【発明の詳細な説明】
窒素酸化物還元用触媒および排ガス中の窒素酸化物を還元する方法
技術分野
本発明は、排ガス中の窒素酸化物還元用触媒、及び、排ガス中の窒素酸化物の
還元方法に関する。より詳細には、酸素を過剰に含む排ガス中の窒素酸化物を炭
化水素を用いて還元する触媒、及び、酸素を過剰に含み、炭化水素を含む排ガス
中の窒素酸化物を還元する方法に関する。
背景技術
酸素を過剰に含む排ガス中の窒素酸化物(以下、NOxという)を浄化する方
法としては、アンモニア脱硝法が実用化されているが、アンモニア源を保有しな
ければならないこと、過剰のアンモニアはスリップして新たな公害の発生源にな
ってしまうことなどの理由から、小型の燃焼機器には事実上適用できないのが現
状である。これに対して、最近、例えば、特開昭63−100919号公報等に
開示されているように、銅などの金属でイオン交換したゼオライトを用い、炭化
水素により、選択的にNOxを還元できる事が見いだされている。
発明が解決しようとする課題
しかし、この触媒は、炭素数が4以下の炭化水素を還元剤とした場合、一般の
排ガスには必ず含まれている水蒸気の共存下では選択性(消費された炭化水素の
うち、NOxの還元に使われた炭化水素のモル比)が低く、十分な脱硝率が得ら
れなかった。
一方、Armorらは、Coをイオン交換したZSM−5(MFI型ゼオライト)
上で、メタンによりNOxが選択的に還元されることを報告している(「Applied
Catalysis B:Environmental」1巻、31頁)。また、米国特許5149512号
公報には、選択的NOx還元触媒としてCoイオン交換モルデナイトも開示され
ているが、実施例はいずれも水蒸気を含まない条件での効果を述べているに過ぎ
ない。この触媒上でも、水蒸気が共存すると活性が低下し、実用的には十分な活
性を有しないことがわかってきており、水蒸気の存在下でも有効な触媒が求めら
れている。
本発明は、上記の課題を解消するためになされたもので、天然ガスの燃焼排ガ
スのように比較的低級な炭化水素しか含まない排ガス中のNOxを還元するため
の、水蒸気や硫黄酸化物(以下SOxという)等を含む排ガス中でも十分な低温
活性があり、なおかつ耐久性を有するNOx還元用触媒、及びそれを用いたNO
xの還元方法、並びに、メタンを還元剤として有効に利用できるNOx還元用触
媒、及びそれを用いたNOxの還元方法を提供することを目的とする。
発明の開示
本発明者らは、このような問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、Co
をイオン交換により結晶性メタロシリケートに担持した触媒について、炭素数が
2乃至5程度の炭化水素を還元剤とするNOxの選択還元反応に有効な反応活性
点は、結晶性メタロシリケートの細孔中に分散されたCoイオンであり、Cuや
貴金属を担持したゼオライトと異なり、細孔の奥に存在している活性点も実質的
に反応に寄与していることを見いだした。即ち、Cuや貴金属を担持したゼオラ
イトでは、金属の酸化活性が高いためにゼオライト粒子表面に存在する金属また
は金属イオン上で反応が完結し、細孔の奥に金属が存在していても反応に寄与し
ないが、Coの場合、酸化活性が低く、高いNOx還元の選択性が期待できるか
わりに、NOxの還元反応の速度も遅いため、細孔内部にまで反応物が到達しう
るので、細孔の奥のCoイオン上でも反応が起こりうる。活性を上げるためには
、この活性点を担体粒子表面に濃縮する方法が考えられるが、これらのCoイオ
ンが近づきすぎると酸素活性化能のあるCo3O4等の酸化物クラスターを形成
し、炭化水素の酸化の活性が上昇することによって選択性が低下してしまうとと
もに、
活性点の数がかえって減少してしまうことも見いだした。
また、発明者らは、Co−ZSM−5等の触媒が水蒸気やSOxを含む雰囲気
下で、低級炭化水素によるNOx選択還元反応において低温で高活性を示さない
原因が、水蒸気やSOxが反応物や生成物の拡散を妨げ、細孔の奥に存在する活
性点が有効に生かされないためであることを発見した。さらに、このような細孔
の奥に存在する活性点を有効に生かすには、細孔径が大きいだけでなく、細孔が
直線状に開いており、なおかつ迂回路を形成するために直線状の細孔が2方向以
上に存在し、お互いの細孔が連絡していることが重要であることを見いだした。
本発明は、かかる知見に基づいてなされたもので、本発明の触媒は、活性点と
なる、Coをイオン交換担持した結晶性メタロシリケートを含む触媒であって、
