JP7294413B2 - 希土類非焼結磁石 - Google Patents

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Description

本発明は、希土類非焼結磁石に関する。
希土類元素を含む磁性材を用いた永久磁石(希土類磁石)は、家庭用品、自動車、電機製品、通信機器、音響機器、医療機器、一般産業機器等に広く利用されている。
希土類磁石としては、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、プラセオジム磁石、Sm-Fe-N(サマリウム鉄窒素)磁石等が知られている。これらの中でも、耐熱性に優れるネオジム磁石及びサマリウムコバルト磁石は、高温で焼結して製造されるいわゆる焼結型磁石として使用されている。これに対してサマリウム鉄窒素磁石は、ネオジム磁石に匹敵する性能を有する一方で、高温で加熱すると磁性が低下するため、樹脂等のバインダと混合して得られるいわゆるボンド磁石としての使用が一般的である(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
特開平08-273916号公報 特開平10-275718号公報
ボンド磁石は焼結型磁石に比べて製造コストが低い、加工が容易である等の利点を有する。その一方で、耐熱性が求められる用途での適用の観点から、高温環境下での使用に耐え得る機械的強度(以下、高温下での強度とも称する)の改善に対する要求が高まっている。
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温下での強度に優れる希土類非焼結磁石を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 希土類元素を含む磁性材粒子を含む成形体の熱処理物であり、大気雰囲気下にて200℃で504時間熱処理したときの質量増加率が1.0%以下である希土類非焼結磁石。
<2> 希土類元素を含む磁性材粒子を含む成形体の熱処理物であり、大気雰囲気下にて200℃で504時間熱処理したときの寸法変化率の絶対値が1.4%以下である希土類非焼結磁石。
<3> 前記磁性材粒子が前記希土類元素としてサマリウム(Sm)を含む<1>又は<2>に記載の希土類非焼結磁石。
<4> 前記磁性材粒子に含まれる成分の酸化物及び水酸化物の少なくとも一方を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の希土類非焼結磁石。
<5> 前記磁性材粒子以外の金属粒子をさらに含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の希土類非焼結磁石。
<6> 樹脂成分を含まないか、又は前記樹脂成分の含有率が10質量%以下である<1>~<5>のいずれか1つに記載の希土類非焼結磁石。
本開示によれば、高温下での強度に優れる希土類非焼結磁石が提供される。
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の目的が達成されるのであれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示では、希土類元素を含む磁性材粒子を焼結させずに得られる希土類磁石を「希土類非焼結磁石」と称する。
本開示では、成形体の最高到達温度が80℃以上となるように行う処理を「熱処理」と称する。
<希土類非焼結磁石>
[第1実施形態]
本開示に係る第1実施形態の希土類非焼結磁石は、希土類元素を含む磁性材粒子を含む成形体の熱処理物であり、大気雰囲気下にて200℃で504時間熱処理したときの質量増加率が1.0%以下である。第1実施形態の希土類非焼結磁石は、高温条件下に長時間曝されたときの質量増加率が小さいため、磁性材粒子同士の境界にて、酸化物、水酸化物等が汎用磁石と比較して多く存在しており、その結果、高温下での強度に優れると推測される。
第1実施形態の希土類非焼結磁石は、高温下での強度の観点から、大気雰囲気下にて200℃で504時間熱処理したときの質量増加率は、0.95%以下であることが好ましく、0.9%以下であることがより好ましい。また、前述の質量増加率は、0.1%以上であってもよい。
前述の質量増加率は、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
第1実施形態の希土類非焼結磁石は、成形体中の磁性材粒子が焼結しない温度(例えば、500℃以下)で成形体に対して熱処理を行うことで得られる。磁性材粒子が焼結しない温度で成形体に対して熱処理を行うことで、焼結型磁石の製造に適さない磁性材粒子(例えば、Sm-Fe-N磁性材粒子)も原料として好適に使用することができる。
