JP7343380B2 - 建物の健全性モニタリングシステム - Google Patents
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Description
例えば特許文献1には、建物の観測層に配置され、地震の震度や地震により地盤から建物に印加される振動の加速度を検出するセンサと、センサで得られた応答情報に基づき、建物の固有周期に対応する必要せん断力係数を求め、建物の健全性の判定を行う健全性判定部と、を備え、その判定結果を示す情報を、ユーザの端末に送信する構成が開示されている。
特許文献1に開示されたような構成では、建物に設けられたセンサで、震度や加速度の絶対値を検出している。しかし、建物の健全性を正確に評価するには、建物が地震によりどの程度の変形を生じたのかを、より高精度に把握することが望まれる。
特許文献2に開示されたような構成では、建物に設けられたセンサ装置で、加速度や構造物の傾き等の絶対値を検出している。この場合も、建物の健全性を正確に評価するには、建物が地震によりどの程度の変形を生じたのかを、より高精度に把握することが望まれる。
また、特許文献3には、地震によって構造物に生じる加速度を検出し、検出された加速度に基づいて構造物の層間変形角を計算し、得られた層間変形角に基づいて、構造物の構造性能を診断する構成が開示されている。
特許文献3に開示されたような構成では、構造物に生じる加速度の絶対値を検出している。この場合も、建物の健全性を正確に評価するには、建物が地震によりどの程度の変形を生じたのかを、より高精度に把握することが望まれる。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明の建物の健全性モニタリングシステムは、地震発生後の建物の健全性を把握する、建物の健全性モニタリングシステムであって、前記建物を模擬した1質点系振動モデルにおける等価高さに相当する第1の階層に設置されて地震情報を取得する、無線式加速度計または無線式ひずみ計と、前記地震情報を用いて、前記第1の階層における地動に対する相対変位量である第1の層間変形角を算出する演算処理部と、前記地震情報を基に建物所在地の震度を算出する震度算出部と、前記地動に対する第1の層間変形角と所定の閾値とを比較して、地震後の建物の被災度を推定する構造性能指標推定部と、前記建物所在地の前記震度、及び前記建物の被災度を表示する表示部と、を含むことを特徴とする。
このような構成によれば、無線式加速度計または無線式ひずみ計により、建物を模擬した1質点系振動モデルにおける等価高さの位置に相当する第1の階層において、地震発生時に生じた加速度又は歪みの地震情報を取得できる。演算処理部では、取得された地震情報を用いて、第1の階層における、地動に対する第1の層間変形角が算出される。このように、建物に生じた加速度の絶対値ではなく、地動に対する第1の層間変形角に基づいて、建物の地震後の被災度合いを示す構造性能指標を推定することで、地震後の建物の構造性能を、より詳細に推定することができる。さらに、推定された構造性能指標が表示部に表示されることで、表示を確認したユーザは、建物の被災度合いすなわち構造性能を、より詳細に把握することが可能となる。
さらに、地震情報(加速度又は歪み)に基づいて、建物が建てられている個々の建物所在地での震度を算出し、算出された震度を表示することで、表示を確認したユーザは、建物が設けられた地域全般の震度ではなく、建物に入力された地震荷重を、より詳細に把握することが可能となる。
したがって、地震後の建物の構造性能を詳細に推定可能な、建物の健全性モニタリングシステムを提供することができる。
このような構成によれば、無線式加速度計または無線式ひずみ計により、建物を模擬した1質点系振動モデルにおける等価高さの位置に相当する第1の階層と、第1の階層よりも下層の第2の階層とにおいて、地震発生時に生じた加速度又は歪みの地震情報を取得できる。演算処理部では、取得された地震情報を用いて、第1の階層、及び第2の階層における、地動に対する第1の層間変形角、及び第2の層間変形角が算出される。地動に対する第1の層間変形角、及び第2の層間変形角のうち、大きい方の層間変形角に基づいて、建物の地震後の被災度合いを示す構造性能指標を推定することで、地震後の建物の構造性能を、より一層、詳細に推定することができる。特に、建物の下層階で層間変形角が大きくなった場合に、第2の階層に設けた無線式加速度計または無線式ひずみ計で取得される地震情報を用いて算出される第2の層間変形角に基づいて、建物下層階における構造性能指標を推定することができる。さらに、推定された構造性能指標が表示部に表示されることで、表示を確認したユーザは、建物の被災度合いすなわち構造性能を、より詳細に把握することが可能となる。
