅系以外の銅合金と比較して明らかに大きかった。そして、そのRSmが大きい割りにはRzが明らかに小さい(例えばRSmが8μmに対してRzが0.4μm等)。特に、銅分が高純度であるC1020(無酸素銅)等の金属結晶粒径の大きいものでは、前述したようにRSmが大きくなることが明らかに多く、凹凸周期と金属結晶粒径の大きさに直接的な相関関係があると推定された。純銅系銅合金の化学エッチングでは、金属結晶粒界から銅の侵食が起こっていることを観察結果から特定することができた。何れにせよ、RSmの範囲が10μmより大きければ本発明の第1の条件を満たさない。また、RSmの範囲が10μm以下であっても、当該RSmとの比較でRzが明らかに小さければアンカー効果が生じにくく、本発明の効果が発揮されにくい。実際に接着実験を行った場合でも、結晶粒径の特に大きいもの、例えば無酸素銅(例えばC1020)では、前述した化学エッチングと表面硬化処理を行っただけでは強い接着力を発揮できなかった。
そこで本発明者らは、一旦表面硬化処理まで終えた純銅系銅合金について、Rzが比較的小さいと判断したものに関しては、再度の化学エッチング及び再度の表面硬化処理を行った。当該再度の化学エッチングは最初の化学エッチングより短時間で良い。その結果、RSmは10μm以下となり、Rzは数μ以上となった。また、電子顕微鏡観察によると、超微細凹凸は繰り返し処理をしない場合と変わらない。
(チタン合金の表面処理)
チタン合金の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。特殊なものは必要なく、具体的には、市販の鉄用脱脂剤、ステンレス用脱脂剤、アルミニウム合金用脱脂材、マグネシウム合金用脱脂剤等の一般的な脱脂剤を使用することができる。また、市販されている工業用の中性洗剤を溶解した水溶液も使用できる。通常は、市販の脱脂剤又は中性洗剤を水に溶解して数%濃度とし、この水溶液の温度を60℃前後とし、これにチタン合金を浸漬した後、水洗する。その後、塩基性水溶液に浸漬して水洗し、予備塩基洗浄することが好ましい。
次に、還元性の酸の水溶液に浸漬して化学エッチングするのが好ましい。具体的には、チタン合金を全面腐食させ得る還元性酸として、蓚酸、硫酸、弗化水素酸等を使用できる。このうちエッチング速度が速いのは弗化水素酸である。故に効率を重視する場合には弗化水素酸を使用する。ただし弗化水素酸は、人間の肌に触れると侵入して骨に至り、痛みが数日続くことがある。要するに塩酸等とは異なる問題があり、労働環境面からは弗化水素酸の使用を避けるほうが好ましい。
好ましいのは、弗化水素酸より遥かに安全な扱いができる弗化水素酸の半中和物の1水素2弗化アンモニウムである。1水素2弗化アンモニウムの1%前後の水溶液を、温度50〜60℃として、これに数分浸漬した後、水洗する処理方法が好ましい。1水素2弗化アンモニウム水溶液による化学エッチングは、ミクロンオーダーの粗度を得るために行ったが、電子顕微鏡観察や最新分析機器による観察では、化学エッチング後の水洗と乾燥により、チタン合金表面は、不思議な形状の超微細凹凸形状となり、且つ、表面は酸化チタン薄層で覆われたものとなることが分かった。要するに、別途の微細エッチング及び表面硬化処理は不要であった。
1水素2弗化アンモニウム水溶液でエッチングし、水洗し、更にこれを乾燥したチタン合金の分析例を示す。まず走査型プローブ顕微鏡による走査解析結果を得た。ここでは20μm角の正方形面積内を走査して、RSmが1.8μm、Rzが0.9μという結果だった。又、同じ処理をした物の1万倍、10万倍電子顕微鏡写真の例を図7(上:1万倍,下:10万倍)に示した。ここでは、高さ及び幅が10〜300nm、長さが10nm以上の山状又は連山(山脈)状凸部が10〜350nm周期で全面に存在する非常にユニークで不思議な超微細凹凸形状が示された。
又、XPS分析によると、大きな酸素、チタンのピークが得られ表面の化合物は明らかに酸化チタンであることが分かった。ただし表面色調は暗褐色であり、チタン(3価)酸化物か、又はチタン(3価)とチタン(4価)の混合酸化物の薄膜とみられた。即ち、エッチング前は金属色であり、この表面はチタンの自然酸化層であるが、1水素2弗化アンモニウム水溶液でエッチングした後は、自然酸化層でない暗色の酸化チタン層に変化した。この酸化チタン層をアルゴンイオンビームで十〜数十nmエッチングし、エッチング後の面をXPS分析した。このXPS分析で、チタン酸化物層の厚さが判明したが、この厚さは明らかに自然酸化層の厚さより厚く、1水素2弗化アンモニウム水溶液によって純チタン系チタン合金をエッチングした場合で、50nm以上とみられた。
しかも表面から内部に向かってチタンイオンの価数が減少しており、表面の4価又は3価と4価の混合状態から内部に向かって2価が増え、更に2価が減って0価の金属に至ることが分かった。要するに、チタン酸化物である酸化膜は単純なチタン酸化物層でなく、チタン価数が表面から連続的に減ってゼロ価に達したような連続変化層であり、別の表現では、まるで酸素が表面から染み込んだように、表面は濃く内部に向かって薄くなる連続変化層であった。このような金属酸化膜と金属合金との間には明確な境界がないため、酸化膜層と金属合金層の接合力は極めて強固である。故に両者を引き剥がす力に対して充分な耐性を有しているといえる。
なお、純チタン系チタン合金以外のチタン合金の具体的な処理法は、前述した処理法と同様であるが、還元性の強酸水溶液によるエッチング時に生じる発生期の水素ガスによって、少量添加物として含まれている他金属が還元されて不溶物、いわゆるスマットを生じることがある。スマットの多くは、その後に数%濃度の硝酸水溶液に浸漬することで溶解除去することができる。但し、合金によっては硝酸水溶液に溶解しないスマットも生じるので、その場合は水洗時に超音波をかけて洗浄するのが好ましい。
純チタン系チタン合金以外の合金を、一水素二弗化アンモニウムでエッチングし、スマット除去したものの表面形状は、前述した図7の写真に比較し、その表面形状を言語表現することが難しい表面形状になる。アルミニウムを含有するα−β型チタン合金の例を、図8(上:1万倍,下:10万倍)の写真に示す。ここにはチタン合金らしい(図7に似た)超微細凹凸がない円滑なドーム状部分が観察されるが、植物の枯葉のような形状の不思議な形状が観察された。この表面全体は、前述した第2の条件として好ましい10〜300nm周期の超微細凹凸で覆われているというものではなく、より周期の大きいもの(「微細凹凸」と呼ぶ)が観察され、この微細凹凸自体が滑らかであった。
しかしながら、この表面中の、円滑なドーム状部分は別として、枯葉形状部は薄くて湾曲しており、これに硬度があれば強力なスパイク形状となる。α−β型チタン合金表面は、前述した新NMTにおける第2の条件(5nm〜500nm周期の超微細凹凸)に合致しない部分が殆どだが、このスパイク形状によって第2の条件で求めている超微細凹凸の役割を果たしうると考えられる。この表面のスパイク形状は大きいため、むしろ新NMTで求めている第1の条件で要求するミクロンオーダーの粗度(表面粗さ)にも関係してくる。このスパイク形状によって、走査型プローブ顕微鏡で見て、第1の条件(RSmが0.8〜10μm,Rzが0.2〜5μm)を満たす粗度面が形成されている。なお、第2の条件からやや外れて凹凸周期が大きいので、10万倍の電子顕微鏡写真では表面の全体像を掴むことができない。表面観察は、1万倍以下の倍率写真を撮って観察した。即ち、図8(上)のように1万倍の電子顕微鏡で見て、少なくとも10μm角以上の面積を見ることである。そうすれば、円滑なドーム形状と湾曲した枯葉形状の双方が存在する微細凹凸形状が観察される。またXPSによる分析から、表層はチタンとアルミニウムを含む金属酸化物の薄層であることが確認された。
(ステンレス鋼の表面処理)
ステンレス鋼の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。特殊な脱脂剤は必要なく、市販されている一般的なステンレス鋼用の脱脂剤、鉄用の脱脂剤、アルミニウム合金用脱脂剤、又は市販の一般向け中性洗剤を使用できる。通常は、市販の脱脂剤又は中性洗剤を水に溶解して数%濃度とし、この水溶液の温度を40〜70℃とし、これにステンレス鋼を5〜10分浸漬した後、水洗する。次に、このステンレス鋼を数%濃度の苛性ソーダ水溶液に短時間浸漬した後に、水洗し、この表面に塩基性イオンを吸着させるのが好ましい。この予備塩基洗浄によって、次の化学エッチングの再現性がよくなるからである。
