JPWO2004073692A1 - 難水溶性薬物のハードカプセル剤 - Google Patents

難水溶性薬物のハードカプセル剤 Download PDF

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Abstract

難水溶性薬物と、親水性可溶化剤と、品質保持剤とを含有することを特徴とするハードカプセル剤は、難水溶性薬物の溶解改善により難水溶性薬物の経口吸収性が改善され、長期保存後においても優れた品質を保持する。

Description

本発明は、難水溶性薬物のハードカプセル剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、経口投与される消化管内のpHである1.2から8.0における難水溶性薬物の溶解性改善だけでなく、長期保存後においても品質に優れた難水溶性薬物のハードカプセル剤に関する。
日本薬局方において、水にほとんど溶けない薬物の定義は、0.1mg/ml以下の溶解度を示す薬物であると規定されている(非特許文献1)。通常、経口投与された薬物は、まず消化管内分泌液で溶解しながら、小腸に移行し、吸収されるが、難水溶性薬物を経口投与した場合、難水溶性薬物が消化管内の分泌液に溶解しないために充分に吸収されないまま便として排出されることは容易に類推でき、しばしば観察される。この難水溶性薬物の溶解性を改善することで経口吸収性を上げる為に、いままで多くの製剤的検討がなされてきた(非特許文献2)。たとえば、難水溶性薬物の原末の微細化、結晶多形、非晶質化、塩、溶媒和物の形成などの原末固体を保持した処理方法が報告されているが、これらの方法は溶解度を改善するというよりも溶解速度を改善する方法であり、経口吸収性改善においても限界があった。また、たとえ、有望な処理方法が見つかってもその後の工業化検討や品質管理などにおいて多大な労力が必要であった。
一方、難水溶性薬物のみかけの溶解度を改善する方法としては、ポリエチレングリコールなどの親水性可溶化剤による可溶化方法が報告されてきた。例えば、低分子量ポリエチレングリコールで可溶化した難水溶性であるジゴキシンは、その錠剤より約2倍高い経口吸収性を示すと報告されている(非特許文献3)。また、酸性、塩基性および両性薬物をソフトカプセル化またはハードカプセル化するために可溶化したシステムとして、ポリエチレングリコールと水酸化イオンまたは水素イオンを添加することで高含量の難水溶性薬物を可溶化でき、カプセル剤が調製できるという特許が公開されているが、イブプロフエンの可溶化処方の溶解性改善を錠剤とpH7で溶解速度比較を行っているだけであり、長期の品質保存性や消化管内pHである1.2から8.0における溶解度についてなんらコメントしていない(特許文献1)。
一方で、ポリエチレングリコールを用いる可溶化方法においては、難水溶性薬物が試験管内でみかけ上溶解するが、難水溶性薬物の経口吸収改善が前記の処理方法と比較してそれほど変わらないことが経験されてきている。その原因として難水溶性薬物含有製剤は経口投与後、消化管内の分泌液(pH1.2から8.0)に接触すると、その薬物が析出することがわかってきた。本質的な経口吸収性改善につながる可溶化方法とは、消化管内でも溶解していることが重要であるので、最近、消化管内の分泌液でも析出しない可溶化法が報告されてきた。例えば、特許文献2には、脂質と界面活性剤の共溶媒効果によって、難水溶性薬物であるシクロスポリン,ニフェジピン,インドメタシンを10重量%含有し、水溶性を改善したドラッグデリバリーシステムが公開されている。これらの可溶化処方は、水で希釈しても析出しないことを確認しているが、品質を保証したハードカプセル剤などの経口製剤化まで明記されていない。
他方、中鎖脂肪酸トリグセライド等の油脂などの親油性可溶化剤と界面活性剤の混合による可溶化方法は、多く報告されており、例えば、ビタミンA、D、Eやシクロスポリンなどの油に容易に溶解する薬物に応用されてきたが、これらの製剤は、基本的には経口投与された後、消化管内でエマルジョンに乳化され、エマルジョンの粒子が大きいためにリンパへ吸収され、それから体内へ吸収されることが知られているが、通常の吸収と比較し、吸収効率が悪い上に、油脂と親和性が強い薬物の場合、経口吸収性が低下することもしばしば起こっている。さらに油脂単独で溶解される薬物も少ない。
また、最近、免疫抑制剤であるシクロスポリン約15重量%と可溶化剤と界面活性剤を配合し、水溶性が増大し、経口投与後消化管内で析出せず、経口吸収性の変動が少なく、経口吸収が改善したゼラチンソフトカプセル剤(ネオラル(登録商標))が販売されている(非特許文献4)。また、抗エイズ剤であるアンプレナビルについても同様に、(a)アンプレナビル15重量%と、(b)親水性可溶化剤としてポリエチレングリコールと少量のプロピレングリコールと、(c)界面活性剤としてコハク酸ビタミンEポリエチレングリコール1000エステルとを配合したゼラチンソフトカプセル剤が市販されている。
さらに、ゼラチンソフトカプセル以外に、ゼラチンハードカプセルも提案されてきている。例えば、カプトプリルを油脂で単に懸濁した半固形油性懸濁マトリックスを充填した徐放性ハードカプセル剤が市販されている(非特許文献5)が、本製剤は、徐放製剤であり、難水溶性薬物の溶解性改善カプセル剤ではない。
「第14改正日本薬局方解説書」,広川書店,2001年6月,A14 橋本 充著,「経口投与製剤の処方設計」,じほう,1998年4月,p.73〜75,p.164〜166 E.Astorri,et.al.,"Bioavailability and related heart function index of digoxin capsules and tablets in cardiac patients",Journal of Pharmaceutical Sciences,vol.68,p.104,1979 W.A.Ritschel,"Microemulsion technology in the reformulation of cyclosporin; The reason behind the pharmacokinetic properties of Neoral(R)",Clin−Transplant,vol.10,No.4,p.364−373,1996 Y.Seta,et.al.,"Design and preparation of captopril sustained−release dosage forms and their biopharmaceutical properties",International Journal of Pharmacognosy,vol.41,p.245−254,1988 米国特許5360615 国際公開第99/56727号パンフレット
