JPWO2002055092A1 - 消化管疾患の予防及び/又は治療剤 - Google Patents
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Abstract
本発明の目的は、消化管疾患の予防及び/又は治療のために使用することができる新規な予防及び/又は治療剤を提供することである。本発明によれば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、消化管疾患の予防及び/又は治療剤が提供される。
Description
技術分野
本発明は、ポリ乳酸混合物を有効成分として含む消化管疾患の予防及び/又は治療剤に関する。より詳細には、本発明は、例えば食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌などの食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍の予防及び/又は治療剤に関する。本発明はまた、ポリ乳酸混合物を含む消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品にも関する。
背景技術
これまでに開発されてきた潰瘍治療剤としては、制酸剤、抗コリン剤、抗ガストリン剤、消化管ホルモン剤、抗ペプシン剤、ヒスタミンH2受容体拮抗剤、組織修復剤、粘膜保護剤、微小循環改善剤、プロトンポンプ阻害剤などが知られている。これら潰瘍治療剤の中でも、特に強力な酸分泌抑制作用を有するヒスタミンH2受容体拮抗剤およびプロトンポンプ阻害剤の開発によって、潰瘍の治療成績は飛躍的に向上した。しかしながら、これらの潰瘍治療剤は、投薬を中止した後の潰瘍再発率が非常に高く、それが現在解決すべき大きな問題として残されている。
ヘリコバクター・ピロリは、ヘリコバクター属に属するグラム陰性の微好気性細菌であり、胃炎、十二指腸潰瘍、胃潰瘍又は胃癌などの再発の大きな原因の1つと言われている。これらの疾病を治療又は予防することを目的に、ヘリコバクター・ピロリに対して抗菌作用を有する物質の探索が行なわれている。
現在、このヘリコバクター・ピロリに起因する各種疾患の治療には、ビスマス製剤と抗生物質の二剤併用や、ビスマス製剤、メトロニダゾール(米国特許第2,944,061号)およびテトラサイクリン(米国特許第2,712,517号)もしくはアモキシシリン(米国特許第3,192,198号)の三剤併用などによる化学療法が行われている。これらビスマス製剤、抗生物質およびメトロニダゾールなどは、内服の形で投与される。
抗ヘリコバクター・ピロリ剤として用いられている抗菌剤は、ヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を阻止するのに十分な濃度をその増殖箇所に維持するためには大量に投与する必要がある。このため嘔吐、下痢などの副作用の発現が多いという問題があった。このような理由から、投与が容易で副作用が少なく、かつ優れたヘリコバクター・ピロリ除菌作用を有する薬剤の開発が切望されていた。
これまでの研究により、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリL−乳酸混合物は、抗悪性腫瘍剤として有用であることが報告されている(特開平9−227388号公報および特開平10−130153号公報)。しかしながら、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物が、消化管疾患の予防及び治療効果を発揮するかどうかの評価については報告されていない。
発明の開示
本発明は、消化管疾患の予防及び/又は治療のために使用することができる新規な予防及び/又は治療剤を提供することを解決すべき課題とした。本発明はまた、消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは、上記課題を解決することを目的とした検討を行うために、先ず、スナネズミにヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)を感染させ、1ヶ月間飼育した後、スナネズミの胃および十二指腸中における生菌数について測定することによって、ヘリコバクター・ピロリに対する縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の感染防御効果を検討した。その結果、上記ポリ乳酸混合物は、ヘリコバクター・ピロリに対する感染防御効果を示すことが判明した。
さらに本発明者らは、水浸拘束ストレス誘起胃粘膜損傷を有するモデルラットにおいて、上記胃粘膜損傷の形成に及ぼす縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の作用効果を検討した。その結果、ポリ乳酸混合物の投与により胃粘膜損傷の発生は有意に抑制されることが判明した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
本発明によれば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、消化管疾患の予防及び/又は治療剤が提供される。
本明細書で言う消化管疾患とは、例えば、食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍であり、より具体的には、例えば、食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌などが挙げられる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、ヘリコバクターに起因する消化管疾患の予防及び/又は治療のために使用することができ、特にヘリコバクター・ピロリに起因する消化管疾患の予防及び/又は治療のために使用することができる。
本発明の別の側面によれば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、抗ヘリコバクター剤が提供される。
本発明の抗ヘリコバクター剤は、特に抗ヘリコバクター・ピロリ剤として使用でき、例えば、ヘリコバクター感染症の予防及び/又は治療剤として使用することができる。
好ましくは、ポリ乳酸中における反復単位である乳酸は実質的にL−乳酸から成る。
好ましくは、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物は、乳酸を不活性雰囲気下で脱水縮合し、得られた反応液のエタノールおよびメタノール可溶分を逆相カラムクロマトグラフィーに付し、pH2〜3の25〜50重量%のアセトニトリル水溶液で溶離後、pH2〜3の90重量%以上のアセトニトリル水溶液で溶離した画分である。
好ましくは、脱水縮合を窒素ガス雰囲気下、段階的減圧及び昇温により行う。
好ましくは、逆相カラムクロマトグラフィーを、ODSカラムクロマトグラフィーにより行う。
本発明のさらに別の側面によれば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、消化管疾患の予防及び/又は治療剤、又は消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品の製造における、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の使用が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の有効量をヒトなどの哺乳動物に投与することを含む、消化管疾患の予防及び/又は治療のための方法が提供される。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の実施態様および実施方法について詳細に説明する。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤(本明細書中では、本発明の薬剤と称することもある)は、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を有効成分として含むものであり、例えば、食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌などの食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍の予防及び/又は治療のために使用することができる。また、本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、ヘリコバクター菌(特に、ヘリコバクター・ピロリ)に対する感染防御効果を示すことが判明したことから、抗ヘリコバクター剤(特に、抗ヘリコバクター・ピロリ剤)としても有用である。
本明細書で言う消化管疾患とは最も広義の意味を有し、食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌などの食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍の全てが包含される。
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、活動性慢性胃炎患者の胃粘膜から分離されたグラム陰性細菌である(Warren,J.R.& Marshall,B.J.Lanceti:1273−1275,1983)。本菌は胃・十二指腸潰瘍患者より高率に分離されること、ヒトボランティアによる感染実験から明らかな活動性胃炎の所見を呈すること(Morris,A.& Nicholoson,G.Am.J.Gastroenterology,82:192−199,1987)、およびヘリコバクター・ピロリ感染実験動物でもヒトに類似した胃炎の症状を呈することなどから、上部消化管疾患と関連性を有することが明白になっている。また、ヘリコバクター・ピロリは胃ガンの重要なリスクファクターとしても注目されている(Parsonnet,J.et al.N.Eng.J.Med.325:1127−1131,1991)。
本発明で有効成分として用いる縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物は、ヘリコバクター・ピロリ感染動物モデルにおいても良好な除菌作用を示すことから、ヘリコバクター(特には、ヘリコバクター・ピロリ)に起因する消化管疾患(特には、胃炎、胃潰瘍又は胃癌など)の予防および治療に有効である。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、ヘリコバクターの感染防御に効果的であるので、感染する前に予め摂取しておくと、感染しにくく、また、感染しても治りやすいという予防的作用を有する。従って、本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、健康食品や医薬品として日頃から摂取しておくことも好ましい。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤及び消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品においては、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物が有効成分として用いられる。
