JPWO2003050826A1 - 酸化物超電導厚膜用金属基材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金層の少なくとも一面にNiO層が形成された酸化物超電導厚膜用金属基材に関する。この基材は板状ないしテープ状非磁性合金の少なくとも一面にNi層が接合された複合金属基材を酸化性雰囲気を有する炉中に導入し、一定時間加熱・保持する工程、酸化反応を中断する工程、真空ないし不活性雰囲気で熱処理しNi基強磁性層を消失すると共に未酸化合金層の組成を均一化する工程からなる方法等で得られる。
Description
技術分野
本発明は超電導送電ケーブル、超電導マグネット等に用いられる酸化物超電導線材、電流リードおよび磁気シールド材等の酸化物超電導厚膜用金属基材およびその製造方法に関する。
背景技術
現在、酸化物超電導材料としてBi−2223相およびBi−2212相が実用化されつつある。例えば、文献[K.Inoue et al.,Advanced in Superconductivity;Proceeding 9st International Simposium on Superconductivity(1996,Sapporo)1463]では1.8K冷却による21.1Tの金属系の超電導マグネットの内層に4.2K冷却によるBi−2212相の高温超電導マグネットをハイブリッド化し、23.5Tの磁界を発生している。また、文献[T.Kato et al.,Proceeding 10st International Simposium on Superconductivity(1997,Gifu)877]ではBi−2223相の高温超電導マグネットを冷凍器により冷却し、20Kで7Tの磁界発生に成功している。
これらに使用されている高温超電導線材は矩形断面のテープ状の線材が主流である。このテープ状の線材は、例えばPowder−in−Tube(PIT)法という方法により作製され、該方法は、銀チューブ中に酸化物超電導材料の粉末を充填して伸線加工して単芯線を作製し、更に多数の単芯線を銀チューブ中に集束して伸線加工して多芯線を作製し、圧延加工の後に熱処理するというものである。これとは別にテープ線材は、図7に示すように、酸化物超電導粉末と有機バインダーとを混合しインクを調製し、これを銀テープ上に塗布し、場合によってはそれを複合化し、熱処理する塗布法により作製され得る。図7において、1’は銀基基材、4は超電導層である。この塗布法において、インクの塗布にはディップコート、スクリーン印刷、ドクターブレート等各種の方法が試みられている。また、テープ線材は、酸化物超電導体の結晶のc−軸をテープ面に垂直方向にそろえる配向化技術が適用され、テープの長手方向に超電導電流が流れやすい構造となっている。
酸化物超電導材料としては上述したBi系材料の他にTl系材料、Y(Nd)系材料等様々な材料が検討されている。また、線材はテープ状に限らず、丸線構造、平角構造等も検討されている。
こうした線材の製造において、銀は加工性に優れる、反応性の高い酸化物超電導材料と反応しない、酸化物超電導材料を配向化させる、ある程度の酸素を通過させる等の機能があるため、基材として利用されている。図7における線材の断面において酸化物超電導材料の断面積に対する銀の断面積の割合は銀比と呼ばれている。この銀比は加工性の観点から2程度以上の値が採用されている。
酸化物超電導線材は、4.2Kでは20T以上の高磁界でも臨界電流密度(Jc)が金属系線材より高いため、NMR等の高磁界応用が考えられている。また、酸化物超電導線材は、臨界温度(Tc)が高いために20K程度の温度でも7T程度の磁界発生が可能である。このため、酸化物超電導線材を、金属系より運転コストの安い超電導マグネットとして実用化することが期待されている。更に、酸化物超電導線材として、液体窒素温度においても弱磁界下ではかなりのJcを有する線材も開発されており、送電線への応用も期待されている。
文献[Y.Iwasa,IEEE Trans.on Mag.,Vol.24,No.2(1988)1211]によると、酸化物超電導線材を例えば77Kで使用する場合、酸化物超電導材料の比熱は、4.2Kでの値に比較すると極めて高く、銀比は保護の観点からある程度は必要であるが、安定化の観点からは0でも構わないとされている。運転温度が20K程度以上では同様である。したがって、(1)銀比を低減し、線材の製造コストを低減すること、が要請されている。また、銀の機械的強度は低いため、高磁界マグネットまたは大型マグネットでの高い電磁力に耐えることができない。したがって、(2)線材の機械的強化、も重要な技術課題である。
最近、銀を全く使用せずに塗布法により線材を製造する方法が提案された。文献[河野ら、第61回 1999年度秋季低温工学・超電導学会講演概要集、p159]によると、図8に示すように、Niテープを高温酸化し、表面に数十μmの酸化物層を形成し、その上に塗布法によりBi−2212層を形成すると、基材として銀を用いた場合と同様、テープ面に垂直にBi−2212相のc軸が配向し、4.2K、10Tで12万A/cm2の臨界電流密度が得られたと報告されている。図8において、1がNi基材、3が高温酸化により形成されたNi酸化物層、4が超電導層である。
該線材は、銀を不要とするため低コスト化が可能であり、また高強度化も達成しているが、未酸化のNiが強磁性体であるため応用に限界が生じる。即ち、残留磁界が大きい、交流損失が大きい等の弊害がある。
本発明の目的は、上記のような従来の課題を解決し、とくに製造コストが低く、高強度であり、かつ非磁性の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供することにある。
発明の概要
本発明は、板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面の表面にNiO層が形成されたことを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金の主成分が銅およびニッケルであり、ニッケルの含有率が10重量%以上、49重量%以下であることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金の主成分がニッケルおよびクロムであり、クロムの含有率が10重量%以上、25重量%以下であることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金の主成分がタングステンであることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金が、前記の銅−ニッケル合金、ニッケル−クロム合金、タングステンを含む合金、モリブデン、マンガン、およびバナジウムを任意の割合で含有することを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金中の鉄の含有率が0.1重量%未満であることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、(1)板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面にNi層が接合された複合金属基材を酸化性雰囲気を有する炉中に導入し、一定時間加熱・保持し、前記Ni層を酸化反応に施す工程と、(2)前記複合基材を冷却することにより、あるいは雰囲気を真空または不活性雰囲気に変えることにより前記酸化反応を中断する工程と、(3)前記(2)工程後、複合金属基材を真空下または不活性雰囲気下で熱処理し、Ni基強磁性層を消失すると共に未酸化合金層の組成を均一化する工程とを有することを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材の第一の製造方法を提供するものである。
また本発明は、板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面にNi層が接合された複合金属基材を酸化性雰囲気を有する炉中に導入・加熱し、前記Ni層が全て酸化されるまで保持することを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材の第二の製造方法を提供するものである。
また本発明は、熱処理前の複合金属基材がNiクラッド非磁性合金であることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材の第一または第二の製造方法を提供するものである。
