JP2018088310A - リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】安価な原料を用いてニッケルを含む高容量のリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウムを含む化合物と、ニッケルを含む組成物と、を混合する混合工程S10と、混合工程S10で得られた混合物を酸化性雰囲気下で焼成してリチウム複合化合物を得る焼成工程S20と、を有し、ニッケルを含む組成物は、無電解ニッケルめっき液の廃液から中和処理により回収された中和沈殿物とアルカリ金属化合物とを混合する予混合工程と、予混合工程で得られた予混合物を焙焼する焙焼工程と、焙焼工程で得られた焙焼物を水洗する水洗工程と、を経て得た組成物であることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極活物質の製造方法に関する。
高いエネルギ密度を有し、小型で軽量な二次電池として、リチウムイオン二次電池が広く普及している。リチウムイオン二次電池は、鉛蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池等の他の二次電池と比較して、エネルギー密度が高いといった特徴を有している。そのため、携帯電子機器、家庭用電気機器等の小型電源から、電力貯蔵装置、無停電電源装置、電力平準化装置等の定置用電源や、船舶、鉄道車両、ハイブリッド鉄道車両、ハイブリット自動車、電気自動車等の駆動電源等の中型・大型電源に至るまでその用途が拡大している。
リチウムイオン二次電池用の正極活物質の一種に、空間群R−3mに帰属される層状岩塩型の結晶構造(以下、層状構造ということがある。)を有するリチウム複合化合物がある。層状構造を有するリチウム複合化合物としては、LiCoOが代表的であるが、多元化することにより安定性を改善したLiNi1/3Co1/3Mn1/3等も知られている。さらに、近年では、LiNi0.8Co0.1Mn0.1や、LiNi0.8Mn0.2に代表されるようなニッケル含有率が高いリチウム複合化合物が、高い充放電容量を示す次世代の正極活物質として期待されている。
一般的に、正極活物質の原料として用いられるニッケル源は、マンガン源等と比較して高価である。そのため、正極活物質に含まれるニッケル含有率が高くなるほど、正極活物質の製造原価も高くなる傾向がある。それ故、正極活物質の原料として利用可能な安価なニッケル源の開拓は、正極活物質の製造コストや生産性を高める上で極めて重要な要素技術となっている。従来、埋め立て廃棄されることが多い無電解ニッケルめっき廃液は、このような要求に適うニッケル源として有力視される。
特許文献1には、電気ニッケルめっき廃液や無電解ニッケルめっき廃液を中和処理して得たニッケル塩から精製ニッケル溶液を調製し、高純度なニッケル地金や炭酸ニッケルを製造する方法が開示されている。無電解ニッケルめっき廃液を炭酸ナトリウムで中和してニッケル中和沈殿物を得た後、硫酸溶液に溶解させて硫酸ニッケル溶液とし、不純物であるリン、銅、鉄、亜鉛及びコバルトを沈殿物として分離して精製ニッケル溶液を得ている。
また、特許文献2には、無電解ニッケルめっき廃液から溶媒抽出法でニッケルを効率良く回収する技術が開示されている。抽出されたニッケルは、希硫酸等の剥離剤の投入によって硫酸ニッケル溶液として回収されている。
また、従来から、ニッケルは、ステンレス鋼をはじめとする合金鋼の原料等として広く用いられている。現在では、ニッケルと共に、鉄、コバルト等を含んでいる鉱石やスクラップ等からニッケルを回収し、高純度に精錬して再利用するリサイクルシステムも構築されている。
例えば、特許文献3には、HPAL(High Pressure Acid Leach;高圧硫酸浸出)法で生産されたニッケルとコバルトとの混合硫化物から硫黄等を除去する技術が開示されている。水酸化工程で得られた水酸化ニッケルを230℃以上、870℃以下の温度範囲に加熱、焙焼して酸化ニッケルを形成し、水温50℃以上の水を用いて水洗浄した後、50℃以上の温度で假焼する工程について記載されている。
特開2012−140668号公報 特許第5360483号公報 特開2012−031446号公報
無電解ニッケルめっき廃液に含まれている硫酸ニッケル等を中和処理して得られるニッケル中和沈殿物は、ニッケルを主成分として含み、安価であり、調達性も優れている。そのため、リチウムイオン二次電池用の正極活物質の原料として、無電解ニッケルめっき廃液から回収されるニッケルを利用することができれば、正極活物質の製造原価が低廉になり、ニッケルの資源供給量の影響も受け難くなるので、正極活物質の製造コストや生産性を改善することができる。
しかしながら、ニッケル源として有用なニッケル中和沈殿物は、不純物を多量に含んだ組成物の状態で無電解ニッケルめっき廃液から回収されることが少なくない。特許文献1、2に開示される技術によれば、ニッケルの金属としての純度は向上するものの、中和処理等で添加された硫酸に由来する硫黄分等が残留する虞がある。リチウム複合化合物を焼成するとき、このような不純物を含む原料をそのまま使用すると、硫酸リチウム(Li2SO4)や、硫酸リチウムナトリウム(LiNaSO4)等の異相を生じ、充放電容量をはじめとする電極性能が大きく損なわれてしまうという問題がある。
また、特許文献3に開示されるように、中和沈殿処理して得られた水酸化ニッケルを、そのまま加熱、焙焼して酸化ニッケルとする方法を用いると、微量の硫黄分が残存したままの状態で酸化ニッケルが生じ、硫黄分が、異相や介在物等を形成した状態で残留する虞が高い。このようにして残留する硫黄分は、水溶性が低い状態になっている場合があるので、その後に水洗したとしても濃度を低下させることが難しい。つまり、このような処理の方法では、ニッケル中和沈殿物を原料として用いて、高い充放電容量を示すリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造することが困難である。
そこで、本発明は、安価な原料を用いてニッケルを含む高容量のリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造することを目的とする。
本願発明者らは、無電解ニッケルめっき液の廃液から回収されたニッケル中和沈殿物に不純物として含まれている硫黄分及びナトリウム分を低減し、めっき廃液を起源とするニッケル中和沈殿物を正極活物質の原料として適用することを鋭意検討した。そして、ニッケル中和沈殿物に残留している硫黄分が難水溶性の化合物を形成しており、水洗のみでは除去し難いとの知見を得て、硫黄分を易水溶性ないし易分解性の化合物に予め変換してから除去する手法が有効であることを見出し、本発明を発明するに至った。
即ち、本発明は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極活物質の製造方法であって、リチウムを含む化合物と、ニッケルを含む組成物と、を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を酸化性雰囲気下で焼成してリチウム複合化合物を得る焼成工程と、を有し、前記ニッケルを含む組成物は、無電解ニッケルめっき液の廃液から中和処理により回収された中和沈殿物とアルカリ金属化合物とを混合する予混合工程と、前記予混合工程で得られた予混合物を焙焼する焙焼工程と、前記焙焼工程で得られた焙焼物を水洗する水洗工程と、を経て得た組成物であることを特徴とする。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によれば、安価な原料を用いてニッケルを含む高容量のリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造することができる。
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法のフロー図である。 無電解ニッケルめっき廃液の処理工程のフロー図である。 ニッケル中和沈殿物の処理工程のフロー図である。 リチウムイオン二次電池の一例を模式的に示す部分断面図である。 リチウムイオン二次電池の充放電曲線を比較して示す図である。