第1実施形態の希土類非焼結磁石は、磁性材粒子に含まれる成分の酸化物及び水酸化物の少なくとも一方を含むことが好ましい。前述の酸化物及び水酸化物の少なくとも一方を含むことにより、希土類非焼結磁石の強度により優れる。
-磁性材粒子-
成形体に含まれる磁性材粒子の種類は、特に限定されない。例えば、希土類元素としてSm(サマリウム)を含む磁性材粒子及び希土類元素としてNd(ネオジム)を含む磁性材粒子が挙げられる。成形体に含まれる磁性材粒子は、1種のみであっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
Smを含む磁性材粒子としては、Sm-Fe-N磁性材粒子(SmFe17、SmFe等、xは正の数)、Sm-Fe-B磁性材粒子(SmFe14B、Sm15Fe77等)、Sm-Co磁性材粒子(SmCo、SmCo17等)、Sm-Co-N磁性材粒子(SmCo17等、xは正の数)、Sm-Co-B磁性材粒子(Sm15Co77等)などが挙げられる。
Ndを含む磁性材粒子としては、Nd-Fe-B磁性材粒子(NdFe14B等)などが挙げられる。
磁性材粒子としては、希土類元素に加え、Feをさらに含む磁性材粒子が好ましい。Feを含む磁性材粒子を用いることで、酸素を含む雰囲気中での成形体の熱処理によってFeの酸化物及び水酸化物が生成し、希土類非焼結磁石の強度がより向上する傾向にある。
Smを含む磁性材粒子の中でも、保磁力及び磁束密度のバランスに優れる観点で、Sm-Fe-N磁性材粒子が好ましい。ここで、Sm-Fe-N磁性材粒子とは、Sm(サマリウム)、Fe(鉄)及びN(窒素)を含む磁性材粒子を意味する。
Sm-Fe-N磁性材粒子は、Sm、Fe及びN以外に、他の元素を含有していてもよい。他の元素としては、Ga、Nd、Zr、Ti、Cr、Co、Zn、Mn、V、Mo、W、Si、Re、Cu、Al、Ca、B、Ni、C、La、Ce、Pr、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Y、Th等が挙げられる。これら他の元素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。他の元素は、Sm、Fe及びNを合計で50質量%以上含有する磁石相の相構造の一部と置換されていて導入されていてもよく、挿入されて導入されていてもよい。Sm-Fe-N磁性材粒子が、Sm、Fe及びN以外の元素を含有する場合、Sm、Fe及びNの総量が全体の50質量%以上であることが好ましい。
磁性材粒子の体積平均粒子径(D50)は、特に限定されない。例えば、0.1μm~100μmの範囲から選択してもよい。
磁性材粒子の体積平均粒子径が小さいほど、得られる希土類非焼結磁石の強度が向上する傾向にある。これは、磁性材粒子の体積平均粒子径が小さいほど体積当たりの粒子の表面積が増大し、磁性材粒子表面における酸化物及び水酸化物の生成が進行するためと考えられる。希土類非焼結磁石の強度の観点からは、磁性材粒子の体積平均粒子径(D50)は、50μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが特に好ましく、4μm以下であることが極めて好ましい。磁性材粒子の体積平均粒子径(D50)は、1μm以上であってもよい。
希土類非焼結磁石の強度及び磁気特性の観点からは、体積平均粒子径(D50)が異なる2種以上の磁性材粒子を併用してもよい。
磁性材粒子の体積平均粒子径(D50)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布において、小径側からの累積が50%となるときの粒子径(D50)として測定することができる。
磁性材粒子の形状は特に限定されない。希土類非焼結磁石の磁気特性の観点からは、磁性材粒子の形状は球状又は球状に近い形状であることが好ましい。
本開示において球状又は球状に近い形状としては、円形度係数が78%以上であるか、針状度係数が75%以上である形状が挙げられる。
希土類非焼結磁石の強度の観点からは、球状又は球状に近い形状の磁性材粒子と、それ以外の形状、すなわち円形度係数が78%未満かつ針状度係数が75%未満である形状の磁性材粒子とを併用してもよい。
磁性材粒子は、円形度係数が78%以上であってもよく、80%以上であってもよく、85%以上であってもよく、90%以上であってもよい。磁性材粒子の円形度係数が大きいほど、磁性材粒子の形が球状に近いといえる。磁性材粒子の円形度係数は、次のように定義される。
