JPWO2007049805A1 - 合成リポペプチドおよびその医薬用途 - Google Patents
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Abstract
現在有効な予防手段がないマイコプラズマ肺炎に対し、FAM−20およびFAM−5を代表とするマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)に由来する合成リポペプチド、当該リポペプチドを含有するトールライクレセプターの活性化剤、当該リポペプチドを含有する転写因子誘導剤、当該リポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有するワクチン組成物などを提供すると共に、当該合成リポペプチドを抗原として調製した抗体、当該抗体を含有するマイコプラズマ感染症の予防または治療剤、当該抗体を用いることを特徴とするマイコプラズマ・ニューモニエの検出方法、マイコプラズマ感染症の診断方法および治療方法などを提供する。
Description
本発明は、感染症予防に適用しうる新規な合成リポペプチド、それを含有してなるTLRのシグナル伝達の活性化剤およびそれを有効成分として含有してなるワクチン組成物などに関する。
マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)は、マイコプラズマ肺炎の起因菌である。この起因菌は、気管支上皮細胞に付着した後、サイトカインをはじめ、様々な宿主免疫応答を誘導するが、その機序は明らかになっていない。当該菌は、直径125〜153nm程度でウィルス程度の小さな病原体であるが、増殖するためにはウィルスとは異なり生きた細胞を必要とせず(偏性細胞外寄生菌)、また、一部の抗生物質が有効だったことから、細菌に分類されていた時期もあるが、最近では別の綱に分類されている。
マイコプラズマ属の菌は、細菌の特徴である細胞壁を持っていない。細菌感染症治療の第一選択として使われるβ−ラクタム系の抗生物質(ペニシリン系、セフェム系など)は細菌の細胞壁を障害して菌を殺す作用を持つが、細胞壁を持たないマイコプラズマには無効である。有効な抗生物質は、タンパク合成阻害剤のマクロライド系抗生剤やテトラサイクリン系抗生物質、またはDNA複製を抑制するニューキノロン系抗生物質である。
臨床の現場では、臨床症状から判断してマイコプラズマ感染症が疑われた場合、マクロライドなどのタンパク質合成阻害剤が処方されている。しかし、これらの抗生物質の多用による、抗生物質抵抗性のマイコプラズマ・ニューモニエの出現が報告されている。本症の治療において、早期診断・早期治療をすることが病状の遷延化や流行を防止するために必要とされるが、診断が確定するまでの日数がかかる場合が多い。近年、細菌性肺炎が激減した中で、肺炎全体に占めるマイコプラズマ肺炎の比率は高まっている。
一方、Akira,S.& Takeda,K.,“Toll−like receptor signalling”Nature Rev.Immunol.,Vol.4,pp.499−511(2004)に記載されているように、トールライクレセプター(Toll Like Receptor(TLR))と呼ばれる受容体ファミリーが細菌の様々な菌体成分を認識し、最終的に転写因子であるNF−κBを活性化することにより自然免疫を誘導することが報告されている。
本発明者らは、既にマイコプラズマ・ニューモニエ由来のF0F1型ATPアーゼのサブユニットbであるリポプロテイン(George Pyrowolakis et al,“The subunit b of F0F1−type ATPase of the Bacterium Mycoplasma pneumoniae is a lipoprotein”The Journal of Biological Chemistry,Vol.2673,No.38,Issue of September 18,pp.24792−24796(1998))が、TLR1、TLR2およびTLR6依存的に転写因子NF−κBを活性化させることを報告し(Takashi Shimizu,Yutaka Kida and Koichi Kuwano,“A Dipalmitoylated Lipoprotein from Mycoplasma pneumoniae Activates NF−κB through TLR1,TLR2,and TLR6”J.Immunology,175:4641−4646.(2005))、特許出願(特願2005−152068)を行った。
前記リポプロテインは、マイコプラズマ感染における宿主応答およびマイコプラズマ肺炎の発症機序の解明、ならびに、TLRを介してNF−κBが関与する転写誘導の研究の進展に寄与することができ、これを含有してなるワクチン組成物は従来有効な予防および改善手段が存在していなかったマイコプラズマ肺炎を予防し、またはその症状を軽減することを可能とすることが期待されている。
本発明の目的は、現在有効な予防手段がないマイコプラズマ肺炎に対し、さらに安全かつ有効なワクチンの開発に資する合成リポペプチドおよび当該合成リポペプチドを含有してなるワクチン組成物等を提供することにある。
マイコプラズマ属の菌は、細菌の特徴である細胞壁を持っていない。細菌感染症治療の第一選択として使われるβ−ラクタム系の抗生物質(ペニシリン系、セフェム系など)は細菌の細胞壁を障害して菌を殺す作用を持つが、細胞壁を持たないマイコプラズマには無効である。有効な抗生物質は、タンパク合成阻害剤のマクロライド系抗生剤やテトラサイクリン系抗生物質、またはDNA複製を抑制するニューキノロン系抗生物質である。
臨床の現場では、臨床症状から判断してマイコプラズマ感染症が疑われた場合、マクロライドなどのタンパク質合成阻害剤が処方されている。しかし、これらの抗生物質の多用による、抗生物質抵抗性のマイコプラズマ・ニューモニエの出現が報告されている。本症の治療において、早期診断・早期治療をすることが病状の遷延化や流行を防止するために必要とされるが、診断が確定するまでの日数がかかる場合が多い。近年、細菌性肺炎が激減した中で、肺炎全体に占めるマイコプラズマ肺炎の比率は高まっている。
一方、Akira,S.& Takeda,K.,“Toll−like receptor signalling”Nature Rev.Immunol.,Vol.4,pp.499−511(2004)に記載されているように、トールライクレセプター(Toll Like Receptor(TLR))と呼ばれる受容体ファミリーが細菌の様々な菌体成分を認識し、最終的に転写因子であるNF−κBを活性化することにより自然免疫を誘導することが報告されている。
本発明者らは、既にマイコプラズマ・ニューモニエ由来のF0F1型ATPアーゼのサブユニットbであるリポプロテイン(George Pyrowolakis et al,“The subunit b of F0F1−type ATPase of the Bacterium Mycoplasma pneumoniae is a lipoprotein”The Journal of Biological Chemistry,Vol.2673,No.38,Issue of September 18,pp.24792−24796(1998))が、TLR1、TLR2およびTLR6依存的に転写因子NF−κBを活性化させることを報告し(Takashi Shimizu,Yutaka Kida and Koichi Kuwano,“A Dipalmitoylated Lipoprotein from Mycoplasma pneumoniae Activates NF−κB through TLR1,TLR2,and TLR6”J.Immunology,175:4641−4646.(2005))、特許出願(特願2005−152068)を行った。
前記リポプロテインは、マイコプラズマ感染における宿主応答およびマイコプラズマ肺炎の発症機序の解明、ならびに、TLRを介してNF−κBが関与する転写誘導の研究の進展に寄与することができ、これを含有してなるワクチン組成物は従来有効な予防および改善手段が存在していなかったマイコプラズマ肺炎を予防し、またはその症状を軽減することを可能とすることが期待されている。
本発明の目的は、現在有効な予防手段がないマイコプラズマ肺炎に対し、さらに安全かつ有効なワクチンの開発に資する合成リポペプチドおよび当該合成リポペプチドを含有してなるワクチン組成物等を提供することにある。
本発明者らは、転写因子NF−κBを有効に活性化させる薬剤を継続して鋭意探索するために、前記したJ.Immunology,175:4641−4646.(2005)および特許出願(特願2005−152068)にて見出したマイコプラズマ・ニューモニエ菌体由来の分画成分であるF0F1型ATPアーゼのサブユニットb(リポプロテイン)の効果の最大化、最適化を図ることを目的として当該リポプロテインの一部を合成した。それにより得られたFAM−20またはFAM−5と称する化合物を含むリポペプチド類がもともとのリポプロテインと同等以上の活性を示すことを見出した。その結果、本発明者らは、当該新規リポペプチドがワクチン製剤としてマイコプラズマ肺炎に対し、安全かつ有効な予防または軽減薬となり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のものを提供する:
[1]下記式(1):
(式中、
R1COおよびR2COは、同一または異なってアシル基を示し、
R1およびR2は、水素または炭素数1から29までのアルキル基を示し、
Xは、下記アミノ酸残基:
Xaa Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn
からなるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、但し、Xにおける前記Xaaは、システイン中のSHを除くシステイン残基であり、Sは、該システイン中のSHに由来するものである)
で表されるリポペプチド。
[2]前記R1およびR2が、炭素数7から19までのアルキル基である、[1]記載のリポペプチド。
[3]前記R1COおよびR2COが、パルミトイル基である、[1]または[2]記載のリポペプチド。
[4][1]〜[3]のいずれか1項に記載のリポペプチドを含有する、トールライクレセプター(TLR)の活性化剤。
[5]前記TLRが、TLR1、TLR2およびTLR6からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[4]記載の活性化剤。
[6][1]〜[3]のいずれか1項に記載のリポペプチドを含有する、転写因子誘導剤。
[7]前記転写因子がNF−κBである、[6]記載の転写因子誘導剤。
[8][1]〜[3]のいずれか1項に記載のリポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有する、ワクチン組成物。
[9]アジュバントをさらに含有する、[8]記載の組成物。
[10][1]〜[3]のいずれか1項に記載のリポペプチドに対する抗体。
[11]前記抗体が、モノクローナル抗体である、[10]記載の抗体。
[12]前記抗体が、ヒト化抗体またはヒト抗体である、[10]記載の抗体。
[13][10]〜[12]のいずれか1項に記載の抗体を含有する、マイコプラズマ感染症の予防または治療剤。
[14]マイコプラズマ感染症の予防または治療剤を製造するための、[10]〜[12]のいずれか1項に記載の抗体の使用。
[15][10]〜[12]のいずれか1項に記載の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ・ニューモニエの検出方法。
[16][10]〜[12]のいずれか1項に記載の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ感染症の診断方法。
[17][10]〜[12]のいずれか1項に記載の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ感染症の予防または治療方法。
本発明は、以下のものを提供する:
[1]下記式(1):
(式中、
R1COおよびR2COは、同一または異なってアシル基を示し、
R1およびR2は、水素または炭素数1から29までのアルキル基を示し、
Xは、下記アミノ酸残基:
Xaa Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn
からなるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、但し、Xにおける前記Xaaは、システイン中のSHを除くシステイン残基であり、Sは、該システイン中のSHに由来するものである)
で表されるリポペプチド。
[2]前記R1およびR2が、炭素数7から19までのアルキル基である、[1]記載のリポペプチド。
[3]前記R1COおよびR2COが、パルミトイル基である、[1]または[2]記載のリポペプチド。
[4][1]〜[3]のいずれか1項に記載のリポペプチドを含有する、トールライクレセプター(TLR)の活性化剤。
[5]前記TLRが、TLR1、TLR2およびTLR6からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[4]記載の活性化剤。
[6][1]〜[3]のいずれか1項に記載のリポペプチドを含有する、転写因子誘導剤。
[7]前記転写因子がNF−κBである、[6]記載の転写因子誘導剤。
[8][1]〜[3]のいずれか1項に記載のリポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有する、ワクチン組成物。
[9]アジュバントをさらに含有する、[8]記載の組成物。
[10][1]〜[3]のいずれか1項に記載のリポペプチドに対する抗体。
[11]前記抗体が、モノクローナル抗体である、[10]記載の抗体。
[12]前記抗体が、ヒト化抗体またはヒト抗体である、[10]記載の抗体。
[13][10]〜[12]のいずれか1項に記載の抗体を含有する、マイコプラズマ感染症の予防または治療剤。
[14]マイコプラズマ感染症の予防または治療剤を製造するための、[10]〜[12]のいずれか1項に記載の抗体の使用。
[15][10]〜[12]のいずれか1項に記載の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ・ニューモニエの検出方法。
[16][10]〜[12]のいずれか1項に記載の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ感染症の診断方法。
[17][10]〜[12]のいずれか1項に記載の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ感染症の予防または治療方法。
図1は、合成リポペプチド(FAM−20)の構造を示す。構造式におけるペプチド鎖を構成する各記号は以下のアミノ酸の残基を意味する。C:システイン;E:グルタミン酸;F:フェニルアラニン;I:イソロイシン;K:リジン;L:ロイシン;N:アスパラギン;P:プロリン;S:セリン;T:トレオニン;V:バリン。
図2は、合成リポペプチド(FAM−20)によるNF−κB活性化がTLR2に依存することを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