ステンレス鋼は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、ハロゲン化金属塩等の水溶液で全面腐食する。化学エッチングを行う場合、ステンレス鋼の種類によって、その浸漬条件を変化させればよい。ここで、焼き鈍し等で硬度を下げて構造的に金属結晶粒径を大きくした物では、結晶粒界が少なくなっており、全面腐食させてミクロンオーダーの粗度を得るのが困難である。このような場合、単に腐食が進行する浸漬条件にするだけでは、化学エッチングが意図したレベルまで進まず、何らかの添加剤を加えるなどの工夫が必要である。何れにせよ、ミクロンオーダーの粗度を有する部分が大くを占める表面を獲得するように化学エッチングを行う。
SUS304であれば、10%濃度程度の硫酸水溶液を温度60〜70℃として、これに数分間浸漬する方法が好ましく、この処理方法により、本発明で要求するミクロンオーダーの粗度が得られる。また、SUS316では、10%濃度程度の硫酸水溶液を温度60〜70℃として、これに5〜10分間浸漬するのが好ましい。ハロゲン化水素酸、例えば塩酸水溶液も化学エッチングに適しているが、この水溶液を高温化すると酸の一部が揮発し、周囲の鉄製構造物を腐食する恐れがあるほか、局所排気しても排気ガスに何らかの処理が必要になる。その意味で硫酸水溶液の使用がコスト面で好ましい。ただし、鋼材によっては、硫酸単独の水溶液では全面腐食の進行が遅すぎる場合がある。このような場合、硫酸水溶液にハロゲン化水素酸を添加することが効果的である。そしてステンレス鋼では、化学エッチングを行うことで微細エッチングも同時に達成される。
前記の化学エッチングの後に、十分水洗することでステンレス鋼の表面は自然酸化し、腐食に耐える表層に再度戻るため、特に表面硬化処理は行う必要がない。しかし、ステンレス鋼表面の金属酸化物層をより厚く強固なものにするべく、酸化性の酸、例えば硝酸等の酸化剤、即ち、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリ、塩素酸ナトリウム等の水溶液に浸漬した後、これを水洗するのが好ましい。
実際に、ステンレス鋼を硫酸水溶液で化学エッチングした例を図9に示す。表面には適切なエッチングによりミクロンオーダーの粗度が形成される。その表面を電子顕微鏡観察すると超微細凹凸で覆われていることが分かる。要するに、ステンレス鋼では、化学エッチングだけで微細エッチングも同時に達成される。図9では、直径20〜70nmの粒径物、不定多角形状物等が積み重なった形状が認められ、この1万倍写真(図9(上))、及び10万倍写真(図9(下))のいずれも、火山周辺で溶岩が流れて形成される溶岩台地の斜面のガラ場に酷似していた。超微細凹凸で覆われたステンレス鋼表面をXPS分析すると、酸素、鉄の大きなピークと、ニッケル、クロム、炭素、モリブデンの小さなピークが認められた。要するに、表面は通常のステンレス鋼と全く同じ組成の金属の酸化物であり、同様の耐食面で覆われている。
(鉄鋼材の表面処理)
鉄鋼材の表面処理に際して、まず脱脂処理を行う。SPCC、SPHC、SAPH、SPFH、SS材等のように市販されている鉄鋼材では、これら鉄鋼材用として市販されている脱脂剤、ステンレス鋼用の脱脂剤、アルミニウム合金用脱脂剤、又は市販の一般向け中性洗剤を使用できる。通常は、市販の脱脂剤又は中性洗剤を水に溶解して数%濃度とし、この水溶液の温度を40〜70℃とし、これに鉄鋼材を5〜10分浸漬した後、水洗する。次に、希薄な苛性ソーダ水溶液に短時間浸漬した後、これを水洗するのが好ましい。この予備塩基洗浄によって、次の化学エッチングの再現性がよくなるからである。
鉄鋼材全般は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、これらの塩、等の水溶液で全面腐食する。化学エッチングを行う場合、鉄鋼材の種類によって、その浸漬条件を変化させればよい。SPCCであれば、10%濃度程度の硫酸水溶液を50℃として、これに数分間浸漬することが好ましい。これは、ミクロンオーダーの粗度を得るための化学エッチング工程である。SPHC、SAPH、SPFH、SS材では、前者より硫酸水溶液の温度を10〜20℃上げて化学エッチングするのが好ましい。ハロゲン化水素酸、例えば塩酸水溶液も化学エッチングに適しているが、前述した問題がある。それ故に硫酸水溶液の使用がコスト面で好ましい。
〈表面処理方法I:化学エッチングのみ〉
前述した化学エッチングの後に水洗して乾燥し、電子顕微鏡写真で観察すると、高さ及び奥行きが50〜500nmで、幅が数百〜数千nmの階段が無限段に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていることが多い。これは鉄鋼材が一般に有するパーライト構造が露出したものとみられる。具体的には、前記の化学エッチング工程で硫酸水溶液を適当な条件で使用したとき、ミクロンオーダーの粗度を成す凹凸面が得られると同時に、階段状の超微細凹凸も同時に形成されることが多い。このようにミクロンオーダーの粗度と超微細凹凸の形成が一挙に為される場合、前記化学エッチング後に十分水洗してから水を切り、温度90〜100℃以上の高温で急速乾燥させたものは、そのまま使用できる。表面に変色した錆は出ず、綺麗な自然酸化層となる。
但し、自然酸化層のみでは一般環境下での耐食性は不十分と考えられる。乾燥状態で保管することが必要である上に、当該鉄鋼材に被着材が接着された接合体も長期間にわたって接着力を維持できない。化学エッチング後の鉄鋼材同士を1液性エポキシ接着剤で接着した接合体を1ヶ月放置した後、破断試験をしたところ、接着当初と比較して接着力が低下していた。このことから、表面安定化処理が必要であることを確認した。
〈表面処理方法II:アミン系分子の吸着〉
前述した化学エッチングの後で水洗し、アンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン系化合物の水溶液に浸漬し、水洗し、乾燥する。そしてアンモニア等の広義のアミン系物質は、鉄鋼材に残存する。乾燥後の鉄鋼材をXPSで分析すると窒素原子が確認される。それ故に、アンモニアやヒドラジンを含む広義のアミン類が鉄鋼材表面に化学吸着していると推定した。10万倍電子顕微鏡での観察結果では、表面に薄い膜状の異物質が付着しているので、鉄のアミン系錯体が生じている可能性がある。
何れにせよ、これらアミン系分子の吸着又は反応は、水分子の吸着や鉄の水酸化物生成反応より優先しているようである。その意味で、少なくとも射出接合を行うまでの数日〜数週間は、水分の吸着とその反応による錆の発生を抑えられる。加えて、接着後の接着力の維持に関しても、「表面処理方法I」より優れており、接合体を4週間放置したものでは接合力の低下はなかった。
使用するアンモニア水、ヒドラジン水溶液、又は水溶性アミンの水溶液の濃度や温度は、厳密な条件設定が殆ど必要ない。具体的には、0.5〜数%濃度の水溶液を常温下で用い、0.5〜数分浸漬し、水洗し、乾燥することで効果が得られる。工業的には、若干臭気があるが安価な1%程度濃度のアンモニア水か、又は臭気が小さく効果が安定的な水和ヒドラジンの1%〜数%の水溶液が好ましい。
〈表面処理方法III:化成処理〉
化学エッチングを経た鉄鋼材又は化学エッチング及び上記アミン系分子の吸着を行った鉄鋼材を水洗した後、6価クロム化合物、過マンガン酸塩、又はリン酸亜鉛系化合物等を含む水溶液に浸漬して水洗する。この化成処理により、鉄鋼材表面がクロム酸化物、マンガン酸化物、亜鉛リン酸化物等の金属酸化物や金属リン酸化物で覆われて耐食性が向上する。これは、鉄鋼材の耐食性向上方法としてよく知られている方法である。ただし、本発明における化成処理の目的は、完全な耐食性の確保ではなく、射出接合が行われるまでに少なくとも充分な耐食性を有しており、接着後も接合部分に経時的な支障が起こりにくくすることである。要するに、化成皮膜を厚くした場合には、耐食性の観点からは好ましいが、接合力という観点からは好ましくないのである。化成皮膜は必要であるが、硬いが脆いという性質があるので、厚過ぎると接合力は逆に弱くなる。