また本発明は、熱処理前の複合金属基材がNi及びNiプア非磁性合金クラッド非磁性合金であることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材の第一の製造方法を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金がセラミックス粉末集合層により被覆され、更に前記セラミックス粉末集合層がNiO層により被覆されたことを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、Niチューブ中に非磁性合金棒を挿入し、前記Niチューブと非磁性合金棒との間にセラミックス粒子を充填し、目的形状に断面減少加工し、表面にNi層を有する複合体を形成し、前記複合体を高温酸化して前記Ni層の全てを酸化することを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材の第三の製造方法を提供するものである。
このような本発明の構成によれば、製造コストが低く、高強度であり、かつ非磁性の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供することができる。
発明の開示
本発明の酸化物超電導厚膜用金属基材は、板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面の表面にNiO層が形成されていることを特徴としている。
非磁性合金の表面にNiO層を形成する方法としては、例えば、ステンレススチール、Ni基合金等の非磁性合金とNiとのクラッド材を高温酸化することにより、Ni層を全て酸化することが考えられるが、通常の熱処理では非磁性合金中の金属元素のNi層への拡散が防げない。実際、NiクラッドSUS304板を大気中で950℃まで加熱し10時間保持後冷却した表面のX線回折パターンは明らかに多相状態を示し、NiOの単一相の形成は不可能であった。酸化より拡散の方が低い温度で開始し、酸化が開始する際には表面近くまでSUS304中の金属成分(主に鉄)が拡散してしまうと推測される。これを回避する方法として検討した結果、本発明は3種類の方法を見い出すに至った。
第3の方法は相互拡散を防止する方法である。非磁性合金とNiとの間に拡散防止層を設けることができればよいが、拡散防止層として金属や合金で適切なものは見当たらない。一方、セラミックス材料への金属元素の拡散係数は極めて小さいことから、本発明の一つの見地においては、非磁性合金とNi層の間にセラミックス層を形成した金属基材を高温酸化し、Ni層を全て酸化した酸化物超電導厚膜用金属基材が提供される。
具体的には、Niチューブ中に非磁性合金棒を挿入し、Niチューブと非磁性合金棒の間にアルミナ等のセラミックス粉末を充填し断面減少加工を行い、目的形状に加工後、表面のNi層を全て高温酸化させるというものである。得られた金属基材は、非磁性合金がセラミックス粉末集合層により被覆され、更に前記セラミックス粉末集合層がNiO層により被覆された構造となっている。
別の方法は、相互拡散と酸化を同時に進行させる方法である。非磁性合金とNiとの接合系に相互拡散と酸化を同時に進行させれば、Ni表面にはNiO層が成長する。一方で前記接合部分付近から、非磁性合金とNi層との相互拡散が始まっていく。必要なNiO層の厚さが得られた段階で酸化反応を絶てば、非磁性合金とNiとの相互拡散だけが進行し、非磁性合金の組成が均質になる。一方、生成されたNiO層には非磁性合金中の金属成分の拡散は困難になり、均質な非磁性合金上にNiO層が積層された構造が得られる。この第1の方法において、酸化熱処理後の合金組成の均質化による非磁性化熱処理は、真空中または不活性雰囲気中で、酸化熱処理温度より高い温度で行うことで熱処理時間を短縮することが可能である。
前記第1の方法において、Niの酸化処理温度でNiとの拡散係数が小さい金属成分からなる非磁性合金上に最小限の厚さのNi層を被覆した複合金属基材のNi層全てを酸化する方法も考えられる。酸化後の基材表面には必要な厚さのNiO層が形成される。非磁性合金とNiとの接合部には薄い拡散層が形成されるが、Niリッチな合金相も酸化され、薄い複合酸化物層となれば非磁性化する。したがって、本第2の方法では第1の方法で必要であった酸化熱処理後の合金組成の均質化による非磁性化熱処理は不要となる。
また本発明は、別の見地として、非磁性合金としてCu−Ni合金の採用にも関する。この系は全率固溶であり、強磁性のネール温度はNiの354.4℃からCuの含有量の増加で単調に減少し、約44at.%Ni(42重量%Ni)以下で強磁性は消失する。0℃以上のデータから見積もると、20K以上で非磁性になるのは46at.%Ni以下(44重量%Ni以下)、77K以上で非磁性になるのは51at.%Ni以下(49重量%Ni以下)と推定できる。また、950℃程度の温度ではNiの酸化速度に比較し、Ni−Cuの相互拡散速度は充分遅い。なお高強度のためにはNi含有率は10重量%以上が好ましい。
また本発明は、別の見地として、非磁性合金としてNi−Cr合金の採用にも関する。この系は約10重量%Cr未満では強磁性を示す。また、約25重量%Cr超では固溶体が得にくいだけではなく加工性に劣る問題がある。また、950℃程度の温度ではNiの酸化速度に比較し、Ni−Crの相互拡散速度は充分遅い。
また本発明は、別の見地として、非磁性合金としてタングステンを主成分とする合金の採用にも関する。なお、本発明によれば、前記のCu−Ni合金、Ni−Cr合金、Wを主成分とする合金、モリブデン、マンガン、およびバナジウムを任意の割合で含有する合金も採用することができる。
なお、非磁性合金中に多量の鉄が含まれた場合、鉄は低温から粒界拡散によりNi表面まで容易に拡散する。従って、非磁性合金中の鉄の含有量は0.1重量%未満が好ましい。
また本発明は、別の見地として、熱処理前の複合金属基材としてNiクラッド非磁性合金を用いる製造方法に関する。
また本発明は、別の見地として、熱処理前の複合金属基材としてNiおよびNiプア非磁性合金クラッド非磁性合金を用いる製造方法にも関する。
本発明により超電導特性を劣化させることなく線材強化が図られ、銀基金属を使用する必要がないため線材の製造コストの低減も図れ、しかも非磁性である酸化物超電導厚膜用金属基材が提供できる。
実施例
以下、本発明を実施例によりさらに説明する。
実施例1.
まず、外径12mm、内径11mm、長さ500mmのNiチューブ、外径10mm、長さ490mmのCu−40重量%Ni合金棒、平均粒径0.05μmのアルミナ粉末、および直径1mmのCu線を厚さ0.45mmに圧延したCuテープを準備した。Cu−Ni合金棒の一端にCuテープを螺旋状に密に巻き、Niチューブに挿入し、他端のNiチューブとCu−Ni合金棒の隙間にも隙間を残して数箇所Cuテープを挿入した。NiチューブとCu−Ni合金棒の隙間にアルミナ粉末を充填した。最密充填の約16%のアルミナ粉末が充填できた。端部のCuテープをはずし、溶融はんだで密封し、スェージング加工および引き抜き加工により、外径2.0mmまで加工した。断面観察の結果、外周のNi層およびアルミナ層の厚さは各々、約80μm、15μmであった。本丸線を圧延により厚さ0.2mmのテープ状に加工した。テープ中心部でのNi層およびアルミナ層の厚さは各々、約8μm、2μmでテープの幅は約5mmであった。本テープを大気中、950℃で20時間熱処理を施した。表面のX線回折、断面の組成分析の結果、Ni層の全てがNiOに変ったほかは変化がなく、NiO層の厚さは約25μmであった。得られたテープを長さ40mmに切断し、酸化物超電導厚膜用金属基材とした。
超電導材料の原料粉末であるBi2O3、SrCO3、CaCO3、CuOをBi:Sr:Ca:Cu=2:2:1:2(モル比)の割合となるように配合混合した。熱処理するとBi−2212相を主成分とする超電導体となる組成である。この混合粉末を600kgf/cm2の圧力で成形し、圧粉体とし、この圧粉体に対し、大気中、680℃、10時間の仮焼熱処理を施し、粉砕・成形の後再び730℃、10時間熱処理を行い粉砕した。得られた粉末を有機バインダーと混合し、スクリーン印刷用のインクとした。スクリーン印刷に関しては、例えば、新版スクリーン印刷ハンドブック(日本スクリーン印刷技術協会発行、昭和63年)等に詳しいので詳細は省略する。
前記の酸化物超電導厚膜用金属基材に前記インクをスクリーン印刷で塗布し、大気中、450℃、1時間の脱バインダー処理後、4t/cm2の圧力でプレス成形した。最高温度890℃に加熱後、870℃まで4時間で除冷後、室温まで炉冷した。比較のために、幅5mm、厚さ0.2mm、長さ40mmの銀テープ上へ酸化物超電導インクをスクリーン印刷で塗布した試料も同時熱処理を行った。
X線回折によるBi−2212相の配向性、臨界電流等の超電導特性やそのばらつきは本実施例の金属基材を用いた場合と、Ag基材を用いた場合とで特に差はなかった。また、磁化の温度および磁界依存性の比較から、本実施例の金属基材には強磁性を示す成分は含まれていないことも分かった。
図5は、本実施例の方法を説明するための図である。図5(a)は複合化した丸線、図5(b)がそれを断面減少加工および圧延加工により製造されるテープ、図5(c)はそれを高温酸化した本実施例の酸化物超電導厚膜用金属基材、図5(d)はそれに超電導層を形成したものである。図において、1がNi、2が非磁性合金、3がNi酸化物層、4が超電導層、5がセラミックス粉末層を示す。
実施例2.