図3は、合成リポペプチド(FAM−20)が濃度依存的にTLR2発現293T細胞を刺激して、NF−κB誘導能が増強されることを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。横軸はFAM−20(ng/ml)の添加濃度を示す。
図4は、合成リポペプチド(FAM−20)によるNF−κB活性化がTLR1および6に依存することを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
図5は、合成リポペプチド(FAM−5)の構造を示す。構造式におけるペプチド鎖を構成する各記号は以下のアミノ酸の残基を意味する。C:システイン;E:グルタミン酸;N:アスパラギン;T:トレオニン;V:バリン。
図6は、合成リポペプチド(FAM−5)が濃度依存的にTLR2発現293T細胞を刺激して、NF−κB誘導能が増強されることを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。横軸はFAM−5(ng/ml)の添加濃度を示す。
図7は、合成リポペプチド(FAM−5)によるNF−κB活性化がTLR1および6に依存することを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
図2は、合成リポペプチド(FAM−20)によるNF−κB活性化がTLR2に依存することを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
図3は、合成リポペプチド(FAM−20)が濃度依存的にTLR2発現293T細胞を刺激して、NF−κB誘導能が増強されることを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。横軸はFAM−20(ng/ml)の添加濃度を示す。
図4は、合成リポペプチド(FAM−20)によるNF−κB活性化がTLR1および6に依存することを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
図5は、合成リポペプチド(FAM−5)の構造を示す。構造式におけるペプチド鎖を構成する各記号は以下のアミノ酸の残基を意味する。C:システイン;E:グルタミン酸;N:アスパラギン;T:トレオニン;V:バリン。
図6は、合成リポペプチド(FAM−5)が濃度依存的にTLR2発現293T細胞を刺激して、NF−κB誘導能が増強されることを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。横軸はFAM−5(ng/ml)の添加濃度を示す。
図7は、合成リポペプチド(FAM−5)によるNF−κB活性化がTLR1および6に依存することを示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ相対活性を示す。
本発明において、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)とは、ヒトマイコプラズマ肺炎の起因菌であり、現在までに単離・同定された菌株ばかりでなく、現在未同定であってもマイコプラズマ肺炎の発症に関与する限り、これらすべての菌を包含するものである。当該マイコプラズマは、抗生物質耐性菌株であってもよい。
本発明のリポペプチドは、下記式:
(式中、
R1およびR2は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示し、
Xは、下記アミノ酸残基:
Xaa Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn
からなるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、但し、Xにおける前記Xaaは、システイン中のSHを除くシステイン残基であり、Sは、該システイン中のSHに由来するものである)
で表わされるものである。
前記式(1)において、R1およびR2は、同一または異なって、水素、炭素数1から29までのアルキル基であるが、当該アルキル基は不飽和結合(二重結合、三重結合)を任意の数有していてもよく、従って、炭素数2から29までのアルケニルまたはアルキニル基も本発明の炭素数2から29までのアルキル基に包含される。本発明においては、R1およびR2は、生体内で自然免疫を効率的に誘導するという観点から、飽和脂肪酸を構成する炭素数1から29までのアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数7から19までのアルキル基であり、具体的には、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルなどがあげられる。
式(1)中、R1COおよびR2COは、同一または異なるアシル基であり、好ましくは同一のアシル基である。具体的には、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、ベヘノイルなどが好適な例としてあげられる。中でも、マイコプラズマ・ニューモニエ菌体で見出されるリポプロテインの構成成分であるパルミトイル基が好ましい。
前記式(1)において、R1およびR2がエステル結合したプロピル部分は、下記Xで表わされるペプチドのN末端に位置するアミノ酸残基の側鎖に結合している。前記プロピル中の不斉中心は、R−配置、S−配置、またはRS配置のいずれであってもよい。
Xは、下記アミノ酸残基:
Xaa Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn(配列番号1)
からなるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、N末端のXaaは、システイン由来であり、システイン残基の側鎖に由来するSを介して、前記プロピル部分と結合している。あるいは、Xは、前記配列番号1のアミノ酸配列の一部を有するペプチド部分であってもよい。
本発明においては、アミノ酸はL体、D体およびDL体を包含するものであるが、通常、L体を用いる。
前記Xにおいて、N末端のシステイン由来Xaaを除く19アミノ酸残基:
Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn(配列番号2)
からなるアミノ酸配列において、1ないし数個(好ましくは1または2個)のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドも、式(1)のリポペプチドが自然免疫を誘導する限りにおいて本発明に含まれる。ここで、自然免疫の誘導は、後述するレポーターアッセイによりTLRの発現を介してNF−κBの発現の程度を指標に確認することができる。
1ないし数個のアミノ酸残基の置換としては、保存的アミノ酸置換があげられる。保存的アミノ酸置換とは、特定のアミノ酸を、そのアミノ酸の側鎖と同様の性質の側鎖を有するアミノ酸で置換することをいう。具体的には、保存的アミノ酸置換では、特定のアミノ酸は、そのアミノ酸と同じグループに属する他のアミノ酸により置換される。同様の性質の側鎖を有するアミノ酸のグループは、当該分野で公知である。例えば、このようなアミノ酸のグループとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)があげられる。また、中性側鎖を有するアミノ酸は、さらに、極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、および非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)に分類することもできる。また、他のグループとして、例えば、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、水酸基(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基)を含む側鎖を有するアミノ酸(例えば、セリン、トレオニン、チロシン)などもあげることができる。
1ないし数個のアミノ酸残基の欠失としては、配列番号2に示すアミノ酸配列の中から、任意のアミノ酸残基を選択して欠失させることができる。
Xが配列番号1のアミノ酸配列の一部を有するペプチド部分である場合、アミノ酸残基の欠失は、配列番号2に示すアミノ酸配列のC末端から連続して数個のアミノ酸残基の欠失であることが好ましく、3〜16個の欠失であることがより好ましい。好適な具体例として、配列番号2に示すアミノ酸配列のC末端から連続して15個のアミノ酸残基の欠失したアミノ酸配列:Thr Glu Asn Val(配列番号:3)を有し、R1COおよびR2COがパルミトイル基であるFAM−5があげられる(図5)。
1ないし数個のアミノ酸残基の付加としては、配列番号2に示すアミノ酸配列のC末端側に、例えば、Leu Leu Trp、またはLeu Trp Valからなるアミノ酸残基を付加させることができる。また、リポペプチドの水溶解性を増強するため、アミノ酸配列のC末端側に塩基性アミノ酸であるアルギニン(Arg)またはリジン(Lys)を1ないし2残基付加してもよい。
本発明の好ましいリポペプチドFAM−20は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチド(ここで、ペプチドは配列番号2からなるアミノ酸配列を有する)である。さらに別の好ましいリポペプチドFAM−5は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチド(ここで、ペプチドは配列番号3からなるアミノ酸配列を有する)である。
本発明の式(1)で表されるリポペプチドは、例えばMetzger,J.W.,K.−H.Wiesmuller,and G.Jung.Synthesis of N−Fmoc protected derivatives of S−(2,3−dihydroxypropyl)−cysteine and their application in peptide synthesis.Int.J.Pept.Protein.Res.38:545−554(1991)、および
Metzger,J.W.,A.G.Beck−Sickinger,M.Loleit,M.Eckert,W.G.Bessler,and G.Jung.Synthetic S−(2,3−dihydroxypropyl)−cysteinyl peptides derived from the N−terminus of the cytochrome subunit of the photoreaction centre of Rhodopseudomonas viridis enhance murine splenocyte proliferation.J.Pept.Sci.3:184−190(1995)に記載の方法またはこれに準ずる方法によって製造される。
本発明は、前記リポペプチドを含有するトールライクレセプター(TLR)の活性化剤を提供する。本発明において、トールライクレセプター(TLR)とは、微生物の侵入や感染を防御するため、先天性免疫(自然免疫ともいう)の誘導経路に介在する受容体ファミリーである。ヒトTLRファミリーは、TLR1〜11のメンバーから構成されている。
本発明の活性化剤は、TLRの中でもとりわけTLR1、TLR2およびTLR6を活性化させることがより好ましい。
TLR1、TLR2およびTLR6を活性化させる本発明のリポペプチドは、他のマイコプラズマ(マイコプラズマ・ファーメンタスおよびマイコプラズマ・サリバリウム)由来のリポプロテインまたはリポペプチドとは異なり、TLR2および6に加えて、TLR1も活性化するものである。TLRを介した自然免疫の誘導は、その後の免疫獲得にも重要な役割を担うことから、本発明により得られるTLR活性化剤は、マイコプラズマ肺炎の予防または症状軽減への開発応用が期待される。
本発明は、前記リポペプチドを含有する転写因子誘導剤を提供する。
本発明のリポペプチドは、TLRを介したシグナル伝達により、シグナルの下流に位置する転写因子を誘導する作用を有する。このような転写因子としては、TLRのシグナル経路に関与する因子であれば特に限定されるものではないが、NF−κBが好ましい。
本発明のリポペプチドを含有するTLR活性化剤および転写因子誘導剤の作用は、レポーターアッセイにより測定することができる。具体的には、TLRおよびドミナントネガティブTLRを、腎臓由来の細胞株でベクターの導入効率が高いという特徴をもつ293T細胞に発現(ドミナントネガティブ発現ベクターは、pFLAG−CMV1(Sigma)にTLR1およびTLR6のTIRドメインを欠損させたものを導入して作製することができる)させることにより確認することができる。
詳しくは、4x105個の293T細胞に0.1μgのレポーターベクター(転写因子NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたベクター等)をFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入し、すでにそれぞれTLR1とTLR2、およびTLR2とTLR6に依存的にNF−κBを誘導することが知られている(S)−[2,3−Bis(palmitoyloxy)−(2−RS)−propyl]−N−palmitoyl−(R)−Cys−(S)−Ser−(S)−Lys4−OH,3HCl(Pam3CSK4,CALBIOCHEM,Darmstadt,Germany)およびM.fermentans macrophage−activating lipopeptide 2(MALP−2,松本美佐子博士(大阪府立成人病センター)から分与。Nishiguchi,M.,M.Matsumoto,T.Takao,M.Hoshino,Y.Shimonishi,S.Tsuji,N.A.Begum,O.Takeuchi,S.Akira,K.Toyoshima,and T.Seya.2001.“Mycoplasma fermentans lipoprotein M161Ag−induced cell activation is mediated by Toll−like receptor 2:role of N−terminal hydrophobic portion in its multiple functions.”J Immunol 166:2610.)で刺激し、レポーターの発現量(例えば、ルシフェラーゼ活性)の上昇を測定することにより、TLR1およびTLR6の発現を確認することができる。
本発明の活性化剤または誘導剤、具体的にはリポペプチドFAM−20またはFAM−5等を含有する試料を、因子NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたレポーターベクター(たとえば、市販されているpNF−κB−luc(Sigma))を導入した細胞と接触させ、TLRの活性化を介したNF−κBの誘導能を、ルシフェラーゼ活性として測定することにより、当該剤の作用を確認することができる。一例として、4x105個のTHP−1(ヒト単球由来、ATCC:TIB−202)細胞に0.1μgのレポーターベクターpNF−κB−luc(Sigma)をFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入し、48時間後、前記試料を最終濃度0.5%になるように添加し、8時間経過後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)により測定する方法があげられる。
