JP2016203193A - アルミニウム合金シート及びその製造方法、ならびに、当該アルミニウム合金シートを用いたアルミニウムブレージングシート - Google Patents

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Abstract

【課題】真空ろう付け性に優れ、ろう切れ等が発生しないブレージング用アルミニウム合金シート及びその製造方法、ならびに、これを用いたブレージングシートを提供する。
【解決手段】Si:7.0〜12.5mass、Mg:0.9〜2.0mass%、Fe:0.05〜0.60mass%、Na:0.5〜30massppm及びCa:30massppm以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、1〜3μmの円相当径を有するMgSi粒子の任意断面における面積率が0.5%以上であることを特徴とするアルミニウム合金シート及びその製造方法、ならびに、当該アルミニウム合金シートを用いたアルミニウムブレージングシート。
【選択図】図1

Description

本発明は、アルミニウム合金シート及びその製造方法、ならびに、当該アルミニウム合金シートを用いたアルミニウムブレージングシートに関し、より詳細には、真空ろう付け性に優れ、また耐食性にも優れたアルミニウム合金シートとその製造方法、ならびに、当該アルミニウム合金シートを用いたアルミニウムブレージングシートに関する。
アルミニウム部材又はアルミニウム合金部材のろう付けでは、通常、接合するアルミニウム部材又はアルミニウム合金部材にこれらよりも融点の低いろう材を介して組立物とし、このろう材の融点よりも高く、接合するアルミニウム部材又はアルミニウム合金部材の融点よりも低い温度に加熱することによって行われる。
ろう材単独としては、一般にAl−Si系アルミニウム合金が使用される。その形状としては板状、線状又は粉末状としたものが用いられる。他の形態としては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる芯材に上記組成のろう材を被覆した合わせ材(以下、「ブレージングシート」という)としたものも用いられる。
ろう付け方法としては、通常、ろう付けするアルミニウム部材又はアルミニウム合金部材の表面に形成される酸化皮膜を除去するためのフラックスを用いるフラックスろう付け法;非腐食性のフラックスを用い非酸化性雰囲気中でろう付けを行う方法;フラックスを用いずに、接合する組立物を真空中に配置してろう付け加熱する真空ろう付け法;が用いられる。
真空ろう付け法に用いられるろう材としては、上記Al−Si系アルミニウム合金にMgを含有させたAl−Si−Mg系を用いるのが一般的である。これは、ろう付け加熱中におけるMg蒸発によるゲッター作用とろう材表面での酸化皮膜の破壊とによって真空ろう付けを可能とするためである。
ところで、真空ろう付け法においてろう付け炉を長期間にわたって使用する場合、炉内の汚染などにより真空度が低下してしまう。その結果、ろうの濡れ性が低下しろうフィレット形成が不十分となってろう付けが不能となる、所謂「ろう切れ現象」が発生する。更に、近年では、ろう付け接合を必要とする組立物における接合部の形状が複雑となり、ろう切れ現象が発生し易くなってきている。
特許文献1には、ろう付け加熱時における2μm以上のMgSi粒子数を規定し、ろう付け加熱中におけるブレージングシート表面の酸化皮膜の破壊を促進することが記載されている。また、特許文献2には、ろう材のMg含有量を単位面積当たりの質量で規定し、ろう付け加熱中におけるMg蒸発によるゲッター作用とろう材表面での酸化皮膜の破壊とを促進することが記載されている。
しかしながら、特許文献1のろう付け法では、MgSiによるゲッター作用について検討されておらず、真空ろう付け炉内の真空度が低下してろう付け性の低下を招く不都合があった。また、特許文献2のろう付け法では、Mgの分布は規定されているが、このMg分布を規定通りとしてもMg蒸発によるゲッター作用とろう材表面での酸化皮膜の破壊の効果が十分に得られない問題があった。これは、本発明者らの知見によれば、ゲッター作用と酸化皮膜の破壊に有効な要因は、Mgの分布ではなく適切なサイズのMgSiの分布にあるからである。
