JPH0569185A - 真空ろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【構成】Ｍｇ 0.6〜1.8 wt％及びＳｉ 6.0〜20.0wt％を
含有し、さらに必要に応じてＢｉ 0.01 〜 0.2wt％を含
有し、残部Ａｌと不可避的不純物よりなるＡｌ−Ｍｇ−
Ｓｉ系ろう材合金をＡｌ合金芯材の両面または片面にク
ラッドしたブレージングシートであって、そのろう材の
表面皮膜厚さを１２０オングストローム以下とし、かつ
ろう材の金属組織中に円相当径で２μｍ以上のＭｇ₂ Ｓ
ｉ粒子を３０００個／ｍｍ² 以上有するブレージングシ
ート。 【効果】このブレージングシートは、真空ろう付性に優
れ、ろう切れ等が発生しない。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、真空ろう付け用アルミ
ニウム合金ブレージングシートに関するものであり、さ
らに詳しくは、真空ろう付け性に優れ、ろう切れ等が発
生しないブレージングシートを提供するものである。

【０００２】

【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】通常ア
ルミニウムまたはアルミニウム合金ろう付けは、接合し
ようとするアルミニウムまたはアルミニウム合金部材に
これらのアルミニウム等よりも融点の低いろう材を介し
て固定して組立物とし、このろう材の融点以上で、接合
しようとするアルミニウムまたはアルミニウム合金部材
の融点よりも低い温度に加熱することによって行われて
いる。このろう材としては一般にＡｌ−Ｓｉ系またはＡ
ｌ−Ｍｇ−Ｓｉ系合金が使用され、その形状としては板
状としたろう材をアルミニウムまたはアルミニウム合金
からなる芯材に被覆した合わせ材（以下ブレージングシ
ートと記す）として用いられている。

【０００３】ろう付け法としてはろう付けする部材の表
面の酸化皮膜を除去するためのフラックスを用いるフラ
ックスろう付け法、非腐食性のフラックスを用い非酸化
性雰囲気中でろう付けを行う方法、フラックスを用いず
真空中に接合しようとする組立物を置いてろう付け加熱
する真空ろう付け法が通常使用されている。

【０００４】真空ろう付け法による積層型エバポレータ
ーは例えば図２に示すようにフィン（１）と、冷媒通路
（３）を形成するブレージングシートからなる通路構成
シート（２）、（２′）を交互に積層し、真空ろう付け
により接合したもので、フィン材には厚さ０．１ｍｍ前
後のものが用いられ、通路構成シートには厚さ０．６ｍ
ｍ前後のブレージングシートが用いられている。なお
３′も冷媒通路を示す。このようなエバポレーターで
は、フィン材には、Ａｌ−Ｍｎ系合金に犠牲効果を付与
するために、Ｚｎ、Ｉｎ、Ｓｎ等を添加した合金が用い
られている。またブレージングシートにはＪＩＳ３００
３合金を芯材とし、その表面にＡｌ−Ｓｉ−Ｍｇ系ろう
合金をクラッドしたものが一般に使用されている。

【０００５】またサーペンタイン型のエバポレーターは
図３に示すように、蛇行状に折り曲げた押出多穴管
（９）の間にフィン（１１）を取り付け、押出多穴管
（９）の端部両側にコネクター（１０）、（１０′）を
取り付け、真空ろう付けにより接合したもので、フィン
材には厚さ０．１６ｍｍ前後のものを用い、押出多穴管
には厚さ５ｍｍ、幅２２ｍｍ、肉厚１．０ｍｍ程度のも
のが用いられている。このようなエバポレーターでは、
フィン材に前記Ａｌ−Ｍｎ系合金を芯材とし、Ａｌ−Ｓ
ｉ−Ｍｇ系合金ろう材をクラッドしたブレージングシー
トが用いられ、押出多穴管にＪＩＳ３００３合金、Ａｌ
−Ｃｕ系合金、Ａｌ−Ｃｕ−Ｍｎ系合金が用いられてい
る。これらの真空ろう付け用アルミニウム合金ブレージ
ングシートに共通しているのはろう材にＭｇを含有して
いる点であり、Ｍｇはろう付け加熱中に蒸発しゲッター
作用により真空ろう付けを可能としている。

