【発明の詳細な説明】
セルロース繊維の製造法
本発明は、セルロースおよび/またはセルロース誘導体を含む光学的に異方性
の溶液から、その溶液を非腐食性紡糸口金を通して押出し、得られる押出物を凝
固させることにより繊維を製造する方法に関する。
かかる方法は、特にWO 96/06208から公知である。この出願に記載されている
ように、セルロース繊維は、リン酸および/またはその無水物ならびに水を含む
溶媒中でセルロースの異方性溶液を紡糸し、凝固させることにより得ることがで
きる。この出願では、かかる溶液を紡糸するときに、非腐食性紡糸口金、例えば
金および白金を含む合金から成る紡糸口金を使用するのが有利であることが記載
されている。WO 96/06208は、種々の凝固剤を開示している。本出願人による、
先に公開されていない特許出願PCT/EP 9604662は、ギ酸セルロースを含む異方性
溶液からセルロース繊維を製造する方法を記載している。この出願も、溶液を紡
糸するときに、非腐食性紡糸口金、例えば金および白金を含む合金から成る紡糸
口金を使用するのが有利であることを記載している。前記の先に公開されていな
い特許出願に記載された方法では、押出物がアセトン中で凝固され、洗われ、低
張力下で乾燥される。
前記特許出願に記載された方法は、非常に良好な機械
的特性を有するセルロース繊維の製造に特に適する。得られた繊維は、例えばCo
rdenka(商標)の破断強度よりも(かなり)高い破断強度、すなわち600mN/tex
より大きい強度を有する。その理由のため、記載された繊維は、技術的用途、例
えば、コンベアベルト、V−ベルトおよび車のタイヤにおける強化材料として特
に適する。
開示された方法の主な欠点は、前記した好ましい機械的特性を有する繊維を得
るために、有機溶媒が凝固剤として使用される(例えばアセトン)ということで
ある。しかし、かかる溶媒の使用は、
a)爆発および/または火事の危険性を最小にするために必要とされる更なる安
全性の尺度、
b)紡糸機械またはその付近で作業するスタッフのために必要とされる身体保護
の尺度、
c)凝固剤から不純物を取り除くために必要とされる更なる工程
の点であまり望ましくない。
本発明は、これらの欠点にかなりの程度まで対処する凝固剤、すなわち、主と
して水を含み、かつカチオンが添加されている液体に関する。
本特許出願において、「繊維」と言う言葉は、連続したフィラメントならびに
短い繊維(100mmより短い、すなわちステープル繊維)および比較的長い繊維(
>100mm)を意味する。繊維は、束ねて糸、スライバーまたはストランドにした
り、加工処理して織物または不織布にすることが
できる。
本出願において、「リン酸」と言う言葉は、リンの全ての無機酸およびそれら
の混合物を意味する。オルトリン酸は、5価のリンの酸、すなわちH3PO4であ
る。その無水等価物、すなわち無水物は、五酸化リン(P2O5)である。オルト
リン酸および五酸化リンの他に、系の水の量に応じて、五酸化リンとオルトリン
酸との間の水結合能を有する5価のリンの一連の酸、例えばポリリン酸(H6P4
O13、PPA)がある。
本発明に係る方法では、セルロースおよび/またはセルロース誘導体を含む異
方性溶液が使用される。セルロースが有機溶媒、有機溶媒の混合物、無機溶媒、
無機溶媒の混合物、または有機溶媒と無機溶媒との混合物に溶解した溶液を使用
することができる。また、セルロース誘導体またはセルロース誘導体の混合物が
有機溶媒、有機溶媒の混合物、無機溶媒、無機溶媒の混合物、または有機溶媒と
無機溶媒との混合物に溶解したセルロース誘導体の溶液を使用することもできる
。
加工性の点から、溶液は好ましくは、10〜30重量%のセルロースおよび/また
はセルロース誘導体を含む(重量%はセルロース単位に基づいて計算される)。
所望するならば、セルロースおよび/またはセルロース誘導体の溶解を容易にし
、または溶液の加工性を改善する物質、あるいは、例えばセルロースおよび/ま
たはセルロース誘導体の分解をできるだけ阻止するための補助剤(添加剤)、あ
るいは染料などを溶媒または溶液に添加してもよい。
本発明に係る方法では、異方性溶液が非腐食性紡糸口金を通って押出され、好
ましくは0℃〜100℃の範囲の温度で押出され、好ましくは高められた温度で可
能な限り最短の滞留時間が選択される。特に、溶液は、20〜70℃の範囲の温度で
押出される。溶液中の他のセルロース濃度の場合、濃度が高いほど、選択される
紡糸温度は同様に上記で示した範囲を越えると考えられる。これは、とりわけ溶