三酸化クロムの希薄水溶液に鉄鋼材を浸漬して水洗し、乾燥した場合、表面は酸化クロム(III)で覆われる。その表面は均一な膜状物で覆われるのではなく、10〜30nm径で同等高さの突起状物もほぼ100nm程度の距離を置いて生じていた。また、弱酸性に調整した数%濃度の過マンガン酸カリの水溶液も好ましく使用できた。鉄鋼材の表面が高い接着力を獲得するには、化成皮膜を薄くすることが必要である。そのための条件を探索した結果、いずれの水溶液を使用する場合であっても、概ね数%濃度の水溶液を温度45〜60℃にして、これに鉄鋼材を0.5〜数分浸漬することであった。
[射出接合用のポリアミド樹脂組成物]
本発明で用いるポリアミド樹脂組成物として、2種類の樹脂を具体例として説明する。これらは用途等によって使い分けされる。一つは射出接合強度の高い樹脂組成物であり、他は、射出接合強度はそれほど強くない軟質の樹脂成形物である。これはスナップフィットなど特徴的な使用法に適している。
前者の樹脂組成物は、樹脂分中で、PA66又はPA6が90〜30質量%、PA610が10〜70質量%を占めるものである。このうち、樹脂分中でPA66又はPA6が80〜30質量%、PA610が20〜70質量%を占めるものが好ましい。さらに樹脂分中で、PA66又はPA6が70〜50質量%(最適値は55質量%)、PA610が30〜50質量%(最適値は45質量%)を占めるものが特に強い接合力を発揮する。この樹脂組成物はガラス繊維等の無機充填材を樹脂組成物全体の30〜50質量%含むものが好ましい。この樹脂組成物は硬さ及び接合強度等を高めた樹脂組成物である。なお実験結果から、樹脂組成物として、ガラス繊維入りPA66、ガラス繊維を含まないPA610、及び別途追加したガラス繊維が互いによく分散し混ざり合ったコンパウンドペレットを使用したものに比し、ガラス繊維入りPA66とガラス繊維を含まないPA610をドライブレンドしたものの方が、高い射出接合力を示した。これは高分子物理学から言えば特異な現象であり、事象説明の為の推論は実験例中に記した。
後者の樹脂組成物は、樹脂分中で、PA610が80〜100質量%、その他のポリアミド樹脂が0〜20質量%を占めるものである。この樹脂組成物はガラス繊維等の無機充填材を樹脂組成物全体の0〜20質量%含むものが好ましい。この後者の方は、やや軟質で接合強度も前者の樹脂組成物には及ばない。但し、極めて高い接合力が要求される用途以外には十分使用できる。
いずれの場合も使用する充填材にはガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、その他の強化繊維群、及び/又は、炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、ガラス粉、クレー、その他の無機粉末が使用できる。この充填剤の充填は、接合強度を高め、更には、軟質度を調整するのに有効である。
[射出接合の方法]
図1及び図2は熱可塑性樹脂の射出接合に関する図であり、図1は、実験例で使用した射出成形金型の断面を模式的に示した断面図である。図1は、金型が閉じ射出成形される状態を示している。図2は、射出成形金型を使用して射出接合された金属合金片とポリアミド樹脂組成物(固化物)の複合体7の外観を示す外観図である。この射出成形金型は、可動側型板2と固定側型板3で構成され、固定側型板3側にピンポイントゲート5、ランナー等からなる樹脂射出部が構成されている。複合体7の成形は次のように行う。先ず可動側型板2を開いて、固定側型板3との間に形成されるキャビティに金属合金片1をインサートする。インサートした後、可動側型板2を閉じて図1の射出前の状態にする。次にピンポイントゲート5を介して、溶融したポリアミド樹脂組成物を、金属合金片1のインサートされたキャビティに射出する。射出されるとポリアミド樹脂組成物は金属合金片1と接合しつつキャビティを埋めて成形され、金属合金片1とポリアミド樹脂組成物(固化物)4が一体化された複合体7が得られる。複合体7は、金属合金片1とポリアミド樹脂組成物4との接合面6を有しており、この接合面6の面積は5mm×10mmである。即ち、接合面6の面積は0.5cmである。
本発明によれば、エンジニアリングプラスチックとして適している脂肪族ポリアミド樹脂を主な樹脂分として含むポリアミド樹脂組成物と金属合金とが射出成形によって強固に一体化した複合体を得ることが可能となる。本発明の複合体は、金属合金とPA610を含むポリアミド樹脂組成物が強く接合し一体化したものである。例えば、電子機器のシャーシーとして金属合金を用いる場合、その内部にポリアミド樹脂組成物を射出成形し、その成形品であるボス又はリブ等をシャーシーと強固に接合することが可能である。
また、紫外線を吸収し易い芳香族ポリアミド樹脂を全く含まず、樹脂分が全て脂肪族ポリアミド樹脂であるポリアミド樹脂組成物と金属合金とを射出成形によって強固に一体化することも可能であるため、完全にハロゲンフリーの複合体を製造することができ、環境対策に寄与することとなる。また、脂肪族ポリアミド樹脂は柔軟性があるため、ネジ止めボスとした場合、フィラーを多少含んでいても通常の木ネジ型のネジが締め込める等、需要者の要請に合致する。
さらに、PA610は他の脂肪族ポリアミド樹脂と比較して吸湿性自体が低く、かつ迅性があってやや軟質であるため、この迅性が、吸湿時も含めた内部歪の拡大を抑制し、金属合金との接合力維持に寄与する。PA610が樹脂分の100質量%を占め、且つ無機充填材を含まぬ、全くのPA610樹脂そのものでも、乾燥条件下では20MPaのせん断破断力を示した。即ち、他の樹脂と混合する必要もなく、充填材も用いることなく、高い接合力を示したことから、製造工程の短縮化、低コスト化に多大に寄与するものである。本発明によって得られる金属合金形状物と脂肪族ポリアミド樹脂の成形品からなる複合体は、特にモバイル用電子機器、家電製品、機械部品等に用いることが好適で、ハロゲンフリーの複合体である。
図1は、実験例で使用した射出成形金型の断面図である。 図2は、射出接合により得られた金属合金片とポリアミド樹脂組成物の複合体の外観を示す外観図である。 図3は、A5052アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液で化学エッチングし、水和ヒドラジン水溶液で微細エッチングした表面の電子顕微鏡写真(上:1万倍,中:5万倍,下:10万倍)である。 図4は、A7075アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液で化学エッチングし、水和ヒドラジン水溶液で微細エッチングした表面の電子顕微鏡写真(上:1万倍,下:10万倍)である。 図5は、AZ31Bマグネシウム合金をクエン酸水溶液で化学エッチングし、過マンガン酸カリ水溶液で化成処理した表面の10万倍電子顕微鏡写真である。 図6は、KFC銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液で化学エッチングし、亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理した表面の電子顕微鏡写真(上:1万倍,下:10万倍)である。 図7は、KS40純チタン系チタン合金を1水素2弗化アンモニウム水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真(上:1万倍,下:10万倍)である。 図8は、KSTi−9(α−β系チタン合金)を1水素2弗化アンモニウム水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真(上:1万倍,下:10万倍)である。 図9は、SUS304ステンレス鋼を硫酸水溶液で化学エッチングした表面の電子顕微鏡写真(上:1万倍,下:10万倍)である。 図10は、SPCC冷間圧延鋼材を硫酸水溶液で化学エッチングし、過マンガン酸カリ系水溶液で化成処理した表面の電子顕微鏡写真(上:1万倍,下:10万倍)である。
以下、本発明の実施の形態を、以下の実験例1〜20において示す。
各々の実験例の形態は、前述の図1、図2で示す射出接合の方法による成形で得られた複合体にもとづいている。以下の実験例に使用した実験装置は以下のとおりである。