本明細書で言う「ポリ乳酸混合物」とは、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸が任意の割合で存在する混合物を意味する。即ち、「混合物」という用語は、縮合度3〜20の何れかを有するポリ乳酸の混合物であることを意味すると同時に、環状および鎖状のポリ乳酸の混合物を含む概念としても用いられる。このような「ポリ乳酸混合物」は、本明細書中以下に述べるように、乳酸を脱水縮合し、適当な方法で精製することにより得ることができる。なお、本明細書では便宜上「ポリ乳酸混合物」という用語を用いたが、この中には一定の縮合度を有する環状のポリ乳酸または一定の縮合度を有する鎖状のポリ乳酸といった単一成分から成るポリ乳酸も含まれる。
縮合度とは、ポリ乳酸中における反復単位である乳酸単位の数を意味する。例えば、環状のポリ乳酸は下記の構造式を有することが推測されるが、式中のnが縮合度を表す(即ち、n=3〜20)。
本明細書で単に「乳酸」と称する場合、この乳酸にはL−乳酸、D−乳酸またはこれらの任意の割合の混合物の全てが包含される。本発明においては好ましくは、乳酸は実質的にL−乳酸から成る。ここで言う「実質的に」とは、ポリ乳酸混合物中におけるL−乳酸単位の比率[即ち、(L−乳酸単位数/L−乳酸単位数+D−乳酸単位数)×100]が、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上であることを意味する。なお、ポリ乳酸混合物中におけるL−乳酸単位の比率は、出発物質として使用する乳酸中に存在するL−乳酸とD−乳酸の比率に依存する。
縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、特開平9−227388号公報、特開平10−130153号公報、または特願平11−39894号明細書(これらの特許明細書に記載の内容は全て引用により本明細書の開示として含める。)などに記載の製造方法により得ることができる。
より具体的には、例えば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物は、下記の方法Aにより得ることができる。
方法A:
先ず、乳酸(好ましくは、実質的にL−乳酸から成る乳酸)を不活性雰囲気下で脱水縮合させる。不活性雰囲気としては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、窒素ガスを用いるのが好ましい。
脱水縮合反応は、常圧〜1mmHg程度の減圧下、110〜210℃、好ましくは130〜190℃の温度で行われるが、段階的減圧および段階的昇温によって行うのが特に好ましい。反応時間は適宜設定できるが、例えば1〜20時間反応を行うことができる。段階的減圧および段階的昇温を用いる場合には、反応時間を2以上から成る部分的な反応時間に分け、それぞれの部分において圧力と温度を設定して反応を行う。段階的減圧を用いる場合は、例えば、常圧→150mmHg→3mmHgと減圧することができ、段階的昇温を用いる場合は、例えば、145℃→155℃→185℃と昇温することができる。実際には、これらを組み合わせて、例えば、145℃で常圧で3時間、145℃で150mmHgで3時間、155℃で3mmHgで3時間そして185℃で3mmHgで1.5時間反応を行うことができる。
次いで、この脱水縮合反応により得られた反応混合物にエタノールおよびメタノールを加え、濾過して濾液を乾燥してエタノールおよびメタノール可溶分が得られる。即ち、本明細書で言う「エタノールおよびメタノール可溶分」とはエタノールとメタノールの混合液に可溶な画分を意味する。なお、エタノールおよびメタノール可溶分を得る際には、脱水縮合反応の反応混合物をエタノールおよびメタノールと混合するが、その際のエタノールとメタノールの比率は適宜設定することができ、例えばエタノール:メタノール=1:9である。なお、反応混合物にエタノールとメタノールを添加する順番、方法などは限定されず、適宜選択することができ、例えば、脱水縮合反応の反応混合物に先ずエタノールを添加し、次いでメタノールを添加することができる。
上記で得られたエタノール・メタノール可溶分を逆相カラムクロマトグラフィー、特にオクタデシルシラン(ODS)カラムを用いたクロマトグラフィーに付し、まずpH2〜3の25〜50重量%のアセトニトリル水溶液で溶離する画分を除去し、次いでpH2〜3の90重量%以上のアセトニトリル水溶液、好ましくは99重量%以上のアセトニトリル水溶赦で溶離してくる画分を採取すると、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物が得られる。
上記のようにして得られた環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物は、水酸化ナトリウムなどのアルカリ物質で中和し、減圧乾燥後、常法により下記に述べるような所望の形態に製剤化することができる。
本発明で用いる縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を製造するための別法としては、例えば、特願平11−265715号明細書に記載された方法(方法Bとする)または特願平11−265732号明細書に記載された方法(方法Cとする)を挙げることができる(これらの特許明細書に記載の内容は全て引用により本明細書の開示として含める。)。以下、方法Bおよび方法Cについて具体的に説明する。
方法B:
この方法は、ラクチドをRYLi(式中、Rは脂肪族基又は芳香族基を示し、Yは酸素原子又はイオウ原子を示す)で表されるリチウム化合物の存在下で重合させることによって環状乳酸オリゴマーを製造する方法である。重合反応を実施する場合、リチウム化合物(RYLi)の使用割合は、ラクチド1モル当たり、1〜0.1モル、好ましくは0.2〜0.3モルの割合である。反応温度は−100〜0℃、好ましくは−78〜−50℃である。反応は、−78〜−50℃の温度で開始し、徐々に室温にまで昇温させるように実施するのが好ましい。反応は、好ましくは反応溶媒の存在下で実施される。反応溶媒としては、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの他、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン等を用いることができる。反応雰囲気としては、窒素ガスやアルゴン等の不活性ガス雰囲気が用いられる。反応圧力は特に制約されず、好ましくは常圧である。
なお、上記のようにして得られる乳酸オリゴマーの組成(即ち、環状乳酸オリゴマーと鎖状乳酸オリゴマーの混合比率)は、反応助剤として用いるリチウム化合物によって変動する。リチウム化合物として炭素数1〜3のアルキルアルコールのリチウム化合物(ROLi)(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基)を用いる場合には、環状乳酸オリゴマーと鎖状オリゴマーとの混合物(環状乳酸オリゴマーの割合:80〜85重量%)が得られる。一方、リチウム化合物としてt−ブチルアルコール等の炭素数4以上のアルキルアルコールのリチウム化合物や、チオフェノール化合物を用いるときには、実質的に環状乳酸オリゴマーのみを選択的に得ることができる。
方法C:
この方法は、(i)乳酸を350〜400mmHgの圧力条件で120〜140℃の範囲の温度に加熱し、脱水縮合反応させるとともに、ラクチドを留出させずに副生水のみを留出除去する第1加熱工程、
(ii)該第1加熱工程終了後、反応生成物を150〜160℃の温度に加熱し、該反応圧力を降圧速度0.5〜1mmHg/分で15〜20mmHgまで降下させるとともに、その降圧に際し、ラクチドの留出を回避させながら副生水のみを留出除去し、該反応圧力が15〜20mmHgに降下後、同圧力条件及び反応温度150〜160℃においてさらに反応を継続して鎖状乳酸オリゴマーを主成分とする脱水縮合物を生成させる第2加熱工程、
(iii)該第2加熱工程終了後、0.1〜3mmHgの圧力条件で150〜160℃で加熱して該鎖状乳酸オリゴマーを環化させ、環状オリゴマーを生成させる第3加熱工程、
からなることを特徴とする方法である。
この方法では先ず、第1加熱工程において、減圧下において乳酸を加熱し、脱水縮合反応させる。この場合の反応時間は3〜12時間、好ましくは5〜6時間である。この第1加熱下での反応は、その反応を円滑に進行させるために、乳酸の脱水縮合により生成する副生水を留去させるが、この場合、乳酸2分子の脱水縮合物であるラクチドが留去しないように実施する。このためには、反応圧力を減圧、好ましくは300〜500mmHg、より好ましくは350〜400mmHgに保持し、この圧力条件下において、100〜140℃、好ましくは130〜140℃の範囲に加熱するのがよい。この第1加熱工程での反応により、主に、乳酸の3〜23分子の脱水縮合物を主成分とする反応生成物が生じる。
上記第1加熱工程の終了後、第2加熱工程において、高められた平均重合度のオリゴマーが得られるように、前記第1加熱工程における反応温度よりも高められた温度、好ましくは145〜180℃、より好ましくは150〜160℃の温度に加熱するとともに、反応圧力を10〜50mmHg、好ましくは15〜20mmHgの圧力に降下させてさらに脱水縮合反応を継続する。
この反応も、前記第1加熱工程の反応の場合と同様に、反応を円滑に進行させるために副生水を留去させるが、ラクチドが留去しない条件で実施する。反応圧力を前記範囲の圧力にまで降下させる速度(降圧速度)は、ラクチドの留出を回避し、且つ反応効率を高めるためには、0.25〜5mmHg/分、好ましくは0.5〜1mmHg/分の範囲に保持することが通常は必要である。前記範囲より低い降圧速度では、その所定圧まで降圧させるのに必要な時間が長くなるため好ましくなく、一方、前記範囲より高い降圧速度では、ラクチドが副生水とともに留去するようになるので好ましくない。
反応圧力が所定圧力にまで降下後、この反応圧力において、さらに反応を継続する。この場合の加熱時間は、3〜12時間、好ましくは5〜6時間である。
