JP7428270B2 - 発熱素材を含有する油脂性食品 - Google Patents

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Description

本発明は、油脂性食品に関する。
チョコレート等の油脂性食品は、油脂が連続相をなす食品である。従って油脂性食品の口溶けなどの食感は、主に油脂の融解性状により支配される。
従来から油脂性食品の口溶けを改善するために、融解性状をよりシャープにする試みとして、油脂に含まれる特定のトリグリセリドの純度を高める方法が提案されている。(特許文献1)これにより口溶け改善効果は得られるものの、逆にブルーム発生などのリスクが高まることがあり問題があった。また油脂の特定のトリグリセリドの純度を高めることは往々にして油脂の生産コストを押し上げる要因にもなっていた。
従来からチョコレート等の油脂性食品の耐熱性を改善するために、サル脂、シア脂、エステル交換油脂等、SOS(1,3-ジステアロイル2-オレオイルトリグリセリド)を多く含む比較的融点の高い油脂を、ココアバターの一部に置換する事が一般的に実施されている。(特許文献2)これによりチョコレートの耐熱性は向上するが、一方で口溶けを悪化させる要因ともなっていた。
また油脂組成を変更することなくチョコレートの耐熱性を改善する方法として、生地に少量の水分を混ぜることによってチョコレートに糖骨格を形成させる方法が提案されている。しかし、チョコレート生地の粘度が急激に上昇して作業性が悪化したり、得られたチョコレートの食感が滑らかさを失うという問題があった。
煩雑且つ熟練を要するテンパリング操作を省略できる非テンパリングチョコレートに用いる油脂として、従来のトランス酸型油脂やラウリン酸型油脂に加え、1,2-ジ飽和、3-不飽和トリグリセリド(SSU;S:炭素数16~18の飽和脂肪酸、U:炭素数18の不飽和脂肪酸)を主成分とする非トランス酸・非ラウリン酸型油脂が開発・上市されている。
この非トランス酸・非ラウリン酸型油脂をココアバターに替えて用いる事で、テンパリング操作が不要な、所謂非テンパリング型チョコレートを得る事ができる。(特許文献3)しかしながら、通常、このような非トランス酸・非ラウリン酸・非テンパリング型油脂は、融点がココアバターよりも高いため、口溶けの改善が必要となっていた。
特開2012-04005号公報 特開2008-154555号公報 特開2010-148385号公報
よって本発明の課題は、油脂性食品に含まれる油脂のトリグリセリド組成を変更することなしに油脂性食品の口どけを向上させることである。
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、油脂性食品に、水分と接触する事で発熱する素材を、水分と接触しない状態で含有させる事により上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、
(1)水分と接触する事で発熱する発熱素材を、水分と接触しない状態で含有する油脂性食品、
(2)発熱素材に由来する発熱量が油脂性食品当たり1.0J/g以上である(1)の油脂性食品、
(3)発熱素材と接触せずに油脂性食品中に存在する水分が5重量%以下である(1)の油脂性食品、
(4)発熱素材と接触せずに油脂性食品中に存在する水分が5重量%以下である(2)の油脂性食品、
(5)発熱素材を0.1~5.0重量%含む、(1)の油脂性食品、
(6)発熱素材を0.1~5.0重量%含む、(2)の油脂性食品、
(7)発熱素材を0.1~5.0重量%含む、(3)の油脂性食品、
(8)発熱素材を0.1~5.0重量%含む、(4)の油脂性食品、
(9)発熱素材がゼオライトである(1)乃至(8)の何れか一の油脂性食品、
(10)発熱素材がカルシウム化合物である(1)乃至(8)の何れか一の油脂性食品、
(11)発熱素材がカルシウム化合物と有機酸の混合物である(1)乃至(8)の何れか一の油脂性食品、
(12)発熱素材の発熱量が発熱素材当たり50J/g以上である(1)乃至(8)の何れか一の油脂性食品、
(13)発熱素材の発熱量が発熱素材当たり50J/g以上である(9)の油脂性食品、
(14)発熱素材の発熱量が発熱素材当たり50J/g以上である(10)の油脂性食品、
(15)発熱素材の発熱量が発熱素材当たり50J/g以上である(11)の油脂性食品、
(16)油脂性食品に、水分と接触する事で発熱する発熱素材を、水分と接触しない状態で含有させる油脂性食品の製造方法、
(17)発熱素材に由来する発熱量を油脂性食品当たり1.0J/g以上に調整する(16)の油脂性食品の製造方法、
