JP7272882B2 - フロレチン-4-α-グルコシドの結晶 - Google Patents
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Description
まず、フロレチンを受容体とし、マルトースを糖供与体として用い、これに各種酵素を作用させ、反応液中にフロレチン配糖体が生成するか否かを調べることによりフロレチン配糖化能を有する酵素のスクリーニングを行った。
フロレチン(東京化成工業株式会社販売)をジメチルスルホキシドに濃度10質量%になるよう溶解して調製した受容体溶液10μLをマイクロチューブに分注した。次いで、それぞれのマイクロチューブに、マルトース(商品名『サンマルトS』(登録商標)、株式会社林原販売)をジメチルスルホキシドに濃度10質量%になるよう溶解した糖供与体溶液90μLを加え、それぞれ計100μLの基質溶液とした。これら基質溶液に、さらに、自社で調製した酵素標品又は市販の酵素剤(約80種)をそれぞれ任意濃度含んだ水溶液2.5μLを加えた後、40℃の恒温槽(シェイキングインキュベータ BT100、ヤマト科学株式会社販売)に漬け、pH6.8の条件下で24時間反応させた。得られた各反応液を下記条件のTLC(Thin-Layer Chromatography)分析(以下、「TLC分析」と略称する。)に供し、フロレチンを配糖化する能力を有する酵素を検索した。
<TLC分析の条件>
TLCプレート:「TLCシリカゲル60F254」(メルク社販売)
展開条件:1-ブタノール:酢酸:水=3:1:1(容積比)、上昇法 1回展開
検出条件:展開後のTLCプレートに、リンモリブデン酸5gをエタノール100mLに溶解し、更に、20質量%硫酸-エタノール溶液2mLを添加した溶液を噴霧し、120℃のオーブンで5分間加熱した。
<HPLC条件>
液送ユニット:「LC-20AD」(株式会社島津製作所販売)
カラム:「CAPCELL PAK C18 UG120」
(φ4.6mmx250mm、株式会社資生堂販売)
デガッサー:「DGU-20A3」(株式会社島津製作所販売)
移動相:0.01%酢酸水溶液:アセトニトリル=3:1(容積比)
カラム温度:40℃
流速:0.4mL/分
検出:UV検出器「SPD-20A」(株式会社島津製作所販売)
検出波長:UV280nm
データ処理装置:「クロマトパック C-R7A」(株式会社島津製作所販売)
実製造を想定して酵素反応時にジメチルスルホキシドを使用せず、水系での酵素反応が進行する条件を検討した。ここで、フロレチンはフェノール性水酸基を有するため、アルカリ性条件下で水に溶解し易くなることから、一旦、アルカリ性の水に溶解させ、酵素反応時のpHを検討すると同時に、反応温度、反応時間についても検討を行った。また、至適酵素量を決定するために、反応に供する酵素であるサーモモナス ハイドロサーマリス ATCC BAA-470株由来のα-グルコシダーゼの酵素活性を測定した。
<実験3-1:フロレチン配糖体の調製>
まず、イオン交換水476mLに糖供与体であるマルトース80g(商品名『サンマルトS』(登録商標)株式会社林原販売)を溶解し、次に受容体であるフロレチン16g(HPLC純度95%、Guilin Layn Natural Corp.販売)を加え懸濁させた後、5Nの水酸化ナトリウム水溶液を24mL加えてpH9.8に調整しフロレチンを溶解させた。次いで、上記のようにして調製したサーモモナス ハイドロサーマリス ATCC BAA-470株由来のα-グルコシダーゼ酵素液(酵素活性2.35U/mL、株式会社林原調製品)を糖供与体1g当たり6単位となるように204mL加えて、35℃で攪拌下反応を開始した。反応開始1時間後に6Nの塩酸を4.8mL加え、pH8.5乃至8.7に調整し、さらに反応温度35℃にて3時間反応を行った。その後、煮沸により酵素を失活させ反応停止した後、後述する精製に供した。
実験3-1で調製した酵素反応液は、以下に述べるように、酢酸エチルを用いた分配抽出に供し、フロレチン配糖体の部分精製を行った。
上記の部分精製標品全量を下記条件による分取HPLCに供し精製した。すなわち、部分精製標品を分取HPLCで移動相に用いる溶媒にて10%(w/v)になるよう溶解し、2回に分けて下記条件による分取HPLCに供し、波長280nmの吸光度を指標にフロレチン配糖体画分を回収した。さらに、回収画分を減圧濃縮することによりフロレチン配糖体の精製標品2.0gを得た。
<分取HPLC条件>
