本発明は、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートおよびそれを用いた発光装置に関するものである。
従来の技術として、例えば特許文献1、2に開示されている技術がある。
図14は、一般的な有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)を用いた発光装置の断面構成と光の伝搬の様子を示している。基板101の上に電極102、発光層103、透明電極104がこの順に積層され、透明電極104の上には透明基板105が載せられている。電極102、透明電極104の間に電圧を印加することで、発光層103の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極102において反射した後、透明電極104を透過し、透明基板105の表面上の点Pに表面の面法線に対して角度θで入射し、この点において屈折して空気層106側に出射する。
透明基板105の屈折率をn’1とすると、入射角θが臨界角θc=sin−1(1/n’1)より大きくなった時、全反射が発生する。例えば、θc以上の角度で透明基板105の表面上の点Qに入射する光は全反射し、空気層106側に出射することはない。
図16(a),(b)は上記発光装置において透明基板105が多層構造を有していると仮定した場合における光取り出し効率を説明する説明図である。図16(a)において、発光層103の屈折率をn’k、空気層106の屈折率をn0、発光層103と空気層106の間に介在する複数の透明層の屈折率を発光層103に近い側からn’k-1、n’k-2、…、n’1とし、発光層3内の点Sから発光する光の伝搬方位(屈折面の面法線となす角)をθ’k、各屈折面での屈折角を順にθ’k-1、θ’k-2、…、θ’1、θ0とすると、スネルの法則より次式が成り立つ。
n’k×sinθ’k=n’k-1×sinθ’k-1=…=n’1×sinθ’1=n0×sinθ0 (式1)
従って、次式が成り立つ。
sinθ’k=sinθ0×n0/n’k (式2)
結局、(式2)は発光層103が空気層106に直接接触する場合のスネルの法則に他ならず、間に介在する透明層の屈折率には関係せずに、θ’k≧θc=sin−1(n0/n’k)で全反射が発生することを表している。
図16(b)は、発光層103から取り出せる光の範囲を模式的に示したものである。取り出せる光は、発光点Sを頂点、臨界角θcの2倍を頂角とし、屈折面の面法線に沿ったz軸を中心軸とする2対の円錐体107、107’の内部に含まれる。点Sからの発光が、全方位に等強度の光を放射するものとし、屈折面での透過率が臨界角以内の入射角で100%とすれば、発光層103からの取り出し効率ηは、球面108の表面積に対する、円錐体107、107’により球面108を切り取った面積の比に等しく、次式で与えられる。
η=1−cosθc (式3)
なお、実際の取り出し効率ηは臨界角以内の透過率が100%とはならないので、1−cosθcよりも小さくなる。また、発光素子としての全効率は、発光層の発光効率を上記取り出し効率ηに乗じた値となる。
上記のメカニズムに対して、特許文献1には、有機EL素子において、透明基板から大気へと光が出ていくときの透明基板表面での全反射を抑制する目的で、基板界面や内部の面あるいは反射面に回折格子を形成し、光取り出し面に対する光の入射角を変化させることにより光の取り出し効率を向上させるという原理に基づくものと記載されている発明が開示されている。
また、特許文献2には、光の取り出し効率のよい平面発光装置を提供するため、有機EL素子において透明基板の表面に透明の突起物を複数形成して透明基板と空気との界面における光の反射を防止することができると記載されている。
特開平11−283751号公報
特開2005−276581号公報
しかしながら、上述のような従来の発光装置において以下の問題があった。
図14に示す従来の有機EL素子を用いた発光装置では、発光層103からの光取り出し効率ηが最大でも1−cosθcを超えることがなく、発光層103の屈折率が決まれば、光取り出し効率の最大値が一義的に制限されていた。例えば、(式2)に於いてn0=1.0、n’k=1.457とすると、臨界角θc=sin−1(n0/n’k)=43.34度であり、光取り出し効率の最大値は1−cosθc=0.273程度と小さく、n’k=1.70では0.191程度まで下がる。
また、特許文献1に開示された技術では、確かに全反射になるべき光を取り出すことができるが、その逆もある。すなわち、回折格子層が無いと仮定したときに発光層内の点から出射した光が、透明基板の屈折面(出射面)において臨界角より小さい角度で入射して透過、屈折する場合があるが、回折格子層がありそこで回折するときは、屈折面に対する入射角が臨界角を超え、全反射する場合がある。従って、特許文献1に開示された技術は光取り出し効率の向上を保証するものではない。さらに特許文献1に開示された技術では、全ての光線に一律に所定量の方位がシフトした回折光が発生する。このような回折光を含んだ光は、方位によって光強度に分布があり、所定量のシフト幅が出射光の波長に依存することから、方位による色のアンバランスが存在する。
また、特許文献1に開示された発光装置では、外界(空気層側)から入射する光は透明基板の表面を規則的に反射し、発光層から取り出される光にとって外乱(いわゆる映り込み)となるため、透明基板の表面には反射防止膜等の光学処理が必要であり、製品コストを押し上げていた。
一方、特許文献2に開示された発光装置は屈折面における光の反射防止を目的にしたもので、この構造による光取り出し効率の改善は1、2割程度と小さいものに収まる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、臨界角以上の透明基板への入射光も出射させて光取り出し効率の大幅な向上を実現するとともに、映り込みを防ぎ、方位による光強度の分布や色のアンバランスの発生も抑えるシートおよび発光装置を提供することにある。
上記の課題を解決するために、本発明の第1のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上1.5μm以下の複数の微小領域δによって仮想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、該複数の微小領域δからランダムに40%以上98%以下の割合で選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ突出していてその高さはd/2であり、前記微小領域δ2は、前記所定の基準面に対して前記他方の面下方へ窪んでいてその深さはd/2であり、前記所定の基準面は、前記微小領域δ1と前記微小領域δ2との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存しており、前記dは0.2μm以上1.4μm以下である構成とした。
このような構成により、発光体からシート内部を通過してシートの他方の面に入射した光は、他方の面の面法線に対して臨界角以上の角度で入射しても他方の面上に設けられた微小領域による表面構造が、全反射が生じることを妨げて、その光の一部を外部に出射するとともに、他方の面で発光体の方に反射した光も発光体内の反射により再びシートの他方の面に入射すると全反射が生じず一部が外部へ出射される。
本発明の第2のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上1.5μm以下の複数の微小領域δによって仮想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δのそれぞれは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して0以上d/2以下の範囲内のランダムな高さで上方に位置している、あるい0以上d/2以下の範囲内のランダムな深さで下方に位置しており、前記所定の基準面は、前記他方の面に垂直な方向における最も高い位置に存する前記微小領域δと最も低い位置に存する前記微小領域δとの中間の位置に存しており、前記dは0.2μm以上1.4μm以下である構成とした。
本発明の第3のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、 他方の面は、内接する最大の円の直径が0.4μm以上1.0μm以下の複数の微小領域δによって仮想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、微小領域δ1と微小領域δ2とは、一方の面に垂直に入射した光のうち、微小領域δ1を透過した光と、微小領域δ2を透過した光との間に、180度の位相差を生じさせる構成とした。
前記微小領域δは多角形且つそれぞれ合同な形状にすることができる。
本発明の第1の発光装置は、発光体と、該発光体の発光面の上に設けられた透明な保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層の前記発光面に隣接している面とは反対側の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上1.5μm以下の複数の微小領域δによって想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、該複数の微小領域δからランダムに40%以上98%以下の割合で選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ突出していてその高さはd/2であり、前記微小領域δ2は、前記所定の基準面に対して前記他方の面下方へ窪んでいてその深さはd/2であり、前記所定の基準面は、前記微小領域δ1と前記微小領域δ2との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存しており、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を発し、前記保護層の屈折率がn1、前記保護層が前記反対側の面において接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0であり、λ/6(n1−n0)<d<λ/(n1−n0)である構成とした。
本発明の第2の発光装置は、発光体と、該発光体の発光面の上に設けられた透明な保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層の前記発光面に隣接している面とは反対側の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上1.5μm以下の複数の微小領域δによって仮想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δのそれぞれは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して0以上d/2以下の範囲内のランダムな高さで上方に位置している、あるいは0以上d/2以下の範囲内のランダムな深さで下方に位置しており、前記所定の基準面は、前記他方の面に垂直な方向における最も高い位置に存する前記微小領域δと最も低い位置に存する前記微小領域δとの中間の位置に存しており、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を発し、前記保護層の屈折率がn1、前記保護層が前記反対側の面において接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0であり、λ/6(n1−n0)<d<λ/(n1−n0)である構成とした。
本発明の第3の発光装置は、発光体と、該発光体の発光面の上に設けられた透明な保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層の前記発光面に隣接している面とは反対側の面は、内接する最大の円の直径が0.4μm以上1.0μm以下の複数の微小領域δによって仮想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1と前記微小領域δ2とは、前記保護層の前記発光面に隣接している面に前記発光体から垂直に入射した光のうち、前記微小領域δ1を透過した光と、前記微小領域δ2を透過した光との間に、180度の位相差を生じさせる構成とした。
前記媒質を空気とすることができる。
前記媒質をエアロゲルとすることができる。
前記発光体の光が生じる部分の屈折率がn2であるとき、n2−n1<0.1である構成とすることができる。
以上より、臨界角を超えた光の取り出しを繰り返し行えるため、光取り出し効率の大幅な改善が可能となる。さらに、ランダムな構造での回折になるため、回折方位に規則性が無くなり、映り込みや方位による光強度の分布や色のアンバランスの発生を抑えることが可能である。
第1の実施の形態に於ける有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す図である。
(a)は第1の実施の形態に於ける表面構造の一部拡大図であり、(b)はより広い範囲におけるパターン図である。
第1の実施の形態に於ける表面構造の透過率tの入射角依存性を示す説明図であって、(a)は1回目の透過率の入射角依存性を示す説明図であり、(b)2回目の透過率の入射角依存性を示す説明図である。
第1の実施の形態の表面構造における取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であって、(a)は1回目の取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であり、(b)2回目の取り出し光量の入射角依存性を示す説明図である。
第1の実施の形態に於ける表面構造の光取り出し効率を示す説明図である。
(a)は第2の実施の形態に於ける表面構造の光取り出し効率を示す説明図(b)は第3の実施の形態に於ける表面構造の光取り出し効率を示す説明図である。
(a)乃至(e)は第4の実施の形態に於ける表面構造のパターンを決定するまでの説明図である。
(a)は第6の実施の形態の第1の表面構造を、(b)は第2の表面構造を示す図である。
(a)、(b)はその他の実施の形態に於ける有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す説明図である。
表面構造がチェッカー形状をなすパターン図である。
図10に示した表面構造の透過率tの入射角依存性を示す説明図である。
(a)〜(c)は突起物のランダムな配置の仕方を説明する説明図である。
(a)乃至(h)は屈折面における光の場の境界条件を説明する説明図である。
有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す説明図である。
(a)は屈折率のステップ状の変化を、(b)は屈折率のなだらかな変化を、(c)は屈折面における入射角と透過率との関係を、(d)は屈折面を示す図である。
(a)は多層構造の透明基板を、(b)は取り出し可能な光の範囲を説明する図である。
(a)は周期的構造を有した回折格子を界面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)の上面を示す図である。
回折格子による回折方位を説明する説明図である。
(a)はランダムに配置された突起を表面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)の上面を示す図である。
(a)はピンホールを、(b)は位相シフターを配置した図である。
180度位相シフターがランダムに配置された屈折面の入射角に対する透過率を示した図である。
調整層を有する発光装置の断面を示した図である。
調整層との境界にも表面構造を設けた発光装置の断面を示した図である。
第1の実施の形態に於ける表面構造の透過率tの入射角依存性を示す実験説明図である。
180度位相シフターがランダムに配置された屈折面の入射角に対する透過率を示す実験説明図である。
入射角に対する透過率を測定するための実験装置の構成図である。
第2の実施形態における取り出し効率を示す説明図である。
第1の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第1の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
チェッカーパターン表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
符号の説明
1 基板
2 電極
3 発光層
4 透明電極
5 透明基板
6 空気
13 表面構造
S 発光点
本願発明の実施形態を説明する前に、特許文献1や特許文献2等の先行例を踏まえて、本願発明に至るまでの検討経過を説明する。
図15は屈折面(透明層表面と空気層との界面)での透過率を説明する説明図である。屈折率1.5の透明層107の内部から紙面方向に沿って透明層107の屈折面107aに角度θで入射し、空気側(屈折率1.0)に屈折する光の透過率は光の偏光状態に関係する。通常は、屈折面107a近傍での面法線に沿った屈折率分布が図15(a)に示すようなステップ状であるので、P偏光(電界ベクトルが紙面に平行な振動成分)は曲線108a、S偏光(電界ベクトルが紙面に直交する振動成分)は曲線108bの透過率特性を示す。いずれも入射角が臨界角(=41.8度)以下での振る舞いは異なるが、臨界角を超えるとゼロになる。
一方、透明層107の表層部分を多層構造として屈折率分布が図15(b)に示すようなテーパ状になると仮定すると、P偏光は曲線108A、S偏光は曲線108Bの透過率特性を示す。いずれも臨界角を超えるとゼロになることは変わらないが、臨界角以下での透過率が100%に近づき、臨界角を境にしたステップ関数の形状に近づく。図15(b)では屈折率が1.5から1.0まで0.01の偏差をなす厚さ0.01μmの膜を50層重ねた構造として計算したが、厚さ方向の屈折率変化の勾配が緩やかな程、P偏光、S偏光の差がなくなり、いずれも入射角に対する透過率のグラフがステップ関数に近づく結果が得られる。
全反射しないようにするためには、屈折面に入射する光の入射角を臨界角以下にする工夫が必要である。そのような工夫の一つとして、特許文献1を例にとり、図17に示す、透明基板205と透明電極204との界面に回折格子209を設けた有機EL素子を用いた発光装置の検討を行った。
図17(a)に示すように基板201の上に電極202、発光層203、透明電極204、回折格子層209をこの順に積層し、回折格子層209の上には透明基板205を設けている。回折格子層209は透明基板205との間でx方向、y方向ともピッチΛの凹凸周期構造をなし、凸部の形状は図17(b)に示すような幅wの正方形であって、この凸部を千鳥格子状に並べている。電極202、透明電極204の間に電圧を印加することで、発光層203の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極202において反射した後、透明電極204を透過し、回折格子層209を透過し、回折する。例えば、点Sを出射する光210aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると、光210bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以上の角度で入射して全反射するが、実際には回折格子層209において回折するので、光210cのように屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも小さくなり、これを透過できる。
上記の回折格子による回折方位を図18に従って説明する。屈折率nAの透明層207の内部から紙面方向に沿って透明層207の屈折面207a上の点Oに角度θで入射し、屈折率nBの透明層206側に回折する波長λの光を考える。屈折面207aには紙面に沿ってピッチΛをなす回折格子が形成されている。紙面上に点Oを中心にする半径nAの円211と半径nBの円212を描く。入射ベクトル210i(円211の円周上を始点として角度θで点Oに向かうベクトル)の屈折面207aへの正射影ベクトル(垂線の足Aから点Oに向かうベクトル)を210Iとし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210rを、その正射影ベクトル210Rがベクトル210Iと同一になるように描く。垂線の足Cを始点として、大きさqλ/Λのベクトル(格子ベクトル)を考える。ただし、qは回折次数(整数)である。図ではq=1の場合のベクトル210Dを描いており、その終点Bを垂線の足とし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210dを描く。作図の仕方から、ベクトル210rの方位角φ(屈折面法線となす角)は次式で与えられる。
nB×sinφ=nA×sinθ (式4)
これはスネルの法則そのものである。一方、回折光線の方位を与えるベクトル210dの方位角φ'(屈折面法線となす角)は次式で与えられる。
nB×sinφ'=nA×sinθ−qλ/Λ (式5)
ただし、図18の場合の角φ'はz軸(点Oを通る屈折面法線)を跨いでいるのでマイナスで定義される。
