JPH08209289A - 耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼 - Google Patents

耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼

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JPH08209289A
JPH08209289A JP1758995A JP1758995A JPH08209289A JP H08209289 A JPH08209289 A JP H08209289A JP 1758995 A JP1758995 A JP 1758995A JP 1758995 A JP1758995 A JP 1758995A JP H08209289 A JPH08209289 A JP H08209289A
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Japan
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steel
delayed fracture
fracture resistance
hydrogen
machine structural
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JP1758995A
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Naoyuki Kuratomi
直行 倉富
Takahiro Kushida
隆弘 櫛田
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Nippon Steel Corp
Original Assignee
Sumitomo Metal Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼を提供す
る。 【構成】重量%で、C:0.20〜0.50%、Si:0.50〜2.00
%、Mn:0.50%未満、P:0.015 %以下、S:0.01%以
下、Cu:0.10〜1.00%、Cr:1.50〜5.00%、Mo+W:0.
05〜1.00%、Al:0.01〜0.10%、Nb:0.005 〜0.20%、
Ni:0.05〜0.50%、V:0.01〜0.30%を含有し、かつ、
Mo≧W≧0.01%およびCu+Mo+W≧0.4 %を満たし、残
部は実質的にFeおよび不可避的不純物からなる耐遅れ破
壊性に優れた機械構造用鋼。これらの成分に加えて更
に、Zr:0.01〜0.15%、Ti:0.01〜0.10%およびB:
0.003〜0.0050%のうちの1種以上を含有していても良
い。また、組織は焼入れ焼戻し組織であることが望まし
い。 【効果】定期的な取り替えを前提とした140kgf/mm2以上
の引張強さを持つ機械構造用鋼を得ることができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、140kgf/mm2以上の引張
強さを有し、かつ、耐遅れ破壊性に優れた高張力ボルト
やPC鋼棒、更には大型機械用の高張力鋼板として使用
される機械構造用鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、特に構造物の大型化、自動車やト
ラックおよび土木・鉱山機械などの軽量化に伴い、今ま
で以上に高強度な機械構造用鋼、特に高張力ボルトやP
C鋼棒の開発が必要とされている。
【0003】従来、一般に使用されている機械構造用鋼
は、引張強さ100kgf/mm2レベルでは例えば、 0.4%C−
1.05%Cr−0.23%Moの組成を有するJIS G 4105(1989)に
規定されたSCM440の低合金鋼、引張強さ130kgf/mm2レベ
ルでは、例えば、0.17%C−3%Ni− 1.6%Cr− 0.5%
Moの組成を有するJIS G 4103(1989)に規定されたSNCM61
6 の低合金鋼の熱間圧延材に焼入れ焼戻し処理を施すこ
とによって製造されている。また、引張強さ174kgf/mm2
レベルのものは、上記の低合金鋼の熱間圧延材に熱処理
条件を変えて焼入れ焼戻し処理を施すことによって製造
