JPH06330566A - 高力ボルトによる摩擦接合部構造 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 簡単な手段によって、建築鉄骨構造物あるい
はその他の鉄骨構造物における鋼材を、高力ボルトによ
り強力に摩擦接合する。 【構成】 高力ボルト１による鋼材の摩擦接合部におい
て、摩擦接合面を構成する一方の鋼材２と、他方の鋼材
３との間に、高力ボルト挿通用透孔４を有する介在鋼板
５を挿入し、その介在鋼板５の表面硬さおよび表面粗さ
を、前記一方の鋼材２および前記他方の鋼材３の表面硬
さおよび表面粗さよりも大きくする。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、建築鉄骨構造物あるい
はその他の鉄骨構造物における鋼材の高力ボルトによる
摩擦接合部構造に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】従来、鉄骨構造物の高力ボルトによる摩
擦接合部構造においては、鋼材の摩擦面は自然発生の赤
錆が標準になっており（建築学会ＪＡＳＳ６参照）、施
工上のバラツキを考慮して、設計上は低いすべり係数値
（μ＝0.４５）に設定している。この改善策として、
（１）特開昭５１−５２３３６号公報により公表されて
いるように、鋼材の表面に特殊な塗装を施して高力ボル
トにより接合する方式、（２）特開平１−２６６３０９
号公報により公表されているように、鋼材の接合面にセ
ラミックのプラズマ溶射処理を施して、高力ボルトによ
り接合する方式が提案されている。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】前記従来の赤錆を発生
させる場合は、施工上のバラツキが大きく、かつ施工品
質の管理が非常に困難である為、0.４５よりも大きなす
べり係数値を接合部設計に用いることができないという
欠点がある。また従来提案されている前記（１）の接合
方式の場合は、鋼材に特殊な塗装を施す必要があるの
で、煩雑であり、さらに従来提案されている前記（２）
の接合方式の場合は、鉄骨加工工程中で新たな専用設備
を必要とするという欠点がある。そのため従来提案され
ている前記（１）（２）の接合方式は、何れも広く実施
されていない。本発明は、高力ボルトによる鋼材摩擦接
合部において新たな接合部構造を発明することにより、
前記課題の解決を図り、摩擦接合面の施工品質の安定性
の確保と高いすべり係数の確保を目的としたものであ
る。

【０００４】

【課題を解決するための手段】前述の問題を有利に解決
するために、本発明の高力ボルトによる摩擦接合部構造
においては、高力ボルト１による鋼材の摩擦接合部にお
いて、摩擦接合面を構成する一方の鋼材２と、他方の鋼
材３との間に、高力ボルト挿通用透孔４を有する介在鋼
板５を挿入し、その介在鋼板５の表面硬さおよび表面粗
さを、前記一方の鋼材２および前記他方の鋼材３の表面
硬さおよび表面粗さよりも大きくする。また前記表面硬
さおよび表面粗さの大きい介在鋼板５を、高耐食性鋼板
により構成することにより、高力ボルトによる摩擦接合
部の介在鋼板５の耐久性を著しく向上させることができ
る。なお、本発明において表面粗さとは十点平均粗さＲ
ｚ（ＤＩＮ）をいう。

【０００５】

【実施例】図１ないし図５は本発明の第１実施例を示す
ものであって、２本の帯状鋼板からなる鋼材２が、同一
平面上において直列に配置され、前記各鋼材２における
端部側に、それぞれ複数の高力ボルト挿通用透孔４が設
けられ、かつ各鋼材２の表裏両面にわたって、高力ボル
ト挿通用透孔４を有する鋼製継手板からなる鋼材３が配
置され、各鋼材２とその表裏両側の鋼材３との間に、高
力ボルト挿通用透孔４を有する円形の介在鋼板５が配置
され、その介在鋼板５の表面硬さおよび表面粗さは、前
記一方の鋼材２および前記他方の鋼材３の表面硬さおよ
び表面粗さよりも大きくなっており、すなわち、前記介
在鋼板５の摩擦面側の表面硬さは、前記鋼材２の摩擦面
側の表面硬さよりも硬くなっており、かつ前記介在鋼板
５の摩擦面側の表面粗さは、前記鋼材３の摩擦面側の表
面粗さよりも粗くなっている。複数の高力ボルト１は、
前記一方の鋼材２および前記他方の鋼材３ならびに介在
鋼板５における高力ボルト挿通用透孔４に挿通され、前
記高力ボルト１により、鋼材２，鋼材３および介在鋼板
５が締付けられて、摩擦接合されている。

