JP7412710B2 - 義歯の作製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、基準義歯床及び人工歯を用いた義歯の作製方法に関する。
近年の急速な高齢化に伴い、義歯の需要が高まっている。通常、義歯は、患者の口腔形状に合わせて1つずつ手作業で細かく調整を行いながら作製される。このような手作業の労力を低減して義歯を作製する技術として、基準義歯を用いる技術が知られている(特許文献1~3参照)。
このような技術に関し、特許文献1には、「予め調製された基準義歯床、該義歯床の口腔面との接触面に付与する重合性樹脂組成物、歯頂部(咬合面)に重合性樹脂組成物を充填すべき凹部を設けた人工歯、および該人工歯の凹部に充填する重合性樹脂組成物を組み合わせてなる義歯作製セット」及び当該セットを用いた義歯の作製方法が記載されている。具体的には、基準義歯床の歯茎部に人工歯及び凹部を有する人工歯を配置した基準義歯床を、患者の口腔より採取した印象に基づく石膏製作業模型を取り付けた咬合器に、人工歯が正しい咬合平面にあるような位置になるように取り付けて重合性樹脂組成物の付与面の口腔面との適合化(以下、「粘膜面適合化」ともいう。)を行い、上記重合性樹脂組成物を硬化(以下、前記粘膜面適合化及び当該硬化処理を合わせて「基準義歯床粘膜面適合化処理」ともいう。)させてから、上記人工歯の歯頂部に存在する凹部に別の重合性樹脂組成物を充填し、咬合器を噛み合わせて人工歯の咬合面を調整した後に上記別の重合性樹脂組成物を硬化させて義歯を作製したことが記載されている。
そして、特許文献1によれば、口腔模型から一つ一つ義歯床を製造する必要がなくなり、工程の大幅な簡素化と同時に、重合性レジンの使用量を大幅に低減した事による品質の向上が達成できるばかりでなく、上記技術では、人工歯の歯頂面に柔軟な重合性樹脂が充填されるため、該樹脂に他方の人工歯を押圧すればその歯頂部の形状が転写されるから、それをそのまま重合硬化して人工歯同志の咬合性を最適なものとすることができる、とされている。
また、特許文献2には、有歯顎者の口腔形状を基に決められた特定の形状に連結された連結人工歯及び同様にして決められた特定の形状を有する基準義歯床を用い、上記基準義歯床に連結人工歯を配列する工程と、上記基準義歯床に裏装材を築盛する工程と、を有することを特徴とする義歯作製方法”が記載されている。ここで、上記特定の形状とは、床後縁の左側翼突上顎切痕および左側臼後隆起に相当する第一基準点と右側翼突上顎切痕及び右側臼後隆起に相当する第二基準点とを結ぶ線分の長さを基準長とし、唇側床縁の正中にあたる上(下)唇小帯に相当する第三基準点と、第一基準点及び第二基準点をそれぞれ結ぶ2つの基準線分上の所定の位置に定めた複数のポイントから床縁までの長さを、夫々前記基準長に対する比が所定の範囲となるようにした形状である。そして、特許文献2には、上記基準義歯床に人工歯を配列して基準義歯とし、前記基準義歯床に裏装材を築盛してから個別患者の口腔内に試適し、咬合調整を行うことにより、個別患者の口腔形状に合致した義歯が得られる旨が記載されている。
また、特許文献3には、基準義歯の位置合わせを行う治具が開示されている。この治具は、基準義歯を患者の口腔内等の適切な位置に配置するためのものであり、基準義歯を保持する基準義歯保持部を有していて、その基準義歯保持部に基準義歯を保持した状態で、口腔内か、または上下無歯顎模型が固定された咬合器に基準義歯を誘導して、前記基準義歯の位置合わせを行うことができる。また、特許文献3には、基準義歯の内面側に裏装材を築盛し、その次に、基準義歯に築盛された裏装材に形状を印記することを特徴とする義歯作製方法についても開示されている。
特許第3449733号公報 特開2016-193013号公報 国際公開第2018/207867号パンフレット 特開2002-104912号公報
前記したように特許文献1及び2には、総義歯タイプの既成の義歯床からなる基準義歯床の粘膜面(基底面)上に裏装材を盛り、患者口腔内粘膜に押し当て、適合化を図るというコンセプトに基づく技術が開示されている。この技術についてもう少し詳しく説明すると、基準義歯(床)とは、義歯の作製を容易化するための材料部材として使用される、既成の義歯(床)状の部材、より具体的には、形状や大きさが所定に規格化され、所定の仕様を満足する部材用製品として工場や技工所などで量産可能な義歯(床)状の部材を意味する。そして、基準義歯は、基準義歯床とそれに固定保持される人工歯とからなり、これを部材として用いて義歯を作製した場合、基準義歯の人工歯部分は義歯の人工歯部分となり、基準義歯の義歯床(基準義歯床)は義歯の義歯床の主要部を構成するものとなる。すなわち、基準義歯床は、義歯のベースとなるもので、上記義歯の義歯床の最終的な形態(形状)と比較すると、基準義歯床の粘膜面と(装着者である)個別患者の口腔内粘膜との間に形成される空間又は空隙(当該空間又は空隙を、以下、「基準義歯非適合空間」ともいう。)を裏装材などの硬化性義歯床用材料の硬化体が埋めるようにして基準義歯床の粘膜面に接合することによって(義歯における)義歯床を構成することにより、義歯が個別患者の口腔内粘膜とフィットするようにしている。すなわち、上記硬化体で構成される、「基準義歯非適合空間」を埋める部材を「調整部材」と称した場合、前記技術で作製される義歯においては、その義歯床は、基準義歯床と、その粘膜面上に接合する調整部材と、で構成されることになる。
また、上記したような基準義歯床及び人工歯を用いた義歯の作製方法においては、特許文献1に記載されているように、歯頂部(咬合面)凹部を設けた人工歯を用い、粘膜面適合化を行ってから、上記凹部に重合性樹脂組成物を充填し、咬合面の調整を行ってからこれを硬化させれば、人工歯の研削などを伴う咬合面の調整を省略することが可能である。
しかし、この場合には、義歯床と人工歯では、求められる物性や色調が異なるため、粘膜面適合化用の重合性樹脂組成物(その硬化体は義歯床の一部となる)と、人工歯凹部充填用の重合性樹脂組成物(その硬化体は人工歯の一部となる)の2種類の重合性樹脂組成物を用意する必要があるばかりでなく、人工歯凹部充填用の重合性樹脂組成物硬化体の色調と人工歯の色調(所謂シェード)が一致しない場合には、審美性の点で問題が発生する。
そこで、本発明は、基準義歯床及び人工歯を用いた義歯の作製方法において、歯頂部(咬合面)に凹部を有する人工歯を用いることなく、人工歯の研削などを伴う咬合面の調整を省略することも可能な義歯の作製方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、人工歯と、義歯床の主要部を構成する基準義歯床部材と、硬化性接着用組成物の硬化体からなる人工歯結合部材と、硬化性義歯床用材料の硬化体からなる調整部材と、を有する義歯を作製する方法であって、
前記義歯を患者の口腔内に装着した状態において、患者顎堤粘膜と密着する面である「粘膜面」とし、その反対側の面を「研磨面」とし、当該研磨面において前記人工歯が固定される部分を「歯槽部」としたときに、
前記基準義歯床部材は、前記義歯床の歯槽部に相当する領域に、所定範囲の間隙を持って前記人工歯を遊嵌可能な凹部を有し、
前記人工歯は、前記間隙を埋める前記人工歯結合部材を介して前記基準義歯床部材の前記凹部内に接合されており、
前記義歯の粘膜面の少なくとも一部が前記調整部材で構成されるように前記基準義歯床部材の粘膜面上に前記調整部材が接合されており、
前記方法は、
(I)人工歯及び前記基準義歯床部材を準備し、当該基準義歯床部材における前記凹部の内部に前記人工歯結合部材を形成するための未硬化状態の硬化性接着用組成物を配置してから前記人工歯を押し込むことにより、前記基準義歯床部材の凹部内に前記人工歯が仮止めされた状態の基準義歯部材を準備する基準義歯部材準備工程;
(II)前記基準義歯部材における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯部材を、患者口腔内または患者口腔内模型をセットした咬合器内の適切な位置に配置して、前記人工歯の位置調整、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状の前記硬化性義歯床用材料への転写、辺縁形成、並びに余剰の前記硬化性接着用組成物及び/又は前記硬化性義歯床用材料の除去を行う、形状調整工程;並びに
(III)前記形状調整を経た前記硬化性接着用組成物及び前記形状調整を経た前記硬化性義歯床用材料を、個別に又は同時に硬化させる硬化工程;
を含む、ことを特徴とする前記方法である。
上記本発明の第一の形態である方法(以下、「本発明の方法」又は「本発明の義歯作製方法」ともいう。)では、前記(II)形状調整工程において、患者口腔内または患者口腔内模型をセットした咬合器内に前記基準義歯部材を配置する際の前記“適切な位置”が、患者口腔内において医学的に存在すべき位置と想定される歯牙の咬合面を平面で近似した「仮想咬合平面」の位置と、前記基準義歯部材における前記人工歯の咬合面を平面で近似した「人工歯咬合平面」の位置と、が一致又は実質的に一致する位置であることが好ましい。また、前記(II)形状調整工程を、順次精度を高めながら複数回に分けて行うことが好ましい。
さらに、本発明の方法では、前記硬化性接着用組成物が、(A)(メタ)アクリル系モノマーと、(B)前記(A)(メタ)アクリル系モノマーを吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーと、(C)光重合開始剤及び熱重合開始剤から選択される重合開始剤とを含有するペースト状組成物からなり、前記(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの含有量が、前記(A)(メタ)アクリル系モノマー100質量部に対して20~80質量部であり、JIS K5101-13-1:2004に準じて測定される、前記(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの単位量:g-B(単位:g)当たりに吸収される前記(A)(メタ)アクリル系モノマーの量:g-A(単位:g)で定義される吸収量:RAb={(g-A)/(g-B)}が1.5以上である、ペースト状組成物からなる、ことが好ましい。そして、このような硬化性接着用組成物を用いる場合には、前記(A)(メタ)アクリル系モノマーの単位量(単位:g)当たりの前記(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの含有量(単位:g)と、前記吸収量RAbとの積が0.65~1.65であることが好ましく、(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーを更に含有し、前記(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーの含有量が、前記(A)(メタ)アクリル系モノマー100質量部に対して5~40質量部であることが好ましい。また、前記工程(I)基準義歯部材準備工程において、基準義歯床部材における硬化性接着用組成物の接合部分に(メタ)アクリル系非架橋ポリマー、(メタ)アクリル系モノマー、及び有機溶媒を含有する液状接着剤を施用することが好ましい。
本発明の方法は、基準義歯床を用いて義歯を作製するため、特許文献1及び2に開示される技術と同様に効率的に個別患者にフィットする義歯を作製することができる。また、所定範囲の間隙を持って前記人工歯を遊嵌する凹部を有する基準義歯床を用い、硬化性接着用組成物を用いて人工歯を仮止めしてから、硬化性義歯床用材料を用いた粘膜面適合化と同時に又はこれに引き続いて人工歯の咬合面調整を行い、硬化性接着用組成物及び硬化性義歯床用材料を硬化させて義歯の形状を決定するようにしたことにより、人工歯の研削を伴わずに咬合面調整を行うことも可能となり、研削を行う場合でもその作業を軽減することが可能となる。しかも、前記特許文献1に記載された技術とは異なり、人工歯の歯頂部領域を(人工歯の材質とは異なる)「重合性樹脂組成物」の硬化体で構成する必要がないので、人工歯の部分によって色調(所謂シェード)が異なることによって審美性が損なわれることもない。更に、硬化性接着用組成物及び硬化性義歯床用材料として、同一の硬化性材料を使用することもできるので、材料の準備に要する手間やコストを削減することもできる。
