JP7367751B2 - ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、優れた耐熱特性、かつ高い靱性を有し、薄肉成形品に好適なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、機械的性質、電気的性質、その他物理的、化学的特性に優れ、かつ加工性が良好であるため、エンジニアリングプラスチックとして自動車、電気・電子部品などの広範な用途に使用されている。特にその優れた電気特性のため、家電、OA機器、自動車などの用途向けが拡大傾向にある。これら製品の軽薄短小化の傾向には著しいものがあり、たとえばその外殻部品は極めて薄肉になっている。
また、複雑な構造の部品では、別々に成形した部品同士を後から組み合わせる工法が採られることが多い。たとえば、一方の部品にフック形状を設け、それを他方の部品の穴を通して引っ掛けて固定する方法や、外側に凸部を設けた筒状部品を、内側に凹部を設けた他方の筒状部品の中に圧入し、凸部と凹部の噛み合わせにより固定する方法などがある。
しかしながら、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、靱性が高くないため、薄肉成形品を組み合わせる際、製品形状によっては割れが生じる場合がある。そのため、製品形状・厚み設計の自由度に制限があった。加えて、熱がかかった状態で荷重がかかるような構造体も多くなっており、それに耐えうるために荷重たわみ温度の高い(1.8MPaにおける荷重たわみ温度が60℃以上である)材料が求められている。
そのため、引張特性(靱性)の優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が強く望まれている。ポリブチレンテレフタレート樹脂の引張特性(靱性)を向上する方法としては、エラストマーを添加する方法が一般的に知られている。
特許文献1では、ポリブチレンテレフタレート樹脂にポリエステルエラストマー樹脂と3つ以上の官能基およびアルキレンオキシド単位を一つ以上有する多官能性化合物を添加することで、流動性、靭性、耐久性の改良を行っている。また特許文献2および3では、ポリブチレンテレフタレート樹脂にポリエステルエラストマー樹脂を、配合方法を工夫しながら添加することにより、引張特性を改良している。しかしながら、これらの組成では耐熱性(荷重たわみ温度)に留意されておらず、荷重たわみ温度が低いことが予想される。
特許文献4では、ポリブチレンテレフタレート樹脂にポリエステルエラストマー樹脂とタルクを添加することにより、流動性と靱性を両立し、かつハイサイクル成形を可能としている。しかしながら、この構成では高い引張伸度を得るために、エラストマーを多く添加する必要があり、それに伴い荷重たわみ温度や弾性率の低下が問題となる。これらの問題はタルクを多く添加することでカバーすることが可能であるが、その場合、薄肉成形品では割れが起こりやすくなるため好ましくない。
これらの文献からも分かるように、靱性の改良については種々研究が続けられているが、耐熱性(荷重たわみ温度)を両立するための改良検討は十分になされていなかった。
特許第5272715号公報 特開2006-298993号公報 特開平9-255857号公報 特開平7-53855号公報
本発明は、上記の問題点を解決しようとするものであり、優れた耐熱特性、靱性を有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するためにポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の構成と特性を鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
[1] 固有粘度(IV)が1.0~1.3dl/gであるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)85~99.5質量部、ポリエステルエラストマー(B)0~13質量部、及び平均粒子径が5μm以下であるタルク(C)0.05~2質量部((A)、(B)及び(C)成分の合計が100質量部である)を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、ポリエステルエラストマー(B)を含有する場合は、該ポリエステルエラストマー(B)を構成するハードセグメント/ソフトセグメントの質量比が85/15~50/50であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[2] 前記固有粘度(IV)が1.0~1.3dl/gであるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を86~96質量部含有し、前記ポリエステルエラストマー(B)を3~13質量部含有する[1]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[3] 前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形して得られる成形品の130℃、3時間熱処理後の1.8MPaにおける荷重たわみ温度が60℃以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[4] 前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形して得られる厚さ4mmの成形品の引張破断伸度が50%以上であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
本発明によれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂においても、ポリエステルエラストマーおよび所定の粒子径を有するタルクを特定の配合比で添加することにより、優れた耐熱特性と靱性を両立することが可能である。
以下に本発明を具体的に説明する。
