JP7328605B1 - マルテンサイト系ステンレス丸鋼 - Google Patents

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Abstract

高強度を有し、優れた耐SSC性及び175℃の環境での優れた耐SCC性を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼を提供する。本開示のマルテンサイト系ステンレス丸鋼は、質量%で、C:0.030%以下、Cr:10.00~14.00%、Ni:5.00~7.50%、Mo:1.50~4.00%、Cu:1.00~3.50%、W:0.01~2.00%、Co:0.010~0.500%を含有し、降伏強度が862MPa以上であり、軸方向に垂直な断面の中心位置において、質量%での固溶Mo濃度を[Mo]Cと定義し、質量%での固溶W濃度を[W]Cと定義し、定電流電解で得られた残渣中の質量%でのMo濃度を[Mo]Rと定義し、前記残渣中の質量%でのW濃度を[W]Rと定義したとき、式(1)及び式(2)を満たす。F1=[Mo]C+0.5[W]C≧2.45 (1)F2=F1/([Mo]R+[W]R)≧13.0 (2)

Description

本開示は、マルテンサイト系ステンレス丸鋼に関し、さらに詳しくは、油井孔(ダウンホール)に利用されるダウンホールツールの素材に適したマルテンサイト系ステンレス丸鋼に関する。ここで、丸鋼(Round Steel Bar)とは、軸方向に垂直な断面が円形状である棒鋼を意味する。なお、本明細書では、油井及びガス井を総称して、単に「油井」ともいう。
油井の掘削には、ケーシング及びチュービング等の油井管が利用される。油井の掘削にはさらに、ダウンホールツールが利用される。
油井の掘削では、ケーシングにより油井孔を形成する。形成された油井孔内にダウンホールツールが挿入される。ダウンホールツールは、油井探索及び油井掘削用途のツールである。ダウンホールツールは例えば、プラグ、パッカー、ドリルピット等である。プラグ又はパッカーは、フラクチャリングを実施するために油井孔内の所定区域を塞ぐのに用いられる。ドリルピットは、油井孔の掘削に用いられる。
油井管の管軸方向に垂直な断面は中空の円環状である。一方、ダウンホールツールは油井管と異なり、軸方向に垂直な断面の中央部分が中実になる場合がある。そのため、ダウンホールツールの製造では、素材として中実の丸鋼が用いられる。素材である丸鋼の軸方向に垂直な断面の中央部分がそのままダウンホールツールの一部になる場合がある。
上述のとおり、ダウンホールツールは、ケーシング及びチュービング等に用いられる油井管と同様の環境で使用される。油井の生産流体は、硫化水素ガスや炭酸ガス等の腐食性ガスを含む。したがって、ダウンホールツールの素材となる丸鋼では、油井管と同様に、優れた耐硫化物応力割れ性、及び、優れた耐応力腐食割れ性が求められる。以下、耐硫化物応力割れ性を「耐SSC性」といい、耐応力腐食割れ性を「耐SCC性」という。ここで、SSCは、Sulfide Stress Crackingの略称である。SCCは、Stress Corrosion Crackingの略称である。
上述のとおり、ダウンホールツールの素材となる丸鋼では特に、油井管と異なり、軸方向に垂直な断面の中心位置の中実部分においても、優れた耐SSC性及び優れた耐SCC性が求められる。
耐SSC性及び耐SCC性に優れたダウンホールツールの素材となる丸鋼が、国際公開第2017/200083号(特許文献1)に提案されている。
特許文献1に開示された丸鋼は、質量%で、C:0.020%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Cu:0.10~2.50%、Cr:10~14%、Ni:1.5~7.0%、Mo:0.2~3.0%、Ti:0.05~0.3%、V:0.01~0.10%、Nb:0.1%以下、Al:0.001~0.1%、N:0.05%以下、B:0~0.005%、Ca:0~0.008%、及び、Co:0~0.5%、を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する。さらに、化学組成でのMo含有量を[Mo量](質量%)と定義し、横断面のR/2位置での析出物中のMo含有量を[R/2位置析出物中総Mo量](質量%)と定義した場合、[Mo量]-4×[R/2位置析出物中総Mo量]が1.30以上である。さらに、横断面の中心位置での析出物中のMo含有量を[中心位置析出物中総Mo量]と定義したとき、[中心位置析出物中総Mo量]-[R/2位置析出物中総Mo量]が0.03以下である。
特許文献1に開示された丸鋼では、母材中の固溶Mo量を確保しつつ、横断面中心位置とR/2位置でのミクロ組織の均一性を確保する。これにより、優れた耐SSC性及び優れた耐SCC性が得られる。
国際公開第2017/200083号
ところで、最近の油井の深井戸化により、油井管と同様に、ダウンホールツールの高強度化が要求されている。最近では、110ksi級(降伏強度が110~125ksi未満、つまり、758~862MPa未満)の丸鋼だけでなく、125ksi(862MPa)以上の降伏強度を有する丸鋼が求められている。また、油井の深井戸化により、ダウンホールツールの使用環境はさらに高圧及び高温環境となる。したがって、ダウンホールツールの素材として利用される丸鋼では、125ksi以上の高強度及び優れた耐SSC性が得られ、さらに、高温環境での優れた耐SCC性が得られることが求められる場合がある。ここで、高温環境とは、150℃を超える環境であり、例えば、175℃の環境が想定される。特に、ダウンホールツールの素材として利用される丸鋼では、上述のとおり、軸方向に垂直な断面の中心位置の部分も、ダウンホールツール部分として利用される場合がある。したがって、このような丸鋼では、軸方向に垂直な断面の中心位置においても上述の優れた耐SSC性及び175℃の環境での優れた耐SCC性が求められる。
本開示の目的は、高強度を有し、優れた耐SSC性及び175℃の環境での優れた耐SCC性を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼を提供することである。
本開示によるマルテンサイト系ステンレス丸鋼は、
化学組成が、質量%で、
C:0.030%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~14.00%、
Ni:5.00~7.50%、
Mo:1.50~4.00%、
Cu:1.00~3.50%、
W:0.01~2.00%、
Co:0.010~0.500%、
Ti:0.050~0.300%、
V:0.01~0.10%、
Ca:0.0005~0.0100%、
Al:0.001~0.100%、
N:0.0500%以下、
O:0.050%以下、
Nb:0~0.05%、
Sn:0~0.010%、
As:0~0.010%、
Sb:0~0.010%、
B:0~0.0050%、
Mg:0~0.0100%、
希土類元素:0~0.010%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなり、
降伏強度が862MPa以上であり、
前記マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面の中心位置において、
質量%での固溶Mo濃度を[Mo]と定義し、
質量%での固溶W濃度を[W]と定義し、
定電流電解で得られた残渣中の質量%でのMo濃度を[Mo]と定義し、
前記残渣中の質量%でのW濃度を[W]と定義したとき、
式(1)及び式(2)を満たす。
F1=[Mo]+0.5[W]≧2.45 (1)
F2=F1/([Mo]+[W])≧13.0 (2)
本開示によるマルテンサイト系ステンレス丸鋼は、125ksi(862MPa)以上の高い降伏強度を有し、かつ、125ksi以上の降伏強度を有していても優れた耐SSC性を有し、さらに、175℃の環境での優れた耐SCC性を有する。
図1は、マルテンサイト系ステンレス丸鋼中のMo含有量及びW含有量に応じたLaves相のTTT線図(等温変態線図)である。 図2は、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であるマルテンサイト系ステンレス丸鋼でのF1(=[Mo]+0.5[W])及びF2(=F1/([Mo]+[W])と、耐SSC性との関係を示す図である。
本発明者らは、125ksi(862MPa)以上の降伏強度を有し、125ksi以上の降伏強度を有していても優れた耐SSC性を有し、さらに、175℃の環境での優れた耐SCC性を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼について、化学組成の観点から検討した。
初めに、Crを10.00~14.00%含有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼において、125ksi(862MPa)以上の降伏強度を得るために、Coを含有することが有効であると本発明者らは考えた。そこで、検討の結果、本発明者らは、質量%で、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.030%以下、S:0.0100%以下、Cr:10.00~14.00%、Ni:5.00~7.50%、Mo:1.50~4.00%、Cu:1.00~3.50%、Co:0.010~0.500%、Ti:0.050~0.300%、V:0.01~0.10%、Ca:0.0005~0.0100%、Al:0.001~0.100%、N:0.0500%以下、O:0.050%以下、Nb:0~0.05%、Sn:0~0.010%、As:0~0.010%、Sb:0~0.010%、B:0~0.0050%、Mg:0~0.0100%、希土類元素:0~0.010%、及び、残部:Fe及び不純物、からなる化学組成であれば、125ksi(862MPa)以上の降伏強度を有しつつ、優れた耐SSC性及び175℃の環境での優れた耐SCC性が得られると考えた。
しかしながら、上述の化学組成を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼では、降伏強度が125ksi(862MPa)以上と高いため、耐SSC性が低くなる場合があった。さらに、175℃の環境での耐SCC性評価試験において、SCCが確認される場合があった。そこで、本発明者らは、125ksi(862MPa)以上の降伏強度を有しつつ、優れた耐SSC性及び175℃の環境での優れた耐SCC性が得られる手段について、さらに検討を行った。
検討の結果、本発明者らは、上記化学組成にさらに、Feの一部に代えてWを含有すれば、125ksi(862MPa)以上の降伏強度を有しつつ、優れた耐SSC性及び175℃の環境での優れた耐SCC性が得られると考えた。
さらなる検討の結果、本発明者らは、質量%で、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.030%以下、S:0.0100%以下、Cr:10.00~14.00%、Ni:5.00~7.50%、Mo:1.50~4.00%、Cu:1.00~3.50%、W:0.01~2.00%、Co:0.010~0.500%、Ti:0.050~0.300%、V:0.01~0.10%、Ca:0.0005~0.0100%、Al:0.001~0.100%、N:0.0500%以下、O:0.050%以下、Nb:0~0.05%、Sn:0~0.010%、As:0~0.010%、Sb:0~0.010%、B:0~0.0050%、Mg:0~0.0100%、希土類元素:0~0.010%、及び、残部:Fe及び不純物、からなる化学組成を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼であれば、125ksi(862MPa)以上の降伏強度と、優れた耐SSC性と、175℃の環境での優れた耐SCC性とが得られると考えた。
