JP7247045B2 - 1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエテン(tcfe)の製造方法 - Google Patents

1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエテン(tcfe)の製造方法 Download PDF

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本発明は、1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエテン(以下、TCFE又は「トリクロロモノフルオロエテン」という)の新規な製造方法及び新規な用途に関する。
TCFEは既知物質(CAS No.359-29-5)であるが、これまでに明確な用途は見出されていない。TCFEの有用性が見出されていないために、TCFEの効率的な合成法も開発されてこなかった。
本発明の目的は、TCFEを効率良く製造できる新規な製造方法を提供することである。本発明の他の目的は、TCFEの新規な用途を提供することである。
本発明は以下のものを提供する。
[1]
1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエテン(TCFE)の製造方法であって、
(a)ペンタクロロエタンを0~80℃の温度でフッ素化してモノフルオロペンタクロロエタンを生成し、そして
(b)(a)で得られたモノフルオロペンタクロロエタンを亜鉛と反応させてTCFEを生成する
工程を含む方法。
[2]
(a)のフッ素化が1~100体積%のFガス濃度のFガスと不活性ガスとの混合物を使用して行われる、[1]に記載の方法。
[3]
(a)のフッ素化が溶媒中で行われる、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
(b)の反応が-50~120℃の温度で行われる、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
(b)の反応が溶媒中で行われる、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
(a)で使用するペンタクロロエタンが、トリクロロエテン(TCE)を塩素化することによって得られる、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
溶剤または洗浄剤としての1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエテン(TCFE)を含む組成物の使用。
[8]
フラックスまたは加工油を洗浄するための洗浄剤としての[7]に記載のTCFEを含む組成物の使用。
[9]
基材にTCFEを含む組成物を接触させる工程を含む、基材から汚染物質を除去する方法。
[10]
前記汚染物質がフラックスまたは加工油である、[9]に記載の方法。
本発明によれば、ペンタクロロエタンからモノフルオロペンタクロロエタンを経てTCFEを効率良く製造できる新規な製造方法が提供される。本発明によれば、ペンタクロロエタンをフッ素化してモノフルオロペンタクロロエタンを得る工程がほぼ100%の転化率で95%以上の選択率で行うことができ、また、モノフルオロペンタクロロエタンからTCFEを得る工程も99%を超える転化率と選択率で行うことができる。従って、従来より知られているトリクロロエテン(TCE)を塩素化することによってペンタクロロエタンを高収率で得る方法を組み合わせることにより、入手が容易なTCEから目的物のTCFEを90%以上の収率で得ることができる。各工程は99%以上の転化率で95%以上の選択率なので生成物を単離精製してから次工程に使用する必要がなく、極めて作業効率がよい。本発明によればまた、TCFEの新規な用途、特に、溶剤または洗浄剤としての用途が提供される。
[作用]
従来、ペンタクロロエタンをフッ素化してモノフルオロペンタクロロエタンを得る工程は、反応効率が悪く、反応温度を90℃程度の高温で行うものと考えられていた。しかし、本発明者らは、予想外にも、上記工程を20℃程度の低温で行うことによって副反応が起こらず、収率(転化率及び選択率)が改善し、モノフルオロペンタクロロエタンを高収率で得られることがわかった。本発明では、反応条件を検討しモノフルオロペンタクロロエタンからTCFEを得る工程も高収率で行うことに成功した。よって、本発明によれば、入手が容易なTCEからペンタクロロエタン及びモノフルオロペンタクロロエタンを経てTCFEを90%以上の収率で得ることができる。
本発明によれば、予想外にも、TCFEが溶剤、洗浄剤などの用途に有用であることが見出されている。TCFEの沸点は71℃なので容易に乾燥でき、TCFEは洗浄剤に適していることも分かった。