【０００６】ところで、長期間ろう付け炉を使用した場
合、炉の汚染等により真空度が低下する（すなわち絶対
圧力が上昇する）が、そのような場合にはろうの濡れ性
が低下し、ろうのフィレットが形成されずにろう付けが
できなくなる、いわゆるろう切れ現象が生じる。また、
図２のエバポレーターのように密閉構造の内部をろう付
けするような場合、内部と外部とでろう付け性が異なる
場合がしばしば生じる。

【０００７】

【課題を解決するための手段】本発明はこれに鑑み種々
検討の結果、Ａｌ−Ｓｉ−Ｍｇ系合金ろう材におけるろ
う付け性、ろう切れ現象は、ブレージングシートにクラ
ッドされている該ろう材の表面皮膜厚さと金属組織中の
Ｍｇ₂ Ｓｉ粒子のサイズとその数に関係するという知見
を得、これに基づき、さらに研究を重ね、真空ろう付け
性に優れ、ろう切れ等が発生しない本発明の真空ろう付
け用アルミニウム合金ブレージングシートを完成するに
至った。

【０００８】すなわち、本願第１発明は、Ｍｇ 0.6〜
1.8wt％及びＳｉ 6.0〜20.0wt％を含有し、残部Ａｌと
不可避的不純物よりなるＡｌ−Ｍｇ−Ｓｉ系ろう材合金
をＡｌ合金芯材の両面または片面にクラッドしたブレー
ジングシートであって、そのろう材の表面皮膜厚さを１
２０オングストローム以下とし、かつろう材の金属組織
中に円相当径で２μｍ以上のＭｇ₂ Ｓｉ粒子を３０００
個／ｍｍ² 以上有することを特徴とするブレージングシ
ートであり、また本願第２発明は、Ｍｇ 0.6〜 1.8wt
％、Ｓｉ 6.0〜20.0wt％及びＢｉ 0.01 〜0.2 wt％を含
有し、残部Ａｌと不可避的不純物よりなるＡｌ−Ｍｇ−
Ｓｉ系ろう材合金をＡｌ合金芯材の両面または片面にク
ラッドしたブレージングシートであって、そのろう材の
表面皮膜厚さを１２０オングストローム以下とし、かつ
ろう材の金属組織中に円相当径で２μｍ以上のＭｇ₂Ｓ
ｉ粒子を３０００個／ｍｍ² 以上有することを特徴とす
るブレージングシートを提供するものである。

【０００９】

【作用】まず、本願第１発明及び第２発明のブレージン
グシートの構成について説明する。第１発明及び第２発
明のブレージングシートの芯材の合金の種類及びその調
質については特に制限はない。部材の種類によって、例
えばＪＩＳ３００３合金やそれにＭｇ、Ｃｕ、Ｚｎ、Ｓ
ｎ、Ｉｎ等を添加した合金や熱伝導性を考慮した純アル
ミニウム系を適宜用いればよい。第１発明のろう材とし
ては０．６〜１．８wt％のＭｇ及び６．０〜２０．０wt
％のＳｉを含有し、残部Ａｌと不可避的不純物よりなる
Ａｌ−Ｓｉ−Ｍｇ系合金を用いる。

【００１０】ろう材のＭｇは、ろう付け中に蒸発しゲッ
ター作用により真空度を向上させる作用と蒸発により酸
化皮膜の破壊作用を有する。しかしてその量が０．６wt
％未満では上記作用が十分生じずろう付け性が低下し、
１．８wt％を越えた場合ろう付け加熱途中にＭｇ系の酸
化皮膜が逆に増加してろう付け性を低下させる。

【００１１】ろう材中のＳｉは合金の融点を低下させ、
ろう付けを可能にする添加元素である。しかして添加量
が６．０wt％未満や２０．０wt％を越えた場合、ろうの
融点が上昇しろう付け性が低下する。従ってＭｇ量、Ｓ
ｉ量は前述のごとく限定する。

