JPWO2005085488A1 - 耐熱鋳鉄及びそれからなる排気系部品 - Google Patents

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Abstract

800℃を超える温度で使用する排気系部品に用いる黒鉛含有耐熱鋳鉄であって、重量基準でSi:3.5〜5.6%及びW:1.2〜15%を含有し、黒鉛と基地組織との境界にW及びSiが濃化した中間層を有する耐熱鋳鉄。この耐熱鋳鉄からなる排気系部品は、30℃から3℃/分の速度で昇温したときのAC1変態点が840℃以上であり、かつ上限温度840℃、温度振幅690℃及び拘束率0.25の条件で加熱冷却する熱疲労試験における熱亀裂寿命が780サイクル以上である。

Description

本発明は、高い耐酸化性及び耐熱亀裂性を有する耐熱鋳鉄に関し、特に自動車エンジン用のエキゾーストマニホルド、ターボチャージャーハウジング、触媒ケース等の排気系部品に好適な耐熱鋳鉄に関する。
例えば、エキゾーストマニホルド、ターボチャージャーハウジング、触媒ケース、ターボチャージャーハウジング一体型エキゾーストマニホルド、触媒ケース一体型エキゾーストマニホルド、エキゾーストアウトレット等の自動車エンジン用排気系部品は、エンジンからの高温の排気ガスに繰り返し曝されるととにも、排気ガス中の硫黄酸化物、窒素酸化物等に直接曝される過酷な条件で使用されるので、耐酸化性及び耐熱亀裂性等の耐熱性を向上して、高い耐久性と長寿命を確保することが要求される。そのため、排気系部品は従来から鋳鉄の中でも比較的耐熱性が良好で、鋳造性や被削性が良い安価な高Siフェライト系球状黒鉛鋳鉄(Siを約4重量%含有する)により形成されている。
近年、自動車エンジンの高性能化及び燃費向上、並びに排気ガス規制の強化にともない、排気ガスの温度が上昇する傾向にある。そのため、排気系部品の温度が800℃を超えることも珍しくなく、排気系部品には一層の耐酸化性、耐熱亀裂性等の耐熱性が要求されてきている。そこで高温での球状黒鉛鋳鉄の物性を改善するための種々の改良が検討されている。
従来の高Siフェライト系球状黒鉛鋳鉄は鋳造性及び被削性に優れ、製造コストが低いという利点を有するが、耐酸化性、耐熱亀裂性等の耐熱性に限界がある。そのため、高Siフェライト系球状黒鉛鋳鉄からなる排気系部品は800℃を超える温度で使用することができない。
特開平9-87796号は、重量基準でC:2.7〜3.2%、Si:4.4〜5.0%、Mn:0.6%以下、Cr:0.5〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:1.0%以下、黒鉛球状化剤:0.1%以下、Fe:実質的に残部からなる組成を有する基地組織がフェライト相主体の耐熱球状黒鉛鋳鉄を開示している。この耐熱球状黒鉛鋳鉄は、比較的多いSi及び少量のCr及びNiの添加効果により、150〜800℃での繰り返し熱負荷を受ける環境下で高い耐酸化性及び耐熱亀裂性を示し、自動車エンジン用のターボチャージャーハウジング、エキゾーストマニホルド等の排気系部品に好適である。しかしながら、この耐熱球状黒鉛鋳鉄はWを含有していないので、耐酸化性及び耐熱亀裂性が必ずしも十分ではなく、特に常温から800℃を超える温度まで繰り返し加熱冷却される排気系部品に使用した場合、満足な熱亀裂寿命が得られない。
特開2002-339033号は、重量基準でC:3.1〜4.0%、Si:3.6〜4.6%、Mo:0.3〜1.0%、V:0.1〜1.0%、Mn:0.15〜1.6%、Mg:0.02〜0.10%、Fe及び不可避不純物:残部からなる組成を有する高温物性が改善されたフェライト系球状黒鉛鋳鉄を開示している。Si及びMoをベースにV及びMnの添加により、高温強度、耐熱変形性及び耐熱疲労性が向上しているとともに、室温から高温領域(約800〜900℃)までの引張強さ及び耐力も向上し、もって初期クラックまでの寿命が増大し、耐熱疲労性が向上している。これは、Vにより共晶セル粒界付近に高融点の微細炭化物が析出し、粒界ポテンシャルの向上と高温時でのパーライト組織の分解を阻止するとともに、Mnによりパーライト組織の析出が促進され、引張強さ及び耐力が向上するからである。しかしながら、このフェライト系球状黒鉛鋳鉄はWを含有していないので、耐酸化性及び耐熱亀裂性が必ずしも十分ではない。
特開平10-195587号は、重量基準でC:2.7%〜4.2%、Si:3.5%〜5.2%、Mn:1.0%以下、S:0.03%以下、Mg、Ca及び希土類元素の少なくとも1種:0.02〜0.15%(Mgを少なくとも0.02%含む)、As:0.03〜0.20%、Fe及び不可避不純物:残部からなる組成を有し、400℃付近の中温域における脆化が抑制された球状黒鉛鋳鉄を開示している。この球状黒鉛鋳鉄はさらに基地強化成分としてCr、Mo、W、Ti及びVの少なくとも1種を1重量%以下含有することにより、高温強度が改善され、また黒鉛化促進元素であるNi又はCuを3重量%以下含有することにより炭化物を抑制して延性が改善される。中温域における脆化抑制のメカニズムはまだ明らかではないが、黒鉛球状化後に余ったMg(結晶粒界へ偏析して中温脆化を発現すると考えられる)がAsと結合してMgの脆化作用が阻止されるとともに、Mgとの結合後に余ったAsにより結晶粒同士の結合状態が改善されて、中温脆性が緩和ないし抑制されるためであると考えられる。
しかしこの球状黒鉛鋳鉄では、Cr、Mo、W、Ti及びVの含有量が1重量%以下と少ないので、繰り返し加熱冷却される排気系部品に使用した場合、耐酸化性及び耐熱亀裂性が必ずしも十分ではない。またAsを含有させると、球状黒鉛鋳鉄の700℃以上での耐酸化性が損なわれる。その上、Asは微量でも猛毒で人体や環境に対して極めて有害な物質であるため、溶解から鋳込み工程において作業者の被毒を防止するための設備が必要であり、また設備の修理やメンテナンスにおいても被毒防止対策が必要である。さらに製品のリサイクルの際に環境汚染の問題がある。このようにAsを含有する球状黒鉛鋳鉄は実用性がない。
従来の高Siフェライト系球状黒鉛鋳鉄では、フェライト相とパーライト相からなる基地組織がオーステナイト相へ変化するフェライト−オーステナイト変態温度(AC1変態点)が800℃前後と低い。またオーステナイトの線膨張係数はフェライトのそれより大きい。従って、排気系部品の一部が約800℃又はそれ以上に昇温すると、AC1変態点を超えてオーステナイト相に変化するため、急激に膨張し、膨張率の差によるひずみが生じる。またエンジン停止等で排気系部品が降温する場合にも、オーステナイト−フェライト変態温度(Ar1変態点)を通過するので、膨張率の差によりひずみが生じる。このように、高Siフェライト系球状黒鉛鋳鉄からなる排気系部品は、ボルト締結等で他の部材に拘束された状態で相変態による膨張収縮により大きく変形する。またAC1変態点及びAr1変態点を繰り返し通過することにより二次黒鉛の析出が起こり、不可逆的な膨張を生じるので、大きな変形が生じる。
その上、排気系部品は硫黄酸化物、窒素酸化物等を含む高温の排気ガスや高温域で大気中の酸素等(以下「酸化性ガス」という)に曝され、表面に酸化膜が形成される。酸化膜がAC1変態点近傍又はそれを超える温度までの加熱冷却を受けると、酸化膜と基地組織との熱膨張差に起因して変形や内部ひずみが発生し、酸化膜に微小亀裂が発生する。亀裂を通って侵入した酸化性ガスは排気系部品内部を酸化(内部酸化)させ、さらに亀裂が進展する。このように高温での排気系部品の酸化と亀裂には密接な関係があり、両者は排気系部品の耐熱性、耐久性、寿命等に大きな影響を及ぼす。Siを約4%含有する高Siフェライト系球状黒鉛鋳鉄は普通の球状黒鉛鋳鉄に較べてAC1変態点が高く、高い耐酸化性を有するが、AC1変態点である800℃以上に昇温すると、耐酸化性及び耐熱亀裂性が不十分になって、寿命が短くなるという問題があった。
このため、約800℃を超える排気系部品には現在、耐酸化性、耐熱亀裂性等の耐熱性に限界がある従来の高Siフェライト系球状黒鉛鋳鉄の代わりに、より耐熱性に優れた約18〜35重量%のNiを含有するFCDA-NiCr20 2(ニレジストD2)、FCDA-NiSiCr35 5 2(ニレジストD5S)等のオーステナイト系球状黒鉛鋳鉄や、18重量%以上のCrを含有するフェライト系ステンレス鋳鋼、又は18重量%以上のCr及び8重量%以上のNiを含有するオーステナイト系ステンレス鋳鋼を用いている。
しかし、オーステナイト系球状黒鉛鋳鉄やステンレス鋳鋼は、高価なNiやCrを含有するために高コストである。またオーステナイト系球状黒鉛鋳鉄やステンレス鋳鋼は、高融点であるために湯流れ性が低く鋳造性が悪いので、鋳造時に引け巣や湯廻り不良等の鋳造欠陥が発生しやすく、鋳造時の歩留りが低い。そのため高歩留りで排気系部品を製造するには高度の鋳造技術や特別な生産設備が必要となる。加えて、多量に含有するCr等の粗大な炭化物により被削性が劣り、高度の加工技術が必要である。このような問題のため、オーステナイト系球状黒鉛鋳鉄やステンレス鋳鋼からなる排気系部品は著しく高価なものにならざるを得ない。
ねずみ鋳鉄(片状黒鉛鋳鉄)の高温酸化性雰囲気中での内部酸化は、酸化性ガスが三次元的に繋がっている片状黒鉛に沿って内部に侵入し、黒鉛の脱炭と同時に基地組織に酸化物を形成し、それにより生じた隙間や亀裂により酸化性ガスの侵入が促進されることにより起こると考えられる。内部酸化を抑制するために、以下の提案がされた。
(1) 連続性を有する片状黒鉛の球状化、黒鉛の微細化、黒鉛面積率の減少等により、黒鉛を分離して、酸化性ガスの侵入を抑制する。
(2) Siを4〜5%含有させて基地組織をシリコフェライトとし、AC1変態点を上昇させる。
(3) 炭化物安定元素であるCr、Mn、Mo、V等を添加して、基地組織を固溶強化するとともに、パーライトやセメンタイトを安定化する。
しかしいずれの提案も、約800℃又はそれを超える環境下での排気系部品の内部酸化や熱亀裂の抑制については、片状黒鉛鋳鉄や黒鉛形状を球状としただけの球状黒鉛鋳鉄では満足できるものではなかった。
なお球状黒鉛鋳鉄自体は古くから知られた素材で、排気系部品以外の用途に用いるために種々の組成のものが提案されている。例えば、特開昭61-157655号は、C:3.0〜7.0%、Si:5.0%以下、Mn:3.0%以下、Ni:0.5〜40.0%、及びCr:0.5〜20.0%に加えて、Cu:0.5〜30.0%、Co:0.1〜30.0%、Mo:0.1〜10.0%、W:0.1〜10.0%、V:0.05〜5.0%、Nb:0.01〜3.0%、Zr:0.01〜3.0%及びTi:0.01〜3.0%の1種以上を含有し、残部が実質的にFeからなり、黒鉛の面積率が5.0%以上、晶出した炭化物又は炭窒化物の面積率が1.0%以上の合金鋳鉄からなる鋳造工具を開示している。この合金鋳鉄の耐摩耗性は、主として鋳造時に晶出するCrの炭化物又は炭窒化物である硬質粒子により得られる。しかしCrの炭化物は靭性及び延性を低下させるため、この合金鋳鉄は排気系部品に必要な靭性及び延性を有さない。また炭化物又は炭窒化物の硬質粒子は被削性を悪化させるので、機械加工効率が低くなって製造コストが増加するために、排気系部品が高価となる。さらに0.5〜40.0%と多量のNiを含有しているために、フェライトを主相とした鋳鉄(フェライト系鋳鉄)のAC1変態点や耐酸化性が低下し、800℃を超える環境下で使用すると十分な耐久性や寿命を確保できない。従って、特開昭61-157655号に記載の鋳造工具から、800℃を超える環境下で使用する排気系部品に適する耐熱鋳鉄に想到することはできない。
また特開平11-71628号は、外側リング部を炭化タングステン基超硬合金で構成し、外側リング部に鋳込み接合された内側リング部を球状黒鉛鋳鉄で構成した複合圧延ロールであって、内側リング部は、重量基準でC:3〜4.5%、Si:1.5〜4.5%、Mn:0.1〜2%、Mg:0.02〜0.2%を含有し、さらにMo、Cu、Cr、V、W、Sn及びSbの1種以上:0.1〜5%を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成を有し、パーライト相、ベイナイト相及びマルテンサイト相のいずれかとフェライト相との混合相を主体とする素地に、有芯構造の球状黒鉛が分散し、前記有芯構造の球状黒鉛は、鋳造時に生成した芯部と、熱処理時に析出した周辺部からなる組織を有する球状黒鉛鋳鉄で構成したことを特徴とする耐熱衝撃性のすぐれた複合圧延ロールを開示している。この球状黒鉛鋳鉄の混合相を得るためには、鋳放しでパーライト相を主体とする素地を形成した後、450℃以上固相線以下の温度範囲内で加熱と冷却を繰り返す熱処理を施してフェライト相を形成させ、素地をパーライト相とフェライト相を主体とした混合相としている。
