【発明の詳細な説明】
セルロース押出物の製造法
本発明は、下記成分:
−セルロース、
−リン酸及び/又はその無水物、及び
−水、
を94〜100重量%含む光学的に異方性の溶液を押出し、次に、形成された
押出物を凝固させることによって、該溶液からセルロース押出物を作る方法に関
する。
そのような方法は、オランダ国特許出願No.9401351に基づく我々の係
属中の出願に開示されている。
冒頭で述べた溶液を押出し、そして凝固させて得られた繊維は、特に熱処理に
敏感であることが見い出された。たとえば、175℃で5分間の熱処理は、繊維
の破断強度を元の破断強度に比べて約80%低減しうることが見い出された。
熱処理に対する押出物の感受性は、押出物の後処理により大きく減少されうる
。本発明は、冒頭で述べたタイプの方法において、後処理後に押出物が少なくと
も7に等しい酸性度を持つように押出物を後処理することにある。
本特許明細書においては、定義により、溶媒は加えられたリン酸及び/又はそ
の無水物及び化学的に結合していない状態でその溶液に存在している総ての水か
らなるものと
する。そのような訳で、“他の成分”のうち、該溶液の製造中の任意の時点に加
えることができる物質に由来する水と同様に、一般に後の時点で加えられるセル
ロースに由来する水も、本明細書においては溶媒の一部である。
本発明において用語「リン酸」は総てのリンの無機酸(それらの混合物を包含
する)を意味する。オリトリン酸は5価のリンの酸、即ち、H3PO4である。そ
れと同等で水分を含まない化合物、即ち、無水物も5酸化2リン(P2O5)とし
て知られている。オリトリン酸及び5酸化2リンに加えて、系の水の量に応じて
オリトリン酸と5酸化2リンとの中間の水結合容量を有する一連の5価のリンの
酸が存在する。あるいは、例えば100%より低いオリトリン酸濃度を有するオ
ルトリン酸の溶媒を使用することが可能である。
リン酸とセルロースとのいくらかの反応により、溶液はセルロースのリン誘導
体を含み得る。これらのセルロース誘導体も溶液の94〜100%を成す成分に
属すると考えられる。本明細書で述べる溶液中のセルロースの重量%がセルロー
スのリン誘導体に関係する場合、それはセルロースの重量自体に基づいて計算し
た量である。同様のことは本明細書におけるリンの量についても言える。異方性溶液
リン酸溶液中、セルロース濃度8%において既に異方性が観察され、セルロー
ス濃度40%以上においてもまだ異
方性溶液が得られた。そのような高濃度の液は高い温度で調整されることが好ま
しい。セルロース濃度を8%より高く選択すると、溶液から製品をかなり経済的
に作ることが可能となる。よって、異方性セルロース溶液は、セルロース濃度を
約8%から40%の間で選んで作ることができる。これらの溶液から繊維を作る
のは、10%から30%、好ましくは12.5%から25%、より好ましくは1
5%から23%においてするのが最も適している。本溶液の異なる用途において
は、他の範囲が最適であり得る。
それを用いて本発明に従った異方性溶液が得られる溶媒系を得るためには、溶
媒中のリンの重量を対応する無水物の等価重量に換算して定められる。このよう
に変換すると、オリトリン酸は72.4%の5酸化2リンと残量の水とになり、
ポリリン酸H6P4O13は84%の5酸化2リンと残量の水とになる。
溶媒中のP2O5の濃度は、溶媒中のリンの無機酸及びその無水物と、水の全量
から出発して、酸を水とP2O5に換算し、該合計重量の何%がP2O5から成るか
を計算して得られる。他のリン酸が使用された場合も、対応する無水物への換算
は同様にして行われる。
リンの系が5価のリンの酸を含むときは、異方性の溶液を調製するための溶媒
は、65〜80重量%、好ましくは70から80重量%の5酸化2リンを含む。
本発明における最も好ましい実施態様では、8から15重量%のセルロースを含
む異方性溶液を調製するのに、71から75重
量%の5酸化2リンを含む溶媒が使用され、15から40重量%のセルロースを
含む異方性溶液を調製するのに、72から79重量%の5酸化2リンを含む溶媒
が使用される。
水、リン酸及び/又はその無水物、セルロース、及び/又はリン酸とセルロー
スの反応生成物に加えて、他の物質も溶液に存在させることができる。例えば、
4つのグループに分類できるところの成分:セルロース、水、リンの無機酸なら
びにその無水物、及び他の成分、を混合して溶液を調製することができる。“他
の成分”は、セルロース溶液の加工性をよくするもの、リン酸以外の溶媒、又は