【００１２】また第２発明のろう材は、上記のろう合金
組成にさらにＢｉを０．０１〜０．２wt％含有させる。
この場合、Ｂｉはろうの流動性を向上させると共に、Ｍ
ｇの蒸発を促進し、皮膜を破壊されやすくなる働きを有
する。しかし、Ｂｉの添加量が０．０１wt％未満の場合
上記作用が十分でなく、０．２wt％を越えるとろう材の
圧延性が低下し、ブレージングシートの製造が困難とな
るため、Ｂｉ量は０．０１〜０．２wt％に限定する。

【００１３】次に、本願第１発明及び第２発明のろう材
における不可避不純物としてはＦｅ、Ｃｕ、Ｍｎ、Ｚｎ
などがあり、これらは特に規制はしないが、Ｆｅ 0.8wt
％以下、Ｃｕ 0.25wt ％以下、Ｍｎ 0.10wt％以下、Ｚ
ｎ 0.20 wt％以下ならば、本発明に悪影響はない。従っ
て、本発明においてこれらは上記を限度として不純物と
して取扱う。なお、本発明の各ろう材合金組成におい
て、Ｆｅは不純物として０．８wt％以下の範囲で許容さ
れるが、０．８wt％を越えると、ろう付け加熱中酸化皮
膜が生成しやすくなる。従ってＦｅは０．８wt％以下に
制限するのが好ましい。また、Ｆｅが０．３wt％以下で
は原材料としてのＡｌ地金が高くなるため、Ｆｅは０．
３〜０．７wt％が経済性の上から望ましい。さらに皮膜
の成長量が小さくなり、Ｍｇ蒸発時に皮膜は破壊され易
くろう付け性を特に向上させるためには、Ｆｅを０．３
wt％以下にするのが好ましい。

【００１４】次に、ろう材表面の皮膜厚さについて説明
する。本願第１発明及び第２発明ではそのろう材表面の
皮膜厚さを１２０オングストローム以下とする。下限は
特に制限はないが、製造上２０オングストローム以上が
好ましい。ここで表面皮膜とは主に酸化皮膜をいうが、
グロー放電分光分析で約４ｍｍ径の面積について測定を
行い、測定後の段差測定により換算したものである。表
面皮膜は上記ろう切れ現象と深く関連しており、皮膜厚
が１２０オングストローム以下の場合、ろう付け加熱途
中にＭｇの蒸発が５３０℃付近より生じるが、そこでの
Ｍｇは皮膜全面から皮膜をポーラスにするように起こ
り、ろう溶融時にＭｇは急激に蒸発し、皮膜を細かく破
壊し、ろう付け性を向上させる。しかし、皮膜厚さが１
２０オングストロームを越えた場合、ろう付け加熱中に
Ｍｇの蒸発が皮膜の弱いところから重点的に起こり、逆
に他の部分の皮膜は厚く強固に成長する。そしてろう付
け溶融時にＭｇは急激に蒸発するが、その際の蒸発も加
熱途中と同様の箇所を中心に起こるため、ろう表面の皮
膜は十分に破壊されず、ろうとろうの濡れ性が低下し、
ろう切れが生じる。

【００１５】このような表面皮膜厚さは従来のブレージ
ングシートの製造工程では２５０オングストローム程度
であった。本発明の１２０オングストローム以下の皮膜
厚さは、製造工程途中でアルカリによる洗浄を十分に行
うことで得ることができる。

【００１６】本発明のブレージングシートにおける芯材
に対するろう材のクラッド率は特に制限はなく、板厚に
より変わるが、通常３％以上、好ましくは５〜２０％で
ある。

【００１７】次に、本願第１発明及び第２発明における
金属組織中の粒径の測定方法について説明する。ろう材
内部に存在する粒子を、走査型電子顕微鏡を用いた反射
電子像により観察する。観察される反射遠視像で黒く見
えるものをＭｇ₂ Ｓｉ粒子、白く見えるものをＳｉ粒子
と判断し、画像解析を行いその円相当径を求めた。

【００１８】さて、上記のように本発明において、金属
組織中のＭｇ₂ Ｓｉ粒子を、円相当径２μｍ以上で３０
００個／ｍｍ² 以上としたのは、粒径が２μｍより小さ
いとＭｇが蒸発する際にろう材表面の酸化皮膜の破壊力
が低下するためである。従って、本発明では２μｍ以上
の粒径のＭｇ₂ Ｓｉ粒子を十分に有していないとならな
い。また上記の範囲の粒径のＭｇ₂ Ｓｉ粒子数が３００
０個／ｍｍ² 未満の場合、Ｍｇ蒸発に伴うろう材表面の
酸化皮膜の破壊能力が低下するとともに、ゲッターとし
ての働きが不十分となる。従って粒径２μｍ以上のＭｇ
₂ Ｓｉ粒子を３０００個／ｍｍ² 以上とする。