すなわち、回折光線は屈折光線からqλ/Λの分だけ方位がずれることになる。図17において、回折しないと仮定した光線210bは屈折光線に相当し、回折する光線210cは光線210bからqλ/Λの分だけ方位がずれることで、屈折面205aでの全反射を免れていることになる。従って、全反射になるべき光を取り出すことができるので、回折格子層を持たない有機EL発光装置に比べ、光取り出し効率の向上が見込めるようにも考えられる。
しかしながら、図17(a)において点Sを出射する光210Aを考えた場合、光210Aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると光210Bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以下の角度で入射して屈折面205aを屈折して透過していくが、実際には回折格子層209において回折するので、光210Cのように屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも大きくなり屈折面205aに臨界角以上の角度で入射して全反射してしまう。このように、回折格子層209を設けても光取り出し効率の向上は必ずしも保証されるわけではない。
また、図17に示す有機EL素子を用いた発光装置では、全ての光線に関して一律にqλ/Λの分だけ方位がシフトした回折光が発生する。このような回折光を含んだ光は方位によって光強度に分布があり、シフト幅qλ/Λが出射光の波長λに依存するため、光が出射する方位によって色のアンバランスが存在する。即ち、見る方向によって異なる色の光が見えることになり、ディスプレイ用途にはもちろん、光源としても不都合である。
次に特許文献2を例にとり、図19に示す、透明基板305の表面に突起物315を設けた有機EL素子を用いた発光装置について検討を行った。図19(a)に示すように基板301の上に電極302、発光層303、透明電極304、透明基板305をこの順に積層し、透明基板305の表面305aに複数の突起物315を形成している。突起物315は幅w、高さhの四角柱形状のものを図19(b)に示すように透明基板表面305a上でランダムな位置に配置している。wの大きさは0.4〜20μm、hの大きさは0.4〜10μmの範囲にあり、このような突起物315を5000〜1000000個/mm2の範囲の密度で形成している。電極302、透明電極304の間に電圧を印加することで、発光層303の内部の点Sで発光し、この光310dは直接、もしくは電極302を反射した後、透明電極304を透過し、その一部が突起物315を通じて310fのように外界に取り出される。実際の突起物315はサイドエッチングにより先端に行くほど細くなるよう加工できるし、サイドエッチングが無くても実効的な屈折率が透明基板305と空気との中間付近の値を取るので、等価的に屈折率分布を緩やかに変化させられる。従って図15(b)に示す屈折率分布に近い分布となるため、突起物315により310eで示されるような光の反射を一部防止することができ、結果として光の取り出し効率を向上させることができる。また突起物315のサイズを波長以上に設定しても、突起物315がランダムに並んでいるので取り出された光の干渉を抑えることができる。
しかしながら、図19に示す構造の発光装置は、突起物の効果が特許文献2の中で主張されている反射防止にあるとすると、図15(c)の曲線108a,108bと曲線108A,108Bとの比較からわかるように、透過率の向上は臨界角以下の光によるものに限られ、光の取り出し効率の改善は1,2割程度に止まり、大きな改善は見込めない。
以上のような検討を行い、これらに基づいて本願発明者らは屈折面での全反射される光量を減らし、取り出せる光量を如何にして増すかについてさらに検討を重ねていった。さらなる検討の手始めとして屈折面での光の境界条件を検討した。
図13は屈折面に於ける光の場の境界条件を模式的に示しており、幅Wの光が屈折面Tに入射する場合を考えている。マックスウェルの方程式から、電界ベクトル又は磁界ベクトルに関して、屈折面Tを挟んで周回する経路Aに沿った積分はゼロである。ただし周回路内部に電荷や光源がなく、屈折面Tに沿った電界ベクトルまたは磁界ベクトルの強度、位相が連続していることが前提条件である。
図13(a)のように幅Wが十分大きい場合には、屈折面に直交する幅tを屈折面に沿った幅sに比べ無視できるほど小さくでき、周回積分の内、屈折面に沿った成分しか残らない。この関係から、屈折面を挟んで電界ベクトル又は磁界ベクトルが連続することが求められる。この連続性の関係を利用して導出されるのがフレネルの式であり、この式により反射、屈折の法則や全反射の現象等が完全に解き明かされる。
図13(b)のように、光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCに分割すると(図13(c)参照)、このうち周回積分Bは光束内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは光束外での電界ベクトル又は磁界ベクトルがゼロなので、光束内にある経路PQの積分値だけが残る(図13(d)参照)。従って周回積分Cはゼロではなくなり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。さらに、光の幅Wが波長の1/10程度まで小さくなると、図13(e)に示すように、周回積分CとC’が近接し経路PQとQ’P’が重なるので、CとC’を合わせた周回積分がゼロになり、周回路内で光が発光することはなくなる。
一方、図13(f)のように、πだけ位相差がある光が屈折面に沿って並ぶ場合、これらの光束をまたがる周回積分Aを考える。この場合も光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCとB’に分割すると(図13(g)参照)、このうち周回積分B、B’は光束内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは屈折面に沿った成分が無視でき、2つの光束の境界に沿った経路PQとQ’P’の積分値だけが残る(図13(h)参照)。光束の位相がπの場の経路Q’P’での積分は光束の位相が0の場の経路P’Q’での積分に等しいので、周回積分Cは経路PQでの積分の2倍の大きさになり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。従って、幅の狭い光だけでなく狭い幅を介して位相が異なる光が並ぶ場合でも幅の境界付近で光が発生する(実際に発光するのではなく、実効的に発光と同じ振る舞いする現象であり、回折理論の成立前にヤングが提唱した境界回折という現象に似ているので境界回折効果と呼ぶ)。
屈折面Tにおいてどのような入射条件であろうとも屈折面上で発光があると、その光は屈折面を挟んだ両方の媒質内に伝搬する。すなわち、臨界角以上の入射光であっても、計算上屈折面で発光が生じるようにすれば全反射しないで透過光が現れると考えられる。そこで、本願発明者らはこのような考察結果から、臨界角を超えても光が透過する現象を実際に生じさせるための屈折面の構造を以下のように検討した。
境界回折効果が強く出る例として図20に示すように、発光体に載せられた透明基板の空気との境界面に(a)ピンホールを設けそれ以外は遮光してピンホール光(□w内のみに光が存在)としたものと、(b)幅wで仕切られた碁盤の目に180度の位相シフター18をランダムに配置したものとを取り上げた。なお最初はピンホールで検討を行ったが、ピンホールでは現実的な光の取り出しがほとんどできないので、ピンホールと同じ光取り出し特性を示すと考えたランダム配置の位相シフターも検討した。
図21は図20で示した構造での、屈折面における透過率tの入射角依存性を示す説明図であり、光の波長を0.635μmとし、屈折率1.457の透明基板内で光量1の光が空気との境界面に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、どれだけが空気側に出射するかを幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、2.0、4.0、20.0μm)にして示している(ピンホール光も180度位相シフターも全く同じ特性を示すので180度位相シフターのもので代用する)。図13(a)の条件に近いw=20μmの特性は、臨界角(43.34度)を超えると透過率がほぼゼロになる。wが0.4〜1.0μmまで小さくなると、図13(d)、(h)で説明した境界回折効果により、臨界角を超えても大きな透過率が存在する。更にwを小さくすると(w=0.1,0.2μm)、図13(e)で説明した様に、あらゆる入射角で透過率が0に近づいてくる。なお、図21はヘルムホルツの波動方程式(いわゆるスカラー波動方程式)に基づく解析結果なので、P偏光とS偏光の差は現れていない。
図25は、P偏光入射に於ける1回目の透過率tの入射角依存性を示す実験結果である。微細な位相シフター18の作製は実際には困難であるので、位相0度の部分を透過させ、位相180度の部分を遮光膜(Cr膜)で覆ったマスク(いわゆる幅wで仕切られた碁盤の目に遮光膜をランダムに配置したもので、ピンホール光をランダムに配置したものと同じ)で代用し、実験を行った。実際に作製したマスクパターンでは幅wが0.6、0.8、1.0、2.0、5.0μmであった。実験装置は図26に示すように、半導体レーザー(波長0.635μm)、三角プリズム58(BK7)、マスク基板59(合成石英、屈折率は1.457、裏面にマスクパターン形成)、集光レンズ系50、光検出器51からなり、屈折率1.51のマッチング液52を挟んで三角プリズムをマスク基板の表面に密着させ、三角プリズム側から方位角を計測しながらレーザー光を入射し、裏面側から漏れ出る透過光を集光レンズ系50で集め、光検出器51で透過光量を測定する。マスクの場合、全体の1/2の面積に相当する遮光膜の部分が遮光され、透過光量が位相シフターを用いたものに比べ1/2となるので、透過率tとしては遮光膜のない部分に入射する光量(全体の1/2の光量)で規格化する。実験結果は図21で示した解析結果と良く一致し、臨界角(43.34度)を超えても大きな透過率が存在し、wが小さいほどその傾向が強まることが分かる。
このような結果に基づいて、本願発明者らはさらに検討を進め、全反射を防いで光の取り出し効率を飛躍的に向上させる今までにない発光装置に想到するに至った。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
(第1の実施形態)
第1の実施の形態を図1から図5(a),5(b)、図28、図29に基づいて説明する。
図1は第1の実施の形態に於ける有機EL素子を用いた発光装置の断面構成と光の伝搬の様子を示している。基板1の上に電極2、発光層3、透明電極4がこの順に積層され、透明電極4の上には透明基板(透明な保護層)5が構成されている。基板1、電極2、発光層3、透明電極4が発光体を構成している。透明基板5の表面には微小領域によって区画化され微細な凹凸を有する表面構造13が形成されている。
電極2、透明電極4の間に電圧を印加することで、発光層3の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、透明基板5表面の表面構造13上の点Pに、表面の面法線に対して角度θで入射し、この点において表面構造13によって回折して空気6層側に出射する。
空気6層の屈折率をn0、透明基板5の屈折率をn1とすると、入射角θが臨界角θc=sin−1(n0/n1)より大きくなった時に全反射が発生するはずである。しかし、透明基板5表面に表面構造13があるため、点Qには臨界角θc以上の角度で光が入射しても全反射することなく回折し、空気6層側に出射する(1回目の光取り出し)。なお、点Qでは光の一部が反射するがその反射する成分は、電極2を反射した後、再び表面構造13上の点Rに入射し、その一部が空気層側6に出射し(2回目の光取り出し)、残りは反射する。以上の過程を無限に繰り返す。
ここで表面構造13がない従来の有機EL素子を用いた発光装置を考えると、臨界角以上の角度で透明基板と空気層との界面に透明基板側から入射した光は全反射し、それが電極で反射しても再び透明基板と空気層との界面においては再び臨界角以上で入射するので、2回目以降の光の取り出しは起こらず、この点で本実施の形態とは異なっている。
以下に本実施形態の特徴である表面構造13について詳しく説明をする。
図2は第1の実施の形態に於ける表面構造13のパターン図を示している。図2(a)の左が上面図であり、右は上面図のA−A断面図である。図2(a)に示すように、表面構造13は透明基板5の表面を幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に仮想的に隙間無く分割し、一つ一つの目(微小領域δ)が凸(図中の13a(微小領域δ1)、灰色の目)であるか、この凸に対して相対的に凹(図中の13b(微小領域δ2)、白の目)であるかを、比率を各50%としてランダムに割り当てたもので、図2(b)にw=0.4μmの場合の例を示している(黒が凸、白が凹に対応)。凸の突出高さは凹の底部から見てdである。即ち一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ突き出している。ここで微小領域δ1と微小領域δ2との、透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1は基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ2は基準面からd/2だけ下方に窪んでいる。あるいは、透明基板5の空気6との境界面には複数の窪み(白の部分)が存していて窪み以外の部分の上面は同一面上に存しており、窪みの深さはそれぞれ実質的に同じdであってこの窪みの底面を第1基準面とすると、第1基準面は1.5×1.5μm2以下の同じ面積を有した複数の微小領域δによって仮想的に分割されており、窪みの底面は微小領域δが2つ以上接続した形状若しくは微小領域δが1つのみである形状であり、窪みは第1基準面にランダムに配置されている、ともいえる。なお、第1基準面は、上記の基準面とは別の面である。
表面構造13の形成はエッチングで凹凸の形成された金型を作製し、この形状をプレスによりシート状の樹脂に転写し、このシートを透明基板5として接着層を介して透明電極4に貼り合わせるという方法で行ってもよい。この場合は透明基板5イコール透明なシートである。また、シートの表面あるいは保護層として形成された透明基板5の表面に直接にエッチングなどによって凹凸を形成する方法で行っても構わない。
このようなランダムパターンを回折する光はその伝搬方位もランダムになるので、特許文献1に記載された発光装置のような、方位による光強度の分布が存在せず、方位による色のアンバランスもない。また、外界(空気層側)から入射する光は透明基板5表面の表面構造13において反射するが、この反射光はランダムな方位に回折するため、外界の像が映り込むことにはならず、反射防止膜等の光学処理は不要であり、製品コストを低く抑えられる。図28から図29は第1の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す説明図であり、段差d=0.7μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図28(a)はλ=0.450μm、w=0.5μm、図28(b)はλ=0.635μm、w=0.5μm、図28(c)はλ=0.450μm、w=1.0μm、図28(d)はλ=0.635μm、w=1.0μm、図29(a)はλ=0.450μm、w=1.5μm、図29(b)はλ=0.635μm、w=1.5μm、図29(c)はλ=0.450μm、w=2.0μm、図29(d)はλ=0.635μm、w=2.0μmの条件である。原点と曲線上の点を結ぶベクトルが出射光の光強度と出射方位を表しており、ベクトルの長さが光強度、ベクトルの方位が出射方位に対応する。縦軸は面法線軸の方位、横軸は面内軸の方位に対応し、実線は面内軸が図2(b)に於けるx軸又はy軸に沿った断面(0度、90度の経度方位)、破線は面内軸がy=x又はy=−xの直線に沿った断面(45度、135度の経度方位)での特性である(90度方位の結果は0度方位、135度方位の結果は45度方位と一致するので省略する)。境界幅w=0.5、1.0μmでは実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示し、かつ両者が一致する。wを大きくし、w=2.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなり、λ=0.450μmでは実線、破線間の乖離も大きくなる。w=1.5μmは強度変動が出始めるぎりぎりの条件である。従って、面法線方向の光強度が強く、偏角(緯度)に対する変動が緩やかで、経度方向の光強度差が少ない視野角依存性は境界幅wが1.5μm以下の条件で得られることが分かる。
図3は第1の実施の形態に於ける表面構造13の透過率tの入射角依存性を示す説明図であり、透明基板5内で光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気6側に出射するかを図3(a)に示している。図3(b)は表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合、すなわち2回目に於ける透過率の入射角依存性を示している。何れの図も、透明基板5の屈折率n1=1.457、空気6の屈折率n0=1.0、光の波長λ=0.635μm、微小領域δ1の微小領域δ2に対する突出高さd=0.70μm、微小領域δ1の面積比率(即ち凸である比率)P=0.5とし、表面構造の幅wをパラメータ(w=0.1,0.2,0.4,0.6,0.8,1.0,2.0,4.0μm)にしている。なお、突出高さd=0.70μmは垂直入射に於いて凹部での透過光と凸部での透過光にπだけ位相差が発生する条件(d=λ/2(n1−n0))に相当する。
図3(a)は、w=0.1、0.2μmでの結果が異なる以外は180度位相シフターに於ける結果(図21)に近く、臨界角を超えても大きな透過率が存在する。図24はP偏光入射に於ける透過率tの入射角依存性を示す実験結果である。実際に電子線ビーム法により石英基板上に深さd=0.70μm、境界幅w=0.4μmの凹凸のランダムパターンを形成し、図26に示した測定装置を用いて実験を行った。実験結果は図3(a)で示した解析結果と良く一致し、臨界角(43.34度)を超えても大きな透過率が存在することが分かる。本実施の形態の前に説明したように、屈折面においてどのような入射条件であろうとも屈折面上で等価的な発光(いわゆる境界回折効果)があると、その光は屈折面を挟んだ両方の媒質内に伝搬する。図3で示したような臨界角を超えても光が透過する現象は、この屈折面上で等価的な発光が生じる条件にしていることから説明できる。
点発光により光は透明基板5内で球面波となって均一に拡散すると仮定すると、発光方位角θ(前述の入射角θに一致)からθ+dθの間にある光量の総和はsinθdθに比例する。従って、取り出し光量は図3(a),(b)で示した透過率tにsinθを掛けた値に比例する。図4(a)、(b)は第1の実施の形態の表面構造における取り出し光量の入射角依存性を示す説明図である。すなわち、透明基板5内の1点(実際には発光層内の点)で発光する光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気層6側に出射するかを図4(a)に示し、図4(b)は表面構造13において1回反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合、すなわち2回目の取り出し光量の入射角依存性を示している。
取り出し光量を入射角θで積分すると光取り出し効率が得られる。図5(a)、図5(b)は第1の実施の形態に於ける表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図3におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図5(a)において、表面構造13の突出高さd=0.70μmに加え、d=0.1、0.30、0.50、1.40μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰は無いとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線5a、5Aはそれぞれd=0.70μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5b、5Bはそれぞれd=0.50μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5c、5Cはそれぞれd=0.30μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。曲線5g、5Gはd=0.10μmでの1回目及び2回目の光取り出し効率であり、他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなることから突出高さdは0.20μm以上は必要である。また曲線5hに示すように、可視光波長の倍以上(d≧1.4μm)になると、幅wが1.5μm以下の領域で1回目の効率が大きく劣化するので、突出高さdは1.4μm以下が好ましい。従って、dの推奨値は0.2〜1.4μmの範囲にある。もっと一般的に言えば、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λとして、λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)の条件が段差の推奨値である。
