JP7338573B2 - せん断刃、せん断金型、金属板のせん断加工方法、及びプレス部品の製造方法 - Google Patents
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超高強度鋼板の車体適用時における課題の一つに、プレス部品製造後の遅れ破壊がある。特に、引張強度980MPa以上の鋼板では、せん断加工後の端面(以下、せん断端面とも呼ぶ)から発生する、伸びフランジ割れ及び遅れ破壊への対策が重要な課題となっている。
しかし、上記の「2度抜き」によるせん断加工方法は、製造装置への実際の適用を考えた場合、2回目の切り代に合わせてmm単位の位置精度が要求されるという課題や、少なくとも2工程以上のせん断工程を必要とするという課題などがあった。
一方で、上記穴加工における段付き上刃を用いたせん断方法では、2度抜きによる加工方法に比べ、ブランクの位置調整の問題は発生せず、せん断工程も一度で済むため、より経済的であるという利点がある。
しかしながら、上記従来の段付き上刃を用いたせん断方法は、穴抜き加工に用いる技術であって、金属板の端部の切断など、金属板を切断するせん断加工への適用について何ら記載も示唆も無い。
ここで、穴抜き加工においては、段付き刃を採用しても、穴の周全体で同等の曲げモーメントが発生するため、せん断金型の変形や金属板の引き込まれが相殺していた。このため、上記のような問題は発生していなかった。
そして、発明者は、上記のような課題を見出し、その課題を解消する技術を鋭意検討して、本発明をなした。
すなわち、本発明の態様によれば、金属板を切断するせん断工程において、量産適用の際に問題となる過大な曲げモーメントの発生を抑制し、且つ、金属板の上刃側への引き込まれを抑制可能となる。この結果、耐伸びフランジ割れ特性並びに耐遅れ破壊特性が良好である高強度鋼板のせん断加工技術を提供することが可能となる。
本実施形態では、せん断加工する金属板として、プレス部品にプレス成形するブランク用の金属板を例に挙げて説明する。
本実施形態が対象とする金属板は、せん断加工時に発生する鋼板のせん断端面での引張り残留応力や加工硬化によって、端部で伸びフランジ割れや遅れ破壊が起こる可能性のある高強度鋼板からなる。本発明は、引張強度が590MPa以上の高強度鋼板であれば適用可能であるが、伸びフランジ割れや遅れ破壊が特に懸念される980MPa以上を有する高強度鋼板に効果的であり、1180MPa以上を有する高強度鋼板により効果的な技術である。
トリム工程21では、金属板10を、プレス部品の部品形状に応じた切断形状の輪郭に切断する。
この切断の際に、金属板10の全周における少なくとも一部の端部に対し、本発明に基づく本実施形態のせん断加工を施すせん断工程21Aを有する。
せん断工程に使用するせん断金型20は、図3に示すように、下刃1と、板押さえ2と、上刃3とを備える。
せん断金型20を使用したせん断加工は、金属板10の切断位置に合わせて、下刃1の刃先の位置が設定されるようにして、下刃1と板押さえ2で、金属板10の本体側(端部から離れた側)を拘束(固定)する。また、せん断加工は、上刃3と下刃1のクリアランスΔCを所定クリアランスに設定する。そして、下刃1に対して相対的に、上刃3を金属板10の板厚方向(図3では下方)である切断方向に移動することで、せん断加工を実行する。
通常の上刃3は、図3のように、刃部(上刃3の下部)が切断の輪郭形状に沿って延在した厚板形状になっており、その切断面側(下刃1側)の角部で、上刃3の刃先が形成されている。すなわち、1つの刃先が、切断位置の形状に沿った方向へ延在している。本実施形態では、上述のように、刃先が直線状(図3では紙面方向)に延在している場合である。
図4(a)は、図5の左方向から見た刃先側の正面図、すなわち、下刃1と対向可能な面側からみた図である。
せん断刃23は、金属板10を切断するせん断金型20に用いられる。せん断刃23は、刃部として、図4及び図5に示すように、2つの刃先23Aa、23Abが切断方向へ段状に配置された第1の刃部23Aと、刃先23Baが1つの第2の刃部23Bと、を有する。
せん断刃23の刃部は、厚板状である。第1の刃部23Aと第2の刃部23Bは、刃先の延在方向に並ぶように配置され、切断位置の形状(切断ライン)に沿って並んで配置されている。
ここで、第1の刃部23Aの2つの刃先23Aa、23Abのうち、切断方向において金属板10に対し近位に配置される刃先23Aa(つまり相対的に先に金属板10に接触する刃先)を第1刃先23Aaとも記載し、切断方向において金属板10に対し遠位に配置される刃先23Ab(つまり相対的に後に金属板10に接触する刃先)を第2刃先23Abとも記載する。
