JPH06102863B2 - 経編編成によるカットパイル生地 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 ［産業上の利用分野］ 本発明は、ダブルラッセル機のカットパイル専用機によ
り経編編成したカットパイル生地、特にパイル糸にスパ
ン単糸を用いて編成したカットパイル生地に関するもの
である。

［従来の技術とその問題点］ 従来より、主にパイル面を起毛して毛布等として好適に
用いられるカットパイル生地において、そのパイルに使
用される糸は双糸あるいはフィラメント等を絡ませた複
合糸であり、純粋のスパン単糸をパイル糸に用いたカッ
トパイル生地は存在しなかった。その理由は、現存する
ダブルラッセル機のカットパイル専用機による編成にお
いて通常のスパン単糸をパイル糸として用いた場合、後
述するように編針の近くで隣同士の糸が互いに絡み付い
て糸切れが生じ、編地の編立てが全く不可能となるから
である。

すなわち、上記のカットパイル生地の編成は、主として
第１図に示す構造のカットパイル専用のダブルラッセル
機を使用するもので、（１）（２）は前後針床の編針
（ニードル）、（３）（３）は前後針床のトリックプレ
ート、（４）（４）はフロント側およびバック側のステ
ッチコーム、（L1）（L2）はフロント側の挿入糸筬と鎖
糸筬、（L3）はパイル糸の筬、（L4）（L5）はバック側
の鎖糸筬と挿入糸筬を示し、筬（L1）（L2）と（L4）
（L5）とで挿入糸および鎖糸を前後針床にそれぞれ導い
て前後つまり表裏両面に地組織を形成するとともに、中
央部にある筬（L3）によりパイル糸を前後針床に導いて
パイル糸を編針（１）（２）にラッピングさせて編成す
るものであり、こうして編成された表裏両地組織間の中
央で前記パイル糸をカットし、これを編成後にカットパ
イル面を起毛して毛布等に仕上げるものである。

しかして、上記の編成において、スパン単糸を用いた場
合の糸切れのメカニズムについて検討すると、パイル糸
は針元から筬、ガイドを経て上部に向って延びており、
筬の運動（ラッピング運動）により前後の編針に掛け渡
されるが、その時編針上方のパイル糸に回転が付与され
る。しかもパイル糸は通常2/12″〜2/20″の間隔で配置
されているが、パイル糸がスパン糸である場合には糸か
ら毛羽が出ているため、常に隣同士の糸は毛羽が触れ合
った状態であり、それゆえ、それぞれの糸が前記のラッ
ピング運動によって回転する際に糸の毛羽を互いに巻き
込んで糸同士が引つ付き合い、その結果糸切れを生じる
ことになると考えられる。従ってこのような現象は毛羽
を有さないフイラメント糸では発生しない。また現在一
般にパイル糸として多用されているスパン双糸の場合に
糸切れの問題が生じないということは、スパン双糸は加
撚、解撚に要するトルクが大きいために、上記筬のラッ
ピング運動に伴う撚の伝播が非常に少なくて糸が回転し
難く、それゆえ隣の糸同士が互いに触れあっていても、
糸が回転しないため毛羽の巻き込み現象による糸切れが
発生しないのである。

これに対し、現在スパン単糸として通常一般に使用され
ているＺ撚単糸をパイル糸に用いた場合には、その撚方
向の関係とラッピング方向との関係で、毛羽の巻込み現
象による糸切れが生じ易い。

すなわち、例えば第２図の組織図のごときパイル生地の
編成においては、パイル糸の筬（L3）が、第３図に示す
ようにフロント側およびバック側の針列（Ｆ）（Ｂ）の
編針に対し→→→の順にラッピング運動して編
成される。この際、バック側のおよびの編針部分で
は、ラッピング作用に伴う回転によりＺ撚単糸に対しＳ
撚の解撚方向の撚が生じても、このときの撚の伝播力が
少ないことと、パイル糸筬がバックスイングしたときに
パイル糸供給位置との関係から糸張力が強くなったまま
でオーバラッピングしてフロントスイングに移ることと
により、毛羽同士が触れ合っていても、毛羽が互いに絡
み合う程度はごく小さくなる。またｂ点においてはスイ
ングが直線的に行なわれるので糸の緩みが生じず、さら
にｄ点においては一番長い行程を同一時間で動くために
糸に張力がかかり隣同士の糸に引っ付き合いは生じな
い。しかし、フロント側のおよびの編針部分では、
ラッピング方向が時計回りの方向であるためにラッピン
グ作用に伴う回転によりＺ撚単糸に対しＺ撚つまり加撚
方向の撚が生じ、それゆえ毛羽が互いに絡み合う程度が
強くなり、同時に糸張力が減少した時にオーバラッピン
グしてａ点およびｃ点で糸が僅かに緩むために毛羽が巻
き込まれ、その結果隣同士の糸が激しく引っ付き合って
絡まり、これが糸切れの原因となっている。

