以下、発泡粒子、発泡粒子成形体の好ましい実施形態について説明する。以降において、発泡粒子成形体のことを「成形体」ということがあり、カーボンナノチューブのことを「CNT」ということがある。また、マルチウォールカーボンナノチューブのことを「MWCNT」ということがあり、シングルウォールカーボンナノチューブのことを「SWCNT」ということがある。成形体は、相互に融着した多数の発泡粒子から構成されている。また、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、数値、物性値についての好ましい範囲、より好ましい範囲、さらに好ましい範囲などにおいては、これらの範囲を決定する上限値、下限値の全ての組み合わせを選択することができる。したがって、好ましい上限値と下限値との組み合わせ、より好ましい上限値と下限値との組み合わせ、さらに好ましい上限値と下限値との組み合わせが最も好適ではあるが、必ずしもこれらの組み合わせに限定されるものではない。
発泡粒子は、発泡粒子本体と、その表面に付着したCNTとを有する。発泡粒子本体は、複合樹脂を基材樹脂とする発泡状態の粒子である。複合樹脂は、ポリエチレン系樹脂にスチレン系単量体が含浸重合された樹脂のことであり、ポリエチレン系樹脂と、ポリスチレン系樹脂とを含有する。発泡粒子本体は、例えば、複合樹脂と物理発泡剤を含有する発泡性粒子を発泡させてなる。発泡性粒子は、ポリスチレン系樹脂成分とポリエチレン系樹脂成分とから構成される複合樹脂粒子に物理発泡剤を含浸させてなる。
発泡粒子本体がポリエチレン系樹脂とポリスチレン系樹脂との複合樹脂を基材樹脂としているため、成形体は、ポリエチレン系樹脂の特性と、ポリスチレン系樹脂の特性と兼ね備える。具体的には、発泡粒子を十分に融着させることにより成形体は優れた靱性と優れた剛性を兼ね備えることができる。
ポリエチレン系樹脂成分としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-メタクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体や、これら2種以上の混合物を用いることができる。これらの中でも、ポリエチレン系樹脂としては、少なくとも直鎖状低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。この場合には、成形体は靭性により優れるものとなる。
ポリエチレン系樹脂100質量%中の直鎖状低密度ポリエチレンの含有量は、成形体の靭性を向上させる観点から、50質量%以上であることが好ましい。上記観点から、直鎖状低密度ポリエチレンの含有量は70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
直鎖状低密度ポリエチレンの中でもメタロセン系重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレンがより好ましい。この場合には、前記の親和性がさらに向上し、成形体の靱性がさらに向上する。また、この場合には、発泡粒子本体中の低分子量成分をより少なくし、成形時の発泡粒子間の融着強度をより高めることができるため、割れの発生しにくい成形体を製造することが可能になる。さらに、ポリスチレン系樹脂の優れた剛性とポリエチレン系樹脂の優れた剛性とをより高いレベルで兼ね備えた成形体を得ることができる。
複合樹脂は、前記の通り、ポリエチレン系樹脂にスチレン系単量体が含浸、重合された樹脂であり、ポリエチレン系樹脂由来の成分と、スチレン系単量体由来の成分とを含有する樹脂である。通常、スチレン系単量体由来の成分の主成分は、スチレン系単量体が重合してなる、前記のポリスチレン系樹脂である。また、スチレン系単量体の重合時には、スチレン系単量体同士の重合だけでなく、ポリエチレン系樹脂のポリマー鎖にスチレン系単量体のグラフト重合が起こる。この場合、複合樹脂は、ポリエチレン系樹脂成分と、スチレン系単量体が重合してなるポリスチレン系樹脂成分とを含有するだけでなく、さらにスチレン系単量体がグラフト重合したポリエチレン系樹脂成分(すなわち、PE-g-PS成分)を含有する。また、スチレン系単量体の重合時には、ポリエチレン系樹脂の架橋が起こる場合があり、この場合には、複合樹脂は、ポリエチレン系樹脂成分として、架橋していないポリエチレン系樹脂と架橋したポリエチレン系樹脂を含む。したがって、複合樹脂は、重合済みのポリエチレン系樹脂と重合済みのポリスチレン系樹脂とを溶融混練してなる混合樹脂とは異なる概念である。尚、本明細書では、スチレン及びスチレンと共重合可能な単量体を、スチレン系単量体と称する。スチレン系単量体としては、スチレンを単独で用いてもよいし、スチレンと共重合可能なモノマーとスチレンとを併用してもよい。スチレン系単量体については、後述する。
ポリスチレン系樹脂成分としては、例えば、ポリスチレン、スチレン由来の構造単位を少なくとも含む共重合体がある。具体的には、例えば、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン樹脂、アクリロニトリル―スチレン樹脂、アクリロニトリル―エチレン―スチレン樹脂等や、これら2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ポリスチレン、スチレンとアクリル酸ブチル等のアクリル系モノマーとの共重合体が挙げられる。但し、共重合体は、スチレン由来の成分が50質量%以上であることが好ましい。
複合樹脂は、スチレン系単量体由来の構造単位をポリエチレン系樹脂100質量部に対して100~1000質量部含有することが好ましい。この場合には、成形体が、優れた靱性及び剛性を高いレベルで兼ね備えることができる。また、発泡粒子本体の表面でのポリエチレン系樹脂成分とポリスチレン系樹脂成分の存在比率がより良好になり、CNTによる成形体の表面抵抗率の低減効果がより増大すると共に、成形体の表面での表面抵抗率のばらつきがより小さくなる。このような効果をより向上させることができるという観点から、スチレン系単量体由来の構造単位の含有量は、ポリエチレン系樹脂100質量部に対して150~800質量部であることがより好ましく、250~600質量部であることがさらに好ましい。複合樹脂中におけるポリエチレン系樹脂に対するポリスチレン系樹脂の含有割合は、製造時における原料の配合組成から求めることができる。
発泡粒子本体の表面における、波数698cm-1での吸光度D698と波数2850cm-1での吸光度D2850との吸光度比D698/D2850が1~8である。発泡粒子本体の吸光度比が上記範囲に調整されていることにより、発泡粒子は、成形工程におけるCNTの脱離が抑制され、導電性又は静電気拡散性を示すとともに、表面抵抗値のばらつきが小さい成形体を成形可能な発泡粒子となる。また、得られる成形体は融着性が良好なものとなり、靭性に優れるものとなる。吸光度比D698/D2850は、吸光度D2850に対する吸光度D698の比である。発泡粒子本体の表面における吸光度D698、吸光度D2850は、全反射吸収の赤外分光分析により測定される。
赤外線吸収スペクトルから得られる吸光度D698は、ポリスチレン系樹脂に主に含まれるベンゼン環の面外変角振動に由来する波数698cm-1付近に現れるピークの高さである。また、赤外線吸収スペクトルから得られる吸光度D2850は、ポリエチレン系樹脂とポリスチレン系樹脂の双方に含まれるメチレン基のC-H間伸縮振動に由来する波数2850cm-1付近に現れるピークの高さである。なお、CNTは、赤外線吸収スペクトルにおける698cm-1付近及び2850cm-1付近においてピークを示さない。よって、発泡粒子本体の吸光度比D698/D2850は、CNTが付着しても変化せず、CNTの付着前後で同じ値を示す。
発泡粒子本体表面における吸光度比D698/D2850が1未満の場合には、CNTによる表面抵抗率の低減効果が不十分となり、導電性又は静電気拡散性が十分に発現しないおそれがある。また、この場合には、表面抵抗率のばらつきが大きくなり、成形体の表面での導電性又は静電気拡散性能のばらつきが大きくなる。これは、発泡粒子本体の表面部において、ポリスチレン系樹脂に比べてCNTとの親和性が低いポリエチレン系樹脂成分が多くなり、表面部とCNTの親和性が低下するためであると考えられる。発泡粒子では、例えば型内成形時にスチームなどの加熱媒体による加熱によってCNTが脱落し易くなると考えられる。導電性又は静電気拡散性をより確実に発現させ、そのばらつきをより小さくするという観点から、吸光度比D698/D2850は、2以上であることが好ましく、2.5を超えることがより好ましく、3以上であることが更に好ましい。一方、吸光度比D698/D2850が8を超える場合には、発泡粒子の融着性が損なわれるおそれがある。これは、表面部において、スチレン系単量体がグラフト重合したポリエチレン系樹脂成分(PE-g-PS成分)の存在量が多くなり、融着を阻害するためであると考えられる。また、CNTにより融着が阻害されやすくなるためであると考えられる。その結果、靱性に優れた成形体が得られなくなるおそれがある。融着性、靱性がより向上するという観点から、吸光度比D698/D2850は、7以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
発泡粒子は、発泡粒子本体の表面に付着した多数のCNTを有する。CNTを用いることにより、例えばカーボンブラック等の導電材を用いた場合に比べて、表面抵抗率を低減させることができる。また、付着量を減らすことができるため、発泡粒子の融着性が損なわれることを防止しつつ、表面抵抗率を低減させることができる。
CNTは、SWCNTであっても、MWCNTであってもよい。また、SWCNTとMWCNTとを併用してもよい。CNTの中でも、取り扱い性、コスト等の観点から、MWCNTであることが好ましい。
CNTがMWCNTである場合、その付着量は、発泡粒子本体の表面1m2あたりに15~100mgであることが好ましい。MWCNTによる静電気の導電経路が確実に形成され、良好な導電性又は静電気拡散性を発現させるという観点から、MWCNTの付着量は、発泡粒子本体の表面1m2あたりに18mg以上であることが好ましく、25mg以上であることがより好ましい。一方、融着性をより向上させ、靭性に優れる成形体となるという観点から、MWCNTの付着量は、発泡粒子本体の表面1m2あたりに80mg以下であることが好ましく、50mg以下であることがより好ましく、30mg以下であることが更に好ましい。
