JP7315887B2 - リチウムイオン二次電池用正極活物質前駆体の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質中間物の製造方法、及びそれらを併せたリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法 - Google Patents
リチウムイオン二次電池用正極活物質前駆体の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質中間物の製造方法、及びそれらを併せたリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法 Download PDFInfo
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Description
これらの中でも、特に、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物や、特許文献1に記載されている、ニッケルの一部をコバルトやアルミニウムで置換した、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物に関しては、電池容量におけるサイクル特性が良好で、低抵抗で高出力が得られる材料として評価されているほか、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源やハイブリッド自動車用電源にも好適であり、車載用電源としても注目されている。
しかし、上記の製造方法や、特許文献2においては、中和晶析法にて得られるスラリー中の金属複合水酸化物から成る固形分に、微細粒子が含まれる場合があるため、この微細粒子により濾布フィルターが目詰りを起こし、濾過性が悪化して濾過工程が律速になることがあった。
これら濾過助剤は、化学的に安定なものが多く、食品添加物(加工助剤)として認可されているものもあり、清酒、ワイン、ビール、ジュース、お茶、食用油などの食品濾過といった食品加工業以外にも、製薬・医薬・化粧品製造業や、化学工業、水泳プール及び入浴施設用水、排水処理など、広範な分野で利用されている。
その結果、晶析反応後の金属複合水酸化物を含むスラリーに、セルロース粉末等の有機高分子粉末を濾過助剤として加えて濾過することで、まず濾過性を改善し、続いて、含水澱物を乾燥し、酸化焙焼することで、加えた濾過助剤を灰化させ、更に、酸化焙焼物をリチウム化合物と焼成し、焼成物を水洗して、余剰リチウムの炭素供給源となった灰化残留炭素を、余剰リチウムごと除去することで、濾過助剤が不純物とならないリチウム金属複合酸化物が得られるとの知見、及び、濾過工程で濾過性を改善するために加えた濾過助剤が、後工程で分解除去される過程において、リチウム金属複合酸化物の焼結凝集を抑制する効果を持つことも、併せて確認し、本発明の完成に至った。
また、焼結凝集に伴う、二次粒子同士の凝集が殆ど発生していないリチウム金属複合酸化物により、正極活物質を構成させることも可能となる。
本発明における、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法では、まず、遷移金属元素を含む溶液、典型金属元素を含む溶液、遷移金属元素及び典型金属元素を含む溶液のいずれかの溶液に、アルカリを連続的に供給しながら、目的とする粒子構造(中実、中空、多孔)によって、晶析反応の雰囲気を非酸化性又は酸化性に適宜制御すると共に、所定の温度、pH、アンモニウムイオン(NH4 +)濃度などを維持し、金属複合水酸化物(以降、単に「水酸化物」とも記載する)を生成させる。
そして、晶析反応後の金属複合水酸化物を含むスラリーに、セルロース粉末などの水素原子、炭素原子、酸素原子から成る有機高分子粉末を濾過助剤として加えて、濾過性を保ちつつ濾過を行い、濾過後の含水澱物を、所定の温度で乾燥することによって、金属複合水酸化物を含む乾燥物(前駆体)を得るものである。
更に、上記の酸化焙焼物とリチウム化合物とを混合し、リチウム混合物として、所定の温度で焼成することによって、粒子強度が維持された焼成物となり、かつ、この焼成物の表面に存在している余剰リチウム(即ち、水酸化リチウム及び炭酸リチウム)を水洗し、余剰リチウムの炭素供給源となった灰化残留炭素を、余剰リチウムごと除去することによって、濾過助剤が不純物とならないリチウム金属複合酸化物(正極活物質)を得る。
1.リチウムイオン二次電池用正極活物質前駆体の製造方法
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質中間物の製造方法
3.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
4.1~3に関する評価
<金属複合水酸化物の製造工程>
[晶析工程]