(a)X線表面観察(XPS観察)
数μm径の表面を深さ1〜2nmまでの範囲で構成元素を観察する形式のESCA「AXIS−Nova(クレイトス(米国)/株式会社 島津製作所(日本国京都府)製)」を使用した。
(b)電子顕微鏡観察
SEM型の電子顕微鏡「S−4800(株式会社 日立製作所製)」及び「JSM−6700F(日本電子株式会社(日本国東京都)製)」を使用し1〜2KVにて観察した。
(c)走査型プローブ顕微鏡観察
ダイナミックフォース型の走査型プローブ顕微鏡「SPM−9600(株式会社 島津製作所製)」を使用した。
(d)X線回折分析(XRD分析)
「XRD−6100(株式会社 島津製作所製)」を使用した。
(e)複合体の接合強度の測定
引っ張り試験機で複合体を引っ張ってせん断力を付加し、複合体が破断するときの破断力をせん断破断力として測定した。引っ張り試験機として「MODEL−1323(アイコーエンジニアリング株式会社(日本国)製)」を使用し、引っ張り速度10mm/分でせん断破断力を測定した。
[実験例1](アルミニウム合金の表面処理)
市販の1.6mm厚のA5052アルミニウム合金板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片を多数作成した。第1の槽に市販のA5052アルミニウム合金用脱脂剤である「NE−6(メルテックス株式会社(日本国東京都)製)」を水とともに投入して、60℃、濃度7.5%の水溶液とした。これに前記のA5052アルミニウム合金板材を7分間浸漬しよく水洗した。続いて別の第2の槽に40℃とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これに前記のA5052アルミニウム合金板材を1分間浸漬してよく水洗した。次いで別の第3の槽に40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、前記のA5052アルミニウム合金板材を2分間浸漬してよく水洗した。続いて別の第4の槽に40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに前記のA5052アルミニウム合金板材を1分間浸漬し水洗した。
次いで別の第5の槽に60℃とした一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液を用意し、これに前記のA5052アルミニウム合金板材を2分間浸漬し、水洗した。次いで67℃にした温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。乾燥後、アルミ箔で前記のA5052アルミニウム合金板材をまとめて包み、更にこれをポリ袋に入れて封じ保管した。4日後、その1個のA5052アルミニウム合金板材の表面を電子顕微鏡観察したところ、30〜100nm径の凹部で覆われていることが判明した。これに関する写真を図3に示した。
[実験例2](アルミニウム合金の表面処理)
市販の3mm厚のA7075アルミニウム合金板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片を多数作成した。第1の槽に市販のA7075アルミニウム合金用脱脂剤である「NE−6」を水とともに投入して60℃、濃度7.5%の水溶液とした。これに前記のA7075アルミニウム合金板材を7分間浸漬しよく水洗した。続いて別の第2の槽に40℃とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これに前記のA7075アルミニウム合金板材を1分間浸漬してよく水洗した。次いでさらに別の第3の槽に40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、前記のA7075アルミニウム合金板材を4分間浸漬してよく水洗した。続いて別の第4の槽に40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに前記のA7075アルミニウム合金板材を1分間浸漬し水洗した。
次いで別の第5の槽に60℃とした一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液を用意し、これに前記のA7075アルミニウム合金板材を2分間浸漬し、水洗した。次いで40℃の5%濃度の過酸化水素水溶液に前記のA7075アルミニウム合金板材を5分間浸漬し水洗した。次いで67℃にした温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。乾燥後、アルミ箔で前記のA7075アルミニウム合金板材をまとめて包み、更にこれをポリ袋に入れて封じ保管した。その1個のA7075アルミニウム合金板材を電子顕微鏡観察したところ40〜100nm径の凹部で覆われていることが判明した。これに関する写真を図4に示した。又、別の1個のA7075アルミニウム合金板材を走査型プローブ顕微鏡にかけて粗度データを得た。これによると、その表面はRSmが3〜4μmで、Rzが1〜2μmであった。
[実験例3](マグネシウム合金の表面処理)
市販の1mm厚のAZ31Bマグネシウム合金板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片を多数作成した。第1の槽に市販のマグネシウム合金用脱脂剤である「クリーナー160(メルテックス株式会社製)」を水とともに投入して65℃、濃度7.5%の水溶液とした。これに前記のAZ31Bマグネシウム合金板材を5分間浸漬しよく水洗した。続いて別の第2の槽に40℃とした1%濃度の水和クエン酸水溶液を用意し、これに前記のAZ31Bマグネシウム合金板材を6分間浸漬してよく水洗した。次いで別の第3の槽に65℃とした1%濃度の炭酸ナトリウムと1%濃度の炭酸水素ナトリウムを含む水溶液を用意し、前記のAZ31Bマグネシウム合金板材を5分間浸漬してよく水洗した。続いて別の第4の槽に65℃とした15%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記のAZ31Bマグネシウム合金板材を5分間浸漬し水洗した。
次いで別の第5の槽に40℃とした0.25%濃度の水和クエン酸水溶液に1分間浸漬して水洗した。次いで45℃とした過マンガン酸カリを2%、酢酸を1%、水和酢酸ナトリウムを0.5%含む水溶液に1分間浸漬し、15秒水洗し、90℃にした温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。乾燥後、アルミ箔で前記のAZ31Bマグネシウム合金板材をまとめて包み、更にこれをポリ袋に入れて封じ保管した。その1個のAZ31Bマグネシウム合金板材を電子顕微鏡観察したところ、5〜20nm径で10〜30nmの長さの棒状突起を表面に有する直径80〜120nmの球状物が積み重なった形の超微細凹凸形状で覆われていることが判明した。これに関わる写真を図5に示した。棒状の突起が直径100nm前後の球状物から生えたような形態となっており、これが不規則に積み重なって超微細凹凸を構成している。又、別の1個のAZ31Bマグネシウム合金板材を走査型プローブ顕微鏡で走査して粗度観測を行ったところ、RSmが2〜3μmで、Rzが1〜1.5μmであった。
[実験例4](銅合金の表面処理)
市販の0.7mm厚の鉄含有銅合金である「KFC(株式会社 神戸製鋼所製)」板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤である「NE−6」を7.5%含む水溶液を60℃として5分間浸漬して水洗し、次いで40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液に1分間浸漬して水洗し予備塩基洗浄した。次いで25℃とした銅合金用エッチング材である「CB−5002(メック株式会社(日本国兵庫県)製)」を20%、30%過酸化水素を18%含む水溶液を用意し、これに前記銅合金片であるKFC板材を8分間浸漬し水洗した。次いで別の槽に65℃とした苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液を酸化用水溶液として用意し、前記のKFC板材を1分間浸漬してよく水洗した。