されている。しかしこれらの機械構造用鋼を実用に供し
た場合、使用中に遅れ破壊を生じることがあるため、高
張力ボルトやPC鋼棒を始めとして自動車や土木用機械
の重要保安部品として用いるに際し、品質の安定性に欠
けることが問題となっていた。
【0004】なお、遅れ破壊とは静荷重下におかれた鋼
がある時間経過後に突然脆性的に破断する現象であり、
外部環境から鋼中に侵入した水素による一種の水素脆性
とされている。
【0005】このようなことから、上記の機械構造用鋼
においては、今のところその強度レベルを引張強さで10
0kgf/mm2以下にすることが実用上望ましいとされてい
る。
【0006】これに対して、上記の通常の低合金鋼より
耐遅れ破壊性の優れた鋼として、例えば、18%Ni−7.5
%Co−5%Mo− 0.5%Ti− 0.1%Alの組成を有する18%
Niマルエージング鋼があるが、極めて高価であるために
経済性の観点から用途が限られている。そこで、経済性
を考慮した高強度かつ耐遅れ破壊性に優れた構造用鋼お
よび高強度ボルト用鋼が、例えば、特開昭58−84960
号、同61−117248号、同58−157921号および同58−6121
9 号の各公報で提案されている。更に、特開平3−2437
45号公報や特開平2−145746号公報などに、各種成分を
添加して耐遅れ破壊性を改善した鋼およびその製造法が
提案されているが、靱性や水素透過性の点で必ずしも十
分とは言えない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記した産業
界の要請に応えるべく、140kgf/mm2以上の引張強さを有
し、かつ耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼を提供する
ことを目的とするもので例えば、橋梁用高張力ボルトな
どのように恒久的に使用するのではなくて、定期的な補
修あるいは取り替えを前提とし、一定期間内に遅れ破壊
の発生の恐れのない140kgf/mm2以上の引張強さを有する
機械構造用鋼を安価に提供することを目的とする。この
ような用途としては、各種構造物用高張力鋼、自動車、
土木機械、産業機械用のボルト用鋼および高張力鋼板が
あり、これらに本発明鋼を使用することによって上記の
産業界の要求に応えることができる。
【0008】すなわち、本発明は所定の期間ならば遅れ
破壊の発生する危険がなく、従って定期的な取り替えを
前提として安全に使用できる140kgf/mm2以上の引張強さ
を有する機械構造用鋼を安価に提供することを目的とし
てなされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】これまでにCuとMoを複合
添加した耐遅れ破壊性に優れた構造用鋼は開発されてい
るが、CuとMoの複合添加による耐遅れ破壊性向上に対す
る機構の解明は充分ではなかった。そこで本発明者は、
先ずCuおよびMoの添加がそれぞれ耐遅れ破壊性に及ぼす
影響について研究した結果、(a)Cuは腐食速度を下げ
ることにより水素の侵入を抑制して、また、(b)Moは
水素過電圧を下げることにより水素の侵入を抑制して、
それぞれ遅れ破壊の原因である水素脆化を防止すること
により耐遅れ破壊性を向上するという知見を得た。この
結果、上記のCuとMoを複合添加した鋼の優れた耐遅れ破
壊性は、前記の異なる水素侵入抑制作用が重畳した効果
によるものであることが推察された。
【0010】そこで、更なる耐遅れ破壊性の向上を図る
ため、CuとMoの複合添加鋼を用いて研究を重ねたとこ
ろ、上記したCuとMoの複合添加による水素侵入抑制作用
の相乗効果には、2つの元素の各水素侵入抑制作用が発
現される過程において以下のような相違があるため、自
ずと限界があることがわかった。
【0011】すなわち、自然電位曲線を測定したとこ
ろ、図1に示すようにCuおよびMoを含有しないベース鋼
の場合と比べて、Cu添加鋼の場合は自然電位はほぼ不
変で自然電位のシフトがほとんど認められないのに対
し、Mo添加鋼の場合には自然電位の貴側への大きなシ
フトが生じた。この結果、CuとMoのお互いの水素侵入抑
制作用が相殺されることとなって、単にCuとMoを複合添
加しただけでは水素侵入抑制作用には限界が生ずること
が新たに判明したのである。
【0012】このため本発明者は、前記したCuとMoの複
合添加による水素侵入抑制作用の相乗効果における限界
