JP2016194140A - 希土類系磁性粉末及びその製造方法、並びにボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石 - Google Patents
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Abstract
【課題】磁気特性を低下させることなく、ボンド磁石での防錆性及び耐熱性を高めることができるNd−Fe−B系磁性粉末、Sm−Fe−N系磁性粉末を提供する。
【解決手段】本発明に係る希土類系磁性粉末は、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末から選択される磁性粉末により構成され、一般式(OR1)3SiR2、又は、一般式(OR1)4Si(但し、R1及びR2は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す)で表されるアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物が磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に形成されてなり、その加水分解生成物の形成量が、当該希土類磁性粉末1000質量部あたり0.1〜50質量部の割合である。
【選択図】なし
【解決手段】本発明に係る希土類系磁性粉末は、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末から選択される磁性粉末により構成され、一般式(OR1)3SiR2、又は、一般式(OR1)4Si(但し、R1及びR2は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す)で表されるアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物が磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に形成されてなり、その加水分解生成物の形成量が、当該希土類磁性粉末1000質量部あたり0.1〜50質量部の割合である。
【選択図】なし
Description
本発明は、希土類系磁性粉末に関し、より詳しくは、ボンド磁石用として用いられ、磁気特性を低下させることなく、優れた防錆性、耐熱性を付与したNd−Fe−B系又はSm−Fe−N系の希土類系磁性粉末、及びその製造方法、並びにその希土類系磁石粉末を含有するボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石に関する。
ボンド磁石は、その形状自在性や高寸法精度等の利点があるため、従来から電気製品や自動車部品等の各種用途に広く使用されている。例えば、CD、DVD、HDD用のスピンドルモータ、携帯電話用振動モータ、デジカメのアクチュエータ等の用途や、自動車部品の軽量化・省エネ化・高機能化のために、使用されるボンド磁石自体の高性能化及び苛酷な環境にも耐え得る高い防錆性が強く要求されている。
また、ボンド磁石は、通常、ゴム又はプラスチック材料等の結合剤樹脂と磁性粉末とを混練した後に成形することによって製造されているため、ボンド磁石の高性能化のためには磁性粉末の高性能化、すなわち大きな残留磁束密度(Br)と高い保磁力(iHc)とを有し、その結果、最大磁気エネルギー積(BH)maxが大きな磁性粉末が強く要求されている。
一般に、磁性粉末として、バリウムフェライトやストロンチウムフェライト等のマグネトプランバイト型フェライトや、Nd−Fe−B系磁性粉末、Sm−Fe−N系磁性粉末が知られている。Nd−Fe−B系磁性粉末は、飽和磁化値と異方性磁界がともに高いことから高効率モータに幅広く展開され、焼結磁石としては、携帯電話や各種家電製品をはじめとして、磁気医療診断装置(MRI)や放射光発生装置等の大型磁気回路にも幅広く用いられている。
また、Sm−Fe−N系磁性粉末は、Nd−Fe−B系磁性粉末と同様に飽和磁化値と異方性磁界がともに高く、さらに、高いキュリー温度を有することから、高性能磁性粉末として注目されている。特に、Nd−Fe−B系磁性粉末よりも高い防錆性を有していることから、Nd−Fe−B系磁性粉末を用いたボンド磁石が使用できない苛酷な環境下での使用が期待されている。
ところで、Nd−Fe−B系磁性粉末を得るためには、例えば、ネオジウムと鉄とボロンからなる合金塊を水素雰囲気中で高温処理して希土類の水素化物とFe及びFeとBの化合物とに一度分解する水素化及び不均化処理(HD処理)を行い、その後に水素を取り除き、再度微細な化合物の結晶を精製(DR処理)することによって得ることができるが、磁石に用いるためには適度な大きさにする必要がある。そのため、必要最小限の粉砕を施す必要がある。しかしながら、粉砕を施すと、活性な表面が露出することとなり、その表面に起因して酸化が進む。特に、湿度を帯びた空気中では短時間の間に容易に酸化し、磁気特性の低下を引き起こす。さらに、樹脂との混練、成形の各工程では、酸化性もしくは還元性雰囲気と熱により磁気特性の低下を引き起こす。またさらに、Nd−Fe−B系磁性粉末は、Feを含むために非常に錆びやすく、ボンド磁石とした後も、例えば海岸等の腐食環境で使用されると、吸水性の低い樹脂を用いてボンド磁石を使用した場合であっても、錆が発生する。
一方、Sm−Fe−N系磁性粉末は、サマリウムと鉄との合金に窒素を吸蔵させることで得ることができるが、永久磁石にするにはやはり適度な大きさにする必要があり、必要最小限の粉砕を施す必要がある。しかしながら、このSm−Fe−N系磁性粉末においても、粉砕を施すと活性な表面が露出することとなり、その表面に起因して酸化が進み、特に湿度を帯びた空気中においては短時間の間に容易に酸化し、磁気特性の低下を引き起こす。さらに、樹脂との混練、成形の各工程においても、酸化性もしくは還元性雰囲気と熱により、磁気特性の低下を引き起こす。またさらに、Sm−Fe−N系磁性粉末は、Nd−Fe−B系磁性粉末よりは錆びにくいものの、高温下では分解することから、ボンド磁石にする際にはエポキシ樹脂やポリアミド樹脂等の低融点樹脂しか使用できず、吸水することで錆が徐々に発生する。例えば、海岸等の腐食環境で使用されると、容易に錆が発生する。また、吸水しにくいスーパーエンジニアリングプラスチックは、融点が高いために、混練するとSm−Fe−N系磁性粉末では保磁力が大きく低下してしまい、目標とするボンド磁石の磁気特性を得ることができない。
すなわち、Nd−Fe−B系磁性粉末、Sm−Fe−N系磁性粉末においては、乾燥、表面処理、混練、成形の各工程で受ける酸化性もしくは還元性雰囲気と熱による磁気特性の劣化が少なく、ボンド磁石とした後も腐食環境で錆びにくいことが要求されている。
また、ボンド磁石の実用特性の重要な点である成形性は、高温高圧下における樹脂との混合状態での流動性に左右されることから、樹脂との成形時における耐化学反応性を有する磁性粉末であることが重要である。
このような状況において、例えば、Nd−Fe−B系磁性粉末の耐酸化性を向上させる表面処理方法として、リン酸系化合物で被膜する方法が特許文献1に開示されている。また、Nd−Fe−B系磁性粉末に対してSiO2保護膜を形成することが特許文献2に開示されている。
また、Sm−Fe−N系磁性粉末の耐酸化性を向上させる表面処理方法としては、リン酸系化合物で被膜する方法が特許文献3に開示されている。また、Sm−Fe−N系磁性粉末の耐酸化性を向上させる表面処理方法として、シリカ被膜を形成することが特許文献4〜6に開示されている。さらに、Sm−Fe−N系磁性粉末に対して、リン酸系化合物で被膜した後にシリカ被膜を形成することが特許文献6、7に開示されている。
具体的に、特許文献1には、Al、Mg、Ca、Zn、Si、Mn及びこれらの合金の中から選ばれる少なくとも一種のフレーク状微粉末とシラン及び/又はシランの部分加水分解物とを含む処理液による処理膜を形成することで、耐食性が向上することが記載されている。しかしながら、ボンド磁石とした後に苛酷な条件下、例えば海中の塩分濃度とほぼ同等のNaCl濃度5%の塩水中やSO4 2−が含まれた溶液中に浸漬させる等の苛酷な条件下においては、錆が発生して磁気特性が劣化する。また、特許文献1に記載の方法は、成形後の永久磁石に対し、スプレーガンを用いて処理液を加熱複合被膜の膜厚が10μmになるように処理するものであり、さらに熱風乾燥炉にて300℃の高温で熱処理するため、設備投資や生産効率の面から実用的であるとは言い難いものである。
また、特許文献2には、プラズマ化学蒸着法によりNd−Fe−B系磁性粉末表面に二酸化ケイ素の保護被膜を形成する方法が記載され、SiO2被膜を形成させることによって80℃、95RHに保った恒温恒湿槽中で500時間保持した後でも発錆状態は観察できず、オープンフラックスの減少率も小さかったとしている。しかしながら、処理した磁性粉末を用いてボンド磁石を作製した場合、特許文献2に記載されている80℃、95%RHに保った恒温恒湿槽での耐食性評価には一定の効果は見られるものの、より苛酷な条件下、例えば、NaCl濃度5%の塩水中に浸漬させる等の苛酷な状況下においては錆が発生してしまい、磁気特性が劣化する。