装置:「GX271 Liquid Handler」(ギルソン社販売)
ポンプ:「306 Pump」(ギルソン社販売)
カラム:「YMC-Pack ODS-AQ S-15」
(φ50mmx500mm、株式会社ワイエムシィ販売)
移動相:0.01質量%ギ酸アンモニウム水溶液:アセトニトリル=3:1(容積比)
カラム温度:40℃
流速:10mL/分
検出器:「UV/VIS-151」(ギルソン社販売)
検出波長:UV280nm
(1)HPLC分析
実験3-3で得たフロレチン配糖体の精製標品の純度を、流速を0.8mL/分にした以外は実験1と同一の条件にてHPLCを用いて分析した。HPLCクロマトグラムを図2に示した。図2に見られるとおり、保持時間8.5分付近に目的とするフロレチン配糖体のピークが認められ、原料であるフロレチンのピーク並びに副生配糖体のピークは痕跡程度しか認められなかった。今回取得した精製標品の純度は99.0%であった。
実検3-3で得たフロレチン配糖体の構造を明らかにするため、フロレチン配糖体精製標品を試料として1H-NMRスペクトルを測定した。
<1H-NMR分析条件>
装置:「JNM-AL-300FT-NMR 300MHz」
(日本電子株式会社販売)
解析ソフト:「JEOL Delta NMR Software
v.5.0.4.3」
測定溶媒:ジメチルスルホキシド-d6
積算回数:8回
4位のOH基による1プロトン:9.1ppm、4´位のOH基による1プロトン:10.3ppm、及び2´位と6´位の等価なOH基による2プロトン:12.2ppmとして確認される。一方、フロレチン配糖体については、フロレチンの4位のOH基ピークに相当する9.1ppmのプロトンのピークが消失していた。また、3.4~5.7ppm付近にグルコース由来のプロトンのピークを確認した。したがって、今回得たフロレチン配糖体におけるグルコースの結合位置はフロレチンの4位のOH基であることが判明した。また、上記のフロレチン配糖体にα-グルコシダーゼを作用させたところ、グルコースの脱離が認められ、フロレチン単体が確認された。以上の結果から、フロレチン配糖体をフロレチンの4位にグルコースがα結合した、フロレチン-4-α-グルコシド(分子量:436.14)であると決定した。以下にその構造を示す(化学式3)。
実験3-3で得たフロレチン-4-α-グルコシドの精製標品1gを室温下にて水5mL加え溶解させた後、冷蔵保管10℃以下にて20時間保持したところ結晶が析出した。結晶懸濁液を吸引ろ過することにより晶出した結晶を回収し、冷水にて洗浄した後、減圧乾燥し、フロレチン-4-α-グルコシドの白色結晶0.6gを得た。
<実験6-1:光学顕微鏡観察>
実験5で得たフロレチン-4-α-グルコシドの結晶について、倒立型顕微鏡(「TMS-F型」、日本分光工業株式会社販売)を用いて撮影した光学顕微鏡写真(倍率1,000倍)を図4に示した。図4に見られるとおり、フロレチン-4-α-グルコシドの結晶は、針状結晶であった。
実験5で得たフロレチン-4-α-グルコシドの結晶について、下記の条件により粉末X線回折パターンを測定した。得られた粉末X線回折パターンを図5に示した。
<粉末X線回折パターンの測定条件>
装置:「X’Pert PRO MPD」(スペクトリス株式会社販売)
入射X線:CuΚα
波長:1.5405Å
出力:45kV、40mA
検出器:半導体アレイ検出器
検出器:「X’Celerator PW3015/20」
(スペクトリス株式会社販売)
測定温度:室温
実験5で得たフロレチン-4-α-グルコシド結晶の熱重量示差熱分析を、下記条件にて行った。
<TG/DTA分析条件>
装置:「TGDTA6200R」(セイコーインスツルメンツ販売)
解析ソフト:「HITACHI熱分析ソフトウェア TA7000」
サンプル昇温速度:30~550℃、10℃/分、窒素ガス気流下
実験5で得たフロレチン-4-α-グルコシド結晶の示差走査熱量分析を、以下の条件にて測定を行った。示差走査熱量分析の曲線図を図6に示した。
<DSC分析条件>
装置:「DSC Q20」(TA Instruments販売)
解析ソフト:「TA Universal Analysis」
サンプル昇温速度:30~300℃、5℃/分
実験5で得たフロレチン-4-α-グルコシド結晶について、常法に従いカールフィッシャー法により水分測定したところ、含水量が5.0質量%であった。この水分含量は、分子量より、フロレチン-4-α-グルコシド1モルに対し1.3モルに相当することから、フロレチン-4-α-グルコシド結晶は一含水結晶であると考えられた。