を突破して、更なる耐遅れ破壊性の向上を図ることを目
的に実験、研究を積み重ねた結果、図1に示すように
W添加鋼では自然電位の貴側へのシフトがMo添加鋼の場
合より小さく、かつ、WがMoと同じ機構の水素侵入抑
制作用を有することを知見した。
【0013】一方、本発明者は上記のベース鋼、Cu添加
鋼、Mo添加鋼およびW添加鋼の4種鋼の水素透過係数の
最大値を測定した。その結果を図2に示す。ここで、水
素透過係数とは水素の鋼中侵入の指標となるものであ
り、この係数の大きい鋼ほど水素が鋼中に侵入し易い。
その測定は電気化学的水素透過法により行った。すなわ
ち、薄い板状試験片の片面から水素を侵入させ、反対側
に拡散透過してくる水素原子を水酸化ナトリウム水溶液
中でイオン化した。そして、そのイオン化電流から水素
の透過係数を求めた。
【0014】図2によれば、W添加鋼ではMo添加鋼に比
べて若干水素透過係数が大きいものの、水素侵入抑制作
用を有することが明らかである。
【0015】なお図1、2の結果は、ベース鋼(重量%
で、C:0.38%、Si:1.02%、Mn:0.28%、P:0.006
%、S:0.009 %、Cr:3.0 %、Al:0.10%、Nb:0.10
3 %、Ni:0.39%、V: 0.22 %)と、これにCu、Moお
よびWを単独に各0.3 %、0.5 %、0.5 %ずつ添加した
鋼でのものである。
【0016】そこで次に、CuとMoの複合添加鋼に更にW
を追加添加して実験、研究を重ねた結果、図3に示すよ
うに、CuとMoの複合添加鋼にWを追加添加すれば水素侵
入抑制効果が飛躍的に向上し、単なるCuとMoの複合添加
鋼の場合よりも耐遅れ破壊性の向上に有効であるという
新しい知見を得た。なお、図3の結果は、重量%で、
C:0.38%、Si:1.02%、Mn:0.28%、P:0.006 %、
S:0.009 %、Cr:3.0%、Al:0.10%、Nb:0.103
%、Ni:0.39%、V: 0.22 %の成分のものでCuとMoを
それぞれ0.05〜1.0 %、0.05〜1.0 %の範囲で変えてCu
+Moの量を調整した上で、Wを無添加または0.1 重量%
添加した鋼でのものである。
【0017】また、これまでに低P・低S化による粒界
偏析の軽減および清浄化が耐遅れ破壊性を向上すること
が知られており、本発明鋼においてもPおよびSの含有
量を低下させて、耐遅れ破壊性の一層の向上を図った。
【0018】本発明は上記の知見に基づいてなされたも
ので、その要旨は下記(1 )〜(5)の耐遅れ破壊性に
優れた機械構造用鋼にある。
【0019】(1 )重量%で、C:0.20〜0.50%、Si:
0.50〜2.00%、Mn:0.50%未満、Cu:0.10〜1.00%、C
r:1.50〜5.00%、Mo+W:0.05〜1.00%、Al:0.01〜
0.10%、Nb:0.005 〜0.20%、Ni:0.05〜0.50%、V:
0.01〜0.30%を含有し、不純物としてのPは0.015 %以
下、Sは0.01%以下であり、かつ、Mo≧W≧0.01%およ
びCu+Mo+W≧0.4 %を満たし、残部は実質的にFeおよ
び不可避的不純物からなる耐遅れ破壊性に優れた機械構
造用鋼。
【0020】(2 )上記(1 )に記載の成分に加えて更
に、重量%で、0.01〜0.15%のZrを含有し、かつ、Mo≧
W≧0.01%およびCu+Mo+W≧0.4 %を満たし、残部は
実質的にFeおよび不可避的不純物からなる耐遅れ破壊性
に優れた機械構造用鋼。
【0021】(3 )上記(1 )に記載の成分に加えて更
に、重量%で、0.01〜0.10%のTiおよび0.0003〜0.0050
%のBのうちの1種以上を含有し、かつ、Mo≧W≧0.01
%およびCu+Mo+W≧0.4 %を満たし、残部は実質的に
Feおよび不可避的不純物からなる耐遅れ破壊性に優れた
機械構造用鋼。
【0022】(4 )上記(1 )に記載の成分に加えて更
に、重量%で、0.01〜0.15%のZr、ならびに0.01〜0.10
%のTiおよび0.0003〜0.0050%のBのうちの1種以上を
含有し、かつ、Mo≧W≧0.01%およびCu+Mo+W≧0.4
%を満たし、残部は実質的にFeおよび不可避的不純物か
らなる耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
【0023】(5 )焼入れ焼戻し組織からなる上記(1
