JPH06248386A - 耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼 - Google Patents

耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼

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JPH06248386A
JPH06248386A JP3720993A JP3720993A JPH06248386A JP H06248386 A JPH06248386 A JP H06248386A JP 3720993 A JP3720993 A JP 3720993A JP 3720993 A JP3720993 A JP 3720993A JP H06248386 A JPH06248386 A JP H06248386A
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delayed fracture
less
fracture resistance
weight
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JP3720993A
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Naoyuki Kuratomi
直行 倉富
Takahiro Kushida
隆弘 櫛田
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Nippon Steel Corp
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Sumitomo Metal Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】耐遅れ破壊性に優れ、かつ100kgf/mm2以上の引
張強さを有する機械構造用鋼。 【構成】重量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.05〜0.50
%、Mn:0.30〜2.00%、Cu:0.10〜1.00%、Cr:0.10〜
1.50%、Al:0.01〜0.10%を含有し、残部はFeおよび不
純物(Moが0.01%以下、Pが 0.015%未満、Sが0.01%
未満)からなる鋼。焼入れ焼戻し組織を有するものが所
定の強度を確保する上から好ましい。成分元素として、
さらにNi(0.05〜0.50重量%) を含有させてもよく、ま
た、それらの鋼にNb(0.01〜0.10重量%) 、Ti(0.01〜
0.10重量%) 、V(0.01〜0.10重量%) およびB(0.00
02〜0.0020重量%) の中の1種以上を含有させてもよ
い。 【効果】Moを含まない安価な鋼として、例えば土木、鉱
山機械類のバケット、大型ダンプトラックの荷台、ブル
ドーザーの排土板など、大型機械の摩耗部に用いられる
素材として好適である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、100kgf/mm2以上の引張
強さを有し、かつ耐遅れ破壊性に優れ、例えば、土木、
鉱山機械類のバケット、大型ダンプトラックの荷台、ブ
ルドーザーの排土板など、大型機械の摩耗部の素材とし
て好適な機械構造用鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、特にトラックおよび土木、鉱山機
械などの軽量化に伴い今まで以上に高強度の耐摩耗性に
優れた機械構造用鋼の開発が必要とされている。鋼材の
摩耗は鋼材表面の硬さに支配されるものであり、硬いほ
ど摩耗量は少なくなる。従って、摩耗量を減少させるた
めには鋼材の強度を高めて鋼材表面の硬さを増してやる
ことが有効な手段であった。
【0003】従来、一般に使用されている機械構造用鋼
は、引張強度が100kgf/mm2レベルのものについては、例
えば、JIS G 4105(1989)に規定された 0.4%C−1.05%
Cr−0.23%Moの組成を有するSCM440などの低合金鋼の熱
間圧延材に焼入れ焼戻し処理を施し、引張強度が130kgf
/mm2レベルのものについては、例えば、JIS G 4103(198
9)に規定された0.17%C−3%Ni− 1.6%Cr− 0.5%Mo
の組成を有するSNCM616 などの低合金鋼の熱間圧延材に
焼入れ焼戻し処理を施すことによって製造されている。
また、引張強度が174kgf/mm2レベルのものについては、
上記の低合金鋼の熱間圧延材に熱処理条件を変えて焼入
れ焼戻し処理を施すことにより製造されている。
【0004】しかし、これらの機械構造用鋼を実用に供
した場合、使用中に遅れ破壊を生じることがあり、トラ
ックや土木用機械の重要保安部品の素材としては品質の
安定性に欠けることが問題となっていた。なお、遅れ破