しかし、特開平11-71628号の球状黒鉛鋳鉄を800℃を超える環境下で使用する排気系部品に使用すると、パーライト相、ベイナイト相及びマルテンサイト相が分解して二次黒鉛が析出し、不可逆的な膨張により耐久性を確保できない。またMo、Cu、Cr、V、W、Sn及びSbのうち、Vは800℃を超える温度では耐酸化性を劣化させ、またSn及びSbは過剰になると共晶セル境界に燐片状の異常黒鉛が生成したり、基地組織にセメンタイトが生成して、靱性及び延性の低下、特に常温伸びの低下を招くという欠点がある。従って、Mo、Cu、Cr、V、W、Sn及びSbの中から、合金化する元素とその含有量を適正に選択しなければ、800℃を超える環境下で使用する排気系部品用材料として、十分なAC1変態点、耐酸化性、耐熱亀裂性、靭性及び延性を確保できない。従って、特開平11-71628号に記載の複合圧延ロールから、800℃を超える環境下で使用する排気系部品に適する耐熱鋳鉄に想到することはできない。
従って、本発明の目的は、耐酸化性及び耐熱亀裂性に優れ、例えば自動車エンジン用の高耐熱性排気系部品を安価に製造することができる耐熱鋳鉄を提供することである。
高い耐熱性が要求される鋳鉄部品には、高い耐酸化性及び耐熱亀裂性のみならず、良好な常温伸び及び高温強度も必要である。中でも耐酸化性は、高温での酸化と密接に関係する耐熱亀裂性に大きく影響するので、重要な特性である。
鋳鉄の耐酸化性及び耐熱亀裂性を改善するには、内部酸化と亀裂の起点となる黒鉛及びその周囲の基地組織が酸化されるのを抑制する必要がある。しかし、かかる酸化を抑制するのに、前述した片状黒鉛鋳鉄での内部酸化の抑制提案のように、黒鉛の形状や分布状態を改善するだけでは不十分である。というのは、酸化性ガスが黒鉛に沿って鋳鉄内部に侵入すると、黒鉛及びその周辺の基地組織の酸化が発生するからである。鋭意研究の結果、本発明者等は、黒鉛及びその周囲の基地組織の酸化を防止するには、黒鉛と基地との間である境界にW及びSiが濃化した中間層を生成させるのが有効であることを見出した。
すなわち、黒鉛を含有する本発明の耐熱鋳鉄は、重量基準でSi:3.5〜5.6%及びW:1.2〜15%を含有し、黒鉛と基地組織との境界にW及びSiが濃化した中間層を有することを特徴とする。
本発明の耐熱鋳鉄は、黒鉛を含有する耐熱鋳鉄であって、W及びSiを所定量含有し、黒鉛と基地との境界部にW及びSiが濃化した中間層を生成させている。この中間層が保護皮膜(バリア)となり、外部からの酸化性ガスの黒鉛への侵入と黒鉛からのCの拡散が抑制され、黒鉛及びその周辺の基地組織の酸化を防止して、耐熱鋳鉄の耐酸化性及び耐熱亀裂性が向上する。
本発明の耐熱鋳鉄は、FE-TEM-EDS(エネルギー分散型X線分析法)により測定した基地中のWの重量割合Xmに対する中間層中のWの重量割合Xiの比(Xi/Xm)が5以上であるのが好ましく、10以上であるのがより好ましい。またFE-TEM-EDSにより測定した基地中のSiの重量割合Ymに対する中間層中のSiの重量割合Yiの比(Yi/Ym)は1.5以上であるのが好ましく、2.0以上であるのがより好ましい。
黒鉛球状化元素として、0.005〜0.2重量%のMgを含有するのが好ましい。
Si及びWは重量基準でSi + (2/7) W≦8の条件を満たすのが好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄は、黒鉛及びWを含有し、黒鉛は基地との境界近傍にW含有炭化物を有する。W含有炭化物が黒鉛と基地との境界近傍に存在すると、外部からの酸化性ガスの侵入と黒鉛からのCの拡散を一層抑制し、耐酸化性が向上する。また酸化性ガスやCの拡散が優先的に発生すると考えられる黒鉛に接する粒界にもW含有炭化物が生成しているため、酸化性ガスやCの拡散を効果的に防止する。
基地との境界近傍にW含有炭化物を有する黒鉛の数は、黒鉛総数の75%以上であるのが好ましい。また黒鉛と基地との境界近傍におけるW含有炭化物の数(エッチングにより現れた黒鉛表面上のW含有炭化物の数により表す)は、黒鉛の単位面積当り3×105個/mm2以上であるのが好ましい。さらにW含有炭化物の面積率(エッチングにより現れた黒鉛表面上のW含有炭化物に対して求めた)は1.8%以上であるのが好ましい。W含有炭化物の面積率は2%以上がより好ましい。炭化物の数及び面積率の算出方法は後述する。
本発明の耐熱鋳鉄は、30℃から3℃/分の速度で昇温したときのAC1変態点が840℃以上であるのが好ましい。800℃の大気中に200時間保持したときの酸化減量は60 mg/cm2以下であるのが好ましく、また700℃と850℃の間を100回繰返し加熱冷却したときの酸化減量は70 mg/cm2以下であるのが好ましい。さらに上限温度840℃、温度振幅690℃及び拘束率0.25の条件で加熱冷却する熱疲労試験における熱亀裂寿命は780サイクル以上であるのが好ましい。さらに本発明の耐熱鋳鉄の常温伸びは1.8%以上であるのが好ましく、2.0%以上であるのがより好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄は、重量基準でC:1.5〜4.5%、Si:3.5〜5.6%、Mn:3%以下、W:1.2〜15%、Ni:0.5%未満、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:1.0%以下、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなる組成を有するのが好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄は、重量基準でC:1.8〜4.2%、Si:3.8〜5.3%、Mn:1.5%以下、W:1.5〜10%、Ni:0.3%以下、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:0.01〜0.2%、Si + (2/7) W≦8、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなる組成を有するのがより好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄は、上記元素の他に、5.5重量%以下のMo、6.5重量%以下のCu、及び5重量%以下のCoを単独又は2種以上組合せて含有してもよい。本発明の耐熱鋳鉄はさらに、1.0重量%以下のNb及び/又は0.05重量%以下のBを含有してもよい。本発明の耐熱鋳鉄はさらに、0.003〜0.02重量%のS及び0.05重量%以下の希土類元素を含有してもよい。
本発明の排気系部品は上記耐熱鋳鉄からなる。排気系部品としては、エキゾーストマニホルド、ターボチャージャーハウジング、ターボチャージャーハウジング一体型エキゾーストマニホルド、触媒ケース、触媒ケース一体型エキゾーストマニホルド、及びエキゾーストアウトレットが挙げられる。
本発明の好ましい実施態様による排気系部品は、800℃を超える温度で使用するもので、重量基準でC:1.5〜4.5%、Si:3.5〜5.6%、Mn:3%以下、W:1.2〜15%、Ni:0.5%未満、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:1.0%以下、Si + (2/7) W≦8、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、かつ鋳放しでフェライトを主相とした基地に黒鉛が晶出しているとともに、前記黒鉛と前記基地との境界にW及びSiが濃化した中間層を有する組織を有する耐熱鋳鉄からなり、もって30℃から3℃/分の速度で昇温したときのAC1変態点が840℃以上であり、かつ上限温度840℃、温度振幅690℃及び拘束率0.25の条件で加熱冷却する熱疲労試験における熱亀裂寿命が780サイクル以上である。
本発明のさらに好ましい実施態様による排気系部品は、重量基準でC:1.8〜4.2%、Si:3.8〜5.3%、Mn:1.5%以下、W:1.5〜10%、Ni:0.3%以下、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:0.01〜0.2%、Si + (2/7) W≦8、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなる組成を有する。
本発明の排気系部品は、800℃の大気中に200時間保持したときの酸化減量が60 mg/cm2以下であるのが好ましい。また本発明の排気系部品は、700℃と850℃の間を100回繰返し加熱冷却したときの酸化減量が70 mg/cm2以下であるのが好ましい。
以上詳細に説明したように、本発明の耐熱鋳鉄は黒鉛の酸化及び脱炭とその周囲の基地組織の酸化を抑制しているので、従来の高Siフェライト系球状黒鉛鋳鉄より耐酸化性及び耐熱亀裂性に優れるだけでなく、常温伸び、高温強度、高温耐力等の性能もバランスよく向上している。そのため、例えば自動車エンジン用排気系部品等の耐熱性が要求される部品に好適である。
本発明の耐熱鋳鉄の黒鉛とその周囲の組織を示す概略図である。 従来の鋳鉄の黒鉛とその周囲の組織を示す概略図である。 実施例8の耐熱鋳鉄のミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。 従来例3の耐熱鋳鉄のミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。 実施例8の黒鉛と基地との境界近傍のミクロ組織を示すFE-SEM写真である。 従来例3の黒鉛と基地との境界近傍のミクロ組織を示すFE-SEM写真である。 実施例8の黒鉛と基地との境界近傍のミクロ組織を示すFE-TEM高分解能写真である。 実施例8のX線回折結果を示すグラフである。 実施例8の黒鉛と基地との境界近傍のSi、W、Mo及びFeの濃度分布を示すグラフである。 従来例3の黒鉛と基地との境界近傍のSi、W、Mo及びFeの濃度分布を示すグラフである。 実施例8における黒鉛、炭化物等が露出した耐熱鋳鉄のFE-SEM写真である。 図11(a) の炭化物測定領域S2のFE-SEM写真である。 黒鉛の単位面積当りのW含有炭化物の数及び面積率を求める方法を示し、(a) は概略平面図であり、(b) は概略断面図である。 実施例8の耐熱鋳鉄の表面酸化の初期状態を示すFE-SEM写真である。 図13(a) の拡大写真である。 従来例3の耐熱鋳鉄の表面酸化の初期状態を示すFE-SEM写真である。 図14(a) の拡大写真である。 AC1変態点の読み取り方法を示す図である。 エキゾーストマニホルド、ターボチャージャーハウジング及び触媒ケースを含む排気系部品を示す斜視図である。 実施例75のエキゾーストマニホルドの耐久試験後の状態を示す概略平面図である。 従来例7のエキゾーストマニホルドの耐久試験後の状態を示す概略平面図である。 従来例8のエキゾーストマニホルドの耐久試験後の状態を示す概略平面図である。
[1] Wの作用
図1は本発明の耐熱鋳鉄の黒鉛とその周囲の組織を示す概略図であり、図2は従来の鋳鉄の黒鉛とその周囲の組織を示す概略図である。従来の鋳鉄では、硫黄酸化物、窒素酸化物等を含む排気ガスや、高温下で酸素、二酸化炭素、H2Oガス等の酸素を含むガス(まとめて「酸化性ガス」という)Gが鋳鉄の表面Fから内部に侵入して拡散することにより、鋳鉄の内部酸化が進行する。黒鉛21中の炭素Cは拡散が容易なため、表面Fに拡散し、酸化性ガスG中の酸素と結合してCO又はCO2となる(脱炭)。すなわち、酸化性ガスGの表面Fから内部への拡散と、Cの黒鉛21から外部への拡散により、酸化と脱炭が同時に進行する。黒鉛21中のCの拡散で脱炭が進行すると、黒鉛21の内部に空洞ができ、そこに酸化性ガスGが容易に侵入するため、益々酸化が進行する。従って、外部から黒鉛21への酸化性ガスGの侵入と、黒鉛21から外部へのCの拡散を抑制できれば、鋳鉄の酸化は抑制される。
これに対して、本発明の耐熱鋳鉄では、図1に示すように、黒鉛11と基地13の境界にW及びSiが濃化した中間層12が生成している。この中間層12が保護皮膜(バリア)となり、黒鉛11への酸化性ガスの侵入と黒鉛11からのCの拡散が抑制され、耐熱鋳鉄の耐酸化性(従って、耐熱亀裂性)が向上する。W及びSiが濃化した中間層12は鋳造時の凝固冷却過程で生成するが、さらに熱処理工程及び/又は高温での使用中にも生成すると考えられる。W及びSiは黒鉛11と基地13の境界に生成するのがエネルギー的に安定であるという理由で黒鉛11と基地13の境界に中間層12を生成すると考えられる。