難水溶性薬物を経口吸収改善するためには、消化管内の分泌液でも析出しない可溶化方法が必要である。一方、最近の難水溶性薬物は、水はもちろん油にも溶けにくいという性質をもっているので、従来の可溶化剤だけでは溶解しないことが多くなってきた。また、難水溶性薬物を親水性可溶化剤により、可溶化できても普通、ハードカプセルに充填するとハードカプセルが溶解、液漏れ、変形、割れなどが観察され、品質が長期保持されないことが知られている。そこで、このような親水性可溶化剤を含んでも品質が長期保持される経口投与用固形製剤が求められている。
前述したシクロスポリン、アンプレナビルの2製剤を含めて、従来、可溶化処方を製剤化する方法といえばゼラチンソフトカプセルに充填するしか方法がなかった。しかし、ソフトカプセルは、溶融したゼラチンのシートをソフトカプセルに成型すると同時に薬液を充填するという製法上、粘度の低い薬液などにしか適用できないという問題点を有する。さらに、ソフトカプセル剤は、皮膜中に主成分であるゼラチンとグリセリンなどの可塑剤が多く配合されているため、ハードカプセルよりも環境の湿度に影響され易いという問題点も有する。例えば、ソフトカプセルが吸湿した場合は軟化、変形、固着を生じる。水分が少なくなると割れ易く、液漏れを起こす。また、冷所に置かれた場合ももろくなるので通常は剤皮には6から10%の水分を保有する必要がある。加えて強力な親水性可溶化剤であり、可塑剤でもあるプロピレングリコールなどが剤皮に悪影響を及ぼすだけでなく、ゼラチンを変質させることも考えられる。また、最近、狂牛病の観点から牛などの動物性由来のゼラチンを使用することのリスクが問題視されてきており、ゼラチン量が多いソフトゼラチンカプセルはなるべく避けることが望まれている。
一方、ハードカプセルは、ゼラチンに代わる植物性や合成ポリマーのハードカプセルも提供されてきた。また、充填機やキャップとボディの接合部からの液漏れを防止するためのシール機の技術革新だけでなく、加温機などの周辺機器の充実により、高い粘度の薬液も充填できるようになり、ソフトカプセルに比べて簡便に製造でき、ソフトカプセルでは液状の可溶化処方だけしか製造できなかったのに対し、液状ばかりでなく、半固形の可溶化処方も製造できるようになってきた。しかし、ハードカプセル自体は環境の湿度には影響を受けにくいが、膜厚が薄く、充填される内容物、特に可溶化剤によって多大な影響を受けるため、ソフトゼラチンカプセル以上に許容される可溶化剤の種類が限定される。例えば、ソフトカプセルで許容されている低分子量ポリエチレングリコールでさえ、ハードカプセルのゼラチンの変性だけでなく、液漏れや変形させることが知られている。
上記状況に鑑み、本発明者らは、難水溶性薬物を経口吸収改善するために、難水溶性薬物を高濃度に可溶化できる親水性可溶化剤の探索とその親水性可溶化剤を充填しても、液漏れや変形などを起こさないで、品質が長期に保持されるハードカプセル剤を求めて鋭意検討した結果、ハードカプセルを長期間保存してもハードカプセルの劣化を防止する品質保持剤をハードカプセルに充填する内容物に添加すれば顕著にハードカプセル剤の品質が長期に保持されるという知見を得た。具体的には、難水溶性薬物と高濃度に可溶化できる親水性可溶化剤と品質保持剤とを混合した内容物をハードカプセルに充填し、40℃6ヶ月間(室温3年間と同等である加速試験)観察した検討において、(a)ハードカプセルの外観変化として溶解、漏れ、割れおよび変形の有無について、また、(b)外観変化がなかった場合についても、そのハードカプセルの質的変化をみるために、既知薬物アセトアミノフェンを充填したそのハードカプセルからのアセトアミノフェンの溶出性について、品質保持剤を添加した場合としない場合とを比較検討して、品質保持剤を添加したハードカプセル剤は明らかにハードカプセルの品質が保持されるという知見を得た。さらに、本発明者らは、種々の難水溶性薬物の可溶化処方を製造し、胃液のpHである1.2と小腸液のpHである6.8の緩衝液中での溶解性や溶出性を検討した結果、本発明のハードカプセル剤においては、難水溶性薬物が消化管内で析出しないことを知見し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1) 難水溶性薬物と、
(i) 界面活性剤または
(ii)親水性溶媒と界面活性剤
を含有する親水性可溶化剤と、
品質保持剤とを含有する内容物がハードカプセルに充填されていることを特徴とする難水溶性薬物のハードカプセル剤、
(2) 品質保持剤が、(a)精製水、(b)内容物の動粘度を100〜2000(mpas)にする増粘剤および(c)内容物の融点を30〜80℃にする高融点の添加剤のいずれかまたはその組み合わせであることを特徴とする前記(1)に記載のハードカプセル剤、
(3) 品質保持剤が、(a)精製水、(b)セルロース系高分子添加剤もしくはポリビニルピロリドン、または前記物質を精製水もしくは多価アルコールまたはそれらの混液で溶解・分散した液、(c)軽質無水ケイ酸、(d)高級脂肪アルコールおよび(e)グリセリン長鎖脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする前記(1)に記載のハードカプセル剤、
(4) ハードカプセルに充填されている混合物が半固形状または液体状を呈していること特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のハードカプセル剤、
(5) 難水溶性薬物が、0.1〜50重量%含有されている前記(1)〜(4)のいずれかに記載のハードカプセル剤、