さらに、地震情報(加速度又は歪み)に基づいて、建物が建てられている個々の建物所在地での震度を算出し、算出された震度を表示することで、表示を確認したユーザは、建物が設けられた地域全般の震度ではなく、建物に入力された地震荷重を、より詳細に把握することが可能となる。
したがって、地震後の建物の構造性能を詳細に推定可能な、建物の健全性モニタリングシステムを提供することができる。
このような構成によれば、無線式加速度計または無線式ひずみ計で取得された地震情報を用いて、第1の階層における、地動に対する相対変位量である層間変形角が算出される。また、無線式加速度計または無線式ひずみ計が第2の階層にも設けられた場合においては、更に、第2の階層での第2の層間変形角が算出される。これにより、建物周りの地盤や建物の基礎に加速度等を検出するためのセンサを設けることなく、地動に対する層間変形角を算出することが可能となり、建物の健全性モニタリングシステムの構築及び設置を容易に行うことが可能となる。
上記のような構成によれば、第1の階層だけでなく、建物を形成する少なくとも第1の階層を含む複数の階層で、地動に対する層間変形角を算出することが可能となる。このように、複数の階層での層間変形角を得ることで、建物の地震後の被災度合いを示す構造性能を、より詳細に推定できる。
具体的には、無線式加速度計または無線式ひずみ計を、建物を模擬した1質点系振動モデルにおける等価高さの位置に相当する第1の階層のみに設置して、その加速度計またはひずみ計から地震情報を得て、地震後の建物の被災度を推定する第一実施形態と、無線式加速度計または無線式ひずみ計を、第1の階層と下層階層に其々設置し、それらの地震情報から地震後の建物の被災度を推定する第二実施形態と、がある。
以下、添付図面を参照して、本発明による建物の健全性モニタリングシステムを実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
[第一実施形態]
本実施形態における建物の健全性モニタリングシステムの概略構成を図1に示す。図2は、建物の健全性モニタリングシステムが設定された建物の概略構成を示す図である。図3は、建物を模擬した1質点系振動モデルの模式図である。図4は、建物の健全性モニタリングシステムを構成するユーザの端末の表示部を示す図である。
複数の建物10は、特定のユーザ(例えば建物10の所有者や、建物10の管理者)によって管理されている。
図2に示されるように、各建物10は、地盤G上に構築され、上下方向に複数の階層11を有している。ここで、複数の建物10は、階層数や、構造(鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造等)が共通である必要はない。
各建物10には、無線式加速度計12が設けられている。無線式加速度計12は、図3に示されるような建物10の1質点系振動モデルMにおける等価高さHeの位置に相当する階層(第1の階層)11Sの床スラブ上に設置されている。無線式加速度計12は、センサ13と、通信部14と、を備えている。
センサ13は、地震発生時に階層11Sに生じた加速度を、地震情報として検出(取得)する。センサ13で検出された地震情報は、通信部14に出力される。
通信部14は、外部のネットワーク100に対し、無線により通信可能となっている。ここで、外部のネットワーク100とは、例えば、通信部14と無線による通信を行うことのできる公衆無線網等である。通信部14は、センサ13で検出された地震情報と、無線式加速度計12が設けられた建物10を特定(識別)する識別情報を、図1に示すように外部のネットワーク100を介して建物の健全性モニタリングシステム1に送信する。
モニタリング装置20は、演算処理部21と、震度算出部22と、構造性能指標推定部23と、表示処理部24と、データベース25と、を主に備えている。
データベース25には、各建物10の識別情報、各建物10のユーザの端末30のメールアドレス等のユーザ送信先情報、各建物10の構造や階層数等の建物情報、各建物10における無線式加速度計12の設置高さ等が格納されている。また、データベース25には、演算処理部21、震度算出部22、構造性能指標推定部23等で処理を行う際に用いられる各種の設定パラメータ値、閾値、係数等が格納されている。
演算処理部21は、外部のネットワーク100を介して建物10の無線式加速度計12から送信される情報を受信すると、受信した情報に含まれる地震情報に基づいて、その建物10の、地動に対する相対変形量である層間変形角(第1の層間変形角)θを算出する。