、添加物、例えばセルロースの減成をできる限り防止するためのもの、又は色素
のようなものであってもよい。
本発明に従う溶液はセルロース、リン酸及び/又はその無水物及び水の94〜
100重量%から成る。好ましくは、セルロース、リン酸及び/又はその無水物
及び水の96〜100重量%から成る。補助剤又は添加物は溶液全重量から計算
して、ただ0から4重量%存在することが好ましい。より好ましくは、セルロー
ス、リン酸及び/又はその無水物及び水以外の物質の量はできるだけ低く、すな
わち、添加物量は0から1重量%である。異方性溶液の調製
ロシア共和国特許SU 1348396号及びSU 1397456号は、リ
ン酸中のセルロース溶液の調製例をいくつか提供している。均一な溶液を得るた
めには、全部
で2から400時間を要する。さらに、溶液調製中に急激で制御されないセルロ
ースの重合度の減少が起きることが見い出された。
本発明に従った溶液を、工業的規模で作るときは、溶解に長時間を要するのは
、その際に必要な貯蔵/溶解タンクの大きさを考慮すると、望ましくない。さら
に溶解に長時間を要することはその溶液の連続的製造を妨げる。さらに、急激で
制御されないセルロースの重合度の減少は、その溶液をその後使用する際、例え
ば、セルロース繊維を作る場合などには不都合と成り得る。調製段階における、
この制御されないセルロースの重合度の減少は、かなり一定の質の溶液を作るこ
とを、特に溶液調製に種々のセルロースを用いる場合には、より困難にする。
前述した特許刊行物から、主としてリン酸を含む溶媒にセルロースを溶解する
のに長時間を要するのは明らかである。
米国特許US 5,368,385号は水に非常に溶解し易いポリマーの水への溶解は
、形成されたポリマーの塊の濡れた表面上に、不透過性の層が形成されることに
よって、ひどく妨げられることを開示する。いかなる理論にも縛られることを望
まず、出願人は、US 5,368,385号の開示と同様に、リン酸にセルロース粒子
を溶解する間、使用したセルロースの外層は、比較的速く溶解して不透過性の層
を形成すると考える。この不透過性の層こそが、それに包まれるセルロースの溶
解の進行を妨げ/遅くする。この問題を解決す
るいくつかの答が見出だされた。
一つの答は、セルロースと、リン酸を含む溶媒との非常に速く、十分な混合に
存在し、混合操作は望ましくは、セルロース片の周囲に不透過性のあまりにも厚
い層が厚く形成されて溶解の進行を大幅に遅らせるようになる前に、セルロース
粒子を溶媒中に与えるような混合操作である。不透過性の層が形成される速さ、
換言すれば、セルロースがリン酸を含む溶媒に溶解する速さは、セルロースが溶
媒と接触する温度を下げることに拠って、減少させることができる。溶媒中にセ
ルロースの粒子がある場合、該セルロース粒子は、ミクロンスケール、例えばセ
ルロース小繊維の形であることが好ましく、これらの小片は短時間に溶解して、
セルロースとリンの無機酸とを含む溶液を与える。他の答えは、セルロース上に
形成される不透過性の層が、とても規則正しくセルロースから除去されるような
方法で、リン酸を含む溶媒との混合の間にセルロースを処理することである。
セルロースとリン酸を含む溶媒との混合は、溶媒中のセルロースが小片である
方が速く進行する。このために、セルロースは溶媒と混合される前に、例えば粉
状にする等、予め粒子にしておいてもよい。代わりに、セルロースと溶媒の相互
の混合だけでなく、混合物中のセルロース片を小さくするような装置でセルロー
スと溶媒とを混合させてもよい。
セルロースとリン酸を含む溶媒から、セルロースを含む
溶液を調製するときは、セルロースと溶媒とを一緒にする段階に加え、3つの段
階が区別できる,すなわち:
1 セルロースの大きさを減少する、
2 セルロースとリン酸を含む溶媒とを混合する、
3 セルロースを溶媒に溶解する。
セルロースのリン酸を含む溶媒への溶解速度が与えあれると、段階2と3とは
分離して考えることはできない。セルロースと溶媒とが混合されると、セルロー
スの溶媒への溶解も起きる。上述したように、セルロースの溶解は、温度を低下
することにより遅くすることができる。段階1は段階2及び3から分離すること
ができる。その例として、粉状セルロースとリン酸を含む溶媒からの溶液の調製
が挙げられる。
上述したように、溶媒の存在下でセルロースを小さくし、混合することができ
る一つの装置で、セルロースを小さくし、混合し、溶解することによって3つの
総ての段階を結合することも可能である。特にセルロース溶液を経済的に魅力あ