またWは黒鉛11と基地13との境界に中間層12を生成するのみならず、両者の境界近傍にW含有炭化物14を形成(析出)し、Cの酸化と拡散を一層抑制して耐酸化性(従って、耐熱亀裂性)を向上する。これは、黒鉛11から拡散しようとするCが、黒鉛11と基地13との境界近傍でWと化合してW含有炭化物14を形成することで、基地13のオーステナイト化に必要なCが基地13中に拡散することが抑制されるためと考えられる。なお本明細書において、黒鉛と基地との境界近傍とは、黒鉛と基地との境界又は中間層を挟んで、黒鉛側約1μm、基地側約1μmの範囲をいう。
また酸化性ガスやCの拡散及びそれに伴うオーステナイト化変態は、基地組織の結晶粒内よりもフェライト粒界又は旧オーステナイト粒界で優先的に発生すると考えられるが、粒界にもW含有炭化物が生成するため、酸化性ガスやCの拡散が効果的に防止される。粒界を介しての黒鉛からのCの拡散は、図1に示すように、黒鉛11と接する粒界17にW含有炭化物16を形成することでより効果的に抑制される。
また基地13中にCが拡散しても、基地13中にWが固溶しているので、拡散したCは微細なW含有炭化物15を形成し、Cの酸化及び外気への拡散を防止するだけでなく、基地13のオーステナイト化に必要なCを固定してオーステナイト変態を抑制する。
WはAC1変態点を上昇させるので、排気ガス温度が上昇しても排気系部品のオーステナイト変態を起こりにくくし、耐熱性を向上させる。これは、図1に示すように、黒鉛11から基地13へのCの拡散が中間層12及びW含有炭化物14、16により抑制されることと、基地13へCが拡散しても、W含有炭化物15を形成し、基地13のオーステナイト化に必要なCが基地13中に拡散しにくいためオーステナイト変態が抑制され、その結果としてAC1変態点が上昇すると考えられる。一般にAC1変態点を上昇させるためには、Siを多量に含有させ、常温の延性を犠牲にせざるを得なかったが、Wを含有させることで、常温延性をさほど低下させずにAC1変態点を高くすることができる。
Wは共晶セル境界に濃化してW含有炭化物を形成し、耐熱鋳鉄の高温耐力を向上させる。またWの含有により共晶凝固温度が低下するので、湯流れ性(鋳造性)が良好となる上に、溶解温度を下げるので、溶解コストを抑制できる。
[2] 耐熱鋳鉄の組成
本発明の耐熱鋳鉄は、Wの他に、C、Si及び黒鉛球状化元素を必須元素とする。
(1) W:1.2〜15重量%
本発明の耐熱鋳鉄は1.2〜15重量%のWを含有する必要がある。Wは、黒鉛と基地との境界に濃化して中間層を生成する。さらに黒鉛と基地との境界近傍にW含有炭化物を形成する。中間層とW含有炭化物は、黒鉛への酸化性ガスの侵入と黒鉛からのCの拡散とを抑制して、黒鉛及びその周辺の基地組織の酸化を防止して、耐酸化性(従って、耐熱亀裂性)を効果的に向上させる。特にCの拡散は、粒界で優先的に進行すると考えられるが、黒鉛と接する粒界に生成したW含有炭化物により効果的に抑制される。Wが濃化した中間層は鋳造時の凝固冷却過程、熱処理工程及び/又は高温での使用中に生成すると考えられる。Wは黒鉛と基地の境界に生成するのがエネルギー的に安定であるため、境界に生成する。
Wが15重量%を超えても上記効果のさらなる向上が得られないばかりか、黒鉛球状化率及び常温伸びが低下し、原料コストが上昇するだけである。一方、Wが1.2重量%未満であると、中間層の生成量(厚さ)や中間層におけるWの濃化が不十分であり、耐酸化性及び耐熱亀裂性を十分に改善することができない。Wの含有量は好ましくは1.5〜10重量%であり、より好ましくは2〜5重量%である。
Wはオーステナイト系球状黒鉛鋳鉄に用いられるNiと同様に比較的高価な合金元素であるが、本発明の耐熱鋳鉄はWの含有量が1.2〜15重量%であるので、18〜35重量%のNiを含有するオーステナイト系球状黒鉛鋳鉄より材料コストを低く抑えられる。その上、Wを含有させても耐熱鋳鉄の湯流れ性及び引け性等の鋳造性は良好であり、耐熱鋳鉄の製造歩留りも低下しない。さらに本発明の耐熱鋳鉄は、鋳放しでフェライトを主相とした非オーステナイト系基地組織を有するため、線膨張係数が低く、加熱時の膨張量を低く抑えられる。
(2) C:1.5〜4.5重量%
CはSiと同様に溶湯の流動性を向上させるとともに、鋳造時に黒鉛を晶出させる元素である。Cが1.5重量%未満では溶湯の流動性が低い。一方、Cが4.5重量%を超えると粗大黒鉛が増加し、カーボンドロスとなり、引け巣も発生しやすくなる。従って、Cの含有量は1.5〜4.5重量%であり、好ましくは1.8〜4.2重量%であり、より好ましくは2.5〜4.0重量%である。
(3) Si:3.5〜5.6重量%
Siは鋳造時の黒鉛の晶出に寄与し、基地をフェライト化し、AC1変態点を上昇させる作用を有する。さらにSiの含有により、鋳鉄が高温の酸化性ガス中に置かれたときに表面に緻密な酸化膜が形成され易くなり、耐酸化性が向上する。SiはWとともに黒鉛と基地との境界の中間層に濃化して、外部から侵入した酸化性ガスと反応して、黒鉛と基地との境界に保護皮膜を生成し、黒鉛への酸化性ガスの侵入による黒鉛及びその周囲の基地の酸化と、黒鉛からのCの拡散を抑制する機能を高める。Siが濃化した中間層は鋳造時の凝固冷却過程、熱処理工程及び/又は高温での使用中に生成すると考えられる。Siは黒鉛と基地の境界に生成するのがエネルギー的に安定であるため、境界に生成する。このような作用を効果的に発揮するために、Siの含有量は3.5重量%以上である必要がある。しかしSiが5.6重量%を超えると、鋳鉄の靭性及び延性が極端に低下し、被削性も劣化する。従って、Siの含有量は3.5〜5.6重量%であり、好ましくは3.8〜5.3重量%であり、より好ましくは4.0〜5.0重量%である。
(4) Mn:3重量%以下
Mnは酸化性雰囲気において鋳鉄の表面に緻密な酸化膜を形成する作用を有する。Mnの含有量が3重量%を超えると、鋳鉄の靭性、延性及びAC1変態点が低下するので、3重量%以下とし、好ましくは1.5重量%以下とする。
(5) 黒鉛球状化元素:1.0重量%以下
本発明の耐熱鋳鉄では、黒鉛の形状そのものは特に限定されないが、一層高い耐酸化性が要求される場合や、常温伸び、高温耐力等の特性を向上させるためには、黒鉛は芋虫状、球状等であるのが好ましい。鋳放しで芋虫状及び/又は球状の黒鉛を晶出させるには、Mg、Ca、希土類元素等の黒鉛球状化元素を1.0重量%以下、好ましくは0.01〜0.2重量%、より好ましくは0.02〜0.1重量%含有させる。芋虫状黒鉛を有するバーミキュラ鋳鉄を得るには、黒鉛球状化元素のうちMgを0.005〜0.02重量%含有させるのが好ましい。また球状黒鉛鋳鉄を得るには、黒鉛球状化元素のうちMgを0.02〜0.08重量%含有させるのが好ましい。
(6)Si + (2/7) W:8以下(重量基準)
Si及びWの両方が増加すると、耐熱鋳鉄の延性は低下する。排気系部品のような鋳物部品は、生産工程、エンジンへの組み付け工程、自動車の運転中等において機械的な振動、衝撃及び静的荷重を受ける。従って排気系部品には、機械的な振動、衝撃及び静的荷重により亀裂や割れが発生しないように、充分な延性が要求される。特に金属材料の靭性及び延性は低温になるほど低いので、常温での延性は耐酸化性及び耐熱亀裂性等の耐熱性とともに重要な特性である。一般に常温での延性は常温伸びで代表される。Si + (2/7) W≦8の条件を満たすようにSiとWの含有量を調整することにより、排気系部品として必要な常温伸びを確保できる。
(7) Ni:0.5重量%未満
Niはフェライト系鋳鉄のAC1変態点を低下させる作用を有する。AC1変態点が低下した鋳鉄を高環境温度で使用すると、常温からAC1変態点付近又はそれ以上まで加熱冷却が繰り返され、基地中に二次黒鉛が析出して不可逆的な膨張を生じ、大きな変形が発生する。その結果、鋳鉄の耐熱亀裂性は低下する。またフェライト系鋳鉄へのNiの含有は内部酸化を助長し、耐酸化性を低下させる。このような悪影響はNiの含有量が0.5重量%以上で顕著となるので、Niは0.5重量%未満、好ましくは0.3重量%以下とする。
(8) Cr:0.3重量%以下
CrはAC1変態点を低下させるのみならず、フェライト基地を著しく脆化させ、常温伸びを低下させる作用を有する。排気系部品は、高温域のみならず常温域でも、鋳造や組立て等の製造過程及び使用中に加わる機械的な振動、衝撃及び静的荷重により亀裂や割れが生じないように、実用上十分な延性を有することが必要である。AC1変態点の低下と脆化を抑制するには、Crは0.3重量%以下に抑制するのが好ましい。
(9) S:0.003〜0.02重量%、及び希土類元素:0.05重量%以下
球状黒鉛鋳鉄を得る場合には、0.02〜0.08重量%のMgを含有するとともに、希土類元素(RE)及びSの含有量を制御するのが好ましい。MgがSと化合して球状黒鉛の核となるMgSを生成するのと同様に、希土類元素もSと化合して球状黒鉛の核となるRESを生成する。希土類元素は少量でも黒鉛球状化効果を発揮する有効な元素である。しかし、RESはMgSより黒鉛球状化能の減衰(フェイディング)が早く、フェイディングすると球状黒鉛鋳鉄の黒鉛球状化率は低下する。RESのフェイディング傾向は、特に凝固の遅い厚肉部で顕著である。従って、RESのフェイディングによる黒鉛球状化率の低下を抑制するために、希土類元素の含有量を抑制するのが好ましい。具体的には、希土類元素を0.05重量%以下とするのが好ましい。
良好な黒鉛球状化率を確保するために、RESよりフェイディングの遅いMgSを生成させる必要がある。MgSを生成するためには、RESに消費されるSの量を考慮して、Sを0.003重量%以上含有させるのが好ましい。ところがSは過剰に含有させると黒鉛球状化を阻害するため、通常忌避される元素であり、0.02重量%を超えると黒鉛形状が芋虫状又は片状となり、黒鉛球状化率の低下を招いて、常温伸び、耐酸化性及び耐熱亀裂性を低下させる。従って、本発明の耐熱鋳鉄においては、0.02〜0.08重量%のMgの他に、希土類元素を0.05重量%以下とするとともに、Sを0.003〜0.02重量%とするのが好ましい。より良好な黒鉛球状化率を確保するには、希土類元素を0.025重量%以下、Sを0.005〜0.018重量%とするのがより好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄は、上記元素の他に、耐酸化性及び耐熱亀裂性をさらに改善する目的、あるいはこれらの特性を損なうことなく常温伸び、高温強度、高温耐力、耐熱変形性等の特性を改善する目的で、必要に応じてMo、Cu、Co、Nb及びBを単独又は組合せて含有してもよい。
(10) Mo:5.5重量%以下
Moは基地中でCと化合して炭化物を晶出及び析出させ、また平均熱膨張係数を小さくして高温域における熱ひずみ(熱応力)を小さくし、鋳鉄の高温強度を向上させる。しかしMoが5.5重量%を超えると、AC1変態点が低下して鋳鉄の耐熱亀裂性が低下し、また炭化物が増加して鋳鉄の被削性が低下し、さらに引け性が増大して鋳鉄の鋳造性が悪化する。従って、Moは5.5重量%以下であり、好ましくは4.5重量%以下である。
(11) Cu:6.5重量%以下
Cuは鋳鉄の高温耐力を向上させる。Cuが6.5重量%を超えると、基地組織が脆くなり、割れ等の問題が起こる。従って、Cuは6.5重量%以下であり、好ましくは3.5重量%以下である。
(12) Co:5重量%以下
Coは比較的高価な元素であるが、フェライト基地に固溶して高温耐力を改善する。耐熱変形性を改善する目的で、Coを5重量%以下含有させるのが好ましい。5重量%を超えても効果は飽和し、材料コストが上昇するだけである。
(13) Nb:1.0重量%以下、B:0.05重量%以下
Nb及びBはいずれも耐熱鋳鉄の常温伸び、特にフェライト化焼鈍による常温伸びを改善する。Nbが1.0重量%超であると、鋳造時の湯流れ性が悪くなる他、ガス欠陥を助長する。またBが0.05重量%超であると、黒鉛球状化率が低下する。従って、必要に応じて1.0重量%以下のNb及び/又は0.05重量%以下のBを含有させるのが好ましい。
(14) その他の元素
上記元素の他に、必要に応じて、高温耐力の改善のためTi、V、Zr及びTaの少なくとも1種を1重量%以下(鋳造性及び切削性を損なわない範囲)、Alを0.2重量%以下、また黒鉛球状化率を向上させるためSn及びSbを(2Sn+Sb)として0.5重量%以下含有させてもよい。