前記第2加熱工程での反応により、平均重合度が3〜30、好ましくは3〜23の乳酸オリゴマーが得られるが、この場合のオリゴマー中の環状オリゴマーの割合は、通常、70〜80重量%程度である。
上記第2加熱工程終了後、第3加熱工程において、反応圧力を0.25〜5mmHg、好ましくは0.5〜1mmHgに保持し、145〜180℃、好ましくは150〜160℃の温度でさらに反応を継続する。反応時間は3〜12時間、好ましくは5〜6時間である。この場合に生じる副生水も留去させる。この場合、ラクチドの留去も回避させることが好ましいが、反応生成物にはラクチドは殆んど含まれないので、その降圧速度を格別遅くする必要はない。
前記第3加熱工程での反応により、平均重合度3〜30、好ましくは3〜23で、かつ環状オリゴマーの割合が90重量%以上、好ましくは99重量%以上の乳酸オリゴマーが生成される。
なお、上記方法A、BおよびCは本発明で用いるポリ乳酸混合物の製造方法の具体例の一部を示したものにすぎず、本発明においては他の方法で製造されたポリ乳酸混合物を用いることもできる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、前記の必須成分に加えてさらに必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲内で、医薬品類、医薬部外品類などの製剤に使用される成分や添加剤を任意に選択・併用して製造することができる。本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、単独の医薬品類として使用できる以外に、医薬品類や医薬部外品類などに配合して用いることもできる。
本発明の薬剤は縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を有効成分とするが、必要に応じて他の活性成分、例えば、胃酸分泌抑制剤、胃粘膜保護剤、制酸剤、健胃剤、消化剤、健胃消化剤、整腸剤、抗ウレアーゼ酵素等の酵素製剤、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体製剤、抗菌剤などを配合することができる。
より具体的には、本発明の薬剤は、ヒスタミンH2受容体拮抗剤、プロトンポンプ阻害剤、胃粘膜防御型の胃炎・消化性潰瘍治療剤、制酸剤、止瀉剤などと組み合わせて使用することができる。
ヒスタミンH2受容体拮抗剤としては、例えばシメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジン、ニザチジン等、およびそれらの製薬的に許容される塩あるいは誘導体が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。製薬的に許容される塩あるいは誘導体としては、例えば、ラニチジンの塩としては塩酸ラニチジン等が、また、ロキサチジンの誘導体としては塩酸ロキサチジンアセテート等が挙げられる。
プロトンポンプ阻害剤としては、例えばランソプラゾール、オメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、レミノプラゾール、パリプラゾール等、およびそれらの製薬的に許容される塩が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。好ましくは、ランソプラゾール、オメプラゾールまたはラベプラゾールが用いられる。プロトンポンプ阻害剤は以下に示す制酸剤を併用するか、または腸溶性製剤や安定化製剤(例えば、マグネシウムまたはカルシウムの塩基性無機塩)にするなどの方法により胃酸による影響を押さえて用いることが好ましい。
胃粘膜保護型の胃炎・消化性潰瘍治療剤としては、例えばアルジキオサ、アルジオキサ・メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、スクラルファート、プログルミド、テプレノン、塩酸セトラキサート、プラウノトール、ソファルコン、塩酸ベネキサートベータデスク、マレイン酸イルソグラジン、レバピミド、エカベトナトリウム、ポラプレジンク、エカバピド、プロスタグランジン誘導体(ミゾプロストール、オルノプロスチールなど)など等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上が用いられる。
制酸剤としては、例えば乾燥水酸化アルミニウムゲル,ケイ酸アルミン酸マグネシウム,ケイ酸マグネシウム,合成ケイ酸アルミニウム,合成ヒドロタルサイト,酸化マグネシウム,水酸化アルミナマグネシウム,水酸化アルミニウムゲル,水酸化アルミニウム,炭酸水素ナトリウム共沈生成物,水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル,水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム・炭酸カルシウム共沈生成物,水酸化マグネシウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸マグネシウム,沈降炭酸カルシウム,メタケイ酸アルミン酸マグネシウム,無水リン酸水素カルシウム,リン酸水素カルシウムなどの無機性制酸剤;アミノ酢酸等のアミノ酸剤;ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート;ロートエキス等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上が用いられる。
止瀉剤としては例えばビスマス剤(例えば、次サリチル酸ビスマス、次硝酸ビスマス、次炭酸ビスマス、次没食子酸ビスマス等)、タンニン剤(例えば、タンニン酸、タンニン酸アルブミン、メチレンチモールタンニン等)等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。これらのうち特にヘリコバクター・ピロリに有効に作用するビスマス剤が好ましい。
本発明の薬剤には、さらに必要に応じて例えば、ビンロウジ(Areca),セキリュウカヒ(Punica granatum),カンゾウ(Licorice root),ショウマ(Cimicifuga rhizome),インチンコウ(Artemisiae capillaris herba),エンゴサク(Corydalis tuber),センナ(Senna),シソヨウ(perilla herb),ゴボウシ(Actium lappa),タンジン(Salviae miltiorrhizae),レンギョウ(Forsythiae fructus),ボタンピ(Moutan cortex),サンザシ(Crataegus),ホウブシ(Aconitum carmichaeli),キンギンカ(スイカズラ,Louicwra japonica),コウブシ(Cyperus rhizome),コウカ(Carthami flos),ウヤク(Lindera strychnifolia),レンニク(レンジツ,Lotus seed),ダイオウ(Rhubarb),ショウキョウ(Ginger),クジン(Sophora root),アロエ(Aloe),シャクヤク(Peony root),チョウジ(Clove),オウゴン(Scutellaria root),キジツ(Immatureorange),コウボク(Magnolia bark)等の中から選ばれた少なくとも1種の生薬末又はその抽出成分、好ましくはショウキョウ,オウゴン,キジツ,チョウジ,カンゾウ,コウボクまたはエンゴサクの生薬末もしくは抽出成分の少なくとも1種をさらに加えてもよい。
本発明の薬剤は、上記した通り他の抗潰瘍剤(例えば、プロトンポンプ阻害剤など)などの薬剤と併用することができるが、さらにこれに加えて抗菌剤と併用することもできる。
本発明の薬剤と併用することができる抗菌剤としては、例えばアモキシリン、クラリスロマイシン、テトラサイクリン、メトロニダゾール、チニダゾールなどが挙げられる。
上記したような2剤又は3剤併用療法により、それぞれの薬物単独で使用した場合よりも優れた除菌効果、抗潰瘍効果、および潰瘍の再燃・再発防止効果を得ることができる場合もある。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤の形態は特に限定されず、経口投与又は非経口投与用の製剤形態の中から目的に最も適した適宜の形態のものを選択することが可能である。
経口投与に適した製剤形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、ドリンク剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、溶液剤、乳剤、懸濁剤、チュアブル剤などを挙げることができ、非経口投与に適する製剤形態としては、例えば、注射剤(皮下注射、筋肉内注射、又は静脈内注射など)、外用剤、点滴剤、吸入剤、噴霧剤などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
経口投与に適当な液体製剤、例えば、溶液剤、乳剤、又はシロップ剤などは、水、ショ糖、ソルビット、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを用いて製造することができる。また、カプセル剤、錠剤、散剤、又は顆粒剤などの固体製剤の製造には、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニットなどの賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを用いることができる。
非経口投与に適当な注射用又は点滴用の製剤は、好ましくは、受容者の血液と等張な滅菌水性媒体に有効成分である上記の物質を溶解又は懸濁状態で含んでいる。例えば、注射剤の場合、塩溶液、ブドウ糖溶液、又は塩水とブドウ糖溶液との混合物からなる水性媒体などを用いて溶液を調製することができる。腸内投与のための製剤は、例えば、カカオ脂、水素化脂肪、又は水素化カルボン酸などの担体を用いて調製することができ、座剤として提供される。また、噴霧剤の製造には、有効成分である上記の物質を微細な粒子として分散させることができ、受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ有効成分の吸収を容易ならしめる担体を用いることができる。担体としては、具体的には、乳糖又はグリセリンなどが例示される。有効成分である物質及び使用する担体の性質に応じて、エアロゾル又はドライパウダーなどの形態の製剤が調製可能である。これらの非経口投与用製剤には、グリコール類、油類、フレーバー類、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤などから選択される1種又は2種以上の飲食品を添加することもできる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤の投与量及び投与回数は、投与の目的、投与形態、摂取者の年齢、体重又は性別などの条件などを含む種々の要因により適宜設定することができるが、一般的には、有効成分の投与量として一日当り1〜10,000mg/kg、好ましくは10〜2000mg/kg、より好ましくは10〜100mg/kgである。上記投与量の製剤を一日1〜4回程度に分けて投与することが好ましい。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤の投与時期は特に限定されない。