液のより高い粘度を補償するためである。同様に、より低い濃度の場合は、より
低い紡糸温度が選択され得ると考えられる。しかし、溶液の温度が高められると
、分解および/または溶液中の他の成分とのセルロース反応の危険が増加する。
並外れて良好な特性を有する繊維は、セルロースおよびリン酸を使用して得られ
た溶液、例えば本出願人によるWO 96/06208に開示されたセルロースのリン酸溶
液、または、とりわけ本出願人による予備公開されていない特許出願PCT/EP 96
04662に開示されているギ酸セルロース(セルロースとギ酸との反応によって得
られる)およびリン酸を含む溶液などを使用したときに到達され得る。
紡糸口金における毛管の望ましい数は、得られる繊維の用途に依存する。例え
ば、紡糸口金は、モノフィラメントの製造に使用することができるが、20〜1000
0、特に100〜2000フィラメントを有するマルチフィラメント糸を製造することも
同様に十分可能である。腐食性溶媒を含む紡糸溶液、例えば酸または酸の混合物
を含む紡糸溶液を使
用してかかるマルチフィラメント糸を製造するためには、好ましくは、WO 95/2
0696に記載されたような紡糸口金が使用される。このような紡糸口金は、金およ
び白金を含む合金でできている。望むならば、紡糸口金は、EP 168876に記載さ
れたようなクラスター紡糸アセンブリーの一部であってもよい。異方性溶液の粘
度が比較的高い場合、好ましくは、ロジウムおよび/またはパラジウムを含む非
腐食性紡糸口金が使用される。WO 95/20696に記載されているように、これらの
紡糸口金は、腐食性および/または高粘性の溶液の紡糸に使用するのに特に適し
ている。
本発明に係る方法では、形成された押出物を、主として水を含みかつカチオン
が添加されている液体中で凝固させる。本特許出願では、それは、少なくとも50
重量%の水を含み、かつ紡糸溶液に由来しないカチオンが添加されている液体を
意味する。特に好ましい特性(高い破断強度)を有する繊維は、凝固液と接触さ
せたときに押出物が膨潤性を全然またはほとんど示さない場合に得ることができ
る。膨潤性を仝然またはほとんど示さないことは、特に、Li+、Na+、K+ま
たはNH4 +などの1価のカチオンが凝固液に添加されているときに認められる。
カチオンを凝固液に添加する一つの方法は、カチオンを含む塩を凝固液に溶解す
ることによる。また、少なくとも50重量%の水を含む凝固液の使用も、形成され
る繊維の熱安定性に好ましい効果を及ぼし得る。
さらに、凝固液のpHが、得られた繊維の機械的特性、
特にそれらの破断強度に影響を及ぼし得ることが見出された。高い破断強度を有
する繊維は、凝固液のpHが6より高いときに得られる。
再循環される紡糸プロセスにおける凝固液に関しては、凝固液に添加される塩
がアニオンを含み、該アニオンが異方性(紡糸)溶液にも存在するならば、特に
有利である。例えば、リン酸および/またはその無水物ならびに水を含む溶媒中
のセルロースの異方性溶液が本発明で特定されるように処理される場合、凝固液
にリン酸塩、例えばNa+、K+またはNH4 +を含むリン酸塩を添加することが特
に有利である。
凝固の後、洗浄を行うことができ、これは、中和処理と組み合わせても組み合
わせなくてもよい。洗浄は、洗浄剤を入れた容器に凝固された繊維を入れる形態
を取り、あるいは、適切な液体を入れた容器に連続的方法で繊維を通し、その後
でのみ、繊維をローラー上に巻き取る。実際の使用に非常に適する方法によれば
、イギリス国特許明細書762,959に記載されたような洗浄プレートまたはいわゆ
るジェット洗浄機を使用して洗浄が行われる。使用される洗浄剤は、凝固液また
は水であってもよい。洗浄は、洗浄剤の凍結点と沸点との間の任意の温度で行う
ことができ、好ましくはどの場合も100℃未満で行われる。得られる繊維は、所
望するならば中和され得るが、これは不可欠ではない。中和は、洗浄工程の直後
に行ってもよく、そうでなければ、凝固と洗浄工程との間に行ってもよい。ある
いは、
中和を洗浄工程の後に行い、次いでさらに洗浄工程を行ってもよい。
セルロース誘導体を含む溶液を使用する場合、溶液を紡糸することによって得
られる繊維は、セルロース繊維を得るために別個の工程で再生されなければらな
い。その場合、中和工程を再生と組み合わせるのが特に有利である。繊維の再生
は、好ましくは、繊維が洗浄された後に行われる。あるいは、繊維は、再生の前
に乾燥させることができる。再生は、例えば、苛性溶液を用いた鹸化によって、
または高温蒸気処理によって行ってもよい。しかし、セルロース誘導体の繊維も