そのため、この種カットパイル生地のパイル糸には単糸
よりもかなり高価なスパン双糸を使用しているのが実情
であって、きわめてコスト高なものとなっている。

従ってこの種カットパイル生地の製造に携わる者の共通
の願いとして、コスト低減を図ることから通常のスパン
単糸を使用できることが要望されている。

本発明は、上記に鑑み、ダブルラッセル機により編成さ
れるカットパイル生地として、比較的コスト安価なスパ
ン単糸をパイル糸に使用して構成するために、鋭意研
究、検討を重ねた結果、上記スパン単糸の糸切れは該糸
の撚の方向とラッピング方向とに関係し、前側針床に対
するラッピング方向がスパン単糸の撚方向に対して解撚
方向の撚が生じる方向となる組織にすれば、糸切れ等が
生じないことを知見し、本発明はこの知見に基いてなし
たものである。

［問題点を解決するための手段］ すなわち、本発明は、ダブルラッセル機の前後針床で前
後両地組織が編成されるとともに、パイル糸が前後の針
床の編針にラッピングされて前後両地組織間に掛渡され
て編成され、前後両地組織間でカットされてなるカット
パイル生地として、特に上記の問題点を解決するため
に、前記パイル糸は、スパン単糸よりなり、かつ前側針
床の編針に対するラッピング方向が前記スパン単糸の撚
方向に対し解撚方向の撚が生じる方向となる組織で編成
されて、地組織に編込まれてなることを特徴とするもの
である。

［作用］ 上記の本発明にあっては、パイル糸としてコスト安価な
スパン単糸を用いており、特にこのパイル糸を、前側針
床の編針に対するラッピング方向をスパン単糸の撚方向
に対し解撚方向の撚が生じる方向にした組織で編成して
いるので、スパン単糸のパイル糸に糸切れは生じない。

すなわち、本発明のカットパイル生地の編成において、
フロント側の編針部分ではラッピング作用によってパイ
ル糸であるスパン単糸の撚方向に対して解撚方向の撚が
生じ、パイル糸における撚の伝播力が少なく、隣同士の
糸の毛羽同士が触れ合っていても互いの糸が毛羽を巻き
込む力が小さく、それゆえ仮に糸の張力が緩んでも二本
の糸が引っ付き合う程度は非常に小さくなり、パイル糸
がスパン単糸よりなるものであるにも拘らず、糸切れが
生じないのである。

もちろん、バック側の編針部分においては、スパン単糸
よりなるパイル糸が、バックスイングにより糸張力がか
かったままオーバラッピングし、しかもバック側からフ
ロント側編針部分へのパイル筬の移動が直線的なスイン
グとなるか、あるいはその移動距離が長くかつ速くな
り、糸の張力が緩むことがないので、スパン単糸の撚方
向およびラッピング方向に拘らず、毛羽による隣同士の
糸の絡み合いの程度は極めて少なくなり、糸切れは生じ
ない。

また、パイル糸としてスパン単糸を用いたことにより、
解繊、起毛されたカットパイル面の繰返し圧縮に対する
回復性が、スパン双糸をパイル糸に用いた場合よりも優
れたものとなる。すなわち、下撚と上撚との関係で下撚
が若干戻っているスパン双糸よりもスパン単糸のほうが
解繊され難く、特にパイルの根元までは解繊され難いた
め、スパン双糸の場合よりもパイルに腰があって繰返し
圧縮に対する回復率が優れることになる。

［実施例］ 以下、本発明の１実施例を図面によりながら説明する。

フロント側の挿入糸筬（L1）と鎖糸筬（L2）、パイル糸
筬（L3）およびバック側の鎖糸筬（L4）と挿入糸筬（L
5）のラッピング運動を分解して示す第２図の編組織に
おいて、パイル糸（Ｐ）として、例えば10〜16番単糸で
撚係数45〜90、好ましくは60〜70のＳ撚のスパン単糸を
用いて編成する場合、従来と同様のカットパイル専用の
ダブルラッセル機により、特にフロント側の編針部分に
おいては前記スパン単糸の撚方向に対し解撚方向の撚を
与える方向にラッピングさせて、すなわちラッピング方
向を第３図のごとく時計回りの方向にして編成する。

上記のごとくパイル糸としてＳ撚スパン単糸を用いて、
第３図のごとくラッピングさせて編成すると、フロント
側のおよびの編針部分では、時計回りの方向のラッ
ピング作用に伴って付与される回転がＳ撚単糸に対し解
撚方向の撚を生じさせることになり、糸における撚の伝
播力が少ないために、隣同士の糸の毛羽同士が触れ合っ
ていても互いの糸が毛羽を巻き込む力が小さく、それゆ
えラッピング作用でａ点およびｃ点において糸の張力が
緩んでも二本の糸が引っ付き合う程度は非常に小さくな
り、糸切れが生じることがない。