震度算出部22は、地震情報を基に建物10の設けられた場所、つまり建物10自体における震度を算出する。
構造性能指標推定部23は、演算処理部21で算出した層間変形角θと、所定の閾値とを比較して、建物10の地震後の被災度を、より詳細には被災度の度合いを示す構造性能指標を推定する。建物10の地震後の被災度合いを示す構造性能指標としては、例えば、建物の被災度を「安全」、「要点検」、「危険」といった複数段階の評価を示すものがある。
表示処理部24は、震度算出部22で算出された建物10における震度を示す情報と、構造性能指標推定部23で推定された、建物10の構造性能指標とを含む推定結果を、ユーザの端末30で表示させるため、推定結果を含む評価リストのデータを生成する。表示処理部24で生成された評価リストのデータは、外部のネットワーク100を介し、ユーザの端末30に送信される。表示処理部24は、ユーザが複数の建物10を所有又は管理している場合、そのユーザに関連付けられた複数の建物10の評価リストのデータを、ユーザの端末30に送信する。
なおここで、図4に示した評価リスト33は一例に過ぎず、評価リスト33に含まれる情報は、適宜変更可能である。
図5は、建物の健全性モニタリングシステムを構成するモニタリング装置における、建物の健全性モニタリング方法の流れを示すフローチャートである。
モニタリング装置20で建物10の健全性モニタリングを行うには、まず、地震発生後に、建物10に設けられた無線式加速度計12のセンサ13で検出された地震情報(加速度)を含む情報を、外部のネットワーク100から受信する(ステップS1)。
すると、モニタリング装置20では、予め定められたコンピュータプログラムに基づいて、以下のような建物10の健全性モニタリング処理を実行する。
次に、演算処理部21では、このようにして得られた応答倍率と、ステップS2で得られた変位波形とから、
(変位波形)/(応答倍率)
により、地動変位波形を算出する。このとき、フーリエ変換を行ったうえで、周波数領域で演算を行い、逆変換により時刻歴波形に戻す。
(変位波形)-(地動変位波形)
により、無線式加速度計12が設置された階層11Sにおける、地動に対する相対変位波形を算出する(ステップS4)。
この後、演算処理部21では、ステップS4で求めた、地動に対する相対変位波形と、建物10における無線式加速度計12の設置高さ(He)とから、
(地動に対する相対変位波形の最大値)/(設置高さ)
により、建物10における層間変形角θを算出する(ステップS5)。図3は、このようにして算出された、1質点系振動モデルMにおける等価高さHeの位置での地動に対する層間変形角θを示している。
この後、表示処理部24では、複数の建物10の無線式加速度計12から受信した地震情報のそれぞれについて、上記ステップS2~S7に示すような処理を実行した後、複数の建物10についての推定結果(算出結果)を集計する(ステップS8)。表示処理部24では、各建物10について、ステップS6で推定された建物10の構造性能指標と、ステップS7で算出された建物10における震度を示す情報とを含む推定結果を集計し、図4に例示したような評価リスト33を表示するためのデータを生成する。
このようにして生成された推定結果のデータは、モニタリング装置20から外部のネットワーク100を介し、ユーザの端末30に送信される(ステップS9)。
ここでは、本発明の建物の健全性モニタリングシステムでの推定精度を検証するために、5階建て建物と10階建て建物を対象に、詳細に多質点系振動モデルでモデル化した場合と、本発明の建物の健全性モニタリングシステムによる1質点系振動モデルによる最大層間変位の推定結果について比較を行った。
(第一検証例)
建物10は、5階建てを対象とする。振動モデルは、全層同一質量とし、剛性は、Ai分布から求めた層せん断力に比例し、かつ、設計用一次固有周期になるように設定した。
図8は、建物の健全性モニタリングシステムの第一検証例で用いた建物の諸元を示す図である。図9は、建物の健全性モニタリングシステムの第一検証例で用いた建物の固有値等を示す図である。図10は、建物の健全性モニタリングシステム(1質点系振動モデル)と多質点系振動モデルによる建物の固有振動モードと建物階層の関係を示す図である。