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に正極活物質と言うことがある。)と、その製造方法について詳細に説明する。なお、以下の説明は、本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更が可能である。
[正極活物質]
本実施形態に係る正極活物質は、リチウム(Li)と、遷移金属等の金属元素と、によって組成されるリチウム遷移金属複合酸化物(本明細書において、リチウム複合化合物という。)である。この正極活物質は、電圧の印加によってリチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することを可能としており、リチウムイオン二次電池の正極材料として好適に用いられる。
本実施形態に係る正極活物質は、リチウム(Li)以外の金属元素として、少なくともニッケル(Ni)を含む組成を有している。ニッケルを含むため、高いエネルギ密度や、高い充放電容量を呈し得る正極活物質である。このようにニッケルを含む正極活物質であるが故に、原料のニッケル源のコストを低減することは重要である。原料のニッケル源としては、後記するとおり、無電解ニッケルめっき液の廃液から回収されたニッケル中和沈殿物が利用される。
本実施形態に係る正極活物質は、遷移金属として、ニッケル(Ni)のみを含む組成であってもよいし、ニッケル(Ni)に加えて、マンガン(Mn)及びコバルト(Co)のうちの少なくとも一方を含む組成であってもよい。このような正極活物質の具体例としては、LiNiOや、このNiの一部がMnやCoで置換された層状岩塩型のリチウム複合化合物、LiNiMn2−z(式中、0<z<2)で表されるスピネル型のリチウム複合化合物等が挙げられる。また、オリビン型、ポリアニオン型、逆スピネル型等、Niがドープされるその他のリチウム複合化合物であってもよい。
本実施形態に係る正極活物質は、一般式;LiNiMnCo1−x−y(式中、0<x<1、0≦y<1)で表される組成と、空間群R−3mに帰属される層状岩塩型の結晶構造とを有し、主に、Li、Ni、Co、Mn、Oから構成されるリチウム複合化合物であることが好ましく、下記式(1)で表される組成を有することが特に好ましい。
Li1+aNiMnCo2+α ・・・(1)
[但し、式(1)中、Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、a、b、c、d、e及びαは、−0.1≦a≦0.2、0.7<b≦1.0、0≦c<0.3、0≦d<0.3、0≦e≦0.3、b+c+d+e=1、−0.2≦α≦0.2、を満たす数である。]
式(1)で表されるリチウム複合化合物は、リチウム(Li)以外の金属元素(Ni、Mn、Co及びM)当たりにおけるニッケル(Ni)の割合が70原子%を超える組成を有している。より多くリチウムを引きぬけるニッケルを高い割合で含む組成とすることにより、エネルギ密度や充放電容量をより向上させることができる。
ここで、式(1)におけるa、b、c、d、e及びαの数値範囲の意義について説明する。
式(1)におけるaは、−0.1以上、且つ、0.2以下とする。aは、一般式;LiM´Oで表されるリチウム複合化合物の量論比、すなわちLi:M´:O=1:1:2からのリチウムの過不足量を表している。ここで、M´は、式(1)におけるリチウム(Li)以外の金属元素(Ni、Mn、Co及びM)を表す。リチウム(Li)が不足していると、充電前の遷移金属の価数が高くなって、リチウムが脱離した時の遷移金属の価数変化の割合が低減され、正極活物質の充放電サイクル特性が向上する。一方、リチウム(Li)が過剰であると、正極活物質の充放電容量は低下する。よって、aを前記の数値範囲に規定することで、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
aは、−0.05以上、且つ、0.10以下としてもよい。aが−0.05以上であれば、充放電に寄与するのに十分なリチウム量が確保されるため、正極活物質の高容量化を図ることができる。また、aが0.10以下であれば、遷移金属の価数変化による電荷補償が十分になされるので、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
前記式(1)におけるbは、0.7を超え、且つ、1.0以下とする。リチウム以外の金属元素(Ni、Mn、Co及びM)当たりにおいてニッケル(Ni)の割合が高いほど、より多くリチウムを引きぬけるニッケルによって効果的に電荷補償がなされるので、高容量化に有利である。よって、bを前記の数値範囲に規定することで、正極活物質の高容量化を効果的に図ることができる。
bは、0.75以上、且つ、0.90以下としてもよい。bが0.75以上であれば、正極活物質がより高容量化する。また、bが0.90以下であれば、正極活物質の結晶構造が比較的安定に保たれるので、正極活物質の充放電サイクル特性や、熱的安定性等が損なわれ難くなる。
前記式(1)におけるcは、0以上、且つ、0.3未満とする。マンガン(Mn)が添加されていると、充電によってリチウムが脱離しても層状構造が安定に維持されるようになる。一方、マンガン(Mn)が過剰であると、ニッケル等の他の遷移金属の割合が低くなり、正極活物質の充放電容量が低下する。よって、cを前記の数値範囲に規定することで、充放電によってリチウムの挿入と脱離とが繰り返されたとしても、正極活物質の結晶構造を安定に保持することが可能になり、高い充放電容量と共に、良好な充放電サイクル特性や、熱的安定性等を得ることができる。
cは、0.05以上、且つ、0.25以下としてもよい。cが0.05以上であれば、正極活物質の結晶構造がより安定化する。また、cが0.25以下であれば、ニッケル等の他の遷移金属の割合が高くなるので、正極活物質の充放電容量が損なわれ難くなる。
前記式(1)におけるdは、0以上、且つ、0.3未満とする。コバルト(Co)が添加されていると、充放電容量が大きく損なわれること無く、充放電サイクル特性が向上する。一方、コバルト(Co)が過剰であると、原料の調達性が悪くなり、原料費も高価となるので、正極活物質の工業的な生産において不利になる虞がある。よって、dを前記の数値範囲に規定することで、良好な生産性をもって、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
dは、0.10以上、且つ、0.25以下としてもよい。dが0.10以上であれば、充放電容量や充放電サイクル特性がより向上する。また、dが0.25以下であれば、原料の調達性がより改善し、原料費もより低廉となるので、正極活物質の生産性が一層向上する。
前記式(1)におけるeは、0以上、且つ、0.3以下とする。マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)及びニオブ(Nb)からなる群より選択される少なくとも1種の元素(M)が添加されていると、正極活物質の電気化学的活性を維持しながらも、充放電サイクル特性をはじめとする電極性能を向上させることができる。一方、Mが過剰であると、ニッケル等の他の遷移金属の割合が低くなり、正極活物質の充放電容量が低下する。よって、eを前記の数値範囲に規定することで、高い充放電容量と、良好な電気化学的特性とを両立させることができる。
前記式(1)におけるαは、−0.2以上、且つ、0.2以下とする。αは、化学式LiM´Oで表される正極活物質の量論比からの酸素(O)の過不足量を表している。酸素(O)の係数が前記の数値範囲であれば、正極活物質の結晶構造の欠陥は少なくなり、良好な電気化学的特性が得られる。αは、0.1以上、且つ、0.1以下であることがより好ましい。
