以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る型枠システム及びこの型枠システムを用いたコンクリート構造物の構築方法について説明する。本実施形態では、コンクリート構造物がダム101である場合について説明する。
まず、図1及び図2を参照して、ダム101について説明する。図1はダム101の縦断面図であり、図2はダム101を上流側から見た正面図(図1において、ダム101を左側から見た図)である。
図1に示すように、ダム101は、断面が台形状の台形ダムである。図2に示すように、ダム101は、左右の側面のそれぞれが岩盤102,103に岩着される。なお、説明の便宜上、図1に示す左右方向、すなわち川の流れ方向をダム101の上下流方向と称し、図2に示す左右方向、すなわち川幅の方向をダム101の幅方向と称する。
本実施形態に係るダム101は、CSG(Cemented Sand and Gravel)工法により、台形状に盛り立てたCSG(ダム本体部)の表面を保護コンクリート(保護部)で覆うことで構築される。なお、コンクリート構造物としてのダム101を構成するダム本体部及び保護部に使用される材料を総称してコンクリート材料と記す。ダム本体部の材料であるCSG材は、ダムサイト付近で採取された現地発生材に、水及びセメントを混合して製造される。
ダム101は、コンクリート材料の打設によりコンクリート層(CSG層及び保護コンクリート層)を下から上へ積層させることによって構築される。コンクリート層の1層の高さhは、75cm~100cm程度である。
図1及び図2では、簡易的に6層のコンクリート層からなるダム101を示している。コンクリート層は上層ほど上下流方向の長さが短く形成される。したがって、ダム101の上流側及び下流側の側面には、階段上の段部が形成される。第1層1は、端部に形成される壁部1aと、上面に形成される平坦部1bと、を有し、第2層2は、端部に形成される壁部2aと、上面に形成される平坦部2bと、を有する。第1層1の平坦部1bと第2層2の壁部2aとによって1段目の段部9aが形成され、第2層2の平坦部2bと第3層3の壁部3aによって2段目の段部9bが形成される。同様に、ダム101の上流側及び下流側の側面には、3~5段目の段部9c,9d,9eが形成される。
このように上流側及び下流側の側面に段部9a~9eが形成されるダム(コンクリート構造物)101は、以下に説明する型枠システムによって構築される。
<第1実施形態>
図3及び図4を参照して、第1実施形態に係る型枠システム105について説明する。図3は型枠システム105の揚重装置100の正面図であり、図4は揚重装置100の側面図である。図3及び図4では、揚重装置100がダム101の側面に形成された段部に設置されている状態を示す。
図3及び図4に示すように、型枠システム105は、コンクリート材料を打設する際に使用される複数の型枠10(図4参照)と、型枠10を吊装置110によって吊り上げて搬送し、所定の位置に設置するために使用される揚重装置100と、を備える。
図4に示すように、型枠10は、互いに平行な一対の鉛直板10a,10bと、互いに平行な一対の水平板10c,10dと、を有する。水平板10c,10dは、一対の鉛直板10a,10bの間に渡って形成される。型枠10は、例えば、一対のH形鋼を上下に積み重ねて締結、あるいは溶接することにより形成される。
型枠10の一対の鉛直板10a,10bのうち、ダム101の中央側に位置する第1鉛直板(面板)10bは、コンクリート材料が打設される際にコンクリート材料が接触する接触面となる。第1鉛直板10bには、一対の水平板10c,10dを介して第1鉛直板10bに対向して配置される第2鉛直板10aが接続されている。このため、型枠10は、一対の鉛直板10a,10bを脚として、打設時にコンクリート材料が接触する第1鉛直板10bが立設した状態で自立する。つまり、一対の水平板10c,10dと第2鉛直板10aとが第1鉛直板10bを自立可能に支える支持部として機能することから、型枠10は、略水平な面上に置かれたときに、第1鉛直板10bを支える部材を別途設けなくとも自然と第1鉛直板10bを立設させることが可能な構造となっている。
図3及び図4に示すように、揚重装置100は、フレーム20と、フレーム20に支持される一対のレール部材(張出部材)30(30a,30b)と、一対のレール部材30(30a,30b)に取り付けられる単一の吊装置110と、を備える。吊装置110は、レール部材30に沿って移動可能な一対のトロリ40(40a,40b)と、トロリ40に連結されトロリ40の移動に伴って移動する一対の巻上装置50(50a,50b)と、一対の巻上装置50に巻回されるチェーン52に支持される吊治具120と、を備える。
フレーム20は、鉛直方向に立設し互いに平行な一対の第1支柱(支持基体)21(21a,21b)と、鉛直方向に立設し互いに平行な一対の第2支柱(支持基体)22(22a,22b)と、を有する。一対の第1支柱21a,21bの間隔と一対の第2支柱22a,22bの間隔とは同じである。また、第1支柱21aと第2支柱22aの間隔と第1支柱21bと第2支柱22bの間隔も同じである。第2支柱22は、第1支柱21よりも長さが短い。
第1支柱21aと第1支柱21bは、両者に渡って水平に設けられた第1桁材23(図3参照)によって連結される。
第1支柱21aと第2支柱22aは、両者に渡って水平に設けられた第1架材24(図4参照)によって連結される。第1架材24は、第1支柱21aの中程と第2支柱22aの下端部との間に渡って設けられる。第1支柱21aと第1架材24の間には、筋交材25が架け渡される。同様に、第1支柱21bと第2支柱22bは、両者に渡って水平に設けられた架材(図示せず)によって連結される。第1支柱21bとその架材の間には、筋交材(図示せず)が架け渡される。
第1支柱21aの上端部と第2支柱22aの上端部との間には、第2架材26aが水平に架け渡され、第1支柱21bの上端部と第2支柱22bの上端部との間には、第2架材26bが水平に架け渡される。また、第2架材26aと第2架材26bとの間には、一対の第2桁材27が架け渡される。
フレーム20を構成する第1支柱21、第2支柱22、第1桁材23、第1架材24、筋交材25、第2架材26a,26b、及び第2桁材27は、H型鋼で形成される。
レール部材30は、一対の第2桁材27の下端面に結合される。このように、レール部材30は、第2架材26a,26b及び第2桁材27を介して、第1支柱21と第2支柱22とに渡って支持される。一対のレール部材30は、互いに平行に設けられる。一対のレール部材30は、それぞれ第2支柱22の外側に張り出して設けられる(図4参照)。つまり、一対のレール部材30は、上下流方向におけるダム101の中央部側に向かって張り出して設けられる。一対のレール部材30は、それぞれH型鋼で形成され、H型鋼の下方のフランジがレール31として機能する。なお、一対のレール部材30は、第1支柱21の外側に張り出して設けられてもよい。
一対のトロリ40のうち一方のトロリ(以下、第1トロリ40aと記す)は、一対のレール部材30のうち一方のレール部材(以下、第1レール部材30aと記す)に沿って移動可能である。一対のトロリ40のうち他方のトロリ(以下、第2トロリ40bと記す)は、一対のレール部材30のうち他方のレール部材(以下、第2レール部材30bと記す)に沿って移動可能である。第1トロリ40aと第2トロリ40bは同様の構成である。
トロリ40は、レール部材30のレール31を挟みレール31上を回転移動する一対のローラ41と、ローラ41を回転駆動する電動モータ42と、を有する。電動モータ42が駆動することにより、ローラ41がレール31上を回転し、トロリ40がレール部材30に沿って移動する。第1トロリ40a及び第2トロリ40bの電動モータ42は同調して作動するため、第1トロリ40a及び第2トロリ40bは、それぞれ第1レール部材30a及び第2レール部材30bに沿って同調して移動する。
第1トロリ40aに支持される巻上装置50(以下、第1巻上装置50aと記す)と、第2トロリ40bに支持される巻上装置50(以下、第2巻上装置50bと記す)は、同様の構成である。巻上装置50は、吊治具120に連結される連結フック51と、先端に連結フック51が結合されるチェーン52と、チェーン52を巻き上げ可能な電動モータ53と、を有する。
巻上装置50は、後述する吊治具120のフック装置130を型枠10に連結し、電動モータ53を駆動してチェーン52を巻き上げることにより、型枠10の吊り上げが可能である。第1巻上装置50a及び第2巻上装置50bの電動モータ53は同調して作動するため、第1巻上装置50a及び第2巻上装置50bに渡って吊られた型枠10は水平姿勢を保った状態で吊り上げられる。