本発明は、前記リポペプチド(好ましくは、FAM−20またはFAM−5)および医薬として許容され得る担体を含有するワクチン組成物を提供する。
前記リポペプチドは、前記定義した通りである。当該リポプペプチドは1種のみを選択してもよいが、ワクチン組成物においては、2種以上のリポペプチドを適宜選択して含有するワクチン組成物が好ましい。さらには、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のF0F1型ATPアーゼのサブユニットbであるリポプロテインを含有していてもよい。抗原として多種類のリポペプチドを含有するワクチン組成物は、様々な接種対象者における獲得免疫を惹起させることが可能である。
前記医薬として許容され得る担体としては、ワクチンの製造に通常用いられる担体が限定なく使用することができる。具体的には、食塩水、緩衝化食塩水、デキストロース、水、グリセロール、等張水性緩衝液およびそれらの組合せがあげられる。担体は、好ましくは滅菌されたものである。また、これに乳化剤、保存剤(例、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤および不活化剤(例、ホルマリン)等が適宜配合される。
本発明の組成物は、ワクチンの投与様式に適合した形態を有することが好ましく、例えば、注射可能な形態として、溶液、懸濁液または乳化液があげられる。あるいは、液体溶液、懸濁液または乳化液に供せられる形態として、凍結乾燥製剤等の固体形態があげられる。
本発明の組成物は、製薬上許容可能で且つ活性成分と相溶性であるアジュバントをさらに含有することが好ましい。アジュバントは、一般には、宿主の免疫応答を非特異的に増強する物質であり、多数の種々のアジュバントが当技術分野で公知である。アジュバントの例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン、Quill A(登録商標)、リゾレシチン、サポニン誘導体、プルロニック ポリオール、モンタニドISA−50(Seppic,Paris,France)、Bayol(登録商標)およびMarkol(登録商標)。
ワクチン組成物は、前記リポペプチドを有効成分として、前記担体および好ましくはアジュバントとともに常法により製造することができる。当該リポペプチドは、ワクチン中に0.001〜99.9重量%含有されていればよい。
本発明のワクチン組成物は、様々な経路により接種することができる。投与経路としては、例えば、皮内、皮下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、静脈内、肺内(例えば、肺に直接注射投与する)および経口経路等があげられ、好ましくは、皮内、皮下、鼻腔内、筋肉内、経口経路があげられるが、これらに限定されない。
また、本発明は、本発明のワクチン組成物の1または2以上の成分を包含する1または2以上の容器からなるキットを提供する。
ワクチン組成物およびキットを用いて、マイコプラズマ肺炎を予防またはその症状を軽減することができる。本発明は、有効免疫感作量の本発明のワクチン組成物を対象に投与することを包含するマイコプラズマ肺炎の予防または軽減方法を提供する。
ワクチンの投与方法としては、前記接種方法に例示した通りである。投与量は、対象の年齢、性別、体重、薬物への忍容性等を考慮して決められるが、通常0.001mg〜100mgを1回または2回以上投与することができる。好ましくは複数回の投与であり、この場合、2〜4週間の間隔をあけて投与することが好ましい。
また、前記リポペプチド(好ましくは、FAM−20またはFAM−5)は、ワクチンの有効成分としての利用の他に、当該リポペプチドそれ自体が炎症を誘導する作用を有することから、アジュバントとしての利用が可能である。本発明は、前記リポペプチド(好ましくは、FAM−20またはFAM−5)を含有する新規アジュバントを提供する。
また本発明は、前記リポペプチドに対する抗体を提供する。
本明細書において、「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等の天然型抗体、トランスジェニックマウスや遺伝子組換え技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体および一本鎖抗体、ヒト抗体産生遺伝子を導入したマウスやファージディスプレイなどによって作製したヒト抗体ならびにこれらの断片などが含まれる。本発明の抗体は前記リポペプチドに結合する限り特に限定されないが、マイコプラズマ・ニューモニエに対する特異性の点からモノクローナル抗体であることが好ましい。あるいはヒトへの臨床応用の点から、本発明の抗体はヒト化抗体またはヒト抗体であることが好ましい。
上記抗体断片とは、前述した抗体の一部分の領域を意味し、具体的には、例えばF(ab’)2、Fab’、Fab、Fc領域を含む抗体断片、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilised Fv)、dAb(single domain antibody)等が挙げられる(Exp.Opin.Ther.Patents,Vol.6,No.5,p.441−456,1996)。
上記ヒト化抗体とは、抗原認識部位のみヒト以外の遺伝子を由来とし、かつ残りの部位をヒト遺伝子由来として、遺伝子組換え技術を用いて製造された抗体のことをいう。また上記ヒト抗体とは、ヒト抗体産生遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(例、TransChromo Mouse(商標))が産生するヒト抗体や、ヒトのBリンパ球のmRNAやゲノム由来のVH遺伝子とVL遺伝子とをランダムに組み合わせて構築したライブラリーから、ファージディスプレイ法などのディスプレイ技術によって抗体可変領域を発現させたヒト抗体ライブラリーを基に作製した抗体のことをいう。
また抗体のクラスも特に限定されず、本発明の抗体は、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくはIgGまたはIgMであり、抗体の精製の容易性等を考慮すると、より好ましくはIgGである。
次に、抗体の製造方法について説明する。
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、自体公知の方法によって製造することができる。すなわち、例えば免疫原(本発明のリポペプチド)を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund’s Adjuvant)と共に、哺乳動物、例えばポリクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマまたはウシなど、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギに免疫する。モノクローナル抗体の場合は、同様の方法で、マウス、ラット、ハムスターなどに免疫する。
本発明のリポペプチドは、そのまま免疫原として用いることも可能であるが、分子量1万以上の高分子化合物との複合体として免疫することが望ましい。従って、本発明のリポペプチドは、免疫原として使用するとき、自体公知の方法により高分子化合物(例、タンパク質(以下、キャリアタンパク質と記載する場合がある)など)との複合体としてもよい。例えば、配列番号1のアミノ酸配列を含む本発明のリポペプチドを上記記載の方法に従って合成し、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、チログロブリン(TG)、免疫グロブリン等のキャリアタンパク質との複合体を形成させる。当該複合体は、その後好ましい免疫原として用いることができる。
前記リポペプチドとキャリアタンパク質との複合体を形成させるなどの目的で、該リポペプチドには1個または数個のアミノ酸を付加してもよい。付加されるアミノ酸の数は特に限られないものの、製造される抗体の特異性を考慮すると、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜2個、最も好ましくは1個である。付加されるアミノ酸の位置はリポペプチドのいずれの位置でもよく、特に限定されないが、ペプチド部分のC末端が好ましい。
複合体の形成においては、リポペプチドの抗原性を維持することができる限り、限定なく公知の方法を適用することができる。例えば、混合酸無水物法または活性エステル法等により前記リポペプチドに含まれうるカルボキシル基と前記高分子化合物の官能基とを反応させて、複合体を形成することができる。あるいは前記リポペプチドにシステイン残基を導入し、当該システインの側鎖であるSH基を介して前記高分子化合物のアミノ基と結合させることもできる(MBS法)。また、タンパク質のリジン残基のεアミノ基や、αアミノ基などのアミノ基同士を結合させることもできる(グルタルアルデヒド法)。
ポリクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。すなわち、免疫原をマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギ、好ましくはヤギ、ウマまたはウサギ、より好ましくはウサギの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1〜数回注射することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜5回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から血清を取得する。
血清そのものをポリクローナル抗体として用いることも可能であるが、好ましくは、限外ろ過、硫安分画、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムもしくはプロテインA/Gカラム、免疫原を架橋させたカラム等を用いたアフィニティカラムクロマトグラフィーにより、該抗体を単離および/または精製する。
モノクローナル抗体の製造方法としては、例えば下記の方法が挙げられる。まず上記免疫感作動物から得た該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化する。すなわち、ハイブリドーマの培養上清を検体として、免疫学的手法により、哺乳動物の免疫に用いた本発明のリポペプチドに対する特異的親和性を示しかつキャリアタンパク質と交差反応性を示さないモノクローナル抗体を産生するクローンを選択する。次いで、当該ハイブリドーマの培養上清などから、自体公知の方法によって抗体を製造することができる。
具体的には、下記のようにしてモノクローナル抗体を製造することができる。すなわち、免疫原を、マウス、ラットまたはハムスター(ヒト抗体産生トランスジェニックマウスのような他の動物由来の抗体を産生するように作出されたトランスジェニック動物を含む)の皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内もしくは腹腔内に1〜数回注射するか、または移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜4回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物の脾臓などから抗体産生細胞を取得する。
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ(融合細胞)の調製は、ケーラーおよびミルシュタインらの方法(Nature,Vol.256,p.495−497,1975)ならびにそれらに準じる修飾方法に従って行うことができる。すなわち、前述の如く免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄または扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合により、ハイブリドーマを得る。
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63−AG8.653(653;ATCC No.CRL1580)、P3/NSI/1−Ag4−1(NS−1)、P3/X63−Ag8.U1(P3U1)、SP2/0−Ag14(Sp2/0、Sp2)、PAI、F0またはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3−Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU−266AR1、GM1500−6TG−A1−2、UC729−6、CEM−AGR、D1R11またはCEM−T15が挙げられる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングは、得られたハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート内で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の、前述の免疫感作で用いた本発明のリポペプチドに対する反応性および前記上清のキャリアタンパク質に対する反応性を、例えばELISA等の免疫測定法によって測定し、比較することによって行うことができる。
スクリーニングによりクローン化されたハイブリドーマは、培地(例えば、10%牛胎仔血清を含むDMEM)を用いて培養される。そして、その培養液の遠心上清をモノクローナル抗体溶液とすることができる。また、該ハイブリドーマを、該ハイブリドーマに由来する動物の腹腔に注入することにより、動物に腹水を生成させ、該動物から得られた腹水をモノクローナル抗体溶液とすることができる。モノクローナル抗体は、上述のポリクローナル抗体と同様の方法で、単離および/または精製されることが好ましい。
また、キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号),Vol.6,No.10,1988」、特公平3−73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4−506458号公報、特開昭62−296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics,Vol.15,p.146−156,1997」、「Nature Genetics,Vol.7,p.13−21,1994」、特表平4−504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature,Vol.368,p.856−859,1994」、特表平6−500233号公報等を参考にそれぞれ製造することができる。