(18)水分と接触する事で発熱する発熱素材を、水分と接触しない状態で含有させる事により油脂性食品の口どけを向上させる方法、
(19)水分と接触する事で発熱する発熱素材を有効成分とする油脂性食品の口どけ向上剤、
である。
本発明によれば、油脂性食品の口どけを良好にするために、配合する油脂組成物のトリグリセリド組成を変更する必要がないので、その製造コストを抑えられる。また油脂組成物の融解性状をシャープにする必要がないので、これに起因する油脂性食品におけるブルーム発生などのリスクが低減できる。
以下、本発明を具体的に説明する。
(油脂性食品)
本発明の油脂性食品は、チョコレート類、チョコレート様食品、フィリングクリーム、サンドクリーム等のような連続相が油脂からなる食品である。一般的に、油脂性食品は糖類、ココア固形物、ミルク固形物、色素などの固体物がココアバター、植物性油脂、乳脂肪及び油溶性乳化剤とともに混合されたものであり、油脂の連続相に固体物が分散された状態のものである。また本発明の油脂性食品がチョコレート類の場合は、常温で喫食するチョコレート類であることが好ましい。
本発明の油脂性食品は、油脂を1~60重量%含むことが好ましく、より好ましくは3~50重量、さらに好ましくは5~45重量%である。最も好ましくは10~40重量%である。
本発明の油脂性食品は、水分と接触する事で発熱する発熱素材を、水分と接触しない状態で含有する必要がある。そして当該発熱素材に由来する発熱量が油脂性食品当たり1.0J/g以上であることが好ましい。また1.5J/g以上であることがより好ましく、2.0J/g以上であることが更に好ましく、3.0J/g以上であることが最も好ましい。また20.0J/g以下であることが好ましく、15.0J/g以下であることがより好ましい。
本発明の油脂性食品は、発熱素材が水分と接触する事で、口溶けの改善効果が発生するため、油脂性食品に配合される前の発熱素材は実質的に自由水を含まないことが好ましい。ここで自由水を含まないとは、具体的に、常圧減量法(105℃5時間)での水分が0.3重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは0.1重量%以下である。また油脂性食品に配合された発熱素材は水分と接触しない状態で存在している必要がある。また本発明の油脂性食品は、発熱素材と接触せずに油脂性食品中に存在する水分は許容されるが、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。
(水分と接触する事で発熱する素材)
本発明の油脂性食品は、水分と接触する事で発熱する発熱素材を含むが、その油脂性食品中の含有量は好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、更に好ましくは0.5重量%以上、最も好ましくは1.0重量%以上である。含有量が下限未満であると十分な口どけ向上効果が得られない場合がある。
また好ましくは5.0重量%以下、より好ましくは4.5重量%以下、更に好ましくは4.0重量%以下、最も好ましくは3.5重量%以下である。含有量が上限を超えると発熱素材によっては食味の低下が生じる場合がある。
本発明における発熱素材は、水分と接触した際に発熱する必要があり、その発熱量は50J/g以上である事が好ましく、100J/g以上である事がより好ましく、150J/g以上である事が更に好ましい。水分と接触した際の発熱量が下限未満であると、十分な口溶け向上効果を得るために食品中に多量に配合する必要があり、口溶け改善効果は得られるものの、食味の低下が生じ好適ではない場合がある。また発熱量の上限は好ましくは1000J/g以下、更に好ましくは500J/g以下である。
本発明における発熱素材は、食品への配合が許容される必要がある。また本発明における発熱素材は、水分と接触する事で発熱する性質を有すれば、特に限定されないが、ゼオライト、非結晶性シリカ(二酸化ケイ素)、カルシウム化合物等が例示される。本発明における発熱素材は、単独で用いられても又は複数の素材を組み合わせて用いられても良い。
上記ゼオライトとしては、A型ゼオライト、ZSM5型ゼオライトが具体的に例示される。上記非結晶性シリカとしては富士シリシア株式会社製のサイロページシリーズが具体的に例示される。また上記カルシウム化合物としては塩化カルシウム、酸化カルシウムが具体的に例示される。
本発明における発熱素材として、酸化カルシウムと有機酸の組み合わせ混合物が具体的に例示される。ここで有機酸はクエン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、没食子酸、リンゴ酸が具体的に例示される。これら混合物の発熱は、水に接することによる水和熱や溶解熱に加え中和反応による発熱によるものと考えられるため、酸化カルシウムと有機酸の組み合わせは、中和反応の当量点付近に相当する混合比であることが好ましい。例えば有機酸がクエン酸の場合は、酸化カルシウム/クエン酸の重量比が好ましくは1.0~4.0、より好ましくは1.5~3.0である。