(6) 親水性可溶化剤が、20〜99.8重量%含有されている前記(1)〜(5)のいずれかに記載のハードカプセル剤、
(7) 品質保持剤が、0.1〜30重量%含有されている前記(1)〜(6)のいずれかに記載のハードカプセル剤、
(8) 界面活性剤が少なくともコハク酸ビタミンEポリエチレンエステル又はポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステルを含有することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載のハードカプセル剤。
に関する。
本発明で用いる難水溶性薬物としては、水、具体的には消化管内pHであるpH1.2〜pH8の水に対する溶解度が室温で約0.1mg/ml以下の薬物であれば、特に限定されない。本発明で用いる難水溶性薬物としては、日本薬局方に水にほとんど溶けない薬物として規定されている医薬品に限定されず、例えば、生理活性を有する化合物、食品、特に機能性食品、漢方薬、動物薬、飼料または試薬などが挙げられる。
本発明で用いる難水溶性薬物としては、例えば、中枢神経系用薬であるフェニトイン,イミプラミン,ニトラゼパム,ハロペリドールおよびそれらの塩などや、末梢神経系用薬であるインドメタシン,フェニルブタゾン,イブプロフェン,ピロキシカムおよびそれらの塩などや、循環器官用薬であるジゴキシン,ピンドロール,ニフェジピン,レセルピン,シンナリジン,プロブコール,クロフィブレートおよびそれらの塩などや、呼吸器官用薬であるレジブホゲニン,ノスカピン,プランルカスト,オンタゾラスト、モンテルカストおよびそれらの塩などや、消化器官用薬であるソフアルコン,ウルソデオキシコール酸,ドンペリドンおよびそれらの塩などや、ホルモン剤であるダナゾール,エチニルエストラジオール,コルチゾンアセテート,デキサメタゾンおよびそれらの塩などや、泌尿器生殖器系用薬であるフロセミド,スピロノラクトン,トリベノシドおよびそれらの塩などや、腫瘍用薬であるタモキシフェン,ブスルファン,タキソールおよびそれらの塩などや、抗生物質や化学療法剤であるグリセオフルビン,ケトコナゾール,アルベンダゾールおよびそれらの塩などや、抗エイズ剤であるアンプレナビル,ネルフィナビル,リトナビル,サキュナビルおよびそれらの塩などや、脂溶性ビタミン類であるビタミンA,Dもしくはそれらの誘導体,酢酸トコフェロールなどや、その他として、チクロピジン,アミオドロン,ロペラミド,ケタンセリン,ベラパミル,テルフェナジン,トリフルオロペラジン,トログリタゾン,ピオグリタゾン,イプリフラボン,タクロリムス,シクロスポリンおよびそれらの塩などが挙げられる。
本発明で用いる親水性可溶化剤としては、(イ)界面活性剤又は(ロ)親水性溶媒と界面活性剤とを含有するものであれば特に限定されないが、経口投与が許容されうるものが好ましい。
界面活性剤としては、例えばHCO10、HCO40、HCO50、HCO60、CremophorRH40などのポリオキシエチレン硬化ひまし油類、ポリオキシル35硬化ひまし油、ポリオキシル40水素添加硬化ひまし油などの各種硬化ひまし油、例えばTween40、Tween60、Tween65、Tween80などの各種ポリソルベート、例えばLabrasol(登録商標),Gelucire(登録商標)44/14,Gelucire(登録商標)50/13などのポリエチレングリコール1500脂肪酸トリグリセリド類等のポリエチレングリコール脂肪酸トリグリセリド類、例えばポリオキシエチレンヒドロキシステアリン酸エステル(SolutolHS15(登録商標))などのポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステル類、Imwiter(登録商標)191、308、380、742、パルミトステアリン酸グリセリンなどのグリセリン脂肪酸エステル類等が挙げられ、脂肪酸としては炭素数1〜50の脂肪酸が好ましい。また、例えばコハク酸ビタミンEポリエチレングリコール1000エステル(Tocophersolan(登録商標))等のコハク酸ビタミンEポリエチレングリコールエステル類、ステアリン酸、ラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸などの脂肪酸やそれらの塩類、ポロキサマー類、ラウリル硫酸ナトリウムなども好ましい。本発明で用いる界面活性剤としては、各種ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラウリル硫酸ナトリウム、Gelucire44/14、コハク酸ビタミンEポリエチレングリコール1000エステル、ポリオキシエチレンヒドロキシステアリン酸エステル、Imwiter742がより好ましい。界面活性剤としては、親水性溶媒と共にミセルを形成することによって、難水溶性薬物を水に可溶化できるものが好ましい。
親水性溶媒としては、例えばPEG400、PEG600、PEG1000、PEG1500、PEG1540、PEG4000、PEG6000、PEG20000などの各種ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール,エタノール,プロピレンカーバメイト,N−メチル2−ピロリドン,ジメチルスルホオキサイド,ジメチルアセトアミド,ジメチルフオルムアルデヒド,ジエチレングリコールエーテルなどが好ましく、なかでも各種ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールエーテルがより好ましい。親水性溶媒は、単独で用いず界面活性剤と組み合わせて使用する。例えば、親水性可溶化剤としてポリエチレングリコールのみを使用しても所期の目的は達成出来ない。