d≦0.70μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.4〜2μmで極大になり、wを小さく、又は大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=0.10から2.0μmの間で極大値をなしwを大きくしていくと0.00に漸近し(図5の範囲では現れていない)、w≦0.10μmではwが小さくなるに従って0.00に収束する。
参考として図5(b)の曲線5d、5Dに、表面構造13ではなく、微小領域δ1に光の位相を180度変換させる位相シフターを置いた場合の1回目、及び2回目の光取り出し効率を示す。本実施の形態の表面構造13では凹部と凸部の伝搬光がその段差分だけの距離を伝搬する間に位相差が発生するのに対し、位相シフターでは伝搬距離ゼロで位相差が発生する仮想的なものである。位相シフターの場合、境界幅wを大きくしていくと1回目、2回目の光取り出し効率がそれぞれ0.27、0.00に漸近していくことは表面構造13と同じであるが、0.3μm以下に小さくしていくと、2回目のみならず1回目の光取り出し効率もゼロになる(この理由はすでに図13(e)で説明した)。本実施の形態の表面構造13が境界幅0.4μm以下の条件で位相シフターよりも高い光取り出し効率が得られる理由の一つは、凸部が光導波路として作用していることが考えられる。
透明基板5から見た、透明基板5の表面と電極2との間の往復における光透過率をτとすると、往復における光減衰を考慮した2回目の光取り出し効率はτ×η2になる。光取り出しは1回、2回にとどまらず無限に繰り返され、その関係が等比数列と仮定して1回目がη1、2回目がτ×η2であれば、n回目はη1×(τ×η2 /η1)n−1と予想できる。従って、n回目までの光取り出しの合計は
となり、無限回ではη1/(1−τ×η2 /η1)に漸近する。
図5(a)において曲線5a,5A(d=0.70μm)で見てみると、w=0.60μmの時、η1=0.318、η2=0.093であり、τ=0.88とすると、0.428の光取り出し効率が得られる。w=1.00μmの時には、η1=0.319、η2=0.102であり、0.444の光取り出し効率が得られる。一方、図14、図15(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、w=0.60μm条件では、本実施の形態の発光装置は図15(a)に示される発光装置の1.56倍、w=1.00の条件では1.62倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。このように、wを0.2μmよりも大きくすることで(一般的に表現すれば、微小領域δに内接する円の最大のものの直径を0.2μm以上とすることで)光取り出し効率の大幅な向上を実現できる。
次に本実施の形態に於ける表面構造13の光取り出し効率が波長にどのように依存するかを考察する。
図5(a)の曲線5a’、5A’、5h’、5H’は、波長0.45μmの条件での、d=0.70、1.40μmに対する1回目、及び2回目の光取り出し効率を示している。これらの特性は波長0.635μmでの結果とほぼ一致するので、可視光内の波長差に伴う取り出し効率の変化を小さくできることが分かる。
このように、本実施の形態における表面構造13は単一の形状(dとw)であっても可視光内の全波長に対して最適値に近い光取り出し効率が得られるので、この構造をディスプレイ装置の表示面に用いる場合、RGBの3種類の画素に対して個別に形状を変える必要がなく、構成や組立時の調整を大幅に簡素化できる。
また、有機EL素子では透明電極4の上に、透明基板5と電極2との間の光の往復における光透過率を調整するための透明な調整層が置かれることがある。この場合、透明基板5は調整層の上に載せられる(即ち調整層まで含んだ有機EL素子を発光体と言うことができる)が、透明基板5の屈折率n1が調整層の屈折率n1'よりも小さくなる場合、透明基板5と調整層との間に全反射が発生する境界面が存在し、特にn1'−n1>0.1の場合にはその影響が無視できなくなる。図22はその時の光の伝搬の様子を示している。
図22に於いて、屈折率n2の発光層3の内部の点Sで発光する光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、屈折率n1'の調整層15を透過し、境界面15a上の点P’において屈折して、屈折率n1の透明基板5を透過し、透明基板5と空気6との境界面上の点Pを経て空気6側に出射する。ここではn1'≧n2>n1>1.0である。なお、n1'はn2よりも小さくても構わないが、この場合は透明電極4と調整層15との間で全反射が発生する。透明基板5において空気6との境界面には本実施の形態に係る表面構造13が形成されているので、臨界角を超えた光でも空気6層側に取り出すことが出来る。しかし、n1'>n1の関係から境界面15aでも全反射が発生する。すなわち、点P’への入射より入射角の大きい点Q’への入射では全反射し、この光は電極2との間で全反射を繰り返し、空気6側に取り出すことは出来ない。
このような場合、図23に示すように、調整層15と透明基板5との境界面にも本実施の形態に係る表面構造13’を設けることでこの面での臨界角を超えた入射光を空気6側に取り出すことが出来る。すなわち、表面構造13’により臨界角を超えた点Q’への入射でも全反射は発生せず、この面で反射する成分は電極2を反射した後、再び表面構造13’上の点R’に入射し、その一部が表面構造13を経て空気6側に出射でき、以上の過程を無限に繰り返す。図23の構成は、凹凸を有する表面構造13,13’を2重に形成する複雑さはあるが、透明基板5に屈折率の低い材料を用いることが出来、材料の選択の幅を広げられるメリットを有する。
なお、(式6)より透明基板5と電極2との間の往復における光透過率τが大きければ、光取り出し効率は増大する。実際の発光層3は電極2や透明電極4以外に、上述した調整層15等の複数の透明層等に取り囲まれるが、それらの膜設計(発光層3を含めた膜の屈折率や厚みの決定)は、前述の光透過率τが最大になるように行うべきである。この時、表面構造13での反射は位相の分布がランダムになるので、反射光の重ね合わせはインコヒーレントな扱い(振幅加算でなく強度加算)になる。すなわち透明基板5表面の反射影響は無視でき、仮想的に反射率0%、透過率100%として扱える。この条件で透明基板5から光を発光させ、この光を発光層3を含む多層膜を多重に往復させ、透明基板5に戻ってくる複素光振幅の重ね合わせ光量を最大にすることを条件にして、各膜の屈折率や厚みが決定される。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態を図6、図27に基づいて説明する。なお第2の実施の形態は表面構造13のパターンが第1の実施の形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施の形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
第2の実施の形態は表面構造の凸である比率Pと凹である比率1−Pを0.5に固定するのではなく、P=0.4〜0.98としたものである。即ち、微小領域δ1(上方へ突出している領域)が40〜98%存在し、微小領域δ2(窪み)が60〜2%存在している。
図6(a)は本実施の形態に於ける表面構造の光取り出し効率を示す説明図であり、透明基板5の屈折率n1=1.457、空気6の屈折率n0=1.0、光の波長λ=0.635μm、表面構造の突出高さd=0.70μmとし、横軸に表面構造の境界幅wをおいて、比率P=0.2,0.4,0.6,0.8、0.9の場合の光取り出し効率(1回目、及び2回目)を示している。曲線6a、6b、6c、6d、6e及び6A、6B、6C、6D、6EはそれぞれP=0.2,0.4,0.6,0.8、0.9での光取り出し効率である。図27の曲線27a、27Aは上記の条件で境界幅w=1.0μmとし、凸である比率Pを横軸にして光取り出し効率(1回目、及び2回目)をプロットしている。
図6(a)より、1回目の光取り出し効率ではwの全ての領域で比率P=0.2の特性が最小となり、w≦2μmではP=0.6の特性が最大値を与える。2回目の光取り出し効率ではw≦4μmの範囲でP=0.9の特性が最も大きく、P=0.2の特性が最小となる。
図27の曲線27aより、1回目の光取り出しでは凹凸の面積比率を支配する比率Pを0.6を中心とする0.4〜0.8の範囲に設定することで、光取り出し効率をより高められる。これはこの範囲で凸部が光導波路として効果的に作用するためであると考えられる(P≦0.2では導波路を形成する凸部の面積比が少なく、P≧0.8では凸部同士が近づきすぎて導波効果が薄まる)。一方、図27の曲線27Aより、2回目の光取り出しでは比率Pを0.9を中心とする0.5〜0.98の範囲に設定することで、光取り出し効率をより高められる。従って、1回目、2回目を含めたトータルの光取り出し効率では比率Pを0.4〜0.98の範囲に設定することが好ましい。
このように、本実施の形態では比率Pを0.5からずらすことで、第1の実施の形態よりも高い光取り出し効率が得られる。また、第1の実施の形態と同様に、方位による光強度の分布や色のアンバランスがない上、光取り出し効率の大幅な向上を実現でき、外界の像の映り込みも抑えられる等の効果を有する。
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態を図6(b)に基づいて説明する。なお第3の実施の形態は表面構造13の段差条件が違うだけで、他の構成は全て第1、第2の実施の形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
第3の実施の形態は第1、第2の実施の形態に於ける表面構造の隣接する2つの微小領域δ1,δ2間の段差の量をランダムにした場合である。ランダムにする方法としては、図2(a)において、透明基板5の表面を幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に仮想的に隙間無く分割し、単一の基準面に対し一つ一つの目に−dm/2からdm/2までの間の任意の高さ(または深さ)をランダム関数に基づきランダムに設定したものである。単一の基準面としては、透明基板5の表面の面法線に平行な方向において、最も高い位置に存する微小領域δと最も低い位置に存する微小領域δとの中間に存する、透明基板5の表面に平行な面である。dmは最も高い位置にある微小領域δと最も低い値にある微小領域δとの高さ方向の位置の差である。
図6(b)は本実施の形態に於ける表面構造の光取り出し効率を示す説明図であり、透明基板5の屈折率n1=1.457、空気6の屈折率n0=1.0、光の波長λ=0.635μmとし、横軸に表面構造の境界幅(微小領域δの幅)wをおいて、最大段差dm=1.4,0.9,0.7、0.3μmの場合の1回目の光取り出し効率η1、2回目の光取り出し効率η2を示している。計算の都合から基準面からの段差量のランダム性として、dm=1.4μmでは−0.7μmから0.7μmまでの0.467μmステップで4種類の段差、dm=0.9μmでは−0.45μmから0.45μmまでの0.3μmステップで4種類の段差、dm=0.7μmでは−0.35μmから0.35μmまでの0.233μmステップの4種類の段差、dm=0.3μmでは−0.15μmから0.15μmまでの0.1μmステップの4種類の段差をそれぞれランダムに選択する条件(出現確率がそれぞれ25%の条件)で行った。なお、各ステップの出現確率は均等である必要はなく、例えば低い(深い)位置のステップの出現確率を小さく、高い(浅い)位置のステップの出現確率を大きくしてもよい。
曲線6i、6Iはそれぞれdm=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線6h、6Hはそれぞれdm=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線6g、6Gはそれぞれdm=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線6f、6Fはそれぞれdm=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。第1実施例と同様に、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜2μmで極大になり、wを小さく又は大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面を鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率は、w≦0.20μmではwが小さくなるに従って0に収束し、図には現れないがwを8μmより大きくしていくと0.00に漸近する。従って境界幅wの範囲は0.2μm以上の大きさである必要があり、さらに第1実施例の図28、図29で議論したように、視野角依存性の関係から1.5μm以下が好ましい。図6(b)においてdm=0.7μm、境界幅w=0.6μmの条件で計算した1回目、2回目の光取り出し効率(η1、η2)は0.331、0.141となる。従って、dm=0.7μmで得られる特性は第1の実施の形態で得られる特性(曲線5A)や第2の実施の形態で得られる特性(曲線6B,6C)に比べ、2回目の光取り出し効率が向上している。これは凸部の先端が不揃いになることで、パターンのランダム性が増し、表面構造を反射する光の伝搬方位のランダム性も増して反射光の拡散性が高まり、2回目の光取り出しでも1回目に近い状態(全方位に均一な光強度の状態)で光が入射できるためと考えられる。
なおw≧0.4μmの範囲でdm=0.70μmに比べてdm=0.30μmの一回目における特性が劣化していることから、dmはdm≧0.2〜0.3μmであることが好ましい(この範囲は第1の実施の形態と同じである)。また、dm=1.40μmはw≧1.0μmの範囲でdm=0.70μmに比べ1回目の特性が微改善するが、dmが大きすぎると加工が困難になるうえ、w≧1.5μmの条件で視野角特性が劣化するので(図28、29参照)、1.40μmがdmの上限の目安といえる。これらの範囲は第1の実施の形態の範囲(λ/(n1−n0)≧dm≧λ/6(n1−n0))と同じである。
この様に、第3の実施の形態は段差の量をランダムにすることで、第1、第2の実施の形態よりも高い光取り出し効率が得られる。また、第1の実施の形態と同様に、方位による光強度の分布や色のアンバランスがない上、外界の像の映り込みも抑えられる等の効果を有する。
なお、段差の量をランダムにする条件として、(1)0から最大段差量dmまでの全ての値をとる場合、(2)0と最大段差量dmを含めて3段以上の段差の内のいずれかをとる場合、の2つが考えられる。このうち(2)の一例として、0、dm/3、dm×2/3、dmの4種類の段差を取る場合を考えると、このような表面構造をシート表面に形成するための形状転写用の金型は、2回の露光、エッチング工程(1回目:露光で境界幅w1のマスクパターンを用い、深さdm/3のエッチング、2回目:露光でマスクを境界幅w2のマスクパターンに変えて深さdm×2/3のエッチング)で作製することができる。このとき、不連続な境界線の出現頻度を最大にするには、w2=w1が条件となる。
さらに、0,dm/6,dm×2/6,dm×3/6,dm×4/6,dm×5/6,dmの7種類の高さ(段差)を取る場合を考えると、このような表目構造をシート表面に形成するための形状転写用の金型は、3回の露光、エッチング工程(1回目:露光で境界幅w1のマスクパターンを用い、深さdm/6のエッチング、2回目:露光でマスクを境界幅w2のマスクパターンに変えて深さdm×2/6のエッチング、3回目:露光でマスクを境界幅w3のマスクパターンに変えて深さdm×3/6のエッチング)によって作製することができる。このとき、不連続な境界線の出現頻度を最大にするには、w1=w2=w3が条件となる。
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態を図7に基づいて説明する。なお第4の実施の形態は表面構造のパターンが第1の実施の形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施の形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図7は第4の実施の形態に於ける表面構造のパターンを決定するまでの過程を示している。図7(a)は、透明基板5の表面を幅w1の碁盤の目(正方形の微小領域α)に分割し、一つ一つの目が黒であるか白であるかの比率を各50%として白と黒とをランダムに割り当てたもので、図ではw1=1μmの場合の例を示している(w1の最適値はもっと小さいところにあるが、図として見にくくなるのでこの値で説明する)。黒に割り当てられた微小領域αは微小領域α1であり、白に割り当てられた微小領域αは微小領域α2である。
図7(b)は、透明基板5の表面をw1の整数倍の大きさの幅w2の碁盤の目(正方形の微小領域β)に分割し、一つ一つの目が黒である比率をP2、白である比率を1−P2とし、P2=0.5として白と黒とをランダムに割り当てたもので、図ではw2=2μmの場合の例を示している。黒に割り当てられた微小領域βは微小領域β1であり、白に割り当てられた微小領域βは微小領域β2である。
図7(c)は、図7(a)、図7(b)のパターンを碁盤の目が揃うように重ね合わせ、黒(α1)と黒(β1)の重なりは白に、白(α2)と白(β2)の重なりは白に、白(α2)と黒(β1)、又は黒(α1)と白(β2)の重なりは黒にするというルールで生成されたパターンである。図7(c)は結果として図7(a)のパターンと生成ルールが等しくなり、黒を凸とし、それに対して相対的に白は凹となる表面構造のパターンは第1の実施の形態で紹介しているものと同じである。
一方、図7(d)は、透明基板5の表面を幅w1の碁盤の目(正方形の微小領域α)に分割し、一つ一つの目が黒である比率をP1、白であるかの比率を1−P1としてランダムに割り当てたもので、図ではw1=1μm、P1=0.1の場合の例を示している。図7(a)と同様に、黒が微小領域α1、白が微小領域α2である。
図7(e)は、図7(d)、図7(b)のパターンを碁盤の目が揃うように重ね合わせ、黒(α1)と黒(β1)の重なりは白に、白(α2)と白(β2)の重なりは白に、白(α2)と黒(β1)、又は黒(α1)と白(β2)の重なりは黒にするというルールで生成されたパターンである。図7(e)は黒、白の面積比率が1:1であり、黒マーク、白マークの最小サイズが同じになるなど、図7(c)のパターンと似た特徴をなすが、最小サイズの出現比率が低い点で違いがある。最終的な黒と白の比率(凹凸の面積比率)は比率P1、P2で決まり、黒の比率P(凸となる比率)はP=P1+P2−2P1P2で与えられる。
図27に、表面構造の凸部分の突出高さd=0.70μm、w1=0.2μm、w2=1μm、P1=0.1の条件で、凸となる比率Pを横軸にして計算した1回目、2回目の光取り出し効率(η1、η2)の特性を曲線27b,27Bとして付記する。
図27の曲線27bより、第1実施例とは異なったパターンの凹凸分布にも関わらず、1回目の光取り出しでは凹凸の面積比率を支配する比率Pを0.6を中心とする0.4〜0.8の範囲に設定することで、光取り出し効率をより高められる。一方、曲線27Bより2回目の光取り出しでは比率Pを0.5〜0.9の範囲(P1=0.1に設定しているので曲線27b、27Bは0.1以下、0.9以上をプロットできない)に設定することで、光取り出し効率をより高められる。従って、第1実施例と同様に比率P1、P2を組み合わせ最終的な凸となる比率Pを0.5〜0.98の範囲に設定することで、1回目、2回目を含めたトータルの光取り出し効率を高めることができる。なお、図27の曲線27c,27Cはw1=0.1μm、P1=0.1の条件、曲線27d,27Dはw1=0.1μm、P1=0.2の条件の1回目、2回目の光取り出し効率の特性である。w1を0.2μmより小さくすることで効率が大きく劣化するので、w1は0.2μm以上の大きさである必要がある。また、w1の上限値は第1の実施形態の図28,29で議論したように、視野角依存性関係から1.5μm以下が好ましい。
第4の実施の形態は表面構造の形成条件を第1の実施の形態とは若干変更したものであり、条件によっては光取り出し効率は第1の実施形態よりも若干劣化するが、依然として図14,図15(a)に示す従来の発光装置よりも大きな光取り出し効率を実現でき、第1の実施の形態と同様に、方位による光強度の分布や色のアンバランスがない上、光取り出し効率の大幅な向上を実現でき、外界の像の映り込みも抑えられる等の効果を有する。また第4の実施の形態は、第1の実施の形態に比べ、表面構造に関する形状の制約条件が緩いため、誤差マージンが広く取れ、加工のしやすさにメリットがある。例えば、第1の実施の形態の条件では、凹部と凹部、又は凸部と凸部の間隔が近接するため、微細な凹凸形状を加工することは困難であるが、第4の実施の形態では微細な凹部、又は凸部の出現比率が低いので(図7の(c)と(e)を参照)、凹部と凹部、又は凸部と凸部の間隔が実効的に広がって加工の難易度のハードルは低くなる。なお、第2の実施の形態に第4の実施の形態を適用したものでも、第2の実施の形態と同様の効果が得られることは言うまでもない。
