本発明は、短波長光源およびそれを用いたレーザ画像形成装置に関する。
強誘電体の分極を強制的に反転させる分極反転現象を利用すると、強誘電体の内部に周期的な分極反転領域(分極反転構造)を形成することができる。このようにして形成された分極反転領域は、表面弾性波を利用した光周波数変調器や、非線形分極の分極反転を利用した光波長変換素子、プリズム形状やレンズ形状の反転構造を利用した光偏光器などに利用される。特に、非線形光学物質の非線形分極を周期的に反転することで変換効率の高い光波長変換素子を作製することができる。これを用いて半導体レーザなどの光を変換すれば、印刷、光情報処理、光応用計測制御分野などに応用できる小型の短波長光源を実現することができる。あるいは、ワット級の高出力レーザ(ファイバーレーザ、あるいは固体レーザなど)の光を変換すれば、ワット級の短波長可視光(緑色、青色)、あるいは高出力な紫外レーザが実現し、高輝度ディスプレイ、加工、露光などに応用できる高出力短波長光源を提供することができる。
基本波の単行(シングルパス)変換によりワット級の高出力CW可視光発生を実現する有望な手法として、周期分極反転LiNbO3(Periodically Poled LiNbO3:以下、「PPLN」と略す)を用いた第2高調波発生がある。LiNbO3(以下、「LN」と略す)は、大きな非線形光学定数を有しているために、シングルパスでCW、ワット級の短波長光発生が可能である。しかしながら、LNでは光損傷、緑色光により誘起される赤外吸収(Green Induced Infrared Absorption:以下、「GRIIRA」と略す)などによる影響のため、出力が不安定になる、高温動作が必要である、という課題があった。
上述した課題を解決するために、周期分極反転MgO:LiNbO3(Periodically Poled MgO:LiNbO3:以下、「PPMgLN」と略す)を用いたシングルパス構成による可視短波長光発生がある。MgO:LiNbO3(以下、「MgLN」と略す)は、LNと比較して高い非線形光学定数、優れた耐光損傷性、短波長域への透過特性を有するため、シングルパス構成で室温CWのワット級出力が実現可能な高非線形材料として有望である。
ところで、波長変換素子内でのレーザ光入射による素子温度分布による変換効率低下を抑制するために、特許文献1に示されるような線状に加熱する手段を設ける、あるいは、特許文献2おいては、光軸方向の温度分布に基づいて結晶の温度差が0.1℃以内になるように素子を移動させて配置する構成、あるいは特許文献3では素子の入射面および出射面付近の冷却と素子中間部分の温度調整手段を異ならせて伝搬方向の温度分布を低減する手段がとられている。特許文献4では素子の両側面にペルチェ素子を4つ配置し、素子の幅方向の温度分布を抑制し、変換効率を維持する方法が挙げられている。
しかし、室温CWでワット級出力が実現可能な材料として期待されているMgLNにおいては、高出力時に、光損傷やGRIIRA、あるいはレーザ入射による素子温度分布発生とは異なる別の現象が発生し、高調波出力が不安定になる、あるいは結晶が破損する、という新たな課題が発生した。我々は、この要因を検証した結果、基本波と高調波の相互作用で発生した紫外光により誘起される高調波光吸収が原因で結晶内部に熱が発生し、高調波出力が不安定になる、ということを見出した。特に、高出力の高調波発生時において基本波と高調波の和周波が発生する光源では、高調波の吸収による熱の発生が顕著になることが判明した。従来、このような高調波光吸収および和周波による熱の発生は認識されていない。
また、特許文献5に示されるように波長変換素子の位相整合の許容度を拡大するために分極反転の周期を変えた波長変換素子が提案されている。
特開平11−125800号公報
特開2003−140211号公報
特開2004−53781号公報
特開平5−204011号公報
特開2000−321610号公報
本発明の目的は、高調波吸収で発生する熱による素子内の温度分布を抑制し、変換効率を維持することにより高調波出力の安定化を図ることができる短波長光源を提供することである。
本発明の一局面に従う短波長光源は、基本波が入射される入射面および高調波が出射される出射面と、を有し、前記基本波を前記高調波に変換する波長変換素子と、前記波長変換素子を保持する保持部とを備え、前記波長変換素子は、前記波長変換素子の前記出射面側の一部の領域である特定領域において、前記波長変換素子による波長変換の際における前記高調波の吸収による発熱に起因する前記基本波と前記高調波との間の位相整合条件の変動が抑制されるように構成される。
上記の短波長光源では、波長変換素子の特定領域において高調波の吸収により発熱が生じた場合でも、その発熱に起因する基本波と調波との間の位相整合条件の変動が抑制されるので、高調波出力の安定化を図ることができる。
本発明によれば、高調波吸収で発生する熱による素子内の温度分布を抑制し、変換効率を維持することにより高調波出力の安定化を図ることができる短波長光源を提供することができる。
図1Aは、本発明の実施の形態1にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図であり、図1Bは、波長変換素子の入射面からの距離とSHG出力との関係を示す図である。
本発明の実施の形態1にかかる短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
基本波の入力パワーとSHGの出力パワーとの関係を示す図である。
本発明の実施の形態2にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態3にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。
図6AおよびBは、本発明の実施の形態4にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態5にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。
図8AおよびBは、本発明の実施の形態6にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。
SHG波長と変換効率が劣化するSHG出力との関係を示す図である。
従来の短波長光源のSHG出力特性を示す図である。
SHGの変換効率が劣化したときの素子温度分布を示す図である。
従来の短波長光源の概略構成を示す断面図である。
図13Aは、本発明の実施の形態7にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図であり、図13Bは、波長変換素子の入射面からの距離とSHG出力との関係を示す図である。
本発明の実施の形態7にかかる短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態7にかかる短波長光源のさらに他の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態8にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態8にかかる短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態8にかかる短波長光源のさらに他の概略構成を示す断面図である。
従来の短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態9にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態9にかかる短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態10にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態10にかかる短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
図24Aは、波長変換素子内のビームパスを表わす模式図であり、図24Bは、波長変換素子内の発熱量分布を示す図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ要素には同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。また、図面は、理解しやすくするためにそれぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、形状等については正確な表示ではない。
(実施の形態1)
最初に、本実施の形態の背景となる、波長変換素子の出力の不安定性について説明する。図12に、従来の短波長光源の概略構成を示す。図12の波長変換素子1201は、周期状の分極反転構造を有するバルク型の波長変換素子であり、基本波1204を第2高調波(以下、「SHG」とする)1205に変換する場合、SHG1205の出力は基本波1204の2乗に比例して増大する。ところが、一定のSHG出力を越えると、SHG1205の出力が2乗特性から大きく低下する現象が観測された。図10に、基本波1204の入力パワーに対するSHG1205の出力の変化を示す。図10に示すように、SHG1205の出力パワーが1.5ワットを越えた付近から、2乗特性が成立していない。
この低下の原因を調べたところ、波長変換素子1201が基本波1204をSHG1205に変換する際において、基本波1204とSHG1205の和周波であるTHG(波長が基本波1204の波長の1/3)が発生しており、このTHGの発生の影響により、波長変換素子1201によるSHG光の吸収が発生し、この吸収による発熱で波長変換素子1201の位相整合条件が乱されていることが分かった。図11に、このときの波長変換素子1201の光伝搬方向に沿った温度分布を示す。図12のペルチェ素子1208を用い、波長変換素子1201の温度を一定に保持するように制御しようとしたが、図11の温度分布は回避されなかった。このため、THGの強度が一定の値を超える領域では、SHG1205の吸収による発熱が顕著になり、位相整合条件が成立しなくなり、波長変換素子1201の変換効率の低下が発生することが明らかになった。
また、図9に、SHG1205の波長と変換効率の低下が開始するSHG出力との関係を示す。図9に示すように、変換効率の低下が開始するSHG出力はSHG1205に対して非常に強い波長依存性を持つことが明らかになった。
本実施の形態は、このような現象を基に考案されたものであり、SHGの吸収によって発生する発熱を、放熱構造の工夫、温度制御の改良、あるいは、発熱していない部分の加熱により波長変換素子の温度分布を低減することにより、波長変換素子の変換効率を維持することができるものである。
図1Aは、本発明の実施の形態1にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態にかかる短波長光源は、波長変換素子101の伝搬方向に複数のペルチェ素子110、111を配置している。本実施の形態にかかる短波長光源は、図1Aに示すように、波長変換素子101と、第1の保持部112と、第2の保持部113と、制御部114と、を備えている。第1の保持部112は、2つの放熱剤108に挟まれた銅板109と、銅板109の温度を制御することにより銅板109の上部に配置された波長変換素子101の一部を温度制御するペルチェ素子110と、を有しており、第2の保持部113は、2つの放熱剤108に挟まれた銅板109と、銅板109の温度を制御することにより銅板109の上部に配置された波長変換素子101の残りの一部を温度制御するペルチェ素子111と、を有している。第1の保持部112のペルチェ素子110および第2の保持部113のペルチェ素子111のそれぞれは制御部114に接続され、制御部114によって温度制御される。
本実施の形態の短波長光源においては、波長変換素子101に、周期状の分極反転領域102が複数形成されている。波長変換素子101を構成する基板の厚みは1mmである。分極反転領域102は基板結晶のY軸に沿って形成されている。分極反転領域102は基板の+Z面から−Z面側に向かって形成されている。分極反転領域102は電界印加法により作製した。分極反転領域102の分極反転周期103は6.97μm(Λ)で形成され、波長1064nmの光(Nd:YAGレーザ)を波長532nmの緑色光に波長変換することができる。波長変換素子101の温度を制御するための温調制御素子としてペルチェ素子110、111を用いた。本実施の形態では、第1の保持部112のペルチェ素子110および第2の保持部113のペルチェ素子111のそれぞれは、図1Aに示すように光の伝搬方向に並ぶように配置され、それぞれが独立した温度で制御部114により制御することができる。
図12を用いて、まず、従来の構成におけるSHG光の高出力特性について述べる。図12に示した短波長光源においては、波長変換素子1201は保持部1209により保持され、保持部1209の1つのペルチェ素子1208により波長変換素子1201の温度制御が行われる。波長変換素子1201の表面には、波長変換素子1201からの発熱を放熱するため、放熱剤1206を介して銅板1207が貼り付けられている。また、波長変換素子1201と銅板1207は、ペルチェ素子1208で一定の温度に温度制御されている。波長変換素子1201の素子長を10mmとし、集光レンズで集光した波長1064nmの低パワーの基本波(7W以下)1204を入射したところ、変換効率3%/Wで波長変換され、波長532nmのSHG1205が得られた。均一な分極反転領域1202を形成することで高効率の波長変換が可能となる。基本波1204である波長1064nmの赤外入力パワーを上昇させると、基本波入力7W以下においては2乗特性に従い高調波出力が増大する。しかしながら、図12で示された従来の短波長光源では、図10で述べたように、高調波出力が1.5W以上になると2乗特性から外れ、出力が不安定になった。
発明者らの実験において、図10に示したような2乗特性の劣化は、SHG強度が特定の値を超えた領域から突然顕著に現れることが判明した。この要因としては、THGにより誘起されるSHGの吸収により屈折率が増加し、実効的な分極反転構造の周期が増大するため、位相整合が不整合状態となり、変換効率を低下させることが挙げられる。屈折率変化は10−6〜10−5程度であり、SHG吸収による発熱により発生する。SHG強度の変化による吸収係数の変化はあまり大きくないため、変換効率が劣化するSHGのパワーは、ほぼ一定の値をとる。さらに、変換効率が劣化するSHGのパワーは、強い波長依存性を持ち、図9に示したように、波長によって大きく異なることが分かった。これは、SHGの吸収係数がSHGの波長に依存しているためと思われる。従って、波長が決まれば、SHGの変換効率が劣化するSHGのパワーが一義的に求まる。
そこで、これらの条件を基に、短波長光源の設計を行うことができる。例えば、SHGの波長をλshgとし、このλshgに対して出力が劣化するSHGのパワーをP(劣化)とする。短波長光源において、SHG出力を一定の値Pshgで出力させたい場合、Pshg>P(劣化)の条件においては、波長変換素子の発熱による温度分布を低減するように放熱構造や温度制御方法を最適に設計する必要がある。
例えば、波長変換素子において、波長1064nmの基本波を波長532nmのSHGに変換する場合、基本波の入力を10W、基本波の集光径をφ33μm、基本波のビーム品質をほぼ理想的な状態のガウシアン分布とすると、波長変換素子の長さが10mmのとき、素子の入射面から出射面に向って約7mm進んだところで、SHGの強度は1.5Wを越える。なお、SHG波長532nmのときのP(劣化)の値は、図9より約1.5Wである。従って、波長変換素子の温度制御としては、出射面近傍の3mmにおいてペルチェ素子を設置し、そのペルチェ素子を用いて温度制御することで波長変換素子の変換効率を大幅に増大できる。
上記提案をもとに、図1Aで示された本実施の形態の短波長光源を用いて同様の実験をおこなった。形成された分極反転領域102は、図12で示された短波長光源と同等の分極反転特性(均一性、形成領域)が得られており、高調波出力が1.5W以下の時の変換効率は3%/Wと同じであった。図1Aで示された短波長光源を用いると、高調波出力が1.5W以上になっても2乗特性の劣化、出力の不安定化および変換効率の低下は発生せず、安定な出力、高品質のビームプロファイルを得ることができた。図3に、その結果を示す。緑色出力1.5Wの高出力時には基本波および高調波の吸収により素子の温度分布が発生したが、2つのペルチェ素子110、111を個別に制御することで、光伝搬方向における温度分布を回避し、素子温度を一定することができた。緑色出力2.5Wの時においても従来の光源では急激な変換効率の低下が発生していたが、2つのペルチェ素子110、111の温度制御を適切に行うことにより変換効率の低下および出力低下を抑制し、安定な出力を得ることができた。
図1Bに、図1Aの波長変換素子101の入射面106からの距離とSHG出力との関係を示す。図1Bに示すように、本実施の形態にかかる短波長光源においては、入射面106から出射面に向って約7mm進んだところで、出力が劣化するSHG出力(特定値)を超えているが、上述したように、2つのペルチェ素子110、111の温度制御を適切に行うことにより変換効率の低下および出力低下を抑制し、安定な出力を得ることができた。