特開平3−264188号公報 特開2001−303161号公報
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、真空ろう付け性に優れ、また耐食性にも優れたアルミニウム合金シート及びその製造方法、ならびに、このアルミニウム合金シートを用いたアルミニウムブレージングシートの提供を目的とする。
本発明は請求項1では、Si:7.0〜12.5mass、Mg:0.9〜2.0mass%、Fe:0.05〜0.60mass%、Na:0.5〜30massppm及びCa:30massppm以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、1〜3μmの円相当径を有するMgSi粒子の任意断面における面積率が0.5%以上であることを特徴とするアルミニウム合金シートとした。
本発明は請求項2では請求項1において、前記アルミニウム合金が、Ni:0mass%を超え0.1000mass%以下及びMn:0mass%を超え0.1000%以下を更に含有し、Al−Fe−Ni−Mn系金属間化合物中においてMn及びNiが各々0.10〜5.00mass%含有されているものとした。
本発明は請求項3において、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金シートがアルミニウムブレージングシートの皮材に用いられるものとした。
本発明は請求項4では請求項3において、アルミニウムブレージングシートが真空ブレージングに用いられるものとした。
本発明は請求項5において、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金シートの製造方法であって、アルミニウム合金を溶解する工程と、溶解したアルミニウム合金を鋳造する工程と、鋳造した鋳塊を熱間圧延する工程とを含み、前記溶解工程が、溶湯へのNa成分の添加段階とその後の脱ガス段階とを更に含み、前記添加段階において溶湯中のNa濃度を30massppmを超えるものとし、その後の脱ガス段階において溶湯中のNa成分を除去することにより、溶湯中のNa濃度を0.5〜30massppmに調整することを特徴とするアルミニウム合金シートの製造方法とした。
本発明は請求項6では請求項5において、前記脱ガス段階において、Cl系ガスによる脱ガスによってNa成分を除去するものとした。
本発明は請求項7において、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金シートを、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる心材の両面又は片面にクラッドしてなることを特徴とするアルミニウムブレージングシートとした。
また、本発明は請求項8では請求項7において、アルミニウムブレージングシートが真空ブレージングに用いられるものとした。
本発明によれば、真空ろう付け性に優れ、また耐食性にも優れたアルミニウム合金シート及びその製造方法、ならびに、当該アルミニウム合金シートを用いたアルミニウムブレージングシートを得ることができる。
本発明に係るアルミニウム合金シートを用いて、その真空ろう付け性を評価するための隙間充填試験装置を示す説明図である。
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
A.アルミニウム合金シート
本発明に係るアルミニウム合金シートの成分組成と金属組織(金属間化合物)について説明する。
A−1.成分組成
本発明に係るアルミニウム合金シートの成分組成とその限定理由について説明する。
Si:
Siはアルミニム合金の融点を低下させて、ろう付けを可能にする元素である。Si含有量が7.0mass%(以下、単に「%」と記す)未満の場合には、真空ろう付け時に生成する液相量が不足して流動性が得られない。一方で、Si含有量が12.5%を超える場合には、粗大Si粒子が発生し、例えば板材に成形した際にはこの板材に孔が発生してしまう。以上により、Si含有量は、7.0〜12.5%とする。Si含有量は、好ましくは7.5〜12.0%である。
Mg:
MgはMgSiを生成することで、真空ろう付け中に蒸発してゲッター作用によりろう付け炉内の水分や酸素と結合して真空度を向上させる効果、ならびに、蒸発によって表面での酸化皮膜を破壊する作用を有する元素である。Mg含有量が0.9%未満の場合には、これら作用が十分に発揮されずろう付け性が低下する。一方で、Mg含有量が2.0%を超える場合には、ろう付け加熱中にMg系酸化皮膜が増加してろう付け性を低下させる。以上により、Mg含有量は、0.9〜2.0%とする。Mg含有量は、好ましくは
1.0〜2.0%である。
Fe:
FeはAl−Fe系金属間化合物を生成することで、材料表面の酸化皮膜が緻密に成長するのを抑制する作用を発揮する元素である。Fe含有量が0.05%未満の場合には、前記作用が不十分でろう付け性が低下する。一方で、Fe含有量が0.60%を超える場合には、鋳造性及び圧延性が低下することで生産性が悪化し、また、製品における耐食性が低下する。以上により、Fe含有量は、0.05〜0.60%とする。Fe含有量は、好ましくは0.08〜0.50%である。
Na:
NaはSi、MgSi、Al−Fe系金属間化合物を微細化し、ろう付け性を向上させる効果を有する元素である。Na含有量が0.5massppm(以下、単に「ppm」と記す)未満の場合には、Si、MgSi、Al−Fe系金属間化合物が十分に微細化せずろう付け性が低下する。一方で、Na含有量が30ppmを超える場合には、前記微細化作用による効果が飽和し、また、ろう付け部が変色する。更に、Naによる熱間脆性促進効果によって圧延性が低下する。以上により、Na含有量は、0.5〜30ppmとする。Na含有量は、好ましくは0.5〜25ppmである。
Ca:
Caは酸化皮膜を形成するため、その含有量が規制される元素である。Caが30ppmを超える場合には、形成される酸化皮膜によってろう付け性が低下する。以上により、Ca含有量は30ppm以下とする。Ca含有量は、好ましくは27ppm以下であり、0ppmでもよい。
Ni、Mn:
NiとMnはNaを規定量添加することで微細なAl−Fe−Ni−Mn系金属間化合物を生成し、材料表面の酸化皮膜が緻密に成長するのを更に抑制する効果を発揮する元素である。Ni、Mnが含有されていない場合には、微細なAl−Fe−Ni−Mn系化合物が生成せず、上記効果が得られない。一方で、Ni含有量が0.10000%を超える場合には、製品における耐食性が低下し、Mn含有量が0.10000%を超える場合には、ろう付け性が低下する。以上により、Ni含有量及びMn含有量はそれぞれ、0%を超え0.10000%以下とするのが好ましい。Ni含有量及びMn含有量はそれぞれ、0.00002〜0.10000%とするのがより好ましい。
A−2.金属間化合物
本発明に係るアルミニウム合金シート内の金属間化合物について、その限定理由を説明する。
MgSi粒子:
アルミニウム合金シート内におけるMgSi粒子については、次のように規定する。すなわち、1〜3μmの円相当径を有するMgSi粒子は、アルミニウム合金シートの任意断面において、その面積率が0.5%以上である。この理由は、真空ろう付け時の炉内温度は540℃近傍に達するが、この温度域において1〜3μmのMgSiが蒸発・分解することでMg蒸気によるろう付け炉内の水分や酸素に対するゲッター作用が生じて炉内真空度を向上させる効果が発揮され、また、Mgの蒸発により酸化皮膜が破壊される効果も発揮され、これらの効果によってろうの流動性が向上するためである。
MgSiの円相当径が1μm未満の場合には、真空ろう付け時の炉内温度が540℃に達する前にMgSiが蒸発してしまうので、酸化皮膜の破壊作用が発揮されない。一方で、MgSiの円相当径が3μmを超える場合には、真空ろう付け時の炉内温度がろうが溶融し始める580℃に達するまでMgSiが蒸発せず、ろう付け加熱中のゲッター作用による酸化皮膜成長抑制効果が発揮されない。そこで、1〜3μmの円相当径を有するMgSi粒子を対象とした。ここで、対象となるMgSi粒子は、アルミニウム合金シートの任意断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察するものであり、円相当径とは、観察したMgSi粒子の断面積を画像解析することにより、同じ面積となる円の直径である。