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の各成分の含有量(配合量)は、特に但し書きをしない限り、固有粘度(IV)が1.0~1.3dl/gであるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、ポリエステルエラストマー(B)、及び平均粒子径が5μm以下であるタルク(C)の合計を100質量部としたときの量で表している。本明細書では以降、「固有粘度(IV)が1.0~1.3dl/gであるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)」を「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)」と、「平均粒子径が5μm以下であるタルク(C)」を「タルク(C)」と、略して記載する。本発明においては、各成分の配合量(配合比率)がそのまま、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の含有量(含有比率)となる。
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジカルボン酸と、1、4-ブタンジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジオールとを重縮合反応させるなどの一般的な重合方法によって得ることができる重合体である。ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、ブチレンテレフタレートの繰返し単位が80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、その特性を損なわない範囲、たとえば20モル%程度以下で、他の重合成分を含むことができる。他の重合成分を含むポリブチレンテレフタレート樹脂の例としては、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレートなどを挙げることができる。これらの成分を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度(IV)は、1.0~1.3dl/gである必要がある。固有粘度(IV)がこの領域であることで、引張特性をはじめとする機械的特性、化学的特性が良好となる。ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度(IV)は、1.03~1.28dl/gであることが好ましく、1.05~1.25dl/gであることがより好ましく、1.08~1.15dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度(IV)が1.0dl/g未満であると、十分な引張伸度が得られない。固有粘度(IV)が1.3dl/g超であると、十分な流動性が得られず、薄肉成形が困難となる傾向がある。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の末端カルボキシル基量は、特に限定されない。末端カルボキシル基から乖離する水素イオンは、ポリエステルの加水分解反応において触媒的な役割を担うため、末端カルボキシル基量の増加に伴って加水分解反応が加速する。この観点から、末端カルボキシル基量は少ないほうが好ましい。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の末端カルボキシル基量(酸価)は、40eq/ton以下であることが好ましく、より好ましくは30eq/ton以下であり、さらに好ましくは25eq/ton以下である。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の末端カルボキシル基量(酸価)(単位:eq/ton)は、たとえば、所定量のポリブチレンテレフタレート樹脂をベンジルアルコールに溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより測定することができる。指示薬は、たとえば、フェノールフタレイン溶液を用いればよい。
上記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の含有量は、85~99.5質量部である。好ましくは86~97質量部であり、より好ましくは86~96質量部であり、さらに好ましくは87~95質量部である。この範囲内にポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を配合することにより、耐熱特性(荷重たわみ温度)と高い引張伸度を併せもつポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることが可能となる。
[ポリエステルエラストマー(B)]
本発明で使用するポリエステルエラストマー(B)とは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族および/または脂環族のグリコールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステルおよび脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであることが好ましい。
本発明で使用するポリエステルエラストマー(B)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸は、通常の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、特に限定されないが、具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、およびこれらの機能的誘導体が挙げられる。好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸であり、これらは結晶化速度が速く成形性が良好な傾向にある。特に好ましくは、テレフタル酸およびテレフタル酸ジメチルエステル、イソフタル酸およびイソフタル酸ジメチルエステル、2,6-ナフタレンジカルボン酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルである。さらに、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸、ダイマ-酸などの脂肪族ジカルボン酸およびその機能的誘導体、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸およびその機能的誘導体を、ハードセグメントのポリエステルを構成するジカルボン酸成分中、50モル%未満で用いることもできる。芳香族ジカルボン酸以外の成分が好ましくは50モル%未満、より好ましくは40モル%未満、さらに好ましくは30モル%未満で、50モル%以上だとポリエステルエラストマーの結晶性が低下する傾向にあり、成形性、耐熱性が低下する傾向にある。