本実施の形態にかかる短波長光源においては、伝搬方向に発生した温度分布を回避するために温度上昇が顕著に現れる出射面近傍に、1つのペルチェ素子111を配置して温度制御を行ったが、出射面近傍に2個以上のペルチェ素子を配置しても構わない。図2は、本発明の実施の形態1にかかる短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。図2の短波長光源は、波長変換素子201の伝搬方向に複数のペルチェ素子210、211、212を配置している。図2の短波長光源は、波長変換素子201と、第1の保持部213と、第2の保持部214と、第3の保持部215と、制御部216と、を備えている。第1の保持部213は、2つの放熱剤208に挟まれた銅板209と、銅板209の温度を制御することにより銅板209の上部に配置された波長変換素子201の一部を温度制御するペルチェ素子210と、を有しており、第2の保持部214は、2つの放熱剤208に挟まれた銅板209と、銅板209の温度を制御することにより銅板209の上部に配置された波長変換素子201の他の一部を温度制御するペルチェ素子211と、を有しており、第3の保持部215は、2つの放熱剤208に挟まれた銅板209と、銅板209の温度を制御することにより銅板209の上部に配置された波長変換素子101の残りの一部を温度制御するペルチェ素子212と、を有している。第1の保持部213のペルチェ素子210、第2の保持部214のペルチェ素子211および第3の保持部215のペルチェ素子212のそれぞれは制御部216に接続され、制御部216によって温度制御される。
図2の短波長光源においては、熱発生が集中する波長変換素子201の出射面近傍に、伝搬方向の温度分布に合わせて素子温度が一定になるように複数個のペルチェ素子211、212を配置する。ペルチェ素子211、212の配置方法は温度分布が抑制されるのであればこれらの配置方法に限らない。
本実施の形態にかかる短波長光源においては、出射側近傍をペルチェ素子にて個別に制御する長さは、全長の1/2以下が望ましい。バルク型の波長変換素子の場合、変換効率が最大となる基本波の集光特性は、集光点を結晶の中央とし、基本波のビーム径が結晶の両端において最大となるようにした場合である。このとき、素子内でのSHGの強度は素子中央部でのパワーに対して、出射部で約3倍になる。変換効率が劣化するP(劣化)に対して、最大出力が3倍以上になると、光吸収による結晶破壊が生じることが分かった。このため、出射面近傍の個別制御する長さを素子長の半分以上にしても、出力光の増大は得られないため、その長さを素子長の半分以下にすることが好ましい。
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態では、波長変換素子の出射面付近のSHG出力およびSHGのパワー密度が最も大きくなる箇所の放熱特性を良好にした構成の短波長光源について述べる。
図4は、本発明の実施の形態2にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態にかかる短波長光源は、波長変換素子401の伝搬方向に複数のペルチェ素子411、412を配置している。本実施の形態にかかる短波長光源は、図4に示すように、波長変換素子401と、第1の保持部413と、第2の保持部414と、制御部415と、を備えている。第1の保持部413は、2つの放熱剤408に挟まれた銅板410と、銅板410の温度を制御することにより銅板410の上部に配置された波長変換素子401の一部を温度制御するペルチェ素子411と、を有しており、第2の保持部414は、2つの放熱剤409に挟まれた銅板410と、銅板410の温度を制御することにより銅板410の上部に配置された波長変換素子401の残りの一部を温度制御するペルチェ素子412と、を有している。第1の保持部413のペルチェ素子411および第2の保持部414のペルチェ素子412のそれぞれは制御部415に接続され、制御部415によって温度制御される。
本実施の形態の波長変換素子401は、Z板MgドープLiNbO3基板に、周期状の分極反転領域402が複数形成されているものを用いた。波長変換素子401のデバイス特性およびデバイス構造は、上記の実施の形態1と同じなので説明は省略する。基本波404に波長1064nmの光(Nd:YAGレーザ)を使用して、波長変換素子401により、波長532nmの緑色光(SHG)405に波長変換することができる。波長変換素子401の固定には、入射面406から素子中間部にかけて熱伝導率の低い放熱剤408を用い、素子中間部から出射面407の部分には熱伝導率の高い放熱剤409を用いた。
図4の本実施の形態にかかる短波長光源を用いて、SHG405の高出力特性の実験をおこなった。図4で示された短波長光源を用いると高調波出力が1.5W以上になっても2乗特性の劣化、出力の不安定化および変換効率の低下は発生せず、安定な出力、高品質のビームプロファイルを得ることができた。緑色出力2Wの高出力時には基本波404および高調波(SHG)405の吸収により素子の温度分布が発生し、出射面付近は高温化するが、本実施の形態では出射面近傍に熱伝導率の高い放熱剤409を用いることで、伝搬方向における温度分布を補償し、素子の温度を伝搬方法において一定にすることができた。緑色出力2.5Wの時においても従来の光源では急激な変換効率の低下が発生していたが、熱伝導率の高い放熱剤409を配置して放熱することで変換効率の低下および出力低下を抑制することに成功した。
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について説明する。上記の実施の形態2では、入射面付近から出射面付近までに発生する伝搬方向の温度分布を一定にするために波長変換素子を固定する放熱剤の材料を変えたが、放熱の方法はこの限りではない。本実施の形態では、波長変換素子の出射面近傍の温度上昇を抑制するために、出射面近傍の素子の厚みを薄くして放熱状態を良好にする。
図5は、本発明の実施の形態3にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態にかかる短波長光源は、波長変換素子501の伝搬方向に複数のペルチェ素子511、512を配置している。本実施の形態にかかる短波長光源は、図5に示すように、波長変換素子501と、第1の保持部513と、第2の保持部514と、制御部515と、を備えている。第1の保持部513は、2つの放熱剤508に挟まれた銅板510と、銅板510の温度を制御することにより銅板510の上部に配置された波長変換素子501の一部を温度制御するペルチェ素子511と、を有しており、第2の保持部514は、2つの放熱剤509に挟まれた銅板510と、銅板510の温度を制御することにより銅板510の上部に配置された波長変換素子501の残りの一部を温度制御するペルチェ素子512と、を有している。第1の保持部513のペルチェ素子511および第2の保持部514のペルチェ素子512のそれぞれは制御部515に接続され、制御部515によって温度制御される。
本実施の形態の波長変換素子501は、図5に示すように、出射面507の近傍の素子の厚みが薄くなるように構成されている。そうすることにより、出射面507の近傍の放熱状態を良好にして波長変換素子501の出射面507の近傍の温度上昇を抑制することができる。
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態では、波長変換素子の出射面近傍の温度上昇を抑制するために、出射面近傍を通過する基本波の経路を保持部に近接させて放熱状態を良好にする。
図6AおよびBは、本発明の実施の形態4にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態にかかる短波長光源は、波長変換素子601の伝搬方向に複数のペルチェ素子611、612を配置している。本実施の形態にかかる短波長光源は、図6AおよびBに示すように、波長変換素子601と、第1の保持部613と、第2の保持部614と、制御部615と、を備えている。第1の保持部613は、2つの放熱剤608に挟まれた銅板610と、銅板610の温度を制御することにより銅板610の上部に配置された波長変換素子601の一部を温度制御するペルチェ素子611と、を有しており、第2の保持部614は、2つの放熱剤609に挟まれた銅板610と、銅板610の温度を制御することにより銅板610の上部に配置された波長変換素子601の残りの一部を温度制御するペルチェ素子612と、を有している。第1の保持部613のペルチェ素子611および第2の保持部614のペルチェ素子612のそれぞれは制御部615に接続され、制御部615によって温度制御される。
図6Aの場合、SHG光の出力が1.5W以上、かつ、パワー密度が最も高い位置の基板表面で基本波604を反射させることで、発生する緑色光(SHG)605の吸収による熱を放熱させることができるために熱分布を抑制でき、効果的である。
図6Bの場合、基本波604の入射位置をSHG出力が1.5W以上の高出力となる出射面607の付近で、基板表面近傍にすることで同様の放熱効果が得られて高出力時の変換効率および出力の低下を抑制することができるために効果的である。
(実施の形態5)
次に、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態では、波長変換素子の出射面近傍の温度上昇を抑制するために、出射面近傍のヒートシンクの表面積を大きくして放熱状態を良好にする。
図7は、本発明の実施の形態5にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態にかかる短波長光源は、波長変換素子701の伝搬方向に複数のペルチェ素子711、712を配置している。本実施の形態にかかる短波長光源は、図7に示すように、波長変換素子701と、第1の保持部715と、第2の保持部716と、制御部717と、を備えている。第1の保持部715は、2つの放熱剤708に挟まれた銅板710と、銅板710の温度を制御することにより銅板710の上部に配置された波長変換素子701の一部を温度制御するペルチェ素子711と、複数の放熱フィンを付けて表面積を大きくしたヒートシンク713と、を有しており、第2の保持部716は、2つの放熱剤709に挟まれた銅板710と、銅板710の温度を制御することにより銅板710の上部に配置された波長変換素子701の残りの一部を温度制御するペルチェ素子712と、複数の放熱フィンを付けて表面積を大きくしたヒートシンク714と、を有している。第1の保持部715のペルチェ素子711および第2の保持部716のペルチェ素子712のそれぞれは制御部717に接続され、制御部717によって温度制御される。
本実施の形態にかかる短波長光源においては、図7に示すように、放熱のためのヒートシンク713、714を配置し、熱発生の起こらない入射端側から素子中間部にかけては表面積の小さいヒートシンク713を用い、熱が発生する出射面近傍にかけてはヒートシンク714の表面積を大きくする。これによって、出射面付近の熱の偏りを解消し、素子温度を一定に保つことで変換効率の低下および出力低下を抑制することができる。
(実施の形態6)
次に、本発明の実施の形態6について説明する。本実施の形態では、波長変換素子の出射面付近のSHG出力およびSHGのパワー密度が最も大きくなる箇所の温度にあわせるようにSHGのパワー劣化の発生しない部分を加熱して素子温度分布を抑制する構成の短波長光源について述べる。
図8Aは、本発明の実施の形態6にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態にかかる短波長光源は、波長変換素子801のSHGのパワー劣化の発生しない部分にヒーター809を配置している。本実施の形態にかかる短波長光源は、図8Aに示すように、波長変換素子801と、2つの放熱剤に挟まれた銅板808と、銅板808を加熱することにより銅板808の上部に配置された波長変換素子801の一部を加熱するヒーター809と、ヒーター809による加熱を制御するヒーター制御部813と、を備えている。
本実施の形態の波長変換素子801は、Z板MgドープLiNbO3基板に、周期状の分極反転領域802が複数形成されているものを用いた。波長変換素子801のデバイス特性およびデバイス構造は上記の実施の形態1と同じなので説明は省略する。基本波804に波長1064nmの光(Nd:YAGレーザ)を使用して、波長変換素子801により、波長532nmの緑色光(SHG)805に波長変換することができる。高出力時に発生する出射面近傍を中心とする温度分布を低減するために、素子の出射面近傍以外の箇所には、素子をヒーター809により加熱することができる。
図8Aの本実施の形態にかかる短波長光源を用いてSHGの高出力特性の実験をおこなった。入射端面近傍に設置されたヒーター809を加熱しないとき、SHG出力1.5W以上で2乗特性の劣化が発生し、出力の不安定化および変換効率の低下が起こった。一方、ヒーター809により素子を加熱すると劣化した2乗特性が解消され、高い変換効率が実現され、高出力、かつ安定な出力、高品質のビームプロファイルを得ることができた。緑色出力2.5Wの時においても従来の光源では急激な変換効率の低下が発生していたが、ヒーター809による加熱により素子入射端を加熱することで伝搬方向に発生する素子の温度分布を解消し、変換効率の低下および出力低下を抑制し、安定な出力特性を得た。
なお、本実施の形態では、波長変換素子の光の伝搬方向に発生する温度分布を低減するためにSHGのパワー劣化の発生しない部分(SHG吸収による温度上昇の発生しない部分)にヒーター809を設置し、加熱したが、加熱方法はこの限りではない。例えば、図8Bに示すように、SHGのパワー劣化の発生しない部分に波長変換素子が吸収する波長域の光(例えば赤外光)810を照射することで熱が発生し、波長変換素子全体の温度分布を解消させることができる。温度分布の解消は照射する光の強度を調整することで最適化することができる。なお、赤外光810の照射は、波長変換素子801のSHGのパワー劣化の発生しない部分の上方に赤外線光源811を配置させ、赤外線光源制御部812により赤外線光源811を制御することで行えばよい。
P(劣化)のパワーは、SHGの波長に依存することを図9で示したが、上記の実施の形態1〜6にかかる短波長光源においては、具体的には、SHG波長が500〜550nmの場合、P(劣化)は約1.5Wであった。また、SHG波長が400〜450nmの場合、P(劣化)は約0.2Wであった。また、SHG波長が340〜400nmの場合、P(劣化)は約0.05Wであった。
上記の実施の形態1〜6にかかる短波長光源においては、波長変換素子として周期分極反転が形成されたZ板MgOドープLiNbO3基板を用いた。その他に、MgOドープLiTaO3基板や、ストイキオ組成の同様の基板などであってもよい。さらに、Mgドープ基板以外にも、In、Zn、Scドープ基板においても同様の現象が発生することが考えられるため、上記の実施の形態1〜6と同様の効果を得ることができる。
上記の実施の形態1〜6にかかる短波長光源においては、波長変換として、位相整合波長として1200nm以下の基本波の場合に特に有効である。上記の実施の形態1〜6で説明した現象は、発生した紫外光で誘起される高調波吸収熱に起因するものであるから、紫外光が発生する波長領域に対して顕著に現れる。つまり、基本波と高調波の和周波として400nm以下の波長が発生する1200nm以下の基本波に対して本実施の形態は有効である。
基本波パワー10W以上、あるいは高調波パワー3W以上のときに紫外光発生による高調波吸収が顕著になることが確認されている。そのため、このような高いパワーの基本波、高調波発生時に、上記の実施の形態1〜6にかかる短波長光源は有効である。
上記の実施の形態1〜6にかかる短波長光源を用いて、高輝度のレーザ画像形成装置を実現することができる。高輝度のレーザ画像形成装置としては例えば、高出力のレーザ光を空間光変調素子で変調し、スクリーンに投射するリアプロジェクション型の画像形成装置や、高出力レーザ光源をバックライトとして用いる液晶テレビが挙げられる。上記の実施の形態1〜6にかかる短波長光源を用いることで、高出力時に安定な出力特性を実現するために映像劣化のない高輝度でかつ鮮明な映像を提供することができる。
なお、上記の実施の形態1〜6では、熱の発生により屈折率が上昇し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下したが、レーザ光の入射により結晶内の屈折率が変化し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下する場合においても、位相整合条件のずれを温度制御方法により補償することで変換効率(出力)の低下を抑えることができるため、上記の実施の形態1〜6と同様の効果が得られる。
以上説明したように、本発明の実施の形態1〜6にかかる短波長光源は、基本波を第2高調波に変換する非線形光学材料からなる波長変換素子と、波長変換素子を支持するホルダー部を備え、波長変換素子は、基本波を入射する入射部と、第2高調波を出射する出射部を含み、波長変換素子の出射部近傍の少なくとも一部の特定領域が他の領域より低い熱抵抗を有する構成により、結晶内部に入射した基本波と、波長変換された高調波との相互作用で発生した紫外光が原因で生じる高調波吸収熱による素子内の温度分布を一定にすることで基本波から高調波への変換効率を維持し、光出力、ビームプロファイルを安定に保持し、レーザ光源の信頼性を確保する、という効果を有する。
(実施の形態7)
次に、本発明の実施の形態7について説明する。最初に、本実施の形態の背景となる、波長変換素子の出力の不安定性について説明する。図19に、従来の短波長光源の他の概略構成を示す。図19の波長変換素子1001は、周期状の分極反転構造を有するバルク型の波長変換素子であり、基本波1004を第2高調波(SHG)1005に変換する場合、SHG1005の出力は基本波1004の2乗に比例して増大する。ところが、一定のSHG出力を越えると、図12で示した波長変換素子1201と同様、SHG1005の出力が2乗特性から大きく低下する現象が観測された。