検証用の振動モデルは、5層モデルである。この振動モデルは、図8に示すような諸元、図9に示すような固有周期、有効質量、図10に示すようなモード形状とした。ここで、Hは、当該階層の階高、|H|は、当該階層(の天井)の地表からの高さ、Tは、当該階層の設計用一次固有周期(建物高さ[m])×α(鉄骨造:α=0.03、RC造:α=0.02)、mは、当該階層の質量、Aiは、高さ方向の層せん断力係数の分布である。また、この振動モデルにおいて、等価高さHeは14.7mであり、4層(16m)に無線式加速度計12が設けられている、と仮定した。
図11は、本発明の建物の健全性モニタリングシステム(1質点系振動モデル)と多質点系振動モデルで得られた最大層間変位の比較図である。図11に示されるように、上記振動モデルに対して、1940年エルセントロ地震の原波を入力した場合における建物の各階層での最大層間変位の解析結果である。図11の横軸は最大層間変位で、縦軸は建物の各階層の質点位置を示す。また、次に説明する線L2、L3上の〇印は、当該建物を1質点系振動モデルとしてモデル化した場合の等価高さHeの位置を示す。
図11では、本発明の建物の健全性モニタリングシステム(1質点系振動モデル)で得られた最大相対変位をL2で示し、詳細な多質点系振動モデルでの最大相対変位をL1で示す。さらに、比較のため、上記ステップS3、S4のような、地動変位波形、地動に対する相対変位波形を算出する処理を行わない、すなわち地動を考慮しない従来のシステムで得られる最大絶対変位をL3で示す。
この図11に示されるように、建物の健全性モニタリングシステム1で推定した変位(図11における線L2)は、従来のシステムにおける変位(図11における線L3)に比べて、詳細な多質点系振動モデルで得られた変位(図11における線L1)に近似する傾向であった。つまり、地動を考慮していない最大層間変位(図11における線L3)を用いた層間変形角と比較し、上記建物の健全性モニタリングシステム1で地動に対する相対変位波形を推定することで、より正確な推定が行えた。
図12は、建物の健全性モニタリングシステムの第二検証例で用いた建物の諸元を示す図である。図13は、建物の健全性モニタリングシステムの第二検証例で用いた建物の固有値等を示す図である。図14は、建物の健全性モニタリングシステムの第二検証例で用いた振動モデルを示す図である。図15は、本発明の建物の健全性モニタリングシステム(1質点系振動モデル)と多質点系振動モデルで得られた最大層間変位の比較図である。
検証用の振動モデルは、10層モデルである。この振動モデルは、図12に示すような諸元、図13に示すような固有周期、有効質量、図14に示すようなモード形状とした。この振動モデルにおいて、等価高さHeは27.8mであり、7層(28m)に無線式加速度計12が設けられている、と仮定した。
図15に示されるように、上記振動モデルに対して、1940年エルセントロ地震の原波を入力した場合における実際の変位(dDisp)をシミュレーションにより得た(図15における線L11)。また、建物の健全性モニタリングシステム1において、地動に対する相対変位波形を算出して推定した(図15における線L12)。さらに、比較のため、上記ステップS3、S4のような、地動変位波形、地動に対する相対変位波形を算出する処理を行わない、すなわち地動を考慮しない従来のシステムにおいて、変位を推定した(図15における線L13)。
その結果、建物の健全性モニタリングシステム1で推定した変位(図15における線L12)は、従来のシステムにおける変位(図15における線L13)に比べて、詳細な多質点系振動モデルで得られた(図15における線L11)に近似する傾向であった。つまり、地動を考慮していない最大層間変位(図15における線L13)を用いた層間変形角比較し、上記建物の健全性モニタリングシステム1で地動に対する相対変位波形を推定することで、より正確な推定が行えた。
このような構成によれば、無線式加速度計12により、建物10を模擬した1質点系振動モデルMにおける等価高さHeの位置に相当する階層11Sにおいて、地震発生時に生じた加速度が地震情報として取得される。演算処理部21では、取得された地震情報を用いて、1質点系振動モデルMにおける等価高さHeにおける、地動に対する層間変形角θが算出される。このように、建物10に生じた加速度の絶対値ではなく、地動に対する層間変形角θに基づいて、建物10の地震後の被災度合いを示す構造性能指標を推定することで、地震後の建物10の構造性能を、より詳細に推定することができる。さらに、推定された構造性能指標が表示部31に表示されることで、表示を確認したユーザは、建物10の被災度合いすなわち構造性能を、より詳細に把握することが可能となる。
さらに、地震情報に基づいて、建物10が建てられている個々の建物所在地での震度を算出し、算出された震度を表示することで、表示を確認したユーザは、建物10が設けられた地域全般の震度ではなく、建物10に入力された地震荷重をより詳細に把握することが可能となる。