いくつかの用途に使用することができるので、再生工程は必須ではない。
繊維を洗浄し、乾燥させる場合の張力は、その機械的特性に影響を及ぼすこと
が見出された。洗浄および/または乾燥中に高い張力が用いられる場合は、原則
として、比較的高い弾性率が得られる。低い張力は、一般に、破断時の伸びが高
い繊維を与える。
得られた繊維は、強度および弾性率などの非常に良好な機械的特性および好ま
しい伸びを有する。溶液の異方性および紡糸工程中にこれらの特性に影響を及ぼ
す可能性があるため、広範囲の用途で使用するのに望ましい繊維を得ることがで
きる。例えば、500mN/texより大きい強度および/または2%未満の伸びにおけ
る少なくとも14N/texの最大弾性率、および少なくとも4%の破断時の伸びを有
する糸を得ることが可能である。繊維はまた、通常の
接着剤を一度含浸させる(例えば、レゾルシノール−ホルムアルデヒドラテック
ス(RFL)混合物に浸す)と、ゴムに対して良好な接着性を有する。しかし、
織物での使用に特に有利な特性を有する繊維を製造することも可能である。さら
に、得られた繊維または繊維の束の線密度は、紡糸オリフィスの数および押出後
の延伸の度合を選択することにより変えることができる。例えば、フィラメント
の線密度(フィラメントテックス)が2dtex未満、より好ましくは1.5dtex未満
である繊維を得ることができる。低いフィラメントテックスは、繊維を織物にお
いて使用する場合に特に有利である。あるいは、線密度が500dtexより大きい、
特に1000dtexより大きい繊維の束、例えばマルチフィラメント糸を得ることが可
能である。糸または束の高い線密度を高い破断強度と組み合わせると、繊維の技
術的用途に特に有利である。特に工業的用途の場合、本発明に係る方法は、取扱
いの容易性および安全性に関して特に有利であり、使用される装置の腐食は全然
またはほとんどなく、比較上、使用された化学薬品の回収も非常に容易である。
この方法は、工業的規模でのセルロース繊維の公知の製造法よりも環境に対する
害がかなり少ない。このことは全て、経済的にかなり有利なプロセスに反映され
る。
このようにして、車のタイヤ、コンベヤベルト、ゴムホースなどの機械的負荷
に付されるゴム製品における使用ならびに織物における使用に特に適する繊維が
、非常に有利な方法で得られる。高い強度および高い弾性率を有する
繊維は、車のタイヤ、例えば乗用車および貨物自動車のタイヤの強化に特に適す
る。
一般に、得られる繊維は、ナイロン、レーヨン、ポリエステルおよびアラミド
などの工業用および/または織物用の糸の代替物を構成する。さらに、繊維はパ
ルプにすることができる。かかるパルプは、天然のセルロース物質、例えば麻ま
たは亜麻、アラミドパルプ、ポリアクリロニトリルパルプ、ポリケトンパルプな
どの他の物質と混合してもしなくても、例えばアスファルト、セメントおよび/
または摩擦材料における強化物質としての使用に非常に適する。
測定法
異方性の測定
等方性または異方性の視覚的測定を、偏光顕微鏡(Leitz Orthoplan−Pol(100
x))を用いて行った。このために、テストされるべき溶液の約100mgを2枚のス
ライドの間に配置し、Mettler FP82ホットステージプレート上に置いた後、加熱
のスイッチを入れ、試料を約5℃/分の速度で加熱した。異方性から等方性への
転移、すなわち着色(複屈折を示す)から黒色への転移において、温度が実質的
な(virtual)黒の時点で読み取られる。転移温度はTniとして示される。
相転移中の視覚評価を、顕微鏡に取り付けられた感光性セルを使用した強度測
定と比較した。この強度測定の場合、10〜30μmの試料を、直交偏光子を使用す
ると色を見
ることができないようにスライド上に配置した。加熱は上記したように行われた
。記録機に接続された感光性セルを使用して強度を時間の関数として記入した。
或る温度(種々の溶液で異なる)より上では、強度の直線的減少があった。この直
線を強度0に外挿するとTniが得られた。全ての場合において、得られた値は、
上記方法によって得られた値とよく一致することが分かった。溶液は、室温で複
屈折を何ら示さない場合には等方性であるとみなされる。これは、Tniが25℃よ
り下であることを意味する。しかし、これは、かかる溶液が等方性/異方性転移
を示さない場合であるかもしれない。
DPの測定
セルロースの重合度(DP)を、Ubbelohdel型を用いて測定した(k=0.01)。
このために、測定されるセルロース試料を、中和後、50℃で16時間、減圧乾燥