(第5の実施形態)
第4の実施の形態と第3の実施の形態を組み合わせたものが、第5の実施の形態である。本実施の形態では、領域の設定をわかりやすくするために各領域を色で区別して説明する。第5の実施の形態では、まず、透明基板5の表面を幅w1の碁盤の目(正方形の微小領域α)に分割し、一つ一つの目が黒である比率をP1、白である比率を1−P1としてランダムに黒と白とに割り当て、白を割り当てられた領域(微小領域α2)をd1(>0)の深さだけエッチング等の方法で彫り込む。なお黒を割り当てられた領域が微小領域α1である。
次に、透明基板5の表面を幅w2の碁盤の目(正方形の微小領域β)に分割し、一つ一つの目が青である比率をP2、赤である比率を1−P2としてランダムに青と赤と割り当て、赤を割り当てられた領域(微小領域β2)をd2(>0)の深さだけエッチング等の方法で彫り込む。なお、青を割り当てられた領域が微小領域β1である。ただし幅w2は幅w1の整数倍であり(w2=w1が最も好ましい)、それぞれの碁盤の目は境界線が揃うように重ね合わされている。
このようにすることで、白と赤の重なっている部分の面を基準面としたときに、この基準面に対し黒と青の重なりは高さd1+d2に、白と青の重なりは高さd2に、又は黒と赤の重なりは高さd1にすることができる。従って、段差は0からd1+d2までの間の4種類の値(0、d1、d2、d1+d2)をランダムに取り得るので、第3の実施の形態と同じ効果が得られる。
しかもd1=dm×1/3、d2=dm×2/3と設定すれば、微細な構造で作製が困難な幅w1のパターンは深さを浅くできるので加工のしやすさにメリットがある。d1=dm×1/3、d2=dm×2/3の場合、比率P2はこれが彫り込み幅の深い側に対応しているので(実際には比率P2の側が2、比率P1の側が1の重みで平均深さに関係する)、凹凸の面積比率、すなわち深さの平均レベルを決定する第4の実施の形態の比率P2と似た意味合いを持つ。一方、比率P1は微細な構造(幅w1)の出現比率に関係するので、第4の実施の形態の比率P1と似た意味合いを持つ。
なお、上述の実施例は2種類の露光、エッチング工程の組み合わせであったが、3種類の露光、エッチング工程を組み合わせると、8種類の値からランダムな高さをとることができる。この場合は上述した2つのエッチング工程に以下の工程を加える。すなわち透明基板5の表面を幅w3の碁盤の目(正方形の微小領域γ)に分割し、一つ一つの目が緑である比率をP3、黄色である比率を1−P3としてランダムに緑と黄色と割り当て、黄色を割り当てられた領域(微小領域γ2)をd3(>0)の深さだけエッチング等の方法で彫り込む。なお緑を割り当てられた領域が微小領域γ1である。ただし幅w3は幅w2の整数倍であり(w3=w2が最も好ましい)、それぞれの碁盤の目は境界線が揃うように重ね合わされている。
このようにすることで、白と赤と黄色の重なっている部分の面を基準面としたときに、この基準面に対し黒と青と緑の重なりは高さd1+d2+d3に、白と青と緑の重なりは高さd2+d3に、黒と青と黄色の重なりは高さd1+d2に、黒と赤と緑の重なりは高さd1+d3に、黒と赤と黄色の重なりは高さd1に、白と青と黄色の重なりは高さd2に、白と赤と緑の重なりは高さd3にすることができる。従って、高さは0からd1+d2+d3までの間の8種類の値(0、d1、d2、d3、d1+d2、d2+d3、d3+d1、d1+d2+d3)をランダムに取り得るので、第3の実施の形態と同じ効果が得られる。
しかもd1=dm×1/6、d2=dm×2/6、d3=dm×3/6と設定すれば、微細な構造で作製が困難な幅w1やw2のパターンは深さを浅くできるので加工のしやすさにメリットがある。d1=dm×1/6、d2=dm×2/6、d3=dm×3/6の場合、比率P2やP3は彫り込み幅の深い側に対応しているので(実際には比率P3の側が3、比率P2の側が2、比率P1の側が1の重みで平均深さに関係する)、P2、P3は凹凸の面積比率、すなわち深さの平均レベルを決定する第4の実施の形態の比率P2と似た意味合いを持つ。一方、比率P1は微細な構造(幅w1)の出現比率に関係するので、第4の実施の形態の比率P1と似た意味合いを持つ。
(第6の実施の形態)
第6の実施の形態を図1に基づいて説明する。なお第6の実施の形態は表面構造13のパターンが第1の実施の形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施の形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
第6の実施の形態は第1の実施の形態に於ける表面構造の隣接する2つの微小領域δ1,δ2を位相シフターで構成したものである。位相シフターは、例えば屈折率の異なる多層膜で形成できる。すなわち多層膜の多重反射により、透過光の位相を調整でき、多層膜の構造(膜厚や層数)を変えることで180度の領域と0度の領域をランダムに形成できる。また、偏光子を用いて2つの領域を透過する光の偏光を変えても同じ効果が得られる。この時、180度領域に対応する透過光の偏光はP偏光、又は右回りの円偏光、0度領域に対応する透過光の偏光はS偏光、又は左回りの円偏光となるような偏光子になるが、方位の90度異なる1/2波長板を用いれば実現できる。なお、第1実施例の様な、屈折率に差がある界面の凹凸構造も透過光の位相が凹凸間で変化するので位相シフターの一つの形態と言える。
本実施の形態に於ける表面構造13の透過率tの入射角依存性、及び光取り出し効率は既に図21、図5(b)(曲線5d、5D)に示され、1回目の光取り出し効率だけでもwを0.4μm以上1μm以下の範囲で表面を鏡面とした場合の光取り出し効率を超えることができる。図5(b)には、位相差を90度にした結果も示しており、1回目、2回目の光取り出し効率がそれぞれ曲線5d'、5D'で表される。いずれも、位相差180度のもの(曲線5d、5D)より劣化するので、位相差の最適値は180度であることが分かる。
この様に、第6の実施の形態は表面構造13を位相シフターで構成することで、従来例よりも高い光取り出し効率が得られる。また、第1の実施の形態と同様に、方位による光強度の分布や色のアンバランスがない上、外界の像の映り込みも抑えられる等の効果を有する。
(第7の実施の形態)
第7の実施の形態を図8に基づいて説明する。なお第7の実施の形態は表面構造のパターンが第1の実施の形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施の形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図8(a)は本実施の形態に於ける第1の表面構造23のパターン図を示している。図8(a)に示すように、表面構造23は透明基板5の表面を一辺の長さwの正三角形(微小領域δ)に分割し、一つ一つの微小領域δが凸(図中の23a(微小領域δ1)、灰色の図形)であるか凹(図中の23b(微小領域δ2)、白の図形)であるかの比率を各50%として凸と凹とをランダムに割り当てたものである。wは2.25μm以下である。
一方、図8(b)は本実施の形態に於ける第2の表面構造33のパターン図を示している。透明基板5の表面を一辺の長さwの正六角形(微小領域δ)に分割し、一つ一つの図形が凸(図中の33a(微小領域δ1)、灰色の図形)であるか凹(図中の33b(微小領域δ2)、白の図形)であるかの比率を各50%として凸と凹とをランダムに割り当てたものである。wは0.93μm以下である。
なお、一般的に表現すれば、図形の大きさはその図形に内接する円の最大のものの直径が0.2μm以上1.5μm以下であることが条件となる。
第7の実施の形態は表面構造23,33のパターン形状が第1の実施の形態とは異なるだけで、第1の実施の形態と同じ原理が作用し、同一の効果が得られる。また、正三角形や正六角形に限らず、同じ図形で隙間無く面分割が出来るのであれば、任意の多角形であってもよい。
なお、第1から第7の実施の形態では、実際の加工体での表面構造13,23,33が厳密には正方形や正三角形、正六角形にはならず角の部分が丸まったり角が丸まった微小領域の隣の微小領域の角がその分変形したりするが、特性の劣化はなく同一の効果が得られることは言うまでもない。また、第2〜第6の実施の形態に第7の実施の形態を適用したものでも、第2〜第6の実施の形態と同様の効果が得られる。
(その他の実施の形態)
上述の実施の形態は本発明の例示であって、本発明はこれらの例に限定されない。以上の実施の形態において、表面構造の凸部分の表面に垂直な断面形状は矩形形状に限らず、台形や円錐形状となってもよく、凸部分の斜面が曲線になってもよい。
また、透明基板5の厚さが大きい場合、光の出射位置は光取り出しの回数が増すごとに発光点Sの位置から離れてくる。この場合、ディスプレイ用のELの様に300μm程度の画素ごとに区切られた構成では、光が隣の画素に紛れ込み、画質の劣化につながる。従って、図9(a)に示すように、表面構造13の形成された透明基板5は数μm程度に薄く構成し、その上に空気層を挟んで0.2mmから0.5mm程度の保護基板14で覆う構成が考えられる。保護基板の表面14a、裏面14bでは全反射は発生しないが、ARコートの必要はある。このとき表面構造13の上には空気層の代わりにエアロゲル等の低屈折率で透明な材料を用いてもよく、このとき一体構成になるため装置としての安定性が高い。
さらに、以上の実施の形態では、一つの面だけに表面構造13を形成したが、透明基板5の両面に同じような構造を形成することができる。また表面構造13と発光点Sの間に一般の回折格子13’を配置してもよい。この時図9(b)に示すように、透明基板5をフィルム形状にし、表面に表面構造13、裏面に回折格子13’や別仕様の表面構造13”を形成し、発光体側に接着層21を介して接着させる構造が考えられる。透明基板5の屈折率が小さく、発光層3との屈折率差が0.1以上ある場合には、接着層21の材料を発光層3の屈折率より0.1だけ小さいかそれ以上になるように選ぶと接着層21と発光層3との恭敬面での全反射はほとんど生じないとともに、接着層21と透明基板5の間の屈折面、及び透明基板5と空気6の間の屈折面で発生する全反射を、それぞれ表面構造13”(又は回折格子13’)、及び表面構造13で回避できる。なお、回折格子13’や表面構造13”の凹部の深さまたは凸部の高さは凹部での透過光と凸部での透過光にπだけ位相差が発生する条件が好ましいが、これよりも凹の深さや凸の高さが小さい条件であってもよい。
なお参考として、図10に表面構造が市松模様(チェッカー形状)をなすパターン図を示している。図10において、表面構造は透明基板5の表面を一辺の長さwの正方形に分割し、灰色の正方形13aと白の正方形13bがチェッカーパターンを形成し、灰色が凸となり、相対的に白が凹の形状をなす。
図11は図5(a)におけるものと同じ条件の下で、凹凸の段差d=0.70μmとして図10に示した表面構造の透過率tの入射角依存性を示す説明図であり、透明基板5内で光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気6側に出射するかを幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、1.0、2.0、4.0μm)にして示している。図11をランダムパターンの特性である図3(a)と比べると、w=0.1、0.2μm(いわゆる回折光が発生しないナノ構造の領域)の曲線を除いて細かいうねりが存在することが分かる。これはチェッカーパターンによる回折で空気層側に回折光が発生したり消滅したりするためで、方位によって光強度に分布があることを示しており、周期パターン固有の問題である。
このチェッカー形状をなす表面構造と図17(b)で示した千鳥格子(□wの部分が凹となる側)をなす表面構造との、1回目、及び2回目の光取り出し効率を図5(b)に付記している(d=0.70μm、それぞれ曲線5e、5f、5E、5F)。千鳥パターンの2回目の光取り出し効率が大きくなるのは図27で紹介した現象と同じで、千鳥パターンでは凸となる比率P=0.75となるためである。ランダムパターンの特性に比べ、チェッカーパターン、千鳥パターンともwの変化に伴いうねった特性を示すが、これも周期パターン固有の問題であり、方位による光強度の分布と関係している。
図30(a),(b)に、チェッカーパターンの表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を付記している。段差d=0.7μm、境界幅w=0.5μmとし、図30(a)はλ=0.450μm、図30(b)はλ=0.635μmの条件である。実線(0度、90度の経度方位)、破線(45度、135度の経度方位)とも偏角に対する変動が大きく、両者の乖離も大きいうえ、波長によって形状が大きく変化することが分かる。方位による光強度の分布や色のアンバランスが発生することは、特許文献1に記載された発光装置同様、周期パターンに於ける致命的な欠点である。これらの課題は第1から7の実施の形態では全て克服出来ている。
境界回折効果は光の位相の不連続な部分を一定間隔以上隔てた場合に発生するので、この効果を極大化させるためには、限られた面積内で位相の不連続な部分の出現比率を極大化させることが必要になる。屈折面を無数の微小領域で分割し、微小領域同士の境界で位相が不連続になるとすると、2つの条件により前述の出現比率の極大化がなされる。一つ目の条件は各微小領域の面積が出来るだけ一つに揃うこと、2つ目の条件は隣り合う微小領域間にも位相差が存在することである。すなわち、微小領域の内に他のものより大きい面積のものがあれば、この大きな面積を分割した方が位相不連続の境界が増える。反対に微小領域の内に他のものより小さい面積のものがあるとすれば、これは他のものより大きい面積のものが存在することになり、この大きな面積を分割した方が位相不連続の境界が増える。この延長線として、各微小領域の面積が出来るだけ一つに揃い、少なくとも各微小領域の面積がある基準面積に対し0.5〜1.5倍の範囲(微小領域に内接する円のうち最大のものの直径が、基準になる直径に対し0.7〜1.3倍の範囲)に入ることが微小領域間の境界線の出現比率を極大化することになる。第1から第7の実施の形態はこの条件に従っている。また微小領域への分割を極大化することができても、隣り合う微小領域同士で位相が揃えば効果が薄くなる。従って隣り合う微小領域間にも位相差の存在、すなわちランダムな位相の割り当てが必要であり、第4や第5の実施の形態等はこの条件に従っている。すなわち、上記の実施形態の発光装置は、特許文献2に記載されている発光装置のような反射防止による効果ではなく境界回折効果を極大化させた効果によって取り出し効率の向上が実現されている。
なお、第1から7の実施の形態に於ける表面形状は磨りガラスや面粗し等の表面状態や特許文献2に記載された発光装置で示された表面状態とは異なる。第1や第4、第7の実施の形態では、表面を幅wの碁盤の目(又は多角形の目)に分割し、一つ一つの目に凸と凹を1:1の比率で割り当てたもので、このパターンには固有の幅wというスケールと固有の微小領域の形状とが存在し、凸部の総面積と凹部の総面積の比率も1:1の関係に収まっている。これに対し、磨りガラスや面粗し等の表面状態は固有の幅wが存在せず微小領域の形状は不定形であり、凸部の総面積と凹部の総面積の比率も1:1の関係になる訳ではない。第2の実施の形態では、凸と凹の比率を50%からずらし、凹部の総面積と凸部の総面積の比率が1:1から外れるが、依然として固有の幅wが存在しており、凹部の総面積と凸部の総面積の比率も所定の値であり完全にランダムなパターンとは一線を画する。第3や第5の実施の形態でも固有の幅wが存在し、この幅wで定義される碁盤の目(又は多角形の目)ごとに段差が異なっている。このように、上記実施の形態に於ける表面形状は、完全にランダムなパターンではなく、ある規則に沿ったランダムパターンと言える。
完全にランダムなパターンとの違いをもう少し考察してみる。図12(a)に示すように、幅4wのテーブル16の上に幅wのカード17を8枚ランダムに並べる。即ち8枚のカード17の総面積はテーブル16の面積の1/2である。ただし、カード17はテーブル16をはみ出さないとする。図12(b)はカード17の重なりを許して配列している。図12(c)はカード17の重なりを許さずに配列している。図12(b)ではカード17が重なった分だけ、カードの面積総和がテーブル面積の1/2より小さくなる。面積比がある比率から乖離すると光取り出し効率は劣化することは既に図27の曲線27a,27Aで示されている。図12(c)では面積比1/2を維持するものの、カード間にwよりも小さい微小な隙間jが発生し、これは図12(b)でも同じである。微小な隙間jが発生しその頻度が大きくなると、jを新たな境界幅と見ることができ、図6からわかるようにj≦0.1μmの条件で光取り出し効率が大きく劣化する。また、図27で示されているように、微少な凹凸構造の比率P1が増大することで(曲線27a,27c,27dの順でw1=0.1μmの構造の比率P1が0.0、0.1、0.2と増大している)、トータルの凸となる比率が同じでも1回目、2回目の光取り出し効率がともに劣化している。このように完全にランダムなパターンだけでは、光取り出し効率を最大にする条件とはなり得ない。
上記の実施の形態で用いたランダムパターンの生成原理は図12のものとは異なる。上記の実施の形態では面積比はある比率に保たれ微小間隔j等の、幅wより小さいスケールは発生することはない。このように、上記実施の形態に於ける表面形状は、完全なランダムなパターンではなく、光取り出し効率を極大化するための規則に沿ったランダムパターンと言える。
また、第1から7の実施の形態に於ける表面形状が引き起こす現象は回折現象の一つである。図18で示したように、回折現象では表面形状を平均する平坦な基準面に対し仮想的に屈折する光線を0次回折光(全反射の場合には表れない)とし、この光を方位の基準としてシフトした方位に高次の回折光が発生する。本願のようなランダムな表面形状では0次以外の回折光の伝播方位がランダムになる。これに対し磨りガラスや面粗しは回折現象ではなく屈折現象の一つであり、デコボコした屈折面においてその面法線の方位がランダムになることで屈折の方位もランダムになっているだけである。すなわち、平行平板の上に第1から7の実施の形態に於ける表面形状を形成し、透かして見ると反対側の像の輪郭がはっきりと見える。これは表面形状で回折分離する光の中に0次回折光が必ず存在し、この光が反対側の像の輪郭を維持させている。これに対し、磨りガラスや面粗しでは0次回折光に相当する光が存在せず、透かして見ると反対側の像の輪郭がぼやけたものになる。特許文献2では表面の突起物により光が”素直に空気中に放射される”の表現があるだけで回折という表現が無く、“素直”という言葉をスネルの法則(屈折の法則)に従うと解釈でき、その意味では磨りガラスや面粗しと同じ部類に入ると理解でき、本願発明とは別のものであると言うことができる。
ちなみに、特許文献2に開示された技術の特徴は、透明絶縁基板の上に複数の透明な突起物を完全にランダムに配置することにあり、本願のように凸部と凹部とを同じ形状の微小領域の一つ以上の集合体として且つ凸部と凹部の存在比率を特定の割合にするという特徴は記載も示唆もされていない。例えば第1の実施形態において、凹部と凸部とを入れ替えた構造または微小領域の高さと深さとを入れ替えた構造は元の構造とほぼ同じ構造になるが、特許文献2に記載された発光装置ではそうはならない。このような例示的な実施形態の特徴により顕著な光取り出し効果を奏することは本願発明者らが初めて見出したものであり、特許文献2には上記実施形態のような顕著な効果は記載されていない。特許文献2に記載された発光装置では単位面積当たり5000〜106個/mm2の数で幅0.4μm以上20μm以下の突起物が完全なランダムな配置で与えられており、形式的には上記実施形態の発光装置の一部がこの発光装置の中に含有される形にはなるが、突起物とそれ以外の部分との形状の関係および存在比率の関係、さらにはそのような関係が存在して初めて奏される効果が記載も示唆もない以上、実質的には上記の実施形態は特許文献2に開示された技術には含まれず、特許文献2に開示された発明と本願発明とは全く別のものであると言うことができる。
なお、第1から6の実施の形態では凹凸形状で光の位相をシフトさせた。位相のシフトは凹凸形状以外でも実現でき、例えば凹部に対応した領域と凸部に対応した領域で多層膜の厚みや屈折率条件を変えることでも可能である。この場合でも、上記実施の形態と同じ効果が得られることは言うまでもない。また、第1から7の実施の形態はそれぞれ独立して成り立つのではなく、それぞれの一部を組み合わせて、新たな実施例とすることも考えられる。また、第1から7の実施の形態では有機エレクトロルミネセンス素子を例にとって説明したが、屈折率が1より大きい媒質内で発光する素子であれば全てに適用できる。例えば、LEDや導光板などへの適用も可能である。さらに、発光装置が光を出射する媒質は空気に限定されない。上記実施形態の表面構造は、透明基板の屈折率が、透明基板が接している媒質の屈折率より大きい、特に0.1以上大きい場合に適用できる。
以上説明したように、本発明に係る発光装置は、光の取り出し効率を大幅に向上させる上、出射光の視野角特性も良好なので、ディスプレイや光源等として有用である。