そして、第1の刃部23Aの2つの刃先23Aa、23Abのうち切断方向において金属板10に対し遠位に配置される第2刃先23Abと、第2の刃部23Bの刃先23Baとが、目的とする切断形状に金属板10を切断する刃先を構成する。
図4に例示するせん断刃23では、第1の刃部23Aを1箇所だけ設けた場合であるが、第1の刃部23Aが複数箇所に形成されていてもよい。第1の刃部23Aの左右両側に第2の刃部23Bが形成されていることが好ましい。
本実施形態では、第2の刃部23Bの刃先23Baと第2刃先23Abは、下刃1とのクリアランスは同じ値ΔC1となっている。
このせん断刃23を用いたせん断工程では、最初に、第2の刃部23Bの刃先23Baと第1の刃部23Aの第1刃先23Aaによる切断が実行されて、最終的な切断形状の輪郭に対し、第2刃先23Abに対する第1刃先23Aaのオフセット分(段深さD分)の張出部が一時的に形成され、続いた第1の刃部23Aの第2刃先23Abによる切断によって、上記の張出部が切断されて、目的の輪郭形状に金属板10が切断される。
このように、第1の刃部23Aでの切断領域においては、2度の切断が行われる。
本発明に基づく、せん断刃23の別の例(第2のせん断刃23)を、図6を参照して説明する。
図6は、第2のせん断刃23を刃先側からみた正面図である。
第2のせん断刃23は、図6のように、切断方向において、第1の刃部23Aの刃先を、金属板10に対し、第2の刃部23Bの刃先23Baよりも遠位に配置した例である。
ただし、切断方向からみた、第1の刃部23Aの2つの刃先23Aa、23Abの関係は、図4に例示したせん断刃23(第1のせん断刃23とも記載する)と同じである。
これに対し、第2のせん断刃23を使用した切断では、最初に第2の刃部23Bでの切断が実行される。次に、第1の刃部23Aの第1刃先23Aaで金属板10の切断が実行されて、上述の張出部が一時的に形成され、その後に、第2刃先23Abでその張出部が切断されて、目的の切断形状となる。
第3の刃部23Cは、第2の刃部23Bと同様に1つの刃先を有する刃部であって、第2の刃部とみなすこともできる。第3の刃部23Cは、刃先の延在方向に沿って、第2の刃部23Bから第1の刃部23Aへの移行用の刃部である。すなわち、第3の刃部23Cは、第2の刃部23Bから第1の刃部23Aに向けて刃先が、切断方向に対し傾斜した状態となっている。
上述の通り、第1の刃部23Aの段状を形成する段深さDと段高さHは、図5のように、通常の1つの刃先からなる上刃3に対して、切り欠かれた領域の幅と高さとして定義する。この領域は、図中では矩形(立方体形状)だが、実際には多角形や曲線で囲まれた領域であってもよい。段深さDと段高さHは、切欠き形状に関係無く、2つの刃先23Aaと23Abとの位置関係だけで決定される。
金属板10の板厚に対する段深さDの割合は、0.25以上3.00未満が好ましい。また、金属板10の板厚に対する段高さHの割合は、0.25以上3.00未満が好ましい。
また、第1の刃部の幅(切断する金属板端部の長さ)については、幅の範囲が小さいほど曲げモーメントを低減できる。せん断時に発生する曲げモーメントは、ほとんどが第1の刃部によるものであるから、第1の刃部の幅を総せん断幅の半分以下にとれば、せん断時の曲げモーメントも半減し、顕著な効果を期待できる。
第1の刃部23Aを形成する位置は、第1の刃部23Aで切断された金属板10におけるせん断面位置が、プレス成形で引張り残留応力が所定以上発生すると推定される端部となるような位置に設定する。例えば、プレス成形で引張り残留応力が所定以上発生する端部をCAE解析によって推定し、所定以上の引張り残留応力が発生すると推定される部分を切断で形成する位置に対応する刃部に、第1の刃部23Aを形成することが好ましい。
プレス成形工程22では、上記トリム工程21後の金属板10を、プレス金型を使用してプレス成形を行い、目的のプレス部品とする。プレス成形は、例えば、フォーム成形やドロー成形である。
ここで、上記説明では、金属板10の全周の一部に、本発明に基づくせん断工程21Aでの加工を施す場合を例示した。しかし、本発明は、それに限定されない。例えば、金属板10の全周に、本発明に基づくせん断加工を施しても良い。