発泡粒子の表面1m2当たりのCNTの付着量(単位:mg/m2)は、熱重量示差熱分析装置(つまり、TG-DTA)を用い、JIS K7120:1987に準拠した方法により測定して得られるTG曲線に基づいて算出することができる。具体的には、TG曲線における、400℃から1000℃までの質量減少率に基づいて算出した発泡粒子5gあたりのCNT付着量(単位:mg/発泡粒子5g)を、別途算出した単位質量当たりの発泡粒子の表面積(単位:m2/発泡粒子1g)を用いて換算することにより、単位表面積当たりのCNT付着量を得ることができる。なお、発泡粒子5g当たりのCNT付着量は、CNTがMWCNTである場合には、1.5~10mgであることが好ましく、2~5mgであることがより好ましい。
CNTの付着量の指標として、L*値を用いることができる。特に、CNTの付着量が微量であり、前記CNTの付着量の測定方法により測定することが困難な場合には、L*値を付着量の代替指標として用いることができる。具体的には、JIS Z8722:2009に規定された方法により発泡粒子断面を測定することにより得られるL*値(A)と、発泡粒子表面を測定することにより得られるL*値(B)との差[(A)-(B)]をCNTの付着量の代替指標として用いることができる。L*値とは、CIE 1976 L*a*b*表色系におけるL*値を意味する。L*値は、発泡粒子の明度を表す数値であり、値が大きいほど明るい色調であることを示している。
前記発泡粒子の断面のL*値(A)は概ね85以上であり、好ましくは90以上であり、より好ましくは92以上である。発泡粒子の断面のL*値(A)の上限は特に限定されないが、概ね99である。なお、前記発泡粒子の断面のL*値(A)はCNTが付着していない発泡粒子と概ね同等の値を示す。
発泡粒子にCNTが付着している場合、その発泡粒子表面のL*値(B)は前記発泡粒子断面のL*値(A)よりも小さな値となる。すなわち、前記発泡粒子断面のL*値(A)と前記発泡粒子表面のL*値(B)との差[(A)-(B)]が大きいほどCNTの付着量が多いことを意味する。
CNTがMWCNTである場合には、前記発泡粒子の断面のL*値(A)と前記発泡粒子の表面のL*値(B)との差[(A)-(B)]が、20~40であることが好ましい。L*値の差が上記範囲内であると、MWCNTの付着量が好ましく調整された発泡粒子となる。したがって、導電性又は静電気拡散性が安定して発現されると共に、融着性が良好であり、靱性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる発泡粒子となる。上記観点から、CNTがMWCNTである場合、前記L*値の差[(A)-(B)]が、25~38であることがより好ましく、30~35であることが更に好ましい。同様の観点から、CNTがMWCNTである場合、発泡粒子の表面のL*値(B)は50~70であることが好ましく、55~68であることがより好ましく、60~65であることが更に好ましい。
CNTがSWCNTである場合には、より少量の付着量であっても良好な導電性又は静電気拡散性が発現される。したがって、発泡粒子の融着性の低下をより抑制しつつ、導電性又は静電気拡散性に優れる成形体を成形可能なものとなる。特に、SWCNTの付着量が微量であり、上記CNTの付着量の測定方法により測定することが困難な場合には、L*値をSWCNTが付着していることの確認手段として用いることが好ましい。
CNTがSWCNTである場合には、前記発泡粒子の断面のL*値(A)と前記発泡粒子の表面のL*値(B)との差[(A)-(B)]が、10~20であることが好ましい。L*値の差が上記範囲内であると、導電性又は静電気拡散性が安定して発現されると共に、融着性が良好であり、靱性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる発泡粒子となる。上記観点から、L*値の差は11~19であることがより好ましく、12~18であることが更に好ましい。また、CNTがSWCNTである場合、発泡粒子の表面のL*値(B)は70~85であることが好ましく、72~84であることがより好ましく、74~82であることが更に好ましい。
発泡粒子成形体には、内容物の識別や意匠性の向上等を目的として、赤色、青色等の有彩色を呈していることが望まれる場合がある。有彩色を呈する発泡粒子成形体は、有彩色に着色された発泡粒子から作製される。このような用途においては、目視によって識別可能な色の数を多くすることが望まれている。発泡粒子の表面のL*値(A)を上記範囲内とすることにより、CNTが付着した状態においても発泡粒子の色調を十分に明るくし、目視によって識別可能な色の数を多くすることができる。特に、CNTがSWCNTである場合、付着量が少ない場合であっても導電性又は静電気拡散性を発現することができるため、発泡粒子の色調をより明るくすることができる。
CNTは、1~25nmの平均直径と、1~50μmの平均長さとを有することが好ましい。この場合には、CNTによる静電気の導電経路が確実に形成されやすく、導電性又は静電気拡散性がより発現しやすいという効果が得られる。この効果が向上するという観点から、CNTがMWCNTである場合には、MWCNTの平均直径は、7~20nmであることがより好ましく、8~15nmであることがさらに好ましい。同様の観点から、MWCNTの平均長さは、5~45μmであることがより好ましく、10~35μmであることがさらに好ましく、15μ以上30μm未満であることが特に好ましい。同様の観点から、また、MWCNTのL/D、つまり、平均長さLを平均直径Dで除した値は、100以上であることが好ましく、250以上であることがより好ましい。また、CNTがSWCNTである場合には、SWCNTの平均直径は、1.5~10nmであることがより好ましい。同様の観点から、SWCNTの平均長さは、2~35μmであることがより好ましく、3~15μmであることがさらに好ましい。同様の観点から、また、SWCNTのL/D、つまり、平均長さLを平均直径Dで除した値は、100以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましい。
なお、CNTの平均直径は、例えば、以下の方法により測定することができる。まず、走査型電子顕微鏡により発泡粒子の表面像を取得する。この表面像中に存在するCNTの直径を無作為に選択した50か所において測定する。そして、得られた直径の平均値を平均直径とすることができる。
CNTの平均長さは、例えば、以下の方法により測定することができる。まず、前記CNTの平均直径の測定と同様に、走査型電子顕微鏡により発泡粒子の表面像を取得する。取得した表面像から無作為に50本のCNTを選択し、画像解析により各CNTの長さを測定する。なお、CNTが直線状ではなく、折れ曲がった形状である場合には、キルビメーター等を用いてCNTの形状に沿った長さを測定すればよい。このようにして得られた長さの平均値を平均長さとすることができる。
発泡粒子本体の嵩密度は、10~200kg/m3であることが好ましい。この場合には、成形体の衝撃吸収性を損なうことなく、より軽量なものとすることができる。また、未発泡の樹脂粒子を発泡させる際に、嵩密度が前記特定の範囲となるように樹脂粒子を発泡させることにより、樹脂粒子の表面の樹脂を適度に引き伸ばし、特定の発泡状態の粒子表面を形成することができる。この範囲の嵩密度を有する粒子表面は、CNTを付着させるのに適する凹凸形状を有していると考えられる。そして、後述するCNTを塗布する工程において、せん断または摩擦をかけることによってCNTを粒子表面により容易に定着させることができる。特に、10~200kg/m3の高発泡倍率の発泡粒子本体においては、低発泡倍率の発泡粒子本体に比べて、粒子表面に凹凸が形成され易く、CNTを付着させるのに適する凹凸形状を有していると考えられる。前記観点から、発泡粒子本体の嵩密度は、15~150kg/m3がより好ましく、20~100kg/m3がさらに好ましい。また、発泡粒子本体は、表面の吸光度比D698/D2850が前記範囲に調整されているため、発泡粒子本体の表面における樹脂成分とCNTとの親和性が高い。したがって、発泡粒子本体の嵩密度を前記範囲とすることにより、樹脂成分との親和性、及び表面の凹凸形状という2つの観点から、CNTの脱落を抑制することができると考えられる。
発泡粒子本体の嵩密度は、例えば、1Lのメスシリンダーを用意し、空のメスシリンダー中に発泡粒子本体を1Lの標線まで入れ、メスシリンダー中に入れた発泡粒子の重量を測定し、単位換算することにより算出することができる。
発泡粒子本体は、例えば、以下の方法により作製することができる。まず、発泡粒子本体の原料となる未発泡状態の複合樹脂粒子を作製する。複合樹脂粒子は、以下の通り、例えば分散工程、重合工程を行うことによって製造される。
分散工程においては、ポリエチレン系樹脂を主成分とする核粒子を、水性媒体中に分散させて分散液を得る。水性媒体中には、例えば懸濁剤、界面活性剤、水溶性重合禁止剤等を添加することができる。核粒子に用いるポリエチレン系樹脂としては、前述の通りである。
ポリエチレン系樹脂の融点Tmは95~105℃であることが好ましい。この場合には、複合樹脂粒子の製造時に、ポリエチレン系樹脂にスチレン系単量体を充分に含浸させることができ、重合時に懸濁系が不安定化することを防止することができる。その結果、ポリスチレン系樹脂の優れた剛性とポリエチレン系樹脂の優れた靭性とをより高いレベルで兼ね備えた成形体の製造が可能になる。この効果が向上するという観点から、ポリエチレン系樹脂の融点Tmは100~105℃であることがより好ましい。なお、ポリエチレン系樹脂の融点Tmは、JIS K7121:1987に基づいて、示差走査熱量測定(DSC)にて測定することができる。
核粒子には、分散径拡大剤を配合することができる。分散径拡大剤の添加により、例えばポリスチレン系樹脂からなる相を大きくすることができる。分散径拡大剤としては、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ゴム変性ポリスチレン、ABS樹脂、AES樹脂から選択される少なくとも1種を用いることができる。好ましくは、アクリロニトリル-スチレン共重合体がよい。また、アクリロニトリル-スチレン共重合体中のアクリロニトリル成分量は20~40質量%であることがよい。核粒子のポリエチレン系樹中には、分散径拡大剤が分散されて存在する。ポリエチレン系樹脂中での分散径拡大剤からなる相の粒径は、10~1000nmであること好ましい。