上記付加的元素のなかにはV及びSb等のように耐酸化性を悪化させる元素もあるが、Wを含有する本発明の耐熱鋳鉄では黒鉛及びその周囲の基地組織の酸化が抑制されているので、上記組成範囲内である限り、耐酸化性は実質的に損なわれない。
(15) 組成例
本発明の耐熱鋳鉄の組成の具体例(重量基準)として、以下のものが挙げられる。
(a) 一般的組成範囲
C:1.5〜4.5%、Si:3.5〜5.6%、Mn:3%以下、W:1.2〜15%、Ni:0.5%未満、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:1.0%以下、残部:実質的にFe及び不可避不純物。
(b) 好ましい組成範囲
C:1.8〜4.2%、Si:3.8〜5.3%、Mn:1.5%以下、W:1.5〜10%、Ni:0.3%以下、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:0.01〜0.2%、残部:実質的にFe及び不可避不純物。
(c) より好ましい組成範囲
C:2.5〜4.0%、Si:4.0〜5.0%、Mn:1.5%以下、W:2〜5%、Ni:0.3%以下、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:0.02〜0.1%、残部:実質的にFe及び不可避不純物。
本発明の耐熱鋳鉄はSi + (2/7) W≦8の条件を満たすのが好ましい。本発明の耐熱鋳鉄は、必要に応じて0.003〜0.02%、好ましくは0.005〜0.018%のS、及び0.05%以下、好ましくは0.025%以下の希土類元素を含有しても良い。黒鉛球状化元素としてのMgは0.02〜0.08%が好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄はまた必要に応じて、5.5%以下、好ましくは4.5%以下のMo、6.5%以下、好ましくは3.5%以下のCu、5%以下のCo、1.0%以下のNb及び/又は0.05%以下のBを含有しても良い。本発明の耐熱鋳鉄はさらに必要に応じて、Ti、V、Zr及びTaの少なくとも1種:1%以下、Al:0.2%以下、及びSn及び/又はSb:0.5%以下(2Sn+Sbとして)を含有しても良い。
[3] 耐熱鋳鉄の組織及び特性
本発明の耐熱鋳鉄は、FE-TEM-EDS(エネルギー分散型X線分析法)により測定した基地中のWの重量割合Xmに対する中間層中のWの重量割合Xiの比(Xi/Xm)が5以上であるのが望ましい。比(Xi/Xm)は中間層におけるWの濃化度を表し、Wの濃化度が5倍以上であれば、酸化性ガスの侵入とCの拡散を効果的に防ぐことができる。ここで、Wの重量割合Xiは中間層内の任意の位置で測定した値である。Xi/Xmは10以上であるのがより好ましい。
FE-TEM-EDSにより測定した基地中のSiの重量割合Ymに対する中間層中のSiの重量割合Yiの比(Yi/Ym)は1.5以上であるのが望ましい。比(Yi/Ym)は中間層におけるSiの濃化度を表し、Siの濃化度が1.5倍以上であると、酸化性ガスの侵入とCの拡散とを効果的に防ぐことができる。ここで、Siの重量割合Yiは中間層内の任意の位置で測定した値である。Yi/Ymは2.0以上であるのが好ましい。
基地との境界近傍にW含有炭化物を有する黒鉛の数は、黒鉛総数の75%以上であるのが好ましい。これにより、酸化性ガスの侵入とCの拡散が抑制されて、耐熱鋳鉄の耐酸化性(従って、耐熱亀裂性)が向上する。W含有炭化物は鋳造時の凝固冷却過程で析出するが、熱処理工程及び/又は高温での使用中にも析出すると考えられる。W含有炭化物はエネルギー的に黒鉛と基地の境界近傍に生成すると考えられる。
黒鉛と基地との境界近傍に存在するW含有炭化物の数及び面積率が大きいと、酸化性ガスの侵入とCの拡散を抑制する効果が大きい。具体的には、黒鉛と基地との境界近傍において、黒鉛が有するW含有炭化物の数(エッチングにより現れた黒鉛表面上のW含有炭化物の数により表す)は、黒鉛の単位面積当り3×105個/mm2以上であるのが好ましく、またW含有炭化物の面積率(エッチングにより現れた黒鉛表面上のW含有炭化物に対して求めた)は1.8%以上であるのが好ましく、2%以上であるのがより好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄は、30℃から3℃/分の速度で昇温したときのAC1変態点が840℃以上であるのが好ましい。耐酸化性及び耐熱亀裂性を向上させるためには、排気系部品が受ける最高温度が800℃以上でもAC1変態点を超えないことが必要である。高価なオーステナイト系球状黒鉛鋳鉄やステンレス鋳鋼等の代替品として使用するには、AC1変態点が840℃以上であるのが好ましい。排気系部品が受ける加熱冷却サイクルにおける昇温速度はほとんどの場合3℃/分超である。一般に昇温速度が大きいほど、AC1変態点は高く測定されると言われている。従って3℃/分の昇温速度で測定されたAC1変態点が840℃以上であれば、実際の排気系部品等の耐熱部品に対して十分な耐熱性及び耐久性を確保できる。本発明の耐熱鋳鉄は、室温として30℃から3℃/分の速度で昇温したときのAC1変態点が840℃以上であるので、耐酸化性及び耐熱亀裂性に優れ、排気ガスにより常温から800℃を超える温度に繰り返し加熱冷却される排気系部品に使用した場合に、高い耐久性と長い寿命が確保できる。
本発明の耐熱鋳鉄は、800℃の大気中に200時間保持したときの酸化減量が60 mg/cm2以下であるのが好ましい。排気系部品は酸化性ガスに曝されて酸化され、生成した酸化膜を起点に亀裂が入り、その亀裂がさらに酸化を助長して、部品内部まで進展し、最終的に貫通する。鋳鉄を700℃以上、特に900℃付近の温度の排気ガスに曝される排気系部品に使用する場合、排気系部品の温度は800℃以上となる。従って、800℃の大気中に200時間保持して鋳鉄の温度を800℃としたときの酸化減量が60 mg/cm2を超えると、亀裂の起点となる酸化膜の生成が多くなり、耐酸化性が不十分となる。800℃の大気中に200時間保持したときの酸化減量が60 mg/cm2以下であると、酸化膜の生成及び亀裂の発生が抑制されるので、耐酸化性及び耐熱亀裂性に優れ、高い耐熱性及び耐久性と長い寿命を有する耐熱鋳鉄が得られる。本発明の耐熱鋳鉄の酸化減量は50 mg/cm2以下であるのがより好ましく、36 mg/cm2以下であるのが最も好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄は、700℃と850℃の間を100回繰返し加熱冷却したときの酸化減量が70 mg/cm2以下であるのが好ましい。酸化性ガスに曝された排気系部品は酸化され、表面に酸化膜が生成する。この酸化膜が高温の排気ガスとの接触により繰返し加熱されると、酸化膜と基地との熱膨張差により亀裂や酸化膜の剥がれが生じる。剥がれた酸化膜は他の部品を汚染し、故障の原因となる等、エンジンの信頼性を損ねるおそれがある。従って、排気系部品には繰返し加熱を受けても酸化膜が生成しにくく、亀裂や酸化膜の剥がれが発生しにくい優れた耐酸化性が要求される。鋳鉄を700℃以上、特に900℃付近の温度の排気ガスに曝される排気系部品に使用する場合、排気系部品の温度は800℃以上となる。鋳鉄の温度を700℃と850℃の間を100回繰返し加熱冷却したときの酸化減量が70 mg/cm2を超えると、酸化膜の生成が多くなるとともに酸化膜が剥がれやすくなり、耐酸化性が不十分となる。700℃と850℃の間を100回繰返し加熱冷却したときの酸化減量が70 mg/cm2以下であると、酸化膜の生成及び亀裂と酸化膜のはがれの発生が抑制されるので、耐酸化性及び耐熱亀裂性に優れ、高い耐熱性及び耐久性と長い寿命を有する耐熱鋳鉄が得られる。本発明の耐熱鋳鉄の加熱冷却したときの酸化減量は60 mg/cm2以下であるのがより好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄は、大気中で、上限温度840℃、温度振幅690℃及び拘束率0.25の条件で加熱冷却する熱疲労試験での熱亀裂寿命が780サイクル以上であるのが好ましい。排気系部品には、耐酸化性及び耐熱亀裂性に加えて、エンジンの運転(加熱)と停止(冷却)の繰り返しに対する熱亀裂寿命が長いことが要求される。熱亀裂寿命は、耐熱性の優劣を表す指標の1つであり、熱疲労試験での加熱冷却の繰り返しで生じる亀裂により熱疲労破壊に至るまでのサイクル数で表される。700℃以上、特に900℃付近の排気ガスに曝される排気系部品の温度は800℃以上となる。上記条件での熱亀裂寿命が780サイクル未満では、排気系部品に使用した時に熱疲労破壊に至るまでの寿命が十分でない。780サイクル以上の熱亀裂寿命を有する本発明の耐熱鋳鉄からなる排気系部品等の耐熱部品は長い寿命を有する。本発明の耐熱鋳鉄の熱亀裂寿命は800サイクル以上であるのがより好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄は、常温伸びが1.8%以上であるのが好ましい。本発明の耐熱鋳鉄を自動車エンジン用排気系部品として使用する場合、常温から800℃を超える温度まで繰り返し加熱冷却される排気系部品には、加熱時の膨張と冷却時の収縮との繰り返しにより熱応力が発生する。従って耐熱鋳鉄には、高温域から常温域への冷却時に生ずる収縮による引張応力に抗しうる常温での延性(常温伸び)が必要で、常温伸びが不足すると亀裂や割れが発生しやすくなり熱亀裂寿命が不十分となる。また常温域での排気系部品の生産中、エンジンへの組み付け中、自動車の運転中等における機械的な振動、衝撃及び静的荷重により、排気系部品に亀裂や割れが発生するおそれがある。
耐熱鋳鉄の常温伸びが1.8%未満であると、熱応力に起因する亀裂や割れが発生しやすく熱亀裂寿命が不十分であり、また常温域での機械的な振動、衝撃及び静的荷重による亀裂や割れを防止する実用上十分な延性を確保できない。常温伸びが1.8%以上であれば、亀裂や割れの発生が抑制されるので、耐熱亀裂性(熱亀裂寿命)に優れ、また実用上十分な延性が確保された耐熱鋳鉄が得られる。本発明の耐熱鋳鉄の常温伸びは、2.0%以上であるのがより好ましい。
常温伸びを向上するためには、黒鉛球状化率を増加することが有効で、バーミキュラ鋳鉄の場合は黒鉛球状化率を30%以上、球状黒鉛鋳鉄の場合は黒鉛球状化率を70%以上とすることが望ましい。
本発明の耐熱鋳鉄は鋳放しでも上記特性を発揮するが、鋳造時の残留応力を除去したり、基地組織を均一化したりする目的で熱処理を施すのが望ましい。具体的には、600℃以上に保持した後、炉冷又は空冷するフェライト化焼鈍を施せば、鋳造時の残留応力を除去できる。また基地組織の均一化や硬度を調整する場合は700℃以上に保持するのが好ましい。熱処理を施す場合、Nb及び/又はBを含有させると常温伸びを改善するのに効果的である。鋳放しで黒鉛と基地との境界にW及びSiが濃化した中間層をさらに厚く形成したり、黒鉛と接する粒界等を含め黒鉛と基地組織の境界近傍に形成されたW含有炭化物の数及び面積率を増加させたりする目的でも、上記熱処理は有効である。熱処理時間は排気系部品のサイズにより適宜選択すればよい。
[4] 排気系部品
本発明の排気系部品は、800℃を超える温度で使用し得るもので、重量基準でC:1.5〜4.5%、Si:3.5〜5.6%、Mn:3%以下、W:1.2〜15%、Ni:0.5%未満、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:1.0%以下、Si + (2/7) W≦8、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、かつ鋳放しでフェライトを主相とした基地に黒鉛が晶出しているとともに、前記黒鉛と前記基地との境界にW及びSiが濃化した中間層を有する組織を有する耐熱鋳鉄からなり、もって30℃から3℃/分の速度で昇温したときのAC1変態点が840℃以上であり、かつ上限温度840℃、温度振幅690℃及び拘束率0.25の条件で加熱冷却する熱疲労試験における熱亀裂寿命が780サイクル以上である。
このような排気系部品としては、エキゾーストマニホルド、ターボチャージャーハウジング、ターボチャージャーハウジング一体型エキゾーストマニホルド、触媒ケース、触媒ケース一体型エキゾーストマニホルド、エキゾーストアウトレット等が挙げられる。本発明の排気系部品は、従来の高Si球状黒鉛鋳鉄では対応できないほど高温の排気ガスに対しても使用可能である。具体的には、本発明の耐熱鋳鉄からなる排気系部品は、700℃以上、特に900℃付近の排気ガスに曝されて、常温から800℃を超える温度まで繰り返し加熱冷却されても、長寿命である。