次いで前記のエッチング用槽に1分間浸漬して水洗し、そして前記の酸化処理用の槽に1分間浸漬してよく水洗した。次いで90℃とした温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。乾燥後、アルミ箔で前記のKFC板材をまとめて包み、更にこれをポリ袋に入れて封じ保管した。その1個のKFC板材を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、RSmは1.5〜2μmで、Rzは0.2〜0.5μmであった。又、10万倍電子顕微鏡観察したところ、表面が直径10〜20nmの小さな粒径物と直径50〜150nmの大きな不定多角形状物が混ざり合って積み重なった形状、言わば溶岩台地斜面ガラ場状、の超微細凹凸形状で全面が覆われていた。その関係の写真を図6に示した。
[実験例5](チタン合金の表面処理)
市販の純チタン型チタン合金JIS1種である「KS40(株式会社 神戸製鋼所製)」1mm厚板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤である「NE−6」を7.5%含む水溶液を60℃として脱脂用水溶液とした。前記水溶液に前記チタン合金板材であるKS40を5分間浸漬して脱脂し、よく水洗した。続いて別の槽に60℃とした1水素2弗化アンモニウムを40%含む万能エッチング材である「KA−3(株式会社 金属化工技術研究所(日本国東京都)製)」を2%含む水溶液を用意し、これに前記のKS40を3分間浸漬しイオン交換水でよく水洗した。次いで3%濃度の硝酸水溶液に1分間浸漬し水洗した。90℃とした温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。
乾燥後、アルミ箔で前記のKS40をまとめて包み、更にこれをポリ袋に入れて封じ保管した。このうち1個のKS40を切断して、電子顕微鏡、及び走査型プローブ顕微鏡による観察を行った。電子顕微鏡での観察から、その表面は、高さ及び幅が10〜300nm、長さが10nm以上の山状又は連山(山脈)状凸部が10〜350nm周期で、全表面に存在する非常に特異な超微細凹凸形状が示された。これに関わる写真を図7に示した。又、走査型プローブ顕微鏡の観察で、表面はRSmが3〜4μmで、Rzが1〜2μmであり、個々の凹凸の高低差は0.5〜1.5μmが大部分であった。又、XPSによる分析から表面には酸素とチタンが大量に観察され、又少量の炭素が観察された。これらから表層は酸化チタンが主成分であることが判明し、しかも暗色であることから3価のチタンの酸化物と推定された。
[実験例6](チタン合金の表面処理)
市販のα−β型チタン合金である「KSTi−9(株式会社 神戸製鋼所製)」の1mm厚の板材を切断して45mm×18mmの長方形片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤である「NE−6」を7.5%含む水溶液を60℃として脱脂用水溶液とした。前記水溶液に前記のKSTi−9を5分間浸漬して脱脂し、よく水洗した。次いで別の槽に40℃とした苛性ソーダ1.5%濃度の水溶液を用意し、1分間浸漬して水洗した。次いで別の槽に、市販汎用エッチング試薬である「KA−3」を2重量%溶解した水溶液を60℃にして用意し、これに前記のKSTi−9を3分間浸漬しイオン交換水でよく水洗した。
黒色のスマットが付着していたので40℃とした3%濃度の硝酸水溶液に3分間浸漬し、次いで超音波を効かしたイオン交換水に5分間浸漬してスマットを落とし、再び3%硝酸水溶液に0.5分間浸漬し水洗した。次いで90℃とした温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。処理されたKSTi−9に金属光沢はなく暗褐色であった。乾燥後、アルミ箔で前記のKSTi−9をまとめて包み、更にこれをポリ袋に入れて封じ保管した。2日後、このうち1個のKSTi−9を、電子顕微鏡及び走査型プローブ顕微鏡で観察した。1万倍、10万倍電子顕微鏡で観察した結果を図8に示す。その様子は実験例5の電顕観察写真に酷似した部分に加え、複雑な形状の枯葉状の部分が多く見られた。また、XPSによる分析から、表面はチタンとアルミニウムを含む金属酸化物の薄層であることが分かった。
[実験例7](ステンレス鋼の表面処理)
市販の1mm厚のステンレス鋼SUS304板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片を多数作成した。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤である「NE−6」を7.5%含む水溶液を60℃として脱脂用水溶液とした。前記水溶液に前記のステンレス鋼SUS304板材を5分間浸漬して脱脂し、よく水洗した。続いて別の槽に60℃とした98%硫酸を10%含む水溶液を用意し、これに前記のステンレス鋼SUS304板材を5分間浸漬しイオン交換水でよく水洗した。次いで40℃とした5%濃度の過酸化水素水溶液に5分間浸漬して水洗した。90℃とした温風乾燥機に15分間入れて乾燥した。乾燥後、アルミ箔で前記のステンレス鋼SUS304板材をまとめて包み、更にこれをポリ袋に入れて封じ保管した。
このうち1個のステンレス鋼SUS304板材を切断して、電子顕微鏡、及び走査型プローブ顕微鏡による観察を行った。電子顕微鏡観察から、表面は直径20〜70nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状、言わば溶岩台地斜面ガラ場状、の超微細凹凸形状で覆われており、且つその被覆率は約90%であった。それに関わる写真を図9に示した。同時に走査型プローブ顕微鏡の走査解析で、表面は山谷間隔が2〜6μmで、RSmが4μm前後であった。又、その高低差は0.2〜1μmであった。更に別の1個のステンレス鋼SUS304板材をXPS分析にかけた。XPSでは表面の約1nm深さより浅い部分の元素情報が得られる。このXPS分析から表面には酸素と鉄が大量に、又、少量のニッケル、クロム、炭素、ごく少量のモリブデン、珪素が観察された。これらから表層は金属酸化物が主成分であることが判明した。この分析パターンはエッチング前のステンレス鋼SUS304と殆ど同じであった。
[実験例8](一般鋼材の表面処理)
市販の厚さ1.6mm厚の冷間圧延鋼材である「SPCCブライト」板材(以下「鋼材片」と略称する)を購入し、大きさ18mm×45mmの多数の長方形片に切断し、鋼材片とした。この鋼材片の端部に穴を開け、十数個に対し塩化ビニルでコートした銅線を通し、鋼材片同士が互いに重ならないように銅線を曲げて加工し、全てを同時にぶら下げられるようにした。槽にアルミニウム合金用脱脂剤である「NE−6(メルテックス社製)」7.5%を含む水溶液を60℃とし、鋼材片を5分間浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。次いで別の槽に40℃とした1.5%苛性ソーダ水溶液を用意し、これに鋼材片を1分間浸漬し水洗した。次いで別の槽に50℃とした98%硫酸を10%含む水溶液を用意し、これに鋼材片を6分間浸漬し、イオン交換水で十分に水洗した。
次いで25℃とした1%濃度のアンモニア水に1分間浸漬して水洗し、次いで45℃とした2%濃度の過マンガン酸カリ、1%濃度の酢酸、0.5%濃度の水和酢酸ナトリウムを含む水溶液に1分間浸漬して十分に水洗した。これを90℃とした温風乾燥機内に15分間入れて乾燥した。得られた鋼材片の10万倍電子顕微鏡による観察結果から、表面は高さ及び奥行きが50〜500nmで幅が数百〜数千nmの階段が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていることが判明した。これに関わる写真を図10に示した。一方、走査型プローブ顕微鏡による走査解析では、表面はRSmが1〜3μmで、Rzが0.3〜1.0μm程度の粗度であった。
[実験例9](樹脂の調整)