まず、原料溶液として、ニッケル、マンガン、コバルトなどの遷移金属元素や、アルミニウム、亜鉛、錫などの典型金属元素から成る、金属化合物の水溶液(これら水溶液の作製には、硫酸塩及び水和物を用いるのが好ましい)を混合して作製した金属複合溶液と、pH調整用のアルカリ(水酸化ナトリウム溶液など)と、アンモニウムイオン(NH4 +)濃度調整用のアンモニア水を準備する。
粒子構造を「中実」としたい場合は、反応槽内を非酸化性雰囲気としたままで、晶析処理を4時間継続する。
「中空」としたい場合は、各溶液の給液を止め、反応槽内を酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に切り替えた後、給液を再開して、晶析処理を4時間継続する。
「多孔」としたい場合は、各溶液の給液を止め、反応槽内を酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に切り替えた後、給液を再開し、以降、同様の切り替え操作を複数回行いながら、晶析処理を4時間継続する。
このように、反応槽内の雰囲気を、不活性雰囲気又は酸素濃度を1.0容積%以下に制御した非酸化性雰囲気、又は、酸化性雰囲気(大気雰囲気)とすることで、金属複合水酸化物の粒子構造の制御が可能となっている。
晶析反応後の金属複合水酸化物を含むスラリーに、有機高分子粉末を濾過助剤として加えて、濾過性を良好な状態に保ちながら濾過を行う。有機高分子粉末を加えたスラリーを、濾過装置の濾布フィルターに通じた後、得られた含水澱物を、水酸化ナトリウム溶液などのアルカリにより、アルカリ洗浄することで、硫酸イオン(SO4 2-)や塩素イオン(Cl-)などの陰イオンを除去し、更に、イオン交換水などのような、不純物が制御された純水で再度洗浄し、ナトリウムイオン(Na+)などの陽イオンを除去する。
ボディーフィード法は、濾過助剤を濾過対象液に直接添加し、分散させ、微細粒子をその表面に吸着・凝集させてから濾過する。この操作により、濾布フィルターに形成される含水澱物は、空隙率が高く、かつ、濾過抵抗が少ないものとなる。従って、微細粒子が濾布フィルターに目詰りせず、濾過速度が著しく向上し、濾過可能時間を飛躍的に延ばせるため、濾過処理量を大幅に増やして、濾過効率を向上させることが可能である。
この乾燥工程は、濾過工程により得た含水澱物を乾燥し、乾燥物(前駆体)を得る工程である。
この乾燥工程で、澱物に付着している水分を十分に除去することにより、後工程の酸化焙焼工程において、乾燥物に含まれる残留しているセルロース粉末などの有機高分子粉末濾過助剤の灰化を、一段と促進させることが出来る。
更に、乾燥に使用する乾燥機についても、特に限定されるものではなく、静置式や、流動式、気流式のいずれの乾燥機も用いることができ、加熱方式については、乾燥雰囲気下の炭素ガスが増加しない、電気加熱方式が好ましい。
<酸化焙焼物の製造工程>
[酸化焙焼工程]
この酸化焙焼工程では、乾燥工程によって得た乾燥物を、大気雰囲気下により酸化焙焼し、酸化焙焼物(中間物)を得る。
その酸化焙焼の温度は、800~1000℃の範囲が好ましく、800~900℃の範囲がより好ましい。800℃未満になると、粒子強度が不十分となる恐れがあり、先述した有機高分子粉末の灰化も進み難くなるため、好ましくない。一方、1000℃を超えると、酸化焙焼物の粒子間で焼結が生じ、粒子が粗大化する場合があるため、好ましくない。
また、酸化焙焼の時間は、1~5時間が好ましい。1時間未満になると、粒子強度や有機高分子粉末の灰化が不十分となる恐れがあるため、好ましくない。一方、5時間を超えても、特に問題無いが、製造コストや効率を考慮するなら、あまり好ましくない。
なお、仮焼の時間は、1~3時間が好ましい。1時間未満になると、上記の効果を得難くなるため、好ましくない。一方で、3時間を超えても、特に問題無いが、製造コストや効率を考慮するなら、あまり好ましくない。
<リチウム金属複合酸化物の製造工程>
[リチウム化合物]
リチウムの原料となるリチウム化合物は、最大粒径が10μm以下であるのが好ましく、平均粒径が5μm以下であるのが好ましい。
また、リチウム化合物の種類は、特に制限されないが、炭酸リチウム(Li2CO3:融点723℃)や、水酸化リチウム(LiOH:融点462℃)のほか、硝酸リチウム(LiNO3:融点261℃)や、塩化リチウム(LiCl:融点613℃)、硫酸リチウム(Li2SO4:融点859℃)などが用いることができる。特に、取り扱いの容易さや品質安定性を考慮すると、水酸化リチウム又は炭酸リチウムを用いることが好ましい。
この混合工程は、酸化焙焼工程後の酸化焙焼物とリチウム化合物とを混合し、リチウム混合物を得る工程である。
この混合工程では、酸化焙焼物とリチウム化合物は、後工程で得られる、リチウム金属複合酸化物中の遷移金属元素及び典型金属元素の原子数の和とリチウムの原子数との比が、1.00~1.20の範囲内で所定比率となるように混合する。この比が1.00より小さい場合には、リチウムサイトである3aサイトにリチウム原子が取り込まれないため、製造されたリチウム金属複合酸化物を、正極活物質として電池に組み込んだ際に、目標とする電池特性が得られない。