図16は、エキゾーストマニホルド151、ターボチャージャーハウジング152、及び触媒ケース154を含む排気系部品を示す。この排気系部品は、エンジンシリンダ(図示せず)からの排気ガス(矢印Aで示す)をエキゾーストマニホルド151で集合させ、排気ガスの運動エネルギーでターボチャージャーハウジング152内のタービン(図示せず)を回転させるとともに、タービンと同軸の圧縮機を駆動して、吸入した空気(矢印Bで示す)を圧縮し、高密度の空気をエンジンに供給する(矢印Cで示す)ことにより、エンジンの出力を高めるものである。ターボチャージャーハウジング152から来る排気ガスは接続部153を経由して触媒ケース154に入り、その中で有害物質が触媒により除去された後、消音マフラー155を経由して大気中に放出(矢印Dで示す)される。各部品の主要部の肉厚は、エキゾーストマニホルド151が2.0〜4.5 mmであり、ターボチャージャーハウジング152が2.5〜5.5 mmであり、接続部153が2.5〜3.5 mmであり、触媒ケース154が2.0〜2.5 mmである。
これらの部品は鋳造可能であれば、例えばターボチャージャーハウジング一体型エキゾーストマニホルドや、触媒ケース一体型エキゾーストマニホルドのように、一体化することができる。
本発明の耐熱鋳鉄はWを含有するが、オーステナイト系球状黒鉛鋳鉄やステンレス鋳鋼のような高級材より材料コストが低く、また鋳造性及び被削性が良い。従って、本発明の耐熱鋳鉄からなる排気系部品は、高度な製造技術を必要とせずに製造歩留りが高いので、製造コストが低い。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1〜74、比較例1〜16、従来例1〜6
表1に示す化学組成(重量%)を有する鋳鉄をSiO2ライニングの100 kg高周波炉で大気溶解し、1450℃以上で出湯し、市販のFe-Si-Mgを用いたサンドイッチ法により球状化処理を行った。その後直ちに1300℃以上でYブロック型に注湯した。型ばらし後、各供試材にショットブラストを行い、表2に示すように600℃〜940℃の温度で3時間保持後、炉冷するフェライト化焼鈍を行った。なお、実施例9、比較例1及び9、及び従来例1、2及び4の供試材には熱処理を行わず、また比較例2の供試材には炉冷ではなく空冷するフェライト化焼鈍を行った。従来例5及び6の供試材に対しては、球状化処理を市販のNi-Mgを用いたサンドイッチ法により行い、熱処理として910℃で4時間保持後、空冷する処理を行った。実施例8及び9並びに比較例8及び9の供試材は、熱処理の有無以外は同じ条件で、同一の溶湯を用いて鋳造した。比較例1〜10の供試材はWの含有量が1.2重量%未満であり、比較例11〜13の供試材はWの含有量が15重量%超である。また比較例14及び15はSiの含有量が3.5重量%未満であり、比較例16はSiの含有量が5.6重量%超である。なお表1に示す化学組成以外の残部は、実質的にFe及び不可避的不純物である。
従来例1〜6の供試材の材質は以下の通りである。
従来例1:JISのFCD450。
従来例2:Moを含有する高Si球状黒鉛鋳鉄(Hi-SiMo)。
従来例3:特開平9-87796号に記載の耐熱球状黒鉛鋳鉄。
従来例4:特開2002-339033号に記載のフェライト系球状黒鉛鋳鉄。
従来例5:ニレジストD2(オーステナイト系球状黒鉛鋳鉄)。
従来例6:ニレジストD5S(オーステナイト系球状黒鉛鋳鉄)。
注:(1) Mg+Ca+REM。
表1続き
表1続き
注:(1) Mg+Ca+REM。
表1続き
表1続き
注:(1) Mg+Ca+REM。
表1続き
表2続き
表2続き
(1) 中間層及びその近傍における元素の濃度分布及びミクロ組織
実施例1〜74、比較例1〜16及び従来例1〜6の各鋳鉄に対して、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)及びそれに装着されたエネルギー分散型X線分析装置(FE-SEM EDS、(株)日立製作所製S-4000)、並びに電界放出型透過電子顕微鏡(FE-TEM)及びそれに装着されたエネルギー分散型X線分析装置(FE-TEM EDS、(株)日立製作所製HF-2100)を用いて、以下の観察を行った。
まず各鋳鉄の10 mm角の試料を直径30 mmの樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、光学顕微鏡(400倍)でミクロ組織を観察した。次いで、FE-SEM(1万倍)を用いて黒鉛と基地との境界における中間層の有無を観察した。
さらに集束イオンビーム加工観察装置((株)日立製作所製FB-2000A)を用いた集束イオンビーム加工(FIB)によるマイクロサンプリング法により、中間層及びその近傍領域を厚さ4μm×長さ10μm×幅15μmのサイズで切り出し、0.1μmの厚さまで薄片化した。得られた各供試材における黒鉛と基地組織の境界近傍をFE-TEMにより観察するとともに、エネルギー分散型X線分析法(EDS)により元素分析した。
実施例8及び従来例3の供試材について、ミクロ組織の光学顕微鏡写真をそれぞれ図3及び図4に示し、黒鉛と基地との境界近傍におけるミクロ組織のFE-SEM写真をそれぞれ図5及び図6に示す。また実施例8の黒鉛と基地との境界近傍におけるミクロ組織のFE-TEM高分解能写真(200万倍)を図7に示す。
図3及び図4の光学顕微鏡写真から、実施例8は従来例3と共晶セル境界に存在する共晶炭化物38の形態が異なり、フェライト相からなる基地33中(粒内)にも微細な炭化物39が存在することが分かる。しかし、倍率400倍の光学顕微鏡観察では、黒鉛31と基地33との境界における中間層及び炭化物の有無を判別することができなかった。なお図4における41は黒鉛を示し、43は基地(白色コントラストはフェライト相、黒色コントラストはパーライト相)を示し、48は共晶炭化物を示す。
1万倍のFE-SEM写真である図5から、実施例8では黒鉛51と基地53との境界に中間層52が見られ、W含有炭化物粒子54が形成されていることが確認できる。W含有炭化物は、境界近傍の他、基地53中(55)、及び黒鉛51と接する粒界57(56)にも形成されている。炭化物がWを含むことの確認方法については後述する。また1万倍のFE-SEM写真である図6から、従来例3では黒鉛61と基地63との境界や両者の境界近傍に中間層やW含有炭化物粒子がないことが確認できる。
実施例8の供試材における炭化物の結晶構造を確認した。まず実施例8の供試材から20 mm角の試料を切り出し、エメリー紙による研磨で表面の酸化層を除去した後、残渣抽出法(10%硝酸アルコール溶液中で超音波加振しながら試料を化学腐食した後、残渣をフィルターで濾過抽出する方法)により黒鉛と炭化物を抽出した。得られた抽出物に対して、X線回折装置((株)リガク製RINT 1500型)を用いて、X線回折(Coターゲット、50 kV、200 mA)による解析を行った。結果を図8に示す。図8より、実施例8の供試材は、Wを含むM6C(ASTMカードで41-1351に合致)とM12C(ASTMカードで23-1127に合致)の両方の炭化物を含有することが分かった。
実施例8の試料のFE-TEM高分解能写真(200万倍)である図7には、約10 nmの厚さの中間層72が認められた。中間層72の結晶方位は、隣り合う黒鉛71及び基地73の結晶方位と相違しているので、中間層72は黒鉛71及び基地73のいずれとも異なる相であることが分かる。同じ試料の数カ所の中間層72を観察した結果、中間層72の幅は最大20 nm程度であった。
さらにFE-TEM-EDSを用いた元素分析により、黒鉛と基地との境界近傍におけるSi、W、Mo及びFeの濃度分布を調べた。図9及び図10はそれぞれ実施例8及び従来例3の供試材におけるSi、W、Mo及びFeの濃度分布を示す。Siの分析値は、ガウシアン法によるピーク分離法により求めた。ただし、このピーク分離法では、SiのKα線とWのMα線とに重なりがあるため、Siの分析値が大きめの値になることが想定された。そこでSiの分析値を補正するため、校正を目的にSiを含有しないWC超硬合金について分析を行い、Siが存在すると仮定してピーク分離し、このときのSiとWの分析値の比(Si/W比)を求めたところ、Si/W比は0.3であった。そこで、Siの分析値から、Wの分析値に0.3を乗じた値を差し引いて、補正後のSi値を求めた。本発明においては、基地中のSiの重量割合Ymと中間層におけるSiの重量割合Yiとして、ピーク分離法でのSiのKα線とWのMα線との重なりを考慮した補正値を用いた。なお、Wの分析値はLα線から求めたもので、このようなピーク分離の必要はない。
実施例1〜74、比較例1〜16及び従来例1〜6について、黒鉛形状、黒鉛球状化率、中間層の厚さ、W及びSiの濃化、及びXi/Xm及びYi/Ymを測定した。黒鉛形状は、黒鉛球状化率が70%以上の場合を「球状」とし、70%未満の場合を「芋虫状」とした。黒鉛球状化率はJIS G5502 10.7.4の黒鉛球状化率判定試験法により測定した。また3個の黒鉛の各々において中間層及び基地の任意の位置2箇所でXi/Xm及びYi/Ymを計測し、平均値を求めた。結果を表3に示す。なお、W及びSiの濃化の評価基準は下記の通りである。
○:中間層が認められ、Xi/Xm又はYi/Ymが好ましい範囲にあった。
△:中間層が認められ、Xi/Xm又はYi/Ymが好ましい範囲外にあった。
×:中間層が認められなかった。
図9から明らかなように、実施例8の供試材では、基地93から黒鉛91にかけてW及びSiの濃度が徐々に増加し、中間層92では基地93よりW及びSiが濃化していた。これに対応してFeは低下した。実施例8の供試材では、基地中のWの重量割合Xmに対する中間層中のWの重量割合Xiの比(Xi/Xm)は15.80(平均値)であった。また基地中のSiの重量割合Ymに対する中間層中のSiの重量割合Yiの比(Yi/Ym)は2.29(平均値)であった。また従来例3では、図10に示すように、中間層の生成が確認されず、Si及びWの濃化は認められなかった。
表3から明らかなように、実施例1〜74ではいずれも中間層が認められ、W及びSiの濃化が認められた。実施例1〜74では、実施例18を除きXi/Xmが5以上であり、また実施例1〜17及び20〜74ではYi/Ymが1.5以上であった。これに対して、比較例1〜5ではいずれも中間層でのW及びSiの濃化が不十分であり、Xi/Xmは3.85以下であり、Yi/Ymは1.38以下であった。比較例6〜9では、中間層におけるSiの濃化は十分であったが(Yi/Ym:1.60〜1.80)、Wの濃化は不十分であった(Xi/Xm:3.07〜4.98)。また比較例10〜13では、中間層におけるW及びSiの濃化は十分であったが、Wの含有量が本発明の範囲外であったために、後述する熱亀裂寿命が780サイクル未満と不十分であった。さらに比較例14〜16では、Siの含有量が本発明の範囲外であるために、中間層におけるW及びSiの濃化に関係なく、熱亀裂寿命が780サイクル未満であった。
実施例8及び9を比較すると、熱処理を施していない実施例9では、中間層の厚さが1〜8 nmと小さいのに対し、熱処理を行った実施例8では、中間層の厚さが10〜20 nmと大きく、熱処理により中間層が厚くなることが確認された。これは、熱処理により中間層の生成が安定化することを示す。
Wの含有量が1.2重量%未満の比較例1〜10では中間層の厚さがほとんど0〜10 nmで一部中間層のない部位があるのに対し、Wの含有量が1.2重量%以上の実施例1〜74では中間層の厚さはほとんど5 nm以上であった。これから、1.2重量%以上のWを含有すれば、厚い中間層が安定して生成されることが分かる。
実施例1〜74、比較例1〜16及び従来例1〜6における鏡面研磨仕上げした各試料を超音波洗浄装置内の10%ナイタールエッチング液に入れて約1〜5分間エッチングし、さらに腐食生成物を除去するため10%塩酸で洗浄した後、有機溶剤で洗浄した。このエッチング処理により、基地が優先的にエッチングされ、黒鉛表面上の炭化物が立体的に現われた。黒鉛表面上のW含有炭化物の数は黒鉛と基地との境界近傍に存在するW含有炭化物の数と比例すると考えられるので、ここでは黒鉛と基地との境界近傍に存在する炭化物の数を表すパラメータとして、エッチングにより現れた黒鉛表面上のW含有炭化物の数を用いた。またW含有炭化物の面積率は、エッチングにより現れた黒鉛表面上のW含有炭化物について求めた。