正極活物質の一次粒子の平均粒径は、0.1μm以上、且つ、2μm以下であることが好ましい。平均粒径がこの範囲であると、正極における正極活物質の充填性が良くなるため、エネルギ密度が高い正極を製造することができる。また、粉末状の正極活物質の飛散や凝集等が低減されるので、取り扱い性も良くなる。正極活物質は、二次粒子を形成していてもよい。正極活物質の二次粒子の平均粒径は、正極の仕様等にもよるが、例えば、3μm以上、且つ、50μm以下とすることができる。
正極活物質のBET比表面積は、0.2m/g以上、且つ、2.0m/g以下であることが好ましい。一次粒子や二次粒子の集合からなる粉末状の正極活物質のBET比表面積がこの範囲であると、エネルギ密度がより高い正極を製造することが可能になる。
正極活物質の粒子破壊強度は、30MPa以上、且つ、100MPa以下であることが好ましい。粒子破壊強度がこの範囲であると、電極を作製する過程で正極活物質の粒子が破壊され難くなり、正極集電体に正極活物質を含む正極合剤スラリーを塗工して正極合剤層を形成するとき、剥がれ等の塗工不良が発生し難くなる。正極活物質の粒子破壊強度は、例えば、微小圧縮試験機を用いて測定することができる。
正極活物質の結晶構造は、例えば、X線回折法(X-ray diffraction;XRD)等によって確認することができる。また、正極活物質の組成は、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)発光分光分析、原子吸光分析(Atomic Absorption Spectrometry;AAS)等によって確認することができる。
[正極活物質の製造方法]
本実施形態に係る正極活物質の製造方法は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極活物質であって、リチウム複合化合物を合成する方法に関する。リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、層状構造を有するリチウム複合化合物、スピネル構造を有するリチウム複合化合物、オリビン構造を有するリチウム複合化合物等がある。現行のリチウムイオン二次電池には、層状構造を有する正極活物質が最も多く採用されている。リチウム複合化合物は、リチウム(Li)以外の金属元素として、少なくともニッケル(Ni)を含む組成を有するものである。
図1は、本発明の一実施形態に係る正極活物質の製造方法のフロー図である。
図1に示すように、本実施形態に係る正極活物質の製造方法は、混合工程S10と、焼成工程S20と、を有している。以下、前記式(1)で表される正極活物質を粉末状の形態で得る方法を例にとって、図を参照しながら説明する。
本実施形態に係る正極活物質の製造方法では、リチウム複合化合物の原料のリチウム源としては、炭酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム等のリチウム化合物を用いることができる。これらのリチウム源の中でも、特に炭酸リチウムが好ましい。炭酸リチウムは他の材料と比較して、調達性が良く、安価である。また、融点が高いので、熱処理装置等へのダメージを少なくすることができる。
本実施形態に係る正極活物質の製造方法では、リチウム複合化合物の原料のニッケル源として、特に、無電解ニッケルめっき液の廃液を起源とするニッケル組成物(ニッケルを含む組成物)を用いる。ニッケル組成物は、無電解ニッケルめっき液の廃液から回収されたニッケル中和沈殿物を所定の処理工程(図3参照)に供して得られる組成物である。
ここで、リチウム複合化合物の原料として用いるニッケル組成物について説明する。
図2は、無電解ニッケルめっき廃液の処理工程のフロー図である。
図2に示すように、無電解ニッケルめっきの後に生じる廃液(無電解ニッケルめっき廃液)は、有価金属であるニッケルを回収するための回収処理に供されている。
無電解ニッケルめっきは、エンジンピストン、プリンタシャフト、配管、ポンプをはじめとして、各種の金属部材、精密機器部品、電子機器部品等の表面処理に用いられている。めっき浴として用いられる無電解ニッケルめっき液は、一般に、硫酸ニッケル、還元剤としての次亜リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のpH調整剤、錯化剤、界面活性剤等を含有するものである。無電解ニッケルめっき廃液は、有価金属であるニッケル(Ni)と、リン(P)とを多量に含んでいるので、これらが互いに分離されて、それぞれ回収されている。
分離工程S101では、無電解ニッケルめっき廃液中に含まれているニッケルイオンが分離濃縮される。例えば、キレート樹脂を充填した精製カラムに無電解ニッケルめっき廃液を通じることにより、キレート樹脂にニッケルイオンを吸着させる。その後、希硫酸等の酸性溶液を精製カラムに通じて、キレート樹脂からニッケルイオンを溶出させる。これらの操作によって、ニッケルイオンが濃縮されたニッケル溶液が回収される。
中和処理工程S102では、分離工程S101で回収されたニッケル溶液が中和処理される。具体的には、ニッケル溶液に水酸化ナトリウム等のアルカリを添加し、水酸化ニッケル等のニッケル化合物の沈殿を生じさせる。例えば、硫酸ニッケルを含むニッケル溶液に水酸化ナトリウムを添加して行う中和処理は、次の反応式(I)で表される。
NiSO4 + 2NaOH → Ni(OH)2 + Na2SO4 ・・・(I)
そして、濾過工程S103では、中和処理工程S102で沈殿したニッケル化合物が濾過処理によって固液分離される。以上の工程を経て、無電解ニッケルめっき廃液から、ニッケル化合物を主成分として含むニッケル中和沈殿物が回収されている。
無電解ニッケルめっき廃液から回収されたニッケル中和沈殿物は、このような工程を経るため、リチウム複合化合物の原料となり得るニッケルと共に、硫黄分、ナトリウム等を不純物として含んでいることが多い。なお、前記の無電解ニッケルめっき廃液の処理工程では、水酸化ニッケルを主成分とするニッケル中和沈殿物が回収されるが、アルカリとして炭酸塩が添加されることにより、炭酸ニッケルとして回収されることもある。ニッケル中和沈殿物に含まれている硫黄分は、めっき液に含まれていた硫酸ニッケルや、中和処理反応の副生成物である硫酸塩や、溶出等に用いたpH調整剤等に由来している。また、ナトリウムは、中和剤や、中和処理で生成したナトリウム塩に由来している。
ニッケル中和沈殿物に含まれている硫黄分、ナトリウム等の不純物は、主に水溶性の硫酸ナトリウムとして存在するが、一部は、めっき廃液に添加された錯化剤、界面活性剤等や、めっき廃液の処理過程で混入した有機物等と共に凝集体を形成し、難水溶性の硫黄含有有機物等としてニッケル中和沈殿物中に存在する。硫黄含有有機物は、中和処理により回収したスラッジを水洗したとしても溶解し難いため、ニッケル中和沈殿物には、一定以上の濃度で硫黄分、ナトリウム等の不純物が残存している。通常、ニッケル中和沈殿物当たりの硫黄濃度やナトリウム濃度は、5.0〜6.0質量%程度以上であり、ニッケルに対する硫黄やナトリウムの量の質量分率は、ニッケル100質量%に対して十数質量%を超える量である。
ニッケル中和沈殿物が、このような多量の不純物を含有していると、リチウム複合化合物を焼成するとき、硫酸リチウム(Li2SO4)、硫酸リチウムナトリウム(LiNaSO4)等の異相が容易に形成されるため、リチウムイオン二次電池の充放電容量が低下してしまう。そこで、本実施形態では、ニッケル中和沈殿物を所定の処理工程(図3参照)に供して得られるニッケル組成物を、リチウム複合化合物の原料として用いる。
図3は、ニッケル中和沈殿物の処理工程のフロー図である。
図3に示すように、無電解ニッケルめっき液の廃液から回収されたニッケル中和沈殿物は、予混合工程S110と、焙焼工程S111と、水洗工程S112と、固液分離工程S113と、乾燥工程S114と、に順に供されることにより、不純物の濃度が低減されたニッケル組成物が得られる。