る規模で製造すべきときに、上述の3つの段階を一の装置中で結合することは、
特にセルロース溶液を連続的にそのような装置中で製造すること、すなわち、多
少とも一定の流れで出発原料を該装置に投入し、同時に、該装置から多少とも一
定の流れでセルロース溶液を取り出す調製プロセスが可能であると判明したとき
には、好都合である。
本発明に従う溶液は、セルロースとリン酸を含む溶媒とが装置(当該装置のミ
キサーおよびニーダーが生み出す剪
断力が、加えられた一以上の成分を強力に混合するような装置)で混合されれば
作ることができることが見い出された。好ましい実施態様において本発明に従っ
た方法の実施のために使用される混合および混練装置は、高剪断混合機である。
高剪断混合機の例として当業者に知られているものには、Linden-z ニーダー、
IKA 2連式ニーダー、Conterna ニーダー又は2軸押出機がある。
大変適した実施例では、粒子サイズを小さくすることができる装置が使用され
る。高剪断混合機のうち粒子サイズを小さくすることができる装置として2軸押
出機が好ましい。混合、混練および粉砕ユニット及びそれらの2軸押出機軸上の
配列を適切に選ぶことにより、多くの異なった形態のセルロース、例えば、シー
ト、ストリップ、スクラップ、チップ、及び粉のサイズを必要に応じて小さくし
、溶媒中へのセルロースの溶解が、不透過性の層の形成によりかなり遅らされる
前に、リン酸を含む溶媒と完全に混合させることができる。
リン酸を含む溶媒とセルロースとが、ミキサー又はニーダー中で一緒にされた
後に、セルロースと溶媒とが混合され、セルロースの溶解が起きる。混合の度合
いは、セルロースの溶解がセルロース上での不透過性の層の形成により、あまり
にも遅らされない程度でなければならない。セルロースの溶解は温度を下げるこ
とにより遅らせることができる。一つの好都合な方法は、セルロースと溶媒とが
合わされ混合される装置の部分の温度が30℃未満、好まし
くは0℃から20℃、であるような装置中でセルロースと溶媒とが合わされるこ
とを含む。他の好ましい実施態様では、溶媒が、セルロースと合わされる前に温
度が25℃より低くなるように冷却される。この場合溶媒は、固体または液体状
であることができる。セルロースと合わされる前に溶媒を冷却して、小片の固体
溶媒とすることもできる。
他の好都合な実施態様では、溶媒の初めの一部分がセルロースと混合され、そ
の後残りの溶媒が一以上の段階で、生成した混合物/溶液に添加される。
好都合な方法としては、混合及び混練の間、出発物及び生成された溶液が、装
置の開口部(そこで溶媒とセルロースとが合わされる)から、溶液が装置から排
出されるところの他の開口部へと運ばれるように作られた装置を用いる方法であ
る。このような装置の例としては、Conterna ニーダー、2軸押出機、Linden-Z
ニーダー、及びBusch コーニーダーが含まれる。
好ましい実施態様においては、搬送システムを有する混合及び混練装置として
2軸押出機が使用される。そのような装置では、装置内で製品が通過するいくつ
かの異なるゾーンが有る。最初のゾーンでは、供給されたセルロースの溶媒との
混合及びサイズの減少が主として行なわれる。次のゾーンでは、セルロースの溶
解が主となる。続くゾーンでは、主として製造された溶液が保持され、一層の均
質化及び未溶解のセルロースとの混合に供される。
そのような装置では、セルロースの溶解及び生成された
溶液の特性が、種々のゾーンについて選択された温度の影響を受ける。最初のゾ
ーンの温度として30℃より低温、好ましくは0℃から20℃、を選ぶとセルロ
ースの溶解を遅くすることができる。温度を上昇することにより、例えば次のゾ
ーンなどで、セルロースの溶解は速くなる。ここで、熱はセルロースの溶解の間
、ならびに、溶媒とセルロースを一緒にしたときに発生することに留意すべきで
ある。
主としてセルロースを溶液で保持する混合及び混練装置のゾーンの温度及び滞
留時間を選択することによって、セルロース溶液の重合度を制御できる。一般に
、温度が高くその温度での滞留時間が長いと、セルロース重合度の減少が大きい
。加えて、出発物質の重合度も、ある特定の温度及び滞留時間における重合度の
減少に影響を与える。
装置内の製品と装置自体との熱交換は、概して理想的でないから、装置内の製
品と装置自体とで温度の差がある。
装置は、生成された溶液を脱気する、例えば溶液を減圧されたゾーンを通して
脱気するところのゾーンを有することができる。さらに、このゾーン又は別個の