実施例8の試料の黒鉛と基地との境界近傍に存在する炭化物をFE-SEMで観察した。また黒鉛表面の炭化物の成分を調べるため1万倍の倍率でEDS分析を行ったところ、64.7重量%のW、10.0重量%のMo、23.6重量%のFe及び1.7重量%のCが検出された。この結果から、黒鉛と基地との境界近傍に存在する炭化物(黒鉛表面の炭化物)はWを含むことが分かった。実施例8の試料のFE-SEM写真を図11(a) に示す。黒鉛111の表面に多数のW含有炭化物114が形成されていることが分かる。
試料の1 mm2の面積に相当するFE-SEM写真の任意の3視野内で、黒鉛の総数NcとW含有炭化物を有する黒鉛の数Ncwをカウントし、黒鉛総数に対するW含有炭化物を有する黒鉛の数の割合(Ncw/Nc)を算出した。黒鉛と基地との境界近傍にW含有炭化物が存在するか否かは、1万倍以上の倍率での黒鉛の観察及びEDS分析により判断した。実施例8は、観察した視野内で全ての黒鉛表面にW含有炭化物が存在しており(Ncw/Nc)は100%であった。
黒鉛表面におけるW含有炭化物の数及び面積率の算出方法は以下の通りである。図12(a) 及び(b) に概略的に示すように、上述のエッチング処理により露出した黒鉛111の表面111aのFE-SEM写真を試料面に対して垂直に撮り、黒鉛表面111aの投影二次元画像S1を得た(図12(a) )。投影二次元画像S1の重心位置Gr(ほぼ中央)を含む領域において、黒鉛投影面積の10〜15%に相当する部分を炭化物測定領域S2として抽出して、FE-SEM写真を撮影した。得られたFE-SEM写真からW含有炭化物の輪郭をトレーシングペーパ上にトレースし、画像解析装置(旭化成(株)製IP1000型)でW含有炭化物の数及び面積を測定した。得られた測定値を炭化物測定領域S2の面積で除して、単位面積当りのW含有炭化物の数及び面積率を算出した。上記測定を、W含有炭化物を有する黒鉛の中から、無作為に選出した15個の黒鉛について行い、その平均値を求めた。
黒鉛投影面積の10〜15%を炭化物測定領域S2として抽出したのは、10%未満では黒鉛の全投影面積に対して測定領域が小さすぎるため、全体を反映していないおそれがあり、また15%を超えると、露出した黒鉛の曲率のため特に黒鉛外縁部における炭化物が二次元的に重なり、判別不能になるからである。
図11(b) は炭化物測定領域S2(黒鉛投影面積の13%の面積)の拡大写真である。黒鉛111の表面に粒状に白く見えるのがW含有炭化物114である。実施例8の試料は、W含有炭化物を有する黒鉛の15個の平均値で黒鉛の単位面積当りのW含有炭化物の数は7.84×105個/mm2であり、W含有炭化物の面積率は6.7%であった。またW含有炭化物114の平均粒子径は0.34μmであった。
このようにして、W含有炭化物を表面に有する黒鉛の割合、黒鉛の単位面積当りのW含有炭化物の数(個/mm2)、及び黒鉛表面におけるW含有炭化物の面積率を求めた。結果を表4に示す。
表4から明らかなように、実施例1〜74ではいずれも表面にW含有炭化物を有する黒鉛の数は黒鉛総数の61%以上であった。特に実施例2〜19及び24〜74では表面にW含有炭化物を有する黒鉛の数は黒鉛総数の75%以上であった。一方、比較例1〜6、9及び14では表面にW含有炭化物を有する黒鉛の数は黒鉛総数の75%未満であった。黒鉛の単位面積当りのW含有炭化物の数については、実施例1〜35及び40〜74は3×105個/mm2以上であったが、比較例1〜10では3×105個/mm2未満であった。さらに黒鉛表面におけるW含有炭化物の面積率については、実施例1〜74はほとんど1.8%以上であったが、比較例1〜10は1.8%未満であった。なお従来例1〜6では、黒鉛表面上にW含有炭化物は認められなかった。
実施例8及び9を比較すると、基地との境界近傍に存在するW含有炭化物を有する黒鉛の数はいずれも黒鉛総数の100%であったが、熱処理を行った実施例8では熱処理を行わなかった実施例9より黒鉛の単位面積当りのW含有炭化物の数及び面積率が多いことが分かった。これから、熱処理により黒鉛と基地との境界近傍にW含有炭化物を安定して生成できることが分かる。
表3続き
表3続き
注:(1) 表面にW含有炭化物を有する黒鉛の数/全黒鉛の数の比(%)。
表4続き
注:(1) 表面にW含有炭化物を有する黒鉛の数/全黒鉛の数の比(%)。
表4続き
注:(1) 表面にW含有炭化物を有する黒鉛の数/全黒鉛の数の比(%)。
(2) 耐酸化性(酸化減量)
実施例1〜74、比較例1〜16及び従来例1〜6の各丸棒状試験片(直径:10 mm、長さ:20 mm)に対して、以下の二つの酸化試験を実施した。両試験とも、酸化前の試験片の重量W0と、酸化処理後にガラスビーズによるショットブラスト処理を施して酸化スケールを除去した後の重量W1を測定し、(W0−W1)から単位面積当りの酸化減量(mg/cm2)を求めた。
(a) 定温保持における耐酸化性試験
各丸棒状試験片を800℃の一定温度に200時間保持して酸化減量を求めた。結果を表5に示す。表5から明らかなように、W以外の成分の含有量がほぼ同程度の実施例1〜14では、Wの含有量が1.26重量%から14.7重量%に増加するにつれて酸化減量が低下する傾向がみられた。これから、Wの含有量が1.2〜15重量%であれば、耐熱鋳鉄は高い耐酸化性を有することが分かる。Wの含有量は1.5〜10重量%が好ましく、2〜5重量%がより好ましい。
Si及びWの含有量がほぼ同程度で、Niの含有量が異なる実施例1と実施例18とを比較すると、Niの含有量が0.5重量%を超える実施例18では、Niを含有しない実施例1より酸化減量が多いことが分かる。Niの含有量が0.29重量%の実施例16では酸化減量が75 mg/cm2であり、Niを含有しない実施例1より耐酸化性がやや劣るが、問題ない範囲である。従って、Niを0.5重量%未満とするのが好ましく、0.3重量%以下とするのがより好ましい。
Si及びWの含有量がほぼ同程度で、希土類元素の含有量が異なる実施例40〜60と実施例61〜67とを比較すると、希土類元素が0.05重量%を超える実施例61〜67では、Sのどの含有量レベルでも、黒鉛球状化率が20〜28%と低く、酸化減量が71 mg/cm2以下と比較的多かった。これに対して、希土類元素が0.05重量%以下で、Sの含有量が0.003〜0.02重量%の範囲内の実施例42〜45、49〜52及び56〜59では、黒鉛球状化率が45〜95%と高く、酸化減量が22 mg/cm2以下と比較的少なかった。希土類元素が0.05重量%以下であっても、Sの含有量が0.003重量%未満又は0.02重量%超の実施例40、41、46〜48、53〜55及び60では、黒鉛球状化率が31〜58%と低く、これに伴って酸化減量も28 mg/cm2以下と比較的多かった。従って、本発明の組成範囲内でも、希土類元素を0.05重量%以下とするのが好ましく、Sを0.003〜0.02重量%とするの好ましい。
(b) 加熱冷却における耐酸化性試験
昇温・降温速度を3℃/分として、700℃と850℃の間を100回繰返し加熱冷却する条件で、各試験片の耐酸化性を評価した。結果を表5に示す。加熱冷却における酸化減量については、実施例1〜74の試験片の酸化減量は98 mg/cm2以下であった。表5から明らかなように、W以外の成分の含有量がほぼ同程度の実施例1〜14では、Wの含有量が1.26重量%から14.7重量%に増加するにつれて酸化減量が低下する傾向がみられた。比較例1、2、14及び15の試験片の酸化減量は101〜172 mg/cm2と実施例1〜74よりも酸化減量が多かった。比較例3〜13及び16は酸化減量が91mg/cm2以下であるが、後述する熱亀裂寿命が実施例1〜74より劣っていた。従来例1、2、4及び5は酸化減量が150〜289 mg/cm2と実施例1〜74より著しく多く、耐酸化性は大幅に劣っていた。従来例3及び6は酸化減量がそれぞれ、97及び88 mg/cm2であるが、後述する熱亀裂寿命が実施例1〜74より劣っていた。
Si及びWの含有量がほぼ同程度で、Niの含有量が異なる実施例1及び16〜18を比較すると、Niの含有量が0.48%までは酸化減量が77〜79mg/cm2と変化が小さいのに対し、Niが0.5重量%を超えた実施例18では酸化減量が98mg/cm2と急激に増加している。従って、Niは0.5重量%未満とするのが好ましい。
本発明の耐熱鋳鉄の組織のうちどの部分が優先的に酸化されるのか、初期酸化の挙動を調べるために、耐熱鋳鉄の試料をダイヤモンド砥粒で鏡面研磨し、有機溶剤で洗浄した後、大気中で10℃/分で常温から1000℃まで昇温させ、10分保持した後、同じく10℃/分で降温させ、試料の表面に形成された酸化物をFE-SEMで観察した。図13は実施例8のFE-SEM写真であり、図14は従来例3のFE-SEM写真である。
図13から、実施例8の試料では試験前に黒鉛131のあった部位及びその周囲の基地133の酸化が抑制されており、凸状を呈する酸化物がほとんど生じていないことが分かる。共晶セル境界138が優先的に酸化しているが、その程度は小さかった。黒鉛131には脱炭による凹みが見られるが、これは研磨により試料の表面に露出した黒鉛131が燃焼により焼失したためである。注目すべきことは試験前に黒鉛131のあった部位が空洞となり、又は燃焼による残渣を残しているものの、凸状を呈する酸化物がほとんど見られず、黒鉛131のあった部位を起点として周囲の基地への酸化が進行していない点である。以上のことから、実施例8では、仮に外部の酸化性ガスが黒鉛へ侵入しても、黒鉛と基地の境界や両者の境界近傍にW及びSiが濃化した中間層とW含有炭化物が存在するために、酸化性ガスがそれ以上内部に侵入することが妨げられて、黒鉛周辺の基地の酸化が抑制されると考えられる。これに対して、図14から明らかなように、従来例3の試料は高Siで、Cr及びMoを含有しているにも関わらず、試験前に黒鉛のあった部位が優先的に酸化(141)されており、生成した酸化物も大きかった。
このように実施例8と従来例3の耐熱鋳鉄では、初期酸化の挙動が全く異なっている。実施例8の耐熱鋳鉄では黒鉛を起点とする酸化の進行が抑制されており、耐酸化性及び耐熱亀裂性が大幅に改善されている。
表5続き
表5続き
(3) 耐熱亀裂性
耐熱亀裂性(熱亀裂寿命)を評価するため、実施例1〜74、比較例1〜16及び従来例1〜6の各丸棒状試験片(標点間距離:20 mm、標点間の直径:10 mm)を、拘束率0.25の条件で電気−油圧サーボ方式の熱疲労試験機にセットし、大気中で各7分の加熱冷却サイクル(下限温度:150℃、上限温度:840℃、温度振幅:690℃で、下限温度から上限温度まで2分で昇温→上限温度で1分保持→上限温度から下限温度まで4分で降温)を繰り返し、熱疲労破壊を起こさせた。拘束率は加熱冷却に伴う試験片の伸縮を機械的に拘束する割合で、(自由熱膨張伸び−機械的拘束下の熱膨張伸び)/(自由熱膨張伸び)により求めた。例えば拘束率1.0は、試験片が加熱されたときに全く伸びを許さない機械的拘束条件である。また拘束率0.5は、自由熱膨張伸びが例えば2 mmの場合に1 mmの熱膨張伸びしか許さない機械的拘束条件である。実際の自動車エンジン用排気系部品の拘束率は、加熱冷却に伴う伸びをある程度許容する0.1〜0.5程度であるので、熱疲労試験では拘束率を0.25と設定した。
耐熱亀裂性(熱亀裂寿命)の試験結果を表5に示す。熱亀裂寿命は実施例1〜74では780〜921サイクルと長いが、従来例1〜6では285〜671サイクルと短かった。
表5から明らかなように、W及びSiが濃化した中間層を有する実施例1〜74の試験片では、熱亀裂寿命は780サイクル以上と長かった。また基地中のWの割合Xmに対する中間層におけるWの割合Xiの重量比(Xi/Xm)が4.72の実施例18では熱亀裂寿命が780サイクルであったのに対し、Xi/Xmが5以上の他の実施例ではほとんど800サイクル以上と長かった。さらに基地中のSiの割合Ymに対する中間層におけるSiの割合Yiの重量比(Yi/Ym)が1.31の実施例19では熱亀裂寿命が785サイクルであったのに対し、Yi/Ymが1.5以上の他の実施例では熱亀裂寿命はほとんど800サイクル以上と長かった。
基地との境界近傍にW含有炭化物を有する黒鉛の数が黒鉛総数の75%以上である実施例2〜19、24〜39及び40〜74を見ると、実施例2〜19の熱亀裂寿命は780〜880サイクル、実施例24〜39の熱亀裂寿命は782〜901サイクル、実施例40〜74の熱亀裂寿命は785〜921サイクルと、いずれも長かった。また黒鉛の単位面積当りのW含有炭化物の数が3×105個/mm2以上である実施例1〜35及び40〜74の試験片は、熱亀裂寿命が780〜921サイクルと長寿命であった。また黒鉛表面のW含有炭化物の面積率が2%以上である実施例1〜14、16、18〜21、26〜35及び40〜74の試験片は、熱亀裂寿命が780〜921サイクルと長寿命であった。
