JP7313611B2 - 高耐食めっき方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高耐食めっき方法に関する。
従来の表面処理方法として、素材(鋼材)の表面にショットブラストを施して粗面にし、このようにして得た粗面上に、水素原子の侵入を防止するためのニッケル又はニッケル合金による無電解めっきを施して第1めっき層を形成させ、更にこの第1めっき層上に亜鉛による電解めっきを施して第2めっき層を形成させるようにした、めっき積層方法が提案されている(特許文献1)。
特開2014-51686号公報
特許文献1によれば、ニッケル又はニッケル合金による無電解めっきでは、めっき中に発生した水素が化学反応を起こして水等の他の物質に変化するので、水素脆性は起こらないとする。
しかしながら、無電解めっきの特徴の一つには、電気を印加させないことを理由として、イオン化されない粗い金属粒子が薬剤付着するものであり、めっき表面にピンホールが多数発生する(表面性状が粗くなる)点を挙げることができる。
そのため、このようなピンホールが、めっき中に発生する水素原子の侵入を許容して水素脆性を起こすおそれがあるのではないかとの疑念が生じる。また、第1めっき層の形成後に亜鉛による第2めっき層を形成する際にも水素原子が発生するので、この際の水素原子もピンホールを介して素材中に侵入することが考えられる。
このようなことから、特許文献1の提案技術を実施するとしても、もし完全なる水素脆性の防止を図るのであれば、第2めっき層形成後のベーキング処理を省略することは、原則として避けるべきと予測する。
ところが、亜鉛によるめっき層は高温に弱いという短所があるので、ベーキング処理を行えば亜鉛によるめっき層にクラックが多発することは避けられない。めっき層にクラックが生じることは耐食性の低下を意味するため、結果として、特許文献1の提案技術を実施するに際してはベーキング処理を採用したくてもできないということになる。
なお、ベーキング処理を採用しない場合であっても、第1めっき層の形成時に生じるピンホールは錆びの原因に繋がるので、第2めっき層を積層した後でも、全体の耐食性に悪影響を及ぼすであろうことは容易に予想されるところである。
のみならず、ニッケル又はニッケル合金による無電解めっきを採用するうえでは、高コ
スト化になることも広く知られたことであると言える。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、耐食性においては塩水噴霧試験で最低でも900時間を超えるような(好ましくは2000時間以上の)高耐食性が得られるものであり、そのために製造中のめっき工程ではそもそも水素原子の発生そのものが防止され、そのうえで無水素組成を有したものとして完全なる水素脆性の防止が図られ、尚かつ無電解めっきを採用して製造した場合に比べて遥かに低コスト化できるようにした高耐食めっき方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る高耐食めっき方法は、素材に対して硬質顆粒を噴き付けて粗面化する噴射加工を行う下地調整工程と、下地調整後の素材に対して、塩化アンモニウムを100~120mg/l、さらに塩化亜鉛を濃度87~92、塩化ニッケルを濃度8~13含む処理液を用いて、ニッケル含有比率が8~16%となるように電解ニッケル亜鉛合金めっき処理を施す表面処理工程と、表面処理後の被処理品に対して亜鉛を含んだ塗料を、電気を印加しないで塗布及び焼き付けを行う仕上げ工程と、を有しており、前記仕上げ工程の焼き付けを、前記表面処理工程の終了後5時間以内に、250~280℃の焼き付け温度で行うことを特徴とする。 前記仕上げ工程は複数回重ねて行うのが好ましい。
本発明に係る高耐食めっき方法であれば、耐食性においては塩水噴霧試験で最低でも900時間を超えるような(好ましくは2000時間以上の)高耐食性が得られるものであり、そのために製造中のめっき工程ではそもそも水素原子の発生そのものが防止され、そのうえで無水素組成を有したものとして完全なる水素脆性の防止が図られ、尚かつ無電解めっきを採用して製造した場合に比べて遥かに低コスト化できるようになっている。