壊とは静荷重下におかれた鋼がある時間経過後に突然脆
性的に破断する現象であり、外部環境から鋼中に侵入し
た水素による一種の水素脆性とされている。強度が高い
鋼ほどこの遅れ破壊が発生しやすい。
【0005】このようなことから、実用上、上記の機械
構造用鋼の強度レベルは引張強度で100kgf/mm2以下にす
ることが望ましいとされている。
【0006】ところで、上記の通常の低合金鋼より耐遅
れ破壊性の優れた鋼については多くの研究、開発がなさ
れており、例えば、 0.3%C− 0.5%Cr−0.44%Moの組
成を有する低合金鋼を熱間圧延し、焼入れ焼戻し処理を
施す耐遅れ破壊性に優れた耐摩耗性鋼板の製造方法が特
開昭60− 59019号公報に開示されている。この方法によ
り製造される鋼板は引張強度が124kgf/mm2以上の高強度
で、耐遅れ破壊性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れている
が、Moが含有されているため高価であるという難点があ
る。一方、耐摩耗性鋼についての研究は少なく、また従
来使用されているほとんどの耐摩耗性機械構造用鋼には
Moが含有されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、100kgf/mm2
以上の引張強度を有し、耐摩耗性とともに耐遅れ破壊性
に優れた機械構造用鋼を提供することを課題としてなさ
れたもので、例えば橋梁用高張力ボルト等のように恒久
的に使用するのではなく、定期的な補修あるいは取り替
えを前提とし、一定期間内であれば遅れ破壊のおそれの
ない安価な機械構造用鋼の提供を目的とする。このよう
な定期的な取り替えを前提とした機械構造用鋼の用途と
しては、例えば土木、鉱山機械類のバケット、大型ダン
プトラックの荷台、ブルドーザーの排土板など、大型機
械の摩耗部に用いられる素材があげられる。
【0008】
【課題を解決するための手段】これまでに開発されてい
る耐遅れ破壊性に優れたほとんどの構造用鋼にMoが添加
されている。このMoは、腐食反応における水素過電圧を
下げることによって鋼中への水素の侵入に対する抑制効
果を示し、遅れ破壊の原因となる水素脆化を防止して鋼
の耐遅れ破壊性を向上させる。しかし、Moは高価な元素
であるため、Moが添加された従来の構造用鋼は高価であ
り、経済性に欠ける原因となっている。
【0009】そこで、Moよりも安価で、かつそれを鋼に
添加することにより鋼中への水素の侵入を抑制する効果
を示すCuについて検討を重ねた結果、Moを添加せず、Cr
の含有量を比較的低めに抑えた上でCuを含有させること
により水素透過量を著しく減少させ得るという新しい知
見を得た。このCu添加の効果は鋼の腐食速度を低下させ
ることによるものである。
【0010】本発明は上記の知見に基づいてなされたも
ので、その要旨は、下記〜の耐遅れ破壊性に優れた
機械構造用鋼にある。なお、これまでに低P、低S化に
よるP、Sの粒界偏析の軽減および清浄化が耐遅れ破壊
性を向上させることが知られているが、本発明鋼におい
ても低P、低S化による耐遅れ破壊性の向上を図った。
【0011】 重量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.
05〜0.50%、Mn:0.30〜2.00%、Cu:0.10〜1.00%、C
r:0.10〜1.50%、Al:0.01〜0.10%を含有し、残部はF
eおよび不可避不純物からなり、不純物中のMoが0.01%
以下、Pが 0.015%未満、Sが0.01%未満であることを
特徴とする耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
【0012】 前記に記載の成分に加えて、更にN
i:0.05〜0.50重量%を含有し、残部はFeおよび不可避
不純物からなり、不純物中のMoが0.01%以下、Pが 0.0
15%未満、Sが0.01%未満であることを特徴とする耐遅
れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
【0013】 前記に記載の成分に加えて、更にN
b:0.01〜0.10重量%、Ti:0.01〜0.10重量%、V:0.0
1〜0.10重量%およびB:0.0002〜0.0020重量%の中の
1種以上を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からな
り、不純物中のMoが0.01%以下、Pが 0.015%未満、S
が0.01%未満であることを特徴とする耐遅れ破壊性に優
れた機械構造用鋼。
【0014】 前記に記載の成分に加えて、更にN
i:0.05〜0.50重量%ならびにNb:0.01〜0.10重量%、T
i:0.01〜0.10重量%、V:0.01〜0.10重量%および
B:0.0002〜0.0020重量%の中の1種以上を含有し、残
部はFeおよび不可避不純物からなり、不純物中のMoが0.