上記化学組成を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼であれば、125ksi(862MPa)以上の降伏強度が得られ、かつ、軸方向に垂直な断面の中心位置において、175℃の環境での耐SCC性評価試験によるSCCが確認されず、175℃の環境での優れた耐SCC性が得られた。しかしながら、依然として、軸方向に垂直な断面の中心位置において、耐SSC性が低い場合があった。
そこで、本発明者らはさらに、上述の化学組成を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼での耐SSC性の向上手段について検討を行った。
ここで、本発明者らは、軸方向に垂直な断面の中心位置での固溶Mo濃度及び固溶W濃度に注目した。本明細書において、丸鋼の軸方向に垂直な断面の中心位置を、「横断面中心位置」ともいう。上記化学組成において、母材に固溶している固溶Mo及び固溶Wが、耐SSC性の向上に強く寄与する。本発明者らは、丸鋼の横断面中心位置において、固溶Mo濃度及び固溶W濃度の総量が耐SSC性に寄与すると考えた。そこで、本発明者らはさらなる調査を行った。その結果、固溶W濃度の耐SSC性への寄与の度合いは、固溶Mo濃度と比較して0.5倍程度であることが判明した。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、丸鋼の横断面中心位置での固溶Mo濃度及び固溶W濃度と、耐SSC性との関係についてさらに調査検討を行った。その結果、次の事項が判明した。化学組成中の各元素含有量が上述の範囲であるマルテンサイト系ステンレス丸鋼の横断面中心位置において、質量%での固溶Mo濃度を[Mo]と定義し、質量%での固溶W濃度を[W]と定義する。この場合、次の式(1)を満たすことにより、耐SSC性が高まる。
F1=[Mo]+0.5[W]≧2.45 (1)
しかしながら、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であり、かつ、丸鋼の横断面中心位置における固溶Mo濃度及び固溶W濃度が式(1)を満たしても、125ksi(862MPa)以上の降伏強度及び175℃の環境での優れた耐SCC性は得られるものの、依然として、丸鋼の横断面中心位置での優れた耐SSC性が得られない場合があった。そこで、本発明者らはこの原因についてさらに調査を行った。その結果、本発明者らは次の新たな知見を得た。
固溶Wは耐SSC性を高める。しかしながら、上述のMo及びWを含有する化学組成の場合、Wの含有により、Laves相の生成も促進されてしまう。以下、この点について説明する。
図1は、マルテンサイト系ステンレス丸鋼中のMo含有量及びW含有量に応じたLaves相のTTT線図(等温変態線図)である。図1中の破線は、Wを含有せず、Mo含有量が2.7%であり、他の元素含有量は上述の範囲内であるマルテンサイト系ステンレス丸鋼(図1中で「2.7Mo」と表記)でのLaves相の析出開始を表すTTT曲線である。図1中の実線は、W及びFe以外の元素含有量が破線の丸鋼と同じであり、Feの一部に代えてWを0.2%含有したマルテンサイト系ステンレス丸鋼(図1中で「2.7Mo-0.2W」と表記)でのLaves相の析出開始を表すTTT曲線である。
図1を参照して、Wを含有する場合(2.7Mo-0.2W)、Wを含有しない場合(2.7Mo)と比較して、Laves相の析出開始を表すTTT曲線が顕著に短時間側へシフトする。つまり、Wを含有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼では、Wを含有しないマルテンサイト系ステンレス丸鋼と比較して、Laves相が短時間で生成しやすくなる。
したがって、Wを含有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼の場合、仮に、横断面中心位置での固溶Mo濃度及び固溶W濃度が十分に確保されていても、横断面中心位置では、Laves相が多数生成する場合もあり得る。この場合、固溶Mo及び固溶Wによる耐SSC性向上作用が、Laves相の生成による耐SSC性低下作用に相殺されてしまい、耐SSC性がむしろ低下してしまう。
以上の知見に基づいて、Wを含有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼の場合、横断面中心位置での固溶Mo濃度及び固溶W濃度だけでなく、横断面中心位置でのLaves相の生成量も、耐SSC性に強く影響すると本発明者らは考えた。そして、固溶Mo濃度及び固溶W濃度に起因する耐SSC性向上作用が、Laves相生成量に起因する耐SSC性低下作用よりも強ければ、優れた耐SSC性が得られると本発明者らは考えた。
ここで、Laves相は、Cr又はFeと、Mo及びWとを含有する金属間化合物である。そして、丸鋼の横断面中心位置を含む試験片に対する定電流電解により得られた残渣中のMo濃度及び残渣中のW濃度が、Laves相の生成量に対応する。
以上の知見に基づいて、W含有マルテンサイト系ステンレス丸鋼の横断面中心位置での耐SSC性の向上手段について、本発明者らはさらに検討を行った。その結果、軸方向に垂直な断面の中心位置において、定電流電解で得られた残渣中の質量%でのMo濃度を[Mo]と定義し、残渣中の質量%でのW濃度を[W]と定義したとき、上述の式(1)だけでなく、次の式(2)を満たすことにより、耐SSC性が高まることを知見した。
F2=F1/([Mo]+[W])≧13.0 (2)
図2は、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であるマルテンサイト系ステンレス丸鋼でのF1及びF2と、耐SSC性との関係を示す図である。図2中の「○」印は後述の耐SSC性評価試験で耐SSC性に優れると評価されたことを示す。図2中の「×」印は、後述の耐SSC性評価試験で耐SSC性が低いと評価されたことを示す。
図2を参照して、Wを含む化学組成中の各元素含有量が上述の範囲であり、F1及びF2が式(1)及び式(2)を満たすことにより、125ksi(862MPa)以上の降伏強度を有し、優れた耐SSC性及び175℃の環境での優れた耐SCC性を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼が得られる。
本実施形態によるマルテンサイト系ステンレス丸鋼は以上の技術思想に基づいて完成したものであり、次の構成を有する。
[1]
マルテンサイト系ステンレス丸鋼であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.030%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~14.00%、
Ni:5.00~7.50%、
Mo:1.50~4.00%、
Cu:1.00~3.50%、
W:0.01~2.00%、
Co:0.010~0.500%、
Ti:0.050~0.300%、
V:0.01~0.10%、
Ca:0.0005~0.0100%、
Al:0.001~0.100%、
N:0.0500%以下、
O:0.050%以下、
Nb:0~0.05%、
Sn:0~0.010%、
As:0~0.010%、
Sb:0~0.010%、
B:0~0.0050%、
Mg:0~0.0100%、
希土類元素:0~0.010%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなり、
降伏強度が862MPa以上であり、
前記マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面の中心位置において、
質量%での固溶Mo濃度を[Mo]と定義し、
質量%での固溶W濃度を[W]と定義し、
定電流電解で得られた残渣中の質量%でのMo濃度を[Mo]と定義し、
前記残渣中の質量%でのW濃度を[W]と定義したとき、
式(1)及び式(2)を満たす、
マルテンサイト系ステンレス丸鋼。
F1=[Mo]+0.5[W]≧2.45 (1)
F2=F1/([Mo]+[W])≧13.0 (2)
[2]
[1]に記載のマルテンサイト系ステンレス丸鋼であって、
前記化学組成は、
Nb:0.01~0.05%、
Sn:0.001~0.010%、
As:0.001~0.010%、
Sb:0.001~0.010%、
B:0.0001~0.0050%、
Mg:0.0001~0.0100%、
希土類元素:0.001~0.010%、からなる群から選択される1元素以上を含有する、
マルテンサイト系ステンレス丸鋼。
以下、本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の特徴]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼は、次の特徴1~4を有する。
(特徴1)
化学組成が、質量%で、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.030%以下、S:0.0100%以下、Cr:10.00~14.00%、Ni:5.00~7.50%、Mo:1.50~4.00%、Cu:1.00~3.50%、W:0.01~2.00%、Co:0.010~0.500%、Ti:0.050~0.300%、V:0.01~0.10%、Ca:0.0005~0.0100%、Al:0.001~0.100%、N:0.0500%以下、O:0.050%以下、Nb:0~0.05%、Sn:0~0.010%、As:0~0.010%、Sb:0~0.010%、B:0~0.0050%、Mg:0~0.0100%、希土類元素:0~0.010%、及び、残部:Fe及び不純物、からなる。
(特徴2)
降伏強度が862MPa(125ksi)以上である。
(特徴3)
丸鋼の軸方向に垂直な断面の中心位置において、F1(=[Mo]+0.5[W])が2.45以上である。
(特徴4)
丸鋼の軸方向に垂直な断面の中心位置において、F2(=F1/([Mo]+[W]))が13.0以上である。
以下、特徴1~特徴4について説明する。
[(特徴1)化学組成について]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.030%以下
炭素(C)は不可避に含有される。つまり、C含有量は0%超である。
Cは鋼材の焼入れ性を高めて、鋼材の強度を高める。しかしながら、C含有量が0.030%を超えれば、CはCrと結合してCr炭化物を生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSCが低下しやすくなる。
したがって、C含有量は0.030%以下である。
C含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。
C含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%である。
Si:1.00%以下
シリコン(Si)は不可避に含有される。つまり、Si含有量は0%超である。
Siは鋼を脱酸する。しかしながら、Si含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Si含有量は1.00%以下である。
Si含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Si含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.30%である。