ファージディスプレイによる抗体作製は、例えばヒト抗体スクリーニング用に作製されたファージライブラリーから、バイオパニングにより抗原に親和性を有するファージを回収、濃縮することにより行うことができ、これによりFab等の抗体等を容易に得ることができる。この場合、配列番号1のアミノ酸配列から選ばれる連続する少なくとも5アミノ酸を有するペプチド(好ましくは、FAM20またはFAM5で表されるペプチド)を抗原として用いて、抗体ライブラリーをスクリーニングすることが好ましい。好ましい抗体ライブラリーおよび抗体のスクリーニング方法については、「Science,228:4075 p.1315−1317(1985)」、「Nature,348:p.552−554(1990)」、「Curr.Protein Pept.Sci.,Sep;1(2):155−169(2000)」、国際公開第01/062907号パンフレットなどを参照のこと。これにより得られた抗体断片を用いたり、ファージが有するDNAを利用して抗体を調製することができる。
次に、上記抗体を含有する、マイコプラズマ感染症の予防または治療剤について説明する。
本発明のリポペプチドは、マイコプラズマ感染症の原因菌であるマイコプラズマ・ニューモニエを構成するリポプロテインを最適化したものである。従って本発明のリポペプチドに対する抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエの成分を認識しうるので、生体の獲得免疫機構、例えば:
(1)NK細胞やマクロファージなどの免疫細胞による捕食(オプソニン作用)、
(2)補体の活性化(エフェクター作用)、
(3)菌などの中和作用、
(4)抗体依存性細胞障害活性(ADCC活性)
などの作用により、当該菌を排除する効果が期待される。
本発明は、かかる抗体を有効成分として含有する、マイコプラズマ感染症の予防または治療剤を提供する。
本発明において「マイコプラズマ感染症の予防または治療」とは、マイコプラズマ・ニューモニエの感染により発症する肺炎(マイコプラズマ肺炎(非定型肺炎という場合がある))だけでなく、咽頭炎、気管支炎、中耳炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群などの合併症の予防または治療をも含む。これらの症状は、生体内からマイコプラズマ・ニューモニエを排除することで改善することができる。
本発明の予防または治療剤が含有する抗体は、前記したとおりである。
本発明の予防または治療剤中に含まれる前記抗体の配合量は、上記効果を奏する限りにおいて特に限定されるものではないが、通常、本発明の剤全体の0.001〜90重量%であり、好ましくは0.005〜50重量%であり、より好ましくは0.01〜10重量%である。
本発明の予防または治療剤は、有効成分である前記抗体以外に医薬的に許容される担体を含有していてもよい。かかる担体としては、製剤分野において通常用いられる担体を使用することができ、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、グリセリン、ポリエチレングリコール等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されない。従って、本発明の予防または治療剤は、マイコプラズマ感染症の予防または治療用医薬組成物でもある。
本発明の予防または治療剤の投与剤形としては、例えば液剤、注射製剤などが挙げられるが、それらに限定されない。また本発明の予防または治療剤は、その剤形が速放性製剤または徐放性製剤などの放出制御製剤であってもよい。抗体は一般に水性溶媒に可溶であるため、上記いずれの剤形を採っても容易に吸収される。さらに自体公知の方法により抗体の溶解性を上昇させることも可能である。
上記予防または治療剤の製造方法について説明する。
マイコプラズマ感染症の予防または治療のために用いることができる本発明の予防または治療剤は、製剤製法として自体公知である手段に従って、上記抗体を有効成分として使用することで製造することができる。
例えば、全身投与に好適な予防または治療剤は、水性または非水性の等張な無菌の注射液に有効量の本発明の抗体を溶解させて製造(例、注射製剤)することができる。本発明の抗体を凍結乾燥させ(例、凍結乾燥製剤)これを水性または非水性の等張な無菌の希釈液に溶解させることで使用してもよい。また、局所投与に好適な予防または治療剤は、水または生理食塩水のような希釈液に本発明の抗体を溶解させて製造することができる(例、液剤)。液剤は、噴霧器を用いた気管支や肺などへの吸入療法によって使用することも可能である。なお、これらの剤には抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。これらの予防または治療剤は、アンプル及びバイアルのように、単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。
本発明の予防または治療剤の投与量は、有効成分として含有する抗体の活性、種類もしくは配合量、投与対象、投与ルート、投与対象の年齢及び体重等により適宜設定することができるが、例えば成人(体重60kg)1日あたりの投与量(有効量)としては、抗体量として0.1mg〜1000mg、好ましくは0.1mg〜500mg、さらに好ましくは0.1mg〜300mgである。本発明の予防または治療剤は、1日あたり、必要に応じて一度又は数回に分割して投与することができ、また数日に分けて投与することもできる。
本発明の予防または治療剤は、マイコプラズマ・ニューモニエに有効な公知の抗生剤(以下、剤Xと記載)と併用することができる。剤Xとしては、マクロライド系抗生剤(ジスロマック、リカマイシン、エリスロシン、クラリスなど)、テトラサイクリン系抗生剤(ミノマイシンなど)、リンコマイシン系抗生剤(ダラシンなど)などのマイコプラズマ・ニューモニエのタンパク質合成を阻害する物質を有効成分とする製剤、ニューロキノン抗生剤(アクアチムなど)などのマイコプラズマ・ニューモニエのDNA複製を抑制する薬剤などが挙げられる。これらは1種類のみを併用してもよいし、複数の種類を併用してもよい。本明細書中、「併用」とは、本発明の予防または治療剤と剤Xとを組み合わせて使用することを意味し、その使用形態は特に限定されない。例えば、本発明の予防または治療剤と剤Xとを共に含有した医薬組成物としての投与、または混合することなく別途製剤し、同時若しくは時間差をあけての投与の両方を含む。
本発明の予防または治療剤の投与対象としては特に限定されず、マイコプラズマ・ニューモニエを保持するまたは保持する可能性があるあらゆる動物が挙げられるが、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウマ、ウシ、マウス、ラット、ハムスターなどの哺乳類などが好ましい。
本発明はまた、本発明の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ・ニューモニエの検出方法を提供する。検出対象の試料としては、試料中にマイコプラズマ・ニューモニエが存在する可能性のある限りいかなる試料であってもよい。具体的には、本発明の抗体を用いて、抗原抗体反応によりマイコプラズマ・ニューモニエを検出および/または定量する方法が挙げられる。かかる方法としては特に限定されるものではないが、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、酵素免疫測定法(例、ELISA法)、蛍光もしくは発光測定法、凝集法、イムノブロット法、イムノクロマト法(Meth.Enzymol.,92,p.147−523(1983),Antibodies Vol.II,IRL Press Oxford(1989))などを利用した方法が挙げられる。
また本発明は、本発明の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ感染症の診断方法を提供する。具体的には、例えば対象(例、ヒト)の咽頭拭い液や喀痰を採取し、それをサンプルとして上記検出方法と同様の方法を適用してマイコプラズマ・ニューモニエを検出することで、検体がマイコプラズマ肺炎に感染しているか否かを診断することができる。当該診断は、従来からマイコプラズマ肺炎の診断に利用されている、(1)PCR法による診断、(2)胸部レントゲンによる診断、(3)マイコプラズマの分離培養による診断、(4)血清診断などと共に行ってもよい。
さらに本発明は、本発明の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ肺炎の予防または治療方法を提供する。具体的には、上記した生体の獲得免疫機構に基づき、マイコプラズマ感染症を発症していないマイコプラズマ・ニューモニエ保菌者に対して本発明の抗体を投与することでマイコプラズマ感染症の発症を予防することができるだけでなく、マイコプラズマ感染症を発症した患者に対して本発明の抗体を投与することでその症状を緩和し、治療することもできる。投与方法、投与量は前記した通りである。
本発明のリポペプチドは、下記式:
(式中、
R1およびR2は、水素、または炭素数1から29までのアルキル基を示し、
Xは、下記アミノ酸残基:
Xaa Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn
からなるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、但し、Xにおける前記Xaaは、システイン中のSHを除くシステイン残基であり、Sは、該システイン中のSHに由来するものである)
で表わされるものである。
前記式(1)において、R1およびR2は、同一または異なって、水素、炭素数1から29までのアルキル基であるが、当該アルキル基は不飽和結合(二重結合、三重結合)を任意の数有していてもよく、従って、炭素数2から29までのアルケニルまたはアルキニル基も本発明の炭素数2から29までのアルキル基に包含される。本発明においては、R1およびR2は、生体内で自然免疫を効率的に誘導するという観点から、飽和脂肪酸を構成する炭素数1から29までのアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数7から19までのアルキル基であり、具体的には、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルなどがあげられる。
式(1)中、R1COおよびR2COは、同一または異なるアシル基であり、好ましくは同一のアシル基である。具体的には、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、ベヘノイルなどが好適な例としてあげられる。中でも、マイコプラズマ・ニューモニエ菌体で見出されるリポプロテインの構成成分であるパルミトイル基が好ましい。
前記式(1)において、R1およびR2がエステル結合したプロピル部分は、下記Xで表わされるペプチドのN末端に位置するアミノ酸残基の側鎖に結合している。前記プロピル中の不斉中心は、R−配置、S−配置、またはRS配置のいずれであってもよい。
Xは、下記アミノ酸残基:
Xaa Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn(配列番号1)
からなるアミノ酸配列を有するペプチド部分であり、N末端のXaaは、システイン由来であり、システイン残基の側鎖に由来するSを介して、前記プロピル部分と結合している。あるいは、Xは、前記配列番号1のアミノ酸配列の一部を有するペプチド部分であってもよい。
本発明においては、アミノ酸はL体、D体およびDL体を包含するものであるが、通常、L体を用いる。
前記Xにおいて、N末端のシステイン由来Xaaを除く19アミノ酸残基:
Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn(配列番号2)
からなるアミノ酸配列において、1ないし数個(好ましくは1または2個)のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドも、式(1)のリポペプチドが自然免疫を誘導する限りにおいて本発明に含まれる。ここで、自然免疫の誘導は、後述するレポーターアッセイによりTLRの発現を介してNF−κBの発現の程度を指標に確認することができる。
1ないし数個のアミノ酸残基の置換としては、保存的アミノ酸置換があげられる。保存的アミノ酸置換とは、特定のアミノ酸を、そのアミノ酸の側鎖と同様の性質の側鎖を有するアミノ酸で置換することをいう。具体的には、保存的アミノ酸置換では、特定のアミノ酸は、そのアミノ酸と同じグループに属する他のアミノ酸により置換される。同様の性質の側鎖を有するアミノ酸のグループは、当該分野で公知である。例えば、このようなアミノ酸のグループとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)があげられる。また、中性側鎖を有するアミノ酸は、さらに、極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、および非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)に分類することもできる。また、他のグループとして、例えば、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、水酸基(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基)を含む側鎖を有するアミノ酸(例えば、セリン、トレオニン、チロシン)などもあげることができる。
1ないし数個のアミノ酸残基の欠失としては、配列番号2に示すアミノ酸配列の中から、任意のアミノ酸残基を選択して欠失させることができる。
Xが配列番号1のアミノ酸配列の一部を有するペプチド部分である場合、アミノ酸残基の欠失は、配列番号2に示すアミノ酸配列のC末端から連続して数個のアミノ酸残基の欠失であることが好ましく、3〜16個の欠失であることがより好ましい。好適な具体例として、配列番号2に示すアミノ酸配列のC末端から連続して15個のアミノ酸残基の欠失したアミノ酸配列:Thr Glu Asn Val(配列番号:3)を有し、R1COおよびR2COがパルミトイル基であるFAM−5があげられる(図5)。
1ないし数個のアミノ酸残基の付加としては、配列番号2に示すアミノ酸配列のC末端側に、例えば、Leu Leu Trp、またはLeu Trp Valからなるアミノ酸残基を付加させることができる。また、リポペプチドの水溶解性を増強するため、アミノ酸配列のC末端側に塩基性アミノ酸であるアルギニン(Arg)またはリジン(Lys)を1ないし2残基付加してもよい。
本発明の好ましいリポペプチドFAM−20は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチド(ここで、ペプチドは配列番号2からなるアミノ酸配列を有する)である。さらに別の好ましいリポペプチドFAM−5は、S−(2,3−ビスパルミトイルオキシプロピル)システイニルペプチド(ここで、ペプチドは配列番号3からなるアミノ酸配列を有する)である。
本発明の式(1)で表されるリポペプチドは、例えばMetzger,J.W.,K.−H.Wiesmuller,and G.Jung.Synthesis of N−Fmoc protected derivatives of S−(2,3−dihydroxypropyl)−cysteine and their application in peptide synthesis.Int.J.Pept.Protein.Res.38:545−554(1991)、および