01%以下、Pが 0.015%未満、Sが0.01%未満であるこ
とを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
【0015】
【作用】以下に、本発明鋼の化学組成を上記のように定
めた理由について述べる。なお、合金成分の「%」は
「重量%」を意味する。
【0016】C:Cは炭化物を析出させることによって
鋼を強化し、また、焼入処理により安定なマルテンサイ
ト組織を生成して鋼の強度を高める作用を有しており、
鋼を高強度化する上で必須の元素である。しかし、その
含有量が0.05%未満では炭化物の析出量が少なく、また
δ−フェライトを多量に生成して鋼の強度は低下し、靱
性が損なわれる。一方、0.20%を超えて含有させると鋼
が著しく硬化して延性、溶接性および加工性が低下す
る。従って、Cの含有量は0.05〜0.20%とした。
【0017】Si:Siは脱酸剤として添加される。また、
鋼の強度を増加させるのに有効な元素である。しかし、
その含有量が0.05%未満では前記の効果は十分ではな
く、一方、0.50%を超えると鋼の清浄性が損なわれ、靱
性が劣化する場合がある。従って、Siの含有量は0.05〜
0.50%と定めた。
【0018】Mn:Mnは脱酸剤として添加され、また、熱
間加工性を改善するとともに、組織の安定化により鋼を
強化する作用を有している。本発明鋼では、耐遅れ破壊
性の観点からCrの含有量を減少させ、Moを添加しないの
で、鋼の強度を確保するためにMnによる鋼の強化作用を
活用する。その含有量が0.30%より少ないと所望の効果
が得られず、一方、2.00%を超えて含有させると粒界脆
化現象が生じ、遅れ破壊が発生しやすくなる。また、鋼
が硬化し、加工性、溶接性およびクリープ強度が損なわ
れる。従って、Mnの含有量は0.30〜2.00%とした。
【0019】Cu:Cuは前記のように鋼の腐食速度を低下
させることによって水素の鋼中への侵入を抑制し、遅れ
破壊の原因である水素脆化を防止する。また、NbやCrと
複合添加することによって鋼の焼戻し軟化抵抗を著しく
増大させることができるので、鋼の焼戻し温度を高める
ことができ、耐遅れ破壊性を一層向上させる。Cuの含有
量が0.10%未満ではその効果が小さく、一方、1.00%を
超えて含有させると溶接性、熱間加工性および靱性が劣
化する。従って、Cuの含有量は0.10〜1.00%とした。
【0020】Cr:Crは鋼の焼入性を向上させ、かつ鋼の
焼戻し軟化抵抗を高める作用を有する。
【0021】特に、NbやCuとの複合添加により鋼の焼戻
し軟化抵抗は著しく増大する。しかし、その含有量が0.
10%未満では前記の効果は十分ではなく、一方、1.50%
を超えて含有させると、後述するように、Cuの鋼中への
水素侵入抑制効果を損なわせ、耐遅れ破壊性を低下させ
てしまう。従って、Crの含有量は0.10〜1.50%と定め
た。Cuの水素侵入抑制効果を最大限に発揮させるために
は、その上限を 0.5%程度とするのが望ましい。
【0022】前記のように、Moを添加せず、不純物とし
て含有される範囲内に抑え、Cr含有量を適正量(0.10〜
1.50%)とした上でCuを含有させることは、本発明鋼に
おける重要な要件である。
【0023】図1は、C:0.15%、Si:0.3 %、Mn:1.
5 %、P: 0.001%、S: 0.001%、Cu:0.3 %、Al:
0.05%、Ni:0.3 %、Nb:0.05%、Ti:0.05%、V:0.