)から(4 )までのいずれかに記載の耐遅れ破壊性に
優れた機械構造用鋼。
【0024】
【作用】以下に、本発明における鋼の化学組成および組
織を上記のように限定する理由について述べる。なお、
「%」は「重量%」を意味する。
【0025】(A)鋼の化学組成 C:Cは炭化物を形成し析出強度によって鋼を強化し、
また、焼入時に安定なマルテンサイト組織を生成させて
変態強度によっても鋼を強化するので高強度化する上で
必須の元素である。また、焼入性の増加および結晶の細
粒化にも有効な成分である。0.20%未満では焼入性の劣
化をきたし、また、炭化物の析出量が少なく強度を損な
う。一方、0.50%を超える場合には、焼入時の焼割れ感
受性が増加し、加えて鋼が著しく硬化して延性、溶接性
および加工性が低下する。従って、C量は0.20〜0.50%
とする。
【0026】Si:Siは鋼の脱酸および強度増加のために
有効な元素である。特に本発明鋼のような高強度の鋼に
対してはSiの強化作用は有効である。その含有量が 0.5
%未満では前記作用に所望の効果が得られず、他方その
含有量が 2.0%を超えると鋼の清浄性が損なわれ靱性が
劣化する場合があるため、本発明ではその含有量を 0.5
〜2.0 %と定めた。
【0027】Mn:Mnは脱酸のほか、焼入性向上に有効な
元素ではあるが、多量に含有させると粒界脆化現象が生
じ、遅れ破壊の発生を促進する。更にMnはSと結合し
て、これが割れの起点となることからも、耐遅れ破壊性
の改善のためには極力その含有量を低下させなければな
らない。従って、耐遅れ破壊性の改善を目的とする本発
明ではMnの含有量を 0.50 %未満とした。なおMn含有量
は実質的に0でもよい。
【0028】Cu:Cuは外部環境からの鋼中への水素侵入
を抑制すると共に、Nb、Mo、WおよびCrと複合添加する
ことよって鋼の焼戻し軟化抵抗を著しく高めることがで
きるので高い焼戻し温度が採れることと相まって、耐遅
れ破壊性を向上する作用を有する。しかしその含有量が
0.10%未満ではその効果が小さく、一方、1.00%を超え
て含有させると溶接性、熱間加工性および靱性の劣化を
きたすので、本発明ではCuの含有量を0.10〜1.00%とし
た。
【0029】Cr:Crは鋼の焼入性を向上させ、かつ鋼に
焼戻し軟化抵抗を付与する作用がある。
【0030】特に、NbやCuとの複合添加で著しい焼戻し
軟化抵抗を鋼に付与するが、その添加量が1.50%未満で
はCuとMoの複合添加による水素侵入抑制効果を損なうこ
ととなり、Wを更に追加添加しても耐遅れ破壊性の飛躍
的向上が果たせない。一方、5.00%を超えて添加しても
前記効果が飽和するし、またCrは高価な元素であるた
め経済性をも考慮して、本発明ではCrの含有量を1.50〜
5.00%と定めた。
【0031】Mo+W:MoとWは共に同じ機構で水素の鋼
中侵入を抑制する作用を有する。その機構は既に述べた
ようにCuとは異なるものである。MoとWはまた、鋼の焼
入性を向上させる作用や、鋼の焼戻し軟化抵抗性を増大
させて高温焼戻しを可能にし耐遅れ破壊性を向上させる
作用をも有する。しかし、その含有量がMo+Wで0.05%
未満では前記の水素侵入抑制作用に所望の効果が得られ
ず、1.00%を超えて添加しても前記効果が飽和し、加え
てMoとWはいずれも高価な元素であるので経済性をも考
慮して、本発明ではMo+Wの含有量を0.05〜1.00%と定
めた。なお後で述べるようにMoとWの量的関係について
は、Mo≧W≧0.01%とする必要がある。
【0032】Al:Alは鋼の脱酸の安定化、均質化および
細粒化を図るのに有効であるが、0.01%未満では所望の
効果を得ることができず、一方、0.10%を超えて含有さ
せてもその効果は飽和してしまい、また介在物の増大に
より疵が発生し靱性も劣化するので、本発明ではその含
有量を0.01〜0.10%と定めた。
【0033】Nb:Nbを添加することにより鋼における細
粒化が促進され、粒界偏析が軽減されて耐遅れ破壊性が
一段と向上する。しかし、 0.005%未満では所望の効果
が得られず、一方、0.20%を超えると靱性、延性などが
損なわれる。従って、その含有量を 0.005〜0.20%とし
た。
【0034】Ni:Niは鋼の靱性を高めるのに有効である
と共に、Cuチェッキングによる熱間加工性の低下を防ぐ
効果がある。しかしその含有量が0.05%未満では前記作