この低下の原因を調べたところ、図12の波長変換素子1201の場合と同様、波長変換素子1001が基本波1004をSHG1005に変換する際において、基本波1004とSHG1005の和周波であるTHGが発生しており、このTHGの発生の影響により、波長変換素子1001によるSHG光の吸収が発生し、この吸収による発熱で波長変換素子1001の位相整合条件が乱されていることが分かった。このため、THGの強度が一定の値を超える領域では、SHG1005の吸収による発熱が顕著になり、位相整合条件が成立しなくなり、波長変換素子1001の変換効率の低下が発生することが明らかになった。
本実施の形態は、このような現象を基に考案されたものであり、SHGの吸収によって発生する発熱の要因を補償するような分極反転の周期構造を提案するものである。図13Aは、本発明の実施の形態7にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本実施の形態にかかる短波長光源においては、図13Aに示すように、波長変換素子2101の入射面2106から基本波2104を入射し、周期状の分極反転領域2102により、基本波2104をSHG2105に変換し、出射面2107よりSHG2105を出射する。
図13Bに、図13Aの波長変換素子2101の入射面2106からの距離とSHG出力との関係を示す。図13Bに示すように、波長変換素子2101の内部で、SHG2105の強度は徐々に増大し、出射面2107で最大になる。本実施の形態にかかる短波長光源は、図13Aに示すように、SHG2105の強度が特定値を超えた領域、すなわち領域2において、領域1における分極反転周期2103より短い周期構造をとっている。具体的には、SHG2105の強度が特定値以下の領域1においては分極反転周期2103は周期Λ1であり、SHG2105の強度が特定値を越える領域2においては分極反転周期2103は、周期Λ1より小さい周期Λ2である。
すなわち、本実施の形態にかかる短波長光源は、SHG出力を一定の値Pshgを出力させる場合に、波長変換素子2101の内部におけるSHG2105の強度Pshg>P(劣化)となる領域において、波長変換素子2101の分極反転周期構造を他の部分とは異なる短い周期構造にするものである。
入射する基本波のパワー、基本波のビーム径、ビーム品質の値より、波長変換素子2101の内部におけるSHG2105の強度分布は、図13Bに示すように、出射面2107に向かって徐々に増加する。この特性を基に、波長変換素子2101における分極反転周期2103は、波長変換素子2101の内部においてSHG2105の強度がP(劣化)を越える領域2においては、領域1における周期より短い周期に設計する必要がある。すなわち、P(劣化)を超えない領域1の周期をΛ1、P(劣化)を超える領域2の周期をΛ2とすると、Λ1>Λ2の関係をとるように設計する。
周期状の分極反転構造を有するMgOドープLiNbO3の波長変換素子2101において、波長1064nmの基本波2104を波長532nmのSHG2105に変換する場合について説明する。基本波2104の入力を10W、基本波2104の集光径をφ33μm、基本波2104のビーム品質はほぼ理想的な状態のガウシアン分布とすると、波長変換素子2101の長さが10mmのとき、素子の入射面2106から約7mmのところで、SHG2105の強度は1.5Wを越える。従って、波長変換素子2101の最適構造としては、素子長の出射面2107の近傍の3mmにおいて、分極反転周期2103をわずかに短くすることで、波長変換素子2101の変換効率を大幅に増大できる。具体的には、領域1の分極反転周期Λ1を6.97μm、領域2における分極反転周期Λ2を6.969μmに設定した。
短波長光源の最大出力を決定すると、必要な最大出力がP(劣化)の値を超える場合には、本実施の形態の構成が重要となる。短波長光源において基本波光源のパワー、ビーム品質により最大出力に必要な波長変換素子の長さ、変換効率、基本波パワーが求まる。この条件のもと、最大出力が発生する場合の波長変換素子内部におけるSHGの強度分布が求まり、波長変換素子の分極反転周期構造を決定する。波長変換素子内部で、SHG強度がP(劣化)を超える領域において、分極反転周期構造を他の部分より短周期の構造にすることで、吸収による温度変化の影響を補償して変換効率の向上が図れる。
本実施の形態では、領域2における分極反転周期構造の周期は一定の値にしたが、出射面に向かって減少させることが望ましい。これは、図13Bに示したように、波長変換素子内部におけるSHGの強度が出射面に向かって徐々に増大することで、素子内部の温度分布も出射面に向かって上昇する。例えば、図14に示すように、3領域に区分して周期を変えると、図13Aに示した領域2において周期一定の波長変換素子に比べると、高出力時における出力低下はさらに低減される。
また、図15に示すように、領域2における分極反転周期構造の周期は、出射面に向かって徐々に減少する構造がさらに望ましい。波長変換素子内部におけるSHGの強度が出射面に向かって徐々に増大することで、素子内部の温度分布も出射面に向かって上昇する影響を完全に抑えるためには、出射面に向かって、分極反転周期が徐々に減少する構造が望ましい。
本実施の形態にかかる短波長光源においては、領域2の長さは、全長の1/2以下が望ましい。バルク型の波長変換素子の場合、変換効率が最大となる基本波の集光特性は、集光点を結晶の中央とし、基本波のビーム径が結晶の両端において最大となるようにした場合である。このとき、素子内でのSHGの強度は素子中央部でのパワーに対して、出射部で約3倍になる。変換効率が劣化するP(劣化)に対して、最大出力が3倍以上になると、光吸収による結晶破壊が生じることが分かった。このため、領域2の長さを素子長の半分以上にしても、出力光の増大は得られないため、領域2の長さを素子長の半分以下にすることが好ましい。
(実施の形態8)
次に、本発明の実施の形態8について説明する。図16は、本発明の実施の形態8にかかる短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本実施の形態にかかる短波長光源は、図16に示すように、波長変換素子2501の入射面2506から基本波2504を入射し、周期状の分極反転領域2502により、基本波2504をSHG2505に変換し、出射面2507よりSHG2505を出射する。特に、本実施の形態では、上記の実施の形態7のように基本波2504を1度だけ波長変換素子内を通過させる構成とは異なり、基本波2504をミラー2508a、2508bで折り返すことで周期分極反転構造を2度通過させる構成となっている。ミラー2508a、2508bのそれぞれの反射方向は、ミラー制御部2509により制御されている。
基本波2504が波長変換素子2501に1回目通過時と2回目通過時の距離は十分に離されており、高出力時の吸収等による温度上昇は互いに影響しない。図16において、ミラー2508aによる反射前の1回目の基本波2504が通過する出射面2507の付近、および、ミラー2508bにより反射した後、2度目に基本波2504が波長変換素子2501を通過する出射面2507の付近は共に、SHG2505の強度は最大になる。本実施の形態の短波長光源においても、上記の実施の形態7と同様に、SHG2505の強度が特定値を超えた領域、すなわち領域2においては、領域1における分極反転周期より短い周期構造をとっている。
つまり、波長変換素子2501における分極反転周期2503は、波長変換素子2501の内部においてSHG2505の強度がP(劣化)を越える領域2においては、領域1における周期より短い周期に設計する。すなわち、基本波の一回目通過時、および2回目通過時の両方において、P(劣化)を超えない領域1の周期をΛ1、P(劣化)を超える領域2の周期をΛ2とすると、Λ1>Λ2の値をとるように設計する。
本実施の形態の波長変換素子2501において、波長1064nmの基本波2504を波長532nmのSHG2505に変換する場合、基本波2504の入力を10W、基本波2504の集光径をφ33μm、基本波2504のビーム品質はほぼ理想的な状態のガウス分布とすると、波長変換素子2501の長さが10mmのとき、基本波の一回目通過時は素子の入射面2506から約7mmのところで、SHG2505の強度は1.5Wを越える。従って、波長変換素子2501の最適構造としては、素子長の出射面2507の近傍の3mmにおいて、分極反転周期をわずかに短くすることで、波長変換素子2501の変換効率を大幅に増大できる。基本波2504の2回目通過時は基本波2504の入力パワーがポンプデプレッションおよびミラー2508a、2508bを含む光学系によるロスにより減少するため、SHG強度が1.5Wを超える領域が出射面2507側にシフトする。基本波2504が波長変換素子を1回目に通過するときと同様に素子の出射面2507の近傍の周期を短くすることで2回目通過時の波長変換素子2501の変換効率も大幅に増大できる。これにより、変換効率の劣化を抑制し、10Wの基本波入力で、図3の出力特性に対し、およそ2倍のSHG出力が得られた。
本実施の形態では、基本波の1回目通過時および2回目通過時の両方において、領域2における分極反転周期構造の周期は一定の値にしたが、出射面に向かって減少させることが望ましい。これは、図13Bに示したように、波長変換素子内部におけるSHGの強度が出射面に向かって徐々に増大することで、素子内部の温度分布も出射端面に向かって上昇する。例えば、図17に示すように、3領域に区分して周期を変えると領域2において周期一定の波長変換素子に比べると高出力時における出力低下はさらに低減される。
また、図18に示すように、領域2における分極反転周期構造の周期は、出射面に向かって徐々に減少する構造がさらに望ましい。波長変換素子内部におけるSHGの強度が出射面に向かって徐々に増大することで、素子内部の温度分布も出射面に向かって上昇する影響を完全に抑えるためには、出射面に向かって、分極反転周期が徐々に減少する構造が望ましい。
上記の実施の形態7および8にかかる短波長光源においては、領域2の長さは、全長の1/2以下が望ましい。バルク型の波長変換素子の場合、変換効率が最大となる基本波の集光特性は、集光点を結晶の中央とし、基本波のビーム径が結晶の両端において最大となるようにした場合である。このとき、素子内でのSHGの強度は素子中央部でのパワーに対して、出射部で約3倍になる。変換効率が劣化するP(劣化)に対して、最大出力が3倍以上になると、光吸収による結晶破壊が生じることが分かった。このため、領域2の長さを素子長の半分以上にしても、出力光の増大は得られないため、領域2の長さを素子長の半分以下にすることが好ましい。
なお、P(劣化)のパワーはSHGの波長に依存することを図9で示したが、上記の実施の形態7および8にかかる短波長光源においては、具体的にはSHG波長が500〜550nmの場合、P(劣化)は約1.5Wである。この波長のSHGを出射する場合、波長変換素子内部におけるSHGパワーが1.5Wを越える領域においては、分極反転周期を他の部分よりも短く設定することで、変換効率の増大をはかることができた。また、SHG波長が400〜450nmの場合、P(劣化)は約0.2Wであった。また、SHG波長が340〜400nmの場合P(劣化)は約0.05Wであった。
上記の実施の形態7および8にかかる短波長光源においては、波長変換素子として周期分極反転が形成されたZ板MgOドープLiNbO3基板を用いた。その他に、MgOドープLiTaO3基板や、ストイキオ組成の同様の基板などであってもよい。さらに、Mgドープ基板以外にも、In、Zn、Scドープ基板においても同様の現象が発生することが考えられるため、上記の実施の形態7および8と同様の効果を得ることができる。
上記の実施の形態7および8にかかる短波長光源においては、波長変換として、位相整合波長として1200nm以下の基本波の場合に特に有効である。上記の実施の形態7および8で説明した現象は、発生した紫外光で誘起される高調波吸収熱に起因するものであるから、紫外光が発生する波長領域に対して顕著に現れる。つまり、基本波と高調波の和周波として400nm以下の波長が発生する1200nm以下の基本波に対して本実施の形態は有効である。
基本波パワー10W以上、あるいは高調波パワー3W以上のときに紫外光発生による高調波吸収が顕著になることが確認されている。そのため、このような高いパワーの基本波、高調波発生時に、上記の実施の形態7および8にかかる短波長光源は有効である。
上記の実施の形態7および8にかかる短波長光源を用いて、高輝度のレーザ画像形成装置を実現することができる。高輝度のレーザ画像形成装置としては例えば、高出力のレーザ光を空間光変調素子で変調し、スクリーンに投射するリアプロジェクション型の画像形成装置や、高出力レーザ光源をバックライトとして用いる液晶テレビが挙げられる。上記の実施の形態7および8にかかる短波長光源を用いることで、高出力時に安定な出力特性を実現するために映像劣化のない高輝度でかつ鮮明な映像を提供することができる。
なお、上記の実施の形態7および8では、熱の発生により屈折率が上昇し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下したが、レーザ光の入射により結晶内の屈折率が変化し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下する場合においても、位相整合条件のずれを分極反転周期により補償することで変換効率(出力)の低下を抑えることができるため、上記の実施の形態7および8と同様の効果が得られる。
以上説明したように、本発明の実施の形態7および8にかかる短波長光源は、基本波を第2高調波に変換する波長変換素子を含み、波長変換素子は、周期状の分極反転構造を有するバルク非線形光学材料からなり、波長変換素子は基本波を入射する入射部と、高調波を出射する出射部と、を備え、波長変換素子の出射部近傍の少なくとも一部の領域における分極反転構造の周期が変化している構成により、結晶内部に入射した基本波と、波長変換された高調波との相互作用で発生した紫外光が原因で生じる高調波吸収熱による素子内の温度分布を利用して基本波から高調波への変換効率の低下を抑制することで、光出力、ビームプロファイルを安定に保持し、高出力レーザ光源の信頼性を確保する、という効果を有する。
(実施の形態9)
次に、本発明の実施の形態9について説明する。最初に、本実施の形態の背景となる、波長変換素子の変換効率低下と出力の不安定性について説明する。一般に、バルク型の波長変換素子による波長変換は変換効率が低く、従来は固体レーザの共振器内部に波長変換素子を挿入する内部共振器型が主流であった。これに対して、周期状の分極反転構造を有するMgO:LiNbO3やMgO:LiTaO3、KTiOPO4などの高非線形光学材料を用いることで、基本波をシングルパスで波長変換する構成が可能になった。シングルパスによる波長変換の高効率化には、基本波光源、集光光学系に特有の特性が要求される。
基本波光源に必要なのは、良好なビーム品質と、狭帯域の波長スペクトルである。ビーム品質は集光特性で測定するM2で表されガウス分布に近い特性を求められる。ガウス分布と一致した場合がM2=1であるが、高効率変換にはM2<1.2の特性が必要である。ビーム径は真円に近く、波長スペクトルは素子長に依存するが0.1nm以下の狭帯域性が必要である。また、集光特性としては、相互作用長の中心に集光スポットを有し、以下の(1)式で表される集光特性を満足した場合に、変換効率が最大となる。
L×λ/(2π×n×ω0 2)=2.84 …(1)
ここで、Lは波長変換素子の長さ、ω0は1/e2(eは自然対数の底)集光スポット半径、λは基本波波長、nは基本波に対する屈折率、である。
このような条件において、高効率な波長変換が可能となり、シングルパス変換で2Wの出力が30%を超える変換効率で得られた。このような構成において、図12で示した周期状の分極反転構造を有するバルク型の波長変換素子1201において、基本波1204を第2高調波(SHG)1205に変換する場合、SHG出力は基本波の2乗に比例して増大する。ところが、一定のSHG出力を越えると、SHGの出力が2乗特性から大きく低下する現象が観測された。
この低下の原因を調べたところ、基本波1204とSHG1205の和周波であるTHGが発生しており、このTHGの発生の影響によりSHG光の吸収が発生し、この吸収による発熱で位相整合条件が乱されていることが分かった。
さらに詳細に検討した結果、SHG光の吸収は、THGの強度に比例して増大するため、SHG光のビームパスにおける発熱量は、SHGとTHGのパワー密度の積で求まることが実験と解析により明らかになった。この結果を図24AおよびBに示す。SHG素子内部で、THGによる吸収によって発生する発熱量の最大値は、素子中央部より出射端側に位置し、発熱は素子長Lとして入射部からL/2〜2L/3の位置に集中していることが明らかになった。
これらの実験結果を基に、本実施の形態では、波長変換素子内部での発熱による温度分布によって発生する変換効率低下や出力低下、結晶損傷を低減する構成について提案する。
本実施の形態は、バルク型の波長変換素子のシングルパス変換において、変換効率が最大となる最適集光設計の光学系において、波長変換素子内部発生する熱の集中を緩和する構成、あるいは熱分布を利用して変換効率低下を抑制する構成を提案する。従来の構成と異なるのは、バルク型の波長変換素子の最適構成での現象を扱っていない点、また、THGによるSHG光の吸収による発熱現象について考慮されていない点である。また、実験によりSHG変換効率が劣化するSHGのパワーは、図9に示したように、非常に強い波長依存性を持つことが明らかになっている。