巻上装置50は、トロリ40に連結されトロリ40によって支持される。このため、トロリ40がレール部材30に沿って移動するのに伴って巻上装置50も移動する。したがって、巻上装置50に型枠10が吊られた状態でトロリ40を移動させることによって、型枠10をレール部材30に沿って搬送することができる。
このように揚重装置100は、コンクリート材料が打設される打設領域の外側に配置される支柱(支持基体)21,22と、支柱21,22によって支持され支柱21,22から打設領域側に張り出して設けられるレール部材(張出部材)30と、レール部材30から繰り出されるチェーン(吊りロープ)52を介して型枠10を吊り上げ可能な巻上装置50と、を有している。なお、チェーン(吊りロープ)52はレール部材(張出部材)30に設けられた滑車を介して繰り出されていてもよい。
揚重装置100は、トロリ40の移動方向及び鉛直方向(すなわち、第1、第2支柱21,22の長手方向)と直交する方向に揚重装置100自体を移動させる走行装置60も備える。走行装置60は、第1支柱21の下端部に設けられる第1走行装置60aと、第2支柱22の下端部に設けられる第2走行装置60bと、を有する。
第1走行装置60aは、第1支柱21aと第1支柱21bとの間に渡って設けられ第1支柱21a,21bを支持する走行フレーム61と、走行フレーム61に回転自在に支持される一対の車輪62(62a,62b)と、車輪62aを駆動する電動モータ64と、第1支柱21a,21bの下端部と走行フレーム61を連結するための連結部材65と、を有する。
同様に、第2走行装置60bは、第2支柱22aと第2支柱22bとの間に渡って設けられ第2支柱22a,22bを支持する走行フレーム61と、走行フレーム61に回転自在に支持される一対の車輪62(62a,62b)と、車輪62aを駆動する電動モータ64と、第2支柱22a,22bの下端部と走行フレーム61を連結するための連結部材65と、を有する。
さらに、第2走行装置60bは、巻上装置50によって型枠10が吊り下げられる際に、型枠10の位置を規制する位置規制部170を備える。位置規制部170の詳細については、後述する。
図4に示すように、第2走行装置60bの車輪62は、型枠10の鉛直板10a,10bと、一対の水平板10c,10dのうち上方に位置する第1水平板10cと、で形成される凹部10eに配置される。第2走行装置60bは、一対の鉛直板10a,10bにガイドされて第1水平板10c上を走行する。つまり、型枠10の上部に設けられる凹部10eの底面、すなわち第1水平板10cの上面が、第2走行装置60bの走行面とされる。
電動モータ64が駆動することにより、車輪62aが回転駆動し、走行装置60が走行する。第1走行装置60a及び第2走行装置60bの電動モータ64は同調して作動する。これにより、揚重装置100自体が移動する。
このように、揚重装置100は、ダム101を構築する際に階段状の段部を利用するものである。なお、揚重装置100は、階段状の段部を利用するものであればよく、例えば、コンクリート構造物の側面に形成された階段状の段部を利用するものや、コンクリート構造物の傾斜状の側面に階段状に設置された型枠の段部を利用するものであってもよい。
図5A、図5B及び図6を参照して、型枠10の吊上げ部160の構造について説明する。図5Aは型枠10の一部を上方から見た平面図であり、図5Bは図5AのVb-Vb線に沿う断面図である。図6は、図5BのVI-VI線に沿う断面図である。型枠10の吊上げ部160は、型枠10の長手方向の両端部に設けられる(図11参照)。型枠10の一端部に設けられる吊上げ部160と、型枠10の他端部に設けられる吊上げ部160と、は同様の構成である。
図5A、図5B及び図6に示すように、型枠10の吊上げ部160は、第1水平板10cに形成される矩形帯状の長孔(開口部)161と、鉛直板10a,10bに平行な一対の側板162と、一対の側板162に直線状に架け渡される円柱状の連結軸163と、長孔161の一端側(図5A、図5Bの右端側)に設けられる湾曲状の湾曲板164と、長孔161の他端側(図5A、図5Bの左端側)に設けられる矩形状の平板165と、を有する。なお、長孔161の形状は、矩形帯状とする場合に限らず、一対の直線部と、一対の直線部の端部同士が湾曲部で接続された開口部としてもよい。
一対の側板162は、第1水平板10cの下面から下方に延在し、互いに対向して配置される。一対の側板162間の距離は、長孔161の幅と略同一となるように設定される。一対の側板162のそれぞれには、連結軸163の端部が挿通されるガイド孔162aが形成される。ガイド孔162aは、型枠10の長手方向に沿って延在する長孔であり、その一端側(図5Bの右端側)が他端側(図5Bの左端側)よりも下方に位置する。連結軸163は、型枠10の幅方向に平行に配設され、その両端部がガイド孔162aに挿通されている。ガイド孔162aの幅は、連結軸163の外径よりも僅かに大きい。このため、連結軸163は、ガイド孔162aの長手方向に沿って移動可能である。
図3、図4、図7~図9を参照して、吊治具120について詳しく説明する。図3及び図4に示すように、吊治具120は、巻上装置50の連結フック51にシャックルを介して取り付けられ巻上装置50により吊り上げられる吊天秤121と、吊天秤121に取り付けられ、型枠10の連結軸163(図5A、図5B、図6参照)に連結される一対のフック装置(吊具)130と、吊天秤121に設けられる一対の天秤案内部140と、を有する。
吊天秤121は、連結フック51を介して巻上装置50に連結可能であり、フック装置130を介して型枠10に連結可能である。吊天秤121は、円柱状または円筒状の天秤本体部122と、天秤本体部122の上側の外周面から上方に突出する一対の上側吊ピース123と、天秤本体部122の下側の外周面から下方に突出する一対の下側吊ピース124と、を有する。上側吊ピース123は、シャックルを介して巻上装置50の連結フック51に連結され、巻上装置50によって吊り上げられる。下側吊ピース124は、フック装置130に連結され、フック装置130を介して型枠10が吊り下げられる。上側吊ピース123及び下側吊ピース124は、例えば、半円形状の板に貫通孔が設けられたものであり、溶接等により天秤本体部122に固定される。
図7は、フック装置130の動作について示す図である。図7(a)はフック装置130が第1水平板10cの上方に位置している図であり、図7(b)はフック装置130のフック部131が長孔161に挿入された状態を示す図であり、図7(c)はフック装置130のフック部131が連結軸163に連結された状態を示す図である。
図3及び図7に示すように、フック装置130は、鉤爪状のフック部131と、フック部131を回転自在に支持する支持部132と、支持部132を回転自在に支持し、吊天秤121の下側吊ピース124に回転自在に連結される連結部133と、を有する。
フック装置130は、フック部131に下方に向かう荷重が作用すると、支持部132が連結部133に対して回動するとともに、フック部131が支持部132に対して回動して所定位置で支持部132にロックされるロック機構(図示せず)を有する。このロック機構は、フック装置130が吊り下ろされ、支持部132が吊荷である型枠10等に接触し、支持部132が所定角度まで傾くことによりロックが解除される構成となっている。
フック部131は、ばね(図示せず)の弾性力により、支持部132の上端側に向かって付勢されている。このため、フック部131は、吊荷が吊り下げられていない無負荷状態では、凹部が水平方向を向くように横向きに配置される(図7(a)、図7(b)参照)。一方、フック部131に吊荷が吊り下げられ、ばね(図示せず)の弾性力に抗して吊荷の荷重がフック部131に作用すると、フック部131は、支持部132との連結軸を支点として回動し、凹部が斜め上方を向くように配置される(図7(c)参照)。
図8Aは天秤案内部140を示す側面図であり、図8Bは図8AのVIIIb方向から見た天秤案内部140の当接部141を示す平面図である。図9は、天秤案内部140の伸縮動作を示す図であり、図9(a)は天秤案内部140が最も伸長した状態を示し、図9(b)は天秤案内部140が最も収縮した状態を示す。なお、図8A、図9では、筒部143の一部を破断して示す。
図8A及び図8Bに示すように、天秤案内部140は、巻上装置50によって吊天秤121が吊り下げられる際に、型枠10と揚重装置100のフック装置(吊具)130とを連結可能な位置に吊天秤121を案内する。天秤案内部140は、パイプクランプ等の締結部材149によって天秤本体部122に固定される板状の基部142と、基部142の下面から下方に延在する円筒状の筒部143と、筒部143の中心軸方向に移動可能なロッド144と、ロッド144の先端部に固定され型枠10の凹部10eの底部に当接可能な当接部141と、を有する。