Mn:1.00%以下
マンガン(Mn)は不可避に含有される。つまり、Mn含有量は0%超である。
Mnは鋼材の焼入れ性を高めて、鋼材の強度を高める。しかしながら、Mn含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Mnは粗大な介在物を形成して、鋼材の靭性を低下させる。
したがって、Mn含有量は1.00%以下である。
Mn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.30%である。
Mn含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.45%である。
P:0.030%以下
燐(P)は不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。
P含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Pが結晶粒界に偏析して、鋼材の靭性を顕著に低下させる。
したがって、P含有量は0.030%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。
P含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。
S:0.0100%以下
硫黄(S)は不可避に含有される不純物である。つまり、S含有量は0%超である。
S含有量が0.0100%を超えれば、Sが結晶粒界に過剰に偏析したり、MnSが過剰に多く生成したりする。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靭性及び熱間加工性が顕著に低下する。
したがって、S含有量は0.0100%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0004%である。
S含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
Cr:10.00~14.00%
クロム(Cr)はサワー環境において、鋼材の表面に不働態皮膜を生成して鋼材の耐SSC性を高める。Cr含有量が10.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Cr含有量が14.00%を超えれば、Cr炭化物、Crを含有する金属間化合物、及び、Cr酸化物が過剰に生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。
したがって、Cr含有量は10.00~14.00%である。
Cr含有量の好ましい下限は10.50%であり、さらに好ましくは11.00%であり、さらに好ましくは11.40%であり、さらに好ましくは11.70%である。
Cr含有量の好ましい上限は13.70%であり、さらに好ましくは13.60%であり、さらに好ましくは13.50%であり、さらに好ましくは13.40%であり、さらに好ましくは13.30%である。
Ni:5.00~7.50%
ニッケル(Ni)はサワー環境において、不働態皮膜上に硫化物を生成する。Ni硫化物は、塩化物イオン(Cl)や硫化水素イオン(HS)が不働態皮膜に接触するのを抑制する。そのため、不働態皮膜が塩化物イオンや硫化水素イオンにより破壊されにくくなる。その結果、Niはサワー環境での鋼材の耐SSC性を高める。Niはさらに、オーステナイト形成元素である。そのため、Niは、焼入れ後の鋼材のミクロ組織をマルテンサイト化する。Ni含有量が5.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ni含有量が7.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中の水素拡散係数が過剰に低減する。この場合、特に、125ksi級以上(862MPa以上)の鋼材において、耐SSC性がかえって低下する。
したがって、Ni含有量は5.00~7.50%である。
Ni含有量の好ましい下限は5.10%であり、さらに好ましくは5.20%であり、さらに好ましくは5.30%である。
Ni含有量の好ましい上限は7.20%であり、さらに好ましくは7.00%であり、さらに好ましくは6.80%であり、さらに好ましくは6.60%であり、さらに好ましくは6.50%である。
Mo:1.50~4.00%
モリブデン(Mo)はサワー環境において、不働態皮膜上に硫化物を生成する。Mo硫化物は、塩化物イオン(Cl)や硫化水素イオン(HS)が不働態皮膜に接触するのを抑制する。そのため、不働態皮膜が塩化物イオンや硫化水素イオンにより破壊されにくくなる。その結果、Moはサワー環境での鋼材の耐SSC性を高める。Mo含有量が1.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、この効果が十分に得られない。
一方、Mo含有量が4.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、オーステナイトが安定化しにくくなる。その結果、マルテンサイトを主体とするミクロ組織が安定的に得られにくくなる。
したがって、Mo含有量は1.50~4.00%である。
Mo含有量の好ましい下限は1.60%であり、さらに好ましくは1.70%であり、さらに好ましくは1.80%である。
Mo含有量の好ましい上限は3.80%であり、さらに好ましくは3.60%であり、さらに好ましくは3.40%であり、さらに好ましくは3.20%であり、さらに好ましくは3.10%である。
Cu:1.00~3.50%
銅(Cu)は175℃の環境での鋼材の耐SCC性を高める。Cu含有量が1.00%未満であれば、上記効果が十分に得られない。
一方、Cu含有量が3.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Cu含有量は1.00~3.50%である。
Cu含有量の好ましい下限は1.20%であり、さらに好ましくは1.40%であり、さらに好ましくは1.60%であり、さらに好ましくは1.80%である。
Cu含有量の好ましい上限は3.30%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.70%であり、さらに好ましくは2.40%である。
W:0.01~2.00%
タングステン(W)は、サワー環境において不働態皮膜を安定化する。そのため、不働態皮膜が塩化物イオンや硫化水素イオンにより破壊されにくくなる。その結果、鋼材の耐SSC性が高まる。W含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、W含有量が2.00%を超えれば、WはCと結合して、粗大なW炭化物が生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性が低下する。
したがって、W含有量は0.01~2.00%である。
W含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.20%である。
W含有量の好ましい上限は1.90%であり、さらに好ましくは1.80%であり、さらに好ましくは1.70%であり、さらに好ましくは1.60%である。
Co:0.010~0.500%
コバルト(Co)は、サワー環境において、不働態皮膜上に硫化物を生成する。Co硫化物は、塩化物イオン(Cl)及び/又は硫化水素イオン(HS)が不働態皮膜に接触するのを抑制する。そのため、不働態皮膜が塩化物イオンや硫化水素イオンにより破壊されにくくなる。その結果、Coは、鋼材の耐SSC性を高める。Coはさらに、残留オーステナイトの生成を抑制し、鋼材の強度のばらつきを抑制する。Co含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Co含有量が0.500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性が低下する。
したがって、Co含有量は0.010~0.500%である。
Co含有量の好ましい下限は0.030%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.100%であり、さらに好ましくは0.110%である。
Co含有量の好ましい上限は0.450%であり、さらに好ましくは0.400%であり、さらに好ましくは0.350%であり、さらに好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.250%である。
Ti:0.050~0.300%
チタン(Ti)は、C又はNと結合して、炭化物又は窒化物であるTi析出物を形成する。Ti析出物は、ピンニング効果により結晶粒の粗大化を抑制する。その結果、鋼材の強度が高まる。さらに、Ti析出物の生成により、炭化物、窒化物、又は、炭窒化物であるV析出物の過剰な生成を抑制する。そのため、強度の過剰な上昇が抑制される。その結果、鋼材の耐SSC性が高まる。Ti含有量が0.050%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ti含有量が0.300%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Ti析出物が過剰に生成する。この場合、鋼材の靭性が低下する。
したがって、Ti含有量は0.050~0.300%である。
Ti含有量の好ましい下限は0.060%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.090%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.270%であり、さらに好ましくは0.240%であり、さらに好ましくは0.210%であり、さらに好ましくは0.180%であり、さらに好ましくは0.150%であり、さらに好ましくは0.120%である。
V:0.01~0.10%
バナジウム(V)は鋼材中で炭化物、窒化物、又は炭窒化物であるV析出物を形成する。V析出物は、鋼材の強度を高める。V含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、V含有量が0.10%を超えれば、V析出物が過剰に生成する。そのため、鋼材の強度が過剰に高くなる。その結果、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。
したがって、V含有量は0.01~0.10%である。
V含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.04%である。
V含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.07%である。
Ca:0.0005~0.0100%
カルシウム(Ca)は介在物を球状化及び/又は微細化する。そのため、鋼材の熱間加工性が高まる。Ca含有量が0.0005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ca含有量が0.0100%を超えれば、粗大な酸化物が生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性が低下する。
したがって、Ca含有量は0.0005~0.0100%である。
Ca含有量の好ましい下限は0.0008%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