Metzger,J.W.,A.G.Beck−Sickinger,M.Loleit,M.Eckert,W.G.Bessler,and G.Jung.Synthetic S−(2,3−dihydroxypropyl)−cysteinyl peptides derived from the N−terminus of the cytochrome subunit of the photoreaction centre of Rhodopseudomonas viridis enhance murine splenocyte proliferation.J.Pept.Sci.3:184−190(1995)に記載の方法またはこれに準ずる方法によって製造される。
本発明は、前記リポペプチドを含有するトールライクレセプター(TLR)の活性化剤を提供する。本発明において、トールライクレセプター(TLR)とは、微生物の侵入や感染を防御するため、先天性免疫(自然免疫ともいう)の誘導経路に介在する受容体ファミリーである。ヒトTLRファミリーは、TLR1〜11のメンバーから構成されている。
本発明の活性化剤は、TLRの中でもとりわけTLR1、TLR2およびTLR6を活性化させることがより好ましい。
TLR1、TLR2およびTLR6を活性化させる本発明のリポペプチドは、他のマイコプラズマ(マイコプラズマ・ファーメンタスおよびマイコプラズマ・サリバリウム)由来のリポプロテインまたはリポペプチドとは異なり、TLR2および6に加えて、TLR1も活性化するものである。TLRを介した自然免疫の誘導は、その後の免疫獲得にも重要な役割を担うことから、本発明により得られるTLR活性化剤は、マイコプラズマ肺炎の予防または症状軽減への開発応用が期待される。
本発明は、前記リポペプチドを含有する転写因子誘導剤を提供する。
本発明のリポペプチドは、TLRを介したシグナル伝達により、シグナルの下流に位置する転写因子を誘導する作用を有する。このような転写因子としては、TLRのシグナル経路に関与する因子であれば特に限定されるものではないが、NF−κBが好ましい。
本発明のリポペプチドを含有するTLR活性化剤および転写因子誘導剤の作用は、レポーターアッセイにより測定することができる。具体的には、TLRおよびドミナントネガティブTLRを、腎臓由来の細胞株でベクターの導入効率が高いという特徴をもつ293T細胞に発現(ドミナントネガティブ発現ベクターは、pFLAG−CMV1(Sigma)にTLR1およびTLR6のTIRドメインを欠損させたものを導入して作製することができる)させることにより確認することができる。
詳しくは、4x105個の293T細胞に0.1μgのレポーターベクター(転写因子NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたベクター等)をFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入し、すでにそれぞれTLR1とTLR2、およびTLR2とTLR6に依存的にNF−κBを誘導することが知られている(S)−[2,3−Bis(palmitoyloxy)−(2−RS)−propyl]−N−palmitoyl−(R)−Cys−(S)−Ser−(S)−Lys4−OH,3HCl(Pam3CSK4,CALBIOCHEM,Darmstadt,Germany)およびM.fermentans macrophage−activating lipopeptide 2(MALP−2,松本美佐子博士(大阪府立成人病センター)から分与。Nishiguchi,M.,M.Matsumoto,T.Takao,M.Hoshino,Y.Shimonishi,S.Tsuji,N.A.Begum,O.Takeuchi,S.Akira,K.Toyoshima,and T.Seya.2001.“Mycoplasma fermentans lipoprotein M161Ag−induced cell activation is mediated by Toll−like receptor 2:role of N−terminal hydrophobic portion in its multiple functions.”J Immunol 166:2610.)で刺激し、レポーターの発現量(例えば、ルシフェラーゼ活性)の上昇を測定することにより、TLR1およびTLR6の発現を確認することができる。
本発明の活性化剤または誘導剤、具体的にはリポペプチドFAM−20またはFAM−5等を含有する試料を、因子NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたレポーターベクター(たとえば、市販されているpNF−κB−luc(Sigma))を導入した細胞と接触させ、TLRの活性化を介したNF−κBの誘導能を、ルシフェラーゼ活性として測定することにより、当該剤の作用を確認することができる。一例として、4x105個のTHP−1(ヒト単球由来、ATCC:TIB−202)細胞に0.1μgのレポーターベクターpNF−κB−luc(Sigma)をFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入し、48時間後、前記試料を最終濃度0.5%になるように添加し、8時間経過後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)により測定する方法があげられる。
本発明は、前記リポペプチド(好ましくは、FAM−20またはFAM−5)および医薬として許容され得る担体を含有するワクチン組成物を提供する。
前記リポペプチドは、前記定義した通りである。当該リポプペプチドは1種のみを選択してもよいが、ワクチン組成物においては、2種以上のリポペプチドを適宜選択して含有するワクチン組成物が好ましい。さらには、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のF0F1型ATPアーゼのサブユニットbであるリポプロテインを含有していてもよい。抗原として多種類のリポペプチドを含有するワクチン組成物は、様々な接種対象者における獲得免疫を惹起させることが可能である。
前記医薬として許容され得る担体としては、ワクチンの製造に通常用いられる担体が限定なく使用することができる。具体的には、食塩水、緩衝化食塩水、デキストロース、水、グリセロール、等張水性緩衝液およびそれらの組合せがあげられる。担体は、好ましくは滅菌されたものである。また、これに乳化剤、保存剤(例、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤および不活化剤(例、ホルマリン)等が適宜配合される。
本発明の組成物は、ワクチンの投与様式に適合した形態を有することが好ましく、例えば、注射可能な形態として、溶液、懸濁液または乳化液があげられる。あるいは、液体溶液、懸濁液または乳化液に供せられる形態として、凍結乾燥製剤等の固体形態があげられる。
本発明の組成物は、製薬上許容可能で且つ活性成分と相溶性であるアジュバントをさらに含有することが好ましい。アジュバントは、一般には、宿主の免疫応答を非特異的に増強する物質であり、多数の種々のアジュバントが当技術分野で公知である。アジュバントの例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン、Quill A(登録商標)、リゾレシチン、サポニン誘導体、プルロニック ポリオール、モンタニドISA−50(Seppic,Paris,France)、Bayol(登録商標)およびMarkol(登録商標)。
ワクチン組成物は、前記リポペプチドを有効成分として、前記担体および好ましくはアジュバントとともに常法により製造することができる。当該リポペプチドは、ワクチン中に0.001〜99.9重量%含有されていればよい。
本発明のワクチン組成物は、様々な経路により接種することができる。投与経路としては、例えば、皮内、皮下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、静脈内、肺内(例えば、肺に直接注射投与する)および経口経路等があげられ、好ましくは、皮内、皮下、鼻腔内、筋肉内、経口経路があげられるが、これらに限定されない。
また、本発明は、本発明のワクチン組成物の1または2以上の成分を包含する1または2以上の容器からなるキットを提供する。
ワクチン組成物およびキットを用いて、マイコプラズマ肺炎を予防またはその症状を軽減することができる。本発明は、有効免疫感作量の本発明のワクチン組成物を対象に投与することを包含するマイコプラズマ肺炎の予防または軽減方法を提供する。
ワクチンの投与方法としては、前記接種方法に例示した通りである。投与量は、対象の年齢、性別、体重、薬物への忍容性等を考慮して決められるが、通常0.001mg〜100mgを1回または2回以上投与することができる。好ましくは複数回の投与であり、この場合、2〜4週間の間隔をあけて投与することが好ましい。
また、前記リポペプチド(好ましくは、FAM−20またはFAM−5)は、ワクチンの有効成分としての利用の他に、当該リポペプチドそれ自体が炎症を誘導する作用を有することから、アジュバントとしての利用が可能である。本発明は、前記リポペプチド(好ましくは、FAM−20またはFAM−5)を含有する新規アジュバントを提供する。
また本発明は、前記リポペプチドに対する抗体を提供する。
本明細書において、「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等の天然型抗体、トランスジェニックマウスや遺伝子組換え技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体および一本鎖抗体、ヒト抗体産生遺伝子を導入したマウスやファージディスプレイなどによって作製したヒト抗体ならびにこれらの断片などが含まれる。本発明の抗体は前記リポペプチドに結合する限り特に限定されないが、マイコプラズマ・ニューモニエに対する特異性の点からモノクローナル抗体であることが好ましい。あるいはヒトへの臨床応用の点から、本発明の抗体はヒト化抗体またはヒト抗体であることが好ましい。
上記抗体断片とは、前述した抗体の一部分の領域を意味し、具体的には、例えばF(ab’)2、Fab’、Fab、Fc領域を含む抗体断片、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilised Fv)、dAb(single domain antibody)等が挙げられる(Exp.Opin.Ther.Patents,Vol.6,No.5,p.441−456,1996)。
上記ヒト化抗体とは、抗原認識部位のみヒト以外の遺伝子を由来とし、かつ残りの部位をヒト遺伝子由来として、遺伝子組換え技術を用いて製造された抗体のことをいう。また上記ヒト抗体とは、ヒト抗体産生遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(例、TransChromo Mouse(商標))が産生するヒト抗体や、ヒトのBリンパ球のmRNAやゲノム由来のVH遺伝子とVL遺伝子とをランダムに組み合わせて構築したライブラリーから、ファージディスプレイ法などのディスプレイ技術によって抗体可変領域を発現させたヒト抗体ライブラリーを基に作製した抗体のことをいう。
また抗体のクラスも特に限定されず、本発明の抗体は、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくはIgGまたはIgMであり、抗体の精製の容易性等を考慮すると、より好ましくはIgGである。
次に、抗体の製造方法について説明する。
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、自体公知の方法によって製造することができる。すなわち、例えば免疫原(本発明のリポペプチド)を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund’s Adjuvant)と共に、哺乳動物、例えばポリクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマまたはウシなど、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギに免疫する。モノクローナル抗体の場合は、同様の方法で、マウス、ラット、ハムスターなどに免疫する。
本発明のリポペプチドは、そのまま免疫原として用いることも可能であるが、分子量1万以上の高分子化合物との複合体として免疫することが望ましい。従って、本発明のリポペプチドは、免疫原として使用するとき、自体公知の方法により高分子化合物(例、タンパク質(以下、キャリアタンパク質と記載する場合がある)など)との複合体としてもよい。例えば、配列番号1のアミノ酸配列を含む本発明のリポペプチドを上記記載の方法に従って合成し、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、チログロブリン(TG)、免疫グロブリン等のキャリアタンパク質との複合体を形成させる。当該複合体は、その後好ましい免疫原として用いることができる。
前記リポペプチドとキャリアタンパク質との複合体を形成させるなどの目的で、該リポペプチドには1個または数個のアミノ酸を付加してもよい。付加されるアミノ酸の数は特に限られないものの、製造される抗体の特異性を考慮すると、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜2個、最も好ましくは1個である。付加されるアミノ酸の位置はリポペプチドのいずれの位置でもよく、特に限定されないが、ペプチド部分のC末端が好ましい。
複合体の形成においては、リポペプチドの抗原性を維持することができる限り、限定なく公知の方法を適用することができる。例えば、混合酸無水物法または活性エステル法等により前記リポペプチドに含まれうるカルボキシル基と前記高分子化合物の官能基とを反応させて、複合体を形成することができる。あるいは前記リポペプチドにシステイン残基を導入し、当該システインの側鎖であるSH基を介して前記高分子化合物のアミノ基と結合させることもできる(MBS法)。また、タンパク質のリジン残基のεアミノ基や、αアミノ基などのアミノ基同士を結合させることもできる(グルタルアルデヒド法)。
ポリクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。すなわち、免疫原をマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギ、好ましくはヤギ、ウマまたはウサギ、より好ましくはウサギの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1〜数回注射することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜5回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から血清を取得する。
血清そのものをポリクローナル抗体として用いることも可能であるが、好ましくは、限外ろ過、硫安分画、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムもしくはプロテインA/Gカラム、免疫原を架橋させたカラム等を用いたアフィニティカラムクロマトグラフィーにより、該抗体を単離および/または精製する。