ロッド144は、軸部144aと、軸部144aの上端に設けられた円板状の係合部144bと、を有する。筒部143の下端開口は、蓋145によって閉塞され、蓋145にはロッド144の軸部144aが挿通される貫通孔が形成されている。蓋145の貫通孔の内径は、ロッド144の軸部144aの外径よりも大きく、係合部144bの外径よりも小さい。このため、ロッド144は、係合部144bが蓋145に当接する位置(図9(a)参照)と、係合部144bが基部142に当接する位置(図9(b)参照)との間で、軸方向に移動可能である。
図8Bに示すように、当接部141は、円環状のリング部141aと、リング部141aとロッド144の軸部144aとを連結する複数の連結バー141bと、を有する。当接部141のリング部141aの外径Doは、型枠10の凹部10eの幅(すなわち鉛直板10aの内側面と鉛直板10bの内側面との間の距離)Bhに比べて僅かに小さい。例えば、凹部10eの幅Bhとリング部141aの外径Doとの差は、長孔161の幅よりも小さく設定される。
吊天秤121に設けられる天秤案内部140の当接部141が凹部10e内に配置されている状態では、当接部141が凹部10eの幅方向に移動することが規制される。したがって、型枠10に対して吊天秤121の移動が規制される。つまり、天秤案内部140は、型枠10に対して吊天秤121の位置(型枠10の幅方向の位置)を規制する位置規制部として機能する。
図10~図12を参照して、揚重装置100に設けられる位置規制部170について説明する。図10は第2走行装置60bを示す正面図であり、図11は図10のXI方向から見た第2走行装置60bの平面図である。図12は、型枠10の吊り下ろし作業について説明する図である。図12(a)は型枠10を型枠案内部180に向けて吊り下ろす様子を説明する図であり、図12(b)は型枠案内部180によって型枠10が傾斜した状態で所定の位置に案内される様子を説明する図であり、図12(c)は第1規制部171により型枠10の幅方向の位置が規制される様子を説明する図である。
図10~図12に示すように、位置規制部170は、型枠10の幅方向の位置を規制する第1規制部(第1位置規制部)171と、型枠10の長手方向の位置を規制する第2規制部172と、巻上装置50によって型枠10が吊り下げられる際に、型枠10の側部を構成する鉛直板10aに当接して型枠10を傾斜させた状態で所定の位置に案内する型枠案内部180と、を有する。
第2規制部172は、連結部材65に結合され、連結部材65から外側(すなわち、第1支柱21側とは反対側)に向かって、型枠10の幅方向に沿うように延在する。つまり、第2規制部172は、連結部材65から上下流方向におけるダム101の中央側に向かって突出している。第2規制部172は、例えば、H型鋼により形成される。第2規制部172は、型枠10の端部に当接することにより、型枠10の長手方向の位置ずれを防止する。
第1規制部171は、第2規制部172の先端部に結合され、第2規制部172から第2支柱22bに向かって、型枠10の長手方向に沿うように延在する。第1規制部171は、例えば、H型鋼により形成される。第1規制部171は、型枠10の側部を構成する鉛直板10bに当接することにより、型枠10の幅方向の位置ずれを防止する。
型枠案内部180は、第2走行装置60bの走行フレーム61に結合される。本実施形態では、3つの型枠案内部180が走行フレーム61に結合されている(図10、図11参照)。図12に示すように、型枠案内部180は、型枠10の側部を構成する鉛直板10aが摺接する傾斜部181と、傾斜部181を支持する支持部182と、を有する。支持部182は、走行フレーム61に溶接等により結合される。支持部182は、傾斜部181の下端部に結合される水平支持部182aと、傾斜部181の上端部に結合される鉛直支持部182bと、を有する。
次に、図7、図9、図12及び図13~図17を参照して、上記構成の型枠システム105を用いたダム101の構築方法について説明する。図13~図17は、ダム101の構築方法を時系列順に示す図である。なお、図13~図17では、揚重装置100及び型枠10を簡略化して示している。
なお、説明の便宜上、揚重装置100の第1支柱21a及び第2支柱22aが設けられる側を揚重装置100の前側、揚重装置100の第1支柱21b及び第2支柱22bが設けられる側を揚重装置100の後側として、揚重装置100の前後を規定する。また、型枠10において、揚重装置100の前側のフック装置130が連結される連結軸163が設けられる側を型枠10の前側、揚重装置100の後側のフック装置130が連結される連結軸163が設けられる側を型枠10の後側として、型枠10の前後を規定する。
図13では、第1支柱21が図中1段目の段部71の平坦部71aに立設し、第2支柱22が図中4段目の段部74の平坦部74aに立設する。このように、第2支柱22は、ダム101の階段状の段部のうち第1支柱21が立設する段部(第1段部)よりも上の段部(第2段部)に立設する。また、第1支柱21と第2支柱22は、間に2段空けて立設する。なお、第1支柱21と第2支柱22の間の段数は2段に限られず、1段でもよく、3段以上でもよい。第1支柱21と第2支柱22の間の段数に応じて、第1支柱21と第2支柱22の長さの差が決定される。
第1支柱21を支持する第1走行装置60aは、1段目の段部71の平坦部71a上に直接配置されるのに対して、第2支柱22を支持する第2走行装置60bは、4段目の段部74の平坦部74aに設置された型枠10上に配置される。このように、第1支柱21は、走行装置60を介して1段目の段部71の平坦部71a上に立設し、第2支柱22は、走行装置60及び型枠10を介して4段目の段部74の平坦部74a上に立設する。
<型枠設置工程>
図13中最上層(第5層)上に新たなコンクリート層(第6層)を施工するにあたり、その準備として揚重装置100の吊装置110を用いて第2層上の型枠10を吊り上げ、移動させて、第5層上に設置する。以下、型枠設置工程で行われる型枠移設作業について詳しく説明する。
図中2段目の段部72の平坦部72aに設置された型枠10にフック装置130を取り付ける。フック装置130を型枠10に取り付ける手順は、以下のとおりである。
まず、図7(a)に示すように、フック装置130を長孔161の真上に配置する。本実施形態では、図9(a)に示すように、天秤案内部140の当接部141を型枠10の凹部10e内に挿入することにより、吊治具120の型枠10の幅方向の位置が規制される。上述したように、当接部141は、凹部10eの幅Bhと当接部141の外径Doとの差が、長孔161の幅よりも小さくなるように形成されている(図8A、図8B参照)。このため、当接部141が凹部10e内に配置されると、フック装置130が型枠10の幅方向に位置ずれしてしまうことが防止されるので、フック装置130のフック部131を長孔161の真上に容易に配置することができる。
次に、図7(b)に示すように、巻上装置50を駆動してフック装置130を下方に移動させ、フック部131を長孔161に挿入する。フック装置130を下方に移動させると、図9(b)に示すように、当接部141が型枠10の凹部10eの底部に当接し、天秤案内部140が収縮する。天秤案内部140が収縮し、ロッド144の係合部144bが基部142に当接すると、天秤案内部140は最も収縮した状態となる。
天秤案内部140が最も収縮した状態になると、図7(b)に示すように、フック部131の凹部の開口が連結軸163に対して水平方向に対向する。したがって、作業者は、天秤案内部140を最も収縮した状態となるまで吊治具120を下降させることにより、フック部131を連結軸163に取り付け可能な位置に容易に配置させることができる。なお、天秤案内部140の収縮過程の途中で、フック部131の凹部の開口が連結軸163に対して水平方向に対向するようにしてもよい。
吊治具120を型枠10に近づける際、天秤案内部140の当接部141が型枠10の凹部10eに配置される構成であるため、風の強い作業環境であっても、吊治具120の揺れが防止され、型枠10に対する吊治具120の位置ずれを防止することができる。また、天秤案内部140が鉛直方向の伸縮可能に構成されているため、吊治具120を型枠10に近づける際、早い段階で、当接部141を型枠10の凹部10e内に配置させて、吊治具120の位置ずれを防止することができる。
次に、図7(b)において二点鎖線で示すように、型枠10の前端側に向けて揚重装置100を僅かに移動することによりフック装置130を水平方向に移動させ、フック部131の凹部内に連結軸163を位置させた後、吊治具120を上昇させる。これにより、図7(c)に示すように、フック部131が支持部132に対して回動するとともに、支持部132が連結部133に対して回動し、ロック機構が作動する。また、連結軸163がガイド孔162aに沿って斜め上方に移動し、ガイド孔162aの上端部で保持される。これにより、型枠10の連結軸(係合部)163に、長孔161に挿入されたフック装置(吊具)130のフック部131が係合し、型枠10の吊り上げが可能な状態となる。