また、特許文献3には、リン酸化合物を被膜させることによってボンド磁石でのオープンフラックスの減少率が抑制できるとしているが、錆については明記されていない。また、特許文献4には、微粒子シリカ被膜を形成させることによって加速劣化後の磁気特性の劣化の程度が大きく改善されるとしているが、この特許文献4においても錆については明記されていない。さらに、特許文献5には、粒子表面にシリカ被膜を形成した磁性粉末を用いてボンド磁石を作製すると、100℃で所定の時間加熱した後にフラックスを測定した場合に、シリカ被膜を形成した磁性粉末を用いたボンド磁石のフラックスの減少率が抑制され、経時的安定性が極めて高いとしているが、錆については明記されていない。
また、特許文献6には、磁性粒子の粒子表面がリン酸化合物からなる第一層で被膜され、その第一層の表面がケイ素化合物とリン酸化合物とを含む複合被膜からなる第二層で被覆することにより、防錆性を与えている。しかしながら、永久磁石用の磁性粒子は互いに磁気的に凝集しているため、湿式での処理では磁気凝集した磁性粒子の凝集面に均一な被膜を形成することが難しく、被膜が形成されていない部分が生じる等の膜厚にムラができてしまい、厚い被膜部分が生じれば磁気特性が低下してしまう可能性がある。被膜は、凝集した粒子の外側を包むように形成されるため、粉末として良好な耐食性等を示しても、樹脂バインダーと共にせん断力をかけて混練してボンド磁石とすると、凝集していた面が露わになるため耐食性の向上が不完全となる。
また、特許文献6及び7には、磁性粒子の粒子表面がリン酸化合物からなる第一層で被膜され、その第一層の表面がシリカを主成分とするケイ素化合物からなる第二層で被覆することにより、防錆性を与えている。しかしながら、上述したように、永久磁石用の磁性粒子は互いに磁気的に凝集しているため、これら特許文献6及び7の技術においても、湿式での処理では磁気凝集した磁性粒子の凝集面に均一な被膜を形成することが難しく、被膜が形成されていない部分が生じる等の膜厚にムラができてしまい、厚い被膜部分が生じれば磁気特性が低下してしまう可能性がある。そして、被膜は、上述したように、凝集した粒子の外側を包むように形成されることから、粉末としては良好な耐食性等を示しても、樹脂バインダーと共にせん断力をかけて混練してボンド磁石とすると、凝集していた面が露わになるため耐食性の向上が不完全となってしまう。
以上のように、これらの先行技術においては種々の技術的課題があり、いずれの方法によってもこれらの技術的課題を完全に解決することはできていない。例えば、モータ内でNd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末を用いたボンド磁石を使用している際に錆が発生すると、磁気特性が劣化して性能が低下し、またモーターロックを引き起こして熱損する可能性がある。また、発生した錆が機器周辺を汚染する問題がある。
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、磁気特性を低下させることなく、ボンド磁石での防錆性及び耐熱性を高めることができるNd−Fe−B系磁性粉末、Sm−Fe−N系磁性粉末、並びにこれら磁性粉末を簡便な処理により得る方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上述した課題を解決するために、Nd−Fe−B系磁性粉末やSm−Fe−N系磁性粉末の粒子表面に、主要成分のFeの溶出を抑制する作用のある膜を極薄く形成することで磁気特性を低下することなく防錆性を向上させることについて鋭意検討を重ねた。その結果、特定のアルコキシ基含有珪素化合物を容器中で揮発させて、磁気凝集した磁性粉末の凝集面を含む、磁性粉末の粒子表面に吸着させ、その後水蒸気を含有する気体と接触させることでその珪素化合物のアルコキシ基を加水分解し、得られる加水分解生成物をその粒子表面に形成させるようにすることによって、より防錆性及び耐熱性を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
(1)本発明の第1の発明は、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末から選択される磁性粉末により構成され、一般式(OR1)3SiR2、又は、一般式(OR1)4Si(但し、R1及びR2は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す)で表されるアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物が前記磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に形成されており、前記加水分解生成物が、当該希土類磁性粉末1000質量部あたり0.1〜50質量部の割合で形成されている希土類系磁性粉末である。
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、予めリン酸化合物で処理された前記磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に、前記加水分解生成物が形成されている希土類系磁性粉末である。
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、磁気特性として、残留磁束密度が1.2T(12kG)以上で、角形性が398kA/m(5.0kOe)以上で、保磁力が800kA/m(10kOe)以上である希土類系磁性粉末である。
(4)本発明の第4の発明は、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末から選択される磁性粉末に対し、一般式(OR1)3SiR2、又は、一般式(OR1)4Si(但し、R1及びR2は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す)で表されるアルコキシ基含有珪素化合物を含有する気体を接触させることにより、該磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に、該アルコキシ基含有珪素化合物を吸着させ、その後、該磁性粉末に水蒸気を含有する気体を接触させることにより該アルコキシ基含有珪素化合物におけるアルコキシ基を加水分解し、さらに真空加熱処理を施し、該粒子表面の一部又は全面に加水分解生成物を形成する工程を有する希土類系磁性粉末の製造方法である。
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、前記アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解により得られる加水分解生成物を前記磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に形成する処理を複数回繰り返す希土類系磁性粉末の製造方法である。
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明に係る希土類系磁性粉末と、樹脂とを含有するボンド磁石用樹脂組成物である。
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明に係る希土類系磁性粉末を含むボンド磁石である。
本発明によれば、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末の粒子表面に、アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物が形成されていることにより、磁気特性を低下させることなく、ボンド磁石での防錆性及び耐熱性を高めることができる。
また、このような希土類系磁性粉末によれば、防錆性が高まったことにより、従来使用することができなかったような苛酷な環境においても、錆を発生させることなく使用することができる。また、この希土類系磁性粉末は、耐熱性に優れるため、融点の高いポニフェニレンサルファイド樹脂等を用いてボンド磁石を成形する過程においても、磁気特性を維持することができ、これまで以上に苛酷な環境においても使用することができる。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
1.希土類系磁性粉末
2.希土類系磁性粉末の製造方法
3.ボンド磁石用樹脂組成物
4.ボンド磁石
1.希土類系磁性粉末
2.希土類系磁性粉末の製造方法