[TCFEの製造方法]
本発明は、1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエテン(TCFE)の製造方法であって、
(a)ペンタクロロエタンを0~80℃の温度でフッ素化してモノフルオロペンタクロロエタンを生成し、そして
(b)(a)で得られたモノフルオロペンタクロロエタンを亜鉛と反応させてTCFEを生成する
工程を含む方法に関する。本発明の特徴は、工程(a)のフッ素化反応を0~80℃、特に、10~30℃で行い、工程(b)の脱塩素化反応を亜鉛を使用して行うことが特徴である。このような反応条件を採用したことにより、工程(a)の収率と工程(b)の収率がいずれも99%以上の転化率で95%以上の選択率で行うことができるので、各工程の間に生成物の精製や単離を行うことなく、反応液を次工程の原料として使用することができる。
工程(a)のフッ素化は、1~100体積%、特に20~50体積%のFガス濃度のFガスと不活性ガスとの混合物を使用して行うことができる。この場合の不活性ガスとしては、窒素(N)ガス、He、Ne、Ar、Xeなどの希ガス、などが挙げられる。
工程(a)及び工程(b)は、フッ素化剤や亜鉛と反応しない溶媒、例えば、四塩化炭素、パーフルオロカーボン(PFC)、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、クロロフルオロカーボン(CFC)、パーフルオロエーテル(PFE)、ヒドロフルオロエーテル(HFE)、メタノール、エタノール、2-メトキシエタノール、ジグライム、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどの有機溶媒を使用して液相反応として行うことができる。工程(a)の生成物(モノフルオロペンタクロロエタン)の融点は101℃なので、有機溶媒を使用しない場合には、工程(a)の反応温度では生成物は固体として反応容器内に存在することになる。また、工程(b)を101℃を下回る温度で行う場合は、有機溶媒を使用して工程(b)の原料を溶液の形で使用することが望ましい。特に、2-メトキシエタノールは沸点が124℃なので、室温では容易に蒸発しない反面、減圧蒸留、常圧蒸留のいずれによっても生成物との分離が可能である。
工程(b)の反応が-50~120℃の温度、特に-50~100℃の温度、特に-20~80℃の温度で行われることが望ましい。また、工程(b)で使用する亜鉛は粒状、粉末状であることが反応効率や取り扱いの観点から望ましい。工程(a)と工程(b)で使用する溶媒が異なると、溶媒置換を行うことになるが、この溶媒置換は、例えば、工程(a)で使用した溶媒を蒸留によって反応容器から除去し、工程(b)で使用する溶媒を反応容器に加えることによって行うことができる。
工程(a)で使用するペンタクロロエタンは、例えば、トリクロロエテン(TCE)を塩素化することによって得られる。TCEの塩素化反応は当業界で周知であり、高収率で工程(a)の原料を得ることができる。
[TCFEの用途]
本発明によれば、TCFEの溶剤及び洗浄剤としての新規な用途が見出されている。TCFEは、アセトン、アセトフェノン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグライム、1,4-ジオキサン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類等の有機溶媒と任意の割合で混合することができる。このため、TCFEは、混合溶媒として幅広い用途に使用できることがわかった。また、TCFEは、特に油の溶解性に優れており、洗浄剤として好適に用いる事ができることがわかった。TCFEの沸点は71℃なので乾燥性が良く、洗浄剤としての使用に適する。
本発明を以下の例により説明するが、本発明の範囲は以下の例に限定されるものではない。
以下の反応プロセスに従ってTCEからTCFEを製造した。
Figure 0007247045000001
(上記反応式において、「rt」は室温を意味し、「M」は反応基質のモル濃度(mol/L)を意味し、「h」は時間を意味し、Fガスの濃度は体積%である。)
[実施例1] 1ステップ目(TCE→CClH)
500mLガラス製3つ口フラスコに、TCEを500g(3.8mol)秤り入れた。系内を窒素置換した後に、氷浴によって反応液を冷却した。その後、撹拌下Clを180mL/minで導入した。Clを1.0当量(270g、3.8mol)導入した後、窒素を導入して系内に残留しているClを追い出した。その結果目的のペンタクロロエタンをGC純度97.9%で無色透明液体として723g(収率99%)得た。
[実施例2] 2ステップ目(CClH→CClF)