次に、図13に示すように、巻上装置50の電動モータ53(図3、図4参照)を駆動することにより、2段目の段部72の平坦部72aに設置された型枠10を吊り上げる。トロリ40の電動モータ42(図3参照)を駆動することにより、トロリ40をレール部材30に沿って移動させ、第5層上に型枠10を搬送する。巻上装置50の電動モータ53を駆動することにより、第5層上において予め定められた位置に型枠10を載置する。
1つ目の型枠10を最上層(第5層)上に載置する手順は、以下のとおりである。まず、図12(a)に示すように、型枠10の鉛直板10aが傾斜部181の真上に位置するように、型枠10を配置する。型枠10を下降させ、鉛直板10aを傾斜部181に接触させる。なお、型枠10の下降中、型枠10の前端部は、第2規制部172に対向している。このため、型枠10が前方に移動することが第2規制部172により規制される。したがって、型枠10の下降中、風等により型枠10が長手方向に揺れ動くことが防止される。すなわち、型枠10の下降中、型枠10が長手方向に位置ずれすることが防止される。
さらに、型枠10を下降させると、型枠10は徐々に傾斜し、図12(b)に示すように、型枠10の側部を構成する鉛直板10aが傾斜部181に面接触した傾斜状態となる。型枠10は、傾斜部181に沿って摺動し、鉛直板10aの下端部が最上層(第5層)上に接地する。なお、型枠10が傾斜部181によって支持されるため、風等により型枠10が幅方向に揺れ動くことが防止される。つまり、型枠10の下降中、型枠10が幅方向に位置ずれすることが防止される。
次に、鉛直板10aが接地した状態で、型枠10の上端部等を図示右方向に押圧することにより、鉛直板10aの下端部(接地点)を支点として型枠10を回動させ、鉛直板10bの下端部も最上層(第5層)上に接地させる。このとき、型枠10は第1規制部171により、その幅方向の位置が規制され、型枠10の幅方向に位置ずれが防止されるので、予め定められた位置に型枠10を精度よく設置することができる。その後、型枠10からフック装置130を取り外す。これにより、1つ目の型枠10の設置が完了する。
最上層上に設置された型枠10からフック装置130を取り外す手順は、以下のとおりである。図7(c)に示す状態からフック装置130を下降させ、支持部132を負荷状態(図7(c)参照)の姿勢に対して所定角度以上傾斜させると、ロック機構(図示せず)によるロックが解除され、図7(b)に示すように、支持部132及びフック部131がばね(図示せず)の弾性力により、無負荷状態の姿勢に復帰する。その後、型枠10の後端側に向けて揚重装置100を僅かに移動することによりフック装置130を後方に移動させ、図7(b)において実線で示すように、連結軸163をフック部131の凹部の外側に位置させた後、フック装置130を図7(a)に示すように上昇させる。
なお、フック装置130のフック部131が、無負荷状態の横向きの姿勢に復帰する動作とともに、連結軸163が自重によりガイド孔162aに沿って斜め下方に移動し、ガイド孔162aの下端部に位置する。つまり、連結軸163は、フック装置130のフック部131との係合が解除される動作に連動して、フック部131の底部から離れる方向に移動する。これにより、連結軸163とフック部131の凹部の底部との距離が大きくなるため、連結軸163が側板162に固定されている場合に比べて、フック装置130の取り外し作業を容易に行うことができる。
1つ目の型枠10の設置が完了したら、図14に示すように、走行装置60を用いて揚重装置100を1つの型枠10の長さ分だけ、ダム101の幅方向に沿ってスライド移動させる。具体的には、第1走行装置60a及び第2走行装置60bの電動モータ64(図3、図4参照)を駆動することにより、第1走行装置60aを、1段目の段部71の平坦部71a上を走行させるとともに、第2走行装置60bを、4段目の段部74の平坦部74aに設置された型枠10上を走行させる。第1走行装置60a及び第2走行装置60bは、2段目の段部72の平坦部72aに設置された型枠10に対向した位置で停止する。そして、再びトロリ40及び巻上装置50を用いて、第2層上に配置されている2つ目の型枠10を第5層上に移設する。
2つ目の型枠10を最上層(第5層)上に載置する手順は、以下のとおりである。2つ目の型枠10の載置作業に先立って、図11に示すように、1つ目の型枠10に位置規制板190を取り付ける。位置規制板190は、平板であって、ボルト等により型枠10の鉛直板10bの外側面に取り付けられる。位置規制板190は、型枠10の長手方向に沿って延在し、その先端部が型枠10の前端面から前方に突出するように配置される。
次に、図12(a)に示すように、型枠10の鉛直板10aが傾斜部181の真上に位置するように、型枠10を配置する。型枠10を下降させ、鉛直板10aを傾斜部181に接触させる。なお、2つ目の型枠10は、1つ目の型枠10の前端部と、第2規制部172との間に配置された状態で下降する。このため、2つ目の型枠10の下降中、2つ目の型枠10の前端部が第2規制部172に対向し、2つ目の型枠10の後端部が1つ目の型枠10の前端部に対向している。このため、2つ目の型枠10が前後方向に移動することが第2規制部172と1つ目の型枠10の前端部により規制される。したがって、2つ目の型枠10の下降中、風等により2つ目の型枠10が長手方向に揺れ動くことが防止される。すなわち、2つ目の型枠10の下降中、2つ目の型枠10が長手方向に位置ずれすることが防止される。
さらに、型枠10を下降させると、型枠10は徐々に傾斜し、図12(b)に示すように、型枠10の側部を構成する鉛直板10aが傾斜部181に面接触した傾斜状態となる。型枠10は、傾斜部181に沿って摺動し、鉛直板10aの下端部が最上層(第5層)上に接地する。なお、型枠10が傾斜部181によって支持されるため、風等により型枠10が幅方向に揺れ動くことが防止される。つまり、型枠10の下降中、型枠10が幅方向に位置ずれすることが防止される。
次に、鉛直板10aが接地した状態で、型枠10の上端部等を図示右方向に押圧することにより、鉛直板10aの下端部(接地点)を支点として型枠10を回動させ、鉛直板10bの下端部も最上層(第5層)上に接地させる。
本実施形態では、型枠10の幅方向の位置を規制するために、1つ目の型枠10に位置規制板190が取り付けられ、揚重装置100に第1規制部171が設けられている。このため、型枠10の鉛直板10bが位置規制板190及び第1規制部171に当接するように型枠10を回動させることにより、予め定められた位置に型枠10を精度よく設置することができる。これにより、2つ目の型枠10の設置が完了する。このように位置規制板190は、複数の型枠10がダム101の幅方向に沿って連続して設置される際に、型枠10同士の位置合わせを行うガイド部として機能する。
なお、1つ目の型枠10に2つ目の型枠10を位置規制板190によって連結してもよいし、位置規制板190とは別の連結部材によって連結してもよい。また、1つ目の型枠10と2つ目の型枠10とを連結しなくてもよい。3つ目以降の型枠10を載置する手順は、2つ目の型枠10を最上層上に載置する手順と同様であるので、説明を省略する。
吊装置110を用いた型枠10の移設作業と、走行装置60を用いた揚重装置100のスライド移動と、が交互に行われることによって、2段目の段部72の平坦部72aに設置された全ての型枠10が最上層上に移設される。これにより、最上層上には、ダム101の幅方向に沿うように複数の型枠10が連続して設置される。型枠設置工程は、ダム101の上流側及び下流側の双方の側面において行われる。
<打設工程>
次に、図15に示すように、最上層上に設置された型枠10を用いてコンクリート材料を打設する打設作業を行い、最上層上に新たなコンクリート層(図15では第6層)を施工する。コンクリート材料の打設作業では、型枠10等により画成されたコンクリート打設領域内にコンクリート材料を流し込む打込み作業を行い、その後、振動締固め機(バイブレータ等)で締固め作業を行う。新たなコンクリート層が施工されることによって、ダム101の側面には新たな段部(図15では5段目の段部75)が形成される。なお、コンクリート材料の打込み作業の前に、コンクリート打設領域を画成する型枠10の内側に板状のメタルフォームを配置してもよい。
<揚重装置移設工程>