3.ボンド磁石用樹脂組成物
4.ボンド磁石
≪1.希土類系磁性粉末≫
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末は、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末から選択される磁性粉末により構成されるものであり、その粉末の粒子表面の一部又は全面に特定のアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物が形成されていることを特徴としている。
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末は、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末から選択される磁性粉末により構成されるものであり、その粉末の粒子表面の一部又は全面に特定のアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物が形成されていることを特徴としている。
このように、粒子表面の一部又は全面に加水分解生成物を形成させることによって、磁性粉末の主要成分である鉄(Fe)の溶出を抑制することができ、磁性粉末の磁気特性の低下を防止することができる。そして、この希土類系磁性粉末では、特定のアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物が粒子表面に極薄く形成されていることにより、磁気特性を低下させることなく、効果的に防錆性及び耐熱性を向上させることができる。
<1−1.出発原料>
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末において、出発原料として使用する希土類系の磁性粉末は、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末のいずれかである。
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末において、出発原料として使用する希土類系の磁性粉末は、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末のいずれかである。
Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末としては、公知のものを使用することができるが、その中でも、予めリン酸化合物処理されて、その粒子表面がリン酸化合物で被膜されている磁性粉末を使用するのが好ましい。
<1−2.加水分解生成物を形成させた希土類系磁性粉末>
(加水分解生成物について)
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末は、上述したように、出発原料粉末であるNd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に、特定のアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物を形成している。
(加水分解生成物について)
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末は、上述したように、出発原料粉末であるNd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に、特定のアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物を形成している。
具体的に、アルコキシ基含有珪素化合物は、一般式(OR1)3SiR2、又は、一般式(OR1)4Siで表されるアルコキシ基含有珪素化合物から選択される1種以上のアルコキシ基含有珪素化合物である。但し、R1及びR2は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示し、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基を示す。また、その他の揮発性を有するアルコキシ基含有珪素化合物を使用することもできる。
詳しくは後述するが、この希土類系磁性粉末においては、上述したような揮発性を有するアルコキシ基含有珪素化合物を真空容器内で、あるいは大気圧下で不活性ガスを流通させながら揮発させ、その気体と出発原料粉末であるNd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末とを気相接触させる、いわゆる気相法により、粒子表面の一部又は全面にアルコキシ基含有珪素化合物を吸着させることができる。そしてその後、水蒸気を含む気体を接触させ加水分解反応を生じさせることにより、そのアルコキシ基含有珪素化合物におけるアルコキシ基を加水分解した加水分解生成物を形成させる。この気相法によれば、粒子表面の一部又は全面にナノレベルの極薄い加水分解生成物の膜を形成させることができ、磁性粉末の磁気特性を低下させることなく、極めて優れた防錆性及び耐熱性等を発揮させることができる。
ここで、加水分解生成物は、上述したようにアルコキシ基含有珪素化合物におけるアルコキシ基を加水分解することにより生成されるものであり、例えば珪素酸化物を含む。
上述した気相法により形成させる、吸着させたアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物の量(形成量)としては、希土類系磁性粉末1000質量部当たり0.1〜50質量部の割合とすることが重要となる。また、希土類系磁性粉末1000質量部当たり1〜20質量部の割合であることがより好ましい。
アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物の形成量が0.1質量部未満であると、磁性粉末粒子の表面に十分に形成させることができず、また、粉末粒子表面のほぼ全面に形成させることができたとしても膜厚が十分に得られないため、環境中の水分と反応して磁性粉末の主成分であるFeが溶出することで錆が発生しやすくなる。また、耐熱性も十分に得られない。一方で、加水分解生成物の形成量が50質量部を超えると、形成量が多すぎて膜厚が厚くなり磁気特性の低下が起こるため好ましくない。
(圧縮密度について)
加水分解生成物を表面に形成させた希土類系磁性粉末について、その圧縮密度(CD)としては、特に限定されないが、4.1g/ml以上であることが好ましい。圧縮密度が4.1g/ml未満の場合には、ボンド磁石を成形する際の射出成形時における体積当たりの密度が低くなり、磁気特性が低下する可能性がある。
加水分解生成物を表面に形成させた希土類系磁性粉末について、その圧縮密度(CD)としては、特に限定されないが、4.1g/ml以上であることが好ましい。圧縮密度が4.1g/ml未満の場合には、ボンド磁石を成形する際の射出成形時における体積当たりの密度が低くなり、磁気特性が低下する可能性がある。
(BET比表面積について)
加水分解生成物を表面に形成させた希土類系磁性粉末について、そのBET比表面積としては、特に限定されないが、Nd−Fe−B系磁性粉末の場合は、0.01〜3.5m2/gの範囲であることが好ましい。加水分解生成物を形成させたNd−Fe−B系磁性粉末において、BET比表面積が上述の範囲外であると、適切な粉砕が行われていないことを意味し、高い磁気特性を得ることができない。なお、BET比表面積として、0.01〜2.5m2/gの範囲であることがより好ましい。
加水分解生成物を表面に形成させた希土類系磁性粉末について、そのBET比表面積としては、特に限定されないが、Nd−Fe−B系磁性粉末の場合は、0.01〜3.5m2/gの範囲であることが好ましい。加水分解生成物を形成させたNd−Fe−B系磁性粉末において、BET比表面積が上述の範囲外であると、適切な粉砕が行われていないことを意味し、高い磁気特性を得ることができない。なお、BET比表面積として、0.01〜2.5m2/gの範囲であることがより好ましい。
また、Sm−Fe−N系磁性粉末の場合におけるBET比表面積としては、特に限定されないが、0.35〜2.6m2/gであることが好ましい。加水分解生成物を形成させたSm−Fe−N系磁性粉末において、BET比表面積が上述の範囲外であると、適切な粉砕が行われていないことを意味し、高い磁気特性を得ることができない。なお、BET比表面積として、0.35〜2.0m2/gの範囲であることがより好ましい。
(粉末粒子の平均粒径について)
加水分解生成物を表面に形成させた希土類系磁性粉末について、その粉末粒子の平均粒径としては、特に限定されないが、Nd−Fe−B系磁性粉末の場合は、10〜200μmであることが好ましく、40〜130μmであることがより好ましい。