ゾーンで、水または他の成分を溶液から抜き出しあるいは溶液に添加してもよい
。
溶液から、溶解せずに残留している小さい粒子を除くために、装置内で又は装
置から排出された後に濾過してもよい。得られる溶液は非常に粘性である。それ
は直ちに使用し得るが、低い温度、例えば−20℃から10℃で、いく
らかの時間保存することができる。一般的に溶液を長時間保存することが必要な
ときは、より低い温度でなければならない。暫くの間低温で保存すると、溶液は
固体状になる(例えば結晶化により)ことに注意すべきである。当該固体の塊は
、加熱により、再び高粘性液体を与える。
上記の方法に拠れば、短時間で、セルロースの減成を制御してセルロース溶液
を調製できる。例えば、粉状セルロースと、リン酸を含む溶媒から、15分また
はそれより短い時間でセルロース溶液を作れることが分かった。当該時間は、溶
液調製のためにより高い温度を選ぶことにより、さらに短縮できる。
本発明に従った溶液は、入手可能な総てのタイプのセルロース、例えば Arboc
ell BER 600/30,Arbocell L 600/30,Buckeye V5,Buckeye V60,Buckeye V65,Visc
okraft,麻繊維、亜麻繊維、ラミー繊維及びユーカリ樹セルロース等の総て当業
者に知られたもの、を用いて作ることができる。セルロースは広い範囲の形状、
例えばシート、ストリップ、スクラップ、チップ、又は粉状で添加する事ができ
る。このセルロースが添加されるときの形状は、混合及び混練装置への導入によ
り制約される。仮に装置に導入できない形状のセルロースを用いるときは、公知
の方法、例えばハンマーミル又はシュレッダーなどにより、装置の外で細かくし
なければならない。
使用するセルロースは、α含有量が90%より大きい、より詳細には95%よ
り大きいことが望ましい。溶液から
良い繊維を紡糸するためには、工業用及び繊維製品用の繊維の製造に一般的に用
いられているような、α含有量が高いいわゆる溶解パルプを使用することが推奨
される。好適なセルロースとしては、Arcobell BER 600/30,Buckeye V60,Buckey
e V65,Viscokraftが含まれる。本明細書において後述する方法で定められるセル
ロースの重合度(DP)は、250から1500、より詳細には350から13
50の範囲であることが好都合である。溶液中のセルロースの重合度は、215
から1300、より詳細には325から1200の範囲であることが好ましい。
市販されているセルロースは一般的にいくらかの水を含んでいるが、そのままで
使用することに特に問題は無い。もちろん乾燥セルロースを使用することも可能
であるが、必須では無い。
酸の望ましい無水物換算量を有する溶媒を得るために、異なる種類の無機リン
酸の混合物を用いるときは、酸を混合した後に、30℃から80℃に加熱し、溶
媒を1/2〜12時間加熱された状態に維持することが望ましい。いくつかの場
合、使用する酸に依存して、他の時間及び/又は温度が好ましいであろう。例え
ば、大変均質で表面不規則のない溶液は、オルトリン酸を約40℃から60℃の
範囲に加熱して溶融し、所望量のポリリン酸を加え、2成分を混合し、混合物を
約20℃に冷却して得られた溶媒を用いて作られる。
適した方法に従えば、溶媒は暫くの間、例えば30分から数時間の間、セルロ
ースと合わされる前に放置される。
他の成分は、セルロースと合わされる前に、溶媒に添加することができる。あ
るいは、溶媒と合わされる前にセルロースに添加してもよい。また、溶媒がアセ
ルロースと合わされるときに、他の成分を加えることもできる。加えて、他の成
分は溶媒とセルロースとが合わされた後に添加することもできる。
溶液を保存する時間、温度、及び、酸の濃度はすべて、溶液中のセルロースに
結合したリンの量に大きな影響を与えることが分かった。リンは、十分な洗浄及
び任意の中和処理の後に凝固された溶液がなおリンを含んでいると判った場合に
は、セルロースに結合して存在していると推定される。本発明に従った溶液であ
って、80重量%のオルトリン酸および20重量%ポリリン酸を含む溶媒にセル
ロースを溶解して得られる18重量%のセルロースを含む溶液は、30℃で1時
間保存後、約0.25重量%の結合リンを含むことが分かった。しかし、その溶
液が50℃で保存されたときは、1時間後に約0.8重量%の結合リンを含む。
本発明に従う溶液は、どんな場合でも、セルロースに結合した少なくとも0.