用に所望の効果が得られない。一方、0.50%を超えると
その効果が飽和し、またNiは高価な合金元素であるため
経済性を考慮して本発明ではその含有量を0.05〜0.50%
とした。
【0035】V:Vの添加はNbの場合と同様に鋼の細粒
化の促進作用があり、粒界偏析の軽減により耐遅れ破壊
性を一段と向上させる。また、Vは鋼に焼戻し軟化抵抗
を付与する作用を有するため、高い焼戻し温度の採用を
可能にすることによっても耐遅れ破壊性を向上させる。
しかし、添加量が0.01%未満では所望の効果が得られ
ず、一方、0.30%を超えると靱性が損なわれる。従っ
て、Vの含有量を0.01〜0.30%とした。
【0036】P:Pはいかなる熱処理を施してもその粒
界偏析を完全に消滅することはできず、かつ粒界強度を
低下させ耐遅れ破壊性を劣化させるため、本発明では不
純物としてのPの上限を 0.015%とした。
【0037】S:Sは前述したようにMnと結合して割れ
の起点となり、更に単独でも粒界に偏析して遅れ破壊の
原因となる水素脆化を促進するため、極力その含有量を
低く制限することが必要である。従って、本発明では不
純物としてのS含有量を0.01%以下とした。
【0038】Mo≧W≧0.01%:既に述べたように、Moと
Wは同じ機構で水素の鋼中侵入を抑制する作用を有す
る。図4はCuおよびW以外の元素の含有量は一定とし
て、すなわち、C:0.38%、Si:1.02%、Mn:0.28%、
P:0.006 %、S:0.009 %、Cr:3.0 %、Mo:0.4
%、Al:0.10%、Nb:0.103 %、Ni:0.39%、V: 0.2
2 %とし、CuおよびWの含有量を種々変化させて水素透
過量を測定した結果を示す図である。この図から明らか
なように、CuとMoの複合添加鋼に追加含有させるWの量
が0.30%、0.35%、0.40%と増えるにつれて水素透過量
が少なくなる、換言すれば鋼中への水素侵入抑制作用が
大きくなる。しかし、Wの含有量が0.45%となってMoの
含有量を超えると、逆に鋼中への水素侵入抑制作用が劣
化する。従って、Mo≧Wとする必要がある。一方、Cuと
Moの複合添加鋼に追加含有させるWの量が0.01%未満で
は、単なるCuとMoの複合添加鋼の場合と比較して水素侵
入抑制効果に差がなく、CuとMoの複合添加による水素侵
入抑制作用の相乗効果における限界を突破できなくな
る。従って、W≧0.01%とする必要がある。
【0039】Cu+Mo+W:Cu、MoとWの複合添加は本発
明において重要な要素である。CuとMoという異なる水素
侵入抑制作用を持つ元素を複合添加して得られる前記作
用の重畳効果を、Wを追加添加することにより、より一
層向上させることができるからである。しかし、図5に
示すように、その合計含有量が 0.4%未満では所望の効
果が得られない。従って、耐遅れ破壊性の飛躍的向上を
目的とする本発明では、Cu、MoとWの合計含有量を 0.4
%以上とした。なお図5で用いた鋼は、C:0.38%、S
i:1.02%、Mn:0.28%、P:0.006 %、S: 0.009
%、Cr:3.0 %、Al:0.10%、Nb:0.103 %、Ni:0.39
%、V:0.22%の成分のものでCuを0.01〜1.00%、Mo+
Wを0.05〜1.00%の範囲(Moは0.025 〜0.99%、Wは0.
01〜0.5 %)で変えて、Cu+Mo+Wの量を調整した。
【0040】本発明の耐遅れ破壊性に優れた機械構造用
鋼には、上記の成分に加えて更に、Zr、TiおよびBのう
ちの1種以上を含んでいても良い。これらの合金元素の
作用効果と望ましい含有量は下記の通りである。
【0041】Zr:Zrは鋼中に炭化物を球状微細に分散さ
せて耐遅れ破壊性を一層改善させる効果を有するため、
特に高強度鋼の場合に高い耐遅れ破壊性を確保する目的
で含有させるが、0.01%未満ではその効果が小さく、一
方、0.15%を超えて含有させると靱性劣化をきたすよう
になる。従って、Zrを添加する場合には0.01〜0.15%の
含有量とするのがよい。
【0042】TiおよびB:TiおよびBは鋼の焼入性を一
段と高めて高強度化し、かつ粒界を強化することにより
耐遅れ破壊性を一層改善する作用を有している。特に製
品寸法が大きい場合には高強度を確保する目的で添加す
るが、それぞれTi:0.01%未満、B:0.0003%未満では
所望の効果が得られず、また、Ti、BはそれぞれTi:0.