加水分解生成物を表面に形成させた希土類系磁性粉末について、その粉末粒子の平均粒径としては、特に限定されないが、Nd−Fe−B系磁性粉末の場合は、10〜200μmであることが好ましく、40〜130μmであることがより好ましい。
また、Sm−Fe−N系磁性粉末の場合における粉末粒子の平均粒径としては、特に限定されないが、1.0〜5.0μmであることが好ましく、1.0〜4.0μmであることがより好ましい。
(磁性粉末の構造について)
加水分解生成物を表面に形成させた希土類系磁性粉末について、その粉末構造としては、特に限定されないが、Nd−Fe−B系磁性粉末の場合は、Nd2Fe14B型の構造を有することが好ましい。
加水分解生成物を表面に形成させた希土類系磁性粉末について、その粉末構造としては、特に限定されないが、Nd−Fe−B系磁性粉末の場合は、Nd2Fe14B型の構造を有することが好ましい。
また、Sm−Fe−N系磁性粉末の場合における粉末構造としては、特に限定されないが、Th2Zn17型、TbCu7型、又はTh2Ni17型の構造を有することが好ましい。
(磁性粉末の磁気特性について)
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末は、上述したように、吸着させたアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解により得られる加水分解生成物が粒子表面に極薄く形成されてなっていることにより、磁気特性を低下させることなく、効果的に防錆性及び耐熱性を向上させることができる。具体的に、その磁気特性としては、Nd−Fe−B系磁性粉末を用いた場合、当該磁性粉末を磁場中で配向させて測定した結果として、例えば、保磁力が478.〜1989kA/m(6〜25kOe)であり、残留磁束密度が1.1〜1.5T(11〜15kG)であり、最大磁気エネルギー積が199.1〜358kJ/m3(25〜45MGOe)である。
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末は、上述したように、吸着させたアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解により得られる加水分解生成物が粒子表面に極薄く形成されてなっていることにより、磁気特性を低下させることなく、効果的に防錆性及び耐熱性を向上させることができる。具体的に、その磁気特性としては、Nd−Fe−B系磁性粉末を用いた場合、当該磁性粉末を磁場中で配向させて測定した結果として、例えば、保磁力が478.〜1989kA/m(6〜25kOe)であり、残留磁束密度が1.1〜1.5T(11〜15kG)であり、最大磁気エネルギー積が199.1〜358kJ/m3(25〜45MGOe)である。
また、Sm−Fe−N系磁性粉末を用いた場合、その磁気特性は、当該磁性粉末を磁場中配向させて測定した結果として、例えば、保磁力が398.1〜1592kA/m(5〜20kOe)であり、残留磁束密度が1.0〜1.5T(10〜15kG)であり、最大磁気エネルギー積が158.8〜358.1kJ/m3(20〜45MGOe)である。
≪2.加水分解生成物を表面に形成させた希土類系磁性粉末の製造方法≫
次に、本実施の形態に係る希土類系磁性粉末、すなわち、アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解により得られる加水分解生成物を粉末粒子表面の一部又は全面に形成させた希土類系磁性粉末の製造方法について、Nd−Fe−B系磁性粉末の場合と、Sm−Fe−N系磁性粉末の場合とに分けて、それぞれ説明する。
次に、本実施の形態に係る希土類系磁性粉末、すなわち、アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解により得られる加水分解生成物を粉末粒子表面の一部又は全面に形成させた希土類系磁性粉末の製造方法について、Nd−Fe−B系磁性粉末の場合と、Sm−Fe−N系磁性粉末の場合とに分けて、それぞれ説明する。
<2−1.出発原料粉末の調製>
(Nd−Fe−B系磁性粉末の場合)
先ず、Nd−Fe−B系磁性粉末の場合について説明する。出発原料となるNd−Fe−B系磁性粉末は、ブックモールド法、遠心鋳造法、ストリップキャスト法、アトマイズ法、還元拡散法等の公知の合金作製方法のいずれかを用いて、出発合金であるNd−Fe−B鋳塊を作製する。
(Nd−Fe−B系磁性粉末の場合)
先ず、Nd−Fe−B系磁性粉末の場合について説明する。出発原料となるNd−Fe−B系磁性粉末は、ブックモールド法、遠心鋳造法、ストリップキャスト法、アトマイズ法、還元拡散法等の公知の合金作製方法のいずれかを用いて、出発合金であるNd−Fe−B鋳塊を作製する。
次に、作製したNd−Fe−B鋳塊に対し、結晶粒の粗大化及びα−Fe相の減少等を目的とした均質化処理を行う。この均質化処理は、例えば、雰囲気としては窒素雰囲気以外の不活性ガス中で、1000〜1200℃の温度条件で、1〜48時間の加熱処理を行う。このようにして均質化処理を行うことで、Nd−Fe−B鋳塊中の主成分元素の拡散を生じさせて、各成分を均質化させることができる。
ここで、Nd−Fe−B鋳塊は、主相であるNd2Fe14B相、Ndリッチ相、及びBリッチ相から構成されているが、Nd2Fe14B相の他に、α−Fe相及びNd2Fe17相等の強磁性相が存在していることが多い。そのため、上述した均質化処理を施すことによって、Nd2Fe14B相のみからなる組織にすることができる。また、このような均質化処理を施すことによって、結晶粒径を約100μm以上に粗大化することができる。平均粒径の粗大化は、磁気異方性を有するようになるため好ましい。
均質化処理の条件に関して、不活性ガス雰囲気として窒素を用いた場合、その窒素がNd−Fe−B鋳塊と反応するため好ましくない。また、均質化処理の熱処理温度として、1000℃未満では、主成分元素の拡散に時間がかかり製造コストを引き上げることになるため好ましくない。一方で、均質化処理の熱処理温度が1200℃を超えると、Nd−Fe−B鋳塊の融解が生じるため好ましくない。
次に、均質化処理が終わったNd−Fe−B鋳塊に対して、公知の粉砕方法、例えば、ジョークラッシャーなどの機械的粉砕や、水素吸蔵粉砕、ディスクミルなどを用いた粉砕等により粉砕処理を施す。
粉砕処理後、Nd−Fe−B系磁性粉末においては、HDDR処理を施すことができる。HDDR処理は、水素化・不均化処理(HD処理)と、脱水素・再結合処理(DR)とに分けられる。先ず、粉砕したNd−Fe−B系粉末を真空熱処理炉に投入し、水素ガスを流通させながら、800℃〜900℃の温度範囲で1〜5時間、水素化・不均化処理(HD処理)を行う。その後、HD処理と同じ温度で、真空中にて脱水素・再結合処理(DR処理)を行う。このようにしてHDDR処理を行うことで、優れた磁気異方性をもった出発原料粉末であるNd−Fe−B系磁性粉末を得ることができる。
(Sm−Fe−N系磁性粉末の場合)
次に、Sm−Fe−N系磁性粉末の場合について説明する。出発原料となるSm−Fe−N系磁性粉末は、例えばTh2Zn17型構造を有するSm2Fe17合金粉末に、窒素を導入して製造することができる。Sm2Fe17合金粉末は、ブックモールド法、遠心鋳造法、ストリップキャスト法、アトマイズ法、還元拡散法等の公知の合金作製方法のいずれかを用いて作製することができるが、その中でも、還元拡散法を用いることが好ましい。
次に、Sm−Fe−N系磁性粉末の場合について説明する。出発原料となるSm−Fe−N系磁性粉末は、例えばTh2Zn17型構造を有するSm2Fe17合金粉末に、窒素を導入して製造することができる。Sm2Fe17合金粉末は、ブックモールド法、遠心鋳造法、ストリップキャスト法、アトマイズ法、還元拡散法等の公知の合金作製方法のいずれかを用いて作製することができるが、その中でも、還元拡散法を用いることが好ましい。
ここで、還元拡散法では、例えば、鉄粉末と酸化サマリウム粉末とを原料とし、これらに金属カルシウム粒を加えて混合して、Arガス等の非酸化性雰囲気中で熱処理(還元拡散処理)を施す。この熱処理においては、金属カルシウムによって酸化サマリウムが還元され、還元されたサマリウムが鉄粉末に拡散することによって合金化する。なお、熱処理後の反応生成物中に含まれる酸化カルシウムは、冷却後に反応生成物を水中に投入して水酸化カルシウムとし、デカンテーションを繰り返すことで洗浄除去することができる。
Sm2Fe17合金粉末に対する窒素の導入(窒化)は、カルシウム成分を除去した後に回収したSm2Fe17合金粉末を乾燥し、窒素ガス、アンモニアガス等の窒素を含む雰囲気中で熱処理を施すことによって行われる。このようにして得られた窒化熱処理後の粉末は、Sm2Fe17N3の組成を有している。なお、窒化を還元拡散後の反応生成物に対して行い、その後にカルシウム成分を除去する洗浄処理を行うようにしてもよい。