円形度係数=(4πS/L)×100
S=粒子像の面積
L=粒子像の周囲長
磁性材粒子は、針状度係数が75%以上であってもよく、80%以上であってもよく、85%以上であってもよく、90%以上であってもよい。磁性材粒子の針状度係数が大きいほど、磁性材粒子の形が球状に近いといえる。磁性材粒子の針状度係数は、次のように定義される。
針状度係数(%)=(b/a)×100
a=粒子像の長径
b=粒子像の短径
磁性材粒子の粒子像の面積、周囲長、長径及び短径は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)等による観察によって測定できる。具体的には、磁性材粒子の長径は、磁性材粒子の撮影像を観察したときに、磁性材粒子表面の任意の点aから、点aと異なる任意の点bまでの距離が最長となる線分の長さとする。磁性材粒子の短径は、長径に垂直であって、磁性材粒子表面の二点を結ぶ線分のうち、長さが最長となる線分の長さとする。磁性材粒子の粒子像の面積、周囲長、長径及び短径は、画像ソフト等を用いて計算してもよい。磁性材粒子の粒子像の面積、周囲長、長径及び短径は、100個の粒子の測定値の算術平均値として求められる。
熱処理物とする前及び熱処理物とした後の成形体中の磁性材粒子の含有率は、特に限定されず、磁気特性の確保と高温下での強度の向上とのバランスの観点から、成形体全体の30質量%~100質量%であることが好ましい。希土類非焼結磁石の磁気特性を確保する観点からは、前述の磁性材粒子の含有率は、成形体全体の35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であることが特に好ましい。希土類非焼結磁石の強度の観点からは、前述の磁性材粒子の含有率は、成形体全体の90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。
-金属粒子-
成形体は、磁性材粒子のみからなっていても、磁性材粒子に加えて磁性材粒子以外の金属粒子をさらに含んでいてもよい。成形体が金属粒子を含むことで、得られる希土類非焼結磁石の強度がより向上する傾向にある。
本開示において「金属粒子」とは、希土類元素を含まない金属又は合金の粒子を意味する。
金属粒子の比表面積は、磁性材粒子との接触面積が充分に得られて磁性材粒子の接合がより強固になる観点から、0.2m/g以上であることが好ましい。金属粒子の比表面積の上限は特に制限されず、例えば、2.0m/g以下であってもよい。
金属粒子の比表面積は、BET法(窒素ガス吸着法)で測定することができる。
金属粒子の種類は、特に限定されない。金属粒子として具体的には、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、錫(Sn)、インジウム(In)等の金属の単体の粒子、これら金属の合金などの粒子が挙げられる。これらの金属粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、金属粒子は、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
金属粒子は、下記に示す理由から、Cuを含むことがより好ましい。
(1)金属粒子の含有率(質量基準)を変更せずに比重の大きい金属粒子を用いて、目的とする大きさの磁石を作製する場合に、磁石全体に対する磁性材粒子の割合(体積比)を大きくできる。そのため、質量基準での含有率を変更せずに、比重の大きい金属粒子を用いた場合、希土類メタルボンド磁石は磁気特性を確保しやすくなる。
(2)Cuは延性が高いため、これを金属粒子として用いると、成形体中の磁性材粒子と金属粒子が最密充填されやすくなり、成形体の密度が向上する。さらに、Cuは摺動性に優れる、すなわち摩擦抵抗が低いため、成形に用いる金型の長寿命化にも繋がる。
(3)金属粒子としてCuを用いると、得られる磁石の熱膨張率が鉄(Fe)に近くなる。そのため、磁石を適用する部位に鉄製の部材が用いられている場合、得られる熱膨張率が好ましいものとなる。
金属粒子は、銅と銅以外の元素とを含む合金(銅合金)の粒子であってもよい。銅合金として具体的には、銅と、リン(P)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)及び鉄(Fe)からなる群より選択される少なくとも1種と、を含む銅合金が挙げられる。
金属粒子の体積平均粒子径(D50)は、特に限定されない。例えば、1μm~100μmであることが好ましく、10μm~80μmであることがより好ましく、20μm~70μmであることがさらに好ましい。