10%、B:0.0050%を超えて含有させると、鋼の靱性を
劣化するようになる。従って、これらの合金元素を1種
以上添加する場合は、Ti:0.01〜0.10%、B:0.0003〜
0.0050%の含有量とするのが良い。
【0043】(B)鋼の組織 上記した化学組成を有する鋼であっても、140kgf/mm2
上の引張強さと良好な耐遅れ破壊性とを具備させるには
焼入れ焼戻し組織とするのが望ましい。そのための熱処
理例としては、通常の熱間圧延 (加熱温度:1000〜1250
℃) を行い、圧延後、直ちにAr3 点以上の温度(好ま
しくは850 〜1020℃)から水や油で焼入れするか、また
は850 〜1050℃、好ましくは920 〜1020℃に再加熱して
から水や油で焼入れを施して低温変態生成物 (マルテン
サイトやベイナイト) となし、これをAc1点以下の温度
で焼戻しする処理がある。しかし、本発明鋼の組織は、
必ずしも焼入れ焼戻し(QT)組織である必要はない。
何故ならば、本発明鋼は使用中の水素侵入量を低減させ
て耐遅れ破壊性を向上させるものであるため内部組織に
それほど依存しないからである。例えば、熱間圧延のま
ま、または焼入れのまま(AsQ)などの組織でも後述の
実施例に示すように、140kgf/mm2以上の引張り強さと優
れた耐遅れ破壊性を示す。
【0044】ただし、焼入れままの鋼は引張強さは高い
が、降伏点が低く機械構造用鋼として使用する場合に使
用中に応力緩和の増大が生じるという問題がある。
【0045】従って、鋼に所定の強度と耐遅れ破壊性を
付与するためには焼入れ後焼戻し処理をして、鋼の組織
を焼入れ焼戻し組織(主として焼戻しマルテンサイト組
織)とするのが望ましい。
【0046】
【実施例】次に本発明を一実施例により比較鋼と対比し
ながら説明する。なお、これらの実施例は本発明の効果
を示す例示であって、本発明の技術的範囲を何ら制限す
るものではない。まず通常の方法によって、下記表1〜
5に示す成分組成の鋼(No.1〜44)を50kg大気溶解炉に
て溶製した。鋼1〜37は本発明の組成を有しているもの
であり、鋼38〜44は表5中*印を付した点で、本発明の
範囲から外れた組成の鋼である。また、鋼45〜47は従来
鋼であり、45は JIS G 4105(1989) の SCM440 鋼、46は
JIS G 4103(1989) の SNCM616鋼、47は特開昭58−8496
0 号記載の鋼である。
【0047】鋼1〜4、8〜16、20〜24、28〜32、36〜
39、43および44は、1100〜1200℃で熱間鍛造および熱間
圧延して厚さ15mmの板材とし、 950℃に再加熱して45分
保持し油焼入れした後、 600℃で焼戻して空冷し、その
組織が焼入れ焼戻し組織で、その引張強さが140kgf/mm2
以上となるように調整して遅れ破壊性を調査した。ま
た、45〜47の従来鋼についても同様の焼入れ焼戻し処理
を行った。すなわち45、46および47についてそれぞれ 8
70、 900、 950℃に再加熱して45分保持した後、油焼入
れし、その後45、46は500 ℃で、47は600 ℃で焼戻しを
施した。更に、上記以外の熱間圧延まま材(No.5、17、
25、33、40) 、焼入れまま材(No.6、18、26、34、41)
、熱間圧延後加速冷却を施した鋼(No.7、19、27、3
5、42) についても調査した。加速冷却条件は 400〜500
℃までを10〜15℃/sの冷却速度となるように水冷をし
た。
【0048】なお遅れ破壊性の調査は、定荷重試験方法
によった。すなわち、図6に示すような形状、寸法の試
験片1を図7に示すように定荷重試験機8にセットし
て、pH=2のワルポール液 (塩酸と酢酸ナトリウム水溶
液の混合液) 2をポンプ3で循環させた環境下で 750時
間の間重錘4で静荷重 (引張応力:140kgf/mm2) をか
け、試験片1を陰極として対極6との間に定電流 (1mA
/cm2) を流して試験片1に水素をチャージしながら、破
断の発生の有無を観察した。試験温度は温度調節装置7
で25℃に保持した。この試験結果は表6〜10に、破断
しなかったものは○、破断したものは×で各鋼の強度レ
ベルを添えて示した。なお、図6中において数字はmmの
単位の長さを示す。
【0049】試験環境としてpH=2は、実使用環境にお
いて実現可能な最も厳しい環境に相当する。したがっ
て、この結果は実使用のうち最も厳しい環境での耐遅れ
破壊性を評価するものと考えられる。試験温度としての
25℃は遅れ破壊試験を行う上での一つの標準温度であ
る。
【0050】表6〜10より、本発明の鋼は定荷重破断
時間がいずれも 750時間を超えていることから耐遅れ破