本発明に係る高耐食めっき方法で得られるめっき品の層構成を示した側断面図である。 本発明に係る高耐食めっき方法の表面処理工程を模式的に示した側断面図である。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る高耐食めっき方法で形成されるめっき品(以下、「本発明めっき品」と言う)1の第1実施形態を示している。
本発明めっき品1は、素材2と、この素材2上に直接又は間接に形成されたニッケルを含む電解めっき層3と、この電解めっき層3上に直接又は間接に形成された亜鉛を含んだ塗料による焼き付け塗装層4とを有している。そして、なかでも電解めっき層3は水素を含まない組成(本明細書では「無水素組成」と言う)を有したものとなっている。
本第1実施形態では、焼き付け塗装層4が2層構造(第1塗装層4A及び第2塗装層4Bの積層構造)とされたものを示してある。また、電解めっき層3と焼き付け塗装層4との間には三価クロメートによる耐食補強層5が設けられ、更に焼き付け塗装層4の上にはシリカ系特殊化合物(株式会社放電精密加工研究所製の「ZECCOAT」等)による最上層6が設けられて、結果、素材2上に5層の被覆層が積層されたものを示してある。
このような構成の本発明めっき品1は、上面又は上面近傍に対して高い耐食性を発現する焼き付け塗装層4が配置されているので、例えば塩水噴霧試験(JIS Z 2371)で言えば、2000時間以上(3000時間超えも可能)の高耐食性が得られたものとなっている。
なお、ここにおいて「高耐食性」は、一般的な溶融亜鉛めっきでは実現困難な耐食性を言うものとおく。すなわち、溶融亜鉛めっきの塩水噴霧試験ではせいぜい900時間程度となるが、本発明めっき品1は、最低でも900時間を超えるものとする。とは言え、めっき被膜を分厚くすることで耐食性を高めることは可能であり、溶融亜鉛めっきでも塩水噴霧試験で900時間を超えるようにすることは可能な場合がある。
しかし、めっき被膜を分厚くし過ぎると、素材の外寸法(例えばねじ部など)に影響が現れて部品間の嵌め合いが困難になったり、嵌め合いをよくするために2次加工が必要になったり、甚だしい場合にはクラックの原因になったり、といったさまざまな問題に繋がる。またそもそも、めっき被膜を分厚くするために無駄な材料コストや処理コストがかさんで高コスト化するといった問題となる。
これらのことから、「塩水噴霧試験で最低でも900時間を超えるもの」とする条件は、常識的なめっき被膜の範囲とされる30μm以下(更に言えば20μm以下)の範囲で判断されるべきである。
本発明めっき品1は、この特徴(高耐食性)に加え、完全なる水素脆性の防止が図れているという特徴を有している。
なお、従来において、水素脆性の防止基準は、200℃の温度環境下に4時間保持させるベーキング処理を行った際の水素残留値として規定するが、本発明めっき品1では、この水素残留値よりも低いものであることを言う。
本発明めっき品1が完全なる水素脆性の防止が図れている理由は、第1に、耐食補強層5、焼き付け塗装層4、最上層6をいずれも電気を印加しないで形成してあり、それらの形成過程でそもそも水素を発生させていない点にある。
また第2に、電解めっき層3においても水素を発生させない条件に設定して形成してあると共に、仮に電解めっき層3の形成時に僅かな水素が発生したとしても、その後に行う焼き付け塗装層4の形成時に発生させる高温によって、その僅かな水素さえも消失させており、その結果として電解めっき層3を無水素組成に至らせている点にある。
なお、焼き付け塗装層4の形成時に高温を負荷させるとしても、電解めっき層3は、ニッケルを含んだ組成としてあるために、クラックが発生することはない。そのため、クラックを原因として耐食性が低下することはない。
また、本発明めっき品1は無電解めっきを採用していないので、無電解めっきを採用した場合に比べて遥かに低コスト化が図られているという特徴をも備えている。
このような本発明めっき品1であれば、道路附帯物(鉄骨路盤や橋、ガードレール、鉄塔など)、鉄道施設、その他の構築物といった屋外設置部材の組み立てや基礎固定、或いは自動車などでの各種部品や締結具(ボルトやナット類)として、好適に採用できる。