次に、1〜3μmの円相当径を有するMgSi粒子の、アルミニウム合金シートの任意断面における面積率が0.5%未満の場合には、MgSiが少ないため上述のMgSiによる効果(ゲッター作用と酸化皮膜破壊とによる効果)が十分に得られず、ろう付け性が低下する。このように、MgSiの面積率は0.5%以上、好ましくは0.7%以上である。なお、上記MgSiの面積率が高い程、ゲッター作用に基づく効果と酸化皮膜破壊に基づく効果がより発揮され、ろう付け性が良好となる。MgSiの面積率の上限値はアルミニウム合金の成分組成や製造条件に依存して自ずと決まるが、本発明では
10.0%である。
本発明に係るアルミニウム合金シートは、心材の両面又は片面にクラッドされてブレージングシートの皮材の状態としても用いられる。ここで、上記MgSi粒子の円相当径及び面積率は、アルミニウム合金シートの状態とブレージングシートにクラッドされた状態において変化していないこと、本発明者らによって確かめられている。
Al−Fe−Ni−Mn系金属間化合物:
本発明者らは、Al−Fe系金属間化合物を生成することで、材料表面の酸化皮膜が緻密に成長するのが抑制されることを見出した。本発明者らは更に鋭意検討を重ねた結果、アルミニウム合金としてFeにNiとMnを加え、更にNaを0.5〜30ppm含有させることにより、Al−Fe系化合物にNiとMnが取り込まれて微細なAl−Fe−Ni−Mn系金属間化合物が生成することを見出した。そして、このようなAl−Fe−Ni−Mn金属間化合物は、その微細構造のために緻密な酸化皮膜形成を抑制して、ろう付け性を更に向上させる効果を発揮することが判明した。このような効果を十分に得るには、Al−Fe−Ni−Mn系金属間化合物中において、Mn及びNiが各々0.10〜5.00%含有されている必要がある。
アルミニウム合金中におけるNa含有量が0.5ppm未満の場合には、Al−Fe−Ni−Mn系金属間化合物に取り込まれるNiとMnの含有量は各々0.10%未満となる。このように取り込まれるNiとMnの含有量が少量の場合には、緻密な酸化皮膜形成を抑制してろう付け性を更に向上させる効果が発揮されない。一方で、アルミニウム合金中におけるNa含有量が30ppmを超える場合においても、Al−Fe−Ni−Mn系金属間化合物に取り込まれるNiとMnの含有量は各々5.00%を超えることはない。
以上のように、本発明に係るアルミニウム合金シートは、真空ろう付け性に優れ、また耐食性にも優れた特徴を有するため、好ましくはアルミニウムブレージングシートの皮材に、より好ましくは真空ブレージングに用いられるアルミニウムブレージングシートの皮材に用いられる。
B.アルミニウム合金シートの製造方法
本発明に係るアルミニウム合金シートの製造方法について説明する。この製造方法では、まずアルミニウム合金シート用アルミニウム合金が溶解工程にかけられる。溶解工程では、各必要添加元素を純金属又はAl母合金より配合し、これを溶解して溶湯が調製される(溶湯調整段階)。調製された溶湯は、アルミニウム合金介在物や溶存ガスを除去する除去段階にかけられた後に、溶湯へのNa成分の添加段階とその後のCl系ガスを用いた脱ガス段階にかけられる。このように、本発明では、溶解工程が、Na成分の添加段階とその後のCl系ガスを用いた脱ガス段階を含むことを特徴とする。
溶解工程を経た溶湯は、鋳造工程にかけられる。鋳造方法としては、DC鋳造法、薄板連続鋳造法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
鋳造された鋳塊は、面削後に熱間圧延工程にかけられる。熱間圧延工程における加熱条件は、400〜550℃の温度で、1〜15時間行うのが好ましい。400℃未満では塑性加工性が乏しいため圧延時にコバ割れなどを生じる場合がある。550℃を超える高温の場合には、加熱中に鋳塊が溶融してしまう虞がある。加熱時間が1時間未満では鋳塊の温度が不均一となって塑性加工性が乏しく、圧延時にコバ割れなどを生じる場合があり、
15時間を超える場合は生産性を著しく損なってしまう。
溶融アルミニウム合金へのNa成分添加直後におけるNa濃度とその後の脱ガス処理:
発明者らは鋭意検討の末、溶解工程において、溶融アルミニウム合金からなる溶湯への多量のNa成分の添加と、その後のCl系ガスを用いた脱ガス処理による過剰なNa成分の除去により、Si、MgSi、Al−Fe−Ni−Mn系金属間化合物が微細となり、ろう付け性が向上することを見出した。本現象の詳細な機構は検討中であるが、添加された多量のNaによって、溶融アルミニウム中に不可避元素として存在するPが除去されるためであると考えられる。PはSiを粗大化することが知られており、同様の効果がMgSiにも作用する可能性は考えられる。また、Cl系ガスによる脱ガスによってNaを除去するが、アルミニウム合金シート内にてNaの含有量が0.00005〜0.0030%となるよう除去される。この除去後にも残存させたNaによって微細なAl−Fe−Ni−Mn系化合物が生成すると考えられる。
添加するNa成分の量は、溶融アルミニウム合金中のNa濃度として30ppmを超えることが必要である。Na濃度として30ppm以下の場合には、溶融アルミニウム中に不可避元素として存在するPの除去が不十分となり、Si、MgSi、Al−Fe−Ni−Mn系金属間化合物の十分な微細化が図れず、その結果、ろう付け性の悪化を招く。Na成分の添加による溶融アルミニウム合金からなる溶湯中のNa濃度としては、40ppm以上とするのが好ましい。このNa濃度については、不可避的不純物として存在するPの含有量にも依存するが、300ppmを超えてもPの除去効果が飽和する場合が多く、また、後工程である脱ガス処理における負荷も増大する。従って、本発明では300ppmを上限とするのが好ましい。なお、溶融アルミニウム合金からなる溶湯へ添加されるNa成分としては、純Na、Al−Na母合金、市販のNa含有フラックスなどを用いることができる。
次に、上記のように多量に添加されたNaは、Cl系ガスを用いた脱ガス処理によって、溶融アルミニウム合金からなる溶湯中のNa含有量が0.5〜30ppmとなるように除去される。この除去後においても、残存するNaによって微細なAl−Fe−Ni−Mn系化合物が生成すると考えられる。なお、脱ガス処理後におけるNa含有量を0.5〜30ppmの範囲内に規定するのは、上記アルミニウム合金シートの組成の項で述べた通りである。なお、前記PについてはNaと反応後Na−P化合物を生成し、脱ガス工程の流れに乗って系外に排出されると考えられるが、その詳細な機構は不明である。
一般的に脱ガスに用いるガス種としては、Cl系ガス、Nガス、Arガスなどが用いられる。Naとの反応性の観点によりNa除去に優れるCl系ガスを用いるのが好ましい。ここで、Cl系ガスとしては、Cl含有率が3〜100%のものが好ましい。Cl含有率の下限を3%としたのは、3%未満では十分なNa除去効果が得られない場合があるからである。また、Na除去効果の観点から、Cl含有率のより好ましい範囲は20〜100%である。なお、脱ガスには円筒管による吹込み法、回転ローター式脱ガス法などが用いられるが、いずれの方法を採用しても良い。
なお、脱ガスにおけるガス流量は1〜50m/hが好ましく、更に好ましくは2〜40m/hである。ガス流量が低い場合はNaの除去効果、溶湯中の水素ガス脱ガス効果が十分でなく、ガス流量が高い場合はガス使用量の増加に伴うコスト増加が問題となる。
C.アルミニウムブレージングシート及びその製造方法
本発明に係るアルミニウムブレージングシートは、本発明に係るアルミニウム合金シートを皮材として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる心材の両面又は片面に前記皮材をクラッドした構成を有する。本発明に係るアルミニウムブレージングシートは、皮材として用いるアルミニウム合金シートが真空ろう付け性に優れ、また耐食性にも優れた特徴を有することから、真空ブレージング用として好適に用いられる。心材としてはJIS3003などのアルミニウム材が用いられる。このような心材鋳塊の一方の面又は両方の面に所定の厚さとした上記アルミニウム合金シートとをクラッドし、クラッド材を熱間クラッド圧延し、次いで、熱間クラッド圧延したクラッド材を冷間圧延することにより、アルミニウムブレージングシートが製造される。なお、冷間圧延工程の途中及び/又は冷間圧延工程後に、クラッド材を焼鈍する焼鈍工程を設けてもよい。
