以下に、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態を、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。
本明細書において「上」および「下」の表記は、車両用窓ガラスを車両に搭載した際のそれぞれ上および下を示す。車両用窓ガラスの「上部」とは、車両用窓ガラスが車両に搭載された場合の上側の部分のことであり、また、その「下部」とは、車両用窓ガラスが車両に搭載された場合の下側の部分のことである。
また、本明細書において、板状ガラス部材の「周縁部」とは、板状ガラス部材の外周から主面の中央部に向かって、ある一定の幅を有する領域を意味する。本明細書において、板状ガラス部材の主面において中央部から見て外周側を外側、外周からみて中央部側を内側という。他の部材においても同様の意味である。
本発明の車両用窓ガラスは、板状ガラス部材と、該板状ガラス部材を加熱する加熱手段を有する。上記板状ガラス部材は相対する第1主表面と第2主表面とを有し、車両用窓ガラスの車外側の第1主表面は、25℃、50%RHにおいて水に対する接触角が80度以上である。物品表面における水に対する接触角は、該表面が水をはじく性質、すなわち撥水性の程度を示す指標である。以下、本明細書において、「水接触角」とは、特に断りのない限り、25℃、50%RHにおいて測定される水に対する接触角をいう。
本発明の車両用窓ガラスは、車外側の主表面が上記撥水性を有することで、雪、氷、霜等の付着防止性に優れる。これにより、加熱手段による、融雪、融氷、融霜等に係るエネルギーの省力化が可能である。
本発明の車両用窓ガラスは、電車や自動車等の車両の窓に取り付けられる窓ガラスであって、ウインドシールド、リヤガラス、ドアガラス、ルーフガラス等に適用可能である。本発明の車両用窓ガラスは、特に、電気自動車の窓ガラスとして用いた際に、融雪、融氷、融霜等に係る電力消費量が少なく、走行距離に及ぼす影響の少ない車両用窓ガラスが提供できる。
本発明の車両用窓ガラスの車外側の主表面の水接触角は、110度以上がより好ましく、130度以上がさらに好ましい。水接触角が大きければ大きい程、板状ガラス部材の車外側の主表面に雪、氷、霜等が付着しにくい。一方、170度を超える接触角を発現することは現実的に困難なため車両用窓ガラスの車外側の主表面の水接触角の上限は概ね170度が好ましい。
車両用窓ガラスの車外側の主表面における、雪、氷、霜等(以下、「雪等」という)の付着防止性を高める観点から、車外側の主表面は25℃、50%RHにおいて50μLの水滴の転落角が15度以下であることが好ましい。物品表面における水滴の転落角は、該表面における水滴の転がり易さ、すなわち滑水性の程度を示す指標である。
水滴の転落角は、例えば、25℃、50%RHにおいて、水平に保持した測定面に50μLの水滴を滴下した後、測定面を徐々に傾け、水滴が転落しはじめたときの測定面と水平面とのなす角度を接触角計等の計測器で測定することで得られる。以下、本明細書において、「水転落角」とは、特に断りのない限り、25℃、50%RHにおいて50μLの水滴を用いて測定される水滴の転落角をいう。
車両用窓ガラスの車外側の主表面における、水転落角は10度以下がより好ましく、5度以下がさらに好ましい。
車両用窓ガラスの車外側の主表面が上記所定の撥水性、好ましくはさらに上記所定の滑水性を有するためには、通常、車両用窓ガラスは、板状ガラス部材の車外側の表面に撥水膜を有する。
本発明の車両用窓ガラスにおいて、板状ガラス部材を加熱する加熱手段は、通電による加熱手段が好ましい。通電による加熱手段は、例えば、電力密度が300W/m2以上700W/m2以下となるように設けられる。電力密度が300W/m2以上であれば、充分な融雪、融氷、融霜等の効果が得られる。電力密度が700W/m2以下であれば、省エネルギーの効果が得られやすい。
本発明の車両用窓ガラスは、車外側の主表面が上記所定の撥水性を有することで、該撥水性を有しない車両用窓ガラスに比べて、通電による加熱手段の電力密度を低く設定しても、該車両用窓ガラスと同等の融雪、融氷、融霜等の効果が得られる。例えば、同等の時間で融雪、融氷、融霜等を達成できる。また、通電による加熱手段の電力密度を、上記撥水性を有しない車両用窓ガラスと同じに設定した場合、融雪、融氷、融霜等に係る時間を短縮できる。
通電による加熱手段としては、車両用窓ガラスに通常用いられる通電加熱手段が適用可能である。通電加熱手段としては、例えば、板状ガラス部材が、透明導電膜と透明導電膜に通電する1対のバスバーを備える構成、抵抗加熱線と抵抗加熱線に通電する1対のバスバーを備える構成が挙げられる。これらの加熱手段は、車両用窓ガラスが取り付けられる車両の種類、窓ガラスの位置、形状等の仕様に応じて適宜設計できる。
以下、図面を参照して本発明の車両用窓ガラスを説明する。図1は、本発明の車両用窓ガラスが適用される自動車の側面図である。図2は図1に示す自動車のウインドシールドの概略断面図であり、車両に取り付けたときの取り付け角度を模式的に示す図である。図3は、図1に示す自動車のウインドシールドが有する加熱手段を説明する概略平面図であり、図4は該ウインドシールドの図3におけるA-A断面の分解図であり、理解を容易にするため、一体物を分けて図示している(以下同様。)。図5および図6は該ウインドシールドが車内側および車外側に有するが着色隠蔽層の概略平面図である。
図1に示す自動車100は、窓ガラスとしてウインドシールド10、フロントドアガラス11、リヤドアガラス12、リヤガラス13を備え、フロントドアにはドアミラー14を備える。自動車100において、ウインドシールド10、リヤガラス13は固定窓の窓ガラスでありフロントドアガラス11、リヤドアガラス12は昇降可能な窓ガラスである。なお、車種に応じて、リヤガラス13が昇降可能に設けられる場合もある。