また、プレス部品の形状が複雑化するほど、多段階のプレス成形でプレス部品が製造される。この場合、本発明に基づくせん断加工を、必ずしも最初のプレス成形の前に実施する必要はない。例えば、本発明に基づくせん断加工を、最後のプレス方法を除く任意のプレス成形後に実施しても良い。
また、本発明に基づくせん断加工の前に、他のせん断加工が施されていても良い。
本実施形態では、上刃3として上記のせん断刃23を採用することで、上刃3で同時期に切断するせん断箇所において、一部を第1の刃部23Aで切断し、他の部分を第2の刃部23Bで切断する。
本実施形態のせん断刃23を用いたせん断工程では、第2の刃部23Bの刃先23Baと第1の刃部23Aの第2刃先23Abによる切断によって最終的な切断形状の輪郭に切断する。その際に、先ず、第2の刃部23Bの刃先23Baと第1の刃部23Aの第1刃先23Aaによる切断によって、上記の最終的な切断形状の輪郭に対し、第1刃先23Aaのオフセット分の小さな張出部が一時的に形成された切断形状に切断された後に、上記の張出部が、第1の刃部23Aの第2刃先23Abによって切断されて、目的の輪郭形状となる。
2よりも小さいため、第1刃先23Aaによる切断に比べ、第2の刃部23B及び第2刃先23Abによる切断によるせん断部での曲げモーメントは小さい。
そして、本実施形態では、上刃3の刃部全体を段付きの第1の刃部23Aとすることなく、一部の刃部だけに第1の刃部23Aを採用することで、上刃3の刃部全体を第1の刃部23Aとする場合に比べ、上刃3での切断の際にせん断部で発生する曲げモーメントを小さくすることが可能となる。また、第1の刃部23Aで切断する切断部分は、2度抜きの効果と同様に、耐伸びフランジ割れ特性並びに耐遅れ破壊特性の向上が得られる。
すなわち、図4のような形状のせん断刃23を上刃3として用いてせん断加工を行うことで、段付き刃(第1の刃部23A)による過大なモーメントが発生する領域を、耐伸びフランジ割れ特性並びに遅れ破壊特性を向上したい領域のみに制限することができる。結果として、型全体に生じるモーメントによる荷重は著しく低減される。
なお、第2の刃部23Bの刃先23Baと第1刃先23Aaとの切断方向(上下方向)のオフセット量は、金属板10の板厚以上が好ましいが、金属板10の板厚未満であっても構わない。上記のオフセット量は、例えば、金属板10の厚さの三分の一以上に設定する。
本実施形態は、次のような効果を奏する。
(1)本実施形態は、金属板10を切断するせん断金型20に用いられるせん断刃23であって、刃部として、2つの刃先23Aa、23Abが切断方向へ段状に配置された第1の刃部23Aと、刃先が1つの第2の刃部23Bと、を有し、上記第1の刃部23Aの2つの刃先23Aa、23Abのうち切断方向において上記金属板10に対し遠位に配置される刃先と、上記第2の刃部23Bの刃先23Baとが、目的とする切断形状に金属板10を切断する刃先を構成し、上記第1の刃部23Aの2つの刃先23Aa、23Abのうち切断方向において上記金属板10に対し近位に配置される刃先は、上記第2の刃部23Bの刃先23Baと同時若しくは当該第2の刃部23Bの刃先23Baよりも後に金属板10に接触するように構成されている。
この構成によれば、第1の刃部23Aで切断されたせん断面において、伸びフランジ割れと遅れ破壊の発生を抑制可能になると共に、せん断刃23による切断の際に発生する曲げモーメントを小さく抑えることができて、切断精度の低下も抑えることが可能となる。
例えば、本実施形態では、上記金属板10の切断の際に、上記第1の刃部23Aが金属板10の接触する前に、上記第2の刃部23Bが金属板10に接触するように、第1の刃部23Aと上記第2の刃部23Bとを設定する。
この構成によれば、プレス成形で加工される金属板10を切断するせん断工程において、量産適用の際に問題となる過大な曲げモーメントの発生を抑制し、且つ、金属板10の上刃3側への引き込まれを抑制可能となる。
以下の実施例では、2種類の鋼種A、Bを用いた、板厚1.4mmの供試材を対象に説明する。
本例における、金属板10、下刃1、板押さえ2、上刃の位置関係を図8に示す。
この第1の例では、上刃の刃先として、左右方向全体に同一の刃先形状を採用して実行した。そして、上刃として、上刃の刃先全体が1つの刃先に場合(第2の刃部23Bのみからなる場合)、及び、図9のように段状の2つの刃先23Aa、23Abからなる場合(第1の刃部23Aのみからなる場合)を用い、更に、段状の2つの刃先23Aa、23Abからなる場合については、その段状の図5において定義される段高さH、段深さDを変化させて、せん断加工を実行した。
