JP7310261B2 - 音響部材用フィルムおよび音響部材用振動板 - Google Patents
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Description
本発明の音響部材用フィルムは、ジカルボン酸成分とジアミン成分から構成され、前記ジカルボン酸成分又は前記ジアミン成分のうち少なくとも何れかの主成分が脂環族化合物であるポリアミド樹脂(A)を含む。ここで「主成分」とは、モル%単位で最も多い成分を意味し、特に明示の無い場合は、以下の他の場合についても同様である。
ポリアミド樹脂(A)が含まれることによって、本フィルムを音響部材用振動板として使用した場合に、耐久性や、高音と低音の再現性、耐熱性、低吸水性に優れる。
本フィルムに含まれるポリアミド樹脂(A)の含有割合の下限は20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。本フィルムに含まれるポリアミド樹脂(A)の含有割合が25質量%以上であれば、本フィルムは耐久性や音の再現性、耐熱性、低吸水性に優れる。一方、含有割合の上限については特に制限は無く、100質量%であってもよい。なお、耐熱性や高音の再現性を更に付与する目的で後述するポリアミド樹脂(B)を更に含む場合は、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。
本フィルムに後述するポリアミド樹脂(B)を含まない場合のポリアミド樹脂(A)含有量は、50質量%以上であることが特に好ましく、70質量%以上であることが最も好ましい。
本発明者の検討によれば、ジカルボン酸成分又はジアミン成分のうち少なくとも何れかの主成分が芳香族化合物であるポリアミド樹脂(全芳香族ポリアミドや半芳香族ポリアミド)を用いた振動板では、弾性率が過度に高くなるため、特に低音の再現性が求められるマイクロスピーカー等の用途には向かず、更には二次加工性も低下するため、全ての要求特性を満たすことは困難であることが判明した。
これに対し本発明では、ジカルボン酸成分とジアミン成分の少なくとも何れかに脂環族化合物を導入することにより、音の再現性が良好であるとともに、耐熱性と二次加工性の両立を図ることができることを見出したものである。特に、脂環族化合物は脂環式構造を少なくとも2つ含むことが好ましい。脂環式構造を二つ含むことにより、脂環族化合物の骨格に自由度が増し、弾性率を下げることができるため、より最適な範囲に弾性率を調節することが可能となる。
ジカルボン酸成分中における脂環族ジカルボン酸の割合の下限は50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることが更に好ましく、80モル%以上であることが特に好ましく、90モル%以上であることがとりわけ好ましい。脂環族ジカルボン酸の割合が50モル%以上であることで、ポリアミド樹脂(A)は耐久性や音の再現性、耐熱性、低吸水性に優れる。ジカルボン酸成分中における脂環族ジカルボン酸の割合の上限は限定されず、100モル%であってもよい。
ジアミン成分中における脂肪族ジアミンの割合の下限は50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることが更に好ましい。ジアミン成分中における脂肪族ジアミンの割合の上限は限定されず、100モル%であってもよい。
なお、ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸成分が脂環族ジカルボン酸を主成分とする場合において、脂環族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分は任意に選択して用いることができる。また、脂肪族ジアミン以外のジアミン成分も任意に選択して用いることができる。
ジアミン成分中における脂環族ジアミンの割合の下限は50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることが更に好ましく、80モル%以上であることが特に好ましく、90モル%以上であることがとりわけ好ましい。脂環族ジアミンの割合が50モル%以上であることで、ポリアミド樹脂(A)は耐久性や音の再現性、耐熱性、低吸水性に優れる。ジアミン成分中における脂環族ジアミンの割合の上限は限定されず、100モル%であってもよい。
これらの中でも、ポリアミド樹脂(A)に耐久性や音の再現性、耐熱性、低吸水性を付与できることから、脂環式構造を少なくとも2つ有する化合物が好ましく、中でも、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)または4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)が好適に使用できる。
これらの中でも、炭素数が2~20である脂肪族ジカルボン酸が好ましく、炭素数が4~16である脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。特に、ポリアミド樹脂(A)に耐久性や音の再現性を付与できることから、デカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸が好適に使用できる。炭素数が多いこれらの脂肪族ジカルボン酸を含むことによって、ポリアミド樹脂(A)に柔軟性を付与できるだけでなく、ポリアミド樹脂(A)中のアミド基濃度が低くなるため、結果として吸水性が小さくなる。
なお、ポリアミド樹脂(A)のジアミン酸成分が脂環族ジアミンを主成分とする場合において、脂環族ジアミン以外のジアミン成分は任意に選択して用いることができる。また、脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分も任意に選択して用いることができる。
ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度の下限は130℃以上であることが好ましく、135℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることが更に好ましい。ガラス転移温度の下限が130℃以上であれば、ポリアミド樹脂(A)は耐熱性に優れる。一方、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度の上限は250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることが更に好ましい。ガラス転移温度の上限が250℃以下であれば、ポリアミド樹脂(A)は溶融成形性に優れる。
ここでガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用い、10℃/分で昇温した際のガラス転移点における変曲点の温度を意味する。
本フィルムはポリアミド樹脂(A)の他に、芳香族ジカルボン酸(b-1)を主成分とするジカルボン酸成分と、脂環族ジアミン(b-2)を主成分とするジアミン成分と、アミノカルボン酸(b-3)を主成分とする第三成分とから構成されるポリアミド樹脂(B)を更に含んでいてもよい。ポリアミド樹脂(B)が含まれることによって、本フィルムを音響部材用振動板として使用した場合に、ポリアミド樹脂(A)の耐久性や音の再現性を維持したまま耐熱性や高音の再現性を更に向上することができる。
本フィルムにポリアミド樹脂(B)が含まれる場合、ポリアミド樹脂(B)の含有割合の下限は20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。本フィルムに含まれるポリアミド樹脂(B)の含有割合が20質量%以上であれば、本フィルムは耐熱性や高音の再現性に優れる。一方、含有割合の上限は80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。本フィルムに含まれるポリアミド樹脂(B)の含有割合が80質量%以下であれば、ポリアミド樹脂(A)の耐久性や音の再現性を維持することができる。
ここでガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用い、10℃/分で昇温した際のガラス転移点における変曲点の温度を意味する。
本発明の音響部材用フィルムは、カルボン酸成分とジアミン成分から構成され、前記ジカルボン酸成分又は前記ジアミン成分のうち少なくとも何れかの主成分が脂環族化合物であるポリアミド樹脂(A)を含む。ポリアミド樹脂(A)は引張弾性率を特定の範囲内にすることが出来るため、音響部材用振動板として使用した場合に幅広い音域に対応することができる。また、耐久性に優れるため、音響部材用振動板として使用した場合に高出力時にも耐え得る。また、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れるため、使用時の環境温度や湿度が変化した場合でも弾性率の変化が少なく、音質に与える影響も少ない。更に、吸水性が低いため、経時の吸水が音質に与える影響も少ない。
なお、引張弾性率は、例えばJIS K7244-4:1999に準拠して、動的粘弾性測定の貯蔵弾性率の値を用いて測定することができる。
なお、140℃の引張弾性率(E140)は、23℃と同様に例えばJIS K7244-4:1999に準拠して、動的粘弾性測定の貯蔵弾性率の値を用いて測定することができる。
一方、上限は、500μm以下であることが好ましく、450μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることが更に好ましく、350μm以下であることが特に好ましい。厚みが500μm以下であれば、省スペース化することができ、ひいてはスピーカーをはじめとした電気音響変換器を小型化することができる。
本フィルムは、一般の成形法、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、プレス成形等によって製造することができる。それぞれの成形方法において、装置および加工条件は特に限定されないが、生産性や厚み制御の観点から、押出成形、特にTダイ法が好ましい。更に、本フィルムを真空成形、圧空成形等によって二次加工してもよい。
一方、溶融温度の上限は350℃以下が好ましく、より好ましくは340℃以下であり、さらに好ましくは330℃以下である。溶融温度がかかる範囲であれば、樹脂の分解や架橋を抑制しつつ、十分に流動させることができる。成形は、例えば、Tダイ等の金型を用いた押出成形により行うことができる。
一方、キャストロールの温度の上限は250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが更に好ましい。キャストロールの温度の上限が250℃以下であれば、フィルムがロールに貼り付き、その後離れる際に生じる貼り付き跡も生じない、外観良好なフィルムが得られる。なお、キャストロールとフィルムとの密着性を向上させるために、タッチロールや電気密着装置を使用することが好ましい。
本発明のフィルムは、耐熱性や低吸水性に優れ、また、引張弾性率を特定の範囲とすることが出来るため、音響部材用振動板として好適に使用することができる。
実施例及び比較例においては、以下の原料を用い、下記表1に示す配合組成のフィルムを製造した。
[A-1]
Rilsan Clear G350(アルケマ社製、テトラデカン二酸/4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)=50/50モル%、ガラス転移温度=145℃)
[A-2]
Grilamid TR-90NZ(エムスケミー社製、ドデカン二酸/4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)=50/50モル%、ガラス転移温度=153℃)
[B-1]
Rilsan Clear G170(アルケマ社製、テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)/ω-ラウロラクタム開環重合体=22/12/32/34モル%、ガラス転移温度=168℃)
A-1を単体で使用し、Φ40mm単軸押出機に投入して混練しながら溶融させ、口金(Tダイ)から押出し、キャストロールに密着させ、単層フィルムを得た。この時、押出機、導管、口金(Tダイ)の温度は280℃とし、キャストロールの温度は120℃とした。得られた厚み100μmの単層フィルムについて、引張弾性率、耐折強度、吸水率の評価を行った。評価結果を表1に示す。