また、本発明で使用するポリエステルエラストマー(B)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する脂肪族または脂環族グリコールは、一般の脂肪族または脂環族グリコールが広く用いられ、特に限定されないが、主として炭素数2~8のアルキレングリコール類であることが望ましい。好ましくは、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくは、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールのいずれかである。
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、エチレンテレフタレート単位(テレフタル酸とエチレングリコールからなる単位)あるいはブチレンテレフタレート単位(テレフタル酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)よりなるものが物性、成形性、コストパフォーマンスの点より好ましい。
また、本発明で使用するポリエステルエラストマー(B)におけるハードセグメントを構成するポリエステルとして好適な芳香族ポリエステルを事前に製造し、その後ソフトセグメント成分と共重合させる場合、該芳香族ポリエステルは、通常のポリエステルの製造法に従って容易に得ることができる。また、かかるポリエステルは、数平均分子量10000~40000を有しているものが望ましい。
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(B)のソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種である。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシヘキサメチレングリコール、ポリオキシトリメチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリオキシプロピレングリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。
また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペートなどが挙げられる。
また、脂肪族ポリカーボネートは、主として炭素数2~12の脂肪族ジオール残基からなるものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールなどが挙げられる。特に、得られるポリエステルエラストマー(B)の柔軟性や低温特性の点より炭素数5~12の脂肪族ジオールが好ましい。これらの成分は、以下に説明する事例に基づき、単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
本発明において、使用可能なポリエステルエラストマー(B)のソフトセグメントを構成する、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールとしては、融点が低く(例えば、70℃以下)かつ、ガラス転移温度が低いものが好ましい。一般に、ポリエステルエラストマーのソフトセグメントを形成するのに用いられる1,6-ヘキサンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは、ガラス転移温度が-60℃前後と低く、融点も50℃前後となるため、低温特性が良好なものとなる。その他にも、上記脂肪族ポリカーボネートジオールに、例えば、3-メチル-1,5-ペンタンジオールを適当量共重合して得られる脂肪族ポリカーボネートジオールは、元の脂肪族ポリカーボネートジオールに対してガラス転移点が若干高くなるものの、融点が低下もしくは非晶性となるため、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールに相当する。また、例えば、1,9-ノナンジオールと2-メチル-1,8-オクタンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは融点が30℃程度、ガラス転移温度が-70℃前後と十分に低いため、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールに相当する。
本発明に用いるポリエステルエラストマー(B)は、経済性、耐熱性、耐寒性の理由から、テレフタル酸、1,4-ブタンジオール、およびポリオキシテトラメチレングリコールを主たる成分とする共重合体であることが好ましい。ポリエステルエラストマー(B)を構成するジカルボン酸成分中、テレフタル酸が40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。ポリエステルエラストマー(B)を構成するグリコール成分中、1,4-ブタンジオールとポリオキシテトラメチレングリコールの合計が40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
前記ポリオキシテトラメチレングリコールの数平均分子量は500~4000であることが好ましい。数平均分子量が500未満であると、エラストマー特性を発現しづらくなることがある。一方、数平均分子量が4000を超えると、ポリエステルエラストマー(B)のハードセグメントを構成するポリエステル部分との相溶性が低下し、ブロック状に共重合することが難しくなる場合がある。ポリオキシテトラメチレングリコールの数平均分子量は、800以上3000以下であることがより好ましく、1000以上2500以下がさらに好ましい。