核粒子は、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤を含有することができる。添加剤としては、前述の分散径拡大剤の他、気泡調整剤、顔料、スリップ剤、帯電防止剤、難燃剤等が例示される。核粒子は、ポリエチレン系樹脂に、必要に応じて添加される添加剤を配合し、配合物を溶融混練してから造粒することにより製造できる。溶融混練は押出機により行うことができる。均一な混練を行うためには、予め樹脂成分を混合した後に押出を行うことが好ましい。樹脂成分の混合は、例えばヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、Vブレンダー、レディーゲミキサーなどの混合機を用いて行うことができる。溶融混練は、ダルメージタイプ、マドックタイプ、ユニメルトタイプ等の高分散タイプのスクリュや二軸押出機を用いて行うことが好ましい。この場合には、複合樹脂粒子の発泡剤の保持性及び発泡成形性を向上させることができる。また、この場合には、分散径拡大剤をポリエチレン系樹脂中に均一に分散させることができる。その結果、成形体のポリエチレン系樹脂の特徴である靱性を維持しつつ、剛性をより高めることが可能になる。
気泡調整剤の添加により発泡後の発泡粒子本体の気泡サイズを調整することができる。気泡調整剤としては、例えば、高級脂肪酸ビスアミド、高級脂肪酸金属塩等の有機物;タルク、シリカ、ホウ酸亜鉛、ミョウバン、PTFE等の無機物を用いることができる。有機物の気泡調整剤の配合量は、核粒子用の樹脂100質量部に対して0.01~2質量部の範囲にすることが好ましい。また、無機物の気泡調整剤の配合量は、核粒子用の樹脂100質量部に対して0.1~5質量部の範囲にすることが好ましい。気泡調整剤の配合量を前記範囲内で調整することにより、発泡粒子本体や成形体の気泡サイズが良好になり、型内成形時に気泡が破壊されにくくなり、成形体の外観がより良好になる。
核粒子の造粒は、例えばストランドカット方式、アンダーウォーターカット方式、ホットカット方式等によって行うことができる。所望の粒子径の核粒子が得られる方法であれば他の方法により行うこともできる。
核粒子の粒子径は、0.1mm以上が好ましい。この場合には、スチレン系単量体の含浸、重合後に得られる複合樹脂粒子を、発泡剤を十分に保持できる程度に十分大きくすることができきる。この効果をより向上させるという観点から、核粒子の粒子径は0.3mm以上がより好ましい。また、型内成形時の発泡粒子の金型への充填性が損なわれることを防止するという観点から、核粒子の粒子径は、3.0mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましい。核粒子の造粒に押出機を用いる場合には、例えば所望の粒子径の範囲内の口径を有する孔から樹脂を押出しながら切断時のカットスピードを調整することにより、核粒子の粒子径を調整することができる。
核粒子の粒子径は、例えば次のようにして測定できる。即ち、核粒子を顕微鏡写真により観察し、200個以上の核粒子について各々の核粒子の最大径を測定し、最大径の算術平均値を核粒子の粒子径とする。
分散工程においては、核粒子を水性媒体中に分散させて、分散液を作製する。水性媒体中への核粒子の分散は、例えば撹拌機を備えた密閉容器内で行うことができる。密閉容器は例えば加圧用器である。水性媒体としては、例えば脱イオン水などの液体が挙げられる。
核粒子は、懸濁剤とともに水性媒体中に分散させることが好ましい。この場合には、スチレン系単量体を添加する際に、スチレン系単量体を媒体中に均一に懸濁させることができる。
懸濁剤としては、例えばリン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第2鉄、水酸化チタン、水酸化マグネシウム、リン酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、ベントナイト等の微粒子状の無機懸濁剤を用いることができる。また、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の有機懸濁剤を用いることもできる。好ましくは、リン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウムがよい。懸濁剤としては、1種類の物質を用いてもよいし、2種以上の物質を用いてもよい。
懸濁剤の使用量は、懸濁重合系の水性媒体(具体的には、反応生成物含有スラリーなどの水を含む系内の全ての水)100質量部に対して、固形分量で0.05~10質量部が好ましい。より好ましくは0.3~5質量部がよい。懸濁剤の量を前記範囲にすることで、スチレン系単量体を安定して懸濁させ、樹脂の塊状物の発生を防止することができると共に、複合樹脂粒子の粒子径分布が広がることを抑制することができる。
水性媒体には、界面活性剤を添加することができる。界面活性剤としては、例えばアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることが好ましい。これらの界面活性剤は、単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、分散安定性の観点から、アニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
また、水性媒体には、必要に応じて、例えば塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等の無機塩類からなる電解質を添加することができる。
水性媒体には水溶性重合禁止剤を添加することが好ましい。水溶性重合禁止剤は核粒子内に含浸し難く、水性媒体中に溶解する。したがって、水溶性重合禁止剤が存在する水性媒体中では、核粒子に含浸されたスチレン系単量体の重合は行われるが、水性媒体中に存在する微小液滴状態のスチレン系単量体及び核粒子に吸収されつつある核粒子表面付近に存在するスチレン系単量体の重合が抑制される。その結果、靱性などの機械的強度に優れた成形体を得ることができる。
発泡粒子、成形体の表面における吸光度比D698/D2850は、例えばポリエチレン系樹脂に対するスチレン系単量体の配合量を調整することにより前記の所望の範囲に調整することができるが、水溶性重合禁止剤の使用とともに、後述の重合時におけるスチレン系単量体の添加量、昇温速度を調整することによっても、前記の所望の範囲に調整することができる。この理由は、以下のように考えられる。すなわち、水溶性重合禁止剤を使用することによって、核粒子に含浸されていない水性媒体中のスチレン系単量体や、核粒子に吸収されつつある表面付近のスチレンモノマーの重合を抑制することができる。そのため、複合樹脂粒子の表面部分のポリスチレン系樹脂量を中心部にくらべて少なくすることができる。例えば、ポリエチレン系樹脂に対するスチレン系単量体の量を増やしながらも、水溶性重合禁止剤を使用し、その添加量、昇温速度を調整することにより、複合樹脂粒子の表面ではポリスチレン系樹脂成分量を減らすことができる。この場合には、ポリエチレン系樹脂の特性を十分有しながらも、表面では、ポリスチレン系樹脂成分の少ない、複合樹脂粒子の製造が可能になる。なお、発泡後の発泡粒子本体においても、複合樹脂粒子でのポリスチレン系樹脂の分布が保持されるため、発泡粒子本体の表面におけるポリスチレン系樹脂成分と、ポリエチレン系樹脂成分の比率を所望の範囲に調整することができる。したがって、吸光度比D698/D2850を前記の所望の範囲に調整することができる。
水溶性重合禁止剤としては、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、亜硝酸アンモニウム、L-アスコルビン酸、クエン酸等を用いることができる。水溶性重合禁止剤の添加量は、水性媒体(具体的には、反応生成物含有スラリーなどの水を含む系内の全ての水)100質量部に対して0.001~0.1質量部が好ましく、より好ましくは0.002~0.03質量部がよい。この場合には、複合樹脂粒子の表面のポリスチレン系樹脂の割合を低下させやすくなり、発泡粒子本体の表面における吸光度比D698/D2850を上述の所望の範囲に調整しやすくなる。また、この場合には、複合樹脂粒子中の残存スチレン系単量体の量を減らすことができる。
重合工程においては、水性媒体中において、スチレン系単量体を核粒子に含浸、重合させる。スチレン系単量体としては、例えばスチレンを用いることができる。また、スチレン系単量体としては、スチレンと共重合可能なモノマーと、スチレンとを併用することができる。スチレン系単量体は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
スチレンと共重合可能なモノマーとしては、例えば下記のスチレン誘導体、その他のビニルモノマー等がある。スチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,4,6-トリブロモスチレン、ジビニルベンゼン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
その他のビニルモノマーとしては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、水酸基を含有するビニル化合物、ニトリル基を含有するビニル化合物、有機酸ビニル化合物、オレフィン化合物、ジエン化合物、ハロゲン化ビニル化合物、ハロゲン化ビニリデン化合物、マレイミド化合物などが挙げられる。
発泡剤含浸後の発泡性を高めるという観点から、ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン、スチレンとアクリル酸エステルとの共重合体が好ましい。アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等がある。中でも、アクリル酸エステルとしては、アクリル酸ブチルが好ましい。複合樹脂中のアクリル酸ブチル成分の含有量は、複合樹脂全体に対して0.5~10質量%であることが好ましく、1~8質量%であることがより好ましく、2~5質量%であることがさらに好ましい。
核粒子中に含まれるポリエチレン系樹脂とスチレン系単量体との配合比は、質量比で、ポリエチレン系樹脂/スチレン系単量体=100/100~100/1000であることが好ましく100/150~100/800であることがより好ましく、100/250~100/600であることが更に好ましい。
スチレン系単量体の重合は、重合開始剤の存在下で行うことができる。この場合には、スチレン系単量体の重合と共に架橋が生じることがある。スチレン系単量体の重合においては重合開始剤を用いるが、必要に応じて架橋剤を併用することができる。重合開始剤、架橋剤を使用する際には、予めスチレン系単量体に重合開始剤、架橋剤を溶解しておくことが好ましい。
