本発明の実施の形態に係る穿刺器具は、穿刺針により皮膚を穿刺するものであって、前記穿刺針を移動可能に保持する穿刺針移動手段と、皮膚を変形させる皮膚変形手段と、を備え、前記穿刺針移動手段によって穿刺針を移動させて、前記皮膚変形手段により変形させた皮膚に穿刺するように構成されている。この構成をとることにより、穿刺針を、皮膚より穿刺して、所定の部位に確実に到達させることができる。
本発明の実施形態に係る上記の穿刺器具は、皮膚に固定される平面を有する固定部と、前記皮膚変形手段に備わる皮膚固定面と、を有し、前記皮膚変形手段は、前記皮膚固定面と前記固定部の平面との間に段差部を形成するように皮膚を変形させる構成とする。
本発明の実施形態に係る穿刺器具の上記穿刺針移動手段は、前記穿刺針を、前記皮膚固定面と略平行に移動させて、前記段差部に穿刺するような構成とする。
本発明の実施形態に係る穿刺器具の上記穿刺針移動手段は、前記穿刺針を、前記固定部の平面と略平行に移動させて、前記段差部に穿刺するような構成とする。
本発明の実施の形態に係る投与器具は、皮膚を穿刺する1つの穿刺針を有し、当該穿刺針を前記皮膚の所定の層に対して平行に進入させる穿刺器具と、前記穿刺針に連通されると共に当該穿刺針を介して前記皮膚の所定の層に物質を注入する注入器具と、を備え、圧力が0.1psi〜500psiの範囲で前記物質を前記皮膚の層のうち真皮に投与する構成とする。この構成をとることにより、皮膚に対して所定量の物質を漏らさずに投与することができる。
本発明の実施形態に係る上記の投与器具は、投与流速を100μl/分で上記物質を投
与したとき、当該物質を所定時間投与する構成とする。
本発明の実施形態に係る上記の投与器具は、圧力が90psi〜500psiの範囲
では、上記物質を投与流速1000〜2000μl/分で投与する構成とする。
本発明の実施形態に係る上記の投与器具は、投与流速を1000μl/分で上記物質を
投与したとき、投与時間は130秒以下である構成とする。
本発明の実施形態に係る上記の投与器具は、投与流速を2000μl/分で上記物質を
投与したとき、投与時間は90秒以下である構成とする。
本発明の実施形態に係る上記の投与器具は、投与流速を1000μl〜2000μl/
分としたとき、上記物質の最大圧力が200psi〜500psiである構成とする。
本発明の実施形態に係る上記の投与器具は、上記物質の最大圧力が460psiで、上
記物質を所定時間投与する構成とする。
本発明の実施形態に係る上記の投与器具は、上記所定時間が90秒以下である構成とす
る。
本発明の実施形態に係る上記の投与器具は、穿刺器具を、前記穿刺針を移動可能に保持する穿刺針移動手段と、前記皮膚を変形させる皮膚変形手段と、を備え、前記穿刺針移動手段により前記穿刺針を移動させて、前記皮膚変形手段によって変形させた前記皮膚に穿刺するように構成する。
本発明の実施形態に係る上記の投与器具は、穿刺器具を、上記穿刺針を少なくとも0.5mm皮膚に進入させる構成とする。
本発明の他の実施形態に係る投与器具は、皮膚を穿刺する1つの穿刺針を有し、前記穿刺針を少なくとも0.5mm皮膚に進入させる穿刺器具と、前記穿刺針に連通されると共に当該穿刺針を介して前記皮膚の所定の層に物質を注入する注入器具と、を備え、投与流速を1000μl〜2000μl/分としたとき、物質の最大圧力が200psi〜500psiである構成とする。この構成をとることにより、皮膚に対して所定量の物質を漏らさずに投与することができる。
本発明の実施形態に係る穿刺方法は、穿刺針を確実に皮膚の所定の部位に穿刺するために、前記穿刺針を移動可能に保持する穿刺針移動手段と、前記皮膚を変形させる皮膚変形手段と、を用い、前記穿刺針移動手段によって穿刺針を移動させて、前記皮膚変形手段により変形させた皮膚に穿刺するものである。この方法により、穿刺針を、皮膚より穿刺して、所定の部位に確実に到達させることができる。
本発明の実施形態に係る上記穿刺方法は、前記皮膚変形手段によって、前記穿刺器具に設けられた皮膚固定面と固定部の平面との間に段差部が形成されるよう皮膚を変形させるものである。
本発明の実施形態に係る上記穿刺方法は、前記穿刺針移動手段によって、前記穿刺針を、前記皮膚固定面と略平行に移動させて、前記段差部に穿刺するものである。
本発明の実施形態に係る上記穿刺方法は、前記穿刺針移動手段によって、前記穿刺針を、
前記固定部の平面と略平行に移動させて、前記段差部に穿刺するものである。
以下、本発明の穿刺器具を実施するための形態について、図面を参照して説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
<第1実施形態>
まず、本発明の穿刺器具の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の穿刺器具の第1実施形態を示す斜視図である。図2は、図1中のA−A線の断面図を示したものである。また、図3及び図4は、図1に示す穿刺器具の使用方法を説明するための図(断面図)である。なお、以下では、図2乃至図4の右側を「基端」、左側を「先端」として説明する。
図1に示す穿刺器具1は、固定部である粘着パッド2と、皮膚を変形して隆起させる皮膚変形手段3と、穿刺針411を移動可能に保持する穿刺針移動手段4とを備えている。
粘着パッド2は、全体に丸みがあり、その外周の一部に対向する凹部が形成されている形状、いわゆる翼状形状を有するように形成されている。
なお、粘着パッド2の翼状形状は、穿刺針移動手段4が載置される側の面積が、皮膚変形手段3が設けられる側の面積よりも大きくなるように形成されている。このように、穿刺針移動手段4が載置される側の粘着パッド2の面積を大きくすることで、体表面Fに対する安定性を増して、穿刺針移動手段4による穿刺針411の移動を安定した状態で行うことができる。
粘着パッド2には、皮膚変形手段3であるヒンジ5を体表面Fに載置させるためのヒンジ孔21が形成されている。また、粘着パッド2には、穿刺針411の移動方向に沿うようにヒンジ孔21に連接した穿刺針孔22が形成されている。
穿刺針孔22は、後述するヒンジ5の回動片52の基端部から支持部材43の先端部まで開口するように形成されている。また、穿刺針孔22の幅は、回動片52の幅と略同一となるように形成されている。このように、回動片52の基端側と支持部材43の先端部との間には、隙間が形成されているため、回動片52によって皮膚を隆起させやすくなる。また、隙間によって、回動片52の端部を把持しやすくなるので、回動片52を容易に回動させることができる。
図2に示すように、粘着パッド2の体表面F側には、体表面F(皮膚)に密着して粘着パッド2を固定するための平面2aが形成されている。この平面2aには、粘着手段が設けられており、粘着手段としては、平面2aに接着剤を層状に塗布してもよいし、両面テープで構成された粘着フィルムを貼付するようにしてもよい。
粘着パッド2の平面2aは、粘着剤により、体表面Fに固定されている。なお、体表面Fの下方には、角質層SC、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、層状に配列されている。
そして、後述するように、穿刺針411が、穿刺針移動手段4によって、粘着パッド2の平面2aに沿って先端方向へ移動し、皮膚変形手段3によって隆起された皮膚に穿刺する。
粘着パッド2は、例えば軟質ポリウレタン等の軟質ポリマーによって構成される。
皮膚変形手段3は、一対の固定片である固定片51及び回動片52と、固定片51と回動片52の間に設けられ、固定片51と回動片52とを連結する回動軸53とからなる平板状のヒンジ5から構成される。また、回動片52は、穿刺針411の移動方向に対して、垂直方向に回動するように、回動軸53に支持されている。
また、回動片52の体表面F側には、皮膚を固定するための皮膚固定面52aが形成されている。
ヒンジ5は、粘着パッド2に形成されたヒンジ孔21を介して、体表面Fに載置されている。また、固定片51と回動片52の体表面F側には、接着手段としての粘着フィルム54が設けられており、図2に示すように、この粘着フィルム54によって、ヒンジ5が体表面Fに固定されている。接着手段としては、例えば両面テープの粘着フィルム等が用いられる。
ヒンジ5は、金属材料で構成されているが、隆起させる皮膚の高さを正確に規定できる程度に高い剛性を有しているものであれば、特に金属材料に限定される必要はない。このようにヒンジ5を、粘着パッド2の材質よりも硬度の高い材質で構成することにより、確実に皮膚を体表面Fと垂直方向に引き上げることができる。
また、ヒンジ5は、固定片51の面積が回動片52の面積よりも大きくなるような構成としてもよい。このように構成することにより、固定片51を体表面Fに確実に固定させて、安定した状態を保ちながら、回動片52により皮膚を隆起させることができる。
穿刺針移動手段4は、穿刺針411を有する注射具41と、注射具41を載置固定する載置部材42と、載置部材42を移動可能に支持する支持部材43とから構成される。
また、穿刺針移動手段4の支持部材43は、枠材(図示せず)にて、ヒンジ5の固定片51と一体的に構成されている。
注射具41は、穿刺針411と、固定外筒412と、固定外筒412内で摺動し得る内部外筒413と、内部外筒413内で摺動し得るガスケット414と、ガスケット414を移動操作するプランジャ415とを備えている。
固定外筒412は、有底筒状の形状を有しており、接着剤等により、載置部材42上に載置固定されている。また、固定外筒412の底部の中央部付近には、穿刺針411の挿通を行うための穿刺針孔412aが形成されている。
内部外筒413は、有底筒状の形状を有している。また、底部の中央部付近には、穿刺針411が接着固着されている。
穿刺針411の針先411aは、固体外筒412に設けられた穿刺針孔412aから突出しないように設けられている。すなわち、穿刺針411は、その針先411aが、穿刺針孔412aが設けられている固定外筒412の底面よりも内側かつ穿刺針孔412aの近傍に位置するように、固定外筒412に対して設置されている。
このように構成することにより、穿刺針411の針先411aを保護することができる。また、針先411aが見えにくくなるので、使用者の恐怖感を少なくすることができる。
穿刺針411の外径は、穿刺器具1の用途等によっても若干異なるが、0.05mm〜2.0mm程度であるのが好ましく、特に0.1mm〜1.0mm程度であるのが好ましい。
穿刺針411の構成材料としては、例えば、ステレンス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金等の金属材料が挙げられる。また、穿刺部材411は、例えば、塑性加工によって製造される。
内部外筒413は、プランジャ415の操作により、固定外筒412内を、内部外筒413の長手方向に摺動することができ、内部外筒413が摺動する際には、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aを通じて、固定外筒412から出し入れされる。
固定外筒412及び内部外筒413の構成材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンのような各種樹脂が挙げられる。なお、固定外筒412及び内部外筒413の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが望ましい。
内部外筒413内には、弾性材料で構成されたガスケット414が収納されている。
ガスケット414の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、スチレン系等の各種熱可塑性エストラマー、あるいはそれらの混合物等の弾性材料が挙げられる。
ガスケット414と内部外筒413とで囲まれる空間内には、液室417が形成されており、この液室417には、予め液体が液密に収納されている。
液体としては、例えば、注射用治療薬、あるいは、ホルモン、抗体医薬品、サイトカイン、ワクチンなどの高分子物質を用いた薬液が挙げられる。
ガスケット414には、ガスケット414を内部外筒413内で長手方向に移動操作するプランジャ415が連結されている。
プランジャ415の基端には、板状のフランジ416が一体的に形成されている。このフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作する。
載置部材42は、注射具41を載置するための上面部42aを有するように構成されている。載置部材の長手方向の下部には、移動可能に支持部材43と係合するためのコの字状の係合部422が、粘着パッド2に向けて突出形成されている。
載置部材42には、上面部42aが、穿刺針411の移動方向に対して所定の角度θ1を有するように、傾斜部42cが設けられている。また、この傾斜部の傾斜角度θ1は、図3Bに示すヒンジ5の回動片52の回動角度θ2と同一となるように設定される。
支持部材43は、載置部材42と摺動可能に接触する上面部43a有する矩形の板状体で構成されている。板状体の長手方向の端部には、載置部材42に形成されたコの字状の係合部421と合致するような係合凸部431が、粘着パッド2と水平の方向に突出形成されている。
支持部材43の上面部43aと反対側の平面には、粘着パッド2と接着固定するための下面部43bが形成されている。図2に示すように、下面部43bは、接着剤等により、粘着パッド2上に固定されている。
載置部材42及び支持部材43の構成材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のような各種樹脂が挙げられ、これらの樹脂を所定の形状を有する金型に流し込む成形加工等により、載置部材42及び支持部材43が製造される。
なお、穿刺針移動手段4としては、載置部材42上に、穿刺針とシリンジとを一体にした構成の注射具を固定保持するような構成としてもよい。この場合には、載置部材42が皮膚変形手段3に最も近づくように移動したときに、穿刺針411の針先411aが、皮膚変形手段3により隆起された皮膚に穿刺できるように、穿刺針411の長さを調整する。
次に、図3及び図4を用いて、本実施形態の穿刺器具1の使用方法(作用)について説明する。
まず、粘着パッド2を体表面Fの所定の位置に載置する。
このとき、粘着パッド2の平面2aが、粘着パッド2の体表面F側に設けられた粘着フィルムにより、体表面Fに接着固定される。
同時に、粘着パッド2に形成されたヒンジ孔21に嵌合するようにして設置されているヒンジ5も、体表面Fに載置される。このとき、ヒンジ5は、ヒンジ5の固定片51及び回動片52の体表面F側に設けられた粘着フィルム54によって、体表面Fに接着固定される。
次に、ヒンジ5の回動片52を把持して、回動軸53を中心として、図3Aに示す矢印の方向に、回動片52を回動させる。
回動片52が上方へ回動されると、回動片52の体表面F側に設けられている粘着フィルム54に接着していた皮膚が、回動片52の回動と共に、体表面Fの上方へ引き上げられる。すなわち、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、それぞれ上方へ引き上げられて、皮膚が体表面Fと垂直方向に隆起される。この場合、回動片52によって引き上げられた真皮Dは、回動した回動片52と平行となるような状態で、隆起する。
また、ヒンジ5の回動軸53が、穿刺針411の移動方向と垂直方向となるように配置されているので、穿刺される皮膚の部位(穿刺部位P)が、穿刺針411の針先411aと対向するような状態で、皮膚が隆起される。
すなわち、皮膚が変形して隆起することにより、高さ方向において、固定部である粘着パッド2の平面2aの位置と、回動片52の皮膚固定面52aの位置とが異なり、その間に段差部が形成され、その段差部に穿刺部位Pが形成される。ここで、段差とは、平面2aと皮膚固定面52aとの間に生じる高低の差をいう。
回動片52の回動は、予め設定されている回動角度θ2に達したときに停止する。回動軸53の回動角度θ2は、図3Bに示すように、少なくとも真皮Dが、体表面Fよりも上方へ突出できるような角度に設定されている。