モノクローナル抗体の製造方法としては、例えば下記の方法が挙げられる。まず上記免疫感作動物から得た該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化する。すなわち、ハイブリドーマの培養上清を検体として、免疫学的手法により、哺乳動物の免疫に用いた本発明のリポペプチドに対する特異的親和性を示しかつキャリアタンパク質と交差反応性を示さないモノクローナル抗体を産生するクローンを選択する。次いで、当該ハイブリドーマの培養上清などから、自体公知の方法によって抗体を製造することができる。
具体的には、下記のようにしてモノクローナル抗体を製造することができる。すなわち、免疫原を、マウス、ラットまたはハムスター(ヒト抗体産生トランスジェニックマウスのような他の動物由来の抗体を産生するように作出されたトランスジェニック動物を含む)の皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内もしくは腹腔内に1〜数回注射するか、または移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜4回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物の脾臓などから抗体産生細胞を取得する。
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ(融合細胞)の調製は、ケーラーおよびミルシュタインらの方法(Nature,Vol.256,p.495−497,1975)ならびにそれらに準じる修飾方法に従って行うことができる。すなわち、前述の如く免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄または扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合により、ハイブリドーマを得る。
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63−AG8.653(653;ATCC No.CRL1580)、P3/NSI/1−Ag4−1(NS−1)、P3/X63−Ag8.U1(P3U1)、SP2/0−Ag14(Sp2/0、Sp2)、PAI、F0またはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3−Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU−266AR1、GM1500−6TG−A1−2、UC729−6、CEM−AGR、D1R11またはCEM−T15が挙げられる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングは、得られたハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート内で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の、前述の免疫感作で用いた本発明のリポペプチドに対する反応性および前記上清のキャリアタンパク質に対する反応性を、例えばELISA等の免疫測定法によって測定し、比較することによって行うことができる。
スクリーニングによりクローン化されたハイブリドーマは、培地(例えば、10%牛胎仔血清を含むDMEM)を用いて培養される。そして、その培養液の遠心上清をモノクローナル抗体溶液とすることができる。また、該ハイブリドーマを、該ハイブリドーマに由来する動物の腹腔に注入することにより、動物に腹水を生成させ、該動物から得られた腹水をモノクローナル抗体溶液とすることができる。モノクローナル抗体は、上述のポリクローナル抗体と同様の方法で、単離および/または精製されることが好ましい。
また、キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号),Vol.6,No.10,1988」、特公平3−73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4−506458号公報、特開昭62−296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics,Vol.15,p.146−156,1997」、「Nature Genetics,Vol.7,p.13−21,1994」、特表平4−504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature,Vol.368,p.856−859,1994」、特表平6−500233号公報等を参考にそれぞれ製造することができる。
ファージディスプレイによる抗体作製は、例えばヒト抗体スクリーニング用に作製されたファージライブラリーから、バイオパニングにより抗原に親和性を有するファージを回収、濃縮することにより行うことができ、これによりFab等の抗体等を容易に得ることができる。この場合、配列番号1のアミノ酸配列から選ばれる連続する少なくとも5アミノ酸を有するペプチド(好ましくは、FAM20またはFAM5で表されるペプチド)を抗原として用いて、抗体ライブラリーをスクリーニングすることが好ましい。好ましい抗体ライブラリーおよび抗体のスクリーニング方法については、「Science,228:4075 p.1315−1317(1985)」、「Nature,348:p.552−554(1990)」、「Curr.Protein Pept.Sci.,Sep;1(2):155−169(2000)」、国際公開第01/062907号パンフレットなどを参照のこと。これにより得られた抗体断片を用いたり、ファージが有するDNAを利用して抗体を調製することができる。
次に、上記抗体を含有する、マイコプラズマ感染症の予防または治療剤について説明する。
本発明のリポペプチドは、マイコプラズマ感染症の原因菌であるマイコプラズマ・ニューモニエを構成するリポプロテインを最適化したものである。従って本発明のリポペプチドに対する抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエの成分を認識しうるので、生体の獲得免疫機構、例えば:
(1)NK細胞やマクロファージなどの免疫細胞による捕食(オプソニン作用)、
(2)補体の活性化(エフェクター作用)、
(3)菌などの中和作用、
(4)抗体依存性細胞障害活性(ADCC活性)
などの作用により、当該菌を排除する効果が期待される。
本発明は、かかる抗体を有効成分として含有する、マイコプラズマ感染症の予防または治療剤を提供する。
本発明において「マイコプラズマ感染症の予防または治療」とは、マイコプラズマ・ニューモニエの感染により発症する肺炎(マイコプラズマ肺炎(非定型肺炎という場合がある))だけでなく、咽頭炎、気管支炎、中耳炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群などの合併症の予防または治療をも含む。これらの症状は、生体内からマイコプラズマ・ニューモニエを排除することで改善することができる。
本発明の予防または治療剤が含有する抗体は、前記したとおりである。
本発明の予防または治療剤中に含まれる前記抗体の配合量は、上記効果を奏する限りにおいて特に限定されるものではないが、通常、本発明の剤全体の0.001〜90重量%であり、好ましくは0.005〜50重量%であり、より好ましくは0.01〜10重量%である。
本発明の予防または治療剤は、有効成分である前記抗体以外に医薬的に許容される担体を含有していてもよい。かかる担体としては、製剤分野において通常用いられる担体を使用することができ、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、グリセリン、ポリエチレングリコール等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されない。従って、本発明の予防または治療剤は、マイコプラズマ感染症の予防または治療用医薬組成物でもある。
本発明の予防または治療剤の投与剤形としては、例えば液剤、注射製剤などが挙げられるが、それらに限定されない。また本発明の予防または治療剤は、その剤形が速放性製剤または徐放性製剤などの放出制御製剤であってもよい。抗体は一般に水性溶媒に可溶であるため、上記いずれの剤形を採っても容易に吸収される。さらに自体公知の方法により抗体の溶解性を上昇させることも可能である。
上記予防または治療剤の製造方法について説明する。
マイコプラズマ感染症の予防または治療のために用いることができる本発明の予防または治療剤は、製剤製法として自体公知である手段に従って、上記抗体を有効成分として使用することで製造することができる。
例えば、全身投与に好適な予防または治療剤は、水性または非水性の等張な無菌の注射液に有効量の本発明の抗体を溶解させて製造(例、注射製剤)することができる。本発明の抗体を凍結乾燥させ(例、凍結乾燥製剤)これを水性または非水性の等張な無菌の希釈液に溶解させることで使用してもよい。また、局所投与に好適な予防または治療剤は、水または生理食塩水のような希釈液に本発明の抗体を溶解させて製造することができる(例、液剤)。液剤は、噴霧器を用いた気管支や肺などへの吸入療法によって使用することも可能である。なお、これらの剤には抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。これらの予防または治療剤は、アンプル及びバイアルのように、単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。
本発明の予防または治療剤の投与量は、有効成分として含有する抗体の活性、種類もしくは配合量、投与対象、投与ルート、投与対象の年齢及び体重等により適宜設定することができるが、例えば成人(体重60kg)1日あたりの投与量(有効量)としては、抗体量として0.1mg〜1000mg、好ましくは0.1mg〜500mg、さらに好ましくは0.1mg〜300mgである。本発明の予防または治療剤は、1日あたり、必要に応じて一度又は数回に分割して投与することができ、また数日に分けて投与することもできる。
本発明の予防または治療剤は、マイコプラズマ・ニューモニエに有効な公知の抗生剤(以下、剤Xと記載)と併用することができる。剤Xとしては、マクロライド系抗生剤(ジスロマック、リカマイシン、エリスロシン、クラリスなど)、テトラサイクリン系抗生剤(ミノマイシンなど)、リンコマイシン系抗生剤(ダラシンなど)などのマイコプラズマ・ニューモニエのタンパク質合成を阻害する物質を有効成分とする製剤、ニューロキノン抗生剤(アクアチムなど)などのマイコプラズマ・ニューモニエのDNA複製を抑制する薬剤などが挙げられる。これらは1種類のみを併用してもよいし、複数の種類を併用してもよい。本明細書中、「併用」とは、本発明の予防または治療剤と剤Xとを組み合わせて使用することを意味し、その使用形態は特に限定されない。例えば、本発明の予防または治療剤と剤Xとを共に含有した医薬組成物としての投与、または混合することなく別途製剤し、同時若しくは時間差をあけての投与の両方を含む。
本発明の予防または治療剤の投与対象としては特に限定されず、マイコプラズマ・ニューモニエを保持するまたは保持する可能性があるあらゆる動物が挙げられるが、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウマ、ウシ、マウス、ラット、ハムスターなどの哺乳類などが好ましい。
本発明はまた、本発明の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ・ニューモニエの検出方法を提供する。検出対象の試料としては、試料中にマイコプラズマ・ニューモニエが存在する可能性のある限りいかなる試料であってもよい。具体的には、本発明の抗体を用いて、抗原抗体反応によりマイコプラズマ・ニューモニエを検出および/または定量する方法が挙げられる。かかる方法としては特に限定されるものではないが、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、酵素免疫測定法(例、ELISA法)、蛍光もしくは発光測定法、凝集法、イムノブロット法、イムノクロマト法(Meth.Enzymol.,92,p.147−523(1983),Antibodies Vol.II,IRL Press Oxford(1989))などを利用した方法が挙げられる。
また本発明は、本発明の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ感染症の診断方法を提供する。具体的には、例えば対象(例、ヒト)の咽頭拭い液や喀痰を採取し、それをサンプルとして上記検出方法と同様の方法を適用してマイコプラズマ・ニューモニエを検出することで、検体がマイコプラズマ肺炎に感染しているか否かを診断することができる。当該診断は、従来からマイコプラズマ肺炎の診断に利用されている、(1)PCR法による診断、(2)胸部レントゲンによる診断、(3)マイコプラズマの分離培養による診断、(4)血清診断などと共に行ってもよい。
さらに本発明は、本発明の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ肺炎の予防または治療方法を提供する。具体的には、上記した生体の獲得免疫機構に基づき、マイコプラズマ感染症を発症していないマイコプラズマ・ニューモニエ保菌者に対して本発明の抗体を投与することでマイコプラズマ感染症の発症を予防することができるだけでなく、マイコプラズマ感染症を発症した患者に対して本発明の抗体を投与することでその症状を緩和し、治療することもできる。投与方法、投与量は前記した通りである。
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもこれらに限定されない。
[実施例1]
(1)FAM−20の合成
FAM−20:
[S−(2,3−bispalmitoyloxypropyl)−Cys Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn](図1)は、下記文献:Metzger,J.W.,K.−H.Wiesmuller,and G.Jung.Synthesis of N−Fmoc protected derivatives of S−(2,3−dihydroxypropyl)−cysteine and their application in peptide synthesis.Int.J.Pept.Protein.Res.38:545−554(1991)、およびMetzger,J.W.,A.G.Beck−Sickinger,M.Loleit,M.Eckert,W.G.Bessler,and G.Jung.Synthetic S−(2,3−dihydroxypropyl)−cysteinyl peptides derived from the N−terminus of the cytochrome subunit of the photoreaction centre of Rhodopseudomonas viridis enhance murine splenocyte proliferation.J.Pept.Sci.3:184−190(1995)に記載の方法に基づいて合成した。