重合開始剤は、核粒子に添加することもできる。この場合には、溶剤に溶解させた重合開始剤を核粒子に含浸させることができる。溶剤としては、例えば、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素が用いられる。
重合開始剤としては、スチレン系単量体の懸濁重合法に用いられるものを使用できる。例えば、スチレン系単量体等のビニルモノマーに可溶で、10時間半減期温度が50~120℃である重合開始剤を用いることができる。具体的には、クメンヒドロキシパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を用いることができる。重合開始剤としては、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。重合開始剤は、スチレン系単量体100質量部に対して0.01~3質量部で使用することが好ましい。
また、架橋剤としては、重合温度では分解せず、架橋温度で分解するものが用いられる。例えば、10時間半減期温度が重合温度よりも5℃~50℃高いものを用いることができる。具体的には、例えばジクミルパーオキサイド、2,5-t-ブチルパーベンゾエート、1,1-ビス-t-ブチルパーオキシシクロヘキサン等の過酸化物を用いることができる。架橋剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。架橋剤の配合量は、スチレン系単量体100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましい。なお、重合開始剤と架橋剤とは同じ化合物であってもよい。
スチレン系単量体、溶剤には、気泡調整剤を添加することができる。気泡調整剤としては、例えば脂肪酸モノアミド、脂肪酸ビスアミド、タルク、シリカ、ポリエチレンワックス、メチレンビスステアリン酸、メタクリル酸メチル系共重合体、シリコーンを用いることができる。脂肪酸モノアミドとしては、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等を用いることができる。脂肪酸ビスアミドとしては、エチレンビスステアリン酸アミド等を用いることができる。
また、スチレン系単量体には、本発明の効果を損ねない範囲で、必要に応じて、可塑剤、油溶性重合禁止剤、難燃剤、染料等を添加することができる。
核粒子にスチレン系単量体を含浸させて重合させるにあたって、全量を一括して添加することもできるが、複数回に分けて添加することができる。複数回に分けて添加する場合には、スチレン系モノマーを第1モノマー、第2モノマーなどの複数のモノマーに分けて、これらのモノマーを異なるタイミング、温度で水性媒体中に添加することができる。複数回に分けて添加することにより、重合工程において樹脂の塊状物が発生することを防止することができる。
重合工程において、重合温度は、使用する重合開始剤の種類によって異なるが、60℃~105℃が好ましい。また、架橋温度は、使用する架橋剤の種類によって異なるが、100℃~150℃が好ましい。
発泡粒子本体は、複合樹脂粒子に物理発泡剤を含浸させて発泡させることにより得られる。物理発泡剤の含浸は、スチレン系単量体の重合中または重合後の粒子に対して行うことができる。重合中の粒子及び重合後の粒子の両方に対して、物理発泡剤を含浸させてもよい。具体的には、重合中、重合後の粒子を収容する容器内に物理発泡剤を圧入し、粒子中に物理発泡剤を含浸させる。本明細書では、発泡剤が含浸された複合樹脂粒子を「発泡性粒子」ということがある。
物理発泡剤としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の炭化水素、トリクロロフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、テトラクロロジフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素、二酸化炭素、窒素、空気等の無機ガス、水などを使用することができる。物理発泡剤としては、これらの物質を単独で使用してもよいし、2種以上の物質を併用してもよい。
発泡剤の含浸温度は、ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度をTg(単位:℃)とすると、(Tg-10)℃~(Tg+40)℃の範囲内で行うことが好ましく、(Tg-5)℃~(Tg+25)℃の範囲内で行うことがより好ましい。この場合には、発泡剤の保持性をより向上させることができる。また、発泡性粒子の同士の凝結を防止することができる。発泡剤の含浸温度が低すぎる場合には、初期の発泡剤含有量が多くなり、直ちに、発泡させる場合には問題ないが、常温以上の雰囲気下で保管又は輸送後に発泡させる場合には、発泡剤の保持性が不十分となる虞がある。これは、例えばポリエチレン系樹脂が連続相であり、ポリスチレン系樹脂が分散相である場合において、複合樹脂粒子において含浸されやすいポリエチレン系樹脂からなる連続相に物理発泡剤が含浸され、ポリスチレン系樹脂からなる分散相には物理発泡剤が充分に含浸されず、物理発泡剤が逸散しやすい連続相から物理発泡剤が抜けてしまうためと推定される。一方、含浸温度が高すぎる場合には、発泡性粒子同士が凝結するおそれがある。ポリスチレン系樹脂は、スチレンホモポリマー、スチレンモノマーと共重合可能なモノマーとスチレンモノマーとの共重合体などである。
ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、次のようにして測定される中間点ガラス転移温度である。即ち、まずキシレン200mlを収容するフラスコに、発泡性粒子又は複合樹脂粒子1.0gを添加し、マントルヒーターで8時間加熱し、ソックスレー抽出を行う。抽出したキシレン溶液をアセトン600mlへ投下し、デカンテーション、減圧蒸発乾固を行い、アセトン可溶分としてポリスチレン系樹脂を得る。得られたポリスチレン系樹脂2~4mgについて、ティ・エイ・インスツルメント社製の2010型DSC測定器を用い、JIS K7121:1987に準拠して熱流束示差走査熱量測定を行う。そして、加熱速度10℃/分の条件で得られるDSC曲線の中間点ガラス転移温度を求めることができる。
物理発泡剤の含浸後には、発泡性粒子を脱水乾燥し、必要に応じて表面被覆剤を発泡性粒子に被覆させることができる。表面被覆剤としては、例えばジンクステアレート、ステアリン酸トリグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド、ひまし硬化油などがある。また、機能性の表面被覆剤として帯電防止剤などを使用することもできる。表面被覆剤の添加量は、発泡性粒子100質量部に対して0.01~2質量部であることが好ましい。
発泡性粒子を加熱媒体により加熱して発泡させることにより、発泡粒子本体を得ることができる。具体的には、発泡性粒子を供給した予備発泡機にスチーム等の加熱媒体を導入し、発泡性粒子を予備発泡させることにより発泡粒子本体を得ることができる。また、高圧の密閉容器内で、二酸化炭素等の無機系の物理発泡剤を複合樹脂粒子に含浸させて発泡性粒子とし、密閉容器内を例えば大気圧に放圧することにより発泡性粒子を発泡させて発泡粒子本体を得ることもできる。
以上のようにして発泡粒子本体を得た後、発泡粒子本体の表面に、CNTが分散された分散液を塗布する。塗布により発泡粒子の表面にCNTを付着させることで、発泡粒子の含浸重合を阻害することなく表面抵抗率が低減された成形体を成形可能な発泡粒子とすることができる。また、前記発泡粒子は、表面における吸光度比D698/D2850が上記特定の範囲に調整されているため、CNTの定着性にも優れる。
発泡粒子本体にCNTを塗布する工程においては、分散液の体積が発泡粒子本体の体積よりも十分に少ない状態で分散液と発泡粒子本体とをせん断力を掛けながら攪拌することが好ましい。この場合には、発泡粒子本体とCNTとが接触した際に大きな荷重が加わるため、発泡粒子本体からのCNTの脱落をより効果的に抑制することができる。更に、この場合には、発泡粒子本体に付着するCNTの付着量の偏りをより低減することもできる。また、前述したように嵩密度が特定の範囲となるように発泡され、特定の表面形状を備えた発泡粒子本体に対してせん断力を掛けながら攪拌を行うことにより、これらの作用効果をより高めることができる。その結果、発泡粒子本体の表面に、より強固にCNTを保持することができる。その後、分散液を乾燥させて分散媒を除去することにより、発泡粒子を得ることができる。
発泡粒子から成形体を作製するに当たっては、例えば、金型のキャビティ内に発泡粒子を充填した後、キャビティ内に水蒸気などの高温ガスを導入する方法を採用することができる。キャビティ内の発泡粒子は、高温ガスによって加圧されるとともに加温される。これにより、発泡粒子同士を融着させつつキャビティの形状に対応した成形体を得ることができる。このようにして得られた成形体は、1×1012Ω以下の平均表面抵抗率を有しているため、静電気によるトラブルが抑制されたものとなる。特に、1×105Ω以上1×1011Ω未満の範囲の平均表面抵抗率を備えた成形体は、静電気拡散性を有しており、帯電した物体と接触した際に静電気を緩やかに放電することができる。また、1×102Ω以上1×105Ω未満の範囲の平均表面抵抗率を備えた成形体は、導電性を有するものとなる。
成形体の融着率は、60%以上であることが好ましい。この場合には、成形体が例えば樹脂成分組成に応じた、靱性などの所望の機械的特性を十分に発揮することができる。この効果を向上させるという観点から、成形体の融着率は80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
成形体の表面における、波数698cm-1での吸光度D698と波数2850cm-1での吸光度D2850との吸光度比D698/D2850は1~8であることが好ましい。成形体の表面の吸光度比が上記範囲に調整されていることにより、成形体の使用時においてもCNTの脱離がより抑制される。これにより、成形体は、導電性又は静電気拡散性に優れるとともに、その安定性に優れ、表面抵抗値のばらつきが小さいものとなる。さらに、成形体は、融着性に優れたものとなる。なお、成形体の表面における吸光度D698、吸光度D2850は、前記発泡粒子の表面における吸光度D698、吸光度D2850と同様の方法により測定される。