【０００６】図６ないし図９は本発明の第２実施例を示
すものであって、同一平面上において直列に配置された
２本の帯状鋼板からなる鋼材２と、各鋼材２の表裏両側
に配置された鋼製継手板からなる鋼材３との間に、帯状
の介在鋼板５が配置され、複数の高力ボルト１が、各鋼
材２およびその表裏両側の介在鋼板５ならびに各介在鋼
板５に当接された鋼材３に挿通され、前記高力ボルト１
により、各鋼材２と介在鋼板５と各鋼材３とが締付結合
されているが、その他の構成は、第１実施例の場合と同
様である。

【０００７】図１０ないし図１４は本発明の第３実施例
を示すものであって、薄肉の帯状鋼板からなる鋼材２Ａ
と厚肉の帯状鋼板からなる鋼材２Ｂとが、同一平面上に
おいて直列に配置され、薄肉の鋼材２Ａの表裏両面に、
厚さの異なる介在鋼板５Ａ，５Ｂが当接され、前記厚肉
の鋼材２Ｂの表裏両面に、同一厚さの介在鋼板５Ａが配
置され、前記薄肉の鋼材２Ａと、その表裏両面に当接さ
れた介在鋼板５Ａ，５Ｂと、各介在鋼板５Ａ，５Ｂに当
接された鋼材３とにわたって、複数の高力ボルト１が挿
通され、その高力ボルト１により、薄肉の鋼材２Ａと各
介在鋼板５Ａ，５Ｂと鋼材３の一側部とが締付結合され
ている。また厚肉の鋼材２Ｂと、その表裏両面に当接さ
れた同一厚さの介在鋼板５Ａと、各介在鋼板５Ａに当接
された鋼材３の他側部とにわたって、複数の高力ボルト
１が挿通され、その高力ボルト１により、厚肉の鋼材２
Ｂと各介在鋼板５Ａと鋼材３の他側部とが締付結合され
ている。

【０００８】表面硬さおよび表面粗さの大きい介在鋼板
５を円形にする場合、その介在鋼板５の外径を、摩擦接
合に寄与する範囲として高力ボルト１の径Ｄに対して2.
５〜3.５Ｄ程度にし、また介在鋼板５の板厚を、工業的
に製造可能である０．５mm以上とする。しかし、介在鋼
板５の板厚があまり厚くなると、接合部の厚みが増大
し、鉄骨デイテールや仕上げ材との取り合い上、好まし
くなく不経済ともなるため、３mm以下程度とするのが良
い。

【０００９】前記介在鋼板５，５Ａ，５Ｂにおける摩擦
面側の表面粗さは、通常、塗装前に行なっているブラス
トなどにより、任意の粗さに設定することができるが、
グリッドブラストを採用するのが望ましい。また、転造
やプレス、鍛造により表面粗さを確保することもでき
る。

【００１０】前記鋼材２および鋼材３における摩擦面側
の表面粗さは、グライダー，ショットブラスト，グリッ
ドブラストなどにより、表面粗さ４０μ以上を確保でき
ていればよい。