熱間クラッド圧延工程における圧延温度は、400〜550℃とするのが好ましい。温度が400℃未満では塑性加工性が乏しいため圧延時にコバ割れなどを生じる場合があり、550℃を超えると熱間クラッド圧延中にろう材が溶融してしまう危険が出てくる。焼鈍工程では、クラッド材を250〜450℃で1〜10時間保持する。250℃未満や時間未満では焼鈍が不十分で心材が未再結晶組織となり、450℃を超えたり10時間を超えるのは経済的に好ましくない。
本発明に係るアルミニウムブレージングシートでは、皮材であるアルミニウム合金シートのクラッド率(片面)を2〜30%とするのが好ましく、3〜20%とするのが更に好ましい。2%未満ではろう付けに必要なろうが足らずろう付け不良となり、30%を超えると芯材が薄くなるためろう付け後の組み立て物において強度が低下する。
以下において、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
本発明例1〜15及び比較例1〜11
表1、2の成分組成欄に示すように、アルミニウム合金シート用の合金として各必要添加元素を純金属、又は、Al母合金より配合した後に溶解して溶湯を調製した。なお、表1の成分組成欄に示す数値は、ICP発光分析法によって測定したものである。次に、溶湯中へNa成分(Naフラックス)を添加した。更に、Naフラックスを添加した溶湯に、回転ガス吹込み装置を用いてローター回転数400rpm、気体流量2.5Nm/hの条件にて、Cl系ガスとしてCl−N混合ガスを30分間吹き込んでNa除去を実施した。Naフラックスを添加した溶湯中のNa濃度、Cl−N混合ガスにおけるCl含有率も表1、2に示した。なお、本発明例14及び比較例10、11では、Cl−N混合ガスに替えてNガスを用いた。
Figure 2016203193
Figure 2016203193
上述のように、成分を調整したアルミニウム合金を溶解した溶湯を、Na成分の添加段階とその後の脱ガス段階にかけて調製した溶融アルミニウム合金をDC鋳造法にて鋳造した。次に、鋳造後のスラブを面削による鋳肌除去し、500℃で熱間圧延を施した。このようにして、本発明に係るアルミニウム合金シートを作製した。このアルミニウム合金シートを皮材として2枚用意し、芯材としての面削したJIS3003(Al−0.1Cu−1.2Mn)スラブの両面にそれぞれ重ねて500℃で熱間クラッド圧延を施し、次いで、熱間クラッド圧延板に冷間圧延を施して厚さ1mmの三層のアルミニウムブレージングシートを作成した。図1に示すように、皮材の片面クラッド率はそれぞれ10%とした。なお、アルミニウムブレージングシートの調質は、いずれもO材(焼鈍材)である。
表1、2に示す1〜3μmの円相当径を有するMgSi粒子の面積率は、上記ブレージングシートにおける皮材の厚さ方向に沿った断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察して測定した。具体的には、観察視野の全面積に対して1〜3μmの円相当径を有するMgSi粒子が占める面積率を、画像解析によって算出した。なお、観察視野は0.1mm×10mmとした。また、同一試料について、50箇所の観察視野についての面積率を求め、これらの算術平均値をもってこの試料の面積率とした。
表1、2に示すAl−Fe−Ni−Mn系金属間化合物中のNi、Mn含有量は、上記ブレージングシートの皮材から集束イオンビーム(FIB)を用いて10μm×10μm×0.4μmの分析サンプルを採取し、透過型電子顕微鏡(TEM)の点分析により測定した。なお、同一試料から分析サンプルを50個採取し、各分析サンプル中の4個のAl−Fe−Ni−MnについてNiとMnの含有量を求めた。すなわち、同一試料について、200個のAl−Fe−Ni−MnについてNiとMnの含有量を求め、これらの算術平均値をもってこの試料のNi、Mn含有量とした。