したがって、地震後の建物10の構造性能を詳細に推定可能な、建物の健全性モニタリングシステム1を提供することができる。
このような構成によれば、無線式加速度計12で取得された地震情報を用いて、1質点系振動モデルMにおける等価高さHeの位置における、地動に対する相対変位量である層間変形角θが算出される。これにより、建物10周りの地盤や建物10の基礎に加速度等を検出するためのセンサを設けることなく、地動に対する層間変形角θを算出することが可能となり、建物10の健全性モニタリングシステム1の構築及び設置を容易に行うことが可能となる。
このような構成によれば、層間変形角θの算出に使用する、地動における変形波形を、等価高さHeの位置の階層11Sにおける変位波形と、階層11Sの応答倍率とを基に算出するため、地盤や建物10の基礎に生じた加速度等を検出するためのセンサを設けることなく、地動に対する層間変形角θを算出することが可能となり、建物の健全性モニタリングシステム1の構築及び設置を容易に行うことが可能となる。
次に、本発明による建物の健全性モニタリングシステムを実施するための第二実施形態について説明する。なお、以下に示す第二実施形態では、上記第一実施形態に対し、建物10の複数の階層に無線式加速度計12を備える点が主に異なる。以下の説明においては、上記第一実施形態とは異なる構成を中心に説明を行い、上記第一実施形態と共通する構成については、図中に上記第一実施形態と同符号を付してその説明を省略することがある。
上記第一実施形態においては、建物10の1質点系振動モデルMにおける等価高さHeの位置のみに設置した無線式加速度計12の出力を基に、建物10全体の平均的な層間変形角を推定した。このような形態においては、最大層の層間変形角を推定対象とすると、推定誤差が大きくなる場合がある。これは、第一実施形態における推定対象は、地表面から無線式加速度計12を設置した階層11Sまでの建物10の平均的な層間変形角であり、実際の建物においては、各階層11の層間変形角は、均一ではなくばらつくことに起因している。これに対応するため、本第二実施形態においては、第一実施形態に加えて、特に変形が大きくなりやすい建物の下層部分に、更に無線式加速度計を設置する。
本実施形態におけるにおける建物の健全性モニタリングシステムが設定された建物の概略構成を示す図を、図16に示す。図17は、本発明の第二実施形態の建物の健全性モニタリングシステムにおける建物の振動モデル、及び1質点系振動モデルの模式図である。
図16に示されるように、各建物10には、無線式加速度計12P、12Qが設けられている。本実施形態において、無線式加速度計12Pは、図17に示されるような建物10の1質点系振動モデルMにおける等価高さHeの位置に相当する第1の階層11Pの床スラブ上に設けられている。無線式加速度計12Qは、第1の階層11Pよりも下層部の第2の階層11Qの床スラブ上に設置されている。
なお、本実施形態においては、無線式加速度計12Pと12Qは、低コストで構築可能で、かつセンサ設置後のメンテナンスを容易に出来るように、各センサが同期されていない点が特徴である。しかしながら、同期機能を備えた複数の加速度計を設置して建物の健全性モニタリングシステムを構築した際には、コストは高くなるが、建物内での各センサ位置において、より高い観測精度によって地震情報を得ることが可能となる。
ここで、下層部に設ける無線式加速度計12Qの設置高さは、建物10の階高Hに対し、0.25H~0.5Hの範囲内とするのが好ましい。下層部に設ける無線式加速度計12Qの設置高さは、建物10の階高Hに対し、0.25H~0.4Hの範囲内とするのが特に好ましい。
センサ13は、地震発生時に第1の階層11P、第2の階層11Qに生じた加速度を、地震情報として検出(取得)する。センサ13で検出された地震情報は、通信部14に出力される。
通信部14は、外部のネットワーク100に対し、無線により通信可能となっている。通信部14は、センサ13で検出された地震情報と、無線式加速度計12P、12Qが設けられた建物10を特定(識別)する識別情報を、図1に示すように外部のネットワーク100を介して建物の健全性モニタリングシステム1に送信する。
データベース25には、各建物10の識別情報、各建物10のユーザの端末30のメールアドレス等のユーザ送信先情報、各建物10の構造や階層数等の建物情報、各建物10における無線式加速度計12P、12Qの設置高さ等が格納されている。また、データベース25には、演算処理部21、震度算出部22、構造性能指標推定部23B等で処理を行う際に用いられる各種の設定パラメータ値、閾値、係数等が格納されている。