該結晶性メタロシリケートが、断面が酸素8員環以上の大きさである直線状の細
孔を少なくとも二つの異なる次元方向に持ち、該細孔が酸素8員環以上の空孔で
互いに連絡されており、かつ、少なくとも一つの方向の直線状の細孔は酸素10
員環以上の断面を有するような結晶性メタロシリケートであることを特徴とする
。また、本発明のNOx還元方法は、上記の触媒を用いたNOxの還元方法であ
る。
本発明においては、結晶性メタロシリケートとして、断面が酸素8員環以上の
大きさである直線状の細孔を少なくとも二つの異なる次元方向に持ち、該細孔が
酸素8員環以上の空孔で互いに連絡されており、かつ、少なくとも一つの方向の
直線状の細孔は酸素10員環以上の断面を有するような結晶性メタロシリケート
が用いられる。水蒸気やSOxによる拡散の妨害を回避するためには、細孔が迂
回路をもつような構造である必要があるが、MOR型メタロシリケートのように
直線状の細孔を一つの方向だけしか持たない場合、該細孔がSOx等によって閉
塞した場合はそれより細孔の奥に存在する活性点には反応物は永久に近づけなく
なるので、不適当である。
また、細孔内の拡散速度は、細孔が直線的であるか、折れ曲がっているかによ
って大幅に異なり、排ガス中のNOx還元反応の場合、事実上有効な拡散は、直
線状の細孔のみで起こると考えられる。従って、直線状の細孔が1つの次元でし
か
存在していない、MFI型メタロシリケートでは、細孔がブロックされた場合、
迂回に時間がかかり過ぎてしまう。従って、直線状の細孔は、少なくとも二つの
異なる次元方向に開いており、お互いが連絡していることが必要である。
直線状の細孔の断面が酸素8員環より小さい場合、実質的にNOxや炭化水素
等の反応物が該細孔内を拡散して行くことができず、意味がない。結晶性メタロ
シリケートの熱安定性に問題がなければ、細孔の断面積は大きければ大きいほど
良い。このような細孔構造を有する結晶性メタロシリケートの結晶型としては、
AFR型、AFS型、AFY型、BEA型、BOG型、BPH型、DAC型、F
ER型、GME型、HEU型、MEL型、MFS型、LTL型、OFF型等があ
げられるが、さらに好ましくは、大きい細孔径を有するBEA型、BOG型、M
EL型が挙げられ、高純度の合成品が得やすいという点でBEA型、MEL型が
より好ましく、酸素12員環の直線状細孔を異なる2つの次元で有し、お互いが
酸素12員環の細孔で連絡しているBEA型が最も好ましい。
上記のような細孔構造を有する以外に、本発明で用いる結晶性メタロシリケー
トは、イオン交換能を持っている必要がある。イオン交換能を持っている結晶性
メタロシリケートとしては、狭義のゼオライトである結晶性のアルミノシリケー
ト、シリコアルミノフォスフェート(SAPO)、ガロシリケート等が例示され
、また、シリコンの一部をチタン等で置換したものであってもよく、安定したイ
オン交換能を有している限り、特に制限はないが、結晶の熱安定性、イオン交換
能の制御性などから、アルミノシリケートが最も好ましい。
イオン交換容量は活性点の数に直接影響を与えるので重要である。アルミノシ
リケートの場合、SiO2/Al2O3比(モル比、以下同じ)がその尺度となる
が、SiO2/Al2O3比が100より大きくなると、イオン交換容量が少なす
ぎて活性点の数が足りなくなる。一方SiO2/Al2O3比が10より小さくな
ると、親水性が強くなり、水蒸気によるNOx還元反応の阻害が強くなるほか、
細孔に陽イオンが必要以上に存在して細孔の空隙を狭め、拡散性を悪くしてしま
う。従って、SiO2/Al2O3比は10乃至100が好ましい。アルミノシリ
ケート以外についても、交換可能な1価の陽イオン1個当たりの全骨格原子(酸
化物の中心元素)数は、同様の値が望ましい。但し、担体となる結晶性メタロシ
リケートによって安定な結晶を与える値は概ね決まっており、最も好ましい、B
EA型アルミノシリケートの場合には、SiO2/Al2O3比は10乃至50が
より好ましい。
本発明で用いる結晶性メタロシリケートは、イオン交換能を持ち、断面が酸素
8員環以上の大きさである直線状の細孔を少なくとも二つの異なる次元方向に持
ち、該細孔が酸素8員環以上の空孔で互いに連絡されており、かつ、少なくとも
一つの方向の直線状の細孔は酸素10員環以上の断面を有するような結晶性メタ
ロシリケートである限り、その製造方法は特に限定されないが、テンプレートを
用いた常套的な水熱合成などにより合成することができる。例えばMEL型アル