そして、得られた窒化後の粉末を、例えば平均粒径が1.0〜5.0μmとなるように、解砕、粉砕、分級等で粒度調整することによって、出発原料粉末であるSm−Fe−N系磁性粉末を得ることができる。
<2−2.出発原料粉末に対するリン酸化合物処理>
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末の製造方法においては、上述のようにして得られた出発原料粉末に対して、アルコキシ基含有珪素化合物を吸着させ、その後加水分解することにより加水分解生成物を粒子表面に形成させることになるが、その加水分解生成物の形成に先立ち、出発原料粉末の粒子表面にリン酸化合物を付着(被覆)する処理(リン酸化合物処理)を施すことが好ましい。
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末の製造方法においては、上述のようにして得られた出発原料粉末に対して、アルコキシ基含有珪素化合物を吸着させ、その後加水分解することにより加水分解生成物を粒子表面に形成させることになるが、その加水分解生成物の形成に先立ち、出発原料粉末の粒子表面にリン酸化合物を付着(被覆)する処理(リン酸化合物処理)を施すことが好ましい。
このように出発原料粉末に対してリン酸化合物処理を施すことによって、原料の磁性粉末の耐久性を向上させることができるとともに、より一層に防錆性等を高めることができる。
リン酸化合物処理に関して、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末に対する被覆処理に用いるリン酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、オルトリン酸、リン酸水素二ナトリウム、ピロリン酸、メタリン酸、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム等を好適に使用することができる。その中でも、粒子表面に付着させるリン酸化合物としては、オルトリン酸が特に好ましい。
また、リン酸化合物処理に際しては、磁性粉末の表面に均一にリン酸化合物を被膜させるために、上述したリン酸化合物に対して、希釈溶液として例えばイソプロピルアルコール(IPA)を混合させ、撹拌機を用いて、50〜175℃の温度条件で、1〜3時間加熱しながら撹拌混合することが好ましい。さらに好ましくは、窒化後の粉末を、平均粒径が1.0〜5.0μmとなるように解砕、粉砕、分級等で粒度調整する際に、湿式の解砕、粉砕、分級等を行い、その処理溶媒に上述したリン酸化合物を添加する。その後、粒度調整された磁性粉末スラリーを非酸化性雰囲気中50〜175℃の温度条件で、1〜3時間加熱しながら撹拌乾燥する。このようにすることで、磁気凝集している粒子表面にもリン酸化合物被膜を形成することができる。
リン酸化合物の添加量(付着量、被覆量)としては、特に限定されないが、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末100質量部に対して、0.1〜5.0質量部程度とするのが好ましい。
<2−3.粒子表面における加水分解生成物の形成>
次に、上述のようにして調製された出発原料粉末(磁性粉末)に対して、アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物を粒子表面に形成する工程について説明する。
次に、上述のようにして調製された出発原料粉末(磁性粉末)に対して、アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物を粒子表面に形成する工程について説明する。
磁性粉末の表面に対する加水分解生成物の形成は、(1)アルコキシ基含有珪素化合物の気相接触による吸着、(2)水蒸気による加水分解、さらに好ましくは(3)真空加熱処理、の3ステップにより行うことができる。
(1)アルコキシ基含有珪素化合物の気相接触による吸着
本実施の形態においては、先ず、加熱可能な容器内に調製した磁性粉末を入れるとともに、その容器内に揮発性を有する一般式(OR1)3SiR2、又は、一般式(OR1)4Si(但し、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す)で表されるアルコキシ基含有珪素化合物を入れた別容器を設置する。そして、その容器内を、真空圧で−0.1MPa以下に脱気した後、容器全体を40〜100℃に加熱し、1〜48時間に亘って加熱処理を行う。つまり、粒子表面における加水分解生成物の形成においては、先ず、別容器に入れたアルコキシ基含有珪素化合物を揮発させ、磁性粉末の粒子表面に対して揮発させたアルコキシ基含有珪素化合物を気相で接触させるようにすることによって、磁気凝集した凝集面を含む、磁性粉末の表面の一部又は全面に適度にアルコキシ基含有珪素化合物を吸着させる。
本実施の形態においては、先ず、加熱可能な容器内に調製した磁性粉末を入れるとともに、その容器内に揮発性を有する一般式(OR1)3SiR2、又は、一般式(OR1)4Si(但し、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す)で表されるアルコキシ基含有珪素化合物を入れた別容器を設置する。そして、その容器内を、真空圧で−0.1MPa以下に脱気した後、容器全体を40〜100℃に加熱し、1〜48時間に亘って加熱処理を行う。つまり、粒子表面における加水分解生成物の形成においては、先ず、別容器に入れたアルコキシ基含有珪素化合物を揮発させ、磁性粉末の粒子表面に対して揮発させたアルコキシ基含有珪素化合物を気相で接触させるようにすることによって、磁気凝集した凝集面を含む、磁性粉末の表面の一部又は全面に適度にアルコキシ基含有珪素化合物を吸着させる。
アルコキシ基含有珪素化合物を吸着させるに際しての温度条件として、容器全体の温度が40℃未満であると、アルコキシ基含有珪素化合物の揮発が十分ではなく、効率的に磁性粉末の粒子表面に吸着させることが難しくなる。一方で、温度が100℃より高温であると、磁性粉末の磁気特性の低下が起こる恐れがある。したがって、温度条件としては、上述のように容器全体を40〜100℃に加熱し、より好ましくは60〜90℃に加熱する。
また、吸着の処理時間に関しては、処理時間が少なすぎると、アルコキシ基含有珪素化合物の吸着が十分ではなく、一方で、処理時間を長くしても、ある一定の吸着量以上には吸着されない。このことから、処理時間としては、上述のように1〜48時間とし、より好ましくは12時間〜24時間とする。
(2)水蒸気による加水分解
次に、上記(1)のステップにおける吸着処理に使用した容器から、アルコキシ基含有珪素化合物を入れた容器を取り出し、水蒸気を導入して、磁性粉末の表面の一部又は全面に吸着させたアルコキシ基含有珪素化合物に対する加水分解反応を生じさせる。具体的には、容器中に水蒸気を含む気体(空気、窒素、不活性ガス等)を流通させてもよいし、または、乾燥機の中にアルコキシ基含有珪素化合物を吸着させた磁性粉末と水とを入れた容器を配置して、減圧しながら40〜100℃に加熱し、水蒸気を発生させる。
次に、上記(1)のステップにおける吸着処理に使用した容器から、アルコキシ基含有珪素化合物を入れた容器を取り出し、水蒸気を導入して、磁性粉末の表面の一部又は全面に吸着させたアルコキシ基含有珪素化合物に対する加水分解反応を生じさせる。具体的には、容器中に水蒸気を含む気体(空気、窒素、不活性ガス等)を流通させてもよいし、または、乾燥機の中にアルコキシ基含有珪素化合物を吸着させた磁性粉末と水とを入れた容器を配置して、減圧しながら40〜100℃に加熱し、水蒸気を発生させる。
この水蒸気による加水分解によって、粒子表面の一部又は全面に吸着させたアルコキシ基含有珪素化合物におけるアルコキシ基が加水分解され、その粒子表面の一部又は全面に加水分解生成物が形成される。
加水分解に際しての温度条件として、容器全体の温度が40℃未満であると、水蒸気が十分に発生せずに、アルコキシ基含有珪素化合物に対する加水分解反応が不十分となり、磁性粉末の粒子表面に加水分解生成物を形成させることが難しくなる。一方で、温度が100℃より高温であると、磁性粉末の磁気特性の低下が起こる恐れがある。したがって、温度条件としては、上述のように容器全体を40〜100℃に加熱し、より好ましくは60〜90℃に加熱する。
また、加水分解の処理時間に関しては、処理時間が少なすぎると、アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解が十分に生じなくなり、一方で、処理時間を長くしても、ある一定以上には加水分解生成物が形成されない。このことから、処理時間としては、上述のように5〜60分とし、より好ましくは15〜45分とする。