金属粒子としては、体積平均粒子径(D50)が異なる2種以上の金属粒子を併用してもよい。
金属粒子の体積平均粒子径(D50)は、磁性材粒子の体積平均粒子径(D50)と同様にして測定することができる。
金属粒子は、磁性材粒子の結着材としての役割を果たす観点からは、軟らかい金属の粒子であることが好ましい。具体的には、ビッカース硬さHvが200以下である金属の粒子であることが好ましい。磁性材粒子との結着性の観点からは、金属粒子のビッカース硬さHvは150以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましい。金属粒子のビッカース硬さHvの下限値は特に限定されるものではない。例えば、10以上であってもよく、30以上であってもよい。
ビッカース硬さHvの測定方法は、以下のとおりである。JIS Z 2244(2009)に準じて、マイクロビッカース硬さ試験機(株式会社ミツトヨ製:HM-200B)を用いて、予め定められた試験力にて試験体の表面に押圧し、その際に形成されたくぼみの対角線長さから試験体の硬度を算出する。なお、希土類非焼結磁石に含まれる金属成分の分析結果から金属粒子のビッカース硬さHvを特定してもよい。例えば、測定対象となる希土類非焼結磁石に対し、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製:JSM-IT100)を用いたエネルギー分散型X線分析(EDS)により元素分析を行って、希土類非焼結磁石に含まれる金属の種類を特定することで、原料となった金属粒子のビッカース硬さHvを推定してもよい。
金属粒子の形状は、特に限定されない。例えば、不規則形状が挙げられる。金属粒子の形状が不規則形状であることで、成形体中の空隙を少なくでき、強度に優れる希土類非焼結磁石が得られる傾向がある。不規則形状を有する金属粒子の短径に対する長径の比(長径/短径)は、特に限定されるものではない。より機械的強度が向上しやすい観点から、長径/短径の比の値は、1より大きいことが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましい。また、成形体中での分散性等の観点から、長径/短径の比の値は、3.5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。金属粒子の長径及び短径は、前述の磁性材粒子の長径及び短径と同様の方法により測定できる。
成形体が金属粒子を含む場合、熱処理物とする前及び熱処理物とした後の金属粒子の含有率は、特に限定されない。磁気特性の確保と強度の向上のバランスの観点から、前述の金属粒子の含有率は成形体全体の5質量%~70質量%であることが好ましい。希土類非焼結磁石の強度の観点からは、前述の金属粒子の含有率は、成形体全体の10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。希土類非焼結磁石の磁気特性の観点からは、前述の金属粒子の含有率は、成形体全体の65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましく、55質量%以下であることが特に好ましい。
-樹脂成分-
成形体は、樹脂を含んでもよい。樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。得られる希土類非焼結磁石の耐熱性及び耐油性の観点からは、成形体は樹脂を含まないか、又は、熱処理物とする前及び熱処理物とした後の樹脂の含有率が成形体全体の10質量%以下であることが好ましく、成形体は樹脂を含まないか、又は、前述の樹脂の含有率が成形体全体の5質量%以下であることがより好ましい。
[第2実施形態]
本開示に係る第2実施形態の希土類非焼結磁石は、希土類元素を含む磁性材粒子を含む成形体の熱処理物であり、大気雰囲気下にて200℃で504時間熱処理したときの寸法変化率の絶対値が1.4%以下である。第2実施形態の希土類非焼結磁石は、高温条件下に長時間曝されたときの寸法変化率の絶対値が小さいため、磁性材粒子同士の境界にて、酸化物、水酸化物等が汎用磁石と比較して比較的多く存在しており、その結果、高温下での強度に優れると推測される。
第2実施形態の希土類非焼結磁石における好ましい構成は、前述の第1実施形態の希土類非焼結磁石と同様であり、例えば、第2実施形態の希土類非焼結磁石は、前述の質量増加率の条件を満たしていてもよい。