まず、Niテープの大気中、950℃での酸化速度を求めた。950℃で0〜25時間保持した試料の重量変化を求め、酸化反応が、Ni+(1/2)O2→NiOと仮定した場合の酸化されたNi層の厚さx(cm)と時間t(sec)との関係は
x2=2D1t (1)
であり、D1=6.9x10−12m2/secであることが分かった。
一方、金属の拡散距離x(cm)と時間t(sec)との関係も
x2=2Dt (2)
であり、Dが拡散係数であり、
D=D0exp[−Q0/RT] (3)
の温度依存性を持つことが知られている。例えば、950℃におけるNi中へのCuやFeの拡散係数はそれぞれ、7.8x10−12cm2/sec、3.5x10−12cm2/secであり、これらの拡散速度とNiの酸化速度は同じオーダーであることが分かった。
そこで、外径12mm、内径10mm、長さ500mmのNiチューブに外径9.22mm、長さ500mmのCu−15重量%Ni合金棒を挿入して外径2.33mmまで断面減少加工を行った。この時のNi層の厚さは約208μmであった。これを厚さ0.38mmまで圧延加工を行い複合テープを得た。最終形状におけるNi層の厚さは約34μmで、テープの幅は約4.6mmであった(中心部)。
Niの酸化速度から大気中、950℃、10時間で約7.1μmのNiが酸化されることが推定される。また、Ni中へのCuの拡散速度から、950℃、10時間の熱処理でNi層の約7.5μmにCuが拡散することが推定される。そこで、大気中、950℃に加熱した炉中に複合テープの一部を導入し、10時間保持した。保持時間が10時間になった時点で炉の雰囲気を真空引きし、徐々に1300℃まで加熱し15時間保持した後、炉冷した。
得られた試料の表面のX線回折評価を行ったところ、完全にNiOのパターンと一致した。また、断面観察の結果、表面の酸化物層の厚さは約23μmであった。理論的にはNiが酸化されてNiOになる場合、その厚さは1.52倍になる。従って、7.1μmのNiが酸化されると、NiO層の厚さは10.8μmとなるはずである。予測の約2倍の厚さの酸化物層は層がかなりポーラスであることを意味する。更に、合金層の組成分布を調べた結果、CuとNiとがかなり均一に分布しており、Niの濃度は約40重量%であった。
得られた基材の4.2Kから室温までの磁化率の温度依存性を調べた結果、強磁性の兆候は見られず、非磁性を示した。
本基材上に実施例1と同じ酸化物超電導インクを印刷し、実施例1と同じ条件で熱処理を行った。
本実施例の金属基材を用いた場合のX線回折によるBi−2212相の配向性、臨界電流等の超電導特性やそのばらつきは、実施例1の金属基材を用いた場合やAg基材を用いた場合とで特に差はなかった。なお、表面に電極用のAg箔を被覆した本実施例の試料の4.2K、OTにおける臨界電流は820Aであり、酸化物層の厚さが35μmであったためその臨界電流密度は5,084A/mm2であった。
なお、合金組成の均質化には拡散現象より、液相の出現が主に寄与することも判明した。
図1は本実施例の方法を説明するための図である。図1(a)は複合化した丸線、図1(b)はそれを断面減少加工および圧延加工により製造されるテープ、図1(c)はテープを高温酸化および拡散熱処理した本実施例の酸化物超電導厚膜用金属基材、図1(d)は該金属基材に超電導層を形成したものである。図1において、1がNi、2が非磁性合金、2’は拡散後の非磁性合金、3がNi酸化物層、4が超電導層を示す。
図6は実施例2における熱処理過程における金属基材の構造変化を示す図である。図6(a)は熱処理前のテープの断面図である。これを加熱された酸化雰囲気炉に導入し、一定時間経過した後の構造が図6(b)である。図6(b)において、3が表面に形成されたNiの酸化物層、6がNiと非磁性合金との拡散層、1が未酸化・未拡散のNi層、2が未拡散の非磁性合金層である。この後、酸化性雰囲気を真空または不活性雰囲気に替え、長時間保持した後の断面構造が図6(c)である。図において、2’が合金とNiとの拡散で生じたNiリッチな合金層である。
本実施例では非磁性合金の全面にNi被覆したテープを用いたが、全面にNiを被覆する必要はない。図2は本実施例における別の態様を説明するための図である。図2(a)に示すような、Niを一面のみに被覆したテープまたは板は圧延接合によって容易に製造される。これに同様な熱処理を行うことで、図2(b)に示した断面の構造が得られる。次に図2(c)に示すように、Ni酸化物層上に超電導層4を形成すればよい。
本実施例ではNiの高温酸化として、大気中、950℃、10時間の熱処理を例に上げて説明したが、これに限るものではない。実際、大気中、950℃で1または4時間の熱処理を行った基材上にもBi−2212厚膜の形成は可能であった。この場合、酸化されるNiの厚さ(形成されるNiO層の厚さ)はそれぞれ、2.25μm(7.3μm)または4.5μm(14.5μm)と推定される。また、酸化熱処理温度も例えば、875℃〜975℃の範囲で選択でき、その際の熱処理時間は形成されるNiO層の厚さが約7μm以上となる時間を選択すればよい。
また、本実施例ではCu−Ni合金を用いたが、この合金に限るものではない。実際、後の実施例でも説明するがNi−Cr合金も適用可能であり、更に、Niへの拡散が容易でない金属を含む別の合金も適用できる。更に合金でなく、純金属あるいはNiへの拡散が容易でない不純物を多く含む金属でも構わない。この場合、図3に示すように、Ni層の厚さは図1よりも厚くさせる必要はある。図3において2”が別の非磁性金属である。例えば、金属として銅を用いれば、本実施例と全く同じ構造の酸化物超電導厚膜用金属基材が得られる。
さらに、本実施例では酸化反応の中断方法として、大気雰囲気を真空引きする例について説明したが、明らかにこれに限るものではなく、不活性雰囲気に置換する方法や冷却後に炉から取り出すあるいは急冷する方法等でも有効である。冷却した場合の強磁性層消失および合金層の均質化のための熱処理は別個、真空または不活性雰囲気下で行えばよい。
さらにまた、本実施例では強磁性層消失および非磁性合金層の均質化の為の熱処理として真空中、1300℃で15時間の熱処理を行ったが、明らかにこれに限るものではなく、強磁性層が消失する時間以上であればよく、多少の合金層における濃度勾配が残っても構わない。また、熱処理時間を短縮するために熱処理温度を上げることも有効である。ただし、こうした熱処理では液相が出現するため、加熱速度には充分な配慮が必要である。
実施例3.