CNTがMWCNTである場合、その付着量は、成形体1m3あたり4~10mgであることが好ましい。この場合には、成形体の使用時においてもMWCNTの脱離が抑制されるため、成形体の導電性又は静電気拡散性を安定して発現することができる。表面抵抗率をさらに低減させるという観点から、MWCNTの付着量は、成形体1m3あたり4.5mg以上であることがより好ましく、5mg以上であることがさらに好ましい。一方、使用時のMWCNTの脱落を抑制し、導電性又は静電気拡散性の安定性をより向上させるという観点から、MWCNTの付着量は、成形体1m3あたり8mg以下であることがより好ましく、7.5mg以下であることがさらに好ましい。
成形体1m3当たりのCNTの付着量(単位:mg/m3)は、前述の発泡粒子と同様にして測定することができる。なお、成形体5g当たりのMWCNT付着量は、0.35~2mgであることが好ましく、0.15~1.5mgであることがより好ましい。また、成形体5gあたりのSWCNT付着量は、0.01~2mgであることが好ましく、0.02~1.5mgであることがより好ましい。
発泡粒子成形体のCNTの付着量の指標として、前述の発泡粒子と同様に、L*値を用いることができる。発泡粒子成形体の断面のL*値(As)は概ね85以上であり、好ましくは90以上であり、より好ましくは96以上である。発泡粒子成形体の断面のL*値(As)の上限は特に制限されないが、概ね99である。
CNTがMWCNTである場合には、前記発泡粒子成形体の断面のL*値(As)と前記発泡粒子成形体の表面のL*値(Bs)との差[(As)-(Bs)]が、18~32であることが好ましい。L*値の差が上記範囲内であると、使用時のMWCNTの脱落をより抑制し、導電性又は静電気拡散性の安定性をより向上させることができる。上記観点から、CNTがMWCNTである場合、前記L*値の差[(As)-(Bs)]が、20~30であることがより好ましく、22~28であることが更に好ましい。同様の観点から、CNTがMWCNTである場合、発泡粒子成形体の表面のL*値(Bs)は60~85であることが好ましく、63~75であることがより好ましい。
CNTがSWCNTである場合には、より少量の付着量であっても良好な導電性又は静電気拡散性が発現される。特に、SWCNTの付着量が微量であり、上記CNTの付着量の測定方法により測定することが困難な場合には、L*値をSWCNTが付着していることの確認手段として用いることが好ましい。
CNTがSWCNTである場合には、前記発泡粒子成形体の断面のL*値(As)と前記発泡粒子の表面のL*値(Bs)との差[(As)-(Bs)]が、1.5~18であることが好ましい。L*値の差が上記範囲内であると、使用時のSWCNTの脱落をより抑制し、導電性又は静電気拡散性の安定性をより向上させることができる。また、発泡粒子成形体の色調をよりに明るくすることができる。上記観点から、L*値の差が2~15であることがより好ましく、3~10であることが更に好ましい。また、CNTがSWCNTである場合、発泡粒子成形体の表面のL*値(Bs)は75~92であることが好ましく、85~90であることがより好ましい。
表面にCNTが付着した発泡粒子を型内成形して得られる成形体は、成形体を構成する個々の発泡粒子に均一にCNTが付着しているため、成形体に直接CNTなどの分散液を塗布した場合に比べて、複雑な形状の成形体であっても均一な導電性又は静電気拡散性を発揮することが可能となる。したがって、複雑な形状の成形体であっても塗布ムラなどが生じ難く、成形体の表面における種々の位置で表面抵抗率を測定した際に、成形体の表面抵抗率のバラつきを低減させることができる。具体的には、表面抵抗率の変動係数が1.5以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましく、0.5以下であることが特に好ましい。
表面抵抗率の変動係数Cvは、表面抵抗率の標準偏差Vを表面抵抗率の平均値Tavで割った値で表され、平均値からのばらつき度合いを表す指標である。なお、表面抵抗率の標準偏差Vは次式(1)により求められる。
V={Σ(Ti-Tav)2/(n-1)}1/2 ・・・(1)
式(1)においてTiは表面抵抗率の各測定値を示し、Tavは表面抵抗率の平均値を示し、nは測定数を示し、Σは個々の測定値について計算した(Ti-Tav)2を全て足し算することを示す。変動係数Cvは、次式(2)により求められる。
Cv=V/Tav ・・・(2)
従来、1×1012Ω以下の平均表面抵抗率を有し、導電性又は静電気拡散性を示す成形体は、その表面に表面抵抗が高い部分と低い部分とが形成され、所望の表面抵抗率が発泡粒子成形体の表面全体において均一に発現し難いものであった。特に1×105Ω以上1×1011Ω未満の範囲の平均表面抵抗率を備えた、静電気拡散性を示す成形体は表面抵抗率のばらつきが大きくなりやすいものであった。本発明の発泡粒子成形体は、表面抵抗率の平均値が1×105Ω以上1×1011Ω未満であっても、表面抵抗率の変動係数が1.5以下であり、表面抵抗率のばらつきが小さいものとなり、靭性に優れたものとなる。
前記のようにCNTが付着した発泡粒子を型内成形する方法の他に、CNTが付着していない発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体にCNTを塗布することによっても、表面にCNTが付着し、導電性又は静電気拡散性を示し、表面抵抗率のバラつきが小さい発泡粒子成形体を得ることができる。例えば、発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体であって、前記発泡粒子成形体の表面にはカーボンナノチューブが付着しており、
前記発泡粒子は、ポリエチレン系樹脂にスチレン系単量体を含浸重合してなる、ポリエチレン系樹脂とポリスチレン系樹脂との複合樹脂を基材樹脂とし、全反射吸収の赤外分光分析により測定される、前記発泡粒子成形体の表面における波数698cm-1での吸光度D698と波数2850cm-1での吸光度D2850との吸光度比D698/D2850が1~8であるとともに、表面抵抗率の平均値が1×1012Ω以下であり、表面抵抗率の変動係数が1.5以下である、発泡粒子成形体、が例示される。
次に、発泡粒子及び成形体に係る実施例、比較例を説明する。本例では、カーボン分散液として以下の分散液A~Cを使用し、発泡粒子本体の表面にカーボンが付着した、実施例1~16、比較例1~6の発泡粒子を作製し、各発泡粒子を用いて成形体を作製した。
・カーボン分散液
分散液A・・・K1004M:多層CNT分散液(KJ特殊紙社製、CNTの平均直径8~15nm、平均長さ26μm、平均アスペクト比2260、比表面積260m2/g、カーボン濃度4.2%)
分散液B・・・N7006L:多層CNT分散液(KJ特殊紙社製、CNTの 平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、平均アスペクト比158、比表面積250~300m2/g、カーボン濃度6%)
分散液C・・・TB002L:単層CNT分散液(KJ特殊紙社製、CNTの平均直径1.6nm、平均長さ5μm、平均アスペクト比3125、比表面積500m2/g、カーボン濃度0.2%)
分散液D・・・W376R:ケッチェンブラック分散液(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製:カーボン濃度10.1%)
実施例、比較例の発泡粒子本体及び/又は発泡粒子について、以下の測定を行った。その結果を表1~4に示す。
・嵩密度
発泡粒子本体の嵩密度(kg/m3)は、1Lのメスシリンダーを用意し、空のメスシリンダー中に発泡粒子本体を1Lの標線まで充填し、1Lあたりの発泡粒子本体の質量(g)を測定し、単位換算することより求めた。
・カーボンの付着量
発泡粒子の表面に付着したカーボンの量は、以下の方法により算出した値である。カーボンは、CNT又はケッチェンブラックである。まず、精秤した発泡粒子5gをトルエン90mL中に約15時間浸漬した。その後、マグネット式スターラーを用いてトルエン中の発泡粒子を攪拌した。トルエンを攪拌すると、発泡粒子から分離されたカーボンがトルエン中に分散され、トルエン中にカーボンを含む黒色懸濁液が生じる。その後、トルエン溶液(黒色懸濁液)から発泡粒子を分離する。この操作を、目視でトルエンが黒色を呈しなくなるまで繰り返し行った。
次に、遠心分離装置を用いてカーボンを含む黒色懸濁液を上澄み液と黒色の固体とに分離した。上澄み液を除去した後、残った黒色物を乾燥し、質量(W)を測定した。
熱重量示差熱分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製「TA7000」)を用いて熱重量測定を行い、黒色物のTG曲線を取得した。熱重量測定は、JIS K7120:1987の規定に準じた方法により行った。具体的には、測定開始温度を10~40℃とし、窒素雰囲気下において10℃/分の昇温速度で500℃まで加熱して一次加熱を行った。500℃に到達した後、この温度を10分間保持した。その後、大気雰囲気下において10℃/分の昇温速度で900℃まで加熱して二次加熱を行った。
そして、500℃における質量を基準としたときの、900℃に到達した時点での質量減少率を算出した。得られた質量減少率に前述した黒色物の質量(W)を乗じることにより、発泡粒子5g当たりのカーボン付着量を算出した。
次に、以下の方法により、発泡粒子本体1個当たりの表面積を算出した。表面積の算出は、カーボンを付着させる前の発泡粒子本体を用いて行った。まず、500個以上の発泡粒子本体からなる粒子本体群を、相対湿度50%RH、23℃、1atmの環境下に2日放置した。次に、23℃のエタノールの入ったメスシリンダーを用意し、金網などを使用して粒子本体群をエタノール中に完全に沈めた。このときの液面の上昇量を粒子本体群の容積とした。
以上により得られた粒子本体群の容積を、粒子本体群に含まれる発泡粒子本体の個数で除することにより発泡粒子本体1個当たりの容積を算出した。この発泡粒子本体1個当たりの容積を用い、発泡粒子本体の等体積球相当径、つまり、発泡粒子本体1個当たりの容積と等しい体積を有する真球の直径を算出した。以上により得られた等体積球相当径を有する真球の表面積を、発泡粒子本体1個当たりの表面積(単位:m2)とした。
また、別途、前記表面積の測定において、粒子本体群の質量を測定しておき、発泡粒子本体1個当たりの平均質量を算出することで、発泡粒子本体の単位質量当たりの表面積を算出することができる。そして、発泡粒子本体5g当たりのカーボンの付着量を発泡粒子本体5g当たりの表面積(単位:m2)で除することにより、単位表面積当たりのカーボン付着量(単位:mg/m2)を算出することができる。