自動車100において全ての窓ガラスに本発明の窓ガラスが適用可能であり、特にウインドシールド10およびフロントドアガラス11に好適である。図1には、窓を閉めた状態のフロントドアガラス11と窓を開けた状態のフロントドアガラス11の両方を点線で示す。図1中VLはベルトラインであり、窓を閉めた状態のフロントドアガラス11においては、VLより上が、人が視認可能な視認領域、下が人から見えない非視認領域である。
以下、主としてウインドシールド10に本発明の窓ガラスが適用された場合を例に説明するが、車体取り付け角度を除いて、同様の構成が他の窓ガラスにも適用可能である。なお、形状は窓ガラスの種類に応じて適宜選択される。
図2に示すウインドシールド10は、相対する第1の主面(車外側主面)1aと第2の主面(車内側主面)1bを有する板状ガラス部材1と、板状ガラス部材1の車外側主面1a上に設けられた撥水膜2を有する。
ウインドシールド10における相対する第1の主表面(車外側主表面)と第2の主表面(車内側主表面)は、それぞれ、撥水膜2の車外側の主面2aおよび板状ガラス部材1の車内側の主面1bである。これにより、ウインドシールド10における車外側の主表面は所定の水接触角を有し、撥水性に優れる。
ウインドシールド10は、例えば、自動車の車種に応じて所定の角度で車体に取り付けられる。ウインドシールド10を車体への取り付ける角度は、撥水膜2の表面2a、すなわち、ウインドシールド10の車外側の主表面2aに水滴が接した際に、その水滴が留まらずに滑落する角度であることが好ましい。具体的には、ウインドシールド10においては、車両に取り付けたときの車外側の主表面2aと水平面のなす角度が20~50度であることが好ましい。図2には、ウインドシールド10の車内側の主表面1bと水平面のなす角度をθで示すが、車内側の主表面1bと車外側の主表面2aは互いに平行しているので、θは車外側の主表面2aと水平面のなす角度と同じである。角度θは、より好ましくは30~50度であり、さらに好ましくは30~45度であり、さらに一層好ましくは30~40度である。
ウインドシールド10の車内側の主表面1bと車外側の主表面2aが曲率を有する場合、ウインドシールド10が取り付けられる角度は、ウインドシールド10の下端部において、ウインドシールド10が取り付けられる構造体の取り付け部、例えば、自動車ではボデーとの接点を確定し、その接点における接線と水平面がなす角度として規定できる。
ウインドシールド10が有する板状ガラス部材1は、合わせガラスであり、図4に示すように、互いに対向する2枚のガラス板1A、1Bと、2枚のガラス板1A、1Bの間に設けられる中間接着層1Cで構成される。以下、板状ガラス部材1である合わせガラスに1の符号を付して説明する。合わせガラス1においてガラス板1Aが車内側ガラス板1Aでありガラス板1Bが車外側ガラス板1Bである。ウインドシールド10は、合わせガラス1の内部に図3に概略平面図を示す加熱手段3を有する。
具体的には、加熱手段3は、略台形状の車内側ガラス板1Aの車外面の全面に形成された透明導電膜35を有し、透明導電膜35の周縁部には絶縁性着色セラミックス層34が枠状に形成されている。加熱手段3は、バスバー31~33の2組(バスバー33はバスバー11および32に共通の対極である)を有する。各バスバーは車内側ガラス板1Aの各辺と略平行に形成され、バスバー31および32の通電部Bは、透明導電膜35の上端部の絶縁性着色セラミックス層34の内周の内側に、バスバー33の通電部Bは透明導電膜35の下端部の絶縁性着色セラミックス層34の内周の内側にそれぞれ形成されている。これらのバスバーの通電部B以外の配線部Cはいずれも絶縁性着色セラミックス層34の上に設けられており、車内側からは見えないように遮蔽されている。各バスバーは、端子部36で電源からの導電線(不図示)と接続している。
なお、各バスバーの通電部Bの長さは、絶縁性着色セラミックス層34によって包囲されている透明導電膜35の上下の辺の長さとほぼ同じ、好ましくは若干長くなるようにする。このようにすれば、バスバー31~33に通電した場合に、絶縁性着色セラミックス層34が形成された周縁部を除いた透明導電膜35の全面が均一に加熱される。この例では、バスバーの通電部Bは透明導電膜35の対向する上下辺に対として形成されているが、このような対は、対向する左右辺に形成することもできる。
図5に示すように、車内側ガラス板1Aの車内側面の周縁部には、車内側ガラス板1Aに設けられた絶縁性着色セラミックス層34およびバスバー31~33を隠蔽するように着色隠蔽層5を枠状に設け、車内側からこれらのバスバーおよび絶縁性着色セラミックス層を見えないようにする。同様に、図6に示すように、車外側ガラス板1Bの車内側面の周縁部には、車内側ガラス板1Aに設けられた絶縁性着色セラミックス層34およびバスバー31~33を隠蔽するように着色隠蔽層4が枠状に設けられ、車外側から絶縁性着色セラミックス層34およびバスバー31~33が見えないようにする。図6に示すパターンでは、下辺部に端子取り出し用の切り欠けが設けてある。
ウインドシールド10は、着色隠蔽層4、5を有することで、絶縁性着色セラミックス層34からの特有な反射色も運転者の視界に入らなくなり、安全運転上も外観品質上も商品性がさらに向上するので好ましい。
以下、ウインドシールド10を構成する各部材について説明する。
[板状ガラス部材]