05%、B:0.001 %の組成の鋼をベースとし、Moを 0.5
%含有させたMo含有鋼と、同じベースの鋼でMoを添加し
ないMo非含有鋼に対してそれぞれCrの含有量を変化させ
た鋼を、熱間鍛造(加熱条件:1150℃×45min )し、次
いで焼入れ( 900℃×45min →油焼入れ)および焼戻し
処理( 420℃×45min →空冷)をして得られた供試鋼に
ついて、Crの含有量と水素透過係数(μC/cm )の関係
を示した図である。水素透過量の測定はワルポール液
(pH=1、25℃)に24時間浸漬する条件で行った。水素
透過係数が小さい方が鋼中への水素侵入量が少ない。
【0024】この図1に示されるように、Mo非含有鋼に
おいてCr含有量を1.50%以下と、比較的低めに抑えるこ
とにより水素透過量を減少させ、鋼中への水素の侵入に
対する抑制効果を飛躍的に向上させることができる。し
かも、その抑制効果はMo含有鋼に3%近い多量のCrを加
えた場合よりも大きい。これは、CrがMoと同族元素で化
学的性質が類似しており、Moが含まれていなくてもCr含
有量が多くなるとMoに代わってCrがCuの水素侵入抑制効
果を妨げるが、Cr含有量が少ない場合にはCrによる妨げ
がなく、Cuの水素侵入抑制効果が十分に発揮されること
によるものと推察される。
【0025】Al:Alは脱酸作用を有し、また組織の均質
化および細粒化を図る上で有効であるが、0.01%未満で
はその効果は十分ではない。一方、0.10%を超えて含有
させてもその効果は飽和し、また介在物の増大により疵
が発生しやすく、靱性も劣化する。従って、Alの含有量
は0.01〜0.10%と定めた。
【0026】本発明鋼(前記の鋼)は、前記の成分の
ほか、残部はFeと不可避不純物からなる鋼である。不純
物としては、Moのほか、P、Sが代表的なものである。
【0027】Moは、前記の図1に示したように、Cuが有
している水素の鋼中への侵入抑制効果を低下させる。こ
れは、Cuが鋼の腐食速度を低下させることにより水素の
鋼中への侵入を抑制する効果を示すのに対し、Moは逆に
鋼の腐食速度を増大させるからである。従って、Moの含
有量は低いほど望ましく、0.01%以下と定めた。
【0028】Pはどのような熱処理を施してもその粒界
偏析を完全に消滅させることはできず、粒界強度を低下
させ、耐遅れ破壊性を劣化させる。従って、その含有量
は低いほど望ましく、 0.015%未満とする。
【0029】Sも粒界に偏析して遅れ破壊の原因となる
水素脆化を促進させるので、その含有量はPと同様極力
低くすることが必要であり、0.01%未満とする。
【0030】上記の各成分のほかに、必要に応じてNiを
添加してもよく(前記の鋼)、あるいは、の鋼もし
くはの鋼にNb、Ti、VおよびBの中の1種以上を添加
してもよい(もしくはの鋼)。なお、不純物のMo、
P、Sについては、の鋼の場合と同様、それぞれ0.01
%以下、 0.015%未満、0.01%未満とする。必要に応じ
て添加する成分の限定理由は以下のとおりである。
【0031】Ni:Niは鋼の靱性を高める作用を有すると
共に、Cuの添加による熱間加工性の低下を改善する効果
がある。しかし、その含有量が0.05%未満では十分な効
果が得られず、一方、0.50%を超えるとその効果が飽和
し、またNiは高価な合金元素であるため必要以上に添加
することは経済的に不利でもあるので、その含有量を0.
05〜0.50%とした。
【0032】Nb、TiおよびV:Nb、TiおよびVの中の1
種以上を添加することにより鋼の細粒化が促進され、耐
遅れ破壊性を一段と向上させることができる。しかし、
Nb、TiおよびVのいずれについても、0.01%未満ではそ
の効果は十分ではない。また高価な合金元素であるため
経済性を考慮して、その含有量はいずれも0.01〜0.10%
とした。
【0033】B:Bは鋼の焼入性を向上させて強度を高
め、かつ粒界を強化して耐遅れ破壊性を向上させる作用
を有している。しかし、0.0002%未満では十分な効果が
得られず、また、0.0020%を超えて含有させると鋼の靱
性および耐遅れ破壊性が劣化する。従って、Bの含有量
は0.0002〜0.0020%とした。
【0034】上記の化学組成を有する本発明鋼は高強度
で、耐遅れ破壊性に優れた鋼である。しかし、100kgf/m
m2以上の引張強さと良好な耐遅れ破壊性とを具備させる
には、鋼の組織を焼入れ焼戻し組織(主として焼戻しマ
ルテンサイト組織)とすることが望ましい。これは、焼
きならし材、焼きならし焼戻し材、圧延のまま材、焼戻