本実施の形態は、このような現象を基に考案されたものであり、SHGの吸収によって発生する発熱を、放熱構造を工夫したり、温度制御方法を改良したり、あるいは発熱していない部分を加熱したりすることで波長変換素子の温度分布を低減し、変換効率を維持するために提案されたものである。
図20は、本発明の実施の形態9にかかる短波長光源の概略構成を示す図である。本実施の形態にかかる短波長光源は、波長変換素子3101の伝搬方向に複数のペルチェ素子3110、3111を配置している。本実施の形態にかかる短波長光源は、図20に示すように、波長変換素子3101と、第1の保持部3112と、第2の保持部3113と、制御部3114と、を備えている。第1の保持部3112は、2つの放熱剤3108に挟まれた銅板3109と、銅板3109の温度を制御することにより銅板3109の上部に配置された波長変換素子3101の一部を温度制御するペルチェ素子3110と、を有しており、第2の保持部3113は、2つの放熱剤3108に挟まれた銅板3109と、銅板3109の温度を制御することにより銅板3109の上部に配置された波長変換素子3101の残りの一部を温度制御するペルチェ素子3111と、を有している。第1の保持部3112のペルチェ素子3110および第2の保持部3113のペルチェ素子3111のそれぞれは制御部3114に接続され、制御部3114によって温度制御される。
本実施の形態にかかる短波長光源では、波長変換素子3101に、周期状の分極反転領域3102が複数形成されている。波長変換素子3101を構成する基板の厚みは1mmである。分極反転領域3102は基板結晶のY軸に沿って形成されている。分極反転領域3102は基板の+Z面から−Z面側に向かって形成されている。分極反転領域3102は電界印加法により作製した。分極反転周期3103は6.97μm(Λ)で形成され、波長1064nmの光(Nd:YAGレーザ)を波長532nmの緑色光に波長変換することができる。波長変換素子3101の温度を制御するための温調制御素子としてペルチェ素子3110、3111を用いた。本実施の形態では、ペルチェ素子3110、ペルチェ素子3111は、光の伝搬方向に並ぶように配置され、それぞれが独立した温度で制御することができる。
本実施の形態の波長変換素子3101において、波長1064nmの基本波3104を波長532nmのSHG3105に変換する場合、基本波3104の入力を10W、基本波3104の集光径をφ33μm、基本波3104のビーム品質はほぼ理想的な状態のガウシアン分布とすると、波長変換素子3101の長さが10mmのとき、波長変換素子3101の入射面3106から5〜6mmのところで、THGによる吸収によって発生する発熱量は最大値をとり、その部分を中心に素子が温度上昇し、温度分布ができる。従って、波長変換素子3101の温度制御としては、素子の中心から出射面3107の近傍にかけた部分において、直近に温度制御をおこなうペルチェ素子を設置し、温度制御することで、波長変換素子の変換効率の低下を抑制できる。
本実施の形態では、波長変換素子として10mmの素子を用いたが、これに限らない。素子長がLで基本波の集光スポット位置をL/2にした場合、THGによるSHG吸収が原因で、入射面側からL/2〜2L/3の位置に発熱が集中する。その位置を中心とする温度分布を抑制するように、本実施の形態と同様の温度制御をすることで変換効率低下と出力低下を抑えることができる。
本実施の形態では、伝搬方向に発生した温度分布を回避するために温度上昇が顕著に現れる出射面近傍にペルチェ素子を1つ配置して温度制御をおこなったが、ペルチェ素子は温度分布が発生する箇所に2個以上であってもかまわない。例えば、図21に示すように、熱発生が集中する波長変換素子の入射側から5〜6mm位置と、出射面近傍位置に、伝搬方向の温度分布に合わせて素子温度が一定になるように複数個のペルチェ素子を配置する。ペルチェ素子の配置方法は温度分布が抑制されるのであればこれらの配置方法に限らない。
(実施の形態10)
次に、本発明の実施の形態10について説明する。本実施の形態は、発熱により位相整合条件がずれた部分の分極反転周期を短くすることで位相整合条件を補償して変換効率低下を抑制するものである。図22は、本発明の実施の形態10にかかる短波長光源の概略構成を示す図である。
本実施の形態にかかる短波長光源においては、図22に示すように、波長変換素子3401の入射面3406から基本波3404を入射し、周期状の分極反転領域3402により、基本波3404をSHG3405に変換し、出射面3407よりSHG3405を出射する。
本発明の短波長光源は、図24Bに示すように、波長変換素子3401の長さが10mmのとき、素子の入射面3406から5〜6mmのところで、THGによるSHGの吸収によって発生する発熱量は最大値をとり、その部分を中心に素子が温度上昇し、温度分布ができるため、発熱ピーク位置、すなわち領域2において、領域1における分極反転周期より短い周期構造をとっている。すなわち、本実施の形態は、波長変換素子内部におけるSHG吸収による温度上昇で屈折率が増加する領域において、波長変換素子の分極反転周期構造を他の部分とは異なる短い周期構造にするものである。
具体的には、熱発生がなく屈折率変化のない領域(領域1、領域3)の周期をΛ1、熱発生により屈折率が増大する領域(領域2)の周期をΛ2とすると、Λ1>Λ2の関係をとるように設計する。周期状の分極反転構造を有するMgOドープLiNbO3の波長変換素子において、波長1064nmの基本波3404を波長532nmのSHG3405に変換する場合について説明する。基本波3404の入力を10W、基本波3404の集光径をφ33μm、基本波3404のビーム品質はほぼ理想的な状態のガウシアン分布とすると、波長変換素子3401の長さが10mmのとき、素子の入射面3406から5〜6mmのところで、THGによる吸収によって発生する発熱量は最大値をとり、その部分を中心に素子が温度上昇し、温度分布ができる。従って、波長変換素子の最適構造としては、素子の入射面3406から5〜6mmにおいて、分極反転周期をわずかに短くすることで、波長変換素子の変換効率を大幅に増大できる。具体的には、領域1、3の周期を6.97μm、領域2における分極反転周期を6.969μmに設定した。波長変換素子内部で、THGによるSHG吸収で熱が発生し、屈折率が増大する領域において、分極反転周期構造を他の部分より短周期の構造にすることで、吸収による温度変化の影響を補償して変換効率の向上が図れる。
本実施の形態では、波長変換素子として10mmの素子を用いたが、これに限らない。素子長がLで基本波の集光スポット位置をL/2にした場合、THGによるSHG吸収が原因で、入射側からL/2〜2L/3の位置に発熱が集中する。その位置を中心とする温度分布を補償するように、本実施の形態と同様に分極反転周期を短くすることで変換効率低下と出力低下を抑えることができる。
本実施の形態では、領域2における分極反転周期構造の周期を一定の値にしたが、熱発生のピーク位置を中心に増加させることが望ましい。図24Bに示したように、素子長10mmの場合、入射面から5〜6mmの位置に発熱ピークを持ち、その部分の温度上昇が最も高い。そのため、例えば、図23に示すように、領域2における分極反転周期構造の周期は、素子内部の温度分布を完全に補償するような熱発生ピーク位置を中心に徐々に増大する構造が望ましい。
上記の実施の形態9および10にかかる短波長光源においては、波長変換素子として周期分極反転が形成されたZ板MgOドープLiNbO3基板を用いた。その他に、MgOドープLiTaO3基板や、ストイキオ組成の同様の基板などであってもよい。さらに、Mgドープ基板以外にも、In、Zn、Scドープ基板においても同様の現象が発生することが考えられるため、上記の実施の形態9および10と同様の効果を得ることができる。
上記の実施の形態9および10にかかる短波長光源においては、波長変換として、位相整合波長として1200nm以下の基本波の場合に特に有効である。上記の実施の形態9および10で説明した現象は、発生した紫外光で誘起される高調波吸収熱に起因するものであるから、紫外光が発生する波長領域に対して顕著に現れる。つまり、基本波と高調波の和周波として400nm以下の波長が発生する1200nm以下の基本波に対して本実施の形態は有効である。
基本波パワー10W以上、あるいは高調波パワー3W以上のときに紫外光発生による高調波吸収が顕著になることが確認されている。そのため、このような高いパワーの基本波、高調波発生時に、上記の実施の形態9および10にかかる短波長光源は有効である。
上記の実施の形態9および10にかかる短波長光源を用いて、高輝度のレーザ画像形成装置を実現することができる。高輝度のレーザ画像形成装置としては例えば、高出力のレーザ光を空間光変調素子で変調し、スクリーンに投射するリアプロジェクション型の画像形成装置や、高出力レーザ光源をバックライトとして用いる液晶テレビが挙げられる。上記の実施の形態9および10にかかる短波長光源を用いることで、高出力時に安定な出力特性を実現するために映像劣化のない高輝度でかつ鮮明な映像を提供することができる。
なお、上記の実施の形態9および10では、熱の発生により屈折率が上昇し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下したが、レーザ光の入射により結晶内の屈折率が変化し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下する場合においても、位相整合条件のずれを分極反転周期および温度制御方法により補償することで変換効率(出力)の低下を抑えることができるため、上記の実施の形態9および10と同様の効果が得られる。
上記の各実施の形態から本発明を要約すると、以下のようになる。すなわち、本発明の一局面に従う短波長光源は、基本波が入射される入射面および高調波が出射される出射面と、を有し、前記基本波を前記高調波に変換する波長変換素子と、前記波長変換素子を保持する保持部とを備え、前記波長変換素子は、前記波長変換素子の前記出射面側の一部の領域である特定領域において、前記波長変換素子による波長変換の際における前記高調波の吸収による発熱に起因する前記基本波と前記高調波との間の位相整合条件の変動が抑制されるように構成される。
上記の短波長光源では、波長変換素子の特定領域において高調波の吸収により発熱が生じた場合でも、その発熱に起因する基本波と高調波との間の位相整合条件の変動が抑制されるので、高調波出力の安定化を図ることができる。
前記特定領域と前記保持部との間の熱抵抗は、前記特定領域以外の他の領域と前記保持部との間の熱抵抗より低いことが好ましい。
この場合、特定領域からの発熱を効率よく放熱させることができるので、位相整合条件の変動がより効果的に抑制することができる。
前記保持部は、前記特定領域の温度を変更する第1の温度変更部材を有し、前記第1の温度変更部材は、前記特定領域の温度が前記特定領域以外の他の領域の温度と略同一となるように、前記特定領域の温度を変更することが好ましい。
この場合、波長変換素子の温度分布を均一に保つことができるので、特定領域における位相整合条件の変動を抑制することができる。
前記高調波の光強度は、前記波長変換素子の前記入射面から前記出射面に向かうに方向に沿って増加しており、前記特定領域は、前記高調波の光強度が所定値を超えた位置から前記出射面までの間の領域であることが好ましく、前記高調波の波長は、500〜550nmであり、前記所定値は、1.5Wである、前記高調波の波長は、400〜450nmであり、前記所定値は、0.2Wである、または、前記高調波の波長は、340〜400nmであり、前記所定値は、0.05Wであることが好ましい。
この場合、特定領域の位置を正確に把握することができるので、特定領域における位相整合条件の変動をさらに効果的に抑制することができる。
前記特定領域の長さは、前記波長変換素子の長さの2分の1以下であることが好ましい。
この場合、波長変換素子の破壊を招くことなく、高調波の出力を最大値まで向上させることができる。
前記保持部はさらに、前記特定領域以外の他の領域の温度を変更する第2の温度変更部材を有し、前記特定領域と前記第1の温度変更部材との間の熱抵抗θ1と前記特定領域以外の他の領域と前記第2の温度変更部材との間の熱抵抗θ2とは、θ1<θ2の関係を満足することが好ましい。
この場合、特定領域からの発熱を効率よく放熱させることができるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記波長変換素子内部の基本波のビーム経路と前記特定領域の前記保持部側の表面との間の距離は、前記基本波のビーム経路と前記特定領域以外の他の領域の前記保持部側の表面との間の距離より短いことが好ましく、前記基本波のビームは、前記特定領域の前記保持部側の表面の近傍を通過する、または、前記基本波のビームは、前記特定領域または前記特定領域の近傍の領域の前記保持部側の表面で反射されることが好ましい。
この場合、特定領域からの発熱を保持部側から効率よく放熱させることができるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記特定領域の厚みは、前記特定領域以外の他の領域の厚みより薄いことが好ましい。
この場合、特定領域の温度上昇を緩和させることができるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記第1の温度変更部材は、前記高調波の吸収による前記特定領域からの発熱を自身の表面から放熱させる第1の放熱部材であり、前記第2の温度変更部材は、前記高調波の吸収による前記特定領域以外の他の領域からの発熱を自身の表面から放熱させる第2の放熱部材であり、前記第1の放熱部材の表面積は、前記第2の放熱部材の表面積より大きいことが好ましい。
この場合、特定領域からの発熱を効率よく放熱させることができるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記特定領域以外の他の領域を加熱する加熱部をさらに備え、前記加熱部は、前記特定領域以外の他の領域の温度が前記特定領域の温度と略同一となるように、前記特定領域以外の他の領域を加熱することが好ましい。
この場合、波長変換素子の温度分布を均一に保つことができるので、特定領域における位相整合条件の変動を抑制することができる。
前記特定領域の分極反転周期は、前記特定領域以外の他の領域の分極反転周期より短いことが好ましい。
この場合、波長変換素子の特定領域において高調波の吸収により発熱が生じた場合でも、特定領域の分極反転周期を特定領域以外の他の領域の分極反転周期より短くしておくことにより、その発熱に起因する位相整合条件の変動を抑制することができる。
前記特定領域の分極反転周期は、前記波長変換素子の前記入射面から前記出射面に向かう方向に沿って徐々に短くなるように設定されることが好ましい。
この場合、高調波の光強度の上昇に合わせて分極反転周期が短くなるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記特定領域の分極反転周期は、前記特定領域の温度分布に応じて設定されることが好ましい。
この場合、特定領域の温度分布に応じて分極反転周期が短くなるので、各温度に合った分極反転周期が設定される。このため、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
基本波光源から出射される基本波を前記波長変換素子に入射し、前記基本波を前記波長変換素子の内部に集光する光学系をさらに備え、前記特定領域は、前記光学系による前記基本波の集光スポットの近接に位置し、且つ、前記集光スポットの前記出射面側に位置することが好ましい。
この場合、基本波の集光スポットの位置に応じて特定領域を正確に把握することができるので、特定領域における位相整合条件の変動をさらに効果的に抑制することができる。
前記特定領域の分極反転周期は、前記特定領域の中心から前記波長変換素子の前記入射面および前記出射面に向かう各方向に沿って徐々に短くなるように設定されることが好ましい。
この場合、高調波の光強度の上昇に合わせて分極反転周期が短くなるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記基本波のビーム強度分布が、ガウス分布に近似され、前記波長変換素子の長さL、前記集光スポットの半径ω0、前記基本波の波長λおよび前記基本波に対する前記波長変換素子の屈折率nが、以下の関係を実質的に満足する場合に、前記特定領域は、前記入射面から前記出射面に向かってL/2〜2L/3離れた位置にあることが好ましい。
L×λ/(2π×n×ω0 2)=2.84
この場合、基本波から高調波への変換効率を最大にしつつ、高調波出力の安定化を図ることができる。
前記波長変換素子は、Mg、In、Zn、Scのうちの少なくとも1つが添加されたLiTa(1−x)NbxO3(0≦x≦1)であることが好ましい。
この場合、波長変換素子を、Mg、In、Zn、Scのうちの少なくとも1つが添加されたLiTa(1−x)NbxO3(0≦x≦1)とした場合でも、高調波の吸収による発熱に起因する位相整合条件の変動を抑制して、高調波出力の安定化を図ることができる。
本発明の他の一局面に従うレーザ画像形成装置は、上記の短波長光源と、前記短波長光源から出射される光を変調する空間光変調素子とを備える。
上記のレーザ画像形成装置では、短波長光源から出射される光の出力の安定化が図られ、その光を用いて空間光変調素子が空間変調して画像を形成するので、形成される画像の精度を向上させることができる。