02%のリンを含んでいることが見い出された。セルロースの添加の直前に、セ
ルロースの添加と同時に、又はセルロースの添加の直後に、少量の水を溶媒に加
えると、セルロースに結合したリンの量が低い溶液が得られることが分かった。
得られた溶液は種々の用途に使用できる。例えば溶液は、
工業用及び繊維製品用の繊維、ホローファイバー、膜、不織布、フィルム、及び
セルロースを含む溶液の用途としてよく知られた他の用途に用いることができ、
さらに該溶液はセルロース誘導体を製造するのにも使用できる。異方性溶液の紡糸
得られた溶液は、所望の数のオリフィスを有する紡糸口金から紡糸して、すなわ
ち押し出すことができ、あるいは、フィルムへと成形できる。セルロース濃度1
5から25重量%の紡糸溶液は、0℃から75℃の温度で、かつ温度が高ければ
高いほど滞留時間をできるだけ短くして、押し出すのが好ましい。それらの溶液
は20℃から70℃、より詳細には40℃から65℃の間で押し出されるのが好
ましい。他の濃度においては、より高濃度では上記範囲よりも高い温度で紡糸す
るのが、とりわけ溶液粘度が高くなるのを補償するために好ましく、その逆も成
立する。しかし、紡糸温度が高いと、セルロースに結合したリン濃度も高くなる
ことに注意すべきである。
紡糸口金のオリフィスの所望の数は、製造する繊維の用途に依存する。よって
、単一の紡糸口金が、モノフィラメントの押出しだけでなく、実際上より必要と
される30から10000、好ましくは、100から2000フィラメントを含
むマルチフィラメント糸を押し出すのにも使用してよい。そのようなマルチフィ
ラメント糸の製造は、EP168876号に記載されている多数の紡糸オリフィ
スク
ラスターを含む、クラスター紡糸アセンブリ、又はWO95/20696号に記
載されている紡糸口金を用いて行うことが好ましい。
押出しに続いて、押出物はエアギャップを通過され、エアギャップの長さは工
程条件、例えば、紡糸温度、セルロース濃度及び押出物の延伸度等、に依存して
選ばれる。一般にエアギャップは4から200mmの長さ、好ましくは10から
100mm、を有する。次に、得た押出物は、凝固浴を自体公知の方法で通され
る。適した凝固剤として、セルロースを膨潤しないような低沸点の有機溶媒、水
又はそれらの混合物を選択できる。そのような適した凝固剤の例としては、アル
コール類、ケトン類、エステル類、及び水又はそれらの混合物が含まれる。イソ
プロパノール、n−プロパノール、アセトン、ブタノンは、とても良い凝固作用
を示し、大抵の場合、安全性及び取扱易さの点で優れた特性を有するので、凝固
剤として用いるのが好ましい。この理由から、水とこれらの凝固剤との混合物も
大変重宝である。
凝固浴は、−40℃(選択した凝固剤が許容するとすれば)から30℃の範囲
であるのが好ましく、非常に好ましい結果は20℃より低い凝固浴温度で得られ
ている。
凝固の後は、中和処理と共に、あるいはそれ無しに、洗浄してよい。該洗浄は
、凝固した糸の糸巻きを、洗浄剤を入れた容器に漬けて、あるいは繊維を適切な
液体を入れた浴を連続して通してローラーに巻き取ることによって、行
われる。実際上、大変適した方法に従えば、洗浄はいわゆる、ジェットウォッシ
ャー、例えば英国特許 GB 762,959号に記載されているような、が使
用される。セルロースを膨潤しない、低沸点の有機溶媒、たとえばアルコール類
、ケトン類、エステル類、及び水又はそれらの混合物は洗浄剤として使用できる
。イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノン、水又はそれらの混合物を洗
浄剤として使用するのが好ましい。大変適しているのは、水又は水と凝固剤との
混合物である。洗浄は、洗浄剤の沸点より低い、いかなる温度において、いずれ
の場合でも好ましくは100℃より低い温度、において行うことができる。
本発明に従った溶液が長期間または高温で保存されたときは、溶液を水浴中で
凝固し、又は凝固後、繊維を水洗浄すると、繊維が水と接触してかなり膨潤する
ために、エアギャップ紡糸法では紡糸できないことが見出だされた。
水浴での凝固の間に、又は水浴中での洗浄の間に、繊維に吸収された水の量が
、乾燥繊維重量に対して560%より高いと、バンドルのなかの個々の繊維はも
はや区別されえないことが見い出された。水の吸収量が1300%より高いと、
ゲル化を起こす。好ましい機械特性を有する繊維を得るためには、繊維の水の吸