予混合工程S110では、無電解ニッケルめっき液の廃液から中和処理により回収されたニッケル中和沈殿物とアルカリ金属化合物とを混合する。ニッケル中和沈殿物をアルカリ金属化合物と混合することにより、焙焼工程S111において、水洗により除去され易い易水溶性の硫酸塩を生成させることができる。また、ニッケル中和沈殿物とアルカリ金属化合物とが混和した予混合物を予め調製しておくことにより、焙焼工程S111における反応が促進化されるので、未反応の状態で残る硫黄分の量を確実に低減させることができる。なお、予混合工程S110の段階では、ニッケル中和沈殿物とアルカリ金属化合物とが反応する必要は無いため、ニッケル中和沈殿物の粉末、顆粒、スラッジ等とアルカリ金属化合物の粉末、顆粒等とを乾式粉砕してもよいし、水等の分散媒を使用して湿式粉砕してもよい。
アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の炭酸塩、水酸化物、有機酸塩等を用いることができる。これらの化合物は、焙焼工程S111における反応で、溶解度が高い硫酸塩を生成することができるし、アニオンが熱処理後に不純物として残留し難く、更に、安価な化合物であるので好適である。これらの化合物は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
アルカリ金属化合物としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び、水酸化リチウムからなる群より選択される一種以上の化合物を用いることが好ましく、炭酸リチウム又は水酸化リチウムを用いることがより好ましい。これらの化合物は、焙焼工程S111における反応で、難水溶性の硫黄含有有機物の硫黄分と反応し、硫酸リチウム(Li2SO4)、硫酸リチウムナトリウム(LiNaSO4)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)といった溶解度が特に高い硫酸塩を生成する。そのため、これらの化合物を用いると、水洗工程S112において、硫黄分を容易に除去することが可能になる。また、焙焼工程S111において、不純物として再混入する虞がある副生成物が、雰囲気中に放出されるようなことも無くなる。特に、リチウム化合物であれば、正極活物質に対して不純物が新たに加わる虞が低いので、高い充放電容量を確保するのに有利である。
アルカリ金属化合物は、アルカリ金属と硫黄とのモル比(アルカリ金属のモル数/硫黄のモル数)が2以上となる量でニッケル中和沈殿物と混合することが好ましい。モル比で2倍量以上のアルカリ金属化合物を混合しておくと、予混合物を焙焼工程S111に供したとき、未反応の状態で残る硫黄分の量を確実に低減することができる。なお、混合するアルカリ金属化合物の量の上限は、特に限定されるものではなく、焙焼工程S111や水洗工程S112において、余剰の成分を分解或いは洗浄除去できる程度であればよい。
焙焼工程S111では、予混合工程S110で得られた予混合物を焙焼する。ニッケル中和沈殿物とアルカリ金属化合物とが混和した予混合物を焙焼することにより、ニッケル中和沈殿物に含まれていた硫黄分とアルカリ金属とが反応し、アルカリ金属の硫酸塩が生成される。不純物として含まれていた硫黄分は、水洗により除去され易い易水溶性の硫酸塩の結晶に取り込まれることになる。つまり、めっき廃液に由来する有機物等と難水溶性の化合物を形成して残留することが無くなるため、水洗工程S112において、硫黄分を洗浄して除去することが可能になる。
焙焼工程S111における熱処理温度は、200℃以上であることが好ましく、400℃以上、且つ、900℃以下であることがより好ましく、600℃以上、且つ、800℃以下であることがさらに好ましい。熱処理温度が200℃以上であると、水洗工程S112の後に回収されるニッケル組成物の硫黄濃度が、焙焼を行わない場合と比較して大きく低減される。また、熱処理温度が400℃以上であると、ニッケル中和沈殿物の主成分である水酸化ニッケルや炭酸ニッケルの熱分解も十分に進むため、水分、炭素成分等も確実に除去することができるし、熱処理温度を更に高くすると、回収されるニッケル組成物の硫黄濃度がより低濃度に低減される。また、熱処理温度が800℃以下であれば、アルカリ金属の硫酸塩を焼成しつつ、全体としての加熱コストを低く抑えることができる。一方、熱処理温度が900℃を超えると、不純物として含まれていた硫黄分がガス化するので、焙焼や水洗による効果が減殺されてコストの浪費に繋がる。
焙焼工程S111における熱処理時間は、特に限定されるものではない。熱処理時間が、例えば、10時間あれば、不純物として含まれていた硫黄分とアルカリ金属とを十分に反応させることが可能である。
焙焼工程S111は、酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。酸化性雰囲気としては、酸素ガス雰囲気及び大気雰囲気のいずれであってもよい。予混合物を酸化性雰囲気下で焙焼すると、酸化ニッケルや、アルカリ金属ニッケル複合酸化物の生成が促進されるため、水洗工程S112等におけるニッケルの取り扱い性や回収率が悪化し難くなる。混合物を酸化性雰囲気下で焙焼する場合、雰囲気の酸素濃度は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、99%以上が特に好ましい。
焙焼工程S111は、雰囲気ガスの気流下で行うことが好ましい。このような雰囲気下で焙焼することにより、焙焼されている予混合物から脱離するガスを雰囲気中から効率的に排除して、不純物が少ない焙焼物を得ることができる。
水洗工程S112では、焙焼工程S111で得られた焙焼物を水洗する。焙焼物が水洗されることにより、不純物として含まれていた硫黄分を取り込んだ易水溶性のアルカリ金属の硫酸塩が、その他の水溶性の不純物等と共に洗い流されて除去される。そのため、処理後に回収されるニッケル組成物の硫黄濃度やナトリウム濃度が低減され、高容量のリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造することが可能になる。
水洗工程S112は、焙焼物の洗浄を静水下で行ってもよいし、水流下で行ってもよい。焙焼物を攪拌する攪拌機としては、例えば、一軸攪拌機、多軸攪拌機、ボールミル、ビーズミル、プラネタリミキサ等の各種の装置を用いることができる。水洗に用いる水としては、イオン交換水、精製水、純水等が好ましい。但し、焼成工程S20(図1参照)の後に残留しない程度であれば、他成分を含む水で洗浄することは妨げられない。
水洗に用いる水の温度は、特に限定されるものではないが、40℃以上の水で水洗することが好ましく、70℃以上、且つ、100℃未満の水で水洗することがより好ましい。水温が40℃以上であれば、アルカリ金属の硫酸塩や、その他の水溶性の不純物等の溶解度が高くなるため、回収されるニッケル組成物の硫黄濃度やナトリウム濃度を十分に低減させることができる。また、水温が70℃以上であれば、アルカリ金属の硫酸塩や、その他の水溶性の不純物等をより確実に除去することができる。
水洗工程S112は、乾燥工程S114までを経て回収されるニッケル組成物の硫黄の量が、ニッケル100質量%に対して2.0質量%以下となるように行うことが好ましい。ニッケル中和沈殿物において、ニッケルに対する硫黄の量(質量分率)は、通常、十数質量%を超え、ニッケル中和沈殿物を水洗するのみでは、ニッケルに対する硫黄の量を2.0質量%以下にすることが困難である。しかし、焙焼工程S111を実施した後、適正な条件でニッケル中和沈殿物を水洗すれば、回収されるニッケル組成物について、ニッケルに対する硫黄の量を2.0質量%以下にすることが可能である。なお、ニッケル組成物についてのニッケルに対する硫黄の量(質量分率)は、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。ニッケル組成物についての不純物の量は、水洗工程112における水の温度、水の量、洗浄時間、洗浄回数等を増減したり、適切な攪拌方法を選択することにより低下させることができる。
固液分離工程S113では、水洗工程S112で水洗された焙焼物を固液分離する。例えば、水洗された焙焼物が懸濁された状態の水を濾過処理に供し、酸化ニッケルや、アルカリ金属ニッケル複合酸化物等によって組成される固形分を濾別して回収する。濾過装置としては、吸引濾過装置、フィルタープレス、遠心分離装置等を用いることができる。