ミノシリケートは、米国特許3709979号に開示される方法で、BEA型ア
ルミノシリケートは、米国特許3308069号に開示される方法で合成するこ
とができる。
また、本発明による触媒では、細孔内の拡散が有利になる結晶性メタロシリケ
ートを用いているが、結晶の1次粒子が大きすぎると効果を損なうので、結晶性
メタロシリケート結晶の1次粒子の平均直径は0.01μm乃至0.2μmが好
ましく、0.03μm乃至0.1μmがより好ましい。これより小さくても、本
発明における好ましい態様で使用する限り、耐久性等には特に問題ないが、1次
粒子間に形成されるマクロ細孔が小さくなりすぎるので、一次粒子の平均直径は
0.01μm以上が好ましい。このような粒子径の結晶性メタロシリケートは、
米国特許3709979号や3308069号に開示されている方法で合成する
ことができるが、通常の条件より、反応物の濃度を濃く、pHを低く、温度を高
く、撹はんを激しく、あるいは反応時間を短くすることによって、結晶の1次粒
子径を小さくすることができる。
本発明による触媒の別の態様では、Siの一部をTiで置換し、及び/または
、Alの一部をBで置換したBEA型ゼオライトを含む。Ti及び/またはB置
換
したBEA型ゼオライトは、一般には、Ti源及び/またはB源を含む混合物か
ら、テンプレートを用いた常套的な水熱合成法で製造できる。例えば、B置換B
EA型ゼオライトは米国特許第5110570号公報に開示される方法で、Ti
置換BEA型ゼオライトはスペイン国特許第2037596号公報に開示される
方法で合成することができる。
即ち、B置換BEA型ゼオライトは、シリカゾル、けい酸ナトリウムなどのS
i源、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等のAl源
に、ほう酸、ほう酸塩、トリアルキルほう酸等のB源を加え、さらに、N−テト
ラアルキルアンモニウム塩等のテンプレート、及び水酸化ナトリウム、アンモニ
ア水等のアルカリと水とを混合し、オートクレーブで90℃乃至180℃、2日
乃至1週間反応させ、得られた固体を濾別、水洗の後、80℃乃至200℃で乾
燥の後、400℃乃至700℃で1時間乃至2日間空気中で焼成して得られる。
Ti置換BEA型ゼオライトは、B源の代わりに塩化チタン等のハロゲン化物
、チタンイソプロポキシドやチタンテトラエトキシド等のアルコキシドなどのT
i源を原料に加え、同様にして得られる。オートクレーブでの反応時間は、必要
に応じて長くしてもよい。
得られたTi及び/またはB置換ゼオライトがBEA型結晶構造を持っている
かどうかは、X線回折により、容易に判断できる。
ここで、Ti置換BEA型ゼオライト中のSiO2/TiO2比(モル比、以下
同じ)は20乃至200が好ましい。SiO2/TiO2比を20より小さくしよ
うとするとゼオライトの結晶性が低下し、また、SiO2/Al2O3比を上げら
れず、また、200を越えるとTi置換の効果が殆どなくなる。また、B置換B
EA型ゼオライト中のSiO2/B2O3比(モル比、以下同じ)も、同様な理由
から20乃至500が好ましい。
本発明による触媒では、上記の結晶性メタロシリケートに、少なくともCoを
イオン交換により担持する。イオン交換は、常套的な方法でよく、例えば、プロ
トン型、Na型またはアンモニウム型メタロシリケートをCoの水溶性塩をイオ
ン交換当量かもしくは若干過剰量溶解する水溶液に懸濁し、常温から80℃程度
に保ち、1時間乃至3日間程度イオン交換を行い、水洗、乾燥の後、400℃乃
至750℃で焼成すればよい。結晶性メタロシリケートが拡散性のよい細孔構造
を持っているためイオン交換は比較的容易に行える。従って、なるべく低い温度
で、なるべく低濃度の水溶液を用いた方が、Coが凝集したりせずに確実にイオ
ン交換サイトに担持されるので好ましい。
金属の担持量は、イオン交換率にして40%から120%の間が好ましい。こ
こで、イオン交換率とは、交換しうる陽イオンのモル数に価数を掛けて合計した
イオン交換容量に対する、担持した金属のモル数に金属イオンの価数を掛けて合
計した値の百分率である。イオン交換率がこれより少ないと活性が十分ではなく
、これより多いと細孔の空隙を狭めてしまうだけでなく、金属が凝集しやすくな
るので好ましくない。Bを置換したBEA型ゼオライトについては、Co/Al
比にして0.2から0.6の間が好ましい。
本発明の触媒は、アルカリ土類金属などの助触媒やバインダーを加えてもよく