次に、注射具41が固定保持されている載置部材42を、先端方向にスライドさせる。すなわち、固定外筒412の底面と穿刺部位Pとを近接させて、穿刺針411の針先411aを穿刺部位Pに近づける。
次に、フランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413を、固定外筒412と摺動させながら、先端方向へ移動させる。これにより、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aから穿刺部位Pに挿入され、図3Cに示すように、穿刺針411の針先411aが、角質層SCを含む表皮Eをバイパスして、真皮Dに穿刺される。
本実施形態では、注射具41が固定保持されている載置部材42の上面部42aは、ヒンジ5の回動片52の回動角度θ2と同一となるような傾斜角度θ1が設けられているので、穿刺針411の針先411aが、回動片52の皮膚固定面52aと平行となる状態で、段差部(穿刺部位P)に穿刺される。すなわち回動片52と平行に引き上げられた真皮Dと平行となるように、穿刺針411を真皮Dへ挿入することができる。
このとき、穿刺針411は、皮膚に対して0.3mm〜30.0mm、より好ましくは3.0mm〜8.0mmの距離で穿刺され、真皮Dに対しては、2.0mm〜8.0mmの距離で挿入され得る。
この状態から、さらにフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413と摺動させながら、ガスケット414を先端方向へ移動させる。これにより、図4Aに示すように、液室417に収納されている薬剤50が、穿刺針411の針先411aから、真皮Dへ注入される。
薬剤を真皮Dに注入した後、フランジ416を指等で引くことにより、プランジャ415を操作し、ガスケット414を基端方向へ移動させて、穿刺針411を、穿刺部位Pから引き抜く。
さらに、プランジャ415を基端方向へ移動させて、図4Bに示すように、穿刺針411を穿刺針孔412aから固定外筒412内に収納する。
次に、この状態で、注射器具41が固定保持されている載置部材42を、基端方向にスライドさせて、図4Cの状態とし、最後に、粘着パッド2及びヒンジ5と体表面Fとの接着を解除して、穿刺器具1を体表面Fから剥離する。
このように、本実施形態の穿刺器具1によれば、ヒンジ5により皮膚を隆起させた状態で穿刺作業を行うので、穿刺針411を確実に皮膚(真皮D)に穿刺することができ、皮膚内の真皮Dに確実に薬液を注入することができる。
また、穿刺針411を回動片52と略平行な状態となるように穿刺するので、真皮D内における穿刺針411の挿入深さが長くなり、外部から衝撃等が加えられた場合であっても、薬剤注入中の穿刺針411が真皮Dから抜けてしまうことを防止できる。
また、表皮Eと真皮Dとの境目に形成された穿刺針411の挿入口から、針先411aにある薬剤放出口までの距離が長くなるので、一旦薬剤放出口から真皮Dに注入された薬剤が、逆流して挿入口から表皮Eへ漏れてしまうことを防止できる。
また、本実施形態の穿刺器具は、上述してきたように、薬剤を単回注射する目的の他、カテーテルを埋設することにも用いることができる。この場合、穿刺針にカテーテルを保持させ、カテーテルを皮膚内に残して穿刺針のみを抜き取ることによって、皮内にカテーテルを埋設する。このように、埋設部に孔を有する中空のカテーテルを埋設することにより、薬剤の連続投与や体液成分のサンプリングを行うことができる。また、埋設部分にセンサを有するカテーテルを埋設する事によって、体内成分の測定を行うこともできる。
また、本実施形態は、いずれも真皮Dに穿刺針を穿刺する形態例で説明したが、本発明の穿刺器具は、真皮の他に皮内や皮下組織、さらには筋肉に穿刺する場合にも用いることができる。
なお、本実施形態の穿刺器具は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、その他材料、構成等において本発明の構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。
<第2実施形態>
次に、本発明の穿刺器具の第2実施形態について説明する。
図5は、本発明の穿刺器具の第2の実施の形態を示す斜視図である。図6は、図5中のA−A線の断面図である。また、図7A〜C及び図8A〜Cは、図5に示す穿刺器具の使用方法を説明するための図(断面図)である。なお、以下では、図6〜図8の右側を「基端」、左側を「先端」として説明する。
図5及び図6に示すように、本発明の穿刺器具の第2の実施の形態を示す穿刺器具1は、固定部である粘着パッド2と、皮膚を変形して隆起させる皮膚変形手段3と、穿刺針411を移動可能に保持する穿刺針移動手段4等を備えて構成されている。
粘着パッド2は、大きさの異なる2つの楕円形の板体を横方向に連続して形成したような、いわゆる翼状形状をなす板体とされている。
粘着パッド2の上面には、小さい楕円側に皮膚変形手段3が配置されており、大きい楕円側に穿刺針移動手段4が配置されている。このように、穿刺針移動手段4が配置される側の面積を大きく構成することで、体表面Fに対する安定性を増して、穿刺針移動手段4による穿刺針411の移動を安定した状態で行うことができる。
粘着パッド2の皮膚変形手段3に対応する位置には、皮膚変形手段3の後述する皮膚接着部材33を体表面Fに接触させるための開口窓21aが設けられている。
粘着パッド2の下面は、体表面Fに密着して粘着パッド2を固定するための平面2aとされている。この平面2aには、粘着手段が設けられており、粘着手段としては、平面2aに接着剤を層状に塗布してもよいし、両面テープの粘着フィルムを貼付するようにしてもよい。なお、支持台31の下側に該当する位置の平面2aには、接着手段は設けられていない。これは、皮膚が隆起しやすいようにするためである。
図6に示すように、粘着パッド2の平面2aは、粘着剤により、体表面Fに固定されている。なお、体表面Fの下方には、角質層SC、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、層状に配列されている。
このような粘着パッド2の構成材料としては、例えば、軟質ポリウレタン等の軟質ポリマーが挙げられる。
皮膚変形手段3は、粘着パッド2の上面に固定される支持台31と、支持台31に対向される皮膚接着部材33と、支持台31と皮膚接着部材33との間に介在されて皮膚接着部材33を付勢する付勢部材の一具体例を示す複数のコイルばね32等を備えて構成されている。
皮膚変形手段3の支持台31は、略四角形の枠体をなしており、開口部31aが粘着パッド2の開口窓21aに対向されている。支持台31の一辺には、上面に連続して上方に突出する側面片311が設けられている。この側面片311は、穿刺針移動手段4の後述する支持部材43に連続されている。
皮膚接着部材33は、略四角形の板体をなす本体板331と、支持台31の開口部31a及び粘着パッド2の開口窓21aに挿通される接着突部332とから構成されている。皮膚接着部材33の接着突部332は、本体板331の下面に連続して略垂直に突出しており、体表面Fに固定するための平面である皮膚固定面としての接着面332aを有している。
接着突部332の接着面332aには、粘着手段の一具体例を示す粘着フィルム34が設けられており、この粘着フィルム34によって、皮膚接着部材33の接着面332aが体表面Fに接着される。粘着手段としては、例えば両面テープの粘着フィルム等が用いられる。
複数のコイルばね32は、本実施の形態では、4つ(図5において3つを示す)設けられており、支持台31の四隅と皮膚接着部材33の四隅とをそれぞれ接続するように配置されている。即ち、コイルばね32は、全て同じ長さに設定され、それぞれ一端が支持台31の上面に固定され、他端が皮膚接着部材33の本体板331の下面に固定されている。これにより、4つのコイルばね32が、支持台31の上方に皮膚接着部材33を支持する状態となっている。
また、コイルばね32は、コイルの中心軸の方向に圧縮荷重を受ける、いわゆる、圧縮コイルばねとされている。そのため、これらコイルばね32により、皮膚接着部材33は、支持台31の上面から略垂直方向に離反されるように付勢された状態となっている。
本実施の形態では、コイルばね32を4つ設ける構成としたが、コイルばね32の数は4つに限定されるものではなく、3つ以下であってもよく、また、5つ以上であってもよい。また、本実施の形態では、付勢部材として圧縮コイルばねを用いる構成としたが、本発明に係る付勢部材としては、これに限定されるものではなく、例えば、板ばね、引張ばね、ゴム状弾性体等を適用することができるものである。
本発明に係る皮膚変形手段に引張ばねを適用するには、例えば、支持台31を粘着パッド2の上方に配置するための脚部を設け、支持台の下面に引張ばねを吊るすように固定すると共に、引張ばねの他端を皮膚接着部材に固定して支持する構成を挙げることができる。
穿刺針移動手段4は、穿刺針411が取り付けられる注射具41と、注射具41を載置固定する載置部材42と、載置部材42を移動可能に支持する支持部材43とから構成される。
注射具41は、穿刺針411と、固定外筒412と、固定外筒412内で摺動し得る内部外筒413と、内部外筒413内で摺動し得るガスケット414と、ガスケット414を移動操作するプランジャ415とを備えている。
固定外筒412は、有底筒状の形状を有しており、接着剤等により、載置部材42上に載置固定されている。また、固定外筒412の底部の中央部付近には、穿刺針411の挿通を行うための穿刺針孔412aが形成されている。
内部外筒413は、有底筒状の形状を有している。また、底部の中央部付近には、穿刺針411が取り付けられている。
穿刺針411の針先411aは、固体外筒412に設けられた穿刺針孔412aから突出しないように設けられている。即ち、穿刺針411は、その針先411aが、穿刺針孔412aが設けられている固定外筒412の底面よりも内側かつ穿刺針孔412aの近傍に位置するように、固定外筒412に対して設置されている。
このように構成することにより、穿刺針411の針先411aが保護される。そのため、穿刺針411の針先411aに指等が触れたり、誤って穿刺針411を指等に刺したりしまうことを防止することができ、穿刺針4を清潔な状態に保つことができる。また、穿刺針411は、外部からの衝撃を直接受けることがなく、その衝撃により穿刺針411が変形することを防止することができる。
穿刺針411の外径は、穿刺器具1の用途等によっても若干異なるが、0.05〜2mm程度であるのが好ましく、特に0.1〜1.5mm程度であるのが好ましい。
穿刺針411の構成材料としては、例えば、ステレンス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金等の金属材料が挙げられる。また、穿刺針411は、例えば、塑性加工によって製造される。
内部外筒413は、プランジャ415の操作により、固定外筒412内を、内部外筒413の長手方向に摺動することができ、内部外筒413が摺動する際には、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aを通じて、固定外筒412から出し入れされる。
固定外筒412及び内部外筒413の構成材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンのような各種樹脂が挙げられる。なお、固定外筒412及び内部外筒413の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが望ましい。
内部外筒413内には、弾性材料で構成されたガスケット414が収納されている。
ガスケット414の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、スチレン系等の各種熱可塑性エストラマー、あるいはそれらの混合物等の弾性材料が挙げられる。
ガスケット414と内部外筒413とで囲まれる空間内には、液室417が形成されており、この液室417には、予め液体が液密に収納されている。
液体としては、例えば、注射用治療薬、あるいはホルモン、抗体医薬品、サイトカイン、ワクチンなどの高分子物質を用いた薬液が挙げられる。
ガスケット414には、ガスケット414を内部外筒413内で長手方向に移動操作するプランジャ415が連結されている。
プランジャ415の基端には、板状のフランジ416が一体的に形成されている。このフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作する。
載置部材42は、長方形の板体をなしており、長辺の両側面には、係合部421,421が設けられている。これら係合部421,421は、支持部材43の後述する係合凸部431,431に摺動可能に係合される。そして、載置部材42の上面部42aには、注射具41の固定外筒412が固定される。
支持部材43は、載置部材42よりも厚く設定された長方形の板体をなしており、先端側の端部が、支持台31の側面片311に連続されている。これにより、皮膚変形手段3と穿刺針移動手段4とが一体的に構成されている。支持部材43の下面部43bには、接着剤等の固着手段が取り付けられており、図6に示すように、粘着パッド2の上面に接着固定されている。
支持部材43の長辺の両側面には、係合凸部431,431が設けられている。そして、これら係合凸部431,431に載置部材42の係合部421,421が摺動可能に係合されることにより、載置部材42が支持部材43に移動可能に支持されている。
支持部材43の上面部43aは、粘着パッド2の平面及び皮膚接着部材33の接着面332aに対して平行とされている。そのため、支持部材43の上面部43aに沿って移動される載置部材42は、粘着パッド2の平面及び皮膚接着部材33の接着面332aに対して平行に移動される。また、注射具41に取り付けた穿刺針411の軸心線は、載置部材42の移動方向に一致されている。
穿刺針移動手段4の載置部材42及び支持部材43と、皮膚変形手段3の支持台31及び皮膚接着部材33の構成材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ABS樹脂等の適当な強度を有する各種合成樹脂を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム合金等の金属を用いることもできる。
なお、穿刺針移動手段4としては、載置部材42上に、穿刺針とシリンジとを一体にした構成の注射具を固定保持するような構成としてもよい。この場合には、載置部材42が皮膚変形手段3に最も近づくように移動したときに、穿刺針411の針先411aが、皮膚変形手段3により隆起された皮膚に穿刺できるように、穿刺針411の長さを調整する。
また、本実施の形態では、穿刺針移動手段4に注射具41を設け、その注射具に穿刺針411を取り付ける構成としたが、これに限定されるものではなく、例えば、穿刺針411の針先411aと反対側に連通させるチューブを設け、そのチューブの他端を送液ポンプ等の注入器具に連通させる構成としてもよい。
次に、第2実施形態の穿刺器具1の使用方法(作用)について説明する。
まず、図7Aに示すように、穿刺器具1を体表面Fの所定の位置に載置する。このとき、粘着パッド2の下面である平面2aに設けられた粘着フィルムにより、穿刺器具1が体表面Fに接着固定される。
次に、図7Bに示すように、皮膚接着部材33を指で下方に押圧し、4つのコイルばね32を圧縮する。これにより、皮膚接着部材33の接着突部332が支持台31の開口部31a及び粘着パッド2の開口窓21aに挿通され、接着突部332の接着面332aが粘着フィルム34により体表面Fに接着される。なお、本発明の穿刺器具としては、コイルばね32を圧縮した状態で係止し、予め皮膚接着部材33を開口窓21aに挿通させる構成としてもよい。この場合、皮膚接着部材33は、穿刺器具1を体表面Fの所定の位置に接着固定する時に、同時に体表面に接着される。