水分と接触する事による発熱機構は特に限定されないが、水和熱、溶解熱、中和熱、生成熱、燃焼熱及びこれらの組み合わせが例示される。
本発明における発熱素材は、粉末状、粒状等のいずれでも良いが、特に平均粒子径が20ミクロン以下であると油脂性食品の食感が滑らかになるのと同時に、水分との接触による発熱が早期に発生するので油脂性食品の口どけ向上が表れやすく好ましい。
(食用油脂)
本発明の油脂組成物に使用される食用油脂は特に限定されないが、油脂性食品に好適な物性を持つ食用油脂が望ましい。具体的にはココアバター、ヤシ油、パーム核油、MCT、パーム油、ひまわり油、菜種油、大豆油、米糠油、コーン油、綿実油、シア脂、サル脂、コクム脂、イリッペ脂などの植物油、豚脂、牛脂、魚油などの動物脂、かかる動植物油脂の水素添加油、分別油、エステル交換油の1種以上を適宜選択して使用することができる。
(作用効果のメカニズム)
本発明の油脂性食品に口どけ向上効果が現われるメカニズムについては、喫食時において油脂性食品中に分散した、水分と接触する事で発熱する素材が口中の唾液などの水分を得て発熱反応を生じる事で、本来油脂が溶解する際に必要とする吸熱を相殺し、油脂の溶解速度を速める事で効果が得られると考えられる。
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。なお、例中、部及び%は何れも重量基準を意味する。
<検討1>発熱素材の検討
各種素材の発熱量を評価した。評価方法は「〇水分と接触する事で発熱する素材の発熱量の評価方法」に従った。結果を以下に記す。
A型ゼオライト Zeoal4A(株式会社中村超硬製) 平均粒子径0.051ミクロン :229.8 J/g
ZSM-5型ゼオライト ZeoalZSM-5(株式会社中村超硬製) 平均粒子径0.103ミクロン :25.5 J/g
*塩化カルシウム(富士フィルム和光純薬株式会社製) :234.2 J/g
*酸化カルシウム(富士フィルム和光純薬株式会社製) :25.7 J/g
*クエン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製) :-90.5 J/g
*酸化カルシウムとクエン酸を2重量部と1重量部混合 :258.0 J/g
*砂糖 :-12.9 J/g
(*乳鉢で粉砕し平均粒子径を8ミクロン以下に調節して用いた。)
A型ゼオライトZeoal4A、ZSM-5型ゼオライトZeoalZSM-5、塩化カルシウム、酸化カルシウム、酸化カルシウムとクエン酸を2重量部と1重量部の混合物はいずれも水と接触する事で発熱する発熱素材であった。一方クエン酸及び砂糖は吸熱素材であった。
〇水分と接触する事で発熱する素材の発熱量の評価方法
25℃雰囲気下にて、水50重量部と素材5重量部を混合し、攪拌し、2分後の水温上昇から、素材の発熱量(J/g)を算出する。
<検討2>テンパリング型チョコレートへの添加効果
表1の配合にて常法に従いテンパリング型チョコレートを試作した。混合・ロール掛け、コンチングによりペースト状としたチョコレート生地を品温を30℃に調整し、シード剤(不二製油株式会社製/商品名「チョコシードA」)をチョコレートに対し0.2重量部加えてテンパリング処理し冷却固化後、1週間のエージングを経てチョコレート(油分約34重量%)を得た。得られたチョコレートの口溶けを「〇口溶け改善効果の評価方法」に従って評価し、発熱素材による改善効果を確認した。結果を表1に纏めた。なお実施例、比較例の水分量は全て、0.8重量%であった。測定法は、常圧加熱減量法(105℃5時間)を用いた。
〇口溶け改善効果の評価方法
開発業務に携わり、よく訓練された5人のパネラーにより、作製したチョコレート又はサンドフィリングについて口どけを比較した。
口どけの評価は、検討2及び3にあっては比較例1に比較して、検討4にあっては比較例4に比較して、検討5にあっては比較例5に比較して、
◎:大きく改善した。〇:改善した。△:やや改善した。―:口溶け改善効果なし(比較例と同等)。
×:口溶け悪化、××:口溶けが大きく悪化した。
とした。
〇チョコレートの耐熱性の評価方法
作成したチョコレートを30、31、32、33℃に保持し、クリープメーター(山電社製RHEONERII、プランジャーφ3ミリメートル、押し込み速度5ミリメートル/sec)にて最大荷重を測定する。最大荷重が200gfとなる温度を耐熱可能温度とした。