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(B)のハードセグメントとソフトセグメントの共重合量は、ハードセグメント/ソフトセグメントの質量比が、85/15~50/50である。好ましくは、80/20~55/45である。ポリエステルエラストマー(B)のハードセグメントとソフトセグメントの共重合量をこの範囲にすることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐熱性を維持すると同時に、高い靭性(特に薄肉成形品における靭性)を得ることが可能となる。
本発明で使用するポリエステルエラストマー(B)の硬度(表面硬度)は特に限定されないが、例えばショアD硬度45程度の低硬度のものからショアD硬度75程度の高硬度まで広い範囲のポリエステルエラストマーが使用可能であり、好ましくはショアD硬度50~70、さらに好ましくはショアD硬度55~65のものである。
本発明に用いるポリエステルエラストマー(B)の還元粘度は、後記する測定方法で測定した場合、0.5dl/g以上3.5dl/g以下であることが好ましい。0.5dl/g未満では、樹脂としての耐久性が低く、3.5dl/gを超えると、成形性が不十分になる可能性がある。ポリエステルエラストマー(B)の還元粘度は、1.0dl/g以上3.0dl/g以下であることがより好ましく、1.3dl/g以上2.8dl/g以下であることがさらに好ましい。また、酸価は200eq/t以下が好ましく、60eq/t以下がより好ましい。
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(B)は、公知の方法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、およびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あるいはジカルボン酸と過剰量のグリコールおよびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、また、あらかじめハードセグメントを作っておき、これにソフトセグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法、ハードセグメントとソフトセグメントを鎖連結剤でつなぐ方法、さらにポリ(ε-カプロラクトン)をソフトセグメントに用いる場合は、ハードセグメントにε-カプロラクトンモノマを付加反応させるなど、いずれの方法をとってもよい。
上記ポリエステルエラストマー(B)の含有量は、0~13質量部である。この範囲内にポリエステルエラストマー(B)を配合(含有)することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐熱性を維持したまま、引張特性(靭性)を向上させることが可能となる。なお、ポリエステルエラストマー(B)を含有する場合は、ハードセグメント/ソフトセグメントの質量比が、上記の特定の範囲のものである必要がある。さらに、薄肉成形品に好適な程度までに引張特性(靭性)を向上させるためには、上記ポリエステルエラストマー(B)の含有量は、3~13質量部であることが好ましい。ポリエステルエラストマー(B)の含有量は、より好ましくは3~12質量部であり、さらに好ましくは4~11質量部である。
[タルク(C)]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、平均粒子径が5μm以下であるタルク(C)を含有する。
タルクはポリエステル樹脂に対して結晶核剤効果を有し、少量の添加でポリエステル樹脂の耐熱性を向上させることができる。ただし粒子径が大きいと、樹脂組成物中の欠点となり、引張伸度が低下する問題がある。そのため、本発明に用いられるタルク(C)の平均子径は5μm以下である。タルク(C)の平均粒子径(重量(体積)累積粒度分布の50%径)は、レーザー回折法により測定される。タルク(C)の平均粒子径は、好ましくは3μm以下である。タルク(C)の平均粒子径の下限は、凝集(分散不良)抑制、取り扱い性(フィードのしやすさ等)の点から、0.05μmである。
本発明におけるタルク(C)は、上記の平均粒子径の範囲を満たせば、原料である滑石の産地、製造方法、成分組成などは特に制限されない。また本発明におけるタルク(C)は、表面処理の有無については限定されず、任意に選択できる。
本発明におけるタルク(C)は、表面処理していなくても、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、特性を低下させることなく十分に分散させることが可能であるが、さらに分散性を高めたい場合、表面処理を施してもよい。
本発明におけるタルク(C)を表面処理する場合、表面処理剤として、たとえば、有機シランカップリング剤、有機チタネートカップリング剤、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルなど公知の表面処理剤を用いることができる。タルク(C)の表面処理方法は特に限定されるものではないが、タルク(C)と各処理剤を物理的に混合する方法を挙げることができ、たとえば、ロールミル、高速回転式粉砕機、ジェットミルなどの粉砕機、あるいはナウタミキサー、リボンミキサー、ヘンシェルミキサーなどの混合機を使用することができる。
本発明において、タルク(C)の含有量は、0.05~2質量部であり、好ましくは0.1~1.8質量部であり、より好ましくは0.3~1.5質量部である。この範囲内にタルク(C)を配合(含有)することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の引張特性(靭性)を維持したまま、耐熱性(荷重たわみ温度)を向上させることが可能となる。
[その他の添加剤]
その他、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて、本発明としての特性を損なわない範囲において、公知の各種添加剤を含有させることができる。公知の添加剤としては、例えば顔料などの着色剤、離型剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、変性剤、帯電防止剤、難燃剤、染料などが挙げられる。