乾燥工程S114では、固液分離工程S113で濾別された固形分を微小な含水率となるまで乾燥させる。乾燥は、加熱乾燥によって行ってもよいし、各種ガスによる風乾によって行ってもよい。乾燥温度は、例えば、50℃以上、且つ、200℃以下程度とすればよく、乾燥時間等のその他の乾燥条件は特に限定されない。固液分離工程S113で濾別された固形分を乾燥させることによって、リチウムイオン二次電池用正極活物質の原料として適した、不純物の量が少ないニッケル組成物が得られる。
次に、得られたニッケル組成物を用いてリチウム遷移金属複合酸化物である正極活物質を得る過程を説明する。図1に正極活物質の製造に関するフローチャートを示す。
正極活物質の製造において、混合工程S10では、リチウム源としてのリチウム化合物(リチウムを含む化合物)と、予混合工程S110から乾燥工程S114までを経て不純物の濃度が低減されたニッケル組成物(ニッケルを含む組成物)とを混合する。
なお、ニッケル組成物は、ニッケル組成物とは起源が異なる高純度のニッケル化合物と併用されてもよい。正極活物質の組成を、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、他の金属元素(M)等を含む組成にする場合は、マンガン化合物や、コバルト化合物や、他の金属元素(M)を含む化合物を、炭酸リチウム、ニッケル組成物等と共に混合すればよい。混合工程S10では、これらリチウム化合物、ニッケル組成物等をそれぞれ秤量し、粉砕、混和させることによって粉末状の混合物が得られる。
マンガン化合物や、コバルト化合物や、ニッケル化合物としては、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩等を用いることができる。これらの中でも、特に、酸化物、水酸化物、又は、炭酸塩を用いることが好ましい。また、他の金属元素(M)を含む化合物としては、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩等を用いることができる。これらの中でも、特に、酸化物、水酸化物、又は、炭酸塩を用いることが好ましい。なお、これらの化合物は、共沈法によって共析出させてニッケル組成物等と混合してもよいし、各別に秤量してニッケル組成物等と混合してもよい。
混合工程S10において、原料を粉砕する粉砕機としては、例えば、ボールミル、ジェットミル、サンドミル等の一般的な精密粉砕機を用いることができる。原料の粉砕は、湿式粉砕とすることが好ましく、工業的な観点からは、水を分散媒とすることが好ましい。湿式粉砕して得た原料スラリーは、例えば、乾燥機によって乾燥させることができる。乾燥機としては、例えば、噴霧乾燥機、流動床乾燥機、エバポレータ等を使用することができる。
混合工程S10において、原料を湿式粉砕するとき、粉砕により出発原料が微粒化して原料スラリーの粘度が高くなる。原料を均一に混合する観点からは、原料の微粒化や増粘を一定以上に進めることが好ましい。具体的には、原料スラリーの室温(25℃)におけるスラリー粘度(mPa・s)と、粒度分布における最大径d100(μm)との比(粘度/d100)を500以上にすることが好ましい。粘度/d100が500以上であると、原料の混合が十分になされて粒度が微細になるため、焼成されるリチウム複合化合物の組成の均一性を高くすることができる。なお、粘度/d100は、原料スラリーの固形分比を20質量%以下の範囲としたとき、例えば、固形分比を20質量%としたときに、500以上になればよい。
焼成工程S20では、混合工程S10で得られた混合物を酸化性雰囲気下で焼成して適切に結晶化したリチウム複合化合物を得る。焼成工程S20は、図1に示すように、第1前駆体を形成する第1熱処理工程S21と、第2前駆体を形成する第2熱処理工程S22と、仕上の熱処理である第3熱処理工程S23と、を有することが好ましい。
第1熱処理工程S21では、混合工程S10で得られた混合物を200℃以上、且つ、400℃以下の熱処理温度で、0.5時間以上、且つ、5時間以下にわたって熱処理して第1前駆体を得る。第1熱処理工程S21は、混合工程S10で得られた混合物から、正極活物質の合成反応を妨げる水分等を除去することを主な目的として行われる。第1熱処理工程S21において、熱処理温度が200℃以上であると、不純物の燃焼反応や出発原料の熱分解反応が不十分とはなり難い。また、熱処理温度が400℃以下であれば、この工程でリチウム複合化合物の結晶化まで進むことは少なく、水分、不純物等を含むガスの存在下で欠陥が多い結晶構造が形成されるのを防ぐことができる。
第1熱処理工程S21における熱処理温度は、250℃以上、且つ、400℃以下であることが好ましく、250℃以上、且つ、380℃以下であることがより好ましい。熱処理温度がこの範囲内であれば、水分、不純物等を効率的に除去しつつ、この工程における結晶化の進行については抑制することができる。なお、第1熱処理工程S21における熱処理時間は、例えば、熱処理温度や、混合物に含まれている水分、不純物等の量や、水分、不純物等の除去目標等に応じて、適宜の時間とすることができる。
第1熱処理工程S21は、酸化性雰囲気下で行ってもよいし、非酸化性雰囲気下で行ってもよいし、減圧雰囲気下で行ってもよい。酸化性雰囲気としては、酸素ガス雰囲気及び大気雰囲気のいずれであってもよい。また、減圧雰囲気としては、例えば、大気圧以下等のような適宜の真空度の減圧条件であってよい。
第1熱処理工程S21は、雰囲気ガスの気流下、又は、ポンプによる排気下で行うことが好ましい。このような雰囲気下で熱処理を行うことにより、混合物から脱離するガスを効率的に排除することができる。雰囲気ガスの気流やポンプによる排気の流量は、混合物から脱離するガスの体積よりも多くすることが好ましい。
第2熱処理工程S22では、第1熱処理工程S21で得た第1前駆体を450℃以上、且つ、900℃以下の熱処理温度で、0.1時間以上、且つ、50時間以下にわたって熱処理して第2前駆体を得る。第2熱処理工程S22は、第1前駆体中のニッケルを2価から3価へと酸化し、層状構造を有するリチウム複合化合物を結晶化させることを主な目的として行われる。第1前駆体中のニッケルは、正極活物質の充放電容量を高くする観点からは、価数を2価から3価へ遺漏無く酸化させておくことが好ましい。2価のニッケルは、層状構造中において容易にリチウムサイトを占有してしまい、正極活物質の充放電容量を低下させる一因となる。そこで、第2熱処理工程S22では、第1前駆体を酸化性ガス雰囲気下で熱処理し、ニッケルの価数を2価から3価へ遺漏少なく酸化させる。第2熱処理工程S22において、熱処理温度が450℃以上であると、リチウム複合化合物の結晶化が良好な速度で進行し、炭酸リチウムが過剰に残留することが無くなる。また、熱処理温度が900℃以下であれば、粒成長が過剰に進行することが無いので、正極活物質の充放電容量を高くすることができる。
第2熱処理工程S22における熱処理温度は、600℃以上とすることがより好ましい。600℃以上であれば、炭酸リチウムの反応効率がより向上する。また、第2熱処理工程S22における熱処理温度は、700℃以下とすることがより好ましい。700以下であれば、結晶粒がより粗大化し難くなるので、正極活物質の充放電容量を高くするのに好適である。
第2熱処理工程S22における熱処理時間は、0.1時間以上、且つ、15時間以下とすることがより好ましい。熱処理時間が0.1時間以上であれば、第1前駆体を酸素と十分に反応させることができる。
第2熱処理工程S22は、酸化性ガスの気流下で行うことが好ましい。雰囲気の酸素濃度は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、99%以上が特に好ましい。酸素濃度が高い酸化性ガスの気流下で熱処理を行うことにより、ニッケルを確実に酸化させることができる。また、炭酸リチウムの熱分解によって生じる炭酸ガスを第2前駆体から確実に除くことができる。