本発明はさらに、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品にも関する。即ち、本発明で用いる縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物は、上記したような単独の製剤の形態で使用するのみならず、飲食品の中に配合して用いることができる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品は、ポリ乳酸混合物を分解させることなく配合し得るものであれば、その配合形態には特に制限はない。
本発明による消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品の製品の具体例としては、清涼飲料、ドリンク剤、健康食品、特定保健用食品、機能性食品、機能活性型食品、栄養補助食品、サプレメント、飼料、飼料添加物などと一般に呼称される、飲料を含む健康食品または補助食品が挙げられる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品はあらゆる形態の飲食品を包含するものであり、その種類は特に制限されず、上記したような各種飲食物、あるいは各種栄養組成物、例えば各種の経口又は経腸栄養剤や飲料等に、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を配合して飲食品として提供することができる。このような飲食品の組成としては、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の他に、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン及び/又はミネラル類などを含めることができる。飲食品の形態は特に限定されず、摂取しやすい形態であれば、固形、粉末、液体、ゲル状、スラリー状等のいずれであってもよい。
飲食品の具体例としては、例えば、チューインガム、チョコレート、キャンディー、錠菓、ゼリー、クッキー、ビスケット、ヨーグルト等の菓子類、アイスクリーム、氷菓等の冷菓類、茶、清涼飲料(ジュース、コーヒー、ココア等を含む)、栄養ドリンク剤、美容ドリンク剤等の飲料、パン、ハム、スープ、ジャム、スパゲティー、冷凍食品など任意の飲食品を挙げることができる。あるいは、本発明で用いるポリ乳酸混合物は調味料又は食品添加剤などに添加して用いることもできる。本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品を摂取することにより消化管疾患の予防及び/又は治療効果が発揮され、実質的に有害な副作用を示さない安全な飲食品を提供することができる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品は、ポリ乳酸混合物を、食品に使われる一般的な原料に直接混合、分散したのち、公知の方法により所望の形態に加工することによって得ることができる。
飲食品中におけるポリ乳酸混合物の含有量は特には限定されないが、一般的には0.1〜20重量%、より好ましくは0.1〜10重量%程度である。
飲食品に含まれるポリ乳酸混合物の量は、本発明の目的とする、消化管疾患の予防及び/又は治療の効果を発揮できる程度に含まれることが好ましく、好ましくは摂取される飲食物1食中に0.1gから10g程度、より好ましくは0.5gから3g程度である。
なお、本出願が主張する優先権の基礎となる日本特許出願である特願2001−7771号の明細書に記載の内容は全て、本明細書の開示の一部として本明細書中に引用するものとする。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によっていかなる点においても限定されることはない。
実施例
製造例1:ポリ乳酸混合物(以下、CPLとも称する)の製造
マントルヒーターに収めたセパラブルフラスコにL−乳酸(D−乳酸も混入しているもの)500mlを入れた。窒素ガス300ml/分の流入及び撹拌を行い、溜出水は保温した下降型接続管を経て還流冷却器付フラスコに導きながら、145℃で3時間加熱した。更に150mmHgに減圧して同温度で3時間加熱した後、3mmHgの減圧下155℃で3時間、最後に3mmHgの減圧下185℃で1.5時間加熱し、反応生成物であるポリ乳酸を得た。
得られたポリ乳酸は100℃に保ち、エタノール100mlに続いてメタノール400mlをそれぞれ加えた後放冷した。これをメタノール500ml中に加え、よく撹拌して静置した後濾過して精製した。その濾液を減圧乾燥してアセトニトリルに溶解し、全量を200ml(原液)とした。
この原液を、予め平衡化した逆相ODSカラム(TSK gel ODS−80TM)にかけ、0.01M塩酸を含む30%、50%および100%アセトニトリル(pH2.0)でステップワイズに溶離し、アセトニトリル100%溶出画分であるポリ乳酸(縮合度3〜20)を得た。得られた物質の質量スペクトルを図1に示す。図1中の規則的なフラグメントイオンピークから明らかなように、得られたポリ乳酸の混合物は、環状縮合体を主体とし、直鎖状縮合体が少量混在した状態になっている。
試験例1:
(材料および方法)
実験動物は9〜12週齢のスナネズミ(セヤック)を用いた。CPL群は0.2%のCPLを混入させた標準固形餌(CE−2)を減菌水道水とともに自由摂取させ、また対照群は放射性減菌(コバルト60)した標準固形餌(CE−2)を減菌水道水とともに自由摂取させた。H.pylori(1.5〜3.0×106cfu/mouse)を胃ゾンデを用いて3日間連続経口投与後、餌に混入させたCPLを与え、30日目に屠殺、胃および十二指腸を摘出し、生菌数を測定した。生菌数の測定は胃(前胃と後胃に分割)および十二指腸の重量を量り、その10倍量のリン酸緩衝液(PBS)を加えてホモジナイズし、階段希釈を行い、階段希釈液の0.1mlをヘリコバクター寒天培地(日水製薬)上に塗抹して集落数を数えた。
(結果)
H.pylori感染スナネズミの胃および十二指腸中における生菌数
CPL投与群および対照群の胃(前胃、後胃)および十二指腸中におけるH.pyloriの生菌数の測定結果を図2に示した。CPL投与群の前胃(102cfu)、後胃(102cfu)および十二指腸(102cfu)中の生菌数は、対照群の前胃(103cfu)、後胃(104cfu)および十二指腸(104cfu)中の生菌数に比して減少傾向を示していた。
上記の成績から生体内においてCPLそのものあるいはその代謝産物によってH.pyloriの増殖が抑制され、CPLの投与によりH.pylori感染から防御できることが示された。
試験例2:
(材料及び方法)
実験には6週令の雄性Donryu系ラット(日本SLC、実験時体重180〜200g)を使用した。
CPLは40℃に加温したグリセリンで溶解させた後、プロピレングリコールを加えて100mg/mlに調整した。その後、蒸留水で希釈し、50mg/kgの用量にした。薬物は体重200gあたり1mlの割合で1日に1回ずつ10日間経口投与した。対照群として溶媒のみを同用量で経口投与した。
水浸拘束ストレス誘起胃粘膜損傷を以下の通り作製した。ラットは実験開始前18時間は絶食し、水の摂取は実験開始2時間前までは自由とし、以後絶水した。ラットを東大薬作型ストレスケージ(夏目製作所)に入れ、10時間で22〜23℃の水槽に劍状突起の高さまで浸し、ストレス負荷することにより作製した。なお薬物はストレス負荷する30分前に再び投与した。
胃損傷面積の測定は以下の通り行なった。エーテル麻酔下に開腹し、胃を摘出した。噴門部結紮後2%ホルマリン液8mlを十二指腸より胃内に注入し10分間固定した。また漿膜側からも同液中に10分間浸すことにより固定した。その後、大弯に沿って切開し、実体顕微鏡に損傷の長さ(mm)を測定した。
結果は平均値±標準誤差(mean±S.E.;N=10〜11)で表示した。統計学的有意性の検討はStudent’s t−testを用い、P<0.05を有意とした。
(結果)
測定結果を以下の表1および図3に示す。
表1及び図3に示す通り、ストレス負荷することにより誘起される損傷の総和の平均は17.9±1.6mmであったのに対し、CPLの10日間連続投与により水浸拘束ストレス誘起胃粘膜損傷の発生は有意に抑制され、損傷の総和の平均は13.1±1.3mmであった。
産業上の利用の可能性
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、例えば、食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌などの食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍の予防及び/又は治療のために使用することができる。
また、本発明において有効成分として用いられるポリ乳酸混合物は、生体成分に由来する乳酸の低縮合体であることから、生体適合性が高く、副作用が少ない。
【図面の簡単な説明】
図1は、製造例1で得られたポリ乳酸混合物の質量スペクトルを示す。
図2は、CPL投与群および対照群の胃(前胃、後胃)および十二指腸中におけるH.pyloriの生菌数の測定結果を示すグラフである。白い棒は対照群(n=5)を示し、黒い棒はCPL群(n=6)を示す。
図3は、ラットにおける水浸拘束ストレス誘起胃粘膜損傷の発達に及ぼすCPLの影響を示すグラフである。
本発明は、ポリ乳酸混合物を有効成分として含む消化管疾患の予防及び/又は治療剤に関する。より詳細には、本発明は、例えば食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌などの食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍の予防及び/又は治療剤に関する。本発明はまた、ポリ乳酸混合物を含む消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品にも関する。
背景技術