Ca含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%である。
Al:0.001~0.100%
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。Al含有量が0.001%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Al含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なAl酸化物が生成する。この場合、鋼材の靭性が低下する。
したがって、Al含有量は0.001~0.100%である。
Al含有量の好ましい下限は0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Al含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.040%である。
本明細書におけるAl含有量は、sol.Al(酸可溶Al)の含有量を意味する。
N:0.0500%以下
窒素(N)は不可避に含有される不純物である。つまり、N含有量は0%超である。
N含有量が0.0500%を超えれば、粗大なTiNが生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。
したがって、N含有量は0.0500%以下である。
N含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、N含有量の過剰な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、N含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
N含有量の好ましい上限は0.0400%であり、さらに好ましくは0.0300%であり、さらに好ましくは0.0250%であり、さらに好ましくは0.0200%であり、さらに好ましくは0.0150%である。
O:0.050%以下
酸素(O)は不可避に含有される不純物である。つまり、O含有量は0%超である。
O含有量が0.050%を超えれば、粗大な酸化物が生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、丸鋼の耐SSC性が低下する。
したがって、O含有量は0.050%以下である。
O含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、O含有量の過剰な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
O含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.025%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.010%である。
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、丸鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入されるものであって、意図的に含有させるものではなく、本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の効果に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素(Optional Elements)について]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、次の群から選択される1元素以上の任意元素を含有してもよい。
Nb:0~0.05%、
Sn:0~0.010%、
As:0~0.010%、
Sb:0~0.010%、
B:0~0.0050%、
Mg:0~0.0100%、及び、
希土類元素:0~0.010%
以下、これらの任意元素について説明する。
[第1群:Nb、Sn、As及びSb]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Nb、Sn、As及びSbからなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の耐SSC性を高める。
Nb:0~0.05%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超である場合、Nbは、炭化物、窒化物、又は炭窒化物であるNb析出物を形成する。Nb析出物はピンニング効果により、鋼材のサブ組織を微細化する。その結果、鋼材の耐SSC性が高まる。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Nb含有量が0.05%を超えれば、Nb析出物が過剰に生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐SSC性が低下する。
したがって、Nb含有量は0~0.05%である。Nbが含有される場合、Nb含有量は0.05%以下である。
Nb含有量の好ましい下限は0.01%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.04%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Sn:0~0.010%
スズ(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Sn含有量が0%超である場合、Snは、鋼材の耐SSC性を高める。Sn含有量が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sn含有量が0.010%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Snが粒界に偏析する。この場合、鋼材の耐SSC性が低下する。
したがって、Sn含有量は0~0.010%である。Snが含有される場合、Sn含有量は0.010%以下である。
Sn含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.009%であり、さらに好ましくは0.008%であり、さらに好ましくは0.007%である。
As:0~0.010%
ヒ素(As)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、As含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、As含有量が0%超である場合、Asは、鋼材の耐SSC性を高める。Asが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、As含有量が0.010%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Asが粒界に偏析する。この場合、鋼材の耐SSC性が低下する。
したがって、As含有量は0~0.010%である。Asが含有される場合、As含有量は0.010%以下である。
As含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
As含有量の好ましい上限は0.009%であり、さらに好ましくは0.008%である。
Sb:0~0.010%
アンチモン(Sb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Sb含有量が0%超である場合、Sbは、鋼材の耐SSC性を高める。Sbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sb含有量が0.010%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Sbが粒界に偏析する。この場合、鋼材の耐SSC性が低下する。
したがって、Sb含有量は0~0.010%である。Sbが含有される場合、Sb含有量は0.010%以下である。
Sb含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
Sb含有量の好ましい上限は0.009%であり、さらに好ましくは0.008%である。
[第2群:B、Mg及び希土類元素(REM)]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、B、Mg及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の熱間加工性を高める。
B:0~0.0050%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、B含有量が0%超である場合、Bはオーステナイト粒界に偏析して粒界を強化する。その結果、鋼材の熱間加工性が高まる。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Cr炭硼化物が生成する。この場合、鋼材の靭性が低下する。
したがって、B含有量は0~0.0050%である。Bが含有される場合、B含有量は0.0050%以下である。
B含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
B含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0008%であり、さらに好ましくは0.0007%である。
Mg:0~0.0100%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Mg含有量が0%超である場合、MgはCaと同様に、介在物を球状化及び/又は微細化する。その結果、鋼材の熱間加工性が高まる。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mg含有量が0.0100%を超えれば、粗大な酸化物が生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性が低下する。
したがって、Mg含有量は0~0.0100%である。Mgが含有される場合、Mg含有量は0.0100%以下である。
Mg含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
Mg含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
希土類元素(REM):0~0.010%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、REM含有量が0%超である場合、REMはCaと同様に、介在物を球状化及び/又は微細化する。その結果、鋼材の熱間加工性を高める。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、REM含有量が0.010%を超えれば、粗大な酸化物が生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靱性が低下する。
したがって、REM含有量は0~0.010%である。REMが含有される場合、REM含有量は0.010%以下である。
REM含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
REM含有量の好ましい上限は0.008%であり、さらに好ましくは0.006%であり、さらに好ましくは0.004%であり、さらに好ましくは0.003%である。