第3熱処理工程S23では、第2熱処理工程S22で得た第2前駆体を700℃以上、且つ、900℃以下の熱処理温度で熱処理して層状構造を有するリチウム複合化合物を得る。第3熱処理工程S23は、第2前駆体中のニッケルを2価から3価へと十分に酸化させると共に、層状構造を有するリチウム複合化合物の結晶粒を成長させることを主な目的として行われる。なお、第3処理工程S23の熱処理温度は、700℃以下であると第2前駆体の結晶化の進行が困難になる場合があり、900℃を超えると第2前駆体の層状構造の分解を抑制できずに2価のニッケルが生成され、得られるリチウム複合化合物の容量が低下してしまう。したがって、熱処理温度を700℃以上900℃以下にすることで、第2前駆体の粒成長を促進させ、且つ、層状構造の分解を抑制して、得られるリチウム複合化合物の容量を向上させることができる。
第3熱処理工程S23は、熱処理時間が、0.5時間以上、且つ、50時間以下であることが好ましく、0.1時間以上、且つ、15時間以下であることがより好ましい。第3熱処理工程S23において、酸素分圧が低いと、ニッケルの酸化反応を促進させるために熱が必要となる。したがって、第3熱処理工程S23において第2前駆体への酸素供給が不十分である場合、熱処理温度を上昇させる必要がある。熱処理温度を上昇させると、得られるリチウム複合化合物において層状構造の分解が不可避となり、正極活物質の良好な電極特性を得ることができなくなる。しかしながら、熱処理時間が0.1時間以上であれば、第2前駆体を酸素と十分に反応させることができる。
第3熱処理工程S23は、酸化性雰囲気で行う。雰囲気の酸素濃度は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、99%以上が特に好ましい。酸素濃度が高い雰囲気下で熱処理を行うことにより、ニッケルを確実に酸化させることができる。
[リチウムイオン二次電池]
次に、前記の実施形態に係る正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
図4は、リチウムイオン二次電池の一例を模式的に示す部分断面図である。
図4に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、非水電解液を収容する有底円筒状の電池缶101と、電池缶101の内部に収容された捲回電極群110と、電池缶101の上部の開口を封止する円板状の電池蓋102と、を備えている。
電池缶101及び電池蓋102は、例えば、ステンレス、アルミニウム等の金属材料によって形成される。電池缶101は、絶縁性を有する樹脂材料からなるシール材106を介して電池蓋102がかしめ等によって固定されることにより封止されている。
捲回電極群110は、帯状の正極111と負極112とをセパレータ113を挟んで捲回することによって形成されている。正極111は、正極集電体111aと、正極集電体111aの表面に形成された正極合剤層111bと、を備えている。また、負極112は、負極集電体112aと、負極集電体112aの表面に形成された負極合剤層112bと、を備えている。
正極集電体111aは、正極リード片103を介して電池蓋102と電気的に接続されている。一方、負極集電体112aは、負極リード片104を介して電池缶101の底部と電気的に接続されている。捲回電極群110と電池蓋102との間、及び、捲回電極群110と電池缶101の底部との間には、短絡を防止する絶縁板105が配置されている。正極リード片103及び負極リード片104は、それぞれ正極集電体111aや負極集電体112aと同様の材料によって形成されており、正極集電体111a及び負極集電体112aのそれぞれにスポット溶接、超音波圧接等によって接合されている。
正極集電体111aは、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等によって形成される。金属箔は、例えば、15μm以上、かつ25μm以下程度の厚さにすることができる。正極合剤層111bは、前記の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を含んでなり、正極活物質が、例えば、導電材、結着剤等と共に混練された正極合剤によって形成されている。
負極集電体112aは、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等によって形成される。金属箔は、例えば、7μm以上、かつ10μm以下程度の厚さにすることができる。負極合剤層112bは、一般的なリチウムイオン二次電池用負極活物質を含んでなり、負極活物質が、例えば、導電材、結着剤等と共に混練された負極合剤によって形成されている。
負極活物質としては、一般的なリチウムイオン二次電池において用いられる適宜の種類を用いることができる。負極活物質の具体例としては、天然黒鉛、石油コークス、ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の高温で処理したもの、メソフェーズカーボン、非晶質炭素、黒鉛の表面に非晶質炭素を被覆したもの、天然黒鉛又は人造黒鉛の表面を機械的処理することにより表面の結晶性を低下させた炭素材、高分子等の有機物を炭素表面に被覆・吸着させた材料、炭素繊維、リチウム金属、リチウムとアルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウム等との合金、シリコン粒子又は炭素粒子の表面に金属を担持した材料、スズ、ケイ素、鉄、チタン等の金属の酸化物等が挙げられる。担持させる金属としては、例えば、リチウム、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウム、これらの合金等が挙げられる。
導電材としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック等の炭素粒子や、炭素繊維等を用いることができる。これらの導電材は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。導電材の量は、正極活物質に対して5質量%以上20質量%以下とすることが好ましい。導電材がこのような範囲であると、良好な導電性が得られると共に、高い充放電容量も確保することができる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル系ポリマ、イミドやアミド基を有するポリマ、これらの共重合体等の適宜の材料を用いることができる。これらの結着剤は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。また、カルボキシメチルセルロース等の増粘性の結着剤を併用してもよい。
以上の構成を有するリチウムイオン二次電池100は、電池蓋102を正極外部端子、電池缶101の底部を負極外部端子として、外部から供給された電力を捲回電極群110に蓄電することができる。また、捲回電極群110に蓄電されている電力を外部の装置等に供給することができる。なお、このリチウムイオン二次電池100は、円筒形の形態とされているが、電池の形状は特に限定されない。例えば、角形、ボタン形、ラミネートシート形等であってもよい。
リチウムイオン二次電池100は、例えば、携帯電子機器や家庭用電気機器等の小型電源、電力貯蔵装置、無停電電源装置、電力平準化装置等の定置用電源、船舶、鉄道車両、ハイブリッド鉄道車両、ハイブリット自動車、電気自動車等の駆動電源として使用することができる。リチウムイオン二次電池100は、正極合剤層111bに前記の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質が含まれる構成であるため、製造コストが安く、ニッケル中和沈殿物を起源とするニッケル組成物を原料としていながら、従来よりも高い充放電容量を有する二次電池となる。
以上、図面を用いて本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
無電解ニッケルめっき液の廃液から中和処理により回収されたニッケル中和沈殿物とアルカリ金属化合物とを混合した(予混合工程S110)。ニッケル中和沈殿物としては、ニッケル濃度が、41質量%、硫黄濃度が、6.3質量%、ナトリウム濃度が、5.7質量%であり、水酸化ニッケルを主成分とする組成物を使用した。また、アルカリ金属化合物としては、炭酸リチウムを、リチウムと硫黄とのモル比が4:1となるように過剰量で使用した。