市販のガラス繊維45%入りのPA66樹脂である「アミランCM3001G45(東レ株式会社製)」とガラス繊維不含のPA610樹脂である「アミラン2001(東レ株式会社製)」を入手した。ヘンシェルミキサーに樹脂分割合で「アミランCM3001G45」70質量部、「アミラン2001」30質量部を取って混合した。これで樹脂分組成としてPA66が56質量%、PA610が44質量%を占めており、ガラス繊維を全体の31.5質量%含む樹脂組成物が得られた。但し、ドライブレンドであるからポリアミド樹脂同士、及びガラス繊維が何処まで均一に混合するかは射出成形機の運転法にも影響されることが予期された。これを樹脂組成物(1)とした。
[実験例10](樹脂の調整)
市販のガラス繊維45%入りのPA66樹脂である「アミランCM3001G45」とガラス繊維不含のPA610樹脂である「アミラン2001」を入手した。ヘンシェルミキサーに樹脂分割合で「アミランCM3001G45」80質量部、「アミラン2001」20質量部を取って混合し、これを二軸押出機である「TEM−35B(日本国静岡県、東芝機械株式会社製)」にて押し出してペレット化した。これで樹脂分組成としてPA66が69質量%、PA610が31質量%を占めており、ガラス繊維を全体の36質量%含む樹脂組成物(4)が得られた。
又、ヘンシェルミキサーに「アミランCM3001G45」50質量部、「アミラン2001」50質量部を取って混合し、これを二軸押出機である「TEM−35B(日本国静岡県、東芝機械株式会社製)」を使用し、サイドフィーダーから平均繊維径9μm、繊維長3mmのガラス繊維である「RES03−TP91(日本国東京都、日本板硝子株式会社製)」を供給しながら、シリンダー温度300℃で溶融混練してペレット化した。その結果、樹脂分組成としてPA66が35質量%、PA610が65質量%を占めており、ガラス繊維を全体の36質量%含む樹脂組成物(7)が得られた。
「アミランCM3001G45」と「アミラン2001」の混合比率(質量部数)を異ならせ、同様の方法で多種の樹脂組成物を製造した。その結果、樹脂分組成としてPA66が91質量%、PA610が9質量%を占めており、ガラス繊維を全体の43質量%含む樹脂組成物(2)を得た。また、樹脂分組成としてPA66が83質量%、PA610が17質量%を占めており、ガラス繊維を全体の41質量%含む樹脂組成物(3)を得た。また、樹脂分組成としてPA66が56質量%、PA610が44質量%を占めており、ガラス繊維を全体の36質量%含む樹脂組成物(5)を得た。また、樹脂分組成としてPA66が46質量%、PA610が54質量%を占めており、ガラス繊維を全体の36質量%含む樹脂組成物(6)を得た。さらに、樹脂分組成としてPA66が27質量%、PA610が73質量%を占めており、ガラス繊維を全体の36質量%含む樹脂組成物(8)を得た。
これら樹脂組成物(1)〜(8)の樹脂文中の組成比(PA66:PA610)と、充填材であるガラス繊維の樹脂組成物全体に対する質量割合を表1に示す。
[実験例11](PA66/PA610樹脂の射出接合力)
実験例1で作成したA5052アルミニウム合金板材を140℃に加熱した射出成形金型にインサートし、実験例9で作成した樹脂組成物を射出温度280℃で射出し、図2に示す形状の一体化物を得た。これらは150℃とした熱風乾燥機に1時間入れてエージングして放冷し、射出接合による接合面の内部歪を除いた。その3日後に引っ張り試験機で破壊し、そのせん断破断力を測定した。各3個づつの測定であったがその平均値を表2に示す。
又、実験例1で作成したA5052アルミニウム合金板材を140℃に加熱した射出成形金型にインサートし、実験例10で作成した各種樹脂組成物を射出温度280℃で射出し、図2に示す形状の一体化物を得た。これらは150℃とした熱風乾燥機に1時間入れてエージングして放冷し、射出接合による接合面の内部歪を除いた。その3日後に引っ張り試験機で破壊し、そのせん断破断力を測定した。各3個づつの測定であったがその平均値も表2に示した。
樹脂組成物(2)〜(8)の中では、樹脂組成物(5)のせん断破断力が最も高かった(29.8MPa)が、樹脂組成物全体としてはドライブレンドである樹脂組成物(1)のせん断破断力が最高値(35.8MPa)を占めた。樹脂組成物(1)と(5)は樹脂分組成としては同じでありガラス繊維比も大差ない。しかしながら、せん断破断力では6MPaの差が生じた。この現象は、その後に繰り返した試験でも再現しており、熱可塑性樹脂に添加する充填材の分布密度の均一性、別の言い方で充填材密度の分布模様、で樹脂組成物の物性が変化することを示している。
その要因として、ドライブレンドからの成形品では1種の海島構造になっていると推定できる。即ち、より硬質なPA66とガラス繊維が高濃度同士で集まっている一種のハードセグメント部(島の部分)と、PA66、PA610及びガラス繊維が混ざり合った硬度がやや低いその他の部分(海の部分)が出来たとの想定である。もっと単純化して言えば、ガラス繊維の存在密度が全体で完全均一でなく、全体としてみればガラス繊維添加率の割に硬度が低くなりこれが迅性向上に効いたのではないかとも考えられる。
射出成形技術の一般論からすれば、強化繊維や無機粉体等の充填材の添加率は、熱可塑性樹脂の硬度、強度、線膨張率、及び成形収縮率等に直結する。しかし充填材分布が完全均一分散でなく充填材存在密度の濃淡ある部分を島とする海島型均一分散であれば、各種高分子物性への充填材添加率の影響度は変わると予想できる。ここで島部が強化繊維存在密度の高いものなれば、おそらく、硬度、引っ張り弾性率、曲げ弾性率は下り、線膨張率や成形収縮率や吸水率は影響は比較的小さく、引っ張り破断伸びは向上するだろうと推論できる。
[実験例12](樹脂の調整と射出接合力)
市販のガラス繊維45%入りのPA6樹脂である「アミランCM1011G45(東レ株式会社製)」を入手した。実験例10の樹脂組成物(5)と類似しているが、PA66ではなくPA6を使用したものを作るべく、「アミランCM3001G45」に代えて「アミランCM1011G45」を使用した。その結果、樹脂分組成としてPA6が56質量%、PA610が44質量%を占めており、ガラス繊維を全体の36質量%含む樹脂組成物(9)を得た。この樹脂組成物(9)を使用して、実験例1で得たA5052アルミニウム合金板材に対して実験例11と同様にして射出接合試験を行った。射出接合後のアニールも同様に行いその後に引っ張り破壊試験を行ったところ、そのせん断破断力は6個の破断試験で20〜27MPaであり、平均は22MPaであった。バラツキが樹脂組成物(5)の場合よりやや大きく平均値を下げたが、基本的には組成物(5)と同等かやや低い性能である。
[実験例13](PA610樹脂の射出接合力)
実験例1で作成したA5052アルミニウム合金板材を140℃に加熱した射出成形金型にインサートし、ガラス繊維を含まないPA610樹脂「アミラン2001」をそのまま使用し射出接合した。射出温度は280℃であった。これらを150℃とした熱風乾燥機に1時間入れてエージングし、その3日後に引っ張り試験機で破壊してそのせん断破断力を測定した。6個の測定で16〜22MPaあり、その平均は19.5MPaであった。
単一の樹脂のみからなる樹脂組成物の使用によって、せん断破断力20MPa以上を記録した。このことは本発明者らの実験でも従来にない結果であった。樹脂部は強く指で曲げようとするとやや曲がるので、明らかにPA66やPA6より柔軟であること、及び一体化物の破断試験をした後のアルミニウム合金板材表面側に樹脂の残分が目視では見当たらない。このことから、金属合金表面に接合した樹脂、即ち、ミクロンオーダーの凹部に侵入し結晶化固化した樹脂は破断試験時に同凹部入口付近で破壊されるのではなく、同凹部から抜け出していることが判明した。破断試験後の金属合金片の様子は、実験例11〜12でも類似しており、樹脂分付着物が何れも非常に少なく、このポリアミド樹脂の射出接合物の破壊は、樹脂分の抜け落ち型で生じるものと推定された。
[実験例14〜20](PA66/PA610樹脂の射出接合力)