、ペレット状、ハニカム状に成型されていてもよく、また、耐火性ハニカム担体
にウォシュコートされた形態であってもよい。本発明の触媒を用いれば、酸化活
性の低い金属イオンを高分散担持できるので、高いNOx還元の選択性が得られ
る。加えてこのメタロシリケートは拡散に適した細孔構造を有しているので、水
蒸気やSOxなどが存在する実際の排ガス雰囲気でも細孔の奥に存在する金属イ
オン状の活性点に反応物が到達し得るので高いNox還元活性が得られる。即ち
、本発明触媒は低温活性が高く、なおかつ高温での選択性も低下しないことから
、幅広い温度域で高い脱硝率が得られ、さらに、部分的な細孔の閉塞に対しても
多くの拡散性のよい迂回路が確保されているため、高い耐久性が得られる。さら
に、B置換ゼオライトの場合には、水蒸気の存在下でもメタンにより効果的にN
Oxを選択的に還元することができる。
本発明のNOxの還元方法は、過剰な酸素と炭化水素を含む排ガス中のNOx
を、触媒を用いて炭素数2以上の炭化水素により選択的に還元する方法であって
、
上記で得られる、Coをイオン交換担持した結晶性メタロシリケートを含む触媒
であって、該結晶性メタロシリケートが、断面が酸素8員環以上の大きさである
直線状の細孔を少なくとも二つの異なる次元方向に持ち、該細孔が酸素8員環以
上の空孔で互いに連絡されており、かつ、少なくとも一つの方向の直線状の細孔
は酸素10員環以上の断面を有するような結晶性メタロシリケートである触媒を
用いることを特徴とするNOxの還元方法である。
また、本発明によるNOx還元方法の別の態様は、触媒として、上記で得られ
る、Siの一部をTiで置換し、及び/または、Alの一部をBで置換したBE
A型ゼオライトに、Co/Al比が0.2乃至0.6となるようにCoをイオン
交換担持してえた触媒を用いることを特徴とするNOxの還元方法である。
かかる還元方法は、NOx並びに過剰酸素、炭化水素を含む排ガスを上記の触
媒に接触させることにより行われる。その還元条件は、Coをイオン交換担持し
た結晶性メタロシリケートを含む触媒であって、該結晶性メタロシリケートが、
断面が酸素8員環以上の大きさである直線状の細孔を少なくとも二つの異なる次
元方向に持ち、該細孔が酸素8員環以上の空孔で互いに連絡されており、かつ、
少なくとも一つの方向の直線状の細孔は酸素10員環以上の断面を有するような
結晶性メタロシリケートである触媒を用いる限り、特に制約はない。使用される
温度としては、300℃乃至600℃、好ましくは、350℃乃至500℃、G
HSV(gaseous hourly space velocity)2000乃至100000、好まし
くは5000乃至30000で使用される。温度が300℃より低いと触媒の活
性が十分ではなく、600℃より高いと劣化を早める原因になる。また、GHS
Vが2000未満であると圧損が大きくなり、100000を越えると脱硝率が
低下する。
本発明でNOx還元に用いる炭素数2以上の炭化水素としては、エチレンなど
のオレフィンやプロパンなどのパラフィンなど、幅広い炭化水素をさすが、好ま
しくは、炭素数2乃至5の脂肪族炭化水素である。芳香族炭化水素は、本発明の
触媒の炭化水素の酸化活性が高くないためあまり有効ではなく、炭素数が6程度
以上の脂肪族炭化水素は、そもそも炭化水素自体の拡散速度が遅いために本発明
の特徴があまり生かされない。
一方、B置換したBEA型ゼオライトを用いた触媒を使用する、本発明の別の
態様では、炭化水素としてメタンもNOx還元に有効に利用できる。
排ガス中のNOx濃度は、特に制限はないが、通常、10ppm乃至5000
ppmに対し、NOxの還元に必要な炭化水素濃度は、メタン換算(THC)に
して、NOx濃度の1/2乃至10倍の濃度、即ち、5ppm乃至5%であり、
排ガス中に存在する炭化水素では足りない場合、所望の還元率に応じて、炭化水
素を排ガスに注入してもよい。本発明によるNOx還元方法では、細孔内拡散が
容易となる触媒を用いているので、拡散が不利になる低NOx濃度の条件でも高
いNOx転化率が得られる。本発明によるNOx還元方法の別の態様では、拡散
性のよいBEA型ゼオライトをベースにした触媒を用い、置換されたTiやBの
効果により炭化水素の活性化が促進され、低温でのNOx還元活性が向上し、さ
らに、B置換の場合には、水蒸気の存在下でもメタンにより効果的にNOxを選
択的に還元することができる。
排ガス中の酸素濃度は、極端に少ないと反応の第一段階であるNOの酸化反応