具体的には、ペプチド合成は、9−fluorenylmethoxycarbonyl(Fmoc)法に従い、自動化シンセサイザ(モデル433A;Applied Biosystems)を使って合成した。tert−butoxycarbonylによって保護されたFmoc−レジンを充填したWang−PHB樹脂を固相化の支持体として使った。0.1mMアミノ酸をそれぞれの結合に使用した。使用したアミノ酸の側鎖の保護基を括弧内に示す。アスパラギン(triphenylmethyl)、セリン(tert−butyl)、リジン(tert−butoxy−carbonyl)等。樹脂(レジン)に結合したFmoc−アミノ酸の遊離は、ピペリジンを使用して行った。アミノ酸の結合には2−(1H−benzotriazol−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluronium tetrafluoroborateおよびhydroxybenzotriazole(HOBt)を使った。樹脂に結合したアミノ酸19個からなるペプチド(N19−merペプチド)とFmoc−Dhc(Pam2)−OH(Dhc:(2,3−dihydroxypropyl)−L−Cysteine)の結合は、dimethylformamide/dichloromethane(1:2)中で、12時間反応させて行った。5%フェノール含有TFA(トリフルオロ酢酸)、5%thioanisole、5%ethanedithiole、および7%水を用いて、樹脂からのペプチドの切り出しおよびすべての保護基の除去を行った。合成の進行を、エレクトロスプレーイオン化質量分析機によってモニターした。得られた化合物がFAM−20であることは、質量分析により確認した。以下の実験用には、FAM−20を精製し、秤量して用いた。
(2)レポーターアッセイ
NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたレポーターベクターpNF−κB−lucは、Sigma社から購入した。4x105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin G,および100μg/ml streptomycinを含有するRPMI1640 mediumで培養)に0.1μgのpNF−κB−lucをFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入した。48時間培養後、FAM−20を種々の濃度(0.001〜10,000ng/ml)になるように培地に添加し、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)により測定した。
(3)NF−κB誘導のTLR依存性
FAM−20による転写活性の刺激がTLR2を介していることを確認するため、293T細胞にTLR2を強発現させた。すなわち、4x105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin Gおよび100μg/ml streptomycinを含有するD−MEM mediumで培養)に0.1μgのレポーターベクターpNF−κB−lucおよび0.01〜0.1μgのTLR2発現ベクター(pFLAG−CMV1(Sigma,St.Louis,MO)にTLR2の配列を挿入したもの)をFuGENE6を用いて導入した(図2)。
次に、TLR2発現293T細胞を使って、NF−κB誘導のFAM−20濃度依存性を検討した(図3)。その結果、図3に示すように、NF−κB誘導によるルシフェラーゼ活性は、FAM−20の濃度依存的に増強した。
TLR依存性をさらに検討するため、TLR2を発現させた293T細胞に、ドミナントネガティブ(DN)TLR6またはドミナントネガティブ(DN)TLR1を強発現させた。発現ベクターを導入して48時間培養し、FAM−20を最終濃度0.5%になるように培地に添加して、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay Systemにより測定した。図4に示すように、DNTLR6およびDNTLR1でTLR6およびTLR1の機能をそれぞれ阻害させることにより、ルシフェラーゼ活性が低下することが明らかとなった。図2の結果は、NF−κBの誘導がTLR2依存性であることを示している。さらに、図4の結果は、NF−κBの誘導がTLR1およびTLR6に依存することを示している。これらの結果から、FAM−20によるNF−κBの誘導能はTLR1、TLR2およびTLR6に依存することが証明された。
[実施例2]
(1)FAM−5の合成
FAM−5[S−(2,3−bispalmitoyloxypropyl)−Cys Thr Glu Asn Val](図5)は、樹脂に結合したアミノ酸4個からなるペプチド(N4−merペプチド)を用いたこと以外は実施例1(1)に記載の方法と同様にして合成した。得られた化合物がFAM−5であることは、質量分析により確認した。以下の実験用には、FAM−5を精製し、秤量して用いた。
(2)レポーターアッセイ
NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたレポーターベクターpNF−κB lucは、Sigma社から購入した。4x105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin G,および100μg/ml streptomycinを含有するRPMI1640 mediumで培養)に0.1μgのpNF−κB−lucをFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入した。48時間培養後、FAM−5を種々の濃度(0.1〜1,000ng/ml)になるように培地に添加し、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)により測定した。
(3)NF−κB誘導のTLR依存性
FAM−5による転写活性の刺激がTLR2を介しているか確認するため、293T細胞にTLR2を強発現させた。すなわち、4x105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin Gおよび100μg/ml streptomycinを含有するD−MEM mediumで培養)に0.1μgのレポーターベクターpNF−κB−lucおよび0.01〜0.1μgのTLR2発現ベクター(pFLAG−CMV1(Sigma,St.Louis,MO)にTLR2の配列を挿入したもの)をFuGENE6を用いて導入した。
次に、TLR2発現293T細胞を使って、NF−κB誘導のFAM−5濃度依存性を検討した(図6)。その結果、図6に示すように、NF−κB誘導によるルシフェラーゼ活性は、FAM−5の濃度依存的に増強した。
さらに、TLR依存性を検討するため、TLR2を発現させた293T細胞に、ドミナントネガティブ(DN)TLR6またはドミナントネガティブ(DN)TLR1を強発現させた。発現ベクターを導入して48時間培養し、FAM−5を最終濃度0.5%になるように培地に添加して、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay Systemにより測定した。図7に示すように、NF−κBの誘導がTLR2依存性であり、FAM−5はFAM−20よりもNF−κBの誘導能が高かった。DNTLR6およびDNTLR1でTLR6およびTLR1の機能を阻害させることにより、ルシフェラーゼ活性が低下したため、NF−κBの誘導がTLR1およびTLR6に依存することがわかった。これらの結果から、FAM−5によるNF−κBの誘導能はTLR1、TLR2およびTLR6に依存することが証明された。
[実施例4]
(1)抗体の作製
1.抗原の調製
抗原は、実施例1により得られたFAM20を用いる。あるいは、FAM20のアミノ酸(Cys Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn)のN末端のCysにキャリアタンパク質としてKLH等を結合したタンパク質を抗原とする。
2.FAM20モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞の樹立
FAM20に対するモノクローナル抗体は、上記免疫原を用いて、本質的に既報(Okuno et al,Virology 129,357−368(1983))に記載の方法に従って製造する。ハイブリドーマの培養上清をFAM20を用いたELISAによりスクリーニングし、FAM20モノクローナル抗体産生ハイブリドーマをクローニングする。得られたハイブリドーマの培養上清をProtein G Sepharoseカラムを用いて精製し、FAM20モノクローナル抗体を得る。
(2)抗体による肺炎病態抑制実験
FAM20モノクローナル抗体をマウスへ静注あるいは腹腔内注射して、1〜24時間後に経鼻的にFAM20(10ngから100μg)またはマイコプラズマ・ニューモニエ菌体(1x107CFUから1x109CFU)をマウスに投与する。投与6〜48時間後に肺を摘出して、肺炎の組織像を検討する。また、気管支肺胞洗浄液中の細胞数をカウントして、肺炎病態を評価する。
(3)抗体による炎症性サイトカインの抑制試験
1.サンプルの調製
上記(2)と同様にFAM20モノクローナル抗体(10μgから10mg)をマウスへ尾静脈静注、腹腔内注射、あるいは気管支内投与して、1〜24時間後に経鼻的にFAM20またはマイコプラズマ・ニューモニエ菌体をマウスに投与する。投与6〜48時間後にマウスの肺気管支洗浄液(生理食塩水1mlで洗浄)または血清(腋下静脈より採血)を採取する。これらを炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−6、ケモカイン等)定量のためのサンプルとする。
2.リアルタイムRT−PCR
上記1.と同様にFAM20モノクローナル抗体をマウスへ静注あるいは腹腔内注射して、1〜24時間後に経鼻的にFAM20またはマイコプラズマ・ニューモニエ菌体をマウスに投与する。投与6〜48時間後にマウスの肺を摘出し、トータルRNAを抽出する。このRNAを逆転写して得られたcDNAをテンプレートとして、PCR(TNF−α、IL−6、ケモカイン等)を行う。リアルタイムRT−PCRは、BIO−RAD社のOpticon(登録商標)2を使用して、Freeman等の方法(Biotechniques,26,112−122.124−125,1999)に従う。
3.ウエスタンブロッティング
上記と同様にFAM20モノクローナル抗体をマウスへ静注あるいは腹腔注射して、1から24時間後に経鼻的にマウスにFAM20、あるいはマイコプラズマ・ニューモニエ菌体を投与する。6〜48時間後にマウスの肺を摘出し、肺をホモジネート後、細胞を回収し細胞ライセートを得る。このライセート、および肺気管支洗浄液の上清等をウエスタンブロッティング解析用(TNF−α、IL−6、ケモカイン等)のサンプルとする。ウエスタンブロッティングは、Towbin等の方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1979,76,4350−4354)に従う。
4.ELISA
上記1.で調製するサンプルをELISA(TNF−α、IL−6、ケモカイン等)解析用のサンプルとする。なお、ELISAのアッセイには、市販のキット(R&D System社等)を使用する。
[実施例1]
(1)FAM−20の合成
FAM−20:
[S−(2,3−bispalmitoyloxypropyl)−Cys Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn](図1)は、下記文献:Metzger,J.W.,K.−H.Wiesmuller,and G.Jung.Synthesis of N−Fmoc protected derivatives of S−(2,3−dihydroxypropyl)−cysteine and their application in peptide synthesis.Int.J.Pept.Protein.Res.38:545−554(1991)、およびMetzger,J.W.,A.G.Beck−Sickinger,M.Loleit,M.Eckert,W.G.Bessler,and G.Jung.Synthetic S−(2,3−dihydroxypropyl)−cysteinyl peptides derived from the N−terminus of the cytochrome subunit of the photoreaction centre of Rhodopseudomonas viridis enhance murine splenocyte proliferation.J.Pept.Sci.3:184−190(1995)に記載の方法に基づいて合成した。
具体的には、ペプチド合成は、9−fluorenylmethoxycarbonyl(Fmoc)法に従い、自動化シンセサイザ(モデル433A;Applied Biosystems)を使って合成した。tert−butoxycarbonylによって保護されたFmoc−レジンを充填したWang−PHB樹脂を固相化の支持体として使った。0.1mMアミノ酸をそれぞれの結合に使用した。使用したアミノ酸の側鎖の保護基を括弧内に示す。アスパラギン(triphenylmethyl)、セリン(tert−butyl)、リジン(tert−butoxy−carbonyl)等。樹脂(レジン)に結合したFmoc−アミノ酸の遊離は、ピペリジンを使用して行った。アミノ酸の結合には2−(1H−benzotriazol−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluronium tetrafluoroborateおよびhydroxybenzotriazole(HOBt)を使った。樹脂に結合したアミノ酸19個からなるペプチド(N19−merペプチド)とFmoc−Dhc(Pam2)−OH(Dhc:(2,3−dihydroxypropyl)−L−Cysteine)の結合は、dimethylformamide/dichloromethane(1:2)中で、12時間反応させて行った。5%フェノール含有TFA(トリフルオロ酢酸)、5%thioanisole、5%ethanedithiole、および7%水を用いて、樹脂からのペプチドの切り出しおよびすべての保護基の除去を行った。合成の進行を、エレクトロスプレーイオン化質量分析機によってモニターした。得られた化合物がFAM−20であることは、質量分析により確認した。以下の実験用には、FAM−20を精製し、秤量して用いた。
(2)レポーターアッセイ
NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたレポーターベクターpNF−κB−lucは、Sigma社から購入した。4x105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin G,および100μg/ml streptomycinを含有するRPMI1640 mediumで培養)に0.1μgのpNF−κB−lucをFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入した。48時間培養後、FAM−20を種々の濃度(0.001〜10,000ng/ml)になるように培地に添加し、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)により測定した。