フロレチンが水に対してほとんど溶解しないのに対し、実験5で得たフロレチン-4-α-グルコシド結晶は、脱イオン水100mLを室温(25℃)攪拌下、これにフロレチン-4-α-グルコシドの結晶20mgを秤量し、添加したところ完溶することを確認した。一方、フロリジン(フロレチン-2´-β-グルコシド)結晶については、同一の条件では完溶することなく、さらに5倍希釈しても溶け残りが確認された。したがって、実験5-1で得たフロレチン-4-α-グルコシドの結晶は、フロリジン(フロレチン-2´-β-グルコシド)結晶に比べ5倍以上の溶解性向上が認められた。
実験5で得たフロレチン-4-α-グルコシドの結晶と、実検3-3で得たフロレチン-4-α-グルコシド精製標品の水溶液を凍結乾燥することにより調製したフロレチン-4-α-グルコシドのアモルファス粉末との安定性を比較した。すなわち、それぞれの試料を40℃、相対湿度80%の条件下で72時間静置し、目視にて外観の変化を比較した。すると、フロレチン-4-α-グルコシドの結晶に外観の変化は認められなかったが、アモルファス粉末には褐色の着色が認められた。
常法により下記(1)~(9)を混合し加熱溶解した後、(10)~(13)を加えホモジナイザーにて乳化し、更に適量の香料を加えて撹拌混合することにより乳液を製造した。
配合成分 質量部
(1) ポリオキシエチレンベヘニルエーテル 0.5
(2) テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール 1.0
(3) 親油型モノステアリン酸グリセリン 1.0
(4) ピルビン酸 0.5
(5) ベヘニルアルコール 0.5
(6) アボガド油 1.0
(7) 実験5の方法で得たフロレチン-4-α-グルコシドの結晶
1.0
(8) ビタミンE 適 量
(9) 防腐剤 適 量
(10) L-乳酸ナトリウム 1.0
(11) 1,3-ブチレングリコール 5.0
(12) カルボキシビニルポリマー 0.1
(13) 精製水 85.3
下記成分を下記配合に基づき混合して常法により経管(糖尿病)治療剤を調製し、24gずつをラミネートアルミ製小袋に充填し、ヒートシールした。
配合成分 質量部
(1) 結晶性α-マルトース 20.0
(2) グリシン 1.1
(3) グルタミン酸ナトリウム 0.18
(4) 食塩 1.2
(5) クエン酸 1.0
(6) 乳酸カルシウム 0.4
(7) 炭酸マグネシウム 0.1
(8) 実験5の方法で得たフロレチン-4-α-グルコシドの結晶
0.1
(9) チアミン 0.01
(10) リボフラビン 0.01
下記の成分を下記配合に基づき均一に混合した後、常法に従って打錠し、一錠150mgの錠剤を製造した。
配合成分 質量部
(1) 実験5の方法で得たフロレチン-4-α-グルコシドの結晶
20.0
(2) 結晶性β-マルトース 13.0
(3) コーンスターチ 4.0
(4) ルチン(ビタミンP) 1.0
(5) リボフラビン(ビタミンB2) 0.5
下記成分(1)~(5)を下記配合にて均一に混合し、顆粒成形機にかけて顆粒とした後、常法に従って、ゼラチンカプセルに封入して、カプセル1個当たり150mg入のカプセル剤を製造した。
配合成分 質量部
(1) 酢酸カルシウム・一水和物 10.0
(2) L-乳酸マグネシウム・三水和物 50.0
(3) マルトース 57.0
(4) 実験5の方法で得たフロレチン-4-α-グルコシドの結晶
20.0
(5) エイコサペンタエン酸20%含有
γ-シクロデキストリン包接化合物 12.0
↓:フロレチン-4-α-グルコシド結晶の粉末X線回折パターンにおける特徴的な4つの回折ピーク
a:回折角(2θ) 4.3°の回折ピーク
b:回折角(2θ) 9.7°の回折ピーク
c:回折角(2θ)14.4°の回折ピーク
d:回折角(2θ)21.5°の回折ピーク
Claims (3)
- 粉末X線回折において、少なくとも、回折角(2θ)4.3°、9.7°、14.4°、及び、21.5°に回折ピークを示すフロレチン-4-α-グルコシドの一含水結晶。
- 請求項1に記載のフロレチン-4-α-グルコシドの一含水結晶を含む組成物。
- 請求項2記載の組成物を含んでなる飲食品、化粧品、医薬部外品、又は、医薬品。
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