第2実施形態の希土類非焼結磁石は、高温下での強度の観点から、大気雰囲気下にて200℃で504時間熱処理したときの寸法変化率の絶対値は、1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.3%以下であることがさらに好ましく、0.2%以下であることが特に好ましい。
また、前述の寸法変化率の絶対値は、0.05%以上であってもよい。
前述の寸法変化率の絶対値は、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
前述の寸法変化率は、値が負であってもよく、例えば、-0.5%以上-0.05%以下であってもよく、-0.3%以上-0.05%以下であってもよく、-0.2%以上-0.05%以下であってもよい。
本開示の希土類非焼結磁石は高温下での強度に優れるため、耐熱性が要求される用途にも好ましく適用できる。また、本開示の希土類非焼結磁石は、樹脂を含まないか、樹脂の量が10質量%以下である場合には、結着材として主に樹脂材料を用いる希土類非焼結磁石に比べて耐油性にも優れており、本開示の希土類非焼結磁石は、耐油性が要求される用途にも好ましく適用できる。
<希土類非焼結磁石の製造方法>
本開示の希土類非焼結磁石の製造方法の一実施形態について以下に説明する。本実施形態の製造方法は、希土類元素を含む磁性材粒子を含む成形体を、酸素を含む雰囲気中で熱処理する工程を有する希土類非焼結磁石の製造方法である。
本開示の方法によれば、高温下での強度に優れる希土類非焼結磁石が得られる。その理由は明らかではないが、以下のように考えることができる。
本開示の希土類非焼結磁石の製造方法では、磁性材粒子を含む成形体を、酸素を含む雰囲気中で熱処理する。これにより、磁性材粒子の粒子同士の境界において、磁性材粒子に含まれる成分(例えば、Sm-Fe-N系磁性材粒子に含まれるFe)の酸化物及び水酸化物の生成量が、相対的に増加する傾向がみられる。この傾向は、不活性ガス雰囲気下における熱処理ではみられないものである。そして、この相対的に増加した酸化物及び水酸化物が、希土類非焼結磁石の強度の向上に寄与していると推測される。
以下、本開示の希土類非焼結磁石を製造方法の具体例について説明する。以下の具体例では、磁性材粒子を含む磁石用材料を準備する工程(磁石用材料準備工程)と、磁石用材料を成形して成形体とする工程(成形工程)と、成形工程で得られた成形体を、酸素を含む雰囲気中で熱処理する工程(熱処理工程)と、をこの順に実施する。ただし、本開示の希土類非焼結磁石の製造方法は、以下の具体例に制限されるものではない。
(1)磁石用材料準備工程
磁石用材料準備工程では、磁性材粒子を含む磁石用材料を準備する。磁石用材料を準備する方法は、特に限定されない。例えば、磁性材粒子と、必要に応じて含まれる金属粒子とを混合して磁石用材料を調製してもよい。
磁性材粒子と他の材料(例えば、金属粒子)とを混合して磁石用材料を調製する場合、磁石用材料の調製は、例えば、ミキシングシェーカー、タンブラーミキサー、V型混合機、ダブルコーン型混合機、リボン型混合機、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の公知の混合装置を用いて行ってもよい。
(2)成形工程
成形工程では、磁石用材料を成形して成形体とする。成形の方法は、特に限定されない。成形性の観点からは、圧縮成形法であることが好ましい。圧縮成形する場合の圧力は、特に限定されず、圧力が高いほど高磁束密度及び高強度の希土類非焼結磁石が得られる傾向にある。一方、生産性の観点からは、圧縮成形する場合の圧力は低いことが好ましい。このため、圧縮成形する場合の圧力は、例えば、500MPa~2500MPaであってもよい。量産性及び金型寿命の観点から、圧縮成形する場合の圧力は、700MPa~1500MPaであることがより好ましい。
成形工程で得られる成形体の密度(成形体全体の密度)は、特に限定されない。例えば、原料となる磁石用材料の真密度に対して75%~90%であることが好ましく、80%~90%であることがより好ましい。成形体の密度が磁石用材料の真密度に対して75%~90%の範囲であると、磁気特性が良好で、機械的強度に優れる希土類非焼結磁石が得られる傾向にある。
成形工程で金型を使用する場合、金型を加熱して成形してもよく、金型を加熱しないで成形してもよい。金型を加熱して成形する場合、金型の加熱温度は、特に限定されない。例えば、金型の加熱温度は、100℃~300℃であることが好ましく、150℃~250℃であることがより好ましい。なお、金型の加熱は、成形工程で得られた成形体に対して行う「熱処理」とは異なるものである。
(3)熱処理工程