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末の製造方法においては、上述した2ステップの処理を行うことによって、磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に加水分解生成物を形成させることができる。ここで、上述した(1)及び(2)の2ステップの処理は、複数回繰り返すことが好ましい。これにより、磁性粉末の表面のほぼ全面に、より強固に加水分解生成物を形成することができる。具体的には、この表面処理を3回以上繰り返すことがより好ましい。
また、本実施の形態に係る希土類系磁性粉末の製造方法では、気相法に基づく加水分解生成物の形成条件として、上述した温度条件、処理時間とすることによって、容器内に磁性粉末と揮発性を有するアルコキシ基含有珪素化合物や水を設置するという簡易な操作だけで、磁性粉末表面に、揮発したアルコキシ基含有珪素化合物が接触するようになり、磁性粉末の粒子表面に、またその細部にわたりアルコキシ基含有珪素化合物を吸着させることができる。そしてその後、水蒸気を含む気体と接触させることにより、アルコキシ基含有珪素化合物を加水分解して、その粒子表面に加水分解生成物を効率的に形成させることができる。
また、より効率的に且つより確実に磁性粉末の粒子表面に加水分解生成物を形成させるために、容器内部に撹拌機のような混合処理に用いる装置を内蔵させることが好ましい。
また、加水分解生成物の形成においては、磁性粉末を大気圧下で不活性ガスを流しながら、温度80〜100℃の条件で1〜24時間保持することによって、アルコキシ基含有珪素化合物と気相接触させるようにしてもよい。流通させるガス種としては、酸素雰囲気中での加熱による磁気特性の低下が懸念される観点から、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスであることが好ましい。また、大気中で気相接触させる場合には、積極的に磁性粉末表面にアルコキシ基含有珪素化合物を接触させたり、水蒸気と加水分解反応を効率的に進めるために、磁性粉末を撹拌しながら行うことが好ましい。
ここで、上記(1)、(2)に続く(3)のステップとして、磁性粉末の表面の一部又は全面に加水分解物を形成させた後、真空加熱処理を行うことが好ましい。具体的に、真空加熱処理は、加水分解処理を施した容器から、その加水分解生成物を形成させた磁性粉末のみを取り出し、別の容器に移すか、又は、加水分解処理した容器と同じ容器を用いる場合には、加水分解用の水を入れた容器を取り出して内部のガスを大気で置換した後に、再度、真空圧で−0.1MPa以下の真空下にして、60〜110℃の温度条件で1〜12時間に亘って乾燥処理(熱処理)を施すようにする。
このような真空加熱処理を施すことによって、加水分解により生成したアルコールや残留水分を完全に除去することができる。
真空加熱処理の温度条件に関しては、60℃未満であると、アルコールや残留水分を完全に除去させることができず、一方で、110℃を超えると、得られる希土類系磁性粉末の磁気特性に影響を与える可能性があるため好ましくない。したがって、60〜110℃の温度条件で行うことが好ましい。
なお、上述したように、加水分解生成物を形成させる処理を複数回繰り返す場合においては、上記(1)、(2)のステップに続いて、真空加熱処理を行う(3)のステップも併せて、複数回繰り返すことが好ましい。
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末の製造方法においては、上述したように、気相法を用い、揮発したアルコキシ基含有珪素化合物を含む気体を磁性粉末の粒子表面に接触させ、それにより粒子表面に加水分解生成物を形成させるようにしている。このような気相法では、液中で表面粒子表面にコーティング層を形成する液相法(湿式法)とは異なり、例えば厚さ0.5〜20nm程度、好ましくは1〜5nm程度のナノレベルの加水分解生成物の膜をその磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に形成することができる。
このようにして磁性粉末の粒子表面に極薄い加水分解生成物を形成させることができることにより、磁性粉末の磁気特性を低下させることなく、極めて優れた防錆性(耐食性)、耐熱性を付与することができる。また、上述したように、気相法により加水分解生成物を形成させた後に再度熱処理を施すことによって、形成させた加水分解生成物の膜をより緻密なものとすることができ、安定化させることができる。
≪3.ボンド磁石用樹脂組成物≫
次に、本実施の形態に係る希土類系磁性粉末を用いたボンド磁石用樹脂組成物について説明する。
次に、本実施の形態に係る希土類系磁性粉末を用いたボンド磁石用樹脂組成物について説明する。
ボンド磁石用樹脂組成物は、磁性粉末を結合剤樹脂中に分散してなるものである。本実施の形態に係るボンド磁石用樹脂組成物では、磁性粉末が、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末により構成され、その粒子表面の一部又は全面に、極薄い、アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物が形成されている。
ボンド磁石用樹脂組成物は、上述した表面処理されたNd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末を例えば85〜99質量%の割合で含有し、残部が結合剤樹脂と、その他必要に応じて添加された添加剤とで構成されている。
ここで、結合剤樹脂としては、特に限定されるものではなく、成形法によって種々選択することができる。例えば、射出成形、押し出し成形、及びカレンダー成形の場合には、熱可塑性樹脂を使用することができ、圧縮成形の場合には、熱硬化性樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン(PA)系、ポリプロピレン(PP)系、エチレンビニルアセテート(EVA)系、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系、液晶樹脂(LCP)系、エラストマー系、ゴム系等の樹脂を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系、フェノール系、シリコーン系等の樹脂を使用することができる。
また、ボンド磁石用樹脂組成物を製造するに際して、流動性、成形性等を改善し、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末の磁気特性を十分に引き出すために、必要に応じて、可塑剤、滑剤、カップリング剤等の周知の添加剤を使用することができる。また、フェライト磁石粉末等の他の種類の磁石粉末を混合してもよい。
ボンド磁石用樹脂組成物は、表面処理したNd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末を所定の割合で結合剤樹脂と混合させ、混練することによって得ることができる。混合に際しては、ヘンシェルミキサー、V字ミキサー、ナウター等の混合機等を用いて行うことができ、混練に際しては、一軸混練機、二軸混練機、臼型混練機、押し出し混練機等を用いて行うことができる。
≪4.ボンド磁石≫
ボンド磁石は、上述したボンド磁石用樹脂組成物を用いて得ることができる。具体的には、上述したボンド磁石用樹脂組成物を射出成形、押出成形、圧縮成形、カレンダー成形等の周知の成形法で成形加工した後、公知の手法に従って電磁石着磁やパルス着磁することにより、ボンド磁石とすることができる。
ボンド磁石は、上述したボンド磁石用樹脂組成物を用いて得ることができる。具体的には、上述したボンド磁石用樹脂組成物を射出成形、押出成形、圧縮成形、カレンダー成形等の周知の成形法で成形加工した後、公知の手法に従って電磁石着磁やパルス着磁することにより、ボンド磁石とすることができる。
本実施の形態に係る希土類系磁性粉末は、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に、アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物を形成させたものであるため、撥水性が付与されており、また表面状態が著しく変化している。磁性粉末の粒子表面に形成された加水分解生成物は、非常に薄く粒子表面に形成されているため、磁気特性への影響がほとんど認められず、また熱による磁性粉末の変質を抑える効果が認められる。
したがって、表面処理を施していない、すなわち加水分解生成物が形成されていない磁性粉末と比較して、磁気特性の低下がみられず、一方で極めて防錆性、耐熱性に優れたものとなっている。また、このような磁性粉末が有する防錆性、耐熱性は、その磁性粉末を用いてボンド磁石に成形した場合であっても、そのボンド磁石に対して優れた防錆性を付与する。
以下に、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されない。