次に、図7Cに示すように、皮膚接着部材33を押圧している指を離す。これにより、皮膚接着部材33が4つのコイルばね32のばね力によって付勢され、上方に移動する。
これと同時に、皮膚接着部材33の皮膚固定面としての接着面332aに接着された皮膚が上方へ引き上げられる。即ち、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、それぞれ上方へ引き上げられて、皮膚が体表面Fに対して垂直方向に隆起される。このとき、隆起された皮膚の真皮D等は、皮膚接着部材33の接着面332aと略平行な状態となっている。
すなわち、皮膚が変形して隆起することにより、高さ方向において、固定部である粘着パッド2の平面2aの位置と、皮膚固定面としての接着面332aの位置とが異なり、その間に段差部が形成され、その段差部に穿刺針411が穿刺される。
更に、4つのコイルばね32を所定の長さに設定しているため、皮膚接着部材33によって引き上げられた皮膚の真皮Dの高さと、穿刺針移動手段4の穿刺針411が設置された高さとが一致した状態となる。
次に、注射具41が固定保持されている載置部材41を、先端方向にスライドさせる。即ち、固定外筒412の底面と隆起させた皮膚の側面とを近接させて、穿刺針411の針先411aを、隆起させた皮膚の側面に近づける。
次に、フランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413を、固定外筒412と摺動させながら、先端方向へ移動させる。これにより、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aから穿刺部位(段差部)に挿入され、図8Aに示すように、穿刺針411の針先411aが、角質層SCを含む表皮Eをバイパスして、真皮Dに対して平行に穿刺される。
この状態から、さらにフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413と摺動させながら、ガスケット414を先端方向へ移動させる。これにより、図8Bに示すように、液室417に収納されている液体が、穿刺針411の針先411aを通じて、真皮Dへ注入される。
液体を真皮Dに注入した後、載置部材41を基端方向へ移動させて、穿刺針411を隆起させた皮膚から引き抜く。
さらに、プランジャ415を基端方向へ移動させて、穿刺針411を穿刺針孔412aから固定外筒412内に収納する。
次に、この状態で、注射器具41が固定保持されている載置部材42を、基端方向にスライドさせて、図8Cの状態とし、最後に、粘着パッド2及び皮膚接着部材33と体表面Fとの接着を解除して、穿刺器具1を体表面Fから剥離する。
<第3実施形態>
次に、本発明の穿刺器具の第3実施形態について説明する。
図9は、本発明の穿刺器具の第3の実施の形態を示す斜視図である。図10は、図9中のA−A線の断面図である。また、図11A,B及び図12A〜Cは、図9に示す穿刺器具の使用方法を説明するための図(断面図)である。なお、以下では、図10〜図12の右側を「基端」、左側を「先端」として説明する。
図9及び図10に示すように、本発明の穿刺器具の第3の実施の形態を示す穿刺器具1は、固定部である粘着パッド2と、皮膚を変形して隆起させる皮膚変形手段3と、穿刺針411を移動可能に保持する穿刺針移動手段4等を備えて構成されている。
粘着パッド2は、大きさの異なる2つの楕円形の板体を横方向に連続して形成したような、いわゆる翼状形状をなす板体とされている。
粘着パッド2の上面には、小さい楕円側に皮膚変形手段3が配置されており、大きい楕円側に穿刺針移動手段4が配置されている。このように、穿刺針移動手段4が配置される側の面積を大きく構成することで、体表面Fに対する安定性を増して、穿刺針移動手段4による穿刺針411の移動を安定した状態で行うことができる。
粘着パッド2の皮膚変形手段3に対応する位置には、皮膚変形手段3の後述する皮膚接着部材33aを体表面Fに接触させるための開口窓21が設けられている。
粘着パッド2の下面は、体表面Fに密着して粘着パッド2を固定するための平面2aとされている。この平面2aには、粘着手段が設けられており、粘着手段としては、平面2aに接着剤を層状に塗布してもよいし、両面テープの粘着フィルムを貼付するようにしてもよい。なお、ベース部材31bの下側に該当する位置の平面2aには、接着手段は設けられていない。これは、皮膚が隆起しやすいようにするためである。
図10に示すように、粘着パッド2の平面2aは、粘着剤により、体表面Fに固定されている。なお、体表面Fの下方には、角質層SC、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、層状に配列されている。
このような粘着パッド2の構成材料としては、例えば、軟質ポリウレタン等の軟質ポリマーが挙げられる。
皮膚変形手段3は、粘着パッド2の上面に固定されるベース部材31bと、このベース部材31bに移動可能に支持される磁石部材32aと、磁石部材32aの磁力により吸引されて移動する皮膚接着部材33a等を備えて構成されている。
皮膚変形手段3のベース部材31bは、略長方形の板体からなり、短辺の一方の側面が穿刺針移動手段4の後述する支持部材43に連続されている。図10等に示すように、ベース部材31bの穿刺針移動手段4側には、上下面を貫通する四角形の貫通穴311が設けられており、この貫通穴311は、粘着パッド2の開口窓21に対向されている。
貫通穴311の内面には、周方向に連続する段部311aが形成されている。この段部311aにより、貫通穴311は、下面側の開口部が上面側の開口部よりも小さく設定されている。
貫通穴311の段部311aの四隅には、皮膚接着部材33aの移動を案内するガイド部材の一具体例を示すガイドピン34aがそれぞれ固定されている。4つのガイドピン34aは、それぞれ上方に向かって略垂直に延在されており、これらガイドピン34aにより、皮膚接着部材33aがベース部材31bに対して略垂直な方向に案内される。
また、図9等に示すように、ベース部材31bの長辺の両側面には、ガイド溝312,312(図9において一方のみを示す)が設けられている。これらガイド溝312,312には、磁石部材32aの後述するスライドレール321c,321cがそれぞれ摺動可能に係合される。
磁石部材32aは、ベース部材31bにスライド移動可能に支持される移動台321と、この移動台321に取り付けられる磁石322とからから構成されている。
磁石部材32aの移動台321は、略四角形の板体からなる載置板321aと、この載置板321aの対向する2辺にそれぞれ連続して下方に延在される一対の側面板321b,321b等からなっている。
載置板321aの上面には、偏平の板体をなす磁石322が接着剤等の固着手段によって取り付けられている。この磁石322は、皮膚接着部材33aとの間に引き合う力が働くように配置されている。
このように、磁石322を載置板321の上面に取り付けることにより、磁石322によって皮膚接着部材33aを吸引した状態において、その磁石322に皮膚接着部材33aが直接密着することがなく、皮膚接着部材33aを吸引した状態と吸引しない状態との切り換えを容易に行うことができる。しかしながら、本発明の穿刺器具1としては、磁石に皮膚接着部材を吸引させて直接密着させる構成とすることもできるものである。
一対の側面板321b,321bの先端部には、それぞれスライドレール321c,321c(図9において一方のみを示す)が形成されている。そして、これらスライドレール321c,321cがベース部材31bのガイド溝312,312に摺動可能に係合されることにより、移動台321を有する磁石部材32aが、ベース部材31bにスライド移動可能に支持されている。即ち、移動台321のスライドレール321c,321cと、ベース部材31bのガイド溝312,312により、磁石部材32aを移動させる磁石部材移動手段が構成されている。
図9及び図10等に示すように、皮膚接着部材33aは、略四角形の板体をなす本体板331と、ベース部材31bの貫通穴311及び粘着パッド2の開口窓21に挿通される接着突部332とから構成されている。この皮膚接着部材33aは、弾性変形しない程度の適度な強度を有し、且つ、磁石322との間に引き合う力が働く磁性体から形成されている。このような皮膚接着部材33aの構成材料としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト等を挙げることができる。
皮膚接着部材33aの本体板331には、ベース部材31bに固定した各ガイドピン34aを貫通させるガイド孔331aが設けられている。これにより、皮膚接着部材33aは、4つガイドピン34aの延在する方向、即ち、ベース部材31bの平面に対して略垂直な方向に案内される。
皮膚接着部材33aの接着突部332は、本体板331の下面に連続して略垂直に突出しており、体表面Fに固定するための平面である皮膚固定面としての接着面332aを有している。この接着突部332の接着面332aには、粘着手段の一具体例を示す粘着フィルム35が取り付けられている。これにより、皮膚接着部材33aの接着面332aが体表面Fに接着される。粘着手段としては、例えば両面テープの粘着フィルム等が用いられる。
本実施の形態では、皮膚接着部材33aの移動を案内するガイドピン34aの数を4つに設定したが、これに限定されるものではなく、皮膚接着部材の形状等を考慮して、その皮膚接着部材の移動を安定して案内できるようにガイドピンの数を適宜設定することができるものである。
穿刺針移動手段4は、穿刺針411が取り付けられる注射具41と、注射具41を載置固定する載置部材42と、載置部材42を移動可能に支持する支持部材43とから構成される。
注射具41は、穿刺針411と、固定外筒412と、固定外筒412内で摺動し得る内部外筒413と、内部外筒413内で摺動し得るガスケット414と、ガスケット414を移動操作するプランジャ415とを備えている。
固定外筒412は、有底筒状の形状を有しており、接着剤等により、載置部材42上に載置固定されている。また、固定外筒412の底部の中央部付近には、穿刺針411の挿通を行うための穿刺針孔412aが形成されている。
内部外筒413は、有底筒状の形状を有している。また、底部の中央部付近には、穿刺針411が取り付けられている。
穿刺針411の針先411aは、固体外筒412に設けられた穿刺針孔412aから突出しないように設けられている。即ち、穿刺針411は、その針先411aが、穿刺針孔412aが設けられている固定外筒412の底面よりも内側かつ穿刺針孔412aの近傍に位置するように、固定外筒412に対して設置されている。
このように構成することにより、穿刺針411の針先411aが保護される。そのため、穿刺針411の針先411aに指等が触れたり、誤って穿刺針411を指等に刺したりしてしまうことを防止することができ、穿刺針4を清潔な状態に保つことができる。また、穿刺針411は、外部からの衝撃を直接受けることがなく、その衝撃により穿刺針411が変形することを防止することができる。
穿刺針411の外径は、穿刺器具1の用途等によっても若干異なるが、0.05〜2mm程度であるのが好ましく、特に0.1〜1.5mm程度であるのが好ましい。
穿刺針411の構成材料としては、例えば、ステレンス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金等の金属材料が挙げられる。また、穿刺針411は、例えば、塑性加工によって製造される。
内部外筒413は、プランジャ415の操作により、固定外筒412内を、内部外筒413の長手方向に摺動することができ、内部外筒413が摺動する際には、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aを通じて、固定外筒412から出し入れされる。
固定外筒412及び内部外筒413の構成材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンのような各種樹脂が挙げられる。なお、固定外筒412及び内部外筒413の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが望ましい。
内部外筒413内には、弾性材料で構成されたガスケット414が収納されている。
ガスケット414の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、スチレン系等の各種熱可塑性エストラマー、あるいはそれらの混合物等の弾性材料が挙げられる。
ガスケット414と内部外筒413とで囲まれる空間内には、液室417が形成されており、この液室417には、予め液体が液密に収納されている。
液体としては、例えば、注射用治療薬、あるいはホルモン、抗体医薬品、サイトカイン、ワクチンなどの高分子物質を用いた薬液が挙げられる。
ガスケット414には、ガスケット414を内部外筒413内で長手方向に移動操作するプランジャ415が連結されている。
プランジャ415の基端には、板状のフランジ416が一体的に形成されている。このフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作する。
載置部材42は、長方形の板体をなしており、長辺の両側面には、係合部421,421が設けられている。これら係合部421,421は、支持部材43の後述する係合凸部431,431に摺動可能に係合される。そして、載置部材42の上面部42aには、注射具41の固定外筒412が固定される。
支持部材43は、載置部材42よりも厚く設定された長方形の板体をなしており、先端側の端部が、ベース部材31bの短辺の一方の側面に連続されている。これにより、皮膚変形手段3と穿刺針移動手段4とが一体的に構成されている。支持部材43の下面部43bには、接着剤等の固着手段が取り付けられており、図10に示すように、粘着パッド2の上面に接着固定されている。
支持部材43の長辺の両側面には、係合凸部431,431が設けられている。そして、これら係合凸部431,431に載置部材42の係合部421,421が摺動可能に係合されることにより、載置部材42が支持部材43に移動可能に支持されている。
支持部材43の上面部43aは、粘着パッド2の平面及び皮膚接着部材33aの接着面332aに対して平行とされている。そのため、支持部材43の上面部43aに沿って移動される載置部材42は、粘着パッド2の平面及び皮膚接着部材33aの接着面332aに対して平行に移動される。また、注射具41に取り付けた穿刺針411の軸心線は、載置部材42の移動方向に一致されている。
穿刺針移動手段4の載置部材42及び支持部材43と、皮膚変形手段3のベース部材31b及び移動台321の構成材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ABS樹脂等の適当な強度を有する各種合成樹脂を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム合金等の金属を用いることもできる。
なお、穿刺針移動手段4としては、載置部材42上に、穿刺針とシリンジとを一体にした構成の注射具を固定保持するような構成としてもよい。この場合には、載置部材42が皮膚変形手段3に最も近づくように移動したときに、穿刺針411の針先411aが、皮膚変形手段3により隆起された皮膚に穿刺できるように、穿刺針411の長さを調整する。
また、本実施の形態では、穿刺針移動手段4に注射具41を設け、その注射具に穿刺針411を取り付ける構成としたが、これに限定されるものではなく、例えば、穿刺針411の針先411aと反対側に連通させるチューブを設け、そのチューブの他端を送液ポンプ等の注入器具に連通させる構成としてもよい。
次に、第3実施形態の穿刺器具1の使用方法(作用)について説明する。
まず、図11Aに示すように、予め磁石部材32aをベース部材31bの先端側に配置させた穿刺器具1を体表面Fの所定の位置に載置する。このとき、粘着パッド2の下面である平面2aに設けられた粘着フィルムにより、穿刺器具1が体表面Fに接着固定される。