外径12mm、内径10mm、長さ500mmのNiチューブに外径9.8mm、内径7.7mm、長さ500mmのCuチューブと外径7.5mm、長さ500mmのCu−40重量%Ni合金棒を挿入して外径2.0mmまで断面減少加工を行った。この時のNi層およびCu層の厚さは約175μmおよび185μmであった。これを厚さ0.2mmまで圧延加工を行い複合テープを得た。最終形状におけるNi層およびCu層の厚さは約17.5μmおよび18.5μmで、テープの幅は約5mmであった(中心部)。この断面構造を図4に示す。図において2−2がNiプア非磁性合金であり、本実施例では純Cuとした。
この複合テープを大気中、950℃に加熱した炉中に導入し、10時間保持した。保持時間が10時間になった時点で炉の雰囲気を真空引きし、徐々に1300℃まで加熱し5時間保持した後、炉冷した。
得られた金属基材の表面のX線回折評価を行ったところ、完全にNiOのパターンと一致した。また、断面観察の結果、表面の酸化物層の厚さは約23μmであった。更に、合金層の組成分布を調べた結果、CuとNiとがかなり均一に分布しており、Niの濃度は約40重量%であった。
得られた金属基材の4.2Kから室温までの磁化率の温度依存性を調べた結果、強磁性の兆候は見られず、非磁性を示した。
本基材上に実施例1と同じ酸化物超電導インクを印刷し、実施例1と同じ条件で印刷および熱処理を行った。本実施例の金属基材を用いた場合のX線回折によるBi−2212相の配向性、臨界電流等の超電導特性やそのばらつきは、実施例1および2の金属基材を用いた場合やAg基材を用いた場合とで特に差はなかった。
本実施例では非磁性合金層の均質化のための拡散距離を実施例2の約1/10に低減したため、大幅に熱処理時間を短縮できた。
実施例4.
幅5mm、厚さ20μmのNi−20重量%Crテープに厚さ、約3μmのNiをメッキした金属テープを準備した。これを40mmの長さに切断した複数のテープを大気中、950℃に加熱した炉に入れ、2時間保持後炉冷した。
得られた金属基材の4.2Kから室温までの磁化率の温度依存性を調べた結果、強磁性の兆候は見られず、非磁性を示した。
本基材上に実施例1と同じ酸化物超電導インクを印刷し、実施例1と同じ条件で熱処理を行った。
本実施例の金属基材を用いた場合のX線回折によるBi−2212相の配向性、臨界電流等の超電導特性やそのばらつきは、実施例1、2および3の金属基材を用いた場合やAg基材を用いた場合とで特に差はなかった。
実施例5.
幅5mm、厚さ20μmのニクロムテープに厚さ、約3μmのNiをメッキした金属テープを準備した。これを40mmの長さに切断した複数のテープを大気中、950℃に加熱した炉に入れ、2時間保持後炉冷した。ニクロム合金の組成(重量%)は下表に示す。
本金属基材上に実施例1と同じ酸化物超電導インクを印刷し、実施例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料ではBi−2212相は形成できなかったばかりか、金属基材がセラミック化していた。表面を酸化熱処理した基材のX線回折の結果、NiO以外の相を含んでおり、この原因が基材中に含まれる鉄のためであることが判明した。
実施例6.
幅5mm、厚さ20μmのWテープに厚さ、約3μmのNiをメッキした金属テープを準備した。これを40mmの長さに切断した複数のテープを大気中、950℃に加熱した炉に入れ、2時間保持後炉冷した。
得られた基材の4.2Kから室温までの磁化率の温度依存性を調べた結果、強磁性の兆候は見られず、非磁性を示した。
本基材上に実施例1と同じ酸化物超電導インクを印刷し、実施例1と同じ条件で熱処理を行った。
本実施例の金属基材を用いた場合のX線回折によるBi−2212相の配向性、臨界電流等の超電導特性やそのばらつきは、実施例1ないし4の金属基材を用いた場合やAg基材を用いた場合とで特に差はなかった。
実施例4および6では、非磁性高強度合金としてNi−Cr合金やW金属も有効であること、Niのクラッド方法としてメッキも有用であることを示した。これらにより基材やNiO層の厚さを薄くでき、従って、形成する超電導層の体積率の向上に有効である。また、Ni層厚を薄くすることで未酸化のNiを残さないことでの非磁性化も可能になり、非磁性化のための余分な熱処理工程を省くことに有効である。
950℃前後の温度でのNi中への拡散係数の小さな非磁性金属元素としてその他に、バナジウム、モリブデン、マンガンなども知られている。したがって、非磁性合金としてCu−Ni合金、Ni−Cr合金、W基合金だけでなく、これらの金属やこれらを任意の割合で含有する合金も当然有効である。こうしたNi中への拡散係数の小さな元素をのみ含有する非磁性合金にNiが薄くクラッドされた複合基材を用いた場合、未酸化のNiを残さないことでの非磁性化も可能になり、非磁性化のための余分な熱処理工程を省くことに有効である。
耐熱性合金には耐酸化性を付与するために炭素を僅かに含有する場合が少なくない。950℃前後の温度での炭素のNi中への拡散係数は極めて大きい。しかしながら、Ni中に拡散した炭素は酸化熱処理によりCO2ガスとして基材中から除去される。したがって、炭素、リンなど酸化熱処理により基材から除去される元素が非磁性合金あるいはNi層中に含有することは害をもたらさないことは言うまでもない。
なお、各実施例ではNiO層の上に直接超電導層を形成したが、本発明はこれに限るものではない。NiO層の表面にAg基金属層を被覆し、その上に超電導層を形成することやNiO層の上に超電導層を形成しその上にAg基金属層を被覆することも可能である。これにより、4.2Kでの使用も可能になる。また、Ag基金属層を被覆によりポーラスなNiO層の機械的強度、付着力を向上させる利点も生じる。こうした被覆はAg基ペーストの塗布と焼付け等で容易に行うことができる。
本発明によれば、製造コストが低く、高強度であり、かつ非磁性の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は実施例2の方法を説明するための図である。
図2および図3は実施例2における別の態様を説明するための図である。
図4は本発明の実施例3を説明するための図である。
図5は実施例1の方法を説明するための図である。
図6は実施例2における熱処理過程における金属基材の構造変化を示す図である。
図7は従来の銀基金属を用いた酸化物超電導厚膜用金属基材を説明するための断面図である。
図8は従来の表面にNi酸化物層を備えた酸化物超電導厚膜用金属基材を説明するための断面図である。
本発明は超電導送電ケーブル、超電導マグネット等に用いられる酸化物超電導線材、電流リードおよび磁気シールド材等の酸化物超電導厚膜用金属基材およびその製造方法に関する。
背景技術
現在、酸化物超電導材料としてBi−2223相およびBi−2212相が実用化されつつある。例えば、文献[K.Inoue et al.,Advanced in Superconductivity;Proceeding 9st International Simposium on Superconductivity(1996,Sapporo)1463]では1.8K冷却による21.1Tの金属系の超電導マグネットの内層に4.2K冷却によるBi−2212相の高温超電導マグネットをハイブリッド化し、23.5Tの磁界を発生している。また、文献[T.Kato et al.,Proceeding 10st International Simposium on Superconductivity(1997,Gifu)877]ではBi−2223相の高温超電導マグネットを冷凍器により冷却し、20Kで7Tの磁界発生に成功している。