【００１１】図１５および図１６は、本発明の第４実施
例を示すものであって、Ｈ形断面の鋼製主梁６における
側部溝内に、主梁長手方向に直角な取付用鋼板からなる
鋼材２が、嵌入されて溶接により固着され、前記主梁６
に直角な方向に延長するＨ形断面の鋼製小梁７における
ウエブからなる鋼材３の端部は、前記鋼材２に平行に配
置され、前記鋼材２と鋼材３との間に、高力ボルト挿通
用透孔４を有する介在鋼材５が介在され、その介在鋼材
５の表面硬さおよび表面粗さは、前記各鋼材２，３表面
硬さおよび表面粗さよりも大きくなっており、前記各鋼
材２，３と介在鋼材５とにわたって、複数本の高力ボル
ト１が挿通され、その高力ボルト１により、各鋼材２，
３と介在鋼材５とが締付結合されている。

【００１２】図１７は図１〜５に示す接合部に関する調
査結果を示すものであり、前記鋼材２，３における摩擦
面側の表面硬さをＨｖ１６０程度、表面粗さを４０μ程
度として、鋼材２，３に対する硬さ比を1.０，1.３，1.
７，2.５以上の４種類硬さの介在鋼板５を対象とし、す
べり係数と表面粗さとの関係を調査した結果を示すもの
であって、前記介在鋼板５の表面硬さに関しては、表面
粗さが４０μ程度では、従来の摩擦接合部と同程度のす
べり係数（約0.４５）しか確保できない。

【００１３】しかし、前記介在鋼板５の表面粗さを大き
くすることにより、すべり係数は大きくなり、ある表面
粗さに達すると一定値となることが判る。このすべり係
数が安定する表面粗さは介在鋼板５の硬さにより異なる
が、介在鋼板５の表面粗さを１２０μ以上に大きくする
ことにより、いずれの硬さにおいても、すべり係数を安
定化させることができることが判る。たとえば、鋼材
２，３に対する介在鋼板５の表面硬さ比が2.５の介在鋼
板５を使用する場合は0.８５のすべり係数を確保するこ
とが可能である。このように、各種鋼材の硬さに応じ
て、安定した高いすべり係数を発現させることが可能で
ある。

【００１４】特に、前記鋼材２，３および介在鋼板５に
ついて表面硬さの比が1.３以上の場合に、表面粗さを７
０μ以上に設定することにより、摩擦係数は0.６以上と
なり、従来の摩擦接合部よりも格段に性能を向上させる
ことが可能である。また前記鋼材２，３および介在鋼板
５の表面粗さの上限は約１５０μである。その理由は、
それ以上の表面粗さを確保しても、摩擦係数が大きくな
らず、かつそれ以上の表面粗さを確保することは、工業
的に非常に困難となり不経済となるためである。

【００１５】図１８は前記介在鋼板５の硬さに対する前
記鋼材２，３の硬さの比と、すべり係数に関して調査し
た結果を示すものであって、前記介在鋼板５に関して
は、その介在鋼板５の表面硬さが前記鋼材２，３の表面
硬さと同じ場合、すべり係数が、従来の場合と同程度
（約0.４５）が若干上昇するだけであるのに対して、介
在鋼板５の表面硬さの比を上げることにより、各種表面
粗さにおいても、すべり係数は向上することが判る。ま
た各種表面粗さに対して、前記鋼材２，３に対する介在
鋼板５の硬さの比を2.５以上とすることにより、すべり
係数は安定することが判る。

【００１６】以上のことから、前記鋼材２，３および前
記鋼材２，３の表面粗さ４０μ程度とした場合、前記介
在鋼板５の表面を７０μ以上とし、前記鋼材２，３の硬
さに対する前記介在鋼板５の硬さの比を1.３倍以上とす
ることにより、従来の高力ボルト摩擦接合部構造よりも
性能が向上し、すべり係数0.６以上を確保することが可
能である。

【００１７】また、前記鋼材２，３の表面粗さ４０μ程
度とした場合、前記介在鋼板５は、その表面を１２０μ
以上とした場合や、前記鋼材２，３に対する介在鋼板５
の硬さの比を2.５倍以上とした場合には、すべり係数を
安定して確保することが可能であるが、それ以上の性能
向上は得られない。