本発明は、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートおよびそれを用いた発光装置に関するものである。
従来の技術として、例えば特許文献1、2に開示されている技術がある。
図14は、一般的な有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)を用いた発光装置の断面構成と光の伝搬の様子を示している。基板101の上に電極102、発光層103、透明電極104がこの順に積層され、透明電極104の上には透明基板105が載せられている。電極102、透明電極104の間に電圧を印加することで、発光層103の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極102において反射した後、透明電極104を透過し、透明基板105の表面上の点Pに表面の面法線に対して角度θで入射し、この点において屈折して空気層106側に出射する。
透明基板105の屈折率をn’1とすると、入射角θが臨界角θc=sin−1(1/n’1)より大きくなった時、全反射が発生する。例えば、θc以上の角度で透明基板105の表面上の点Qに入射する光は全反射し、空気層106側に出射することはない。
図16(a),(b)は上記発光装置において透明基板105が多層構造を有していると仮定した場合における光取り出し効率を説明する説明図である。図16(a)において、発光層103の屈折率をn’k、空気層106の屈折率をn0、発光層103と空気層106の間に介在する複数の透明層の屈折率を発光層103に近い側からn’k-1、n’k-2、…、n’1とし、発光層3内の点Sから発光する光の伝搬方位(屈折面の面法線となす角)をθ’k、各屈折面での屈折角を順にθ’k-1、θ’k-2、…、θ’1、θ0とすると、スネルの法則より次式が成り立つ。
n’k×sinθ’k=n’k-1×sinθ’k-1=…=n’1×sinθ’1=n0×sinθ0 (式1)
従って、次式が成り立つ。
sinθ’k=sinθ0×n0/n’k (式2)
結局、(式2)は発光層103が空気層106に直接接触する場合のスネルの法則に他ならず、間に介在する透明層の屈折率には関係せずに、θ’k≧θc=sin−1(n0/n’k)で全反射が発生することを表している。
図16(b)は、発光層103から取り出せる光の範囲を模式的に示したものである。取り出せる光は、発光点Sを頂点、臨界角θcの2倍を頂角とし、屈折面の面法線に沿ったz軸を中心軸とする2対の円錐体107、107’の内部に含まれる。点Sからの発光が、全方位に等強度の光を放射するものとし、屈折面での透過率が臨界角以内の入射角で100%とすれば、発光層103からの取り出し効率ηは、球面108の表面積に対する、円錐体107、107’により球面108を切り取った面積の比に等しく、次式で与えられる。
η=1−cosθc (式3)
なお、実際の取り出し効率ηは臨界角以内の透過率が100%とはならないので、1−cosθcよりも小さくなる。また、発光素子としての全効率は、発光層の発光効率を上記取り出し効率ηに乗じた値となる。
上記のメカニズムに対して、特許文献1には、有機EL素子において、透明基板から大気へと光が出ていくときの透明基板表面での全反射を抑制する目的で、基板界面や内部の面あるいは反射面に回折格子を形成し、光取り出し面に対する光の入射角を変化させることにより光の取り出し効率を向上させるという原理に基づくものと記載されている発明が開示されている。
また、特許文献2には、光の取り出し効率のよい平面発光装置を提供するため、有機EL素子において透明基板の表面に透明の突起物を複数形成して透明基板と空気との界面における光の反射を防止することができると記載されている。
特開平11−283751号公報
特開2005−276581号公報
しかしながら、上述のような従来の発光装置において以下の問題があった。
図14に示す従来の有機EL素子を用いた発光装置では、発光層103からの光取り出し効率ηが最大でも1−cosθcを超えることがなく、発光層103の屈折率が決まれば、光取り出し効率の最大値が一義的に制限されていた。例えば、(式2)に於いてn0=1.0、n’k=1.457とすると、臨界角θc=sin−1(n0/n’k)=43.34度であり、光取り出し効率の最大値は1−cosθc=0.273程度と小さく、n’k=1.70では0.191程度まで下がる。
また、特許文献1に開示された技術では、確かに全反射になるべき光を取り出すことができるが、その逆もある。すなわち、回折格子層が無いと仮定したときに発光層内の点から出射した光が、透明基板の屈折面(出射面)において臨界角より小さい角度で入射して透過、屈折する場合があるが、回折格子層がありそこで回折するときは、屈折面に対する入射角が臨界角を超え、全反射する場合がある。従って、特許文献1に開示された技術は光取り出し効率の向上を保証するものではない。さらに特許文献1に開示された技術では、全ての光線に一律に所定量の方位がシフトした回折光が発生する。このような回折光を含んだ光は、方位によって光強度に分布があり、所定量のシフト幅が出射光の波長に依存することから、方位による色のアンバランスが存在する。
また、特許文献1に開示された発光装置では、外界(空気層側)から入射する光は透明基板の表面を規則的に反射し、発光層から取り出される光にとって外乱(いわゆる映り込み)となるため、透明基板の表面には反射防止膜等の光学処理が必要であり、製品コストを押し上げていた。
一方、特許文献2に開示された発光装置は屈折面における光の反射防止を目的にしたもので、この構造による光取り出し効率の改善は1、2割程度と小さいものに収まる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、臨界角以上の透明基板への入射光も出射させて光取り出し効率の大幅な向上を実現するとともに、映り込みを防ぎ、方位による光強度の分布や色のアンバランスの発生も抑えるシートおよび発光装置を提供することにある。
上記の課題を解決するために、本発明の第1のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上1.5μm以下の複数の微小領域δによって仮想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、該複数の微小領域δからランダムに40%以上98%以下の割合で選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ突出していてその高さはd/2であり、前記微小領域δ2は、前記所定の基準面に対して前記他方の面下方へ窪んでいてその深さはd/2であり、前記所定の基準面は、前記微小領域δ1と前記微小領域δ2との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存しており、前記dは0.2μm以上1.4μm以下である構成とした。
このような構成により、発光体からシート内部を通過してシートの他方の面に入射した光は、他方の面の面法線に対して臨界角以上の角度で入射しても他方の面上に設けられた微小領域による表面構造が、全反射が生じることを妨げて、その光の一部を外部に出射するとともに、他方の面で発光体の方に反射した光も発光体内の反射により再びシートの他方の面に入射すると全反射が生じず一部が外部へ出射される。
本発明の第2のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上1.5μm以下の複数の微小領域δによって仮想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δのそれぞれは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して0以上d/2以下の範囲内のランダムな高さで上方に位置している、あるい0以上d/2以下の範囲内のランダムな深さで下方に位置しており、前記所定の基準面は、前記他方の面に垂直な方向における最も高い位置に存する前記微小領域δと最も低い位置に存する前記微小領域δとの中間の位置に存しており、前記dは0.2μm以上1.4μm以下である構成とした。
本発明の第3のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、 他方の面は、内接する最大の円の直径が0.4μm以上1.0μm以下の複数の微小領域δによって仮想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、微小領域δ1と微小領域δ2とは、一方の面に垂直に入射した光のうち、微小領域δ1を透過した光と、微小領域δ2を透過した光との間に、180度の位相差を生じさせる構成とした。
前記微小領域δは多角形且つそれぞれ合同な形状にすることができる。
本発明の第1の発光装置は、発光体と、該発光体の発光面の上に設けられた透明な保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層の前記発光面に隣接している面とは反対側の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上1.5μm以下の複数の微小領域δによって想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、該複数の微小領域δからランダムに40%以上98%以下の割合で選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ突出していてその高さはd/2であり、前記微小領域δ2は、前記所定の基準面に対して前記他方の面下方へ窪んでいてその深さはd/2であり、前記所定の基準面は、前記微小領域δ1と前記微小領域δ2との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存しており、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を発し、前記保護層の屈折率がn1、前記保護層が前記反対側の面において接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0であり、λ/6(n1−n0)<d<λ/(n1−n0)である構成とした。
本発明の第2の発光装置は、発光体と、該発光体の発光面の上に設けられた透明な保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層の前記発光面に隣接している面とは反対側の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上1.5μm以下の複数の微小領域δによって仮想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δのそれぞれは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して0以上d/2以下の範囲内のランダムな高さで上方に位置している、あるいは0以上d/2以下の範囲内のランダムな深さで下方に位置しており、前記所定の基準面は、前記他方の面に垂直な方向における最も高い位置に存する前記微小領域δと最も低い位置に存する前記微小領域δとの中間の位置に存しており、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を発し、前記保護層の屈折率がn1、前記保護層が前記反対側の面において接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0であり、λ/6(n1−n0)<d<λ/(n1−n0)である構成とした。
本発明の第3の発光装置は、発光体と、該発光体の発光面の上に設けられた透明な保護層とを備えた発光装置であって、前記保護層の前記発光面に隣接している面とは反対側の面は、内接する最大の円の直径が0.4μm以上1.0μm以下の複数の微小領域δによって仮想的に分割されているとともに、一つの該微小領域δは別の複数の該微小領域δによって隣接且つ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1と前記微小領域δ2とは、前記保護層の前記発光面に隣接している面に前記発光体から垂直に入射した光のうち、前記微小領域δ1を透過した光と、前記微小領域δ2を透過した光との間に、180度の位相差を生じさせる構成とした。
前記媒質を空気とすることができる。
前記媒質をエアロゲルとすることができる。
前記発光体の光が生じる部分の屈折率がn2であるとき、n2−n1<0.1である構成とすることができる。
以上より、臨界角を超えた光の取り出しを繰り返し行えるため、光取り出し効率の大幅な改善が可能となる。さらに、ランダムな構造での回折になるため、回折方位に規則性が無くなり、映り込みや方位による光強度の分布や色のアンバランスの発生を抑えることが可能である。
本願発明の実施形態を説明する前に、特許文献1や特許文献2等の先行例を踏まえて、本願発明に至るまでの検討経過を説明する。
図15は屈折面(透明層表面と空気層との界面)での透過率を説明する説明図である。屈折率1.5の透明層107の内部から紙面方向に沿って透明層107の屈折面107aに角度θで入射し、空気側(屈折率1.0)に屈折する光の透過率は光の偏光状態に関係する。通常は、屈折面107a近傍での面法線に沿った屈折率分布が図15(a)に示すようなステップ状であるので、P偏光(電界ベクトルが紙面に平行な振動成分)は曲線108a、S偏光(電界ベクトルが紙面に直交する振動成分)は曲線108bの透過率特性を示す。いずれも入射角が臨界角(=41.8度)以下での振る舞いは異なるが、臨界角を超えるとゼロになる。
一方、透明層107の表層部分を多層構造として屈折率分布が図15(b)に示すようなテーパ状になると仮定すると、P偏光は曲線108A、S偏光は曲線108Bの透過率特性を示す。いずれも臨界角を超えるとゼロになることは変わらないが、臨界角以下での透過率が100%に近づき、臨界角を境にしたステップ関数の形状に近づく。図15(b)では屈折率が1.5から1.0まで0.01の偏差をなす厚さ0.01μmの膜を50層重ねた構造として計算したが、厚さ方向の屈折率変化の勾配が緩やかな程、P偏光、S偏光の差がなくなり、いずれも入射角に対する透過率のグラフがステップ関数に近づく結果が得られる。
全反射しないようにするためには、屈折面に入射する光の入射角を臨界角以下にする工夫が必要である。そのような工夫の一つとして、特許文献1を例にとり、図17に示す、透明基板205と透明電極204との界面に回折格子209を設けた有機EL素子を用いた発光装置の検討を行った。
図17(a)に示すように基板201の上に電極202、発光層203、透明電極204、回折格子層209をこの順に積層し、回折格子層209の上には透明基板205を設けている。回折格子層209は透明基板205との間でx方向、y方向ともピッチΛの凹凸周期構造をなし、凸部の形状は図17(b)に示すような幅wの正方形であって、この凸部を千鳥格子状に並べている。電極202、透明電極204の間に電圧を印加することで、発光層203の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極202において反射した後、透明電極204を透過し、回折格子層209を透過し、回折する。例えば、点Sを出射する光210aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると、光210bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以上の角度で入射して全反射するが、実際には回折格子層209において回折するので、光210cのように屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも小さくなり、これを透過できる。
上記の回折格子による回折方位を図18に従って説明する。屈折率nAの透明層207の内部から紙面方向に沿って透明層207の屈折面207a上の点Oに角度θで入射し、屈折率nBの透明層206側に回折する波長λの光を考える。屈折面207aには紙面に沿ってピッチΛをなす回折格子が形成されている。紙面上に点Oを中心にする半径nAの円211と半径nBの円212を描く。入射ベクトル210i(円211の円周上を始点として角度θで点Oに向かうベクトル)の屈折面207aへの正射影ベクトル(垂線の足Aから点Oに向かうベクトル)を210Iとし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210rを、その正射影ベクトル210Rがベクトル210Iと同一になるように描く。垂線の足Cを始点として、大きさqλ/Λのベクトル(格子ベクトル)を考える。ただし、qは回折次数(整数)である。図ではq=1の場合のベクトル210Dを描いており、その終点Bを垂線の足とし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210dを描く。作図の仕方から、ベクトル210rの方位角φ(屈折面法線となす角)は次式で与えられる。
nB×sinφ=nA×sinθ (式4)
これはスネルの法則そのものである。一方、回折光線の方位を与えるベクトル210dの方位角φ'(屈折面法線となす角)は次式で与えられる。
nB×sinφ'=nA×sinθ−qλ/Λ (式5)
ただし、図18の場合の角φ'はz軸(点Oを通る屈折面法線)を跨いでいるのでマイナスで定義される。
すなわち、回折光線は屈折光線からqλ/Λの分だけ方位がずれることになる。図17において、回折しないと仮定した光線210bは屈折光線に相当し、回折する光線210cは光線210bからqλ/Λの分だけ方位がずれることで、屈折面205aでの全反射を免れていることになる。従って、全反射になるべき光を取り出すことができるので、回折格子層を持たない有機EL発光装置に比べ、光取り出し効率の向上が見込めるようにも考えられる。
しかしながら、図17(a)において点Sを出射する光210Aを考えた場合、光210Aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると光210Bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以下の角度で入射して屈折面205aを屈折して透過していくが、実際には回折格子層209において回折するので、光210Cのように屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも大きくなり屈折面205aに臨界角以上の角度で入射して全反射してしまう。このように、回折格子層209を設けても光取り出し効率の向上は必ずしも保証されるわけではない。
また、図17に示す有機EL素子を用いた発光装置では、全ての光線に関して一律にqλ/Λの分だけ方位がシフトした回折光が発生する。このような回折光を含んだ光は方位によって光強度に分布があり、シフト幅qλ/Λが出射光の波長λに依存するため、光が出射する方位によって色のアンバランスが存在する。即ち、見る方向によって異なる色の光が見えることになり、ディスプレイ用途にはもちろん、光源としても不都合である。
次に特許文献2を例にとり、図19に示す、透明基板305の表面に突起物315を設けた有機EL素子を用いた発光装置について検討を行った。図19(a)に示すように基板301の上に電極302、発光層303、透明電極304、透明基板305をこの順に積層し、透明基板305の表面305aに複数の突起物315を形成している。突起物315は幅w、高さhの四角柱形状のものを図19(b)に示すように透明基板表面305a上でランダムな位置に配置している。wの大きさは0.4〜20μm、hの大きさは0.4〜10μmの範囲にあり、このような突起物315を5000〜1000000個/mm2の範囲の密度で形成している。電極302、透明電極304の間に電圧を印加することで、発光層303の内部の点Sで発光し、この光310dは直接、もしくは電極302を反射した後、透明電極304を透過し、その一部が突起物315を通じて310fのように外界に取り出される。実際の突起物315はサイドエッチングにより先端に行くほど細くなるよう加工できるし、サイドエッチングが無くても実効的な屈折率が透明基板305と空気との中間付近の値を取るので、等価的に屈折率分布を緩やかに変化させられる。従って図15(b)に示す屈折率分布に近い分布となるため、突起物315により310eで示されるような光の反射を一部防止することができ、結果として光の取り出し効率を向上させることができる。また突起物315のサイズを波長以上に設定しても、突起物315がランダムに並んでいるので取り出された光の干渉を抑えることができる。
しかしながら、図19に示す構造の発光装置は、突起物の効果が特許文献2の中で主張されている反射防止にあるとすると、図15(c)の曲線108a,108bと曲線108A,108Bとの比較からわかるように、透過率の向上は臨界角以下の光によるものに限られ、光の取り出し効率の改善は1,2割程度に止まり、大きな改善は見込めない。
以上のような検討を行い、これらに基づいて本願発明者らは屈折面での全反射される光量を減らし、取り出せる光量を如何にして増すかについてさらに検討を重ねていった。さらなる検討の手始めとして屈折面での光の境界条件を検討した。