が起こらないので、0.5%以上含まれていることが好ましく、3%以上含まれ
ていることがより好ましい。酸素濃度の上限は特にないが、空気より濃い濃度で
は、予期せぬ爆発的な燃焼が起こる可能性があるので好ましくない。しかし、本
発明による触媒では、炭化水素の酸化活性の低いCoイオンが長時間高分散に担
持されているので、酸素濃度が上がっても選択性は殆ど低下しない。
また、排ガス中には、その他の成分、即ち、H2O、CO2、CO、H2、SO
x等を含んでいてもよいが、本発明によるNOxの還元方法では、特に、水蒸気
やSOx等、炭化水素による選択還元反応で一般に反応阻害の原因になっている
と言われている物質を含む排ガスに適している。また、本発明による還元方法で
は、炭化水素として、炭素数4以下の炭化水素が、メタン換算で全体の炭化水素
の90%以上を占めるような、天然ガスの燃焼排ガス中のNOxの還元にも適し
ている。また、B置換したBEA型ゼオライトを用いた触媒では、メタンも還元
剤として有効に利用されるので、メタン換算で全体の炭化水素の50%以上がメ
タンであるような天然ガスの燃焼排ガスの中のNOx還元に特に適している。
本発明による還元方法では、NOxの還元に炭化水素が用いられるために、炭
化水素も浄化されるが、COは浄化されないので、必要に応じて、本発明による
触媒後流側に酸化触媒を設置して残存するCOや炭化水素などを酸化してもよい
。
実施例
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明をより詳細に説明するが、本発明は
これらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
米国特許3308069号に開示されるように、SiO2/Al2O3比が約4
0となる様な比で、アルミン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、シリカゾル、水
酸化テトラエチルアンモニウム及び水を撹はんしながら混合し、オートクレーブ
中で160℃で20時間加熱することにより、結晶化させた。得られた固形物を
濾別、水洗、150℃で乾燥の後、550℃で5時間焼成して調製した。得られ
たBEA型アルミノシリケート(以下BEAゼオライトと呼ぶ)のSiO2/A
l2O3比は44.08であり、結晶の1次粒子の平均直径は、約0.05μmで
あり、さらに微結晶が凝集して約0.6μmの2次粒子を形成していた。
得られたBEAゼオライト(プロトン型)12gを0.2M酢酸コバルト水溶
液65mlに懸濁し、60℃で5時間イオン交換を行い、濾別、水洗の後、再度
同様にしてイオン交換を繰り返した。得られたCoイオン交換ゼオライトは、水
洗、乾燥の後、空気中、550℃で5時間焼成し、Co−BEA(1)触媒を得
た。得られた触媒のCo含有量は2.22重量%であり、Co/Al比は0.5
5、イオン交換率は110%であった。
実施例2
SiO2/Al2O3比18.87のBEAゼオライトは、米国特許33080
69号に開示される方法で調製した。得られたBEAゼオライトの結晶の1次粒
子の平均直径は、約0.1μmであり、さらに微結晶が凝集して約0.3〜0.
6μmの2次粒子を形成していた。得られたBEAゼオライト(プロトン型)2
0gを、2gの酢酸コバルト(Co(CH3COO)2・4H2O)を溶解する
180mlの水溶液に懸濁する以外は実施例1と同様にして、Co−BEA(2
)触媒を得た。得られた触媒のCo含有量は4.01重量%であり、Co/Al
比は0.54、イオン交換率は108%であった。
実施例3
SiO2/Al2O3比36.3のMEL型アルミノシリケート(以下MELゼ
オライトと呼ぶ)は、米国特許3709979号に開示される方法で調製した。
得られたMELゼオライトの結晶の1次粒子の平均直径は、約0.05μmであ
り、さらに微結晶が凝集して約0.2〜1.3μmの2次粒子を形成していた。
得られたMELゼオライト15gを105mlの酢酸コバルト水溶液に懸濁する
以外は実施例1と同様にして、Co−MEL触媒を得た。得られた触媒のCo含
有量は2.78重量%であり、Co/Al比は0.56、イオン交換率は112
%であった。
実施例4
米国特許3308069号に開示される方法で、SiO2/Al2O3=22.
3のBEAゼオライトを調製した。得られたBEAゼオライトの結晶の1次粒子
の平均直径は、約0.05μmであり、さらに微結晶が凝集して約0.2〜0.