さらに、本発明の方法では、前記間隙の幅を広げることにより、人工歯の位置調整の範囲を大きくすることができるので、義歯の装着者となる患者が、II級不正咬合(所謂、出っ歯)やIII級不正咬合(所謂、受け口)といった不正咬合を呈し、その程度が比較的大きい場合でも咬合の適性を図ることが可能である。
また、硬化性接着用組成物として特定組成のペースト状組成物を用いた場合には、そのペースト性状に起因してグローブを用いた作業においてもグローブには付着せず、しかも調整後の位置が変動し難いという優れた操作性で、且つ、義歯床の一部を構成する人工歯結合部材を強度及び靱性が高いものとすることができる。
本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で作製した義歯の断面図である。なお、上段の図1(a)及び下段の図1(b)は、全部床義歯(総義歯)タイプの上顎用義歯及び下顎用義歯について、人工犬歯の略中心を通る縦断面(人工犬歯垂直断面)を、夫々表している。 本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で作製した上顎用義歯と、下顎用義歯とを、患者に装着したイメージを示す図である。 本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で使用する上顎用基準義歯を示す斜視図である。 本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で使用する下顎用基準義歯を示す斜視図である。 本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法で使用する咬合器に患者口腔内模型が取り付けられた状態を示す側面図である。 本発明の一実施の形態に係る義歯作製方法において、咬合器または患者口腔内に上顎用基準義歯および下顎用基準義歯をセットする際に用いられる位置合わせ冶具を示す図であり、(6a)は平面図を示し、(6b)は側面図を示し、(6c)は背面図を示している。
本発明の方法は、人工歯の咬合面調整を、人工歯の形態修正により行うと言う従来技術とは異なり、人工歯と基準義歯床との相対的な位置関係の調整(具体的には、人工歯を基準義歯床に固定する際の位置調整)によって行うと言う、新たな発想に基づく点に大きな特徴を有する。すなわち、特許文献1に記載された技術を含めて従来の方法では、「基準義歯床粘膜面適合化処理」後に、人工歯の研削や、「重合性樹脂組成物」を用いた歯頂部の形製を行うことによって人工歯の咬合面調整を行うのに対し、本発明の方法では、基準義歯床粘膜面適合化処理における硬化工程を行う前に、適正な咬合面となるように人工歯を基準義歯床部材に固定する位置を決定するようにしている。
また、本発明の方法の好ましい形態は、人工歯を基準義歯床部材に固定する際に使用する硬化性接着用組成物として、計量及び混錬の煩雑さがないという1ペースト型であって、曲げ強さ強度及び破断エネルギー(靱性)が共に高い硬化体を与えることができ、更にグローブには付着しないが(基準)義歯床には粘着するといった適度な粘度を有するペースト性状を有する新規な硬化性接着用組成物を使用する点にも特徴を有している。
従来、本発明の方法における硬化性接着用組成物として使用可能な光硬化型歯科用重合性組成物としては、使用時における混和(練和)作業が不要で比較的優れた硬化体物性を示すものも開発されているが(特許文献4参照。)、得られる硬化体の靭性の点で必ずしも満足できるものではなかった。また、使用するフィラーによってはペースト性状の制御が難しく、得られる硬化体の強度が低くなることがあるばかりでなく、使用する重合性樹脂組成物の量や状態によっては、これを硬化させて人工歯固定を行うまでの操作中に位置がずれてしまうことがあった。上記の新規な硬化性接着用組成物は、このような課題を解決するものであり、義歯床の一部を構成する前記人工歯結合部材用の材料として好適なものである。
本発明は、前記したように、基準義歯床(部材)と人工歯を用いた基準義歯部材を用いて義歯を作製する技術に関するものである、そこで、このような技術に関連する一般的な説明を行った上で、本発明の方法について詳しく説明する。だし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
1.義歯の一般的特徴
義歯(有床義歯)とは、天然歯牙並びに歯肉及び歯槽骨などの周囲組織を喪失した場合に、咀嚼等の口腔機能を回復すると共に顔面の形態変化および歯牙の欠損や周囲組織の喪失によって生じる障害を予防する、着脱自在な補綴装置を意味する。義歯は、一般に、欠損歯牙を補う人工歯と、喪失した歯肉及び歯槽骨などの周囲組織を補う義歯床と、からなる。そして、前記義歯床の患者顎堤粘膜と密着する面(義歯作製において適合性の観点から研磨をしない面)は「粘膜面」(或いは基底面)と呼ばれ、その反対側の頬粘膜や舌と接することがある面(義歯作製において研磨をする面)は「研磨面」と呼ばれ、両者の境界となる部分は「床縁」と呼ばれている。また、義歯床の歯茎相当部と人工歯の境界部は「歯頸部」、当該歯頸部を基端とし、前記床縁を先端とする翼状の形態をなす部分は「床翼」、義歯床の人工歯が固定される部分は「歯槽部」と呼ばれている。
義歯は、上顎用の上顎義歯と下顎用の下顎義歯とに分類され、両者の義歯床は、患者口腔内の唇側及び頬側(本明細書では、唇側及び頬側に向いた方向を前方とする。)の顎堤粘膜を被覆する部分である「唇側床翼部」及び「頬側床翼部」と呼ばれる部分を有するという点では共通しているが、上顎及び下顎の機能と形状の違いに起因して、患者口腔内の喉側(本明細書では、喉側に向いた方向を後方とする。)の粘膜を被覆する部分の形状が大きく異なっている。すなわち、上顎用義歯床の後方部分は、上顎口蓋粘膜を被覆する「口蓋床部」と呼ばれる部分であるのに対し、下顎用義歯床の後方部分は、下顎の舌側の顎堤粘膜を覆う「舌側床翼部」と呼ばれる部分であり、この舌側床翼部と唇側床翼部及び頬側床翼部との間で、顎堤を挟み込むようになっている。
上記義歯床の材料としては、一般に、次のような樹脂が使用されている。すなわちポリ(メタ)アクリレート系樹脂;ポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリエーテル系樹脂;ポリニトリル系樹脂;ポリビニル系樹脂;セルロース系樹脂;フッ素系樹脂;イミド系樹脂等が使用されている。これら樹脂材料は、樹脂材料のみで使用されることが多いが、有機フィラー、無機フィラー、有機-無機複合フィラー等のフィラーを添加して用いることもある。また、義歯床の一部に金属材料を使用することも有る。
上記義歯床に配列固定される人工歯は、目的とする義歯に応じて、配列される人工歯の種類及び数が適宜決定される。その数は1であっても良いが、通常は複数の人工歯が固定される。かかる人工歯としては、樹脂製やセラミック製の公知の人工歯を用いることができる。樹脂製の人工歯としては、上述のポリ(メタ)アクリレート系樹脂、並びにポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、シリコン系樹脂等を材質とする人工歯が例示される。人工歯の固定方法と
しては、嵌合、接着等従来公知の方法が何等制限なく使用できる。
2.基準義歯(床)の一般的特徴
基準義歯は、基準義歯床とそれに固定保持される人工歯とからなり、これを部材として用いて義歯を作製した場合、基準義歯の人工歯部分は義歯の人工歯部分となり、基準義歯の義歯床である基準義歯床は義歯の義歯床の主要部を構成するものとなる。すなわち、基準義歯は、義歯のベースとなるもので、その基準義歯床は、上記義歯の義歯床の最終的な形態(形状)と比較すると、大きさが若干小さく(薄く又は面積的に狭く)なっている。そして、基準義歯床の粘膜面と(装着者である)個別患者の口腔内粘膜との間に形成される空間又は空隙(基準義歯非適合空間)を裏装材などが埋めて、両者がフィットするようになっている。基準義歯(床)は、義歯(床)より、この「調整代(ちょうせいしろ)」とも言える前記基準義歯非適合空間の分だけ小さいものの、その基本的な構造や形状は、義歯(床)と同様である。このような基準義歯(床)においては、標準的な患者の口腔サイズに適用できるように、幾つかのサイズ(たとえば、Sサイズ、Mサイズ、Lサイズなど)を準備することは可能であるが、そのサイズ数は然程多くはない。したがって、サイズ的には使用可能と判断される場合でも、実際に試着(試適)して適合性を確認する必要がある。
なお、基準義歯床を用いて義歯を作製する場合には、基準義歯床に人工歯が予め固定されている基準義歯を用いる場合と、特許文献1に記載されているように人工歯が固着されない状態の基準義歯床に接着剤を用いて人工歯を固定(接着)して使用する場合があるが、後者の場合も「基準義歯床粘膜面適合化処理」前には(基準義歯床に人工歯が予め固定されている)基準義歯(或いは基準義歯部材)となっている点は同じである。
基準義歯床は、たとえば、射出成形、圧縮成形、切削加工、三次元プリンタを用いた光造形等、種々の手法を用いて作製することができる。また、基準義歯を作製する場合には、基準義歯床と人工歯(列)とを一体的に作製しても良く、基準義歯床と人工歯(列)とを別個に作製した後に、基準義歯床の歯槽部に人工歯(列)を取り付ける構成としても良い。前者には、大量生産による量産化が容易であり、生産コストを大幅に低減することができると言うメリットがあり、後者には、個別の患者にフィットする人工歯(列)を形成することができると言うメリットがある。
基準義歯は、一般に、その使用目的から、多くの臨床データや、多くの有歯顎者及び無歯顎者の口腔形状に関するデータに基づいて、基準義歯床の平面形状が、多くの患者に適合するような(いわば最大公約数的な共通部となるような)形状に設計されることが多い(特許文献2参照)。
3.基準義歯床を用いた従来の義歯作製方法
基準義歯床を用いて義歯を作製する場合には、一般に、人工歯が固定(接着)された基準義歯(部材)とした上で、基準義歯床の粘膜面と(装着者である)個別患者の口腔内粘膜との間に形成される空間又は空隙(基準義歯非適合空間)を裏装材などの硬化性義歯床用材料の硬化体で埋めて、両者をフィットさせる(粘膜面適合化する)ことにより行われる。義歯において「基準義歯非適合空間」を埋める上記硬化体部分を「調整部材」と呼ぶと、基準義歯を部材として用いて作製される義歯の義歯床は、基準義歯床部材と、調整部材とを有し、義歯を患者の口腔内に装着した状態において、義歯の粘膜面の少なくとも一部が前記調整部材で構成されるように前記基準義歯床部材の粘膜面上に前記調整部材が接合された構造(以下、「粘膜面適合化構造」ともいう。)を有するものとなっている。なお、粘膜面適合化構造に関し、前記調整部材の形状について更に説明すると、前記調整部材は、装着者となる個別の患者の口腔内に(基準義歯床を用いて作製された)義歯を装着した状態において、上顎及び下顎の歯(ここで、歯とは、前記義歯に固定された人工歯、及び前記患者が天然歯を有する場合における当該天然歯を意味する。)が緊密に相接する曲面である「咬合面」を平面に近似した「咬合平面」と、患者の口腔内で医学的に存在すべき位置と想定される歯牙の咬合面を平面で近似した「仮想咬合平面」と、が一致又は実質的に一致するように配置された状態で、前記患者の口腔内形状に適合するように調整された形状を有する。
基準義歯床を用いて、「粘膜面適合化構造」を有する義歯を作製する従来の方法は、基本的な工程として、下記(i)~(iii)の工程を含むといえる。
(i)基準義歯床部材となる基準義歯床及び人工歯を準備し、前記基準義歯床部材に前記人工歯を接着して基準義歯部材を準備する、基準義歯部材準備工程
(ii)前記基準義歯部材準備工程で準備された前記基準義歯部材における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯を、前記患者口腔内または患者口腔内模型を取り付けた咬合器内の適切な位置に配置して、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状を前記硬化性義歯床用材料へ転写すると共に余剰の前記硬化性義歯床用材料の除去を行う、粘膜面適合化工程
(iii)前記粘膜面適合化工程を経た前記硬化性義歯床用材料を硬化させる硬化工程。