これらに使用されている高温超電導線材は矩形断面のテープ状の線材が主流である。このテープ状の線材は、例えばPowder−in−Tube(PIT)法という方法により作製され、該方法は、銀チューブ中に酸化物超電導材料の粉末を充填して伸線加工して単芯線を作製し、更に多数の単芯線を銀チューブ中に集束して伸線加工して多芯線を作製し、圧延加工の後に熱処理するというものである。これとは別にテープ線材は、図7に示すように、酸化物超電導粉末と有機バインダーとを混合しインクを調製し、これを銀テープ上に塗布し、場合によってはそれを複合化し、熱処理する塗布法により作製され得る。図7において、1’は銀基基材、4は超電導層である。この塗布法において、インクの塗布にはディップコート、スクリーン印刷、ドクターブレート等各種の方法が試みられている。また、テープ線材は、酸化物超電導体の結晶のc−軸をテープ面に垂直方向にそろえる配向化技術が適用され、テープの長手方向に超電導電流が流れやすい構造となっている。
酸化物超電導材料としては上述したBi系材料の他にTl系材料、Y(Nd)系材料等様々な材料が検討されている。また、線材はテープ状に限らず、丸線構造、平角構造等も検討されている。
こうした線材の製造において、銀は加工性に優れる、反応性の高い酸化物超電導材料と反応しない、酸化物超電導材料を配向化させる、ある程度の酸素を通過させる等の機能があるため、基材として利用されている。図7における線材の断面において酸化物超電導材料の断面積に対する銀の断面積の割合は銀比と呼ばれている。この銀比は加工性の観点から2程度以上の値が採用されている。
酸化物超電導線材は、4.2Kでは20T以上の高磁界でも臨界電流密度(Jc)が金属系線材より高いため、NMR等の高磁界応用が考えられている。また、酸化物超電導線材は、臨界温度(Tc)が高いために20K程度の温度でも7T程度の磁界発生が可能である。このため、酸化物超電導線材を、金属系より運転コストの安い超電導マグネットとして実用化することが期待されている。更に、酸化物超電導線材として、液体窒素温度においても弱磁界下ではかなりのJcを有する線材も開発されており、送電線への応用も期待されている。
文献[Y.Iwasa,IEEE Trans.on Mag.,Vol.24,No.2(1988)1211]によると、酸化物超電導線材を例えば77Kで使用する場合、酸化物超電導材料の比熱は、4.2Kでの値に比較すると極めて高く、銀比は保護の観点からある程度は必要であるが、安定化の観点からは0でも構わないとされている。運転温度が20K程度以上では同様である。したがって、(1)銀比を低減し、線材の製造コストを低減すること、が要請されている。また、銀の機械的強度は低いため、高磁界マグネットまたは大型マグネットでの高い電磁力に耐えることができない。したがって、(2)線材の機械的強化、も重要な技術課題である。
最近、銀を全く使用せずに塗布法により線材を製造する方法が提案された。文献[河野ら、第61回 1999年度秋季低温工学・超電導学会講演概要集、p159]によると、図8に示すように、Niテープを高温酸化し、表面に数十μmの酸化物層を形成し、その上に塗布法によりBi−2212層を形成すると、基材として銀を用いた場合と同様、テープ面に垂直にBi−2212相のc軸が配向し、4.2K、10Tで12万A/cm2の臨界電流密度が得られたと報告されている。図8において、1がNi基材、3が高温酸化により形成されたNi酸化物層、4が超電導層である。
該線材は、銀を不要とするため低コスト化が可能であり、また高強度化も達成しているが、未酸化のNiが強磁性体であるため応用に限界が生じる。即ち、残留磁界が大きい、交流損失が大きい等の弊害がある。
本発明の目的は、上記のような従来の課題を解決し、とくに製造コストが低く、高強度であり、かつ非磁性の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供することにある。
発明の概要
本発明は、板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面の表面にNiO層が形成されたことを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金の主成分が銅およびニッケルであり、ニッケルの含有率が10重量%以上、49重量%以下であることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金の主成分がニッケルおよびクロムであり、クロムの含有率が10重量%以上、25重量%以下であることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金の主成分がタングステンであることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金が、前記の銅−ニッケル合金、ニッケル−クロム合金、タングステンを含む合金、モリブデン、マンガン、およびバナジウムを任意の割合で含有することを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金中の鉄の含有率が0.1重量%未満であることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、(1)板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面にNi層が接合された複合金属基材を酸化性雰囲気を有する炉中に導入し、一定時間加熱・保持し、前記Ni層を酸化反応に施す工程と、(2)前記複合基材を冷却することにより、あるいは雰囲気を真空または不活性雰囲気に変えることにより前記酸化反応を中断する工程と、(3)前記(2)工程後、複合金属基材を真空下または不活性雰囲気下で熱処理し、Ni基強磁性層を消失すると共に未酸化合金層の組成を均一化する工程とを有することを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材の第一の製造方法を提供するものである。
また本発明は、板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面にNi層が接合された複合金属基材を酸化性雰囲気を有する炉中に導入・加熱し、前記Ni層が全て酸化されるまで保持することを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材の第二の製造方法を提供するものである。
また本発明は、熱処理前の複合金属基材がNiクラッド非磁性合金であることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材の第一または第二の製造方法を提供するものである。
また本発明は、熱処理前の複合金属基材がNi及びNiプア非磁性合金クラッド非磁性合金であることを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材の第一の製造方法を提供するものである。
また本発明は、非磁性合金がセラミックス粉末集合層により被覆され、更に前記セラミックス粉末集合層がNiO層により被覆されたことを特徴とする前記の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供するものである。
また本発明は、Niチューブ中に非磁性合金棒を挿入し、前記Niチューブと非磁性合金棒との間にセラミックス粒子を充填し、目的形状に断面減少加工し、表面にNi層を有する複合体を形成し、前記複合体を高温酸化して前記Ni層の全てを酸化することを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材の第三の製造方法を提供するものである。
このような本発明の構成によれば、製造コストが低く、高強度であり、かつ非磁性の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供することができる。
発明の開示
本発明の酸化物超電導厚膜用金属基材は、板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面の表面にNiO層が形成されていることを特徴としている。