図1に示すように、表1、2に示すろう付性の評価は、上記のようにして作製したアルミニウムブレージングシート1を、図中左側の底部に丸棒4を介して土台となるJIS3003板2上に傾斜をもって載置した隙間充填試験装置を用いた。この隙間充填試験装置を1.0×10−4torrの真空ろう付け炉内に収容して炉内を昇温した。炉内温度が600℃に到達後に3分間維持してろう付けを行なった。ろう付け中の炉内最高温度は、605℃であった。ブレージングシート1とJIS3003板2の隙間を充填したろう流動部3の長手方向長さをろう流動長として測定した。表1、2に示すろう付け性とは、前記隙間充填試験におけるろう流動長を評価にしたものであり、流動長が20mm以上を「◎」、流動長が10mm以上20mm未満を「○」、流動長が5mm以上10mm未満を「△」、流動量が5mm未満を「×」とした。
表1、2に示すの耐食性の評価方法には、ASTMのG85に準拠したSWAAT試験を用いた。上記隙間充填試験に用いたブレージングシートを使用して、500時間のSWATT試験後における最大ピット深さを測定した。表1に示す耐食性とは、前記SWAAT試験による最大ピット深さが200μm未満を「◎」、200μm以上500μm未満「○」、500μm以上800μm未満「△」、800μmを「×」とした。
表1、2のその他問題点とは、製造上の問題点、ならびに、ろう付け性と耐食性以外の問題点がある場合に示した。
ろう付け性評価、耐食性評価、その他問題点を総合的に判断した結果を、表1、2の総合評価として示す。表1のろう付け性が「◎」、且つ、耐食性が「◎」又は「○」、且つ、その他問題点が無い場合は総合評価を「◎」とした。ろう付け性が「◎」、且つ、耐食性が「△」または「×」、且つ、その他問題点が無い場合は総合評価を「○」とした。ろう付け性が「○」、且つ、耐食性が「◎」又は「○」、且つ、その他問題点が無い場合は総合評価を「○」とした。ろう付け性が「△」又は「×」の場合は、耐食性評価及びその他の問題点の有無にかかわらず、総合評価を「×」とした。また、その他問題点が有る場合は、ろう付け性評価及び耐食性評価にかかわらず、総合評価を「×」とした。
本発明例1〜9、14、15では、アルミニウム合金シートの成分組成、Na成分の添加段階における溶湯中のNa濃度、ならびに、脱ガス段階後における溶湯中のNa濃度が請求の範囲内にあるため、1〜3μmのMgSi粒子の面積率が請求の範囲内となり、総合評価が◎となた。
本発明例10では、アルミニウム合金シートにおけるNi含有量が検出限界である0.00001%未満であった。このため、ろう付け性に寄与するAl−Fe−Ni−Mn系化合物中にNiが取り込まれなかった。これにより、ろう付け性評価が○となり、総合評価も○となった。
本発明例11では、アルミニウム合金シートにおけるNi含有量が多かった。このため、耐食性評価は「△」だが、ろう付け性評価は「◎」となり、総合評価は「○」となった。
本発明例12では、アルミニウム合金シートにおけるMn含有量が検出限界である0.00001%未満であった。このため、ろう付け性に寄与するAl−Fe−Ni−Mn系化合物中にMnが取り込まれなかった。これにより、ろう付け性評価が○となり、総合評価も○となった。
本発明例13では、アルミニウム合金シートにおけるMn含有量が多かった。このため、耐食性評価は「◎」だが、ろう付け性評価が「○」となり、総合評価は「○」となった。
比較例1では、アルミニウム合金シートにおけるSi含有量が少ないため、真空ろう付け時に生成する液相量が不足し流動性が得られず、ろう付け性が低下した。その結果、総合評価は×となった。
比較例2では、アルミニウム合金シートにおけるSi含有量が多いため、粗大Si粒子が発生してアルミニウムブレージングシートの皮材層に孔が発生するというその他問題点が生じた。その結果、ろう付け性と耐食性は○であってが、総合評価は×となった。
比較例3では、アルミニウム合金シートにおけるMg含有量が少ないため、真空ろう付け炉内におけるゲッター効果、及び、アルミニウムブレージングシートの皮材層表面における酸化物破壊効果が作用せず、ろう付け性が低下した。その結果、総合評価は×となった。
比較例4では、アルミニウム合金シートにおけるMg含有量が多いため、ろう付け加熱中において、アルミニウムブレージングシートの皮材層表面にMg系酸化皮膜が増加し、ろう付け性が低下した。その結果、総合評価は×となった。
比較例5では、アルミニウム合金シートにおけるFe含有量が少ないため、アルミニウムブレージングシートの皮材層表面における酸化皮膜の緻密な成長が抑制されず、ろう付け性が低下した。その結果、総合評価は×となった。