次に、図16に示すように、揚重装置100自体を上段へ移設する。具体的には、揚重装置100は、第1支柱21が1段上の段部72の平坦部72aに立設し、第2支柱22が1段上の新たに形成された段部75の平坦部75aに立設するように移設される。第1支柱21が移設される段部72は、型枠設置工程にて型枠10が移設された後であるため、第1支柱21は走行装置60を介して段部72の平坦部72aに立設する。一方、第2支柱22が移設される段部75には、第6層を施工するために用いられた型枠10が残置されているため、第2支柱22は走行装置60及び型枠10を介して段部75の平坦部75aに立設する。揚重装置100の移設は、クレーン(図示せず)を用いて行われる。
揚重装置100の移設が完了した後、型枠設置工程に戻り、図17に示すように、図中最上層(第6層)上に新たなコンクリート層(第7層)を施工するにあたり、揚重装置100を用いて3段目の段部73の平坦部73aに設置された型枠10を最上層(第6層)上に移設する。
以上のように各工程を繰り返すことにより、複数のコンクリート層を有するダム101が構築され、ダム101の上流側及び下流側の側面には階段上の段部が形成される。
従来、揚重装置の吊具や型枠が風に煽られて揺れ動いてしまうと、揚重装置の吊具に型枠を連結する作業や型枠を所定の位置に設置する作業に支障をきたすおそれがあった。このため、風が強い作業環境では、型枠設置作業に手間がかかっていた。
これに対して、本実施形態に係る型枠システム205の揚重装置100は、上述したように、巻上装置50によって型枠10が吊り下げられる際に、型枠10の位置を規制する位置規制部170を備えている。このため、風により型枠10が揺れ動くことを防止し、型枠10の位置合わせ作業を容易にかつ精度よく行うことができる。具体的には、型枠案内部180が型枠10の側部を支持するため、吊り下げ作業中に型枠10が幅方向に揺れ動くことを防止し、所定の位置に型枠10を容易にかつ精度よく案内することができる。また、型枠10を最上層に接地させる際に第1規制部171が、型枠10の幅方向の位置を規制することができるので、型枠10の幅方向の位置合わせ作業を容易にかつ精度よく行うことができる。さらに、第2規制部172により型枠10の長手方向の位置を規制することができるので、吊り下げ作業中に型枠10が長手方向に揺れ動くことを防止し、型枠10の長手方向の位置合わせ作業を容易にかつ精度よく行うことができる。したがって、本実施形態によれば、型枠設置作業の効率を向上できる。
また、本実施形態に係る型枠システム205の揚重装置100は、巻上装置50によって吊天秤121が吊り下げられる際に、型枠10と揚重装置100のフック装置(吊具)130とを連結可能な位置に吊天秤121を案内する天秤案内部140を備えている。天秤案内部140は、その下端に設けられる当接部141が型枠10の凹部10e内に配置され、型枠10に対する吊天秤121の位置を規制する。このため、型枠10に吊天秤121を近づける際に、風により吊天秤121が揺れ動くことを防止し、吊天秤121の位置合わせ作業を容易にかつ精度よく行うことができる。その結果、フック装置(吊具)130を型枠10に連結する作業を容易に行うことができる。したがって、本実施形態によれば、型枠設置作業の効率を向上できる。
さらに、本実施形態に係る型枠システム205の型枠10は、揚重装置100が走行する走行面(第1水平板10cの上面)と、走行面に設けられた長孔(開口部)161と、長孔161に挿入される揚重装置100のフック装置(吊具)130のフック部131が係合する連結軸(係合部)163と、を備える。このような構成によれば、連結軸163が揚重装置100の走行を妨げるようなことがなく、長孔161にフック装置130を挿入することにより、フック部131と型枠10とを容易に連結することができるので、型枠設置作業の効率を向上することができる。
上述した第1実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
(1)揚重装置100は、巻上装置50によって型枠10が吊り下げられる際に、型枠10の位置を規制する位置規制部170を備えている。これにより、型枠10をダム101の最上層上に載置する際、型枠10の位置合わせ作業を容易にかつ精度よく行うことができるので、型枠設置作業の効率を向上することができる。
(2)揚重装置100は、巻上装置50によって吊天秤121が吊り下げられる際に、型枠10と揚重装置100のフック装置(吊具)130とを連結可能な位置に吊天秤121を案内する天秤案内部140を備えている。これにより、吊天秤121を型枠10に連結する際、吊天秤121の位置合わせ作業を容易にかつ精度よく行うことができるので、型枠設置作業の効率を向上することができる。
(3)型枠10は、揚重装置100が走行する走行面と、走行面に設けられた長孔(開口部)161と、長孔161に挿入される揚重装置100のフック装置(吊具)130のフック部131が係合する連結軸(係合部)163と、を備える。したがって、長孔161にフック装置130を挿入することにより、フック部131と型枠10とを容易に連結することができるので、型枠設置作業の効率を向上することができる。
(4)型枠10は、コンクリート材料が打設される際にコンクリート材料が接触する接触面となる第1鉛直板(面板)10bと、第1鉛直板10bを自立可能に支える一対の水平板(支持部)10c,10d及び第2鉛直板(支持部)10aと、を有する。つまり、型枠10は、一対の鉛直板10a,10bを脚として、打設時にコンクリート材料が接触する第1鉛直板10bを立設させた状態で自立することになる。このため、型枠10は、略水平な面上に置かれたときに、第1鉛直板10bを支える部材を別途設けなくとも自然と第1鉛直板10bを立設させることができる。さらに、型枠10は、複数の型枠10がダム101の幅方向に沿って連続して設置される際に、位置規制板190によって、型枠10同士の位置合わせが自然と行われる。したがって、揚重装置100によって型枠10を所定の位置に移設するだけで型枠設置作業が完了することから、型枠10の位置を調整する作業を作業者が行わなくとも打設領域を容易に形成することができる。
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の第1実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
<変形例1>
上記第1実施形態では、天秤案内部140が鉛直方向に沿って伸縮可能な構成である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。天秤案内部140は、巻上装置50によって吊天秤121が吊り下げられる際に、型枠10と揚重装置100のフック装置130のフック部131とを連結可能な位置に吊天秤121を案内する機能を有していればよい。
<変形例1-1>
例えば、図18Aに示すように、天秤案内部240Aは、型枠10の凹部10eに挿入される先端部(下端部)に一対のテーパ部247Aを有するものであってもよい。テーパ部247Aは、鉛直軸に対して傾斜している。一対のテーパ部247A間の寸法(水平距離)は、先端側が短く、基端側が長い。先端側(下端側)における一対のテーパ部247A間の寸法は、型枠10の凹部10eの内幅よりも短い。一方、基端側(上端側)における一対のテーパ部247A間の寸法は、型枠10の凹部10eの内幅よりも長い。したがって、天秤案内部240Aの先端部を上方から型枠10の凹部10e内に挿入すると、所定の位置でテーパ部247Aが型枠10の鉛直板10a,10bの上端部に当接する。
テーパ部247Aが型枠10の鉛直板10a,10bの上端部に当接することにより、型枠10に対する吊天秤121の位置決めがなされるとともに、型枠10に対する吊天秤121の幅方向の位置ずれが防止される。このように型枠10に当接する当接部として、一対のテーパ部247Aを設けることにより、天秤案内部240Aの先端部(下端部)を型枠10の凹部10eに容易に挿入することができるとともに、型枠10に対する吊天秤121の幅方向の位置決めを容易かつ精度よく行うことができる。
<変形例1-2>
また、図18Bに示すように、天秤案内部240Bは、型枠10の上端側が挿入される凹部248Bに一対のテーパ部247Bを有するものであってもよい。テーパ部247Bは、鉛直軸に対して傾斜している。一対のテーパ部247B間の寸法(水平距離)は、先端側が長く、基端側が短い。先端側(下端側)における一対のテーパ部247B間の寸法は、型枠10の幅よりも長い。一方、基端側(上端側)における一対のテーパ部247B間の寸法は、型枠10の幅よりも短い。したがって、天秤案内部240Bを上方から型枠10に近づけると、所定の位置でテーパ部247Bが型枠10の鉛直板10a,10bの上端部に当接する。