【００１８】本発明による高力ボルトによる摩擦接合部
構造では、鋼材２，３に対する介在鋼板５の表面硬さの
比は、1.３以上が必要であり、好ましい範囲は1.３〜2.
５程度である。また鋼材２，３に対する介在鋼板５の表
面硬さの比を1.３以上に設定すると、従来の摩擦接合耐
力（すべり係数＝約0.４５）よりも、性能が著しく改善
される。

【００１９】本発明に係る鋼材摩擦接合構造を構成する
高い表面硬さの介在鋼板５としては、焼き入れが可能な
鋼を熱処理することにより硬さを高めたものを使用する
ことができる。

【００２０】

【発明の効果】本発明によれば、高力ボルト１による鋼
材の摩擦接合部において、摩擦接合面を構成する一方の
鋼材２と、他方の鋼材３との間に、高力ボルト挿通用透
孔４を有する介在鋼板５を挿入し、その介在鋼板５の表
面硬さおよび表面粗さを、前記一方の鋼材２および前記
他方の鋼材３の表面硬さおよび表面粗さよりも大きくし
たので、簡単な手段によって、各鋼材２，３を、高力ボ
ルト１により強力にかつ確実に摩擦接合することができ
る。その結果、高力ボルト１による摩擦接合部のコンパ
クト化が可能となり、低コスト化をはかることが可能で
ある。また表面硬さおよび表面粗さの大きい介在鋼板５
を高耐食性鋼板により構成することにより、高力ボルト
１による摩擦接合部の介在鋼板５の耐久性を著しく向上
させることができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の第１実施例に係る高力ボルトによる摩
擦接合部構造を示す側面図である。

【図２】図１のＡ−Ａ線断面図である。

【図３】図１の一部を拡大して示す側面図である。

【図４】図３のＢ−Ｂ線断面図である。

【図５】本発明の第１実施例における鋼材および介在鋼
板を分解して示す縦断正面図である。

【図６】本発明の第２実施例に係る高力ボルトによる摩
擦接合部構造を示す側面図である。

【図７】図６の一部を拡大して示す側面図である。

【図８】図７のＣ−Ｃ線断面図である。

【図９】図７のＤ−Ｄ線断面図である。

【図１０】本発明の第３実施例に係る高力ボルトによる
摩擦接合部構造を示す平面図である。

【図１１】図１０に示す部分の側面図である。

【図１２】図１１の一部を拡大して示す側面図である。

【図１３】図１２のＥ−Ｅ線断面図である。

【図１４】図１２のＦ−Ｆ線断面図である。

【図１５】本発明の第４実施例に係る高力ボルトによる
摩擦接合部構造を示す正面図である。

【図１６】図１５のＧーＧ線断面図である。

【図１７】すべり係数と鋼材および介在鋼板の表面粗さ
との関係を示す図である。

【図１８】鋼材および介在鋼板の硬さとすべり係数との
関係を示す図である。

【符号の説明】

１ 高力ボルト ２ 鋼材 ３ 鋼材 ４ 高力ボルト挿通用透孔 ５ 介在鋼板

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 高力ボルト１による鋼材の摩擦接合部に
   おいて、摩擦接合面を構成する一方の鋼材２と、他方の
   鋼材３との間に、高力ボルト挿通用透孔４を有する介在
   鋼板５を挿入し、その介在鋼板５の表面硬さおよび表面
   粗さを、前記一方の鋼材２および前記他方の鋼材３の表
   面硬さおよび表面粗さよりも大きくした高力ボルトによ
   る摩擦接合部構造。
2. 【請求項２】 前記表面硬さおよび表面粗さの大きい介
   在鋼板５が、高耐食性鋼板である請求項１の高力ボルト
   による摩擦接合部構造。