図2~図4に示すウインドシールド10において板状ガラス部材1は合わせガラスである。ただし、本発明の車両用窓ガラスにおいて、板状ガラス部材は、通常、車両窓用として用いられるガラス板を主体とする透明な板状体であれば特に制限されない。板状ガラス部材としては、ウインドシールド10に用いるような合わせガラスであってもよく、一枚のガラス板、いわゆる単板ガラスであってもよく、スペーサにより空気層を有するように複数枚のガラス板を重ね合せた複層ガラスであってもよい。また、合わせガラスである場合、ガラス板の枚数は2枚に限定されず、必要に応じてガラス板が3枚以上の構成であってもよい。その場合、各ガラス板間に中間接着層が配設される。
板状ガラス部材に用いるガラス板は、車両の窓ガラスに用いられる従来公知のガラス板が使用可能である。具体的には、例えば、普通ガラス板、強化ガラス板、部分強化ガラス板等が挙げられる。これらのガラス板は透明性が損なわれない程度に着色されたものであってもよい。ガラス板は、例えば、公知のフロート法で製造されたガラス板が好ましい。フロート法では、溶かしたガラス素地を錫等の溶融金属の上に浮かべ、厳密な温度操作で厚み、板幅の均一なガラス板を成型する。
ガラス板および板状ガラス部材の形状は、平板状でもよいし、全面または一部に曲率を有する湾曲状でもよい。ガラス板および板状ガラス部材が湾曲している場合は、上下方向または左右方向のいずれか一方向にのみ湾曲する単曲曲げ形状であってもよいし、上下方向または左右方向の両方向に湾曲する複曲曲げ形状であってもよい。ガラス板および板状ガラス部材が複曲曲げ形状である場合は、上下方向と左右方向とで曲率半径が同じでもよいし、異なっていてもよい。ガラス板および板状ガラス部材が湾曲している場合は、上下方向および/または左右方向の曲率半径は1000mm以上であることが好ましい。ガラス板および板状ガラス部材の主面の形状は、搭載される車両の窓開口部に適合する形状とされる。板状ガラス部材の厚みは、車両の種類によるが、概ね1.5~5mm程度である。
ウインドシールド10において、板状ガラス部材1である合わせガラスの厚みは上記範囲が好ましい。合わせガラス1に用いるガラス板1A、1Bの板厚は、0.3mm以上3.0mm以下が好ましい。ガラス板1A、1Bの板厚は同じであってもよいし、異なっていてもよい。ガラス板1A、1Bの板厚が異なる場合、車内側ガラス板1Aの板厚は、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。車内側ガラス板1Aの板厚が0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることによりフロントガラス10の質量が大きくなり過ぎない。
車外側ガラス板1Bの板厚は、1.5mm以上3mm以下であることが好ましい。車外ガラス板1Bの板厚が1.5mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、フロントガラス10の質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。車外側ガラス板1Bの板厚は、1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下がさらに好ましい。ただし、ガラス板1A、1Bの板厚は常に一定ではなく、必要に応じて場所毎に変わってもよい。例えば、ガラス板1A、1Bの一方または両方が、フロントガラス1を車両に取り付けたときの垂直方向の上端側の厚さが下端側よりも厚い断面視楔状の領域を備えていてもよい。
中間接着層1Cは、ガラス板1A、1Bを強固に接着させるとともに、合わせガラス1が破損した場合にも、ガラスの破片が飛び散らない作用を有するものであって、通常は、接着性、耐候性および耐熱性等の諸物性が改良されたポリビニルブチラール樹脂膜、エチレンビニルアセタール樹脂膜が好ましく用いられる。この中間接着層1Cの厚みも特に限定されないが、通常は約0.2~0.9mm程度の厚みである。中間接着層1Cは厚みが一定でもよいし、合わせガラス1を車両に取り付けたときに、下辺側から上辺側に向かうにつれて、厚みが厚くなる楔形状断面であってもよい。中間接着層1Cは、単層構造、複数層構造のいずれでもよい。中間接着層1Cが複数層構造であって、3層構造である場合、真ん中の層の硬度を可塑剤の調整等により両側の層の硬度よりも低くすることにより、合わせガラス1、例えば、ウインドシールド10の遮音性を向上できる。この場合、中間接着層1Cの3層構造のうち両側の層の硬度は同じでもよいし、異なってもよい。
[加熱手段]
図2~図4に示すウインドシールド10において、加熱手段3は、通電による加熱手段であり、車内側ガラス板1Aの車外側主面上に形成された透明導電膜35、絶縁性着色セラミックス層34およびバスバー31~33を有し、通電の機構は上記の通りである。
透明導電膜35としては、導電材料からなる従来公知の各種の透明導電膜がいずれも使用でき、設計に応じて最適な膜が選択される。また、透明導電膜35の種類により印加される電圧が異なるため、透明導電膜35に接続されるバスバー31~33はこれらに適合し得るように形成される。
透明導電膜35としては、600~700℃の熱処理に耐える透明導電膜、特に加熱処理可能な透明導電膜を用いることが好ましい。これにより、平板状のガラス板の表面に透明導電膜を被覆した後に、ガラス板の曲げ成形や熱強化処理のための600~700℃の熱処理を施すことが可能となる。
加熱処理可能な透明導電膜の具体例は、比較的、低電圧(高電流)で使用される透明導電膜として、例えば、車内側ガラス板1A側から誘電体層(酸化物等)と貴金属層(Ag、Au、Pd等)とが交互に(2n+1)層(n≧1)積層され、車内側ガラス板1Aと誘電体層の間および/または最上層の誘電体層の上に保護層(窒化物層等)が形成された多層膜(必要に応じて貴金属層の上下に貴金属層の酸化を防止するバリア層を設け得る)等が挙げられる。低電圧(高電流)で使用される透明導電膜としては、上記貴金属層が銀を主成分として構成される透明導電膜が好ましい。