また、下刃1と第1の刃部23Aの第1刃先23AaとのクリアランスΔCは、((12.5 +段深さ/1.4mm)×100)%とした。下刃1と第1の刃部23Aの第2刃先23Ab及び第2の刃部23BとのクリアランスΔCは、12.5%とした。
また、遅れ破壊の評価については、切断後のサンプルについて、引張強度の曲げ応力を負荷してpHが3の塩酸に96時間浸漬し、サンプルの割れの有無を確認することで実行した。割れが発生した場合は、遅れ破壊「有り」、そうでない場合は遅れ破壊「無し」とした。
更に、切断の際における、金属板10の上刃3側への引き込まれ量も測定した。
表1に、遅れ破壊と型損傷の有無、金属板10の上刃3側への引き込まれ量を示した。
その結果を表1に示す。
第2の例では、上記の第1の例において、曲げモーメントの発生が最も顕著と推測される、板厚に対する段高さHの割合が1.5、段深さDの割合が1.5であるような段部を有する上刃を用いて、切断加工を行った。
この際、比較のため図9のような本発明を用いない場合の、刃部全部を第1の刃部23Aとした上刃を用いた場合を実施例1とした。また、図10のような本発明に基づく上刃を用いた場合を実施例2とした。更に、図11のような本発明に基づく上刃を用いた場合を実施例3とした。
その遅れ破壊と型損傷の有無、金属板10の上刃側への引き込まれ量を、表2に示した。
このとき、実施例1では、鋼種A、Bとも型損傷が生じたのに対し、実施例2、3では、鋼種A、Bとも曲げモーメントの低減により型損傷は生じなかった。
また、実施例1に比べ、実施例2、3では、金属板10の上刃3側への引き込まれ量が抑制され、特に実施例3ではその効果が顕著であった。
2 板押さえ
3 上刃
10 金属板
20 せん断金型
21 トリム工程
21A せん断工程
22 プレス成形工程
23 せん断刃
23A 第1の刃部
23Aa 第1刃先
23Ab 第2刃先
23B 第2の刃部
23Ba 刃先
23C 第3の刃部
Claims (6)
- 金属板を切断するせん断金型に用いられるせん断刃であって、
刃部として、2つの刃先が切断方向へ段状に配置された第1の刃部と、刃先が1つの第2の刃部と、を有し、
上記第1の刃部の2つの刃先のうち切断方向において上記金属板に対し遠位に配置される刃先と、上記第2の刃部の刃先とが、目的とする切断形状に金属板を切断する刃先を構成し、
上記第1の刃部の2つの刃先のうち切断方向において上記金属板に対し近位に配置される刃先は、上記第2の刃部の刃先と同時若しくは当該第2の刃部の刃先よりも後に金属板に接触するように構成され、
上記第1の刃部及び上記第2の刃部を有する上記刃部は、板形状となっており、1つの刃先からなる刃部の一部に板厚方向に切り欠かれた切欠き部を有し、その切欠き部位置が、2つの刃先が切断方向へ段状に配置された上記第1の刃部を構成する、
ことを特徴とするせん断刃。 - 切断方向において、上記金属板に対し、上記第1の刃部の2つの刃先がともに、上記第2の刃部の刃先よりも遠位に配置されていることを特徴とする請求項1に記載したせん断刃。
- 上刃と下刃とで金属板を板厚方向に切断するせん断金型であって、
上記上刃は、請求項1又は請求項2に記載のせん断刃であり、
上記第1の刃部の2つ刃先のうち、上記近位に配置される刃先は、上記遠位に配置される刃先に比べ、上記下刃とのクリアランスが大きく設定され、
上記第2の刃部の刃先は、上記第1の刃部の2つ刃先のうちの上記近位に配置される刃先に比べ、上記下刃とのクリアランスが小さく設定されている、
ことを特徴とするせん断金型。 - 金属板をせん断加工する方法であって、
2つの刃先が切断方向へ段状に配置された第1の刃部と刃先が1つの第2の刃部とが、切断形状の輪郭に沿って並んで配置されたせん断刃を用いて、上記金属板を切断し、
上記金属板の切断の際に、上記第1の刃部が金属板の接触する前に、上記第2の刃部が金属板に接触するように、第1の刃部と上記第2の刃部とを設定する、
ことを特徴とする金属板のせん断加工方法。 - 上記金属板は、引張強度が980MPa以上の高強度鋼板であることを特徴とする請求項4に記載した金属板のせん断加工方法。
- 金属板を、1又は2以上のプレス成形の工程を経てプレス部品とするプレス部品の製造方法において、
上記1又は2以上のプレス成形のうちの最終のプレス成形の工程前に、請求項4又は請求項5に記載のせん断加工方法で金属板を切断するせん断工程を行う、
ことを特徴とするプレス部品の製造方法。
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