非磁性合金の表面にNiO層を形成する方法としては、例えば、ステンレススチール、Ni基合金等の非磁性合金とNiとのクラッド材を高温酸化することにより、Ni層を全て酸化することが考えられるが、通常の熱処理では非磁性合金中の金属元素のNi層への拡散が防げない。実際、NiクラッドSUS304板を大気中で950℃まで加熱し10時間保持後冷却した表面のX線回折パターンは明らかに多相状態を示し、NiOの単一相の形成は不可能であった。酸化より拡散の方が低い温度で開始し、酸化が開始する際には表面近くまでSUS304中の金属成分(主に鉄)が拡散してしまうと推測される。これを回避する方法として検討した結果、本発明は3種類の方法を見い出すに至った。
第3の方法は相互拡散を防止する方法である。非磁性合金とNiとの間に拡散防止層を設けることができればよいが、拡散防止層として金属や合金で適切なものは見当たらない。一方、セラミックス材料への金属元素の拡散係数は極めて小さいことから、本発明の一つの見地においては、非磁性合金とNi層の間にセラミックス層を形成した金属基材を高温酸化し、Ni層を全て酸化した酸化物超電導厚膜用金属基材が提供される。
具体的には、Niチューブ中に非磁性合金棒を挿入し、Niチューブと非磁性合金棒の間にアルミナ等のセラミックス粉末を充填し断面減少加工を行い、目的形状に加工後、表面のNi層を全て高温酸化させるというものである。得られた金属基材は、非磁性合金がセラミックス粉末集合層により被覆され、更に前記セラミックス粉末集合層がNiO層により被覆された構造となっている。
別の方法は、相互拡散と酸化を同時に進行させる方法である。非磁性合金とNiとの接合系に相互拡散と酸化を同時に進行させれば、Ni表面にはNiO層が成長する。一方で前記接合部分付近から、非磁性合金とNi層との相互拡散が始まっていく。必要なNiO層の厚さが得られた段階で酸化反応を絶てば、非磁性合金とNiとの相互拡散だけが進行し、非磁性合金の組成が均質になる。一方、生成されたNiO層には非磁性合金中の金属成分の拡散は困難になり、均質な非磁性合金上にNiO層が積層された構造が得られる。この第1の方法において、酸化熱処理後の合金組成の均質化による非磁性化熱処理は、真空中または不活性雰囲気中で、酸化熱処理温度より高い温度で行うことで熱処理時間を短縮することが可能である。
前記第1の方法において、Niの酸化処理温度でNiとの拡散係数が小さい金属成分からなる非磁性合金上に最小限の厚さのNi層を被覆した複合金属基材のNi層全てを酸化する方法も考えられる。酸化後の基材表面には必要な厚さのNiO層が形成される。非磁性合金とNiとの接合部には薄い拡散層が形成されるが、Niリッチな合金相も酸化され、薄い複合酸化物層となれば非磁性化する。したがって、本第2の方法では第1の方法で必要であった酸化熱処理後の合金組成の均質化による非磁性化熱処理は不要となる。
また本発明は、別の見地として、非磁性合金としてCu−Ni合金の採用にも関する。この系は全率固溶であり、強磁性のネール温度はNiの354.4℃からCuの含有量の増加で単調に減少し、約44at.%Ni(42重量%Ni)以下で強磁性は消失する。0℃以上のデータから見積もると、20K以上で非磁性になるのは46at.%Ni以下(44重量%Ni以下)、77K以上で非磁性になるのは51at.%Ni以下(49重量%Ni以下)と推定できる。また、950℃程度の温度ではNiの酸化速度に比較し、Ni−Cuの相互拡散速度は充分遅い。なお高強度のためにはNi含有率は10重量%以上が好ましい。
また本発明は、別の見地として、非磁性合金としてNi−Cr合金の採用にも関する。この系は約10重量%Cr未満では強磁性を示す。また、約25重量%Cr超では固溶体が得にくいだけではなく加工性に劣る問題がある。また、950℃程度の温度ではNiの酸化速度に比較し、Ni−Crの相互拡散速度は充分遅い。
また本発明は、別の見地として、非磁性合金としてタングステンを主成分とする合金の採用にも関する。なお、本発明によれば、前記のCu−Ni合金、Ni−Cr合金、Wを主成分とする合金、モリブデン、マンガン、およびバナジウムを任意の割合で含有する合金も採用することができる。
なお、非磁性合金中に多量の鉄が含まれた場合、鉄は低温から粒界拡散によりNi表面まで容易に拡散する。従って、非磁性合金中の鉄の含有量は0.1重量%未満が好ましい。
また本発明は、別の見地として、熱処理前の複合金属基材としてNiクラッド非磁性合金を用いる製造方法に関する。
また本発明は、別の見地として、熱処理前の複合金属基材としてNiおよびNiプア非磁性合金クラッド非磁性合金を用いる製造方法にも関する。
本発明により超電導特性を劣化させることなく線材強化が図られ、銀基金属を使用する必要がないため線材の製造コストの低減も図れ、しかも非磁性である酸化物超電導厚膜用金属基材が提供できる。
実施例
以下、本発明を実施例によりさらに説明する。
実施例1.
まず、外径12mm、内径11mm、長さ500mmのNiチューブ、外径10mm、長さ490mmのCu−40重量%Ni合金棒、平均粒径0.05μmのアルミナ粉末、および直径1mmのCu線を厚さ0.45mmに圧延したCuテープを準備した。Cu−Ni合金棒の一端にCuテープを螺旋状に密に巻き、Niチューブに挿入し、他端のNiチューブとCu−Ni合金棒の隙間にも隙間を残して数箇所Cuテープを挿入した。NiチューブとCu−Ni合金棒の隙間にアルミナ粉末を充填した。最密充填の約16%のアルミナ粉末が充填できた。端部のCuテープをはずし、溶融はんだで密封し、スェージング加工および引き抜き加工により、外径2.0mmまで加工した。断面観察の結果、外周のNi層およびアルミナ層の厚さは各々、約80μm、15μmであった。本丸線を圧延により厚さ0.2mmのテープ状に加工した。テープ中心部でのNi層およびアルミナ層の厚さは各々、約8μm、2μmでテープの幅は約5mmであった。本テープを大気中、950℃で20時間熱処理を施した。表面のX線回折、断面の組成分析の結果、Ni層の全てがNiOに変ったほかは変化がなく、NiO層の厚さは約25μmであった。得られたテープを長さ40mmに切断し、酸化物超電導厚膜用金属基材とした。
超電導材料の原料粉末であるBi2O3、SrCO3、CaCO3、CuOをBi:Sr:Ca:Cu=2:2:1:2(モル比)の割合となるように配合混合した。熱処理するとBi−2212相を主成分とする超電導体となる組成である。この混合粉末を600kgf/cm2の圧力で成形し、圧粉体とし、この圧粉体に対し、大気中、680℃、10時間の仮焼熱処理を施し、粉砕・成形の後再び730℃、10時間熱処理を行い粉砕した。得られた粉末を有機バインダーと混合し、スクリーン印刷用のインクとした。スクリーン印刷に関しては、例えば、新版スクリーン印刷ハンドブック(日本スクリーン印刷技術協会発行、昭和63年)等に詳しいので詳細は省略する。
前記の酸化物超電導厚膜用金属基材に前記インクをスクリーン印刷で塗布し、大気中、450℃、1時間の脱バインダー処理後、4t/cm2の圧力でプレス成形した。最高温度890℃に加熱後、870℃まで4時間で除冷後、室温まで炉冷した。比較のために、幅5mm、厚さ0.2mm、長さ40mmの銀テープ上へ酸化物超電導インクをスクリーン印刷で塗布した試料も同時熱処理を行った。
X線回折によるBi−2212相の配向性、臨界電流等の超電導特性やそのばらつきは本実施例の金属基材を用いた場合と、Ag基材を用いた場合とで特に差はなかった。また、磁化の温度および磁界依存性の比較から、本実施例の金属基材には強磁性を示す成分は含まれていないことも分かった。
図5は、本実施例の方法を説明するための図である。図5(a)は複合化した丸線、図5(b)がそれを断面減少加工および圧延加工により製造されるテープ、図5(c)はそれを高温酸化した本実施例の酸化物超電導厚膜用金属基材、図5(d)はそれに超電導層を形成したものである。図において、1がNi、2が非磁性合金、3がNi酸化物層、4が超電導層、5がセラミックス粉末層を示す。
実施例2.