高電圧(低電流)で使用される透明導電膜としては、バスバーに、例えば、48Vの電圧を印加して使用されるスズドープ酸化インジウム(ITO)膜、酸化スズ膜等が挙げられる。本発明の車両用窓ガラスにおいて、透明導電膜としては、低電圧および高電圧が印加される透明導電膜のいずれも使用することができる。
透明導電膜の膜抵抗は0.5~100Ω/□が好ましい。膜抵抗が0.5Ω/□以上であれば、充分な融雪、融氷、融霜等の効果が得られる。膜抵抗が100Ω/□以下であれば、省エネルギーの効果が得られやすい。透明導電膜35の膜抵抗は0.5~50Ω/□がより好ましく、0.5~30Ω/□がさらに好ましく、0.5~10Ω/□が特に好ましい。
透明導電膜35を車内側ガラス板1Aの車外側主面上に形成する方法としては、従来公知の方法がいずれも使用できる。具体的には、真空蒸着法、スパッタリング法、電子線ビーム式加熱蒸着法、スプレー法、CVD方法等が挙げられる。図2~図4に示すウインドシールド10において、透明導電膜35は車内側ガラス板1Aの車外側主面上の全面に形成されており、その膜厚は、通常、20~500nm程度である。なお、透明導電膜35は、車内側ガラス板1Aの車外側主面上ではなく、車外側ガラス板1Bの車内側主面上の全面に形成されていてもよい。
バスバー31~33の形成材料としては、従来公知のバスバー形成材料がいずれも使用でき、特に限定されない。具体的には銀、銅、アルミニウム等を材料として形成されるバスバーが好ましい。バスバーは、例えば、銀ペーストの印刷および焼き付け等の方法で、透明導電膜35上および絶縁性着色セラミックス層34上に連続して形成される。
絶縁性着色セラミックス層34の形成材料としては、該層上に形成されるバスバー31~33の配線部Cを透明導電膜35から絶縁できるものであれば、特に制限されない。具体的には、車両用窓ガラスに隠蔽部を形成するために、従来から使用されている材料がいずれも使用できる。例えば、絶縁性黒色セラミックスペーストを用いて、印刷または焼き付けて得られる絶縁性黒色セラミックス層が使用できる。
また、ウインドシールド10が車内側ガラス板1Aおよび車外側ガラス板1Bに有する着色隠蔽層5および着色隠蔽層4は、任意の構成要素である。これらは、従来から使用されている材料を用いて従来の方法で形成可能である。
また、ウインドシールド10は、必要に応じて、絶縁性着色セラミックス層34上に割れ検知導線(不図示)を有することで、合わせガラス1の割れ等の異常の検知が可能になり、さらに安全性を向上させることができる。
[撥水膜]
撥水膜は、単層で構成されてもよいが、少なくとも最外層が所定の水接触角を有する撥水層となるように、異なる機能を有する2以上の層を積層した構造であってもよい。例えば、板状ガラス部材側に密着性の高い密着層を形成しその上に所定の水接触角を有する高撥水性の撥水層を形成する積層構造が挙げられる。密着層を設けることにより、撥水膜と板状ガラス部材との密着性が増し、また撥水膜全体としての緻密性が高まって、耐摩耗性、耐候性等の耐久性を向上させることが可能となる。
撥水膜が単層で構成される場合の撥水膜、または撥水膜が積層構造の場合の最外層の撥水層(以下、両者を合わせて「撥水膜(層)」ともいう。)を構成する材料としては、ペルフルオロアルキル基含有加水分解性ケイ素化合物、ペルフルオロポリエーテル基含有加水分解性ケイ素化合物等の含フッ素有機ケイ素化合物や、ジメチルシリコーン化合物等のシリコーン化合物の硬化物や従来から知られる各種撥水性材料を使用することができる。また、撥水膜が積層構造の場合の密着層を構成する材料としては、シリカを主体とする材料が挙げられる。
撥水膜(層)は、撥水性材料の原料成分を含有する撥水膜(層)形成用組成物を用いて形成できる。原料成分のうちシリコーン化合物としては、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アルコール変性ジメチルポリシロキサン、アルコキシ変性ジメチルポシロキシサン、フルオロアルキル変性ジメチルシリコーン等が挙げられる。
また、含フッ素有機ケイ素化合物としては、例えば下記一般式で表されるペルフルオロアルキル基含有加水分解性ケイ素化合物(A)(以下、化合物(A)ともいう)、ペルフルオロポリエーテル基含有加水分解性ケイ素化合物(B)(以下、化合物(B)ともいう)等が挙げられる。
(化合物(A))
F(CF2)e(CH2)fSiX1
3
(化合物(B))
RF1-O-(CF2CF2O)g-CF2-CONH(CH2)3Si(R1)hX2
3-h
ここで、上記各一般式中の記号は、以下の意味を示す。
R1:それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1~6の炭化水素基。原料の入手や取り扱いが容易である点から、炭素原子数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基が特に好ましい。
RF1:炭素数1~20のペルフルオロアルキル基。炭素数は1~8が好ましく、1~6が特に好ましい。
X1、X2:それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、またはイソシアネート基。複数個のX1、X2は、互いに同一であっても異なってもよい。なお、ケイ素原子に結合するこれらの基は、加水分解してケイ素原子に結合する水酸基(シラノール基)を生成することが可能な加水分解性基である。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。アルコキシ基としては、炭素原子数1~4のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。X1、X2としては、塩素原子、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。これらは、製造上の目的、用途等に応じて適宜選択され用いられる。X1、X2は、同じ基であることが入手しやすさの点で好ましい。