次に、本発明めっき品1の第1実施形態を製造する場合に基づきつつ、本発明に係る高耐食めっき方法(以下、「本発明方法」と言う)を説明する。
本発明方法では、素材2の表面を整えるための下地調整工程と、電解めっき層3を形成するための表面処理工程と、焼き付け塗装層4を形成するための仕上げ工程とを有している。
下地調整工程では、素材2に対して噴射加工を行う。噴射加工は、サンドブラストやショットブラストなど、硬質顆粒をエアや水、オイルなどの高圧流体に混ぜて噴き付けを行う加工方法であって、硬質顆粒により、素材表面を剥離研削することを主目的として実施する。なお、噴射加工には、ショットピーニングとしての作用(冷間加工に伴う加工硬化)をも期待して行うものも含める。
このように下地調整工程において噴射加工を行うことで、従来の前処理工程、すなわち[酸洗工程]-[水洗工程]-[陽極電解(電解脱脂)工程]-[水洗工程]から成る4工程を省
略することができる。そのため、酸洗工程に必要とされていた水素脆性防止目的のベーキ ング処理をも省略することができる。
因みに、従来の一般的な酸洗工程では、塩酸400mg/lを主剤とする処理液を25℃に加熱してこの加熱処理液に被処理物を20分間浸漬させる方法等を採用しており、また陽極電解工程では、苛性ソーダ70g/lを主剤とする処理液を50℃に加熱してこの加熱処理液に5A/dmを印加したうえで被処理物を5分間浸漬させる方法等を採用している。またベーキング処理では200℃以上の処理環境を必要とするものであり、これら全ての処理を省略できることの利点は極めて大きい。
この下地調整工程において噴射加工を行うと、耐食性が向上することが確かめられている。そのメカニズムとして考えられるのは、噴射加工を要因として素材表面が適度に粗面化され、その後に実施する表面処理工程や仕上げ工程で形成させる各被覆層との間(いずれも後述するが、殊に表面処理工程で形成させる電解めっき層3と仕上げ工程で形成させる焼き付け塗装層4との層間で顕著)の付着強度が上がる(食い付きがより強固となる)ためと予測される。
要するに、素材表面とその上の被覆層との間の付着強度が上がれば、両者間の密着性が
高くなり、酸素や酸化物の侵入を防げるからと予測される。
噴射加工を行わなかった場合と行った場合とを比較した実験によれば、噴射加工を行った場合は、行わなかった場合に比べて1.5倍もの耐食性を示すことが判明している。
表面処理工程では、下地調整された素材2に対してニッケルを含むめっき処理を施して、電解めっき層3を形成する。この表面処理工程は、図2に示すように、処理液10を貯留した処理槽11内にニッケルアノード12と亜鉛アノード13とを設置すると共に、処理液10内へカソードとして素材2(図2では素材2をボルトとして例示した)を浸漬させ、アノード-カソード間に電流を印加する。
処理液10は、塩化アンモニウム、塩化亜鉛、塩化ニッケルを投入した水溶液とする。具体的には、塩化アンモニウムの濃度を100~120mg/l、塩化亜鉛の濃度を87~92%、塩化ニッケルの濃度を8~13%とするのがよい。
ニッケルアノード12の印加電流と亜鉛アノード13の印加電流との間で電流制御を行って、素材2に対してNi-Zn系の合金被膜(電解めっき層3)が形成されるようにする。この場合、耐食性を高めるためにニッケル合金の比率が6%以上18%以下とするのが好適である。更に好ましくは、ニッケル合金比率を12%以上とする(高ニッケルと呼称される状態)にするのがよい。
なお、電流制御に代えるか、又は併用して薬品制御を行うようにしてもよい。
ニッケル合金比率が6%に満たないものは、得ようとする耐食性が不十分であることが実験により確かめられている。また、ニッケル合金比率が18%を超えるものは、耐食性が悪化する問題がある。
Ni-Zn系の合金被膜(電解めっき層3)は、5μm~13μm程度とするのが好適
である。5μmより薄いものは耐食性において十分でなく、13μmよりも分厚いものは、前記のように素材2の外寸法やコストの問題などに繋がり、好適ではない。