これまでに開発されてきた潰瘍治療剤としては、制酸剤、抗コリン剤、抗ガストリン剤、消化管ホルモン剤、抗ペプシン剤、ヒスタミンH2受容体拮抗剤、組織修復剤、粘膜保護剤、微小循環改善剤、プロトンポンプ阻害剤などが知られている。これら潰瘍治療剤の中でも、特に強力な酸分泌抑制作用を有するヒスタミンH2受容体拮抗剤およびプロトンポンプ阻害剤の開発によって、潰瘍の治療成績は飛躍的に向上した。しかしながら、これらの潰瘍治療剤は、投薬を中止した後の潰瘍再発率が非常に高く、それが現在解決すべき大きな問題として残されている。
ヘリコバクター・ピロリは、ヘリコバクター属に属するグラム陰性の微好気性細菌であり、胃炎、十二指腸潰瘍、胃潰瘍又は胃癌などの再発の大きな原因の1つと言われている。これらの疾病を治療又は予防することを目的に、ヘリコバクター・ピロリに対して抗菌作用を有する物質の探索が行なわれている。
現在、このヘリコバクター・ピロリに起因する各種疾患の治療には、ビスマス製剤と抗生物質の二剤併用や、ビスマス製剤、メトロニダゾール(米国特許第2,944,061号)およびテトラサイクリン(米国特許第2,712,517号)もしくはアモキシシリン(米国特許第3,192,198号)の三剤併用などによる化学療法が行われている。これらビスマス製剤、抗生物質およびメトロニダゾールなどは、内服の形で投与される。
抗ヘリコバクター・ピロリ剤として用いられている抗菌剤は、ヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を阻止するのに十分な濃度をその増殖箇所に維持するためには大量に投与する必要がある。このため嘔吐、下痢などの副作用の発現が多いという問題があった。このような理由から、投与が容易で副作用が少なく、かつ優れたヘリコバクター・ピロリ除菌作用を有する薬剤の開発が切望されていた。
これまでの研究により、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリL−乳酸混合物は、抗悪性腫瘍剤として有用であることが報告されている(特開平9−227388号公報および特開平10−130153号公報)。しかしながら、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物が、消化管疾患の予防及び治療効果を発揮するかどうかの評価については報告されていない。
発明の開示
本発明は、消化管疾患の予防及び/又は治療のために使用することができる新規な予防及び/又は治療剤を提供することを解決すべき課題とした。本発明はまた、消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは、上記課題を解決することを目的とした検討を行うために、先ず、スナネズミにヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)を感染させ、1ヶ月間飼育した後、スナネズミの胃および十二指腸中における生菌数について測定することによって、ヘリコバクター・ピロリに対する縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の感染防御効果を検討した。その結果、上記ポリ乳酸混合物は、ヘリコバクター・ピロリに対する感染防御効果を示すことが判明した。
さらに本発明者らは、水浸拘束ストレス誘起胃粘膜損傷を有するモデルラットにおいて、上記胃粘膜損傷の形成に及ぼす縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の作用効果を検討した。その結果、ポリ乳酸混合物の投与により胃粘膜損傷の発生は有意に抑制されることが判明した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
本発明によれば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、消化管疾患の予防及び/又は治療剤が提供される。
本明細書で言う消化管疾患とは、例えば、食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍であり、より具体的には、例えば、食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌などが挙げられる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、ヘリコバクターに起因する消化管疾患の予防及び/又は治療のために使用することができ、特にヘリコバクター・ピロリに起因する消化管疾患の予防及び/又は治療のために使用することができる。
本発明の別の側面によれば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、抗ヘリコバクター剤が提供される。
本発明の抗ヘリコバクター剤は、特に抗ヘリコバクター・ピロリ剤として使用でき、例えば、ヘリコバクター感染症の予防及び/又は治療剤として使用することができる。
好ましくは、ポリ乳酸中における反復単位である乳酸は実質的にL−乳酸から成る。
好ましくは、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物は、乳酸を不活性雰囲気下で脱水縮合し、得られた反応液のエタノールおよびメタノール可溶分を逆相カラムクロマトグラフィーに付し、pH2〜3の25〜50重量%のアセトニトリル水溶液で溶離後、pH2〜3の90重量%以上のアセトニトリル水溶液で溶離した画分である。
好ましくは、脱水縮合を窒素ガス雰囲気下、段階的減圧及び昇温により行う。
好ましくは、逆相カラムクロマトグラフィーを、ODSカラムクロマトグラフィーにより行う。
本発明のさらに別の側面によれば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、消化管疾患の予防及び/又は治療剤、又は消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品の製造における、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の使用が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の有効量をヒトなどの哺乳動物に投与することを含む、消化管疾患の予防及び/又は治療のための方法が提供される。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の実施態様および実施方法について詳細に説明する。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤(本明細書中では、本発明の薬剤と称することもある)は、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を有効成分として含むものであり、例えば、食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌などの食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍の予防及び/又は治療のために使用することができる。また、本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、ヘリコバクター菌(特に、ヘリコバクター・ピロリ)に対する感染防御効果を示すことが判明したことから、抗ヘリコバクター剤(特に、抗ヘリコバクター・ピロリ剤)としても有用である。
本明細書で言う消化管疾患とは最も広義の意味を有し、食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌などの食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍の全てが包含される。
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、活動性慢性胃炎患者の胃粘膜から分離されたグラム陰性細菌である(Warren,J.R.& Marshall,B.J.Lanceti:1273−1275,1983)。本菌は胃・十二指腸潰瘍患者より高率に分離されること、ヒトボランティアによる感染実験から明らかな活動性胃炎の所見を呈すること(Morris,A.& Nicholoson,G.Am.J.Gastroenterology,82:192−199,1987)、およびヘリコバクター・ピロリ感染実験動物でもヒトに類似した胃炎の症状を呈することなどから、上部消化管疾患と関連性を有することが明白になっている。また、ヘリコバクター・ピロリは胃ガンの重要なリスクファクターとしても注目されている(Parsonnet,J.et al.N.Eng.J.Med.325:1127−1131,1991)。
本発明で有効成分として用いる縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物は、ヘリコバクター・ピロリ感染動物モデルにおいても良好な除菌作用を示すことから、ヘリコバクター(特には、ヘリコバクター・ピロリ)に起因する消化管疾患(特には、胃炎、胃潰瘍又は胃癌など)の予防および治療に有効である。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、ヘリコバクターの感染防御に効果的であるので、感染する前に予め摂取しておくと、感染しにくく、また、感染しても治りやすいという予防的作用を有する。従って、本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、健康食品や医薬品として日頃から摂取しておくことも好ましい。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤及び消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品においては、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物が有効成分として用いられる。
本明細書で言う「ポリ乳酸混合物」とは、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸が任意の割合で存在する混合物を意味する。即ち、「混合物」という用語は、縮合度3〜20の何れかを有するポリ乳酸の混合物であることを意味すると同時に、環状および鎖状のポリ乳酸の混合物を含む概念としても用いられる。このような「ポリ乳酸混合物」は、本明細書中以下に述べるように、乳酸を脱水縮合し、適当な方法で精製することにより得ることができる。なお、本明細書では便宜上「ポリ乳酸混合物」という用語を用いたが、この中には一定の縮合度を有する環状のポリ乳酸または一定の縮合度を有する鎖状のポリ乳酸といった単一成分から成るポリ乳酸も含まれる。