実験例2〜8の表面処理を施した各種金属合金片(A7075アルミニウム合金,AZ31Bマグネシウム合金,KFC銅合金,KS40チタン合金,KSTi−9チタン合金,SUS304ステンレス鋼,SPCC冷間圧延鋼材)の表面処理品を、各々140℃に加熱した射出成形金型にインサートし、実験例9で作成した樹脂組成物(1)を射出温度280℃で射出し、得られた図2に示す形状の一体化物を得た。これらを150℃とした熱風乾燥機に1時間入れてエージングして放冷し、射出接合による接合面の内部歪を除いた。その3日後に引っ張り試験機で破壊し、そのせん断破断力を測定した。各金属合金種について、3個づつの測定であった。A7075アルミニウム合金と樹脂組成物(1)とのせん断破断力を実験例14で測定し、AZ31Bマグネシウム合金と樹脂組成物(1)とのせん断破断力を実験例15で測定し、KFC銅合金と樹脂組成物(1)とのせん断破断力を実験例16で測定し、KS40チタン合金と樹脂組成物(1)とのせん断破断力を実験例17で測定し、KSTi−9チタン合金と樹脂組成物(1)とのせん断破断力を実験例18で測定し、SUS304ステンレス鋼と樹脂組成物(1)とのせん断破断力を実験例19で測定し、SPCC冷間圧延鋼材と樹脂組成物(1)とのせん断破断力を実験例20で測定した。各平均値を、実験例11の試験結果(A5052アルミニウム合金と樹脂組成物(1)とのせん断破断力)と共に表3に示した。
なお、各種金属合金の表面処理方法は、上記実験例に示した方法に限られない。前述した各種金属合金の表面処理例に示した方法は全て当然適用することが可能であり、これらの表面処理を施した金属合金に、上述したPA66/PA610樹脂を射出成形しても同等のせん断破断力を示すものと考えられる。
表3の実験結果から、いずれの金属合金種においても樹脂組成物(1)と強固に接合することを確認することができた。特にA5052アルミニウム合金では35.8MPa、A7075アルミニウム合金では26.3MPaという極めて高いせん断破断力を示した。これは極めて高い信頼性が要求される用途に使用可能であることを示している。また、KFC銅合金、KS40チタン合金、KSTi−9チタン合金、及びSUS304ステンレス鋼に関しても20MPa前後の高いせん断破断力を示し、高信頼性が要求される用途に使用可能である。その他のAZ31Bマグネシウム合金、SPCC冷間圧延鋼材に関しても一般的用途で十分使用できる接合力を示した。
本発明は、金属合金とポリアミド樹脂組成物を接合させる技術に関する。電子機器のシャーシー内部にポリアミド樹脂組成物を射出成形し、その成形品であるボス又はリブ等を当該シャーシーと強固に接合することを可能とする。電子機器の筐体の他、家電機器の筐体、機械部品等に用いることができる。

Claims (22)

  1. 金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体であって、
    前記金属合金表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、その粗度を有する面内には5〜500nm周期の超微細凹凸が形成され、且つ、表層が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であり、
    前記ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド610を樹脂分の10〜100質量%含み、前記超微細凹凸に侵入した状態で固化していることによって前記金属合金と強固に接合していることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  2. 請求項1に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体において、
    前記金属合金は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鉄鋼材から選択されるいずれか1種であることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  3. 金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体であって、
    前記金属合金はアルミニウム合金であって、
    その表面は、20〜80nm周期の超微細凹凸で覆われたものであり、且つ、その表面にアミン系化合物が化学吸着しており、
    前記ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド610を樹脂分の10〜100質量%含み、前記超微細凹凸に侵入した状態で固化していることによって前記アルミニウム合金と強固に接合していることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  4. 金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体であって、
    前記金属合金はα−β型チタン合金であって、
    その表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、10μm角の面積内に円滑なドーム形状と湾曲した枯葉形状の双方が存在する微細凹凸が形成され、且つ、表層が、主としてチタン及びアルミニウムを含む金属酸化物の薄層であり、
    前記ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド610を樹脂分の10〜100質量%含み、前記微細凹凸に侵入した状態で固化していることによって前記α−β型チタン合金と強固に接合していることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  5. 金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体であって、
    前記金属合金は鉄鋼材であって、
    その表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、その粗度を有する面内には5〜500nm周期の超微細凹凸が形成され、且つ、表層がクロム酸化物、マンガン酸化物、及び亜鉛リン酸化物から選択されるいずれか1種を主成分とする薄層であり、
    前記ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド610を樹脂分の10〜100質量%含み、前記超微細凹凸に侵入した状態で固化していることによって前記鉄鋼材と強固に接合していることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  6. 請求項1ないし5から選択される1項に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体において、
    前記ポリアミド樹脂組成物は、樹脂分が全て脂肪族ポリアミド樹脂であることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  7. 請求項6に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体において、
    前記ポリアミド樹脂組成物中の樹脂分は、ポリアミド610が当該樹脂分の10〜70質量%を占め、残分はポリアミド66及びポリアミド6から選択される1種以上からなることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  8. 請求項6に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体において、
    前記ポリアミド樹脂組成物中の樹脂分は、ポリアミド610が当該樹脂分の20〜70質量%を占め、残分はポリアミド66及びポリアミド6から選択される1種以上からなることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  9. 請求項6に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体において、
    前記ポリアミド樹脂組成物中の樹脂分は、ポリアミド610が当該樹脂分の30〜50質量%を占め、残分はポリアミド66及びポリアミド6から選択される1種以上からなることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  10. 請求項6に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体において、