なお、上記したように、上記工程(ii)における前記転写は、基準義歯部材を(1)患者口腔内に基準義歯を挿入するか、又は(2)患者口腔内模型を取り付けた咬合器内に挿入して行うのが通常である。このとき、作製に手間や時間を要する患者口腔内模型を作製する必要が無いという観点からすると、患者口腔内に挿入することが好ましいが、技工所などで多数の患者の義歯を作製する場合には、患者口腔内模型作製の手間や時間はかかるものの、一度に並行して多数の義歯を作製できるので、患者口腔内模型を装着した咬合器を使用することが好ましい。この場合、咬合器としては、模型上で顎運動や咬合のさまざまな位置を再現する装置であれば特に限定されない。たとえば、顎運動時の下顎頭が示す運動経路を再現する顆路型咬合器、顆路型咬合器の中でも非調節性咬合器(平均値咬合器)や調節性咬合器(全調節性咬合器、半調節性咬合器)、下顎頭に相当する顆頭球の位置が異なり、顆頭球が下弓に連結するアルコン型や、顆頭球が上弓に連結するコンダイラ―型、下顎頭が示す運動経路は再現しないが上下開閉可能な非顆路型咬合器、等が咬合器として使用できる。また、患者口腔内模型は、印象材を用いて患者口腔内の印象を採得し、それを用いて石膏模型を作製する、といった一般的な方法で作製することができる。
4.本発明の方法で作製される義歯
本発明の義歯作製方法では、基準義歯床(部材)として、歯槽部に相当する領域に、所定範囲の間隙を持って前記人工歯を遊嵌可能な凹部を有するものを使用し、更に硬化性接着用組成物により人工歯を上記凹部内の適正な位置に固定化する。このため、本発明の方法によって作製される義歯は、「粘膜面適合化構造」を有するだけでなく、前記人工歯は、前記基準義歯床の前記凹部内の適切な位置(咬合面調整がなされた位置)に、前記間隙を埋める前記人工歯結合部材を介して接合されていると言う付加的な構造的特徴を有する。
すなわち、本発明の方法の目的物である義歯は、人工歯と、義歯床の主要部を構成する基準義歯床部材と、硬化性接着用組成物の硬化体からなる人工歯結合部材と、硬化性義歯床用材料の硬化体からなる調整部材と、を有する義歯であって、前記基準義歯床部材は、前記義歯床の歯槽部に相当する領域に、所定幅以上の間隙を持って前記人工歯を遊嵌可能な凹部を有し、前記人工歯は、前記間隙を埋める前記人工歯結合部材を介して前記基準義歯床の前記凹部内に接合されており、前記義歯の粘膜面の少なくとも一部が前記調整部材で構成されるように前記基準義歯床部材の粘膜面上に前記調整部材が接合されている、と言う構造を有する。
5.硬化性接着用組成物及び硬化性義歯床用材料
本発明の方法で使用する前記硬化性接着用組成物とは、前記人工歯結合部材を形成するための未硬化状態の重合硬化性の組成物であって、硬化することにより義歯床の一部となる組成物を意味する。当該硬化性接着用組成物は、モノマー(重合性単量体)、重合開始剤、及び必要に応じて充填材を含むものであり、硬化前はペースト状或いは餅状の塑性変形可能で、応力がかからない状態ではその形態を保持できるような材料である。硬化性接着用組成物の重合タイプは、使用する重合開始剤の種類により、光重合、熱重合、化学重合、マイクロ波重合タイプ等があるが、操作性の観点からは光重合タイプであることが好ましい。
本発明の方法で使用する前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料は、用途が異なる点を除けば前記硬化性接着用組成物と同様であり、モノマー(重合性単量体)、重合開始剤、及び必要に応じて充填材を含む重合硬化性の組成物であって硬化することにより義歯床の一部となる。本発明の方法では、硬化性接着用組成物及び硬化性義歯床用材料として同一の組成物を使用することが好ましい。
6.本発明の硬化性接着用組成物
本発明の方法の好ましい態様では、前記硬化性接着用組成物として本発明者等が見出した新規な硬化性接着用組成物(以下、「本発明の接着性組成物」ともいう。)が使用する。本発明の接着性組成物を使用することよって操作性や得られる義歯の物性が良好なものとなる。
本発明の硬化性接着用組成物とは、(A)(メタ)アクリル系モノマーと、(B)前記(A)(メタ)アクリル系モノマーを吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーと、(C)光重合開始剤及び熱重合開始剤から選択される重合開始剤とを含有するペースト状組成物からなり、前記(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの含有量が、前記(A)(メタ)アクリル系モノマー100質量部に対して20~80質量部であり、JIS K5101-13-1:2004に準じて測定される、前記(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの単位量:g-B(単位:g)当たりに吸収される前記(A)(メタ)アクリル系モノマーの量:g-A(単位:g)で定義される吸収量:RAb={(g-A)/(g-B)}が1.5以上である、ペースト状組成物からなる硬化性接着用組成物であり、上記ペースト状組成物は、任意成分として(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマー(以下、適宜「(D)成分」ともいう。)を更に含有しても良い。
なお、「ペースト」とは、非沈降性の非ニュートン流体であり、本明細書における「ペースト状」とは、塑性変形性を有する高粘度ペースト、特に非水系の高粘度ペーストであることを意味する。また、本発明の硬化性接着用組成物が(D)成分を含有しない場合には(A)成分及び(B)成分の混合物を主成分(具体的には、これら成分の合計質量が80質量%以上、好ましくは90質量%)とすることが好ましく、(D)成分を含有する場合には(A)成分、(B)成分、及び(D)成分の混合物を主成分とすることが好ましい。
本発明の硬化性接着用組成物は、計量及び混錬の煩雑さがないという1ペースト型の硬化性接着用組成物の特長を有すると共に、実際に使用する重合性モノマーに対して特定のモノマー吸収量を有する吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーを用いることで、曲げ強さ強度及び破断エネルギー(靱性)が共に高い硬化体を与えることができるので、前記人工歯結合部材として使用する硬化性接着用組成物として好適に使用できる。
特に、(D)成分を所定量{(A)成分100質量部に対して5~40質量部}含有する本発明の硬化性接着用組成物は、グローブには付着しないが(基準)義歯床には粘着するといったペースト性状を有し、操作性にも優れるという効果をも奏する。一般にペースト粘度は、フィラー(有機フィラー、無機フィラー、有機無機複合フィラー等)の量により調整される。上述したようなペースト特性とするためには、フィラーの配合量を増やす必要があるが、フィラーの増量に伴い硬化体の靭性は低下する傾向がある。これに対して、所定量の(D)成分を含む上記硬化性接着用組成物によれば、硬化体の靭性を却って高めながら上記のような好ましいペースト性状とすることができる。
特定の理論に拘束されるものではないが、本実施形態に係る硬化性接着用組成物が上述した優れた効果を奏するメカニズムは、次のようなものであると本発明者らは推察している。
すなわち、硬化体の曲げ強さ(強度)が高くなるのは、有機フィラーとして弾性率の高い架橋ポリマーを用いたためと考えられる。また、架橋ポリマーを使用しているにもかかわらず硬化体の靱性が高くなるのは、(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの細孔内部に(A)(メタ)アクリル系モノマーが滲入して硬化することにより発生するアンカー効果によって、硬化体におけるマトリックスと有機フィラーとの界面接合強度が高くなったことによると考えられる。
また、良好なペースト性状が実現できた理由としては、以下の理由が考えられる。(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーを含む系においては、(A)(メタ)アクリル系モノマーとの相互作用、具体的には(D)成分の一部が(A)成分に溶解したり、(D)成分が(A)成分で膨潤して柔らかくなったりすることに起因して、良好な状態に調整可能となるが、架橋ポリマーはこのような相互作用に乏しいため、架橋ポリマーを多量に配合すると、通常はこのようなペースト性状の調整範囲は狭まると考えられる。ところが、(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーを用いた場合には、細孔内に(A)成分が滲入することにより上記相互作用と類似の相互作用が発生し、上記調整範囲を広いまま保つことが可能となったため、良好なペースト性状が実現できたものと考えられる。
以下、本発明の硬化性接着用組成物に含有される各成分について詳細に説明する。
[(A)(メタ)アクリル系モノマー]
(メタ)アクリル系モノマーとしては、歯科用に一般的に使用される(メタ)アクリル系モノマーを特に制限なく使用することができる。(メタ)アクリル系モノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルプロピオネート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリル系モノマー;1,6-ビス((メタ)アクリロイルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリル系モノマー;トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の三官能(メタ)アクリル系モノマー;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル系モノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。特に、単官能の(メタ)アクリル系モノマーと二官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとを併用する場合、単官能の(メタ)アクリル系モノマーよりも二官能以上の(メタ)アクリル系モノマーを多く配合することにより、得られる硬化体の強度、耐久性等の機械的物性も良好なものとすることができるので好ましい。
[(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー]
吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーとしては、常温大気中で粒状又は粉末状(微粒の集合体)の有機材料で構成される架橋を有するポリマーからなり、粒子の内部に外部と連通する細孔を有し、粒子の表面に(A)(メタ)アクリル系モノマーが滲入可能な細孔を多数有するものが使用される。特に本実施形態では、高強度化の観点から、JIS K5101-13-1:2004(ISO 787-5:1980)の「精製あまに油法」に準じて(精製あまに油に代えて(A)(メタ)アクリル系モノマーを用いて)測定される、(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの単位量:g-B(単位 :g)当たりに吸収される(A)(メタ)アクリル系モノマーの量:g-A(単位:g)で定義される吸収量:RAb={(g-A)/(g-B)}が1.5以上、好ましくは2.0~5.0であるものが使用される。
なお、吸収量RAbは、JIS K5101-13-1:2004に記載の「精製あまに油法」において、精製あまに油を用いる代わりに、本発明の硬化性接着用組成物で使用される(A)(メタ)アクリル系モノマー(複数混合して使用した場合には同一組成のモノマー混合物)を用いて決定される。具体的には、所定量〔M(g)〕の(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーをガラス板の上に置き、(A)成分のモノマーをビュレットから一回に4、5滴ずつ徐々に加え、その都度、パレットナイフでモノマーをポリマーに練り込む。これらを繰り返し、モノマー及びポリマーの塊ができるまで滴下を続け、以後、1滴ずつ滴下し、完全に混練するようにして繰り返す。そして、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、終点までに使用した(A)成分のモノマーの量〔M(g)〕を測定する。その際、終点までの操作に要する時間が25分間以内となるようにする。そして、次式:RAb(g/g)=MA(g)/MB(g)により、吸収量RAbが決定される。