縮合度とは、ポリ乳酸中における反復単位である乳酸単位の数を意味する。例えば、環状のポリ乳酸は下記の構造式を有することが推測されるが、式中のnが縮合度を表す(即ち、n=3〜20)。
本明細書で単に「乳酸」と称する場合、この乳酸にはL−乳酸、D−乳酸またはこれらの任意の割合の混合物の全てが包含される。本発明においては好ましくは、乳酸は実質的にL−乳酸から成る。ここで言う「実質的に」とは、ポリ乳酸混合物中におけるL−乳酸単位の比率[即ち、(L−乳酸単位数/L−乳酸単位数+D−乳酸単位数)×100]が、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上であることを意味する。なお、ポリ乳酸混合物中におけるL−乳酸単位の比率は、出発物質として使用する乳酸中に存在するL−乳酸とD−乳酸の比率に依存する。
縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、特開平9−227388号公報、特開平10−130153号公報、または特願平11−39894号明細書(これらの特許明細書に記載の内容は全て引用により本明細書の開示として含める。)などに記載の製造方法により得ることができる。
より具体的には、例えば、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物は、下記の方法Aにより得ることができる。
方法A:
先ず、乳酸(好ましくは、実質的にL−乳酸から成る乳酸)を不活性雰囲気下で脱水縮合させる。不活性雰囲気としては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、窒素ガスを用いるのが好ましい。
脱水縮合反応は、常圧〜1mmHg程度の減圧下、110〜210℃、好ましくは130〜190℃の温度で行われるが、段階的減圧および段階的昇温によって行うのが特に好ましい。反応時間は適宜設定できるが、例えば1〜20時間反応を行うことができる。段階的減圧および段階的昇温を用いる場合には、反応時間を2以上から成る部分的な反応時間に分け、それぞれの部分において圧力と温度を設定して反応を行う。段階的減圧を用いる場合は、例えば、常圧→150mmHg→3mmHgと減圧することができ、段階的昇温を用いる場合は、例えば、145℃→155℃→185℃と昇温することができる。実際には、これらを組み合わせて、例えば、145℃で常圧で3時間、145℃で150mmHgで3時間、155℃で3mmHgで3時間そして185℃で3mmHgで1.5時間反応を行うことができる。
次いで、この脱水縮合反応により得られた反応混合物にエタノールおよびメタノールを加え、濾過して濾液を乾燥してエタノールおよびメタノール可溶分が得られる。即ち、本明細書で言う「エタノールおよびメタノール可溶分」とはエタノールとメタノールの混合液に可溶な画分を意味する。なお、エタノールおよびメタノール可溶分を得る際には、脱水縮合反応の反応混合物をエタノールおよびメタノールと混合するが、その際のエタノールとメタノールの比率は適宜設定することができ、例えばエタノール:メタノール=1:9である。なお、反応混合物にエタノールとメタノールを添加する順番、方法などは限定されず、適宜選択することができ、例えば、脱水縮合反応の反応混合物に先ずエタノールを添加し、次いでメタノールを添加することができる。
上記で得られたエタノール・メタノール可溶分を逆相カラムクロマトグラフィー、特にオクタデシルシラン(ODS)カラムを用いたクロマトグラフィーに付し、まずpH2〜3の25〜50重量%のアセトニトリル水溶液で溶離する画分を除去し、次いでpH2〜3の90重量%以上のアセトニトリル水溶液、好ましくは99重量%以上のアセトニトリル水溶赦で溶離してくる画分を採取すると、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物が得られる。
上記のようにして得られた環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物は、水酸化ナトリウムなどのアルカリ物質で中和し、減圧乾燥後、常法により下記に述べるような所望の形態に製剤化することができる。
本発明で用いる縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を製造するための別法としては、例えば、特願平11−265715号明細書に記載された方法(方法Bとする)または特願平11−265732号明細書に記載された方法(方法Cとする)を挙げることができる(これらの特許明細書に記載の内容は全て引用により本明細書の開示として含める。)。以下、方法Bおよび方法Cについて具体的に説明する。
方法B:
この方法は、ラクチドをRYLi(式中、Rは脂肪族基又は芳香族基を示し、Yは酸素原子又はイオウ原子を示す)で表されるリチウム化合物の存在下で重合させることによって環状乳酸オリゴマーを製造する方法である。重合反応を実施する場合、リチウム化合物(RYLi)の使用割合は、ラクチド1モル当たり、1〜0.1モル、好ましくは0.2〜0.3モルの割合である。反応温度は−100〜0℃、好ましくは−78〜−50℃である。反応は、−78〜−50℃の温度で開始し、徐々に室温にまで昇温させるように実施するのが好ましい。反応は、好ましくは反応溶媒の存在下で実施される。反応溶媒としては、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの他、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン等を用いることができる。反応雰囲気としては、窒素ガスやアルゴン等の不活性ガス雰囲気が用いられる。反応圧力は特に制約されず、好ましくは常圧である。
なお、上記のようにして得られる乳酸オリゴマーの組成(即ち、環状乳酸オリゴマーと鎖状乳酸オリゴマーの混合比率)は、反応助剤として用いるリチウム化合物によって変動する。リチウム化合物として炭素数1〜3のアルキルアルコールのリチウム化合物(ROLi)(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基)を用いる場合には、環状乳酸オリゴマーと鎖状オリゴマーとの混合物(環状乳酸オリゴマーの割合:80〜85重量%)が得られる。一方、リチウム化合物としてt−ブチルアルコール等の炭素数4以上のアルキルアルコールのリチウム化合物や、チオフェノール化合物を用いるときには、実質的に環状乳酸オリゴマーのみを選択的に得ることができる。
方法C:
この方法は、(i)乳酸を350〜400mmHgの圧力条件で120〜140℃の範囲の温度に加熱し、脱水縮合反応させるとともに、ラクチドを留出させずに副生水のみを留出除去する第1加熱工程、
(ii)該第1加熱工程終了後、反応生成物を150〜160℃の温度に加熱し、該反応圧力を降圧速度0.5〜1mmHg/分で15〜20mmHgまで降下させるとともに、その降圧に際し、ラクチドの留出を回避させながら副生水のみを留出除去し、該反応圧力が15〜20mmHgに降下後、同圧力条件及び反応温度150〜160℃においてさらに反応を継続して鎖状乳酸オリゴマーを主成分とする脱水縮合物を生成させる第2加熱工程、
(iii)該第2加熱工程終了後、0.1〜3mmHgの圧力条件で150〜160℃で加熱して該鎖状乳酸オリゴマーを環化させ、環状オリゴマーを生成させる第3加熱工程、
からなることを特徴とする方法である。
この方法では先ず、第1加熱工程において、減圧下において乳酸を加熱し、脱水縮合反応させる。この場合の反応時間は3〜12時間、好ましくは5〜6時間である。この第1加熱下での反応は、その反応を円滑に進行させるために、乳酸の脱水縮合により生成する副生水を留去させるが、この場合、乳酸2分子の脱水縮合物であるラクチドが留去しないように実施する。このためには、反応圧力を減圧、好ましくは300〜500mmHg、より好ましくは350〜400mmHgに保持し、この圧力条件下において、100〜140℃、好ましくは130〜140℃の範囲に加熱するのがよい。この第1加熱工程での反応により、主に、乳酸の3〜23分子の脱水縮合物を主成分とする反応生成物が生じる。
上記第1加熱工程の終了後、第2加熱工程において、高められた平均重合度のオリゴマーが得られるように、前記第1加熱工程における反応温度よりも高められた温度、好ましくは145〜180℃、より好ましくは150〜160℃の温度に加熱するとともに、反応圧力を10〜50mmHg、好ましくは15〜20mmHgの圧力に降下させてさらに脱水縮合反応を継続する。
この反応も、前記第1加熱工程の反応の場合と同様に、反応を円滑に進行させるために副生水を留去させるが、ラクチドが留去しない条件で実施する。反応圧力を前記範囲の圧力にまで降下させる速度(降圧速度)は、ラクチドの留出を回避し、且つ反応効率を高めるためには、0.25〜5mmHg/分、好ましくは0.5〜1mmHg/分の範囲に保持することが通常は必要である。前記範囲より低い降圧速度では、その所定圧まで降圧させるのに必要な時間が長くなるため好ましくなく、一方、前記範囲より高い降圧速度では、ラクチドが副生水とともに留去するようになるので好ましくない。
反応圧力が所定圧力にまで降下後、この反応圧力において、さらに反応を継続する。この場合の加熱時間は、3〜12時間、好ましくは5〜6時間である。
前記第2加熱工程での反応により、平均重合度が3〜30、好ましくは3〜23の乳酸オリゴマーが得られるが、この場合のオリゴマー中の環状オリゴマーの割合は、通常、70〜80重量%程度である。
上記第2加熱工程終了後、第3加熱工程において、反応圧力を0.25〜5mmHg、好ましくは0.5〜1mmHgに保持し、145〜180℃、好ましくは150〜160℃の温度でさらに反応を継続する。反応時間は3〜12時間、好ましくは5〜6時間である。この場合に生じる副生水も留去させる。この場合、ラクチドの留去も回避させることが好ましいが、反応生成物にはラクチドは殆んど含まれないので、その降圧速度を格別遅くする必要はない。
前記第3加熱工程での反応により、平均重合度3〜30、好ましくは3〜23で、かつ環状オリゴマーの割合が90重量%以上、好ましくは99重量%以上の乳酸オリゴマーが生成される。
なお、上記方法A、BおよびCは本発明で用いるポリ乳酸混合物の製造方法の具体例の一部を示したものにすぎず、本発明においては他の方法で製造されたポリ乳酸混合物を用いることもできる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、前記の必須成分に加えてさらに必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲内で、医薬品類、医薬部外品類などの製剤に使用される成分や添加剤を任意に選択・併用して製造することができる。本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、単独の医薬品類として使用できる以外に、医薬品類や医薬部外品類などに配合して用いることもできる。