6μmの2次粒子を形成していた。得られたBEAゼオライト(Na型)250
.14gを0.2M酢酸コバルト水溶液2lに懸濁する以外は実施例1と同様に
して、Co−BEA(3)触媒を得た。得られた触媒のCo含有量は3.0重量
%
であり、Co/Al比は0.40であった。
比較例1
UC社製のSiO2/Al2O3比4.8のFAU型アルミノシリケート(以下、
FAUゼオライトと言う)30gを500mlの酢酸コバルト水溶液に懸濁する
以外は実施例1と同様にして、Co−Y触媒を得た。得られた触媒のCo含有量
は8.2重量%であり、Co/Al比は0.32、イオン交換率は64%であっ
た。
比較例2
Norton社製のSiO2/Al2O3比11.2のMOR型アルミノシリケ
ート(以下MORゼオライトと呼ぶ)5gを0.03M酢酸コバルト水溶液50
0mlに懸濁してイオン交換操作を4回繰り返す以外は実施例1と同様にして、
Co−MOR(1)触媒を得た。得られた触媒のCo含有量は5.2重量%であ
り、Co/Al比は0.37、イオン交換率は74%であった。
比較例3
SiO2/Al2O3比35のMFI型アルミノシリケート(以下MFIゼオラ
イトと呼ぶ)は、英国特許1402981号に開示される方法で調製した。得ら
れたMFIゼオライト(Na型)20gを150mlの酢酸コバルト水溶液に懸
濁する以外は実施例1と同様にして、Co−MFI(1)触媒を得た。得られた
触媒のCo含有量は1.42重量%であり、Co/Al比は0.29、イオン交
換率は58%であった。
実施例5
上記実施例1から3及び比較例1から3で得られた触媒を錠剤に成型した後破
砕してふるいで1−2mmに整粒し、さらに500℃で9時間焼成した。この試
料4mlをSUS製反応管(内径14mm)に充填し、表1の組成の試験ガスを
毎分1リットル(GHSV=15000)流通させ、反応管出口のガス組成を化
学発光式NOx計及びガスクロマトグラフで測定した。
400℃及び500℃での、触媒活性(NOx転化率及びプロパン転化率)を
表2に示す。なお、ここで、NOx転化率およびプロパン転化率は、反応管入口
及び出口のNOxおよびプロパン濃度から、以下の式によって計算されたもので
ある。
表2から明らかなように、本発明に基づくCo−BEA(1)、Co−BEA
(2)及びCo−MELは400℃で高いNOx転化率を示しており、低温活性
が高いことがわかるが、500℃でもNOx転化率の低下は僅かであり、高温で
も高いNOx還元の選択性を有していることが分かる。
実施例6
Ti置換BEA型ゼオライトは、オルトチタン酸テトラエチルをTi源として
、SiO2/TiO2比100、SiO2/Al2O3比50となるような原料比で
、スペイン国特許2037596号公報に開示される方法と同様にして、130
℃で20日間反応混合物を撹はんし、濾別、洗浄、150℃で乾燥の後、空気中
550℃で焼成して調製した。得られたゼオライトは、X線回折から、結晶性の
高いBEA型ゼオライトであることが確認された。
得られたTi/BEAゼオライト(Na型)20gを2gの酢酸コバルト(C
o(CH3COO)2・4H2O)を溶解する水溶液300mlに懸濁し、50℃
で5時間イオン交換を行い、濾別、水洗の後、再度イオン交換操作を繰り返した
。得られたイオン交換ゼオライトは、水洗、乾燥の後、空気中、550℃で5時
間焼成し、Co−Ti/BEA触媒を得た。得られた触媒のSiO2/Al2O3
比は43.6、SiO2/TiO2比は98.27、Co含有量は1.76重量%
であり、Co/Al比は0.50であった。
実施例7
B置換BEA型ゼオライトは、ほう酸をB源として、SiO2/B2O3比25
、SiO2/Al2O3比30となるような原料比で、米国特許5110570号
公報に開示される方法と同様にして、170℃で4日間反応混合物を撹はんし、
濾別、洗浄、150℃で乾燥の後、空気中550℃で焼成して調製した。得られ
たゼオライトは、X線回折からBEA型ゼオライトであることが確認された。得
られたゼオライトのSiO2/B2O3比は437.6であった。
得られたB/BEAゼオライト(プロトン型)20gを0.2M酢酸コバルト
水溶液130mlに懸濁し、イオン交換を3回行う以外は、実施例5と同様にし
てイオン交換以降の操作を行い、Co−B/BEA(1)触媒を得た。得られた
触媒のSiO2/Al2O3比は28.96、Co含有量は2.73重量%であり
、Co/Al比は0.49であった。
実施例8
ほう酸をB源として、SiO2/B2O3比50、SiO2/Al2O3比28とな
るような原料比で、米国特許5110570号公報に開示される方法と同様にし
て、175℃で4日間反応混合物を撹拌し、濾別、洗浄、120℃で乾燥の後、
空気中550℃で焼成して、B置換BEA型ゼオライトを得た。得られたゼオラ