図13は屈折面に於ける光の場の境界条件を模式的に示しており、幅Wの光が屈折面Tに入射する場合を考えている。マックスウェルの方程式から、電界ベクトル又は磁界ベクトルに関して、屈折面Tを挟んで周回する経路Aに沿った積分はゼロである。ただし周回路内部に電荷や光源がなく、屈折面Tに沿った電界ベクトルまたは磁界ベクトルの強度、位相が連続していることが前提条件である。
図13(a)のように幅Wが十分大きい場合には、屈折面に直交する幅tを屈折面に沿った幅sに比べ無視できるほど小さくでき、周回積分の内、屈折面に沿った成分しか残らない。この関係から、屈折面を挟んで電界ベクトル又は磁界ベクトルが連続することが求められる。この連続性の関係を利用して導出されるのがフレネルの式であり、この式により反射、屈折の法則や全反射の現象等が完全に解き明かされる。
図13(b)のように、光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCに分割すると(図13(c)参照)、このうち周回積分Bは光束内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは光束外での電界ベクトル又は磁界ベクトルがゼロなので、光束内にある経路PQの積分値だけが残る(図13(d)参照)。従って周回積分Cはゼロではなくなり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。さらに、光の幅Wが波長の1/10程度まで小さくなると、図13(e)に示すように、周回積分CとC’が近接し経路PQとQ’P’が重なるので、CとC’を合わせた周回積分がゼロになり、周回路内で光が発光することはなくなる。
一方、図13(f)のように、πだけ位相差がある光が屈折面に沿って並ぶ場合、これらの光束をまたがる周回積分Aを考える。この場合も光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCとB’に分割すると(図13(g)参照)、このうち周回積分B、B’は光束内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは屈折面に沿った成分が無視でき、2つの光束の境界に沿った経路PQとQ’P’の積分値だけが残る(図13(h)参照)。光束の位相がπの場の経路Q’P’での積分は光束の位相が0の場の経路P’Q’での積分に等しいので、周回積分Cは経路PQでの積分の2倍の大きさになり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。従って、幅の狭い光だけでなく狭い幅を介して位相が異なる光が並ぶ場合でも幅の境界付近で光が発生する(実際に発光するのではなく、実効的に発光と同じ振る舞いする現象であり、回折理論の成立前にヤングが提唱した境界回折という現象に似ているので境界回折効果と呼ぶ)。
屈折面Tにおいてどのような入射条件であろうとも屈折面上で発光があると、その光は屈折面を挟んだ両方の媒質内に伝搬する。すなわち、臨界角以上の入射光であっても、計算上屈折面で発光が生じるようにすれば全反射しないで透過光が現れると考えられる。そこで、本願発明者らはこのような考察結果から、臨界角を超えても光が透過する現象を実際に生じさせるための屈折面の構造を以下のように検討した。
境界回折効果が強く出る例として図20に示すように、発光体に載せられた透明基板の空気との境界面に(a)ピンホールを設けそれ以外は遮光してピンホール光(□w内のみに光が存在)としたものと、(b)幅wで仕切られた碁盤の目に180度の位相シフター18をランダムに配置したものとを取り上げた。なお最初はピンホールで検討を行ったが、ピンホールでは現実的な光の取り出しがほとんどできないので、ピンホールと同じ光取り出し特性を示すと考えたランダム配置の位相シフターも検討した。
図21は図20で示した構造での、屈折面における透過率tの入射角依存性を示す説明図であり、光の波長を0.635μmとし、屈折率1.457の透明基板内で光量1の光が空気との境界面に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、どれだけが空気側に出射するかを幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、2.0、4.0、20.0μm)にして示している(ピンホール光も180度位相シフターも全く同じ特性を示すので180度位相シフターのもので代用する)。図13(a)の条件に近いw=20μmの特性は、臨界角(43.34度)を超えると透過率がほぼゼロになる。wが0.4〜1.0μmまで小さくなると、図13(d)、(h)で説明した境界回折効果により、臨界角を超えても大きな透過率が存在する。更にwを小さくすると(w=0.1,0.2μm)、図13(e)で説明した様に、あらゆる入射角で透過率が0に近づいてくる。なお、図21はヘルムホルツの波動方程式(いわゆるスカラー波動方程式)に基づく解析結果なので、P偏光とS偏光の差は現れていない。
図25は、P偏光入射に於ける1回目の透過率tの入射角依存性を示す実験結果である。微細な位相シフター18の作製は実際には困難であるので、位相0度の部分を透過させ、位相180度の部分を遮光膜(Cr膜)で覆ったマスク(いわゆる幅wで仕切られた碁盤の目に遮光膜をランダムに配置したもので、ピンホール光をランダムに配置したものと同じ)で代用し、実験を行った。実際に作製したマスクパターンでは幅wが0.6、0.8、1.0、2.0、5.0μmであった。実験装置は図26に示すように、半導体レーザー(波長0.635μm)、三角プリズム58(BK7)、マスク基板59(合成石英、屈折率は1.457、裏面にマスクパターン形成)、集光レンズ系50、光検出器51からなり、屈折率1.51のマッチング液52を挟んで三角プリズムをマスク基板の表面に密着させ、三角プリズム側から方位角を計測しながらレーザー光を入射し、裏面側から漏れ出る透過光を集光レンズ系50で集め、光検出器51で透過光量を測定する。マスクの場合、全体の1/2の面積に相当する遮光膜の部分が遮光され、透過光量が位相シフターを用いたものに比べ1/2となるので、透過率tとしては遮光膜のない部分に入射する光量(全体の1/2の光量)で規格化する。実験結果は図21で示した解析結果と良く一致し、臨界角(43.34度)を超えても大きな透過率が存在し、wが小さいほどその傾向が強まることが分かる。
このような結果に基づいて、本願発明者らはさらに検討を進め、全反射を防いで光の取り出し効率を飛躍的に向上させる今までにない発光装置に想到するに至った。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
(第1の実施形態)
第1の実施の形態を図1から図5(a),5(b)、図28、図29に基づいて説明する。
図1は第1の実施の形態に於ける有機EL素子を用いた発光装置の断面構成と光の伝搬の様子を示している。基板1の上に電極2、発光層3、透明電極4がこの順に積層され、透明電極4の上には透明基板(透明な保護層)5が構成されている。基板1、電極2、発光層3、透明電極4が発光体を構成している。透明基板5の表面には微小領域によって区画化され微細な凹凸を有する表面構造13が形成されている。
電極2、透明電極4の間に電圧を印加することで、発光層3の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、透明基板5表面の表面構造13上の点Pに、表面の面法線に対して角度θで入射し、この点において表面構造13によって回折して空気6層側に出射する。
空気6層の屈折率をn0、透明基板5の屈折率をn1とすると、入射角θが臨界角θc=sin−1(n0/n1)より大きくなった時に全反射が発生するはずである。しかし、透明基板5表面に表面構造13があるため、点Qには臨界角θc以上の角度で光が入射しても全反射することなく回折し、空気6層側に出射する(1回目の光取り出し)。なお、点Qでは光の一部が反射するがその反射する成分は、電極2を反射した後、再び表面構造13上の点Rに入射し、その一部が空気層側6に出射し(2回目の光取り出し)、残りは反射する。以上の過程を無限に繰り返す。
ここで表面構造13がない従来の有機EL素子を用いた発光装置を考えると、臨界角以上の角度で透明基板と空気層との界面に透明基板側から入射した光は全反射し、それが電極で反射しても再び透明基板と空気層との界面においては再び臨界角以上で入射するので、2回目以降の光の取り出しは起こらず、この点で本実施の形態とは異なっている。
以下に本実施形態の特徴である表面構造13について詳しく説明をする。
図2は第1の実施の形態に於ける表面構造13のパターン図を示している。図2(a)の左が上面図であり、右は上面図のA−A断面図である。図2(a)に示すように、表面構造13は透明基板5の表面を幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に仮想的に隙間無く分割し、一つ一つの目(微小領域δ)が凸(図中の13a(微小領域δ1)、灰色の目)であるか、この凸に対して相対的に凹(図中の13b(微小領域δ2)、白の目)であるかを、比率を各50%としてランダムに割り当てたもので、図2(b)にw=0.4μmの場合の例を示している(黒が凸、白が凹に対応)。凸の突出高さは凹の底部から見てdである。即ち一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ突き出している。ここで微小領域δ1と微小領域δ2との、透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1は基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ2は基準面からd/2だけ下方に窪んでいる。あるいは、透明基板5の空気6との境界面には複数の窪み(白の部分)が存していて窪み以外の部分の上面は同一面上に存しており、窪みの深さはそれぞれ実質的に同じdであってこの窪みの底面を第1基準面とすると、第1基準面は1.5×1.5μm2以下の同じ面積を有した複数の微小領域δによって仮想的に分割されており、窪みの底面は微小領域δが2つ以上接続した形状若しくは微小領域δが1つのみである形状であり、窪みは第1基準面にランダムに配置されている、ともいえる。なお、第1基準面は、上記の基準面とは別の面である。
表面構造13の形成はエッチングで凹凸の形成された金型を作製し、この形状をプレスによりシート状の樹脂に転写し、このシートを透明基板5として接着層を介して透明電極4に貼り合わせるという方法で行ってもよい。この場合は透明基板5イコール透明なシートである。また、シートの表面あるいは保護層として形成された透明基板5の表面に直接にエッチングなどによって凹凸を形成する方法で行っても構わない。
このようなランダムパターンを回折する光はその伝搬方位もランダムになるので、特許文献1に記載された発光装置のような、方位による光強度の分布が存在せず、方位による色のアンバランスもない。また、外界(空気層側)から入射する光は透明基板5表面の表面構造13において反射するが、この反射光はランダムな方位に回折するため、外界の像が映り込むことにはならず、反射防止膜等の光学処理は不要であり、製品コストを低く抑えられる。図28から図29は第1の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す説明図であり、段差d=0.7μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図28(a)はλ=0.450μm、w=0.5μm、図28(b)はλ=0.635μm、w=0.5μm、図28(c)はλ=0.450μm、w=1.0μm、図28(d)はλ=0.635μm、w=1.0μm、図29(a)はλ=0.450μm、w=1.5μm、図29(b)はλ=0.635μm、w=1.5μm、図29(c)はλ=0.450μm、w=2.0μm、図29(d)はλ=0.635μm、w=2.0μmの条件である。原点と曲線上の点を結ぶベクトルが出射光の光強度と出射方位を表しており、ベクトルの長さが光強度、ベクトルの方位が出射方位に対応する。縦軸は面法線軸の方位、横軸は面内軸の方位に対応し、実線は面内軸が図2(b)に於けるx軸又はy軸に沿った断面(0度、90度の経度方位)、破線は面内軸がy=x又はy=−xの直線に沿った断面(45度、135度の経度方位)での特性である(90度方位の結果は0度方位、135度方位の結果は45度方位と一致するので省略する)。境界幅w=0.5、1.0μmでは実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示し、かつ両者が一致する。wを大きくし、w=2.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなり、λ=0.450μmでは実線、破線間の乖離も大きくなる。w=1.5μmは強度変動が出始めるぎりぎりの条件である。従って、面法線方向の光強度が強く、偏角(緯度)に対する変動が緩やかで、経度方向の光強度差が少ない視野角依存性は境界幅wが1.5μm以下の条件で得られることが分かる。
図3は第1の実施の形態に於ける表面構造13の透過率tの入射角依存性を示す説明図であり、透明基板5内で光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気6側に出射するかを図3(a)に示している。図3(b)は表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合、すなわち2回目に於ける透過率の入射角依存性を示している。何れの図も、透明基板5の屈折率n1=1.457、空気6の屈折率n0=1.0、光の波長λ=0.635μm、微小領域δ1の微小領域δ2に対する突出高さd=0.70μm、微小領域δ1の面積比率(即ち凸である比率)P=0.5とし、表面構造の幅wをパラメータ(w=0.1,0.2,0.4,0.6,0.8,1.0,2.0,4.0μm)にしている。なお、突出高さd=0.70μmは垂直入射に於いて凹部での透過光と凸部での透過光にπだけ位相差が発生する条件(d=λ/2(n1−n0))に相当する。
図3(a)は、w=0.1、0.2μmでの結果が異なる以外は180度位相シフターに於ける結果(図21)に近く、臨界角を超えても大きな透過率が存在する。図24はP偏光入射に於ける透過率tの入射角依存性を示す実験結果である。実際に電子線ビーム法により石英基板上に深さd=0.70μm、境界幅w=0.4μmの凹凸のランダムパターンを形成し、図26に示した測定装置を用いて実験を行った。実験結果は図3(a)で示した解析結果と良く一致し、臨界角(43.34度)を超えても大きな透過率が存在することが分かる。本実施の形態の前に説明したように、屈折面においてどのような入射条件であろうとも屈折面上で等価的な発光(いわゆる境界回折効果)があると、その光は屈折面を挟んだ両方の媒質内に伝搬する。図3で示したような臨界角を超えても光が透過する現象は、この屈折面上で等価的な発光が生じる条件にしていることから説明できる。
点発光により光は透明基板5内で球面波となって均一に拡散すると仮定すると、発光方位角θ(前述の入射角θに一致)からθ+dθの間にある光量の総和はsinθdθに比例する。従って、取り出し光量は図3(a),(b)で示した透過率tにsinθを掛けた値に比例する。図4(a)、(b)は第1の実施の形態の表面構造における取り出し光量の入射角依存性を示す説明図である。すなわち、透明基板5内の1点(実際には発光層内の点)で発光する光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気層6側に出射するかを図4(a)に示し、図4(b)は表面構造13において1回反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合、すなわち2回目の取り出し光量の入射角依存性を示している。
取り出し光量を入射角θで積分すると光取り出し効率が得られる。図5(a)、図5(b)は第1の実施の形態に於ける表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図3におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図5(a)において、表面構造13の突出高さd=0.70μmに加え、d=0.1、0.30、0.50、1.40μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰は無いとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線5a、5Aはそれぞれd=0.70μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5b、5Bはそれぞれd=0.50μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5c、5Cはそれぞれd=0.30μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。曲線5g、5Gはd=0.10μmでの1回目及び2回目の光取り出し効率であり、他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなることから突出高さdは0.20μm以上は必要である。また曲線5hに示すように、可視光波長の倍以上(d≧1.4μm)になると、幅wが1.5μm以下の領域で1回目の効率が大きく劣化するので、突出高さdは1.4μm以下が好ましい。従って、dの推奨値は0.2〜1.4μmの範囲にある。もっと一般的に言えば、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λとして、λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)の条件が段差の推奨値である。
d≦0.70μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.4〜2μmで極大になり、wを小さく、又は大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=0.10から2.0μmの間で極大値をなしwを大きくしていくと0.00に漸近し(図5の範囲では現れていない)、w≦0.10μmではwが小さくなるに従って0.00に収束する。
参考として図5(b)の曲線5d、5Dに、表面構造13ではなく、微小領域δ1に光の位相を180度変換させる位相シフターを置いた場合の1回目、及び2回目の光取り出し効率を示す。本実施の形態の表面構造13では凹部と凸部の伝搬光がその段差分だけの距離を伝搬する間に位相差が発生するのに対し、位相シフターでは伝搬距離ゼロで位相差が発生する仮想的なものである。位相シフターの場合、境界幅wを大きくしていくと1回目、2回目の光取り出し効率がそれぞれ0.27、0.00に漸近していくことは表面構造13と同じであるが、0.3μm以下に小さくしていくと、2回目のみならず1回目の光取り出し効率もゼロになる(この理由はすでに図13(e)で説明した)。本実施の形態の表面構造13が境界幅0.4μm以下の条件で位相シフターよりも高い光取り出し効率が得られる理由の一つは、凸部が光導波路として作用していることが考えられる。
透明基板5から見た、透明基板5の表面と電極2との間の往復における光透過率をτとすると、往復における光減衰を考慮した2回目の光取り出し効率はτ×η2になる。光取り出しは1回、2回にとどまらず無限に繰り返され、その関係が等比数列と仮定して1回目がη1、2回目がτ×η2であれば、n回目はη1×(τ×η2 /η1)n−1と予想できる。従って、n回目までの光取り出しの合計は
となり、無限回ではη1/(1−τ×η2 /η1)に漸近する。
図5(a)において曲線5a,5A(d=0.70μm)で見てみると、w=0.60μmの時、η1=0.318、η2=0.093であり、τ=0.88とすると、0.428の光取り出し効率が得られる。w=1.00μmの時には、η1=0.319、η2=0.102であり、0.444の光取り出し効率が得られる。一方、図14、図15(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、w=0.60μm条件では、本実施の形態の発光装置は図15(a)に示される発光装置の1.56倍、w=1.00の条件では1.62倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。このように、wを0.2μmよりも大きくすることで(一般的に表現すれば、微小領域δに内接する円の最大のものの直径を0.2μm以上とすることで)光取り出し効率の大幅な向上を実現できる。
次に本実施の形態に於ける表面構造13の光取り出し効率が波長にどのように依存するかを考察する。
図5(a)の曲線5a’、5A’、5h’、5H’は、波長0.45μmの条件での、d=0.70、1.40μmに対する1回目、及び2回目の光取り出し効率を示している。これらの特性は波長0.635μmでの結果とほぼ一致するので、可視光内の波長差に伴う取り出し効率の変化を小さくできることが分かる。
このように、本実施の形態における表面構造13は単一の形状(dとw)であっても可視光内の全波長に対して最適値に近い光取り出し効率が得られるので、この構造をディスプレイ装置の表示面に用いる場合、RGBの3種類の画素に対して個別に形状を変える必要がなく、構成や組立時の調整を大幅に簡素化できる。