また、上記の比が1.20より大きいと焼結が促進され、粒径や結晶子径が大きくなり過ぎ、サイクル特性の悪化を招く。
この焼成工程では、混合工程後のリチウム混合物を、大気雰囲気下、又は酸化性雰囲気下で行われる焼成工程に供され、焼成されて焼成物となる。
焼成の温度は、800~1000℃の範囲が好ましく、900~1000℃の範囲がより好ましい。800℃未満になると、反応性が低下して、得られた焼成物において、未反応の余剰リチウムの増加や、結晶構造が十分に整わず結晶性悪化などが起こる。このため、後工程で得られる正極活物質自体から、必要なリチウムが溶出し易くなったりするため、満足出来る電池特性が得られない。一方で、焼成温度が1000℃より高くなると、リチウム金属複合酸化物の粒子間で激しく焼結が起こり、異常な粒子成長を生じる可能性がある。
また、焼成時間は、1~20時間とすることが好ましく、より好ましくは10~15時間である。1時間未満になると、焼成物の生成が十分に行われないことがあり、好ましくない。一方、20時間を超えても、特に問題無いが、製造コストや効率を考慮するなら、あまり好ましくない。
仮焼工程を経ることで、焼成工程における焼成での反応がより穏やかに進み、得られた焼成物の粒子強度を保つと共に、未反応の余剰リチウムの低減や、結晶性向上に繋がる。
400℃未満、及び550℃を超えると、上記の効果を得難くなるため、好ましくない。なお、仮焼の時間は、1~3時間が好ましい。1時間未満になると、上記の効果を得難くなるため、好ましくない。一方で、3時間を超えても、特に問題無いが、製造コストや効率を考慮するなら、あまり好ましくない。
さらに、仮焼及び焼成の雰囲気は、大気雰囲気下のほか、酸化性雰囲気下としてもよく、酸素濃度が18~100容量%の雰囲気下とするのが好ましい。
この表面処理工程では、焼成工程で得た焼成物を、重量比で0.5~1.0の水に投入してスラリー化して水洗し、濾過、乾燥することで、リチウム金属複合酸化物(正極活物質)を得る。つまり、焼成物の表面に存在する余剰リチウム(水酸化リチウム及び炭酸リチウム)を水洗して、余剰リチウムの炭素供給源となった灰化残留炭素を、余剰リチウムごと除去することにより、濾過助剤が不純物とならないリチウム金属複合酸化物(正極活物質)となる。
また、余剰リチウムが除去されることにより、電池容量に影響を及ぼすタップ密度が向上するほか、正極作製時のペーストのゲル化を抑制することにも繋がる。
<試料の分析方法>
[組成]
組成に関する分析方法は、特に限定されないが、例えば、酸分解-ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法などによる化学分析法から求めることが出来る。
[水分]
水分に関する分析方法は、特に限定されないが、乾燥減量法や、カールフィッシャー滴定法、蒸留法などが用いられ、分析用に採取出来る試料量が多い場合には、共存元素の影響を受けない乾燥減量法を行うのが好ましい。
[炭素]
炭素に関する分析方法は、特に限定されないが、例えば、高周波燃焼-赤外吸収法などが用いられる。
[平均粒径(MV)]
平均粒径(MV)に関する分析方法は、特に限定されないが、例えば、レーザー回折・散乱法を用いて測定した体積基準分布から求めることが出来る。
本実施形態の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物の平均粒径を、酸化焙焼物の平均粒径で除した比、即ち、「リチウム金属複合酸化物のMV/酸化焙焼物のMV」(これ以降、「MV比」とも称する)を、焼結凝集を示す指標として評価することができる。その範囲としては0.97~1.03の間であることが好ましい。
このMV比が、上記の範囲である場合、正極活物質は、焼結凝集に伴う、二次粒子同士の凝集が殆ど発生していないリチウム金属複合酸化物から、構成していることになる。この様な正極活物質を用いた二次電池は、充填性が高く、高容量であり、また、特性のばらつきが少なく均一性に優れたものとなる。
更に、MV比が0.95未満である場合、リチウム金属複合酸化物の製造工程において、二次粒子から一次粒子の一部が欠落して、粒径が減少したことが考えられ、これにより、粒度分布が広くなることがあるため、0.97以上であることが好ましい。
更に、濾過性の良し悪しの評価指標となる、水酸化物相当水分を求める上で、含水澱物の濾過後水分から、濾過助剤相当水分を差し引くために、予備試験3に記載の手順に従って空試験を実施し、濾過助剤相当水分の分析値を得た。
後述する実施例1の記載に準じて(濾過工程で、セルロース粉末を添加せず)、事前に作製しておいた、一般式:Ni0.35Mn0.30Co0.35(OH)2で表される、ニッケル・マンガン・コバルト複合水酸化物(平均粒径:6.9μm)を、遊星ボールミルであるPM100(ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社製)によりコロイド粉砕(試料量:10.5g/回、分散溶媒:水20ml、公自転比:1対-2、公転回転数:500rpm、粉砕時間:24時間)し、微細粒子(平均粒径:0.1μm)を含むニッケル・マンガン・コバルト複合水酸化物のコロイドを作製した。