熱処理工程では、成形工程で得られた成形体を、酸素を含む雰囲気中で熱処理する。熱処理の方法は、特に限定されない。例えば、加熱炉等の公知の装置を用いて行うことができる。熱処理が行われる「酸素を含む雰囲気」は、酸素が存在する雰囲気であれば、特に制限されない。例えば、酸素ガスを供給して行ってもよく、大気中で行ってもよい。経済的な観点からは、大気中(一般的には、水分を除く成分中の酸素濃度が約23質量%)で行うことが好ましい。
酸素を含む雰囲気中の酸素濃度(水分を除く成分中の濃度、以下同様)は、特に限定されるものではない。熱処理による酸化物及び水酸化物の生成を促進する観点からは、酸素濃度は、例えば、10質量%以上であってもよい。酸化物及び水酸化物の過剰な生成を抑制する観点からは、酸素濃度は、例えば、40質量%以下であってもよい。
熱処理工程は、酸素及び水蒸気を含む雰囲気中で行うことが好ましい。
上述したように、酸素を含む雰囲気中で熱処理を行うと、成形体に含まれる水分と、磁性材粒子の成分とが反応して水酸化物及び酸化物が生成すると考えられる。ここで、酸素に加えて水蒸気をさらに含む雰囲気中で熱処理を行うと、成形体に含まれる水分と、水蒸気と、磁性材粒子の成分とが反応して水酸化物及び酸化物の生成がより促進されると考えられる。その結果、磁性材粒子の接合強度が増して得られる希土類非焼結磁石の強度がより向上すると考えられる。
水蒸気を含む雰囲気中の水蒸気の濃度は、特に限定されない。水酸化物及び酸化物の生成を促進する観点からは、水蒸気の濃度は、例えば、相対湿度として10%以上であることが好ましい。一方、水酸化物及び酸化物の過剰な生成による強度の低下を抑制する観点からは、水蒸気の濃度は、例えば、相対湿度として80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。
熱処理は、減圧下又は加圧下で行っても、大気圧下で行ってもよい。経済的な観点からは、大気圧下で行うことが好ましい。
熱処理の温度は磁性材粒子が焼結しない温度であれば特に制限されず、成形体に含まれる磁性材粒子の耐熱性等を考慮して設定できる。
充分な磁気特性を維持する観点からは、熱処理の温度は、例えば、500℃以下であってもよく、450℃以下であってもよく、350℃以下であってもよく、300℃以下であってもよく、250℃以下であってもよい。熱処理の温度の下限値は特に制限されないが、酸化物及び水酸化物の生成を促進する観点からは、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。なお、本開示における熱処理の温度は、最高到達温度を表す。
熱処理の時間(最高到達温度での保持時間)は、特に限定されない。充分な熱処理の効果を得る観点からは、熱処理の時間は、10分以上であることが好ましく、30分以上であることがより好ましく、1時間以上であることがさらに好ましい。量産性の観点からは、熱処理の時間は、100時間以下であることが好ましい。
熱処理工程において、最高到達温度に到達するまでの昇温速度は、特に限定されない。昇温速度は、例えば、2℃/分以上であってもよく、5℃/分以上であってもよい。昇温速度は、例えば、20℃/分以下であってもよく、15℃/分以下であってもよい。
熱処理の終了後、成形体は、成形体の温度が室温(例えば、25℃)になるまで冷却される。冷却速度は、特に限定されない。冷却速度値は、例えば、2℃/分以上であってもよく、5℃/分以上であってもよい。また、冷却速度は、例えば、20℃/分以下であってもよく、15℃/分以下であってもよい。
以下に実施例を挙げて本発明の実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1及び2>
実施例1では表3に示す磁性材粒子を磁石用材料として用い、実施例2では表3に示す磁性材粒子及び金属粒子を、質量基準で75:25となるように混合することにより磁石用材料を調製した。実施例2では、磁性材粒子と金属粒子とを撹拌装置を用いて約50回転/分にて30分間撹拌することにより混合した。
(成形体の作製)
実施例1及び2の磁石用材料を用いて、油圧プレス機を用いて、980MPaの圧力で圧縮成形を行い、外径11.3mm×全長10mmの円柱形状の圧縮成形体を作製した。成形体の密度(Mg/m)を表3に示す。
(熱処理)
得られた成形体に対し、大気中(酸素濃度23質量%、温度25℃での相対湿度60%)にて200℃、1時間の条件で熱処理を行い、希土類非焼結磁石の試験片を得た。この熱処理では、磁石用材料の焼結は生じない。
<比較例1及び2>
比較例1及び2では表3に示す磁性材粒子を磁石用材料として用いた。