離型剤としては、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンワックス、シリコン、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。長鎖脂肪酸としては、特に炭素数12以上が好ましく、例えばステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸などが挙げられ、部分的もしくは全カルボン酸が、モノグリコールやポリグリコールによりエステル化されていてもよく、または金属塩を形成していても良い。アマイド系化合物としては、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミドなどが挙げられる。これら離型剤は、単独であるいは混合物として用いても良い。
これら各種添加剤は、前記(A)、(B)及び(C)の合計を100質量部とした時、合計で5質量部まで含有させることができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中、前記(A)、(B)及び(C)の合計で、95質量%以上占めることが好ましい。
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造する製造法としては、上記配合組成にて任意の配合順列で配合した後、タンブラー或いはヘンシェルミキサーなどで混合し、溶融混練される。溶融混練方法は、当業者に周知のいずれかの方法が可能であり、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどが使用できるが、なかでも二軸押出機を使用することが好ましい。また、加工時の揮発成分、樹脂が分解して生じる低分子成分を除去するため、押出機先端のダイヘッドに近いベント口から真空ポンプによる吸引を行うことが望ましい。
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、該ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形して得られる成形品の130℃、3時間熱処理後の1.8MPaにおける荷重たわみ温度が60℃以上を達成できる。前記荷重たわみ温度の測定方法は、実施例の項に記載の通りである。
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、該ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形して得られる厚さ4mmの成形品の引張破断伸度が50%以上を達成できる。前記引張破断伸度は、70%以上が好ましく、100%以上がより好ましい。前記引張破断伸度の測定方法は、実施例の項に記載の通りである。
さらに、ポリエステルエラストマー(B)を所定量含むことで、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、該ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形して得られる厚さ0.3mmの成形品の引張破断伸度が30%以上を達成できる。前記引張破断伸度は、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。前記引張破断伸度の測定方法は、実施例の項に記載の通りである。
実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度
0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。(単位:dl/g)
(2)ポリエステルエラストマーの還元粘度
0.05gのサンプルを25mlの混合溶媒(フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比))に溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。(単位:dl/g)
(3)ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエステルエラストマーの酸価
ポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリエステルエラストマー)0.5gをベンジルアルコール25mlに溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより測定した。指示薬は、フェノールフタレイン溶液を用いた。(単位:eq/ton)
(4)ポリエステルエラストマーの硬度(表面硬度)
JIS K7215(-1986)に準じて測定した。試験片は、シリンダー温度240℃、金型温度50℃にて作製した射出成形品(長さ100mm、幅100mm、厚み2mm)を3枚重ねたものを使用し、測定圧5000g、タイプDの圧子を用いたデュロメーターにより測定し、測定開始5秒後の値をD硬度(ショアD硬度)とした。
(5)荷重たわみ温度(荷重:1.8MPa)
ISO-75に準じて、HDTテスター(東洋精機社製、3M-2)を用いて、測定した。試験片は、シリンダー温度250℃、金型温度50℃の条件で、ISOダンベル試験片(厚さ4mm)を射出成形したのち、切削し、ギアオーブンにて空気雰囲気下、130℃で3時間熱処理したものを用いた。(射出成形時にポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の結晶化が十分に進まなかった場合、荷重たわみ温度が(組成から想定される値に対し)低く出る場合がある。上記熱処理により、十分に結晶化させることができるため、想定値と測定値の乖離を極めて小さくすることができる。)
(6)引張破断伸度(厚み4mm)
ISO-527に準じて、オートグラフ(島津製作所社製、AG-IS)を用いて、ロードセル20kN、つかみ具間距離115mm、標線間距離50mm、引張速度5mm/minにて試験した。試験片は、シリンダー温度250℃、金型温度50℃の条件で、ISOダンベル試験片(厚さ4mm)を射出成形した。
(7)引張破断伸度(厚み0.3mm)(薄肉試験片における評価)