親水性可溶化剤は所望により難水溶性化合物に対イオンを与える化合物をさらに含有していてもよい。対イオンを与える化合物として、酸性薬物には陽イオンを与える化合物であればなんでもよく、具体的には有機陽イオンのメグルミン、ジエタノールアミン、ベンザチンや、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)の水酸化物、またはアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)の水酸化物などが好ましい。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましい。また、塩基性薬物には陰イオンを与える化合物であればなんでもよく、具体的には塩酸、硫酸、酢酸、臭酸、クエン酸、マレイン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、リン酸などが好ましい。特に、塩酸がより好ましい。両性薬物には、前述の化合物の全てが好ましく、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸がより好ましい。これらは水溶液の状態で使用されるのが好ましい。
難水溶性化合物に対イオンを与える化合物の添加量としては、難水溶性薬物に対して0.2から1.2倍モルが好ましい。特に、0.5から等モルがより好ましい。
本発明に係る親水性可溶化剤の好ましい例として、
(1)コハク酸ビタミンEポリエチレングリコールエステル
(2)ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステル
(3)コハク酸ビタミンEポリエチレングリコールエステルとポリエチレングリコールまたはプロピレングリコールとの混合物
(4)(イ)コハク酸ビタミンEポリエチレングリコールエステルと(ロ)ポリエチレングリコールまたはプロピレングリコールと(ハ)水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは塩酸との混合物
(5)(イ)ポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステルと(ロ)ポリエチレングリコールまたはプロピレングリコールと(ハ)水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは塩酸との混合物
等が好ましく、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび塩酸は適当な濃度の水溶液として使用するのが好ましい。
本発明で用いる品質保持剤としては、親水性可溶化した難水溶性薬物を含む内容物を充填したハードカプセルの化学的安定性または物理的安定性に寄与するものであれば、どのようなものでもよい。具体的には、難水溶性薬物と可溶化剤と品質保持剤とが充填されているハードカプセル剤を40℃下6ヶ月保存する加速試験に付し、その結果、外観損傷(例えば、軟化、溶解、漏れ、割れおよび変形など)およびハードカプセルから薬物の溶出性の悪化が実質的に観察されないことが好ましい。このような本発明のハードカプセル剤は、保存安定性に優れる。
本発明で用いる品質保持剤としては、精製水、増粘剤または高融点の添加剤などが挙げられる。前記増粘剤としては、ハードカプセルに充填される内容物の動粘度を約100〜2000(mpas)程度にする物質が挙げられ、より具体的には、例えばセルロース系高分子もしくはポリビニルピロリドン、ポリアルギン酸、ポリアクリル酸などが好ましい。または前記物質を精製水もしくは多価アルコールまたはそれらの混液で溶解・分散した液や軽質無水ケイ酸やポリアルギン酸などが挙げられる。前記高融点の添加剤としては、室温付近で固体であり、融点の高い物質であればなんでもよく、具体的には内容物の融点を約30〜80℃程度にする高融点物質が挙げられる。より具体的には、例えば高級脂肪アルコール類、グリセリン長鎖脂肪酸エステル、高分子ポリエチレングリコール(1000、1500、4000、6000、20000)、ポリエチレングリコール1500脂肪酸エステル類またはコハク酸ビタミンEポリエチレングリコール1000エステルなどが挙げられる。
本発明で用いる品質保持剤として、より好ましくは、(a)精製水、(b)セルロース系高分子もしくはポリビニルピロリドン(K25,K30など)、または前記物質を精製水もしくは多価アルコールまたはそれらの混液で溶解・分散した液、(c)軽質無水ケイ酸、(d)高級脂肪アルコール類または(e)グリセリン長鎖脂肪酸エステル類などが挙げられる。なお、精製水は蒸溜水、生理的食塩水であってもよく、精製水、蒸留水が好ましい。なお、前記対イオンを与える化合物が水溶液として配合される場合、水分が使用されているため、精製水などの品質保持剤を使用しなくともよい。
また、溶媒として、セルロース系高分子添加剤もしくはポリビニルピロリドンなどを精製水もしくは多価アルコールまたはそれらの混液で溶解、分散した液を用いると、かかる溶媒は品質保持剤の役割を兼ねることができるため、品質保持剤を添加しなくてもよい。
前記セルロース系高分子としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。前記の多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール)、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の低分子のグリコール類;ポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコール等の分子量が約200〜約6,000の高分子のグリコール類等が挙げられ、中でもポリエチレングリコール400またはプロピレングリコールがより好ましい。
前記高級脂肪アルコールとしては、例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコールまたはセトステアリルアルコールなどの炭素数16〜22の脂肪アルコールが挙げられ、中でもセトステアリルアルコールが好ましい。