次に、皮膚接着部材33aを下方に押圧し、皮膚接着部材33aの接着面332aを粘着フィルム35により体表面Fに接着させる。
続いて、図11Bに示すように、皮膚変形手段3の磁石部材32aをスライド移動させて、磁石部材32aの磁石322を皮膚接着部材33aに対向させる。これにより、皮膚接着部材33aは磁石322に吸引され、4つのガイドピン34aに案内されて上方に移動する。そして、移動台321の載置板321aに当接された状態で保持される。
これと同時に、皮膚接着部材33aの接着面332aに接着された皮膚が上方へ引き上げられる。即ち、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、それぞれ上方へ引き上げられて、皮膚が体表面Fに対して垂直方向に隆起される。このとき、隆起された皮膚の真皮D等は、皮膚接着部材33aの接着面332aと略平行な状態となっている。
すなわち、皮膚が変形して隆起することにより、高さ方向において、固定部である粘着パッド2の平面2aの位置と、皮膚固定面としての接着面332aの位置とが異なり、その間に段差部が形成され、その段差部に穿刺針411が穿刺される。
更に、体表面Fから移動台321の載置板321aまでの高さを所定の高さに設定しているため、皮膚接着部材33により引き上げられた皮膚の真皮Dの高さと、穿刺針移動手段4の穿刺針411が設置された高さとが一致した状態となっている。
次に、注射具41が固定保持されている載置部材42を、先端方向にスライドさせる。即ち、固定外筒412の底面と隆起させた皮膚の側面とを近接させて、穿刺針411の針先411aを、隆起させた皮膚の側面に近づける。
次に、フランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413を、固定外筒412と摺動させながら、先端方向へ移動させる。これにより、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aから穿刺部位(段差部)に挿入され、図12Aに示すように、穿刺針411の針先411aが、角質層SCを含む表皮Eをバイパスして、真皮Dに対して平行に穿刺される。
この状態から、さらにフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413と摺動させながら、ガスケット414を先端方向へ移動させる。これにより、図12Bに示すように、液室417に収納されている液体が、穿刺針411の針先411aを通じて、真皮Dへ注入される。
液体を真皮Dに注入した後、載置部材41を基端方向へ移動させて、穿刺針411を隆起させた皮膚から引き抜く。
さらに、プランジャ415を基端方向へ移動させて、穿刺針411を穿刺針孔412aから固定外筒412内に収納する。
次に、この状態で、注射具41が固定保持されている載置部材42を、基端側にスライドさせて、図12Cの状態とし、その後、磁石部材32aを先端側にスライド移動させて、隆起させた皮膚を元に戻す。そして、最後に、粘着パッド2及び皮膚接着部材33aと体表面Fとの接着を解除して、穿刺器具1を体表面Fから剥離する。
本実施の形態では、磁石部材32aをスライド移動させることにより、皮膚接着部材33aを吸引する状態と、吸引しない状態とを切り換える構成としたが、これに限定されるものではなく、例えば、皮膚接着部材33aに対向する位置に電磁石を配設して、通電操作することにより、皮膚接着部材33aを吸引する状態と、吸引しない状態とを切り換える構成としてもよい。
以上説明したように、本実施形態の穿刺器具によれば、例えば、真皮Dに穿刺する場合、皮膚変形手段によって皮膚を隆起させることにより、皮膚の真皮Dを穿刺針と同等の高さに引き上げることができると共に、その穿刺針の軸心線と真皮Dの層が延在される方向とを略平行にすることができる。その結果、穿刺針を真皮D内に確実に且つ深く挿入することができ、外部から衝撃等が加えられた場合であっても、薬剤注入中の穿刺針が真皮Dから簡単に抜けてしまうことを防止することができる。
更に、穿刺針を真皮D内に深く挿入することが可能なため、穿刺針の針先にある薬剤放出口から、表皮E及び体表面Fまでの距離を長くすることができ、薬剤放出口から真皮Dに注入された薬剤が、逆流して表皮Eに浸透したり、体表面Fの外部へ漏れてしまったりすることを防止することができる。従って、真皮Dに確実に薬剤を注入することができる。
また、皮膚変形手段と穿刺針移動手段とを連続させて一体的に構成したため、組立作業を行う際に、皮膚変形手段に対する穿刺針移動手段の位置調整等の作業を省くことができ、組立時の作業性を向上させることができる。更に、隆起される皮膚に対する穿刺針の位置を正確に設定することができ、穿刺針を真皮Dに確実に穿刺することができる。
本発明の穿刺器具は、これまでに述べてきた薬剤を単回注射する目的の他、カニューレを埋設するために用いることができる。この場合、穿刺針にカニューレを保持させ、穿刺後カニューレを残して穿刺針のみ抜き取ることによって皮内にカニューレを埋設する。埋設部に孔を有する中空のカニューレを埋設することにより、薬剤の連続投与や体液成分のサンプリング目的で用いることができる。また、埋設部分にセンサを有するカテーテルを埋設することによって、体内成分の測定を行うことも可能である。
<第4実施形態>
次に、本発明の穿刺器具の第4実施形態について説明する。
図13は、本発明の穿刺器具の第4実施形態を示す斜視図である。図14は、図13中のA−A線の断面図を示したものである。また、図15及び図16は、図13に示す穿刺器具の使用方法を説明するための図(断面図)である。なお、以下では、図14乃至図16の右側を「基端」、左側を「先端」として説明する。
図13に示す穿刺器具1は、固定部である粘着パッド2と、皮膚を変形して隆起させる皮膚変形手段3と、穿刺針411を移動可能に保持する穿刺針移動手段4とを備えている。
粘着パッド2は、全体に丸みがあり、その外周の一部に対向する凹部が形成されている形状、いわゆる翼状形状を有するように形成されている。
なお、粘着パッド2の翼状形状は、穿刺針移動手段4が載置される側の面積が、皮膚変形手段3が設けられる側の面積よりも大きくなるように形成されている。このように、穿刺針移動手段4が載置される側の粘着パッド2の面積を大きくすることで、体表面Fに対する安定性を増して、穿刺針移動手段4による穿刺針411の移動を安定した状態で行うことができる。
粘着パッド2には、皮膚変形手段3である箱型形状の本体部5xを体表面Fに載置させるための貫通孔21が形成されている。
図14に示すように、粘着パッド2の体表面F側には、体表面Fに密着して粘着パッド2を固定するための平面2aが形成されている。この平面2aには、粘着手段が設けられており、粘着手段としては、平面2aに接着剤を層状に塗布してもよいし、両面テープで構成された粘着フィルムを貼付するようにしてもよい。
接着剤によって、粘着パッド2の平面2aは、体表面Fに密着して固定されている。なお、体表面Fの下方には、角質層SC、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、層状に配列されている。
そして、後述するように、穿刺針移動手段4によって、穿刺針411が、粘着パッド2の平面2aに沿って先端方向へ移動し、皮膚変形手段3によって隆起された皮膚に穿刺する。
粘着パッド2は、例えば軟質ポリウレタン等の軟質ポリマーによって構成される。
皮膚変形手段3は、本体部5xと吸引手段6とから構成される。
本体部5xは、有底筒状の部材で構成され、基端に略正方形状の板を有する底面部5aと、この底面部5aに連接された複数の平面を有する周壁部5bとからなり、箱型の形状(ボックス形状)を有している。
底面部5aの体表面F側には、皮膚変形手段3により隆起された皮膚を固定する皮膚固定面5eが形成されている。
また、図14に示すように、本体部5xの体表面F側には、開口部52bが形成されて、体表面Fにむけて開放するように構成されている。この本体部5xは、開口部52bを皮膚(体表面F)に押し当てることにより、その内部に形成された空間51aが密閉(気密的に封止)される。
また、本体部5xの先端外周面には、フランジ部5dが形成されている。フランジ部5dを設けることにより、開口部52bを体表面Fに押し当てた際の空間51aの気密性をより向上させることができる。
底面部5aの外面(上面)には、中空部61を有する吸引手段としての弾性体6が固着(固定)されている。
弾性体6は、立方体形状を有しており、弾性変形可能な部材で構成されている。また、弾性体6の内部には、中空部61が形成されている。なお、弾性体6の形状は、本実施形態のように立方体形状に限られるものではない。
また、本体部5xの底面部5aの中央部には、貫通孔7が形成されている。これにより、貫通孔7を介して、弾性体6の中空部61と本体部5xの空間51aとが連通している。
また、底面部5aの内面(下面)には、皮膚粘着手段としての粘着フィルム8が設けられている。
粘着フィルム8は、周壁部5bの内面にも設けられている。この粘着フィルム8は、周壁部5bに形成された挿入孔5cを覆うように設けられているので、空間51aの気密性を向上させることができる。
弾性体6を収縮させた状態で、本体部5xの開口部52bを体表面Fに押し当て、弾性体6の収縮状態を解除することにより、空間51a内の空気を弾性体6の中空部61内に吸引し、空間51aを減圧することができる。
弾性体6の構成材料としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムのような各種ゴム材料や、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、フッ素ゴム系等の各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。
なお、吸引手段としては、例えば空間51aと連通させたチューブの端部にシリンジを固定し、シリンジの操作によって、空間51a内の空気を吸引するような構成としてもよい。
周壁部5bの平面のうち、穿刺針移動手段4と対向する平面50aには、貫通孔としての挿入孔5cが形成されている。これにより、挿入孔5cを介して、穿刺針移動手段4により移動される穿刺針411が、本体部5xの内部に挿入される。
穿刺針移動手段4は、穿刺針411を有する注射具41と、注射具41を載置固定する載置部材42と、載置部材42を移動可能に支持する支持部材43とから構成される。
注射具41は、穿刺針411と、固定外筒412と、固定外筒412内で摺動し得る内部外筒413と、内部外筒413内で摺動し得るガスケット414と、ガスケット414を移動操作するプランジャ415とを備えている。
固定外筒412は、有底筒状の形状を有しており、接着剤等により、載置部材42上に載置固定されている。また、固定外筒412の底部の中央部付近には、穿刺針411の挿通を行うための穿刺針孔412aが形成されている。
内部外筒413は、有底筒状の形状を有している。また、底部の中央部付近には、穿刺針411が接着固着されている。
穿刺針411の針先411aは、固体外筒412に設けられた穿刺針孔412aから突出しないように設けられている。すなわち、穿刺針411は、その針先411aが、穿刺針孔412aが設けられている固定外筒412の底面よりも内側かつ穿刺針孔412aの近傍に位置するように、固定外筒412に対して設置されている。
このように構成することにより、穿刺針411の針先411aを保護することができる。また、針先411aが見えにくくなるので、使用者の恐怖感を少なくすることができる。
穿刺針411の外径は、穿刺器具1の用途等によっても若干異なるが、0.05mm〜2.5mm程度であるのが好ましく、特に0.1mm〜1.5mm程度であるのが好ましい。
穿刺針411の構成材料としては、例えば、ステレンス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金等の金属材料が挙げられる。また、穿刺部材411は、例えば、塑性加工によって製造される。
内部外筒413は、プランジャ415の操作により、固定外筒412内を、内部外筒413の長手方向に摺動することができ、内部外筒413が摺動する際には、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aを通じて、固定外筒412から出し入れされる。
固定外筒412及び内部外筒413の構成材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンのような各種樹脂が挙げられる。なお、固定外筒412及び内部外筒413の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが望ましい。
内部外筒413内には、弾性材料で構成されたガスケット414が収納されている。
ガスケット414の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、スチレン系等の各種熱可塑性エストラマー、あるいはそれらの混合物等の弾性材料が挙げられる。
ガスケット414と内部外筒413とで囲まれる空間内には、液室417が形成されており、この液室417には、予め液体が液密に収納されている。
液体としては、例えば、注射用治療薬、あるいはホルモン、抗体医薬品、サイトカイン、ワクチンなどの高分子物質を用いた薬液が挙げられる。
ガスケット414には、ガスケット414を内部外筒413内で長手方向に移動操作するプランジャ415が連結されている。
プランジャ415の基端には、板状のフランジ416が一体的に形成されている。このフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作する。
載置部材42は、注射具41を載置するための上面部42aを有するように構成されている。上面部42aの長手方向端部には、移動可能に支持部材43と係合するためのコの字状の係合部421が、粘着パッド2に向けて突出形成されている。
支持部材43は、載置部材42と摺動可能に接触する上面部43aを有する矩形の板状体で構成されている。支持部材43の長手方向の端部には、載置部材42に形成されたコの字状の係合部421と合致するような係合凸部431が、粘着パッド2と水平の方向に突出形成されている。
支持部材43の上面部43aと反対側の平面には、粘着パッド2と接着固定するための下面部43bが形成されている。図14に示すように、支持部材43の下面部43bは、接着剤等により、粘着パッド2上に固定されている。
載置部材42及び支持部材43の構成材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のような各種樹脂が挙げられ、これらの樹脂を所定の形状を有する金型に流し込む成形加工等により、載置部材42及び支持部材43が製造される。
なお、穿刺針移動手段4としては、載置部材42上に、穿刺針とシリンジとを一体にした構成の注射具を固定保持するような構成としてもよい。この場合には、載置部材42が皮膚変形手段3に最も近づくように移動したときに、穿刺針411の針先411aが、皮膚変形手段3により隆起された皮膚に穿刺できるように、穿刺針411の長さを調整する。
次に、図15及び図16を用いて、本実施形態の穿刺器具1の使用方法(作用)について説明する。
まず、粘着パッド2を体表面Fの所定の位置に載置する。このとき、粘着パッド2の平面2aが、粘着パッド2の体表面F側に設けられた粘着フィルムにより、体表面Fに接着固定される。この状態で、本体部5xは、粘着パッド2に形成された貫通孔21に挿入されており、フランジ5dを体表面Fに接触固定することで、本体部5xが体表面Fに載置されている。
この際、図15Aに示すように、指等で把持して弾性体6を変形させて、弾性体6の中空部61内の空気を排出する。
次に、図15Bに示すように、弾性体6から指を離して、弾性体6の収縮状態を解除して、空間51a内の空気を、矢印に示すように貫通孔7を介して中空部61内に吸引する。