またバック側のおよびの編針部分では、これらの編
針部分を回る反時計回りの方向のラッピング作用により
付与される回転で、いずれもパイル糸であるＳ撚スパン
単糸に対しＳ撚のつまり加撚方向の撚が生じる。そのた
め糸における撚の伝播力および毛羽の絡みや巻き込みの
程度が大きくなるが、糸張力が強くなった処でオーバラ
ッピングし、しかもの編針部分からの編針部分への
パイル筬のスイングが直線的であって、糸の張力が緩む
ことがないので、ｂ点において隣同士の糸が引っ付き合
う程度はごく小さいものとなる。また〜ｄにおけるア
ンダーラッピングの移動距離が〜ａ、〜ｃの略２倍
であってかつその間をａおよびｃと同一時間で動くため
糸の速さが２倍となり、それゆえ糸の張力は緩まず、隣
の糸同士が引っ付き合う余裕のない間にの編針部分に
達するので、ｄ点において毛羽による隣同士の糸の絡み
合いの程度は極めて少なくなる。従って糸切れの生じる
おそれなく編成できるのである。

そしてこうして編成された表裏両地組織間の中央でパイ
ル糸をカットしかつ必要に応じてカットパイル面を解
繊、起毛して毛布等の製品を得るものである。この解
繊、起毛されたカットパイル面は、スパン双糸をパイル
糸に使用したの場合よりもパイルに腰があって繰返し圧
縮に対する回復率に優れる。すなわち、スパン双糸の場
合、下撚と上撚の撚方向の関係で下撚が若干戻っている
ために、スパン単糸に比して解繊され易く、パイルの根
元まで解繊されてしまい腰が弱くなるが、スパン単糸の
場合は、スパン双糸に比して解繊され難く、特にパイル
の根元まで解繊され難いため、スパン双糸の場合よりも
解繊、起毛されたパイルに腰があって、圧縮回復率も優
れたものとなる。

また、各筬のラッピング運動を分解して示す第４図の編
組織においても、上記同様のスパン単糸をパイル糸に用
いて、フロント側の編針に対し、そのラッピング方向を
スパン単糸の撚方向に対し解撚方向の撚が生じる方向に
して、すなわち、Ｓ撚スパン単糸の場合、時計回りの方
向のラッピング方向にして同様に編成して実施すること
ができる。

この場合、パイル糸の筬（L3）のラッピング運動は第５
図のごとき順で行なわれるが、上記同様に、フロント側
の編針部分ではラッピング作用によって付与される回転
でＳ撚単糸に対してＺ撚の解撚方向の撚が生じるため、
隣同士の糸が毛羽を巻き込む力つまりは二本の糸が引っ
付き合う程度が小さくて糸切れが生じない。またバック
側の編針部分においても、Ｓ撚単糸に対し加撚方向の撚
が生じるものの、フロント側への筬の移動が直線的ある
いは距離が長いか速くなって糸の張力が緩まないので、
隣同士の糸の毛羽による絡みつまり引っ付き合いの程度
が小さくて糸切れが生じない。

スパン単糸としては、公知のサイロスパン糸、ダブルロ
ービング糸が特に効果的であり、またＺ撚単糸を用いる
こともでき、この場合にも前側針床の編針に対するラッ
ピング方向を前記スパン単糸の撚方向に対し解撚方向の
撚が生じる方向とする組織で編成することにより、上記
同様のカットパイル生地を得ることができる。

［発明の効果］ 上記したように本発明では、パイル糸として双糸に比し
てコスト安価なスパン単糸を用いているにも拘らず、編
成時において過度の糸の絡み合いが発生せず、糸切れが
生じたりして編立てに支障が生じることなく、従来と同
様にしてカットパイル生地を編成できる。しかもこうし
て編成されたカットパイル生地は、パイル糸がスパン単
糸よりなるものであるため、解繊、起毛されたカットパ
イル面の繰返し圧縮に対する回復率がスパン双糸を用い
た従来品よりも優れ、しかも上記のように解燃作用が生
じる組織で編成されているために風合がソフトになり、
糸切れによる傷もなく、従来品と遜色のない、あるいは
従来品よりも優れた外観を呈するものとなる。従って本
発明によれば、スパン単糸をパイル糸に使用したカット
パイル生地を、経編編成により容易にかつ安価に提供で
きる。

【図面の簡単な説明】 第１図はダブルラッセル機のカットパイル専用機の要部
の側面図、第２図はカットパイル生地の各糸のラッピン
グ状態を分解して示す編組織図、第３図は前後の編針に
対するパイル糸のラッピング順を示す略示平面図、第４
図は他のカットパイル生地の糸のラッピング状態を示す
編組織図、第５図は前図のラッピング順を示す略示図で
ある。 （Ｐ）……パイル糸、（L1）（L5）……挿入糸筬、（L
2）（L4）……鎖糸筬、（L3）……パイル糸筬。

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】ダブルラッセル機の前後針床で前後両地組
   織が編成されるとともに、パイル糸が前後の針床の編針
   にラッピングされて前後両地組織間に掛渡されて編成さ
   れ、前後両地組織間でカットされてなるカットパイル生
   地であって、前記パイル糸は、スパン単糸よりなり、か
   つ前側針床の編針に対するラッピング方向が前記スパン
   単糸の撚方向に対し解撚方向の撚が生じる方向となる組
   織で編成されて、地組織に編込まれてなることを特徴と
   する経編編成によるカットパイル生地。