本発明に係る短波長光源およびレーザ画像形成装置は、高出力時の基本波から高調波への変換効率を維持し、波長変換された高出力の高調波光を安定に出力することができ、短波長の光を出力する短波長光源、及びそれを用いたレーザ画像形成装置として有用である。
本発明は、短波長光源およびそれを用いたレーザ画像形成装置に関する。
強誘電体の分極を強制的に反転させる分極反転現象を利用すると、強誘電体の内部に周期的な分極反転領域(分極反転構造)を形成することができる。このようにして形成された分極反転領域は、表面弾性波を利用した光周波数変調器や、非線形分極の分極反転を利用した光波長変換素子、プリズム形状やレンズ形状の反転構造を利用した光偏光器などに利用される。特に、非線形光学物質の非線形分極を周期的に反転することで変換効率の高い光波長変換素子を作製することができる。これを用いて半導体レーザなどの光を変換すれば、印刷、光情報処理、光応用計測制御分野などに応用できる小型の短波長光源を実現することができる。あるいは、ワット級の高出力レーザ(ファイバーレーザ、あるいは固体レーザなど)の光を変換すれば、ワット級の短波長可視光(緑色、青色)、あるいは高出力な紫外レーザが実現し、高輝度ディスプレイ、加工、露光などに応用できる高出力短波長光源を提供することができる。
基本波の単行(シングルパス)変換によりワット級の高出力CW可視光発生を実現する有望な手法として、周期分極反転LiNbO3(Periodically Poled LiNbO3:以下、「PPLN」と略す)を用いた第2高調波発生がある。LiNbO3(以下、「LN」と略す)は、大きな非線形光学定数を有しているために、シングルパスでCW、ワット級の短波長光発生が可能である。しかしながら、LNでは光損傷、緑色光により誘起される赤外吸収(Green Induced Infrared Absorption:以下、「GRIIRA」と略す)などによる影響のため、出力が不安定になる、高温動作が必要である、という課題があった。
上述した課題を解決するために、周期分極反転MgO:LiNbO3(Periodically Poled MgO:LiNbO3:以下、「PPMgLN」と略す)を用いたシングルパス構成による可視短波長光発生がある。MgO:LiNbO3(以下、「MgLN」と略す)は、LNと比較して高い非線形光学定数、優れた耐光損傷性、短波長域への透過特性を有するため、シングルパス構成で室温CWのワット級出力が実現可能な高非線形材料として有望である。
ところで、波長変換素子内でのレーザ光入射による素子温度分布による変換効率低下を抑制するために、特許文献1に示されるような線状に加熱する手段を設ける、あるいは、特許文献2おいては、光軸方向の温度分布に基づいて結晶の温度差が0.1℃以内になるように素子を移動させて配置する構成、あるいは特許文献3では素子の入射面および出射面付近の冷却と素子中間部分の温度調整手段を異ならせて伝搬方向の温度分布を低減する手段がとられている。特許文献4では素子の両側面にペルチェ素子を4つ配置し、素子の幅方向の温度分布を抑制し、変換効率を維持する方法が挙げられている。
特開平11−125800号公報
特開2003−140211号公報
特開2004−53781号公報
特開平5−204011号公報
特開2000−321610号公報
しかし、室温CWでワット級出力が実現可能な材料として期待されているMgLNにおいては、高出力時に、光損傷やGRIIRA、あるいはレーザ入射による素子温度分布発生とは異なる別の現象が発生し、高調波出力が不安定になる、あるいは結晶が破損する、という新たな課題が発生した。我々は、この要因を検証した結果、基本波と高調波の相互作用で発生した紫外光により誘起される高調波光吸収が原因で結晶内部に熱が発生し、高調波出力が不安定になる、ということを見出した。特に、高出力の高調波発生時において基本波と高調波の和周波が発生する光源では、高調波の吸収による熱の発生が顕著になることが判明した。従来、このような高調波光吸収および和周波による熱の発生は認識されていない。
また、特許文献5に示されるように波長変換素子の位相整合の許容度を拡大するために分極反転の周期を変えた波長変換素子が提案されている。
本発明の目的は、高調波吸収で発生する熱による素子内の温度分布を抑制し、変換効率を維持することにより高調波出力の安定化を図ることができる短波長光源を提供することである。
本発明の一局面に従う短波長光源は、基本波が入射される入射面および高調波が出射される出射面と、を有し、前記基本波を前記高調波に変換する波長変換素子と、前記波長変換素子を保持する保持部とを備え、前記波長変換素子は、前記波長変換素子の前記出射面側の一部の領域である特定領域において、前記波長変換素子による波長変換の際における前記高調波の吸収による発熱に起因する前記基本波と前記高調波との間の位相整合条件の変動が抑制されるように構成される。
上記の短波長光源では、波長変換素子の特定領域において高調波の吸収により発熱が生じた場合でも、その発熱に起因する基本波と調波との間の位相整合条件の変動が抑制されるので、高調波出力の安定化を図ることができる。
本発明によれば、高調波吸収で発生する熱による素子内の温度分布を抑制し、変換効率を維持することにより高調波出力の安定化を図ることができる短波長光源を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ要素には同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。また、図面は、理解しやすくするためにそれぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、形状等については正確な表示ではない。
(実施の形態1)
最初に、本実施の形態の背景となる、波長変換素子の出力の不安定性について説明する。図12に、従来の短波長光源の概略構成を示す。図12の波長変換素子1201は、周期状の分極反転構造を有するバルク型の波長変換素子であり、基本波1204を第2高調波(以下、「SHG」とする)1205に変換する場合、SHG1205の出力は基本波1204の2乗に比例して増大する。ところが、一定のSHG出力を越えると、SHG1205の出力が2乗特性から大きく低下する現象が観測された。図10に、基本波1204の入力パワーに対するSHG1205の出力の変化を示す。図10に示すように、SHG1205の出力パワーが1.5ワットを越えた付近から、2乗特性が成立していない。
この低下の原因を調べたところ、波長変換素子1201が基本波1204をSHG1205に変換する際において、基本波1204とSHG1205の和周波であるTHG(波長が基本波1204の波長の1/3)が発生しており、このTHGの発生の影響により、波長変換素子1201によるSHG光の吸収が発生し、この吸収による発熱で波長変換素子1201の位相整合条件が乱されていることが分かった。図11に、このときの波長変換素子1201の光伝搬方向に沿った温度分布を示す。図12のペルチェ素子1208を用い、波長変換素子1201の温度を一定に保持するように制御しようとしたが、図11の温度分布は回避されなかった。このため、THGの強度が一定の値を超える領域では、SHG1205の吸収による発熱が顕著になり、位相整合条件が成立しなくなり、波長変換素子1201の変換効率の低下が発生することが明らかになった。
また、図9に、SHG1205の波長と変換効率の低下が開始するSHG出力との関係を示す。図9に示すように、変換効率の低下が開始するSHG出力はSHG1205に対して非常に強い波長依存性を持つことが明らかになった。
本実施の形態は、このような現象を基に考案されたものであり、SHGの吸収によって発生する発熱を、放熱構造の工夫、温度制御の改良、あるいは、発熱していない部分の加熱により波長変換素子の温度分布を低減することにより、波長変換素子の変換効率を維持することができるものである。
図1Aは、本発明の実施の形態1に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態に係る短波長光源は、波長変換素子101の伝搬方向に複数のペルチェ素子110、111を配置している。本実施の形態に係る短波長光源は、図1Aに示すように、波長変換素子101と、第1の保持部112と、第2の保持部113と、制御部114と、を備えている。第1の保持部112は、2つの放熱剤108に挟まれた銅板109と、銅板109の温度を制御することにより銅板109の上部に配置された波長変換素子101の一部を温度制御するペルチェ素子110と、を有しており、第2の保持部113は、2つの放熱剤108に挟まれた銅板109と、銅板109の温度を制御することにより銅板109の上部に配置された波長変換素子101の残りの一部を温度制御するペルチェ素子111と、を有している。第1の保持部112のペルチェ素子110および第2の保持部113のペルチェ素子111のそれぞれは制御部114に接続され、制御部114によって温度制御される。
本実施の形態の短波長光源においては、波長変換素子101に、周期状の分極反転領域102が複数形成されている。波長変換素子101を構成する基板の厚みは1mmである。分極反転領域102は基板結晶のY軸に沿って形成されている。分極反転領域102は基板の+Z面から−Z面側に向かって形成されている。分極反転領域102は電界印加法により作製した。分極反転領域102の分極反転周期103は6.97μm(Λ)で形成され、波長1064nmの光(Nd:YAGレーザ)を波長532nmの緑色光に波長変換することができる。波長変換素子101の温度を制御するための温調制御素子としてペルチェ素子110、111を用いた。本実施の形態では、第1の保持部112のペルチェ素子110および第2の保持部113のペルチェ素子111のそれぞれは、図1Aに示すように光の伝搬方向に並ぶように配置され、それぞれが独立した温度で制御部114により制御することができる。
図12を用いて、まず、従来の構成におけるSHG光の高出力特性について述べる。図12に示した短波長光源においては、波長変換素子1201は保持部1209により保持され、保持部1209の1つのペルチェ素子1208により波長変換素子1201の温度制御が行われる。波長変換素子1201の表面には、波長変換素子1201からの発熱を放熱するため、放熱剤1206を介して銅板1207が貼り付けられている。また、波長変換素子1201と銅板1207は、ペルチェ素子1208で一定の温度に温度制御されている。波長変換素子1201の素子長を10mmとし、集光レンズで集光した波長1064nmの低パワーの基本波(7W以下)1204を入射したところ、変換効率3%/Wで波長変換され、波長532nmのSHG1205が得られた。均一な分極反転領域1202を形成することで高効率の波長変換が可能となる。基本波1204である波長1064nmの赤外入力パワーを上昇させると、基本波入力7W以下においては2乗特性に従い高調波出力が増大する。しかしながら、図12で示された従来の短波長光源では、図10で述べたように、高調波出力が1.5W以上になると2乗特性から外れ、出力が不安定になった。
発明者らの実験において、図10に示したような2乗特性の劣化は、SHG強度が特定の値を超えた領域から突然顕著に現れることが判明した。この要因としては、THGにより誘起されるSHGの吸収により屈折率が増加し、実効的な分極反転構造の周期が増大するため、位相整合が不整合状態となり、変換効率を低下させることが挙げられる。屈折率変化は10−6〜10−5程度であり、SHG吸収による発熱により発生する。SHG強度の変化による吸収係数の変化はあまり大きくないため、変換効率が劣化するSHGのパワーは、ほぼ一定の値をとる。さらに、変換効率が劣化するSHGのパワーは、強い波長依存性を持ち、図9に示したように、波長によって大きく異なることが分かった。これは、SHGの吸収係数がSHGの波長に依存しているためと思われる。従って、波長が決まれば、SHGの変換効率が劣化するSHGのパワーが一義的に求まる。
そこで、これらの条件を基に、短波長光源の設計を行うことができる。例えば、SHGの波長をλshgとし、このλshgに対して出力が劣化するSHGのパワーをP(劣化)とする。短波長光源において、SHG出力を一定の値Pshgで出力させたい場合、Pshg>P(劣化)の条件においては、波長変換素子の発熱による温度分布を低減するように放熱構造や温度制御方法を最適に設計する必要がある。
例えば、波長変換素子において、波長1064nmの基本波を波長532nmのSHGに変換する場合、基本波の入力を10W、基本波の集光径をφ33μm、基本波のビーム品質をほぼ理想的な状態のガウシアン分布とすると、波長変換素子の長さが10mmのとき、素子の入射面から出射面に向って約7mm進んだところで、SHGの強度は1.5Wを越える。なお、SHG波長532nmのときのP(劣化)の値は、図9より約1.5Wである。従って、波長変換素子の温度制御としては、出射面近傍の3mmにおいてペルチェ素子を設置し、そのペルチェ素子を用いて温度制御することで波長変換素子の変換効率を大幅に増大できる。
上記提案をもとに、図1Aで示された本実施の形態の短波長光源を用いて同様の実験をおこなった。形成された分極反転領域102は、図12で示された短波長光源と同等の分極反転特性(均一性、形成領域)が得られており、高調波出力が1.5W以下の時の変換効率は3%/Wと同じであった。図1Aで示された短波長光源を用いると、高調波出力が1.5W以上になっても2乗特性の劣化、出力の不安定化および変換効率の低下は発生せず、安定な出力、高品質のビームプロファイルを得ることができた。図3に、その結果を示す。緑色出力1.5Wの高出力時には基本波および高調波の吸収により素子の温度分布が発生したが、2つのペルチェ素子110、111を個別に制御することで、光伝搬方向における温度分布を回避し、素子温度を一定することができた。緑色出力2.5Wの時においても従来の光源では急激な変換効率の低下が発生していたが、2つのペルチェ素子110、111の温度制御を適切に行うことにより変換効率の低下および出力低下を抑制し、安定な出力を得ることができた。
図1Bに、図1Aの波長変換素子101の入射面106からの距離とSHG出力との関係を示す。図1Bに示すように、本実施の形態に係る短波長光源においては、入射面106から出射面に向って約7mm進んだところで、出力が劣化するSHG出力(特定値)を超えているが、上述したように、2つのペルチェ素子110、111の温度制御を適切に行うことにより変換効率の低下および出力低下を抑制し、安定な出力を得ることができた。
本実施の形態に係る短波長光源においては、伝搬方向に発生した温度分布を回避するために温度上昇が顕著に現れる出射面近傍に、1つのペルチェ素子111を配置して温度制御を行ったが、出射面近傍に2個以上のペルチェ素子を配置しても構わない。図2は、本発明の実施の形態1に係る短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。図2の短波長光源は、波長変換素子201の伝搬方向に複数のペルチェ素子210、211、212を配置している。図2の短波長光源は、波長変換素子201と、第1の保持部213と、第2の保持部214と、第3の保持部215と、制御部216と、を備えている。第1の保持部213は、2つの放熱剤208に挟まれた銅板209と、銅板209の温度を制御することにより銅板209の上部に配置された波長変換素子201の一部を温度制御するペルチェ素子210と、を有しており、第2の保持部214は、2つの放熱剤208に挟まれた銅板209と、銅板209の温度を制御することにより銅板209の上部に配置された波長変換素子201の他の一部を温度制御するペルチェ素子211と、を有しており、第3の保持部215は、2つの放熱剤208に挟まれた銅板209と、銅板209の温度を制御することにより銅板209の上部に配置された波長変換素子101の残りの一部を温度制御するペルチェ素子212と、を有している。第1の保持部213のペルチェ素子210、第2の保持部214のペルチェ素子211および第3の保持部215のペルチェ素子212のそれぞれは制御部216に接続され、制御部216によって温度制御される。
図2の短波長光源においては、熱発生が集中する波長変換素子201の出射面近傍に、伝搬方向の温度分布に合わせて素子温度が一定になるように複数個のペルチェ素子211、212を配置する。ペルチェ素子211、212の配置方法は温度分布が抑制されるのであればこれらの配置方法に限らない。
本実施の形態に係る短波長光源においては、出射側近傍をペルチェ素子にて個別に制御する長さは、全長の1/2以下が望ましい。バルク型の波長変換素子の場合、変換効率が最大となる基本波の集光特性は、集光点を結晶の中央とし、基本波のビーム径が結晶の両端において最大となるようにした場合である。このとき、素子内でのSHGの強度は素子中央部でのパワーに対して、出射部で約3倍になる。変換効率が劣化するP(劣化)に対して、最大出力が3倍以上になると、光吸収による結晶破壊が生じることが分かった。このため、出射面近傍の個別制御する長さを素子長の半分以上にしても、出力光の増大は得られないため、その長さを素子長の半分以下にすることが好ましい。
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態では、波長変換素子の出射面付近のSHG出力およびSHGのパワー密度が最も大きくなる箇所の放熱特性を良好にした構成の短波長光源について述べる。