演算処理部21は、外部のネットワーク100を介して建物10の無線式加速度計12P、12Qから送信される情報を受信すると、受信した情報に含まれる地震情報に基づいて、その建物10の第1の階層11Pにおける地動に対する相対変形量である第1の層間変形角θ1と、第2の階層11Qにおける地動に対する相対変形量である第2の層間変形角θ2と、を算出する。
震度算出部22は、地震情報を基に建物10の設けられた場所、つまり建物10自体における震度を算出する。
構造性能指標推定部23Bは、演算処理部21で算出した第1の層間変形角θ1、及び第2の層間変形角θ2のうち、大きい方の層間変形角と、所定の閾値とを比較して、建物10の地震後の被災度を、より詳細には被災度の度合いを示す構造性能指標を推定する。建物10の地震後の被災度合いを示す構造性能指標としては、例えば、建物の被災度を「安全」、「要点検」、「危険」といった複数段階の評価を示すものがある。
表示処理部24は、震度算出部22で算出された建物10における震度を示す情報と、構造性能指標推定部23Bで推定された、建物10の構造性能指標とを含む推定結果を、ユーザの端末30で表示させるため、推定結果を含む評価リストのデータを生成する。表示処理部24で生成された評価リストのデータは、外部のネットワーク100を介し、ユーザの端末30に送信される。
図18は、本第二実施形態の建物の健全性モニタリングシステムを構成するモニタリング装置における、建物の健全性モニタリング方法の流れを示すフローチャートである。図19は、本第二実施形態の建物の健全性モニタリング方法における計算内容を模式的に示す図である。
図18に示すように、モニタリング装置20で建物10の健全性モニタリングを行うには、まず、地震発生後に、建物10に設けられた無線式加速度計12P、12Qのそれぞれのセンサ13で検出された地震情報(加速度)を含む情報を、外部のネットワーク100から受信する(ステップS11)。
すると、モニタリング装置20では、予め定められたコンピュータプログラムに基づいて、以下のような建物10の健全性モニタリング処理を実行する。
次に、演算処理部21では、このようにして得られた応答倍率と、ステップS12で得られた変位波形とから、(変位波形)/(応答倍率)により、地動変位波形を算出する。このとき、フーリエ変換を行ったうえで、周波数領域で演算を行い、逆変換により時刻歴波形に戻す。
続いて、演算処理部21では、ステップS12で得られた、図16に示す無線式加速度計12P、12Qが設置された第1の階層11P、第2の階層11Qにおける変位波形と、ステップS15で定数倍補正した第1の階層11P、第2の階層11Qの地動変位波形とから、それぞれ、(変位波形)-(地動変位波形)により、無線式加速度計12P、12Qが設置された第1の階層11P、第2の階層11Qにおける、地動に対する相対変位波形を算出する(ステップS16)。
演算処理部21では、算出された第1の層間変形角θ1、及び第2の層間変形角θ2のうち、大きい方の層間変形角を、この建物10における建物最大層間変形角の推定値として設定する(ステップS18)。
この後、表示処理部24では、複数の建物10の無線式加速度計12P、12Qから受信した地震情報のそれぞれについて、上記ステップS12~S20に示すような処理を実行した後、複数の建物10についての推定結果(算出結果)を集計する(ステップS21)。表示処理部24では、各建物10について、ステップS19で推定された建物10の構造性能指標と、ステップS20で算出された建物10における震度を示す情報とを含む推定結果を集計し、図4に例示したような評価リスト33を表示するためのデータを生成する。生成された推定結果のデータは、モニタリング装置20から外部のネットワーク100を介し、ユーザの端末30に送信される(ステップS22)。
なお、上記したような一連の処理は、無線式加速度計12P、12Qで観測された加速度波形が同じ地震イベントであるという判定を行ったうえで上記処理を行うのが好ましい。例えば、それぞれの観測波形の計測トリガ開始時間差が閾値以下であれば、同じ地震動による観測記録であると判定する。
ここでは、本第二実施形態における建物の健全性モニタリングシステムでの推定精度を検証するために、当手法の検証として、5~40層を想定した8つの質点系モデルに様々な地震動を入力した地震応答解析を行った。