なお、本明細書におけるREMとは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)、及び、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)からなる群から選択される1元素以上の元素である。また、本明細書におけるREM含有量とは、これら元素の合計含有量である。
[(特徴2)降伏強度について]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の降伏強度は、125ksi以上、つまり、862MPa以上である。
[降伏強度の測定方法]
本明細書において、降伏強度は、ASTM E8/E8M(2013)に準拠した常温での引張試験により得られた、0.2%オフセット耐力(MPa)を意味する。具体的には、降伏強度は次の方法で求める。
マルテンサイト系ステンレス丸鋼のR/2位置から引張試験片を採取する。R/2位置とは、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面での半径Rの中心位置を意味する。引張試験片は例えば、平行部の直径が6.0mm、標点距離が30.0mmの丸棒引張試験片とする。丸棒引張試験片の平行部の軸方向は、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向と平行とする。
丸棒引張試験片を用いて、ASTM E8/E8M(2013)に準拠して、常温で引張試験を行い、0.2%オフセット耐力(MPa)を求める。求めた0.2%オフセット耐力を降伏強度(MPa)と定義する。
降伏強度のさらに好ましい下限は870MPaであり、さらに好ましくは880MPaであり、さらに好ましくは890MPaであり、さらに好ましくは900MPaである。
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の降伏強度の上限は特に限定されない。マルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であれば、降伏強度の上限は例えば1000MPa(145ksi)であり、好ましくは965MPa(140ksi)である。
[(特徴3及び特徴4)式(1)及び式(2)について]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面の中心位置において、次のとおり定義する。
(A)質量%での固溶Mo濃度を[Mo]と定義する。
(B)質量%での固溶W濃度を[W]と定義する。
(C)定電流電解で得られた残渣中の質量%でのMo濃度を[Mo]と定義する。
(D)前記残渣中の質量%でのW濃度を[W]と定義する。
この場合、本実施形態の丸鋼では、次の式(1)及び式(2)を満たす。
F1=[Mo]+0.5[W]≧2.45 (1)
F2=F1/([Mo]+[W])≧13.0 (2)
以下、F1及びF2について説明する。
[(特徴3)式(1)について]
F1(=[Mo]+0.5[W])は、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の横断面中心位置での固溶Mo濃度及び固溶W濃度に起因した耐SSC性の指標である。
F1が2.45未満であれば、マルテンサイト系ステンレス丸鋼が特徴1(化学組成)、特徴2(強度)及び特徴4(式(2))を満たしていても、丸鋼中の固溶Mo濃度及び固溶W濃度が十分ではない。この場合、125ksi(862MPa)以上の降伏強度を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼の横断面中心位置での耐SSC性が十分に得られない。
F1が2.45以上であれば、丸鋼中の固溶Mo濃度及び固溶W濃度が十分である。そのため、丸鋼が特徴1、特徴2及び特徴4を満たすことを前提として、マルテンサイト系ステンレス丸鋼において、125ksi(862MPa)以上の降伏強度と、優れた耐SSC性との両立が可能となる。したがって、F1は2.45以上である。
F1の好ましい下限は2.50であり、さらに好ましくは2.52であり、さらに好ましくは2.55であり、さらに好ましくは2.60である。
F1の上限は特に限定されない。しかしながら、本実施形態の丸鋼の場合、化学組成中のMo含有量の上限及びW含有量の上限を考慮すれば、F1の上限は例えば5.00であり、例えば4.50であり、例えば4.00である。
なお、固溶Mo濃度[Mo]及び固溶W濃度を[W]は、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成中のMo含有量及びW含有量の影響も受ける。したがって、好ましくは、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成中のMo含有量及びW含有量は式(0)を満たす。
F0=Mo+0.5W≧2.55 (0)
ここで、式(0)中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
マルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成中のMo含有量及びW含有量が式(0)を満たせば、固溶Mo濃度[Mo]及び固溶W濃度[W]が式(1)を満たしやすくなる。
F0の好ましい下限は2.60であり、さらに好ましくは2.65であり、さらに好ましくは2.68であり、さらに好ましくは2.70である。F0の上限は特に限定されないが、マルテンサイト系ステンレス丸鋼が特徴1を満たす場合、F0の上限は5.00である。
[(特徴4)式(2)について]
F2は、固溶Mo濃度及び固溶W濃度による耐SSC性向上作用と、マルテンサイト系ステンレス丸鋼中のLaves相の生成量による耐SSC性低下作用との関係を示す指標である。F1が式(1)を満たす程度に十分な固溶Mo及び固溶Wが存在していても、Laves相の生成量が多ければ、Laves相の生成量に起因して、耐SSC性が低下する。つまり、固溶Mo濃度及び固溶W濃度に起因する耐SSC性の向上作用が、Laves相の生成量に起因する耐SSC性の低下作用に相殺されてしまう。図1に示すとおり、Wを含有する場合、Wを含有しない場合と比較して、Laves相が生成しやすくなる。そのため、本実施形態では、固溶Mo濃度及び固溶W濃度と、Laves相の生成量とを適切な関係に調整する。
F2(=F1/([Mo]+[W]))の分子は、固溶Mo濃度及び固溶W濃度による耐SSC性の向上の度合いを意味する。F2の分母は、Laves相の生成量による耐SSC性の低下の度合いを意味する。
F2が13.0未満であれば、固溶Mo濃度及び固溶W濃度による耐SSC性の向上作用よりも、Laves相の生成量による耐SSC性の低下作用の方が強い。そのため、丸鋼の降伏強度が125ksi(862MPa)以上であっても、横断面中心位置での耐SSC性が低下する。
F2が13.0以上であれば、固溶Mo濃度及び固溶W濃度による耐SSC性の向上作用が、Laves相の生成量による耐SSC性の低下作用よりも強い。そのため、125ksi(862MPa)以上の降伏強度と、優れた耐SSC性との両立が可能となる。したがって、F2は13.0以上である。
F2の好ましい下限は13.2であり、さらに好ましくは13.5であり、さらに好ましくは13.8であり、さらに好ましくは14.0である。
F2の上限は特に限定されない。しかしながら、F2の上限は例えば50.0であり、好ましい上限は45.0であり、さらに好ましくは40.0である。
[[Mo]、[W]、[Mo]及び[W]の決定方法]
固溶Mo濃度[Mo]、固溶W濃度[W]、残渣中のMo濃度[Mo]及び残渣中のW濃度[W]は、次の方法で求めることができる。
マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面の中心位置を含む、直径10mm、長さ50mmの円柱状試験片を、丸鋼から採取する。このとき、円柱状試験片の中心軸が、丸鋼の中心軸と一致するように、円柱状試験片を採取する。
採取した円柱状試験片の表面の付着物を除去するために、予備電解を実施する。ここで、円柱状試験片の表面の付着物は、表面のスケール及び不純物等である。予備電解では、10%AA系溶液を用いる。10%AA系溶液は、体積分率で10%アセチルアセトン、1%テトラメチルアンモニウムクロリド、89%メタノール溶液を含有する溶液である。10%AA系溶液を用いて、常温(20±15℃)、電流:1000mAで、円柱状試験片の表面から50μm程度電解する。
予備電解後の円柱状試験片をアルコール溶液に浸漬する。アルコール溶液に浸漬した円柱状試験片に対して、超音波洗浄を実施して、円柱状試験片の表面の付着物を除去する。超音波洗浄後の円柱状試験片(定電流電解前の円柱状試験片)の質量を測定する。
次に、円柱状試験片に対して、定電流電解を実施する。具体的には、新しい10%AA系溶液を準備する。そして、新しい10%AA系溶液を用いて、常温にて、電流密度を20mA/cmに保持して、サンプルの表面から約100μm深さ位置までの領域を電解する。
定電流電解後、試験片をアルコール溶液に浸漬する。その後、超音波洗浄を実施して、円柱状試験片表面の付着物を除去する。定電流電解後に付着物が除去された円柱状試験片の質量を測定する。
定電流電解に用いた10%AA系溶液、及び、その後の超音波洗浄に用いたアルコール溶液を、メッシュサイズ0.2μmのフィルタで吸引ろ過して残渣を抽出する。
抽出された残渣に対してICP-AESを用いた化学元素分析を実施して、残渣中のMo質量と、残渣中のW質量とを得る。さらに、定電流電解前後の円柱状試験片の質量を差し引いて、定電流電解された丸鋼の質量を求める。残渣中のMo質量、残渣中のW質量、及び、定電流電解された丸鋼の質量に基づいて、残渣中のMo濃度[Mo](質量%)、残渣中のW濃度[W](質量%)を求める。
マルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成中のMo含有量から残渣中のMo濃度[Mo]を差し引いて、マルテンサイト系ステンレス丸鋼中の固溶Mo濃度[Mo](質量%)を求める。さらに、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成中のW含有量から残渣中のW濃度[W]を差し引いて、丸鋼中の固溶W濃度[W](質量%)を求める。
[ミクロ組織(Microstructure)]
本実施形態によるマルテンサイト系ステンレス丸鋼のミクロ組織は、マルテンサイトを主体とする。本明細書において、マルテンサイトとは、フレッシュマルテンサイトだけでなく、焼戻しマルテンサイトも含む。また、本明細書において、マルテンサイトが主体とは、ミクロ組織において、マルテンサイトの体積率が80.0%以上であることを意味する。
マルテンサイト系ステンレス丸鋼のミクロ組織の残部は、残留オーステナイトである。つまり、本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼において、残留オーステナイトの体積率は0~20.0%である。残留オーステナイトの体積率はなるべく低い方が好ましい。本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼のミクロ組織中のマルテンサイトの体積率の好ましい下限は85.0%であり、さらに好ましくは90.0%である。さらに好ましくは、鋼材のミクロ組織は、マルテンサイト単相である。
[マルテンサイトの体積率の測定方法]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼のミクロ組織におけるマルテンサイトの体積率(%)は、以下に示す方法で求めた残留オーステナイトの体積率(%)を、100.0%から差し引いて求める。