壊性に優れていることが明らかである。また、靱性の点
ではシャルピー試験のシェルフエネルギ値が高くなって
いることから、および延性の点では高温圧縮試験の変形
必要応力が小さくなっていることから、それぞれ改善さ
れていることがわかる。
【0051】すなわち、本発明によると140kgf/mm2以上
の引張強さを有する機械構造用鋼を得ることができ、前
述したように定期補修または取り替えを前提とし、必要
な耐遅れ破壊性の程度の明確な用途の鋼には、本発明に
おける機械構造用鋼を広範囲に使用できる。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
【表7】
【0059】
【表8】
【0060】
【表9】
【0061】
【表10】
【0062】
【発明の効果】上記したごとく、本発明は140kgf/mm2
上の引張強さを有し、かつ耐遅れ破壊性に優れた機械構
造用鋼で、定期補修または取り替えを前提とした一定期
間内での遅れ破壊発生の恐れのない、特に高張力ボルト
やPC鋼棒、更には大型機械用の高張力鋼板に使用され
る機械構造用鋼に安価な低合金高強度鋼として提供する
ことができる産業上有効な発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】Cu、MoおよびWを含まないベース鋼、Cu添加
鋼、Mo添加鋼およびW添加鋼のそれぞれにおける自然電
位の時間変化を示す図である。
【図2】Cu、MoおよびWを含まないベース鋼、Cu添加
鋼、Mo添加鋼およびW添加鋼のそれぞれにおける水素透
過係数の最大値を示す図である。
【図3】Cr:3%を含有するW添加鋼およびW無添加鋼
における、(Cu+Mo)含有量と水素透過量との関係を示
す図である。
【図4】0.4%Moを含有する各種Cu添加鋼にWを追加
添加した場合のW含有量と水素透過量との関係を示す図
である。
【図5】(Cu+Mo+W)含有量と水素透過量との関係を
示す図である。
【図6】実施例における定荷重試験で用いた試験片とノ
ッチの形状および寸法を示す図であり、(イ)は試験片
を示し、(ロ)は試験片のノッチ部の詳細を示す。
【図7】定荷重試験方法の概要を示す図である。
【符号の説明】
1:試験片、2:ワルポール液、3:ポンプ、4:重
錘、5:ポテンシオスタット、6:対極、7:温度調節
装置、8:定荷重試験機

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、C:0.20〜0.50%、Si:0.50〜
    2.00%、Mn:0.50%未満、Cu:0.10〜1.00%、Cr:1.50
    〜5.00%、Mo+W:0.05〜1.00%、Al:0.01〜0.10%、
    Nb:0.005 〜0.20%、Ni:0.05〜0.50%、V:0.01〜0.
    30%を含有し、不純物としてのPは0.015 %以下、Sは
    0.01%以下であり、かつ、Mo≧W≧0.01%およびCu+Mo
    +W≧0.4 %を満たし、残部は実質的にFeおよび不可避
    的不純物からなる耐遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
  2. 【請求項2】請求項1に記載の成分に加えて更に、重量
    %で、0.01〜0.15%のZrを含有し、かつ、Mo≧W≧0.01
    %およびCu+Mo+W≧0.4 %を満たし、残部は実質的に
    Feおよび不可避的不純物からなる耐遅れ破壊性に優れた
    機械構造用鋼。
  3. 【請求項3】請求項1に記載の成分に加えて更に、重量
    %で、0.01〜0.10%のTiおよび0.0003〜0.0050%のBの
    うちの1種以上を含有し、かつ、Mo≧W≧0.01%および
    Cu+Mo+W≧0.4 %を満たし、残部は実質的にFeおよび
    不可避的不純物からなる耐遅れ破壊性に優れた機械構造
    用鋼。
  4. 【請求項4】請求項1に記載の成分に加えて更に、重量
    %で、0.01〜0.15%のZr、ならびに0.01〜0.10%のTiお
    よび0.0003〜0.0050%のBのうちの1種以上を含有し、
    かつ、Mo≧W≧0.01%およびCu+Mo+W≧0.4 %を満た
    し、残部は実質的にFeおよび不可避的不純物からなる耐
    遅れ破壊性に優れた機械構造用鋼。
  5. 【請求項5】焼入れ焼戻し組織からなる請求項1から4
    までのいずれかに記載の耐遅れ破壊性に優れた機械構造
    用鋼。
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