上記のようにして決定される吸収量RAbは、(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの内部に(A)成分のモノマーが浸透して滑らかなペースト状態となり始める臨界的な両者の量比を表すパラメータとして捉えられるものであるが、その操作の簡便性からも理解できるように、厳密な臨界点を意味するものではなく、(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーにおける(A)成分のモノマーに対する吸収性の目安となるものである。事実、本発明の硬化性接着用組成物においては、(A)(メタ)アクリル系モノマーの配合量が、(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの配合量に吸収量RAbを乗じた積として計算される量(以下、「計算総吸収量」ともいう。)に満たない場合であっても、ペースト状組成物となることが確認されている。
計算総吸収量に満たない量の(A)成分を用いた場合でもペースト状となる理由の詳細は不明であるが、混錬条件や混錬時間の違いに由来するものと考えられる。すなわち、吸収量の測定時には、パレットナイフを用いて混練し、且つ短時間(25分間以内)で測定を行っているため、一部凝集状態で残っている(B)成分のポリマー粒子間に保持されているモノマーも存在すると考えられ、吸収量を高めに見積もっている可能性がある。一方、本発明の硬化性接着用組成物を調製する際には、乳鉢を用いて混練したり、プラネタリーミキサー、ニーダー等の機械式混錬装置を用いて混練したりすることが多く、混錬時に強い剪断力がかかるため、高度な均一化が可能であり、また、剪断力による押出し効果や発熱又は膨潤による細孔径の拡大等により、一旦細孔内に吸収されたモノマーの一部が放出されることなどにより、ペースト化されると考えられる。
吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの材質は特に制限されないが、(A)(メタ)アクリル系モノマーとの親和性の観点から、架橋ポリメチルメタクリレート、架橋ポリエチルメタクリレート、架橋ポリメチルアクリレート等の架橋ポリアルキル(メタ)アクリレート;ポリスチレン、ポリ塩化ビニル;などが好ましい。また、特公平4-51522号公報、特開2002-265529号公報等に記載される多孔質架橋ポリマーを使用することもできる。また、「テクノポリマーMBP-8」(積水化成品工業(株))等の市販品を使用することもできる。
吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの平均細孔径は、1~100nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましい。該平均細孔径とは、粒子の凝集によって形成される二次粒子の凝集細孔ではなく、一次粒子の表面に形成される細孔の平均径を意味する。該平均細孔径は、水銀圧入法細孔分布測定装置を用いて測定される粒子の細孔分布から計算によって求めることができる。吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの平均細孔径が1nm以上であると、(A)(メタ)アクリル系モノマーの細孔内への滲入量の増加に伴って硬化体におけるアンカー効果が増大し、十分な強度が得られ易くなる傾向にある。また、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの平均細孔径が100nm以下であると、アンカー効果が増大し、十分な強度が得られ易くなる傾向にある。
吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの平均粒子径は、1~50μmであることが好ましく、3~30μmであることがより好ましい。該平均粒子径とは、一次粒子の平均粒子径を意味し、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置を用いて測定される。吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの平均粒子径が1μm以上であると、硬化前のペーストのべたつきが抑えられ、操作性が向上する傾向にある。また、吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの平均粒子径が50μm以下であると、比表面積が大きくなり、硬化体において十分な強度及び靱性が得られ易くなる傾向にある。なお、粒子形状は特に限定されず、粉砕型粒子であっても球状粒子であってもよい。
(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して20~80質量部である。(B)成分の含有量が20質量部未満であると、アンカー効果が低下して十分な強度が得られ難くなる傾向にある。一方、(B)成分の含有量が80質量部を超えると、硬化体が硬く脆くなるばかりでなく、ペーストが硬く賦形し難くなる傾向にある。
なお、本発明の硬化性接着用組成物は、上記配合組成であることに加えて、(A)(メタ)アクリル系モノマーの単位量(単位:g)当たりの(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの含有量(単位:g)と、吸収量RAbとの積が0.65~1.65であるという条件を更に満足することが好ましい。
[(C)重合開始剤]
本発明の硬化性接着用組成物は、1ペースト型とするために、重合開始剤として光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を含有し、化学重合開始剤は全く又は実質的に含有しない。なお、「実質的に含有しない」とは、保存安定性に悪影響を与えず、本発明の効果に影響を与えない範囲で極微量含有することは許容するという意味である。
光重合開始剤及び熱重合開始剤としては、歯科分野で使用されるものを特に制限なく使用することができる。
光重合開始剤の具体例としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類;ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサントン等のジアリールケトン類;ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、9,10-フェナントラキノン等のα-ジケトン類;ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のビスアシルホスフィンオキサイド類;などが挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、重合開始剤として光重合開始剤を使用する場合、還元性化合物と組み合わせて使用することが好ましい。好適に使用できる還元性化合物としては、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド等の第三級アミン類;2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸等の含硫黄化合物;N-フェニルアラニン;などが挙げられる。 また、光重合開始剤の活性をより高めるために、光酸発生剤を加えるのも好ましい態様である。光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、ハロメチル置換-S-トリアジン有導体、ピリジニウム塩系化合物等が挙げられる。光酸発生剤を使用する場合、光重合開始剤としてはカンファーキノン等のα-ジケトン類が好ましく、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル等の還元性化合物を併用することがより好ましい。
熱重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;などが挙げられる。これらの熱重合開始剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
(C)成分の含有量は、触媒量(すなわち、重合開始剤としての機能を発揮し、十分な重合を行うことができる量)であればよい。その具体的な量は、重合開始剤の種類によっても異なるため一概に規定できないが、通常は(A)(メタ)アクリル系モノマー100質量部に対して0.05~5質量部であり、好ましくは0.1~3質量部である。
[(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマー]
本発明の硬化性接着用組成物は、良好なペースト性状にし易くするために、(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーを更に含有することが好ましい。
(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーとしては、歯科用に一般的に使用される、常温大気中で粒状又は粉末状の、非架橋性の(架橋を有しない)(メタ)アクリル系ポリマーを特に制限されず使用することができる。(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、イソブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の単重合体又は共重合体;ポリ(スチレン-エチルメタクリレート)等の(メタ)アクリル系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル系非架橋ポリマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ペースト性状の調整が容易であり、保管時にペースト性状が変化し難く、硬化体の強度低下を引き起こし難いという理由から、(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーとしては、(A)(メタ)アクリル系モノマーに対して溶解性を有するものが好ましい。具体的には、目視で判断したときに、45℃の(A)成分100質量部に対して、配合する(D)成分の全てが溶解するものを使用することが好ましい。ペースト性状の調整が容易であり、保管時にペースト性状が変化し難く、硬化体の強度低下を引き起こし難いという理由から、(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーとしては、(A)(メタ)アクリル系モノマーに対して溶解性を有するものが好ましい。具体的には、目視で判断したときに、45℃の(A)成分100質量部に対して、配合する(D)成分の全てが溶解するものを使用することが好ましい。
(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーの平均分子量は特に制限されない。溶解性及びペースト性状の調整のし易さの観点から、質量平均分子量が5万~100万であることが好ましく、10万~70万であることがより好ましい。なお、本明細書における質量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算分子量を意味する。
(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーの平均粒子径は特に制限されない。ただし、(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーの平均粒子径が大きすぎると(A)(メタ)アクリル系モノマーへ溶解するのが遅く、作製に時間を要し作業効率が低下するため、100μm以下であることが好ましい。