また、有機EL素子では透明電極4の上に、透明基板5と電極2との間の光の往復における光透過率を調整するための透明な調整層が置かれることがある。この場合、透明基板5は調整層の上に載せられる(即ち調整層まで含んだ有機EL素子を発光体と言うことができる)が、透明基板5の屈折率n1が調整層の屈折率n1'よりも小さくなる場合、透明基板5と調整層との間に全反射が発生する境界面が存在し、特にn1'−n1>0.1の場合にはその影響が無視できなくなる。図22はその時の光の伝搬の様子を示している。
図22に於いて、屈折率n2の発光層3の内部の点Sで発光する光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、屈折率n1'の調整層15を透過し、境界面15a上の点P’において屈折して、屈折率n1の透明基板5を透過し、透明基板5と空気6との境界面上の点Pを経て空気6側に出射する。ここではn1'≧n2>n1>1.0である。なお、n1'はn2よりも小さくても構わないが、この場合は透明電極4と調整層15との間で全反射が発生する。透明基板5において空気6との境界面には本実施の形態に係る表面構造13が形成されているので、臨界角を超えた光でも空気6層側に取り出すことが出来る。しかし、n1'>n1の関係から境界面15aでも全反射が発生する。すなわち、点P’への入射より入射角の大きい点Q’への入射では全反射し、この光は電極2との間で全反射を繰り返し、空気6側に取り出すことは出来ない。
このような場合、図23に示すように、調整層15と透明基板5との境界面にも本実施の形態に係る表面構造13’を設けることでこの面での臨界角を超えた入射光を空気6側に取り出すことが出来る。すなわち、表面構造13’により臨界角を超えた点Q’への入射でも全反射は発生せず、この面で反射する成分は電極2を反射した後、再び表面構造13’上の点R’に入射し、その一部が表面構造13を経て空気6側に出射でき、以上の過程を無限に繰り返す。図23の構成は、凹凸を有する表面構造13,13’を2重に形成する複雑さはあるが、透明基板5に屈折率の低い材料を用いることが出来、材料の選択の幅を広げられるメリットを有する。
なお、(式6)より透明基板5と電極2との間の往復における光透過率τが大きければ、光取り出し効率は増大する。実際の発光層3は電極2や透明電極4以外に、上述した調整層15等の複数の透明層等に取り囲まれるが、それらの膜設計(発光層3を含めた膜の屈折率や厚みの決定)は、前述の光透過率τが最大になるように行うべきである。この時、表面構造13での反射は位相の分布がランダムになるので、反射光の重ね合わせはインコヒーレントな扱い(振幅加算でなく強度加算)になる。すなわち透明基板5表面の反射影響は無視でき、仮想的に反射率0%、透過率100%として扱える。この条件で透明基板5から光を発光させ、この光を発光層3を含む多層膜を多重に往復させ、透明基板5に戻ってくる複素光振幅の重ね合わせ光量を最大にすることを条件にして、各膜の屈折率や厚みが決定される。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態を図6、図27に基づいて説明する。なお第2の実施の形態は表面構造13のパターンが第1の実施の形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施の形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
第2の実施の形態は表面構造の凸である比率Pと凹である比率1−Pを0.5に固定するのではなく、P=0.4〜0.98としたものである。即ち、微小領域δ1(上方へ突出している領域)が40〜98%存在し、微小領域δ2(窪み)が60〜2%存在している。
図6(a)は本実施の形態に於ける表面構造の光取り出し効率を示す説明図であり、透明基板5の屈折率n1=1.457、空気6の屈折率n0=1.0、光の波長λ=0.635μm、表面構造の突出高さd=0.70μmとし、横軸に表面構造の境界幅wをおいて、比率P=0.2,0.4,0.6,0.8、0.9の場合の光取り出し効率(1回目、及び2回目)を示している。曲線6a、6b、6c、6d、6e及び6A、6B、6C、6D、6EはそれぞれP=0.2,0.4,0.6,0.8、0.9での光取り出し効率である。図27の曲線27a、27Aは上記の条件で境界幅w=1.0μmとし、凸である比率Pを横軸にして光取り出し効率(1回目、及び2回目)をプロットしている。
図6(a)より、1回目の光取り出し効率ではwの全ての領域で比率P=0.2の特性が最小となり、w≦2μmではP=0.6の特性が最大値を与える。2回目の光取り出し効率ではw≦4μmの範囲でP=0.9の特性が最も大きく、P=0.2の特性が最小となる。
図27の曲線27aより、1回目の光取り出しでは凹凸の面積比率を支配する比率Pを0.6を中心とする0.4〜0.8の範囲に設定することで、光取り出し効率をより高められる。これはこの範囲で凸部が光導波路として効果的に作用するためであると考えられる(P≦0.2では導波路を形成する凸部の面積比が少なく、P≧0.8では凸部同士が近づきすぎて導波効果が薄まる)。一方、図27の曲線27Aより、2回目の光取り出しでは比率Pを0.9を中心とする0.5〜0.98の範囲に設定することで、光取り出し効率をより高められる。従って、1回目、2回目を含めたトータルの光取り出し効率では比率Pを0.4〜0.98の範囲に設定することが好ましい。
このように、本実施の形態では比率Pを0.5からずらすことで、第1の実施の形態よりも高い光取り出し効率が得られる。また、第1の実施の形態と同様に、方位による光強度の分布や色のアンバランスがない上、光取り出し効率の大幅な向上を実現でき、外界の像の映り込みも抑えられる等の効果を有する。
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態を図6(b)に基づいて説明する。なお第3の実施の形態は表面構造13の段差条件が違うだけで、他の構成は全て第1、第2の実施の形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
第3の実施の形態は第1、第2の実施の形態に於ける表面構造の隣接する2つの微小領域δ1,δ2間の段差の量をランダムにした場合である。ランダムにする方法としては、図2(a)において、透明基板5の表面を幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に仮想的に隙間無く分割し、単一の基準面に対し一つ一つの目に−dm/2からdm/2までの間の任意の高さ(または深さ)をランダム関数に基づきランダムに設定したものである。単一の基準面としては、透明基板5の表面の面法線に平行な方向において、最も高い位置に存する微小領域δと最も低い位置に存する微小領域δとの中間に存する、透明基板5の表面に平行な面である。dmは最も高い位置にある微小領域δと最も低い値にある微小領域δとの高さ方向の位置の差である。
図6(b)は本実施の形態に於ける表面構造の光取り出し効率を示す説明図であり、透明基板5の屈折率n1=1.457、空気6の屈折率n0=1.0、光の波長λ=0.635μmとし、横軸に表面構造の境界幅(微小領域δの幅)wをおいて、最大段差dm=1.4,0.9,0.7、0.3μmの場合の1回目の光取り出し効率η1、2回目の光取り出し効率η2を示している。計算の都合から基準面からの段差量のランダム性として、dm=1.4μmでは−0.7μmから0.7μmまでの0.467μmステップで4種類の段差、dm=0.9μmでは−0.45μmから0.45μmまでの0.3μmステップで4種類の段差、dm=0.7μmでは−0.35μmから0.35μmまでの0.233μmステップの4種類の段差、dm=0.3μmでは−0.15μmから0.15μmまでの0.1μmステップの4種類の段差をそれぞれランダムに選択する条件(出現確率がそれぞれ25%の条件)で行った。なお、各ステップの出現確率は均等である必要はなく、例えば低い(深い)位置のステップの出現確率を小さく、高い(浅い)位置のステップの出現確率を大きくしてもよい。
曲線6i、6Iはそれぞれdm=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線6h、6Hはそれぞれdm=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線6g、6Gはそれぞれdm=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線6f、6Fはそれぞれdm=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。第1実施例と同様に、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜2μmで極大になり、wを小さく又は大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面を鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率は、w≦0.20μmではwが小さくなるに従って0に収束し、図には現れないがwを8μmより大きくしていくと0.00に漸近する。従って境界幅wの範囲は0.2μm以上の大きさである必要があり、さらに第1実施例の図28、図29で議論したように、視野角依存性の関係から1.5μm以下が好ましい。図6(b)においてdm=0.7μm、境界幅w=0.6μmの条件で計算した1回目、2回目の光取り出し効率(η1、η2)は0.331、0.141となる。従って、dm=0.7μmで得られる特性は第1の実施の形態で得られる特性(曲線5A)や第2の実施の形態で得られる特性(曲線6B,6C)に比べ、2回目の光取り出し効率が向上している。これは凸部の先端が不揃いになることで、パターンのランダム性が増し、表面構造を反射する光の伝搬方位のランダム性も増して反射光の拡散性が高まり、2回目の光取り出しでも1回目に近い状態(全方位に均一な光強度の状態)で光が入射できるためと考えられる。
なおw≧0.4μmの範囲でdm=0.70μmに比べてdm=0.30μmの一回目における特性が劣化していることから、dmはdm≧0.2〜0.3μmであることが好ましい(この範囲は第1の実施の形態と同じである)。また、dm=1.40μmはw≧1.0μmの範囲でdm=0.70μmに比べ1回目の特性が微改善するが、dmが大きすぎると加工が困難になるうえ、w≧1.5μmの条件で視野角特性が劣化するので(図28、29参照)、1.40μmがdmの上限の目安といえる。これらの範囲は第1の実施の形態の範囲(λ/(n1−n0)≧dm≧λ/6(n1−n0))と同じである。
この様に、第3の実施の形態は段差の量をランダムにすることで、第1、第2の実施の形態よりも高い光取り出し効率が得られる。また、第1の実施の形態と同様に、方位による光強度の分布や色のアンバランスがない上、外界の像の映り込みも抑えられる等の効果を有する。
なお、段差の量をランダムにする条件として、(1)0から最大段差量dmまでの全ての値をとる場合、(2)0と最大段差量dmを含めて3段以上の段差の内のいずれかをとる場合、の2つが考えられる。このうち(2)の一例として、0、dm/3、dm×2/3、dmの4種類の段差を取る場合を考えると、このような表面構造をシート表面に形成するための形状転写用の金型は、2回の露光、エッチング工程(1回目:露光で境界幅w1のマスクパターンを用い、深さdm/3のエッチング、2回目:露光でマスクを境界幅w2のマスクパターンに変えて深さdm×2/3のエッチング)で作製することができる。このとき、不連続な境界線の出現頻度を最大にするには、w2=w1が条件となる。
さらに、0,dm/6,dm×2/6,dm×3/6,dm×4/6,dm×5/6,dmの7種類の高さ(段差)を取る場合を考えると、このような表目構造をシート表面に形成するための形状転写用の金型は、3回の露光、エッチング工程(1回目:露光で境界幅w1のマスクパターンを用い、深さdm/6のエッチング、2回目:露光でマスクを境界幅w2のマスクパターンに変えて深さdm×2/6のエッチング、3回目:露光でマスクを境界幅w3のマスクパターンに変えて深さdm×3/6のエッチング)によって作製することができる。このとき、不連続な境界線の出現頻度を最大にするには、w1=w2=w3が条件となる。
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態を図7に基づいて説明する。なお第4の実施の形態は表面構造のパターンが第1の実施の形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施の形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図7は第4の実施の形態に於ける表面構造のパターンを決定するまでの過程を示している。図7(a)は、透明基板5の表面を幅w1の碁盤の目(正方形の微小領域α)に分割し、一つ一つの目が黒であるか白であるかの比率を各50%として白と黒とをランダムに割り当てたもので、図ではw1=1μmの場合の例を示している(w1の最適値はもっと小さいところにあるが、図として見にくくなるのでこの値で説明する)。黒に割り当てられた微小領域αは微小領域α1であり、白に割り当てられた微小領域αは微小領域α2である。
図7(b)は、透明基板5の表面をw1の整数倍の大きさの幅w2の碁盤の目(正方形の微小領域β)に分割し、一つ一つの目が黒である比率をP2、白である比率を1−P2とし、P2=0.5として白と黒とをランダムに割り当てたもので、図ではw2=2μmの場合の例を示している。黒に割り当てられた微小領域βは微小領域β1であり、白に割り当てられた微小領域βは微小領域β2である。
図7(c)は、図7(a)、図7(b)のパターンを碁盤の目が揃うように重ね合わせ、黒(α1)と黒(β1)の重なりは白に、白(α2)と白(β2)の重なりは白に、白(α2)と黒(β1)、又は黒(α1)と白(β2)の重なりは黒にするというルールで生成されたパターンである。図7(c)は結果として図7(a)のパターンと生成ルールが等しくなり、黒を凸とし、それに対して相対的に白は凹となる表面構造のパターンは第1の実施の形態で紹介しているものと同じである。
一方、図7(d)は、透明基板5の表面を幅w1の碁盤の目(正方形の微小領域α)に分割し、一つ一つの目が黒である比率をP1、白であるかの比率を1−P1としてランダムに割り当てたもので、図ではw1=1μm、P1=0.1の場合の例を示している。図7(a)と同様に、黒が微小領域α1、白が微小領域α2である。
図7(e)は、図7(d)、図7(b)のパターンを碁盤の目が揃うように重ね合わせ、黒(α1)と黒(β1)の重なりは白に、白(α2)と白(β2)の重なりは白に、白(α2)と黒(β1)、又は黒(α1)と白(β2)の重なりは黒にするというルールで生成されたパターンである。図7(e)は黒、白の面積比率が1:1であり、黒マーク、白マークの最小サイズが同じになるなど、図7(c)のパターンと似た特徴をなすが、最小サイズの出現比率が低い点で違いがある。最終的な黒と白の比率(凹凸の面積比率)は比率P1、P2で決まり、黒の比率P(凸となる比率)はP=P1+P2−2P1P2で与えられる。
図27に、表面構造の凸部分の突出高さd=0.70μm、w1=0.2μm、w2=1μm、P1=0.1の条件で、凸となる比率Pを横軸にして計算した1回目、2回目の光取り出し効率(η1、η2)の特性を曲線27b,27Bとして付記する。
図27の曲線27bより、第1実施例とは異なったパターンの凹凸分布にも関わらず、1回目の光取り出しでは凹凸の面積比率を支配する比率Pを0.6を中心とする0.4〜0.8の範囲に設定することで、光取り出し効率をより高められる。一方、曲線27Bより2回目の光取り出しでは比率Pを0.5〜0.9の範囲(P1=0.1に設定しているので曲線27b、27Bは0.1以下、0.9以上をプロットできない)に設定することで、光取り出し効率をより高められる。従って、第1実施例と同様に比率P1、P2を組み合わせ最終的な凸となる比率Pを0.5〜0.98の範囲に設定することで、1回目、2回目を含めたトータルの光取り出し効率を高めることができる。なお、図27の曲線27c,27Cはw1=0.1μm、P1=0.1の条件、曲線27d,27Dはw1=0.1μm、P1=0.2の条件の1回目、2回目の光取り出し効率の特性である。w1を0.2μmより小さくすることで効率が大きく劣化するので、w1は0.2μm以上の大きさである必要がある。また、w1の上限値は第1の実施形態の図28,29で議論したように、視野角依存性関係から1.5μm以下が好ましい。
第4の実施の形態は表面構造の形成条件を第1の実施の形態とは若干変更したものであり、条件によっては光取り出し効率は第1の実施形態よりも若干劣化するが、依然として図14,図15(a)に示す従来の発光装置よりも大きな光取り出し効率を実現でき、第1の実施の形態と同様に、方位による光強度の分布や色のアンバランスがない上、光取り出し効率の大幅な向上を実現でき、外界の像の映り込みも抑えられる等の効果を有する。また第4の実施の形態は、第1の実施の形態に比べ、表面構造に関する形状の制約条件が緩いため、誤差マージンが広く取れ、加工のしやすさにメリットがある。例えば、第1の実施の形態の条件では、凹部と凹部、又は凸部と凸部の間隔が近接するため、微細な凹凸形状を加工することは困難であるが、第4の実施の形態では微細な凹部、又は凸部の出現比率が低いので(図7の(c)と(e)を参照)、凹部と凹部、又は凸部と凸部の間隔が実効的に広がって加工の難易度のハードルは低くなる。なお、第2の実施の形態に第4の実施の形態を適用したものでも、第2の実施の形態と同様の効果が得られることは言うまでもない。
(第5の実施形態)
第4の実施の形態と第3の実施の形態を組み合わせたものが、第5の実施の形態である。本実施の形態では、領域の設定をわかりやすくするために各領域を色で区別して説明する。第5の実施の形態では、まず、透明基板5の表面を幅w1の碁盤の目(正方形の微小領域α)に分割し、一つ一つの目が黒である比率をP1、白である比率を1−P1としてランダムに黒と白とに割り当て、白を割り当てられた領域(微小領域α2)をd1(>0)の深さだけエッチング等の方法で彫り込む。なお黒を割り当てられた領域が微小領域α1である。
次に、透明基板5の表面を幅w2の碁盤の目(正方形の微小領域β)に分割し、一つ一つの目が青である比率をP2、赤である比率を1−P2としてランダムに青と赤と割り当て、赤を割り当てられた領域(微小領域β2)をd2(>0)の深さだけエッチング等の方法で彫り込む。なお、青を割り当てられた領域が微小領域β1である。ただし幅w2は幅w1の整数倍であり(w2=w1が最も好ましい)、それぞれの碁盤の目は境界線が揃うように重ね合わされている。
このようにすることで、白と赤の重なっている部分の面を基準面としたときに、この基準面に対し黒と青の重なりは高さd1+d2に、白と青の重なりは高さd2に、又は黒と赤の重なりは高さd1にすることができる。従って、段差は0からd1+d2までの間の4種類の値(0、d1、d2、d1+d2)をランダムに取り得るので、第3の実施の形態と同じ効果が得られる。
しかもd1=dm×1/3、d2=dm×2/3と設定すれば、微細な構造で作製が困難な幅w1のパターンは深さを浅くできるので加工のしやすさにメリットがある。d1=dm×1/3、d2=dm×2/3の場合、比率P2はこれが彫り込み幅の深い側に対応しているので(実際には比率P2の側が2、比率P1の側が1の重みで平均深さに関係する)、凹凸の面積比率、すなわち深さの平均レベルを決定する第4の実施の形態の比率P2と似た意味合いを持つ。一方、比率P1は微細な構造(幅w1)の出現比率に関係するので、第4の実施の形態の比率P1と似た意味合いを持つ。
なお、上述の実施例は2種類の露光、エッチング工程の組み合わせであったが、3種類の露光、エッチング工程を組み合わせると、8種類の値からランダムな高さをとることができる。この場合は上述した2つのエッチング工程に以下の工程を加える。すなわち透明基板5の表面を幅w3の碁盤の目(正方形の微小領域γ)に分割し、一つ一つの目が緑である比率をP3、黄色である比率を1−P3としてランダムに緑と黄色と割り当て、黄色を割り当てられた領域(微小領域γ2)をd3(>0)の深さだけエッチング等の方法で彫り込む。なお緑を割り当てられた領域が微小領域γ1である。ただし幅w3は幅w2の整数倍であり(w3=w2が最も好ましい)、それぞれの碁盤の目は境界線が揃うように重ね合わされている。
このようにすることで、白と赤と黄色の重なっている部分の面を基準面としたときに、この基準面に対し黒と青と緑の重なりは高さd1+d2+d3に、白と青と緑の重なりは高さd2+d3に、黒と青と黄色の重なりは高さd1+d2に、黒と赤と緑の重なりは高さd1+d3に、黒と赤と黄色の重なりは高さd1に、白と青と黄色の重なりは高さd2に、白と赤と緑の重なりは高さd3にすることができる。従って、高さは0からd1+d2+d3までの間の8種類の値(0、d1、d2、d3、d1+d2、d2+d3、d3+d1、d1+d2+d3)をランダムに取り得るので、第3の実施の形態と同じ効果が得られる。