し材等が有する高温ベイナイト、フェライト、パーライ
トを主とする組織では、安定して100kgf/mm2以上の引張
強さを有する高強度材を得ることは難しく、また、焼入
れままの鋼は引張強さは高いが降伏点が低く、機械構造
用鋼として使用すると、使用中に応力緩和が生じるから
である。焼入れままの組織では、耐遅れ破壊性、靱性、
加工性などが良好でないという問題もある。
【0035】従って、100kgf/mm2以上の引張強さと優れ
た耐遅れ破壊性を有する鋼を得るためには、加熱温度を
1000〜1200℃とする通常の熱間圧延を行い、圧延終了後
引き続き 850〜1020℃の温度から油焼入れするか、また
は1000〜1200℃の温度域で再加熱してから同様の条件で
焼入れ処理を施して、鋼の組織を低温変態生成物(マル
テンサイトや低温ベイナイト)からなる組織とし、これ
を 200〜680 ℃で30〜60分間加熱した後空冷する焼戻処
理を行った、いわゆる焼入れ焼戻し組織とすることが望
ましい。しかし、本発明鋼は使用中における鋼中への水
素侵入量を低減させて耐遅れ破壊性を向上させるもので
あり、内部組織にそれほど依存しないので、所定の強度
が得られるのであれば必ずしも鋼の内部組織を焼入れ焼
戻し組織とする必要はない。
【0036】
【実施例】表1に示す化学組成の鋼(No.1〜44) を通常
の方法によって溶製した。 No.1〜37は本発明で定める
組成を有する鋼であり、 No.38〜44は、表中で *印を付
した点で本発明鋼の組成から外れる比較鋼である。ま
た、 No.45および46は従来鋼で、それぞれJIS G 4105(1
989)で規定されたSCM440およびJIS G 4103(1989)で規定
されたSNCM616 鋼である。
【0037】これらの鋼のうち、 No.1〜5、 No.9〜
19、 No.23〜27、 No.31、 No.32、No.36〜39、 No.43
および No.44の溶製鋼については、 900〜1100℃で熱間
鍛造および熱間圧延して厚さ15mmの板材とし、 900℃で
45分間加熱して油焼入れし(冷却速度は30℃/sec)、次
いで 420℃で45分間焼戻して空冷することにより、その
組織が焼入れ焼戻し組織となり、引張強さが100kgf/mm2
以上となるように調整した。 No.45および46の従来鋼に
ついても同様の焼入れ焼戻し処理を行った。表1では
「QT」として表示している。
【0038】No.7、 No.21、 No.29、 No.34および N
o.41の溶製鋼については、上記と同じ条件で熱間鍛造お
よび熱間圧延した後、やはり同じ条件で焼入れ処理のみ
を行った。表1では「 as Q」として表示している。 N
o.8、 No.22、 No.30、 No.35および No.42の溶製鋼に
ついては、上記と同じ条件で熱間鍛造および熱間圧延し
た後、Ar3変態点から 400〜500 ℃までを10〜15℃/sec
の冷却速度で冷却し、その後は空冷した。表1では「加
速冷却」として表示している。また、 No.6、No.20、
No.28、 No.33および No.40の溶製鋼については、上記
と同じ条件で熱間鍛造および熱間圧延したままで、熱処
理を行わなかった。表1では「圧延まま」として表示し
ている。
【0039】これらの鋼について、定荷重試験方法によ
り遅れ破壊性を調査した。すなわち、図2に示す形状お
よび寸法の試験片を切り出し、これを図3に示す定荷重
試験機に取り付け、pH=2のワルポール液(塩酸と酢酸
ナトリウム水溶液の混合液、液温:25℃)中でおもり6
により静荷重(引張応力:100kgf/mm2)をかけるととも
に試験片1と白金製の対極2の間にポテンシオスタット
3を用いて試験片1を陰極として定電流(1mA/cm2)を
流し、 750時間経過後の破断の発生の有無を調べた。
【0040】試験結果を表2に示す。定荷重試験(試験
時間:750h)の結果、破断しなかったものは○、破断し
たものは×で表示した。なお、同表には、各鋼について
の引張強度も示した。また、代表的鋼についてシャルピ
ー試験、高温圧縮試験および定荷重試験を行い、得られ
たシェルフエネルギー、変形に必要な応力および破断時
間も示した。定荷重試験の条件は、各鋼種について行っ
た前記の定荷重試験の条件と同じである。定荷重試験に
おいて、試験環境のpH=2というのは材料が実際に使用
される環境において生じる可能性のある最も厳しい環境
に相当する。従って、この試験結果は実際の使用環境の
うちで最も厳しい環境下における耐遅れ破壊性を評価で