・発泡粒子のL*値
微小面分光色差計(日本電色工業株式会社製「VSS 7700」)を用いて発泡粒子の表面及び発泡粒子を2等分した断面を測定し、CIE 1976 L*a*b*色空間における色座標を取得した。色座標の取得には50個の粒子本体を用い、1個の粒子本体について、無作為に選択した5か所を測定した。より具体的には、光源としてJIS Z8720:2012に規定されたイルミナントCを放射する標準光源を使用し、JIS Z8722:2009:に記載された反射物体の測定方法に従って測定を行った。0.5mmφの測定領域に測定光を照射し、2度視野に基づく三刺激値の値を得た。この値をL*a*b*色空間における色座標に変換した。表1~4には、発泡粒子断面の色差L*値(A)、発泡粒子表面の色差L*値(B)、これらの差[(A)-(B)]を示す。
・発泡粒子本体の表面における吸光度比D698/D2850
CNTを付着させる前の発泡粒子本体の表面における吸光度比DD698/D2850は、日本分光社製の赤外分光光度計「FT/IR-460plus」と、同社製の全反射吸収測定装置「ATR PRO 450-S型」を用いて測定した。全反射吸収測定装置の測定条件は、プリズム:ZnSe、入射角:45°とした。具体的には、まず、発泡粒子本体の表面の赤外スペクトルを測定し、赤外線吸収スペクトル(ただし、ATR補正なし)を得た。
次に、赤外線吸収スペクトル(ただし、ATR補正なし)から得られる698cm-1付近における吸光度D698、2850cm-1付近における吸光度D2850を測定し、吸光度比D698/D2850を求めた。同様の測定を5つの発泡粒子本体について行い、これらの平均値を発泡粒子本体の吸光度比D698/D2850とした。なお、吸光度比D698/D2850の測定は、CNTを付着させた発泡粒子についても同様に行った。CNTは698cm-1付近及び2850cm-1付近においてピークを示さず、吸光度比D698/D2850はCNTの付着前後で同じ値を示した。
実施例、比較例の成形体について、以下の測定を行った。その結果を表1~4に示す。
・成形体密度
成形体を温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で24時間放置した後、成形体の重量及び外形寸法を測定した。得られた重量を、外形寸法に基づいて算出した体積で除することにより、成形体密度(kg/m3)を算出した。
・成形体のカーボンの付着量
発泡粒子と同様にして、成形体1m3あたりのカーボンの付着量を測定した。なお、測定は300mm(長さ)×75mm(幅)×25mm(厚み)の直方体状の成形体からニクロム線カッターで測定用サンプルが5gになるように厚みを変えて切り出したものを試験片(縦300mm、横75mm、厚みは任意)とした。測定は5つの成形体について行い、これらの平均値を成形体1m3あたりのカーボンの付着量とした。
・発泡粒子成形体のL*値
分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製「CM-5」)を用いて発泡粒子成形体のスキン面の色調を測定し、CIE 1976 L*a*b*色空間における色座標を取得した。色座標の取得は、互いに異なる測定対象を用いて複数回行った。なお、測定は300mm(長さ)×75mm(幅)×25mm(厚み)の成形体の表面及び該成形体を幅方向に2等分した断面を測定した。表1~4には、成形体断面の色差L*値(As)、発泡粒子表面の色差L*値(Bs)、これらの差[(As)-(Bs)]を示す。
・成形体の表面における吸光度比D698/D2850
成形体から25mm(長さ)×75mm(幅)×25mm(厚み)の試験片を切り出し、発泡粒子本体と同様の方法によりこの試験片の表面の吸光度比D698/D2850を測定した。測定は5つの試験片について行い、これらの平均値を成形体の吸光度比D698/D2850とした。
・融着率
成形体を長手方向に略等分となるように折り曲げて破断させた。これにより露出した破断面を目視観察し、発泡粒子同士の界面が剥離している発泡粒子の数と、内部で破断した発泡粒子の数とを数えた。そして、破断面に露出している発泡粒子の総数、つまり、発泡粒子同士の界面が剥離している発泡粒子の数と、内部で破断した発泡粒子の数との合計に対する発泡粒子の内部で破断した発泡粒子の数の割合を算出した。この割合を百分率(%)で表した値を融着率とした。融着率の測定は、CNTを塗布する前の発泡粒子本体を型内成形してなる成形体についても同様に行った。その結果から、CNT塗布前後における融着率の低下率を算出した。
・曲げ試験
300mm(長さ)×75mm(幅)×25mm(厚み)の成形体から120mm(長さ)×25mm(幅)×20mm×(厚み)の試験片を切り出し、JIS K 7221:2006に準拠して3点曲げ試験(スパン200mm)を行ない、曲げ破断点歪と曲げ強度を測定した。測定にあたっては、試験片を温度23℃、50%RH条件下で1日間養生させた後測定した。曲げ試験は、CNTを塗布する前の発泡粒子本体を型内成形してなる成形体についても同様に行った。その結果から、CNT塗布前後における曲げ破断点歪と曲げ強度の低下率を算出した。
・表面抵抗率
成形体の表面抵抗率を測定することにより、成形体の帯電防止性能の評価を行った。表面抵抗率は、JIS K 6271-1:2015に準拠した方法により行った。測定にあたっては、まず、温度23℃、50%RH条件下で成形体を1日間養生させ、養生後の成形体を試験片として用いた。そして、三菱化学社製の「ハイレスタMCP-HT450」を用いて、試験片のスキン面における表面抵抗率を測定した。プローブとしては、三菱ケミカルアナリテック株式会社製の「URS100」を使用した。なお、この試験方法により測定された表面抵抗率が1×104Ω未満の場合には、測定装置として三菱化学社製社製「ロレスタMCP-T610」を使用し、あらためて試験片の成形スキン面の表面抵抗率を測定し、その結果を測定結果とする。測定環境の温度は23℃、相対湿度は50%RHとし、測定時の印加電圧は10~500V、印加時間は30秒とした。測定は、無作為の異なる5箇所について行い、その平均値及び変動係数を求めた。なお、スキン面とは、型内成形によって得られた成形体の表面である。また、表面抵抗率が1×1015Ωを超える場合には、その測定結果を「OVER」として表す。
実施例1
(1)核粒子の作製
ポリエチレン系樹脂として、メタロセン重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製「ニポロンZ HF210K」を準備した。このポリエチレン系樹脂の融点Tmは、103℃である。また、分散径拡大剤として、アクリロニトリル-スチレン共重合体(デンカ社製「AS-XGS、アクリロニトリル成分量:28質量%)を準備した。そして、ポリエチレン系樹脂20kgと、分散径拡大剤1kgとをヘンシェルミキサー(三井三池化工機社製;型式FM-75E)に投入し、5分間混合して樹脂混合物を得た。
次いで、26mmφの2軸押出機(具体的には、東芝機械(株)製の型式TEM-26SS)を用いて、樹脂混合物を温度230~250℃で溶融混練した。溶融混練物を押出し、水中カット方式により0.15~0.25mg/個(平均0.20mg/個)に切断することにより、ポリエチレン系樹脂を含む核粒子を得た。
(2)発泡性粒子の作製
撹拌装置の付いた内容積が3Lのオートクレーブに、脱イオン水1000gを入れ、更にピロリン酸ナトリウム6.0gを加えた。その後、粉末状の硝酸マグネシウム・6水和物12.9gを加え、40℃で30分撹拌した。これにより、懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムスラリーを作製した。
次に、この懸濁剤に界面活性剤としてのラウリルスルホン酸ナトリウム(10質量%水溶液)2.0g、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウム0.2g、及び核粒子75gを投入した。
次いで、重合開始剤としてのt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート1.72g(日油社製「パーブチルE」)とt-ヘキシルパーオキシベンゾエート0.86g(日油社製「パーヘキシルZ」)、連鎖移動剤としてのαメチルスチレンダイマー(日油社製「ノフマーMSD」)0.63gとを、第1モノマー(スチレン系モノマー)に溶解させた。そして、溶解物を撹拌速度500rpmで撹拌しながらオートクレーブ内の懸濁剤中に投入した(分散工程)。なお、第1モノマーとしては、スチレン60gとアクリル酸ブチル15gとの混合モノマーを用いた。
次いで、オートクレーブ内を窒素置換した後、昇温を開始し、1時間30分かけて温度100℃まで昇温させた。昇温後、この温度100℃で60分間保持した。その後、撹拌速度を450rpmに下げ、重合温度100℃で7時間30分間保持した。尚、温度100℃に到達してから60分経過時に第2モノマー(スチレン系モノマー)としてのスチレン350gを5時間かけてオートクレーブ内に添加した。
次いで、温度125℃まで3時間かけて昇温させ、そのまま温度125℃で5時間保持した。その後、温度90℃まで1時間かけて冷却し、撹拌速度を400rpmに下げ、そのまま温度90℃で3時間保持した。そして、温度90℃到達時に、発泡剤として、シクロヘキサン20g、及びブタン(ノルマルブタン約20質量%、イソブタン約80質量%の混合物)65gを約1時間かけオートクレーブ内に添加した。さらに、温度105℃まで2時間かけて昇温し、そのまま温度105℃で5時間保持した後、温度30℃まで約6時間かけて冷却した。
冷却後、内容物を取り出し、硝酸を添加して樹脂粒子の表面に付着したピロリン酸マグネシウムを溶解させた。その後、遠心分離機で脱水・洗浄し、気流乾燥装置で表面に付着した水分を除去し、平均粒径(d63)が約1.7mmの発泡性粒子を得た。
得られた発泡性粒子100質量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.12質量部、グリセリンモノステアレート0.04質量部、グリセリンジステアレート0.04質量部の混合物を添加し、これらで発泡性粒子を被覆した。
(3)発泡粒子本体の作製
発泡性粒子を6℃の低温倉庫で1日熟成後、嵩密度約50kg/m3の発泡粒子本体を作製した。具体的には、まず、発泡性粒子を容積30Lの常圧バッチ発泡機内に入れ、この発泡機内にスチームを供給した。これにより、発泡性粒子を発泡させて嵩密度50kg/m3発泡粒子本体を得た。