残留オーステナイトの体積率は、X線回折法により求める。具体的には、マルテンサイト系ステンレス丸鋼のR/2位置から試験片を採取する。試験片の大きさは特に限定されないが、例えば、15mm×15mm×厚さ2mmである。この場合、試験片の厚さ方向は、丸鋼の径方向に相当する。
得られた試験片を用いて、α相の(200)面、α相の(211)面、γ相の(200)面、γ相の(220)面、γ相の(311)面の各々のX線回折強度を測定し、各面の積分強度を算出する。X線回折強度の測定において、X線回折装置のターゲットをMoとし(MoKα線)、出力を50kV-40mAとする。
算出後、α相の各面と、γ相の各面との組合せ(2×3=6組)ごとに式(I)を用いて残留オーステナイトの体積率Vγ(%)を算出する。そして、6組の残留オーステナイトの体積率Vγの平均値を、残留オーステナイトの体積率(%)と定義する。
Vγ=100/{1+(Iα×Rγ)/(Iγ×Rα)} (I)
ここで、Iαはα相の積分強度である。Rαはα相の結晶学的理論計算値である。Iγはγ相の積分強度である。Rγはγ相の結晶学的理論計算値である。なお、本明細書において、α相の(200)面でのRαを15.9、α相の(211)面でのRαを29.2、γ相の(200)面でのRγを35.5、γ相の(220)面でのRγを20.8、γ相の(311)面でのRγを21.8とする。なお、残留オーステナイトの体積率は、得られた数値の小数第二位を四捨五入する。
上述のX線回折法で得られた残留オーステナイトの体積率(%)を用いて、マルテンサイト系ステンレス丸鋼のミクロ組織のマルテンサイトの体積率(vol.%)を次の式により求める。
マルテンサイトの体積率=100.0-残留オーステナイトの体積率(%)
[本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の効果]
上述のとおり、本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼は、次の特徴1~4を有する。
(特徴1)化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲である。
(特徴2)降伏強度が862MPa(125ksi)以上である。
(特徴3)F1(=[Mo]+0.5[W])が2.45以上である。
(特徴4)F2(=F1/([Mo]+[W]))が13.0以上である。
これらの特徴を有することにより、本実施形態の丸鋼では、降伏強度が125ksi(862MPa)以上と高いにもかかわらず、優れた耐SSC性を有し、さらに、175℃の環境での優れた耐SCC性を有する。
[耐SSC性評価方法]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の耐SSC性は、NACE TM0177-2016 Method Aに準拠した耐SSC性評価試験により評価できる。
NACE TM0177-2016 Method Aに準拠した耐SSC性評価試験方法は、次のとおりである。マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面における中心位置から丸棒試験片を採取する。丸棒試験片の大きさは特に限定されない。例えば、丸棒試験片の平行部の直径は6.35mmであり、平行部の長さは25.4mmである。なお、丸棒試験片の軸方向は、丸鋼の軸方向と平行とする。
25質量%のNaCl(塩化ナトリウム)と、10mMのCHCOONa(酢酸ナトリウム)と、CHCOOH(酢酸)とを含有し、pHが4.5である試験液を準備する。丸棒試験片に対して、実降伏応力の90%に相当する応力を負荷する。試験容器に24℃の試験液を、応力を負荷された丸棒試験片が浸漬するように注入し、試験浴とする。試験浴を脱気する。0.03barのHSを含有し、0.97barのCOからなるガスを、脱気後の試験浴に吹き込み、試験浴にHSガスを飽和させる。HSガスが飽和した試験浴を、24℃で720時間保持する。
720時間保持後の試験片に対して、拡大率が10倍のルーペで試験片の表面を観察して、割れの有無を確認する。ルーペ観察で割れが疑われる箇所がある場合、割れが疑われる箇所の断面を100倍の光学顕微鏡で観察して、割れの有無を確認する。
本実施形態の丸鋼は、125ksi(862MPa)以上の降伏強度を有しつつ、優れた耐SSC性を有する。ここで、優れた耐SSC性を有するとは、上述のNACE TM0177-2016 Method Aに準拠した耐SSC性評価試験において、720時間経過後に、割れが確認されないことを意味する。本明細書において、「割れが確認されない」とは、試験後の試験片を10倍のルーペ及び100倍の光学顕微鏡で観察した場合に、割れが確認されないことを意味する。
なお、上述の耐SSC性評価試験の試験条件は、特許文献1で提示されている耐SSC性評価試験の試験条件よりも厳しい条件である。特許文献1では、20%NaCl水溶液を試験浴として、0.05barのHSガス及び0.95barのCOガスを試験浴に吹き込んで飽和させた耐SSC性評価試験を実施している。
[耐SCC性評価方法]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の耐SCC性は、ASTM G39-2016に準拠した4点曲げ試験により評価する。具体的には、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面における中心位置から、矩形試験片を採取する。矩形試験片は厚さ2mm、幅10mm、長さ75mmとする。矩形試験片の軸方向は、丸鋼の軸方向と平行とする。矩形試験片の軸方向に平行な中心軸は、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の中心軸と一致する。
ASTM G39-2016に準拠して、矩形試験片に対して4点曲げにより、実降伏応力(AYS)の100%に相当する応力を負荷する。
0.03barのHSと30barのCOとが加圧封入された175℃のオートクレーブを準備する。上記応力を負荷した矩形試験片を、オートクレーブに収納する。そして、オートクレーブ内において、矩形試験片を、試験液に720時間浸漬する。試験液は、質量%で25%のNaCl(塩化ナトリウム)と、0.10g/LのNaHCO(炭酸水素ナトリウム)とを含有し、pHが4.5である水溶液とする。
720時間浸漬後の試験片に対して、拡大率が10倍のルーペで試験片の表面を観察して、割れの有無を確認する。ルーペ観察で割れが疑われる箇所がある場合、割れが疑われる箇所の断面を100倍の光学顕微鏡で観察して、割れの有無を確認する。
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼は、125ksi(862MPa)以上の降伏強度を有しつつ、175℃の環境での優れた耐SCC性を有する。ここで、175℃の環境での優れた耐SCC性を有するとは、上述のASTM G39-2016に準拠した耐SCC性評価試験において、175℃の環境において720時間経過後に、割れが確認されないことを意味する。
[マルテンサイト系ステンレス丸鋼の用途]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼は、ダウンホールツールの素材として適する。例えば、ダウンホールツールは、油井探索及び油井掘削用途のツールである。ダウンホールツールは例えば、プラグ、パッカー、ドリルピット等である。プラグ又はパッカーは、フラクチャリングを実施するために油井孔内の所定区域を塞ぐのに用いられる。ドリルピットは、油井孔の掘削に用いられる。
なお、本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼は、ダウンホールツール用途以外の他の用途に用いてもよい。
[製造方法]
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の製造方法の一例を説明する。なお、以下に説明する製造方法は一例であって、本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の製造方法はこれに限定されない。つまり、上述の構成を有する本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼が製造できれば、以下に説明する製造方法に限定されない。ただし、以下に説明する製造方法は、本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼を製造する好適な製造方法である。
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の製造方法の一例は、次の工程1~工程4を含む。
(工程1)素材準備工程
(工程2)粗熱間加工工程
(工程3)仕上げ熱間加工工程
(工程4)熱処理工程(焼入れ工程及び焼戻し工程)
工程4の熱処理工程中の焼戻し工程では、次の条件で焼戻しを実施する。
(焼戻し工程での条件)
条件1:焼戻し温度Tを550~650℃とする。
条件2:焼戻し時間tを240~600分とする。
条件3:FA(={(T+273)×(t/60)0.8}/(Mo+W))を1800以下とする。
条件4:焼戻し時間t経過後の丸鋼を冷却し、焼戻し温度T~200℃までの平均冷却速度を5.0℃/秒以上とする。
以下、各工程について詳述する。
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である溶鋼を周知の製鋼方法により製造する。製造された溶鋼を用いて、連続鋳造法により鋳片を製造する。ここで、鋳片とは、例えば、ブルームである。鋳片に代えて、上記溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造してもよい。以上の製造工程により、素材(鋳片又はインゴット)を製造する。
[(工程2)粗熱間加工工程]
粗熱間加工工程では、素材(鋳片又はインゴット)を加熱した後、熱間加工して、ビレットを製造する。熱間加工は、熱間鍛造でもよいし、熱間圧延でもよい。
粗熱間加工工程での素材の加熱温度は特に限定されないが、例えば、1100~1300℃である。加熱された素材を、熱間加工して、ビレットを製造する。例えば、加熱された素材を、分塊圧延機を用いて熱間圧延してビレットを製造する。必要に応じて、分塊圧延機による熱間圧延後の素材をさらに熱間圧延して、ビレットを製造してもよい。この場合、分塊圧延機の下流に配置された連続圧延機が用いられてもよい。また、加熱された素材に対して、熱間鍛造を実施して、ビレットを製造してもよい。熱間加工後のビレットは、常温まで冷却される。
[(工程3)仕上げ熱間加工工程]
仕上げ熱間加工工程では、粗熱間加工工程で製造されたビレットを加熱した後、熱間加工して、丸鋼を製造する。
仕上げ熱間加工工程でのビレットの加熱温度は特に限定されないが、例えば、1100~1300℃である。加熱されたビレットを熱間加工して、中間丸鋼を製造する。例えば、ビレットに対して、熱間鍛造を実施して中間丸鋼を製造する。又は、ビレットに対して連続圧延機を用いた熱間圧延を実施して中間丸鋼を製造する。
なお、工程3の仕上げ熱間加工工程は省略してもよい。つまり、仕上げ熱間加工工程は任意の工程である。仕上げ熱間加工工程を実施しない場合、粗熱間加工工程で中間丸鋼を製造する。
工程2(粗熱間加工工程)及び工程3(仕上げ熱間加工工程)での累積減面率は特に限定されないが、例えば、20~70%である。
[(工程4)熱処理工程]
熱処理工程は、次の工程を含む。
(工程41)焼入れ工程
(工程42)焼戻し工程
以下、各工程について説明する。
[(工程41)焼入れ工程]