(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーの含有量は、(A)(メタ)アクリル系モノマー100質量部に対して、5~40質量部であることが好ましく、15~30質量部であることがより好ましい。
[その他の成分]
本発明の硬化性接着用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、(B’)非多孔質有機架橋ポリマー(以下、適宜「(B’)成分」ともいう。)を更に含有していてもよい。非多孔質有機架橋ポリマーは、表面に細孔を有しないか、又は細孔の数が少ない粒子であり、上記のようにして決定される吸収量RAbが1.5未満である。
非多孔質有機架橋ポリマーは、(A)(メタ)アクリル系モノマーに対して溶解又は膨潤し難く、マトリックスとの相互作用が乏しいため、ペースト内で凝集及び沈降し、ペーストが硬くなる場合がある。このため、非多孔質有機架橋ポリマーを多量に配合すると、ペースト保管中にその性状が変化し(具体的には硬くなり)、ペーストの操作性が低下してしまうことがある。そこで、(B’)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、含有しないことがより好ましい。
すなわち、(B’)成分を含有しないか、又は含有するとしてもその含有量が(A)成分100質量部に対して10質量部以下である硬化性接着用組成物は、ペースト硬さが経時変化を起こさず、長期間安定に保存することが可能となるという効果を奏する。
本発明の硬化性接着用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他の成分を更に含有していてもよい。その他の成分としては、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化アルミニウム、硅石粉末、ガラス粉末、珪藻土、シリカ、珪酸カルシウム、タルク、アルミナ、マイカ、石英ガラス等の無機フィラー;無機粒子に重合性モノマーを添加してペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機無機複合フィラー;ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の重合禁止剤;4-メトキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-(2-ベンゾトリアゾール)-p-クレゾール等の紫外線吸収剤;α-メチルスチレンダイマー等の重合調整剤;色素、顔料、香料;などが挙げられる。
[調製方法]
本発明の硬化性接着用組成物の調製方法は特に制限されず、各成分を所定量ずつ量り取り、それらを適宜混合すればよい。ただし、本発明の硬化性接着用組成物が(D)成分を含有する場合には、(D)成分となるポリマー粒子を予め(A)成分に溶解させておくことが好ましい。具体的には、(C)成分、(D)成分、及びその他の添加剤を(A)成分に溶解させた後、得られた混合物と(B)成分及び必要に応じて配合されるその他のフィラーとを混合し、ペースト状の硬化性接着用組成物を得る方法が好ましい。
得られた硬化性接着用組成物は、保管時の劣化防止のため、特に光重合開始剤を使用した場合には、遮光性を有する容器で保存することが好ましい。ペースト形態は特に制限されず、棒、馬蹄形、シート、球、角柱等に成型したものを容器に収容してもよいし、成型せずにチューブ、ボトル等に収容してもよい。
7.本発明の作製方法
本発明の方法は、粘膜面適合化構造を得るための前記(i)~(iii)の基本的な工程をベースとしつつ、前記した付加的な構造的特徴を得るために、これら各工程に付加的な作業が追加された工程を有する。すなわち、本発明の方法は、下記工程(I)~(III)を含むことを特徴としている。
(I)人工歯及び前記基準義歯床部材を準備し、当該基準義歯床部材における前記凹部の内部に前記人工歯結合部材を形成するための未硬化状態の硬化性接着用組成物を配置してから前記人工歯を押し込むことにより、前記基準義歯床部材の凹部内に前記人工歯が仮止めされた状態の基準義歯部材を準備する基準義歯部材準備工程;
(II)前記基準義歯部材における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯部材を、患者口腔内または患者口腔内模型をセットした咬合器内の適切な位置に配置して、前記人工歯の位置調整、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状の前記硬化性義歯床用材料への転写、辺縁形成、並びに余剰の前記硬化性接着用組成物及び/又は前記硬化性義歯床用材料の除去を行う、形状調整工程;並びに
(III)前記形状調整を経た前記硬化性接着用組成物及び前記形状調整を経た前記硬化性義歯床用材料を、個別に又は同時に硬化させる硬化工程。
以下、全部床義歯(総義歯)用の上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯をセットで用いて上顎用義歯及び下顎用義歯をセットで作製する場合を例に、工程(I)~(III)について、図を参照して詳しく説明するが、本発明の作製方法は、このような例に限定されるものではない。
たとえば、以下の説明では、図5に示すような咬合器100及び、図6に示すような位置合わせ冶具200を用いて作製する例を説明しているが、それぞれ対応する工程において、直接的に患者口腔内で行っても良く、位置合わせ冶具200を用いずに行っても良い。
[(I)基準義歯部材準備工程]
(I)基準義歯部材準備工程では、基準義歯床部材となる人工歯及び前記基準義歯床部材を準備し、当該基準義歯床部材における前記凹部の内部に前記人工歯結合部材を形成するための未硬化状態の硬化性接着用組成物を配置してから前記人工歯を押し込むことにより、前記基準義歯床部材の凹部内に前記人工歯が仮止めされた状態の基準義歯部材を準備する。
この工程で準備する人工歯としては、1.義歯の一般的特徴で説明したような人工歯が特に制限なく使用される、人工歯は、複数の人工歯が連結された連結人工歯であってもよい(本発明の方法においては人工歯という語は、連結人工歯を含むものとして使用している。)
また、この工程で準備する基準義歯床は、歯槽部に相当する領域に、所定範囲の間隙を持って前記人工歯を遊嵌する凹部を有する必要がある。すなわち、凹部は、(予め人工歯が固定された基準義歯と同様に)たとえば有歯顎者及び無歯顎者の口腔形状を基に定められる標準的な人工歯の固定位置を基準として(以下、当該基準となる位置を「基準位置」ともいう。)、当該凹部が、人工歯が義歯床の歯茎相当部によって被覆される部分を十分に収容し、且つ収容された人工歯の外表面と凹部内表面との間に所定範囲の間隙が形成される形状及び内容積を有するように基準義歯床の歯槽部に相当する領域に設けられる。ここで、「所定範囲の間隙」とは、人工歯を上記の標準的な固定位置(基準位置)に配置した場合を想定して、人工歯の外表面と凹部内表面との間の距離が何れの点においても0.1~6mm、好ましくは0.5~4mmの範囲以内にあることを意味する。但し、上記距離は何れの点において同じである必要はなく、また、上顎用と下顎用とで異なっていても良い{図1(a)の1A9及び(b)の1B9参照}。さらに、義歯の装着者となる患者が、II級不正咬合(所謂、出っ歯)やIII級不正咬合(所謂、受け口)といった不正咬合を呈することが分かっている場合には、その程度に応じて前記間隙の幅を広げてもよい。工程(II)における人工歯の位置調整を行い易くするために前方側の距離を大きくすることが好ましい。たとえば、後方及び底面方向の距離を0.5~3mmの範囲とし、前方における最大距離をこの距離より大きく且つ2~5mmとすることが好ましい。
この工程で準備する基準義歯床は、上記した特徴を有するものであれば特に限定されないが、個別患者の口腔形状に合致した義歯が得られ易いと言う理由から、前記特許文献2に記載された(平面的な)形状を有する基準義歯の中から患者に応じたサイズ(たとえば、Sサイズ、Mサイズ、Lサイズなど)のものを適宜選択して準備すればよい。また、試着(試適)して適合性を確認する場合において、研削等の作業を要する基準義歯床の形状の微調整が必要とされるケースの発生割合を有意に低減することができ、義歯をより効率的に作製することが可能となるという理由から、上記の平面的な形状を有することに加えて、以下に示す様な立体形状を有する基準義歯を使用することが特に好ましい。
すなわち、図1~4に示されるように、作製される義歯の義歯床において、(1)患者口腔内における顎堤頂部領域の粘膜を被覆する粘膜面を有する領域(部分)を「中央領域」2A1,2B1とし、(2)前記顎堤頂部領域よりも前方の患者口腔内粘膜を被覆する粘膜面を有する領域(部分)を「前方領域」2A2,2B2とし、(3)前記顎堤頂部領域よりも後方の患者口腔内粘膜を被覆する粘膜面を有する領域(部分)を「後方領域」2A3,2B3とし、さらに基準義歯の基準義歯床におけるこれら領域(部分)を、夫々(1)ベース中央領域、(2)ベース前方領域及び(3)ベース後方領域としたときに、ベース中央領域20A1,20B1、ベース前方領域20A2,20B2及びベース後方領域20A3,20B3においてこれら各領域の少なくとも一部の厚さを中央領域、前方領域及び後方領域の厚さよりも有意に薄くするだけでなくベース前方領域の床縁の高さを従来の基準義歯に比べて有意に低くし、これら各領域(部分に)調整部材(具体的には、中央調整部材6A1,6B1、前方調整部材6A2,6B2及び後方調整部材6A3,6B3)が接合できる空間を確保できる立体形状を有することが好ましい。
さらに、このような形状を有する基準義歯においては、前記人工歯のうち少なくとも1つの人工歯を必須の人工歯としたときに、当該必須の人工歯は第1小臼歯、第2小臼歯、第1大臼歯及び犬歯からなる群より選ばれると共に、前記必須の人工歯は、犬歯の人工歯(人工犬歯)を含むと共に、前記基準義歯を、人工歯側を下向きにして咬合平面として想定される平面上に配置したときに、当該平面に対して垂直で、且つ前記人工犬歯の尖頭を通る、前記ベース前方領域の研磨面に対する法線方向に沿った面で切断した縦断面において、前記基準義歯床の前記ベース前方領域の床縁側先端から2mm下側における前記ベース前方領域の幅が0.5mm以上3mm以下である、ことが好ましい。 また、上記好ましい態様の基準義歯においては、当該基準義歯が上顎用の基準義歯である場合には、前記縦断面において、前記ベース前方領域の床縁側先端と、前記人工犬歯の尖頭と、の高低差が13mm以上20mm以下である、ことが好ましく、前記の基準義歯が下顎用の基準義歯である場合には、前記縦断面において、前記ベース前方領域の床縁側先端と、前記人工犬歯の尖頭と、の高低差が13mm以上18mm以下である、ことが好ましい。
本工程では、準備された基準義歯床部材における前記凹部の内部に前記人工歯結合部材を形成するための未硬化状態の硬化性接着用組成物を配置してから前記人工歯を押し込むことにより、前記基準義歯床部材の凹部内に前記人工歯が仮止めされた状態の基準義歯部材を準備する。このとき、硬化性接着用組成物としては本発明の硬化性接着用組成物を使用することが好ましい。本発明の硬化性接着用組成物は、押圧力をかけた場合には容易に変形末するが、人工歯の自重によっては変形しない適度なペースト硬さを有するので、凹部内に前記間隙を埋めるのに必要な量よりも若干過剰な量の本発明の硬化性接着用組成物を充填し、その後人工歯を、凹部内の基準位置よりも若干(例えば2mm程度)浅目の位置に配置されるように押し込めばよい。こうすることによって人工歯が仮止めされた基準義歯部材とすることができる。なお、このような人工歯の仮止めの位置決めを行うためには、後述する位置合わせ冶具に基準義歯床部材をセットして行うことが好ましい。
なお、本発明の方法では、得られる義歯における基準義歯床と人工歯との接着性を良好なものとするために、基準義歯床部材及び人工歯について、前記人工歯結合部材と接触することが想定される領域の表面には、硬化性接着用組成物の充填を行う前に、予め接着剤を施用しておくことが好ましい。硬化性接着用組成物として本発明の硬化性接着用組成物を使用する場合には、(メタ)アクリル系非架橋ポリマー、(メタ)アクリル系モノマー、及び有機溶媒を含有する液状接着剤を施用することが好ましい。