収量が570%より少ないことが望ましい。セルロースに結合したリンの量が少
ないと、水の吸収量も少ないことが分かった。本発明に従った溶液が、3重量%
より少ない結合リンを含み、溶液が10重量%より少ない水を有する浴、例えば
アセトン凝固浴で
凝固されて、繊維が水浴で洗浄されたときは、バンドルのなかの個々の繊維を未
だ明瞭に見分けることができた。さらに、溶液が、1.3重量%より少ない結合
リンを含み、溶液が水中で凝固されたときは、バンドルのなかの個々の繊維は水
洗浄中においても未だ明瞭に見分けることができた。好ましい機械特性を有する
繊維を得るためには、溶液は0.8重量%、より詳しくは、0.5重量%、より
少ない結合リンを含むことが望ましい。
中和処理は、洗浄工程の直後または、凝固と洗浄との間に行うことができる。
これに代えて、中和工程を洗浄後に行い、再度の洗浄を続けて行うこともできる
。別の方法は、中和工程を行う前に、凝固と洗浄の後にヤーン(糸)を乾燥する
ことである。経済的に有利な方法では、中和はヤーンの洗浄の後に行われる。上
記方法で得られ、そして酸性度が7未満であるように洗浄及び中和された繊維は
、175℃で5分間の熱処理の間に、繊維の酸性度がより低い場合よりも顕著な
破断強度の低下を示すであろうことが見い出された。Na2CO3、NaHCO3またはNaOH
の水溶液は、7以上、より特には8以上の酸性度を有する押出物を得るために中
和剤として用いるのに極めて適していることが見い出された。押出物の熱処理に
対する最低の感受性は、9以上の酸性度に関して見い出された。押出物は、バッ
チ法で、たとえばそのような溶液への浸漬により、または連続法で、たとえばそ
のような溶液を含む浴に通すことにより、あるいはたとえばジェットウオッシャ
ー、洗浄プレートま
たはスティックアプリケーターを用いて、噴霧又はキスロールにより押出物にそ
のような溶液を施与することにより、中和されうる。
本発明に従う溶液が、単一の生産ラインで、連続プロセスで調製及び紡糸でき
ることは、特に優れた点である。さらに、それから製品を作る際、特にリン酸、
水及びセルロース以外の成分を用いない時に、セルロースとリン酸とがほとんど
反応せず、従って、セルロースの再生が全く、またはほとんど必要無い点も好都
合である。
このようにして、大変好都合な方法で、特に機械的負荷がかかるゴム製品、例
えば乗物のタイヤ、コンベアベルト、ゴムホース等、に用いるのが適しているセ
ルロース繊維が得られる。該繊維は特に乗物のタイヤ、例えばトラックのタイヤ
等、の強化に適している。本発明に従い溶液を紡糸して得られた繊維は動的圧縮
負荷に対する十分な抵抗を示すことが見出だされた。この抵抗値は溶液中のセル
ロースに結合したリンの量が少ない程増加することが分かった。この抵抗値は、
例えばいわゆるGBF(Goodrich Block Fatigue)試験によって測定できる。
一般に、今回見出だされた繊維は工業用繊維、例えばナイロン、レイヨン、ポ
リエステル及びアラミドの好適な代替品になる。
さらに当該繊維はパルプにすることができる。該パルプは、他の材料、例えば
カーボンパルプ、ガラスパルプ、アラミドパルプ、ポリアクリロニトリルパルプ
と混合してあ
るいは混合せずに、例えばアスファルト、セメント及び/または摩擦材料中にお
いて、強化材料として用いるのに適している。異方性溶液から紡糸した繊維の特性
得られるセルロス繊維は、大変良い機械特性、例えば強度、ヤング率、及び好
ましい伸び率を有する。溶媒がセルロースとほとんど反応しないので、セルロー
ス構造から得られる特性、例えば鎖弾性率などが維持されている一方で、溶液の
異方性により多くの機械的用途に必要な特性を達成することが可能となっている
。
繊維のこれら特質は、繊維を技術的用途に特に適しているものとする。本発明
に従った溶液を使用すると、技術用途で用いられた従来のセルロース繊維、例え
ばいわゆるビスコース法で得られるCordeka 660(商標)及びCordeka 700(商標
)、の特性よりもはるかに優れた特性のものが得られる。
本発明の溶液を使用すると、破断強度が700mN/texより高く、より詳
細には、850mN/texより高く、2%未満の伸び率での最大弾性率が少な
くとも14N/texであり、かつ破壊時の伸び率が少なくとも4%、より詳細
には6%より大きい、セルロース繊維が得られる。
紡糸液及び凝固剤の性質により、繊維が水中で凝固されたときは、0.02か
ら1.3重量%、水を含まない凝固剤で凝固され、水で洗浄されたときは、0.