図4は、本発明の実施の形態2に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態に係る短波長光源は、波長変換素子401の伝搬方向に複数のペルチェ素子411、412を配置している。本実施の形態に係る短波長光源は、図4に示すように、波長変換素子401と、第1の保持部413と、第2の保持部414と、制御部415と、を備えている。第1の保持部413は、2つの放熱剤408に挟まれた銅板410と、銅板410の温度を制御することにより銅板410の上部に配置された波長変換素子401の一部を温度制御するペルチェ素子411と、を有しており、第2の保持部414は、2つの放熱剤409に挟まれた銅板410と、銅板410の温度を制御することにより銅板410の上部に配置された波長変換素子401の残りの一部を温度制御するペルチェ素子412と、を有している。第1の保持部413のペルチェ素子411および第2の保持部414のペルチェ素子412のそれぞれは制御部415に接続され、制御部415によって温度制御される。
本実施の形態の波長変換素子401は、Z板MgドープLiNbO3基板に、周期状の分極反転領域402が複数形成されているものを用いた。波長変換素子401のデバイス特性およびデバイス構造は、上記の実施の形態1と同じなので説明は省略する。基本波404に波長1064nmの光(Nd:YAGレーザ)を使用して、波長変換素子401により、波長532nmの緑色光(SHG)405に波長変換することができる。波長変換素子401の固定には、入射面406から素子中間部にかけて熱伝導率の低い放熱剤408を用い、素子中間部から出射面407の部分には熱伝導率の高い放熱剤409を用いた。
図4の本実施の形態に係る短波長光源を用いて、SHG405の高出力特性の実験をおこなった。図4で示された短波長光源を用いると高調波出力が1.5W以上になっても2乗特性の劣化、出力の不安定化および変換効率の低下は発生せず、安定な出力、高品質のビームプロファイルを得ることができた。緑色出力2Wの高出力時には基本波404および高調波(SHG)405の吸収により素子の温度分布が発生し、出射面付近は高温化するが、本実施の形態では出射面近傍に熱伝導率の高い放熱剤409を用いることで、伝搬方向における温度分布を補償し、素子の温度を伝搬方法において一定にすることができた。緑色出力2.5Wの時においても従来の光源では急激な変換効率の低下が発生していたが、熱伝導率の高い放熱剤409を配置して放熱することで変換効率の低下および出力低下を抑制することに成功した。
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について説明する。上記の実施の形態2では、入射面付近から出射面付近までに発生する伝搬方向の温度分布を一定にするために波長変換素子を固定する放熱剤の材料を変えたが、放熱の方法はこの限りではない。本実施の形態では、波長変換素子の出射面近傍の温度上昇を抑制するために、出射面近傍の素子の厚みを薄くして放熱状態を良好にする。
図5は、本発明の実施の形態3に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態に係る短波長光源は、波長変換素子501の伝搬方向に複数のペルチェ素子511、512を配置している。本実施の形態に係る短波長光源は、図5に示すように、波長変換素子501と、第1の保持部513と、第2の保持部514と、制御部515と、を備えている。第1の保持部513は、2つの放熱剤508に挟まれた銅板510と、銅板510の温度を制御することにより銅板510の上部に配置された波長変換素子501の一部を温度制御するペルチェ素子511と、を有しており、第2の保持部514は、2つの放熱剤509に挟まれた銅板510と、銅板510の温度を制御することにより銅板510の上部に配置された波長変換素子501の残りの一部を温度制御するペルチェ素子512と、を有している。第1の保持部513のペルチェ素子511および第2の保持部514のペルチェ素子512のそれぞれは制御部515に接続され、制御部515によって温度制御される。
本実施の形態の波長変換素子501は、図5に示すように、出射面507の近傍の素子の厚みが薄くなるように構成されている。そうすることにより、出射面507の近傍の放熱状態を良好にして波長変換素子501の出射面507の近傍の温度上昇を抑制することができる。
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態では、波長変換素子の出射面近傍の温度上昇を抑制するために、出射面近傍を通過する基本波の経路を保持部に近接させて放熱状態を良好にする。
図6AおよびBは、本発明の実施の形態4に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態に係る短波長光源は、波長変換素子601の伝搬方向に複数のペルチェ素子611、612を配置している。本実施の形態に係る短波長光源は、図6AおよびBに示すように、波長変換素子601と、第1の保持部613と、第2の保持部614と、制御部615と、を備えている。第1の保持部613は、2つの放熱剤608に挟まれた銅板610と、銅板610の温度を制御することにより銅板610の上部に配置された波長変換素子601の一部を温度制御するペルチェ素子611と、を有しており、第2の保持部614は、2つの放熱剤609に挟まれた銅板610と、銅板610の温度を制御することにより銅板610の上部に配置された波長変換素子601の残りの一部を温度制御するペルチェ素子612と、を有している。第1の保持部613のペルチェ素子611および第2の保持部614のペルチェ素子612のそれぞれは制御部615に接続され、制御部615によって温度制御される。
図6Aの場合、SHG光の出力が1.5W以上、かつ、パワー密度が最も高い位置の基板表面で基本波604を反射させることで、発生する緑色光(SHG)605の吸収による熱を放熱させることができるために熱分布を抑制でき、効果的である。
図6Bの場合、基本波604の入射位置をSHG出力が1.5W以上の高出力となる出射面607の付近で、基板表面近傍にすることで同様の放熱効果が得られて高出力時の変換効率および出力の低下を抑制することができるために効果的である。
(実施の形態5)
次に、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態では、波長変換素子の出射面近傍の温度上昇を抑制するために、出射面近傍のヒートシンクの表面積を大きくして放熱状態を良好にする。
図7は、本発明の実施の形態5に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態に係る短波長光源は、波長変換素子701の伝搬方向に複数のペルチェ素子711、712を配置している。本実施の形態に係る短波長光源は、図7に示すように、波長変換素子701と、第1の保持部715と、第2の保持部716と、制御部717と、を備えている。第1の保持部715は、2つの放熱剤708に挟まれた銅板710と、銅板710の温度を制御することにより銅板710の上部に配置された波長変換素子701の一部を温度制御するペルチェ素子711と、複数の放熱フィンを付けて表面積を大きくしたヒートシンク713と、を有しており、第2の保持部716は、2つの放熱剤709に挟まれた銅板710と、銅板710の温度を制御することにより銅板710の上部に配置された波長変換素子701の残りの一部を温度制御するペルチェ素子712と、複数の放熱フィンを付けて表面積を大きくしたヒートシンク714と、を有している。第1の保持部715のペルチェ素子711および第2の保持部716のペルチェ素子712のそれぞれは制御部717に接続され、制御部717によって温度制御される。
本実施の形態に係る短波長光源においては、図7に示すように、放熱のためのヒートシンク713、714を配置し、熱発生の起こらない入射端側から素子中間部にかけては表面積の小さいヒートシンク713を用い、熱が発生する出射面近傍にかけてはヒートシンク714の表面積を大きくする。これによって、出射面付近の熱の偏りを解消し、素子温度を一定に保つことで変換効率の低下および出力低下を抑制することができる。
(実施の形態6)
次に、本発明の実施の形態6について説明する。本実施の形態では、波長変換素子の出射面付近のSHG出力およびSHGのパワー密度が最も大きくなる箇所の温度にあわせるようにSHGのパワー劣化の発生しない部分を加熱して素子温度分布を抑制する構成の短波長光源について述べる。
図8Aは、本発明の実施の形態6に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。本実施の形態に係る短波長光源は、波長変換素子801のSHGのパワー劣化の発生しない部分にヒーター809を配置している。本実施の形態に係る短波長光源は、図8Aに示すように、波長変換素子801と、2つの放熱剤に挟まれた銅板808と、銅板808を加熱することにより銅板808の上部に配置された波長変換素子801の一部を加熱するヒーター809と、ヒーター809による加熱を制御するヒーター制御部813と、を備えている。
本実施の形態の波長変換素子801は、Z板MgドープLiNbO3基板に、周期状の分極反転領域802が複数形成されているものを用いた。波長変換素子801のデバイス特性およびデバイス構造は上記の実施の形態1と同じなので説明は省略する。基本波804に波長1064nmの光(Nd:YAGレーザ)を使用して、波長変換素子801により、波長532nmの緑色光(SHG)805に波長変換することができる。高出力時に発生する出射面近傍を中心とする温度分布を低減するために、素子の出射面近傍以外の箇所には、素子をヒーター809により加熱することができる。
図8Aの本実施の形態に係る短波長光源を用いてSHGの高出力特性の実験をおこなった。入射端面近傍に設置されたヒーター809を加熱しないとき、SHG出力1.5W以上で2乗特性の劣化が発生し、出力の不安定化および変換効率の低下が起こった。一方、ヒーター809により素子を加熱すると劣化した2乗特性が解消され、高い変換効率が実現され、高出力、かつ安定な出力、高品質のビームプロファイルを得ることができた。緑色出力2.5Wの時においても従来の光源では急激な変換効率の低下が発生していたが、ヒーター809による加熱により素子入射端を加熱することで伝搬方向に発生する素子の温度分布を解消し、変換効率の低下および出力低下を抑制し、安定な出力特性を得た。
なお、本実施の形態では、波長変換素子の光の伝搬方向に発生する温度分布を低減するためにSHGのパワー劣化の発生しない部分(SHG吸収による温度上昇の発生しない部分)にヒーター809を設置し、加熱したが、加熱方法はこの限りではない。例えば、図8Bに示すように、SHGのパワー劣化の発生しない部分に波長変換素子が吸収する波長域の光(例えば赤外光)810を照射することで熱が発生し、波長変換素子全体の温度分布を解消させることができる。温度分布の解消は照射する光の強度を調整することで最適化することができる。なお、赤外光810の照射は、波長変換素子801のSHGのパワー劣化の発生しない部分の上方に赤外線光源811を配置させ、赤外線光源制御部812により赤外線光源811を制御することで行えばよい。
P(劣化)のパワーは、SHGの波長に依存することを図9で示したが、上記の実施の形態1ないし6に係る短波長光源においては、具体的には、SHG波長が500nm〜550nmの場合、P(劣化)は約1.5Wであった。また、SHG波長が400nm〜450nmの場合、P(劣化)は約0.2Wであった。また、SHG波長が340nm〜400nmの場合、P(劣化)は約0.05Wであった。
上記の実施の形態1ないし6に係る短波長光源においては、波長変換素子として周期分極反転が形成されたZ板MgOドープLiNbO3基板を用いた。その他に、MgOドープLiTaO3基板や、ストイキオ組成の同様の基板などであってもよい。さらに、Mgドープ基板以外にも、In、Zn、Scドープ基板においても同様の現象が発生することが考えられるため、上記の実施の形態1ないし6と同様の効果を得ることができる。
上記の実施の形態1ないし6に係る短波長光源においては、波長変換として、位相整合波長として1200nm以下の基本波の場合に特に有効である。上記の実施の形態1ないし6で説明した現象は、発生した紫外光で誘起される高調波吸収熱に起因するものであるから、紫外光が発生する波長領域に対して顕著に現れる。つまり、基本波と高調波の和周波として400nm以下の波長が発生する1200nm以下の基本波に対して本実施の形態は有効である。
基本波パワー10W以上、あるいは高調波パワー3W以上のときに紫外光発生による高調波吸収が顕著になることが確認されている。そのため、このような高いパワーの基本波、高調波発生時に、上記の実施の形態1ないし6に係る短波長光源は有効である。
上記の実施の形態1ないし6に係る短波長光源を用いて、高輝度のレーザ画像形成装置を実現することができる。高輝度のレーザ画像形成装置としては例えば、高出力のレーザ光を空間光変調素子で変調し、スクリーンに投射するリアプロジェクション型の画像形成装置や、高出力レーザ光源をバックライトとして用いる液晶テレビが挙げられる。上記の実施の形態1ないし6に係る短波長光源を用いることで、高出力時に安定な出力特性を実現するために映像劣化のない高輝度でかつ鮮明な映像を提供することができる。
なお、上記の実施の形態1ないし6では、熱の発生により屈折率が上昇し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下したが、レーザ光の入射により結晶内の屈折率が変化し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下する場合においても、位相整合条件のずれを温度制御方法により補償することで変換効率(出力)の低下を抑えることができるため、上記の実施の形態1ないし6と同様の効果が得られる。
以上説明したように、本発明の実施の形態1ないし6に係る短波長光源は、基本波を第2高調波に変換する非線形光学材料からなる波長変換素子と、波長変換素子を支持するホルダー部を備え、波長変換素子は、基本波を入射する入射部と、第2高調波を出射する出射部を含み、波長変換素子の出射部近傍の少なくとも一部の特定領域が他の領域より低い熱抵抗を有する構成により、結晶内部に入射した基本波と、波長変換された高調波との相互作用で発生した紫外光が原因で生じる高調波吸収熱による素子内の温度分布を一定にすることで基本波から高調波への変換効率を維持し、光出力、ビームプロファイルを安定に保持し、レーザ光源の信頼性を確保する、という効果を有する。
(実施の形態7)
次に、本発明の実施の形態7について説明する。最初に、本実施の形態の背景となる、波長変換素子の出力の不安定性について説明する。図19に、従来の短波長光源の他の概略構成を示す。図19の波長変換素子1001は、周期状の分極反転構造を有するバルク型の波長変換素子であり、基本波1004を第2高調波(SHG)1005に変換する場合、SHG1005の出力は基本波1004の2乗に比例して増大する。ところが、一定のSHG出力を越えると、図12で示した波長変換素子1201と同様、SHG1005の出力が2乗特性から大きく低下する現象が観測された。
この低下の原因を調べたところ、図12の波長変換素子1201の場合と同様、波長変換素子1001が基本波1004をSHG1005に変換する際において、基本波1004とSHG1005の和周波であるTHGが発生しており、このTHGの発生の影響により、波長変換素子1001によるSHG光の吸収が発生し、この吸収による発熱で波長変換素子1001の位相整合条件が乱されていることが分かった。このため、THGの強度が一定の値を超える領域では、SHG1005の吸収による発熱が顕著になり、位相整合条件が成立しなくなり、波長変換素子1001の変換効率の低下が発生することが明らかになった。
本実施の形態は、このような現象を基に考案されたものであり、SHGの吸収によって発生する発熱の要因を補償するような分極反転の周期構造を提案するものである。図13Aは、本発明の実施の形態7に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本実施の形態に係る短波長光源においては、図13Aに示すように、波長変換素子2101の入射面2106から基本波2104を入射し、周期状の分極反転領域2102により、基本波2104をSHG2105に変換し、出射面2107よりSHG2105を出射する。
図13Bに、図13Aの波長変換素子2101の入射面2106からの距離とSHG出力との関係を示す。図13Bに示すように、波長変換素子2101の内部で、SHG2105の強度は徐々に増大し、出射面2107で最大になる。本実施の形態に係る短波長光源は、図13Aに示すように、SHG2105の強度が特定値を超えた領域、すなわち領域2において、領域1における分極反転周期2103より短い周期構造をとっている。具体的には、SHG2105の強度が特定値以下の領域1においては分極反転周期2103は周期Λ1であり、SHG2105の強度が特定値を越える領域2においては分極反転周期2103は、周期Λ1より小さい周期Λ2である。
すなわち、本実施の形態に係る短波長光源は、SHG出力を一定の値Pshgを出力させる場合に、波長変換素子2101の内部におけるSHG2105の強度Pshg>P(劣化)となる領域において、波長変換素子2101の分極反転周期構造を他の部分とは異なる短い周期構造にするものである。
入射する基本波のパワー、基本波のビーム径、ビーム品質の値より、波長変換素子2101の内部におけるSHG2105の強度分布は、図13Bに示すように、出射面2107に向かって徐々に増加する。この特性を基に、波長変換素子2101における分極反転周期2103は、波長変換素子2101の内部においてSHG2105の強度がP(劣化)を越える領域2においては、領域1における周期より短い周期に設計する必要がある。すなわち、P(劣化)を超えない領域1の周期をΛ1、P(劣化)を超える領域2の周期をΛ2とすると、Λ1>Λ2の関係をとるように設計する。