仕上げ工程では、表面処理後の被処理品に対して亜鉛を含んだ塗料の塗布及び焼き付けを行って、焼き付け塗装層4を形成させる。この仕上げ工程は、例えば亜鉛―アルミフレーク合金塗料による焼き付け塗装などであって、耐食性を高めることを主目的として実施する工程である。
亜鉛―アルミフレーク合金塗料を採用する場合の焼き付け温度は、完全なる水素脆性の防止を図る(電解めっき層3を形成させるための表面処理工程で発生した僅かな水素をも消失させる)ことを目的として、200℃以上で行うのがよい。
具体的には250℃~280℃の範囲が適当である。前記したように、このような高温を採用しても、電解めっき層3ではニッケル合金比率を6%以上18%以下としているので、この電解めっき層3にクラックが生じることはない。
なお、水素の抜けが効率よく行われるようにするためには、電解めっき層3の形成後(表面処理工程の終了後)、5時間以内、より好ましくは4時間以内に最初の仕上げ工程で行う200℃以上の加熱を開始することが好ましい。その理由は、電解めっき層3は時間の経過と共に表面が硬くなり、水素の抜けを邪魔することに繋がるためである。
焼き付け塗装層4を複数層積層することは耐食性を高めることに繋がるため、素材2の外寸法やコストの問題などに繋がらない範囲で積層化を行えばよい。焼き付け塗装層4の積層数(第1塗装層4Aと第2塗装層4Bの2層にする場合など)に合わせて仕上げ工程を複数回重ねて行えばよい。
なお、電解めっき層3と焼き付け塗装層4との間に三価クロメートによる耐食補強層5を設ける工程や、焼き付け塗装層4の上にシリカ系特殊化合物による最上層6を設ける工程は、公知の各種方法を採用すればよい。
以下に、実施例を示す。
Figure 0007313611000001
この実施例において製造された本発明めっき品1では、耐食性においては塩水噴霧試験で2000時間以上の高耐食性が得られており、また完全なる水素脆性の防止が図られており、それでいて、無電解めっきを採用して製造した場合に比べて遥かに低コスト化されるものであった。
なお、本発明めっき品1は、蛍光X線分析を行って電解めっき層3のニッケル含有比率などを検出することにより、他のめっき品との区別が可能である。
ところで、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じ
て適宜変更可能である。
例えば、本発明めっき品1において、焼き付け塗装層4を2層構造(第1塗装層4Aと
第2塗装層4B)としたが、1層でもよいし、3層以上としてもよい。
また、耐食補強層5や最上層6については省略してもよいし、必要に応じて更に他の被覆層を積層させてもよい。
なお、最上層6は、単に名称として「最上」としたに過ぎず、この最上層6の上に他の被膜層を積層することが制限されるものではない。例えば、最上層6の上にフッ素樹脂被膜などを積層することが可能である。フッ素樹脂被膜を形成する場合は、膜厚を50~500μmの範囲で形成することができる。
1 高耐食めっき品(本発明めっき品)
2 素材
3 電解めっき層
4 焼き付け塗装層
4A 第1塗装層
4B 第2塗装層
5 耐食補強層
6 最上層
10 処理液
11 処理槽
12 ニッケルアノード
13 亜鉛アノード

Claims (2)

  1. 素材に対して硬質顆粒を噴き付けて粗面化する噴射加工を行う下地調整工程と、
    下地調整後の素材に対して、塩化アンモニウムを100~120mg/l、さらに塩化亜鉛を濃度87~92、塩化ニッケルを濃度8~13含む処理液を用いて、ニッケル含有比率が8~16%となるように電解ニッケル亜鉛合金めっき処理を施す表面処理工程と、
    表面処理後の被処理品に対して亜鉛を含んだ塗料を、電気を印加しないで塗布及び焼き
    付けを行う仕上げ工程と、を有しており、
    前記仕上げ工程の焼き付けを、前記表面処理工程の終了後5時間以内に、250~280℃の焼き付け温度で行う
    ことを特徴とする高耐食めっき方法。
  2. 前記仕上げ工程を複数回重ねて行うことを特徴とする請求項1記載の高耐食めっき方法
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