予備試験1と同様に、後述する実施例1の記載に準じて(濾過工程で、セルロース粉末を添加せず)、事前に作製しておいた、一般式:Ni0.82Co0.15Al0.03(OH)2で表される、ニッケル・コバルト・アルミニウム複合水酸化物(平均粒径:7.0μm)を、遊星ボールミルであるPM100(ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社製)によりコロイド粉砕(試料量:10.5g/回、分散溶媒:水20ml、公自転比:1対-2、公転回転数:500rpm、粉砕時間:24時間)し、微細粒子(平均粒径:0.1μm)を含むニッケル・コバルト・アルミニウム複合水酸化物のコロイドを作製した。
後述する実施例1の記載に準じて(濾過工程で、水酸化物、微細粒子を添加せず)、セルロース粉末であるKCフロック:W-400G(登録商標、平均粒径:25μm、日本製紙株式会社製)4kgに、水を加えて容量を83Lとして撹拌し、濾過、アルカリ洗浄及び水洗後、含水試料を採取し、乾燥減量法で濾過助剤相当水分を分析したところ、表1に記載の通り、5.7質量%との結果が得られた。
<晶析工程>
まず、撹拌機、オーバーフローパイプ、不活性ガス供給ノズルなどを備えた、ステンレス製の円筒型34L反応槽に水を30L供給した後、pH(25℃基準)が11.3となるまで水酸化ナトリウム溶液(25質量%)を加え、液温を40℃に保持し、一定速度で撹拌することにより、反応溶液を作製した。それと同時に、反応槽内に窒素ガスを導入し、気相部を酸素濃度が1.0容量%以下の非酸化性雰囲気に制御した。
上記の水酸化物に水を83L加えて、スラリー濃度が約100g/Lとなるように調整した。このスラリーに、予備試験1で作製した、ニッケル・マンガン・コバルト複合水酸化物の微細粒子を、乾燥状態の水酸化物に対して、0.5質量%となるよう(約42g、コロイド粉砕として4回分)に加えると共に、濾過助剤(ボディーフィード法のみに使用した)として、予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、1質量%となるよう(約84g)に加えて、撹拌・混合した後、フィルタープレス濾過機であるTK-408(住友金属鉱山エンジニアリング株式会社製)を用いた固液分離操作を行った。
その採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
濾過工程で得た含水澱物を、200℃で5時間乾燥して乾燥物(前駆体)を得た。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、先ず、400℃で1時間仮焼し、その後、800℃で1時間酸化焙焼することで、一般式:Ni0.35Mn0.30Co0.35Oで表される、酸化焙焼物(中間物)を得た。この際に、目視では、前工程の濾過工程で使用したセルロース粉末は、十分に除去出来ているように見えた。なお、酸化焙焼物の組成、平均粒径、炭素の評価は、後述の分析方法に従って実施した。
すると、採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<混合工程>
酸化焙焼工程で得た酸化焙焼物と、リチウム化合物である水酸化リチウムとを混合し、リチウム混合物を得た。ここで、リチウム化合物は、酸化焙焼物に対して、Li/Me=1.01となるように秤量し、混合には、シェーカミキサ装置であるTURBULA-TypeT2C(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製)を用いた。
混合工程で得たリチウム混合物を、先ず、550℃で3時間仮焼し、その後、1000℃で20時間焼成することで、焼成物を作製した。
焼成工程で得た焼成物に、重量比で0.8の水を加えスラリー化し、撹拌することで水洗した後、濾過及び乾燥を行い、一般式:Li1.01Ni0.35Mn0.30Co0.35O2で表される、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(正極活物質)を得た。なお、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物の組成や、平均粒径及び炭素の評価は、後述の分析方法に従って実施した。
<分析方法>
各工程において採取した試料の分析方法は、下記の通りである。
・組成
組成は、酸分解-ICP法によって分析した。
試料を、無機酸で加熱分解処理することにより、分析検体液とし、これをマルチ型ICP発光分光分析装置であるICPE-9000(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。