上記液状接着剤における(メタ)アクリル系非架橋ポリマー及び(メタ)アクリル系モノマーとしては、本発明の硬化性接着用組成物における(D)成分及び(A)成分と同じものが特に制限なく使用することができる。また、有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン等の炭化水素化合物;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物;エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール化合物;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert-ブチルメチルエーテル等のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン化合物;ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル化合物;などの非ハロゲン系有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。また、上記液状接着剤は、本発明の硬化性接着用組成物における(C)成分と同様の重合開始剤を含んでいても良い。
(I)基準義歯部材準備工程では、基準義歯部材の準備に際し、一旦準備した基準義歯部材を患者口腔内または患者口腔内模型をセットした咬合器内の適切な位置に配置して、人工歯の仮止め位置の大まかな修正を行うと共に患者口腔内の粘膜又は患者口腔内模型と基準義歯部材との接触状態を確認する確認工程(I´)を含むことが好ましい。このような確認を行うことにより、不適切な接触を起こす場合には、接触を起こさない別の形状を有する基準義歯床を選択し、これに人工歯を仮止めして基準義歯部材とするか、又は接触しないように前記基準義歯部材における前記基準義歯床部材の形状を微調整することにより、より適切な基準義歯床部材を準備することが可能となる。また、前記したように本発明の方法では、義歯の装着者となる患者が、II級不正咬合やIII級不正咬合といった不正咬合を呈する場合には、その程度に応じて前記間隙の幅を広げることができるが、このような確認を行うことにより適切な間隙幅に調整することもできる。なお、前記“適切な位置”とは、患者口腔内において医学的に存在すべき位置と想定される歯牙の咬合面を平面で近似した「仮想咬合平面」の位置と、前記基準義歯部材における前記人工歯の咬合面を平面で近似した「人工歯咬合平面」の位置と、が一致又は実質的に一致する位置を意味する。
このような確認工程(I´)は、具体的には、たとえば次のようにして行うことができる。すなわち、図3に示すような上顎用基準義歯部材10Aおよび/または図4に示すような下顎用基準義歯部材10Bを図5に示す様な患者口腔内模型150を取り付けた咬合器100内に挿入し、上顎用基準義歯部材10Aおよび/または下顎用基準義歯部材10Bの咬合平面となる面が、患者の口腔内で医学的に存在すべき位置に配置された咬合平面と想定される仮想される咬合平面PA上の適切な位置に配置させるようにして、患者口腔内模型150と上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10Bとの接触状態を確認すればよい(以下、このような咬合器を用いた接触状態の確認を「挙上確認」ともいう。)。
なお、図5には、咬合器100に患者口腔内模型150、具体的には上顎模型151と下顎模型152とから構成される患者口腔内模型150が取り付けられた状態が示されている。図5に示す患者口腔内模型150を取り付けた状態の咬合器100内に、上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10Bを挿入して、患者口腔内模型150と上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10Bとの接触状態を確認する(挙上確認をする)場合には、図6に示すような位置合わせ冶具200を用いることが好ましい。
この位置合わせ冶具200には、基準義歯保持部201と、当該基準義歯保持部201に連結されている柄部202とが設けられている。基準義歯保持部201には、上顎用基準義歯部材10Aを保持する上顎義歯保持凹部201Aと、下顎用基準義歯部材10Bを保持する下顎義歯保持凹部201Bとが設けられている。また、柄部202は、平板上で且つ上顎義歯保持凹部201Aに保持された上顎用基準義歯部材10A及び/又は下顎義歯保持凹部201Bに保持された下顎用基準義歯部材10Bの咬合平面と一致するようにして取り付けられているだけでなく、歯科技工士や歯科医等が咬合器100の外、または患者の口腔外から上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10Bをセットする際に容易に操作できるように、ある程度の長さを有している。このため、技工士等の作業者は、柄部202を用いて、容易に上顎用基準義歯部材10Aおよび/または下顎用基準義歯部材10Bを、これらの咬合平面となる面が仮想される咬合平面PA上の適切な位置となるように配置させることができる。なお、患者の口腔内に挿入して接触状態の確認する場合にも、同様の理由から、位置合わせ冶具200を使用することが好ましい。
上記確認工程(I´)において、人工歯の仮止め位置の大まかな修正を行う場合には、不適切な接触を起こさないように前記仮想咬合平面上で人工歯を動かして人工歯位置調整を行うことが好ましい。義歯の装着者となる患者が、II級不正咬合やIII級不正咬合といった不正咬合の程度が大きい症例であっても、このようにして大まかな位置修正を行うことで工程(II)形状調整工程における人工歯の位置調整及び硬化性義歯床用材料への転写を行い易くすることができる。
上記挙上確認では、上顎用基準義歯部材10Aと下顎用基準義歯部材10Bを仮想咬合平面PA(図5参照)で噛み合うようにして、これら上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bを静止させたときの、咬合器100の指導ピン101の浮き上がり量(「挙上値」ともいう。)で接触状態を評価することができる。具体的には、上記の浮き上がり量(挙上値)が0mm以下であれば、不適切な接触が無いと評価され研削調整が不要であり、研削のための作業時間を削減できる。一方、挙上値が0mmを越える場合には不適切な接触が存在し、その値が大きいほど研削による研削調整量が大きいと評価される。このことから、指導ピン101の浮き上がり量(挙上値)が0mm以下のものを合格とし、次工程に進む。なお、上記量(挙上値)が0mm未満であるとは、指導ピン101の位置が下がるわけではなく、基準義歯部材と模型との間に隙間が存在する場合を意味する。このときの隙間は後の工程で調整部材によって埋められることになる。
また、この(I)基準義歯部材準備工程では、上述したような接触状態の確認において、実際の咬合面が適切な位置からずれる場合には、基準義歯部材(上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10B)における基準義歯床部材を研削する調整を行うことで適切な位置に配置するようにしてもよく、また、上記位置ずれを起こさない別の基準義歯を選択してもよい。
[(II)形状調整工程]
(II)形状調整工程では、前記基準義歯部材における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯部材を、患者口腔内または患者口腔内模型をセットした咬合器内の適切な位置に配置して、前記人工歯の位置調整、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状の前記硬化性義歯床用材料への転写、辺縁形成、並びに余剰の前記硬化性接着用組成物及び/又は前記硬化性義歯床用材料の除去を行う。ここで、「適切な位置」とは工程(I)の接触状態を確認する場合における「適切な位置」と同義である。また、未硬化状態の硬化性義歯床用材料としては本発明の硬化性接着用組成物を使用することが好ましい。
上記硬化性義歯床用材料の築盛は、通常、上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10Bを前記位置合わせ冶具200にセットして行っても良い。
また、築盛に際しては、以下に示す様な専用の義歯作製用治具(図示せず。)を使用することが好ましい。すなわち、前記基準義歯床部材の唇側床縁近傍および頬側床縁近傍の領域を囲うように収容可能な前方溝部、および、前記基準義歯床部材の喉側床縁近傍の領域を囲うように収容可能な後方溝部を有する義歯作製用治具を用いることが好ましい。たとえばショアD硬さが80以下であるシリコーン樹脂等の、硬化性義歯床用材料に対して剥離性(非粘着性)を有する可撓性材料で構成された上記義歯作製用治具の各溝部に予め硬化性義歯床用材料を収容しておき、これを基準義歯床の粘膜面に密着させてから冶具を剥離することにより、溝部の幅および深さに対応した所定の築盛量の未硬化状態の硬化性義歯床用材料が、床縁に沿って築盛されることになる。このため、床縁に沿って未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛する際に、適正な築盛量を見積もることが困難な経験の浅い作業者でも、前記義歯作製用治具を用いれば適正な築盛量を安定して再現でき、作業者の経験度に関係無く作業効率・品質の低下を抑制できるようになる。
このようにして築盛を行った後に、築盛された前記硬化性義歯床用材料を、前記調整部材の形状とすると共に、前記硬化性接着用組成物を、前記人工歯結合部材の形状とする。当該作業は、上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10Bを前記位置合わせ冶具200にセットして行うことが好ましい。冶具200にセットして行うことで、「適切な位置」への配置が容易になるばかりでなく、咬合関係を保ったまま人工歯を一括して移動させることが可能となるため、熟練者でなくとも容易に位置調整ができるようになる。具体的には、硬化性義歯床用材料を築盛した上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10Bを前記位置合わせ冶具200にセットし、これを咬合器100内の適切な位置に配置する。その後に、義歯床用材料を上顎模型151および下顎模型152に押し当てて、上顎模型151および下顎模型152を噛み合わせた状態で、「適切な位置」に配置し、人工歯の咬合平面(人工歯咬合平面)が仮想咬合平面からずれないように(同一平面内で)僅かに前後にずらしながら最適な咬合状態となる位置を決め、模型の形状を、硬化性義歯床用材料に転写する。そして、かかる転写後及び位置調整後に、位置合わせ冶具200に上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10Bをセットしたままの状態で、咬合器100内から一度、上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10Bを外に出す。その後に、辺縁形成を行いながら余剰の硬化性義歯床用材料及び/又は前記硬化性義歯床用材料を、上顎用基準義歯部材10Aおよび下顎用基準義歯部材10Bから除去する。
また、(II)形状調整工程は、以下に示す各工程(II-1)、(II-2)及び(II-3)の、多段階に分けて行うことが好ましい。
(II-1)前記基準義歯床部材のベース中央領域に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛して、前記患者口腔内または前記患者口腔内模型の形状を転写する中央形状調整工程。
(II-2)前記基準義歯床部材の前記ベース前方領域に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛して、前記患者口腔内または前記患者口腔内模型の形状を転写すると共に、床縁より延長させて辺縁形成を行う前方形状調整工程。
(II-3)前記基準義歯床部材の前記ベース後方領域に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛して、前記患者口腔内または前記患者口腔内模型の形状を転写すると共に、床縁より延長させて辺縁形成を行う後方形状調整工程。