オートグラフ(島津製作所社製、AG-IS)を用いて、ロードセル1kN、つかみ具間距離90mm、標線間距離50mm、引張速度50mm/minにて試験した。試験片は、長さ125mm×幅13mm×厚み0.3mmの短冊試験片をシリンダー温度250℃、金型温度50℃の条件で射出成形した。
実施例、比較例において使用した配合成分を次に示す。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A);
(A-1)ポリブチレンテレフタレート樹脂: 固有粘度1.23dl/g、酸価23eq/ton
(A-2)ポリブチレンテレフタレート樹脂: 固有粘度1.1dl/g、酸価16eq/ton
(A-3)ポリブチレンテレフタレート樹脂: 固有粘度0.92dl/g、酸価12eq/ton
(A-4)ポリブチレンテレフタレート樹脂: 固有粘度0.83dl/g、酸価10eq/ton
ポリエステルエラストマー(B);
(B-1)テレフタル酸(TPA)//1,4-ブタンジオール(BD)/ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG;数平均分子量1000)=100//93/7(モル%)のポリエステルエラストマー(ハードセグメント/ソフトセグメントの質量比=75/25): 融点210℃、還元粘度1.5dl/g、酸価50eq/ton
(B-2)テレフタル酸(TPA)//1,4-ブタンジオール(BD)/ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG;数平均分子量1000)=100//84/16(モル%)のポリエステルエラストマー(ハードセグメント/ソフトセグメントの質量比=57/43): 融点198℃、還元粘度1.9dl/g、酸価35eq/ton
(B-3)テレフタル酸(TPA)//1,4-ブタンジオール(BD)/ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG;数平均分子量1000)=100//72/28(モル%)のポリエステルエラストマー(ハードセグメント/ソフトセグメントの質量比=40/60): 融点169℃、還元粘度2.2dl/g、酸価41eq/ton
(B-4)テレフタル酸(TPA)//1,4-ブタンジオール(BD)/ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG;数平均分子量2000)=100//75/25(モル%)のポリエステルエラストマー(ハードセグメント/ソフトセグメントの質量比=30/70): 融点177℃、還元粘度2.5dl/g、酸価28eq/ton
タルク(C);下記平均粒子径は、レーザー回折法により測定した値(重量(体積)累積粒度分布の50%径)を示す。
(C-1)タルク(平均粒子径:2.5μm):ミクロエースSG-95(日本タルク社製)
(C-2)タルク(平均粒子径:4.0μm):ミクロエースP-6(日本タルク社製)
(C-3)タルク(平均粒子径:12.0μm):タルカンPK-C(林化成社製)
その他の添加剤;
酸化防止剤: Irganox1010(BASF社製)
離型剤: リコルブWE40(クラリアントジャパン社製)
<実施例1~7、比較例1~9>
表1に示した通りに配合し、シリンダー温度250℃に設定した同方向二軸押出機で溶融混練を行い、得られたストランドを水冷し、ペレット化した。得られた各ペレットを130℃で4時間乾燥し、上述の各評価試験に用いた。結果を表1に記す。
表1より明らかなように、本発明の実施例1~7のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、固有粘度が特定の範囲であるポリブチレンテレフタレート樹脂を用い、ポリエステルエラストマーと所定の粒子径を有するタルクを特定の配合比で含有することで、高い荷重たわみ温度と引張破断伸度を両立するに至っている。さらにポリエステルエラストマーを含有する場合、厚さ0.3mmの薄肉試験片においても高い引張破断伸度が得られることが分かる。
比較例1~9は、本発明における規定の範囲を満足していないことにより、荷重たわみ温度、引張破断伸度のいずれか、もしくは両方が低い値となった。
本発明は、優れた耐熱特性と高靱性を有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることができるため、複数部品の組合せによる形状の自由度向上、製品の薄肉化、軽量化が容易となり、精密成形が課題となる用途に好適に用いることができるようになるため、産業界に寄与すること大である。

Claims (3)

  1. 固有粘度(IV)が1.0~1.3dl/gであるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)86~96質量部、ポリエステルエラストマー(B)~13質量部、及び平均粒子径が5μm以下であるタルク(C)0.05~2質量部((A)、(B)及び(C)成分の合計が100質量部である)を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、ポリエステルエラストマー(B)を含有する場合は、該ポリエステルエラストマー(B)を構成するハードセグメント/ソフトセグメントの質量比が85/15~50/50であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
  2. 前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形して得られる成形品の130℃、3時間熱処理後の1.8MPaにおける荷重たわみ温度が60℃以上であることを特徴とする請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
  3. 前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形して得られる厚さ4mmの成形品の引張破断伸度が50%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
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