周期状の分極反転構造を有するMgOドープLiNbO3の波長変換素子2101において、波長1064nmの基本波2104を波長532nmのSHG2105に変換する場合について説明する。基本波2104の入力を10W、基本波2104の集光径をφ33μm、基本波2104のビーム品質はほぼ理想的な状態のガウシアン分布とすると、波長変換素子2101の長さが10mmのとき、素子の入射面2106から約7mmのところで、SHG2105の強度は1.5Wを越える。従って、波長変換素子2101の最適構造としては、素子長の出射面2107の近傍の3mmにおいて、分極反転周期2103をわずかに短くすることで、波長変換素子2101の変換効率を大幅に増大できる。具体的には、領域1の分極反転周期Λ1を6.97μm、領域2における分極反転周期Λ2を6.969μmに設定した。
短波長光源の最大出力を決定すると、必要な最大出力がP(劣化)の値を超える場合には、本実施の形態の構成が重要となる。短波長光源において基本波光源のパワー、ビーム品質により最大出力に必要な波長変換素子の長さ、変換効率、基本波パワーが求まる。この条件のもと、最大出力が発生する場合の波長変換素子内部におけるSHGの強度分布が求まり、波長変換素子の分極反転周期構造を決定する。波長変換素子内部で、SHG強度がP(劣化)を超える領域において、分極反転周期構造を他の部分より短周期の構造にすることで、吸収による温度変化の影響を補償して変換効率の向上が図れる。
本実施の形態では、領域2における分極反転周期構造の周期は一定の値にしたが、出射面に向かって減少させることが望ましい。これは、図13Bに示したように、波長変換素子内部におけるSHGの強度が出射面に向かって徐々に増大することで、素子内部の温度分布も出射面に向かって上昇する。例えば、図14に示すように、3領域に区分して周期を変えると、図13Aに示した領域2において周期一定の波長変換素子に比べると、高出力時における出力低下はさらに低減される。
また、図15に示すように、領域2における分極反転周期構造の周期は、出射面に向かって徐々に減少する構造がさらに望ましい。波長変換素子内部におけるSHGの強度が出射面に向かって徐々に増大することで、素子内部の温度分布も出射面に向かって上昇する影響を完全に抑えるためには、出射面に向かって、分極反転周期が徐々に減少する構造が望ましい。
本実施の形態に係る短波長光源においては、領域2の長さは、全長の1/2以下が望ましい。バルク型の波長変換素子の場合、変換効率が最大となる基本波の集光特性は、集光点を結晶の中央とし、基本波のビーム径が結晶の両端において最大となるようにした場合である。このとき、素子内でのSHGの強度は素子中央部でのパワーに対して、出射部で約3倍になる。変換効率が劣化するP(劣化)に対して、最大出力が3倍以上になると、光吸収による結晶破壊が生じることが分かった。このため、領域2の長さを素子長の半分以上にしても、出力光の増大は得られないため、領域2の長さを素子長の半分以下にすることが好ましい。
(実施の形態8)
次に、本発明の実施の形態8について説明する。図16は、本発明の実施の形態8に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本実施の形態に係る短波長光源は、図16に示すように、波長変換素子2501の入射面2506から基本波2504を入射し、周期状の分極反転領域2502により、基本波2504をSHG2505に変換し、出射面2507よりSHG2505を出射する。特に、本実施の形態では、上記の実施の形態7のように基本波2504を1度だけ波長変換素子内を通過させる構成とは異なり、基本波2504をミラー2508a、2508bで折り返すことで周期分極反転構造を2度通過させる構成となっている。ミラー2508a、2508bのそれぞれの反射方向は、ミラー制御部2509により制御されている。
基本波2504が波長変換素子2501に1回目通過時と2回目通過時の距離は十分に離されており、高出力時の吸収等による温度上昇は互いに影響しない。図16において、ミラー2508aによる反射前の1回目の基本波2504が通過する出射面2507の付近、および、ミラー2508bにより反射した後、2度目に基本波2504が波長変換素子2501を通過する出射面2507の付近は共に、SHG2505の強度は最大になる。本実施の形態の短波長光源においても、上記の実施の形態7と同様に、SHG2505の強度が特定値を超えた領域、すなわち領域2においては、領域1における分極反転周期より短い周期構造をとっている。
つまり、波長変換素子2501における分極反転周期2503は、波長変換素子2501の内部においてSHG2505の強度がP(劣化)を越える領域2においては、領域1における周期より短い周期に設計する。すなわち、基本波の一回目通過時、および2回目通過時の両方において、P(劣化)を超えない領域1の周期をΛ1、P(劣化)を超える領域2の周期をΛ2とすると、Λ1>Λ2の値をとるように設計する。
本実施の形態の波長変換素子2501において、波長1064nmの基本波2504を波長532nmのSHG2505に変換する場合、基本波2504の入力を10W、基本波2504の集光径をφ33μm、基本波2504のビーム品質はほぼ理想的な状態のガウス分布とすると、波長変換素子2501の長さが10mmのとき、基本波の一回目通過時は素子の入射面2506から約7mmのところで、SHG2505の強度は1.5Wを越える。従って、波長変換素子2501の最適構造としては、素子長の出射面2507の近傍の3mmにおいて、分極反転周期をわずかに短くすることで、波長変換素子2501の変換効率を大幅に増大できる。基本波2504の2回目通過時は基本波2504の入力パワーがポンプデプレッションおよびミラー2508a、2508bを含む光学系によるロスにより減少するため、SHG強度が1.5Wを超える領域が出射面2507側にシフトする。基本波2504が波長変換素子を1回目に通過するときと同様に素子の出射面2507の近傍の周期を短くすることで2回目通過時の波長変換素子2501の変換効率も大幅に増大できる。これにより、変換効率の劣化を抑制し、10Wの基本波入力で、図3の出力特性に対し、およそ2倍のSHG出力が得られた。
本実施の形態では、基本波の1回目通過時および2回目通過時の両方において、領域2における分極反転周期構造の周期は一定の値にしたが、出射面に向かって減少させることが望ましい。これは、図13Bに示したように、波長変換素子内部におけるSHGの強度が出射面に向かって徐々に増大することで、素子内部の温度分布も出射端面に向かって上昇する。例えば、図17に示すように、3領域に区分して周期を変えると領域2において周期一定の波長変換素子に比べると高出力時における出力低下はさらに低減される。
また、図18に示すように、領域2における分極反転周期構造の周期は、出射面に向かって徐々に減少する構造がさらに望ましい。波長変換素子内部におけるSHGの強度が出射面に向かって徐々に増大することで、素子内部の温度分布も出射面に向かって上昇する影響を完全に抑えるためには、出射面に向かって、分極反転周期が徐々に減少する構造が望ましい。
上記の実施の形態7および8に係る短波長光源においては、領域2の長さは、全長の1/2以下が望ましい。バルク型の波長変換素子の場合、変換効率が最大となる基本波の集光特性は、集光点を結晶の中央とし、基本波のビーム径が結晶の両端において最大となるようにした場合である。このとき、素子内でのSHGの強度は素子中央部でのパワーに対して、出射部で約3倍になる。変換効率が劣化するP(劣化)に対して、最大出力が3倍以上になると、光吸収による結晶破壊が生じることが分かった。このため、領域2の長さを素子長の半分以上にしても、出力光の増大は得られないため、領域2の長さを素子長の半分以下にすることが好ましい。
なお、P(劣化)のパワーはSHGの波長に依存することを図9で示したが、上記の実施の形態7および8に係る短波長光源においては、具体的にはSHG波長が500nm〜550nmの場合、P(劣化)は約1.5Wである。この波長のSHGを出射する場合、波長変換素子内部におけるSHGパワーが1.5Wを越える領域においては、分極反転周期を他の部分よりも短く設定することで、変換効率の増大をはかることができた。また、SHG波長が400nm〜450nmの場合、P(劣化)は約0.2Wであった。また、SHG波長が340nm〜400nmの場合P(劣化)は約0.05Wであった。
上記の実施の形態7および8に係る短波長光源においては、波長変換素子として周期分極反転が形成されたZ板MgOドープLiNbO3基板を用いた。その他に、MgOドープLiTaO3基板や、ストイキオ組成の同様の基板などであってもよい。さらに、Mgドープ基板以外にも、In、Zn、Scドープ基板においても同様の現象が発生することが考えられるため、上記の実施の形態7および8と同様の効果を得ることができる。
上記の実施の形態7および8に係る短波長光源においては、波長変換として、位相整合波長として1200nm以下の基本波の場合に特に有効である。上記の実施の形態7および8で説明した現象は、発生した紫外光で誘起される高調波吸収熱に起因するものであるから、紫外光が発生する波長領域に対して顕著に現れる。つまり、基本波と高調波の和周波として400nm以下の波長が発生する1200nm以下の基本波に対して本実施の形態は有効である。
基本波パワー10W以上、あるいは高調波パワー3W以上のときに紫外光発生による高調波吸収が顕著になることが確認されている。そのため、このような高いパワーの基本波、高調波発生時に、上記の実施の形態7および8に係る短波長光源は有効である。
上記の実施の形態7および8に係る短波長光源を用いて、高輝度のレーザ画像形成装置を実現することができる。高輝度のレーザ画像形成装置としては例えば、高出力のレーザ光を空間光変調素子で変調し、スクリーンに投射するリアプロジェクション型の画像形成装置や、高出力レーザ光源をバックライトとして用いる液晶テレビが挙げられる。上記の実施の形態7および8に係る短波長光源を用いることで、高出力時に安定な出力特性を実現するために映像劣化のない高輝度でかつ鮮明な映像を提供することができる。
なお、上記の実施の形態7および8では、熱の発生により屈折率が上昇し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下したが、レーザ光の入射により結晶内の屈折率が変化し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下する場合においても、位相整合条件のずれを分極反転周期により補償することで変換効率(出力)の低下を抑えることができるため、上記の実施の形態7および8と同様の効果が得られる。
以上説明したように、本発明の実施の形態7および8に係る短波長光源は、基本波を第2高調波に変換する波長変換素子を含み、波長変換素子は、周期状の分極反転構造を有するバルク非線形光学材料からなり、波長変換素子は基本波を入射する入射部と、高調波を出射する出射部と、を備え、波長変換素子の出射部近傍の少なくとも一部の領域における分極反転構造の周期が変化している構成により、結晶内部に入射した基本波と、波長変換された高調波との相互作用で発生した紫外光が原因で生じる高調波吸収熱による素子内の温度分布を利用して基本波から高調波への変換効率の低下を抑制することで、光出力、ビームプロファイルを安定に保持し、高出力レーザ光源の信頼性を確保する、という効果を有する。
(実施の形態9)
次に、本発明の実施の形態9について説明する。最初に、本実施の形態の背景となる、波長変換素子の変換効率低下と出力の不安定性について説明する。一般に、バルク型の波長変換素子による波長変換は変換効率が低く、従来は固体レーザの共振器内部に波長変換素子を挿入する内部共振器型が主流であった。これに対して、周期状の分極反転構造を有するMgO:LiNbO3やMgO:LiTaO3、KTiOPO4などの高非線形光学材料を用いることで、基本波をシングルパスで波長変換する構成が可能になった。シングルパスによる波長変換の高効率化には、基本波光源、集光光学系に特有の特性が要求される。
基本波光源に必要なのは、良好なビーム品質と、狭帯域の波長スペクトルである。ビーム品質は集光特性で測定するM2で表されガウス分布に近い特性を求められる。ガウス分布と一致した場合がM2=1であるが、高効率変換にはM2<1.2の特性が必要である。ビーム径は真円に近く、波長スペクトルは素子長に依存するが0.1nm以下の狭帯域性が必要である。また、集光特性としては、相互作用長の中心に集光スポットを有し、以下の(1)式で表される集光特性を満足した場合に、変換効率が最大となる。
L×λ/(2π×n×ω0 2)=2.84 …(1)
ここで、Lは波長変換素子の長さ、ω0は1/e2(eは自然対数の底)集光スポット半径、λは基本波波長、nは基本波に対する屈折率、である。
このような条件において、高効率な波長変換が可能となり、シングルパス変換で2Wの出力が30%を超える変換効率で得られた。このような構成において、図12で示した周期状の分極反転構造を有するバルク型の波長変換素子1201において、基本波1204を第2高調波(SHG)1205に変換する場合、SHG出力は基本波の2乗に比例して増大する。ところが、一定のSHG出力を越えると、SHGの出力が2乗特性から大きく低下する現象が観測された。
この低下の原因を調べたところ、基本波1204とSHG1205の和周波であるTHGが発生しており、このTHGの発生の影響によりSHG光の吸収が発生し、この吸収による発熱で位相整合条件が乱されていることが分かった。
さらに詳細に検討した結果、SHG光の吸収は、THGの強度に比例して増大するため、SHG光のビームパスにおける発熱量は、SHGとTHGのパワー密度の積で求まることが実験と解析により明らかになった。この結果を図24AおよびBに示す。SHG素子内部で、THGによる吸収によって発生する発熱量の最大値は、素子中央部より出射端側に位置し、発熱は素子長Lとして入射部からL/2〜2L/3の位置に集中していることが明らかになった。
これらの実験結果を基に、本実施の形態では、波長変換素子内部での発熱による温度分布によって発生する変換効率低下や出力低下、結晶損傷を低減する構成について提案する。
本実施の形態は、バルク型の波長変換素子のシングルパス変換において、変換効率が最大となる最適集光設計の光学系において、波長変換素子内部発生する熱の集中を緩和する構成、あるいは熱分布を利用して変換効率低下を抑制する構成を提案する。従来の構成と異なるのは、バルク型の波長変換素子の最適構成での現象を扱っていない点、また、THGによるSHG光の吸収による発熱現象について考慮されていない点である。また、実験によりSHG変換効率が劣化するSHGのパワーは、図9に示したように、非常に強い波長依存性を持つことが明らかになっている。
本実施の形態は、このような現象を基に考案されたものであり、SHGの吸収によって発生する発熱を、放熱構造を工夫したり、温度制御方法を改良したり、あるいは発熱していない部分を加熱したりすることで波長変換素子の温度分布を低減し、変換効率を維持するために提案されたものである。
図20は、本発明の実施の形態9に係る短波長光源の概略構成を示す図である。本実施の形態に係る短波長光源は、波長変換素子3101の伝搬方向に複数のペルチェ素子3110、3111を配置している。本実施の形態に係る短波長光源は、図20に示すように、波長変換素子3101と、第1の保持部3112と、第2の保持部3113と、制御部3114と、を備えている。第1の保持部3112は、2つの放熱剤3108に挟まれた銅板3109と、銅板3109の温度を制御することにより銅板3109の上部に配置された波長変換素子3101の一部を温度制御するペルチェ素子3110と、を有しており、第2の保持部3113は、2つの放熱剤3108に挟まれた銅板3109と、銅板3109の温度を制御することにより銅板3109の上部に配置された波長変換素子3101の残りの一部を温度制御するペルチェ素子3111と、を有している。第1の保持部3112のペルチェ素子3110および第2の保持部3113のペルチェ素子3111のそれぞれは制御部3114に接続され、制御部3114によって温度制御される。
本実施の形態に係る短波長光源では、波長変換素子3101に、周期状の分極反転領域3102が複数形成されている。波長変換素子3101を構成する基板の厚みは1mmである。分極反転領域3102は基板結晶のY軸に沿って形成されている。分極反転領域3102は基板の+Z面から−Z面側に向かって形成されている。分極反転領域3102は電界印加法により作製した。分極反転周期3103は6.97μm(Λ)で形成され、波長1064nmの光(Nd:YAGレーザ)を波長532nmの緑色光に波長変換することができる。波長変換素子3101の温度を制御するための温調制御素子としてペルチェ素子3110、3111を用いた。本実施の形態では、ペルチェ素子3110、ペルチェ素子3111は、光の伝搬方向に並ぶように配置され、それぞれが独立した温度で制御することができる。
本実施の形態の波長変換素子3101において、波長1064nmの基本波3104を波長532nmのSHG3105に変換する場合、基本波3104の入力を10W、基本波3104の集光径をφ33μm、基本波3104のビーム品質はほぼ理想的な状態のガウシアン分布とすると、波長変換素子3101の長さが10mmのとき、波長変換素子3101の入射面3106から5mm〜6mmのところで、THGによる吸収によって発生する発熱量は最大値をとり、その部分を中心に素子が温度上昇し、温度分布ができる。従って、波長変換素子3101の温度制御としては、素子の中心から出射面3107の近傍にかけた部分において、直近に温度制御をおこなうペルチェ素子を設置し、温度制御することで、波長変換素子の変換効率の低下を抑制できる。