図20は、建物の健全性モニタリングシステムの検証例における、5~40層の検証用の建物における、等価せん断質点系モデルを示す図である。図21は、建物の健全性モニタリングシステムの検証例で用いた建物の諸元を示す図である。図22は、建物の健全性モニタリングシステムの検証に使用した地震波のマグニチュードと最大加速度との関係を示す図である。
図20に示すように、検証用の振動モデルは、5層、10層、20層、40層の4通りとした。5層の振動モデルの場合、4階、2階に無線式加速度計12P、12Qを配置した。10層の振動モデルの場合、8階、3階に無線式加速度計12P、12Qを配置した。20層の振動モデルの場合、15階、5階に無線式加速度計12P、12Qを配置した。40層の振動モデルの場合、29階、9階に無線式加速度計12P、12Qを配置した。これらの振動モデルで表される建物10は、図21に示すような諸元を有している。
このような各振動モデルに対し、図22に示すような地震波を入力した。入力する地震波は、M5.5以上、100gal以上の記録から、ランダムに200個の記録を取りだして検証に使用した。
推定成績は、推定周期(=1/推定振動数)が、検証用振動モデルの固有周期の90~150%となるケースの割合として計算した。この図23に示すように、上層部に無線式加速度計12Pを備えることで、95%以上のケースにおいて、検証用振動モデルの固有周期の90~150%となる。
図24は、下層部の無線式加速度計のみを備えた場合(手法1)における最大層間変形角の推定精度の分布を示す図である。図25は、上層部の無線式加速度計のみを備えた場合(手法2)における最大層間変形角の推定精度の分布を示す図である。図26は、上層部及び下層部の無線式加速度計を備えた場合(手法3)における最大層間変形角の推定精度の分布を示す図である。
図24~図26に示すように、下層部の無線式加速度計のみを備えた場合(手法1)、上層部の無線式加速度計のみを備えた場合(手法2)に対し、上層部と下層部とに無線式加速度計を備えた場合(手法3)では、標準偏差σが小さく、最大層間変形角の推定精度が高くなった。
上層部のみに無線式加速度計を備えた場合(手法2)においては、最大層間変形角を過小評価することがある。また、下層部のみに無線式加速度計を備えた場合(手法1)においては、建物周期が精度よく推定できないため、最大層間変形角の推定精度が高くない。上層部と下層部とに無線式加速度計を備えた場合(手法3)においては、手法1、手法2に対し、最大層間変形角の推定精度が改善されている。
図27は、下層部の無線式加速度計の設置高さを建物の階高に対して0.3倍とした場合における最大層間変形角の推定精度の分布を示す図である。図28は、下層部の無線式加速度計の設置高さを建物の階高に対して0.4倍とした場合における最大層間変形角の推定精度の分布を示す図である。図29は、下層部の無線式加速度計の設置高さを建物の階高に対して0.5倍とした場合における最大層間変形角の推定精度の分布を示す図である。
図27~図29に示すように、建物の階高に対する下層部の無線式加速度計の設置高さの割合が大きくなると、最大層間変形角の推定精度を示す標準偏差が大きくなる傾向にあることが確認された。
これらの結果により、下層部に設ける無線式加速度計12Qの設置高さは、建物10の階高Hに対し、0.5倍以下、特に0.4倍以下の範囲内とするのが好ましい。
このような構成によれば、無線式加速度計12P、12Qにより、建物10を模擬した1質点系振動モデルMにおける等価高さHeの位置に相当する第1の階層11P、それよりも下層の第2の階層11Qにおいて、地震発生時に生じた加速度が地震情報として取得される。演算処理部21では、取得された地震情報を用いて、1質点系振動モデルMにおける等価高さHeの位置に相当する第1の階層11P、及びそれよりも下層の第2の階層11Qにおける、地動に対する第1の層間変形角θ1、第2の層間変形角θ2が算出される。このように、建物10に生じた加速度の絶対値ではなく、地動に対する第1の層間変形角θ1、第2の層間変形角θ2に基づいて、建物10の地震後の被災度合いを示す構造性能指標を推定することで、地震後の建物10の構造性能を、より詳細に推定することができる。地動に対する第1の層間変形角θ1、及び第2の層間変形角θ2のうち、大きい方の層間変形角に基づいて、建物10の地震後の被災度合いを示す構造性能指標を推定することで、地震後の建物10の構造性能を、より一層、詳細に推定することができる。特に、建物10の下層階で層間変形角が大きくなった場合に、第2の階層11Qに設けた無線式加速度計12Qで取得される地震情報を用いて算出される第2の層間変形角θ2に基づいて、建物10の下層階における構造性能指標を推定することができる。さらに、推定された構造性能指標が表示部31に表示されることで、表示を確認したユーザは、建物10の被災度合いすなわち構造性能を、より詳細に把握することが可能となる。