イトは、X線回折からBEA型ゼオライトであることが確認された。得られたゼ
オライトのSiO2/B2O3比は136.7であった。
得られたB/BEAゼオライト(Na型)24.4gを、4.36gの酢酸コ
バルトを溶解する水溶液200mlに懸濁し、60℃で5時間イオン交換を行い
、濾別、水洗の後、再度イオン交換操作を繰り返した。得られたイオン交換ゼオ
ライトは、水洗、乾燥の後、空気中、550℃で5時間焼成し、Co−B/BE
A(2)触媒を得た。得られた触媒のSiO2/Al2O3比は27.6、Co含
有量は2.64重量%、Co/Al比は0.50であった。
比較例4
BEA型ボロシリケートは、ほう酸をB源としてSiO2/B2O3=5となる
ように原料に加え、米国特許5110570号公報に開示される方法と同様にし
て、150℃で2日間反応混合物を撹はんし、濾別、洗浄、120℃で乾燥の後
、空気中550℃で焼成して調製した。得られたボロシリケートは、X線回折か
らBEA型シリケートであることが確認された。得られたボロシリケートのSi
O2/B2O3比は23.9であった。
得られたBEA型ボロシリケート(Na型)12gを0.2M酢酸コバルト水
溶液100mlに懸濁する以外は実施例8と同様にしてイオン交換以降の操作を
行い、Co−BSI触媒を得た。得られた触媒中のSiO2/B2O3比は40、
Co含有量は2.31重量%、Co/B比は0.52であった。
実施例9
上記実施例6から7及び比較例4並びに実施例1及び4で得られた触媒につい
て、表3に示す組成のガスを用いる以外は実施例5と同様にして、触媒活性を測
定した。結果を表4に示す。
表4から明らかなように、本発明の別の態様に基づくCo−Ti/BEA、C
o−B/BEA(1)は、対応するCo−BEA(1)、Co−BEA(3)よ
りも350℃〜450℃の低温で高いNOx転化率を示しており、骨格中でのT
iやBによる置換により、NOxが低い濃度でのNOx還元の低温活性が向上し
ていることがわかる。一方、Alを含まないCo−ボロシリケート触媒では、B
がイオン交換操作中に脱落しており、安定したイオン交換能を持っていないので
、BEA型の結晶構造を持っていてもCoを高分散担持できず、殆ど活性を示さ
ないことから、B置換結晶性シリケートにとってAlはNOx還元触媒に必要で
あることがわかる。
比較例5
比較例2と同じMORゼオライト15gを0.2M酢酸コバルト水溶液110
mlに懸濁する以外は実施例1とほぼ同様にして、Co−MOR(2)触媒を得
た。得られた触媒のCo含有量は4.41重量%であり、Co/Al比は0.3
6であった。
比較例6
SiO2/Al2O3比50のMFI(ZSM−5)型ゼオライトは、英国特許
1402981号公報に開示される方法で調製した。得られたMFI型ゼオライ
ト(Na型)10gを0.0073M硝酸コバルト水溶液1lに懸濁し、40℃
で24時間、さらに80℃でイオン交換を行い、濾別、水洗、乾燥の後、500
℃で5時間焼成し、Co−MFI(2)触媒を得た。得られた触媒のCo含有量
は1.9重量%であり、Co/Al比は0.53であった。
実施例10
実施例8及び比較例5から6で得られた触媒について、表5のガス組成の試験
ガスを用いる以外は実施例5と同様にして触媒のNOx選択還元活性を測定した
。
この時の触媒活性を表6に示す。CH4の転化率は、C3H8の転化率と同様
にして算出されたものである。参考として、Bを含まない触媒(Co−BEA(
Ref.))を全く同じ条件で試験した参考値(特開平7−513125号公報
記載の実施例13)も表6中に示した。
表6から明らかなように、米国特許5149512号公報に開示されるCo−
MOR(2)やCo−MFI(2)は、水蒸気が共存しない条件では高いNOx
転化率を示すが、水蒸気が共存すると活性が大幅に低下してしまうことがわかる
。一方、本発明によるCo−B/BEA(2)では、水蒸気の共存下でも高い活
性を示し、Bを置換していないCo−BEA(Ref.)よりも明らかに高い活
性を示している。
実施例11
米国特許3308069号に開示される方法で調製した、SiO2/Al2O3
比19.7のBEAゼオライト(Na型)15gを60mlの酢酸コバルト水溶
液に懸濁する以外は実施例1と同様にして、Co−BEA(4)触媒を得た。得
られた触媒のCo含有量は1.82重量%であり、Co/Al比は0.21、イ
オン交換率は42%であった。
この触媒を実施例5と同様にして活性を評価したところ、400℃でのNOx
転化率は66%であった。一方、希薄燃焼の天然ガスエンジン排ガスを模擬した
表7に示す組成の試験ガスを400℃で継続的に流通させる以外は実施例5と同
様にして触媒の耐久性を評価した結果を図1に示す。NOx転化率及びC3H8転