平均粒径は、試料をレーザー回折・散乱法によって分析し、体積基準分布から求めた。なお、測定には、レーザー回折・散乱方式で、かつ超音波発生器内蔵型の粒度分布測定装置であるマイクロトラックMT3300EX-II(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。
正極活物質の焼結凝集を示す指標として、以下の式(1)により求めた。
水分は、試料を磁性平皿に採取し、105℃に設定した定温乾燥機で、恒量となるまで4時間乾燥した後、乾燥前後における試料の重量差から求めた。
また、風袋及び試料の重量測定には、分析用電子天秤GR-202(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いた。更に、得られた含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)の濾過後水分から、濾過助剤相当水分を差し引くことにより、濾過性の良し悪しの評価指標となる水酸化物相当水分を求めた。
例えば、予備試験3で含水分量を確認した濾過助剤のセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(約11.1kg)に対して、25質量%となるよう(約2.8kg)に加えた場合、微細粒子を含む水酸化物の乾燥物量は約8.3kgであり、微細粒子を含む水酸化物と濾過助剤の重量比は3:1となる。ここで、得られた含水澱物の濾過後水分が28質量%であったなら、濾過助剤相当水分が5.7質量%であるため、{4×28=3×X+1×5.7}という簡単な計算式から、水酸化物相当水分X(約35質量%)を求めることが出来る。
なお、微細粒子に関しては、元々「水酸化物」に含まれているべきものであるので、水酸化物に含めて計算を行う。
炭素は、高周波燃焼-赤外吸収法によって分析し、試料の測定には、炭素硫黄分析装置であるCS-600(LECOジャパン合同会社製)を用いた。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、5質量%となるように加えた。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、200℃で3時間乾燥した。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、まず、400℃で3時間仮焼し、その後、800℃で3時間酸化焙焼した。
<焼成工程>
混合工程で得たリチウム混合物を、まず、550℃で2時間仮焼し、その後、1000℃で15時間焼成した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、10質量%となるように加えた。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、150℃で5時間乾燥した。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、まず、500℃で3時間仮焼し、その後、900℃で3時間酸化焙焼した。
<焼成工程>
混合工程で得たリチウム混合物を、まず、500℃で2時間仮焼し、その後、900℃で10時間焼成した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、25質量%となるように加えた。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、100℃で3時間乾燥した。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、まず、550℃で1時間仮焼し、その後、1000℃で3時間酸化焙焼した。
<焼成工程>
混合工程で得たリチウム混合物を、まず、400℃で3時間仮焼し、その後、800℃で5時間焼成した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、50質量%となるように加えた。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、100℃で1時間乾燥した。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、まず、550℃で3時間仮焼し、その後、1000℃で5時間酸化焙焼した。
<焼成工程>
混合工程で得たリチウム混合物を、まず、400℃で1時間仮焼し、その後、800℃で1時間焼成した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<晶析工程>
硫酸ニッケル六水和物、硫酸コバルト七水和物を水に溶解して、原料溶液を作製したと共に、アルミン酸ナトリウムを水に溶解し、その溶解液に水酸化ナトリウムを添加して、更に、アルミニウムに対するナトリウムのモル比が1.0~3.0となるように、アルミニウム溶液を作製した。