Si及びWの含有量がほぼ同程度で、Niの含有量が異なる実施例1と実施例18とを比較すると、Niの含有量が0.5重量%を超える実施例18の熱亀裂寿命は780サイクルで、Niを含有しない実施例1の熱亀裂寿命(810サイクル)より短いことが分かる。またNiの含有量が0.29重量%の実施例16は、熱亀裂寿命が805サイクルであり、Niを含有しない実施例1より熱亀裂寿命がやや劣るが、問題ない範囲である。従って、Niを0.5重量%未満とするのが好ましく、0.3重量%以下とするのがより好ましい。
Si及びWの含有量がほぼ同程度で、Crの含有量が異なる実施例1と実施例21とを比較すると、Crの含有量が0.3重量%を超える実施例21は、Crを含有しない実施例1より熱亀裂寿命が低い(786サイクル)ことが分かる。Crの含有量が0.29重量%の実施例20の熱亀裂寿命は808サイクルであり、Crを含有しない実施例1の熱亀裂寿命よりやや劣るが、問題ない範囲である。従って、Crを0.3重量%以下とするのが好ましい。
Wの含有量が1.21〜1.50%とほぼ同等で、Moの含有量が0〜4.4重量%の範囲にある実施例1、2及び27の試験片を比較すると、Moの含有量の増加により熱亀裂寿命が810サイクルから861サイクルまで改善されることが分かる。しかし、Moが5.5重量%を超えた実施例29では、熱亀裂寿命は794サイクルと低かった。これから、Moの含有量は5.5重量%以下が好ましく、4.5重量%以下がより好ましい。
Wの含有量が2.64〜2.92重量%の範囲で、Cuの含有量が異なる実施例30〜32を比較すると、0.13〜6.1重量%のCuの含有により熱亀裂寿命が850〜870サイクルと長いことが分かる。しかし6.1重量%のCuを含有する実施例32の試験片は、3.5重量%のCuを含有する実施例31の試験片より熱亀裂寿命が僅かに低下した。また実施例33のようにCuの含有量が6.8重量%になると、熱亀裂寿命は788サイクルと低下した。従って、Cuの含有量は6.5重量%以下であるのが好ましく、3.5重量%以下であるのがより好ましい。
Wの含有量が3.12〜3.33重量%の実施例34及び35では、Coの含有により熱亀裂寿命が889〜901サイクルと、Coを含有しない実施例8の863サイクルより良好であった。従って、Coを含有させるのが好ましいが、Coは高価な元素であるため、コスト面から5重量%以下とするのが好ましい。
(4) AC1変態点
実施例1〜74、比較例1〜16及び従来例1〜6の各円柱状試験片(直径:5 mm、長さ:20 mm)を、熱機械分析計(マックサイエンス製TMA-4000S)により、窒素雰囲気中で30℃から3℃/分の速度で加熱し、AC1変態点を測定した。図15に示すように、AC1変態点は、温度−変位曲線81の変曲部に接線82を引き、交点の温度をAC1変態点83とする交線法により求めた。結果を表5に示す。なお従来例5及び6のオーステナイト系球状黒鉛鋳鉄は、フェライト系球状黒鉛鋳鉄と異なり、AC1変態を起こさない。
実施例1〜74の試験片のうち、AC1変態点が840℃以上の試験片は782サイクル以上と高い熱亀裂寿命を有していた。しかし、従来例4の試験片は、AC1変態点が840℃より高くても、Wの含有量が0.001重量%未満のために黒鉛が優先的に酸化され、耐酸化性及び耐熱亀裂性が低かった。
Si及びWの含有量がほぼ同程度で、Niの含有量が異なる実施例1と実施例18とを比較すると、Niの含有量が0.5重量%を超える実施例18は、Niを含有しない実施例1よりAC1変態点が低かった。Niの含有量が0.29重量%の実施例16ではAC1変態点が813℃であり、Niを含有しない実施例1よりやや低いが、問題ない範囲である。従って、Niを0.5重量%未満とするのが好ましく、0.3重量%以下とするのがより好ましい。
Si及びWの含有量がほぼ同程度で、Crの含有量が異なる実施例1と実施例21とを比較すると、Crの含有量が0.3重量%を超える実施例21は、Crを含有しない実施例1よりAC1変態点が低かった。Crの含有量が0.29重量%の実施例20では、AC1変態点は810℃であり、Crを含有しない実施例1よりやや低いが、問題ない範囲である。従って、Crを0.3重量%以下とするのが好ましい。
(5) 常温伸び
実施例1〜74、比較例1〜16及び従来例1〜6の各4号試験片(JIS Z 2201)に対して、アムスラー引張試験機で25℃における常温伸び(%)を測定した。結果を表5に示す。
Wの含有量が15.22重量%の比較例11の試験片は常温伸びが0.8%と低く、Wの含有量が14.7重量%の実施例19の試験片は常温伸びが1.0%であり、Wの含有量が9.56重量%の実施例13の試験片は常温伸びが1.8%であり、Wの含有量が4.83重量%の実施例11の試験片は常温伸びが2.5%であった。このようにWの含有量が10重量%以下、特に5重量%以下の場合、1.8%以上の常温伸びを確保できる。常温伸びは2%以上であるのが好ましい。
Nb及びBの含有による伸びの増大を調べるために、Nb及び/又はBを含有する実施例36〜39(Wの含有量は1.21〜1.66重量%とほぼ同程度)の常温伸びに注目した。Nbのみを含有する実施例36の試験片は常温伸びが14.9%であり、Bのみを含有する実施例37及び39の試験片は常温伸びがそれぞれ14.6%及び13.9%であり、NbとBを両方含有する実施例38の試験片は常温伸びが13.2%であり、いずれも良好であった。
Si + (2/7) Wが8.76である実施例14の常温伸びは1.4%であり、Si + (2/7) Wが7.38である実施例13の常温伸びは1.8%であり、Si + (2/7) Wが6.03である実施例15の常温伸びは1.8%であり、Si + (2/7) Wが6.00である実施例11の常温伸びは2.5%であった。これらのことから、Si + (2/7) Wが8以下であれば常温伸びが1.8%以上となり、またSi + (2/7) Wが6以下であれば常温伸びが2.0%以上となることが分かる。
Si及びWの含有量がほぼ同程度で、Crの含有量が異なる実施例1と実施例21とを比較すると、Crの含有量が0.3重量%を超える実施例21は、Crを含有しない実施例1より常温伸びが低かった。Crの含有量が0.29重量%の実施例20では常温伸びが15.9%であり、Crを含有しない実施例1より低いが、問題ない範囲である。従って、Crを0.3重量%以下とするのが好ましい。
Si及びWの含有量がほぼ同程度で、希土類元素の含有量が異なる実施例40〜60と実施例61〜67とを比較すると、希土類元素が0.05重量%を超える実施例61〜67では、Sのどの含有量レベルでも、黒鉛球状化率が20〜28%と低く、常温伸びが2.8〜3.6%と比較的低かった。これに対して、希土類元素が0.05重量%以下で、Sの含有量が0.003〜0.02重量%の範囲内の実施例42〜45、49〜52及び56〜59では、黒鉛球状化率が45〜95%と高く、常温伸びが4.2〜10.6%と比較的高かった。希土類元素が0.05重量%以下であっても、Sの含有量が0.003重量%未満又は0.02重量%超の実施例40、41、46〜48、53〜55及び60では、黒鉛球状化率が31〜58%と低く、これに伴って常温伸びも3.3〜6.0%と比較的低かった。従って、本発明の組成範囲内でも、希土類元素を0.05重量%以下とするのが好ましく、Sを0.003〜0.02重量%とするの好ましい。
実施例8の試験片に対して400℃における引張試験を行い、中温脆化を調べた。その結果、400℃での伸びは7.0%であり、8.0%の常温伸びよりやや低いものの、実用上全く問題ないレベルであった。
実施例75
図17に概略的に示すエキゾーストマニホルド151を実施例9の耐熱鋳鉄を用いて鋳造した後、鋳放しのまま機械加工した。得られたエキゾーストマニホルド151には引け巣、湯廻り不良、ガス欠陥等の鋳造欠陥がなく、また機械加工時に切削不具合等の問題は全く起こらなかった。なお図17において、151aは取付フランジを示し、151bは枝管を示し、151cは集合部を示す。
直列4気筒で排気量2000 ccの高性能ガソリンエンジンを模した排気シミュレータに、実施例75のエキゾーストマニホルド151を組み付け、耐久試験を行い、亀裂発生までの寿命と亀裂の発生状況を調べた。試験条件は、10分間の加熱及び10分間の冷却からなる加熱冷却サイクルを繰り返し、エキゾーストマニホルド151に貫通する亀裂が発生するまでのサイクル数をカウントした。耐久試験での全負荷時の排気ガス温度は、エキゾーストマニホルド151の出口で920℃であった。この条件下でのエキゾーストマニホルド151の表面温度は、集合部151cで約840℃であった。
図17に示すように、実施例75のエキゾーストマニホルド151には、890サイクルで枝管151bと取付フランジ部151aの境界部にごく微小の亀裂17が発生した。しかし、特に高温の排気ガスが通過する集合部151cでは亀裂が発生せず、部品全体の酸化も少なかった。これから、実施例75のエキゾーストマニホルド151は優れた耐久性及び信頼性を有することが確認された。
実施例76
900℃で3時間保持後炉冷するフェライト化焼鈍処理を施した以外は実施例75と同様にして、実施例8の耐熱鋳鉄によりエキゾーストマニホルド151を製造した。得られたエキゾーストマニホルド151には鋳造欠陥はなく、熱処理による変形等の不具合や機械加工での不具合もなかった。実施例76のエキゾーストマニホルド151を排気シミュレータに組み付け、実施例75と同一条件で耐久試験を実施した。エキゾーストマニホルド151の表面温度は実施例75と同じであった。耐久試験の結果、実施例76のエキゾーストマニホルド151には952サイクルで実施例75と同じ部位に、同程度の極微小な亀裂が発生した。しかし高温の排気ガスが通過する集合部には亀裂は発生せず、部品全体での酸化もほとんどなく、優れた耐久性と信頼性を有することが確認された。
従来例7
従来例3の球状黒鉛鋳鉄を用い、熱処理温度を940℃とした以外は実施例75と同様にして、エキゾーストマニホルド151を作製した。このエキゾーストマニホルド151を排気シミュレータに組み付け、実施例75と同一条件で耐久試験を実施した。エキゾーストマニホルド151には、鋳造欠陥や、熱処理及び機械加工での不具合はなかった。耐久試験でのエキゾーストマニホルド151の表面温度は実施例75と同じであった。耐久試験の結果、図18に示すように、従来例7のエキゾーストマニホルド151には、435サイクルで、集合部151cと、枝管151bと取付フランジ部151aの境界部に大きな亀裂18が発生した。また集合部151cの他、部品全体に酸化が発生した。
従来例8
従来例6のニレジストD5Sを用い、910℃で4時間保持後空冷する熱処理を施した以外は実施例75と同様にして、エキゾーストマニホルド151を作製した。このエキゾーストマニホルド151を排気シミュレータに組み付け、実施例75と同一条件で耐久試験を実施した。エキゾーストマニホルド151には、鋳造欠陥や、熱処理及び機械加工での不具合はなかった。耐久試験でのエキゾーストマニホルド151の表面温度は実施例75と同じであった。耐久試験の結果、図19に示すように、従来例8のエキゾーストマニホルド151には、558サイクルで、枝管151bと取付フランジ部151aの境界部に大きな亀裂19が発生した。部品全体で酸化が起こり、酸化の程度は従来例7より僅かだが、実施例75及び76と同等か若干多かった。
従来例9、10
従来例2と同じHi-SiMo球状黒鉛鋳鉄及び熱処理条件を用いた以外実施例75と同様にして、エキゾーストマニホルド151を作製し、耐久試験を実施した(従来例9)。また従来例5と同じニレジストD2及び熱処理条件を用いた以外実施例75と同様にして、エキゾーストマニホルド151を作製し、耐久試験を実施した(従来例10)。いずれのエキゾーストマニホルド151にも、鋳造欠陥や、熱処理及び機械加工での不具合はなかった。耐久試験でのエキゾーストマニホルド151の表面温度は、実施例75と同じであった。
表6は、実施例75及び76、並びに従来例7〜10のエキゾーストマニホルドの亀裂発生までの寿命を示す。実施例75及び76のエキゾーストマニホルドは従来例7〜10のエキゾーストマニホルドより約1.5倍〜5倍も亀裂発生までの寿命が長かった。