さらに、地震情報に基づいて、建物10が建てられている個々の建物所在地での震度を算出し、算出された震度を表示することで、表示を確認したユーザは、建物10が設けられた地域全般の震度ではなく、建物10に入力された地震荷重をより詳細に把握することが可能となる。
したがって、地震後の建物10の構造性能を詳細に推定可能な、建物の健全性モニタリングシステム1を提供することができる。
このような構成によれば、無線式加速度計12P、12Qで取得された地震情報を用いて、第1の層間変形角θ1、第2の層間変形角θ2が算出される。これにより、建物10周りの地盤や建物10の基礎に加速度等を検出するためのセンサを設けることなく、地動に対する第1の層間変形角θ1、第2の層間変形角θ2を算出することが可能となり、建物10の健全性モニタリングシステム1の構築及び設置を容易に行うことが可能となる。
なお、本発明の建物の健全性モニタリングシステムは、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、無線式加速度計は、建物の等価高さの位置の階層の床スラブ上に設置されているが、床スラブ上に限定することなく、建物躯体に添わせて設置可能であればよい。
また、上記実施形態では、無線式加速度計12を用いたが、これに代えて、無線式ひずみ計12Dを用いるようにしてもよい。無線式ひずみ計12Dを用いる場合、無線式ひずみ計12Dで検出した歪みの値を、加速度に換算し、換算された加速度を、上記実施形態の無線式加速度計12で検出された加速度と同様に扱う。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
10 建物 30 ユーザの端末
11 階層 31 表示部
11S 階層(第1の階層) 100 外部のネットワーク
11P 第1の階層 θ、θ1 第1の層間変形角
11Q 第2の階層 θ2 第2の層間変形角
12、12P、12Q 無線式加速度計 He 等価高さ
20 モニタリング装置 M 1質点系振動モデル
21 演算処理部
22 震度算出部
Claims (4)
- 地震発生後の建物の健全性を把握する、建物の健全性モニタリングシステムであって、
前記建物を模擬した1質点系振動モデルにおける等価高さの位置に相当する第1の階層に設置されて地震情報を取得する、無線式加速度計または無線式ひずみ計と、
前記地震情報を基に算出された、前記第1の階層における変位波形と、当該第1の階層の応答倍率とを基に、前記第1の階層における地動に対する相対変位量である第1の層間変形角を算出する演算処理部と、
前記地震情報を基に建物所在地の震度を算出する震度算出部と、
前記地動に対する第1の層間変形角と所定の閾値とを比較して、地震後の建物の被災度を推定する構造性能指標推定部と、
前記建物所在地の前記震度、及び前記建物の被災度を表示する表示部と、を含む
ことを特徴とする建物の健全性モニタリングシステム。 - 地震発生後の建物の健全性を把握する、建物の健全性モニタリングシステムであって、
前記建物を模擬した1質点系振動モデルにおける等価高さの位置に相当する第1の階層、及び当該第1の階層よりも下層の第2の階層の各々に設置されて地震情報を取得する、無線式加速度計または無線式ひずみ計と、
前記地震情報を用いて、前記第1の階層、及び前記第2の階層における地動に対する相対変位量である第1の層間変形角と、第2の層間変形角を算出する演算処理部と、
前記地震情報を基に建物所在地の震度を算出する震度算出部と、
前記第1の層間変形角、及び前記第2の層間変形角のうち、大きい方の層間変形角と所定の閾値とを比較して、地震後の建物の被災度を推定する構造性能指標推定部と、
前記建物所在地の前記震度、及び前記建物の被災度を表示する表示部と、を含むことを特徴とする建物の健全性モニタリングシステム。 - 前記演算処理部は、
前記第1の階層における変位波形と、当該第1の階層の応答倍率とを基に、当該第1の階層での前記第1の層間変形角を算出し、
更に、前記第2の階層における変位波形と、当該第2の階層の応答倍率とを基に、当該第2の階層での前記第2の層間変形角を算出することを特徴とする請求項2に記載の建物の健全性モニタリングシステム。 - 前記演算処理部は、少なくとも前記第1の階層を含む複数の前記階層の層間変形角を算出することを特徴とする請求項2または3に記載の建物の健全性モニタリングシステム。
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