テーパ部247Bが型枠10の鉛直板10a,10bの上端部に当接することにより、型枠10に対する吊天秤121の位置決めがなされるとともに、型枠10に対する吊天秤121の幅方向の位置ずれが防止される。このように型枠10に当接する当接部として、一対のテーパ部247Bを設けることにより、型枠10の上端部を天秤案内部240Bの凹部248Bに容易に挿入することができるとともに、型枠10に対する吊天秤121の幅方向の位置決めを容易かつ精度よく行うことができる。
<変形例1-3>
また、図18C及び図18Dに示すように、天秤案内部240Cは、型枠10に向かって間隔が徐々に狭まる一対のテーパ部247Cと、一対のテーパ部247C間の寸法が最も大きい部分から型枠10の一対の鉛直板10a,10bに対してほぼ平行に延びる一対の平行部248Cと、を有するものであってもよい。図18Cは、天秤案内部240Cの一部が断面で示された側面図であり、図18Dは、図18CのXVIIId方向から見た天秤案内部240Cを示す平面図である。
テーパ部247Cと平行部248Cとは、1枚の板状部材により連続して形成されており、型枠10の長手方向に沿って所定の長さの幅を有する帯状に形成されている。一対の平行部248C間の幅B1は、図示されるように、型枠10の凹部10eの幅Bhに比べて僅かに小さく設定されており、例えば、平行部248Cの幅B1と凹部10eの幅Bhとの差は、長孔161の幅よりも小さく設定される。
また、天秤案内部240Cは、天秤案内部240Cの最も先端側に位置して設けられる樹脂製のローラ部241Cと、軸部144aの端部に設けられ、ローラ部241Cを回転自在に支持する支持部246Cと、を有する。ローラ部241Cは、型枠10の長手方向に沿って回転するように支持部246Cによって支持される。また、支持部246Cには、上述のテーパ部247C及び平行部248Cを構成する一対の板状部材が溶接接合されている。
このような構成の天秤案内部240Cが型枠10の凹部10e内に挿入すると、所定の位置でローラ部241Cが型枠10の凹部10eの底面に当接する。そして、一対の平行部248Cが一対の鉛直板10a,10bに対抗した状態となることによって、型枠10に対して吊天秤121が移動することが規制される。つまり、天秤案内部240Cは、天秤案内部140と同様に、型枠10に対して吊天秤121の位置(型枠10の幅方向の位置)を規制する位置規制部として機能する。
また、天秤案内部240Cは、回転自在に支持されたローラ部241Cを介して型枠10の凹部10eに接することから、型枠10の長手方向に沿って吊天秤121を容易に移動させることが可能である。したがって、吊天秤121に取り付けられたフック装置130を吊天秤121とともに型枠10の長手方向に沿って水平方向に移動させることが容易となることから、フック部131と連結軸163との係合およびその解除を容易に行うことが可能となる。
<変形例2>
上記第1実施形態では、連結軸163が一対の側板162に直線状に架け渡される円柱状の軸である例について説明したが本発明はこれに限定されない。図19に示すように、連結軸363は、揚重装置100の走行方向(移動方向)、すなわち型枠10の長手方向に直交するように配置される棒状部材であって、その中央部が両端部よりも上方に位置するように、山なりに湾曲していてもよい。
本変形例では、フック部131の長孔(開口部)361への挿入性を向上するために長孔361の幅が上記実施形態の長孔161(図6参照)に比べて大きく形成されている。このため、連結軸363の端部側でフック部131を係合することもできるので、作業性がよい。そして、連結軸363の端部側でフック部131が連結された場合であっても、フック装置130を上昇させることにより、フック部131が連結軸363の中央部に向かって案内されることになる。このため、型枠10が吊り上げられる際には、連結軸363の中央部にフック部131が位置することになるので、型枠10を水平に吊り上げることができる。なお、型枠10の重心が、幅方向の一方に偏って設定される場合には、連結軸363の頂部が型枠10の重心の真上に位置するように、連結軸363を形成すればよい。
<変形例3>
上記第1実施形態では、位置規制板190が、型枠10の鉛直板10bの外側面に取り付けられる例(図11参照)について説明したが、走行装置60の走行を妨げない位置であれば、型枠10の鉛直板10bの内側面に取り付けられていてもよい。
<変形例4>
上記第1実施形態では、揚重装置100の吊具としてロック機構(図示せず)を備えるフック装置130を採用する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。揚重装置100の吊具には、他のロック機構を用いてもよい。また、揚重装置100の吊具には、電磁力によって型枠10に連結可能なリフティングマグネットを採用してもよい。
吊具にリフティングマグネットを採用する場合、走行面に長孔(開口部)161、及び連結軸(係合部)163を設ける必要がないため、型枠10のコストの低減を図ることができる。なお、吊具にリフティングマグネットを採用する場合、型枠10の吊点の位置が定められていないため、型枠に対する吊具の位置決め作業に手間がかかるおそれがある。これに対して、上記実施形態では、連結軸163によって型枠10の吊点の位置が定められているので、吊具にリフティングマグネットを採用する場合に比べて、型枠設置工程の作業効率がよい。
<変形例5>
上記第1実施形態では、CSG工法により形成されるダム101を施工する場合について説明したが、本発明の揚重装置及び型枠を使用して構築されるコンクリート構造物はCSGダムに限定されるものではない。本発明は、コンクリート材料を打設して成る種々のコンクリート構造物を構築する際に用いられる揚重装置及び型枠に適用することができる。
<第2実施形態>
次に、図20~図24を参照して、本発明の第2実施形態に係る型枠システム205について説明する。以下では、第1実施形態と異なる点を主に説明し、第1実施形態で説明した構成と同一の構成又は相当する構成については、第1実施形態と同一の符号を付し説明を省略する。
第2実施形態に係る型枠システム205において、揚重装置200は、吊天秤121を型枠10の長手方向に沿って移動させる第1天秤移動機構(天秤移動機構)210及び第2天秤移動機構220と、型枠10の幅方向の位置を規制する第1規制部(第1位置規制部)230と、を有し、型枠10は、複数の型枠10が連続して設置された際に型枠10同士の位置合わせを行うためのガイド部250となる凸部251及び凹部252を有している点で、上記第1実施形態に係る型枠システム105と主に相違している。
まず、図20及び図21を参照して、揚重装置200の第1天秤移動機構210及び第2天秤移動機構220について説明する。図20は型枠システム205の揚重装置200の正面図であり、図21は型枠システム205の揚重装置200の側面図である。
なお、説明の便宜上、揚重装置200の第1支柱21a及び第2支柱22aが設けられる側を揚重装置200の前側、揚重装置200の第1支柱21b及び第2支柱22bが設けられる側を揚重装置200の後側として、揚重装置100の前後を規定する。また、型枠10において、揚重装置200の前側のフック装置130が連結される連結軸163が設けられる側を型枠10の前側、揚重装置200の後側のフック装置130が連結される連結軸163が設けられる側を型枠10の後側として、型枠10の前後を規定する。
第1天秤移動機構210は、吊治具120により型枠10を吊り上げる際に、吊天秤121に取り付けられたフック装置130と型枠10の吊上げ部160とが確実に係合するように、吊天秤121を僅かに移動させるために設けられる機構である。
第1天秤移動機構210は、図20及び図21に示すように、板状に形成された回動プレート216の一端側に取り付けられた電動シリンダ211と、回動プレート216の他端側に設けられ、回動プレート216を図示しない伝達機構を介して回動させる電動モータ218と、を有する。第1天秤移動機構210は、電動モータ218が設けられる部分が設置部材219を介して第1走行装置60aの後側の走行フレーム61及び連結部材65に対して固定されることにより、揚重装置200に組み付けられる。
電動シリンダ211は、電気的に回転駆動するモータ部212と、モータ部212の回転を図20において矢印A1で示される揚重装置200の前後方向の変位に変換し伸縮駆動するシリンダ部213と、シリンダ部213が伸長した際に吊天秤121の天秤本体部122の端面を押圧可能な押圧部214と、を有する。シリンダ部213は、例えば、ボールスプライン軸とボールスプラインナットとからなるボールスプライン機構のように、回転をストロークに変換可能な機構を有している。