コンデンサーを取り付けた5LのPFA(パーフルオロアルコキシアルカン樹脂)反応器にペンタクロロエタンを700g(3.5mol)、CClを3L仕込んだ。反応器内を窒素置換しつつ、反応液温度を水浴により20℃に調節した。その後窒素フローを停止し、Nとの混合ガス中の体積%濃度で20体積%F/Nを110mL/minで91時間導入した(1.55当量)。F導入完了後、窒素フロー下、室温まで昇温した。得た反応液を5重量%重曹水10mLで洗浄した後、GCにて分析したところ、転化率99%、選択率97%であった。
本発明者らは、以下の表1に示すように、2ステップ目のCClH→CClFの反応工程において、反応条件を変えて小スケールで反応を複数回行うことによって、特定の温度領域で生成物の選択率が高くなることを見出している(80℃を超える温度ではパークロロエテン(PCE)の副生が主であり、0℃未満の温度ではほとんど反応が進行しない)。なお、CClFが固体であるため、無溶媒かつ融点(101℃)以下ではFガスを0.5当量導入した時点で導入を止めている。
Figure 0007247045000002
(脚注)*転化率、選択率ともにGC分析の面積%より決定した。
ステップ2の生成物であるCClFのデータを以下に示す。
Figure 0007247045000003
外観:白色固体
19FNMR(CDCl):-62.9(s,1F)
13CNMR(CDCl):101.0(d,J=34Hz),122.0(d,J=309)
[実施例3] 3ステップ目(CClF→TCFE)
反応器としてジムロート冷却管と滴下漏斗を取り付けた2Lガラス製3つ口フラスコにZn粉末を291g(1.1当量)、2-メトキシエタノールを200mL仕込み、反応器を氷浴に浸漬した。その後、2-メトキシエタノール740mLに溶解させたCClF 809gを滴下漏斗に仕込んだ。その後、CClF溶液を5時間かけて滴下し、室温に昇温してさらに12時間撹拌した。その結果、転化率99%、選択率99% (19F NMRにて決定)となったため、反応終了と判断した。反応器から滴下漏斗、ジムロート冷却管を取り外し、単蒸留の装置を組み上げた。常圧下でオイルバスの温度を80℃から120℃まで段階的に昇温し、留出が無くなるまで継続した。その結果、無色透明液体としてTCFE粗生成物を431g得た。続いてTCFE粗生成物を精留により精製した。塔頂温度71℃の成分を捕集したところ、GC純度99%以上のTCFEを361.3g得た。
ステップ3の生成物であるTCFEのデータを以下に示す。
Figure 0007247045000004
外観:無色透明液体
19F NMR(CDCl):-78.6(s,1F)
13C NMR(CDCl):107.5(d,J=44Hz),143.2(d,J=302Hz)
沸点:71℃
密度:1.5271(25℃)
[洗浄力評価試験]
TCFEに対する各評価対象の溶解度(洗浄能力)を表2に示した。表中の数値は溶剤100gに溶ける各評価対象のグラム数を示す。「相溶」は、溶剤100gに評価対象100gが溶解したことを意味する。
Figure 0007247045000005
*1:参考資料 洗浄技術の展開 シーエムシー出版
*2:ゼオローラ(登録商標)HTA、AE-3000、AK-225はいずれも洗浄剤商品名である。
*3:1233Zは、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの略称である。
上記表2からわかるように、TCFEは、試験した打抜き油、切削油、天然油(植物系油)とは全て任意の割合で混合し、フラックスの主成分であるアビエチン酸は、既存フッ素系洗浄剤の40~150倍の溶解性を示した。すなわち、洗浄力を有する事が分かった。

Claims (6)

  1. 1,1,2-トリクロロ-2-フルオロエテン(TCFE)の製造方法であって、
    (a)ペンタクロロエタンを0~80℃の温度でフッ素化してモノフルオロペンタクロロエタンを生成し、そして
    (b)(a)で得られたモノフルオロペンタクロロエタンを亜鉛と反応させてTCFEを生成する
    工程を含む方法。
  2. (a)のフッ素化が1~100体積%のFガス濃度のFガスと不活性ガスとの混合物を使用して行われる、請求項1に記載の方法。
  3. (a)のフッ素化が溶媒中で行われる、請求項1または2に記載の方法。
  4. (b)の反応が-50~120℃の温度で行われる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
  5. (b)の反応が溶媒中で行われる、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
  6. (a)で使用するペンタクロロエタンが、トリクロロエテン(TCE)を塩素化することによって得られる、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
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