e:1~20の整数。1~8が好ましく、1~6が特に好ましい。
f:1~6の整数。
g:1~20の整数。
h:0または1
なお、上記各一般式で表わされる化合物(A)、化合物(B)は、それぞれ単独で使用できるほか、上記化合物(A)、化合物(B)から選ばれる1種以上の化合物の部分加水分解縮合物であってもよい。また、化合物(A)、化合物(B)から選ばれる1種以上とこれらの部分加水分解縮合物の混合物であってもよい。部分加水分解縮合物とは、溶媒中で酸触媒やアルカリ触媒等の触媒と水の存在下に加水分解性シリル基の全部または一部が加水分解し、次いで脱水縮合することによって生成するオリゴマーをいう。ただし、この加水分解縮合物の縮合度は、生成物が溶媒に溶解する程度である必要がある。
撥水膜(層)形成用組成物に用いる撥水性材料の原料成分としては、その他、市販の含フッ素有機ケイ素化合物系撥水剤、例えば、ダイキン社製のOptool DSX(商品名)等や、シリコーン系撥水剤、例えば、錦之堂社製のRAIN-X(商品名)等も使用することができる。
撥水膜(層)形成用組成物は、上記撥水性材料の原料成分のみからなるものであってもよいが、経済性、作業性、形成される撥水層の厚さの制御のしやすさ等の点から、通常、有機溶剤を含む。有機溶剤としては、アルコール類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、パラフィン系炭化水素類、エステル類等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、極性、蒸発速度等の異なる2種以上の有機溶剤を混合して使用してもよい。また、撥水性材料の原料成分として部分加水分解縮合物を含有する場合は、これを製造するために使用した溶媒を含んでもよい。
撥水膜(層)形成用組成物には、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、含フッ素有機ケイ素化合物の部分加水分解縮合反応の際に用いた触媒(塩酸、硝酸等の酸等)が挙げられる。さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、目的に応じて、機能性添加剤が含まれていてもよい。機能性添加剤としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物の微粒子、染料、顔料等の着色用材料、防汚性材料、硬化触媒、各種樹脂等が挙げられる。
撥水膜(層)形成用組成物を用いて、板状ガラス部材の車外側の主面、または、該車外側の主面に形成された密着層上に撥水膜(層)を形成するには、上記主面に撥水膜(層)形成用組成物を塗布し、乾燥、硬化させる。
塗布方法としては、スキージコート、ローラコート、フレキソコート、バーコート、ダイコート、グラビアコート、ロールコート、フローコート、スプレーコート、インクジェット、ディップコート等の方法が挙げられる。また、この塗布に次いで行われる硬化は、例えば、温度20~50℃、湿度50~90%RHの条件で行うことができる。硬化時間は、撥水層形成用材料の種類や濃度、硬化条件等にもよるが、通常、1~72時間で硬化させることができる。なお、処理方法によっては、余剰成分が発生し外観の品質を損なうおそれがあるが、その場合には、溶剤拭き、または乾拭き等で余剰成分を除去するようにすればよい。
撥水膜の膜厚は、形成材料や、板状ガラス部材の種類、用途等によって異なるが、通常、1nm~200nm、好ましくは2nm~150nmである。膜厚が1nm未満では、撥水膜の耐久性が不十分になるおそれがある。また、材料によっては、所望の撥水性を有する膜形成が困難になるおそれがある。膜厚が200nmを超えると、膜が不均一となりヘイズが上昇するおそれがある。また、膜厚が1nm未満の場合と同様、材料によっては膜形成が困難になるおそれがある。
撥水膜が密着層と撥水層の2層で構成される場合の密着層は、具体的には、下記一般式(2)で示される化合物、およびその部分加水分解縮合物から選ばれる化合物(C)を含む密着層形成用組成物を用いて形成することができる。
Si(X3)4 …(2)
上記式(2)中、X3はハロゲン原子、アルコキシ基またはイソシアネート基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。これらのうちでも、X3は、塩素原子、炭素数1~4のアルコキシ基またはイソシアネート基であることが好ましく、さらに4個のX3が同一であることが好ましい。
このような上記一般式(2)で示される化合物として、具体的には、Si(NCO)4、Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4等が好ましく用いられる。また、これらの部分加水分解縮合物は、化合物(A)、化合物(B)の部分加水分解縮合物の製造において説明したのと同様の方法で得ることができる。また、一般式(2)で示される化合物やその部分加水分解縮合物としては市販品があり、本発明にはこのような市販品を用いることが可能である。
密着層形成用組成物は、上記撥水膜(層)形成用組成物と同様の溶媒、機能性添加剤、酸触媒、水等を含んでもよい。密着層形成用組成物を板状ガラス部材の車外側の主面に塗布し、乾燥、硬化させることで密着層が得られる。撥水膜が密着層と撥水層の2層で構成される場合、密着層の層厚は、あまり厚すぎると損傷が目立ちやすくなるため、単分子層の厚さ~50nmが好ましく、撥水層の層厚は、上記同様の観点から、撥水膜全体の膜厚が1nm~200nm、特には2nm~150nmとなる層厚が好ましい。