<希土類系磁性粉末の作製>
[実施例1]
(1)異方性Nd−Fe−B系磁性粉末(愛知製鋼(株)製,MF−18P)50gを真空デシケーターの下段に設置し、その上段にアルコキシ基含有珪素化合物であるテトラエトキシシラン(TEOS,(OC2H5)4Si)5gを置き、−0.1MPa以下に減圧後、80℃の恒温槽に16時間入れた。これにより、揮発したアルコキシ基含有珪素化合物と磁性粉末とを気相で接触させ、磁性粉末に対する吸着処理を行った。
[実施例1]
(1)異方性Nd−Fe−B系磁性粉末(愛知製鋼(株)製,MF−18P)50gを真空デシケーターの下段に設置し、その上段にアルコキシ基含有珪素化合物であるテトラエトキシシラン(TEOS,(OC2H5)4Si)5gを置き、−0.1MPa以下に減圧後、80℃の恒温槽に16時間入れた。これにより、揮発したアルコキシ基含有珪素化合物と磁性粉末とを気相で接触させ、磁性粉末に対する吸着処理を行った。
(2)次に、テトラエトキシシランを吸着させた磁性粉末を取り出して真空乾燥機中に設置し、別の段に水の入った容器を設置した。−0.1MPa以下に減圧後、80℃に加熱し、30分間保持して、表面に吸着したテトラエトキシシランに対する加水分解処理を施し、粒子表面にテトラエトキシシランの加水分解生成物を形成させた。
(3)そしてその後、真空乾燥機から水の容器を取り出し、−0.1MPa以下に減圧後、90℃に昇温して2時間の加熱処理を施し、粒子表面に加水分解生成物を形成させたNd−Fe−B系磁性粉末を得た。
このような処理により得られたNd−Fe−B系磁性粉末は、出発原料として用いた磁性粉末に比べて、0.11g増量していた。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は2.2質量部であった。
[実施例2、3、4、5]
実施例2では、実施例1における(1)〜(3)の処理を4回繰り返し、実施例3では、実施例1における(1)〜(3)の処理を6回繰り返し、実施例4では、実施例1における(1)〜(3)の処理を8回繰り返し、実施例5では、実施例1における(1)〜(3)の処理を16回繰り返したこと以外は、それぞれ実施例1と同様にして表面処理により粒子表面に加水分解生成物を形成させたNd−Fe−B系磁性粉末を得た。
実施例2では、実施例1における(1)〜(3)の処理を4回繰り返し、実施例3では、実施例1における(1)〜(3)の処理を6回繰り返し、実施例4では、実施例1における(1)〜(3)の処理を8回繰り返し、実施例5では、実施例1における(1)〜(3)の処理を16回繰り返したこと以外は、それぞれ実施例1と同様にして表面処理により粒子表面に加水分解生成物を形成させたNd−Fe−B系磁性粉末を得た。
処理後のNd−Fe−B系磁性粉末の増量分は、実施例2では0.42gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は8.4質量部であった。また、実施例3における処理後のNd−Fe−B系磁性粉末の増量分は、0.58gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は11.6質量部であった。また、実施例4における処理後のNd−Fe−B系磁性粉末の増量分は、0.75gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は14.9質量部であった。また、実施例5における処理後のNd−Fe−B系磁性粉末の増量分は、1.44gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は28.8質量部であった。
[実施例6、7]
実施例6では、実施例1における(1)の処理で気相接触時間を2時間で行い、実施例7では、実施例1における(1)の処理で気相接触時間を8時間で行ったこと以外は、それぞれ実施例1と同様にして表面処理により粒子表面に加水分解生成物を形成させたNd−Fe−B系磁性粉末を得た。
実施例6では、実施例1における(1)の処理で気相接触時間を2時間で行い、実施例7では、実施例1における(1)の処理で気相接触時間を8時間で行ったこと以外は、それぞれ実施例1と同様にして表面処理により粒子表面に加水分解生成物を形成させたNd−Fe−B系磁性粉末を得た。
処理後のNd−Fe−B系磁性粉末の増量分は、実施例6では0.009gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は0.18質量部であった。また、実施例7における処理後のNd−Fe−B系磁性粉末の増量分は、0.07gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は1.4質量部であった。
[実施例8]
磁性粉末として、Sm−Fe−N系磁性粉末(住友金属鉱山(株)製,SFN−C,リン酸化合物処理品)を使用して、それ以外は実施例1と同様にして表面処理により粒子表面に加水分解生成物を形成させたSm−Fe−N系磁性粉末を得た。
磁性粉末として、Sm−Fe−N系磁性粉末(住友金属鉱山(株)製,SFN−C,リン酸化合物処理品)を使用して、それ以外は実施例1と同様にして表面処理により粒子表面に加水分解生成物を形成させたSm−Fe−N系磁性粉末を得た。
処理後のSm−Fe−N系磁性粉末の増量分は、0.13gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は2.6質量部であった。
[実施例9、10、11、12]
実施例9では、実施例8における(1)〜(3)の処理を4回繰り返し、実施例10では、実施例8における(1)〜(3)の処理を6回繰り返し、実施例11では、実施例8における(1)〜(3)の処理を8回繰り返し、実施例12では、実施例8における(1)〜(3)の処理を16回繰り返したこと以外は、それぞれ実施例8と同様にして表面処理により粒子表面に加水分解生成物を形成させたSm−Fe−N系磁性粉末を得た。
実施例9では、実施例8における(1)〜(3)の処理を4回繰り返し、実施例10では、実施例8における(1)〜(3)の処理を6回繰り返し、実施例11では、実施例8における(1)〜(3)の処理を8回繰り返し、実施例12では、実施例8における(1)〜(3)の処理を16回繰り返したこと以外は、それぞれ実施例8と同様にして表面処理により粒子表面に加水分解生成物を形成させたSm−Fe−N系磁性粉末を得た。
処理後のSm−Fe−N系磁性粉末の増量分は、実施例9では0.55gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は11.0質量部であった。また、実施例10における処理後のSm−Fe−N系磁性粉末の増量分は、0.76gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は15.2質量部であった。また、実施例11における処理後のSm−Fe−N系磁性粉末の増量分は、0.99gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は19.8質量部であった。また、実施例12における処理後のSm−Fe−N系磁性粉末の増量分は、2.12gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は42.4質量部であった。
[実施例13、14]
実施例13では、実施例8における(1)の処理で気相接触時間を2時間で行い、実施例14では、実施例8における(1)の処理で気相接触時間を8時間で行ったこと以外は、それぞれ実施例8と同様にして表面処理により粒子表面に加水分解生成物を形成させたSm−Fe−N系磁性粉末を得た。
実施例13では、実施例8における(1)の処理で気相接触時間を2時間で行い、実施例14では、実施例8における(1)の処理で気相接触時間を8時間で行ったこと以外は、それぞれ実施例8と同様にして表面処理により粒子表面に加水分解生成物を形成させたSm−Fe−N系磁性粉末を得た。
処理後のSm−Fe−N系磁性粉末の増量分は、実施例13では0.01gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は0.2質量部であった。また、実施例14における処理後のSm−Fe−N系磁性粉末の増量分は、0.08gであった。すなわち、磁石粉末1000質量部に対して、加水分解生成物の形成量は1.6質量部であった。
以上のようにして各実施例で得られた磁性粉末に対して、下記に示す撥水性試験、耐食性試験を行った。
[比較例1、2]
上述した実施例1にて使用したNd−Fe−B系磁性粉末(比較例1)、及び、実施例8にて使用したSm−Fe−N系磁性粉末(比較例2)を、表面処理せずに用いて、以下に示すように実施例と同様にして評価した。