表1
Figure 0007428270000001
テンパリング型CBE(ココアバター代用脂)として、メラノNEW.SS-7(不二製油株式会社製)を用いた。
<表1の考察>
発熱素材を含有する実施例1~7においては、発熱素材に由来する発熱量に応じ口溶けの改善効果が顕著であり、発熱素材を配合する事で口溶けの改善効果が明確に確認できた。
<検討3>耐熱テンパリング型チョコレートへの添加効果
表2の配合にて検討2と同様に耐熱テンパリング型チョコレートを試作した。得られたチョコレートの口溶け及び耐熱性を評価し、発熱素材による改善効果を確認した。評価は「〇口溶け改善効果の評価方法」及び「〇チョコレートの耐熱性の評価方法」に従った。結果を表2に纏めた。なお実施例、比較例の水分量は全て0.8重量%であった。測定法は、常圧加熱減量法(105℃5時間)を用いた。
表2
Figure 0007428270000002
テンパリング型CBE(ココアバター代用脂)として、メラノNEW.SS-7(不二製油株式会社製)を用いた。
耐熱性付与タイプのテンパリング型CBE(ココアバター代用脂)として、メラノSS400(不二製油株式会社製)を用いた。
<総合評価>
耐熱性を向上し、かつ、口溶け悪化を抑制できる事を評価する。
比較例1と比較して、口溶けが同等以上であって、耐熱可能温度が1℃以上上昇するものを総合評価合格(〇)とした。不合格を×とした。
<表2の考察>
発熱素材を含有する実施例8~11は、比較例1に対して耐熱性がそれぞれ約1℃向上しており、しかも口どけが発熱素材に由来する発熱量に応じ、いずれも改善されている。また発熱素材を含有する実施例12~15は、比較例1に対して耐熱性がそれぞれ約2℃向上しており、しかも口どけが発熱素材に由来する発熱量に応じ、改善又は悪化はしていない。
すなわち耐熱性CBEを配合して耐熱性を向上させたとしても、発熱素材配合の効果により口溶けが改善又は悪化が抑制されることが明確に確認できた。
<検討4>非テンパリング型チョコレートへの添加効果
表3の配合にて常法に従い非テンパリング型チョコレートを試作した。混合・ロール掛け、コンチングによりペースト状としたチョコレート生地を品温を60℃に調整し、冷却固化後、1週間のエージングを経てチョコレート(油分約39重量%)を得た。得られたチョコレートの口溶けを評価し、発熱素材による改善効果を確認した。評価は「〇口溶け改善効果の評価方法」に従った。結果を表3に纏めた。なお実施例、比較例の水分量は全て1.1重量%であった。測定法は、常圧加熱減量法(105℃5時間)を用いた。
表3
Figure 0007428270000003
エステル交換タイプの非テンパリング型CBR(ココアバター代用脂)として、メラノNT-R(不二製油株式会社製)を用いた。
<表3の考察>
発熱素材を含有する実施例16~21においては、発熱量に応じ口溶けの改善効果が顕著であり、発熱素材を配合する事による口溶けの改善効果が明確に確認できた。
<検討5>サンドフィリングへの添加効果
表4の配合にて常法に従い、ホイッパーにて比重を0.85g/mlまで低下させ、1週間のエージングを経てサンドフィリングを試作した。得られたサンドフィリングの口溶けを評価し、発熱素材による改善効果を確認した。評価は「〇口溶け改善効果の評価方法」に従った。結果を表4に纏めた。なお実施例、比較例の水分量は全て1.4重量%であった。測定法は、常圧加熱減量法(105℃5時間)を用いた。
表4
Figure 0007428270000004
ショートニングとして、パンパスパーミーBBLT20(不二製油株式会社製)を用いた。
<表4の考察>
発熱素材を含有する実施例22~27においては、発熱量に応じ口溶けの改善効果が顕著であり、発熱素材を配合する事による口溶けの改善効果が明確に確認できた。
本発明により、油脂を含有する加工食品に求められる口どけの改良を実現した食品並びにその製造方法を提供することができる。

Claims (5)

  1. 水分と接触する事で発熱する発熱素材を、水分と接触しない状態で含有する油脂性食品であって、前記発熱素材がゼオライトである油脂性食品。
  2. 発熱素材に由来する発熱量が油脂性食品当たり1.0J/g以上である請求項1記載の油脂性食品。
  3. 発熱素材と接触せずに油脂性食品中に存在する水分が5重量%以下である請求項1又は請求項2記載の油脂性食品。
  4. 発熱素材を0.1~5.0重量%含む、請求項1又は請求項2記載の油脂性食品。
  5. 発熱素材を0.1~5.0重量%含む、請求項3記載の油脂性食品。
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