ウインドシールド10は、例えば、次の方法で製造できる。車内側ガラス板1Aの車内側主面に着色隠蔽層5を、車外側主面に、透明導電膜35、絶縁性着色セラミックス層34およびバスバー31~33をその順に形成した、着色隠蔽層・加熱手段付き車内側ガラス板1Aを準備する。車外側ガラス板1Bの車内側主面に着色隠蔽層4を形成した着色隠蔽層付き車外側ガラス板1Bを準備する。
着色隠蔽層・加熱手段付き車内側ガラス板1Aの車外側主面と、着色隠蔽層付き車外側ガラス板1Bの車内側主面を対向するようにして、両者の間に中間接着層1Cを挟持させた積層体を作製する。該積層体を、予備接着、オートクレーブ処理等の工程に供することで、撥水膜2を有しないウインドシールド10の前駆体を製造する。ウインドシールド10の前駆体の車外側の主表面上の全面に撥水膜2を上記方法で形成することで、ウインドシールド10が得られる。
図2~図6を用いてウインドシールド10を例に本発明の車両用窓ガラスのウインドシールドへの適用例を説明した。ウインドシールド10は、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。例えば、図7は、実施形態のウインドシールドの別の一例の上下方向の断面の分解図である。図7に示すウインドシールド10Aは、ウインドシールド10において、樹脂フィルム6と中間接着層1Dをさらに有し、樹脂フィルム6は中間接着層1Cと中間接着層1Dに挟持されて車外側ガラス板1Bと車内側ガラス板1Aとの間に配置され、加熱手段3を車内側ガラス板1Aの車外側主面上ではなく、樹脂フィルム6の車外側の主面上に設ける構成である。
着色隠蔽層4、5は黒系の色であり、ウインドシールド10Aの車外側からの平面視で、撥水膜2、着色隠蔽層4、5および加熱手段3とが少なくとも一部で重なっていることが好ましく、ウインドシールド10Aの上辺周縁部で撥水膜2、着色隠蔽層4、5および加熱手段3とが少なくとも一部で重なっていることが好ましい。
ウインドシールド10Aにおいて、樹脂フィルム6と中間接着層1D以外は全てウインドシールド10と同様である。樹脂フィルム6は、ガラス板1Aの主面と略同寸同形の主面を有する。樹脂フィルム6を構成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等が挙げられ、PETが好ましい。
樹脂フィルム6の厚みは、ハンドリング性や合わせガラスの曲面追従性の観点から25~200μmが好ましく、50~100μmがより好ましい。
中間接着層1Dは、中間接着層1Cと同様の構成であってよい。ただし、ウインドシールド10Aにおいて、中間接着層1Dと中間接着層1Cの合計の厚みは、ウインドシールド10Aの軽量化の観点から1.2mm以下が好ましい。
なお、ウインドシールド10Aにおいて、透明導電膜35は、ガラス板1A上に形成されるのではなく樹脂フィルム6上に形成される。そのため、600~700℃の熱処理を特に考慮しなくてよい。ただし、ウインドシールド10Aにおいても、透明導電膜35の好ましい態様は、上記ウインドシールド10の場合と同様である。
樹脂フィルム6の車外側の主面上に設けられる加熱手段3は、ウインドシールド10と同様の透明導電膜35、絶縁性着色セラミックス層34および、2組のバスバー31~33からなり、形成方法もウインドシールド10と同様にできる。なお、樹脂フィルム6において、加熱手段3を設ける面は車内側の主面であってもよい。
ウインドシールド10Aは、例えば、次の方法で製造できる。車内側ガラス板1Aの車内側主面に着色隠蔽層5を形成した、着色隠蔽層付き車内側ガラス板1A、車外側ガラス板1Bの車内側主面に着色隠蔽層4を形成した着色隠蔽層付き車外側ガラス板1B、および、樹脂フィルム6の車外側主面に加熱手段3を形成した加熱手段付き樹脂フィルム6を準備する。
着色隠蔽層付き車内側ガラス板1A、中間接着層1D、加熱手段付き樹脂フィルム6、中間接着層1C、および着色隠蔽層付き車外側ガラス板1Bをこの順に積層した積層体を、予備接着、オートクレーブ処理等の工程に供することで、撥水膜2を有しないウインドシールド10Aの前駆体を製造する。ウインドシールド10Aの前駆体の車外側の主表面上の全面に撥水膜2を上記方法で形成することで、ウインドシールド10Aが得られる。
ウインドシールド10のさらに別の変形例として、加熱手段の態様がウインドシールド10と異なる、図8に示す加熱手段3Bを有するウインドシールド10Bおよび図11に示す加熱手段3Cを有するウインドシールド10Cが挙げられる。図8に示す加熱手段3Bおよび図11に示す加熱手段3Cは、抵抗加熱線と抵抗加熱線に通電する1対のバスバーを備える構成の例である。
図8に示す概略平面図を示す加熱手段3Bは、ウインドシールドにおいて板状ガラス部材として図2~図6に示すウインドシールド10と同様の合わせガラス1を用いた場合の別の加熱手段である。図9は、図8に示す加熱手段3Bを備えるウインドシールド10BのX-X断面図であり、図10はY-Y断面図を示す。
図8に示す加熱手段3Bは、略台形状の車外側ガラス板1Bの車内面上に設けられている。加熱手段3Bは、車外側ガラス板1Bの上辺から所定の距離をおいた内側の左右にバスバー31aおよび31bを有する。バスバー31aは上辺内側の左側から左辺に沿った左辺の内側に延在し端部は下辺に達している。バスバー31aは下辺に達した部分に端子部36aを有し電源からの導電線(不図示)と接続している。同様にバスバー31bはバスバー31aと左右対称の形状に設けられ下辺に達した部分に端子部36bを有し電源からの導電線(不図示)と接続している。
また、加熱手段3Bは、車外側ガラス板1Bの下辺から所定の距離をおいた内側の左右にバスバー32a、32bを有し、それぞれ、端子部37a、端子部37bにより電源からの導電線(不図示)と接続している。この例のバスバー31a、31b、32a、32bの幅は約3~10mm程度が一般的である。