これにより、空間51aが減圧されて、開口部52bの内側の皮膚が空間51a内に隆起する。すなわち、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、それぞれ上方へ引き上げられて、皮膚が体表面Fと垂直方向に隆起される。
すなわち、高さ方向において、固定部である粘着パッド2の平面2aの位置と、本体部5xに形成された皮膚固定面5eの位置とが異なるので、その間に段差部が形成され、その段差部に穿刺針411が挿入され、隆起して変形した皮膚に穿刺される。
そして、空間51a内に隆起した皮膚は、底面部5a及び周壁部5bに設けられた粘着フィルム8に接触して、接着固定される。このとき、体表面Fの一部が底面部5aと平行になるように固定されるので、真皮Dの一部も底面部5aと平行になるように、本体部5x内に固定される。
次に、注射具41が固定保持されている載置部材42を、先端方向にスライドさせる。
次に、フランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413を、固定外筒412と摺動させながら、先端方向へ移動させる。これにより、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aから周壁部5bに設けられた挿入孔5cに挿入される。
このとき、穿刺針411は、底面部5aに設けられた皮膚固定面5eと平行な状態で穿刺されるので、図15Cに示すように、皮膚内において、穿刺針411は、真皮Dと平行な状態で穿刺される。
この状態から、さらにフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413と摺動させながら、ガスケット414を先端方向へ移動させる。これにより、図16Aに示すように、液室417に収納されている薬剤50が、穿刺針411の針先411aから、真皮Dへ注入される。
薬剤を真皮Dに注入した後、フランジ416を指等で引くことにより、プランジャ415を操作し、ガスケット414を基端方向へ移動させて、穿刺針411を、真皮Dから引き抜く。
さらに、プランジャ415を基端方向へ移動させて、図16Bに示すように、穿刺針411を穿刺針孔412aから固定外筒412内に収納する。
次に、穿刺針411を固定外筒412に収納した状態で、載置部材42を、基端方向にスライドさせて、図16Cの状態とする。
同時に、弾性体6を指等で押圧変形させて、中空部61内の空気を本体部5xの空間51aに送る。これにより、空間51aが加圧されて、空間51a内に隆起されていた皮膚が元の状態へ戻る。
このように、本実施形態の穿刺器具1によれば、本体部5xの開口部52bを体表面Fに押し当てた状態で、弾性体6により空間51a内の空気を吸引して空間51aを減圧する。これにより、真皮Dを含む皮膚を空間51a内に隆起させて、皮膚を底面2aに設けられた粘着フィルム8で固定した後、穿刺針411により真皮Dを穿刺することができる
。すなわち、皮膚を隆起させた状態で穿刺作業を行うので、穿刺針411を確実に皮膚(真皮D)に穿刺することができ、また、皮膚内の真皮Dに確実に薬剤を注入することができる。
また、穿刺針411を皮膚内の真皮Dと略平行な状態で穿刺するので、真皮D内における穿刺針411の挿入深さが長くなり、外部から衝撃等が加えられた場合であっても、薬剤注入中の穿刺針411が真皮Dから抜けてしまうことを防止できる。
また、表皮Eと真皮Dとの境目に形成された穿刺針411の挿入口から、針先411aにある薬剤放出口までの距離が長くなるので、一旦薬剤放出口から真皮Dに注入された薬剤が、逆流して挿入口から表皮Eへ漏れてしまうことを防止できる。
<第5実施形態>
次に、本発明の穿刺器具の第5実施形態について説明する。
図17は、本発明の穿刺器具の第5の実施の形態を示す斜視図である。図18は、図17中のA−A線の断面図を示したものである。
また、図19及び図20は、図17に示す穿刺器具の使用方法を説明するための図(断面図)である。
なお、以下では、図18乃至図20の右側を「基端」、左側を「先端」として説明する。
図17に示す穿刺器具1は、固定部である粘着パッド2と、皮膚を変形して隆起させる皮膚変形手段3と、穿刺針411を移動可能に保持する穿刺針移動手段4とを備えている。
粘着パッド2は、全体に丸みがあり、その外周の一部に対向する凹部が形成されている形状、いわゆる翼状形状を有するように形成されている。
なお、粘着パッド2の翼状形状は、穿刺針移動手段4が載置される側の面積が、皮膚変形手段3が設けられる側の面積よりも大きくなるように形成されている。このように、穿刺針移動手段4が載置される側の粘着パッド2の面積を大きくすることで、体表面Fに対する安定性を増して、穿刺針移動手段4による穿刺針411の移動を安定した状態で行うことができる。
粘着パッド2には、皮膚変形手段3を体表面Fに載置させるための貫通孔21が形成されている。
図18に示すように、粘着パッド2の体表面F側には、体表面Fに密着して粘着パッド2を固定するための平面2aが形成されている。この平面2aには、粘着手段が設けられており、粘着手段としては、平面2aに接着剤を層状に塗布してもよいし、両面テープで構成された粘着フィルムを貼付するようにしてもよい。
接着剤によって、粘着パッド2の平面2aは、体表面Fに密着して固定されている。なお、体表面Fの下方には、角質層SC、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、層状に配列されている。
そして、後述するように、穿刺針移動手段4によって、穿刺針411が、粘着パッド2の平面2aに沿って先端方向へ移動し、皮膚変形手段3によって隆起された皮膚に穿刺する。
このような粘着パッド2の構成材料としては、例えば、軟質ポリウレタン等の軟質ポリマーが挙げられる。
皮膚変形手段3は、平板状部材5yと、平板状部材5yに取り付けられた把手6aと、把手6aを移動可能に保持する外枠7xとを備えている。
平板状部材5yは、可撓性を有し、湾曲可能な略正方形状の平板で構成される。なお、本実施形態では、略正方形状のものを用いるが、例えば、矩形状のものを用いてもよい。
また、図18に示すように、平板状部材5yの体表面F側の面には、皮膚固定面5eが形成され、この皮膚固定面5eには、皮膚接着手段としての粘着フィルム8が設けられている。
粘着フィルム8は、少なくとも、平板状部材5yの把手6aが設けられている辺及び平板状部材5yの中心線5aに沿うようにして設けられている。なお、皮膚接着手段としては、平板状部材5に接着剤を層状に塗布してもよい。
このような平板状部材5yの構成材料としては、指等で変形可能であって弾性に富む材料であればよく、例えば、金属材料、各種樹脂が挙げられる。
把手6aは、L字形状の部材で構成されており、接着剤によって、平板状部材5yの側部に固着されている。
把手6aを固着する位置は、平板状部材5yが有する4辺のうち、穿刺針411の移動方向と平行な辺の中央部付近であり、2個の把手6aが互いに対称となるようにして、平板状部材5yに取り付けられる。
外枠7xは、立方体形状の部材で構成されており、4つの側面を有している。また、外枠7xには、体表面F側に向って開口51bが形成されている。
また、穿刺針411の移動方向と平行となる2つの側面72の体表面F側には、把手6aと係合するための係合孔(図示せず)が、それぞれ形成されている。
2個の把手6aが、外枠7xに対して移動可能となるように係合孔に係合されている。すなわち、外枠7xは、把手6aを移動可能に保持する構成となっている。
また、外枠7xの穿刺針移動手段4と対向する側面71には、挿通孔7aが形成されている。挿通孔7aは、半円形状を有するように形成されており、この挿通孔7aを介して、穿刺針移動手段4によって、穿刺針411が外枠7x内に挿入される。
穿刺針移動手段4は、穿刺針411を有する注射具41と、注射具41を載置固定する載置部材42と、載置部材42を移動可能に支持する支持部材43とから構成される。
注射具41は、穿刺針411と、固定外筒412と、固定外筒412内で摺動し得る内部外筒413と、内部外筒413内で摺動し得るガスケット414と、ガスケット414を移動操作するプランジャ415とを備えている。
固定外筒412は、有底筒状の形状を有しており、接着剤等により、載置部材42上に載置固定されている。また、固定外筒412の底部の中央部付近には、穿刺針411の挿通を行うための穿刺針孔412aが形成されている。
内部外筒413は、有底筒状の形状を有している。また、底部の中央部付近には、穿刺針411が接着固着されている。
穿刺針411の針先411aは、固体外筒412に設けられた穿刺針孔412aから突出しないように設けられている。すなわち、穿刺針411は、その針先411aが、穿刺針孔412aが設けられている固定外筒412の底面よりも内側かつ穿刺針孔412aの近傍に位置するように、固定外筒412に対して設置されている。
このように構成することにより、穿刺針411の針先411aを保護することができる。また、針先411aが見えにくくなるので、使用者の恐怖感を少なくすることができる。
穿刺針411の外径は、穿刺器具1の用途等によっても若干異なるが、0.05mm〜2.5mm程度であるのが好ましく、特に0.1mm〜1.5mm程度であるのが好ましい。
穿刺針411の構成材料としては、例えば、ステレンス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金等の金属材料が挙げられる。また、穿刺部材411は、例えば、塑性加工によって製造される。
内部外筒413は、プランジャ415の操作により、固定外筒412内を、内部外筒413の長手方向に摺動することができ、内部外筒413が摺動する際には、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aを通じて、固定外筒412から出し入れされる。
固定外筒412及び内部外筒413の構成材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンのような各種樹脂が挙げられる。なお、固定外筒412及び内部外筒413の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが望ましい。
内部外筒413内には、弾性材料で構成されたガスケット414が収納されている。
ガスケット414の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、スチレン系等の各種熱可塑性エストラマー、あるいはそれらの混合物等の弾性材料が挙げられる。
ガスケット414と内部外筒413とで囲まれる空間内には、液室417が形成されており、この液室417には、予め液体が液密に収納されている。
液体としては、例えば、注射用治療薬、ホルモン、抗体医薬品、サイトカイン、ワクチンなどの高分子物質を用いた薬液が挙げられる。
ガスケット414には、ガスケット414を内部外筒413内で長手方向に移動操作するプランジャ415が連結されている。
プランジャ415の基端には、板状のフランジ416が一体的に形成されている。このフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作する。
載置部材42は、注射具41を載置するための上面部42aを有するように構成されている。上面部42aの長手方向端部には、移動可能に支持部材43と係合するためのコの字状の係合部421が、粘着パッド2に向けて突出形成されている。
支持部材43は、載置部材42と摺動可能に接触する上面部43aを有する矩形の板状体で構成されている。支持部材43の長手方向の端部には、載置部材42に形成されたコの字状の係合部421と合致するような係合凸部431が、粘着パッド2と水平の方向に突出形成されている。
支持部材43の上面部43aと反対側の平面には、粘着パッド2と接着固定するための下面部43bが形成されている。図18に示すように、支持部材43の下面部43bは、接着剤等により、粘着パッド2上に固定されている。
載置部材42及び支持部材43の構成材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のような各種樹脂が挙げられ、これらの樹脂を所定の形状を有する金型に流し込む成形加工等により、載置部材42及び支持部材43が製造される。
なお、穿刺針移動手段4としては、載置部材42上に、穿刺針とシリンジとを一体にした構成の注射具を固定保持するような構成としてもよい。この場合には、載置部材42が皮膚変形手段3に最も近づくように移動したときに、穿刺針411の針先411aが、皮膚変形手段3により隆起された皮膚に穿刺できるように、穿刺針411の長さを調整する。
次に、図19乃至図20を用いて、本実施形態の穿刺器具1の使用方法(作用)について説明する。
まず、粘着パッド2を体表面Fの所定の位置に載置する。このとき、粘着パッド2の平面2aが、粘着パッド2の体表面F側に設けられた粘着フィルムにより、体表面Fに接着固定される。
また、粘着パッド2に形成された貫通孔21に嵌合し、粘着パッド2に固定されている外枠7xも、皮膚上に載置される。同時に、外枠7xに保持されている平面状部材5yと把手6aも皮膚上に載置される。
このとき、体表面Fに載置するために、穿刺器具1を軽く押さえれば、平板状部材5yは、皮膚の弾性によって、粘着フィルム8を介して、体表面Fに固定される。
また、図19Aに示すように、平面状部材5yは、わずかに上方へ湾曲するような状態で、皮膚に載置される。このように、あらかじめ平板状部材5をわずかに湾曲させておくことで、把手6aにより平面状部材5yを湾曲させる際に、容易に平板状部材5を上方へ湾曲させることができる。
また、穿刺針411の移動方向と平板状部材5yの中心線5aとが一致するように、皮膚変形手段3及び穿刺針移動手段4が、粘着パッド2上に配置されている。
つぎに、粘着パット2上に突出している把手6aを指等で把持して、外枠7xに近づくように移動させ、平板状部材5yに力を加える。これにより、平面状部材5yは、平板状部材5yの中心線5aに沿うようにして湾曲する。
このとき、両把手6aから加えられる力によって、粘着フィルム8によって平板状部材5yと接着固定している体表面Fには、平板状部材5yの中心線5a方向に押し出されるような力が加わる。
さらに、把手6aを外枠7xに近づけると、平板状部材5yはさらに湾曲する。また、同時に、図19Bに示すように、平板状部材5yと接着固定された部分に挟まれている体表面Fが、押し出されて上方へ隆起する。これにより、隆起した体表面Fが、平板状部材5yに設けられている粘着フィルム8に接触し、平板状部材5yに接着固定される。
すなわち、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、それぞれ上方へ引き上げられた状態で、皮膚が、平板状部材5yに固定される。
つまり、皮膚が変形して隆起することにより、高さ方向において、固定部である粘着パッド2の平面2aの位置と、平面状部材5yに設けられた皮膚固定面5eの位置とが異なり、その間に段差部が形成され、その段差部に穿刺針411が穿刺される。
このとき、隆起した体表面Fが、湾曲した平板状部材5yの中心線5aと平行になるように固定されるので、真皮Dの一部も中心線5aと平行になるような状態で固定される。
また、隆起された表皮E、真皮D,皮下組織Sは、それぞれ平面状部材5yの湾曲に沿うような状態で固定される。なお、外枠7xに移動可能に係合されている把手6aの移動距離は、隆起される皮膚の高さが一定となるように設定されている。
次に、注射具41が固定保持されている載置部材42を、先端方向にスライドさせる。
次に、フランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413を、固定外筒412と摺動させながら、先端方向へ移動させる。これにより、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aから外枠7xの側面71に設けられた挿通孔7aに挿入される。