A-1/B-1=70/30(質量比)となるようにドライブレンドして使用した以外は実施例1と同様にフィルムの作製および評価を行った。評価結果を表1に示す。
A-1/B-1=30/70(質量比)となるようにドライブレンドして使用した以外は実施例2と同様にフィルムの作製および評価を行った。評価結果を表1に示す。
A-2を単体で使用した以外は実施例1と同様にフィルムの作製および評価を行った。評価結果を表1に示す。
A-2/B-1=70/30(質量比)となるようにドライブレンドして使用した以外は実施例1と同様にフィルムの作製および評価を行った。評価結果を表1に示す。
B-1を単体で使用した以外は実施例1と同様にフィルムの作製および評価を行った。評価結果を表1に示す。
原料として、ポリアミド9T(Genestar N1000A、クラレ製、テレフタル酸/1,9-ノナンジアミン/2-メチル-1,8-オクタンジアミン=50/40/10(モル%)、ガラス転移温度=125℃、結晶融解温度=300℃)を単独で使用し、押出機、導管、口金(Tダイ)の温度を320℃とした以外は実施例1と同様にフィルムの作製および評価を行った。評価結果を表1に示す。
上記実施例及び比較例で製造した各フィルムは、以下のようにして各種項目についての評価測定を行った。ここで、フィルムの「縦」とは、Tダイからフィルム状の成形品が押し出されてくる方向を指し、また、フィルム面内でこれに直交する方向を「横」とする。
厚み100μmの各フィルムについて、JIS K7244-4:1999に準拠して、粘弾性スペクトロメーターDVA-200(アイティー計測制御株式会社製)を用い、引張速度5mm/minの条件で、横方向の23℃における引張弾性率を測定して、以下の基準で評価した。
○:引張弾性率が1000MPa~1500MPa(フィルムの剛性に優れるとともに、スピーカー等の振動板とした場合に、高音、低音の再現性に優れることを意味する)
×:引張弾性率が1000MPa未満、または1500MPaを超える(フィルムの剛性、スピーカー等の振動板とした場合の高音又は低音の再現性のうち、少なくとも何れかの特性が劣ることを意味する)
厚み100μmの各フィルムについて、JIS K7244-4:1999に準拠して、粘弾性スペクトロメーターDVA-200(アイティー計測制御株式会社製)を用い、引張速度5mm/minの条件で、横方向の140℃における引張弾性率を測定して、以下の基準で評価した。
○:引張弾性率が500MPa~1500MPa(耐熱性に優れるとともに、二次加工性が良好であることを意味する)
×:引張弾性率が500MPa未満、または1500MPaを超える(耐熱性、二次加工性のうち、少なくとも何れかの特性が劣ることを意味する)
厚み100μmの各フィルムについて、JIS P8115に準拠して、MIT折曲疲労試験機(東洋精機工業株式会社製)を用いて、耐折強度を測定して、以下の基準で評価した。
○:耐折強度が1000回以上
×:耐折強度が1000回未満
(1)と(2)の測定によって得られたそれぞれの値からE140/E23を算出し、以下の基準で評価した。
○:E140/E23が0.50以上3.0以下(耐熱性に優れるとともに、二次加工性が良好であることを意味する)
×:E140/E23が0.50未満、または、3.0を超える(耐熱性、二次加工性のうち、少なくとも何れかの特性が劣ることを意味する)
厚み100μmの各フィルムについて、JIS K7029:2000に準拠して、23℃×50%RHの条件で24時間保持した前後の重量変化から吸水率を測定し、以下の基準で評価した。
○:吸水率が2.0%以下
×:吸水率が2.0%を超える
Claims (12)
- ジカルボン酸成分とジアミン成分から構成され、前記ジカルボン酸成分又は前記ジアミン成分のうち少なくとも何れかの主成分が脂環族化合物であるポリアミド樹脂(A)を含み、
芳香族ジカルボン酸(b-1)を主成分とするジカルボン酸成分と、脂環族ジアミン(b-2)を主成分とするジアミン成分と、アミノカルボン酸(b-3)を主成分とする第三成分とから構成されるポリアミド樹脂(B)を更に含む、音響部材用フィルム。 - 前記脂環族化合物が、脂環式構造を少なくとも2つ有する請求項1に記載の音響部材用フィルム。
- 前記ジアミン成分が、脂環族ジアミンを主成分とする請求項1又は2に記載の音響部材用フィルム。
- 前記脂環族ジアミンが、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)および/または4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)である請求項3に記載の音響部材用フィルム。
- 前記ジカルボン酸成分が、脂肪族ジカルボン酸を主成分とする請求項1~4のいずれかに記載の音響部材用フィルム。
- 前記脂環族ジアミン(b-2)が、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)および/または4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)である請求項1~5のいずれかに記載の音響部材用フィルム。
- ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との混合質量比が、80/20~20/80である請求項1~6のいずれかに記載の音響部材用フィルム。
- 23℃における引張弾性率(E23)が1000MPa以上、1500MPa以下である請求項1~7のいずれかに記載の音響部材用フィルム。
- 23℃における耐折強度が1000回以上である請求項1~8のいずれかに記載の音響部材用フィルム。
- 23℃における引張弾性率(E23)と140℃における引張弾性率(E140)の比(E140/E23)が0.50以上3.0以下である請求項1~9のいずれかに記載の音響部材用フィルム。
- 23℃、50%RHにおける吸水率が2%以下である請求項1~10のいずれかに記載の音響部材用フィルム。
- 請求項1~11のいずれかに記載の音響部材用フィルムを成形してなる音響部材用振動板。
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