最初に工程(II-1)でベース中央領域の粘膜面の適合化を行うことにより大まかな位置決めを行い、次に、工程(II-2)及び工程(II-3)において、変動幅が少ない状況で前方部(ベース前方領域)及び後方部(ベース後方領域)の粘膜面の適合化並びに辺縁(床縁)の形成及び適合化を行うことで、熟練した手技を有さない者でも容易に高精度の位置決めができるようになっている。しかも基準義歯床の前方床翼部の高さや、基準義歯床の後方部の長さを裏装材等の硬化性義歯床用材料で補いながら(延長しながら)患者粘膜との境界が自然な状態となるように境界の適合化を図ることができる。なお、人工歯の位置調整も各工程で行うようにすることが好ましい。
(II-1)から(II-3)の各工程において、患者口腔内の粘膜形状または患者口腔内模型の形状を転写する際には、未硬化状態の硬化性義歯床用材料が築盛された基準義歯を咬合平面と想定される平面上の適切な位置に配置する必要がある。最初に行う(II-1)工程においては、ベース中央領域の粘膜面は、曲率半径が小さいことに起因して、位置決めし易いというメリットを有する反面、僅かな力を加えただけでこの部分を支点にして前後が上下にブレ易い。このため、このようなブレの発生を抑制して精度良く、前記適切な位置に配置するためには、前記したような図6に示すような位置合わせ冶具200を用いることが好ましい。
なお、上顎用義歯と下顎用義歯をセットで作製する場合には、上顎用又は下顎用のどちらか一方のベース中央領域の粘膜面に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、硬化性義歯床用材料を築盛した基準義歯を位置合わせ冶具200に保持してから前記患者口腔内または前記咬合器内に挿入して、前記適正な位置に保持して工程(II-1)の転写を行うことが好ましい。上下の顎間の関係を再現するという観点からすると、先に上顎用義歯を作製する場合は上顎用基準義歯のみを位置合わせ冶具200に保持して転写を行い、次に行う下顎用基準義歯の転写においては上顎用基準義歯及び下顎用基準義歯を同時に(セットで)位置合わせ治具200に保持して転写を行うことがより好ましい。なお、上顎用義歯と下顎用基準義歯はどちらを先に作製しても構わない。
なお、工程(II-1)終了後の工程(II-2)及び/又は工程(II-3)における位置合わせ(適切な位置での保持)は、ブレが少なく容易化されるので、熟練者であれば位置合わせ冶具を用いることなく上顎用、下顎用別々に行うこともできる。また、熟練者でなくとも、前記位置合わせ冶具200を用いることにより、容易に高精度の転写を行うことができる。このとき、上顎用又は下顎用の何れか一方の基準義歯を保持して工程(II-2)及び/又は工程(II-3)を行っても良いが、より確実に高精度の転写を行うためには、両方の基準義歯を位置合わせ冶具200に保持して行うことが好ましい。
なお、(II-2)の前方形状調整工程と、(II-3)の後方形状調整工程は、同時に行っても良く、個別に行っても良い。また、(II-1)から(II-3)を複数回繰り返して行ってもよい。
[(III)硬化工程]
本工程は、形状調整工程を経た前記硬化性接着用組成物及び前記形状調整を経た前記硬化性義歯床用材料を個別に又は同時に硬化させる硬化工程である。
本工程では、前記(II)形状調整工程で前記人工歯結合部材の形状とされた前記硬化性接着用組成物及び前記調整部材の形状とされた前記硬化性義歯床用材料を硬化させて、前記人工歯結合部材及び前記調整部材を形成すると共に、当該人工歯結合部材及び当該調整部材を前記基準義歯床部材と一体化させる。
重合硬化は、硬化性接着用組成物及び硬化性義歯床用材料に含まれる重合開始剤の種類に応じて適宜決定される。たとえば光重合開始剤を用いた光重合タイプの場合、開始剤を活性化する紫外線等の光を照射することで、硬化性接着用組成物及び硬化性義歯床用材料を硬化させることができる。また、熱重合開始剤を用いた熱重合タイプの場合には加熱することによって、義歯床用材料を硬化させることができる。
また、(III)硬化工程は、以下に示す各工程(III-1)、(III-2)及び(III-3)の、多段階に分けて行っても良い。
(III-1)中央形状調整工程を経た前記硬化性接着用組成物及び前記硬化性義歯床用材料を個別に又は同時に硬化させる工程。
(III-2)前方形状調整工程を経た前記硬化性接着用組成物及び前記硬化性義歯床用材料を個別に又は同時に硬化させる工程。
(III-3)後方形状調整工程を経た前記硬化性接着用組成物及び前記硬化性義歯床用材料を個別に又は同時に硬化させる工程。
これら工程は、それぞれの前記形状調整工程終了後に、それら形状調整工程に対応したそれぞれの前記硬化工程(III-1)乃至(III-3)を個別に行っても良いし、又は、終了した前記形状調整工程に対応する全ての形状調整工程終了後に同時に行っても良い。例えば、工程(II-1)及び工程(III-1)終了後に工程(II-2)及び(II-3)を行う場合、(III-2)の硬化工程と、(III-3)の硬化工程は、両形状調整工程終了後に同時に行っても良く、また各形状調整工程終了後に個別に行っても良い。また、工程(II-1)終了後に工程(III-1)を行うことなく工程(II-2)及び(II-3)を行い、その後、1回でまとめて(III-1)、(III-2)及び(III-3)を同時に行っても良い。
以上のような各工程を経ることで、上顎用基準義歯10Aおよび下顎用基準義歯10Bを用いた義歯を作製することができる。
[付加的工程]
本実施形態に係る義歯の作製方法では、前記(II)形状調整工程及び/又は(III)硬化工程終了後に、前記基準義歯床の粘膜面側の表面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を追加して当該粘膜面側表面の形状を修正するウォッシュ工程を更に含んでも良い。
上記ウォッシュ工程は、例えば、前記(II)形状調整工程終了後であって、最終的な(III)硬化工程を行う前、または終了後に、前記基準義歯床の粘膜面側の表面上に未硬化状態の硬化性義歯床用材料を微量追加して、より良い適合性が得られるように形状を微修正してから硬化させることによって行うことができる。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
まず、各実施例及び各比較例で使用した各種成分の名称、特性、略号(略号を用いた場合)等を示す。
[(A)(メタ)アクリル系モノマー]:接着剤の成分ともなる。
・HPr:2-メタクリロイルオキシエチルプルピオネート(単官能重合性モノマー)
・ND:ノナメチレンジオールジメタクリレート(二官能重合性モノマー)
・UDMA:1,6-ビス(メタクリロイルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン(二官能重合性モノマー)
・TT:トリメチロールプロパントリメタクリレート(三官能重合性モノマー)
・TMMT:テトラメチロールメタンテトラメタクリレート(四官能重合性モノマー)。
[(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマー]
使用したポリマー(何れも、積水化成品工業社製)の略称、成分、平均粒子径、及び平均細孔径を表1に示す。
[(B’)非多孔質有機架橋ポリマー]
・PMMA-X:ポリメチルメタクリレート(平均粒子径:8μm、積水化成品工業(株)製)
・AC-X:ポリアクリル酸エステル(平均粒子径:8μm、積水化成品工業(株)製)。
[(C)重合開始剤]:接着剤の成分ともなる。
・CQ:カンファーキノン
・BPO:過酸化ベンゾイル
・DMBE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル。
[(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマー]:接着剤の成分ともなる。
・PEMA:ポリエチルメタクリレート(平均粒子径:35μm、質量平均分子量:50万)
・P(EMA-MMA):ポリエチルメタクリレート-メチルメタクリレート共重合体(エチルメタクリレート/メチルメタクリレート=50/50、平均粒子径:40μm、質量平均分子量:100万)
・PBMA:ポリブチルメタクリレート(平均粒子径:60μm、質量平均分子量:15万)
[有機溶媒]:接着剤の成分
・アセトン
・酢酸エチル。
[その他の成分]
・シリカ:球状シリカ(3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、平均粒子径:1μm)。
次に、各実施例及び各比較例における評価項目の測定方法を以下に示す。
(1)モノマー吸収量
モノマー吸収量RAbは、JIS K5101-13-1:2004に記載の「精製あまに油法」において、精製あまに油を用いる代わりに、各実施例又は各比較例で使用する(A)(メタ)アクリル系モノマー(複数混合して使用した場合には同一組成のモノマー混合物)を用いて決定した。具体的には、所定量〔M(g)〕の(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーをガラス板の上に置き、(A)成分のモノマーをビュレットから一回に4、5滴ずつ徐々に加え、その都度、パレットナイフでモノマーをポリマーに練り込んだ。これらを繰り返し、モノマー及びポリマーの塊ができるまで滴下を続け、以後、1滴ずつ滴下し、完全に混練するようにして繰り返した。そして、ペーストが滑らかな硬さになったところを終点とし、終点までに使用した(A)成分のモノマーの量〔M(g)〕を測定した。なお、終点までの操作に要する時間は25分間以内となるようにした。そして、次式:RAb(g/g)=M(g)/M(g)
により、モノマー吸収量RAbを決定した。
(2)曲げ強さ、弾性率、及び破断エネルギー
30mm×30mm×2mmのポリテトラフルオロエチレン製モールドにペーストを充填した。そして、光重合開始剤を用いた場合には、両面をポリエチレンフィルムで圧接した状態で歯科技工用光重合装置αライトV((株)モリタ製)を用いて5分間光照射して硬化体を作製した。また、熱重合触媒を用いた場合は、両面をポリエチレンフィルムで圧接した状態で水中に浸漬し、沸騰してから1時間加熱して硬化体を作製した。次いで、#800及び#1500の耐水研磨紙にて硬化体を研磨した後、4mm×30mm×2mmの角柱状に切断した。得られた硬化体を水中浸漬し、37℃にて24時間放置した。この試験片を試験機(オートグラフAG-1、(株)島津製作所製)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ試験を行い、曲げ強さ、弾性率、及び破断エネルギーを測定した。
(3)硬化性接着用組成物のペースト硬さ
SUS型ナット状型にペーストを填入して表面を平らにならし、2分間遮光下で放置して温度を23℃で一定にした。サンレオメーターCR-150((株)サン科学製)に感圧軸としてΦ5mmSUS製棒を取り付け、240mm/分の速度で2mmの深さまで圧縮進入したときの最大荷重[g]をペースト硬さとした。測定は、ペーストを調製した翌日(初期)、及びペーストを23℃で1か月間保管した後(1か月後)に行った。
(4)硬化性接着用組成物のペースト粘着性
グローブを装着し、ペーストの粘着性を以下の判定基準に従って評価した。
A:グローブには付着しないが、義歯床には粘着する。
B:グローブに付着するが、義歯床及び石膏に粘着させるとグローブから剥離できる。
C:グローブに付着し、義歯床に粘着しない。
(5)1か月後のペースト性状
ペーストを23℃で1か月間保管し、以下の判定基準に従ってペースト性状を評価した。
A:ペースト調製直後と変化なし。
B:ペースト調製直後から、軽微な粘度変化がある。
C:ペースト調製直後から、顕著な粘度変化がある。
(6)接着強さ