しかもd1=dm×1/6、d2=dm×2/6、d3=dm×3/6と設定すれば、微細な構造で作製が困難な幅w1やw2のパターンは深さを浅くできるので加工のしやすさにメリットがある。d1=dm×1/6、d2=dm×2/6、d3=dm×3/6の場合、比率P2やP3は彫り込み幅の深い側に対応しているので(実際には比率P3の側が3、比率P2の側が2、比率P1の側が1の重みで平均深さに関係する)、P2、P3は凹凸の面積比率、すなわち深さの平均レベルを決定する第4の実施の形態の比率P2と似た意味合いを持つ。一方、比率P1は微細な構造(幅w1)の出現比率に関係するので、第4の実施の形態の比率P1と似た意味合いを持つ。
(第6の実施の形態)
第6の実施の形態を図1に基づいて説明する。なお第6の実施の形態は表面構造13のパターンが第1の実施の形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施の形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
第6の実施の形態は第1の実施の形態に於ける表面構造の隣接する2つの微小領域δ1,δ2を位相シフターで構成したものである。位相シフターは、例えば屈折率の異なる多層膜で形成できる。すなわち多層膜の多重反射により、透過光の位相を調整でき、多層膜の構造(膜厚や層数)を変えることで180度の領域と0度の領域をランダムに形成できる。また、偏光子を用いて2つの領域を透過する光の偏光を変えても同じ効果が得られる。この時、180度領域に対応する透過光の偏光はP偏光、又は右回りの円偏光、0度領域に対応する透過光の偏光はS偏光、又は左回りの円偏光となるような偏光子になるが、方位の90度異なる1/2波長板を用いれば実現できる。なお、第1実施例の様な、屈折率に差がある界面の凹凸構造も透過光の位相が凹凸間で変化するので位相シフターの一つの形態と言える。
本実施の形態に於ける表面構造13の透過率tの入射角依存性、及び光取り出し効率は既に図21、図5(b)(曲線5d、5D)に示され、1回目の光取り出し効率だけでもwを0.4μm以上1μm以下の範囲で表面を鏡面とした場合の光取り出し効率を超えることができる。図5(b)には、位相差を90度にした結果も示しており、1回目、2回目の光取り出し効率がそれぞれ曲線5d'、5D'で表される。いずれも、位相差180度のもの(曲線5d、5D)より劣化するので、位相差の最適値は180度であることが分かる。
この様に、第6の実施の形態は表面構造13を位相シフターで構成することで、従来例よりも高い光取り出し効率が得られる。また、第1の実施の形態と同様に、方位による光強度の分布や色のアンバランスがない上、外界の像の映り込みも抑えられる等の効果を有する。
(第7の実施の形態)
第7の実施の形態を図8に基づいて説明する。なお第7の実施の形態は表面構造のパターンが第1の実施の形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施の形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図8(a)は本実施の形態に於ける第1の表面構造23のパターン図を示している。図8(a)に示すように、表面構造23は透明基板5の表面を一辺の長さwの正三角形(微小領域δ)に分割し、一つ一つの微小領域δが凸(図中の23a(微小領域δ1)、灰色の図形)であるか凹(図中の23b(微小領域δ2)、白の図形)であるかの比率を各50%として凸と凹とをランダムに割り当てたものである。wは2.25μm以下である。
一方、図8(b)は本実施の形態に於ける第2の表面構造33のパターン図を示している。透明基板5の表面を一辺の長さwの正六角形(微小領域δ)に分割し、一つ一つの図形が凸(図中の33a(微小領域δ1)、灰色の図形)であるか凹(図中の33b(微小領域δ2)、白の図形)であるかの比率を各50%として凸と凹とをランダムに割り当てたものである。wは0.93μm以下である。
なお、一般的に表現すれば、図形の大きさはその図形に内接する円の最大のものの直径が0.2μm以上1.5μm以下であることが条件となる。
第7の実施の形態は表面構造23,33のパターン形状が第1の実施の形態とは異なるだけで、第1の実施の形態と同じ原理が作用し、同一の効果が得られる。また、正三角形や正六角形に限らず、同じ図形で隙間無く面分割が出来るのであれば、任意の多角形であってもよい。
なお、第1から第7の実施の形態では、実際の加工体での表面構造13,23,33が厳密には正方形や正三角形、正六角形にはならず角の部分が丸まったり角が丸まった微小領域の隣の微小領域の角がその分変形したりするが、特性の劣化はなく同一の効果が得られることは言うまでもない。また、第2〜第6の実施の形態に第7の実施の形態を適用したものでも、第2〜第6の実施の形態と同様の効果が得られる。
(その他の実施の形態)
上述の実施の形態は本発明の例示であって、本発明はこれらの例に限定されない。以上の実施の形態において、表面構造の凸部分の表面に垂直な断面形状は矩形形状に限らず、台形や円錐形状となってもよく、凸部分の斜面が曲線になってもよい。
また、透明基板5の厚さが大きい場合、光の出射位置は光取り出しの回数が増すごとに発光点Sの位置から離れてくる。この場合、ディスプレイ用のELの様に300μm程度の画素ごとに区切られた構成では、光が隣の画素に紛れ込み、画質の劣化につながる。従って、図9(a)に示すように、表面構造13の形成された透明基板5は数μm程度に薄く構成し、その上に空気層を挟んで0.2mmから0.5mm程度の保護基板14で覆う構成が考えられる。保護基板の表面14a、裏面14bでは全反射は発生しないが、ARコートの必要はある。このとき表面構造13の上には空気層の代わりにエアロゲル等の低屈折率で透明な材料を用いてもよく、このとき一体構成になるため装置としての安定性が高い。
さらに、以上の実施の形態では、一つの面だけに表面構造13を形成したが、透明基板5の両面に同じような構造を形成することができる。また表面構造13と発光点Sの間に一般の回折格子13’を配置してもよい。この時図9(b)に示すように、透明基板5をフィルム形状にし、表面に表面構造13、裏面に回折格子13’や別仕様の表面構造13”を形成し、発光体側に接着層21を介して接着させる構造が考えられる。透明基板5の屈折率が小さく、発光層3との屈折率差が0.1以上ある場合には、接着層21の材料を発光層3の屈折率より0.1だけ小さいかそれ以上になるように選ぶと接着層21と発光層3との恭敬面での全反射はほとんど生じないとともに、接着層21と透明基板5の間の屈折面、及び透明基板5と空気6の間の屈折面で発生する全反射を、それぞれ表面構造13”(又は回折格子13’)、及び表面構造13で回避できる。なお、回折格子13’や表面構造13”の凹部の深さまたは凸部の高さは凹部での透過光と凸部での透過光にπだけ位相差が発生する条件が好ましいが、これよりも凹の深さや凸の高さが小さい条件であってもよい。
なお参考として、図10に表面構造が市松模様(チェッカー形状)をなすパターン図を示している。図10において、表面構造は透明基板5の表面を一辺の長さwの正方形に分割し、灰色の正方形13aと白の正方形13bがチェッカーパターンを形成し、灰色が凸となり、相対的に白が凹の形状をなす。
図11は図5(a)におけるものと同じ条件の下で、凹凸の段差d=0.70μmとして図10に示した表面構造の透過率tの入射角依存性を示す説明図であり、透明基板5内で光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気6側に出射するかを幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、1.0、2.0、4.0μm)にして示している。図11をランダムパターンの特性である図3(a)と比べると、w=0.1、0.2μm(いわゆる回折光が発生しないナノ構造の領域)の曲線を除いて細かいうねりが存在することが分かる。これはチェッカーパターンによる回折で空気層側に回折光が発生したり消滅したりするためで、方位によって光強度に分布があることを示しており、周期パターン固有の問題である。
このチェッカー形状をなす表面構造と図17(b)で示した千鳥格子(□wの部分が凹となる側)をなす表面構造との、1回目、及び2回目の光取り出し効率を図5(b)に付記している(d=0.70μm、それぞれ曲線5e、5f、5E、5F)。千鳥パターンの2回目の光取り出し効率が大きくなるのは図27で紹介した現象と同じで、千鳥パターンでは凸となる比率P=0.75となるためである。ランダムパターンの特性に比べ、チェッカーパターン、千鳥パターンともwの変化に伴いうねった特性を示すが、これも周期パターン固有の問題であり、方位による光強度の分布と関係している。
図30(a),(b)に、チェッカーパターンの表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を付記している。段差d=0.7μm、境界幅w=0.5μmとし、図30(a)はλ=0.450μm、図30(b)はλ=0.635μmの条件である。実線(0度、90度の経度方位)、破線(45度、135度の経度方位)とも偏角に対する変動が大きく、両者の乖離も大きいうえ、波長によって形状が大きく変化することが分かる。方位による光強度の分布や色のアンバランスが発生することは、特許文献1に記載された発光装置同様、周期パターンに於ける致命的な欠点である。これらの課題は第1から7の実施の形態では全て克服出来ている。
境界回折効果は光の位相の不連続な部分を一定間隔以上隔てた場合に発生するので、この効果を極大化させるためには、限られた面積内で位相の不連続な部分の出現比率を極大化させることが必要になる。屈折面を無数の微小領域で分割し、微小領域同士の境界で位相が不連続になるとすると、2つの条件により前述の出現比率の極大化がなされる。一つ目の条件は各微小領域の面積が出来るだけ一つに揃うこと、2つ目の条件は隣り合う微小領域間にも位相差が存在することである。すなわち、微小領域の内に他のものより大きい面積のものがあれば、この大きな面積を分割した方が位相不連続の境界が増える。反対に微小領域の内に他のものより小さい面積のものがあるとすれば、これは他のものより大きい面積のものが存在することになり、この大きな面積を分割した方が位相不連続の境界が増える。この延長線として、各微小領域の面積が出来るだけ一つに揃い、少なくとも各微小領域の面積がある基準面積に対し0.5〜1.5倍の範囲(微小領域に内接する円のうち最大のものの直径が、基準になる直径に対し0.7〜1.3倍の範囲)に入ることが微小領域間の境界線の出現比率を極大化することになる。第1から第7の実施の形態はこの条件に従っている。また微小領域への分割を極大化することができても、隣り合う微小領域同士で位相が揃えば効果が薄くなる。従って隣り合う微小領域間にも位相差の存在、すなわちランダムな位相の割り当てが必要であり、第4や第5の実施の形態等はこの条件に従っている。すなわち、上記の実施形態の発光装置は、特許文献2に記載されている発光装置のような反射防止による効果ではなく境界回折効果を極大化させた効果によって取り出し効率の向上が実現されている。
なお、第1から7の実施の形態に於ける表面形状は磨りガラスや面粗し等の表面状態や特許文献2に記載された発光装置で示された表面状態とは異なる。第1や第4、第7の実施の形態では、表面を幅wの碁盤の目(又は多角形の目)に分割し、一つ一つの目に凸と凹を1:1の比率で割り当てたもので、このパターンには固有の幅wというスケールと固有の微小領域の形状とが存在し、凸部の総面積と凹部の総面積の比率も1:1の関係に収まっている。これに対し、磨りガラスや面粗し等の表面状態は固有の幅wが存在せず微小領域の形状は不定形であり、凸部の総面積と凹部の総面積の比率も1:1の関係になる訳ではない。第2の実施の形態では、凸と凹の比率を50%からずらし、凹部の総面積と凸部の総面積の比率が1:1から外れるが、依然として固有の幅wが存在しており、凹部の総面積と凸部の総面積の比率も所定の値であり完全にランダムなパターンとは一線を画する。第3や第5の実施の形態でも固有の幅wが存在し、この幅wで定義される碁盤の目(又は多角形の目)ごとに段差が異なっている。このように、上記実施の形態に於ける表面形状は、完全にランダムなパターンではなく、ある規則に沿ったランダムパターンと言える。
完全にランダムなパターンとの違いをもう少し考察してみる。図12(a)に示すように、幅4wのテーブル16の上に幅wのカード17を8枚ランダムに並べる。即ち8枚のカード17の総面積はテーブル16の面積の1/2である。ただし、カード17はテーブル16をはみ出さないとする。図12(b)はカード17の重なりを許して配列している。図12(c)はカード17の重なりを許さずに配列している。図12(b)ではカード17が重なった分だけ、カードの面積総和がテーブル面積の1/2より小さくなる。面積比がある比率から乖離すると光取り出し効率は劣化することは既に図27の曲線27a,27Aで示されている。図12(c)では面積比1/2を維持するものの、カード間にwよりも小さい微小な隙間jが発生し、これは図12(b)でも同じである。微小な隙間jが発生しその頻度が大きくなると、jを新たな境界幅と見ることができ、図6からわかるようにj≦0.1μmの条件で光取り出し効率が大きく劣化する。また、図27で示されているように、微少な凹凸構造の比率P1が増大することで(曲線27a,27c,27dの順でw1=0.1μmの構造の比率P1が0.0、0.1、0.2と増大している)、トータルの凸となる比率が同じでも1回目、2回目の光取り出し効率がともに劣化している。このように完全にランダムなパターンだけでは、光取り出し効率を最大にする条件とはなり得ない。
上記の実施の形態で用いたランダムパターンの生成原理は図12のものとは異なる。上記の実施の形態では面積比はある比率に保たれ微小間隔j等の、幅wより小さいスケールは発生することはない。このように、上記実施の形態に於ける表面形状は、完全なランダムなパターンではなく、光取り出し効率を極大化するための規則に沿ったランダムパターンと言える。
また、第1から7の実施の形態に於ける表面形状が引き起こす現象は回折現象の一つである。図18で示したように、回折現象では表面形状を平均する平坦な基準面に対し仮想的に屈折する光線を0次回折光(全反射の場合には表れない)とし、この光を方位の基準としてシフトした方位に高次の回折光が発生する。本願のようなランダムな表面形状では0次以外の回折光の伝播方位がランダムになる。これに対し磨りガラスや面粗しは回折現象ではなく屈折現象の一つであり、デコボコした屈折面においてその面法線の方位がランダムになることで屈折の方位もランダムになっているだけである。すなわち、平行平板の上に第1から7の実施の形態に於ける表面形状を形成し、透かして見ると反対側の像の輪郭がはっきりと見える。これは表面形状で回折分離する光の中に0次回折光が必ず存在し、この光が反対側の像の輪郭を維持させている。これに対し、磨りガラスや面粗しでは0次回折光に相当する光が存在せず、透かして見ると反対側の像の輪郭がぼやけたものになる。特許文献2では表面の突起物により光が”素直に空気中に放射される”の表現があるだけで回折という表現が無く、“素直”という言葉をスネルの法則(屈折の法則)に従うと解釈でき、その意味では磨りガラスや面粗しと同じ部類に入ると理解でき、本願発明とは別のものであると言うことができる。
ちなみに、特許文献2に開示された技術の特徴は、透明絶縁基板の上に複数の透明な突起物を完全にランダムに配置することにあり、本願のように凸部と凹部とを同じ形状の微小領域の一つ以上の集合体として且つ凸部と凹部の存在比率を特定の割合にするという特徴は記載も示唆もされていない。例えば第1の実施形態において、凹部と凸部とを入れ替えた構造または微小領域の高さと深さとを入れ替えた構造は元の構造とほぼ同じ構造になるが、特許文献2に記載された発光装置ではそうはならない。このような例示的な実施形態の特徴により顕著な光取り出し効果を奏することは本願発明者らが初めて見出したものであり、特許文献2には上記実施形態のような顕著な効果は記載されていない。特許文献2に記載された発光装置では単位面積当たり5000〜106個/mm2の数で幅0.4μm以上20μm以下の突起物が完全なランダムな配置で与えられており、形式的には上記実施形態の発光装置の一部がこの発光装置の中に含有される形にはなるが、突起物とそれ以外の部分との形状の関係および存在比率の関係、さらにはそのような関係が存在して初めて奏される効果が記載も示唆もない以上、実質的には上記の実施形態は特許文献2に開示された技術には含まれず、特許文献2に開示された発明と本願発明とは全く別のものであると言うことができる。
なお、第1から6の実施の形態では凹凸形状で光の位相をシフトさせた。位相のシフトは凹凸形状以外でも実現でき、例えば凹部に対応した領域と凸部に対応した領域で多層膜の厚みや屈折率条件を変えることでも可能である。この場合でも、上記実施の形態と同じ効果が得られることは言うまでもない。また、第1から7の実施の形態はそれぞれ独立して成り立つのではなく、それぞれの一部を組み合わせて、新たな実施例とすることも考えられる。また、第1から7の実施の形態では有機エレクトロルミネセンス素子を例にとって説明したが、屈折率が1より大きい媒質内で発光する素子であれば全てに適用できる。例えば、LEDや導光板などへの適用も可能である。さらに、発光装置が光を出射する媒質は空気に限定されない。上記実施形態の表面構造は、透明基板の屈折率が、透明基板が接している媒質の屈折率より大きい、特に0.1以上大きい場合に適用できる。
以上説明したように、本発明に係る発光装置は、光の取り出し効率を大幅に向上させる上、出射光の視野角特性も良好なので、ディスプレイや光源等として有用である。
第1の実施の形態に於ける有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光 の伝搬の様子を示す図である。
(a)は第1の実施の形態に於ける表面構造の一部拡大図であり、(b)は より広い範囲におけるパターン図である。
第1の実施の形態に於ける表面構造の透過率tの入射角依存性を示す説明図 であって、(a)は1回目の透過率の入射角依存性を示す説明図であり、(b)2回 目の透過率の入射角依存性を示す説明図である。
第1の実施の形態の表面構造における取り出し光量の入射角依存性を示す説 明図であって、(a)は1回目の取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であり、 (b)2回目の取り出し光量の入射角依存性を示す説明図である。
第1の実施の形態に於ける表面構造の光取り出し効率を示す説明図である。
(a)は第2の実施の形態に於ける表面構造の光取り出し効率を示す説明図、(b)は第3の実施の形態に於ける表面構造の光取り出し効率を示す説明図である。
(a)乃至(e)は第4の実施の形態に於ける表面構造のパターンを決定す るまでの説明図である。
(a)は第6の実施の形態の第1の表面構造を、(b)は第2の表面構造を 示す図である。
(a)、(b)はその他の実施の形態に於ける有機エレクトロルミネセンス 素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す説明図である。
表面構造がチェッカー形状をなすパターン図である。
図10に示した表面構造の透過率tの入射角依存性を示す説明図である。
(a)〜(c)は突起物のランダムな配置の仕方を説明する説明図である 。
(a)乃至(h)は屈折面における光の場の境界条件を説明する説明図で ある。
有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す説明 図である。
(a)は屈折率のステップ状の変化を、(b)は屈折率のなだらかな変化 を、(c)は屈折面における入射角と透過率との関係を、(d)は屈折面を示す図で ある。
(a)は多層構造の透明基板を、(b)は取り出し可能な光の範囲を説明 する図である。
(a)は周期的構造を有した回折格子を界面に備えた発光装置の断面を、 (b)は(a)の上面を示す図である。
回折格子による回折方位を説明する説明図である。
(a)はランダムに配置された突起を表面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)の上面を示す図である。
(a)はピンホールを、(b)は位相シフターを配置した図である。
180度位相シフターがランダムに配置された屈折面の入射角に対する透 過率を示した図である。
調整層を有する発光装置の断面を示した図である。
調整層との境界にも表面構造を設けた発光装置の断面を示した図である。
第1の実施の形態に於ける表面構造の透過率tの入射角依存性を示す実験説明図である。
180度位相シフターがランダムに配置された屈折面の入射角に対する透過率を示す実験説明図である。
入射角に対する透過率を測定するための実験装置の構成図である。
第2の実施形態における取り出し効率を示す説明図である。
第1の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第1の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
チェッカーパターン表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
1 基板
2 電極
3 発光層
4 透明電極
5 透明基板
6 空気
13 表面構造
S 発光点