【００１９】なお、Ｍｇ₂ Ｓｉ粒子の粒径は、製造上２
５μｍ程度が限度である。また、Ｍｇ₂ Ｓｉ粒子数は多
い程好ましく上限はないが、製造上３００００個／ｍｍ
² 程度が限度である。

【００２０】本発明における所定のＭｇ₂ Ｓｉ粒子の分
布を得るには、ろう材の鋳造、ソーキング、芯材との合
わせ加熱、熱間圧延、中間焼鈍等の条件を適宜にコント
ロールして行うことができる。

【００２１】

【実施例】次に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説
明する。

【００２２】実施例１ 表１に、芯材用Ａｌ合金Ｎo.１、２の組成及びろう材用
Ａｌ合金Ａ、Ｂ、Ｃ、Ｄの組成を示す。なお、ろう材用
Ａｌ合金Ａ、Ｂ、Ｃ、ＤのＦｅ、Ｃｕは不純物である。
これらを表２のように組合わせて板厚０．６ｍｍで両面
クラッド（片面１５％のクラッド率）のブレージングシ
ートを製造する工程において、ろう材のソーキング処理
条件、合わせ加熱条件、焼鈍条件を変えることにより、
ろう材中のＭｇ₂ Ｓｉ粒子の存在状態を変えた。表面の
皮膜は最終焼鈍の前後でＮａＯＨ溶液によるアルカリ洗
浄を行うことにより各種調整した。このようにして表２
に示す各種のブレージングシート（板厚０．６ｍｍ、焼
鈍材）Ｎo.１〜８を作製した。なお、表２中のＮo.１〜
Ｎo.６のブレージングシートの具体的製造工程は以下の
通りである。

【００２３】ろう材（皮材）の鋳造→ソーキング（５２
０℃以上×３時間）→Ａｌ合金芯材と皮材の合わせ加熱
（５２０℃以上×３時間）→熱間圧延→冷間圧延→アル
カリ洗浄→仕上焼鈍（３３０℃×３時間）→厚さ０．６
ｍｍの焼鈍材

【００２４】また、表２中のＮo.７（比較例）、Ｎo.８
（従来例）のブレージングシートの具体的製造工程は以
下の通りである。ただし、Ｎo.７については仕上焼鈍前
にアルカリ洗浄を行った。ろう材（皮材）の鋳造→ソー
キング（４８５℃以上×３時間）→Ａｌ合金芯材と皮材
の合わせ加熱（４８５℃以上×３時間）→熱間圧延→中
間焼鈍（３６０℃×２時間）→冷間圧延→仕上焼鈍（３
６０℃×２時間）→厚さ０．６ｍｍの焼鈍材

【００２５】このように作製したブレージングシートＮ
o.１〜８をそれぞれ用い、プレス成形して図１（ａ）
（平面図）、（ｂ）（断面図）に示すカップ（４）を作
製した。図中（５）は排気口である。このようにしてブ
レージングシートをプレス成形したカップを重ねて
（ｃ）（断面図）に示す試験用中空構造体（６）を真空
ブレージングシートにより作製してろう付け性を試験し
た。図中（４）は排気口つきカップ、（７）は排気口な
しカップ、（８）は排気筒である。

【００２６】ろう付け試験は、５×１０^-5Torrの真空中
で、昇温速度３０℃/minで６００℃に到達後１０分間保
持して行った。また別に、カップにさらに５００ｍｌビ
ーカーをかぶせて同様のろう付け試験を行い、真空度が
低下した場合を想定した試験とした。評価はカップの合
わせ面におけるブレージング後のフィレット形成具合に
より行い、１００個のテストに対するろう切れ発生率を
求めた。またろう付け部の外観（色調）を観察し、この
結果を合わせて表３に示す。なお経験的に、ろう付け部
の色調が銀白色の場合はろう付性が良好で、茶色に変色
したものはろう付性が不良であることが分っている。