(成形体の作製)
比較例1及び2の磁石用材料を用いて、油圧プレス機を用いて、980MPaの圧力で圧縮成形を行い、外径11.3mm×全長10mmの円柱形状の圧縮成形体を作製した。成形体の密度(Mg/m)を表3に示す。
(熱処理)
得られた成形体に対し、窒素雰囲気にて200℃、1時間の条件で熱処理を行い、希土類非焼結磁石の試験片を得た。
表3中の略称は以下のとおりである。
磁性材粒子:Sm-Fe-N磁性材粒子(住友金属鉱山株式会社、体積平均粒子径:3μm)
金属粒子:銅粒子(福田金属箔粉工業株式会社製「CE-15」、長径/短径の比:2.8.5、ビッカース硬さHv:50、体積平均粒子径:45μm)
磁性材粒子:Nd-Fe-B磁性材粒子(「Nd-Fe-B(1)」とも称する。日立金属株式会社製、体積平均粒子径:100μm、鱗片状粒子であり、耐熱エポキシ樹脂を2質量%含む。)
磁性材粒子:Nd-Fe-B磁性材粒子(「Nd-Fe-B(2)」とも称する。日立金属株式会社製、体積平均粒子径:100μm、鱗片状粒子であり、耐熱エポキシ樹脂を1質量%含む。)
(質量変化率の算出)
上記で作製した希土類非焼結磁石の試験片を、大気雰囲気(酸素濃度23質量%、温度25℃、相対湿度60%)下にて200℃で表1に示す時間にわたって熱処理したときの質量変化率(正の値である場合は質量増加率)を以下の式に基づいて算出した。上記熱処理は恒温槽で行い、恒温槽の換気孔は開放している状態であった。
質量変化率(%)=[(A-B)/B]×100
(Aは、熱処理後の希土類非焼結磁石の試験片の質量(g)を意味し、Bは、熱処理前の希土類非焼結磁石の試験片の質量(g)を意味する。)
結果を表1に示す。
Figure 0007294413000001
(寸法変化率の算出)
上記で作製した希土類非焼結磁石の試験片を、大気雰囲気(酸素濃度23質量%、温度25℃、相対湿度60%)下にて200℃で表2に示す時間にわたって熱処理したときの寸法変化率を以下の式に基づいて算出した。
寸法変化率(%)=[(C-D)/D]×100
(Cは、熱処理後の希土類非焼結磁石の試験片の外径の寸法(mm)を意味し、Dは、熱処理前の希土類非焼結磁石の試験片の外径の寸法(mm)を意味する。)
結果を表2に示す。
Figure 0007294413000002
(150℃における強度の評価)
万能圧縮試験機(株式会社島津製作所製、AG-10TBR)を使用して、上記で作製した希土類非焼結磁石の試験片を、150℃雰囲気下にて、高さ方向から圧縮圧力を印加した。そして、圧縮圧力により、試験片が破壊されたときの圧縮圧力の最大値から圧壊強度(MPa)を算出して、高温圧壊強度(MPa)の評価を行った。高温圧壊強度(MPa)についてはN=3であり、平均値をそれぞれ求めた。結果を表3に示す。
Figure 0007294413000003
表1~3に示すように、実施例1及び2において、質量変化率及び寸法変化率の絶対値がそれぞれより大きい値であった比較例1及び2よりも希土類非焼結磁石の圧壊強度が高かった。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。

Claims (5)

  1. 希土類元素を含む磁性材粒子を含む成形体の熱処理物であり、
    大気雰囲気下にて200℃で504時間熱処理したときの質量増加率が1.0%以下であり、
    前記磁性材粒子以外の金属粒子をさらに含み、前記金属粒子は、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)の少なくともいずれかを含む希土類非焼結磁石。
  2. 希土類元素を含む磁性材粒子を含む成形体の熱処理物であり、
    大気雰囲気下にて200℃で504時間熱処理したときの寸法変化率の絶対値が1.4%以下であり、
    前記磁性材粒子以外の金属粒子をさらに含み、前記金属粒子は、銅(Cu)及びアルミニウム(Al)の少なくともいずれかを含む希土類非焼結磁石。
  3. 前記磁性材粒子が前記希土類元素としてサマリウム(Sm)を含む請求項1又は請求項2に記載の希土類非焼結磁石。
  4. 前記磁性材粒子に含まれる成分の酸化物及び水酸化物の少なくとも一方を含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の希土類非焼結磁石。
  5. 樹脂成分を含まないか、又は前記樹脂成分の含有率が10質量%以下である請求項1~請求項のいずれか1項に記載の希土類非焼結磁石。
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