前記グリセリン長鎖脂肪酸エステルとしては、長鎖脂肪酸とグリセリンまたはポリグリセリンのエステルおよびその誘導体をいい、モノエステル、ジエステル、トリエステルまたはポリエステルのいずれでもよい。例えば、長鎖脂肪酸とグリセリンのエステル(狭義のグリセリン長鎖脂肪酸エステル)、グリセリン酢酸長鎖脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸長鎖脂肪酸エステル、グリセリン乳酸長鎖脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸エステル、ポリグリセリン長鎖脂肪酸エステルまたはポリグリセリン縮合リシレイン酸エステルなどが挙げられる。前記長鎖脂肪酸としては、例えば炭素数12〜40、好ましくは炭素数12〜22の飽和または不飽和脂肪酸などが挙げられる。該脂肪酸としては、例えばステアリン酸、パルミトステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、リノール酸またはベヘン酸などが好ましく、パルミトステアリン酸がより好ましい。
本発明で用いる品質保持剤として、より好ましくは、(a)精製水、(b)セルロース系高分子添加剤もしくはポリビニルピロリドンなど、またはこれらを精製水、ポリエチレングリコール400もしくはプロピレングリコールまたはそれらの混液で溶解・分散した液、(c)軽質無水ケイ酸、(d)セトステアリルアルコールおよび(e)パルミトステアリン酸グリセリンからなる群から選ばれる1以上が挙げられる。
なお、例えば高級脂肪アルコールまたはグリセリン脂肪酸エステルのように、1つの添加剤が親水性可溶化剤としての役割と品質保持剤としての役割の双方を有する場合がある。本発明で用いる品質保持剤としては、精製水が最も好ましい。
本発明に係るハードカプセル剤において、難水溶性薬物の製剤中含有量は、約0.1重量%から約50重量%程度であり、約1重量%から約30重量%がより好ましい。親水性可溶化剤の製剤中含有量は、約20重量%から約99.8重量%が好ましく、約50重量%から約90重量%がより好ましい。親水性溶媒の製剤中含有量は、約0.1重量%から約20重量%が好ましく、約1重量%から約10重量%がより好ましい。品質保持剤の製剤中含有量は、約0.1重量%から約30重量%までが好ましく、約1重量%から約20重量%がより好ましい。
本発明に係るハードカプセル剤を構成する素材(以下、カプセル素材という。)としては、公知の素材を用いてよいが、経口投与することが許容される素材が特に好ましい。例えば、天然由来の多糖類である寒天,アルギン酸塩,デンプン,キサンタンもしくはデキストランや、タンパクであるゼラチンもしくはカゼインなどが挙げられる。化学処理品としては,ヒドロキシデンプン,プルラン,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ポリビニルアルコールもしくはその誘導体,ポリアクリル誘導体,ポリビニルピロリドンもしくはその誘導体,またはポリエチレングリコールなどが挙げられる。本発明に係るハードカプセル剤は、その中でもゼラチンハードカプセル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースハードカプセルまたはプルランハードカプセルであることが好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースハードカプセルまたはプルランハードカプセルであることがより好ましい。
本発明で用いるハードカプセルは公知方法にしたがって容易に製造することができる。例えば、上記カプセル素材、および所望によりゲル化剤、更に所望によりゲル化補助剤を溶解した水溶液(ジェル)中に成型ピンを浸漬し、これを引き上げ、上記カプセル素材をゲル化、乾燥するという方法により、ハードカプセルを得ることができる。
上記のようにして得られるハードカプセルに、難水溶性薬物と、親水性可溶化剤と、品質保持剤とを、好ましくはこれらを均一に混合、溶解または分散した後に充填することにより、本発明のハードカプセル剤を得ることができる。ハードカプセルには、難水溶性薬物、親水性可溶化剤と品質保持剤以外にも、本発明の目的に反しない限り他の添加物が充填されていてもよい。前記「他の添加物」としては、本発明のハードカプセル剤の用途に応じて当該用途に通常用いられている添加物を用いることができ、例えば、食用色素、不透明化剤、粘度改変剤、ゲル化剤、ゲル化補助剤または賦形剤(例、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニットなど)等が挙げられる。なお、ハードカプセルに充填される物質を「内容物」と総称する。
内容物の充填方法は、常法に従って行えばよい。例えば、上述のハードカプセル(ボディーとキャップの対からなる)を薬物充填機にセットし、ボディーとキャップとを分離した後、ボディーに一定量の内容物を充填し、キャップを結合するなどの方法を採用することができる。また、所望により、キャップとボディーの結合部に、当該カプセル素材と同一成分などによって、いわゆるバンドシールやマイクロスプレー・シーリングを施すことが好ましい。
例えば、ボディーとキャップの接合部からの液漏れを防止する為に、ボディーに内容物を充填後、キャップを閉めて接合部を速やかに融合させてシーリングするのが好ましい。このように、親水性可溶化剤が含まれていてもハードカプセルを品質保持する添加剤さえあれば、経口投与時の吸収性が改善された難水溶性薬物を含む内容物をハードカプセルに充填することにより、経口投与用固形製剤化できる。
ハードカプセルに充填される内容物は、液状、半固形状または固形状(例えば、粉末、顆粒または錠剤など)等いかなる形態を有していてもよいが、経口投与時の吸収性の改善という観点からは液状または半固形状を呈していることが好ましい。