きるものと考えられる。
【0041】表2の結果から明らかなように、本発明鋼
(No.1〜44) は耐遅れ破壊性に優れており、かつ100kgf
/mm2以上の引張強さを有している。また、Niを添加した
No.14、23、32および37の鋼では、Niを添加していない
No.2および No.10の鋼に比べて靱性の向上とともに熱
間での変形に必要な応力の低下(熱間加工性の改善)が
認められ、Ti、NbおよびVの1種以上を添加した No.1
8、25および37の鋼、およびBを添加した No.32および3
7の鋼では定荷重試験における破断時間の延長(耐遅れ
破壊性の向上)が認められた。
【0042】前述したように定期補修または取り替えを
前提とし、どの程度の耐遅れ破壊性が必要とされるのか
が明確な用途に用いられる鋼として、高価なMoを添加し
ない本発明の機械構造用鋼は極めて好適である。
【0043】
【表1(1)】
【0044】
【表1(2)】
【0045】
【表1(3)】
【0046】
【表2(1)】
【0047】
【表2(2)】
【0048】
【表2(3)】
【0049】
【発明の効果】本発明鋼は耐遅れ破壊性に優れ、かつ10
0kgf/mm2以上の引張強さを有し、しかもこれまでの機械
構造用鋼に比べて低コストで生産できる経済性に優れた
機械構造用鋼である。この鋼は、一定期間内での遅れ破
壊発生のおそれがなく、定期補修または取り替えを前提
とした、例えば土木、鉱山機械類のバケット、大型ダン
プトラックの荷台、ブルドーザーの排土板など、大型機
械の摩耗部に用いられる素材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】Mo非含有鋼とMo含有鋼におけるCrの含有量と水
素透過係数の関係を示す図である。
【図2】実施例の定荷重試験で用いた試験片の形状およ
び寸法(単位:mm)を示す図で、(イ)は試験片の全体
図、(ロ)は試験片のノッチ部((イ)図のA部)の形
状の詳細である。
【図3】定荷重試験機の概略構成図である。
【符号の説明】
1:試験片、2:対極、3:ポテンシオスタット、4:
ポンプ、5:恒温槽、6:おもり、7:加熱炉(部
分)。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.05〜
    0.50%、Mn:0.30〜2.00%、Cu:0.10〜1.00%、Cr:0.
    10〜1.50%、Al:0.01〜0.10%を含有し、残部はFeおよ
    び不可避不純物からなり、不純物中のMoが0.01%以下、
    Pが 0.015%未満、Sが0.01%未満であることを特徴と
    する耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
  2. 【請求項2】請求項1に記載の成分に加えて、更にNi:
    0.05〜0.50重量%を含有し、残部はFeおよび不可避不純
    物からなり、不純物中のMoが0.01%以下、Pが 0.015%
    未満、Sが0.01%未満であることを特徴とする耐遅れ破
    壊性に優れた機械構造用鋼。
  3. 【請求項3】請求項1に記載の成分に加えて、更にNb:
    0.01〜0.10重量%、Ti:0.01〜0.10重量%、V:0.01〜
    0.10重量%およびB:0.0002〜0.0020重量%の中の1種
    以上を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
    不純物中のMoが0.01%以下、Pが 0.015%未満、Sが0.
    01%未満であることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた
    機械構造用鋼。
  4. 【請求項4】請求項1に記載の成分に加えて、更にNi:
    0.05〜0.50重量%ならびにNb:0.01〜0.10重量%、Ti:
    0.01〜0.10重量%、V:0.01〜0.10重量%およびB:0.
    0002〜0.0020重量%の中の1種以上を含有し、残部はFe
    および不可避不純物からなり、不純物中のMoが0.01%以
    下、Pが 0.015%未満、Sが0.01%未満であることを特
    徴とする耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
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