本発明の薬剤は縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を有効成分とするが、必要に応じて他の活性成分、例えば、胃酸分泌抑制剤、胃粘膜保護剤、制酸剤、健胃剤、消化剤、健胃消化剤、整腸剤、抗ウレアーゼ酵素等の酵素製剤、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体製剤、抗菌剤などを配合することができる。
より具体的には、本発明の薬剤は、ヒスタミンH2受容体拮抗剤、プロトンポンプ阻害剤、胃粘膜防御型の胃炎・消化性潰瘍治療剤、制酸剤、止瀉剤などと組み合わせて使用することができる。
ヒスタミンH2受容体拮抗剤としては、例えばシメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロキサチジン、ニザチジン等、およびそれらの製薬的に許容される塩あるいは誘導体が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。製薬的に許容される塩あるいは誘導体としては、例えば、ラニチジンの塩としては塩酸ラニチジン等が、また、ロキサチジンの誘導体としては塩酸ロキサチジンアセテート等が挙げられる。
プロトンポンプ阻害剤としては、例えばランソプラゾール、オメプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、レミノプラゾール、パリプラゾール等、およびそれらの製薬的に許容される塩が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。好ましくは、ランソプラゾール、オメプラゾールまたはラベプラゾールが用いられる。プロトンポンプ阻害剤は以下に示す制酸剤を併用するか、または腸溶性製剤や安定化製剤(例えば、マグネシウムまたはカルシウムの塩基性無機塩)にするなどの方法により胃酸による影響を押さえて用いることが好ましい。
胃粘膜保護型の胃炎・消化性潰瘍治療剤としては、例えばアルジキオサ、アルジオキサ・メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、スクラルファート、プログルミド、テプレノン、塩酸セトラキサート、プラウノトール、ソファルコン、塩酸ベネキサートベータデスク、マレイン酸イルソグラジン、レバピミド、エカベトナトリウム、ポラプレジンク、エカバピド、プロスタグランジン誘導体(ミゾプロストール、オルノプロスチールなど)など等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上が用いられる。
制酸剤としては、例えば乾燥水酸化アルミニウムゲル,ケイ酸アルミン酸マグネシウム,ケイ酸マグネシウム,合成ケイ酸アルミニウム,合成ヒドロタルサイト,酸化マグネシウム,水酸化アルミナマグネシウム,水酸化アルミニウムゲル,水酸化アルミニウム,炭酸水素ナトリウム共沈生成物,水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル,水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム・炭酸カルシウム共沈生成物,水酸化マグネシウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸マグネシウム,沈降炭酸カルシウム,メタケイ酸アルミン酸マグネシウム,無水リン酸水素カルシウム,リン酸水素カルシウムなどの無機性制酸剤;アミノ酢酸等のアミノ酸剤;ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート;ロートエキス等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上が用いられる。
止瀉剤としては例えばビスマス剤(例えば、次サリチル酸ビスマス、次硝酸ビスマス、次炭酸ビスマス、次没食子酸ビスマス等)、タンニン剤(例えば、タンニン酸、タンニン酸アルブミン、メチレンチモールタンニン等)等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。これらのうち特にヘリコバクター・ピロリに有効に作用するビスマス剤が好ましい。
本発明の薬剤には、さらに必要に応じて例えば、ビンロウジ(Areca),セキリュウカヒ(Punica granatum),カンゾウ(Licorice root),ショウマ(Cimicifuga rhizome),インチンコウ(Artemisiae capillaris herba),エンゴサク(Corydalis tuber),センナ(Senna),シソヨウ(perilla herb),ゴボウシ(Actium lappa),タンジン(Salviae miltiorrhizae),レンギョウ(Forsythiae fructus),ボタンピ(Moutan cortex),サンザシ(Crataegus),ホウブシ(Aconitum carmichaeli),キンギンカ(スイカズラ,Louicwra japonica),コウブシ(Cyperus rhizome),コウカ(Carthami flos),ウヤク(Lindera strychnifolia),レンニク(レンジツ,Lotus seed),ダイオウ(Rhubarb),ショウキョウ(Ginger),クジン(Sophora root),アロエ(Aloe),シャクヤク(Peony root),チョウジ(Clove),オウゴン(Scutellaria root),キジツ(Immatureorange),コウボク(Magnolia bark)等の中から選ばれた少なくとも1種の生薬末又はその抽出成分、好ましくはショウキョウ,オウゴン,キジツ,チョウジ,カンゾウ,コウボクまたはエンゴサクの生薬末もしくは抽出成分の少なくとも1種をさらに加えてもよい。
本発明の薬剤は、上記した通り他の抗潰瘍剤(例えば、プロトンポンプ阻害剤など)などの薬剤と併用することができるが、さらにこれに加えて抗菌剤と併用することもできる。
本発明の薬剤と併用することができる抗菌剤としては、例えばアモキシリン、クラリスロマイシン、テトラサイクリン、メトロニダゾール、チニダゾールなどが挙げられる。
上記したような2剤又は3剤併用療法により、それぞれの薬物単独で使用した場合よりも優れた除菌効果、抗潰瘍効果、および潰瘍の再燃・再発防止効果を得ることができる場合もある。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤の形態は特に限定されず、経口投与又は非経口投与用の製剤形態の中から目的に最も適した適宜の形態のものを選択することが可能である。
経口投与に適した製剤形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、ドリンク剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、溶液剤、乳剤、懸濁剤、チュアブル剤などを挙げることができ、非経口投与に適する製剤形態としては、例えば、注射剤(皮下注射、筋肉内注射、又は静脈内注射など)、外用剤、点滴剤、吸入剤、噴霧剤などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
経口投与に適当な液体製剤、例えば、溶液剤、乳剤、又はシロップ剤などは、水、ショ糖、ソルビット、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを用いて製造することができる。また、カプセル剤、錠剤、散剤、又は顆粒剤などの固体製剤の製造には、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニットなどの賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを用いることができる。
非経口投与に適当な注射用又は点滴用の製剤は、好ましくは、受容者の血液と等張な滅菌水性媒体に有効成分である上記の物質を溶解又は懸濁状態で含んでいる。例えば、注射剤の場合、塩溶液、ブドウ糖溶液、又は塩水とブドウ糖溶液との混合物からなる水性媒体などを用いて溶液を調製することができる。腸内投与のための製剤は、例えば、カカオ脂、水素化脂肪、又は水素化カルボン酸などの担体を用いて調製することができ、座剤として提供される。また、噴霧剤の製造には、有効成分である上記の物質を微細な粒子として分散させることができ、受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ有効成分の吸収を容易ならしめる担体を用いることができる。担体としては、具体的には、乳糖又はグリセリンなどが例示される。有効成分である物質及び使用する担体の性質に応じて、エアロゾル又はドライパウダーなどの形態の製剤が調製可能である。これらの非経口投与用製剤には、グリコール類、油類、フレーバー類、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤などから選択される1種又は2種以上の飲食品を添加することもできる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤の投与量及び投与回数は、投与の目的、投与形態、摂取者の年齢、体重又は性別などの条件などを含む種々の要因により適宜設定することができるが、一般的には、有効成分の投与量として一日当り1〜10,000mg/kg、好ましくは10〜2000mg/kg、より好ましくは10〜100mg/kgである。上記投与量の製剤を一日1〜4回程度に分けて投与することが好ましい。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤の投与時期は特に限定されない。
本発明はさらに、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品にも関する。即ち、本発明で用いる縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物は、上記したような単独の製剤の形態で使用するのみならず、飲食品の中に配合して用いることができる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品は、ポリ乳酸混合物を分解させることなく配合し得るものであれば、その配合形態には特に制限はない。