<濾過工程>
添加した微細粒子には予備試験2で得たニッケル・コバルト・アルミニウム複合水酸化物の微細粒子を用いた。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、5質量%となるように加えた。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、200℃で3時間乾燥した。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、まず、400℃で3時間仮焼し、その後、800℃で3時間酸化焙焼した。
<焼成工程>
混合工程で得たリチウム混合物を、まず、550℃で2時間仮焼し、その後、1000℃で15時間焼成した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、10質量%となるように加えた。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、150℃で5時間乾燥した。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、まず、500℃で3時間仮焼し、その後、900℃で3時間酸化焙焼した。
<焼成工程>
混合工程で得たリチウム混合物を、まず、500℃で2時間仮焼し、その後、900℃で10時間焼成した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、25質量%となるように加えた。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、100℃で3時間乾燥した。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、まず、550℃で1時間仮焼し、その後、1000℃で3時間酸化焙焼した。
<焼成工程>
混合工程で得たリチウム混合物を、まず、400℃で3時間仮焼し、その後、800℃で5時間焼成した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、50質量%となるように加えた。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、100℃で1時間乾燥した。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、まず、550℃で3時間仮焼し、その後、1000℃で5時間酸化焙焼した。
<焼成工程>
混合工程で得たリチウム混合物を、まず、400℃で1時間仮焼し、その後、800℃で1時間焼成した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、0.5質量%となるように加えた。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、60質量%となるように加えた。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、100℃で1時間乾燥した。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、まず、550℃で3時間仮焼し、その後、1000℃で5時間酸化焙焼した。
<焼成工程>
混合工程で得たリチウム混合物を、まず、400℃で1時間仮焼し、その後、800℃で1時間焼成した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、0.5質量%となるように加えた。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
濾過助剤には予備試験3で含水分量を確認したセルロース粉末を、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対して、60質量%となるように加えた。
<乾燥工程>
濾過工程後の含水澱物を、100℃で1時間乾燥した。
<酸化焙焼工程>
乾燥工程で得た乾燥物を、まず、550℃で3時間仮焼し、その後、1000℃で5時間酸化焙焼した。
<焼成工程>
混合工程で得たリチウム混合物を、まず、400℃で1時間仮焼し、その後、800℃で1時間焼成した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
<濾過工程>
微細粒子は、添加しなかった。
<濾過工程>
微細粒子は、添加しなかった。
下記の条件以外は、実施例1と同様の手順を行った。
<濾過工程>
セルロース粉末は、添加しなかった。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、200℃で24時間乾燥した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
下記の条件以外は、実施例6と同様の手順を行った。