した。あるいは、エチレンジアミン銅II/水混合物中の水の量を較正してセルロ
ース中の水を考慮した。このようにして、0.3重量%のセルロース含有溶液を、
エチレンジアミン銅II/水混合物(1:1)を使用して作った。得られた溶液に
関して、粘度比(ηrel)を求め、これから、極限粘度(η)を、下記式に従っ
て決定した。
(式中、c=溶液のセルロースの濃度(g/dl)およびk=定数=0.25)
この式から、重合度(DP)が次のように決定された。DP=[η]/0.42([
η]<450ml/gの場合)、またはDP0.76=[η]/2.29([η]>450ml/g
の場合)
溶液中のセルロースのDPの決定は、下記処理の後、上記したように行われた
。すなわち、20gの溶液をWaring Blender(1リットル)に充填し、400mlの水を
添加し、次いで、仝体を最も高い設定で10分間混合した。得られた混合物をふる
いに移し、水で十分洗浄した。最後に、2%−NaHCO3溶液を用いて数分間中和を
行い、水を用いて後洗浄してpHを約7にした。エチレンジアミン銅II/水/セ
ルロース溶液の製造から着手して、得られた物質のDPを上記したように決定し
た。
機械的特性
個々の繊維/フィラメントおよび糸の機械的特性を、下記設定を使用してASTM
規準D2256−90に従って測定した。フィラメントの特性は、10x10mmのArnitel(
商標)グリップ表面で把持したフィラメントについて測定された。フィラメント
の状態調節を、20℃および相対湿度65%で16時間行った。グリップ間の長さは
100mmであり、フィラメントを10mm/分の一定の伸びで伸長させた。
糸の特性は、Instron4Cクランプを用いて把持した糸について測定された。
糸の状態調節を、20℃および相対湿度65%で16時間行った。グリップ間の長さ
は500mmであり、糸を50mm/分の一定の伸びで伸長させた。糸を撚り合わせ、1m
当りの撚りの数は4000/√線密度[dtex]
であった。
フィラメントの線密度(dtex)は、関数共鳴振動数(ASTM D 1577−66、パー
ト25、1968)に基づいて計算された。糸の線密度は秤量することによって求めら
れた。強度、伸びおよび初期弾性率は、負荷−伸長曲線および測定されたフィラ
メントまたは糸の線密度から誘導された。初期弾性率(In.Mod.)は、2%未満
の伸びでの最大弾性率として定義された。最終弾性率は、2%より大きい伸びで
の最大弾性率として定義された。
個々のフィラメントに与えられた各々の測定値は、10個の別々の測定値の平均
であった。糸に与えられた各々の測定値は、5個の別々の測定値の平均であった
。実施例
本発明を、多数の実施例を参照してさらに説明するが、以下の実施例は本発明
を限定するものではない。
実施例1
WO 96/06208に記載された方法に従って得られ、18重量%のセルロース(Bucke
ye V60、DP=820)、60.9重量%のP2O5および水を含むセルロース溶液を、WO95
/20696に記載されているような金、白金、パラジウムおよびロジウム合金でで
きた非腐食性紡糸口金を通して46℃で押出した。紡糸口金には375本の毛管があ
り、各々、65μmの直径を有していた。押出された溶液を、15mmのエアギャップ
に通し、塩が添加されている水性凝固浴で凝固させた。得られた糸を水で洗浄し
、仕上げをし、150℃で乾
燥させた。
凝固液の組成は、実験中、様々に変えられた。さらに、洗浄後のいくつかの糸
を、2.5重量%の炭酸ナトリウム溶液(Na2CO3)で中和した。こうして得ら
れたサンプルに関して、糸およびフィラメントの機械的特性を測定した。糸のデ
ータ(1100〜1200dtexの線密度を有する)を表1に示し、フィラメントのデータ
を表2に示す。
Tcoag=凝固液の温度、pHcoag=凝固液の酸性度、BT=破断強度、EaB=
破断時の伸び、およびIM=初期弾性率実施例2
実施例1のセルロース溶液を該実施例に記載した方法で、62℃で紡糸した。押
出された溶液を35mmのエアギャップに通し、K3PO4が添加されている5〜10
℃の落下する水性液状凝固剤中で凝固させた。得られた糸を水で洗浄し、仕上げ
をし、150℃で乾燥させ、100m/分の速度で巻き取った。凝固液中のK3PO4濃
度は、実験中、様々に変えられた。さらに、洗浄後のいくつかの糸を2.5重量%
の炭酸ナトリウム溶液(Na2CO3)で中和した。こうして得られた、700〜750
dtexの線密度を有するサンプルに関して、糸の機械的特性を測定した。いくつか
の結果を表3に示す。