(3)NF−κB誘導のTLR依存性
FAM−20による転写活性の刺激がTLR2を介していることを確認するため、293T細胞にTLR2を強発現させた。すなわち、4x105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin Gおよび100μg/ml streptomycinを含有するD−MEM mediumで培養)に0.1μgのレポーターベクターpNF−κB−lucおよび0.01〜0.1μgのTLR2発現ベクター(pFLAG−CMV1(Sigma,St.Louis,MO)にTLR2の配列を挿入したもの)をFuGENE6を用いて導入した(図2)。
次に、TLR2発現293T細胞を使って、NF−κB誘導のFAM−20濃度依存性を検討した(図3)。その結果、図3に示すように、NF−κB誘導によるルシフェラーゼ活性は、FAM−20の濃度依存的に増強した。
TLR依存性をさらに検討するため、TLR2を発現させた293T細胞に、ドミナントネガティブ(DN)TLR6またはドミナントネガティブ(DN)TLR1を強発現させた。発現ベクターを導入して48時間培養し、FAM−20を最終濃度0.5%になるように培地に添加して、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay Systemにより測定した。図4に示すように、DNTLR6およびDNTLR1でTLR6およびTLR1の機能をそれぞれ阻害させることにより、ルシフェラーゼ活性が低下することが明らかとなった。図2の結果は、NF−κBの誘導がTLR2依存性であることを示している。さらに、図4の結果は、NF−κBの誘導がTLR1およびTLR6に依存することを示している。これらの結果から、FAM−20によるNF−κBの誘導能はTLR1、TLR2およびTLR6に依存することが証明された。
[実施例2]
(1)FAM−5の合成
FAM−5[S−(2,3−bispalmitoyloxypropyl)−Cys Thr Glu Asn Val](図5)は、樹脂に結合したアミノ酸4個からなるペプチド(N4−merペプチド)を用いたこと以外は実施例1(1)に記載の方法と同様にして合成した。得られた化合物がFAM−5であることは、質量分析により確認した。以下の実験用には、FAM−5を精製し、秤量して用いた。
(2)レポーターアッセイ
NF−κB結合領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を結合させたレポーターベクターpNF−κB lucは、Sigma社から購入した。4x105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin G,および100μg/ml streptomycinを含有するRPMI1640 mediumで培養)に0.1μgのpNF−κB−lucをFuGENE6(Roche,Basel,Switzerland)を用いて導入した。48時間培養後、FAM−5を種々の濃度(0.1〜1,000ng/ml)になるように培地に添加し、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)により測定した。
(3)NF−κB誘導のTLR依存性
FAM−5による転写活性の刺激がTLR2を介しているか確認するため、293T細胞にTLR2を強発現させた。すなわち、4x105個の293T細胞(ATCC:CRL−11268)(10% FCS,2mM L−glutamine,100U/ml penicillin Gおよび100μg/ml streptomycinを含有するD−MEM mediumで培養)に0.1μgのレポーターベクターpNF−κB−lucおよび0.01〜0.1μgのTLR2発現ベクター(pFLAG−CMV1(Sigma,St.Louis,MO)にTLR2の配列を挿入したもの)をFuGENE6を用いて導入した。
次に、TLR2発現293T細胞を使って、NF−κB誘導のFAM−5濃度依存性を検討した(図6)。その結果、図6に示すように、NF−κB誘導によるルシフェラーゼ活性は、FAM−5の濃度依存的に増強した。
さらに、TLR依存性を検討するため、TLR2を発現させた293T細胞に、ドミナントネガティブ(DN)TLR6またはドミナントネガティブ(DN)TLR1を強発現させた。発現ベクターを導入して48時間培養し、FAM−5を最終濃度0.5%になるように培地に添加して、さらに8時間培養後、ルシフェラーゼ活性をDual−Luciferase Reporter Assay Systemにより測定した。図7に示すように、NF−κBの誘導がTLR2依存性であり、FAM−5はFAM−20よりもNF−κBの誘導能が高かった。DNTLR6およびDNTLR1でTLR6およびTLR1の機能を阻害させることにより、ルシフェラーゼ活性が低下したため、NF−κBの誘導がTLR1およびTLR6に依存することがわかった。これらの結果から、FAM−5によるNF−κBの誘導能はTLR1、TLR2およびTLR6に依存することが証明された。
[実施例4]
(1)抗体の作製
1.抗原の調製
抗原は、実施例1により得られたFAM20を用いる。あるいは、FAM20のアミノ酸(Cys Thr Glu Asn Val Lys Glu Ile Lys Ser Glu Ser Val Ile Asn Glu Leu Phe Pro Asn)のN末端のCysにキャリアタンパク質としてKLH等を結合したタンパク質を抗原とする。
2.FAM20モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞の樹立
FAM20に対するモノクローナル抗体は、上記免疫原を用いて、本質的に既報(Okuno et al,Virology 129,357−368(1983))に記載の方法に従って製造する。ハイブリドーマの培養上清をFAM20を用いたELISAによりスクリーニングし、FAM20モノクローナル抗体産生ハイブリドーマをクローニングする。得られたハイブリドーマの培養上清をProtein G Sepharoseカラムを用いて精製し、FAM20モノクローナル抗体を得る。
(2)抗体による肺炎病態抑制実験
FAM20モノクローナル抗体をマウスへ静注あるいは腹腔内注射して、1〜24時間後に経鼻的にFAM20(10ngから100μg)またはマイコプラズマ・ニューモニエ菌体(1x107CFUから1x109CFU)をマウスに投与する。投与6〜48時間後に肺を摘出して、肺炎の組織像を検討する。また、気管支肺胞洗浄液中の細胞数をカウントして、肺炎病態を評価する。
(3)抗体による炎症性サイトカインの抑制試験
1.サンプルの調製
上記(2)と同様にFAM20モノクローナル抗体(10μgから10mg)をマウスへ尾静脈静注、腹腔内注射、あるいは気管支内投与して、1〜24時間後に経鼻的にFAM20またはマイコプラズマ・ニューモニエ菌体をマウスに投与する。投与6〜48時間後にマウスの肺気管支洗浄液(生理食塩水1mlで洗浄)または血清(腋下静脈より採血)を採取する。これらを炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−6、ケモカイン等)定量のためのサンプルとする。
2.リアルタイムRT−PCR
上記1.と同様にFAM20モノクローナル抗体をマウスへ静注あるいは腹腔内注射して、1〜24時間後に経鼻的にFAM20またはマイコプラズマ・ニューモニエ菌体をマウスに投与する。投与6〜48時間後にマウスの肺を摘出し、トータルRNAを抽出する。このRNAを逆転写して得られたcDNAをテンプレートとして、PCR(TNF−α、IL−6、ケモカイン等)を行う。リアルタイムRT−PCRは、BIO−RAD社のOpticon(登録商標)2を使用して、Freeman等の方法(Biotechniques,26,112−122.124−125,1999)に従う。
3.ウエスタンブロッティング
上記と同様にFAM20モノクローナル抗体をマウスへ静注あるいは腹腔注射して、1から24時間後に経鼻的にマウスにFAM20、あるいはマイコプラズマ・ニューモニエ菌体を投与する。6〜48時間後にマウスの肺を摘出し、肺をホモジネート後、細胞を回収し細胞ライセートを得る。このライセート、および肺気管支洗浄液の上清等をウエスタンブロッティング解析用(TNF−α、IL−6、ケモカイン等)のサンプルとする。ウエスタンブロッティングは、Towbin等の方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1979,76,4350−4354)に従う。
4.ELISA
上記1.で調製するサンプルをELISA(TNF−α、IL−6、ケモカイン等)解析用のサンプルとする。なお、ELISAのアッセイには、市販のキット(R&D System社等)を使用する。
配列番号1に記載のアミノ酸配列の1位の残基は、S−(2,3−ビスアシルオキシプロピル)システインである。
本発明の、FAM−20およびFAM−5(式(1)において、R1COおよびR2COがパルミトイル基(CH3(CH2)14CO−)である。)を代表とする式(1)にて表されるリポペプチドは、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のリポプロテインを最適化することにより得られたものである。本発明のリポペプチドおよびそれを含有するTLRの活性化剤は、マイコプラズマ肺炎の発症機序の解明、ならびに、TLRを介した先天性免疫応答の研究の進展に寄与することができる。本発明の活性化剤は、TLRを介した免疫賦活剤としても有用である。
本発明の転写因子誘導剤によれば、前記リポペプチドを含有することから、マイコプラズマ感染における宿主応答およびマイコプラズマ肺炎の発症機序の解明、ならびに、TLRを介してNF−κBが関与する転写誘導の研究の進展に寄与することができる。
本発明のリポペプチドを含有するワクチン組成物によれば、従来有効な予防および改善手段が存在していなかったマイコプラズマ肺炎を予防または、その症状を軽減することが可能となる。
本発明の抗体、抗体を含有する予防または治療剤および当該抗体を用いることを特徴とする予防または治療方法によれば、これまで有効な予防手段がなかったマイコプラズマ感染症の予防をすることが可能となり、かつマイコプラズマ感染症を発症した場合でも速やかに治療することが可能となる。
本発明の検出方法によれば、マイコプラズマ・ニューモニエを短時間に精度よく検出することができ、本発明の診断方法によれば、マイコプラズマ感染症の発症を短時間に精度よく診断することが可能となる。
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正及び変更も、すべて後記の請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
本出願は、日本で出願された特願2005−311966(出願日:2005年10月26日)および特願2006−119581(出願日:2006年4月24日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
[配列表]
本発明の転写因子誘導剤によれば、前記リポペプチドを含有することから、マイコプラズマ感染における宿主応答およびマイコプラズマ肺炎の発症機序の解明、ならびに、TLRを介してNF−κBが関与する転写誘導の研究の進展に寄与することができる。
本発明のリポペプチドを含有するワクチン組成物によれば、従来有効な予防および改善手段が存在していなかったマイコプラズマ肺炎を予防または、その症状を軽減することが可能となる。
本発明の抗体、抗体を含有する予防または治療剤および当該抗体を用いることを特徴とする予防または治療方法によれば、これまで有効な予防手段がなかったマイコプラズマ感染症の予防をすることが可能となり、かつマイコプラズマ感染症を発症した場合でも速やかに治療することが可能となる。
本発明の検出方法によれば、マイコプラズマ・ニューモニエを短時間に精度よく検出することができ、本発明の診断方法によれば、マイコプラズマ感染症の発症を短時間に精度よく診断することが可能となる。
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正及び変更も、すべて後記の請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
本出願は、日本で出願された特願2005−311966(出願日:2005年10月26日)および特願2006−119581(出願日:2006年4月24日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
[配列表]
Claims (17)
- 前記R1およびR2が、炭素数7から19までのアルキル基である、請求項1記載のリポペプチド。
- 前記R1COおよびR2COが、パルミトイル基である、請求項1または2記載のリポペプチド。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のリポペプチドを含有する、トールライクレセプター(TLR)の活性化剤。
- 前記TLRが、TLR1、TLR2およびTLR6からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4記載の活性化剤。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のリポペプチドを含有する、転写因子誘導剤。
- 前記転写因子がNF−κBである、請求項6記載の転写因子誘導剤。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のリポペプチドおよび医薬として許容され得る担体を含有する、ワクチン組成物。
- アジュバントをさらに含有する、請求項8記載の組成物。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のリポペプチドに対する抗体。
- 前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項10記載の抗体。
- 前記抗体が、ヒト化抗体またはヒト抗体である、請求項10記載の抗体。
- 請求項10〜12のいずれか1項に記載の抗体を含有する、マイコプラズマ感染症の予防または治療剤。
- マイコプラズマ感染症の予防または治療剤を製造するための、請求項10〜12のいずれか1項に記載の抗体の使用。
- 請求項10〜12のいずれか1項に記載の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ・ニューモニエの検出方法。
- 請求項10〜12のいずれか1項に記載の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ感染症の診断方法。
- 請求項10〜12のいずれか1項に記載の抗体を用いることを特徴とする、マイコプラズマ感染症の予防または治療方法。
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