まず、Niテープの大気中、950℃での酸化速度を求めた。950℃で0〜25時間保持した試料の重量変化を求め、酸化反応が、Ni+(1/2)O2→NiOと仮定した場合の酸化されたNi層の厚さx(cm)と時間t(sec)との関係は
x2=2D1t (1)
であり、D1=6.9x10−12m2/secであることが分かった。
一方、金属の拡散距離x(cm)と時間t(sec)との関係も
x2=2Dt (2)
であり、Dが拡散係数であり、
D=D0exp[−Q0/RT] (3)
の温度依存性を持つことが知られている。例えば、950℃におけるNi中へのCuやFeの拡散係数はそれぞれ、7.8x10−12cm2/sec、3.5x10−12cm2/secであり、これらの拡散速度とNiの酸化速度は同じオーダーであることが分かった。
そこで、外径12mm、内径10mm、長さ500mmのNiチューブに外径9.22mm、長さ500mmのCu−15重量%Ni合金棒を挿入して外径2.33mmまで断面減少加工を行った。この時のNi層の厚さは約208μmであった。これを厚さ0.38mmまで圧延加工を行い複合テープを得た。最終形状におけるNi層の厚さは約34μmで、テープの幅は約4.6mmであった(中心部)。
Niの酸化速度から大気中、950℃、10時間で約7.1μmのNiが酸化されることが推定される。また、Ni中へのCuの拡散速度から、950℃、10時間の熱処理でNi層の約7.5μmにCuが拡散することが推定される。そこで、大気中、950℃に加熱した炉中に複合テープの一部を導入し、10時間保持した。保持時間が10時間になった時点で炉の雰囲気を真空引きし、徐々に1300℃まで加熱し15時間保持した後、炉冷した。
得られた試料の表面のX線回折評価を行ったところ、完全にNiOのパターンと一致した。また、断面観察の結果、表面の酸化物層の厚さは約23μmであった。理論的にはNiが酸化されてNiOになる場合、その厚さは1.52倍になる。従って、7.1μmのNiが酸化されると、NiO層の厚さは10.8μmとなるはずである。予測の約2倍の厚さの酸化物層は層がかなりポーラスであることを意味する。更に、合金層の組成分布を調べた結果、CuとNiとがかなり均一に分布しており、Niの濃度は約40重量%であった。
得られた基材の4.2Kから室温までの磁化率の温度依存性を調べた結果、強磁性の兆候は見られず、非磁性を示した。
本基材上に実施例1と同じ酸化物超電導インクを印刷し、実施例1と同じ条件で熱処理を行った。
本実施例の金属基材を用いた場合のX線回折によるBi−2212相の配向性、臨界電流等の超電導特性やそのばらつきは、実施例1の金属基材を用いた場合やAg基材を用いた場合とで特に差はなかった。なお、表面に電極用のAg箔を被覆した本実施例の試料の4.2K、OTにおける臨界電流は820Aであり、酸化物層の厚さが35μmであったためその臨界電流密度は5,084A/mm2であった。
なお、合金組成の均質化には拡散現象より、液相の出現が主に寄与することも判明した。
図1は本実施例の方法を説明するための図である。図1(a)は複合化した丸線、図1(b)はそれを断面減少加工および圧延加工により製造されるテープ、図1(c)はテープを高温酸化および拡散熱処理した本実施例の酸化物超電導厚膜用金属基材、図1(d)は該金属基材に超電導層を形成したものである。図1において、1がNi、2が非磁性合金、2’は拡散後の非磁性合金、3がNi酸化物層、4が超電導層を示す。
図6は実施例2における熱処理過程における金属基材の構造変化を示す図である。図6(a)は熱処理前のテープの断面図である。これを加熱された酸化雰囲気炉に導入し、一定時間経過した後の構造が図6(b)である。図6(b)において、3が表面に形成されたNiの酸化物層、6がNiと非磁性合金との拡散層、1が未酸化・未拡散のNi層、2が未拡散の非磁性合金層である。この後、酸化性雰囲気を真空または不活性雰囲気に替え、長時間保持した後の断面構造が図6(c)である。図において、2’が合金とNiとの拡散で生じたNiリッチな合金層である。
本実施例では非磁性合金の全面にNi被覆したテープを用いたが、全面にNiを被覆する必要はない。図2は本実施例における別の態様を説明するための図である。図2(a)に示すような、Niを一面のみに被覆したテープまたは板は圧延接合によって容易に製造される。これに同様な熱処理を行うことで、図2(b)に示した断面の構造が得られる。次に図2(c)に示すように、Ni酸化物層上に超電導層4を形成すればよい。
本実施例ではNiの高温酸化として、大気中、950℃、10時間の熱処理を例に上げて説明したが、これに限るものではない。実際、大気中、950℃で1または4時間の熱処理を行った基材上にもBi−2212厚膜の形成は可能であった。この場合、酸化されるNiの厚さ(形成されるNiO層の厚さ)はそれぞれ、2.25μm(7.3μm)または4.5μm(14.5μm)と推定される。また、酸化熱処理温度も例えば、875℃〜975℃の範囲で選択でき、その際の熱処理時間は形成されるNiO層の厚さが約7μm以上となる時間を選択すればよい。
また、本実施例ではCu−Ni合金を用いたが、この合金に限るものではない。実際、後の実施例でも説明するがNi−Cr合金も適用可能であり、更に、Niへの拡散が容易でない金属を含む別の合金も適用できる。更に合金でなく、純金属あるいはNiへの拡散が容易でない不純物を多く含む金属でも構わない。この場合、図3に示すように、Ni層の厚さは図1よりも厚くさせる必要はある。図3において2”が別の非磁性金属である。例えば、金属として銅を用いれば、本実施例と全く同じ構造の酸化物超電導厚膜用金属基材が得られる。
さらに、本実施例では酸化反応の中断方法として、大気雰囲気を真空引きする例について説明したが、明らかにこれに限るものではなく、不活性雰囲気に置換する方法や冷却後に炉から取り出すあるいは急冷する方法等でも有効である。冷却した場合の強磁性層消失および合金層の均質化のための熱処理は別個、真空または不活性雰囲気下で行えばよい。
さらにまた、本実施例では強磁性層消失および非磁性合金層の均質化の為の熱処理として真空中、1300℃で15時間の熱処理を行ったが、明らかにこれに限るものではなく、強磁性層が消失する時間以上であればよく、多少の合金層における濃度勾配が残っても構わない。また、熱処理時間を短縮するために熱処理温度を上げることも有効である。ただし、こうした熱処理では液相が出現するため、加熱速度には充分な配慮が必要である。
実施例3.
外径12mm、内径10mm、長さ500mmのNiチューブに外径9.8mm、内径7.7mm、長さ500mmのCuチューブと外径7.5mm、長さ500mmのCu−40重量%Ni合金棒を挿入して外径2.0mmまで断面減少加工を行った。この時のNi層およびCu層の厚さは約175μmおよび185μmであった。これを厚さ0.2mmまで圧延加工を行い複合テープを得た。最終形状におけるNi層およびCu層の厚さは約17.5μmおよび18.5μmで、テープの幅は約5mmであった(中心部)。この断面構造を図4に示す。図において2−2がNiプア非磁性合金であり、本実施例では純Cuとした。
この複合テープを大気中、950℃に加熱した炉中に導入し、10時間保持した。保持時間が10時間になった時点で炉の雰囲気を真空引きし、徐々に1300℃まで加熱し5時間保持した後、炉冷した。
得られた金属基材の表面のX線回折評価を行ったところ、完全にNiOのパターンと一致した。また、断面観察の結果、表面の酸化物層の厚さは約23μmであった。更に、合金層の組成分布を調べた結果、CuとNiとがかなり均一に分布しており、Niの濃度は約40重量%であった。
得られた金属基材の4.2Kから室温までの磁化率の温度依存性を調べた結果、強磁性の兆候は見られず、非磁性を示した。
本基材上に実施例1と同じ酸化物超電導インクを印刷し、実施例1と同じ条件で印刷および熱処理を行った。本実施例の金属基材を用いた場合のX線回折によるBi−2212相の配向性、臨界電流等の超電導特性やそのばらつきは、実施例1および2の金属基材を用いた場合やAg基材を用いた場合とで特に差はなかった。
本実施例では非磁性合金層の均質化のための拡散距離を実施例2の約1/10に低減したため、大幅に熱処理時間を短縮できた。
実施例4.