(4)発泡粒子の作製
100gの発泡粒子本体に対して、カーボン分散液として分散液Aを0.9g添加した後、発泡粒子本体と分散液とを104rpmで2分間攪拌した。攪拌を行っている間、分散液を構成するCNTが粒子本体同士の間で接触を繰り返すことにより、分散液中のCNTが発泡粒子本体の表面に付着し、固定化させる。これにより、発泡粒子本体の表面にCNTを付着させ、発泡粒子を得た。
(5)成形体(複合樹脂発泡粒子成形体)の作製
縦300mm、横75mm、厚み25mmの直方体状のキャビティを有する金型を準備し、発泡粒子をキャビティ内に充填した。次いで、キャビティ内に水蒸気を導入することにより、発泡粒子を加熱して相互に融着させつつ、キャビティに対応した形状に成形した。以上により成形体を得た。本例では、金型から取り出した成形体を40℃で1日間乾燥させた後、さらに1日間以上養生させた。
このようにして、密度50kg/m3の、発泡倍率20倍の成形体を得た。なお、成形体の発泡倍率は、この成形体の質量をその体積で除することにより成形体密度(kg/m3)を算出し、下記の式により算出することができる。
発泡倍率(倍)=1000/成形体密度(kg/m3)
実施例2
カーボン分散液の添加量を1.2gとした以外は実施例1と同様に実施した。
実施例3
カーボン分散液として、分散液Bを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
実施例4
カーボン分散液の添加量を1.5gとし、発泡倍率を30倍にした以外は、実施例1と同様に実施した。
実施例5
カーボン分散液の添加量を2gとし、発泡倍率を50倍にした以外は、実施例1と同様に実施した。
実施例6
(1)核粒子の作製
ポリエチレン系樹脂として、メタロセン重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製「ニポロンZ HF210K」を準備した。このポリエチレン系樹脂の融点Tmは、103℃である。また、分散径拡大剤として、アクリロニトリル-スチレン共重合体(デンカ社製「AS-XGS、アクリロニトリル成分量:28質量%)を準備した。そして、ポリエチレン系樹脂20kgと、分散径拡大剤1kgとをヘンシェルミキサー(三井三池化工機社製;型式FM-75E)に投入し、5分間混合して樹脂混合物を得た。
次いで、26mmφの2軸押出機(具体的には、東芝機械(株)製の型式TEM-26SS)を用いて、樹脂混合物を温度230~250℃で溶融混練した。溶融混練物を押出し、水中カット方式により0.15~0.25mg/個(平均0.30mg/個)に切断することにより、エチレン系樹脂を含む核粒子を得た。
(2)発泡性粒子の作製
撹拌装置の付いた内容積が3Lのオートクレーブに、脱イオン水1000gを入れ、更にピロリン酸ナトリウム6.0gを加えた。その後、粉末状の硝酸マグネシウム・6水和物12.9gを加え、40℃で30分撹拌した。これにより、懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムスラリーを作製した。
次に、この懸濁剤に界面活性剤としてのラウリルスルホン酸ナトリウム(10質量%水溶液)1.25g、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウム0.293g、及び核粒子125gを投入した。
次いで、重合開始剤としての過酸化ベンゾイル1.3g(日油社製「ナイパーBW」、水希釈粉体品)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート2.6g(日油社製「パーブチルE」)、ジクミルパーオキサイド(日油社製「パークミルD」)0.9gとを、スチレン系モノマーに溶解させた。そして、溶解物を撹拌速度500rpmで撹拌しながらオートクレーブ内の懸濁剤中に投入した。なお、スチレン系モノマーとしては、スチレン250gとアクリル酸ブチル15gとの混合モノマーを用いた。
次いで、オートクレーブ内を窒素置換した後、昇温を開始し、1時間30分かけて温度88℃まで昇温させた。昇温後、この温度88℃で30分間保持した。その後、撹拌速度を450rpmに下げ、80℃まで30分で冷却し、重合温度80℃で8時間保持した。
次いで、温度125℃まで10時間かけて昇温させ、そのまま温度125℃で5時間保持した。その後、温度90℃まで1時間かけて冷却し、撹拌速度を400rpmに下げ、そのまま温度90℃で3時間保持した。そして、温度90℃到達時に、発泡剤として、シクロヘキサン20g、及びブタン(ノルマルブタン約20質量%、イソブタン約80質量%の混合物)65gを約1時間かけオートクレーブ内に添加した。さらに、温度105℃まで2時間かけて昇温し、そのまま温度105℃で5時間保持した後、温度30℃まで約6時間かけて冷却した。
冷却後、内容物を取り出し、硝酸を添加して樹脂粒子の表面に付着したピロリン酸マグネシウムを溶解させた。その後、遠心分離機で脱水・洗浄し、気流乾燥装置で表面に付着した水分を除去し、平均粒径(d63)が約1.6mmの発泡性粒子を得た。
得られた発泡性粒子100質量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.12質量部、グリセリンモノステアレート0.04質量部、グリセリンジステアレート0.04質量部の混合物を添加し、これらで発泡性粒子を被覆した。その他は、実施例5と同様にした。
実施例7
(1)核粒子の作製
ポリエチレン系樹脂として、メタロセン重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製「ニポロンZ HF210K」、酢酸ビニルを15質量%含有したエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA:東ソー社製「ウルトラセン626」)を準備した。メタロセン重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレンの融点Tmは、103℃であり、酢酸ビニルを15質量%含有したエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点Tmは、91℃である。また、分散径拡大剤として、アクリロニトリル-スチレン共重合体(デンカ社製「AS-XGS、アクリロニトリル成分量:28質量%)を準備した。そして、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製「ニポロンZ HF210K」15kg、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA:東ソー社製「ウルトラセン626」)5kgと、分散径拡大剤1kgとをヘンシェルミキサー(三井三池化工機社製;型式FM-75E)に投入し、5分間混合して樹脂混合物を得た。
次いで、26mmφの2軸押出機(具体的には、東芝機械(株)製の型式TEM-26SS)を用いて、樹脂混合物を温度230~250℃で溶融混練した。溶融混練物を押出し、水中カット方式により0.3~0.4mg/個(平均0.35mg/個)に切断することにより、エチレン系樹脂を含む核粒子を得た。
(2)発泡性粒子の作製
撹拌装置の付いた内容積が3Lのオートクレーブに、脱イオン水1000gを入れ、更にピロリン酸ナトリウム6.0gを加えた。その後、粉末状の硝酸マグネシウム・6水和物12.9gを加え、40℃で30分撹拌した。これにより、懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムスラリーを作製した。
次に、この懸濁剤に界面活性剤としてのラウリルスルホン酸ナトリウム(10質量%水溶液)1.04g、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウム0.1g、及び核粒子150gを投入した。
次いで、重合開始剤としての過酸化ベンゾイル2.0g(日油社製「ナイパーBW」、水希釈粉体品)とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート0.25g(日油社製「パーブチルE」)、及び架橋剤としての1,1-ジ(ターシャリブチルパーオキシ)シクロヘキサン(アルケマ吉富社製「ルペロックス331M70」)5.1gを、スチレン系モノマーに溶解させた。そして、溶解物を撹拌速度500rpmで撹拌しながらオートクレーブ内の懸濁剤中に投入した。なお、スチレン系モノマーとしては、スチレン335gとアクリル酸ブチル15gとの混合モノマーを用いた。
次いで、オートクレーブ内を窒素置換した後、昇温を開始し、1時間30分かけて温度88℃まで昇温させた。昇温後、この温度88℃で30分間保持した。その後、撹拌速度を450rpmに下げ、80℃まで30分で冷却し、重合温度80℃で5時間保持した。
次いで、温度120℃まで5時間かけて昇温させ、そのまま温度120℃で5時間保持した。その後、温度90℃まで1時間かけて冷却し、撹拌速度を400rpmに下げ、そのまま温度90℃で3時間保持した。そして、温度90℃到達時に、発泡剤として、シクロヘキサン20g、及びブタン(ノルマルブタン約20質量%、イソブタン約80質量%の混合物)65gを約1時間かけオートクレーブ内に添加した。さらに、温度105℃まで2時間かけて昇温し、そのまま温度105℃で5時間保持した後、温度30℃まで約6時間かけて冷却した。
冷却後、内容物を取り出し、硝酸を添加して樹脂粒子の表面に付着したピロリン酸マグネシウムを溶解させた。その後、遠心分離機で脱水・洗浄し、気流乾燥装置で表面に付着した水分を除去し、平均粒径(d63)が約1.7mmの発泡性粒子を得た。
得られた発泡性粒子100質量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.12質量部、グリセリンモノステアレート0.04質量部、グリセリンジステアレート0.04質量部の混合物を添加し、これらで発泡性粒子を被覆した。その他は、実施例5と同様にした。
実施例8
亜硝酸ナトリウムの添加量を0.1gとした以外は実施例5と同様に実施した。
実施例9
亜硝酸ナトリウムの添加量を0.5gとした以外は実施例5と同様に実施した。
実施例10
亜硝酸ナトリウムの添加量を0.75gとした以外は実施例5と同様に実施した。
実施例11
亜硝酸ナトリウムの添加量を0.075gとした以外は実施例5と同様に実施した。
実施例12
(1)核粒子の作製