上部のバスバー31a、31bと下部のバスバー32a、32bとの間には、その矩形部分において線径10~35μmの抵抗加熱線38が所定の間隔で正弦波形に平行配設されている。抵抗加熱線38のシート抵抗は、0.2~10Ω/□が好ましい。シート抵抗が0.2Ω/□以上であれば、充分な融雪、融氷、融霜等の効果が得られる。シート抵抗が10Ω/□以下であれば、省エネルギーの効果が得られやすい。抵抗加熱線38のシート抵抗は0.2~5Ω/□がより好ましく、0.2~3Ω/□がさらに好ましく、0.2~1Ω/□が特に好ましい。
抵抗加熱線38の構成材料としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステンおよびこれらの合金を例示できる。これらの中でも、抵抗値と強度の観点から、タングステン、銅および銀から選ばれる少なくとも1種を含む材料が好ましい。
抵抗加熱線38の径は約10~35μmの範囲のものが好ましい。抵抗加熱線38の形状は、振幅が0.2~1.5mm、波長が2~8mm程度の正弦波状であることが好ましい。このような形状とすることにより、板状ガラス部材である合わせガラス1を温度的にも光学的にも、より均一に発熱させることができる。
図8は模式図であり、実際のウインドシールドにおいては、上辺、下辺は直線状ではなく、曲線状となっているのが一般的である。したがって、上辺から下辺間の距離が辺長全体にわたって等距離となっていることは稀である。しかし、著しい距離変化(例えば、±15%以上)がない限りは、積極的に、抵抗加熱線の線径および/または間隔を、連続的または段階的に調整する必要はない。一方、側辺部のバスバーと下辺部のバスバーとの間の距離は、その位置によって著しく異なるので調整が必要となる。
具体的には、ウインドシールド10Bにおいて、加熱手段3Bは、好ましくは電力密度が300W/m2以上700W/m2以下となるように設けられる。ただし、ウインドシールド10Bの主面内で偏差が20%以内となるように設計されるのが好ましい。
図9は、ウインドシールド10Bにおいて、バスバーが存在しない領域の断面(X-X)である。ウインドシールド10Bにおいて、合わせガラス1は、車内側ガラス板1A、中間接着層1C、車外側ガラス板1Bで構成される。抵抗加熱線38は、製造時には車外側ガラス板1Bの車内面に設けられるが、合わせガラス1の製造過程で、中間接着層1C中に埋設される。車外側ガラス板1Bの車外面には撥水膜2が形成され、ウインドシールド10Bの車外側の主表面2aは所定の水接触角を有する。
図10は、ウインドシールド10Bにおいて、バスバー32aが存在する位置における断面(Y-Y)である。ウインドシールド10Bにおいて、バスバー32aは合わせガラス1の中間接着層1Cと車外側ガラス板1Bの間に位置し、中間接着層1C側に配置される平織銅製織布からなるテープ状の電極32a-2と車外側ガラス板1B側に配置される薄い銅板からなるテープ状の電極32a-1からなる。バスバー32aは、電極32a-2と電極32a-1の間に抵抗加熱線38を挟持する構成である。
電極32a-1および電極32a-2は、バスバー32aが設けられていない部分との厚みの差を少なくするために薄いほど好ましく、合計で約0.1~0.4mm程度の厚さであることが好ましい。また、同様の理由で電極32a-2は、最終的にはその少なくとも一部が中間接着層1C中に埋設されることが好ましい。図10においても、車外側ガラス板1Bの車外面には撥水膜2が形成されていることが示されている。撥水膜2は、ウインドシールド10Bの車外側の主表面2aの全面が所定の水接触角を有するように、車外側ガラス板1Bの車外面の全面に形成されている。
図11に示す概略平面図を示す加熱手段3Cは、ウインドシールドにおいて板状ガラス部材として図2~図6に示すウインドシールド10と同様の合わせガラス1を用いた場合のさらに別の加熱手段である。図12は、図11に示す加熱手段3Cを備えるウインドシールド10CのB-B断面図を示す。
図11に示す加熱手段3Cは、略台形状の車外側ガラス板1Bの車内面上に設けられている。加熱手段3Cは、車外側ガラス板1Bの車内面の周縁部を除く領域にメッシュ状に成形された抵抗加熱線38を有し、抵抗加熱線38に通電するための一対のバスバー31、32が車外側ガラス板1Bの左右の辺に沿って該左右の辺の内側に設けられている。加熱手段3Cは、さらに、バスバー31、32を電源からの導電線(不図示)と接続する端子部36、37を有する。
抵抗加熱線38は、形状が異なる以外は、ウインドシールド10Bにおける抵抗加熱線38と同様にできる。例えば、シート抵抗、構成材料、これにより得られる電力密度はすべてウインドシールド10Bで説明した上記の範囲が好ましい。
加熱手段3Cにおけるメッシュ状に成形された抵抗加熱線38は、上述したように不透明な金属材料を用いて形成され得る。その一方で、抵抗加熱線38によるメッシュは、70%以上90%以下程度の高い開口率で形成される。また、抵抗加熱線38の線幅は、2μm以上20μm以下程度となっている。このため、メッシュ状に成形された抵抗加熱線38は、全体として透明に把握され、視認性を害さないようになっている。
図12は、ウインドシールド10Cにおいて、バスバーが存在しない領域の断面(B-B)である。ウインドシールド10Cにおいて、合わせガラス1は、車内側ガラス板1A、中間接着層1C、車外側ガラス板1Bで構成される。抵抗加熱線38は、製造時には車外側ガラス板1Bの車内面に設けられるが、合わせガラス1の製造過程で、中間接着層1C中に埋設される。車外側ガラス板1Bの車外面には撥水膜2が形成され、ウインドシールド10Cの車外側の主表面2aは所定の水接触角を有する。