液状および半固形状の内容物は、公知の方法に従って得ることができる。例えば、液状の内容物は、適当な溶媒に難水溶性薬物、親水性可溶化剤、乳化剤、品質保持剤および所望により他の添加物を溶解または分散することにより得ることができる。ここで、溶媒としては、本発明のハードカプセル剤の用途により適宜選択することができ、また、品質保持剤として増粘剤を用いれば、このとき、増粘剤とともに、増粘補助剤を同時に用いてもよい。増粘補助剤としては、固体であるセルロース系高分子添加剤やポリビニルピロリドンや軽質無水ケイ酸やポリアルギン酸やポリアクリル酸などを溶解・分散する担体であればよく、例えば、精製水や多価アルコールやグリセリンなどまたはそれらの混液などが好ましい。さらに、品質保持剤として高融点の添加剤を用いれば半固形状の内容物を調製することができる。この添加剤として本発明の高融点の親水性可溶化剤も上げられる。例えば、高級脂肪アルコール類、グリセリン長鎖脂肪酸エステル、PEG1000、PEG1500、PEG4000、PEG6000、PEG20000などの高分子ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール1500脂肪酸エステル類またはコハク酸ビタミンEポリエチレングリコール1000エステルが好ましい。特に高級脂肪アルコール、グリセリン長鎖脂肪酸エステル、PEG1000、PEG1500、PEG4000、PEG6000、PEG20000などの高分子ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール1500脂肪酸エステル類またはコハク酸ビタミンEポリエチレングリコール1000エステルがより好ましい。
本発明のハードカプセル剤は、医薬品または食品をはじめとして、動物または植物用の薬品や肥料もしくは飼料などに適用可能である。特に医薬品としては、経口投与される薬剤だけでなく、吸入剤などの非経口薬剤、または坐剤などの外用剤としても適用可能である。更に、入れ歯、眼鏡またはコンタクトレンズなどの消毒・洗浄などを目的とするいわゆる医薬部外品としても適用可能である。
以下、製造例、試験例および実施例を示すが、これらによって本発明が限定されるものではない。以下の例中、部は重量部を、%は重量%を意味する。
比較例1
9.5部のポリエチレングリコール(PEG)400と0.5部の精製水を混合し、その混合物を各1号サイズのゼラチンハードカプセル(HGC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースハードカプセル(HPMC)またはプルランハードカプセル(HPC)に市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し,ハードカプセル剤とした。
比較例2
7部のPEG400に蒸留水を0.5部とポリビニルピロリドン(PVP)K25を2.5部とを混合、溶解し、得られた溶解液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
製造例1
約60℃で溶融したコハク酸ビタミンEポリエチレングリコール1000エステル(TPGS)を9部とPEG400を1部と混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
製造例2
約60℃で溶融したTPGSを7部とPEG400を3部とをよく混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
製造例3
約60℃で溶融したTPGSを9部とプロピレングリコール(PG)を1部とをよく混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
製造例4
約60℃で溶融したTPGSを7部とPGを3部とをよく混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
製造例5
約60℃で溶融したTPGSを6.7部とPVPK25の0.3部を溶解したPGを3部とをよく混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
製造例6
約40℃で溶融したポリオキシエチレンヒドロキシステアリン酸(HS15)を9部とPGを1部とをよく混合し、1号サイズのHGC、HPMC、HPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3ml充填し、ハードカプセル剤とした。
製造例7
約60℃で溶融したポリエチレングリコール1500脂肪酸トリグリセリドであるGelucire44/14を6部と同じくポリエチレングリコール1500脂肪酸トリグリセリドであるLabrasolを3部とジエチレングリコールエーテルを1部とよく混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC、HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
製造例8
約60℃で溶融したグリセリン中鎖脂肪酸エステルであるImwiter742を9部とポリオキシエチレン硬化ひまし油(HCO)60を1部を約60℃下でよく混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC、HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
約60℃で溶融したTPGSを8部とPEG400を1部と精製水を1部とを混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
前もって、0.5部のPVPK25を溶解した。PEG400を3部と蒸留水を0.5部に約60℃で溶融したTPGSを6部とをよく混合し、溶解し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
約60℃で溶融したTPGSを8部とプロピレングリコール(PG)を1部と精製水を1部とをよく混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
約40℃に溶融したHS15を5部とPGを1部と精製水を1部と高級脂肪アルコールを3部とをよく混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
約60℃で溶融したGelucire44/14を4.5部とLabrasolを2部とジエチレングリコールエーテルを0.5部とグリセリン長鎖脂肪酸エステルであるパルミトステアリン酸グリセリンを3部とをよく混合、溶解し、得られた混合液を各1号サイズのHGC、HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