ポリエチレン系樹脂として、メタロセン重合触媒を用いて重合してなる直鎖状低密度ポリエチレン(具体的には、東ソー社製「ニポロンZ HF210K」)を準備した。このポリエチレン系樹脂の融点Tmは、103℃である。また、発泡核剤マスターバッチとしてポリコール(株)製「CE-7335」を準備した。ポリコール(株)製「CE-7335」は、ホウ酸亜鉛(気泡調整剤)の含有量が10質量%、直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製「ニポロンZ HF210K」)の含有量が90質量%である。ポリエチレン系樹脂8.65kgと、気泡調整剤マスターバッチ1.35kgとをヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合することにより、樹脂混合物を得た。
次いで、26mmφの2軸押出機(具体的には、東芝機械(株)製の型式TEM-26SS)を用いて、樹脂混合物を温度230~250℃で溶融混練した。溶融混練物を押出し、水中カット方式により0.3~0.4mg/個(平均0.35mg/個)に切断することにより、ポリエチレン系樹脂を含む核粒子を得た。
(2)複合樹脂粒子の作製
撹拌装置の付いた内容積が3Lのオートクレーブに、脱イオン水1000gを入れ、更にピロリン酸ナトリウム6.0gを加えた。その後、粉末状の硝酸マグネシウム・6水和物12.9gを加え、40℃で30分撹拌した。これにより、懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムスラリーを作製した。
次に、この懸濁剤に界面活性剤としてのラウリルスルホン酸ナトリウム(10質量%水溶液)2.0g、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウム0.2g、及び核粒子75gを投入した。
次いで、重合開始剤としてのt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート1.72g(日油社製「パーブチルE」)とt-ヘキシルパーオキシベンゾエート0.86g(日油社製「パーヘキシルZ」)、連鎖移動剤としてのαメチルスチレンダイマー(日油社製「ノフマーMSD」)0.63gとを、第1モノマー(スチレン系モノマー)に溶解させた。そして、溶解物を撹拌速度500rpmで撹拌しながらオートクレーブ内の懸濁剤中に投入した(分散工程)。なお、第1モノマーとしては、スチレン60gとアクリル酸ブチル15gとの混合モノマーを用いた。
次いで、オートクレーブ内を窒素置換した後、昇温を開始し、1時間30分かけて温度100℃まで昇温させた。昇温後、この温度100℃で60分間保持した。その後、撹拌速度を450rpmに下げ、重合温度100℃で7時間30分間保持した。尚、温度100℃に到達してから60分経過時に第2モノマー(スチレン系モノマー)としてのスチレン350gを5時間かけてオートクレーブ内に添加した。
次いで、温度125℃まで3時間かけて昇温させ、そのまま温度125℃で5時間保持した。その後、オートクレーブ内を冷却させ、内容物(複合樹脂粒子)を取り出した。次いで、硝酸を添加して複合樹脂粒子の表面に付着したピロリン酸マグネシウムを溶解させた。その後、遠心分離機により脱水及び洗浄を行い、気流乾燥装置で表面に付着した水分を除去することにより、複合樹脂粒子を得た。
(3)発泡粒子の製造
複合樹脂粒子500gを分散媒としての水3500gと共に撹拌機を備えた5Lの耐圧密閉容器内に仕込んだ。続いて、耐圧密閉容器内の分散媒中に分散剤としてのカオリン5gと、界面活性剤としてのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5gとをさらに添加した。次いで、回転速度300rpmで耐圧密閉容器内を撹拌しながら、容器内を発泡温度165℃まで昇温させた。その後、無機系物理発泡剤である二酸化炭素を耐圧密閉容器内の圧力が3.2MPa(G:ゲージ圧)になるように耐圧密閉容器内に圧入し、同温度(すなわち、165℃)で15分間保持した。これにより複合樹脂粒子中に二酸化炭素を含浸させて、発泡性粒子を得た。次いで、発泡性粒子を分散媒と共に密閉容器から大気圧下に放出することにより、嵩密度が50kg/m3の発泡粒子を得た。以降の操作は実施例1と同様である。
実施例13
亜硝酸ナトリウムの添加量を0.09gとした以外は実施例5と同様に実施した。
実施例14
カーボン分散液として、分散液Cを0.63g用いた以外は実施例1と同様に実施した。
実施例15
カーボン分散液として、分散液Cを1.2g用いた以外は実施例1と同様に実施した。
実施例16
カーボン分散液として、分散液Cを2.4g用いた以外は実施例1と同様に実施した。
比較例1
カーボン分散液添加量を0gとした以外は実施例1と同様に実施した。
比較例2
カーボン分散液として、分散液Dを0.5g用いた以外は実施例1と同様に実施した。
比較例3
亜硝酸ナトリウムの添加量を0.05gとした以外は実施例5と同様に実施した。
比較例4
亜硝酸ナトリウムの添加量を1gとした以外は実施例5と同様に実施した。
比較例5
(1)核粒子の作製
ポリエチレン系樹脂として、酢酸ビニルを15質量%含有したエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA:東ソー社製「ウルトラセン626」)20kgを準備した。次いで、26mmφの2軸押出機(具体的には、東芝機械(株)製の型式TEM-26SS)を用いて、樹脂を温度230~250℃で溶融混練した。溶融混練物を押出し、水中カット方式により0.3~0.4mg/個(平均0.35mg/個)に切断することにより、ポリエチレン系樹脂を含む核粒子を得た。
(2)発泡性粒子の作製
撹拌装置の付いた内容積が3Lのオートクレーブに、脱イオン水1000gを入れ、更にピロリン酸ナトリウム6.0gを加えた。その後、粉末状の硝酸マグネシウム・6水和物12.9gを加え、40℃で30分撹拌した。これにより、懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムスラリーを作製した。
次に、この懸濁剤に界面活性剤としてのラウリルスルホン酸ナトリウム(10質量%水溶液)1.04g、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウム0.5g、及び核粒子150gを投入した。
次いで、重合開始剤としての過酸化ベンゾイル2.0g(日油社製「ナイパーBW」、水希釈粉体品)とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート0.25g(日油社製「パーブチルE」)、及び架橋剤としての1,1-ジ(ターシャリブチルパーオキシ)シクロヘキサン(アルケマ吉富社製「ルペロックス331M70」)5.1gを、スチレン系モノマーに溶解させた。そして、溶解物を撹拌速度500rpmで撹拌しながらオートクレーブ内の懸濁剤中に投入した。なお、スチレン系モノマーとしては、スチレン350gを用いた。
次いで、オートクレーブ内を窒素置換した後、昇温を開始し、1時間30分かけて温度88℃まで昇温させた。昇温後、この温度88℃で30分間保持した。その後、撹拌速度を450rpmに下げ、80℃まで30分で冷却し、重合温度80℃で5時間保持した。
次いで、温度120℃まで5時間かけて昇温させ、そのまま温度120℃で5時間保持した。その後、温度90℃まで1時間かけて冷却し、撹拌速度を400rpmに下げ、そのまま温度90℃で3時間保持した。そして、温度90℃到達時に、発泡剤として、シクロヘキサン20g、及びブタン(ノルマルブタン約20質量%、イソブタン約80質量%の混合物)65gを約1時間かけオートクレーブ内に添加した。さらに、温度105℃まで2時間かけて昇温し、そのまま温度105℃で5時間保持した後、温度30℃まで約6時間かけて冷却した。
冷却後、内容物を取り出し、硝酸を添加して樹脂粒子の表面に付着したピロリン酸マグネシウムを溶解させた。その後、遠心分離機で脱水・洗浄し、気流乾燥装置で表面に付着した水分を除去し、平均粒径(d63)が約1.7mmの発泡性粒子を得た。
得られた発泡性粒子100質量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.12質量部、グリセリンモノステアレート0.04質量部、グリセリンジステアレート0.04質量部の混合物を添加し、これらで発泡性粒子を被覆した。以降の操作は、実施例4と同様である。
比較例6
亜硝酸ナトリウムの添加量を0.2g、核粒子の量を200g、スチレンの量を300g、発泡倍率を20倍、カーボン分散液の添加量を1.2gとした以外は、比較例5と同様に実施した。
表1~表3に示したように、実施例1~16の発泡粒子は、CNTの付着量が前記特定の範囲内であり、発泡粒子及び成形体の表面における吸光度比D698/D2850はそれぞれ前記特定の範囲内である。そのため、実施例1~16の発泡粒子を用いることにより製造された成形体は、静電気拡散性に優れ、表面抵抗値のばらつきが小さいものであった。また、得られた成形体は融着性が良好であり、CNTの塗布前後での曲げ破断点歪及び曲げ強度の低下率が小さく、靱性に優れていた。
一方、表4に示すように、比較例1は発泡粒子の表面にCNTが付着していない。そのため、比較例1を用いて作製された成形体は、表面抵抗率が高くなった。その結果、成形体が帯電しやすくなり、静電気によるトラブルが起こりやすいものであった。
比較例2は、表面にケッチェンブラックが付着した従来の発泡粒子の例である。表面抵抗率が前記特定の範囲よりも高く、その結果、成形体が帯電しやすくなり、静電気によるトラブルが起こりやすくなる。
比較例3は、発泡粒子表面における吸光度比D698/D2850が大きい発泡粒子の例である。比較例3は、吸光度比D698/D2850が大きく、表面のポリスチレン系樹脂成分量が多い。そのため、成形体における発泡粒子の融着率が低く、成形体が脆くなった。
比較例4~6は、発泡粒子表面における吸光度比D698/D2850が小さい発泡粒子の例である。そのため、成形体の表面抵抗率の平均値が高く、静電気によるトラブルが起こりやすいものであった。また、比較例4~6は、表面抵抗率の変動係数が大きいため、成形体は、導電性又は静電気拡散性のバラツキが大きいものであった。
以上のように、本発明の実施例について説明したが、本発明に係る発泡粒子及び成形体の態様は、前述した実施例の態様に限定されるものではなく、その趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。