本発明による消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品の製品の具体例としては、清涼飲料、ドリンク剤、健康食品、特定保健用食品、機能性食品、機能活性型食品、栄養補助食品、サプレメント、飼料、飼料添加物などと一般に呼称される、飲料を含む健康食品または補助食品が挙げられる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品はあらゆる形態の飲食品を包含するものであり、その種類は特に制限されず、上記したような各種飲食物、あるいは各種栄養組成物、例えば各種の経口又は経腸栄養剤や飲料等に、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を配合して飲食品として提供することができる。このような飲食品の組成としては、縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物の他に、蛋白質、脂質、糖質、ビタミン及び/又はミネラル類などを含めることができる。飲食品の形態は特に限定されず、摂取しやすい形態であれば、固形、粉末、液体、ゲル状、スラリー状等のいずれであってもよい。
飲食品の具体例としては、例えば、チューインガム、チョコレート、キャンディー、錠菓、ゼリー、クッキー、ビスケット、ヨーグルト等の菓子類、アイスクリーム、氷菓等の冷菓類、茶、清涼飲料(ジュース、コーヒー、ココア等を含む)、栄養ドリンク剤、美容ドリンク剤等の飲料、パン、ハム、スープ、ジャム、スパゲティー、冷凍食品など任意の飲食品を挙げることができる。あるいは、本発明で用いるポリ乳酸混合物は調味料又は食品添加剤などに添加して用いることもできる。本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品を摂取することにより消化管疾患の予防及び/又は治療効果が発揮され、実質的に有害な副作用を示さない安全な飲食品を提供することができる。
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品は、ポリ乳酸混合物を、食品に使われる一般的な原料に直接混合、分散したのち、公知の方法により所望の形態に加工することによって得ることができる。
飲食品中におけるポリ乳酸混合物の含有量は特には限定されないが、一般的には0.1〜20重量%、より好ましくは0.1〜10重量%程度である。
飲食品に含まれるポリ乳酸混合物の量は、本発明の目的とする、消化管疾患の予防及び/又は治療の効果を発揮できる程度に含まれることが好ましく、好ましくは摂取される飲食物1食中に0.1gから10g程度、より好ましくは0.5gから3g程度である。
なお、本出願が主張する優先権の基礎となる日本特許出願である特願2001−7771号の明細書に記載の内容は全て、本明細書の開示の一部として本明細書中に引用するものとする。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によっていかなる点においても限定されることはない。
実施例
製造例1:ポリ乳酸混合物(以下、CPLとも称する)の製造
マントルヒーターに収めたセパラブルフラスコにL−乳酸(D−乳酸も混入しているもの)500mlを入れた。窒素ガス300ml/分の流入及び撹拌を行い、溜出水は保温した下降型接続管を経て還流冷却器付フラスコに導きながら、145℃で3時間加熱した。更に150mmHgに減圧して同温度で3時間加熱した後、3mmHgの減圧下155℃で3時間、最後に3mmHgの減圧下185℃で1.5時間加熱し、反応生成物であるポリ乳酸を得た。
得られたポリ乳酸は100℃に保ち、エタノール100mlに続いてメタノール400mlをそれぞれ加えた後放冷した。これをメタノール500ml中に加え、よく撹拌して静置した後濾過して精製した。その濾液を減圧乾燥してアセトニトリルに溶解し、全量を200ml(原液)とした。
この原液を、予め平衡化した逆相ODSカラム(TSK gel ODS−80TM)にかけ、0.01M塩酸を含む30%、50%および100%アセトニトリル(pH2.0)でステップワイズに溶離し、アセトニトリル100%溶出画分であるポリ乳酸(縮合度3〜20)を得た。得られた物質の質量スペクトルを図1に示す。図1中の規則的なフラグメントイオンピークから明らかなように、得られたポリ乳酸の混合物は、環状縮合体を主体とし、直鎖状縮合体が少量混在した状態になっている。
試験例1:
(材料および方法)
実験動物は9〜12週齢のスナネズミ(セヤック)を用いた。CPL群は0.2%のCPLを混入させた標準固形餌(CE−2)を減菌水道水とともに自由摂取させ、また対照群は放射性減菌(コバルト60)した標準固形餌(CE−2)を減菌水道水とともに自由摂取させた。H.pylori(1.5〜3.0×106cfu/mouse)を胃ゾンデを用いて3日間連続経口投与後、餌に混入させたCPLを与え、30日目に屠殺、胃および十二指腸を摘出し、生菌数を測定した。生菌数の測定は胃(前胃と後胃に分割)および十二指腸の重量を量り、その10倍量のリン酸緩衝液(PBS)を加えてホモジナイズし、階段希釈を行い、階段希釈液の0.1mlをヘリコバクター寒天培地(日水製薬)上に塗抹して集落数を数えた。
(結果)
H.pylori感染スナネズミの胃および十二指腸中における生菌数
CPL投与群および対照群の胃(前胃、後胃)および十二指腸中におけるH.pyloriの生菌数の測定結果を図2に示した。CPL投与群の前胃(102cfu)、後胃(102cfu)および十二指腸(102cfu)中の生菌数は、対照群の前胃(103cfu)、後胃(104cfu)および十二指腸(104cfu)中の生菌数に比して減少傾向を示していた。
上記の成績から生体内においてCPLそのものあるいはその代謝産物によってH.pyloriの増殖が抑制され、CPLの投与によりH.pylori感染から防御できることが示された。
試験例2:
(材料及び方法)
実験には6週令の雄性Donryu系ラット(日本SLC、実験時体重180〜200g)を使用した。
CPLは40℃に加温したグリセリンで溶解させた後、プロピレングリコールを加えて100mg/mlに調整した。その後、蒸留水で希釈し、50mg/kgの用量にした。薬物は体重200gあたり1mlの割合で1日に1回ずつ10日間経口投与した。対照群として溶媒のみを同用量で経口投与した。
水浸拘束ストレス誘起胃粘膜損傷を以下の通り作製した。ラットは実験開始前18時間は絶食し、水の摂取は実験開始2時間前までは自由とし、以後絶水した。ラットを東大薬作型ストレスケージ(夏目製作所)に入れ、10時間で22〜23℃の水槽に劍状突起の高さまで浸し、ストレス負荷することにより作製した。なお薬物はストレス負荷する30分前に再び投与した。
胃損傷面積の測定は以下の通り行なった。エーテル麻酔下に開腹し、胃を摘出した。噴門部結紮後2%ホルマリン液8mlを十二指腸より胃内に注入し10分間固定した。また漿膜側からも同液中に10分間浸すことにより固定した。その後、大弯に沿って切開し、実体顕微鏡に損傷の長さ(mm)を測定した。
結果は平均値±標準誤差(mean±S.E.;N=10〜11)で表示した。統計学的有意性の検討はStudent’s t−testを用い、P<0.05を有意とした。
(結果)
測定結果を以下の表1および図3に示す。
表1及び図3に示す通り、ストレス負荷することにより誘起される損傷の総和の平均は17.9±1.6mmであったのに対し、CPLの10日間連続投与により水浸拘束ストレス誘起胃粘膜損傷の発生は有意に抑制され、損傷の総和の平均は13.1±1.3mmであった。
産業上の利用の可能性
本発明の消化管疾患の予防及び/又は治療剤は、例えば、食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌などの食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍の予防及び/又は治療のために使用することができる。
また、本発明において有効成分として用いられるポリ乳酸混合物は、生体成分に由来する乳酸の低縮合体であることから、生体適合性が高く、副作用が少ない。
【図面の簡単な説明】
図1は、製造例1で得られたポリ乳酸混合物の質量スペクトルを示す。
図2は、CPL投与群および対照群の胃(前胃、後胃)および十二指腸中におけるH.pyloriの生菌数の測定結果を示すグラフである。白い棒は対照群(n=5)を示し、黒い棒はCPL群(n=6)を示す。
図3は、ラットにおける水浸拘束ストレス誘起胃粘膜損傷の発達に及ぼすCPLの影響を示すグラフである。
Claims (13)
- 縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、消化管疾患の予防及び/又は治療剤。
- 消化管疾患が食道、胃又は十二指腸粘膜における炎症、潰瘍又は腫瘍である、請求項1に記載の消化管疾患の予防及び/又は治療剤。
- 消化管疾患が食道炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌又は十二指腸癌である、請求項1又は2に記載の消化管疾患の予防及び/又は治療剤。
- 消化管疾患がヘリコバクター(Helicobacter)に起因する疾患である、請求項1から3の何れかに記載の消化管疾患の予防及び/又は治療剤。
- ヘリコバクターがヘリコバクター・ピロリである請求項4に記載の消化管疾患の予防及び/又は治療剤。
- 縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、抗ヘリコバクター剤。
- ヘリコバクターがヘリコバクター・ピロリである請求項6に記載の抗ヘリコバクター剤。
- ヘリコバクター感染症の予防及び/又は治療剤である、請求項6又は7に記載の抗ヘリコバクター剤。
- ポリ乳酸中における反復単位である乳酸が実質的にL−乳酸から成る、請求項1から8の何れか1項に記載の薬剤。
- 縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物が、乳酸を不活性雰囲気下で脱水縮合し、得られた反応液のエタノールおよびメタノール可溶分を逆相カラムクロマトグラフィーに付し、pH2〜3の25〜50重量%のアセトニトリル水溶液で溶離後、pH2〜3の90重量%以上のアセトニトリル水溶液で溶離した画分である、請求項1から9の何れか1項に記載の薬剤。
- 脱水縮合を窒素ガス雰囲気下、段階的減圧及び昇温により行う、請求項10に記載の薬剤。
- 逆相カラムクロマトグラフィーを、ODSカラムクロマトグラフィーにより行う請求項10又は11に記載の薬剤。
- 縮合度3〜20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物を含む、消化管疾患の予防及び/又は治療のための飲食品。
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