約60℃に溶融したグリセリン中鎖脂肪酸エステルであるImwiter742を8部とポリオキシエチレン硬化ひまし油(HCO)60を1部と約60℃下でよく混合、溶解し、さらに、軽質無水ケイ酸を1部加え、よく混合した。得られた混合液に各1号サイズのHGC、HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、ハードカプセル剤とした。
試験例1:外観変化試験
製造例1から8までのカプセル剤を、キャップ部とボディ部の接合部から内溶液が漏れないようにボディ部を下にして試験管に入れ、試験管の開口部を密封し、室温3年間に相当する加速試験条件である40℃の恒温室に6ヶ月間保存し、外観変化(溶解、割れ、漏れ、変形など)を観察した。その結果を下記表に示す。表中、○は外観変化がないことを、×は軟化、割れ、漏れおよび変形が生じることを示す。
Figure 2004073692
上表に示したように、品質保持剤を含有していない比較例1、製造例4、5のHGCカプセル剤と比較例1、2、製造例1〜5、7のHPMCカプセル剤は軟化、割れ、変形が生じ、不適合を示す。一方、品質保持剤を含有する実施例1〜6は、適合を示す。
試験例2:溶出試験
試験例1で保存期間終了まで大きな外観変化のなかった比較例2、製造例1、2、3、6、7、8のHGCまたはHPMCのカプセル剤について、充填されていた内容液を取り出し、その代わりに約250mgのアセトアミノフェンを充填しアセトアミノフェンカプセルを得た。第14改正日本薬局方の溶出試験法第2法に従い、溶出液を精製水とし、パドル回転数50回転で前記アセトアミノフェンカプセルからのアセトアミノフェンの溶出率を測定した。その結果を下記表に示す。表中の数値は、45分後のアセトアミノフェンの溶出率(%)を示す。また、×は45分後のアセトアミノフエンの溶出率が85%以下であり、不満足な結果であったことを示す。なお、前記溶出率は試験数2の平均値である。
Figure 2004073692
上表に示したように、外観に大きな変化がなかった品質保持剤を含有していない比較例2と製造例1、2、3、6、7、8のHGCまたはHPMCカプセルからのアセトアミノフェンの45分後の溶出率は、85%以下であり、前述した条件で保存しなかったカプセル(非保存品)より顕著に低い溶出率を示し、品質保持剤が充填されていないため品質的に各種親水性可溶化剤の悪影響があったことを示す。これは、各種親水性可溶化剤によって、HGCの主成分であるゼラチンが変質し、それに伴いゼラチンの不溶化が起こっていたことと、HPMCに関してはHPMCのゲル化が起こった結果であると考えられた。一方、品質保持剤を含有する実施例1〜6の3種のカプセルからの溶出率は、非保存品と変わらず、45分後のアセトアミノフェンの溶出率は85%以上であったことから、品質的に各種親水性可溶化剤の悪影響がなかったことを示す。つまり、精製水、PVP、高級脂肪アルコール、グリセリン中鎖脂肪酸エステル、無水軽質ケイ酸がカプセル素材に対し品質保持剤として効果があったことがわかった。
実施例1と同様の親水性可溶化剤組成で以下のようにハードカプセル剤を調製した。つまり、ダナゾールを1g(10重量%)とTPGSを7gとPEGを0.7gとラウリル硫酸ナトリウムを0.6gとを約80℃加温下よく混合し、ダナゾールを溶解した。溶解後、精製水を0.7g加え、よく混合し、この薬液を市販品の使い捨て1mlシリンジで、各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCカプセルに約0.3mlずつ充填し、1カプセルあたり約30mg含有ダナゾールカプセル剤を調製した。
実施例2と同様の親水性可溶化剤組成で以下のようにハードカプセル剤を調製した。つまり、予め0.3gのPEG400と0.05gの精製水に0.05gのポリビニルピロリドンK25を約80℃加温下よく混合し、溶解した。この混液に0.7gのTPGSを加え、よく混合、溶解した。得られた混液にシクロスポリンを0.2g(15.4重量%)を加え、約80℃加温下よく混合し、溶解した。この薬液を市販品の使い捨て1mlシリンジで、各1号サイズのHPMCまたはHPCカプセルに約0.3mlずつ充填し、1カプセルあたり約45mg含有シクロスポリンカプセル剤を調製した。
実施例3と同様の親水性可溶化剤組成で以下のようにハードカプセル剤を調製した。つまり、タクロリムス0.2g(10重量%)とTPGSを1.4gとPGを0.2gとを約80℃加温下よく混合し、タクロリムスを溶解した。溶解後、精製水0.05gを加え、よく混合し、この薬液を市販品の使い捨て1mlシリンジで、各1号サイズのHGCまたはHPCカプセルに約0.3mlずつ充填し、1カプセルあたり約30mg含有タクロリムスカプセル剤を調製した。
実施例4と同様の親水性可溶化剤組成で以下のようにハードカプセル剤を調製した。つまり、プロブコール2g(17重量%)とHS15を7gとPGを1gとセトステアリルアルコールを約80℃加温下よく混合し、プロブコールを溶解した。溶解後、精製水0.5gを加え、よく混合し、この薬液を市販品の使い捨て1mlシリンジで、各1号サイズのHGCまたはHPCカプセルに約0.3mlずつ充填し、1カプセルあたり約50mg含有プロブコールカプセル剤を調製した。
実施例5と同様の親水性可溶化剤組成で以下のようにハードカプセル剤を調製した。つまり、タモキシフエンを0.3g(10重量%)と60℃に溶融したGelucire44/14を1.4gとLabrasolを0.6gとジエチレングリコールエーテルを0.2gとグリセリン長鎖脂肪酸エステルであるパルミトステアリン酸グリセリンを0.5gとを約60℃でよく混合し、溶解した。溶解後、精製水0.05gを加え、よく混合し、この薬液を市販品の使い捨て1mlシリンジで、各1号サイズのHGCまたはHPCカプセルに約0.3mlずつ充填し、1カプセルあたり約30mg含有タモキシフエンカプセル剤を調製した。
実施例6と同様の親水性可溶化剤組成で以下のようにハードカプセル剤を調製した。つまり、約60℃に溶融したImwiter742を15gとポリオキシエチレン硬化ひまし油(HCO)60を2gと約60℃下でよく混合し、この混合液にアルベンダゾールを1g(5重量%)を加え、溶解した。さらに、無水軽質ケイ酸を1部加え、よく混合した。得られた混合液に各1号サイズのHGC、HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、1カプセルあたり約15mg含有のアルベンダゾールカプセル剤を調製した。