電動モータ218は、電動シリンダ211が設置された回動プレート216を図21において矢印A2で示さる方向に回動可能なモータであり、回動プレート216の位置を、第1支柱21に対して回動プレート216の長手方向が直交する第1位置と、第1支柱21と回動プレート216の長手方向とが平行となる第2位置と、の2つの位置に切り換えるために設けられる。
第1位置は、電動シリンダ211が、吊天秤121を型枠10の長手方向に沿って押圧することが可能な状態となる位置であり、具体的には、図22Aに示されるように、吊治具120によって型枠10を吊り上げるために、型枠10に形成された長孔161内にフック部131が挿入された状態において、電動シリンダ211の押圧部214が吊天秤121の天秤本体部122の後側の端面に対向した状態となる位置に設定される。なお、図22Aは、型枠10が吊治具120によって吊り上げられる前の状態を示す図であり、第1天秤移動機構210が吊治具120を押圧している状態を示している。
このように押圧部214が天秤本体部122の後側の端面に対向した状態において電動シリンダ211を伸長させると、押圧部214により天秤本体部122の後側の端面が押され、吊天秤121は前方へと僅かに移動する。吊天秤121の移動に伴ってフック装置130も前方へと移動することで、フック部131の凹部内に連結軸163が位置した状態となるため、結果としてフック装置130と吊上げ部160との係合が確実に行われることになる。
一方、第2位置は、吊治具120によって型枠10が上方へと吊り上げられる際に型枠10が電動シリンダ211や回動プレート216にぶつかってしまうことを避けるための位置であり、具体的には、型枠10が吊り上げられる際の型枠10の軌道の外側に電動シリンダ211及び回動プレート216を配置させるような位置に設定される。なお、第2位置は、第1支柱21と回動プレート216の長手方向とが平行となる位置に限定されず、型枠10が電動シリンダ211や回動プレート216に衝突することが回避されればどのような位置であってもよい。
電動シリンダ211の位置は、少なくとも吊治具120によって型枠10が上方へと吊り上げられる際には、第1位置から第2位置へと切り換えられ、それ以外の間は、第1位置に保持される。
一方、第2天秤移動機構220は、吊り下ろされた型枠10の吊上げ部160からフック装置130が確実に外れるように、吊天秤121を僅かに移動させるために設けられる機構である。
第2天秤移動機構220は、図20及び図21に示すように、板状に形成された回動プレート226の一端側に取り付けられた電動シリンダ221と、回動プレート226の他端側に設けられ、回動プレート226を図示しない伝達機構を介して回動させる電動モータ228と、を有する。第2天秤移動機構220は、電動モータ228が設けられる部分が第2走行装置60bの前側の連結部材65に対して固定されることにより、揚重装置200に組み付けられる。
電動シリンダ221は、電動シリンダ211と同様に、電気的に回転駆動するモータ部222と、モータ部222の回転を図20において矢印B1で示される揚重装置200の前後方向の変位に変換し伸縮駆動するシリンダ部223と、シリンダ部223が伸長した際に吊天秤121の天秤本体部122の端面を押圧可能な押圧部224と、を有する。シリンダ部223は、例えば、ボールスプライン軸とボールスプラインナットとからなるボールスプライン機構のように、回転をストロークに変換可能な機構を有している。
電動モータ228は、電動シリンダ221が設置された回動プレート226を図21において矢印B2で示さる方向に回動可能なモータであり、回動プレート226の位置を、第2支柱22に対して回動プレート226の長手方向が直交する第1位置と、第2支柱22と回動プレート226の長手方向とが平行となる第2位置と、の2つの位置に切り換えるために設けられる。
第1位置は、電動シリンダ221が、吊天秤121を型枠10の長手方向に沿って押圧することが可能な状態となる位置であり、具体的には、図22Bに示されるように、吊り下ろされた型枠10内にまだフック部131が挿入された状態において、電動シリンダ221の押圧部224が吊天秤121の天秤本体部122の前側の端面に対向した状態となる位置に設定される。なお、図22Bは、型枠10が吊治具120によって吊り下ろされた後の状態を示す図であり、第2天秤移動機構220が吊治具120を押圧している状態を示している。
このように押圧部224が天秤本体部122の前側の端面に対向した状態において電動シリンダ221を伸長させると、押圧部224により天秤本体部122の前側の端面が押され、吊天秤121は後方へと僅かに移動する。吊天秤121の移動に伴ってフック装置130も後方へと移動することで、フック部131の凹部から連結軸163が離れた状態となるため、結果としてフック装置130と吊上げ部160との係合は確実に解除されることになる。
一方、第2位置は、吊治具120によって型枠10を最上層上に吊り下ろす際に型枠10が電動シリンダ221や回動プレート226にぶつかってしまうことを避けるための位置であり、具体的には、型枠10が吊り下ろされる際の型枠10の軌道の外側に電動シリンダ211及び回動プレート216を配置させるような位置に設定される。なお、第2位置は、第2支柱22と回動プレート226の長手方向とが平行となる位置に限定されず、型枠10が電動シリンダ211や回動プレート216に衝突することが回避されればどのような位置であってもよい。
電動シリンダ221の位置は、少なくとも吊装置110が作動している間は、第2位置に保持され、型枠10が最上層上へと完全に吊り下ろされた後に、第2位置から第1位置へと切り換えられる。
このように第1天秤移動機構210及び第2天秤移動機構220によってフック装置130と吊上げ部160との係合及び係合の解除が確実に行われることで、型枠10の吊り上げ作業及び吊り下ろし作業を効率的に行なうことが可能となる。
次に、図21及び図23を参照して、揚重装置200に設けられた第1規制部230について説明する。なお、図23は、型枠システム205を用いてダム101を構築する際に型枠10を設置する型枠設置工程について説明するための図であり、図11と同じ方向から型枠システム205を見た図である。
第1規制部230は、型枠10を最上層上に吊り下ろす際に型枠10の幅方向の位置を規制するために設けられるものであり、固定部材232を介して第2走行装置60bの走行フレーム61に固定される複数のローラ部231を有する。
ローラ部231は、型枠10の長手方向に沿って回転するように支持された樹脂製のローラを先端に有するものであり、図23に示すように、先端が走行フレーム61からダム101の中央部側に向かって突出するように設けられる。
上記構成のローラ部231は、走行フレーム61に沿って所定の間隔をあけて2カ所に設けられる。なお、ローラ部231の配置や数は一例にすぎず、例えば、走行フレーム61に沿って等間隔に3カ所以上に設けられてもよいし、上下方向に間隔をあけて複数設けられてもよい。
このように複数のローラ部231を揚重装置200に設けておくことによって、図21及び図23に示すように、最上層上へと吊り下ろされた型枠10の第2鉛直板10aがローラ部231に当接することで、揚重装置200側への型枠10の移動が制限された状態となる。つまり、型枠10の幅方向の位置は、ローラ部231によって所定の位置に規制されることになる。なお、ローラ部231は、ローラを型枠10の長手方向に沿って回転するように支持していることから、長手方向の位置を調整するために型枠10がその長手方向に移動される場合であっても、その移動を妨げることはない。
次に、図23、図24A及び図24Bを参照して、型枠10に設けられたガイド部250について説明する。図24Aは、図23のXXIVa-XXIVa線に沿う断面図であり、図24Bは、図24AのXXIVb方向から見たガイド部250の構成を示す図である。
ガイド部250は、複数の型枠10が連続して設置された際に、型枠10同士の位置合わせを行うために設けられるものであり、型枠10の長手方向の一端に設けられる凸部251と、型枠10の長手方向の他端に設けられる凹部252と、を有する。
凸部251は、第1水平板10cの端部から型枠10の長手方向に沿って突出する突出平板部10fと、一端が突出平板部10fの下面に溶接接合され、他端側が第2水平板10dを越えて下方に延びる円柱状の挿入部11と、により構成される。突出平板部10fの先端部は、挿入部11の半径と同等の半径を有する半円状に形成される。挿入部11は、突出平板部10fに接する部分と、第2水平板10dに接する部分と、において溶接接合される。これにより、挿入部11は、型枠10の一部となる。