化率は、実施例5と同様に計算された値である。
図1から明らかなように、Co−BEA(4)触媒では、2000時間にわた
って60%以上の高いNOx転化率が安定して得られていることがわかり、本発
明による触媒では、初期の触媒活性だけでなく、水蒸気やSOxを含む条件下で
も耐久性も優れていることがわかる。
実施例12
実施例3で得られたCo−MEL触媒について、実施例11と同様にして耐久
性を評価した、500時間経過後には、活性は安定しており、50%前後のNO
x転化率が得られた。
比較例7
比較例2で得られたCo−MOR(1)触媒について、実施例11と同様にし
て耐久性を評価した結果、試験開始24時間後には著しく活性が低下し、NOx
転化率が20%を下回ったので、温度を450℃まで上げたところ、一時的に転
化率は上昇したが、低下傾向は変わらず、140時間経過後にはNOx転化率は
10%以下に低下した。従って、Co−MOR(1)触媒では、実用的な耐久性
は全くないことがわかる。
比較例8
比較例3とほぼ同様にしてCo−MFI(3)触媒(SiO2/Al2O3=5
0)を得た。得られた触媒のCo含有量は1.9重量%であり、Co/Al比は
0.53、イオン交換率は106%であった。
この触媒を実施例5と同様にして活性を評価したところ、400℃でのNOx
転化率は68%であった。しかし、実施例11と同様にして耐久性を評価したと
ころ、図2に示すように、時間と共に活性は大きく低下し、500時間後には、
NOx転化率は20%未満になった。このことから、Co−MFI(3)触媒で
は、初期活性はそこそこ高くても、実際の使用雰囲気での耐久性は十分ではない
ことがわかる。
比較例9
SiO2/Al2O3=22.3のBEAゼオライト(プロトン型)5gを0.
0035M酢酸銅水溶液1000mlに懸濁し、室温で18時間イオン交換した
後、水洗、乾燥し、空気中、500℃で9時間焼成してCu−BEA触媒を得た
。得られた触媒中のCu含有量は4.0重量%、Cu/Al比は0.53であり
、イオン交換率は107%であった。
この触媒について、温度を500℃とする以外は実施例11と同様にして耐久
性を評価したところ、図3に示すように、NOx還元の選択性は低く、600時
間経過後も活性低下傾向は止まらなかった。この活性及び劣化傾向は、本発明者
らが報告している(「Study on Surface Science and Catalysis」88巻、40
9頁)Cu−ZSM−5(Cu−MFI)触媒と同様であり、Cuイオンの凝集
が劣化の原因になっているものと考えられる。従って、Cuをイオン交換した場
合、BEA型では、MFI型に比べてNOx転化率の向上が期待できないだけで
なく、Cuイオンの凝集の抑止効果もないことがわかる。
実施例13
実施例4で得られた触媒について、試験ガスとして、表8の様な平均的な組成
の空燃比約1.4の天然ガス燃料コジェネレーションシステムの排ガスに、C3
H8をその濃度が1000ppmとなるように加えた試験ガスを毎分10リット
ル(GHSV=15000)、触媒40mlを詰めた反応チューブを流通させ、温
度を450℃とする以外は実施例11と同様にして、耐久性を評価した。結果を
図4に示す。
図4から明らかなように、エンジンの空燃比の変動により若干のばらつきがあ
るものの、実際のエンジン排ガスでも1500時間にわたって安定して60%以
上のNOx転化率を示しているのがわかる。
発明の効果
本発明による触媒では、炭化水素の酸化活性が低い金属を用いているので、高
いNOx還元の選択性が得られ、それらを高分散で担持しうる結晶性メタロシリ
ケートを担体として用い、しかも、その結晶性メタロシリケートが直線状の大き
な断面積の細孔を二つ以上の異なる次元の方向にもち、該細孔が互いに連絡して
いるので、細孔内の拡散が非常に速くなり、その結果、細孔の奥に存在する金属
イオン(活性点)も有効に利用されるので、低温でも高いNOx還元活性が得ら
れる。また、本発明によるNOxの還元方法では、上記のような触媒を用いてい
るので、広い温度範囲で高い脱硝率が得られ、しかも、NOx濃度が低い場合や
、水蒸気やSOx等の妨害物質の共存する場合など、細孔内拡散が不利になる条
件下でも高いNOx転化率が得られる。また、Bを置換したものでは、水蒸気共
存下でメタンによるNOxの選択還元が可能となる。
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(72)発明者 大塚 浩文
兵庫県芦屋市竹園町4−23
(72)発明者 ベッルッシィ,ジュセッペ
イタリア29100ピャチェンツァ、ヴィア・
ア・スコット44番
(72)発明者 サバティーノ,ルイジーナ・マリア・フロ
ーラ
イタリア20097ミラネーセ、サン・ドナー
ト、ヴィア・モランディ2/ビ番