02から
3.0重量%の、セルロースに結合したリンを繊維が含む。繊維が0.02から
0.5重量%のセルロースに結合したリンを含むことが好ましい。
WO85/05115号において、リン酸を含む異方性の溶液から紡糸したセ
ルロースフォルメートマルチフィラメント糸について報告がされている。その糸
は、フィラメントの軸を取り囲みかつフィラメントの軸に沿って疑似周期的に変
化する、互いに重なり合った層からなる形態(モルホロジー)を示す。WO94
/17136号では、形態はフィラメントのための原料異方性溶液と関連される
ことが示唆されている。本発明の糸はリン酸を含む異方性溶液から得られたもの
であるが、WO85/05115号に記載されているような形態を示さない。測定方法
溶液における等方性/異方性の測定
偏光顕微鏡(Leitz Orthoplan-Pol(100倍)を用いて、等方性又は異方性の視覚
的測定が行われた。このために、測定されるべき溶液の約100mgを、2つの
スライドの間に配置し、メトラーFP82ホットステージプレート上に置き、そ
の後、加熱スイッチを入れ、試料を約5℃/分の速度で加熱した。異方性から等
方性への転移、すなわち着色(複屈折)から黒への転移において、視覚的黒にお
いて温度を読み取る。この温度は、転移温度Tniと呼ばれる。相転移の間の視覚
的評価は、顕微鏡に取付けられた感光セ
ルを用いる光強度測定と比較された。この光強度測定のために、10〜30μm
の試料を、直交した偏光子が用いられたときに色がもはや見えないように、スラ
イド上に配置した。加熱を上記のように行った。時間の関数として強度を記録す
るために、記録計に接続された感光セルを用いた。或る温度(溶液ごとに異なる
)より上で、強度の直線的増加があった。この線を強度ゼロに外挿すると、Tni
が得られる。すべての場合に、見い出された値は、上記方法で見い出された値と
良く一致すると判った。
もし複屈折が停止の状態で観察されるなら、溶液は異方性であると考えられる
。一般に、これは室温で行われる測定に妥当する。しかし、本発明に従う溶液(
これは室温より下の温度でたとえば繊維への紡糸により加工されることができ、
該低い温度で異方性を示す)は、また異方性であると考えられる。
酸性度の測定
押出物の酸性度は、凝固され、洗浄され、所望により中和され、仕上げされ、
かつ/又は乾燥された押出物の1gを、脱ミネラル化および脱イオン化した水(
ミリQ水、pH=6)の100ml中に導入することにより測定される。次に、
押出物を含む水のpHが、較正されたpH測定器で測定される。押出物の酸性度
は、押出物を含む水について見い出されたpHが等しい。
リン含量の測定
溶液又は、溶液から得られたセルロース製品中の、セルロースに結合したリン
の含量は、分解フラスコにおいて、(a)凝固させ、水で十分に洗浄した後50
℃で16時間真空乾燥し、密封容器で保存した300mgのセルロース溶液と、
(b)5mlの濃硫酸と0.5mlの、イットリウム1000mg/lを含むイ
ットリウム溶液とを混ぜることにより測定されうる。セルロースを加熱炭化する
。炭化の後、清澄な液が得られるまで2ml単位で過酸化水素水を混合物に加え
る。冷却した後、溶液に再び水を入れ、50mlとした。測定する溶液中のリン
の濃度は、ICP−EP(誘導結合プラズマ発光分光分析)を用いて、リンを1
00、40、20及び0mg/l含む各標準試料で求めたリン検量線を用いて、
次式に基づいて求めた。
リン含量(%)=(Pconc(mg/l)x50)/(Cw(mg)x10)
ここで、Pconc=測定する溶液のリン濃度
Cw=凝固されかつ洗浄されセルロースの重量。
溶液の粘度の違いを補正するために、イットリウムを内部標準として加えた。リ
ン含量は波長213.6nmで、内部標準は224.6nmで測定する。
水分の測定
水浴での凝固時または水洗浄時に繊維に吸収された水の量は、繊維を水で洗浄し
、付着した水をブフナー漏斗のろ過によりで除去して定めることができる。水分
量は、160℃で20分加熱した後の重量減少量から(乾燥繊維に対する重量%
で)求めることができる。
機械的特性
フィラメント及びヤーンの機械的特性は下記設定条件でASTM規格D2256
−90に従い求めた。フィラメントの特性は、10x10mmの表面のArnitel
(商標)固定具で把持されたフィラメントについて測定した。フィラメントは2