    前記ポリアミド樹脂組成物中の樹脂分は、ポリアミド610が当該樹脂分の80〜100質量%を占めることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  11. 請求項6に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体において、
    前記ポリアミド樹脂組成物中の樹脂分は、ポリアミド610が当該樹脂分の80〜100質量%を占め、残分はポリアミド66及びポリアミド6から選択される1種以上かならることを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  12. 請求項6に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体において、
    前記ポリアミド樹脂組成物中の樹脂分は、ポリアミド610が当該樹脂分の100質量%を占め、且つ、当該ポリアミド樹脂組成物中には充填材が含まれないことを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  13. 請求項7に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体において、
    前記ポリアミド樹脂組成物は、充填材として炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、ガラス粉、及びクレーから選択される1種以上を樹脂組成物全体の30〜50質量%含むことを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  14. 請求項10に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体において、
    前記ポリアミド樹脂組成物は、充填材として炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、炭酸カルシウム、ドロマイト、タルク、ガラス粉、及びクレーから選択される1種以上を樹脂組成物全体の0〜20質量%含むことを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体。
  15. 金属合金の表面に、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を生じさせ、且つ、その粗度を有する面内に、5〜500nm周期の超微細凹凸を形成し、且つ、表層を金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層とするための表面処理を行う表面処理工程と、
    前記表面処理工程を経た金属合金を射出成形金型にインサートするインサート工程と、
    インサートされた前記金属合金の表面に、樹脂分が全て脂肪族ポリアミド樹脂であって、且つポリアミド610を樹脂分の10〜100質量%含むポリアミド樹脂組成物を射出し、当該射出されたポリアミド樹脂組成物が前記超微細凹凸に侵入した後に固化することによって前記金属合金と当該ポリアミド樹脂組成物の成形品が接合される接合工程と、
    を含むことを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体の製造方法。
  16. 請求項15に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
    前記金属合金は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、及び鉄鋼材から選択されるいずれか1種であることを特徴とする前記製造方法。
  17. アルミニウム合金の表面を、20〜80nm周期の超微細凹凸で覆い、且つ、その表面に窒素含有化合物が吸着した状態とするために、アミン系化合物水溶液による表面処理を行う表面処理工程と、
    前記表面処理工程を経たアルミニウム合金を射出成形金型にインサートするインサート工程と、
    インサートされた前記アルミニウム合金の表面に、樹脂分が全て脂肪族ポリアミド樹脂であって、且つポリアミド610を樹脂分の10〜100質量%含むポリアミド樹脂組成物を射出し、当該射出されたポリアミド樹脂組成物が前記超微細凹凸に侵入した後に固化することによって前記アルミニウム合金と当該ポリアミド樹脂組成物の成形品が接合される接合工程と、
    を含むことを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体の製造方法。
  18. α−β型チタン合金の表面に、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8〜10μm、最大高さ(Rz)が0.2〜5μmであるミクロンオーダーの粗度を生じさせ、且つ、10μm角の面積内に円滑なドーム形状と湾曲した枯葉形状の双方が存在する微細凹凸を形成し、且つ、表層を、主としてチタン及びアルミニウムを含む金属酸化物の薄層とするための表面処理を行う表面処理工程と、
    前記表面処理工程を経たα−β型チタン合金を射出成形金型にインサートするインサート工程と、
    インサートされた前記α−β型チタン合金の表面に、樹脂分が全て脂肪族ポリアミド樹脂であって、且つポリアミド610を樹脂分の10〜100質量%含むポリアミド樹脂組成物を射出し、当該射出されたポリアミド樹脂組成物が前記微細凹凸に侵入した後に固化することによって前記α−β型チタン合金と当該ポリアミド樹脂組成物の成形品が接合される接合工程と、
    を含むことを特徴とする金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体の製造方法。
  19. 請求項15に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
    前記金属合金は鉄鋼材であって、
    前記表面処理工程は、前記鉄鋼材を硫酸水溶液に浸漬する化学エッチング工程のみからなることを特徴とする前記製造方法。
  20. 請求項15に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
    前記金属合金は鉄鋼材であって、
    前記表面処理工程は、前記鉄鋼材を硫酸水溶液に浸漬する化学エッチング工程と、
    この化学エッチング工程を経た前記鉄鋼材を6価クロム化合物、過マンガン酸塩、及びリン酸亜鉛系化合物から選択される1種を含む水溶液に浸漬することにより、当該鉄鋼材の表層をクロム酸化物、マンガン酸化物、及び亜鉛リン酸化物から選択されるいずれか1種を主成分とする薄層とするための化成処理工程を含むことを特徴とする前記製造方法。
  21. 請求項15に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
    前記金属合金は鉄鋼材であって、
    前記表面処理工程は、前記鉄鋼材を硫酸水溶液に浸漬する化学エッチング工程と、
    この化学エッチング工程を経た前記鉄鋼材を、アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種を含む水溶液に浸漬する吸着工程を含むことを特徴とする前記製造方法。
  22. 請求項21に記載した金属合金とポリアミド樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
    前記吸着工程を経た前記鉄鋼材を6価クロム化合物、過マンガン酸塩、及びリン酸亜鉛系化合物から選択される1種を含む水溶液に浸漬することにより、当該鉄鋼材の表層をクロム酸化物、マンガン酸化物、及び亜鉛リン酸化物から選択されるいずれか1種を主成分とする薄層とするための化成処理工程をさらに含むことを特徴とする前記製造方法。
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