<濾過工程>
セルロース粉末は、添加しなかった。
<乾燥工程>
濾過工程で得た含水澱物を、200℃で24時間乾燥した。
また、各工程において採取した試料の分析結果は、表1に記載の通りであった。
下記の条件以外は、比較例1と同様の手順を行った。
<濾過工程>
微細粒子は、添加しなかった。
下記の条件以外は、比較例2と同様の手順を行った。
<濾過工程>
微細粒子は、添加しなかった。
表1に示した通り、実施例1~10においては、濾過助剤に用いたセルロース粉末の添加量が、乾燥状態の含水澱物(微細粒子+水酸化物+濾過助剤)に対し、1~50質量%の好ましい範囲にあるため、濾過性の良し悪しの評価指標となる、水酸化物相当水分が45質量%未満という良好な結果が得られた。また、製造工程における、乾燥温度及び時間、酸化焙焼温度及び時間、焼成温度及び時間、表面処理での洗浄水の重量比なども、好ましい範囲であった。このため、添加したセルロース粉末の残存を示す炭素についても、酸化焙焼により0.3質量%未満にまで低減され、更に、焼成工程及び表面処理工程を経て、正極活物質であるリチウム金属複合酸化物となった時点で、0.05質量%未満という結果が得られ、セルロース粉末を添加しない場合と全く変わらないことが分かった。
一方、本発明の好ましい範囲は逸脱して濾過助剤を多く含有する実施例12、14の場合には、微細粒子のその効果は明らかで、水酸化物相当水分は40質量%未満と非常に良好であった反面、炭素の結果では、酸化焙焼物の時点で、0.5質量%を超えており、更に、リチウム金属複合酸化物の時点でも、0.05質量%を超えているという結果が得られたことから、濾過助剤が除去され難くなっていることが分かった。
なお、実施例全体として、正極活物質における焼結凝集の進行度合いを示すMV比が、0.97~1.03の範囲内であった。このことから、濾過工程で濾過性を改善するために加えた濾過助剤が、後工程で分解除去される過程において、リチウム金属複合酸化物の焼結凝集を抑制する効果を持つことも確認出来た。
なお、比較例全体として、濾過工程で濾過助剤を加えていないため、MV比が全て1.03を超えており、軽微ながら焼結凝集の傾向を示していることが確認された。
Claims (7)
- 遷移金属元素を含む溶液、典型金属元素を含む溶液、遷移金属及び典型金属元素を含む溶液のいずれかの溶液と、アルカリと、アンモニウムイオンを混合して金属複合水酸化物を含むスラリーを得る晶析工程と、
前記スラリーと、水素原子、酸素原子、及び炭素原子から構成される有機高分子粉末とを混合した後、濾過、アルカリ洗浄及び水洗を行い、前記金属複合水酸化物と前記有機高分子粉末とを含む含水澱物を得る濾過工程と、
前記含水澱物を乾燥し、前記金属複合水酸化物と前記有機高分子粉末とを含む乾燥物を得る乾燥工程とを有し、
前記有機高分子粉末が、前記有機高分子粉末を燃焼させた際に、灰化物または気体成分に変化する有機高分子粉末で、且つ、前記有機高分子粉末の添加量が、乾燥状態の前記含水澱物に対して1~50質量%で、前記有機高分子粉末の平均粒径が、20~50μmであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。 - 請求項1記載の前記乾燥物を、400~550℃での温度で、1~3時間の仮焼を行う仮焼工程と、
前記仮焼工程後、800~1000℃の温度で、1~5時間の酸化焙焼を行い、酸化焙焼物を得る酸化焙焼工程とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質中間物の製造方法。 - 請求項2記載の前記酸化焙焼物とリチウム化合物とを混合してリチウム混合物を得る混合工程と、
前記リチウム混合物を、400~550℃の温度で、1~3時間の仮焼を行う仮焼工程と、
前記仮焼工程後、800~1000℃の温度で、1~20時間の焼成を行い、焼成物を得る焼成工程と、
前記焼成物を水洗後、乾燥を行い、リチウム金属複合酸化物を得る表面処理工程とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。 - 請求項1~3に記載の工程を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
- 前記乾燥工程が100~200℃の温度で、1~5時間行われることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
- 前記有機高分子粉末が、セルロース粉末であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
- 前記リチウム金属複合酸化物の平均粒径を、前記酸化焙焼物の平均粒径で除した比が、0.97~1.03であることを特徴とする請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
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