0℃、相対湿度65%で16時間コンディショニングした。固定具間の距離は1
00mmとし、フィラメントは10mm/分の一定速度で伸ばした。糸の特性は
インストロン4C固定具で把持した糸について測定した。糸は20℃、相対湿度
65%で16時間コンディショニングした。固定具間の距離は500mmとし、
糸は50mm/分の一定速度で伸ばした。糸は1m当りの捩り数4000/√線
比重[dtex]で捩じった。フィラメントの線比重(dtexで表される)は
関数共鳴周波数に基づき計算した(ASTM D 1577-66,Part 25,1968);当該糸の線比
重は重量を測定して求めた。破断強度、伸び率、初期弾性率は負荷−伸び率曲線
及びフィラメント又は糸の線比重から求めた。初期弾性率(In.Mod)は伸び率2
%未満での最大弾性率と
して定義された。
本発明を、実施例を参照して説明する。
実施例A
押出機排出を有するLinden−Z混練機において、13,300gのオル
トリン酸(98.8%H3PO4)を、清溌で粘稠な液体が得られるまで30〜4
6℃で溶融混練した。この液体に、3,350gのポリリン酸を加えた。48℃
で90分間の均一化の後に、混合物を18℃に冷却し、3,600gの粉末セル
ロースを加えた。均一な溶液が得られるまで、混合物を45分間(この最後の2
5分間は減圧で)混練した。375個のキャピラリー(各々の直径65μm)を
有する紡糸口金を通してこの溶液を60℃で紡糸し、40mmのエアーギャップ
を介して、−12℃のアセトンを入れられている凝固浴に導いた。エアーギャッ
プ内での延伸比は、約7であった。次に、このヤーンを、23℃の水で洗った。
このようにして、乾燥されたのみである試料(A−I)が作られ、巻き取られた
。他の試料は乾燥されず、しかし再び洗われ、そして表1に示した溶液により中
和された。これら溶液を作るために、CaCO3、NaOH及びNa2Co3・1
0H2Oが用いられた。中和処理の後に、ヤーンを再び水で洗った。
このようにして得た試料ヤーンは、空気中175℃で5分間の熱処理の前及び
後に、その破断強度を測定された。
ヤーンの強度効率は、下記の式を用いて求められる。
BTeff=(BTa/BTb)×100
ここでBTeffは強度効率を示し、BTaは熱処理後の破断強度であり、B
Tbは熱処理前の破断強度である。また、熱処理前のヤーンの酸性度が、本明細
書で上述した方法により測定された。
結果を表1に示す。
実施例B
押出機排出を有するLinden−Z混練機において、13,480gのオル
トリン酸(99.5%H3PO4)を、清溌で粘稠な液体が得られるまで30〜4
0℃で溶融混練した。この液体に、3,240gのポリリン酸を加えた。40℃
で90分間の均一化の後に、混合物を12℃に冷却し、3,600gの粉末セル
ロースを加えた。均一な溶液が得られるまで、混合物を90分間(この最後の7
0分間は減圧で)混練した。375個のキャピラリー(各々の直径65μm)を
有する紡糸口金を通してこの溶液を59℃で紡糸し、40mmのエアーギャップ
を介して、+10℃のアセトンを入れられている凝固浴に導いた。エアーギャッ
プ内での延伸比は、約7であった。次に、このヤーンを、23℃の水で洗い、そ
して表1に示した溶液により中和した。これら溶液を作るために、NaHCO3
、NaOH及びNa2Co3・10H2Oが用いられた。中和処理の後に、ヤーン
を再び水で洗った。
試料ヤーンの強度効率及び酸性度を、実施例Aに記載のようにして測定した。
結果を表1に示す。
実施例C
実施例Bと同じようにして、16重量%セルロース溶液を、Linden−Z
混練機で作り、375個びキャピラリー(夫々の直径65μm)を持つ紡糸口金
を通し、エアーギャップを介して59℃で紡糸した。ヤーンを、軟水化した水で
洗い、追加の乾燥なしでボビン上に巻き取り、プラスチック袋中で16日間保存
した。次に、ヤーンを表1に示した溶液で中和した。これら溶液を作るために、
Na2CO3・10H2O、KOH、K2CO3、LiOH、およびBa(OH)2が
用いられた。中和処理後に、ヤーンを再び水で洗った。
試料ヤーンの強度効率及び酸性度を、実施例A記載のように測定した。結果を
表1に示す。
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