このとき、注射具41の穿刺針411は、平面状部材5yの中心線5aと一致する状態で穿刺される。
また、図19Cに示すように、皮膚内において、穿刺針411は、皮膚固定面5eと平行となるように移動されて、段差部から隆起した真皮Dと平行になるような状態で穿刺される。
この状態から、さらにフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413と摺動させながら、ガスケット414を先端方向へ移動させる。これにより、図20Aに示すように、液室417に収納されている薬剤50が、穿刺針411の針先411aから、真皮Dへ注入される。
薬剤を真皮Dに注入した後、フランジ416を指等で引くことにより、プランジャ415を操作し、ガスケット414を基端方向へ移動させて、穿刺針411を、穿刺部位から引き抜く。
さらに、プランジャ415を基端方向へ移動させて、図20Bに示すように、穿刺針411を穿刺針孔412aから固定外筒412内に収納する。
次に、この状態で、注射器具41が固定保持されている載置部材42を、基端方向にスライドさせて、図20Cの状態とする。
このように、本実施形態の穿刺器具1によれば、把手6aにより、真皮Dを含む皮膚を隆起させて、皮膚を平面状部材5yに設けられた粘着フィルム8で固定した後、穿刺針411により穿刺することができる。すなわち、皮膚を隆起させた状態で穿刺作業を行うので、穿刺針411を確実に皮膚(真皮D)に穿刺することができ、また、皮膚内の真皮Dに確実に薬剤を注入することができる。
また、穿刺針411を皮膚内の真皮Dと略平行な状態となるように穿刺するので、真皮D内における穿刺針411の挿入深さが長くなり、外部から衝撃等が加えられた場合であっても、薬剤注入中の穿刺針411が真皮Dから抜けてしまうことを防止できる。
また、表皮Eと真皮Dとの境目に形成された穿刺針411の挿入口から、針先411aにある薬剤放出口までの距離が長くなるので、一旦薬剤放出口から真皮Dに注入された薬剤が、逆流して挿入口から表皮Eへ漏れてしまうことを防止できる。
なお、上記の実施形態では、1つの穿刺針411及び穿刺針移動手段4で説明したが、
穿刺針及び穿刺針移動手段を複数設けてもよい。この場合、湾曲させた平面状部材5yに対して平行になるように、複数の穿刺針を配置させることが好ましい。このように構成することにより、皮膚内における複数の穿刺針の挿入位置を、皮膚の深さ方向で一定の深さとすることができる。
また、上記の実施形態は、いずれも真皮に穿刺針を穿刺する例で説明したが、本発明の穿刺器具は、真皮の他に皮内や皮下組織、更には筋肉に穿刺する場合にも用いることができるものである。
また、本発明の穿刺器具は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、その他材料、構成等において本発明の構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。特に、外枠7xの形状、構造等は、同様の機能を発揮し得る任意のものとすることができる。
<第6実施形態>
次に、本発明の穿刺器具の第6実施形態について説明する。
図21〜図22は、本発明の第6の実施の形態を説明するものである。即ち、図21は本発明の穿刺器具の斜視図、図22は側面図、図23は分解斜視図、図24は穿刺針を拡大して示す拡大図、図25〜図28は図21に示す穿刺器具の使用方法を説明するための説明図である。
図21〜図23に示すように、穿刺器具11は、ベース部材12と、ベース部材12にスライド移動可能に支持されるスライド部材13と、このスライド部材13に取り付けられた穿刺針14と、ベース部材12を体表面Fに固定させるための粘着部材の一具体例を示す粘着フィルム15等を備えて構成されている。なお、ベース部材12が固定される体表面Fの下方には、角質層SC、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、層状に配列されている(図25等を参照)。
穿刺器具11のベース部材12は、位置決め部17と、固定部18と、位置決め部17に固定部18を回動可能に連結する一対のヒンジ部19,19等から構成されている。ベース部材12の位置決め部17は、略長方形の板体をなしており、短辺の一方の側面が一対のヒンジ部19,19を介して固定部18に連結されている。この位置決め部17の下面は、体表面Fに密着して位置決め部17を固定するための皮膚固定平面17aとされている。
また、位置決め部17の長辺の両側面には、ヒンジ部19側の端部から長手方向の中間部にかけて切欠き112,112が設けられており、これにより、第1のガイド手段の一具体例を示すガイドレール113,113が形成されている。これらガイドレール113,113には、スライド部材13の後述する係合溝134a,134aがそれぞれ係合される。また、各切欠き112,112のヒンジ部19と反対側の端部には、スライド部材13のスライド動作を係止するためのストッパ突部114,114(図21等において片方のみを示す)がそれぞれ設けられている。
ベース部材12の固定部18は、略長方形の板体からなり、短辺の長さが位置決め部17の短辺の長さと同等に設定された本体板116と、この本体板116の一辺に連続する係止片117等から構成されている。固定部18の本体板116の下面は、体表面Fに密着して固定部18を固定するための平面であり、当接面121とされている。本体板116の上面には、幅方向の略中央部に長手方向に沿って延びる第2のガイド手段の一具体例を示すスライドガイド溝122が形成されている。このスライドガイド溝122には、スライド部材13の後述する針保持部132が摺動可能に係合される。
穿刺針13を移動可能に保持する穿刺針移動手段は、スライド部材13と固定部18とにより構成される。また、皮膚を変形させる皮膚変形手段は、ベース部材12、位置決め部15及びヒンジ部19によって構成される。
更に、本体板116の一方の短辺には、スライドガイド溝122の両側から上方に突出する一対の連結部123,123が設けられている。一対の連結部123,123には、先端側に向かって順次小さくなるように傾斜された傾斜面123a,123aが形成されており、先端部が一対のヒンジ部19,19を介して位置決め部17の側面の下部に連結されている。これにより、本体板116の一対の連結部123,123の間には、スライド部材13に取り付けられた穿刺針14を貫通させるための貫通穴の一具体例を示す開口窓125が形成されている。そして、本体板116の一対の連結部123,123側の側面が、皮膚を隆起させるための押圧面124とされている。
固定部18の係止片117は、本体板116に連続して略垂直に突出する立上り部127と、この立上り部127から略垂直に展開されて本体板116に対向される鍔部128とからなっている。この係止片117の立上り部127には、スライド部材13の針保持部132が当接される。また、鍔部128の本体板116の上面と対向する面には、係止突部128aが設けられており、この係止突部128aには、針保持部132の後述する係止凹部138が係合される。
また、ベース部材12のヒンジ部19,19は、位置決め部17や固定部18よりも剛性が低く設定されている。これにより、固定部18は、位置決め部17に対して略垂直な状態(図22等に示す状態)から、位置決め部17に対して略平行な状態(図23等に示す状態)までの略90度の角度範囲内で回動可能とされている。
このようなベース部材12の材料としては、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)を挙げることができる。しかしながら、ベース部材12の材料は、ABSに限定されるものではなく、エンジニアリングプラスチックその他の合成樹脂を適用できることは勿論のこと、合成樹脂以外のアルミニウム合金等の金属を用いることもできる。
図22及び図23等に示すように、ベース部材12を体表面Fに接着固定させるための粘着フィルム15は、ベース部材12の位置決め部17の下面に貼り付けられている。この粘着フィルム15の幅方向の長さは、ベース部材12の幅方向の長さよりも長く設定されており、長手方向の長さは、位置決め部17の中途部からヒンジ部19,19を経て固定部18に形成された平面で構成される当接面121の中途部まで対応する長さに設定されている。そして、位置決め部17に対応しない部分はスカート状に広がっている。
なお、本発明に係る粘着フィルム15としては、上述したような形状に限定されるものではなく、幅方向の長さをベース部材12の幅方向の長さと同等に設定し、図22に示すように、位置決め部17の中途部からヒンジ部19,19を経て固定部18の当接面121の中途部に達する全面を、予めベース部材12に貼り付けてもよい。
粘着フィルムの材質としては、伸縮しないポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン等を挙げることができるが、これに限定されるもではなく、ポリウレタンその他この種の粘着フィルムとして使用される各種の材質を用いることができるものである。また、粘着フィルム15の厚みとしては、1ミクロン〜30ミクロン程度が好ましいが、30ミクロンよりも厚い粘着フィルムであっても適用できるものである。
穿刺針14を保持する保持手段の一具体例を示すスライド部材13は、図23等に示すように、略長方形の板体をなすスライド板131と、このスライド板131の一辺に連続する針保持部132等を備えて構成されている。スライド部材13のスライド板131には、長辺にそれぞれ連続して下方に突出する一対の側面片134,134が設けられており、これら側面片134,134の互いに対向される面には、係合溝134a,134aが形成されている。
一対の側面片134,134の各係合溝134a,134aは、ベース部材12の各ガイドレール113,113に摺動可能に係合される。また、一対の側面片134,134には、ベース部材12の各ストッパ突部114,114に対応した位置に、図示しないストッパ凹部がそれぞれ設けられており、これらストッパ凹部に各ストッパ突部114,114が係合されることにより、スライド部材13のスライド動作が係止される。
更に、スライド部材13のスライド板131には、一方の短辺に連続して上方に突出する操作突部136が設けられている。この操作突部136は、スライド部材13をスライド操作する際に、指を引っ掛けて操作し易くするために設けたものである。そして、スライド板131の操作突部136と反対側に、針保持部132が配置されている。
スライド部材13の針保持部132は、略四角形の中空の筐体をなしており、スライド板131の上面と同一面を形成する上面132aと、穿刺針14が取り付けられる正面132bと、正面132bと反対側の背面132cと、スライド板131の先端側から正面132bをみて右側の側面を形成する右側面132dと、図に表れない左側面と底面とから構成されている。そして、針保持部132の底面側がベース部材12のスライドガイド溝122に摺動可能に係合されることにより、スライド部材13がベース部材12にスライド移動可能に支持されている。
針保持部132の上面132aには、スライド板131の幅方向と平行な方向に延在された係止凹部138が設けられている。この係止凹部138に、ベース部材12の係止突部128aが係合されることにより、スライド部材13のスライド移動が係止される。即ち、針保持部132の上面132aに設けた係止凹部138と、固定部18の係止突部128aと、位置決め部17のストッパ突部114,114と、スライド板131の側面片134に設けた図示しない各ストッパ凹部により、保持手段であるスライド部材13の移動をロックするロック手段が構成されている。
針保持部132の正面132bに取り付けられた穿刺針14は、図24に示すように、中空針をなしており、その軸心が、スライド板131を側面片134,134に沿ってスライドさせる方向と一致するように配置されている。この穿刺針14の直径及び長さは、特に限定されるものではないが、直径としては0.1mm〜3mm程度が好ましく、長さとしては2mm〜20mm程度が好ましい。また、穿刺針14の材料としては、例えば、ステンレス鋼を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができるものである。穿刺針14の先端には、図24に示すように、刃面14aが形成されている。刃面14aは、スライド部材(保持手段)13の移動方向と水平に直交する方向を向いている。刃面14aが前記の方向を向いていることによって、穿刺針14を皮膚に進入させる際に、穿刺針14の刃先が皮膚の深さ方向に曲がっていかず、正確な位置に留置することができる。
更に、針保持部132の右側面132dには、チューブ139が取り付けられている。チューブ139の一端は、針保持部132の右側面132dに設けた貫通穴から内部に挿入されており、その内部において正面132bに取り付けた穿刺針14に連通されている。また、チューブ139の他端は、図示しないが、注射器や送液ポンプ等の注入器具に連通されている。
スライド部材13の材料としては、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)を挙げることができる。しかしながら、スライド部材13の材料は、ABSに限定されるものではなく、エンジニアリングプラスチックその他の合成樹脂を適用できるものである。
このような構成を有する穿刺器具11によれば、例えば、次のようにして皮膚の一部を構成する真皮Dに穿刺針14を穿刺して薬液等の液体を注入することができる。
皮膚を穿刺する前、即ち、使用前の穿刺器具11の状態は、図22に示すように、固定部18が位置決め部17に対して略垂直な状態とされている。この状態において、スライド部材13の針保持部132は、固定部18の係合片117に係合されている。このとき、針保持部132の背面132cが係合片117の立上り部127に当接されていると共に、針保持部132の係止凹部138が係合片117の係止突部128aに係合されているため、スライド部材13のスライド移動は係止されている。
このような穿刺器具11の固定部18を指で把持して位置決め部17と固定部18の押圧面124とを皮膚の最外郭である体表面Fに圧着し、粘着フィルム15によって接着固定する。このとき、スライド部材13に取り付けた穿刺針14は、スライド板131と固定部18の本体板116との間に位置しているため、穿刺器具11を把持する指が穿刺針14に触れたり、誤って穿刺針14を指に刺したりしてしまうことを防止することができ、穿刺針14を清潔な状態に保つことができる。
次に、図26に示すように、固定部18を略90度回動させて、位置決め部17に接着された皮膚を隆起させる。即ち、固定部18を略90度回動させて押圧面124を位置決め部17に対して直交した状態にすることにより、押圧面124に接着された皮膚を押圧し、位置決め部17に接着された皮膚を隆起させる。これにより、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、それぞれ上方へ引き上げられて、皮膚が体表面Fに対して垂直方向に隆起される。
これと同時に、固定部18の当接面121が、粘着フィルム15により体表面Fに接着固定される。これにより、皮膚が変形して隆起することにより、高さ方向において、固定部18に設けられた当接面121と、位置きめ部17に形成された皮膚固定面17aの位置とが異なり、位置決め部17に接着された皮膚と、固定部18の当接面121に接着又は密着した皮膚とに段差が形成される。そして、押圧面124の高さ及び穿刺針14の取付位置等を相対的に設定することで、位置決め部17に接着された皮膚の真皮Dの高さと穿刺針14の高さを一致させている。
続いて、図27に示すように、操作突部136に指を引っ掛けてスライド部材13を位置決め部17側に押圧する。これにより、針保持部132の係止凹部138が係合片17の係止突部128aから外れて、スライド部材13を位置決め部17側へスライドさせることができる。スライド部材13をスライドさせると、まず、スライド部材13の一対の側面片134,134に設けた各係合溝134a,134aが、位置決め部17の一対のガイドレール113,113に係合される。