幅5mm、厚さ20μmのNi−20重量%Crテープに厚さ、約3μmのNiをメッキした金属テープを準備した。これを40mmの長さに切断した複数のテープを大気中、950℃に加熱した炉に入れ、2時間保持後炉冷した。
得られた金属基材の4.2Kから室温までの磁化率の温度依存性を調べた結果、強磁性の兆候は見られず、非磁性を示した。
本基材上に実施例1と同じ酸化物超電導インクを印刷し、実施例1と同じ条件で熱処理を行った。
本実施例の金属基材を用いた場合のX線回折によるBi−2212相の配向性、臨界電流等の超電導特性やそのばらつきは、実施例1、2および3の金属基材を用いた場合やAg基材を用いた場合とで特に差はなかった。
実施例5.
幅5mm、厚さ20μmのニクロムテープに厚さ、約3μmのNiをメッキした金属テープを準備した。これを40mmの長さに切断した複数のテープを大気中、950℃に加熱した炉に入れ、2時間保持後炉冷した。ニクロム合金の組成(重量%)は下表に示す。
本金属基材上に実施例1と同じ酸化物超電導インクを印刷し、実施例1と同じ条件で熱処理を行った。
得られた試料ではBi−2212相は形成できなかったばかりか、金属基材がセラミック化していた。表面を酸化熱処理した基材のX線回折の結果、NiO以外の相を含んでおり、この原因が基材中に含まれる鉄のためであることが判明した。
実施例6.
幅5mm、厚さ20μmのWテープに厚さ、約3μmのNiをメッキした金属テープを準備した。これを40mmの長さに切断した複数のテープを大気中、950℃に加熱した炉に入れ、2時間保持後炉冷した。
得られた基材の4.2Kから室温までの磁化率の温度依存性を調べた結果、強磁性の兆候は見られず、非磁性を示した。
本基材上に実施例1と同じ酸化物超電導インクを印刷し、実施例1と同じ条件で熱処理を行った。
本実施例の金属基材を用いた場合のX線回折によるBi−2212相の配向性、臨界電流等の超電導特性やそのばらつきは、実施例1ないし4の金属基材を用いた場合やAg基材を用いた場合とで特に差はなかった。
実施例4および6では、非磁性高強度合金としてNi−Cr合金やW金属も有効であること、Niのクラッド方法としてメッキも有用であることを示した。これらにより基材やNiO層の厚さを薄くでき、従って、形成する超電導層の体積率の向上に有効である。また、Ni層厚を薄くすることで未酸化のNiを残さないことでの非磁性化も可能になり、非磁性化のための余分な熱処理工程を省くことに有効である。
950℃前後の温度でのNi中への拡散係数の小さな非磁性金属元素としてその他に、バナジウム、モリブデン、マンガンなども知られている。したがって、非磁性合金としてCu−Ni合金、Ni−Cr合金、W基合金だけでなく、これらの金属やこれらを任意の割合で含有する合金も当然有効である。こうしたNi中への拡散係数の小さな元素をのみ含有する非磁性合金にNiが薄くクラッドされた複合基材を用いた場合、未酸化のNiを残さないことでの非磁性化も可能になり、非磁性化のための余分な熱処理工程を省くことに有効である。
耐熱性合金には耐酸化性を付与するために炭素を僅かに含有する場合が少なくない。950℃前後の温度での炭素のNi中への拡散係数は極めて大きい。しかしながら、Ni中に拡散した炭素は酸化熱処理によりCO2ガスとして基材中から除去される。したがって、炭素、リンなど酸化熱処理により基材から除去される元素が非磁性合金あるいはNi層中に含有することは害をもたらさないことは言うまでもない。
なお、各実施例ではNiO層の上に直接超電導層を形成したが、本発明はこれに限るものではない。NiO層の表面にAg基金属層を被覆し、その上に超電導層を形成することやNiO層の上に超電導層を形成しその上にAg基金属層を被覆することも可能である。これにより、4.2Kでの使用も可能になる。また、Ag基金属層を被覆によりポーラスなNiO層の機械的強度、付着力を向上させる利点も生じる。こうした被覆はAg基ペーストの塗布と焼付け等で容易に行うことができる。
本発明によれば、製造コストが低く、高強度であり、かつ非磁性の酸化物超電導厚膜用金属基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は実施例2の方法を説明するための図である。
図2および図3は実施例2における別の態様を説明するための図である。
図4は本発明の実施例3を説明するための図である。
図5は実施例1の方法を説明するための図である。
図6は実施例2における熱処理過程における金属基材の構造変化を示す図である。
図7は従来の銀基金属を用いた酸化物超電導厚膜用金属基材を説明するための断面図である。
図8は従来の表面にNi酸化物層を備えた酸化物超電導厚膜用金属基材を説明するための断面図である。
Claims (12)
- 板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面の表面にNiO層が形成されたことを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材。
- 非磁性合金の主成分が銅およびニッケルであり、ニッケルの含有率が10重量%以上、49重量%以下であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の酸化物超電導厚膜用金属基材。
- 非磁性合金の主成分がニッケルおよびクロムであり、クロムの含有率が10重量%以上、25重量%以下であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の酸化物超電導厚膜用金属基材。
- 非磁性合金の主成分がタングステンであることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の酸化物超電導厚膜用金属基材。
- 非磁性合金が、主成分が銅およびニッケルであり、ニッケルの含有率が10重量%以上、49重量%以下である非磁性合金;主成分がニッケルおよびクロムであり、クロムの含有率が10重量%以上、25重量%以下である非磁性合金;主成分がタングステンである合金;モリブデン;マンガン;およびバナジウムからなる群から選択された少なくとも1種を任意の割合で含有することを特徴とする請求の範囲第1項記載の酸化物超電導厚膜用金属基材。
- 非磁性合金中の鉄の含有率が0.1重量%未満であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の酸化物超電導厚膜用金属基材。
- (1)板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面にNi層が接合された複合金属基材を酸化性雰囲気を有する炉中に導入し、一定時間加熱・保持し、前記Ni層を酸化反応に施す工程と、(2)前記複合基材を冷却することにより、あるいは雰囲気を真空または不活性雰囲気に変えることにより前記酸化反応を中断する工程と、(3)前記(2)工程後、複合金属基材を真空下または不活性雰囲気下で熱処理し、Ni基強磁性層を消失すると共に未酸化合金層の組成を均一化する工程とを有することを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材の製造方法。
- 板状、テープ状、棒状または線状非磁性合金の少なくとも一面にNi層が接合された複合金属基材を酸化性雰囲気を有する炉中に導入・加熱し、前記Ni層が全て酸化されるまで保持することを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材の製造方法。
- 熱処理前の複合金属基材がNiクラッド非磁性合金であることを特徴とする請求の範囲第7項または第8項記載の酸化物超電導厚膜用金属基材の製造方法。
- 熱処理前の複合金属基材がNiおよびNiプア非磁性合金クラッド非磁性合金であることを特徴とする請求の範囲第7項記載の酸化物超電導厚膜用金属基材の製造方法。
- 非磁性合金がセラミックス粉末集合層により被覆され、更に前記セラミックス粉末集合層がNiO層により被覆されたことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の酸化物超電導厚膜用金属基材。
- Niチューブ中に非磁性合金棒を挿入し、前記Niチューブと非磁性合金棒との間にセラミックス粒子を充填し、目的形状に断面減少加工し、表面にNi層を有する複合体を形成し、前記複合体を高温酸化して前記Ni層の全てを酸化することを特徴とする酸化物超電導厚膜用金属基材の製造方法。
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