上述した実施例1にて使用したNd−Fe−B系磁性粉末(比較例1)、及び、実施例8にて使用したSm−Fe−N系磁性粉末(比較例2)を、表面処理せずに用いて、以下に示すように実施例と同様にして評価した。
[比較例3、4]
上述した実施例1にて使用したNd−Fe−B系磁性粉末(比較例3)、及び、実施例8にて使用したSm−Fe−N系磁性粉末(比較例4)を用いて、(1)アルコキシ基含有珪素化合物の気相接触による吸着処理と(3)真空加熱処理とを施し、(2)水蒸気による加水分解の処理を行わずに得られた磁性粉末を、実施例と同様にして評価した。
上述した実施例1にて使用したNd−Fe−B系磁性粉末(比較例3)、及び、実施例8にて使用したSm−Fe−N系磁性粉末(比較例4)を用いて、(1)アルコキシ基含有珪素化合物の気相接触による吸着処理と(3)真空加熱処理とを施し、(2)水蒸気による加水分解の処理を行わずに得られた磁性粉末を、実施例と同様にして評価した。
<ボンド磁石の作製>
実施例1〜14、比較例1〜4で作製した磁性粉末を用い、それぞれにおいて磁性粉末89質量部と、全質量部が100になるようにポリフェニレンサルファイド樹脂を加えて、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、二軸押出混練機により混練(混練温度300℃)を行い、1592kA/m(20kOe)の配向磁界をかけながら20mmφ×13mmの射出成形品を作製した。
実施例1〜14、比較例1〜4で作製した磁性粉末を用い、それぞれにおいて磁性粉末89質量部と、全質量部が100になるようにポリフェニレンサルファイド樹脂を加えて、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、二軸押出混練機により混練(混練温度300℃)を行い、1592kA/m(20kOe)の配向磁界をかけながら20mmφ×13mmの射出成形品を作製した。
<評価、結果>
(磁気特性評価)
磁気特性について、配向磁場中で成形したボンド磁石をBHトレーサー(東英工業(株)製)により測定し、残留磁束密度(kG)、角形性(kOe)、保磁力(kOe)について評価した。表1に、それぞれの結果を示す。
(磁気特性評価)
磁気特性について、配向磁場中で成形したボンド磁石をBHトレーサー(東英工業(株)製)により測定し、残留磁束密度(kG)、角形性(kOe)、保磁力(kOe)について評価した。表1に、それぞれの結果を示す。
(撥水性試験)
磁性粉末5gをステンレス板の上に盛り、水を1滴落として撥水性を観察した。磁性粉末上に水滴が丸く保持され撥水性が良好であったものは『○』、磁性粉末中に吸収され撥水性が不良であったものは『×』として評価した。表1にそれぞれの結果を示す。
磁性粉末5gをステンレス板の上に盛り、水を1滴落として撥水性を観察した。磁性粉末上に水滴が丸く保持され撥水性が良好であったものは『○』、磁性粉末中に吸収され撥水性が不良であったものは『×』として評価した。表1にそれぞれの結果を示す。
(耐食性試験)
磁性粉末5g及びボンド磁石成形体に対して、塩水噴霧(35℃、95%RH)による耐食性試験を行った。具体的には、スガ試験機(株)製複合サイクル試験機を用い、5%NaClを噴霧溶液として設置し、磁性粉末又はボンド磁石成形体を並べて、35℃、湿度90%にした状態で24時間放置した。放置した結果、変色が見られなかったものは『○』、わずかに変色が見られたものは『△』、赤く錆が見られたものは『×』として評価した。表1に、それぞれの結果を示す。
磁性粉末5g及びボンド磁石成形体に対して、塩水噴霧(35℃、95%RH)による耐食性試験を行った。具体的には、スガ試験機(株)製複合サイクル試験機を用い、5%NaClを噴霧溶液として設置し、磁性粉末又はボンド磁石成形体を並べて、35℃、湿度90%にした状態で24時間放置した。放置した結果、変色が見られなかったものは『○』、わずかに変色が見られたものは『△』、赤く錆が見られたものは『×』として評価した。表1に、それぞれの結果を示す。
表1の結果に示されるように、実施例1〜14における、Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末に特定のアルコキシ基含有珪素化合物を使用して粉末粒子表面に所定量の加水分解生成物を形成させた磁性粉末では、比較例1又は2の表面処理を施していない磁性粉末と同程度の磁気特性を有しており、磁気特性が低下していないことが分かる。そして、それら実施例1〜14の磁性粉末では、撥水性が向上し、また磁性粉末及びその磁性粉末から成形したボンド磁石においても錆の発生が抑制され、優れた防錆性を有していることが分かった。
一方で、実施例と同様の3つのステップにより原料の磁性粉末に対して表面処理を施さずに得られた比較例3、4の磁性粉末では、撥水性が見られず、耐食性試験でも実施例の磁性粉末のような防錆性は認められなかった。このことから、アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物が磁性粉末の粒子表面に形成されることが撥水性や防錆性の向上に重要であることが分かった。
本発明に係る希土類系磁性粉末は、耐熱性のあるアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物をNd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に形成してなるものであり、磁気特性を低下させることなく、ボンド磁石での防錆性、耐熱性を高めることができる。このような希土類系磁性粉末によれば、ボンド磁石用のNd−Fe−B系磁性粉末及びSm−Fe−N系磁性粉末として好適に用いることができる。また、この希土類系磁性粉末によれば、これまで困難であった苛酷で劣悪な腐食環境下であっても使用が可能となる。
Claims (7)
- Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末から選択される磁性粉末により構成され、
一般式(OR1)3SiR2、又は、一般式(OR1)4Si(但し、R1及びR2は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す)で表されるアルコキシ基含有珪素化合物の加水分解生成物が前記磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に形成されてなり、
前記加水分解生成物の形成量が、当該希土類磁性粉末1000質量部あたり0.1〜50質量部の割合である
ことを特徴とする希土類系磁性粉末。 - 予めリン酸化合物で処理された前記磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に、前記加水分解生成物が形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の希土類系磁性粉末。
- 磁気特性として、残留磁束密度が1.2T(12kG)以上で、角形性が398kA/m(5.0kOe)以上で、保磁力が800kA/m(10kOe)以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類系磁性粉末。
- Nd−Fe−B系磁性粉末又はSm−Fe−N系磁性粉末から選択される磁性粉末に対し、一般式(OR1)3SiR2、又は、一般式(OR1)4Si(但し、R1及びR2は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す)で表されるアルコキシ基含有珪素化合物を含有する気体を接触させることにより、該磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に、該アルコキシ基含有珪素化合物を吸着させ、その後、該磁性粉末に水蒸気を含有する気体を接触させることにより該アルコキシ基含有珪素化合物におけるアルコキシ基を加水分解し、さらに真空加熱処理を施し、該粒子表面の一部又は全面に加水分解生成物を形成する工程を有する
ことを特徴とする希土類系磁性粉末の製造方法。 - 前記アルコキシ基含有珪素化合物の加水分解により得られる加水分解生成物を前記磁性粉末の粒子表面の一部又は全面に形成する処理を複数回繰り返すことを特徴とする請求項4に記載の希土類系磁性粉末の製造方法。
- 請求項1乃至3の何れかに記載の希土類系磁性粉末と、樹脂とを含有する
ことを特徴とするボンド磁石用樹脂組成物。 - 請求項1乃至3の何れかに記載の希土類系磁性粉末を含む
ことを特徴とするボンド磁石。
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-
2015
- 2015-12-22 JP JP2015249878A patent/JP2016194140A/ja active Pending
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