一方、凹部252は、第1水平板10cの端部にU字状に切り欠いて形成された第1切欠部10gと、第2水平板10dの端部にU字状に切り欠いて形成された第2切欠部10hと、により構成される。第1切欠部10gと第2切欠部10hとは、同一の形状を有しており、型枠10の幅方向における第1切欠部10g及び第2切欠部10hの幅は、突出平板部10fの幅及び挿入部11の直径よりも僅かに大きく設定される。また、第1切欠部10gの開口端部には、開口端に向かって幅が徐々に拡がるテーパ部10iが形成される。なお、第2切欠部10hの開口端部にも同様に、図示しないテーパ部が形成される。
このような形状の凹部252が設けられる型枠10の端部に向かって、上記形状の凸部251が設けられる型枠10の端部を突き当てると、突出平板部10f及び挿入部11はテーパ部10iにより案内され、第1切欠部10g及び第2切欠部10h内へとそれぞれ挿入される。このように凸部251が凹部252に嵌め込まれることにより2つの型枠10は直線状に連なった状態となる。
続いて図22A、図22B及び図23を参照し、上記構成の第1天秤移動機構210、第2天秤移動機構220及び第1規制部230を有する揚重装置200と、上記構成のガイド部250を有する型枠10と、を備えた型枠システム205を用いたダム101の構築方法について説明する。
<型枠設置工程>
上記第1実施形態と同様に、図13に示されるように、最上層(第5層)上に新たなコンクリート層(第6層)を施工するにあたり、その準備として揚重装置200の吊装置110を用いて第2層上の型枠10を吊り上げ、移動させて、第5層上に設置する型枠移設作業が行われる。
型枠移設作業において、フック装置130のフック部131を型枠10の長孔161に挿入するまでの工程は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
フック部131が型枠10の長孔161に挿入された状態となると、第1天秤移動機構210の電動モータ218を駆動し、回動プレート216の位置を第1位置とすることによって、図22Aに示すように、電動シリンダ211の押圧部214を、吊天秤121の天秤本体部122の後側の端面に対向させる。
この状態で電動シリンダ211を伸長し、押圧部214により吊天秤121を前方へと移動させると、フック装置130のフック部131の凹部内に連結軸163が位置した状態となる。これにより、型枠10の連結軸(係合部)163に、長孔161に挿入されたフック装置(吊具)130のフック部131が係合し、型枠10の吊り上げが可能な状態となる。
吊り上げられた型枠10は、トロリ40及び巻上装置50を適宜駆動させることによって、最上層へと移動される。なお、電動シリンダ211及び回動プレート216の位置は、巻上装置50により型枠10の吊り上げが開始されるとともに第2位置へと切り換えられる。
最上層へと移動された型枠10は、図23に破線で示すように、一旦、型枠10の幅方向において第1規制部230から僅かに離れた位置に、最上層の上面から所定の高さまでおろされる。つまり、型枠10は、図23に破線で示される位置において、最上層に接しないように吊治具120に吊られた状態で保持される。そして、トロリ40をダム101の中央部から離れる方向へと移動させ、吊治具120に吊られた型枠10を揚重装置200側に引き寄せて第1規制部230に当接させる。
型枠10が1つ目である場合、型枠10は、第1規制部230によって幅方向の位置が規制された状態で最上層上に載置される。
型枠10が2つ目以降である場合は、吊治具120に吊られた型枠10が第1規制部230に当接した状態において、すでに最上層上に載置された型枠10の凹部252に、吊治具120に吊られた型枠10の凸部251が嵌め込まれるように揚重装置200を僅かに移動させる。
吊治具120に吊られた型枠10は、ガイド部250によって型枠10同士の位置合わせが行われた状態、すなわち、型枠10の長手方向における位置が規制された状態となると、最上層上に載置される。なお、吊治具120に吊られた型枠10を、すでに最上層上に載置された型枠10へ近づける方法としては、揚重装置200を移動させることに代えて、第2天秤移動機構220によって吊天秤121を押すことにより移動させる方法が採用されてもよい。
そして、型枠10が最上層上に下されると、第2天秤移動機構220の電動モータ228を駆動し、回動プレート226の位置を第1位置とすることによって、図22Bに示すように、電動シリンダ221の押圧部224を、吊天秤121の天秤本体部122の前側の端面に対向させる。
この状態で電動シリンダ221を伸長し、押圧部224により吊天秤121を後方へと移動させると、フック装置130のフック部131の凹部内から連結軸163が離れた状態となる。これにより、型枠10の連結軸(係合部)163と、長孔161に挿入されたフック装置(吊具)130のフック部131と、の係合が解除される。型枠10との連結が解除されたフック装置130を上方へと移動させることで、型枠10の移設が完了する。
2段目の段部72の平坦部72aに設置された型枠10は、上記第1実施形態と同様に、吊装置110を用いた型枠10の移設作業と、走行装置60を用いた揚重装置200のスライド移動と、が交互に行われることによって、すべて最上層上へと移設される。これにより、最上層上には、ダム101の幅方向に沿うように複数の型枠10が連続して設置される。型枠設置工程は、ダム101の上流側及び下流側の双方の側面において行われる。
型枠設置工程に引き続いて打設工程及び揚重装置移設工程が行われ、さらにこれら各工程が繰り返されることにより、複数のコンクリート層を有するダム101が構築され、ダム101の上流側及び下流側の側面には階段上の段部が形成される。なお、打設工程及び揚重装置移設工程は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
上述した第2実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
(1)揚重装置200は、巻上装置50によって型枠10が吊り下げられる際に、型枠10の幅方向の位置を規制する第1規制部230を備えている。これにより、型枠10をダム101の最上層上に載置する際、型枠10の位置合わせ作業を容易にかつ精度よく行うことができるので、型枠設置作業の効率を向上することができる。
(2)揚重装置200は、吊治具120により型枠10を吊り上げる際に、吊天秤121に取り付けられたフック装置130と型枠10の吊上げ部160とが確実に係合するように、吊天秤121を僅かに移動させる第1天秤移動機構210を備えている。これにより、吊天秤121を型枠10に連結する際、連結作業を容易にかつ確実に行うことができるので、型枠設置作業の効率を向上することができる。
(3)揚重装置200は、吊り下ろされた型枠10の吊上げ部160からフック装置130が確実に外れるように、吊天秤121を僅かに移動させる第2天秤移動機構220を備えている。これにより、吊天秤121と型枠10との連結を解除する際、連結解除作業を容易にかつ確実に行うことができるので、型枠設置作業の効率を向上することができる。
(4)型枠10は、コンクリート材料が打設される際にコンクリート材料が接触する接触面となる第1鉛直板(面板)10bと、第1鉛直板10bを自立可能に支える一対の水平板(支持部)10c,10d及び第2鉛直板(支持部)10aと、を有する。つまり、型枠10は、一対の鉛直板10a,10bを脚として、打設時にコンクリート材料が接触する第1鉛直板10bを立設させた状態で自立することになる。このため、型枠10は、水平面上に置かれたときに、第1鉛直板10bを支える部材を別途設けなくとも自然と第1鉛直板10bを立設させることができる。さらに、型枠10は、複数の型枠10がダム101の幅方向に沿って連続して設置される際に、凹部252と凹部252に嵌め込まれる凸部251とからなるガイド部250によって、型枠10同士の位置合わせが自然と行われる。したがって、揚重装置200によって型枠10を所定の位置に移設するだけで型枠設置作業が完了することから、型枠10の位置を調整する作業を作業者が行わなくとも打設領域を容易に形成することができる。
なお、上記第1実施形態で説明された構成と上述の第2実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上記第1実施形態の変形例として示された構成と上述の第2実施形態で説明した構成を組み合わせたりすることも可能であり、そのように組み合わせられた構成も本発明の範囲内である。
例えば、上記第2実施形態に係る型枠システム205における揚重装置200の第1天秤移動機構210及び第2天秤移動機構220は、上記第1実施形態に係る型枠システム105における揚重装置100に適用されてもよい。また、上記第2実施形態に係る型枠システム205における型枠10のガイド部250は、上記第1実施形態に係る型枠システム105における型枠10に適用されてもよい。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。