比較例6では、アルミニウム合金シートにおけるFe含有量が多いため、アルミニウムブレージングシート圧延時にコバ割れが発生して圧延性が低下する(歩留りが60%)というその他問題点が生じた。その結果、ろう付け性は○であってが、総合評価は×となった。
比較例7では、アルミニウム合金シートにおけるNa含有量が少ないため、アルミニウムブレージングシートの皮材中において微細なAl−Fe−Ni−Mn系化合物が殆ど生成せず、ろう付け性が低下した。その結果、総合評価は×となった。
比較例8では、アルミニウム合金シートにおけるCa含有量が多いため、アルミニウムブレージングシートの皮材層表面に形成した酸化皮膜によりろう付け性が低下した。その結果、総合評価は×となった。
比較例9、10では、溶融アルミニウム合金からなる溶湯へのNa成分の添加段階における溶湯中のNa濃度が低いため、1〜3μmのMgSi面積率が低下し、MgSi蒸発による酸化皮膜の破壊効果が低下してろう付け性が低下した。その結果、総合評価は×となった。
比較例11では、アルミニウム合金シートにおけるNa含有量が多いため、アルミニウムブレージングシート圧延時にコバ割れが発生して圧延性が低下する(歩留りが55%)というその他問題点が生じた。その結果、ろう付け性は◎であってが、総合評価は×となった。
以上のように本発明によるアルミニウム合金シートは真空ろう付け性に優れ、また耐食性にも優れており、工業的顕著な効果を奏するものである。
1・・・アルミニウムブレージングシート
2・・・JIS3003板
3・・・ろう流動部
4・・・丸棒

Claims (8)

  1. Si:7.0〜12.5mass、Mg:0.9〜2.0mass%、Fe:0.05〜0.60mass%、Na:0.5〜30massppm及びCa:30massppm%以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、1〜3μmの円相当径を有するMgSi粒子の任意断面における面積率が0.5%以上であることを特徴とするアルミニウム合金シート。
  2. 前記アルミニウム合金が、Ni:0mass%を超え0.10000mass%以下及びMn:0mass%を超え0.10000mass%以下を更に含有し、Al−Fe−Ni−Mn系金属間化合物中においてMn及びNiが各々0.10〜5.00mass%含有されている、請求項1に記載のアルミニウム合金シート。
  3. アルミニウムブレージングシートの皮材に用いられる、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金シート。
  4. 前記アルミニウムブレージングシートが真空ブレージングに用いられる、請求項3に記載のアルミニウム合金シート。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金シートの製造方法であって、アルミニウム合金を溶解する工程と、溶解したアルミニウム合金を鋳造する工程と、鋳造した鋳塊を熱間圧延する工程とを含み、前記溶解工程が、溶湯へのNa成分の添加段階とその後の脱ガス段階とを更に含み、前記添加段階において溶湯中のNa濃度を30massppmを超えるものとし、その後の脱ガス段階において溶湯中のNa成分を除去することにより、溶湯中のNa濃度を0.5〜30massppmに調整することを特徴とするアルミニウム合金シートの製造方法。
  6. 前記脱ガス段階において、Cl系ガスによる脱ガスによってNa成分を除去する、請求項5に記載のアルミニウム合金シートの製造方法。
  7. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金シートを、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる心材の両面又は片面にクラッドしてなることを特徴とするアルミニウムブレージングシート。
  8. 真空ブレージングに用いられる、請求項7に記載のアルミニウムブレージングシート。
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