続いて、ニッケル中和沈殿物と炭酸リチウムとを混合して得られた予混合物を、大気雰囲気下、800℃で10時間にわたって加熱することにより焙焼した(焙焼工程S111)。そして、焙焼して得られた焙焼物を、70℃のイオン交換水で水洗した(水洗工程S112)。なお、イオン交換水は、焙焼物に対して10倍量を使用した。また、焙焼物の水洗は、焙焼物をイオン交換水中に浸漬し、1時間にわたって攪拌することにより行った。
続いて、焙焼物を浸漬しているイオン交換水を吸引濾過して焙焼物を固液分離した(固液分離工程S113)。そして、濾別された焙焼物を、120℃で2時間にわたって保持することにより乾燥させてニッケル組成物を得た(乾燥工程S114)。
次に、ニッケル中和沈殿物から得られたニッケル組成物について、ニッケルの量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(パーキンエルマー製OPTIMA8300)、硫黄の量を高周波燃焼赤外線吸収分析装置(LECO製CSLS−600)によって分析した。
次に、炭酸リチウムと、ニッケル中和沈殿物から得られたニッケル組成物と、炭酸コバルトと、炭酸マンガンとを、Li:Ni:Co:Mnの質量比が1.03:0.80:0.15:0.05となるように秤量し、固形分が20質量%となるようにイオン交換水を加え、ビーズミルにて湿式粉砕した(混合工程S10)。
続いて、得られたスラリー状の混合物をスプレードライヤによって乾燥させて原料が混和された混合物を得た。そして、得られた粉末状の混合物を酸化性雰囲気下で焼成して空間群R−3mに帰属される層状構造を有するリチウム複合化合物を得た(焼成工程S20)。具体的には、原料が混和された混合物を、第1熱処理工程S21、第2熱処理工程S22、及び、第3熱処理工程S23に順に供して焼成した。
第1熱処理工程S21では、1kgの混合物を、縦300mm、横300mm、高さ100mmのアルミナ容器に充填し、大気雰囲気とした連続搬送炉において、350℃の熱処理温度で1時間にわたって熱処理し、第1前駆体の粉末を得た。第1熱処理工程S21では、主として、水酸化ニッケルに由来する水分、炭酸コバルトや炭酸マンガンに由来する二酸化炭素を脱離させた。
第2熱処理工程S22では、第1熱処理工程S21で得られた第1前駆体を、酸素濃度90%以上の酸化性雰囲気に置換した連続搬送炉において、酸素気流中として600℃の熱処理温度で10時間にわたって熱処理し、第2前駆体の粉末を得た。第2熱処理工程S22では、主として、炭酸リチウムに由来する二酸化炭素と、未分解の炭酸コバルトや炭酸マンガンに由来する二酸化炭素とを脱離させた。
第3熱処理工程S23では、第2熱処理工程S22で得られた第2前駆体を、酸素濃度90%以上の酸化性雰囲気に置換した連続搬送炉によって、酸素気流中として755℃の熱処理温度で10時間にわたって熱処理し、リチウム複合化合物の粉末を得た。得られたリチウム複合化合物の粉末は、目開き53μm以下の篩で分級してリチウムイオン二次電池用の正極活物質とした。
(実施例2)
焙焼工程S111において、焙焼温度を800℃から600℃に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で実施例2に係る正極活物質を得た。
(実施例3)
焙焼工程S111において、焙焼温度を800℃から400℃に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で実施例3に係る正極活物質を得た。
(実施例4)
焙焼工程S111において、焙焼温度を800℃から200℃に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で実施例4に係る正極活物質を得た。
(実施例5)
焙焼工程S111において、焙焼温度を800℃から600℃に変更し、焙焼雰囲気を大気中から酸素ガス中に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で実施例5に係る正極活物質を得た。
(実施例6)
アルカリ金属化合物を炭酸リチウムから炭酸ナトリウムに変更し、焙焼工程S111において、焙焼温度を800℃から600℃に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で実施例6に係る正極活物質を得た。
(実施例7)
アルカリ金属化合物を炭酸リチウムから炭酸ナトリウムに変更し、焙焼工程S111において、焙焼温度を800℃から200℃に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で実施例7に係る正極活物質を得た。
(実施例8)
水洗工程S112において、洗浄温度を70℃から40℃に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で実施例8に係る正極活物質を得た。
(実施例9)
水洗工程S112において、洗浄温度を70℃から90℃に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で実施例9に係る正極活物質を得た。
(実施例10)
水洗工程S112において、洗浄温度を70℃から40℃に変更した点を除いて、実施例6と同様の手順で実施例10に係る正極活物質を得た。
(実施例11)
アルカリ金属化合物を炭酸リチウムから水酸化リチウムに変更し、焙焼工程S111において、焙焼温度を800℃から600℃に変更した点を除いて、実施例1と同様の手順で実施例11に係る正極活物質を得た。
(比較例1)
予混合工程S110から乾燥工程S114までを実施せず、硫黄等の不純物を含んでいるニッケル中和沈殿物をそのまま混合工程S10に供した点を除いて、実施例1と同様の手順で比較例1に係る正極活物質を得た。
(比較例2)
予混合工程S110及び焙焼工程S111を実施せず、硫黄等の不純物を含んでいるニッケル中和沈殿物をそのまま水洗工程S112に供した点を除いて、実施例1と同様の手順で比較例2に係る正極活物質を得た。
(比較例3)
焙焼工程S111において、焙焼温度を800℃から600℃に変更し、水洗工程S112から乾燥工程S114までを実施せず、焙焼して得られた焙焼物をそのまま混合工程S10に供した点を除いて、実施例1と同様の手順で比較例3に係る正極活物質を得た。
次に、得られた正極活物質を用いて、以下の手順でリチウムイオン二次電池用正極を作製した。はじめに、正極活物質と、炭素系導電材とを、質量比が90:6となるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。そして、得られた混合物と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解した結着剤とを、質量比が96:4となるように混合してスラリーとした。そして、このスラリーを厚さ15μmのアルミ箔に塗布して120℃で乾燥させた後、電極密度が2.7g/cmとなるようにプレスで圧縮成形し、直径15mmの円盤状に打ち抜いてリチウムイオン二次電池用正極とした。
続いて、リチウムイオン二次電池用正極を用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。負極としては、金属リチウムを用いた。また、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、体積比が3:7となるように混合した溶媒に、LiPFを1.0mol/Lとなるように溶解させた溶液を用いた。そして、リチウムイオン二次電池用正極と負極とを組み付け、非水電解液を封入して、リチウムイオン二次電池とした。
次に、得られたリチウムイオン二次電池について、放電容量を測定した。充電は、充電電流を0.2CAとして、充電終止電圧4.3Vまで定電流、定電圧で行った。また、放電は、放電電流を0.2CAとして、放電終止電圧2.5Vまで定電流で行った。放電容量の計測結果を表1に示す。また、実施例1について、計測した充放電曲線を図5に示す。