焼入れ工程では、粗熱間加工工程又は仕上げ熱間加工工程で製造された中間丸鋼に対して、焼入れを実施する。焼入れは公知の方法で実施する。
具体的には、粗熱間加工工程又は仕上げ熱間加工工程後の中間丸鋼を熱処理炉に装入し、焼入れ温度で保持する。焼入れ温度はAC3変態点以上であり、例えば、900~1000℃である。中間丸鋼を焼入れ温度で保持した後、急冷(焼入れ)する。
焼入れ温度での保持時間は特に限定されないが、例えば、10~60分である。焼入れ方法は例えば、水冷又は油冷である。焼入れ方法は特に制限されない。例えば、水槽又は油槽に浸漬して中間丸鋼を急冷してもよいし、シャワー冷却又はミスト冷却により、急冷してもよい。
[(工程42)焼戻し工程]
焼入れ後の中間丸鋼に対してさらに、焼戻し工程を実施する。焼戻し工程では、中間丸鋼の降伏強度を調整する。焼戻し工程ではさらに、中間丸鋼中の固溶Mo濃度、固溶W濃度、Laves相の生成量を調整して、中間丸鋼の横断面中心位置において、F1が式(1)を満たし、かつ、F2が式(2)を満たすように調整する。
焼戻し工程での条件は次のとおりである。
条件1:焼戻し温度Tを550~650℃とする。
条件2:焼戻し時間tを240~600分とする。
条件3:FA(={(T+273)×(t/60)0.8}/(Mo+W))を1800以下とする。
条件4:焼戻し時間t経過後の丸鋼を冷却し、焼戻し温度T~200℃までの平均冷却速度を5.0℃/秒以上とする。
以下、各条件について説明する。
[条件1及び条件2について]
焼戻し工程では、焼戻し温度Tを550~650℃とする。また、焼戻し時間tを240~600分とする。ここで、焼戻し時間tとは、焼戻し温度Tでの保持時間(分)を意味する。
焼戻し時間tが240分未満であれば、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面での中心位置において、偏析帯が残存する場合がある。この場合、中心位置に金属間化合物が過剰に残存する。その結果、F1が式(1)を満たさなかったり、F2が式(2)を満たさなかったりする。
一方、焼戻し時間tが600分を超えれば、Wを含有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼中にLaves相が過剰に多く生成する。この場合、F1が式(1)を満たさなかったり、F2が式(2)を満たさなかったりする。従って、焼戻し時間tは240~600分である。
[条件3について]
焼戻し工程では、焼戻し温度Tが条件1を満たし、焼戻し時間tが条件2を満たすことを前提としてさらに、次の式(A)で定義されるFAが1800以下である。
FA={(T+273)×(t/60)0.8}/(Mo+W)) (A)
ここで、FA中の「T」には焼戻し温度T(℃)が代入される。「t」には焼戻し時間t(分)が代入される。「Mo」にはマルテンサイト系ステンレス丸鋼中の質量%でのMo含有量が代入される。「W」にはマルテンサイト系ステンレス丸鋼中の質量%でのW含有量が代入される。
FAは、焼戻し工程においてWを含有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼のLaves相の生成量に関するパラメータ式である。上述のとおり、本実施形態の化学組成を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼では、Mo含有量とW含有量との相乗効果により、Laves相の生成が促進される。したがって、丸鋼中のMo含有量及びW含有量に応じた熱量で、中間丸鋼を焼戻しすることにより、Laves相の生成を適切に抑制する。
条件1、条件2及び条件4を満たしても、FAが1800を超えれば、丸鋼中にLaves相が過剰に生成してしまう。この場合、F1が式(1)を満たしても、F2が式(2)を満たさない場合がある。
FAが1800以下であれば、条件1、条件2及び条件4を満たすことを前提として、丸鋼中のLaves相の生成が十分に抑制される。その結果、丸鋼においてF1が式(1)を満たし、かつ、F2が式(2)を満たす。
FAの好ましい上限は1750であり、さらに好ましくは1700である。FAの下限は特に限定されない。FAの下限は例えば、900であり、例えば、950である。
[条件4について]
焼戻し工程ではさらに、焼戻し時間t経過後の中間丸鋼を冷却し、焼戻し温度T~200℃までの平均冷却速度を5.0℃/秒以上とする。
条件1~条件3を満たした場合であっても、焼戻し時間t経過後の中間丸鋼の冷却時において、焼戻し温度T~200℃までの平均冷却速度が5.0℃/秒未満であれば、上述のMo及びWの相乗効果により、Laves相が多量に生成してしまう。この場合、F1が式(1)を満たさなかったり、F2が式(2)を満たさなかったりする。平均冷却速度を5.0℃/秒以上とすることにより、冷却過程でLaves相が生成するのを十分に抑制できる。
平均冷却速度の好ましい下限は5.5℃/秒であり、さらに好ましくは6.0℃/秒である。
平均冷却速度は、次の方法で求めることができる。サーモグラフィー等の測温計により、冷却過程の中間丸鋼の表面温度を測定する。中間丸鋼の表面温度が焼戻し温度Tから200℃まで低下する時間を測定する。測定された時間に基づいて、平均冷却速度を求める。
なお、条件1~条件4を満たす範囲で焼戻し条件を適宜調整することにより、上述の特徴1の化学組成を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼の降伏強度を125ksi(862MPa)以上に調整することができる。
以上の工程により、本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼を製造できる。
実施例により本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の一態様の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態のマルテンサイト系ステンレス丸鋼はこの一条件例に限定されない。
[丸鋼の製造]
表1-1及び表1-2に示す化学組成を有するマルテンサイト系ステンレス丸鋼を製造した。
Figure 0007328605000001
Figure 0007328605000002
表1-1及び表1-2中の「-」部分は、上述で規定された元素含有量の有効数字(最小桁までの数値)の端数を四捨五入したときに、0%であったことを意味する。例えば、鋼番号1のNb含有量は、小数第三位を四捨五入したときに0%であったことを意味する。
[素材準備工程及び粗熱間加工工程]
具体的には、溶鋼を用いて連続鋳造によりブルームを製造した。続いて、粗熱間加工工程においてブルームを熱間圧延して、円柱状のビレット(丸ビレット)を製造した。粗熱間加工工程でのブルームの加熱温度は1100~1300℃であった。
[仕上げ熱間加工工程]
各試験番号の丸ビレットに対して、仕上げ熱間加工工程を実施した。具体的には、各試験番号の丸ビレットを1100~1300℃に加熱した。加熱後の丸ビレットに対して熱間圧延を実施して、直径が152.4~228.6mmの中間丸鋼を製造した。粗熱間加工工程及び仕上げ熱間加工工程での累積減面率は20~70%であった。
[焼入れ工程]
製造された中間丸鋼に対して、焼入れ工程を実施した。焼入れ温度(℃)は表2に示すとおりであり、焼入れ温度での保持時間は30分であった。保持時間経過後の中間丸鋼を水冷した。
Figure 0007328605000003
[焼戻し工程]
焼入れ工程後の中間丸鋼に対して、焼戻しを実施した。焼戻し温度T(℃)、焼戻し時間t(分)、FA、及び、焼戻し時間t経過後の中間丸鋼の焼戻し温度T~200℃までの平均冷却速度(℃/秒)は、表2に示すとおりであった。表2中の「平均冷却速度(℃/秒)」欄の「≧5.0」は冷却速度が5.0℃/秒以上であったことを意味する。「<5.0」は冷却速度が5.0℃/秒未満であったことを意味する。焼入れ工程及び焼戻し工程において、丸鋼の降伏強度が862MPa以上となるように調整した。
以上の製造工程により、各試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼を製造した。
[評価試験]
各試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)降伏強度決定試験
(試験2)[Mo]、[W]、[Mo]及び[W]決定試験
(試験3)ミクロ組織決定試験
(試験4)耐SSC性評価試験
(試験5)耐SCC性評価試験
以下、各評価試験について説明する。
[(試験1)降伏強度決定試験]
各試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の降伏強度を、上述の[降伏強度の測定方法]に基づいて求めた。なお、引張試験片は、平行部の直径が6.0mm、標点距離が30.0mmの丸棒引張試験片とした。丸棒引張試験片の平行部の軸方向は、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向と平行とした。得られた降伏強度(MPa)を、表3中の「YS(MPa)」欄に示す。
Figure 0007328605000004
[(試験2)[Mo]、[W]、[Mo]及び[W]決定試験]
各試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の固溶Mo濃度[Mo]、固溶W濃度[W]、残渣中のMo濃度[Mo]、及び、残渣中のW濃度[W]を、上述の[[Mo]、[W]、[Mo]及び[W]の決定方法]に基づいて求めた。
得られた固溶Mo濃度[Mo]、固溶W濃度[W]、残渣中のMo濃度[Mo]、及び、残渣中のW濃度[W]を、表3の「[Mo](質量%)」欄、「[W](質量%)」欄、「[Mo](質量%)」欄及び「[W](質量%)」欄に示す。
さらに、求めた固溶Mo濃度[Mo]、固溶W濃度[W]、残渣中のMo濃度[Mo]、及び、残渣中のW濃度[W]に基づいて、F1及びF2を求めた。
F1=[Mo]+0.5[W]
F2=F1/([Mo]+[W]
求めたF1及びF2を、表3中の「F1」欄及び「F2」欄に示す。
[(試験3)ミクロ組織決定試験]
各試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼のマルテンサイト体積率を、上述の[マルテンサイトの体積率の測定方法]に基づいて求めた。なお、X線回折法に供した試験片の大きさは、15mm×15mm×厚さ2mmとした。試験片の厚さ方向は、丸鋼の径方向とした。その結果、全ての試験番号の丸鋼では、マルテンサイト体積率が80.0%以上であり、残部は残留オーステナイトであった。
[(試験4)耐SSC性評価試験]
各試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の耐SSC性を、上述の[耐SSC性評価方法]に基づいて評価した。なお、丸棒試験片の平行部の直径は6.35mmとし、平行部の長さは25.4mmとした。丸棒試験片の軸方向は、丸鋼の軸方向と平行とした。評価結果を表3中の「耐SSC性」欄に示す。「耐SSC性」欄中の「P」(Pass)は、耐SSC性評価試験において、720時間経過後に、割れが確認されなかったことを示す。「F」(Fail)は、耐SSC性評価試験において、720時間経過後に、割れが確認されたことを示す。
[(試験5)耐SCC性評価試験]
各試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼に対して、次の2つの耐SCC性評価試験を実施した。
(試験51)150℃での耐SCC性評価試験
(試験52)175℃での耐SCC性評価試験