実施例1と同様の親水性可溶化剤組成で以下のようにハードカプセル剤を調製した。つまり、アルベンダゾールを2.5g(22重量%)に約60℃に溶融したTPGSを7.13gとPEG400を1gと12規定の塩酸水溶液を0.87gとを約60℃でよく混合し、溶解した。得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、1カプセルあたり約66mg含有のアルベンダゾールカプセル剤を調製した。
実施例4と同様の親水性可溶化剤組成で以下のようにハードカプセル剤を調製した。つまり、ドンペリドンを3g(25重量%)と約40℃に溶融したHS15を7.35gとPGを1gと12規定の塩酸水溶液を0.65gとを約60℃でよく混合、溶解し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、1カプセルあたり約75mg含有ドンペリドンカプセル剤を調製した。
実施例4と同様の親水性可溶化剤組成で以下のようにハードカプセル剤を調製した。つまり、トログリタゾンを4g(29重量%)と約40℃に溶融したHS15を7.2gとPGを1gと4規定の水酸化カリウム水溶液を1.8gとを約60℃でよく混合、溶解し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.31mlずつ充填し、1カプセルあたり約90mg含有トログリタゾンカプセル剤を調製した。
実施例1と同様の親水性可溶化剤組成で以下のようにハードカプセル剤を調製した。つまり、プランルカストを3.5g(25重量%)と約60℃に溶融したTPGSを8gとPEG400を1gと4規定の水酸化ナトリウム水溶液を1.5gとを約60℃でよく混合し、得られた混合液を各1号サイズのHGC,HPMCまたはHPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで約0.3mlずつ充填し、1カプセルあたり約75mg含有プランルカストカプセル剤を調製した。
イブプロフェンを5g(50重量%)にHS15を3gとPGを1gとをよく混合し、次に12規定の水酸化ナトリウム水溶液を1gとを加え、約60℃でよく混合、溶解した。得られた混合液を各1号サイズのHGC、HPMC、HPCに市販品の使い捨て1mlシリンジで0.3mlずつ充填し、1カプセルあたり約150mg含有イブプロフェンカプセル剤を調製した。
なお、実施例7〜17のカプセル剤の充填物は、いずれも第14改正日本薬局法の崩壊試験法に記載された人工胃液(pH1.2)および人工腸液(pH6.8)に速やかに溶解し、上記の難水溶性薬物はその溶液において2時間析出しなかった。難水溶性薬物の生体内への吸収性が改善されることがわかる。
本発明のハードカプセル剤は、難水溶性薬物の水への溶解度を向上させるための親水性可溶化剤を含有させても、例えば軟化、溶解、漏れ、割れおよび変形などの外観変化や薬物の溶出性悪化などの質的変化が実質的に見られない。本発明のハードカプセル剤を経口投与用医薬品として用いた場合は、親水性可溶化剤により難水溶性薬物の水への溶解度が向上されるため、充填されている難水溶性薬物の経口吸収性を向上させることができるという利点がある。さらに、本発明のハードカプセル剤においては、従来のソフトカプセルとは異なり、内容物の粘度について実質的に限定されず、粘度の比較的高い内容物も充填することができる。また、本発明のハードカプセル剤は環境の湿度や温度などに影響を受けにくく、流通や取り扱いがしやすい。

Claims (8)

  1. 難水溶性薬物と、(i)界面活性剤または(ii)親水性溶媒と界面活性剤を含有する親水性可溶化剤と、品質保持剤とを含有する内容物がハードカプセルに充填されていることを特徴とする難水溶性薬物のハードカプセル剤。
  2. 品質保持剤が、(a)精製水、(b)内容物の動粘度を100〜2000(mpas)にする増粘剤および(c)内容物の融点を30〜80℃にする高融点の添加剤のいずれかまたはその組み合わせであることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のハードカプセル剤。
  3. 品質保持剤が、(a)精製水、(b)セルロース系高分子もしくはポリビニルピロリドン、または前記物質を精製水もしくは多価アルコールまたはそれらの混液で溶解・分散した液、(c)軽質無水ケイ酸、(d)高級脂肪アルコールおよび(e)グリセリン長鎖脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1以上であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のハードカプセル剤。
  4. ハードカプセルに充填されている内容物が半固形状または液体状を呈していることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載のハードカプセル剤。
  5. 難水溶性薬物が、0.1〜50重量%含有されている請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載のハードカプセル剤。
  6. 親水性可溶化剤が、20〜99.8重量%含有されている請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載のハードカプセル剤。
  7. 品質保持剤が、0.1〜30重量%含有されている請求の範囲第1項〜第6項のいずれかに記載のハードカプセル剤。
  8. 界面活性剤が少なくともコハク酸ビタミンEポリエチレンエステル又はポリオキシエチレンヒドロキシ脂肪酸エステルを含有することを特徴とする請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載のハードカプセル剤。
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