図5は、リチウムイオン二次電池の充放電曲線を比較して示す図である。
図5において、実線は、実施例1に係る正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の充放電曲線、破線は、比較例1に係る正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の充放電曲線である。縦軸は正極の電位(V:vs Li/Li)、横軸はリチウムイオン二次電池の容量(Ah/kg)を表している。容量の増加に伴い、電位が上昇していく曲線は、充電過程を表している。一方、容量の増加に伴い、電位が低下していく曲線は、放電過程を表している。充電及び放電の動作は、電位に基いて制御されるため、特定の電位範囲において、高容量が得られる材料が求められている。図5は、実施例1の正極は、比較例1の正極に対し、優れた特性を有することを示している。
また、下記の表1は、実施例1〜11、比較例1〜3に係る正極活物質の製造方法について、焙焼工程S111で使用したアルカリ金属化合物、焙焼工程S111における熱処理温度(焙焼温度)と焙焼雰囲気、水洗工程S112で使用した水の温度を示している。また、ニッケル濃度、硫黄濃度、及び、ナトリウム濃度と、ニッケルに対する硫黄の量(S/Ni比)(質量比)、及び、ニッケルに対するナトリウムの量(Na/Ni比)(質量比)を、作製したニッケル組成物当たり、及び、正極活物質当たりのそれぞれについて測定した結果を示している。
Figure 2018088310
表1に示すように、比較例1は、ニッケル組成物についてのニッケルに対する硫黄の量(S/Ni比)が比較的高い値となっている。比較例1では、ニッケル中和沈殿物に不純物として含まれていた硫黄分が多量に残存したままの状態で正極活物質が焼成されたため、硫酸リチウム(Li2SO4)等の異相を生じ、電気化学的活性を示さない結晶領域が増えたものと考えられる。
これに対して、実施例1〜11では、予混合工程S110から乾燥工程S114までを実施していない比較例1と比較して、ニッケル組成物についてのニッケルに対する硫黄の量(S/Ni比)が大きく低減されている。そして、そのニッケル組成物を原料として用いて製造した正極活物質についてもニッケルに対する硫黄の量(S/Ni比)が極めて小さくなり、リチウムイオン二次電池の放電容量は190Ah/kg以上に向上している。
したがって、ニッケル中和沈殿物をアルカリ金属化合物と混合し、焙焼した後に水洗してニッケル源とすれば、ニッケル中和沈殿物に含まれていた不純物の量が十分に低減され、未処理のニッケル中和沈殿物をニッケル源として用いる場合と比較して、高容量のリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造することが可能になるといえる。
更に、実施例1〜4同士や、実施例6〜7同士を比較すると、焙焼工程S111における熱処理温度(焙焼温度)は、200℃よりも高いほど、リチウムイオン二次電池の放電容量が向上している。また、実施例1と実施例8との比較や、実施例6と実施例10との比較からすると、水洗工程S112で使用する水の温度は、40℃よりも高い方が、リチウムイオン二次電池の放電容量が向上している。よって、焙焼工程S111における熱処理温度(焙焼温度)や、水洗工程S112で使用する水の温度が100℃を超えない範囲で高いほど、高容量のリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造するのに有利であるといえる。ただし、焙焼温度が高すぎると電気代が高価になるため、1000℃以下が好ましい。
一方、予混合工程S110及び焙焼工程S111を実施せず、硫黄等の不純物を含んでいるニッケル中和沈殿物をそのまま水洗工程S112に供した比較例2や、水洗工程S112から乾燥工程S114までを実施せず、焙焼して得られた焙焼物をそのまま混合工程S10に供した比較例3は、ニッケル組成物についてのニッケルに対する硫黄の量(S/Ni比)が十分に低減されていない。さらに実施例1〜11および比較例1、3と比較例2を比較した結果、水洗工程S112を加える事で、ニッケル組成物についてのニッケルに対するナトリウムの量(Na/Ni比)を大幅に低減できる。よって、ニッケル中和沈殿物に不純物として含まれている硫黄分の量を効果的に低減するためには、焙焼工程S111と水洗工程S112の両方が必須であるといえる。
また、図5に示すように、実施例1に係る正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池によると、比較例1に係る正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池と比較して、充電容量及び放電容量が大きく向上しており、低コストのニッケル中和沈殿物を原料として高容量のリチウムイオン二次電池を製造可能であることが分かる。
100 リチウムイオン二次電池
101 電池缶
102 電池蓋
103 正極リード片
104 負極リード片
105 絶縁板
106 シール材
110 捲回電極群
111 正極
111a 正極集電体
111b 正極合剤層
112 負極
112a 負極集電体
112b 負極合剤層
113 セパレータ

Claims (6)

  1. リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極活物質の製造方法であって、
    リチウムを含む化合物と、ニッケルを含む組成物と、を混合する混合工程と、
    前記混合工程で得られた混合物を酸化性雰囲気下で焼成してリチウム複合化合物を得る焼成工程と、を有し、
    前記ニッケルを含む組成物は、無電解ニッケルめっき液の廃液から中和処理により回収された中和沈殿物とアルカリ金属化合物とを混合する予混合工程と、前記予混合工程で得られた予混合物を焙焼する焙焼工程と、前記焙焼工程で得られた焙焼物を水洗する水洗工程と、を経て得た組成物であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  2. 前記ニッケルを含む組成物は、ニッケルに対する硫黄の濃度が2.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  3. 前記アルカリ金属化合物は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び、水酸化リチウムからなる群より選択される一種以上の化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  4. 前記焙焼工程は、前記予混合物を200℃以上の酸化性雰囲気下で焙焼する工程であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  5. 前記水洗工程は、前記焙焼物を40℃以上の水で水洗する工程であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  6. 前記リチウム複合化合物は、下記式(1)で表され、
    前記混合工程は、前記リチウムを含む化合物と、前記ニッケルを含む組成物と、下記式(1)中のLi及びNi以外の金属元素を含む化合物と、を混合する工程であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
    Li1+aNiMnCo2+α ・・・(1)
    [但し、式(1)中、Mは、Mg、Al、Ti、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される一種以上の元素であり、a、b、c、d、e及びαは、−0.1≦a≦0.2、0.7<b≦1.0、0≦c<0.3、0≦d<0.3、0≦e≦0.3、b+c+d+e=1、−0.2≦α≦0.2、を満たす数である。]
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