義歯床用レジン(アクロン、(株)ジーシー製)の板(15mm×15mm×2mm)を作製し、該板を耐水研磨紙#800で研磨したものを被着体とした。被着体に筆を用いて接着剤を塗布し、接着剤中の溶媒成分が揮発するまで放置して乾燥させた後、直径3mmの孔を有する両面テープを貼り付け、次いで直径8mmの孔を有するパラフィンワックスを上記孔上に同一中心となるように貼り付けた。孔に硬化性接着用組成物のペーストを充填し、ポリエチレンフィルムで圧接した状態で歯科技工用光重合装置αライトV((株)モリタ製)を用いて5分間光照射して接着試験片を作製した。上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、金属アタッチメントを硬化体上に取り付け、引張り試験機(オートグラフ、(株)島津製作所製)を用いて、クロスヘッドスピード2mm/分にて引張ることにより、接着強さを測定した。5個の試験片の平均値を接着強さ(初期)とした。また、上記と同様にして作製した試験片を、熱衝撃試験機((株)東京技研製)を用いて、5℃の水中に30秒間浸漬、55℃の温水中に30秒間浸漬を1サイクルとし、10000回のサイクルを繰り返す熱衝撃試験を行った。熱衝撃試験後の試験片について上記と同様にして接着強さを測定し、5個の試験片の平均値を接着強さ(耐久試験後)とした。
<1.硬化性接着用組成物>
実施例1
表2に示す組成で硬化性接着用組成物のペーストを調製すると共に、表3に示す組成で接着剤を調製し、上記各物性の評価を行った。表2及び表3における各成分の量は質量部である。結果を表4に示す。なお、これら表中の「↑」は、「同上」を意味する。
表4に示すとおり、実施例1のペーストを硬化させた硬化体は、曲げ強さが80[MPa]、破断エネルギーが95[N・mm]と両者共に高く、高い強度及び靱性を有していた。また、実施例1のペーストは、グローブにはやや付着するが、義歯床に粘着するとグローブからは容易に剥離可能という良好なペースト操作性を示し、1か月後のペースト硬さ及びペースト性状も調製直後から殆ど変化はなく、保存安定性にも優れていた。更に、実施例1のペーストは、接着剤を用いて被着体に強固に接着させることができ、接着耐久性にも優れていた。
実施例2~23
ペーストの組成を表2に示すように変更し、接着剤の組成を表3に示すように変更した他は、実施例1と同様に評価を行った。結果を表4に示す。表4に示すとおり、実施例2~23のペーストを硬化させた硬化体は、いずれも高い強度及び靱性を有していた。また、実施例2~23のペーストは、ペースト操作性及び保存安定性にも優れていた。更に、実施例2~23のペーストは、接着剤を用いて被着体に強固に接着させることができ、接着耐久性にも優れていた。
比較例1~3
使用するフィラーを(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーから表5に示すものに変更し、接着剤の組成を表6に示すように変更した他は、実施例1と同様に評価を行った。表5及び表6における各成分の量は質量部である。結果を表7に示す。
表7に示すとおり、(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの代わりに(B’)非多孔質有機架橋ポリマーをフィラーとして配合した比較例1、2のペーストは、硬化体の強度及び靭性が低く、保存安定性も劣っていた。また、比較例1、2のペーストは、接着剤を用いて被着体に接着させたときの接着性が低く、接着耐久性にも劣っていた。また、(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの代わりにシリカをフィラーとして配合した比較例3のペーストは、硬化体の強度は高いものの、靱性が低く、ペースト操作性も劣っていた。また、比較例3のペーストは、接着剤を用いて被着体に接着させたときの接着性が低く、接着耐久性にも劣っていた。
<2.義歯の作製方法>
実施例24
実施例1の硬化性接着用組成物を用いて、下記の本発明の作製方法により義歯を作製し、評価を行った。
まず、夫々歯槽部に相当する領域に、所定範囲の間隙を持って前記人工歯を遊嵌可能な凹部を有する上顎用基準義歯床部材及び下顎用基準義歯床部材と人工歯とを準備し、凹部の内面及び凹部開口の周縁領域に接着剤を塗布した後に硬化性接着用組成物を所定量充填してから人工歯を押し込むことによって、図3に示す上顎用基準義歯部材、及び図4に示す下顎用基準義歯部材を準備した。次に、図6に示す位置合わせ冶具に上顎用基準義歯部材を保持し、図5に示す咬合器に挿入して不適切接触の有無を確認し、不適切接触が認められたとき(不適と判断された場合)には、可及的にそれがなくなるまで(適となるまで)人工歯位置の大まかな位置修正を行い、必要に応じて基準義歯床部材についてハンディ研削機を用いた研削調整を行った。その後、下顎用基準義歯についても同様に行った{(I)基準義歯部材準備工程}。
次いで、上顎用基準義歯部材及び下顎用基準義歯部材の粘膜面上に接着剤を塗布後、実施例1の硬化性義歯床用材料をそれぞれ築盛し、その上顎用基準義歯部材及び下顎用基準義歯部材を前記位置合わせ冶具に保持してから前記咬合器内に挿入して、前記適切な位置に保持して、前記人工歯の位置調整、患者口腔内模型の形状の転写をすると共に辺縁形成を行い、余剰の硬化性義歯床用材料は除去した{(II)形状調整工程}。
最後に全ての硬化性接着用組成物と硬化性義歯床用材料を一度に硬化させて{(III)硬化工程}、上顎・下顎一組の義歯を作製した。さらに他の患者口腔内模型についてもこのような作業を繰り返し、最終的に20組の全ての患者口腔内模型に適合する上顎・下顎用20組の義歯を、本発明の作製方法により作製した。
その結果、患者個人に合わせた適合性と審美性の良好な義歯を容易に作製することができ、患者満足度の高い義歯を作製できた。
1…義歯
1A…上顎用義歯
1B…下顎用義歯
1A4,1B4…粘膜面
1A5,1B5…研磨面
1A6,1B6…床縁
1A7,1B7…歯頸部
1A8,1B8…床翼
1A9,1B9…人工歯結合部材
2…義歯床
2A…上顎用義歯床
2B…上顎用義歯床
2A1,2B1…中央領域
2A2,2B2…前方領域(前方床翼部)
2A3…後方領域(口蓋床部)
2B3…後方領域(舌側床翼部)
4…基準義歯床部材
4A…上顎用基準義歯床部材
4B…下顎用基準義歯部材
5基準義歯部材
5A…上顎用基準義歯部材
5B…下顎用基準義歯部材
6…調整部材
6A1,6B1…中央調整部材
6A2,6B2…前方調整部材
6A3…後方調整部材(口蓋床調整部)
6B3…後方調整部材(舌側床翼調整部)
10…基準義歯部材
10A…上顎用基準義歯部材
10B…下顎用基準義歯部材
20…基準義歯床部材
20A…上顎用基準義歯床部材
20B…下顎用基準義歯床部材
20A1,20B1…ベース中央領域
20A2,20B2…ベース前方領域(ベース前方床翼部)
20A3…ベース後方領域(ベース口蓋床部)
20A3a…ベース口蓋床部の粘膜面
20B3…ベース後方領域(ベース舌側床翼部)
20B3a…ベース舌側床翼部の粘膜面
21A,21B…床翼
21B2…舌側床翼
22A,22B…床縁
22A1,22B1…唇側床縁
22A2,22B2…頬側床縁
23A,23B…粘膜面
24A,24B…研磨面
30,30A,30B…人工歯列
31,31A,31B…人工歯
31A1,31B1…人工中切歯
31A3,31B3…人工犬歯(犬歯の人工歯)
31A3p,31B3p…人工犬歯の尖頭
100…咬合器
101…指導ピン
150…患者口腔内模型
151…上顎模型
152…下顎模型
200…位置合わせ治具
201…基準義歯保持部
201A…上顎義歯保持凹部
201B…下顎義歯保持凹部
202…柄部

Claims (7)

  1. 人工歯と、義歯床の主要部を構成する基準義歯床部材と、硬化性接着用組成物の硬化体からなる人工歯結合部材と、硬化性義歯床用材料の硬化体からなる調整部材と、を有する義歯を作製する方法であって、
    前記義歯を患者の口腔内に装着した状態において、患者顎堤粘膜と密着する面である「粘膜面」とし、その反対側の面を「研磨面」とし、当該研磨面において前記人工歯が固定される部分を「歯槽部」としたときに、
    前記基準義歯床部材は、前記義歯床の歯槽部に相当する領域に、所定範囲の間隙を持って前記人工歯を遊嵌可能な凹部を有し、
    前記人工歯は、前記間隙を埋める前記人工歯結合部材を介して前記基準義歯床部材の前記凹部内に接合されており、
    前記義歯の粘膜面の少なくとも一部が前記調整部材で構成されるように前記基準義歯床部材の粘膜面上に前記調整部材が接合されており、
    前記方法は、
    (I)人工歯及び前記基準義歯床部材を準備し、当該基準義歯床部材における前記凹部の内部に前記人工歯結合部材を形成するための未硬化状態の硬化性接着用組成物を配置してから前記人工歯を押し込むことにより、前記基準義歯床部材の凹部内に前記人工歯が仮止めされた状態の基準義歯部材を準備する基準義歯部材準備工程;
    (II)前記基準義歯部材における前記基準義歯床部材の粘膜面上に、前記調整部材を形成するための未硬化状態の硬化性義歯床用材料を築盛し、次いで、前記硬化性義歯床用材料が築盛された前記基準義歯部材を、患者口腔内または患者口腔内模型をセットした咬合器内の適切な位置に配置して、前記人工歯の位置調整、前記患者口腔内の粘膜形状または前記患者口腔内模型の形状の前記硬化性義歯床用材料への転写、辺縁形成、並びに余剰の前記硬化性接着用組成物及び/又は前記硬化性義歯床用材料の除去を行う、形状調整工程;並びに
    (III)前記形状調整を経た前記硬化性接着用組成物及び前記形状調整を経た前記硬化性義歯床用材料を、個別に又は同時に硬化させる硬化工程;
    を含む、
    ことを特徴とする前記方法。
  2. 前記(II)形状調整工程において、患者口腔内または患者口腔内模型をセットした咬合器内に前記基準義歯部材を配置する際の前記“適切な位置”が、患者口腔内において医学的に存在すべき位置と想定される歯牙の咬合面を平面で近似した「仮想咬合平面」の位置と、前記基準義歯部材における前記人工歯の咬合面を平面で近似した「人工歯咬合平面」の位置と、が一致又は実質的に一致する位置である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記(II)形状調整工程を、順次精度を高めながら複数回に分けて行う、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記硬化性接着用組成物が、
    (A)(メタ)アクリル系モノマーと、(B)前記(A)(メタ)アクリル系モノマーを吸収し得る吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーと、(C)光重合開始剤及び熱重合開始剤から選択される重合開始剤とを含有するペースト状組成物からなり、
    前記(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの含有量が、前記(A)(メタ)アクリル系モノマー100質量部に対して20~80質量部であり、
    JIS K5101-13-1:2004に準じて測定される、前記(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの単位量:g-B(単位:g)当たりに吸収される前記(A)(メタ)アクリル系モノマーの量:g-A(単位:g)で定義される吸収量:RAb={(g-A)/(g-B)}が1.5以上である、
    ペースト状組成物からなる、
    ことを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法。
  5. 前記硬化性接着用組成物における前記(A)(メタ)アクリル系モノマーの単位量(単位:g)当たりの前記(B)吸モノマー性多孔質有機架橋ポリマーの含有量(単位:g)と、前記吸収量RAbとの積が0.65~1.65である請求項に記載の方法。
  6. 前記硬化性接着用組成物が、(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーを更に含有し、前記(D)(メタ)アクリル系非架橋ポリマーの含有量が、前記(A)(メタ)アクリル系モノマー100質量部に対して5~40質量部である、請求項4又は記載の方法。
  7. 前記工程(I)基準義歯部材準備工程において、基準義歯床部材における硬化性接着用組成物の接合部分に(メタ)アクリル系非架橋ポリマー、(メタ)アクリル系モノマー、及び有機溶媒を含有する液状接着剤を施用する、請求項1乃至6の何れか一項に記載の方法。
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