このとき、スライド部材13は、針保持部132により固定部18のスライドガイド溝122に沿ってスライドされるため、位置決め部17の一対のガイドレール113,113にスライド部材13の各係合溝134a,134aを容易に係合させることができる。かくして、スライド部材13は、固定部18のスライドガイド溝122及び位置決め部17の一対のガイドレール113,113にガイドされて位置決め部17側にスライドされる。
その後、更にスライド部材13をスライドさせて、図28に示すように、保持部132の正面132bを位置決め部17に当接させる。これにより、穿刺針14は、当接面121と略平行に移動し、段差部に設けられた固定部18の開口窓125(図23を参照)を貫通すると共に、その開口窓125に対向する体表面Fから真皮Dに穿刺され、穿刺器具11による穿刺作業が終了する。
このとき、穿刺針14は、開口窓125に対向する体表面Fに対して略垂直に穿刺されるため、刃先の侵入方向が皮膚の深さ方向にずれることがなく、確実に真皮Dに穿刺することができる。更に、固定部18の開口窓125に対向する体表面Fにも、粘着フィルム15が貼り付けられているため、穿刺針14を穿刺する際に皮膚全体が弾性的に窪むことを防止又は抑制することができ、穿刺針14を皮膚に容易に穿刺することができる。
また、針保持部132の正面132bが位置決め部17に当接すると、スライド部材13の一対の側面片134,134に設けた図示しない各ストッパ凹部が、位置決め部17のストッパ突部114,114に係合される。そのため、スライド部材13の固定部18側へのスライド移動を係止することができる。更に、針保持部132の正面132bが位置決め部17に当接しているため、固定部18の跳ね上がりを防止することができる。これにより、穿刺器具11は、指を離しても、隆起させた皮膚の真皮Dに穿刺針14が穿刺された状態(図28に示す状態)を保持することができ、穿刺針14が不意に抜けてしまうことを防止することができる。
穿刺器具11による穿刺作業が終了すると、図示しない注射器や送液ポンプ等の注入器具から薬液等の液体がチューブ139に送られ、穿刺針14を介して真皮Dに注入される。その後、穿刺器具11を取り外すには、まず、操作突部136に指を引っ掛けてスライド部材13を固定部18側に押圧する。これにより、スライド部材13の各ストッパ凹部が位置決め部17のストッパ突部114,114から外れ、スライド部材13は、固定部18側へスライド移動可能となる。
次に、スライド部材13をスライドさせて、針保持部132の背面132cを係止片117の立上り部127に当接させる。これにより、穿刺針14が皮膚から引き抜かれる。このとき、針保持部132の係止凹部138が係合片117の係止突部128aに係合されるため、スライド部材13のスライド移動が係止される。
その後、ベース部材12を体表面Fから剥離し、穿刺器具11の取り外しが完了する。その際、位置決め部17の粘着フィルム15が取り付けられていない部分を摘まんで持ち上げると、簡単に剥離することができる。また、穿刺針14を保持するスライド部材13は、スライド移動が係止されているため、誤刺やその誤刺による感染等を防止することができる。
以上説明したように、本実施形態の穿刺器具によれば、例えば、真皮Dに穿刺する場合、位置決め部を体表面Fに接着固定した状態で固定部を回動させて皮膚を隆起させることにより、皮膚の真皮Dを穿刺針と同等の高さに持ち上げることができ、その穿刺針の軸心が延在される方向と真皮Dの層が延在される方向とを略平行にすることができる。
その結果、穿刺針の針先にある薬剤放出口から、表皮E及び体表面Fまでの距離を長くすることができ、薬剤放出口から真皮Dに注入された薬剤が、逆流して表皮Eに浸透したり、体表面Fの外部へ漏れてしまったりすることを防止することができる。従って、真皮Dに確実に薬剤を注入することができる。
なお、上記実施形態は、いずれも真皮に穿刺針を穿刺する例で説明したが、本発明の穿刺器具は、真皮の他に皮内や皮下組織、更には筋肉に穿刺する場合にも用いることができるものである。
なお、本発明における皮膚変形手段としては、上記実施形態のものに限らず、皮膚の所定部分を両方から押して、寄せ上げたり、皮膚の所定部分を引っ掛けて上げたりするものを挙げることができる。
また、本発明の穿刺器具は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、その他材料、構成等において本発明の構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。
以下、本発明の投与器具を実施するための形態について、図面を参照して説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
図21は、本発明の投与器具の第1実施形態を説明するための説明図である。図22は、図21に示す投与器具の一部を構成する穿刺器具の側面図である。図23は、穿刺器具の分解斜視図である。図24は、穿刺器具の穿刺針を拡大して示す拡大図である。図25〜図28は、穿刺器具の使用方法を説明するための説明図である。図29は、図21に示す穿刺器具の要部を拡大した説明図である。図30は、穿刺器具に係る粘着部材の取付位置のその他の例を示す説明図である。図31は、本発明の投与器具を用いてインスリンを真皮に投与した場合の血中濃度の測定結果を表すもので、血中濃度時間曲線を示す図である。
図21等に示すように、本発明の投与器具の第1の実施の形態を示す投与器具501は、穿刺器具11と、この穿刺器具11の1つの穿刺針14に連通された図示しない注入器具を備えて構成されている。
図21〜図23に示すように、穿刺器具11は、ベース部材12と、ベース部材12にスライド可能に支持されるスライド部材13と、このスライド部材13に取り付けられた1つの穿刺針14と、ベース部材12を体表面Fに固定させるための粘着部材の一具体例を示す粘着フィルム15等を備えて構成されている。なお、ベース部材12が固定される体表面Fの下方には、角質層SC、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、層状に配列されている(図25等を参照)。
穿刺器具11のベース部材12は、位置決め部17と、固定部18と、位置決め部17に固定部18を回動可能に連結する一対のヒンジ部19,19等から構成されている。ベース部材12の位置決め部17は、略長方形の板体をなしており、短辺の一方の側面が一対のヒンジ部19,19を介して固定部18に連結されている。この位置決め部17の下面は、位置決め部17を体表面Fに密着させて固定するための平面とされている。
また、位置決め部17の長辺の両側面には、ヒンジ部19側の端部から長手方向の中間部にかけて切欠き112,112が設けられており、これにより、第1のガイド手段の一具体例を示すガイドレール113,113が形成されている。これらガイドレール113,113には、スライド部材13の後述する係合溝134a,134aがそれぞれ係合される。また、各切欠き112,112のヒンジ部19と反対側の端部には、スライド部材13のスライド動作を係止するためのストッパ突部114,114(図21等において片方のみを示す)がそれぞれ設けられている。
図23に示すように、ベース部材12の固定部18は、略長方形の板体からなり、短辺の長さが位置決め部17の短辺の長さと同等に設定された本体板116と、この本体板116の一辺に連続する係止片117等から構成されている。本体板116の下面は、体表面Fに密着して固定部18を固定するための平面であり、当接面121とされている。本体板116の上面には、幅方向の略中央部に長手方向に沿って延びる第2のガイド手段の一具体例を示すスライドガイド溝122が形成されている。このスライドガイド溝122には、スライド部材13の後述する針保持部132が摺動可能に係合される。
更に、本体板116の一方の短辺には、スライドガイド溝122の両側から上方に突出する一対の連結部123,123が設けられている。一対の連結部123,123には、先端側に向かって順次高くなるように傾斜された傾斜面123a,123aが形成されており、それらの先端部が一対のヒンジ部19,19を介して位置決め部17の側面の下部に連結されている。これにより、本体板116の一対の連結部123,123の間には、スライド部材13に取り付けられた穿刺針14を貫通させるための貫通穴の一具体例を示す開口窓125が形成されている。そして、本体板116の一対の連結部123,123側の側面が、皮膚を隆起させるための押圧面124とされている。
固定部18の係止片117は、本体板116に連続して略垂直に突出する立上り部127と、この立上り部127から略垂直に展開されて本体板116に対向される鍔部128とからなっている。この係止片117の立上り部127には、スライド部材13の針保持部132が当接される。また、鍔部128の本体板116の上面と対向する面には、係止突部128aが設けられており、この係止突部128aには、針保持部132の後述する係止凹部138が係合される。
ベース部材12のヒンジ部19,19は、位置決め部17や固定部18よりも剛性が低く設定されている。これにより、固定部18は、位置決め部17に対して略垂直な状態(図22等に示す状態)から、位置決め部17に対して略平行な状態(図23等に示す状態)までの略90度の角度範囲内で回動可能とされている。
このようなベース部材12の材料としては、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)を挙げることができる。しかしながら、ベース部材12の材料は、ABSに限定されるものではなく、エンジニアリングプラスチックその他の合成樹脂を適用できることは勿論のこと、合成樹脂以外のアルミニウム合金等の金属を用いることもできる。
図22及び図23等に示すように、ベース部材12を体表面Fに接着固定させるための粘着フィルム15は、ベース部材12の位置決め部17の下面に貼り付けられている。この粘着フィルム15の幅方向の長さは、ベース部材12の幅方向の長さよりも長く設定されており、長手方向の長さは、位置決め部17の中途部からヒンジ部19,19を経て固定部18の当接面121の中途部まで対応する長さに設定されている。そして、位置決め部17に対応しない部分はスカート状に広がっている。
なお、本発明に係る粘着フィルムとしては、上述した粘着フィルム15の形状に限定されるものではない。例えば、図30に示すように、幅方向の長さがベース部材12の幅方向の長さと同等に設定された粘着フィルム15aを用いることもできる。そして、このような粘着フィルム15aは、その全面を予めベース部材12に貼り付けてもよい。その際、粘着フィルム15aは、位置決め部17の中途部からヒンジ部19,19を経て固定部18の当接面121の中途部に達するように貼り付けられる。
粘着フィルムの材質としては、伸縮しないポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン等を挙げることができるが、これに限定されるもではなく、ポリウレタンその他この種の粘着フィルムとして使用される各種の材質を用いることができるものである。また、粘着フィルム15の厚みとしては、1ミクロン〜30ミクロン程度が好ましいが、30ミクロンよりも厚い粘着フィルムであっても適用できるものである。
穿刺針14を保持する保持手段の一具体例を示すスライド部材13は、図23等に示すように、略長方形の板体をなすスライド板131と、このスライド板131の一辺に連続する針保持部132等を備えて構成されている。スライド部材13のスライド板131には、長辺にそれぞれ連続して下方に突出する一対の側面片134,134が設けられており、これら側面片134,134の互いに対向される面には、係合溝134a,134aがそれぞれ形成されている。
一対の側面片134,134の各係合溝134a,134aは、ベース部材12の各ガイドレール113,113に摺動可能に係合される。また、一対の側面片134,134には、ベース部材12の各ストッパ突部114,114に対応した位置に、図示しないストッパ凹部がそれぞれ設けられている。即ち、図示しない各ストッパ凹部がベース部材12の各ストッパ突部114,114に係合されることにより、スライド部材13のスライド動作が係止される。
更に、スライド部材13のスライド板131には、一方の短辺に連続して上方に突出する操作突部136が設けられている。この操作突部136は、スライド部材13をスライド操作する際に、指を引っ掛けて操作し易くするために設けたものである。そして、スライド板131の操作突部136と反対側に、針保持部132が配置されている。
スライド部材13の針保持部132は、略四角形の中空の筐体をなしており、スライド板131の上面と同一面を形成する上面132aと、穿刺針14が取り付けられる正面132bと、正面132bと反対側の背面132cと、スライド板131の先端側から正面132bをみて右側の側面を形成する右側面132dと、図に表れない左側面と底面とから構成されている。そして、針保持部132の底面側がベース部材12のスライドガイド溝122に摺動可能に係合されることにより、スライド部材13がベース部材12にスライド可能に支持されている。
針保持部132の上面132aには、スライド板131の幅方向と平行な方向に延在された係止凹部138が設けられている。この係止凹部138がベース部材12の係止突部128aに係合されることにより、スライド部材13のスライドが係止されるようになっている。即ち、針保持部132の係止凹部138と、固定部18の係止突部128aと、位置決め部17のストッパ突部114,114と、スライド板131の図示しない各ストッパ凹部により、スライド部材13の移動を係止するロック手段が構成されている。
針保持部132の正面132bに取り付けられた穿刺針14は、図24に示すように、中空針となっている。この穿刺針14は、その軸心が針保持部132の移動する方向に一致するように配置されている。穿刺針14の直径及び長さは、特に限定されるものではないが、直径としては0.1mm〜3mm程度が好ましく、長さとしては2mm〜20mm程度が好ましい。また、穿刺針14の材料としては、例えば、ステンレス鋼を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができるものである。
穿刺針14の先端には、図24に示すように、刃面14aが形成されている。刃面14aは、スライド部材13の移動方向と水平に直交する方向を向いている。このように、穿刺針14の刃面14aを前記の方向に向けることにより、穿刺針14を皮膚に進入させる際に、穿刺針14の刃先が皮膚の深さ方向に曲がっていかず、正確な位置に留置することができる。
更に、針保持部132の右側面132dには、チューブ139が取り付けられている。チューブ139の一端は、針保持部132の右側面132dに設けた貫通穴から内部に挿入されており、その内部において正面132bに取り付けた穿刺針14に連通されている。また、チューブ139の他端は、図示しない注入器具、例えば、注射器(シリンジ)や送液ポンプ等に連通されている。
スライド部材13の材料としては、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)を挙げることができる。しかしながら、スライド部材13の材料は、ABSに限定されるものではなく、エンジニアリングプラスチックその他の合成樹脂を適用できるものである。
このような構成を有する投与器具501によれば、例えば、次のようにして皮膚の一部を構成する真皮Dに穿刺針14を穿刺して薬液や免疫細胞等の物質を投与することができる。
図22に示すように、投与器具501の使用前(皮膚を穿刺する前)の穿刺器具11は、固定部18が位置決め部17に対して略垂直な状態とされている。この状態において、スライド部材13の針保持部132に設けた係止凹部138が係止片117の係止突部128aに係合されているため、スライド部材13のスライドは係止されている。