なお、ウインドシールド10Bおよびウインドシールド10Cにおいて、加熱手段3Bおよび加熱手段3Cは、車外側ガラス板1Bの車内側の主面上に設ける代わりに、車内側ガラス板1Aの車外側の主面上に設けてもよい。
上に説明したウインドシールド10、10A、10B、10Cは、全て加熱手段および撥水膜が板状ガラス部材の主面の略全面に設けられた例である。本発明の車両用窓ガラスにおいては、必要に応じて、加熱手段および撥水膜のいずれか一方または両方を、板状ガラス部材の主面の融雪、融氷、融霜等が特に必要とされる領域のみに形成してもよい。
また、加熱手段については、板状ガラス部材の主面の略全面に設けた上で、融雪、融氷、融霜等が特に必要とされる領域とそれ以外の領域について電源スイッチのON・OFFや、電力量の調整を別系統で行う構成としてもよい。例えば、図13に車外側からみた概略平面図を示すウインドシールド10Dは、加熱手段の加熱が、車両に取り付けたときの上辺から下方に向かって0mm超200mm以下の位置までの領域Uについて独立に制御できる構成である。
ウインドシールド10Dは、図2~図4に示すウインドシールド10と同様に、2枚のガラス板に中間接着層が挟持された合わせガラスからなる板状ガラス部材1の車外側の表面の全面に撥水膜2を有し、車外側のガラス板の車内側主面の周縁部に枠状に着色隠蔽層4を有する構成である。加熱手段(不図示)は、例えば、ウインドシールド10における加熱手段3と同様に透明導電膜とバスバーおよび絶縁性着色セラミックス層を有する構成である。ウインドシールド10Dでは、例えば、透明導電膜を、領域Uと、領域U以外の領域に両者が接しないように形成し、各領域で加熱が独立に制御できるように領域毎に1対のバスバーを配置し電源と接続可能にした構成である。なお、各領域は、電源の操作において領域毎にスイッチのON・OFFや、電力量の調整が可能となるように設計される。
図13においては、領域Uの幅をw1として示した。幅w1は0mm超であればよく、最大が200mmである。領域Uは、例えば、車内に取り付けられ、ウインドシールドを介して車外と信号の送受信を行う車載カメラ、LiDAR等の情報取得処置に対応して設けられる領域である。したがって、幅w1は、例えば、用いる情報取得処置の種類や取り付け位置に応じて適宜調整される。
また、車両用窓ガラスがフロントドアガラスの場合、加熱手段の加熱が、車両に取り付けたときの前方端部から後方に向かって0mm超200mm以下の位置までの領域について独立に制御できる構成としてもよい。
図14に、上記構成を有するフロントドアガラスの一例の車外側からみた概略平面図を示す。図14に示すフロントドアガラス11は、2枚のガラス板に中間接着層が挟持された合わせガラスからなる板状ガラス部材1の車外側の表面の全面に撥水膜2を有する。図14おいてフロントドアガラス11は、左側が車両の前方に位置するように車両に取り付けられる。VLはベルトラインを示し、フロントドアガラス11を車両に取り付けた際に、ベルトラインより上が視認領域、下が非視認領域である。
フロントドアガラス11において、加熱手段は、例えば、ウインドシールド10における加熱手段3と同様に透明導電膜とバスバーからなる。該加熱手段において、車両に取り付けたときの前方端部から後方に向かって0mm超200mm以下の位置までの領域Fを独立に制御できるようにバスバーが設計された構成である。
図15に、フロントドアガラス11が、透明導電膜とバスバーからなる加熱手段を有する場合の該加熱手段を説明する概略平面図を示す。図15に示す加熱手段3Dは、板状ガラス部材である合わせガラス1の車外側ガラス板1Aの車外面上に設けられている。なお、合わせガラス1は、車外側ガラス板1Aと車外側ガラス板に中間接着層が挟持されて構成される。加熱手段3Dは、透明導電膜35a、35bを、それぞれ領域Fと、領域F以外の領域に両者が接しないように有する。フロントドアガラス11は曲率半径を有することが好ましい。
領域Fに対応する透明導電膜35aは、上下が反転した略U字形状に形成され、2つの端部がベルトラインより下の非視認領域で1対のバスバー31aおよび32aに接続している。領域F以外の領域に対応する透明導電膜35bは、透明導電膜35aと同様に上下が反転した略U字形状に形成され、2つの端部がベルトラインより下の非視認領域で1対のバスバー31aおよび32aに接続している。バスバー31aおよび32aはそれぞれ電源からの導電線(不図示)と接続する端子部36a、37aを有し、バスバー31bおよび32bはそれぞれ電源からの導電線(不図示)と接続する端子部36b、37bを有する。
加熱手段3Dにおいては、上記のとおり、透明導電膜35a、35bが形成された各領域で加熱が独立に制御できるように、領域毎に非視認領域で1対のバスバーと接続され、該バスバーを通じて独立に電源と接続可能である。フロントドアガラス11は、加熱手段3Dの上記構成により、バスバーや端子部が全て非視認領域内に形成されることで、着色隠蔽層を有しない構成とできる。なお、各領域は、電源の操作において領域毎にスイッチのON・OFFや、電力量の調整が可能となるように設計される。
なお、透明導電膜を、例えば、図15に示す透明導電膜35a、35bのように、部分的に分断して配置する手法は、例えばレーザーやエッチング液を用いて膜を部分的に除去する、等が挙げられる。また、透明導電膜に変えて、図7のウインドシールド10Aで示されている加熱手段付き樹脂フィルムも好適に用いられる。
図14および図15においては、領域Fの幅をw2として示した。幅w2は0mm超であればよく、最大が200mmである。領域Fは、例えば、図1に示す自動車100におけるドアミラー14を車内から見る場合の視野領域である。幅w2は、例えば、ドアミラー14の位置や大きさ等に応じて適宜調整される。