上記の通り、本発明の耐熱鋳鉄からなるエキゾーストマニホルドは、耐酸化性及び耐熱亀裂性に優れ、従来の高Siフェライト系球状黒鉛鋳鉄からなるエキゾーストマニホルドより格段に長寿命で、さらにオーステナイト系球状黒鉛鋳鉄からなるエキゾーストマニホルドを上回る寿命を有する。従って、本発明の耐熱鋳鉄は、従来のオーステナイト系球状黒鉛鋳鉄やステンレス鋳鋼等の高級材料の代替品として、耐熱性が要求される自動車エンジン用排気系部品を低コストで製造することが可能である。
以上自動車エンジン用の排気系部品について説明したが、耐酸化性及び耐熱亀裂性に優れた本発明の耐熱鋳鉄は、それら以外にも、シリンダブロック、シリンダヘッド、ピストン、ピストンリング等のエンジン部品、焼却炉用や熱処理炉用の炉床や台車等の燃焼炉用部品、さらにディスクブレーキロータ等の摺動部品等にも使用可能である。
基地との境界近傍にW含有炭化物を有する黒鉛の数は、黒鉛総数の75%以上であるのが好ましい。また黒鉛と基地との境界近傍におけるW含有炭化物の数(エッチングにより現れた黒鉛表面上のW含有炭化物の数により表す)は、黒鉛の単位面積当り3×105個/mm2以上であるのが好ましい。さらにW含有炭化物の面積率(エッチングにより現れた黒鉛表面上のW含有炭化物に対して求めた)は、黒鉛の単位面積当り1.8%以上であるのが好ましい。W含有炭化物の面積率は2%以上がより好ましい。炭化物の数及び面積率の算出方法は後述する。
これに対して、本発明の耐熱鋳鉄では、図1に示すように、黒鉛11と基地13の境界にW及びSiが濃化した中間層12が生成している。この中間層12が保護皮膜(バリア)となり、黒鉛11への酸化性ガスの侵入と黒鉛11からのCの拡散が抑制され、耐熱鋳鉄の耐酸化性(従って、耐熱亀裂性)が向上する。W及びSiが濃化した中間層12は鋳造時の凝固冷却過程で生成するが、さらに熱処理工程及び/又は高温での使用中にも生成すると考えられる。W及びSiは黒鉛11と基地13の境界に濃化するのがエネルギー的に安定であるという理由で黒鉛11と基地13の境界に中間層12を生成すると考えられる。
Wは共晶セル境界に濃化してW含有炭化物を形成し、耐熱鋳鉄の高温耐力を向上させる。またWの含有により共晶凝固温度が低下するので、湯流れ性(鋳造性)が良好となる上に、溶解コストを抑制できる。
(1) W:1.2〜15重量%
本発明の耐熱鋳鉄は1.2〜15重量%のWを含有する必要がある。Wは、黒鉛と基地との境界に濃化して中間層を生成する。さらに黒鉛と基地との境界近傍にW含有炭化物を形成する。中間層とW含有炭化物は、黒鉛への酸化性ガスの侵入と黒鉛からのCの拡散とを抑制して、黒鉛及びその周辺の基地組織の酸化を防止して、耐酸化性(従って、耐熱亀裂性)を効果的に向上させる。特にCの拡散は、粒界で優先的に進行すると考えられるが、黒鉛と接する粒界に生成したW含有炭化物により効果的に抑制される。Wが濃化した中間層は鋳造時の凝固冷却過程、熱処理工程及び/又は高温での使用中に生成すると考えられる。Wは黒鉛と基地の境界に濃化するのがエネルギー的に安定であるため、境界に濃化する。
(3) Si:3.5〜5.6重量%
Siは鋳造時の黒鉛の晶出に寄与し、基地をフェライト化し、AC1変態点を上昇させる作用を有する。さらにSiの含有により、鋳鉄が高温の酸化性ガス中に置かれたときに表面に緻密な酸化膜が形成され易くなり、耐酸化性が向上する。SiはWとともに黒鉛と基地との境界の中間層に濃化して、外部から侵入した酸化性ガスと反応して、黒鉛と基地との境界に保護皮膜を生成し、黒鉛への酸化性ガスの侵入による黒鉛及びその周囲の基地の酸化と、黒鉛からのCの拡散を抑制する機能を高める。Siが濃化した中間層は鋳造時の凝固冷却過程、熱処理工程及び/又は高温での使用中に生成すると考えられる。Siは黒鉛と基地の境界に濃化するのがエネルギー的に安定であるため、境界に濃化する。このような作用を効果的に発揮するために、Siの含有量は3.5重量%以上である必要がある。しかしSiが5.6重量%を超えると、鋳鉄の靭性及び延性が極端に低下し、被削性も劣化する。従って、Siの含有量は3.5〜5.6重量%であり、好ましくは3.8〜5.3重量%であり、より好ましくは4.0〜5.0重量%である。
基地との境界近傍にW含有炭化物を有する黒鉛の数は、黒鉛総数の75%以上であるのが好ましい。これにより、酸化性ガスの侵入とCの拡散が抑制されて、耐熱鋳鉄の耐酸化性(従って、耐熱亀裂性)が向上する。W含有炭化物は鋳造時の凝固冷却過程で析出するが、熱処理工程及び/又は高温での使用中にも析出すると考えられる。W含有炭化物はエネルギー的に安定であるという理由で黒鉛と基地の境界近傍に生成すると考えられる。
(1) 中間層における元素の濃度分布及びミクロ組織
実施例1〜74、比較例1〜16及び従来例1〜6の各鋳鉄に対して、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)及びそれに装着されたエネルギー分散型X線分析装置(FE-SEM EDS、(株)日立製作所製S-4000)、並びに電界放出型透過電子顕微鏡(FE-TEM)及びそれに装着されたエネルギー分散型X線分析装置(FE-TEM EDS、(株)日立製作所製HF-2100)を用いて、以下の観察を行った。
さらに集束イオンビーム加工観察装置((株)日立製作所製FB-2000A)を用いた集束イオンビーム加工(FIB)によるマイクロサンプリング法により、中間層及びその近傍領域を厚さ4μm×長さ10μm×幅15μmのサイズで切り出し、0.1μmの厚さまで薄片化した。得られた各供試材における黒鉛と基地組織の境界近傍をFE-TEMにより観察するとともに、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)により元素分析した。

Claims (25)

  1. 黒鉛を含有する耐熱鋳鉄であって、重量基準でSi:3.5〜5.6%及びW:1.2〜15%を含有し、黒鉛と基地組織との境界にW及びSiが濃化した中間層を有することを特徴とする耐熱鋳鉄。
  2. 請求項1に記載の耐熱鋳鉄において、前記基地中のWの重量割合Xmに対する前記中間層中のWの重量割合Xiの比(Xi/Xm)が5以上であることを特徴とする耐熱鋳鉄。
  3. 請求項1又は2に記載の耐熱鋳鉄において、前記基地中のSiの重量割合Ymに対する前記中間層中のSiの重量割合Yiの比(Yi/Ym)が1.5以上であることを特徴とする耐熱鋳鉄。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、重量基準でC:1.5〜4.5%、Si:3.5〜5.6%、Mn:3%以下、W:1.2〜15%、Ni:0.5%未満、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:1.0%以下、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする耐熱鋳鉄。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、さらに0.003〜0.02重量%のS及び0.05重量%以下の希土類元素を含有することを特徴とする耐熱鋳鉄。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、黒鉛球状化元素として0.005〜0.2重量%のMgを含有することを特徴とする耐熱鋳鉄。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、重量基準でSi + (2/7) W≦8であることを特徴とする耐熱鋳鉄。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、さらに5.5重量%以下のMoを含有することを特徴とする耐熱鋳鉄。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、さらに6.5重量%以下のCuを含有することを特徴とする耐熱鋳鉄。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、さらに5重量%以下のCoを含有することを特徴とする耐熱鋳鉄。
  11. 請求項1〜10のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、さらに1.0重量%以下のNb及び/又は0.05重量%以下のBを含有することを特徴とする耐熱鋳鉄。
  12. 請求項1〜11のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、前記基地との境界近傍にW含有炭化物を有する黒鉛の数が黒鉛総数の75%以上であることを特徴とする耐熱鋳鉄。
  13. 請求項1〜12のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、エッチングにより露出した黒鉛表面上のW含有炭化物の数が黒鉛の単位面積当り3×105個/mm2以上、及び/又は前記W含有炭化物の面積率が1.8%以上であることを特徴とする耐熱鋳鉄。
  14. 請求項1〜13のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、30℃から3℃/分の速度で昇温したときのAC1変態点が840℃以上であることを特徴とする耐熱鋳鉄。
  15. 請求項1〜14のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、800℃の大気中に200時間保持したときの酸化減量が60 mg/cm2以下であることを特徴とする耐熱鋳鉄。
  16. 請求項1〜15のいずれかに記載の耐熱鋳鉄において、上限温度840℃、温度振幅690℃及び拘束率0.25の条件で加熱冷却する熱疲労試験における熱亀裂寿命が780サイクル以上であることを特徴とする耐熱鋳鉄。
  17. 前記請求項1〜16のいずれかに記載の耐熱鋳鉄からなることを特徴とする排気系部品。
  18. 請求項17に記載の排気系部品において、エキゾーストマニホルド、ターボチャージャーハウジング、ターボチャージャーハウジング一体型エキゾーストマニホルド、触媒ケース、触媒ケース一体型エキゾーストマニホルド、又はエキゾーストアウトレットであることを特徴とする排気系部品。
  19. 800℃を超える温度で使用する排気系部品であって、重量基準でC:1.5〜4.5%、Si:3.5〜5.6%、Mn:3%以下、W:1.2〜15%、Ni:0.5%未満、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:1.0%以下、Si + (2/7) W≦8、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、かつ鋳放しでフェライトを主相とした基地に黒鉛が晶出しているとともに、前記黒鉛と前記基地との境界にW及びSiが濃化した中間層を有する組織を有する耐熱鋳鉄からなり、もって30℃から3℃/分の速度で昇温したときのAC1変態点が840℃以上であり、かつ上限温度840℃、温度振幅690℃及び拘束率0.25の条件で加熱冷却する熱疲労試験における熱亀裂寿命が780サイクル以上であることを特徴とする排気系部品。
  20. 請求項19に記載の排気系部品において、前記基地中のWの重量割合Xmに対する前記中間層中のWの重量割合Xiの比(Xi/Xm)が5以上であることを特徴とする排気系部品。
  21. 請求項20に記載の排気系部品において、前記Xi/Xmが10以上であることを特徴とする排気系部品。
  22. 請求項19〜21のいずれかに記載の排気系部品において、前記基地中のSiの重量割合Ymに対する前記中間層中のSiの重量割合Yiの比(Yi/Ym)が1.5以上であることを特徴とする排気系部品。
  23. 請求項22に記載の排気系部品において、前記Yi/Ymが2.0以上であることを特徴とする排気系部品。
  24. 請求項19〜23のいずれかに記載の排気系部品において、800℃の大気中に200時間保持したときの酸化減量が60 mg/cm2以下であることを特徴とする排気系部品。
  25. 請求項19〜24のいずれかに記載の排気系部品において、重量基準でC:1.8〜4.2%、Si:3.8〜5.3%、Mn:1.5%以下、W:1.5〜10%、Ni:0.3%以下、Cr:0.3%以下、黒鉛球状化元素:0.01〜0.2%、Si + (2/7) W≦8、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする排気系部品。
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