本実施の形態では、波長変換素子として10mmの素子を用いたが、これに限らない。素子長がLで基本波の集光スポット位置をL/2にした場合、THGによるSHG吸収が原因で、入射面側からL/2〜2L/3の位置に発熱が集中する。その位置を中心とする温度分布を抑制するように、本実施の形態と同様の温度制御をすることで変換効率低下と出力低下を抑えることができる。
本実施の形態では、伝搬方向に発生した温度分布を回避するために温度上昇が顕著に現れる出射面近傍にペルチェ素子を1つ配置して温度制御をおこなったが、ペルチェ素子は温度分布が発生する箇所に2個以上であってもかまわない。例えば、図21に示すように、熱発生が集中する波長変換素子の入射側から5mm〜6mm位置と、出射面近傍位置に、伝搬方向の温度分布に合わせて素子温度が一定になるように複数個のペルチェ素子を配置する。ペルチェ素子の配置方法は温度分布が抑制されるのであればこれらの配置方法に限らない。
(実施の形態10)
次に、本発明の実施の形態10について説明する。本実施の形態は、発熱により位相整合条件がずれた部分の分極反転周期を短くすることで位相整合条件を補償して変換効率低下を抑制するものである。図22は、本発明の実施の形態10に係る短波長光源の概略構成を示す図である。
本実施の形態に係る短波長光源においては、図22に示すように、波長変換素子3401の入射面3406から基本波3404を入射し、周期状の分極反転領域3402により、基本波3404をSHG3405に変換し、出射面3407よりSHG3405を出射する。
本発明の短波長光源は、図24Bに示すように、波長変換素子3401の長さが10mmのとき、素子の入射面3406から5mm〜6mmのところで、THGによるSHGの吸収によって発生する発熱量は最大値をとり、その部分を中心に素子が温度上昇し、温度分布ができるため、発熱ピーク位置、すなわち領域2において、領域1における分極反転周期より短い周期構造をとっている。すなわち、本実施の形態は、波長変換素子内部におけるSHG吸収による温度上昇で屈折率が増加する領域において、波長変換素子の分極反転周期構造を他の部分とは異なる短い周期構造にするものである。
具体的には、熱発生がなく屈折率変化のない領域(領域1、領域3)の周期をΛ1、熱発生により屈折率が増大する領域(領域2)の周期をΛ2とすると、Λ1>Λ2の関係をとるように設計する。周期状の分極反転構造を有するMgOドープLiNbO3の波長変換素子において、波長1064nmの基本波3404を波長532nmのSHG3405に変換する場合について説明する。基本波3404の入力を10W、基本波3404の集光径をφ33μm、基本波3404のビーム品質はほぼ理想的な状態のガウシアン分布とすると、波長変換素子3401の長さが10mmのとき、素子の入射面3406から5mm〜6mmのところで、THGによる吸収によって発生する発熱量は最大値をとり、その部分を中心に素子が温度上昇し、温度分布ができる。従って、波長変換素子の最適構造としては、素子の入射面3406から5mm〜6mmにおいて、分極反転周期をわずかに短くすることで、波長変換素子の変換効率を大幅に増大できる。具体的には、領域1、3の周期を6.97μm、領域2における分極反転周期を6.969μmに設定した。波長変換素子内部で、THGによるSHG吸収で熱が発生し、屈折率が増大する領域において、分極反転周期構造を他の部分より短周期の構造にすることで、吸収による温度変化の影響を補償して変換効率の向上が図れる。
本実施の形態では、波長変換素子として10mmの素子を用いたが、これに限らない。素子長がLで基本波の集光スポット位置をL/2にした場合、THGによるSHG吸収が原因で、入射側からL/2〜2L/3の位置に発熱が集中する。その位置を中心とする温度分布を補償するように、本実施の形態と同様に分極反転周期を短くすることで変換効率低下と出力低下を抑えることができる。
本実施の形態では、領域2における分極反転周期構造の周期を一定の値にしたが、熱発生のピーク位置を中心に増加させることが望ましい。図24Bに示したように、素子長10mmの場合、入射面から5mm〜6mmの位置に発熱ピークを持ち、その部分の温度上昇が最も高い。そのため、例えば、図23に示すように、領域2における分極反転周期構造の周期は、素子内部の温度分布を完全に補償するような熱発生ピーク位置を中心に徐々に増大する構造が望ましい。
上記の実施の形態9および10に係る短波長光源においては、波長変換素子として周期分極反転が形成されたZ板MgOドープLiNbO3基板を用いた。その他に、MgOドープLiTaO3基板や、ストイキオ組成の同様の基板などであってもよい。さらに、Mgドープ基板以外にも、In、Zn、Scドープ基板においても同様の現象が発生することが考えられるため、上記の実施の形態9および10と同様の効果を得ることができる。
上記の実施の形態9および10に係る短波長光源においては、波長変換として、位相整合波長として1200nm以下の基本波の場合に特に有効である。上記の実施の形態9および10で説明した現象は、発生した紫外光で誘起される高調波吸収熱に起因するものであるから、紫外光が発生する波長領域に対して顕著に現れる。つまり、基本波と高調波の和周波として400nm以下の波長が発生する1200nm以下の基本波に対して本実施の形態は有効である。
基本波パワー10W以上、あるいは高調波パワー3W以上のときに紫外光発生による高調波吸収が顕著になることが確認されている。そのため、このような高いパワーの基本波、高調波発生時に、上記の実施の形態9および10に係る短波長光源は有効である。
上記の実施の形態9および10に係る短波長光源を用いて、高輝度のレーザ画像形成装置を実現することができる。高輝度のレーザ画像形成装置としては例えば、高出力のレーザ光を空間光変調素子で変調し、スクリーンに投射するリアプロジェクション型の画像形成装置や、高出力レーザ光源をバックライトとして用いる液晶テレビが挙げられる。上記の実施の形態9および10に係る短波長光源を用いることで、高出力時に安定な出力特性を実現するために映像劣化のない高輝度でかつ鮮明な映像を提供することができる。
なお、上記の実施の形態9および10では、熱の発生により屈折率が上昇し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下したが、レーザ光の入射により結晶内の屈折率が変化し、位相整合条件がずれることで変換効率(出力)が低下する場合においても、位相整合条件のずれを分極反転周期および温度制御方法により補償することで変換効率(出力)の低下を抑えることができるため、上記の実施の形態9および10と同様の効果が得られる。
上記の各実施の形態から本発明を要約すると、以下のようになる。すなわち、本発明の一局面に従う短波長光源は、基本波が入射される入射面および高調波が出射される出射面と、を有し、前記基本波を前記高調波に変換する波長変換素子と、前記波長変換素子を保持する保持部とを備え、前記波長変換素子は、前記波長変換素子の前記出射面側の一部の領域である特定領域において、前記波長変換素子による波長変換の際における前記高調波の吸収による発熱に起因する前記基本波と前記高調波との間の位相整合条件の変動が抑制されるように構成される。
上記の短波長光源では、波長変換素子の特定領域において高調波の吸収により発熱が生じた場合でも、その発熱に起因する基本波と高調波との間の位相整合条件の変動が抑制されるので、高調波出力の安定化を図ることができる。
前記特定領域と前記保持部との間の熱抵抗は、前記特定領域以外の他の領域と前記保持部との間の熱抵抗より低いことが好ましい。
この場合、特定領域からの発熱を効率よく放熱させることができるので、位相整合条件の変動がより効果的に抑制することができる。
前記保持部は、前記特定領域の温度を変更する第1の温度変更部材を有し、前記第1の温度変更部材は、前記特定領域の温度が前記特定領域以外の他の領域の温度と略同一となるように、前記特定領域の温度を変更することが好ましい。
この場合、波長変換素子の温度分布を均一に保つことができるので、特定領域における位相整合条件の変動を抑制することができる。
前記高調波の光強度は、前記波長変換素子の前記入射面から前記出射面に向かうに方向に沿って増加しており、前記特定領域は、前記高調波の光強度が所定値を超えた位置から前記出射面までの間の領域であることが好ましく、前記高調波の波長は、500nm〜550nmであり、前記所定値は、1.5Wである、前記高調波の波長は、400nm〜450nmであり、前記所定値は、0.2Wである、または、前記高調波の波長は、340nm〜400nmであり、前記所定値は、0.05Wであることが好ましい。
この場合、特定領域の位置を正確に把握することができるので、特定領域における位相整合条件の変動をさらに効果的に抑制することができる。
前記特定領域の長さは、前記波長変換素子の長さの2分の1以下であることが好ましい。
この場合、波長変換素子の破壊を招くことなく、高調波の出力を最大値まで向上させることができる。
前記保持部はさらに、前記特定領域以外の他の領域の温度を変更する第2の温度変更部材を有し、前記特定領域と前記第1の温度変更部材との間の熱抵抗θ1と前記特定領域以外の他の領域と前記第2の温度変更部材との間の熱抵抗θ2とは、θ1<θ2の関係を満足することが好ましい。
この場合、特定領域からの発熱を効率よく放熱させることができるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記波長変換素子内部の基本波のビーム経路と前記特定領域の前記保持部側の表面との間の距離は、前記基本波のビーム経路と前記特定領域以外の他の領域の前記保持部側の表面との間の距離より短いことが好ましく、前記基本波のビームは、前記特定領域の前記保持部側の表面の近傍を通過する、または、前記基本波のビームは、前記特定領域または前記特定領域の近傍の領域の前記保持部側の表面で反射されることが好ましい。
この場合、特定領域からの発熱を保持部側から効率よく放熱させることができるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記特定領域の厚みは、前記特定領域以外の他の領域の厚みより薄いことが好ましい。
この場合、特定領域の温度上昇を緩和させることができるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記第1の温度変更部材は、前記高調波の吸収による前記特定領域からの発熱を自身の表面から放熱させる第1の放熱部材であり、前記第2の温度変更部材は、前記高調波の吸収による前記特定領域以外の他の領域からの発熱を自身の表面から放熱させる第2の放熱部材であり、前記第1の放熱部材の表面積は、前記第2の放熱部材の表面積より大きいことが好ましい。
この場合、特定領域からの発熱を効率よく放熱させることができるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記特定領域以外の他の領域を加熱する加熱部をさらに備え、前記加熱部は、前記特定領域以外の他の領域の温度が前記特定領域の温度と略同一となるように、前記特定領域以外の他の領域を加熱することが好ましい。
この場合、波長変換素子の温度分布を均一に保つことができるので、特定領域における位相整合条件の変動を抑制することができる。
前記特定領域の分極反転周期は、前記特定領域以外の他の領域の分極反転周期より短いことが好ましい。
この場合、波長変換素子の特定領域において高調波の吸収により発熱が生じた場合でも、特定領域の分極反転周期を特定領域以外の他の領域の分極反転周期より短くしておくことにより、その発熱に起因する位相整合条件の変動を抑制することができる。
前記特定領域の分極反転周期は、前記波長変換素子の前記入射面から前記出射面に向かう方向に沿って徐々に短くなるように設定されることが好ましい。
この場合、高調波の光強度の上昇に合わせて分極反転周期が短くなるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記特定領域の分極反転周期は、前記特定領域の温度分布に応じて設定されることが好ましい。
この場合、特定領域の温度分布に応じて分極反転周期が短くなるので、各温度に合った分極反転周期が設定される。このため、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
基本波光源から出射される基本波を前記波長変換素子に入射し、前記基本波を前記波長変換素子の内部に集光する光学系をさらに備え、前記特定領域は、前記光学系による前記基本波の集光スポットの近接に位置し、且つ、前記集光スポットの前記出射面側に位置することが好ましい。
この場合、基本波の集光スポットの位置に応じて特定領域を正確に把握することができるので、特定領域における位相整合条件の変動をさらに効果的に抑制することができる。
前記特定領域の分極反転周期は、前記特定領域の中心から前記波長変換素子の前記入射面および前記出射面に向かう各方向に沿って徐々に短くなるように設定されることが好ましい。
この場合、高調波の光強度の上昇に合わせて分極反転周期が短くなるので、位相整合条件の変動をより効果的に抑制することができる。
前記基本波のビーム強度分布が、ガウス分布に近似され、前記波長変換素子の長さL、前記集光スポットの半径ω0、前記基本波の波長λおよび前記基本波に対する前記波長変換素子の屈折率nが、以下の関係を実質的に満足する場合に、前記特定領域は、前記入射面から前記出射面に向かってL/2〜2L/3離れた位置にあることが好ましい。
L×λ/(2π×n×ω0 2)=2.84
この場合、基本波から高調波への変換効率を最大にしつつ、高調波出力の安定化を図ることができる。
前記波長変換素子は、Mg、In、Zn、Scのうちの少なくとも1つが添加されたLiTa(1−x)NbxO3(0≦x≦1)であることが好ましい。
この場合、波長変換素子を、Mg、In、Zn、Scのうちの少なくとも1つが添加されたLiTa(1−x)NbxO3(0≦x≦1)とした場合でも、高調波の吸収による発熱に起因する位相整合条件の変動を抑制して、高調波出力の安定化を図ることができる。
本発明の他の一局面に従うレーザ画像形成装置は、上記の短波長光源と、前記短波長光源から出射される光を変調する空間光変調素子とを備える。
上記のレーザ画像形成装置では、短波長光源から出射される光の出力の安定化が図られ、その光を用いて空間光変調素子が空間変調して画像を形成するので、形成される画像の精度を向上させることができる。
本発明に係る短波長光源およびレーザ画像形成装置は、高出力時の基本波から高調波への変換効率を維持し、波長変換された高出力の高調波光を安定に出力することができ、短波長の光を出力する短波長光源、及びそれを用いたレーザ画像形成装置として有用である。
図1Aは、本発明の実施の形態1に係る短波長光源の概略構成を示す断面図であり、図1Bは、波長変換素子の入射面からの距離とSHG出力との関係を示す図である。
本発明の実施の形態1に係る短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
基本波の入力パワーとSHGの出力パワーとの関係を示す図である。
本発明の実施の形態2に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態3に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。
図6AおよびBは、本発明の実施の形態4に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態5に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。
図8AおよびBは、本発明の実施の形態6に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。
SHG波長と変換効率が劣化するSHG出力との関係を示す図である。
従来の短波長光源のSHG出力特性を示す図である。
SHGの変換効率が劣化したときの素子温度分布を示す図である。
従来の短波長光源の概略構成を示す断面図である。
図13Aは、本発明の実施の形態7に係る短波長光源の概略構成を示す断面図であり、図13Bは、波長変換素子の入射面からの距離とSHG出力との関係を示す図である。
本発明の実施の形態7に係る短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態7に係る短波長光源のさらに他の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態8に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態8に係る短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態8に係る短波長光源のさらに他の概略構成を示す断面図である。
従来の短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態9に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態9に係る短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態10に係る短波長光源の概略構成を示す断面図である。
本発明の実施の形態10に係る短波長光源の他の概略構成を示す断面図である。
図24Aは、波長変換素子内のビームパスを表わす模式図であり、図24Bは、波長変換素子内の発熱量分布を示す図である。