穿刺針14を真皮Dに穿刺するには、まず、図25に示すように、穿刺器具11の固定部18を指で把持して固定部18の押圧面124と位置決め部17とを皮膚の最外郭である体表面Fに圧着する。これにより、固定部18の押圧面124と位置決め部17が、粘着フィルム15によって体表面Fに接着固定される。このとき、スライド部材13に取り付けた穿刺針14は、スライド板131と固定部18の本体板116との間に位置している。そのため、穿刺器具11を把持する指が穿刺針14に触れたり、誤って穿刺針14を指に刺したりしてしまうことを防止することができ、穿刺針14を清潔な状態に保つことができる。
次に、図26に示すように、固定部18を略90度回動させて、位置決め部17に接着された皮膚を隆起させる。即ち、固定部18を略90度回動させて押圧面124を位置決め部17に対して直交した状態にすることにより、押圧面124に接着された皮膚を押圧し、位置決め部17に接着された皮膚を隆起させる。これにより、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、それぞれ上方へ引き上げられて、皮膚が体表面Fに対して垂直方向に隆起される。
これと同時に、固定部18の当接面121が、粘着フィルム15により体表面Fに接着固定される。これにより、位置決め部17に接着された皮膚と、固定部18の当接面121に接着又は密着した皮膚とに段差が形成される。このとき、押圧面124の高さと穿刺針14の取付位置が相対的に設定されているため、位置決め部17に接着された皮膚の真皮Dの高さと穿刺針14の高さが一致するようになっている。
本実施の形態では、図29に示すように、押圧面124の高さXを略3mmに設定すると共に、押圧面124の先端から穿刺針14の軸心までの高さ方向の距離Yを略1mmに設定している。これにより、位置決め部17に接着された体表面Fから幅0.06mm〜0.1mm程度の表皮の下に位置する幅1mm〜2mm程度の真皮Dと、穿刺針14との高さを一致させることができる。しかしながら、本発明に係る押圧面124の高さX、押圧面124の先端部から穿刺針14まで距離Yとしては、上述した値に限定されるものではなく、皮膚を隆起させた際の真皮Dの高さと穿刺針14との高さが一致するように、相対的に設定することができるものである。
続いて、図27に示すように、操作突部136に指を引っ掛けてスライド部材13を位置決め部17側に押圧する。これにより、針保持部132の係止凹部138が係止片117の係止突部128aから外れて、スライド部材13を位置決め部17側へスライドさせることができる。スライド部材13をスライドさせると、まず、スライド部材13の一対の側面片134,134に設けた各係合溝134a,134aが、位置決め部17の一対のガイドレール113,113に係合される。
このとき、スライド部材13は、針保持部132により固定部18のスライドガイド溝122に沿ってスライドされるため、位置決め部17の一対のガイドレール113,113にスライド部材13の各係合溝134a,134aを容易に係合させることができる。このようにして、スライド部材13は、固定部18のスライドガイド溝122及び位置決め部17の一対のガイドレール113,113にガイドされて位置決め部17側にスライドされる。
その後、更にスライド部材13をスライドさせて、図28に示すように、針保持部132の正面132bを位置決め部17に当接させる。穿刺針14は、スライド部材13をスライドすることによって、1〜15mm、好ましくは3〜10mmの距離を移動する。この際、穿刺針14は、固定部18の開口窓125(図23を参照)を貫通して開口窓125に対向する体表面Fから真皮Dに穿刺される。即ち、穿刺針14は、真皮の層に平行に進入させる部分を有する。これにより、穿刺器具11による穿刺作業が終了する。
このとき、穿刺針14は、開口窓125に対向する体表面Fに対して略垂直に穿刺されるため、刃先の侵入方向が皮膚の深さ方向にずれることがなく、確実に真皮Dに穿刺することができる。更に、固定部18の開口窓125に対向する体表面Fにも、粘着フィルム15が貼り付けられているため、穿刺針14を穿刺する際に皮膚全体が弾性的に窪むことを防止又は抑制することができ、穿刺針14を皮膚に容易に穿刺することができる。
また、針保持部132の正面132bが位置決め部17に当接すると、スライド部材13の一対の側面片134,134に設けた図示しない各ストッパ凹部が、位置決め部17のストッパ突部114,114に係合される。これにより、スライド部材13の固定部18側へのスライドを係止することができる。更に、針保持部132の正面132bが位置決め部17に当接しているため、固定部18の跳ね上がりを防止することができる。これにより、穿刺器具11は、指を離しても、隆起させた皮膚の真皮Dに穿刺針14が穿刺された状態(図28に示す状態)を保持することができ、穿刺針14が不意に抜けてしまうことを防止することができる。
穿刺器具11による穿刺作業が終了すると、次に、注射器(シリンジ)や送液ポンプ等の図示しない注入器具により、薬液、免疫細胞等の物質を送る。これにより、薬液、免疫細胞等の物質がチューブ139及び穿刺針14を介して真皮Dに注入される。その後、穿刺器具11を取り外すには、まず、操作突部136に指を引っ掛けてスライド部材13を固定部18側に押圧する。これにより、スライド部材13の各ストッパ凹部が位置決め部17のストッパ突部114,114から外れ、スライド部材13は、固定部18側へスライド可能となる。
次に、スライド部材13をスライドさせて、針保持部132の背面132cを係止片117の立上り部127に当接させる。これにより、穿刺針14が皮膚から引き抜かれる。このとき、針保持部132の係止凹部138が係止片117の係止突部128aに係合されるため、スライド部材13のスライドが係止される。
その後、ベース部材12を体表面Fから剥離し、穿刺器具11の取り外しが完了する。その際、位置決め部17の粘着フィルム15が取り付けられていない部分を摘まんで持ち上げると、簡単に剥離することができる。また、穿刺針14を保持するスライド部材13は、スライドが係止されているため、誤刺やその誤刺による感染等を防止することができる。
上述したような構成を有する投与器具501によって超速攻型インスリンを真皮に投与したときの血中動態と、従来用いられている器具(以下「従来器具」という)によって皮下に投与したときの血中動態とを比較する実験(実験1)を行った。
ここで実験1について説明する。実験1では、一日前から絶食させた複数のブタ(約10Kg)を投与対象とした。これらのブタに麻酔をうち、薬液投与部位を毛刈りした後、一方の群のブタには、投与器具501により真皮に、他方の群のブタには、従来器具により皮下にそれぞれ超速攻型インスリンを投与した。超速攻型インスリンとしては、ヒューマログ注100U/ml(Eli Lilly社製)を、投与量が0.5U/kg、投与容量
が約100μlになるように生理食塩水で希釈して使用した。
また、投与器具501の穿刺針14としては、33G針(外径0.2mm、テルモ株式会社製)を使用し、深さ0.5mmまで穿刺されるように設定した。そして、チューブ139に接合した注入器具の一具体例を示す1mlシリンジに超速攻型インスリンを充填し、手動により30秒間で投与した。従来器具の穿刺針としては、33Gインスリン皮下注射用注射針(針の長さ5mm、テルモ株式会社製)を使用した。そして、従来器具の穿刺針を皮膚に対して垂直に穿刺し、投与器具501と同様に超速攻型インスリンを30秒間で投与した。
上述したような超速攻型インスリンの真皮及び皮下への投与において、投与する前と、投与後5分、10分、15分、20分、30分、40分、50分、60分、90分、120分、240分にそれぞれ静脈から血液を採取した。そして、採取したそれぞれの血液の循環血液中のインスリン量を、化学発光アッセイ(バイエルメディカル株式会社製)によって測定した。その測定結果を図31及び表1に示す。
図31及び表1に示すように、インスリンを皮下に投与した場合、最高血中濃度到達時間(Tmax)は20分であり、最高血中濃度(Cmax)は65.7μU/mlであった。それに比べて、インスリンを真皮に投与した場合の最高血中濃度到達時間(Tmax)は10分であり、最高血中濃度(Cmax)は151.8μU/mlであった。これにより、インスリンの真皮への投与は、従来実施されている皮下への投与に比べて最高血中濃度到達時間(Tmax)が短く、最高血中濃度(Cmax)が高くなることが分かる。
また、皮下への投与の薬物血中濃度−時間曲線下面積(AUC)が117.9μU・h/mlであるのに対して、真皮への投与の場合は、132μU・h/mlであった。即ち、インスリンの真皮への投与は、皮下への投与に比べて体内への薬物総吸収量が多くなり、皮下投与に対する真皮投与の相対的生物学的利用率(BA)が12%向上した。以上のことから、インスリンは、皮下に投与するよりも真皮に投与した方が、効率良くなおかつ、迅速に吸収されて循環血液中に分配されることが分かる。
次に、投与液を真皮に投与する際に、どの程度の圧力まで漏れずに投与できるかを測定する実験(実験2)を行った。
ここで実験2について説明する。実験2では、実験1と同様に、一日前から絶食させたブタ(約10Kg)を投与対象とした。このブタに麻酔をうち、薬液投与部位を毛刈りした後、投与器具501を用いて穿刺針1本を皮膚の深さ0.5mmまで穿刺し、投与した液の圧力を測定した。投与器具501に設置する穿刺針としては、33G異径針(外経0.2mm、テルモ株式会社製)と、30G歯科用針(外経0.3mm、テルモ株式会社製)の2種類を用意し、それぞれを設置して測定を行った。また、投与液としては、生理食塩水を用いた。
投与器具501に設置した33G異径針及び30G歯科用針は、チューブを介してHPLCポンプ(LC−7A、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)と、圧力センサ(PA−860、日本電産コパル電子株式会社製)とに接続し、三方ジョイントを行った。そして、圧力センサから出力した電圧をPCデータ収集システム(NR−500・NR−TH08、株式会社キーエンス製)でモニターすることで圧力を解析した。投与条件を表2に示す。
表2に示すように、単位時間当たりの投与量は、一分間当たり100μl、1000μl、2000μlの3通りとし、それぞれ2回ずつ測定を行った。また、薬液投与部を背側顎部と臀部に設定して、背側顎部には、一分間当たり100μlの生理食塩水を投与し、背側顎部よりも組織の密度が高く投与条件が厳しい臀部には、一分間当たり1000μl及び2000μlの生理食塩水を投与した。投与液である生理食塩水の漏れは、肉眼で判断し、それぞれ漏れた時点で測定を終了した。その測定結果を表3〜表5に示す。
表3に示すように、投与器具501に30G歯科用針を設置して、流速100μl/minで生理食塩水を投与した場合には、最大圧力が18psiとなった。同様に、流速1000μl/minとしたときには、最大圧力が400psiとなり、流速2000μl/minとしたときには、最大圧力が455psiとなった。
また、表4に示すように、30G歯科用針を用いて流速100μl/minで生理食塩水を投与した場合には、生理食塩水を少なくとも20分間漏らさずに投与することができた。同様に、流速1000μl/minで生理食塩水を投与した場合には、2分10秒間漏らさずに投与することができた。そして、流速1000μl/minとした際、投与器具501(チューブとHPLCポンプの接続箇所)から生理食塩水が漏れる確率は0%であり、皮膚から漏れる確率は50%であった。
更に、流速2000μl/minで投与した場合には、生理食塩水を1分45秒間漏らさずに投与することができた。そして、流速2000μl/minとした際、投与器具501(チューブとHPLCポンプの接続箇所)から生理食塩水が漏れる確率は50%であり、皮膚から漏れる確率は100%であった。
また、表5に示すように、30G歯科用針を用いて流速100μl/minで生理食塩水を投与した場合には、投与量が2mlになった。同様に、流速1000μl/minとしたときは、生理食塩水の投与量が2.3mlとなり、流速2000μl/minとしたときは、3.5mlとなった。一方、33G異径針においても、表3〜表5に示すように、30G歯科用針と同様の傾向を示す実験結果を得ることができた。
以上説明したように、本発明の投与器具によれば、薬液や免疫細胞等の物質を経皮的に真皮へ100%漏れることなく投与(注入)することができ、これにより、所望の薬効又は効果を得ることができる。しかも、穿刺針を真皮の層に平行に進入させることにより、穿刺針の針先にある放出口から、表皮E及び体表面Fまでの距離を長くすることができ、投与する物質を表皮Eや体表面Fの外部へ漏れ難くすることができる。その結果、薬液や免疫細胞等の物質を比較的短時間で確実に真皮に投与することができる。
なお、上記実施形態は、いずれも真皮に薬液や免疫細胞等の物質を投与する例で説明したが、本発明の投与器具は、真皮の他に皮内や皮下組織、更には筋肉に物質を投与する場合にも用いることができるものである。
また、本発明の投与器具は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、その他材料、構成等において本発明の構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。
1・・穿刺器具、2・・粘着パッド、2a・・平面、21・・ヒンジ孔(貫通孔)、21a・・開口窓、22・・穿刺針孔、3・・皮膚変形手段、31・・支持台、31a・・開口部、31b・・ベース部材、311・・開口部、311a・・段部、312・・ガイド溝、32・・コイルばね、32a・・磁石部材、321・・移動台、321a・・載置板、321b・・側面板、321c・・スライドレール、322・・磁石、33・・皮膚接着部材、33a・・皮膚接着部材、331・・本体板、331a・・ガイド孔、332・・接着突部、332a・・接着面、34・・粘着フィルム、34a・・ガイドピン、35・・粘着フィルム、4・・穿刺針移動手段、41・・注射具、411・・穿刺針、411a・・針先、412・・固定外筒、412a・・穿刺針孔、413・・内部外筒、414・・ガスケット、415・・プランジャ、416・・フランジ、417・・液室、42・・載置部材、42a・・上面部、421・・係合部、43・・支持部材、43a・・上面部、43b・・下面部、431・・係合凸部、5・・ヒンジ、5x・・本体部、5y・・平板状部材、5a・・底面部、5a’・・曲面部、5b・・周壁部、5b’・・側面部、5c・・挿入孔、5d・・フランジ、5e・・皮膚固定面、50a・・平面、51a・・空間、52b・・開口部、51・・固定片、52・・回動片、52a・・皮膚固定面、53・・回動軸、54・・粘着フィルム、6・・くさびブロック(回動補助部材)、6・・弾性体(吸引手段)、61・・中空部、7・・貫通孔、8・・粘着フィルム、12・・ベース部材、13・・スライド部材(保持手段)、14・・穿刺針、14a・・刃面、15・・粘着フィルム(粘着部材)、17・・位置決め部、18・・固定部、19・・ヒンジ部、112・・切欠き、113・・ガイドレール(第1のガイド手段)、114・・ストッパ突部、116・・本体板、117・・係止片、121・・当接面、122・・スライドガイド溝(第2のガイド手段)、123・・連結部、123a・・傾斜面、124・・押圧面、125・・開口窓(貫通穴)、127・・立上り部、128・・鍔部、128a・・係止突部、131・・スライド板、132・・針保持部、134・・側面片、134a・・係合溝、136・・操作突部、138・・係止凹部、139・・チューブ、501・・投与器具、11・・穿刺器具、F・・体表面、SC・・角質層、E・・表皮、D・・真皮、S・・皮下組織、P・・穿刺部位(段差部)、X・・押圧面の高さ、Y・・押圧面の先端から穿刺針の軸心までの高さ方向の距離