【００２７】表３より、本発明のブレージングシートは
従来例及び比較例の結果と比べてフィレットの形成能が
著しく改善され、ろう付け性が安定していることがわか
る。

【００２８】

【表１】

【００２９】

【表２】

【００３０】

【表３】

【００３１】実施例２ Ａｌ合金芯材及びろう材には表４に示すような組成の合
金を使用した。なおろう材用Ａｌ合金Ｅ、Ｆ、Ｇ、Ｈの
Ｆｅ、Ｃｕは不純物である。これらを表５のような組合
わせで使用し、板厚０．６ｍｍで両面クラッド（片面１
５％のクラッド率）のブレージングシートを製造する工
程において、ろう材のソーキング処理条件、合わせ加熱
条件、焼鈍条件を変えることにより、ろう材中のＭｇ₂
Ｓｉ粒子の存在状態を変えた。表面の皮膜は最終焼鈍の
前後でＮａＯＨ溶液によるアルカリ洗浄を行うことによ
り各種のものを調製した。このようにして表５に示すＮ
o.１〜Ｎo.７のブレージングシート（板厚０．６ｍｍ、
焼鈍材）を作製した。表５中の各ブレージングシートの
製造方法は実施例１のＮo.１〜Ｎo.６の製造工程と同じ
である。このブレージングシートを用いて実施例１と同
様のカップを作製し、これについて実施例１と同様にし
てろう付け性の試験を行った。その結果を表６に示し
た。

【００３２】表６より、本発明のブレージングシートは
フィレット形成能が著しく改善され、ろう付け性が安定
していることがわかる。

【００３３】

【表４】

【００３４】

【表５】

【００３５】

【表６】

【００３６】

【発明の効果】本発明のブレージングシートは真空ろう
付性に優れ、ろう切れ等が発生しない。したがって、こ
れを用いて組立てた熱交換器等の不良率を著しく低減さ
せることが可能となり、一方安定した操業ができる等、
工業上顕著な効果を奏するものである。

【図面の簡単な説明】

【図１】（ａ）は本発明のブレージングシートを用いて
成形したカップの平面図、（ｂ）はその断面図である。
（ｃ）はそのカップを組立て、真空ブレージングにより
作製した中空構造体の断面図である。

【図２】積層型エバポレーターの斜視図である。

【図３】サーペンタイン型エバポレーターの斜視図であ
る。

【符号の説明】 １ フィン ２ 通路構成シート ２′ 通路構成シート ３ 冷媒通路 ３′ 冷媒通路 ４ 排気口つきカップ ５ 排気口 ６ 中空構造体 ７ 排気口なしカップ ８ 排気筒 ９ 押出多穴管 １０ コネクター １０′ コネクター １１ フィン

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 Ｍｇ 0.6〜 1.8wt％及びＳｉ 6.0〜20.0
   wt％を含有し、残部Ａｌと不可避的不純物よりなるＡｌ
   −Ｍｇ−Ｓｉ系ろう材合金をＡｌ合金芯材の両面または
   片面にクラッドしたブレージングシートであって、その
   ろう材の表面皮膜厚さを１２０オングストローム以下と
   し、かつろう材の金属組織中に円相当径で２μｍ以上の
   Ｍｇ₂ Ｓｉ粒子を３０００個／ｍｍ² 以上有することを
   特徴とする真空ろう付け用アルミニウム合金ブレージン
   グシート。
2. 【請求項２】 Ｍｇ 0.6〜 1.8wt％、Ｓｉ 6.0〜20.0wt
   ％及びＢｉ 0.01 〜0.2wt％を含有し、残部Ａｌと不可
   避的不純物からなるＡｌ−Ｍｇ−Ｓｉ系ろう材合金をＡ
   ｌ合金芯材の両面または片面にクラッドしたブレージン
   グシートであって、そのろう材の表面皮膜厚さを１２０
   オングストローム以下とし、かつろう材の金属組織中に
   円相当径で２μｍ以上のＭｇ₂ Ｓｉ粒子を３０００個／
   ｍｍ²以上有することを特徴とする真空ろう付け用アル
   ミニウム合金ブレージングシート。