以下、各耐SCC性評価試験について説明する。
[(試験51)150℃での耐SCC性評価試験]
次の方法により、150℃の環境での耐SCC性を評価した。上述の[耐SCC性評価方法]に記載の方法により、各試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼から、矩形試験片を採取した。ASTM G39-2016に準拠して、矩形試験片に対して4点曲げにより、丸鋼の実降伏応力(AYS)の100%に相当する応力を負荷した。
0.05barのHSと60barのCOとが加圧封入された150℃のオートクレーブを準備した。上記応力を負荷した矩形試験片を、オートクレーブに収納した。そして、オートクレーブ内において、矩形試験片を、試験液に720時間浸漬した。試験液は、pHが4.5である、質量%で20%のNaCl(塩化ナトリウム)水溶液とした。
720時間浸漬後の試験片に対して、拡大率が10倍のルーペで試験片の表面を観察して、割れの有無を確認した。ルーペ観察で割れが疑われる箇所がある場合、割れが疑われる箇所の断面を100倍の光学顕微鏡で観察して、割れの有無を確認した。
評価結果を表3中の「150℃耐SCC性」欄に示す。「150℃耐SCC性」欄中の「P」(Pass)は、150℃での耐SCC性評価試験において、720時間経過後に、割れが確認されなかったことを示す。試験の結果、各試験番号の鋼材ではいずれも、150℃の環境での耐SCC性に優れた。
[(試験52)175℃での耐SCC性評価試験]
各試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼に対して、上述の[耐SCC性評価方法]に記載の方法により、175℃の環境での耐SCC性を評価した。
評価結果を表3中の「175℃耐SCC性」欄に示す。「175℃耐SCC性」欄中の「P」(Pass)は、175℃での耐SCC性評価試験において、720時間経過後に、割れが確認されなかったことを示す。「F」(Fail)は、175℃での耐SCC性評価試験において、720時間経過後に、割れが確認されたことを示す。
[評価結果]
表1-1、表1-2、表2及び表3を参照して、試験番号1~11では、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であった。さらに、製造条件が適切であった。その結果、マルテンサイト系ステンレス丸鋼が上述の特徴1~特徴4を満たした。つまり、これらの試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼の化学組成中の各元素含有量は適切であり、降伏強度が862MPa(125ksi)以上であった。さらに、F1が2.45以上であり、F2が13.0以上であった。
その結果、これらの試験番号のマルテンサイト系ステンレス丸鋼では、862MPa(125ksi)以上の降伏強度を有するにもかわらず、優れた耐SSC性が得られ、さらに、175℃の環境での優れた耐SCC性が得られた。
一方、試験番号12では、化学組成中の各元素含有量は適切であり、製造条件が適切であったものの、F0が2.55未満であったため、F1が2.45未満であった。そのため、862MPa(125ksi)以上の降伏強度を有するものの、優れた耐SSC性が得られなかった。
試験番号13では、Cu含有量及びW含有量が低かった。そのため、175℃の環境での優れた耐SCC性が得られなかった。
試験番号14では、W含有量が低かった。そのため、862MPa(125ksi)以上の降伏強度を有するものの、優れた耐SSC性が得られなかった。
試験番号15では、Co含有量が低かった。そのため、マルテンサイト系ステンレス丸鋼の降伏強度が862MPa(125ksi)未満となった。
試験番号16では、Cu含有量が低かった。そのため、175℃の環境での優れた耐SCC性が得られなかった。
試験番号17~19では、化学組成が適切であるものの、焼戻し時間tが長すぎた。その結果、試験番号17では、F1が2.45未満となり、F2が13.0未満となった。また、試験番号18及び19では、F2が13.0未満となった。そのため、862MPa(125ksi)以上の降伏強度を有するものの、優れた耐SSC性が得られなかった。
試験番号20及び21では、化学組成が適切であったものの、焼戻し工程での平均冷却速度が遅かった。そのため、試験番号20では、F2が13.0未満となった。また、試験番号21では、F1が2.45未満となり、F2が13.0未満となった。そのため、862MPa(125ksi)以上の降伏強度を有するものの、優れた耐SSC性が得られなかった。
試験番号22及び23では、化学組成が適切であった。さらに、焼戻し工程での焼戻し温度T、焼戻し時間tも適切であった。しかしながら、FAが高すぎた。そのため、これらの試験番号のF2は13.0未満となった。その結果、862MPa(125ksi)以上の降伏強度を有するものの、優れた耐SSC性が得られなかった。
試験番号24~26では、化学組成が適切であったものの、焼戻し工程での焼戻し時間tが短すぎた。そのため、試験番号24のF2は13.0未満となり、試験番号25及び26のF1は2.45未満となり、F2が13.0未満となった。その結果、862MPa(125ksi)以上の降伏強度を有するものの、優れた耐SSC性が得られなかった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
本実施形態のマルテンサイト系ステンレス鋼材の要旨は、次のとおり記載することもできる。
[1]
マルテンサイト系ステンレス丸鋼であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.030%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~14.00%、
Ni:5.00~7.50%、
Mo:1.50~4.00%、
Cu:1.00~3.50%、
W:0.01~2.00%、
Co:0.010~0.500%、
Ti:0.050~0.300%、
V:0.01~0.10%、
Ca:0.0005~0.0100%、
Al:0.001~0.100%、
N:0.0500%以下、及び、
O:0.050%以下、を含有し、
残部がFe及び不純物、からなり、
降伏強度が862MPa以上であり、
前記マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面の中心位置において、
質量%での固溶Mo濃度を[Mo]と定義し、
質量%での固溶W濃度を[W]と定義し、
定電流電解で得られた残渣中の質量%でのMo濃度を[Mo]と定義し、
前記残渣中の質量%でのW濃度を[W]と定義したとき、
式(1)及び式(2)を満たす、
マルテンサイト系ステンレス丸鋼。
F1=[Mo]+0.5[W]≧2.45 (1)
F2=F1/([Mo]+[W])≧13.0 (2)
[2]
マルテンサイト系ステンレス丸鋼であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.030%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:1.00%以下、
P:0.030%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:10.00~14.00%、
Ni:5.00~7.50%、
Mo:1.50~4.00%、
Cu:1.00~3.50%、
W:0.01~2.00%、
Co:0.010~0.500%、
Ti:0.050~0.300%、
V:0.01~0.10%、
Ca:0.0005~0.0100%、
Al:0.001~0.100%、
N:0.0500%以下、及び、
O:0.050%以下、を含有し、
さらに、第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有し、
残部がFe及び不純物、からなり、
降伏強度が862MPa以上であり、
前記マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面の中心位置において、
質量%での固溶Mo濃度を[Mo]と定義し、
質量%での固溶W濃度を[W]と定義し、
定電流電解で得られた残渣中の質量%でのMo濃度を[Mo]と定義し、
前記残渣中の質量%でのW濃度を[W]と定義したとき、
式(1)及び式(2)を満たす、
マルテンサイト系ステンレス丸鋼。
[第1群]
Nb:0.05%以下、
Sn:0.010%以下、
As:0.010%以下、及び、
Sb:0~0.010%、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
B:0.0050%以下、
Mg:0.0100%以下、及び、
希土類元素:0~0.010%、からなる群から選択される1種以上
F1=[Mo]+0.5[W]≧2.45 (1)
F2=F1/([Mo]+[W])≧13.0 (2)
[3]
[2]に記載のマルテンサイト系ステンレス丸鋼であって、
前記第1群を含有する、
マルテンサイト系ステンレス丸鋼。
[4]
[2]又は[3]に記載のマルテンサイト系ステンレス丸鋼であって、
前記第2群を含有する、
マルテンサイト系ステンレス丸鋼。

Claims (2)

  1. マルテンサイト系ステンレス丸鋼であって、
    化学組成が、質量%で、
    C:0.030%以下、
    Si:1.00%以下、
    Mn:1.00%以下、
    P:0.030%以下、
    S:0.0100%以下、
    Cr:10.00~14.00%、
    Ni:5.00~7.50%、
    Mo:1.50~4.00%、
    Cu:1.40~3.50%、
    W:0.01~2.00%、
    Co:0.010~0.500%、
    Ti:0.050~0.300%、
    V:0.01~0.10%、
    Ca:0.0005~0.0100%、
    Al:0.001~0.100%、
    N:0.0500%以下、
    O:0.050%以下、
    Nb:0~0.05%、
    Sn:0~0.010%、
    As:0~0.010%、
    Sb:0~0.010%、
    B:0~0.0050%、
    Mg:0~0.0100%、
    希土類元素:0~0.010%、及び、
    残部:Fe及び不純物、からなり、
    降伏強度が862MPa以上であり、
    前記マルテンサイト系ステンレス丸鋼の軸方向に垂直な断面の中心位置において、
    質量%での固溶Mo濃度を[Mo]と定義し、
    質量%での固溶W濃度を[W]と定義し、
    定電流電解で得られた残渣中の質量%でのMo濃度を[Mo]と定義し、
    前記残渣中の質量%でのW濃度を[W]と定義したとき、
    式(1)及び式(2)を満たす、
    マルテンサイト系ステンレス丸鋼。
    F1=[Mo]+0.5[W]≧2.45 (1)
    F2=F1/([Mo]+[W])≧13.0 (2)
  2. 請求項1に記載のマルテンサイト系ステンレス丸鋼であって、
    前記化学組成は、
    Nb:0.01~0.05%、
    Sn:0.001~0.010%、
    As:0.001~0.010%、
    Sb:0.001~0.010%、
    B:0.0001~0.0050%、
    Mg:0.0001~0.0100%、
    希土類元素:0.001~0.010%、からなる群から選択される1元素以上を含有する、
    マルテンサイト系ステンレス丸鋼。
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